〔実施形態1〕
本発明の一実施形態について図に基づいて説明する。本実施形態にかかる表示装置は、少なくとも一方が透明な一対の基板間に、電界の印加により屈折率が変化する液晶材料(液晶性物質)からなる媒質を挟持してなる表示素子と、この表示素子の駆動を行う駆動回路、表示素子に印加する電圧のON/OFFを行うスイッチング素子、このスイッチング素子を制御する信号を供給する信号線、表示素子に印加する電圧を供給する走査線などを備え、上記液晶材料が等方相(光学的等方性)を示す状態において電界を印加することにより、上記屈折率が電界の二次に比例して変化する二次の電気光学効果、すなわちカー効果を用いて光学的異方性を発現させ、表示を行う表示装置である。
図1(a)は、本実施形態に係る表示素子100の簡略構成を示す断面図であり、電圧無印加時の状態を示している。また、図1(b)は、電圧印加時における表示素子100の状態を示している。
この図に示すように、表示素子100は、対向する2枚の基板5および6、基板6における基板5との対向面に形成された電極4aおよび4b、基板6上に電極4a,4bを覆うように形成された配向膜3、基板5における基板6との対向面に形成された配向膜2、基板5および6(配向膜2−3間)に挟持されてなる誘電性物質層1、基板5,6における外側の面(両基板における対向面と反対側の面)に形成された偏光板(偏光素子)7,8からなる。なお、誘電性物質層1には、後述するポジ型の液晶材料(液晶性物質)Aが封入されている。
基板(透光性基板)5,6は、表示素子100に適度な強度を付与するものであり、可視光に対して透明なガラスからなる。
電極(ストライプ電極、櫛歯電極)4aおよび4bは、金属膜種としてクロムを用いられており、両電極4aおよび4bが、図1(a)における紙面垂直方向にストライプ状(縞状)に交互に並ぶように形成されている。より詳細には、電極4aおよび4bは、それぞれ、互いに平行な複数の櫛歯状の電極部を有し、電極4aにおける櫛歯状の各電極部と電極4bにおける櫛歯状の電極部とが、互いに平行となるように、交互に配置されている。なお、電極4aおよび4bにおける各電極部の電極幅(ストライプ状に並ぶ方向の幅)Lは9μm、電極間隔S(電極4aの各電極部とそれに隣接する電極4bの各電極部とのストライプ状に並ぶ方向の間隔)は10μm、誘電性物質層1の厚さ(セル厚d)は5μmとなっている。
配向膜2,3は、従来のネマティック液晶表示モードで広く用いられているポリイミドを用い、誘電性物質層1を両基板5−6間に封入する前に、予め図1(a)に示す方向にラビング処理が施されている。すなわち、基板6上に形成された配向膜3には図中左から右に向かってラビング処理が施され、ガラス基板上5に形成された配向膜2には、配向膜3に施したラビング方向とは反平行(平行かつ逆方向)のラビング処理を施されている。
図2は、偏光板7,8の吸収軸方向、配向膜2,3に施したラビング処理のラビング方向、電極4a−4b間に働く基板面内の電界方向を示している。この図に示すように、偏光板7および8は、クロスニコル(互いの吸収軸のなす角が90°)に配置されている。また、配向膜2,3に施したラビング方向と電界方向とは互いに平行であり、かつ、ラビング方向および電界方向と、偏光板7および8の吸収軸方向とのなす角度が45°となるように配置されている。したがって、誘電性物質層1が光学的等方性を示す場合には暗状態となり、誘電性物質層1が光学的異方性を示す場合には光が透過してくるので明状態となる。
誘電性物質層1には、図1(a)に示すように、液晶分子(ポジ型液晶分子)9からなる液晶材料A(詳細は後述する)が封入されている。また、この液晶材料Aには、チタン酸バリウム(BaTiO3)微粒子11が添加されている。
誘電性物質層1では、この図に示すように、チタン酸バリウム微粒子11が誘電性物質層1中にほぼ均一に分散しており、その周囲において液晶分子9がクラスター10を形成している。すなわち、チタン酸バリウム微粒子11の自発分極Psが周囲の液晶分子に影響を及ぼすことによって、この影響が及ぶ範囲である近距離秩序領域にクラスター10を形成している。
液晶材料Aには、ポジ型ネマティック液晶として一般的なPentyl cyano biphenyl(5CB)を用いた。Pentyl cyano biphenyl(5CB)の化学式を以下に示す。
この液晶材料A(5CB)は、Tni点が35.4℃、誘電率異方性Δεが+11.0(26℃,1kHz)、屈折率異方性Δnが0.1968(25℃,λ=509nm)である。ここで、Tniは、ネマティック相−アイソトロピック相転移温度である。また、誘電率異方性Δεは、液晶分子の長軸方向の誘電率と短軸方向の誘電率との差である。また、Δnは、液晶分子の長軸方向の屈折率と短軸方向の屈折率との差である。
このように、5CBは、Δεが正の値であるポジ型液晶であり、Δnが大きく、また、Tni点が35.4℃とチタン酸バリウムのTc=120℃より大幅に低い。このため、35.4℃から120℃の温度範囲で、液晶材料A(5CB)の等方相中においてチタン酸バリウムの自発分極Psの効果を作用させることができる。
チタン酸バリウム微粒子11の平均粒径は0.1μmであり、添加濃度0.5wt%(質量パーセント)で液晶材料Aに添加されている。
チタン酸バリウムは強誘電体として非常に一般的な物質であり、コンデンサー用途として広く使用されており、学術的にも最も詳細に解析されている強誘電体である。また、チタン酸バリウムは常温で約26μC/cm2という非常に大きい自発分極値を有している。また、キュリー温度Tc(強誘電相−常誘電相間の相転移温度)も120℃と、通常のネマティック液晶のネマティック−アイソトロピック相転移温度(液晶層−等方相転温度)Tniより高く、液晶材料の等方相において光学的等方性と光学的異方性とをスイッチングさせるという今回の目的に適している。また、チタン酸バリウムは、5℃〜120℃の温度範囲において結晶光学的に言うと[001]方向に自発分極Psが存在する正方晶(tetragonal)に属する(非特許文献4、5参照)。
誘電性物質層1に封入された液晶材料Aとチタン酸バリウム微粒子11との混合系は、室温(25℃)でネマティック液晶相を呈しており、35.9℃においてネマティック−アイソトロピック相転移を起こし、等方相(アイソトロピック相)に転移することを確認した。つまり、相系列、及び、相転移温度は、チタン酸バリウム微粒子11が添加されていない液晶材料Aが単独の系とほとんど変わらない。
先に詳述したように、チタン酸バリウム(BaTiO3)は非常に大きい自発分極Psを有している。このため、液晶材料Aとの混合系において、チタン酸バリウム微粒子11は、その周囲に存在する液晶分子9に電気的な影響を及ぼして該微粒子11に近接するある距離内で自発分極Psの方向に液晶分子9を配向させることができる。本明細書では、このチタン酸バリウム微粒子11の自発分極Psが周囲に存在する液晶分子9に電気的な影響を及ぼす近接距離内の領域をクラスターと称する。
図1(c)は、クラスター10内の様子を模式的に示した説明図である。点線10の内側はチタン酸バリウム微粒子11の自発分極Psが液晶分子9の配向方向に影響を及ぼす範囲であり、この範囲内の液晶分子9が自発分極Psの方向に平行な方向を向くことによって、クラスター10を形成している。
なお、図1(a)に示すように、電圧無印加時には、誘電性物質層1内においてクラスター10を形成する各チタン酸バリウム微粒子11の自発分極Psはランダムな方向を向いている。このため、電極4a−4b間に電圧を印加していない状態において、誘電性物質層1をマクロに見ると光学的に等方であり(光学的等方性を示し)、表示素子100における表示状態は暗(黒)状態となる。
一方、電極4a−4b間に電圧を印加すると、図1(b)に示すように、誘電性物質層1内においてクラスター10を形成する各チタン酸バリウム微粒子11の自発分極Psは、電界方向に配向する。また、各クラスター10内の液晶分子9は、チタン酸バリウム微粒子11の自発分極Psの影響を受けて、自発分極Psに平行な方向、すなわち電界方向に配向する。この結果、電極4a−4b間に電圧を印加している状態において、誘電性物質層1をマクロに見ると光学的に異方であり(光学的異方性を示し)、表示素子100における表示状態は明るい(白)状態となる。
ここで、表示素子100における光学特性について調査した結果を説明する。この調査は、まず、表示素子100において、誘電性物質層1の温度をネマティック−アイソトロピック相転移温度(Tni)の1K高温側、即ち、T=36.9℃(ΔT=T−Tni=1K)とし、電極4a−4b間に電圧を印加した場合の光学的異方性について測定した。なお、表示素子100と比較するために、誘電性物質層1にチタン酸バリウム微粒子11を全く添加しない以外は表示素子100と同様に作成した比較用表示素子を用意し、表示素子100と同様の条件で測定を行った。
上記の温度下で、基板(透光性基板)6上に設けられた電極4a−4b間に電圧を印加すると、表示素子100では、チタン酸バリウム微粒子11を分散(添加)していない比較用表示素子と比べて、大幅に低い電圧で誘電性物質層1中に光学的異方性が発現し、明状態が得られた。
また、明るさ(透過率)が最大になる電圧Vmaxを測定したところ、表示素子100では20Vであり、比較用表示素子では48Vであった。すなわち、チタン酸バリウム微粒子11を添加することで、最大の明るさ(最大透過率)を得るための駆動電圧を1/2以下と大幅に低電圧化することができた。
次に、温度を上昇させながら、表示素子100(本実施形態の系)、および、比較用表示素子(液晶材料A単独の系)における、明るさ(透過率)が最大になる電圧Vmaxを測定したところ、表1に示す結果が得られた。
この表に示すように、表示素子100では、温度上昇に対するVmaxの変化は比較的小さく(比較的フラットであり)、37℃〜80℃の広い温度範囲において実用的な電圧で最大透過率を得ることができ、ディスプレイとして実駆動させられることがわかった。
これに対して、比較用表示素子では、温度上昇とともにVmaxが非実用的な電圧まで急激に上昇してしまい、ディスプレイとして用いることは到底できない結果であった。
このような、電圧印加によって等方相に光学的異方性が発現する現象は、カー効果(液晶カー効果)と呼ばれるもので、その光学的異方性Δnは電界強度Eの2次に比例し、下記の式(1)で表現できることが一般に知られている。
Δn = λBE2 (1)
ここで、Bはカー定数と呼ばれる比例定数であり、カー定数が大きい程、低い電圧(小さい電界強度)で等方相中に光学的異方性が発現し、また、電圧(電界強度)が同じ場合にはカー定数が大きいほど大きな光学的異方性が得られることになる。なお、λは光の波長である。カー定数Bは、ランダウ−ドゥジャンの現象論的解析によると、下記の式(2)に示すように、T−Tniに反比例して減少することが分かっている。
B ∝ 1/(T−Tni) (2)
図3(a)は、式(2)に基づく、温度Tとカー定数Bとの関係を示すグラフである。この図に示すように、液晶材料では、カー定数Bが温度上昇に伴って急激に減少する。このため、上記比較用表示素子のように液晶材料単独の系では、Vmaxが温度上昇とともに急激に上昇する。
ところで、チタン酸バリウム等の強誘電体の自発分極Psは、ランダウ−ドゥジャンの現象論的解析によると下記の式(3)のようになることが分かっている。
Ps ∝ (Tc−T)β, β〜0.5 (3)
図3(b)は、式(3)に基づく、温度Tと自発分極(自発分極値)Psとの関係を示すグラフである。この図に示すように、自発分極Psは比較的、温度に対してフラットな特性(温度変化に対する自発分極Psの変化が小さいという特性)を有しており、強誘電相−常誘電相間の相転移温度であるキュリー点(Tc)付近にならないと急激に減少しない。
表示素子100において、液晶材料Aに添加したチタン酸バリウム微粒子11のキュリー温度Tcは、上記したように120℃である。このため、キュリー温度Tc以下の温度範囲で誘電性物質層1の温度を上昇(変化)させても、自発分極(自発分極値)Psを高く保つことができ、クラスター10の大きさ、および、クラスター10内で自発分極Psがe機種o分子9に及ぼす影響が、温度変化によってあまり変化しない。これにより、温度上昇に伴って液晶材料Aにおけるカー定数が低下しても、自発分極Psの配向によって各クラスター10内の液晶分子9を配向させることができ、最大透過率を得るための電圧Vmaxを広い温度範囲において低い電圧に保つことができる。すなわち、表示素子100では、誘電性物質層1中に均一に分散しているチタン酸バリウム微粒子11の自発分極Psが、液晶材料Aの温度上昇におけるカー定数の減少度合いをちょうど上手く相殺して、系全体(誘電性物質層1全体)の実効的なカー定数をある程度の温度範囲で高く保つことができ、Vmaxを80℃付近までの広い温度範囲で比較的低く維持できる。
以上のように、本実施形態にかかる表示素子100では、ポジ型液晶材料からなる液晶材料Aにチタン酸バリウム微粒子11を添加している。このため、チタン酸バリウム微粒子11の自発分極Psが、その周囲の液晶分子9に電気的な影響を及ぼし、周囲の液晶分子9が自発分極Psに平行な方向に配向してクラスター10が形成される。また、各チタン酸バリウム微粒子11における自発電極Psの配向方向は、電圧無印加時には等方的であり、電界印加によって電界に平行な方向に配向する。これにより、電界無印加時に光学的等方性を示す液晶材料Aとチタン酸バリウム微粒子11との混合系に、電界を印加することによって自発分極Psおよび液晶分子9を電界方向に配向させ、光学的異方性を発現させることができる。
このため、液晶材料が単独で用いられる表示素子よりも、大幅に低い電圧で光学的異方性を発現させることができる。また、透過率が最大となる電圧であるVmaxについても、大幅に低電圧化することができる。
また、チタン酸バリウム微粒子11のキュリー温度は120℃と高く、自発分極Psの自発分極値はキュリー温度よりもある程度低い温度では大きく変化しない。このため、クラスター10の大きさが大幅に低下することがなく、液晶材料Aのカー定数が温度上昇によって低下したとしても、電界印加による自発分極Psの配向によってクラスター10内の液晶分子9を配向させることができる。このため、表示素子100では、透過率が最大となる電圧Vmaxを、広い温度範囲において低く保つことができる。
また、表示素子100では、液晶材料Aが等方相(アイソトロピック相)を示している状態で、電圧を印加することによって生じる電気光学効果により光学的異方性を発現させている。等方相には液晶相(ネマティック相)のような長距離秩序(long-range-order)が存在しないので、従来のネマティック液晶モードを用いた表示素子のように、液晶層全体がバルク全体として丸ごと配向変化することがない。また、液晶材料における粘性(粘度)は温度上昇とともに指数関数的に低下するので、等方相は液晶相に比べて粘度が低いサラサラした液体状態であり、外部電界のON/OFFに対して反応速度が速い。このため、等方相での電気光学効果を用いて表示を行う表示素子は、本質的に高速応答特性を有している。
したがって、本実施形態によれば、高速応答特性を備え、低電圧、かつ、広温度範囲で駆動可能な表示素子を実現できる。
また、表示素子100は、従来のIPSモードを用いた表示素子と同様、基板面内方向(基板面平行方向)に位相差を発生させるモードであるので、表示素子100を実パネル(表示装置)に適用する際、電極構造を最適化することで、広視野角特性を得ることができる。
なお、本実施形態では、液晶材料に添加するチタン酸バリウム微粒子11として、コンデンサー用途として実績のある平均粒径0.1μmのチタン酸バリウム微粒子11を用いている。これは、微粒子の製造時におけるプロセス上の問題で、現状では数十nmサイズ以下の強誘電体微粒子は作製が困難なためである。ただし、チタン酸バリウム微粒子11の粒径が大きくなると、誘電性物質層1の厚さ(セル厚d)が5μmであるため、セル厚dに対する微粒子サイズが大きくなって、光学的な欠陥(ディフェクト)が生じ、表示品位が低下する可能性がある。したがって、チタン酸バリウム微粒子11(強誘電体微粒子)の粒径は、平均粒径0.1μm以下であることが好ましく、小さい程よい。また、チタン酸バリウム微粒子11の最大粒径は、1μm以下であることが好ましい。最大粒径を1μm以下とすることにより、誘電性物質層1内でチタン酸バリウム微粒子11を充分に分散させることができ、かつ、微粒子に起因する光学的な欠陥(ディフェクト)が発生しない。
また、本実施形態では、チタン酸バリウム微粒子11の添加濃度を0.5wt%(質量パーセント)とした。チタン酸バリウム微粒子11の添加濃度は、誘電性物質層1における重量パーセント濃度(wt%)が10wt%を超えてくると粒子同士の凝集性が激しくなる、均一な分散性が困難になる、液晶分子との混合系である誘電性物質層1の粘度が著しく高くなってハンドリングが難しくなる、などの問題が生じる。逆に、添加濃度が0.01wt%未満になると、チタン酸バリウム微粒子11の濃度が低すぎて、周囲の液晶分子に与える効果が無視できる程度に小さくなってしまう。したがって、チタン酸バリウム微粒子11の添加濃度は、0.5wt%に限るものではないが、0.01wt%以上10wt%以下であることが好ましい。
また、本実施形態では、液晶材料Aにチタン酸バリウム微粒子11を添加しているが、液晶材料Aに添加する強誘電体微粒子は、これに限るものではない。キュリー温度TcがTniよりも高い強誘電体微粒子(自発分極を有する微粒子)であればよく、例えば、チタン酸亜鉛、亜鉛酸ソーダなどを用いることができる。
なお、これらの強誘電体微粒子を用いる場合にも、平均粒径、最大粒径、添加濃度などは、上記したチタン酸バリウム微粒子11を用いる場合と同様の条件であることが好ましい。すなわち、平均粒径0.1μm以下であることが好ましく、平均粒径が小さい程よい。また、最大粒径は、1μm以下であることが好ましい。また、添加濃度が0.01wt%以上10wt%以下であることが好ましい。
また、いずれの強誘電体微粒子を用いる場合にも、自発分極値は1μC/cm2以上であることが好ましい。自発分極値が1μC/cm2以上の場合、周囲の液晶性物質に充分、影響を及ぼせることができ、電圧を印加した際に低電圧で効率よく光学的異方性を発現させることができる。また、キュリー温度TcがTniよりも十分に高いことが好ましい。
また、強誘電体微粒子は、誘電性物質層1内で均一に分散していて、強誘電体微粒子間の平均的な間隔は1μm以上であることが好ましい。強誘電体微粒子間の平均的な間隔が1μm以上であれば、局所的な液晶性物質のクラスターが誘電性物質層中に均一に発生し、低電圧で効率よく電圧印加時の光学的異方性を発現させることができる。
また、表示素子100において、チタン酸バリウム微粒子(強誘電体微粒子)11に、凝集防止用(凝集性防止用)のカップリング剤をコーティングして用いてもよい。
このようなカップリング剤としては、例えばシランカップリング剤を用いることができる。シランカップリング剤とは、一般に、X−Si(OR)3の化学式で表される化合物であり、分子中に2個以上の反応基を持っている。上記化学式におけるXは、アミノ基、ビニル基、エポキシ基等の有機質と反応する基(反応基)であり、ORは、メトキシ基といった加水分解可能な基(反応基)であるため、通常は結びつきにくい有機質材料と無機質材料とのバインダーとして機能する。このシランカップリング剤をメタノール等のアルコール系溶剤に0.2%〜2%程度の濃度で溶解させて、その中にチタン酸バリウム微粒子11等の強誘電体微粒子を浸すと、OR基側が強誘電体微粒子と結合し、それと反対側にX基が配位して、ちょうど微粒子を包み込むようにコーティングする。ここで、シランカップリング剤の溶媒(この場合は主に液晶)と接する部位、すなわちX基が、溶媒に対して高い溶解性を示すような材料を用いることで、チタン酸バリウム微粒子(強誘電体微粒子)11の分散性を向上させることができる。なお、このようなコーティングを行う場合でも、コーティングを含むチタン酸バリウム微粒子(強誘電体微粒子)11の粒径は上記した範囲であることが好ましい。ただし、一般に、コーティング剤は、膜厚が数十オングストロームという非常に薄い膜なので、コーティング前後でチタン酸バリウム微粒子(強誘電体微粒子)11の粒径は特に変化しない場合が多い。
また、本実施形態では、液晶材料Aとして、ポジ型ネマティック液晶として一般的なPentyl cyano biphenyl(5CB)を用いているが、これに限るものではない。ただし、ネマティック−アイソトロピック相転移温度Tniが、0℃より高いことが好ましく、−20℃よりも高いことがより好ましい。
例えば、誘電性物質層1に封入する媒質は、単一化合物で液晶性を示すものであってもよく、複数の物質の混合により液晶性を示すものでもよい。あるいは、これらに他の非液晶性物質が混入されていてもよい。
また、誘電性物質層1に封入する液晶材料(媒質)は、電圧無印加時には光学的に概ね等方であり、電圧印加により光学変調を誘起される媒質であって、誘電異方性が正の媒質であってもよい。すなわち、電圧印加に伴い分子、または分子集合体(クラスター)の配向秩序度が上昇する物質であってもよい。
また、誘電性物質層1に封入する媒質として、例えば、光学波長以下の秩序構造を有し、光学的には等方的に見える液晶材料であって、誘電異方性が正のものを適用することができる。あるいは、液晶分子が光の波長以下のサイズで放射状に配向している集合体で充填された、光学的に等方的に見えるような系を用いることもできる。これらに電界を印加することにより、分子あるいは集合体の微細構造にひずみを与え、光学変調を誘起させることができる。また、これらの媒質を用いる場合にも、配向補助材を形成しておくことによって分子の配向を促進できるので、低電圧で駆動することが可能となる。
また、表示素子100では、基板5,6にガラス基板を用いているが、これに限るものではなく、表示素子100に適度な強度を付与でき、少なくとも一方の基板が可視光に対して透明な材質であればよい。つまり、一方の基板側から入射した光を他方の基板から出射させて表示を行う透過型の表示素子を形成する場合には両方の基板を透明な材質とし、一方の基板側から入射した光を他方の基板側で反射させて、入射側の基板から出射させて表示を行う反射型の表示素子を形成する場合には、少なくとも一方が透明であればよい。
また、電極4aおよび4bは、クロムを用いて形成されているとしたが、これに限るものではない。例えば、ITO(錫酸化物(indium tin oxide))などの可視光に対して透明な電極材料を用いてもよく、この場合、開口率を向上させることができる。
また、表示素子100では、配向膜2,3は、従来のネマティック液晶表示モードで広く用いられているポリイミドにラビング処理が施したものを用いているが、これに限るものではなく、液晶分子9に配向規制力を付与できるものであればよい。例えば、フォトレジストのような感光性樹脂を露光、現像するといったフォトリソグラフィープロセスによって、表面に微小な溝(ミクロな溝)を多数形成したマイクログルーブを用いてもよい。あるいは、微細な所望の溝を有する金属板、プラスティック板(型)を予め作製しておき、その型で樹脂層を型押しし、熱硬化あるいはUV硬化させて膜を作製する、スタンプ法(型押し法)によって、表面にミクロな溝を多数形成したマイクログルーブを用いてもよい。あるいは、感光性樹脂層(フォトレジスト)塗布して所望のパターンを有するフォトマスクでマスクUV露光した後、熱硬化させて膜を作製する、マスク露光プロセスによって、表面にミクロな溝を多数形成したマイクログルーブを用いてもよい。これらの方法によって多数のミクロな溝を含む配向膜を形成することにより、容易かつ高精度に、液晶分子9に配向規制力を付与するためのマイクログルーブを形成できる。
また、表示素子100では、各配向膜2,3に互いに逆平行な方向のラビング処理が施されているが、これに限るものではない。また、表示素子100では、配向膜2,3のラビング処理方向を各偏光板7,8における吸収軸方向に対して45°としたが、これに限るものではない。
例えば、配向膜として上記したマイクログルーブを用い、マイクログルーブにおける溝の形成方向を基板面法線方向から見てジグザグ状とするなどして、基板面内方向における複数方向に配向規制力を付与するようにしてもよい。また、この場合、両基板上に設けるマイクログループの方向は、対向する基板におけるマイクログループの方向と平行であることが好ましい。なお、ラビング法では1つの基板面に対して同じ方向にしたラビング処理を施せないが、上記したマイクログルーブでは1つの基板内における複数の領域に、異なる方向の溝を容易に形成できる。このため、電界印加時における液晶分子9および強誘電体微粒子の自発分極Psの配向方向を、基板面に平行な複数の方向とすること(マルチドメインを形成すること)が容易であり、視野角特性を向上させることができる。
〔実施形態2〕
本発明の他の実施形態について図に基づいて説明する。なお、本実施形態にかかる表示装置は、実施形態1と同様、少なくとも一方が透明な一対の基板間に、電界の印加により屈折率が変化する液晶材料を含む媒質を挟持してなる表示素子と、駆動回路、スイッチング素子、信号線、走査線などを備え、上記液晶材料が光学的等方性を示す状態において電界を印加することにより、上記屈折率が電界の二次に比例して変化する二次の電気光学効果、すなわち、カー効果を用いて光学的異方性を発現させ、表示を行う表示装置である。なお、説明の便宜上、実施形態1と同様の構成及び機能を有する部材については説明を省略する。
図4は、本実施形態に係る表示素子200の簡略構成を示す断面図であり、誘電性物質層13に封入した液晶材料Bがネマティック相を示す場合(T<Tni)を示している。
この図に示すように、表示素子200は、対向する2枚の基板5および6、両基板5、6における他方の基板との対向面にそれぞれ形成された電極16,17、基板5,6上に電極16,17を覆うように形成されたマイクログルーブ(配向膜)14,15、基板5および6(マイクログルーブ14−15間)に挟持されてなる誘電性物質層13、基板5,6における外側の面に形成された偏光板(偏光素子)7,8からなる。
本実施形態では、電極16、17を覆うようにマイクログルーブ(配向膜)14、15が形成されているが、この構成に限定されるものではなく、その逆の構成であってもよい。即ち、基板5、6上にマイクログルーブ(配向膜)14、15を設けて、それを覆うように電極16、17を形成してもよい。電極16、17に例えばITO(インジウム錫酸化物)を用いたとすると、その膜厚は約200nm(0.2μm)程度であり、マイクログルーブに用いる感光性樹脂層厚は数μm程度であるので、マイクログルーブ上に電極を設けたとしても、マイクログルーブの溝形状は電極上でも維持されて、液晶材料の配向方位を揃えるのに充分な能力を持つ。
電極(平板状透明電極、透明電極)16,17は、可視光に対して透明なITO(インジウム錫酸化物)から成り、基板5および基板6の対向面におけるほぼ全面に平板状に形成されている。表示素子200では、この電極16と17との間に電圧を印加することによって、基板面法線方向(上下方向)に電界を印加できるようになっている。
本実施形態では、マイクログルーブ14,15は、各基板の対向面に、電極16,17をそれぞれ覆うように形成されている。すなわち、表示素子200では、液晶分子に配向規制力を付与する配向膜として、表示素子100におけるラビング処理が施されたポリイミドから成る配向膜2,3の代わりに、図中矢印の方向に延在するミクロな(微小な)深さとピッチの溝を多数有するマイクログルーブ14、15が形成されている。
このミクロな溝を有するマイクログルーブ14、15は、例えば、フォトレジストのような感光性樹脂を露光、現像するといったフォトリソグラフィープロセス、あるいはスタンプ法(型押し法)、マスク露光プロセスなどによって作製することができる。
図5に、マイクログルーブ14,15における、各溝に垂直な断面に沿った断面図を示す。この図に示すように、マイクログルーブ14,15における山と山との間隔(溝のピッチ)Lは約5μm、山の高さ(溝の深さ)Δは約1μmである。このようなスケールのマイクログルーブによって、図4に示すように、ネマティック相(T<Tni)状態において、液晶分子をマイクログルーブ14,15の溝方向に配向させることができる。また、図4に示すように、表示素子200では、上下のマイクログルーブ(マイクログルーブ14,15)の溝方向が平行になっているので、誘電性物質層13中の液晶分子全体を一方向に配向させられるようになっている。
誘電性物質層13には、表示素子100における誘電性物質層1とは異なり、ネガ型の液晶材料(液晶性物質)Bが封入されている。また、この液晶材料Bには、チタン酸バリウム微粒子11が実施形態1と同一の条件で混合(添加)、分散されている。さらに、表示素子200における誘電性物質層13には、電界印加時における液晶分子の配向を促進させるための高分子鎖(鎖状高分子、配向補助材)22が形成されている(詳細は後述する)。
液晶材料Bは、以下に示す5種類のエステル系のネガ型液晶材料を混合したものであり、Δn=0.15,Δε=−14,ネマティック相(液晶相)−アイソトロピック相(等方相)の相転移温度Tni=62℃という物性を示す。ここで、Δnは、液晶材料Bにおける液晶分子(ネガ型液晶分子)9aの長軸方向の屈折率と短軸方向の屈折率との差である。また、Δεは、液晶分子9aの長軸方向の誘電率と短軸方向の誘電率との差である。また、Tniは、ネマティック相−アイソトロピック相転移温度である。
なお、上記の各化学式中、R、R’はアルキル鎖を示す。
このように、表示素子200ではΔε(誘電異方性)が負のネガ型液晶材料(液晶材料B)を誘電性物質層13に封入しているので、誘電性物質層13に電界を印加すると、液晶材料Bにおける液晶分子9aの長軸は電界方向と垂直な方向を向く。すなわち、液晶材料Bの配向方向(各液晶分子9aの長軸方向)は、電界と直交する方向となる。
図4に示したように、液晶分子9aの長軸方向は、チタン酸バリウム微粒子(強誘電体微粒子)11の自発分極Psの方向とおよそ垂直な方向に配向する。これは、ネガ型液晶分子の極性基(polar group)は、分子長軸に垂直な方向を向いており、この極性基の向きが自発分極と同じ方向を向くことで電気的エネルギーが下がるためである。
高分子鎖(配向補助材)22は、光重合性モノマーが重合されたものであり、電界印加時における液晶分子9aの配向を促進させるためのものである。図4に示すように、高分子鎖22は、チタン酸バリウム微粒子11が液晶分子9aに影響を及ぼす領域(クラスター10a)を包み込むように、そして、高分子鎖22の延在方向が平均的に電界印加時における液晶分子9aの配向方向に沿うように形成されている。
ここで、高分子鎖22の形成方法について説明する。誘電性物質層13に液晶材料Bを封入する際、液晶材料Bに、光重合性モノマー(重合性化合物)と、この光重合性モノマーの重合を迅速に行わせるための重合開始剤をあらかじめ添加しておく。
表示素子200では、光重合性モノマーとして、下記の構造式からなる化合物(液晶(メタ)アクリレート)を用いた。
ここで、Xは水素原子またはメチル基を表す。また、nは0または1の整数である。また、6員環A,B,Cは、1,4−フェニレン基、または、1,4−トランスシクロヘイシル基、あるいは、下記に示す官能基の何れかを独立的に表す。すなわち、6員環A,B,Cは、下記の官能基のうち、それぞれ異なるものであってもよく、同じものであってもよい。なお、下記の官能基において、mは1〜4の整数を表す。
また、上記化合物の構造式における、Y1およびY2は、それぞれ独立的に、単結合、―CH2CH2―、―CH2O―、―OCH2―、―OCO―、―COO―、―CH=CH―、―C≡C―、―CF=CF―、―(CH2)4―、―CH2CH2CH2O―、―OCH2CH2CH2―、―CH=CHCH2CH2O―、―CH2CH2CH=CH―を表す。すなわち、Y1およびY2は、上記したいずれかの構造を有していれば、同じものであってもよく、異なるものであってもよい。
また、上記化合物の構造式における、Y3は、単結合、―O―、―OCO―、―COO―を表す。また、Rは水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、炭素数1〜20のアルキル基、アルケニル基、アルコキシル基を表す。なお、上記の化合物は、室温近傍の温度で液晶相を示すので、配向規制力を付与する能力が高く、誘電性物質層13内に形成する高分子鎖22として好適である。
また、表示素子200では、上記の化合物の重合を迅速に行わせるための開始剤(重合開始剤)として、メチルエチルケトンパーオキサイドを用いている。
このように、光重合性モノマーおよび重合開始剤、チタン酸バリウム微粒子11、液晶材料Bが混合された系では、チタン酸バリウム微粒子11の自発電極Psが液晶分子9aに影響を与えてクラスター10aが形成されている。このクラスター10a内の液晶分子は物理的に密集しており(クラスター10a内は液晶分子9aの濃度が高く)、液晶分子9a同士の分子間相互作用が強く作用している。すわわち、クラスター10a内では、液晶分子9aが集団を形成して強く結びついている。このため、光重合性モノマーはクラスター10a内に入り込みにくく、大部分が、クラスター10a同士の間の領域に浸透する。
そして、上記の光重合性モノマーおよび重合開始剤を添加した液晶材料Bを誘電性物質層13に封入した後、液晶材料Bがネマティック相(液晶相)を示している状態(T<Tni)に保ち、電極16−17間に電圧を印加する。この状態における表示素子200の状況を図6に示す。この図に示すように、両電極間に生じた電界によって、チタン酸バリウム微粒子11の自発電極Psが電界方向に平行な方向を向く。さらに、両電極間に生じた電界が各液晶分子9aを配向させる効果、各チタン酸バリウム微粒子11の自発電極Psが配向することによってクラスター10a内の液晶分子9aを配向させる効果、マイクログルーブ14,15による配向規制力、各分子間に作用する分子間相互作用(長距離秩序)などによって、誘電性物質層13内の液晶分子9aが、電界と垂直な方向に配向する。
そして、この状態で、誘電性物質層13に紫外線を照射(露光)する。これにより、光重合性モノマーは上記したようにクラスター10a同士の間に浸透しているので、チタン酸バリウム微粒子11が液晶分子9aに影響を及ぼす領域であるクラスター10aを包み込む(囲い込む)ように、そして、液晶分子9aの配向方向に沿って平均的に延びるように重合(硬化、固定化)され、図4に示したような高分子鎖22が形成される。
なお、高分子鎖22を形成しても、誘電性物質層13に封入されている混合系が等方相を呈し、電極16−17間に電圧が印加されていない状態では、各チタン酸バリウム微粒子11における自発分極Psはランダムな方向を向く。これは、各クラスター10a内ではチタン酸バリウム微粒子11の自発分極Psによって液晶分子9aの平均的な配向方向が規定されていても、誘電性物質層13内の各チタン酸バリウム微粒子11における自発分極Psの配向方向を一方向に揃える力が、電圧無印加の等方相には存在しないからである。この場合、誘電性物質層13の温度は相転移温度Tniより高温であるので、クラスター10a中に短距離秩序は存在しても、クラスター10a同士は熱運動的ファクターで全くランダムに揺らいでいる。このため、誘電性物質層13をマクロに見ると、光学的等方性を示している。そして、電極16−17間に電圧を印加することによって初めて、クラスター10aの方向が一方向(電界に平行な方向)に定まり、光学的異方性が発現する。
次に、表示素子200の駆動方法について説明する。まず、表示素子200における誘電性物質層13の温度を、ネマティック−アイソトロピック相転移温度(Tni)より数K程高い温度(T=Tni+2)まで加熱して等方相に相転移させる。なお、加熱手段は表示素子200とともに表示装置に備えられるものであってもよく、あるいは、表示素子200に直接直接貼合されたシート状ヒータ等であってもよい。
図7は、この状態における表示素子200の状態を示す断面図である。この図に示すように、この状態では誘電性物質層13は光学的に等方性を示し、表示素子200における表示状態は暗(黒)状態となる。
つまり、高分子鎖22が存在していても、それに囲まれたクラスター10a中における、チタン酸バリウム微粒子11の自発分極Psの方向と、それに垂直な方向に配向している液晶分子9aとが熱運動的ファクターで全くランダムな方向を向いており、誘電性物質層13をマクロに(巨視的に)見ると光学的等方性を呈する。
なお、この状態の表示素子200を実際に観察したところ、誘電性物質層13には、目視上、散乱によって白濁しているような様子は見受けられなかった。この理由は、クラスター10aのサイズが可視光波長以下であり、また、このクラスター10aを囲い込んでいる高分子鎖22同士の間隔も可視光波長以下であるので、仮にクラスター10aや高分子鎖22によって散乱が起こっていたとしても、可視光波長オーダーの光はそれを感じないためである。
次に、誘電性物質層13に封入した液晶材料Bが等方相を示している状態を保ちながら、両電極16−17間に電圧を印加する。これにより、図4に示した、液晶材料Bがネマティック相を呈している状態と略同様の液晶分子9aの配向状態を実現できる。
すなわち、チタン酸バリウム微粒子11の自発分極Psが電界に平行な方向に配向する。そして、この自発電極Psによってクラスター10a内の液晶分子9aが自発分極Psと垂直な方向に配向する効果、基板法線方向の電界によって液晶分子9aが配向する効果、高分子鎖22の影響(高分子鎖22の壁によるアンカリング効果)、などによって、誘電性物質層13内の液晶分子9aの配向方向(配向方位)が、マイクログルーブ14,15の方向に揃う。
これにより、誘電性物質層13中に光学的異方性が発現し、表示素子200の表示状態を明状態とすることができる。また、高分子鎖22を形成したことにより、この高分子鎖22が、等方相状態における誘電性物質層13に電圧を印加した場合に、液晶分子9aを、高分子鎖22を形成した際の液晶分子9aの配向状態(ネマティック相時の液晶分子9aの配向状態)となるように液晶分子9aの配向を促進させる。
したがって、表示素子200は、高分子鎖(配向補助材)22の働きによって、高分子鎖22が形成されていない場合に比べて低い電圧で駆動できる。
次に、表示素子200における光学特性を調査した結果について説明する。なお、この調査では、マイクログルーブ14,15を、基板面法線方向から見てジグザグになるように形成した表示素子200を用いた。図8は、この調査に用いた表示素子200における、マイクログルーブ14,15の方向、および、偏光板7,8の吸収軸方向を示した説明図である。
この図に示すように、偏光板7,8の吸収軸は互いに直交する配置(クロスニコル)となっている。また、マイクログルーブ14,15は、溝の延在方向が、各偏光板の吸収軸方向に対して45°の角度となるように形成されている。また、マイクログルーブ14,15の方向(溝の延在方向)は、互いに平行であり、基板法線方向から見てジグザグ状となるように形成されている。
このような構成とした理由は、マルチドメイン化によって広視野角な視角特性が期待できるからである。すなわち、表示素子200では、電界印加時の液晶分子9aの配向方向を、基板面に平行、かつ、異なる複数の方向とすることができ、これによって液晶分子9aが複数方向に配向したマルチドメインを形成できるので、基板法線方向に電界を印加する構成であるにもかかわらず、広視野角特性を得られる。なお、本実施形態では、配向膜としてマイクログルーブを用いているので、ラビング法を用いる場合とは違って、簡易的にこのようなマルチドメイン化が実現できる。
この表示素子200について、誘電性物質層13をネマティック−アイソトロピック相転移温度(Tni)より数K程(ここでは2K)、高い温度(T=Tni+2)まで上げて液晶材料B(誘電性物質層13に封入した液晶材料B、チタン酸バリウム微粒子11の混合系からなる媒質)を等方相に相転移させた。
さらに、誘電性物質層13が等方相を示している状態を保ちつつ、電極16−17間に電圧(上下方向の電圧)を印加した。これにより、誘電性物質層13中に光学的異方性が発現し、明状態が得られた。また、この時の光学的異方性の方向(基板面内位相差の方向、遅相軸方向)はマイクログルーブ14,15の方向と同一であることが確認された。
また、電極16−17間に印加する電圧を変化させて、表示素子200の明るさ(透過率)が最大になる電圧Vmaxを調べたところ、45Vであった。
次に、誘電性物質層13の温度を上昇(変化)させて、温度変化に対して、最大透過率を得るための電圧Vmaxがどのように変化するか調べた。その結果、Tni点の30K高温の温度(T=Tni+30K)において最大透過率を与える電圧Vmaxは53Vであった。また、Tni+2K〜Tni+30K程度の広い温度範囲内で、温度上昇に対する最大透過率を得るための電圧Vmaxの変化が非常に小さい(温度変化約30Kに対してVmaxの変化は8V)ことがわかった。したがって、約30Kの広い温度範囲において駆動電圧をほぼフラットにすることができ、広温度範囲で高速な表示素子への応用が可能である。
次に、表示素子200と比較するために、チタン酸バリウム微粒子11を分散(添加)していない以外は上記の測定に用いた表示素子200と同様に作成した第2比較用表示素子について、表示素子200と同様の測定を行った。すなわち、チタン酸バリウム微粒子11を全く添加しない以外は、高分子鎖22の固定化まで表示素子200と同様に行った第2比較用表示素子について、光学特性を調べた。
この第2比較用意表示素子において、誘電性物質層13の温度TをTni+2に保ち、電極16−17間に電圧を印加したところ、誘電性物質層13中に光学的異方性が発現し、明状態が得られる電圧は、表示素子200に比べて大幅に大きい電圧であった。
また、電極16−17間に印加する電圧を変化させて、第2比較用表示素子の明るさ(透過率)が最大になる電圧Vmaxを調べたところ、100Vであった。したがって、表示素子200では、チタン酸バリウム微粒子11を添加して高分子安定化する(高分子鎖22を形成する)ことで、高分子安定化のみを行った場合(第2比較用表示素子)に比べて、駆動電圧を約1/2と大幅に低電圧化できることがわかった。
このように、チタン酸バリウム微粒子11を全く添加せず、高分子鎖22の固定化までは行った第2比較用表示素子では、高分子鎖22を、ネマティック相においてマイクログルーブの効果で誘電性物質層13全体の液晶分子9aが溝方向に並んだ状態を固定化しているので、等方相中においても電圧を印加すると、高分子鎖22の壁の影響(壁によるアンカリング効果)を作用させることができる。このため、等方相中における液晶分子9aの配向方位をマイクログルーブ方向に揃えることができ、光学的異方性は発現させることは可能である。しかしながら、上記したように、表示素子200に比べて、透過率が最大となる電圧Vmaxが2倍以上と高い。また、誘電性物質層13の温度上昇に対してVmaxの変化が小さい(フラットになる)温度領域は全くなく、誘電性物質層13の温度が数K上昇しただけで、Vmaxが著しく増大してしまう。したがって、第2比較用表示素子の構成では、表示素子としての実用化は困難であることがわかった。
次に、高分子鎖22の効果を調べるために、チタン酸バリウム微粒子11を表示素子200と同条件で添加し、高分子鎖22を形成していない第3比較用表示素子を用意し、その光学特性を調査した。しかしながら、第3比較用表示素子では、電圧を印加しても光漏れは検出されなかった。つまり、明状態を得ることはできなかった。
これは、マイクログルーブ14,15のミクロな溝の効果で、基板界面付近の液晶分子9aの配向方位は溝方向に規定できても、誘電性物質層13中(バルク領域)の液晶分子9aの配向方位は定まらず、結果として誘電性物質層13全体としては明状態を実現するための光学的異方性が発現しないためである。つまり、チタン酸バリウム微粒子11の効果によって、液晶分子9aの配向方向を基板面内方向に規定できても、それを一方向に揃えるファクターが存在せず、液晶分子9aが基板面内のあらゆる方向を向いてしまうからである。
以上のように、表示素子200では、チタン酸バリウム微粒子11が液晶分子9aに影響を及ぼす領域(クラスター10a)を包み込むように、そして、延在方向が平均的に電界印加時における液晶分子9aの配向方向に沿うよう形成された高分子鎖22を備えている。
これにより、クラスター10a内の液晶分子9aがチタン酸バリウム微粒子11の自発分極Psと垂直な方向に配向する効果、マイクログルーブ14,15の配向規制力が基板界面付近の液晶分子9aに作用する効果、電極16−17間の電界によって液晶分子9aが配向する効果、に加えて、高分子鎖22の影響(高分子鎖22の壁によるアンカリング効果)が液晶分子9aに作用し、高分子鎖22を形成しない場合に比べて、大幅に低い電圧で最大透過率を得ることができる。
また、約30Kの広い温度範囲において駆動電圧を実用的な電圧に保つことができるので、広温度範囲で高速応答特性を得られる表示素子を実現できる。
なお、本実施形態では、配向補助材として高分子鎖22を用いたが、配向補助材はこれに限るものではない。例えば、液晶骨格と重合性官能基とを分子内に有する他の液晶(メタ)アクリレートであってもよい。なお、液晶性(メタ)アクリレートとしては、中間調表示と低電圧駆動を両立するためには、液晶骨格と重合性官能基との間にメチレンスペーサーがない単官能液晶性アクリレートであることが好ましい。すなわち、2つの6員環を有する液晶骨格を部分構造として有する環状アルコール、フェノールまたは芳香族ヒドロキシ化合物のアクリル酸またはメタクリル酸エステルである単官能(メタ)アクリレートなどが好ましい。
このような単官能(メタ)アクリレートは、(メタ)アクリロイルオキシ基と液晶骨格の間に、アルキレン基またはオキシアルキレン基などの柔軟性の連結基がない。このため、この種の単官能(メタ)アクリレートを重合させて得られる重合体の主鎖は、剛直な液晶骨格が連結基を介さずに直接統合しており、液晶骨格の熱運動が高分子主鎖により制限されるので、この主鎖によって影響を与えられる液晶分子の配向をより安定化させられる。
また、誘電性物質層23に封入する媒質に添加する光重合性モノマーとして、エポキシアクリレートを用いてもよい。エポキシアクリレートとしては、例えば、ビスフェノールA型エポキシアクリレート、ブロム化ビスフェノールA型エポキシアクリレート、フェノールノボラック型エポキシアクリレートなどを用いることができる。エポキシアクリレートは、1分子中に光照射により重合するアクリル基と加熱により重合するカルボニル基、水酸基を併せ持っている。このため、硬化法として光照射法と加熱法とを併せて用いることができる。この場合、少なくともどちらか一方の官能基が反応して重合(硬化)する可能性が高い。したがって、未反応部分がより少なくなり、十分な重合を行うことができる。
なお、この場合、必ずしも光照射法と加熱法とを併せて用いる必要はなく、いずれか一方の方法を用いてもよい。すなわち、本表示素子は、光重合性モノマーを紫外線(光)によって重合させて配向補助材を形成する方法に限らず、使用する重合性化合物の特性に合わせて、重合させる方法を適宜選択すればよい。言い換えれば、本表示素子において配向補助材を形成するために媒質に添加する重合性化合物は、光照射によって重合する光重合性モノマーに限らず、光照射以外の方法で重合する重合性モノマーであってもよい。
また、誘電性物質層13に封入する媒質に添加する重合性モノマーとしては、このほかにも、アクリレートモノマー(例えば、アルドリッチ社製のEHA、TMHA)とジアクリレートモノマー(例えば、メルク社製のRM257)との混合物などを用いることもできる。
また、上記したいずれの重合性化合物を用いる場合においても、重合性化合物の添加量は、0.05wt%〜10wt%の範囲内であることが好ましい。これは、硬化した部分の濃度が0.05wt%未満では、配向補助材としての機能が低下し(配向規制力が弱く)、10wt%より多いと、配向補助材に印加される電界の割合が大きくなって駆動電圧が増大してしまう可能性があるためである。
また、本実施形態では、配向補助材の形状についても高分子鎖(鎖状高分子)に限るものではなく、電圧印加によって分子が配向することを補助(促進)できるものであればよい。例えば、網目状高分子(網目状高分子材料)、環状高分子(環状高分子材料)などであってもよい。
また、配向補助材は、必ずしも重合性化合物から形成する必要はない。例えば、配向補助材として多孔質無機材料を用いてもよい。この場合、例えば、ゾルゲル材料(多孔質無機材料)を誘電性物質層13に封入する媒質にあらかじめ加えておけばよい。これにより、高分子鎖22からなる配向補助材を用いる場合と略同様の効果を得ることができる。
また、誘電性物質層13に形成する配向補助材として、水素結合ネットワーク(水素結合体)を用いることもできる。ここで、水素結合ネットワークとは、化学結合ではなく水素結合によって形成された結合体を意味する。水素結合ネットワークを配向補助材として用いる場合でも、重合性化合物を重合させて得られる配向補助材を用いる場合と同等の効果を得られる。
また、本実施形態では、重合開始剤を添加しているが、重合開始剤は、配向補助材を重合性化合物から形成する場合であっても、必ずしも添加する必要はない。ただし、重合性化合物を、例えば光や熱により重合して高分子化させるためには、重合開始剤を添加することが好ましい。重合開始剤を添加することによって重合を迅速に行うことができる。
また、本実施形態では、重合開始剤としてメチルエチルケトンパーオキサイドを用いたが、これに限るものではない。重合開始剤としては、メチルエチルケトンパーオキサイドのほかに、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、キュメンハイドロイドパーオキサイド、ターシャリブチルパーオクトエート、ジクミルパーオキサイドや、ベンゾイルアルキルエーテル系、アセトフェノン系、ベンゾフェノン系、キサントン系ベンゾインエーテル系、ベンジルケタール系の重合開始材などを用いることができる。なお、市販品では、例えば、メルク社製のダロキュア1173、1116、チバケミカル社製のイルガキュア184、369、651、907、日本化薬社製のカヤキュアDETX、EPA、ITA、アルドリッチ社製のDMPAPなど(いずれも登録商標)をそのまま、あるいは適宜混合して用いることができる。
また、重合開始剤の添加量は、重合性化合物に対して10wt%以下であることが好ましい。10wt%より多く添加すると重合開始剤が不純物として作用し、表示素子の比抵抗が低下する可能性があるためである。
また、本実施形態では、配向補助材を形成する際に液晶相を発現させる方法として、低温にしてネマティック相を出現させたが、この方法に限るものではない。例えば、低温にせずとも、通常表示には用いない高電圧、すなわち表示素子200の駆動電圧よりもずっと大きい電圧を印加することによって、強制的に分子を配向させ、液晶相を発現させてもよい。すなわち、液晶相を発現させるためには、温度(典型的には低温にする)、あるいは電界などの外場を与えればよい。なお、液晶相を発現させるために与える外場は、表示時の環境と異なる環境とするものであることが好ましい。
また、配向補助材を形成する際に発現させる液晶相は、ネマティック相に限るものではない。表示素子の駆動状態とは異なる外場を与えることによって、光学的異方性を示す状態であればよく、例えば、スメクティック相、結晶相などであってもよい。ただし、良好な配向補助材を形成するためには、ネマティック相やスメクティックA相などのように、配向に柔軟性があり、かつ、配向欠陥が生じにくいことが好ましい。したがって、本実施形態に適用する液晶材料は、外場を与えることによってネマティック相やスメクティックA相などを呈することが好ましい。
また、誘電性物質層13に封入する液晶材料(媒質)は、上記した液晶材料Bに限るものではない。ただし、ネマティック−アイソトロピック相転移温度Tniが、0℃より高いことが好ましく、−20℃よりも高いことがより好ましい。
例えば、誘電性物質層13に封入する媒質は、単一化合物で液晶性を示すものであってもよく、複数の物質の混合により液晶性を示すものでもよい。あるいは、これらに他の非液晶性物質が混入されていてもよい。
また、誘電性物質層13に封入する媒質は、電圧無印加時には光学的に概ね等方であり、電圧印加により光学変調を誘起される媒質であって、誘電異方性が負の媒質であってもよい。すなわち、電圧印加に伴い分子、または分子集合体(クラスター)の配向秩序度が上昇する物質であってもよい。
また、誘電性物質層13に封入する媒質として、例えば、光学波長以下の秩序構造を有し、光学的には等方的に見える液晶材料であって、誘電異方性が負のものを適用することができる。あるいは、液晶分子が光の波長以下のサイズで放射状に配向している集合体で充填された、光学的に等方的に見えるような系を用いることもできる。これらに電界を印加することにより、分子あるいは集合体の微細構造にひずみを与え、光学変調を誘起させることができる。また、これらの媒質を用いる場合にも、配向補助材を形成しておくことによって分子の配向を促進できるので、低電圧で駆動することが可能となる。
また、本実施形態では、ネガ型の液晶材料(液晶性物質)を用い、基板面法線方向の電界を印加する表示素子において、配向補助材を形成する構成について説明したが、これに限るものではない。例えば、実施形態1にかかる表示素子100のように、ポジ型の液晶材料(液晶性物質)を用い、基板面内方向の電界によって駆動する表示素子において、配向補助材を形成するようにしてもよい。この場合にも、駆動電圧を大幅に低減するとともに、広い温度範囲において駆動電圧を実用的な低い電圧に保つことができるので、広温度範囲で高速応答特性を得られる表示素子を実現できる。
また、実施形態1にかかる表示素子100、あるいは、実施形態2にかかる表示素子200において、誘電性物質層1または13に封入する液晶材料に、カイラル剤を添加してもよい。
カイラル剤を添加することにより、例えば図1(b),図4に示した、強誘電体微粒子の自発分極が周囲の液晶分子に影響を及ぼす領域(クラスター10,10a)のサイズを大きく、かつ、クラスター内に働く作用(自発分極が周囲の液晶分子に及ぼす影響)を強固にすることができる。つまり、強誘電体微粒子の自発分極に加えて、カイラル剤の捩れ力が自発分極周囲の液晶分子に影響を与える。その結果、強誘電体微粒子の自発分極によって液晶分子が強誘電体微粒子の周囲に引き寄せられるのと同時に、カイラル剤の捩れ力が液晶分子に作用し、より広い領域まで液晶分子が強誘電体微粒子の周囲に安定的に吸着されたクラスター(クラスター領域)を形成できる。
なお、カイラル剤の捩れ力は、液晶分子を互いに捩れさせるように(各液晶分子の長軸方向が捩れ構造をなすように配向させるように)作用するが、クラスター内の液晶分子は自発分極の影響をより強く受け、自発分極の方向に配向する。つまり、カイラル剤の捩れ力によって各液晶分子間の近距離間作用が生じ、液晶分子が強誘電体微粒子の周囲に安定的に吸着される。ここで、カイラル剤の捩れ力は、各液晶分子の長軸方向が捩れ構造をなすように配向させるように作用するが、クラスター内(近距離秩序(short-range-order)領域内)では、強誘電体微粒子の自発分極(大きい自発分極値)によって、液晶分子中の極性基が自発分極の方向に向く再配向が瞬時に起こる。その結果、クラスター内の液晶分子は、平均的に、強誘電体微粒子の自発分極の方向に配向する。
また、カイラル剤の自発的捩れピッチは、可視光の波長以下(例えば2μm以下)であることが好ましい。この程度のピッチに相当するクラスターが形成されても、可視光は何ら影響を受けない。したがって、光学的な悪影響を与えることなく、クラスターを強固にできる。
このように、液晶材料中に、強誘電体微粒子に加えてカイラル剤を添加することにより、光学的等方相中に、近距離秩序領域(クラスター)を効果的に形成できる。このように形成したクラスターは、温度変化に対しても比較的安定であるので、光学的等方相に電圧(電界)を印加した際に発現する2次の電気光学効果(カー効果)を、低電圧かつ広温度範囲で発生させることができる。
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。