〔実施の形態1〕
本発明の一実施の形態について図に基づいて説明する。なお、本明細書における各実施の形態では、主に、媒質の光学的異方性の程度を変化させるための手段として電界を用いる場合について説明するが、本発明はこれに限るものではなく、例えば磁場や光などの他の外場を用いてもよい。また、本実施の形態では、電界(外場)印加時または電界(外場)無印加時に光学的等方性(巨視的、具体的には、可視光波長領域、つまり、可視光の波長スケール、もしくは、それよりも大きなスケールで見て等方であればよい)を示す媒質を用いて表示を行う場合を中心に説明するが、本発明はこれに限るものではない。すなわち、必ずしも電界(外場)印加時または電界(外場)無印加時に光学的等方性を示す媒質を用いる必要はなく、電界(外場)無印加時に光学的異方性を示し、電界(外場)を印加することによって光学的異方性の程度が変化する媒質を用いてもよい。
図1は、本実施の形態にかかる表示素子(本表示素子)の概略構成を示す断面模式図である。本表示素子は、駆動回路や信号線(データ信号線)、走査線(走査信号線)、スイッチング素子などとともに表示装置に備えられるものである。なお、本表示素子は、電界無印加時には等方相を示し、電界印加によって光学的異方性を示す媒質を用いて表示を行うものである。
図21は、本表示素子を用いる表示装置の要部の概略構成を示すブロック図であり、図22は、図21に示す表示装置に用いられる本表示素子(表示素子10)の周辺の概略構成を示す模式図である。
図21に示すように、本実施の形態にかかる表示装置100は、画素110…がマトリクス状に配された表示パネル102と、駆動回路としてのソースドライバ103およびゲートドライバ104と、電源回路106等とを備えている。
上記各画素110には、図22に示すように、本表示素子(表示素子10)およびスイッチング素子21が設けられている。
また、上記表示パネル102には、複数のデータ信号線SL1〜SLn(nは2以上の任意の整数を示す)と、各データ信号線SL1〜SLnにそれぞれ交差する複数の走査信号線GL1〜GLm(mは2以上の任意の整数を示す)とが設けられ、これらデータ信号線SL1〜SLnおよび走査信号線GL1〜GLmの組み合わせ毎に、上記画素110…が設けられている。
上記電源回路106は、上記ソースドライバ103およびゲートドライバ104に、上記表示パネル102にて表示を行うための電圧を供給し、これにより、上記ソースドライバ103は、上記表示パネル102のデータ信号線SL1〜SLnを駆動し、ゲートドライバ104は、表示パネル102の走査信号線GL1〜GLmを駆動する。
上記スイッチング素子21としては、例えばFET(電界効果型トランジスタ)あるいはTFT(薄膜トランジスタ)等が用いられ、上記スイッチング素子21のゲート電極22が走査信号線GLiに、ドレイン電極23がデータ信号線SLiに、さらに、ソース電極24が、表示素子10に接続されている。また、表示素子10の他端は、全画素110…に共通の図示しない共通電極線に接続されている。これにより、上記各画素110において、走査信号線GLi(iは1以上の任意の整数を示す)が選択されると、スイッチング素子21が導通し、図示しないコントローラから入力される表示データ信号に基づいて決定される信号電圧が、ソースドライバ103によりデータ信号線SLi(iは1以上の任意の整数を示す)を介して表示素子10に印加される。表示素子10は上記走査信号線GLiの選択期間が終了してスイッチング素子21が遮断されている間、理想的には、遮断時の電圧を保持し続ける。
図1に示すように、本表示素子は、対向する2枚の透明基板(基板1および2)間に、光学変調層である物質層3が挟持されてなる。また、基板1および基板2における両基板の対向面(内側)には、物質層3に電界を印加するための電界印加手段である電極(透明電極)4および5がそれぞれ配置されている。さらに、電極4および5の内側には、配向膜8および9が備えられている。また、基板1および2における、両基板の対向面とは反対側の面(外側)には、それぞれ偏光板6および7が備えられている。
基板1および2は、ガラス基板で構成されている。また、本表示素子における両基板間の間隔、すなわち物質層3の厚みは5μmである。また、電極4および5は、ITO(インジウム錫酸化物)からなる。
図2は、配向膜(水平配向膜)8および9のラビング方向と、偏光板6および7の吸収軸方向とを示している。配向膜8および9は、この図に示すように、互いのラビング方向がアンチパラレル(逆平行,反平行,平行かつ向きが反対)となるように水平ラビング処理(ラビング処理)が施されている。なお、配向膜8および9は、ポリイミドからなる。
また、偏光板6および7は、この図に示すように、互いの吸収軸が直交するとともに、偏光板6および7の吸収軸と配向膜8および9のラビング方向とが、互いに45度の角度をなすように配置されている。
物質層3は、図1に示すように、分子12を含むネガ型液晶混合物(媒質)および高分子鎖(配向補助材)11を含んでいる。このネガ型液晶性混合物は、下記の化合物(1)(30wt%(重量%))、化合物(2)(40wt%)、化合物(3)(30wt%)からなる。
また、高分子鎖11は、光重合性モノマー(重合性化合物)を重合(硬化)させたものである。例えば、高分子鎖11は、下記の構造式(4)
で示される化合物(液晶(メタ)アクリレート、重合性化合物)が重合することによって得られる。
なお、上記構造式(4)において、Xは水素原子またはメチル基を表す。また、nは0または1の整数である。また、6員環A,B,Cは、1,4−フェニレン基、または、1,4−トランスシクロヘキシル基(trans−1,4−シクロヘキシレン基)等の6員環構造を有する置換基を示す。ただし、6員環A,B,Cは、これらの置換基にのみ限定されるものではなく、下記構造
を有する置換基のうち、何れか一種の置換基を有していればよく、互いに同じであっても異なっていても構わない。なお、上記置換基において、mは1〜4の整数を示す。
また、上記構造式(4)において、Y1およびY2は、それぞれ独立的に、単結合、―CH2CH2―、―CH2O―、―OCH2―、―OCO―、―COO―、―CH=CH―、―C≡C―、―CF=CF―、―(CH2)4―、―CH2CH2CH2O―、―OCH2CH2CH2―、―CH=CHCH2CH2O―、―CH2CH2CH=CH―を表す。すなわち、Y1およびY2は、上記したいずれかの構造を有していれば、同じものであってもよく、異なるものであってもよい。
また、Y3は、単結合、―O―、―OCO―、―COO―を表す。また、Rは水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、炭素数1〜20のアルキル基、アルケニル基、アルコキシル基を表す。なお、この化合物は、室温近傍の温度で液晶相を示すので、配向規制力を付与する能力が高く、物質層3に封入する媒質として好適である。
また、光重合性モノマー(重合性化合物)としては、上述のようなアキラルな物質に限らず、カイラルな物質を用いてもよい。カイラル性を示す光重合性モノマーとしては、例えば、下記の構造式(5)からなる重合性化合物を用いることができる。
上記構造式(5)において、Xは水素原子またはメチル基を表す。また、nは0または1の整数である。また、6員環A,B,Cは、1,4−フェニレン基、または、1,4−トランスシクロヘキシル基(trans−1,4−シクロヘキシレン基)等の6員環構造を有する置換基を示す。ただし、6員環A,B,Cは、これらの置換基にのみ限定されるものではなく、下記構造
を有する置換基のうち、何れか一種の置換基を有していればよく、互いに同じであっても異なっていても構わない。なお、上記置換基において、mは1〜4の整数を示す。
また、上記構造式(5)におけるY1およびY2は、それぞれ独立的に、10個までの炭素原子を有する直鎖状または分枝鎖状のアルキル基またはアルケニル基であり、この基中に存在する1個のCH2基または隣接していない2個のCH2基は、−O−、−S−、−CO−O−および(または)−O−CO−、により置き換えられていてもよく、単結合、―CH2CH2―、―CH2O―、―OCH2―、―OCO―、―COO―、―CH=CH―、―C≡C―、―CF=CF―、―(CH2)4―、―CH2CH2CH2O―、―OCH2CH2CH2―、―CH=CHCH2CH2O―、―CH2CH2CH=CH―を含んでいてもよい。また、キラル炭素を含んでいてもよく、含まなくても良い。すなわち、Y1およびY2は、上記したいずれかの構造を有していれば、同じものであってもよく、異なるものであってもよい。
また、Y3は、単結合、―O―、―OCO―、―COO―を表す。また、R1はキラル炭素を持ちかつ分枝鎖構造を含む炭素数3〜20のアルキル基を表す。R2は炭素数1〜20のアルキル基を表し、キラル炭素を含んでいてもよく、含まなくても良い。なお、これらの化合物は、液晶相を示すので、配向規制力を付与する能力が高く、物質層3に封入する媒質として好適である。このような化合物としては、例えば、下記の化合物(6)があげられる。
なお、この化合物(6)は69℃から97℃の範囲でコレステリック相を示す。
また、物質層3には、重合を迅速に行わせるための開始剤(重合開始剤、図示せず)である、メチルエチルケトンパーオキサイドが添加されている。
ここで、本表示素子の製造方法について説明する。まず、基板1および2の表面に、電極4および5を形成する。両電極4および5の形成方法は、従来の液晶表示素子に適用できる方法と同様の方法を用いることができる。
次に、配向膜8を、基板1上に、電極4を覆うように形成する。また、配向膜9を、基板2上に、電極5を覆うように形成する。なお、配向膜8および9にはあらかじめラビング処理を施しておく。また、配向膜8および9のラビング方向は、互いに逆平行となるようにする。
また、基板1および2の、電極4および5を形成した面とは反対側の面に、偏光板6および7を貼り合わせる。この際、偏光板6および7の吸収軸が互いに直交するとともに、偏光板6および7の吸収軸が配向膜8および9のラビング方向と45度の角度をなすように貼り合わせる。
次に、基板1および2を、プラスチックビーズ等のスペーサ(図示せず)を介して、両者の間隔(物質層3の厚さ)が5μmとなるように調整し、シール材(図示せず)で周囲を封じて固定する。この際、後に注入する媒質(例えば誘電性液体)の注入口(図示せず)となる部分は封止せずに開口させておく。なお、スペーサおよびシール材の材質は特に限定されるものではなく、従来の液晶表示素子に用いられているものを用いることができる。
次に、両基板間に、上記した媒質、すなわち、化合物(1)(30wt%)、化合物(2)(40wt%)、化合物(3)(30wt%)からなるネガ型液晶性混合物に、光重合性モノマーである上記の液晶(メタ)アクリレート、重合開始剤であるメチルエチルケトンパーオキサイドを添加したものを注入する。ここで、光重合性モノマーの添加量は0.05wt%(重量%)〜15wt%とする。また、重合開始剤の添加量は10wt%以下とする。
次に、外部加温装置(図示せず)によって両基板の温度を100℃に保った状態で、このセル(本表示素子)に紫外線を照射する。これにより、物質層3に注入された光重合性モノマーを重合(硬化)させ、高分子鎖11を形成する。なお、上記のネガ型液晶性混合物は、113℃未満でネガ型ネマチック液晶相を示し、それ以上の温度では等方相を示す。すなわち、本実施の形態では、物質層3に封入した媒質が液晶相を示している状態で、光重合性モノマーを重合させて、高分子鎖11を形成する。
このように、物質層3に封入した媒質が液晶相を示している状態では、この媒質における液晶分子(分子12)は、配向膜8および9に施したラビングの影響を受け、ラビング方向に沿って配向している。したがって、この状態で光重合性モノマーを重合させることにより、重合によって得られる高分子鎖11は、分子12の配向方向に沿う部分の割合が大きくなる(図1参照)。つまり、高分子鎖11は、ラビングの影響によって配向している分子12の配向方向に向いている割合が大きくなるように、構造的異方性を有している。
このようにして得られた本表示素子は、外部加温装置によりネマチック−等方相の相転移点直上近傍の温度(相転移温度よりもわずかに高い温度、たとえば+0.1K)に保ち、両電極4・5間に電圧(電界)を印加することにより、透過率が変化する。すなわち、物質層3に封入した媒質を、当該媒質の液晶相−等方相の相転移点よりわずかに高い温度に保つことによって等方相状態とし、両電極4・5間に電圧(電界)を印加することにより、物質層3の透過率を変化させることができる。なお、本表示素子では、両電極間に印加する電圧が110Vのときに最大透過率を得ることができた。
一方、本表示素子と比較するために、光重合性モノマーおよび開始剤を添加せず、また紫外線照射工程を施さない以外は本表示素子と同様の条件で作成した、比較用セル(比較用表示素子)を用意した。そして、この比較用表示素子を、本表示素子の場合と同様に、ネマチック−等方相の相転移直上近傍の温度に保ち、両電極間に電圧(電界)を印加した。この場合、両電極間に印加する電圧が150Vのときに最大透過率を得ることができた。
図3(a)〜図3(c)は、比較用表示素子における、印加電圧と透過率との関係を説明するための説明図である。なお、図3(a)は電圧(電界)無印加の状態、図3(b)は両電極4・5間に電圧V1を印加した状態、図3(c)は両電極4・5間に電圧V2(>V1)を印加した状態を示している。
図3(b)に示すように、両基板4・5間に電圧V1を印加した場合、物質層3中の基板近傍(領域A)における分子は配向膜8および9に施したラビングの方向に配向する。しかしながら、バルク領域(領域B)における分子の配向方向は変化しない。すなわち、界面の配向処理(ラビング処理)の効果により、界面近傍の分子が配向する電圧が低減されたため、領域Aにおける分子はラビング方向に配向する。しかしながら、分子間相互作用はバルク(バルク領域)にまで及ばないため、領域Bの分子の配向方向は変化しない。
一方、図3(C)に示すように、両基板4・5間に電圧V2を印加した場合、領域Aだけでなく領域Bにおける分子の配向方向も変化する。しかしながら、領域Bの分子は光学応答にはほとんど寄与しない。この理由について、図4を用いて説明する。
図4は、両基板4・5間に電圧V2を印加した場合の、領域Aおよび領域Bにおける分子の配向方向を説明するための説明図である。なお、図4の上段は基板面に平行な方向から見た場合の分子の配向方向およびその分極方向を示し、下段は基板面法線方向(電界方向)から見た場合の分子の配向方向および双極子方向(分極方向)を示している。
この図に示すように、両基板4・5間に電圧V2を印加した場合、領域Aでは電界により分子の分極が電界方向に揃うようになり、また界面の配向処理の効果により分子がラビング方向に配向して配向aの状態となる。一方、領域Bでは分子の分極が電界方向に揃うようになるが、分子間相互作用がほとんど働かないため、配向処理の効果が領域Bには及ばない。このため、分子の配向方向は基板面内方向(基板面に平行な方向)のあらゆる方向を向いてしまう(配向bの状態)。このため、領域Bは光学的には等方であり、光学応答に寄与しない。
このように比較用表示素子では、両基板4・5間に電圧V2を印加することによって、物質層3におけるすべての領域(領域AおよびB)に電界が印加されるものの、光学応答に寄与するのは基板近傍(領域A)のみである。光学応答に寄与する領域を広げるためには、両基板4・5間に印加する電圧をさらに高める必要がある。したがって、比較用表示素子の駆動電圧は高くなる。
一方、本表示素子は、図1に示した模式図のように、鎖状高分子(高分子鎖11)がセル内に形成されている。また、この高分子鎖11は、媒質(例えば誘電性液体)をあらかじめ低温にすることによってネマチック相を発現させ、その状態で重合性モノマーを反応させて形成される。このため、この高分子鎖11は、ネマチック相の分子配向方向に略平行に存在している部分の割合が多い。
このような状態を有する本表示素子を、ネマチック−等方相の相転移近傍の温度の液体状態(等方相状態)に保ち、両電極4・5間に電圧V1を印加すると、界面近傍のみならず、バルク領域を含むすべての領域において分子が配向し始める。さらに電圧を高くしていくと、物質層3におけるあらゆる領域の分子の配向秩序が上昇し、大きな光学応答を得られる。
これは、比較用表示素子では、分子配向を促す役目を、基板表面(配向膜8および9)に施した配向処理だけが担っていたのに対して、本表示素子では、あらかじめ望むべき配向方向に形成された高分子鎖11がセル内のあらゆる領域に存在するためである。すなわち、本表示素子では、配向膜8および9に施したラビング処理に加えて、このラビング方向に沿って配向する部分の割合が多くなるように形成した高分子鎖11が、分子のラビング方向への配向を促す役目を担っている。これにより、本表示素子は、比較用表示素子よりも低電圧で最大透過率が得られる。
以上のように、本表示素子は、電界無印加時には等方相状態である媒質に対して、電界を印加することによって媒質を構成する分子を配向させて表示を行うものであり、媒質中に形成した重合性化合物(配向補助材)によって電界印加時の分子の配向を促進させている。この重合性化合物(配向補助材)は、媒質が液晶相を示す状態、すなわち、媒質を構成する分子が光学的異方性を発現するように配向している状態で形成される。このような状態で形成した重合性化合物(配向補助材)は、等方相状態を示す媒質に電界を印加した場合に、媒質を構成する分子が、重合性化合物(配向補助材)を形成した際の配向状態(液晶相時の配向状態)となるように分子の配向を促進させる。したがって、本表示素子は、この重合性化合物(配向補助材)の働きにより、低い電圧で駆動できる。
なお、本実施の形態では、重合性化合物(配向補助材)を形成する際に液晶相を発現させる方法として、低温にしてネマチック相を出現させたが、この方法に限るものではない。例えば、低温にせずとも、通常表示には用いない高電圧、すなわち本表示素子の駆動電圧よりもずっと大きい電圧を印加することによって、強制的に分子を配向させ、液晶相を発現させてもよい。すなわち、液晶相を発現させるためには、温度(典型的には低温にする)、あるいは電界などの外場を与えればよい。なお、液晶相を発現させるために与える外場は、表示時の環境と異なる環境とするものであることが好ましい。
また、重合性化合物(配向補助材)を形成する際に発現させる液晶相は、ネマチック相に限るものではない。表示素子の駆動状態とは異なる外場を与えることによって、光学的異方性を示す状態であればよく、例えば、スメクチック(スメクティック)相、結晶相などであってもよい。ただし、良好な重合性化合物(配向補助材)を形成するためには、例えば、ネマチック相やスメクチックA相などのように、配向に柔軟性があり、かつ、配向欠陥が生じにくいことがより望ましい。
物質層3に封入する媒質としては、負の誘電異方性を有する媒質であることが好ましく、例えば、特許文献1に記載してあるような液晶性物質のうち、3HPFFと5HPFFと7HPFFとの混合物(1,2−ジフルオロ−4−[トランス−4−(トランス−4−n−プロピルシクロヘキシル)シクロヘキシル]ベンゼンと、1,2−ジフルオロ−4−[トランス−4−(トランス−4−n−ペンチルシクロヘキシル)シクロヘキシル]ベンゼンと、1,2−ジフルオロ−4−[トランス−4−(トランス−4−n−ヘプチルシクロヘキシル)シクロヘキシル]ベンゼン)とよりなる混合物)などを適用してもよい。
また、物質層3に封入する媒質は、誘電性を有する媒質に限らず、外場を印がすることによって光学的異方性の程度が変化するものであればよい。典型的には、電界(外場)無印加時には光学的に概ね等方であり、電界(外場)印加により光学変調を誘起される媒質であってもよい。すなわち、典型的には、電界(外場)印加に伴い分子、または分子集合体(クラスタ)の配向秩序度が上昇する物質であってもよい。
また、物質層3に封入する媒質として、例えば、光学波長未満の秩序構造を有し、光学的には等方的に見える液晶相であって、誘電異方性が負のものを適用することができる。あるいは、液晶分子が光の波長未満のサイズで放射状に配向している集合体で充填された、光学的に等方的に見えるような系を用いることもできる。これらに電界を印加することにより、分子あるいは集合体の微細構造にひずみを与え、光学変調を誘起させることができる。また、これらの媒質を用いる場合にも、重合性化合物(配向補助材)を形成しておくことによって分子の配向を促進できるので、低電圧(小さい強度の外場)で駆動することが可能となる。
このような媒質として、例えば、3HPFFと5HPFFと7HPFFの混合系を用いることができる。なお、この混合系は、負の誘電異方性を有する。
上記したように、3HPFFと5HPFFと7HPFFの混合系は、秩序構造が光学波長未満であるため透明である。すなわち、電界無印加の場合には光学的に等方性を示す。したがって、この混合系を本表示素子に適用する場合、直交ニコル下において良好な黒表示を行うことができる。
一方、上記の混合系が電界無印加時に光学的等方性を示す温度範囲に制御しながら、電極4・5間に電界を印加すると、光学的等方性を示す構造に歪が生じ、光学的異方性が発現する。すなわち、上記の混合系は、電界無印加状態では光学的に等方性であり、電界印加により光学的異方性が発現する。
このように、上記の構成の本表示装置では、電界を印加することによって光学的等方性を示す構造に歪が生じ、複屈折が発生するので、良好な白表示を行うことができる。なお、複屈折が発生する方向は一定であり、その大きさが電界印加によって変化する。また、電極4・5間に印加する電圧(電界)と透過率との関係を示す電圧透過率曲線は、安定した曲線となる。すなわち、上記構成の本表示装置では、電界無印加時に光学的等方性を示す温度範囲において安定した電圧透過率曲線を得ることができ、温度制御が極めて容易となる。
ここで、上記の混合系のように電界印加によって分子の光学的異方性の程度が変化する媒質を用いた場合の本表示素子と、従来の表示方式の液晶表示素子との、表示原理の相違点について説明する。
図8は、上記の混合系を用いた場合の本表示素子および従来の表示方式の液晶表示素子における、表示原理の違いを説明するための説明図であり、電界印加時および電界無印加時における屈折率楕円体の形状および方向を模式的に表したものである。なお、図8では、従来の表示方式として、TN方式、VA(Vertical Alignment、垂直配向)方式、IPS(In Plane Switching、面内応答)方式における表示原理を示している。
この図に示すように、TN方式の液晶表示素子は、対向する基板間に液晶層が挟持されており、両基板上にそれぞれ透明電極(電極)が備えられた構成である。そして、電界無印加時には、液晶層における液晶分子の長軸方向がらせん状に捻られて配向しているが、電界印加時には、液晶分子の長軸方向が電界方向に沿って配向する。この場合における平均的な屈折率楕円体は、図8に示すように、電界無印加時には長軸方向が基板面に平行な方向を向いており、電界印加時には長軸方向が基板面法線方向を向く。すなわち、電界無印加時と電界印加時とで、屈折率楕円体の形状は楕円であり、電界印加によって、その長軸方向が変化する(屈折率楕円体が回転する)。また、電圧無印加時と電圧印加時とで、屈折率楕円体の形状は、ほぼ変わらない。
また、VA方式の液晶表示素子は、TN方式と同様、対向する基板間に液晶層が挟持されており、両基板上にそれぞれ透明電極(電極)が備えられた構成である。ただし、VA方式の液晶表示素子では、電界無印加時には、液晶層における液晶分子の長軸方向が、基板面に対して略垂直な方向に配向しているが、電界印加時には、液晶分子の長軸方向が電界に垂直な方向に配向する。この場合における平均的な屈折率楕円体は、図8に示すように、電界無印加時には長軸方向が基板面法線を向いており、電界印加時には長軸方向が基板面に平行な方向を向く。すなわち、電界無印加時と電界印加時とで、屈折率楕円体の形状は楕円であり、電界印加によって、その長軸方向(屈折率楕円体の向き)が変化する(屈折率楕円体が回転する)。なお、電界無印加時と電界印加時とで、屈折率楕円体の形は、ほぼ変わらない。
また、IPS方式の液晶表示素子は、1つの基板上に対向する1対の電極が備えられており、両電極間の領域に液晶層が形成される構成である。そして、電界印加によって液晶分子の配向方向を変化させ、電界無印加時と電界印加時とで、異なる表示状態を実現できるようになっている。したがって、IPS方式の液晶表示素子でも、図8に示すように、電界無印加時と電界印加時とで、屈折率楕円体の形状は楕円であり、その長軸方向が変化する(屈折率楕円体が回転する)。また、電界無印加時と電界印加時とで、屈折率楕円体の形は、ほぼ変わらない。
このように、従来の表示方式の液晶表示素子では、電界無印加時でも液晶分子が何らかの方向(典型的には一方向)に配向しており、電界を印加することによって、各分子の配向方向がそろった状態で、その配向方向を一斉に変化させて表示(透過率の変調)を行っている。また、電界無印加時と電界印加時とで、屈折率楕円体の形はほぼ変わらない。すなわち、従来の表示方式の液晶表示素子では、電界無印加時と電界印加時とで、屈折率楕円体の形状は楕円であり、電界印加によって、その長軸方向が変化する(屈折率楕円体が回転する)ことを利用して表示を行っている。このため、屈折率楕円体の長軸方向は電界印加方向に対して、垂直あるいは平行とは限らない。これに対して、本表示素子では、後述するように、屈折率楕円体の方向は電界印加方向に対して垂直または平行となる。
このように、従来の表示方式の液晶表示素子では、液晶分子の可視光以上における配向秩序度はほぼ一定であり、配向方向を変化させることによって表示を行っている。
これらの表示方式に対して、3HPFFと5HPFFと7HPFFの混合系を用いた本表示素子では、電界無印加時に分子があらゆる方向を向いている。ただし、これらの分子は、光の波長スケール未満の秩序(秩序構造、配向秩序)を有しているので、光学的異方性が発現せず(可視光以上のスケールでの配向秩序度≒0であり)、図8に示すように、屈折率楕円体が従来の液晶表示素子とは異なり、球状となる。
ところが、電界を印加すると、個々の分子が負の誘電異方性を有しているため基板面内方向(基板面に平行な方向)を向こうとして配向状態が変化する。また、この際、光学波長未満の秩序構造に歪が生じて光学的異方性(可視光以上のスケールでの配向秩序度>0)が発現して、屈折率楕円体が楕円になる。このとき、屈折率楕円体の長軸方向は電界方向と垂直になる。より詳細には、物質層3に封入する媒質の誘電異方性が負の場合、屈折率楕円体の長軸方向は電界方向に垂直になり、物質層3に封入する媒質の誘電異方性が正の場合、屈折率楕円体の長軸方向は電界方向に平行になる。すなわち、上記の混合系を用いた本表示素子では、電界無印加時には屈折率楕円体の形が等方的(nx=ny=nz)であり、電界印加によって屈折率楕円体の形に異方性(nx>ny)が発現する。ここで、nx,ny,nzは、それぞれ、基板面に平行かつ図8の左右方向、基板面に平行かつ図8の奥行き方向、基板面に垂直な方向に対する、屈折率を表している。
なお、可視光以上における配向秩序度≒0(配向秩序度がほとんど無い)というのは、可視光より小さいスケールで見た場合には、液晶分子などがある方向に並んでいる割合が多い(配向秩序がある)が、可視光より大きいスケールで見ると、配向方向が平均化されていて配向秩序が無いことを意味している。
すなわち、本発明において、可視光波長以上のスケールでの配向秩序度≒0とは、配向秩序度が可視光波長域、および、可視光波長域より大きい波長の光に対して何ら影響を与えない程度に小さいことを示す。例えば、クロスニコル下で黒表示を実現している状態を示す。一方、本発明において、可視光波長以上のスケールでの配向秩序度>0とは、可視光波長以上のスケールでの配向秩序度が、ほぼゼロの状態よりも大きいことを示し、例えば、クロス二コル下で白表示を実現している状態を示す。(この場合、階調表示であるグレーも含まれる)。
また、本実施形態にかかる表示素子では、物質層3が負の誘電異方性を有しているので、上記電界印加時の屈折率楕円体の長軸方向は、電界方向に対して常に垂直となる。(なお、物質層3が正の誘電異方性を有している場合は、屈折率楕円体の長軸方向は、電界方向に対して平行になる。)これに対して、従来の液晶表示素子では、電界印加によって屈折率楕円体の長軸方向を回転させて表示を行うので、屈折率楕円体の長軸方向は、電界方向に対して常に垂直あるいは平行になるとは限らない。
このように、3HPFFと5HPFFと7HPFFの混合系を用いた本表示素子では、光学的異方性の方向は一定(電界印加方向は変化しない)であり、可視光以上における配向秩序度を変調させることによって表示を行っている。すなわち、上記の混合系を用いた本表示素子では、媒質そのものの光学的異方性(または可視光以上における配向秩序)の程度が変化する。したがって、上記の混合系を用いた本表示素子の表示原理は、他の表示方式の液晶表示素子と大きく異なっている。
また、上記の混合系を用いた本表示素子では、光学的等方性を示す構造に生じる歪、すなわち、媒質における光学的異方性の程度の変化を用いて表示を行うので、液晶分子の配向方向を変化させて表示を行う従来の表示方式の液晶表示装置よりも、広視野角特性を実現できる。さらに、上記の混合系を用いた本表示装置では、複屈折が発生する方向が一定であり、光軸方向が変化しないため、より広い視野角特性を実現できる。
また、上記の混合系を用いた本表示装置では、微小領域の構造(結晶のような格子)の歪によって発現する異方性を用いて表示を行っている。このため、従来方式の表示原理のように、液晶固有の粘度が応答速度に大きく影響するといった問題がなく、1ms程度の高速応答を実現することができる。すなわち、従来方式の表示原理では液晶分子の配向方向の変化を利用していたため、液晶固有の粘度が応答速度に大きく影響していたが、上記の混合系を用いた本表示装置では、微小領域の構造の歪を利用するため、液晶固有の粘度の影響が小さく、高速応答を実現することができる。したがって、本表示素子は高速応答性を備えているので、例えばフィールドシーケンシャルカラー方式の表示装置にも好適である。
なお、物質層3に封入する媒質は、単一化合物で液晶性を示すものであってもよく、複数の物質の混合により液晶性を示すものでもよい。あるいは、これらに他の非液晶性物質が混入されていてもよい。
また、本表示素子では、基板1および2をガラス基板で構成したが、これに限るものではない。また、本表示素子における両基板間の間隔は5μmとしたが、これに限定されるものではなく、任意に設定すればよい。また、電極4および5はITOで構成されるものとしたが、これに限るものではなく、少なくとも一方が透明電極材料であればよい。
また、本表示素子では、ポリイミドからなる配向膜8および9を用いたが、これに限るものではない。例えば、ポリアミック酸からなる配向膜を用いてもよい。あるいは、ポリビニルアルコール、シランカップリング剤、ポリビニルシンナメートなどを用いてもよい。
なお、ポリアミック酸やポリビニルアルコールを用いる場合には、基板上にこれらの材料を塗布して配向膜を形成した後にラビング処理を施せばよい。また、シランカップリング剤を用いる場合には、LB膜のように引き上げ法で作成すればよい。また、ポリビニルシンナメートを用いる場合には、基板上にポリビニルシンナメートを塗布した後、UV(紫外線)照射すればよい。
また、本表示素子では、配向膜8および9に施すラビング方向が互いに逆平行になるようにしたが、これに限るものではない。例えば、両者のラビング方向を平行かつ同じ方向(パラレル方向)としてよく、あるいは、両者のラビング方向を異なる方向としてもよい。また、どちらか一方だけをラビングしてもよい。
また、本実施の形態では、配向膜8および9として、ラビング処理を施した水平配向膜を用いているが、これに限るものではない。例えば、光照射を施した水平配向膜を用いてもよい。この場合、照射光は偏光照射を施しても良いし、または非偏光を斜めから照射しても良い。また、水平配向膜に限らず、例えば垂直配向膜を用いてもよい。ただし、水平配向膜を用いる場合、従来から液晶表示素子などでの使用実績があり、かつ、液晶材料と非常に相性の良い配向膜材料をそのまま転用することができる。また、垂直配向膜とは異なり、水平配向膜が液晶分子に与える基板面内方向の強い配向規制力を利用することが可能となり、電界印加時の光学的異方性発現をより促進することが可能となる。
また、光重合性モノマー(重合性化合物)は、上記の化合物に限るものではなく、例えば、液晶骨格と重合性官能基とを分子内に有する他の液晶(メタ)アクリレートであってもよい。なお、液晶性(メタ)アクリレートとしては、中間調表示と低電圧駆動を両立するためには、液晶骨格と重合性官能基との間にメチレンスペーサーがない単官能液晶性アクリレートであることが好ましい。すなわち、2つあるいは3つの6員環を有する液晶骨格を部分構造として有する化合物のアクリル酸またはメタクリル酸エステルである単官能(メタ)アクリレートなどが好ましい。
このような単官能(メタ)アクリレートは、(メタ)アクリロイルオキシ基と液晶骨格の間に、アルキレン基またはオキシアルキレン基などの柔軟性の連結基がない。このため、この種の単官能(メタ)アクリレートを重合させて得られる重合体の主鎖は、剛直な液晶骨格が連結基を介さずに直接統合しており、液晶骨格の熱運動が高分子主鎖により制限されるので、この主鎖によって影響を与えられる液晶分子の配向をより安定化させられる。
また、物質層3に封入する媒質に添加する光重合性モノマーとして、エポキシアクリレートを用いてもよい。エポキシアクリレートとしては、例えば、ビスフェノールA型エポキシアクリレート、ブロム化ビスフェノールA型エポキシアクリレート、フェノールノボラック型エポキシアクリレートなどを用いることができる。エポキシアクリレートは、1分子中に光照射により重合するアクリル基と加熱により重合するカルボニル基、水酸基を併せ持っている。このため、硬化法として光照射法と加熱法とを併せて用いることができる。この場合、少なくともどちらか一方の官能基が反応して重合(硬化)する可能性が高い。したがって、未反応部分がより少なくなり、十分な重合を行うことができる。
なお、この場合、必ずしも光照射法と加熱法とを併せて用いる必要はなく、いずれか一方の方法を用いてもよい。すなわち、本表示素子は、光重合性モノマーを紫外線(光)によって重合させて重合性化合物(配向補助材)を形成する方法に限らず、使用する重合性化合物の特性に合わせて、重合させる方法を適宜選択すればよい。言い換えれば、本表示素子において重合性化合物(配向補助材)を形成するために媒質に添加する重合性モノマーは、光照射によって重合する光重合性モノマーに限らず、光照射以外の方法で重合する重合性モノマーであってもよい。例えば熱重合性モノマーであってもよい。
また、物質層3に封入する媒質に添加する重合性モノマーとしては、このほかにも、アクリレートモノマー(例えば、アルドリッチ社製のEHA、TMHA)とジアクリレートモノマー(例えば、メルク社製のRM257)との混合物などを用いることもできる。
また、上記したいずれの重合性化合物を用いる場合においても、重合性化合物の添加量は、0.05wt%〜15wt%の範囲内であることが好ましい。これは、硬化した部分の濃度が0.05wt%未満では、配向補助材としての機能が低下し(配向規制力が弱く)、15wt%より多いと、配向補助材に印加される電界の割合が大きくなって駆動電圧が増大してしまうためである。
また、本実施の形態では、重合性化合物(配向補助材)として高分子鎖(鎖状高分子)11を形成したがが、これに限るものではない。電界(外場)印加によって分子が配向することを補助(促進)できるものであればよく、例えば、網目状高分子(網目状高分子材料)、環状高分子(環状高分子材料)などであってもよい。
また、配向補助材は、必ずしも重合性化合物から形成する必要はない。例えば、配向補助材として多孔質無機材料を用いてもよい。この場合、例えば、チタン酸バリウムなどのゾルゲル材料(多孔質無機材料)を物質層3に封入する媒質(例えば誘電性液体)にあらかじめ加えておけばよい。また、その他の例として、ポリスチレン微粒子とSiO2微粒子を用いて多孔質無機層を作成してもよい。例えば、粒子径100nmのポリスチレン微粒子と粒子径5nmのSiO2微粒子が混合分散された水溶液中に、スリットを有する透明電極付きのガラス基板を浸け、引き上げ法にて混合微粒子の自己集合現象を利用して数μmの膜厚を作成した後、高温度下で焼成してポリスチレンを気化させることで100nmの孔を有する逆オパール構造の孔質無機層を有する基板を得ることができる。そして、この基板を張り合わせてセル化した後に媒質を注入して、孔に媒質を満たすことによりセルを作成してもよい。これらの多孔質無機材料を用いる場合にも、高分子鎖11(重合性化合物)からなる配向補助材と用いる場合と同等の効果を得ることができる。
また、物質層3に形成する配向補助材として、水素結合ネットワーク(水素結合体、水素結合性材料)を用いることもできる。ここで、水素結合ネットワークとは、化学結合ではなく水素結合によって形成された結合体を意味する。
このような水素結合ネットワークは、例えば、ゲル化剤(水素結合性材料)を物質層3に封入する媒質に混合することによって得られる。ゲル化剤としては、アミド基を含むゲル化剤が好ましく、1つの分子内にアミド基を少なくとも2つ含むゲル化剤、尿素系、リシン系のゲル化剤がさらに好ましい。例えば、下記の構造式(7)および(8)からなるゲル化剤(ゲル化剤Aまたはゲル化剤B)を用いることができる。
これらのゲル化剤は液晶性物質などの誘電性物質を少量のゲル化剤を混入することでゲル化することができる。
また、例えば、非特許文献10(p.314,Fig.2)に記載されているゲル化材(水素結合性材料)、Lys18(下記構造式(9)参照)を物質層3に封入する媒質に0.15mol%混合することによって得られる。
すなわち、Lys18を媒質に0.15mol%混合することによって実現される、非特許文献10(p.314,Fig.1)のようなGel(ゲル)状態を示す水素結合ネットワークを、配向補助材として用いることができる。これらの水素結合ネットワークを配向補助材として用いる場合でも、重合性化合物を重合させて得られる配向補助材を用いる場合と同等の効果を得られる。また、高分子ネットワークの場合、紫外線照射のプロセス増加、紫外線照射による材料の劣化、未反応基による信頼性の低下といった懸念事項があるが、これらはゲル化剤の場合、発生しないという利点がある。
また、配向補助材として微粒子を用いてもよい。物質層3中に微粒子を分散させた系においては、液晶分子などの誘電性物質が微粒子の界面の影響を受けて配向する。よって微粒子が分散された系では、その分散状態に起因して誘電性物質の配向状態が安定化される。
この場合、物質層3は、液晶性物質などの誘電性材料と微粒子とが封入されてなる。誘電性物質および微粒子はそれぞれ、1種または2種以上のものにより構成される。また、誘電性材料中に微粒子を分散させることにより、物質層中に微粒子が分散した形態となるようにすることが望ましい。
また、この場合、平均粒子径が0.2μm以下の微粒子を用いることが好ましい。平均粒子径0.2μm以下の微小な大きさの微粒子を用いることにより、物質層3内における分散性が安定し、長時間経っても微粒子が凝集したり相が分離しない。したがって、例えば、微粒子が沈殿して局所的な微粒子のムラが生じることより、表示素子としてムラが生じることを充分に抑制できる。
また、各微粒子の粒子間距離は200nm以下であることが好ましく、190nm以下であることがさらに好ましい。
三次元的に分布した粒子に光を入射すると、ある波長において回折光が生じる。この回折光の発生を抑制すれば、光学的等方性が向上し、表示素子のコントラストが上昇する。
三次元的に分布した粒子による回折光は入射する角度にも依存するが、回折される波長λは概ねλ=2dで与えられる。ここで、dは粒子間距離である。
ここで、回折光の波長が400nm以下であれば、人間の目にほとんど認識されない。このため、λ≦400nmとすることが好ましく、その場合、粒子間距離dを200nm以下とすればよい。
さらに、国際照明委員会CIE(Commission Internationale de l'Eclairage)では、人間の目で認識できない波長は380nm以下と定めている。このため、λ≦380nmとすることがさらに好ましく、その場合、粒子間距離dを190nm以下とすればよい。
また、粒子間距離が長いと粒子間の相互作用が充分に働かず、ミセル相、スポンジ相、キュービック相、逆ミセル相などの相が発現しにくくなるので、この観点からも、粒子間距離は200nm以下であることが好ましく、190nm以下であることがさらに好ましい。
また、物質層3における微粒子の濃度(含有量)を、この微粒子と物質層3に封入される媒質の総重量に対して、0.05wt%〜20wt%とすることが好ましい。物質層3における微粒子の濃度が0.05wt%〜20wt%となるように調製することにより、微粒子の凝集を抑制することができる。
なお、物質層3に封入する微粒子は特に限定されるものではなく、透明なものでも不透明なものでもとい。また、微粒子は、高分子などの有機質微粒子であってもよく、無機質微粒子や金属系微粒子などであってもよい。
有機質微粒子を用いる場合、例えば、ポリスチレンビーズ、ポリメチルメタクリレートビーズ、ポリヒドロキシアクリレートビーズ、ジビニルベンゼンビーズなどのポリマービーズ形態の微粒子を用いることが好ましい。また、これらの微粒子は架橋されていてもよく、架橋されていなくてもよい。無機質微粒子を用いる場合、例えば、ガラスビーズやシリカビーズ等の微粒子を用いることが好ましい。
金属系微粒子を用いる場合、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属、希土類金属が好ましい。例えば、チタニア、アルミナ、パラジウム、銀、金、銅あるいはこれらの金属元素の酸化物などからなる微粒子を用いることが好ましい。これら金属系微粒子は1種類の金属のみで用いてもよいし、2種類以上の金属を合金化、複合化して形成しても良い。例えば銀粒子の周りをチタニアやパラジウムで覆ってもよい。銀粒子だけで金属微粒子を構成すると、銀の酸化により表示素子の特性が変化する恐れがあるが、パラジウムなどの金属で表面を覆うことにより銀の酸化を防げる。また、ビーズの形態の金属系微粒子はそのまま用いても良く、加熱処理したものや、ビーズ表面に有機物を付与したものを用いてもよい。付与する有機物としては液晶性を示すものが好ましい。ビーズ表面に液晶性を示す有機物を付与することにより、液晶性分子に沿って、周辺部の媒質(誘電性物質)が配向しやすくなる。つまり、配向補助材としての機能がさらに向上する(配向規制力が強くなる)。
例えば、下記の構造式(10)からなる化合物が好ましい。
ここで、nは0〜2の整数である。また、6員環Aは、下記の官能基
のいずれかが好ましい。また、6員環B,Cは、1,4−フェニレン基、または、1,4−トランスシクロヘキシル基(trans−1,4−シクロヘキシレン基)等の6員環構造を有する置換基を示す。ただし、6員環B,Cは、上記例示の置換基にのみ限定されるものではなく、下記構造
を有する置換基のうち、何れか一種の置換基を有していればよい。なお、上記置換基において、mは1〜4の整数を示す。また、6員環B,Cは、互いに同じであっても異なっていても構わない。
また、上記構造式(10)におけるY1、Y2およびY3は、それぞれ、10個までの炭素原子を有する直鎖状または分枝鎖状のアルキル基またはアルケニル基であり、この基中に存在する1個のCH2基または隣接していない2個のCH2基は、−O−、−S−、−CO−O−および/または−O−CO−、により置き換えられていてもよく、単結合、―CH2CH2―、―CH2O―、―OCH2―、―OCO―、―COO―、―CH=CH―、―C≡C―、―CF=CF―、―(CH2)4―、―CH2CH2CH2O―、―OCH2CH2CH2―、―CH=CHCH2CH2O―、―CH2CH2CH=CH―を含んでいてもよい。また、キラル炭素を含んでいてもよく、含まなくてもよい。また、Y1、Y2およびY3は、上記したいずれかの構造を有していれば、同じものであってもよく、異なるものであってもよい。
また、上記構造式(10)におけるRは、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、炭素数1〜20のアルキル基、アルケニル基、アルコキシル基のいずれかを表す。
また、金属微粒子の表面に付与する有機物は、金属1モルに対して1モル以上50モル以下の割合であることが好ましい。
上記の有機物を付与した金属系微粒子は、例えば、金属イオンを溶媒に溶解または分散してから、上記有機物と混合し、これを還元することによって得られる。上記溶媒としては水、アルコール類、エーテル類を用いることができる。
また、分散させる微粒子としてフラーレン、および/または、カーボンナノチューブで形成されたものを用いてもよい。フラーレンとしては、炭素原子を球殻状に配置したものであればよく、例えば炭素原子数nが24から96の安定した構造のものが好ましい。このようなフラーレンとしては、例えば、炭素原子60個からなるC60の球状閉殻炭素分子群などが上げられる。また、カーボンナノチューブとしては、例えば、厚さ数原子層のグラファイト状炭素原子面を丸めた円筒形状のナノチューブなどが好ましい。
また、微粒子の形状は特に限定されるものではなく、例えば、球状、楕円体状、塊状、柱状、錐状や、これらの形態に突起を持った形態、これらの形態に孔が開いている形態などであってもよい。また、微粒子の表面形態についても特に限定されるものではなく、例えば、平滑でも良く、凹凸や孔、溝を有していてもよい。
また、微粒子の含有量は微粒子および誘電性物質の総重量に対して0.05wt%〜20wt%であることが好ましい。0.05wt%未満であると微粒子の混合比が少ないため、微粒子による配向補助材としての作用効果が充分に発揮されない恐れがあり、20wt%を超えると、微粒子の混合比率が多すぎて微粒子が凝集し、それに起因して配向補助材としての効果が発揮されないばかりか、光が散乱してしまう恐れがある。
また、本実施の形態では、重合開始剤を添加しているが、重合開始剤は、配向補助材を重合性化合物から形成する場合であっても、必ずしも添加する必要はない。ただし、重合性化合物を、例えば光や熱により重合して高分子化するためには、重合開始剤を添加することが好ましい。重合開始剤を添加することによって重合を迅速に行うことができる。
また、本実施の形態では、重合開始剤としてメチルエチルケトンパーオキサイドを用いたが、これに限るものではない。重合開始剤としては、メチルエチルケトンパーオキサイドのほかに、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、キュメンハイドロイドパーオキサイド、ターシャリブチルパーオクトエート、ジクミルパーオキサイドや、ベンゾイルアルキルエーテル系、アセトフェノン系、ベンゾフェノン系、キサントン系ベンゾインエーテル系、ベンジルケタール系の重合開始材などを用いることができる。なお、市販品では、例えば、メルク社製のダロキュア1173、1116、チバケミカル社製のイルガキュア184、369、651、907、日本化薬社製のカヤキュアDETX、EPA、ITA、アルドリッチ社製のDMPAPなど(いずれも登録商標)をそのまま、あるいは適宜混合して用いることができる。
また、重合開始剤の添加量は、重合性化合物に対して10wt%以下であることが好ましい。10wt%より多く添加すると重合開始剤が不純物として作用し、表示素子の比抵抗が低下するためである。
また、本実施の形態にかかる表示素子は、基板面法線方向に電界を印加する構成(縦電界)、物質層3に封入する媒質としてネガ型液晶を用いる構成(ネガ型液晶)、両基板に備えられる配向膜のラビング方向を平行とする構成(パラレルラビング)、物質層3に配向補助材を形成して分子の配向を補助する構成(ポリマー固定)を基本構成とするものである、と表現することもできる。
また、本発明を、カー効果を利用した表示装置に適用することにより、高速応答特性を示すカー効果を利用した表示装置を実現できる。また、この場合、駆動電圧を大幅に低減することが可能であり、その実用的価値は極めて高い。なお、本発明の目的は、駆動電圧が実用レベルまで低減されたカー効果による表示素子を提供することにある、と表現することもできる。
また、本表示素子を用いて表示装置を形成することにより、実用レベルの駆動電圧(外場の強度)で動作可能であり、高速応答特性および広視野角特性を備えた表示装置を提供することができる。
また、上記した製造方法では、基板1および2の対向面に、電極4および5、配向膜8および9を形成し、基板1および2における電極4および5を形成した面とは反対側の面に偏光板6および7を貼り合わせ、両基板間に光重合性モノマーおよび重合開始剤を添加した媒質を封入した後、紫外線を照射して光重合性モノマーを重合させているが、これに限るものではない。
例えば、基板2にカラーフィルターを貼り付け、基板1にTFT(薄膜トランジスタ)を形成した状態で、紫外線の照射を行うようにしてもよい。ただし、この場合、パネルの表側(カラーフィルターを貼り付けた基板2側)からの露光(紫外線照射)だと、カラーフィルターでかなりの割合の紫外光が吸収されてしまうので、効果的に光重合を行うことができない。このため、カラーフィルターを通さない場合に比べてはるかに強い紫外線が必要になり、大きな問題になる。また、カラーフィルターは画素により赤色、緑色、青色の領域があるが、赤色、緑色、青色それぞれの領域において紫外光の透過率が大きく異なるので、カラーフィルターを通して紫外光を照射して光重合を行うと画素ごとに大きなムラが生じてしまう。
そこで、パネルの裏側(TFTを形成した基板1側)から露光するようにしてもよい。ところが、パネル裏側から露光する場合には、信号線、走査線、TFT(薄膜トランジスタ)などの遮光部がある。これらの部分は、透明電極(透明材料)で形成することが難しい。ITOなどの透明電極はアルミや銅、タンタル等の金属に比べて抵抗が高いので、信号線や走査線に用いることは適さないからである。特に、液晶テレビなどの大型、大画面の表示素子の場合には、信号線や走査線が莫大になるので、これらを透明化することは不適である。したがって、パネル裏側からの露光する場合には、信号線上、走査線上、TFT上の領域は遮光部になってしまい、それらの領域の媒質は光重合を行うことができない。このため、信号線、走査線、TFTの縁取り部分は遮光膜で覆う必要があり、開口率低下の原因となる。さらに、遮光部の領域にある未反応の光重合性のモノマーや開始剤は電圧保持率低下など信頼性悪化の原因ともなりうるので、未反応部分があることは好ましくはない。
これらの問題点を解決するために、カラーフィルター、遮光膜をTFT基板(TFTを形成した基板1)側に形成するとともに、反対側の基板(基板2)側から露光してもよい。これにより、TFT(スイッチング素子)、カラーフィルター、遮光膜などを介して光を照射する必要がないので、物質層3のより広い領域を露光することができる。したがって、遮光部分が無くなるので、物質層3を全面的に露光することができる。したがって、上記のような縁取り部分を遮光膜で覆う必要が無くなるので、開口率が向上する。さらに、未反応の重合性モノマー、重合開始剤などが残ることもなくなるので、信頼性悪化を防止できる。
また、この場合、反対側の基板(従来、カラーフィルターを貼り付けていた基板2)および反対側の基板に形成される電極5を透明材料で形成することが好ましい。これにより、紫外線の照射量を削減できる。
〔実施の形態2〕
本発明の他の実施の形態について図に基づいて説明する。なお、説明の便宜上、実施の形態1にかかる表示素子と同様の構成および機能を有する部材については、同じ符号を付し、その説明を省略する。
本実施の形態にかかる表示素子は、実施の形態1にかかる表示素子において、配向膜8および9に施すラビングの方向を、互いに異ならせたものである。すなわち、本実施の形態にかかる表示素子は、配向膜8および9におけるラビング方向が異なる以外は、実施の形態1にかかる表示素子と同様の構成を備えている。なお、本実施の形態にかかる表示素子は、物質層3に封入する媒質として、実施の形態1中に記載した各媒質のうち、誘電異方性が負のものを用いることができる。また、本実施の形態にかかる表示素子は、例えば、実施の形態1にかかる表示素子に代えて、表示装置100に備えられる。
図12は、本実施の形態にかかる表示素子における、配向膜8および9のラビング方向、および、偏光板6および7の吸収軸方向を示す説明図である。この図に示すように、配向膜8および配向膜9のラビング方向は、互いに直交している。また、基板1側の配向膜8に施したラビング方向は、偏光板6の吸収軸方向と平行となっている。また、基板2側に備えられる配向膜9に施したラビング方向は、偏光板7の吸収軸方向と平行になっている。なお、偏光板6の吸収軸方向と偏光板7の吸収軸方向とは直交している。
なお、各配向膜におけるラビング方向は、これに限るものではない。例えば、配向膜8のラビング方向を偏光板6の吸収軸方向と直交させ、配向膜9のラビング方向を偏光板7の吸収軸方向と直交させるようにしてもよい。また、配向膜8および9のラビング方向は、必ずしも直交している必要はなく、互いの方向が異なっていればよい。
また、本実施の形態にかかる表示素子の製造方法は、配向膜8および9のラビング方向を上記のように互いに直交とする以外は、実施の形態1にかかる表示素子の製造方法と同様である。
このように、両基板1・2にそれぞれ備えられる配向膜8および9のラビング方向を異ならせた場合、物質層3に封入した媒質が液晶相を示す温度に保つと、物質層3における分子の配向をツイスト構造(捩れ構造)とすることができる。すなわち、電界(外場)印加時には、分子の長軸方向が、基板面に平行な方向を向くとともに、一方の基板側から他方の基板側にかけて、順次捩れるように配向する。
そして、このようなツイスト構造を維持した状態で、光重合性モノマーを重合(硬化)させると、高分子鎖11は、分子の配向方向に沿う部分の割合が大きくなる。すなわち、高分子鎖11は、長手方向が分子の配向方向に沿う部分の割合が大きくなるように、構造的異方性を有している。
このようにして得られた表示素子は、実施の形態1にかかる表示素子と同様、外部加温装置により液晶相−等方相の相転移点直上近傍の等方相を示す温度に保ち、両電極4・5間に電界を印加することにより、透過率を変化させることができる。なお、この場合、ツイスト構造を維持した状態における分子の配向方向に沿う部分の割合が大きくなるように形成した高分子鎖11が、分子の配向を促す役目を担う。このため、本実施の形態にかかる表示素子では、電界印加による分子の配向方向をツイスト構造とすることができる。
したがって、本実施の形態にかかる表示素子は、実施の形態1にかかる表示素子と同様、低電圧で最大透過率を得られる。
ところで、実施の形態1にかかる表示素子は、分子が一方向に配向するホモジニアス構造である。この場合、媒質(例えば誘電性液体)の波長分散による色付きが起こる可能性がある。これに対して、本実施の形態にかかる表示素子は、上記したように、分子がツイスト構造をなすように配向する。このため、波長分散による色付き現象を緩和する効果を発揮する。
なお、上記のツイスト構造は、左捩れと右捩れの両者が存在し、マルチドメインを形成している。このため、ドメインの境界では透過率が下がってしまう可能性がある。
そこで、物質層3に封入する媒質に、あらかじめカイラル剤を添加しておいてもよい。このように媒質にカイラル剤を添加しておくことにより、左捩れまたは右捩れのいずれかの捩れのみとすることができるので、透過率を向上させることができる。
また、物質層3に封入する媒質(例えば誘電性液体)として、その媒質自身がカイラル性を有するもの(カイラル物質)を用いてもよい。この場合、配向補助材(例えば、重合性化合物、あるいは水素結合体)自体のみ、あるいは配向補助材(例えば、重合性化合物、あるいは水素結合体)以外のみ、あるいは配向補助材(例えば、重合性化合物、あるいは水素結合体)とそれ以外の両方がカイラル性を有してもよい。重合性化合物自体がカイラル性を示す物質としては下記の化合物(5)が挙げられる。
カイラル性の光重合性モノマーは、それ自体がカイラルなため、自発的にねじれ構造をとる。このため、その状態を光重合により固定化することにより、右捩れまたは左捩れを持つ配向補助材を形成することができる。
また、バナナ型(屈曲型)液晶のように不斉炭素原子を持たないが(分子自体はカイラル性を持たないが)、分子形状の異方性とパッキング構造により系としてカイラル性が発生する分子を含む媒質でも良い。バナナ型(屈曲型)液晶としては、例えば、P8PIMBを挙げられる(下記構造式(11)参照)。
また、バナナ型(屈曲型)液晶としては、P8PIMBに限定されるものではない。例えば、化学構造式における屈曲部が、フェニレン基などのベンゼン環であってもよく、あるいは、ナフタレン環やメチレン鎖などで結合されてなるものであってもよい。このようなバナナ型(屈曲型)液晶としては、例えば、下記構造式(12)〜(15)に示す化合物などが挙げられる。
また、アゾ基が含まれているバナナ型(屈曲型)液晶を用いてもよい。このようなバナナ型(屈曲型)液晶としては、例えば、下記構造式(16)に示す化合物などが挙げられる。
また、上記したバナナ型(屈曲型)液晶は結合部の左右で対称的な化学構造を持っているが、結合部(屈曲部)の左右で非対称な化学構造を持っていても良い。このようなバナナ型(屈曲型)液晶としては、例えば、下記構造式(17)の化合物などが挙げられる。
また、上記したバナナ型(屈曲型)液晶分子はカイラル炭素を含んでいないが、必ずしもこれに限定されるものではなく、カイラル炭素を1つ、あるいは複数含んでいても良い。このようなバナナ型(屈曲型)液晶としては、例えば、下記構造式(18)の化合物などが挙げられる。
また、これらのバナナ型(屈曲型)液晶分子を用いる場合にも、左捩れまたは右捩れのいずれかの捩れ構造を誘起させることができ、透過率を向上させることができる。
このように、物質層3に含まれる媒質における分子の配向方向が、一方向の掌性、すなわち、右捩れあるいは左捩れのいずれか一方の捩れ構造となる場合、各捩れ構造は互いの方位に相関がなくても一定の旋光性を有する。このため、物質層全体として大きな旋光性を発現することができる。これにより、低い電圧で最大透過率を得ることができ、駆動電圧を実用可能なレベルにまで低減することができる。また、物質層3には電界印加時に光学的異方性発現を促進するための配向補助材が形成されていて、電界印加による上記媒質中の分子の配向がアシストされるので、より効率的に光学的異方性を発現せしめることが可能となる。
なお、本実施の形態に係る表示素子は、基板面法線方向に電界を印加する構成(縦電界)、物質層3に封入する媒質としてネガ型液晶を用いる構成(ネガ型液晶)、両基板に備えられる配向膜のラビング方向を異ならせる構成(ツイストラビング)、物質層3に配向補助材を形成して分子の配向を補助するとともに、物質層3にカイラル剤を添加しておくことにより、分子の配向方向の捩れを左右どちらかのみとする構成(ポリマー固定(+カイラル))を基本構成とするものである、と表現することもできる。
また、本実施の形態にかかる表示素子を用いて表示装置を形成することにより、実用レベルの駆動電圧(外場)で動作可能であり、高速応答特性および広視野角特性を備え、さらに、色付き現象の発生が緩和された表示装置を提供することができる。
また、本実施の形態にかかる表示素子は、実施の形態1と同様、カラーフィルター、遮光膜をTFT基板(TFTを形成した基板1)側に形成するとともに、反対側の基板(従来、カラーフィルターを貼り付けていた基板2)を透明化して、この反対側の基板(基板2)側から露光してもよい。
〔実施の形態3〕
本発明のさらに他の実施の形態について図に基づいて説明する。なお、説明の便宜上、実施の形態1にかかる表示素子と同様の構成および機能を有する部材については、同じ符号を付し、その説明を省略する。
図13は、本実施の形態にかかる表示素子(表示素子30)の概略構成を示す断面模式図である。なお、表示素子30は、例えば、実施の形態1にかかる表示素子に代えて、表示装置100に備えられる。この図に示すように、表示素子30は、対向する2枚の基板(基板1および2)間に、光学変調層である物質層3が挟持されてなる。また、基板1における基板2との対向面には、物質層3に電界を印加するための電界印加手段である櫛歯電極(櫛歯状の電極)4aおよび電極5aが、電界印加方向が基板面内方向(基板面に平行な方向)となるように、互いに対向配置されている。また、基板1および2の対向面には、配向膜8および9が備えられている。なお、基板1側の配向膜8は、基板1上に形成された電極4aおよび5aを覆うように形成されている。さらに、基板1および2における、両基板の対向面とは反対側の面には、それぞれ偏光板6および7が備えられている。
基板1および2は、ガラス基板から構成されている。ただし、これに限らず、少なくとも一方が透明な基板であればよい。また、両基板間の間隔は10μmであるが、これに限らず、任意に設定すればよい。
電極4aおよび電極5aは、基板1における基板面2との対向面上に、互いに対向するように配置されている。なお、電極4aおよび5aの材料としては、ITO(インジウム錫酸化物)を用いているが、これに限らず、電極材料として従来公知の各種材料を用いることができる。
図14は、表示素子30における偏光板6および7の吸収軸方向、配向膜8および9に施したラビング方向、電界印加方向を示す説明図である。この図に示すように、表示素子30では、偏光板6および7における吸収軸の方向が、互いに直交している。また、配向膜8および9におけるラビング方向は、互いに逆平行であるとともに、偏光板6および7の吸収軸方向と45度の角度をなしている。また、電極4aおよび5aによる電界印加方向は、配向膜6および7のラビング方向と平行であり、偏光板8および9の吸収軸方向と45度の角度をなす。なお、配向膜8および9の材料としては、実施の形態1にかかる表示素子と同様のものを用いることができる。
物質層3には、下記の構造式(19)からなるポジ型液晶性化合物(媒質)が封入されている。なお、このポジ型液晶性化合物は、33.3℃未満でネマチック相を示す。
また、表示素子30における物質層3には、実施の形態1における物質層3と同様、高分子鎖からなる配向補助材(図示せず)が形成されている。また、物質層3に封入されている上記のポジ型液晶性化合物には、重合を迅速に行わせるための重合開始剤である、メチルエチルケトンパーオキサイドが添加されている。
次に、表示素子30の製造方法について説明する。
まず、基板1の表面に、電極4aおよび5aを形成する。形成方法は、従来の液晶表示素子の製造方法と同様の方法を用いることができる。
次に、配向膜8を、基板1上に、電極4aおよび電極5aを覆うように形成する。また、配向膜9を、基板2上に形成する。なお、配向膜8および9には、あらかじめラビング処理を施しておく。また、配向膜8および9のラビング方向は、互いに逆平行となるようにする。
また、基板1および2の対向面とは反対側の面に、偏光板6および7を貼り合わせる。ここで、図14に示したように、偏光板6および7の吸収軸が互いに直交するとともに、偏光板6および7の吸収軸方向が配向膜8および9のラビング方向と45度の角度をなすように貼り合わせる。
次に、基板1および2を、プラスチックビーズ等のスペーサ(図示せず)を介して、両者の間隔(物質層3の厚さ)が5μmとなるように調整し、シール材(図示せず)で周囲を封じて固定する。この際、後に注入する媒質(例えば誘電性液体)の注入口(図示せず)となる部分は封止せずに開口させておく。なお、スペーサおよびシール材の材質は特に限定されるものではなく、従来の液晶表示素子に用いられているものを用いることができる。
次に、両基板間に、上記したポジ型液晶性化合物からなる媒質に、光重合性モノマーである液晶(メタ)アクリレート、重合開始剤であるメチルエチルケトンパーオキサイドを添加したものを注入する。ここで、光重合性モノマーの添加量は0.05wt%(重量%)〜15wt%とする。また、重合開始剤の添加量は10wt%以下とする。
次に、外部加温装置(図示せず)によって両基板の温度を25℃に保った状態で、このセル(表示素子30)に紫外線を照射する。これによって、物質層3に注入された光重合性モノマーを重合させ、高分子鎖(図示せず)を形成する。なお、上記のポジ型液晶性混合物は、33.3℃未満でネマチック相を示し、それ以上の温度では等方相を示す。すなわち、物質層3に封入した媒質が液晶相を示している状態で、光重合性モノマーを重合させて、高分子鎖を形成する。
このように、物質層3に封入した媒質が液晶相を示している状態では、この媒質における分子は、配向膜8および9に施したラビングの影響を受け、ラビング方向に沿って配向している。したがって、この状態で光重合性モノマーを重合させることにより、重合によって得られる高分子鎖は、分子の配向方向に沿う部分の割合が大きくなる。つまり、高分子鎖は、長手方向がラビングの影響によって配向している分子の配向方向に向いている割合が大きくなるように、構造的異方性を有している。
このようにして得られた表示素子30は、外部加温装置によりネマチック−等方相の相転移直上近傍の等方相を示す温度に保ち、電界を印加することにより、透過率を変化させることができる。すなわち、物質層3に封入した媒質を、当該媒質の液晶相−等方相の相転移点よりわずかに高い温度に保つことによって等方相状態とし、両電極4a・5a間に電界を印加することにより、物質層3の透過率を変化させることができる。なお、表示素子30では、両電極間に60Vの電圧を印加した場合に最大透過率を得ることができた。
一方、表示素子30と比較するために、光重合性モノマーおよび開始剤を添加せず、また紫外線照射工程を施さない以外は表示素子30と同様の条件で作成した、比較用セルを用意した。この比較用セルを、表示素子30の場合と同様に、ネマチック−等方相の相転移直上近傍の温度に保ち、両電極間に電界を印加した。この場合、両電極間の電圧が90Vのときに最大透過率を得ることができた。
このように、表示素子30が比較用表示素子よりも低電圧で最大透過率を得られた理由は、実施の形態1と同様である。すなわち、比較用表示素子では、基板界面の配向処理が分子配向を促進しているだけであり、低電圧で分子が配向するのは、基板近傍のみである。一方、表示素子30では、基板界面の配向処理による分子の配向促進に加えて、高分子鎖によりセル内全領域の分子配向が促進される。すなわち、高分子鎖と分子との相互作用によって低電圧で分子を配向させる効果が、セル内全領域に効果的に作用している。このため、表示素子30は、比較用表示素子よりも低電圧で最大透過率を得ることができる。
なお、上記した製造方法では、基板1の表面に、電極4aおよび5a、配向膜8を形成し、基板2の表面に配向膜9を形成し、基板1および2における配向膜8および9を形成した面とは反対側の面に偏光板6および7をそれぞれ貼り合わせ、両基板間に光重合性モノマーおよび重合開始剤を添加した媒質を封入した後、紫外線を照射して光重合性モノマーを重合させているが、これに限るものではない。
例えば、基板1にTFTを形成し、基板2にカラーフィルターを貼り付けた状態で、紫外線の照射を行うようにしてもよい。ただし、この場合、パネルの表側(カラーフィルターを貼り付けた基板2側)からの露光(紫外線照射)だと、カラーフィルターでかなりの割合の紫外光が吸収されてしまうので、効果的に光重合を行うことができない。このため、カラーフィルターを通さない場合に比べてはるかに強い紫外線が必要になり、大きな問題になる。また、カラーフィルターは画素により赤色、緑色、青色の領域があるが、赤色、緑色、青色それぞれの領域において紫外光の透過率が大きく異なるので、カラーフィルターを通して紫外光を照射して光重合を行うと画素ごとに大きなムラが生じてしまう。したがって、パネルの表側からの露光は適切ではない。
そこで、パネルの裏側(TFTを形成した基板1側)から露光するようにしてもよい。ただし、パネルの裏側からの露光だと、電極4aおよび5a(画素電極および対向電極)により紫外光が遮光されてしまい電極4a上および電極5a上を露光することができない。このため、電極4a上および電極5a上の光感応性モノマーは重合することができない。そして、重合できない領域はコレステリックブルー相を安定化できないので、コレステリックブルー相は狭い温度範囲でしか発現しない。この結果、電極4aや5aを介さずに光照射された領域の媒質は広い温度範囲でコレステリックブルー相を示すものの、光照射が行えない電極4a上および5a上の媒質はコレステリックブルー相ではないコレステリック相などの液晶相を示す。また、コレステリックブルー相とコレステリック相との境の配向状態は欠陥となり光漏れの原因となる。つまり、領域によって異なる配向状態の表示素子となってしまう。このため、上記のように形成した表示素子において、コレステリックブルー相の領域を表示素子として用いる場合、電極4a上や電極5a上のみならず、その縁取り部分も遮光膜で隠す必要があり開口率が低下してしまう。
そこで、電極4aおよび電極5aを透明化してもよい。つまり、ITO(インジウム錫酸化物)などの透明電極で電極4aおよび電極5aを形成すれば、これらの電極上の領域にも紫外光を照射することができる。
ところが、パネル裏側から露光する場合には、電極4aおよび電極5aの他にも信号線、走査線、TFT(薄膜トランジスタ)などの遮光部がある。これらの部分は電極4aや電極5aなどと異なり透明電極で形成することが難しい。ITOなどの透明電極はアルミや銅、タンタル等の金属に比べて抵抗が高いので、信号線や走査線に用いることは適さないからである。特に、液晶テレビなどの大型、大画面の表示素子の場合には、信号線や走査線が莫大になるので、これらを透明化することは不適である。したがって、パネル裏側からの露光する場合には、信号線上、走査線上、TFT上の領域は遮光部になってしまい、それらの領域の媒質は光重合を行うことができない。このため、電極4aおよび電極5aの場合と同様に、信号線、走査線、TFTの縁取り部分は遮光膜で覆う必要があり、開口率低下の原因となる。さらに、遮光部の領域にある未反応の光重合性のモノマーや開始剤は電圧保持率低下など信頼性悪化の原因ともなりうるので、未反応部分があることは好ましくはない。
これらの問題点を解決するために、カラーフィルター、遮光膜をTFT基板(TFTを形成した基板1)側に形成するとともに、反対側の基板(従来、カラーフィルターを貼り付けていた基板2)を透明化して、この反対側の基板(基板2)側から露光してもよい。この場合、遮光部分が無くなるので、物質層3を全面的に露光することができる。したがって、上記のような縁取り部分を遮光膜で覆う必要が無くなるので、開口率が向上する。さらに、未反応の重合性モノマー、重合開始剤などが残ることもなくなるので、信頼性悪化を防止できる。
また、物質層3に形成される重合性化合物(配向補助材)としては、液晶(メタ)アクリレートに限らず、実施の形態1に記載したものと同様のものを用いることができる。また、実施の形態1と同様、光重合性モノマーの添加量は0.05wt%(重量%)〜15wt%であることが好ましい。
また、重合性化合物(配向補助材)を光重合性モノマーから形成する場合に用いる重合開始剤は、メチルエチルケトンパーオキサイドに限らず、実施の形態1に記載したものと同様ものを用いることができる。また、重合開始剤は、実施の形態1と同様、必ずしも用いる必要はなく、用いる場合には添加量を10wt%以下とすることが好ましい。
また、本実施形態において物質層3に封入する媒質は、上記した化合物に限るものではなく、誘電異方性が正の媒質であればよい。
また、物質層3に封入する媒質は、典型的には、電界無印加時には光学的に概ね等方であり、電界印加により光学変調を誘起される媒質であってもよい。すなわち、典型的には、電界印加に伴い分子、または分子集合体(クラスタ)の配向秩序度が上昇する物質であってもよい。
また、本実施形態において物質層3に封入する媒質として、例えば、光学波長未満の秩序構造(配向秩序)を有し、光学的には等方的に見える液晶相であって、誘電異方性が正のものを適用することができる。あるいは、液晶分子が光の波長未満のサイズで放射状に配向している集合体で充填された、光学的に等方的に見えるような系を用いることもできる。これらに電界を印加することにより、分子あるいは集合体の微細構造にひずみを与え、光学変調を誘起させることができる。また、これらの媒質を用いる場合にも、配向補助材を形成しておくことによって分子の配向を促進できるので、低電圧で駆動することが可能となる。
以下に、このような媒質の例を、媒質例として記載する。ただし、以下に示す媒質例は、利用可能な媒質の一例を示すものであり、本表示素子に利用可能な媒質を限定するものではない。
〔媒質例1〕
物質層3に封入される媒質として、例えば、光学波長未満(可視光の波長未満)のスケールの、キュービック対称性(立方晶の対称性)を有する秩序構造からなる、キュービック相(cubic phase,立方晶相)を示す媒質を用いることができる。
このような媒質としては、例えば、非特許文献5および6に記載されているBABH8がある。このBABH8は、下記構造式(20)
で表される。
また、このBABH8は136.7℃以上161℃以下では、光学波長未満(可視光の波長未満)のスケールの秩序構造からなるキュービック相を示す。なお、非特許文献5には、図5〜図7に示すような、キュービック相の構造モデルが示されている。
上記したように、BABH8は、格子定数が約6nmと光学波長より1桁以上も小さく、秩序構造(配向秩序)が光学波長未満であるため透明である。すなわち、上記温度範囲において、電界無印加の場合には光学的に等方性を示す。したがって、BABH8を本表示素子に適用する場合、直交ニコル下において良好な黒表示を行うことができる。
一方、物質層3の温度を136.7℃以上161℃以下に制御しながら、電極4・5間に電界を印加すると、キュービック対称性を有する構造に歪が生じ、光学的異方性が発現する。すなわち、BABH8は、上記の温度範囲において、電界無印加状態では光学的に等方性であり、電界印加により光学的異方性が発現する。
このように、上記の構成の本表示装置では、電界を印加することによってキュービック対称性を有する構造に歪が生じ、複屈折が発生するので、良好な白表示を行うことができる。なお、複屈折が発生する方向は一定であり、その大きさが電界印加によって変化する。また、電極4・5間に印加する電圧と透過率との関係を示す電圧透過率曲線は、上記のような広い温度範囲において、安定した曲線となる。すなわち、上記構成の本表示装置では、136.7℃以上161℃以下の約20Kの温度範囲において安定した電圧透過率曲線を得ることができ、温度制御が極めて容易となる。
また、BABH8を用いた本表示素子では、キュービック対称性を有する構造に生じる歪、すなわち、媒質における光学的異方性の程度の変化を用いて表示を行うので、液晶分子の配向方向を変化させて表示を行う従来の表示方式の液晶表示装置よりも、広視野角特性を実現できる。さらに、BABH8を用いた本表示装置では、複屈折が発生する方向が一定であり、光軸方向が変化しないため、より広い視野角特性を実現できる。
また、BABH8を用いた本表示装置では、微小領域の構造(結晶のような格子)の歪によって発現する異方性を用いて表示を行っている。このため、従来方式の表示原理のように、液晶固有の粘度が応答速度に大きく影響するといった問題がなく、1ms程度の高速応答を実現することができる。すなわち、従来方式の表示原理では液晶分子の配向方向の変化を利用していたため、液晶固有の粘度が応答速度に大きく影響していたが、BABH8を用いた本表示装置では、微小領域の構造の歪を利用するため、液晶固有の粘度の影響が小さく、高速応答を実現することができる。また、本表示素子は高速応答性を備えているので、例えばフィールドシーケンシャルカラー方式の表示装置に適用することもできる。
〔媒質例2〕
物質層3に封入する媒質として、液晶相の一つであるスメクチックD相(SmD)を示す分子からなる媒質を適用できる。
スメクチックD相を示す液晶性物質としては、例えば、ANBC16がある。なお、ANBC16については、非特許文献1(p.21,図1構造1(n=16))や、非特許文献6(p.888,Table1,化合物(compound no.)1,化合物1a,化合物1a−1)に記載されている。これらの分子構造を、以下に示す。
4’n-alkoxy-3’-nitro-biphenyl-4-carboxylic acids
n-15 Cr 127 SmC 187 Cub 198 SmA 204 I
この液晶性物質(ANBC16、上記化学構造式(21)においてn=16)は、171.0℃〜197.2℃の温度範囲において、スメクチックD相を示す。スメクチックD相は、複数の分子がジャングルジム(登録商標)のような三次元的格子を形成しており、その格子定数が数十nm以下であり、光学波長未満である。すなわち、スメクチックD相は、分子の配列がキュービック対称性を示す秩序構造(配向秩序)を有する。なお、上記ANBC16の格子定数は約6nmである。このため、スメクチックD相は、光学的には等方性を示す。
また、ANBC16がスメクチックD相を示す上記の温度領域において、ANBC16からなる物質層3に電界を印加すれば、分子自身に誘電異方性が存在するため、分子が電界方向に向こうとして格子構造に歪が生じる。すなわち、物質層3に光学的異方性が発現する。
したがって、ANBC16を本表示素子の物質層3に封入する媒質として適用できる。なお、ANBC16に限らず、スメクチックD相を示す物質であれば、電界印加時と電界無印加時とで光学的異方性の程度が変化するので、本表示素子の物質層3に封入する媒質として適用できる。
〔媒質例3〕
物質層3に封入する媒質として、液晶マイクロエマルションを適用できる。ここで、液晶マイクロエマルションとは、山本らによって名づけられた、O/W型マイクロエマルション(油の中に水を界面活性剤で水滴の形で溶解させた系で、油が連続相となる)の油分子をサーモトロピック液晶分子で置換したシステム(混合系)の総称である(非特許文献2参照)。
液晶マイクロエマルションの具体例として、例えば、非特許文献2に記載されている、ネマチック液晶相を示すサーモトロピック液晶(温度転移形液晶)であるPentylcyanobiphenyl(5CB)と、逆ミセル相を示すリオトロピック液晶(lyotropic liquid crystal,濃度転移形液晶、ライオトロピック液晶)であるDidodecyl ammonium bromide(DDAB)の水溶液との混合系がある。この混合系は、図9および図10のような模式図で表される構造を有している。
また、この混合系は、典型的には逆ミセルの直径が50Å程度、逆ミセル間の距離が200Å程度である。これらのスケールは光学波長より一桁程度小さい。すなわち、上記の混合系(液晶マイクロエマルション)は、光学波長未満の秩序構造(配向秩序)を有する。また、逆ミセルが三次元空間的にランダムに存在しており、各逆ミセルを中心に5CBが放射状に配向している。したがって、上記の混合系は、光学的には等方性を示す。
そして、上記の混合系からなる媒質に電界を印加すれば、5CBに誘電異方性が存在するため、分子自身が電界方向に向こうとする。すなわち、逆ミセルを中心に放射状に配向していたため光学的に等方であった系に、配向異方性が発現し、光学的異方性が発現する。したがって、上記の混合系を本表示素子の物質層3に封入する媒質として適用できる。なお、上記の混合系に限らず、電界無印加と電界印加時とで光学的異方性の程度が変化する液晶マイクロエマルションであれば、本表示素子の物質層3に封入する媒質として適用できる。
〔媒質例4〕
物質層3に封入する媒質として、特定の相を有するリオトロピック液晶(ライオトロピック液晶)を適用できる。ここで、リオトロピック液晶とは、一般に液晶を形成する主たる分子が、他の性質を持つ溶媒(水や有機溶剤など)に溶けているような他成分系の液晶を意味するものとする。また、上記の特定の相とは、電界印加時と電界無印加時とで、光学的異方性の程度が変化する相である。このような特定の相としては、例えば、非特許文献7に記載されているミセル相、スポンジ相、キュービック相、逆ミセル相がある。図11に、リオトロピック液晶相の分類図を示す。
両親媒性物質である界面活性剤には、ミセル相を発現する物質がある。例えば、イオン性界面活性剤である硫酸ドデシルナトリウムの水溶液やパルチミン酸カリウムの水溶液などは球状ミセルを形成する。また、非イオン性界面活性剤であるポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルと水との混合液では、ノニルフェニル基が疎水基として働き、オキシエチレン鎖が親水基として働くことにより、ミセルを形成する。他にも、スチレン−エチレンオキシドブロック共重合体の水溶液でもミセルを形成する。
例えば、球状ミセルは、分子が空間的全方位にパッキングして(分子集合体を形成して)球状を示す。また、球状ミセルのサイズは、光学波長未満であるため、光学波長領域では異方性を示さず等方的に見える。すなわち、球状ミセルは、光学波長未満の秩序構造(配向秩序)を有する。しかしながら、このような球状ミセルに電界を印加すれば、球状ミセルが歪むため異方性を発現する。よって、球状ミセル相を示すリオトロピック液晶を、本表示装置の物質層3に封入する媒質として適用できる。なお、球状ミセル相に限らず、他の形状のミセル相、すなわち、紐状ミセル相、楕円状ミセル相、棒状ミセル相などを示すリオトロピック液晶を物質層3に封入しても、略同様の効果を得ることができる。
また、濃度、温度、界面活性剤の条件によっては、親水基と疎水基が入れ替わった逆ミセルが形成されることが一般に知られている。このような逆ミセルは、光学的にはミセルと同様の効果を示す。したがって、逆ミセル相を示すリオトロピック液晶を、物質層3に封入する媒質として適用することにより、ミセル相を示すリオトロピック液晶を用いた場合と同等の効果を奏する。なお、媒質例2で説明した液晶マイクロエマルションは、逆ミセル相(逆ミセル構造)を示すリオトロピック液晶の一例である。
また、非イオン性界面活性剤ペンタエチレングリコール−ドデシルエーテル(Pentaethylenglychol-dodecylether、C12E5)の水溶液には、図11に示したような、スポンジ相やキュービック相を示す濃度および温度領域が存在する。このようなスポンジ相やキュービック相は、光学波長未満の秩序(秩序構造、配向秩序)を有しているので、光学波長領域では透明な物質である。すなわち、これらの相からなる媒質は、光学的には等方性を示す。そして、これらの相からなる媒質に電界を印加すると、秩序構造(配向秩序)に歪が生じて光学的異方性が発現する。したがって、スポンジ相やキュービック相を示すリオトロピック液晶も、本表示素子の物質層3に封入する媒質として適用できる。
〔媒質例5〕
物質層3に封入する媒質として、ミセル相、スポンジ相、キュービック相、逆ミセル相などの、電界印加時と電界無印加時とで光学的異方性の程度が変化する相を示す液晶微粒子分散系を適用できる。ここで、液晶微粒子分散系とは、溶媒(液晶)中に微粒子を混在させた混合系である。
このような液晶微粒子分散系としては、例えば、非イオン性界面活性剤ペンタエチレングリコール−ドデシルエーテル(Pentaethylenglychol-dodecylether、C12E5)の水溶液に、表面を硫酸基で修飾した直径100Å程度のラテックス粒子を混在させた、液晶微粒子分散系がある。この液晶微粒子分散系では、スポンジ相が発現する。また、このスポンジ相の秩序構造(配向秩序)は光学波長未満である。したがって、上記媒質例3の場合と同様、上記の液晶微粒子分散系を、本表示装置の物質層3に封入する媒質として適用できる。
なお、上記のラッテックス粒子を媒質例2の液晶マイクロエマルションにおけるDDABと置き換えることによって、媒質例2の液晶マイクロエマルションと同様な配向構造を得ることもできる。
〔媒質例6〕
物質層3に封入する媒質として、デンドリマー(デンドリマー分子)を適用できる。ここで、デンドリマーとは、モノマー単位ごとに枝分かれのある三次元状の高分岐ポリマーである。
デンドリマーは、枝分かれが多いために、ある程度以上の分子量になると球状構造となる。この球状構造は、光学波長未満の秩序(秩序構造、配向秩序)を有しているので、光学波長領域では透明な物質であり、電界印加によって配向秩序の程度が変化して光学的異方性が発現する(光学的異方性の程度が変化する)。したがって、デンドリマーを、本表示素子の物質層3に封入する媒質として適用できる。
また、上記媒質例2の液晶マイクロエマルションにおけるDDABを、デンドリマー物質に置き換えることにより、上記媒質例2の液晶マイクロエマルションと同様な配向構造を得ることができ、本表示素子の物質層3に封入する媒質として適用できる。
〔媒質例7〕
物質層3に封入する媒質として、コレステリックブルー相を示す分子からなる媒質を適用できる。なお、図5、図15には、コレステリックブルー相の概略構造が示されている。
図5、図15に示したように、コレステリックブルー相は、高い対称性の構造を有している。また、コレステリックブルー相は、光学波長未満の秩序(秩序構造、配向秩序)を有しているので、光学波長領域では概ね透明な物質であり、電界印加によって配向秩序の程度が変化して光学的異方性が発現する(光学的異方性の程度が変化する)。すなわち、コレステリックブルー相は、おおむね光学的に等方性を示し、電界印加によって液晶分子が電界方向に向こうとするために格子が歪み、異方性を発現する。よって、コレステリックブルー相を示す分子からなる媒質を、本表示装置の物質層3に封入する媒質として適用できる。
なお、コレステリックブルー相を示す物質としては、例えば、JC1041xx(ネマチック液晶混合体、チッソ社製)を48.2mol%、5CB(4-cyano-4’-pentyl biphenyl、ネマチック液晶、アルドリッチ(Aldrich)社製)を47.4mol%、ZLI−4572(カイラル剤、メルク(Merck)社製)を4.4mol%混合した物質がある。この物質は、330.7Kから331.8Kの温度範囲で、コレステリックブルー相を示す。
また、この混合物質に、重合性モノマー、あるいは、重合性モノマーおよび重合開始剤を加えてもよい。すなわち、上記の混合物質からなる媒質を構成する分子の配向秩序構造を、配向補助材(重合性化合物)によって物質層内に多数の小領域(微細ドメイン)を形成することにより固定化してもよい。しかし、重合性化合物などにより媒質をマイクロカプセルのように小区域(小領域)に分割するのは好ましくない。つまり、重合性化合物などで各小領域における液晶分子を独立的に覆うような構造をつくると、コレステリックブルー相の構造を乱すようになり、固定化できない。また、この場合、この媒質が本表示装置の物質層3に封入された後、物質層3に電界が印加されていないときにも分子の配向秩序構造を固定化する構成としてもよい。つまり、電界無印加時における光学的等方性の秩序構造(電界無印加時における物質層3に封入した媒質の秩序構造(配向秩序))を、配向補助材(重合性化合物)により安定化してもよい。
上記構成によれば、配向補助材(重合性化合物)によって、電界無印加時における光学的等方性の秩序構造を安定化することができる。これにより、駆動電圧が大きな温度依存性を示すために実用的な温度範囲において実質的に低電圧で駆動することができない媒質(低電圧で駆動できる温度範囲が狭く、配向補助材(重合性化合物)がない場合には実用的でない媒質)を用いる場合でも、配向補助材(重合性化合物)を設けることにより広い温度範囲で駆動電圧を低電圧化することができる。したがって、低電圧で光学的異方性を発現させる(光学的異方性の程度を変化させる)ことが可能となるので、実用レベルの駆動電圧で動作可能であり、高速応答特性および広視野角特性を備えた表示素子を実現することができる。
例えば、光重合性モノマーとしてEHA(2-ethylhexyl acrylate、モノアクリレート、アルドリッチ(Aldrich)社製)およびRM257(ジアクリレートモノマー(diacrylate monomer)、メルク社製)、光重合開始剤としてDMPAP(2,2-dimethoxy-2-phenyl acetophenon、アルドリッチ社製)を、以下に示す分量比で加えてもよい。
EHA 4.0mol%(2.4wt%)
RM257 2.6mol%(5.0wt%)
DMPAP 0.33mol%(0.28wt%)
JC−1041xx 44.7mol%(47.1wt%)
5CB 43.4mol%(35.2wt%)
ZLI−4572 4.9mol%(10.1wt%)
なお、上記の分量比で混合した後、混合物質が常にコレステリックブルー相になるように温度調節しながら、電界を印加せず紫外線照射を行って得られた媒質は、326.4Kから260K以下まで安定してコレステリックブルー相を示した。すなわち、温度範囲を従来の1.1Kから大幅に拡大することができた。これにより、液体相よりも低い駆動電圧を有するものの、実用的な温度範囲を有していなかった相の温度範囲を飛躍的に拡大することができた。このようなコレステリックブルー相は、たとえば図13のような電極構造にて駆動することが可能であり、表示素子として広い温度範囲において低電圧で駆動することが可能になる。図15にコレステリックブルー相および固定化のメカニズムを示す。
また、各物質の分量比は、上記した分量比に限るものではない。ただし、光重合性モノマー(モノマー)の含有率が小さいと、コステリックブルー相を示す温度範囲があまり広がらない。例えば、JC1041xxを45.1mol%、5CBを45.8mol%、ZLI−4572を5.1mol%、EHAを2.4mol%(1.4wt%)、RM257を1.5mol%(2.9wt%)、DMPAPを0.2mol%の分量比(組成)で混合した場合(この場合、光反応性モノマー含有率は3.9mol%(4.3wt%))、コレステリックブルー相は326.3Kから319.5Kの範囲となり、上記の分量比で混合した例と比べて狭い温度になった。また、モノマー含有率が大きいと表示素子として使用した場合、電界無印加時と比較して電界を印加した時に光学的異方性の変化に寄与する部分が少なくなり、また駆動電圧が高くなる。このため、光重合性モノマー(光反応性モノマー)含有率は0.05重量%以上15重量%以下であることが好ましい。また、2mol%から20mol%の範囲であることが好ましく、3mol%から15mol%の範囲であることがさらに好ましく、5mol%から11mol%であることがさらに好ましい。
また、モノマー添加および紫外光(UV)照射により等方相‐液晶相の相転移温度は低下する。このため、表示素子として使用する際に使用温度範囲が狭くなりすぎないように、モノマー含有前の液晶混合物の等方相‐液晶相の相転移温度が、55℃以上であることが好ましい。すなわち、モノマー含有前の液晶混合物の等方相‐液晶相の相転移温度が55℃以上となるように、上記混合物質の分量比を決定することが好ましい。表示素子をテレビなどの商品に応用して実際に使用する場合、モノマー含有前の液晶混合物の等方相‐液晶相の相転移温度が、55℃以上あれば概ね問題はない。例えば、JC1041xxを48.2mol%、5CBを47.4mol%、ZLI−4572を4.4mol%の組成で調製した後、紫外光照射した場合、等方相‐液晶相の相転移温度は、上記したように331.8Kだが、JC1041xxを44.7mol%、5CBを43.4mol%、ZLI−4572を4.9mol%、EHAを4mol%、RM257を2.6mol%、DMPAPを0.33mol%の組成で調製後、紫外光照射した場合、等方相‐液晶相の相転移温度は326.4Kに低下した。
また、液晶相‐固体相の相転移温度が−10℃以下であることが好ましく、−30℃以下であることがより好ましい。すなわち、液晶相‐固体相の相転移温度が−10℃以下、より好ましくは−30℃以下となるように、上記混合物質の分量比を決定することが好ましい。
また、光重合性モノマー(光反応性モノマー)として、アクリレート系モノマーを用いることが好ましい。特に、液晶性ジアクリレートモノマーと非液晶性アクリレートモノマーとの混合系が好ましい。これは、液晶性ジアクリレートモノマーと液晶性アクリレートモノマーとの混合系の場合、コレステリックブルー相を示す温度範囲の拡大幅が小さくなるからである。例えば、JC1041xxを46.2mol%、5CBを44.7mol%、ZLI−4572を5.0mol%、6CBA(液晶性アクリレートモノマー;6−(4’-cyanobiphenyl-4-yloxy)hexyl acrylate)を2.8mol%、RM257を1.1mol%、DMPAPを0.2mol%の組成で調製した場合、コレステリックブルー相を示す温度範囲は329.8Kから327.7Kの範囲となった。
液晶性モノマーとしては、主骨格に2つあるいは3つの6員環を有するジアクリレート化合物が望ましい。このような化合物は液晶性を示し、配向規制力を付与する能力が高い。このような液晶性モノマーとしては、例えば、下記のような化合物(22)があげられる。
なお、上記化合物(22)において、R3はキラル炭素を含まない炭素数1〜20のアルキル基をあらわす。
また、非液晶性モノマーとしては分子構造中にアクリロイル基またはメタクリロイル基を含むアクリレート系モノマーが好ましく、特に側鎖としてアルキル基を有する枝分かれ構造のアクリレート系モノマーが好ましい。アルキル基としては炭素数1〜4が好ましく、このようなアルキル基からなる側鎖をモノマー単位あたり少なくとも1つ以上有することが好ましい。このようなモノマーとしては上記したEHAの他、例えば、TMHA(3,5,5-trimetthylhexyl acrylate、アルドリッチ(Aldrich)社製)などが挙げられる。
なお、枝分かれ構造をもたないアクリレート系モノマーで光重合を行うとコレステリックブルー相の温度範囲の拡大幅が小さくなる。例えば、JC1041xxを44.1mol%、5CBを44.3mol%、ZLI−4572を5.2mol%、HA(枝分かれの構造を持たないアクリレート系モノマー;n-hexyl acrylate、アルドリッチ社製)を4.0mol%、RM257を2.0mol%、DMPAPを0.3mol%の組成で調製した場合、コレステリックブルー相を示す温度範囲は326.2Kから318.0Kの範囲となった。ただし、枝分かれの構造を持たないアクリレート系モノマー(例えばHA)を用いた場合でも、そのアクリレート系モノマーの割合を増やせばコレステリックブルー相の温度範囲の拡大幅を広げることはできる。また、枝分かれ構造を持たないアクリレート系モノマーを用いる場合には、アルキル鎖の長いモノマーを用いるのが好ましい。このようなアクリレートモノマーを用いれば、枝分かれ構造を持つアクリレートとほぼ同様の効果を奏する。枝分かれ構造を持たないアクリレート系モノマーであって、アルキル鎖の長いモノマーとしては、例えば、n-OA(n-octyl acrylate、アルドリッチ(Aldrich)社製)などが挙げられる。
また、光反応性モノマーとしては、上述のようなアキラルな物質のみに限らず、カイラルな光反応性モノマーを用いてもよい。カイラル性を示す光反応性モノマーとしては、例えば、下記の化合物(5)が挙げられる。
カイラル性の光重合性モノマーは、それ自体がカイラルなために自発的にねじれ構造をとるので、コレステリックブルー相の捩れ構造との相溶性が良く、安定性が高い。
また、上記の説明では、光重合性の重合性化合物(配向補助材)によって媒質を構成する分子の配向秩序構造を固定化する場合について説明したが、本発明はこのような重合性化合物(配向補助材)の形成による配向秩序構造の安定化に限るものではない。
例えば、加熱によって重合する熱反応性モノマー、光照射と加熱とによって重合するモノマーを用いてもよい。また、鎖状高分子であってもよく、網目状高分子(網目状高分子材料)や環状高分子(環状高分子材料)などであってもよい。また、配向補助材は、必ずしも重合性化合物から形成する必要はなく、例えば上記したような水素結合ネットワーク(水素結合体)、微粒子、多孔質構造体(例えば、多孔質無機材料)などを用いてもよい。
また、多孔質構造体としては、メンブレンフィルターなどの微小細孔フィルムを用いてもよい。微小細孔フィルムとしては、例えば、ニュークリポアー(野村マイクロ・サイエンス社製)、Isopore(日本ミリポア社製)、Hipore(旭化成社製)、Millipore(日本ミリポア社製)、ユーポア(宇部興産製)などを用いることができる。
なお、微小細孔フィルムの材質としては、ポリカーボネート、ポリオレフィン、セルロース混合エステル、セルロースアセテート、ポリフッ化ビニリデン、アセチレセルロース、酢酸セルロースと硝酸セルロースの混合物など、微小細孔フィルムに封入する媒質(例えば液晶性物質などの誘電性物質)と反応を起こさない材質でできたものが好ましい。微小細孔の大きさ(直径)は、媒質を封入した際に光学的に等方的に見えるとともに、媒質を固定化できる系を実現するために、可視光の波長の1/4以下であることが好ましく、さらには50nm以下であることが好ましい。これにより、物質層が可視光に対して充分な透明状態を発現することが可能となる。また、微小細孔フィルムの厚さは50μm以下であることが好ましく、10μm以下であることがより好ましい。
なお、上記の説明では、コステリックブルー相を示す媒質における分子の配向秩序構造を固定化する構成について説明したが、固定化する媒質はこれに限るものではない。本明細書中に記載した他の媒質(他の秩序構造を有する相を示す媒質)を用いる場合にも、分子の配向秩序構造を固定化してもよい。これにより、表示素子として私用する場合の使用温度範囲を飛躍的に拡大できる。また、それらの媒質を用いる場合、それらの媒質が本表示装置の物質層3に封入された後、物質層3に電界が印加されていないときにも分子の配向秩序構造を固定化する構成としてもよい。
また、微小細孔フィルムの構造としては、らせん状結晶など、捩れ構造を持つものでもよい。例えば、ポリオレフィン系のフィルムやポリペプチド系のフィルム等が挙げられる。捩れ構造を持つポリペプチド系のフィルムとしては、螺旋構造、すなわち、α−ヘリックス形成能のある合成ポリペプチドが好ましい。α−ヘリックス形成能のある合成ポリペプチドとしては、ポリ−γ−ベンジル−L−グルタメート、ポリ−γ−メチル−L−グルタメート、ポリ−γ−エチル−L−グルタメート等のポリグルタミン酸誘導体、ポリ−β−ベンジル−L−アスパルテート等のポリアスパラギン酸誘導体、ポリ−L−ロイシン、ポリ−L−アラニン等が挙げられる。これらの合成ポリペプチドは、市販のものあるいは文献等に記載の方法に準じて製造したものを、そのままあるいは難水溶性のヘリックス溶媒等、例えば1,2−ジクロロエタン、ジクロロメタンで希釈して用いることができる。市販のα−ヘリックス形成能のある合成ポリペプチドとしては、例えばアジコートA−2000,XB−900[味の素(株)社製]、PLG−10,−20,−30[協和発酵工業(株)社製]等のポリ−γ−メチル−L−グルタメートがあげられる。
ねじれ構造をもつフィルムを用いた場合、媒質がカイラル性を示すときに、その媒質のねじれ構造とフィルムの捩れ構造が近い場合に大きな歪が生じないので、媒質の安定性が高まる。また、媒質がカイラル性を示さない場合でもフィルムの捩れ構造に従い媒質が配向するので、媒質がカイラル性を示す場合に近い性質を示す。
また、コレステリックブルー相を示す他の物質として、例えば、ZLI−2293(混合液晶、メルク社製)を67.1mol%、P8PIMB(1,3-phenylene bis[4-(4-8-alkylphenyliminomethyl-benzoate,バナナ型(屈曲型)液晶、下記構造式(11)参照)を15wt%、MLC−6248(カイラル剤、メルク社製)を17.9wt%混合した物質を用いてもよい。この物質は、77.2℃から82.1℃の温度範囲でコレステリックブルー相を示す。また、上記の各物質の混合比を適宜変更して用いてもよい。例えば、ZLI−2293を69.7wt%、P8PIMBを15wt%、MLC−6248(カイラル剤)を15.3wt%混合した物質は80.8℃から81.6℃の温度範囲でコレステリックブルー相を示す。
また、コレステリックブルー相を示すさらに他の物質として、例えば、ZLI−2293(混合液晶、メルク社製)を67.1wt%、MHPOBC(4-(1-methylheptyloxycarbonyl)phenyl-4’-octylcarboxybiphenyl-4-carboxylate、直線状液晶、下記構造式(23)参照)を15wt%、MLC−6248(カイラル剤、メルク社製)を17.9wt%混合した物質を用いてもよい。この物質は、83.6℃から87.9℃の温度範囲でコレステリックブルー相を示す。また、上記の各物質の混合比を適宜変更して用いてもよい。例えば、ZLI−2293を69.7wt%、MHPOBCを15wt%、MLC−6248(カイラル剤)を15.3wt%混合した物質は87.8℃から88.4℃の温度範囲でコレステリックブルー相を示す。
なお、ZLI−2293とMLC−6248とを混合するだけではコレステリックブルー相を発現させることはできなかったが、バナナ型(屈曲型)をした液晶P8PIMBや直線状液晶MHPOBCを添加することによりコレステリックブルー相を示した。
また、上記の例では、直線状液晶としてラセミ体を用いたが、必ずしもラセミ体に限定されるものではなく、カイラル体を用いてもよい。また、直線状液晶を用いる場合、直線状液晶MHPOBCのように反傾構造(一層ごとに異なる方向を向いている)を持つものを用いることが好ましい。
また、直線状液晶とは、化学構造式においてほぼ横長の直線に近い液晶分子を表すために用いた総称であり、実際の立体配置は化学構造式のように一平面内にあるとは限らず、折れ曲がっていることがあることはいうまでもない。
また、バナナ型(屈曲型)液晶とは、化学構造式において屈曲部を有する液晶分子を表わすために用いた総称であり、P8PIMBに限定されるものではない。例えば、化学構造式における屈曲部が、フェニレン基などのベンゼン環であってもよく、あるいは、ナフタレン環やメチレン鎖などで結合されてなるものであってもよい。このようなバナナ型(屈曲型)液晶としては、例えば、下記構造式(12)〜(15)に示す化合物が挙げられる。
また、アゾ基が含まれているバナナ型(屈曲型)液晶を用いてもよい。このようなバナナ型(屈曲型)液晶としては、例えば、下記構造式(16)に示す化合物などが挙げられる。
また、上記バナナ型(屈曲型)液晶は結合部の左右で対称的な化学構造を持っているが、結合部(屈曲部)の左右で非対称な化学構造を持っていても良い。このようなバナナ型(屈曲型)液晶としては、例えば、下記構造式(17)に示す化合物などが挙げられる。
また、上記バナナ型(屈曲型)液晶分子はカイラル炭素を含んでいないが、必ずしもこれに限定されるものではなく、カイラル炭素を1つ、あるいは複数含んでいても良い。このようなバナナ型(屈曲型)液晶としては、例えば、下記構造式(18)に示す化合物などが挙げられる。
また、上記したように、本発明に適したコレステリックブルー相は光学波長未満の欠陥秩序を有しているので、光学波長領域では概ね透明であり、概ね光学的に等方性を示す。ここで、概ね光学的に等方性を示すというのは、コレステリックブルー相は液晶の螺旋ピッチを反映した色を呈するが、この螺旋ピッチによる呈色を除いて、光学的に等方性を示すことを意味する。なお、螺旋ピッチを反映した波長の光を選択的に反射にする現象は、選択反射と呼ばれる。この選択反射の波長域が可視域に無い場合には呈色しない(呈色が人間の目に認識されない)が、可視域にある場合にはその波長に対応した色を示す。
ここで、400nm以上の選択反射波長域または螺旋ピッチを持つ場合、コレステリックブルー相(ブルー相)では、その螺旋ピッチを反映した色に呈色する。すなわち、可視光が反射されるので、それによって呈する色が人間の目に認識されてしまう。したがって、例えば、本発明の表示素子でフルカラー表示を実現してテレビなどに応用する場合、その反射ピークが可視域にあるのは好ましくない。
なお、選択反射波長は、上記媒質の持つ螺旋軸への入射角度にも依存する。このため、上記媒質の構造が一次元的ではないとき、つまりコレステリックブルー相のように三次元的な構造を持つ場合には、光の螺旋軸への入射角度は分布を持ってしまう。したがって、選択反射波長の幅にも分布ができる。
このため、ブルー相の選択反射波長域または螺旋ピッチは可視域以下、つまり400nm以下であることが好ましい。ブルー相の選択反射波長域または螺旋ピッチが400nm以下であれば、上記のような呈色が人間の目にほとんど認識されない。
また、国際照明委員会CIE(Commission Internationale de l’Eclairage)では、人間の目の認識できない波長は380nm以下であると定められている。したがって、ブルー相の選択反射波長域または螺旋ピッチが380nm以下であることがより好ましい。この場合、上記のような呈色が人間の目に認識されることを確実に防止できる。
また、上記のような呈色は、螺旋ピッチ、入射角度だけでなく、媒質の平均屈折率とも関係する。このとき、呈色する色の光は波長λ=nPを中心とした波長幅Δλ=PΔnの光である。ここで、nは平均屈折率、Pは螺旋ピッチである。また、Δnは屈折率の異方性である。
Δnは、物質によりそれぞれ異なるが、例えば液晶性物質を上記物質層3に封入する物質として用いた場合、液晶性物質の平均屈折率は1.5程度、Δnは0.1程度なので、この場合、呈色する色が可視域にないためには、螺旋ピッチPは、λ=400とすると、P=400/1.5=267nmになる。また、ΔλはΔλ=0.1×267=26.7になる。したがって、上記のような呈色が人間の目にほとんど認識されないようにするためには、上記媒質の螺旋ピッチを、267nmから26.7nmの約半分である13.4nmを引いた253nm以下にすればよい。すなわち、上記のような呈色を防止するためには、上記媒質の螺旋ピッチが253nm以下であることが好ましい。
また、上記の説明では、λ=nPの関係において、λを400nmとしたが、λを国際照明委員会CIEが人間の目の認識できない波長として定めている380nmとした場合には、呈色する色が可視域外とするための螺旋ピッチは240nm以下となる。すなわち、上記媒質の螺旋ピッチを240nm以下とすることにより、上記ような呈色を確実に防止することができる。
例えば、JC1041(混合液晶、チッソ社製)を50.0wt%、5CB(4-cyano-4’-pentyl biphenyl、ネマチック液晶)を38.5wt%、ZLI−4572(カイラルドーパント、メルク社製)を11.5wt%の組成で混合(調製)した試料は、約53℃以下で液体的な等方相から光学的な等方相に相転移するが、螺旋ピッチが約220nmであり、可視域以下にあるために呈色しなかった。
また、上記混合試料を87.1wt%、TMPTA(trimethylolpropane triacrylate、アルドリッチ(Aldrich)社製)を5.4wt%、RM257を7.1wt%、DMPA(2,2-dimethoxy-2-phenyl-acetophenone)を0.4wt%を混合し、コレステリック−コレステリックブルー相転移温度近傍においてコレステリックブルー相に保ちながら紫外線を照射して、光反応性モノマーを重合した試料を作成した。この試料がコレステリックブルー相を示す温度範囲は、上記混合試料よりも広がった。
その他の例としては、下記の構造式(24)〜(28)からなる各化合物を、各構造式の右に示した割合(すなわち、構造式(24)〜(28)で示した化合物を、それぞれ17.5wt%,17.5wt%,17.5wt%,17.5wt%,30wt%)で混合した試料は、約20℃以下で等方相からブルー相に相転移するが、螺旋ピッチが可視域以下にあるために呈色しなかった。なお、この混合系では、下記構造式(28)に示すように、カイラル剤を30wt%混合した。
上述のように、本発明に適したコレステリックブルー相は光学波長未満の欠陥秩序を有している。欠陥構造は隣り合う分子が大きく捩れていることに起因していているので、コレステリックブルー相を示す媒質は大きなねじれ構造を発現させるためにカイラル性を示す必要がある。大きな捩れ構造を発現させるためには、例えば上記媒質例のように媒質にカイラル剤を加えることが好ましい。カイラル剤の濃度としてはカイラル剤の持つ捩れ力にもよるが8wt%または4mol%以上であることが好ましい。高分子ネットワーク(光反応性モノマーを光重合)によりコレステリックブルー相を示す温度範囲の拡大を図る場合、媒質に占しめるカイラル剤の割合が8wt%または4mol%以上であれば、コレステリックブルー相の温度範囲が約1℃以上になった。カイラル剤の割合が8wt%または4mol%未満の場合は、コレステリックブルー相の温度範囲が狭くなり光重合の際の温度調節が困難だった。
また、カイラル剤の濃度が11.5wt%以上であることが、さらに好ましい。カイラル剤の濃度が11.5wt%加えた場合、螺旋ピッチが約220nmになり呈色しなかった。
また、カイラル剤の濃度は、15wt%以上であることがより好ましい。バナナ型(屈曲型)液晶や反傾構造をもつ直線状液晶を添加することによりコレステリックブルー相を発現させる場合、カイラル剤の濃度が15wt%以上であれば、コレステリックブルー相の温度範囲が約1℃になった。また、カイラル剤の濃度を17.9wt%に増やすことにより、コレステリックブルー相の温度範囲はさらに広がった。
また、カイラル剤の濃度は、30wt%以上であることがより好ましい。上記構造式(24)〜(28)で示される各化合物を、各構造式の右に示した割合で混合した場合(構造式(28)で示したカイラル剤の濃度が30wt%のとき)、コレステリックブルー相は螺旋ピッチが可視域以下にあるために呈色しなかった。これは、カイラル剤を多く含むことにより、螺旋ピッチが短くなったためであると考えられる。
コレステリックブルー相では、その螺旋ピッチを反映した色に呈色するため、フルカラー表示を実現してテレビなどに応用する場合、その反射ピークが可視域にあるのは好ましくない。また、カイラル剤の濃度を30wt%から減少させたところ、コレステリックブルー相の温度範囲は狭くなった。
ただし、カイラル剤の添加量が多くなり過ぎると、物質層3全体の液晶性が低下するという問題が生じる。液晶性の欠如は、電界印加時における光学的異方性の発生度合いの低下に繋がり、表示素子としての機能の低下を招く。また、液晶性が低下することにより、コレステリックブルー相の安定性の低下に繋がり、コレステリックブルー相の温度範囲の拡大が見込めなくなる。以上の理由から、カイラル剤の添加濃度の上限値が決まり、本願本発明者等の解析によれば、その上限濃度は80wt%であることがわかった。すなわち、カイラル剤の濃度は80wt%以下であることが好ましい。
また、本実施の形態では、カイラル剤としてはZLI−4572やMLC−6248を用いたが、これに限るものではない。一例として、S811(E.Merck社製)など市販品を用いてもよい。また、軸不斉のカイラル剤を用いても良い。軸不斉のカイラル剤としては、例えば、軸不斉ビナフチル誘導体(下記化合物(29)参照)を用いることができる。
ここで、nは4〜14の整数である。
なお、この化合物(29)はnが奇数の時に単独でブルー相を示すことがある。例えば、n=7の場合には約103℃から約94℃の範囲でブルー相を示す。また、n=9及びn=11でもブルー相を示す(ただし、n=9及びn=11の場合、n=7の時に比べてブルー相の温度範囲は狭くなった)。したがって、この化合物(29)が単独でブルー相を示す(液晶性がある)場合には、物質層3に封入する媒質として、この化合物(29)を単独で用いても良い。また、化合物(29)をカイラル剤として用いても良い。
このように、カイラル剤の濃度が高いとコレステリックブルー相を発現しやすくなり、さらにコレステリックブルー相が持つ螺旋ピッチも短くなるので好ましい。
なお、上記の説明では、コレステリックブルー相におけるカイラル剤添加による効果を述べてきたが、カイラル剤添加による効果はコレステリックブルー相に限定されるものではなく、スメクチックブルー相やネマチック相等の液晶相等の媒質においても、略同様の効果を得ることができる。
カイラル剤を添加することにより、カイラル剤の持つ捩れ力(Helical twist power)を効果的に作用させて、分子間に近接距離の相互作用(short-range-order)を及ぼすことができる。つまり、電界無印加時には光学的等方性を有する媒質に、電界印加によって媒質中の分子を小集団(クラスター)として応答させることができる。これにより、本来、非常に狭い温度範囲でしか光学的異方性が発現できない媒質でも、カイラル剤を添加することにより、光学的異方性が発現する温度範囲を拡大させることができる。
また、カイラル剤が添加された媒質では、カイラル剤の自発的捩れ方向に起因した一方向の捩れによって、入射した光に旋光性が生じるので、効率よく光を取り出すことが可能となる。
〔媒質例8〕
物質層3に封入する媒質として、スメクチックブルー(BPSm)相を示す分子からなる媒質を適用できる。
スメクチックブルー相は、コレステリックブルー相と同様、高い対称性の構造を有している。また、光学波長未満の秩序(秩序構造、配向秩序)を有しているので、光学波長領域では概ね透明な物質であり、電界印加によって配向秩序の程度が変化して光学的異方性が発現する(光学的異方性の程度が変化する)。すなわち、スメクチックブルー相は、おおむね光学的に等方性を示し、電界印加によって液晶分子が電界方向に向こうとするために格子が歪み、異方性を発現する。よって、スメクチックブルー相を示す分子からなる媒質を、本表示素子の物質層3に封入する媒質として適用できる。
なお、スメクチックブルー相を示す物質としては、例えば、非特許文献8に記載されているFH/FH/HH−14BTMHCがある。この物質は、74.4℃〜73.2℃でBPSm3相、73.2℃〜72.3℃でBPSm2相、72.3℃〜72.1℃でBPSm1相を示す。
また、スメクチックブルー相を示す媒質を用いる場合には、コレステリックブルー相を示す媒質を用いる場合と同様、ブルー相の選択反射波長域または螺旋ピッチは400nm以下であることが好ましく、380nm以下であることがより好ましい。さらに、螺旋ピッチは253nm以下であることが好ましく、240nm以下であることがより好ましい。
また、本表示素子の物質層3に用いる媒質としては、光学波長未満の秩序構造(配向秩序)を有していて、電界印加により光学的異方性の程度が変化する媒質であればよく、スメクチックブルー相やコレステリックブルー相に類似した相を持つ物質でもよい。
スメクチックブルー相やコレステリックブルー相に類似した相を示す物質としては、例えば下記の化合物(30)および(31)の混合物があげられる。
ここで、Lは2〜10のいずれかの整数を表し、mは2〜14のいずれかの整数を表し、nは0〜6のいずれかの整数を表す。
なお、化合物(30)と化合物(31)とを混合する場合には、2×(n+1)=mの関係を満たすように混合することが好ましい。また、化合物(30)と化合物(31)との混合割合は、適宜設定すればよい。例えばL=6、m=6、n=2の場合、化合物(30)と化合物(31)とを等量混合すると、スメクチックブルー相に類似した相(光学波長未満の秩序構造(配向秩序)を有する相)を約143℃から約130℃の範囲で示す。また、L=6、m=6、n=2の場合に、化合物(30)を30%、化合物(31)を70%の割合で混合したときには、約132℃から約120℃の範囲で光学波長未満の秩序構造(配向秩序)を有する相を示す。
また、誘電性物質(物質層3に封入する媒質)のネマティック相状態における、550nmでの屈折率異方性をΔnとし、1kHzでの誘電率異方性をΔεとすると、Δn×Δεが2.6以上であることが好ましい。
ここで、屈折率異方性(Δn)は、電界印加時の楕円(屈折率楕円体)の主軸方向(すなわち、光波の偏光の成分方向)の屈折率(異常光屈折率)をne、上記楕円の主軸方向に垂直な方向の屈折率(常光屈折率)をnoとすると、Δn=ne−noで表される。すなわち、本発明において、上記屈折率異方性(Δn)は、Δn=ne−no(ne:異常光屈折率、no:常光屈折率)で示される複屈折変化を示す。
また、誘電率異方性(誘電率変化)(Δε)は、誘電率の異方性を示し、液晶分子の長軸方向における誘電率をεe、液晶分子の短軸方向における誘電率をεoとすると、Δε=εe−εoで表される値である。
次に、物質層3に上記媒質例5の液晶微粒子分散系を封入した本表示素子について行った、駆動電圧の測定結果について説明する。
溶媒としては上記化合物(2)を用いた。この誘電性物質(液晶微粒子分散系)のΔn×Δεは約2.2であった。また、物質層3の厚みを10μm、櫛型電極4・5の電極間距離を3.3μmで形成した。なお、上記屈折率異方性Δnは、アッベ屈折計(アタゴ製「4T(商品名)」)を使用し、波長550nmにて測定した。また、上記誘電率異方性Δεは、インピーダンスアナライザー(東陽テクニカ社製「SI1260(商品名)」)を使用し、周波数1kHzにて測定した。
このように形成した本表示素子について、駆動電圧を変化させながら透過率を測定したところ、透過率が最大となる駆動電圧は約26Vであった(図16参照)。
ところで、非特許文献4によると、電界印加により発生する複屈折△n(E)は、
△n(E)=λBE2
で記述できる。ここで、λは光の波長、Bはカー定数、Eは印加電界強度である。
また、複屈折が変化することにより透過率Tは下式のように変化する。
T=sin2(π×Δn(E)×d/λ)=sin2(πBE2d)
ここで、dは物質層3の厚さである。
したがって、上式より、透過率が最大になるのは、πBE2d=π/2
の場合である。
また、上式よりΔB=Δn(E)/λE2=ΔnQ(E)/λE2
である。ここで、Q(E)は配向秩序パラメータである。
また、非特許文献4によると、Q∝Δε×E2である。
よって、透過率が最大となる駆動電圧Vは、櫛型電極4・5の電極間距離をSとすると、
V=ES=S×sqrt(1/(2×B×d))∝S×sqrt(1/(Δn×Δε)×d)
になる。
以上の結果をもとに、上記誘電性物質を本表示素子に封入して測定した電圧−透過率特性、及び、上記駆動電圧とΔn×Δεの関係式から見積もった、透過率が最大となる電圧値(V(V))と、Δn×Δεとの関係を図16に示す。
図16に示すように、屈折率異方性Δnと誘電率異方性Δεとの積(Δn×Δε)が2.6以上の誘電率物質を使用し、物質層3の厚みを10μm、櫛型電極4・5の電極間距離を3.3μmとした場合、透過率が最大となる駆動電圧は24Vになる。
本表示素子をアクティブマトリクス駆動の表示装置に適用する場合には、櫛歯電極4・5に印加する電界のON/OFFを切り替えるスイッチング素子(TFT素子)を用いる。スイッチング素子(TFT素子)のゲート電極の膜厚と膜質とを最適化した場合に、ゲート電極に印加することが可能な耐圧(電圧)を測定したところ、最大で63Vであった。したがって、この耐圧からゲート電極の電位がHigh(すなわち、ゲート電極ON)のときの電圧10Vおよびゲート電極の電位がLow(すなわち、ゲート電極OFF)のときの電圧−5V分を差し引いた48Vpp(63−10−5=48Vpp(peak-to-peak))が、物質層3に印加することができる最大限の電圧値である。この電圧値は、実効値(rms:root-mean-square)で言えば±24Vになる。
したがって、物質層3の厚みを10μm、櫛型電極4・5の電極間距離を3.3μmとする場合には、屈折率異方性Δnと誘電率異方性Δεとの積(Δn×Δε)が2.6以上の誘電率物質を使用することにより、スイッチング素子の耐圧範囲内で、透過率を最大とすることができる。
なお、Δn×Δεが2.6以上の誘電率物質としては、例えば、化合物(32)があげられる。
ここで、Rはアルキル基を表す。化合物(32)は、Δεが約25、Δnが約0.15であり、Δn×Δε=3.75になる。
また、櫛歯電極構造の本表示素子において、さらに透過率が最大となる駆動電圧を下げるためには、櫛歯電極間隔を狭くすることが考えられるが、製造上の精度やプロセスマージン、プロセスコスト等の制限から、櫛歯電極間隔を狭くすることには限界がある。
また、櫛歯電極構造の本表示素子において、さらに駆動電圧を下げるためには、物質層3の厚さをさらに厚くすることも考えられる。しかしながら、物質層の厚さを単純に厚くしても、電界が印加される厚みは、必ずしも物質層の厚さの増加分だけ増えるわけではない。このため、物質層3の厚みを10μmから、さらに厚くしても駆動電圧の低減には効果的ではない。
また、本実施の形態に記載した媒質例1〜8のうち、負の誘電異方性を有する媒質については、実施の形態1および2、後述する実施の形態4の表示素子に適用することができる。
また、本実施の形態に係る表示素子は、基板面平行方向に電界を印加する構成(横電界)、物質層3に封入する媒質としてポジ型液晶を用いる構成(ポジ型液晶)、両基板に備えられる配向膜のラビング方向を平行とする構成(パラレルラビング)、物質層3に配向補助材を形成して分子の配向を補助する構成(ポリマー固定)を基本構成とするものである、と表現することもできる。
また、上記した各媒質例に限らず、秩序構造のサイズが大きく、本願発明に適用しにくそうな媒質であっても、配向補助材によって微細ドメインに強制的に固定化することにより、本願表示素子に適用できる。例えば、上記したような高分子ネットワーク、ゲル化剤、微小細孔フィルムなどからなる配向補助材(微細構造)を媒質中に形成しておけば、ネマチック相やコレステリック相であっても、ほぼ光学的に等方的な状態を作り出すことができる。
高分子ネットワークとしては、例えば、5CBにアクリレートモノマーを混入させておき、等方相において紫外線を照射することによって等方相中に形成される、微細な高分子ネットワークを用いることができる。このように高分子ネットワークを形成した後、温度を低下させてネマチック相を析出させると、微細な高分子ネットワークにより配向欠陥だらけとなる。すなわち、高分子ネットワークが光学波長未満のスケールで形成されていれば、通常の一軸配向したネマチック配向とはならず、光学的に等方なネマチック相を得ることができる。また、完全な光学的等方相が得られず、わずかに光が散乱する場合には、あらかじめカイラル剤を混入させておいてもよい。これにより、上記高分子ネットワーク内に形成される微細ドメイン内にねじれ構造を誘起することができるため、微細ドメインの光学的異方性を低減することができる。その結果、光の散乱を抑制できる。
〔実施の形態4〕
本発明の他の実施の形態について図に基づいて説明する。なお、説明の便宜上、実施の形態1にかかる表示素子と同様の構成および機能を有する部材については、同じ符号を付し、その説明を省略する。
本実施の形態にかかる表示素子は、実施の形態1にかかる表示素子において、物質層3に封入する媒質を変更するとともに、この媒質にカイラル剤を添加したものである。図17は、本実施形態にかかる表示素子10の断面図である。なお、この図では、配向補助材11を省略している。
なお、本実施の形態では、配向膜8および9として、JSR(株)製の水平配向膜であるJALS-1048(ポリイミド)を用いた。また、本実施の形態にかかる表示素子における両基板間の間隔、すなわち、物質層3の厚さは1.3μmとした。
物質層3は、ネガ型液晶混合物からなる媒質を含んでいる。なお、このネガ型液晶混合物を構成する1液晶分子12の配向状態を図17に模式的に示している。このネガ型液晶混合物は、例えば下記の液晶材料(33)および(34)の混合化合物等で実現することができる。
このネガ型液晶材料のネマチック相状態での屈折率異方性Δnは0.14、誘電率異方性Δεは−14、ネマチック−アイソトロピック相転移温度(Tni)は62℃である。
また、本実施の形態では、上記液晶材料にカイラル剤が添加されている。なお、カイラル剤は、捩れ力(ヘリカルツイストパワー)により液晶性物質を構成する液晶分子同士を結び付けて、液晶分子が配列している平面毎に分子長軸の角度がずれるツイスト(らせん)構造を有する、コレステリック相を形成するものである。本実施の形態では、カイラル剤として、以下の構造式(35)に示すカイラル剤S811(E.Merck社)を用いた。
なお、カイラル剤S811と上記ネガ型液晶材料との混合物(カイラル剤添加液晶材料)は、カイラル剤S811の重量%濃度cが30wt%となるように調整した。ここで、このカイラル剤S811と上記ネガ型液晶材料との混合物における、ネマチック−アイソトロピック相転移温度(Tni)を測定したところ、38℃であった。上記ネガ型液晶材料のみでは62℃であったので、カイラル剤を添加することで凝固点降下のような現象が起こって相転移温度が低下したと考えられる。この場合、物質層3内において、Tni温度(38℃)以下ではコレステリック液晶相(カイラルネマチック液晶相)となっている。また、上記のカイラル剤添加液晶材料の自発的捩れ量(ナチュラルカイラルピッチ)pを、カイラル剤添加液晶材料を楔型セルに注入して外挿によって見積もったところ、p=0.59μmであり、可視光波長程度であることが確認された。ここで、カイラル(螺旋)ピッチpとカイラル濃度cとは下記の式1で関係づけられていることが一般的に知られている。
p=1/Ac (式1)
Aは比例定数であり、HTP(Helical twist power)というカイラル剤の捩れ力を示す指標である。つまり、カイラル添加濃度が増える程、カイラル(螺旋)ピッチは短くなることが分かる。また、Aの値はカイラル剤によって異なる材料固有のものであるとともに、混合する相手の液晶材料(ホスト液晶材料)によっても異なる。
そして、本実施の形態にかかる表示素子10を外部加温装置(図示せず)によりTni直上の温度、ここでは、T=Tni+0.1Kに保って基板法線方向の電界(縦方向電界)を印加した。上記のように物質層3にはネガ型液晶材料とカイラル剤が添加されていることと、上記基板界面に水平配向膜が備えられていることにより、表示素子10における液晶分子は、電界印加時には、図17に示すように、右捩れあるいは左捩れの一方向の掌性を有するツイスト構造をなすクラスター(分子の小集団)が比較的低い電圧で発生した。また、クラスターのサイズはカイラル(螺旋)ピッチ程度であることが分かった。
上記のように本実施の形態にかかる表示素子10において、比較的低い電圧で一方向の掌性を有するツイスト構造が発現した原因として、表示素子10では基板界面に水平配向膜を予め設けていたことが考えられる。図18に模式的に示すように、電界無印加時には物質層3はバルクとしては光学的等方性を呈しているが、基板界面の分子は水平配向膜8,9の配向規制力に従って基板面内方向に配向、あるいは、吸着している。この界面の分子層はセル厚と比べると非常に薄い層であって、セルの光学特性には全く影響を与えない。そして、電界を印加すると、同図に示したように、界面に配向・吸着していた分子層がきっかけとなってより効果的にセル内部の分子も基板面内方向に配向すると同時に、カイラル剤の掌性の影響を受けてツイスト構造が発現する。この結果、比較的低い電圧で本表示素子では光学的異方性が発現する。
本実施形態の表示素子では縦方向電界(基板法線方向電界)を印加する平板透明電極を用いた構成が前提であるが、横方向電界を印加する櫛歯状電極構成(Inter-digital electrode structure)でも、カイラル剤を添加しない場合に比べて低駆動電圧が可能である。なお、この場合、本実施の形態にかかる表示素子10のように基板法線方向電界を印加したセルとは駆動電圧、光学的異方性が発現する閾値電圧は同一にはならないが、カイラル剤を添加しない場合との大小関係や定性的な関係は維持されていることが本発明者らの検討によって明らかになった。
また、カイラル剤を添加しない以外は、本実施形態にかかる表示素子10と同様に形成した比較用表示素子では、表示素子の温度と閾値(最大透過率の5%に到達する電圧)とを測定したところ、閾値が温度変化に対してフラットになる温度領域は全く存在しなかった。一方、本実施の形態にかかる表示素子10では相転移点から上、0.5K程度の温度領域では閾値がほぼフラットであった。つまり、本実施の形態にかかる表示素子10では、カイラル剤を30wt%と大量に添加することで温度領域の拡大が実現できており、カイラル剤の多量添加で、電界無印加時に光学的等方性を示している媒質中に電界印加で効果的に光学的異方性を発現させることができている。
このことは、カイラル剤の添加は光学的等方性媒質中に電界印加でカイラル剤の捩れ力が及ぶことのできる領域(クラスター)が形成されていることを暗に示しており、このクラスターは温度上昇に対して比較的安定に存在していて、より広い温度範囲で光学的異方性を発現できることに繋がっていると考えられる。
また、この閾値のフラットな温度範囲は、カイラル剤の添加量を増やすとさらに広がることも確認された。温度範囲を広げるためのカイラル添加濃度の下限が30wt%であることが分かった。また、例えば、非特許文献13よると、カイラル剤を多量に添加した液晶材料ではコレステリックブルー相を呈することがあることが記載されている。
図19(a)および図19(b)は、コレステリックブルー相を説明するための説明図であり、図19(a)はカイラルピッチpおよび温度に対する相状態の変化を示すグラフであり、図19(b)はコレステリックブルー相において形成されるDouble Twist Cylinder(DTC)構造を示す説明図である。
図19(a)に示すように、コレステリックブルー相はアイソトロピック相(等方相)とコレステリック相との間の相として発現する。この発現にはカイラル剤が大きく関与しており、アイソトロピック相を示す状態から、カイラルピッチpが小さくなって、ある臨界ピッチ以下になるとコレステリックブルー相が発現する。
ブルー相に関しては学術的にも盛んに解析されてはいるが、依然として未知の部分も多い。また、コレステリックブルー相の中にもさらにいくつかの相が存在すると言われている。それらは低温側からBPI、BPII、BPIIIと呼ばれている。コレステリックブルー相においてはカイラル剤の近接的な捩れ力によって、その捩れ力が及ぶ領域内ではDouble Twist Cylinder(DTC)構造という、筒のような構造を有している(図19(b)参照)。この筒状構造はカイラル剤の捩れ力と、液晶分子の連続的に配向を繋げようとする連続弾性的性質との拮抗によって生じるものである。この筒状構造の外側は、カイラル剤の捩れ力が及ばない領域であり、その中には配向欠陥(ディスクリネーション、Disclination)が存在する。また、この筒状構造はブルー相において体心立方構造(図15中央のディスクリネーションの位置を示す図を参照)や面心立方構造等の3次元周期構造を有していることもX線解析等によって明らかにされている。
本実施の形態の表示素子10では相構造の詳しい解析までは実施していないが、上記文献中に記述されているようなコレステリックブルー相を呈していることも考えられる。このブルー相はある温度範囲において示す相であって、その温度範囲内においては一定の光学特性(例えば閾値が一定であることや最大透過率に到達する電圧が一定であること等)を示すことが予想される。本発明の表示素子は、上記したような光学特性が広い温度範囲で得られればよく、そのような光学特性の起源がコレステリックブルー相であっても全く構わない。つまり、物質層3に封入されている媒質はコレステリックブルー相でも、上述のスメクチック相で示すスメクチックブルー相であってもよい。また、上記の光学特性は、先に述べたようなカイラル剤多量添加がもたらすクラスター形成に起因するものであってもよい。
上記の結果から、本実施の形態にかかる表示素子10では、低電圧で駆動可能であるとともに、光の利用効率も高くて明るい表示が実現できる。また、本実施の形態にかかる表示素子10、すなわち、カイラル剤S811と上記ネガ型液晶材料との組み合わせからなる媒質を用いる場合、カイラル剤の添加濃度は少なくとも30wt%以上であれば、低電圧駆動が可能であり、光の利用効率が高く、明るい表示を実現できる。これは、本実施の形態にかかる表示素子10の場合、カイラル剤の添加濃度を30wt%以上とすることで、カイラルピッチが少なくとも可視光波長か、それ以下となるためである。したがって、本実施の形態で用いたカイラル剤S811と上記ネガ型液晶材料との組み合わせでは、カイラル剤の添加濃度は30wt%以上が好ましいという結果が得られたが、より重要なことは、最終的なカイラル剤添加液晶としてのカイラル(螺旋)ピッチが可視光波長領域か、もしくはそれ以下の範囲であることである。このような構成にすることで、カイラル剤S811と上記ネガ型液晶材料との組み合わせ以外の媒質を用いる場合でも、本実施の形態のように、駆動電圧が低く、かつ、光の利用効率に優れた表示素子が実現できる。
次に、本実施の形態にかかる表示素子10で光が取り出せている理由について本発明者らは考察を行った。本実施の形態にかかる表示素子10における媒質として用いているような、カイラル剤を多量に添加した液晶材料等は一般的に光学活性物質と呼ばれている(例えば、非特許文献14参照)。
図20は、光学活性のメカニズムを模式的に示した説明図である。この図に示すように、直線偏光を入射させる場合を考える。直線偏光は位相、振幅の揃った左右円偏光に分解することができる。これが光学活性物質に入射すると、光学活性物質はそれ自体が固有に持つ結晶構造や捩れ(へリックス)構造のために、左右円偏光に対する屈折率が異なる。なお、図20では、簡単のために、右回り円偏光の屈折率をn+、左回り円偏光の屈折率をn−で示した。すると、光学活性物質から出射する時には、n+とn−の屈折率の差、光学活性物質の厚みd等で決まる量だけ、左右円偏光の位相が互いにずれることとなる。そして、この出射時の左右円偏光を合成すると、ちょうど、入射時の直線偏光の偏光方位と比べて、ある角度分だけ偏光方位が回転した直線偏光となる。その結果、本実施の形態にかかる表示素子10のように上下偏光板6,7を直交配置(クロスニコル配置)にしておくと、光が透過してくることとなる。本実施の形態にかかる表示素子10では、上記のようなメカニズムにより、光を取り出せることが本発明者らによって分かった。なお、光学活性物質としては、例えば、ショ糖やショウノウの溶液、光軸に垂直に切った水晶の平行平面板、キレート型金属錯化合物、不整炭素を持つ有機化合物、へリックス構造を持つ生体高分子、コレステリック液晶、ロッシェル塩、セレンやテルル等の螺旋構造を持つ結晶、酒石酸、ブドウ糖溶液等がある。
また、本実施の形態にかかる表示素子10の物質層3では、上記のネガ型液晶性混合物に加えて、光重合性モノマー(重合性化合物)と重合開始材を適量、予め添加しておき、液晶性混合物がネマチック相状態において紫外線(UV)を照射してセル内に高分子鎖(配向補助材)11を形成している。
この場合、液晶性混合物はネマチック相を呈している状態で照射を行うため、配向膜8,9界面の配向方向に沿って液晶分子がセル内部までカイラル剤の捩れ方向に従って、一様捩れ配向した状態のまま、固定化されることになる。つまり、高分子鎖11は、捩れ配向している液晶分子をあるサイズで囲い込むような形で3次元的壁状に形成される。ここで、高分子鎖11に囲まれる領域(カプセル)のサイズは光重合性モノマーの添加量やUV光の照射エネルギー等で決まるものであるが、高分子の屈折率と液晶分子の屈折率とのミスマッチから生じる光散乱によるコントラスト低下を防ぐためには、カプセルのサイズは可視光波長以下であることが好ましい。
このように、例えば、ネマチック相によって物質層3に封入する媒質の配向状態の固定化を施したものを、本実施の形態にかかる表示素子10の駆動温度領域である、ネマチック−アイソトロピック相転移温度(Tni点)の上の等方相に加温すると、おのおののカプセル中の液晶は光学的等方相へと相転移する。このような固定化を施していない表示素子では等方相液晶に電界を印加した際に光学的異方性が発現する温度範囲は非常に狭い(例えば1K程度)。しかし、本実施形態にかかる表示素子10のように高分子でカプセル化やネットワーク化を施したものは高分子の壁の効果(高分子壁のアンカリング効果)を液晶分子が等方相を示す状態でも有効に作用させることができるので、温度範囲の拡大が可能となる。したがって、広い温度範囲で駆動可能な表示素子を実現できる。
なお、上記のように、物質層3に封入する媒質の配向状態の固定化する配向補助材(固定化補助材)としては、実施の形態1〜3に記載した各配向補助材を用いることができる。また、本実施の形態にかかる表示素子10の製造方法は、実施の形態1に記載した方法と略同様の方法を適用できる。
また、本実施の形態にかかる表示素子10に封入する媒質は、上記した例に限るものではない。
また、カイラル剤の添加濃度が30wt%以上の他の例として、下記構造式(36)に示すBDH社のネマチック液晶E8
に、下記構造式(37)に示すカイラル剤CB15
を42.5wt%の濃度で添加した材料系を用いてもよい。この材料系のカイラルピッチは0.53μm、すなわち可視光波長範囲内であり、また、コレステリックブルー相を示す。
また、上記の説明では主に、一方向の掌性を示す媒質を用意するにあたり、ホストとなる液晶材料にカイラル性物質(カイラル剤)を添加する系について述べてきたが、これに限定されるものではない。例えば、その媒質自身がカイラル性を有するもの(カイラル物質)を用いてもよい。また、バナナ型(屈曲型)液晶のように不斉炭素原子を持たないが(分子自体はカイラル性を持たないが)、分子形状の異方性とパッキング構造により系としてカイラル性が発生する分子を含む媒質を用いてもよい。このようなバナナ型(屈曲型)液晶としては例えば、下記の構造式(11)に示すP8PIMBが挙げられる。
また、上記P8PIMB以外のバナナ型(屈曲型)液晶を用いてもよい。例えば、屈曲部はフェニレン基などのベンゼン環だけではなく、ナフタレン環やメチレン鎖で結合してもよい。例えば、下記構造式(12)〜(15)に示す化合物などを用いてもよい。
また、アゾ基が含まれているバナナ型(屈曲型)液晶を用いてもよい。このようなバナナ型(屈曲型)液晶としては、例えば、下記構造式(16)の化合物などが挙げられる。
また、上記した各バナナ型(屈曲型)液晶は結合部(屈曲部)の左右で対称的な化学構造を持っているが、結合部の左右で非対称な化学構造を持っていても良い。そのようなバナナ型(屈曲型)液晶としては、例えば、下記構造式(17)の化合物などが挙げられる。
また、上記バナナ型(屈曲型)液晶分子はカイラル炭素を含んでいないが、必ずしもこれに限定されるものではなく、カイラル炭素を1つ、あるいは複数含んでいても良い。そのようなバナナ型(屈曲型)液晶としては、例えば、下記構造式(18)の化合物などが挙げられる。
また、本実施形態にかかる表示素子は、基板面法線方向に電界を印加する構成(縦電界印加構成)、物質層3に封入する媒質としてカイラル剤を添加したネガ型液晶を用いる構成、両基板面には配向膜を配置しておく構成、物質層3に配向補助材を形成して電界印加時の分子配向を補助する構成、もしくは、物質層3を小領域に閉じ込めておく構成を基本構成とするものである、と表現することもできる。
あるいは、本実施形態にかかる表示素子は、基板面法線方向に電界を印加する構成(縦電界印加構成)、物質層3に封入する媒質として、カイラル性物質を添加したネガ型液晶を用いる構成と表現することもできる。
〔実施の形態5〕
本発明の他の実施の形態について図に基づいて説明する。なお、説明の便宜上、上記各実施の形態にかかる表示素子と同様の構成および機能を有する部材については、同じ符号を付し、その説明を省略する。
本実施の形態にかかる表示素子は、実施の形態3にかかる表示素子30において、物質層3に封入する媒質、および、基板1と基板2との間隔を変更したものである。
すなわち、本実施の形態にかかる表示素子では、物質層3に封入する媒質を、透明な誘電性物質である4’-n-alkoxy-3’-nitrobiphenyl-4-carboxylic acids (ANBC−22)に有機系微粒子を0.05wt%以上0.1wt%以下の濃度で加えた物質とした。ANBC−22の化学構造式(21)を下記に示す。なお、化学構造式(21)においてn=22である。
また、基板1および2にはガラス基板を用い、両基板間の間隔は、ビーズをあらかじめ散布しておくことにより、4μmになるように調整した。すなわち、物質層3の厚さを4μmとした。
櫛形電極4a・5aは、ITOからなる透明電極とした。また、両基板の内側(対向面)には、ラビング処理を施したポリイミドからなる配向膜を形成した。ラビング方向は、実施の形態3において図14に示したラビング方向と同様である。なお、ラビング方向はこれに限るものではないが、物質層3に封入した媒質がスメクチックC相を示しているときに、明状態となる方向が望ましく、典型的には偏光板軸方向と45度の角度をなしていることが望ましい。なお、基板1側の配向膜については、櫛形電極4a・5aを覆うように形成した。
偏光板6・7は、図14に示したように、互いの吸収軸が直交するとともに、各偏光板における吸収軸と櫛形電極4a・5aにおける櫛歯部分の電極伸長方向とが約45度の角度をなすように、それぞれ基板1および2の外側(対向面の反対側)に設けた。
このようにして得られた表示素子は、スメクチックC相―キュービック相相転移温度よりも低温側の温度では、スメクチックC相となる。なお、スメクチックC相は、電界無印加状態において光学的異方性を示す。
そして、この表示素子を、外部加温装置によりスメクチックC相−キュービック相の相転移近傍の温度(上記相転移温度から、その低温側10K程度までの温度)に保ち、櫛形電極4a・5a間に電界印加(電圧50V程度の交流電場(周波数は0より大きく数百kHzまで))を行ったところ、透過率を変化させることができた。すなわち、電界無印加時に光学的異方性を示すスメクチックC相(明状態)に、電界を印加することにより、等方的なキュービック相(暗状態)に変化させることができた。すなわち、この表示素子は、電界無印加時に光学的異方性を示し、電界を印加することによって光学的等方性を示す。なお、このとき、屈折率楕円体は楕円から球状に変化する。
また、各偏光板の吸収軸と櫛形電極がなす角度は45度に限らず、0〜90度のあらゆる角度で表示を行うことができた。これは、明状態を電界無印加時に実現しているため、すなわち、明状態を、両配向膜に施したラビング方向と両偏向板の偏光板吸収軸方向の関係だけで達成しているためである。
また、この表示素子では、暗状態は電界印加による媒質の光学的等方相への電界誘起相転移で実現している。そのため、各偏光板吸収軸は、互いに直交してさえいればよく、各偏光板吸収軸と各櫛形電極の方向との関係は表示に寄与しない。
したがって、配向処理(ラビング処理)は必ずしも必要ではなく、アモルファス配向状態(ランダム配向状態)でも表示を行うことができる。
また、基板1および2に、それぞれ電極を設け、基板面法線方向の電界を発生させても、基板1上に櫛形電極4a・5aを設ける場合と、ほぼ同様の結果が得られた。すなわち、電界方向を基板面水平方向ではなく、基板面法線方向とした場合にも、ほぼ同様な結果が得られた。
このように、物質層3に封入する媒質として、電界無印加時に光学的異方性を有し、電界印加により光学的異方性が消失して光学的等方性を示す媒質を用いてもよい。
また、配向補助材によって物質層3内に多数の小領域(微細ドメイン)を形成することにより、物質層3に封入する媒質(上記混合物質からなる媒質)を構成する分子の、電界印加時における配向秩序構造を固定化してもよい。また、物質層3に封入する媒質に、例えば重合性モノマー(例えばアクリレート系モノマー等の光重合性モノマー)、あるいは、重合性モノマー及び重合開始剤を加えて、重合してもよい。つまり、電界印加時における光学的等方性の秩序構造を、重合性化合物(配向補助材)により安定化してもよい。また、電界印加時における光学的等方性の秩序構造を、微粒子、水素結合体、多孔質構造体などによって安定化してもよい。
また、本実施の形態では、物質層3に封入する媒質として、ANBC−22と有機系微粒子との混合物質を用いたが、これに限られるものではない。電界無印加時に光学的異方性を有し、電界印加により光学的異方性が消失して光学的等方性を示す媒質であれば、上記の混合物質を用いる場合と略同様の効果が得られる。また、物質層3に封入する媒質は、電界無印加時に光学的異方性を有し、電界印加により光学的異方性が消失して光学的等方性を示す媒質であれば、混合物質である必要はない。
また、本実施の形態にかかる表示素子において物質層3に用いられる媒質は、正の誘電異方性を有するものであっても、負の誘電異方性を有するものであってもよい。例えば、上記各実施の形態に記載した媒質のいずれかを用いてもよい。正の誘電率異方性を有する媒質を用いた場合には、基板に概ね平行な電界にて駆動する必要があるが、負の誘電異方性を有する媒質を適用した場合にはその限りではない。例えば、基板に斜めの電界によっても駆動可能であり、垂直な電界によっても駆動可能である。この場合には、対向する一対の基板(基板1および2)の双方に電極を備え、両基板に備えられた電極間に電界を印加することによって、物質層3に電界を印加することになる。
また、電界を基板面平行方向に印加する場合であっても、あるいは、基板面垂直方向または基板面に対して斜め方向に印加する場合であっても、電極の形状、材質、電極の数、および配置位置等は適宜変更すればよい。例えば、透明電極を用いて基板面に対して垂直に電界を印加すれば、開口率の点で有利である。
本発明の表示装置は、上記のいずれかに記載の表示素子を備えていることを特徴としている。したがって、表示のために必要な駆動電圧を低電圧化した表示装置を実現でき、かつ、温度範囲の広い表示装置を実現することが可能となる。
また、上記各実施の形態においては、上記媒質の光学的異方性の程度を変化させる手段として、主に、電界の印加を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、電界以外の外場を印加することにより、外場印加時と無印加時とで、光学的異方性の程度を変化させてもよい。すなわち、少なくとも一方が透明な一対の基板と、上記両基板間に挟持された物質層とを備え、上記物質層に外場(電界)を印加することによって表示を行う表示素子であって、上記物質層は、外場(電界)印加によって光学的異方性の程度が変化する媒質からなり、かつ、上記物質層には、配向補助材が形成されている構成であってもよい。これにより、駆動に必要な外場の強度が小さい表示素子を実現できる。
例えば、電界を印加する代わりに、磁場を印加するようにしてもよい。この場合、媒質の磁気異方性を用いることにより、磁場印加時と無印加時とで媒質の光学的異方性の程度を変化させることになる。このため、媒質としては、磁化率の異方性の大きいものが好ましい。
有機分子の場合、磁化率への寄与のほとんどは反磁性磁化率によるものなので、磁界の変化によってπ電子が分子内で環状に運動できる場合に、その絶対値が大きくなる。したがって、例えば分子内に芳香環がある場合に、磁界の方向に対して芳香環が垂直に向くような場合に磁化率の絶対値が大きくなる。この場合、芳香環の水平面方向の磁化率の絶対値は垂直方向に比べて小さいので、磁化率の異方性が大きくなる。よって、媒質は分子内に6員環などの環状構造があるものが好ましい。
また、磁化率の異方性を上げるには媒質内の電子スピンを配列させることも好ましい。分子内にNやOやNOのラジカルの電子スピンを導入することにより、分子が安定なスピンを持つことができる。スピンを平行に配列させるためには、例えば平面上の共役系分子を積み重ねることにより実現できる。例えば、中心のコア部分が積み重なりカラムを形成しているディスコチック液晶が好適である。
また、上記媒質の光学的異方性の程度を変化させるための外場として、光を用いることもできる。この場合、外場として用いる光の波長は特に限定されるものではないが、例えばNd:YAGレーザーで532nmの光を発振させて媒質に照射することにより、媒質の光学的異方性の程度を変化させることができる。
この場合に用いる媒質は、特に限定されるものではなく、光照射により光学的異方性の程度が変化する媒質であればよい。例えば、上記した電界を用いる場合の各媒質例と同様のものを用いることができる。一例として、上記したペンチルシアノビフェニル(5CB)を用いてもよい。
また、外場として光を用いる場合、媒質中に色素が少量含まれていることが好ましい。色素を少量添加することにより、色素を添加しない場合に比べて、光学的異方性の程度の変化が大きくなる。なお、媒質中における色素の含有量は0.01wt%以上、5%未満であることが好ましい。0.01%未満だと、色素の量が少ないために光学的異方性の程度の変化にほとんど寄与せず、5%以上だと励起光が色素に吸収されてしまうからである。
例えば、ペンチルシアノビフェニル(5CB)をそのまま媒質として用いてもよいが、この物質に色素を加えたものを媒質として用いてもよい。加える色素としては特に限定されるものではないが、色素の吸収帯が励起光の波長を含むものが好ましい。例えば、1AAQ(1-amino-anthroquinone、アルドリッチ(Aldrich)社製、下記化学構造式参照)を加えてもよい。
ペンチルシアノビフェニル(5CB)に、1AAQを0.03%加えることにより、光励起による光学的異方性の程度の変化は、1AAQを加える前に比べて10倍程度大きくなった。
また、上記表示素子において、上記光学的異方性を発生させる手段としては、上記したように、例えば電界、磁場、光等が挙げられるが、そのなかでも、電界が、上記表示素子の設計および駆動制御が容易であることから好ましい。
したがって、上記表示素子は、外場印加手段として、例えば、電極等の電界印加手段や、電磁石等の磁場印加手段等を備えていてもよく、上記外場印加手段としては、上記表示素子の設計および駆動制御の点から、電界印加手段であることが好ましい。
なお、本発明において、上記外場印加手段としては、外場の印加前後で上記媒質の光学的異方性の程度を変化させることができるものであれば特に限定されるものではなく、上記外場印加手段としては、電極等の電界印加手段や、電磁石等の磁場印加手段の他に、レーザ装置、例えば上記Nd:YAGレーザ等の光照射手段(励起光生成手段)等を用いることができる。
よって、本発明において、上記外場印加手段は、上記表示素子自身が備えていてもよく、上記表示素子とは別に設けられていてもよい。
つまり、本発明にかかる表示装置は、上記外場印加手段が設けられた表示素子を備えるものであってもよく、上記表示素子とは別に上記外場印加手段を備えているものであってもよい。言い換えれば、上記表示装置は、本発明にかかる上記表示素子と、該表示素子における媒質に外場を印加する外場印加手段とを備えている構成を有していてもよい。
また、上記各実施の形態において、物質層3に封入する媒質は、外場を印加することによって光学的異方性の程度が変化するものであればよい。したがって、本発明の表示素子では、光学的異方性の程度が変化する媒質として、例えば、外場を印加することによって秩序構造(配向秩序)が変化し、光学的異方性の程度が変化するものを用いることができる。
例えば、外場無印加時に光学的等方性を示し、外場を印加することによって光学的異方性を示す媒質を用いてもよい。つまり、外場無印加時に光学波長未満の秩序構造を有し、外場印加によって秩序構造が変化して光学的異方性の程度が変化する媒質を用いてもよい。この場合、屈折率楕円体の形状は、外場無印加時には球状であり、外場を印加することによって楕円に変化する。
また、外場無印加時に光学的異方性を示し、外場を印加することによって光学的等方性を示すものであってもよい。つまり、外場無印加時に光学的異方性を示す秩序構造を有し、外場印加によって秩序構造が変化して光学的等方性を示す媒質を用いてもよい。この場合、屈折率楕円体の形状は、外場無印加時には楕円であり、外場を印加することによって球状に変化する。
また、外場無印加時に光学的異方性を示し、外場を印加することによって、光学的異方性が発現している状態において、その光学的異方性の程度が変化する媒質を用いてもよい。つまり、外場無印加時に光学的異方性を示す秩序構造を有し、外場印加によって秩序構造が変化して光学的異方性の程度が変化する媒質を用いてもよい。この場合、屈折率楕円体の形状は、外場界印加前後で長軸および短軸の割合が変化する(なお、上記楕円としては、ほぼ球状であってもよい)。
このように、本発明の表示素子は、少なくとも一方が透明な一対の基板間に挟持された媒質に外場を印加することによって表示を行う表示素子であって、上記媒質は、外場を印加することによって秩序構造が変化して光学的異方性の程度が変化するものであってもよい。
なお、本発明において、外場の印加により媒質の光学異方性の程度が変化するとは、前記したように、外場の印加に伴って屈折率楕円体の形状が変化することを示す。例えば、上記したように外場無印加時に光学的等方性を示し、外場を印加することによって光学的異方性の程度が変化する場合、つまり、外場を印加することによって光学的異方性が発現する場合、屈折率楕円体の形状は、外場の印加により、球状から楕円に変化する。また、上記媒質が外場無印加時に光学的異方性を示し、外場印加時に光学的等方性を示す場合、屈折率楕円体の形状は、外場の印加により、楕円から球状に変化する。また、上記媒質が、外場無印加時に光学的異方性を示し、外場を印加することによって、外場印加前と比較して光学的異方性の程度が大きくなるか、あるいは、小さくなる場合、屈折率楕円体の長軸方向あるいは短軸方向の長さが外場の印加により伸縮し、外場印加前後で長軸および短軸の割合が変化する(この結果、例えば曲率が変化する)。これにより、例えば、外場印加後に光学的異方性の程度がより大きくなる場合、外場印加により、外場印加前(外場無印加時)よりも短軸方向の長さに対する長軸方向の長さの比率がより大きな楕円となる。また、外場印加後に光学的異方性の程度がより小さくなる場合、外場印加により、外場印加前(外場無印加時)よりも短軸方向の長さに対する長軸方向の長さの比率がより小さな楕円(つまり、上記比率が1に近づく(ほぼ球状も含む))となる。
この場合、液晶分子の配向方向の変化を利用する従来の液晶表示素子のように液晶固有の粘度が応答速度に大きく影響することがないので、従来の液晶表示素子よりも高速応答を実現できる。
また、この場合、上記媒質を、外場印加時または外場無印加時に所定の秩序構造を示す状態(外場を印加することによって秩序構造に歪みが生じ、光学的異方性の程度が変化する状態)となる温度に保つだけでよいので、温度制御を容易にすることができる。つまり、例えば上記した特許文献1に記載されているような、電界印加による有極性分子における電子の偏りを利用する従来の電気光学効果を利用した表示装置では、駆動温度範囲が液晶相の相転移点近傍の温度に制限され、極めて高精度な温度制御が必要であるという問題があった。これに対して、上記の構成によれば、上記媒質を、外場印加時または外場無印加時に所定の秩序構造を示す状態となる温度に保つだけでよいので、温度制御を容易にすることができる。
また、本発明の表示素子に用いられる媒質は、外場を印加することによって光学的異方性の程度が変化するものであればよく、必ずしもカー効果を示す媒質、すなわち電界の2乗に比例して屈折率が変化する媒質である必要はない。
本発明は上述した各実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施の形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施の形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。