JP2010248639A - 炭素繊維、およびその製造方法と製造装置 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】収納容器10に収納されたアクリル繊維トウ20を引き出し、1つ以上のガイドを有する整トウガイド31を介して焼成工程に送る炭素繊維の製造方法において、前記アクリル繊維トウ20に振動を加えながら、前記整トウガイド31のうち最上流に位置するガイドAまで引き出す、炭素繊維の製造方法、および炭素繊維の製造装置1、ならびに炭素繊維。
【選択図】図1
Description
炭素繊維の製造コストを下げるためには、一般にフィラメント数が40,000本以上である、いわゆるラージトウを使用すれば生産能力が上がり効果的である。しかし、ラージトウはボビン巻きすることが困難なため、トラバースしながら収納容器に振り込んで梱包するのが一般的である。
しかし、炭素繊維の前駆体として用いられるトウを収納容器から引き上げる際に、先の整トウ技術を用いると、捩れ(撚り)、折れ、トウの厚み斑等が発生することがあった。その結果、耐炎化工程において反応熱が蓄積することでトウが部分的に破損し、その破片によってロールに巻き付きが生じるなどといった問題があった。
また、特許文献2には、収納容器から取り出され、ガイドを経て耐炎化炉に供給されるまでの工程に存在するトウについて、付加される最大テンション、ガイドとの総接触角、およびガイド数を規定することにより、品位の良好な炭素繊維を得る方法が開示されている。
また、特許文献2に記載の方法では、安定してトウの捩れや折れを抑制することは困難であった。
また、最上流に位置するガイドをアクリル繊維トウの引き出し方向と同じ方向に往復動させて、前記アクリル繊維トウに振動を加えることが好ましい。
さらに、前記収納容器から引き出され、最上流に位置するガイドに到達するまでの間に、前記アクリル繊維トウに付与される振動の回数が5〜1000回であることが好ましい。
また、前記アクリル繊維トウに付与される振動の周期が0.1〜20回/秒であることが好ましい。
さらに、前記アクリル繊維トウに付与される振動の振幅が0.5〜10cmであることが好ましい。
さらに、前記最上流に備えられたガイドは、アクリル繊維トウの引き出し方向と同じ方向に往復動することが好ましい。
また、本発明の炭素繊維は、単糸切れがなく、毛羽の発生箇所が1mにつき10箇所以下であることを特徴とする。
また、本発明の炭素繊維は、品質・品位に優れる。
図1は、本発明の炭素繊維の製造装置の一例を示す概略図である。この例の炭素繊維の製造装置1は、収納容器10にトラバースされ収納されたアクリル繊維トウ20を鉛直方向に引き上げる引き出し手段30と、アクリル繊維トウ30を焼成する焼成手段40とを有する。
なお、本発明において「鉛直方向」とは、鉛直方向上向きおよび鉛直方向下向きの両方向を指し、「鉛直方向に引き上げる」とは、鉛直方向上向きに引き上げることを意味する。
収納容器10の個数は特に限定されず、1つであってもよく2つ以上であってもよい。
アクリロニトリルと共重合可能な他の単量体としては、例えばアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸等の不飽和カルボン酸又はその塩、メチルアクリレート、エチルアクリレート、メチルメタクリレート、アクリルアミド、メタクリルアミド、2−ヒドロキシエチルアクリロニトリル、クロロアクリルニトリル等が挙げられる。
さらに、アクリル繊維トウ20としては、その総繊度が14,000〜9,900,000dtexのトウを用いることが好ましい。
本発明において「トラバースされ収納される」とは、収納容器の前後方向に振られながら、左右方向にも振られながら収納容器に振り込まれることを意味する。
アクリル繊維トウに振動を加えることで、そのときの衝撃により、トウが非捲縮糸であっても、トウの捩れ、折れ、厚み斑の発生を抑制しつつ収納容器からトウを引き上げることができる。
なお、本発明において「振動」とは、任意の位置のアクリル繊維トウが、その位置から所定の方向に移動する動きと、逆方向に移動する動きとを交互に繰り返しながら、周期的に移動することである。
整トウガイド31は、1つ以上のガイドを有し、かつ、往復動してアクリル繊維トウに振動を加えるガイドを最上流に備える。
整トウガイド31は、ガイドとして平ガイドバーと糸道規制ガイドバーを併用することが好ましい。特に、最上流に位置するガイドAが、平ガイドバーであることが好ましい。ガイドAが平ガイドバーであれば、アクリル繊維トウ20に振動を円滑に付与でき、かつ焼成手段40にアクリル繊維トウ20を安定して送ることができる。
図1に示す例では、ガイドA、C、Eが平ガイドバーであり、ガイドB、Dが糸道規制ガイドバーである。糸道規制ガイドバーは、図1に示すように、湾曲ガイドバー(軸方向に対して、ある曲率で湾曲したガイドバー)B1、D1と、該湾曲ガイドバーの上流に位置する補助ガイドバー(軸方向に対して直線状のガイドバー)B2、D2とから構成される。
糸道規制ガイドバーが、湾曲ガイドバーとその上流に位置する補助ガイドバーとから構成されれば、毛羽の発生を抑制しつつアクリル繊維トウの張力を高めることができるので、トウの折れを効果的に防止できる。
各ガイドの材質は特に限定されないが、耐久性、及びコストを考慮すれば、鉄、ステンレス等の金属、セラミックが好ましい。
また、各ガイドの大きさについては特に限定されないが、直径が10〜50mm程度のものが好適である。
アクリル繊維トウ20に振動を加えることで、そのときの衝撃により、トウが非捲縮糸であっても、トウの捩れ、折れ、厚み斑の発生を抑制しつつ収納容器からトウを引き上げることができる。その結果、耐炎化工程において反応熱が蓄積しにくくなるので、糸切れや毛羽発生を抑制でき、巻き付きを防止できる。
上述したように、ガイドAはアクリル繊維トウの引き出し方向と同じ方向に往復動することが好ましい。図1に示すように、アクリル繊維トウが鉛直方向に引き上げられる場合、ガイドAは鉛直方向(鉛直上向きおよび鉛直下向き)に往復動することが好ましく、より好ましくは鉛直上向きである。ガイドAが鉛直方向に往復動することで、その動きに連動してアクリル繊維トウ20が鉛直方向に振動する。
なお、本発明において「トラバースされ収納される」とは、上述したように、収納容器の前後方向に振られながら、左右方向にも振られながら収納容器に振り込まれることを意味する。このようにして収納されたアクリル繊維トウを収納容器から引き出すと、アクリル繊維トウは前後方向に走行するので、このときの左右方向を「トラバース幅」とする。図1、2に示す例の場合、図2における収納容器10の側面の幅方向(平ガイドバー32の軸方向と同じ方向)が「左右方向、すなわちトラバース幅X」であり、図1における収納容器10の正面の幅方向が「前後方向」である。
ここで、重力gによる自由落下運動における物体が、距離h[m]を落下するときの速度V[m/s]は、空気抵抗を無視した場合、下記式(1)により求めることができる。なお、本発明において「自由落下近傍の速度」とは、下記式(1)により算出される値の30%以上の速度であり、好ましくは50%以上であり、より好ましくは100%(すなわち、自由落下の速度)である。
なお、アクリル繊維トウ20に付与される振動は、ガイドAの往復動に連動しているので、アクリル繊維トウ20に付与される振動の振幅は、ガイドAが定位置から鉛直方向上向き若しくは下向き、または水平方向に移動するときの移動距離(振動振幅Y)と同じである。
焼成方法としては、耐炎化炉(図示略)で耐炎化処理し、ついで炭素化炉(図示略)で前炭素化処理および炭素化処理する方法を用いることができる。
また、焼成手段40により得られた炭素繊維を表面処理する工程を設けてもよい。表面処理することで、マトリックス樹脂に対して優れた接着性を炭素繊維に付与できる。表面処理の方法としては、オゾン酸化等の乾式法や、電解液中で電解表面処理する湿式法などが挙げられる。
さらに、必要に応じて、表面処理した炭素繊維をサイジング剤でコート処理する工程を設けてもよい。コート処理することで、炭素繊維の取り扱い性やマトリックス樹脂との親和性を向上させることができる。サイジング剤としては、エポキシ樹脂、ポリエーテル樹脂、エポキシ変性ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂等が挙げられる。
従って、本発明によればアクリル繊維トウから、品位、品質、物性に優れた炭素繊維を生産性よく製造できる。具体的には、単糸切れがなく、毛羽の発生箇所が1mにつき10箇所以下である炭素繊維を生産性よく製造できる。
さらに、本発明は、非捲縮糸であるアクリル繊維トウや、複数本の小トウに分割可能な幅方向における分割能を有するアクリル繊維トウにも適用できる。
なお、各実施例および比較例で用いた炭素繊維の製造装置、および各評価方法は以下の通りである。
製造装置としては、図1に示す炭素繊維の製造装置を用いた。整トウガイド31としては、ガイドA,C,Eを平ガイドバー(表面粗度:Ra=3.2a)、ガイドB、Dを糸道規制ガイドバーとした。ガイドB、Dは、それぞれ湾曲ガイドバー(曲率半径:600mm、表面粗度:Ra=3.2a)B1、D1と、補助ガイドバー(表面粗度:Ra=3.2a)B2、D2とから構成され、湾曲ガイドバーと補助ガイドバーの間隔を0.3mとした。
なお、アクリル繊維トウ20は、収納容器10にトラバースされ収納されたものを用いた。また、整トウガイド31を通過したアクリル繊維トウ20の張力が1.0kg/本となるように調整した。
(工程通過性の評価)
引き出し手段により10,000mのアクリル繊維トウを収納容器から引き出し、焼成手段により焼成する工程の間に、トウの捩れ(撚り)や、折れ等が焼成手段の耐炎化炉に供給される回数を数え、以下の評価基準にて評価した。
◎:2回以下。
○:3〜5回。
△:6〜10回。
×:11回以上。
得られた炭素繊維について、毛羽の発生および単糸切れの有無を目視にて観察し、以下の評価基準にて評価した。
◎:単糸切れは確認されないが、毛羽の発生が炭素繊維1mにつき3箇所以下。
○:単糸切れは確認されないが、毛羽の発生が炭素繊維1mにつき4〜10箇所。
△:単糸切れは確認されないが、毛羽の発生が炭素繊維1mにつき11箇所以上。
×:単糸切れが確認された。
工程通過性の評価および製品品質の評価より、以下の評価基準にて評価した。
◎:工程通過性の評価および製品品質の評価が、いずれも「◎」である。
○:工程通過性の評価および製品品質の評価のうち、少なくとも一方に「○」または「△」があり、かつ両方に「×」がない。
×:工程通過性の評価および製品品質の評価に、1つ以上の「×」がある。
図2に示す収納容器10に、トラバース幅Xが1.5mになるように、総繊度14,400dtexのアクリル繊維トウ20を振り込んで収納した。
ついで、表1に示す引き出し条件により、アクリル繊維トウ20を収納容器10から鉛直方向に引き上げ、炭素繊維を製造した。結果を表1に示す。
なお、表1に示す「速度」はトウの振動を加味した、見かけ上のトウの引き上げ速度であり、「振動方向」はガイドAの往復動の向きであり、「落下速度」はガイドAがガイドA’から定位置に戻るときの速度である。また、実施例1の落下速度は「自由落下」である。
アクリル繊維トウの総繊度、トラバース幅X、ガイドAに対する収納容器の数、および引き出し条件を表1、2に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして炭素繊維を製造した。結果を表1、2に示す。なお、実施例2〜12の落下速度は「自由落下」である。
収納容器10に、トラバース幅Xが0.72mになるように、総繊度36,000dtexの二つの小トウに分割可能な、総繊度72,000dtexのアクリル繊維トウを振り込んで収納し、ガイドAに対する収納容器の数、および引き出し条件を表2に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして炭素繊維を製造した。結果を表2に示す。なお、実施例13〜17の落下速度は「自由落下」である。
収納容器10に、トラバース幅Xが0.72mになるように、総繊度60,000dtexの三つの小トウに分割可能な、総繊度180,000dtexのアクリル繊維トウを振り込んで収納し、ガイドAに対する収納容器の数、および引き出し条件を表2、3に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして炭素繊維を製造した。結果を表2、3に示す。なお、実施例18〜21の落下速度は「自由落下」である。
アクリル繊維トウの総繊度、トラバース幅X、ガイドAに対する収納容器の数、および引き出し条件を表3、4に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして炭素繊維を製造した。結果を表3、4に示す。なお、実施例23、24、29〜32の落下速度は「自由落下」である。
アクリル繊維トウ20に振動を加えず、アクリル繊維トウの総繊度、トラバース幅X、ガイドAに対する収納容器の数、および引き出し条件を表4に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして炭素繊維を製造した。結果を表4に示す。
特に、振動方向を鉛直上向きにした場合(実施例7)と、鉛直下向きにした場合(実施例25)と、水平方向にした場合(実施例26)を比べると、振動方向を鉛直上向きにした場合が最も評価結果が良好であり、ついで鉛直下向きにした場合であった。
また、落下速度を自由落下にした場合(実施例7)と、自由落下の40%にした場合(実施例27)と、自由落下の10%にした場合(実施例28)を比べると、落下速度を自由落下にした場合が最も評価結果が良好であり、ついで自由落下の40%にした場合であった。
また、振動周期を3回/秒にした場合(実施例7)と、0.05回/秒にした場合(実施例30)を比べると、3回/秒にした場合の方が、評価結果が良好であった。
また、振動振幅を1.5cmにした場合(実施例7)と、0.2cmにした場合(実施例32)を比べると、1.5cmにした場合の方が、評価結果が良好であった。
さらに、ガイドAに対する収納容器の数を増やしたり(実施例7と11、実施例8と12)、複数本の小トウに分割可能な幅方向における分割能を有するアクリル繊維トウを用いたり(実施例13〜21)しても、工程通過性が良好であり、製品品質・品位に優れた炭素繊維を得ることができた。
10:収納容器、
20:アクリル繊維トウ、
30:引き出し手段、
31:整トウガイド、
40:焼成手段、
A〜E:ガイド、
X:トラバース幅、
Y:振動振幅、
H:引き上げ高さ。
Claims (8)
- 収納容器に収納されたアクリル繊維トウを引き出し、1つ以上のガイドを有する整トウガイドを介して焼成工程に送る炭素繊維の製造方法において、
前記アクリル繊維トウに振動を加えながら、前記整トウガイドのうち最上流に位置するガイドまで引き出す、炭素繊維の製造方法。 - 最上流に位置するガイドをアクリル繊維トウの引き出し方向と同じ方向に往復動させて、前記アクリル繊維トウに振動を加える、請求項1に記載の炭素繊維の製造方法。
- 前記収納容器から引き出され、最上流に位置するガイドに到達するまでの間に、前記アクリル繊維トウに付与される振動の回数が5〜1000回である、請求項1または2に記載の炭素繊維の製造方法。
- 前記アクリル繊維トウに付与される振動の周期が0.1〜20回/秒である、請求項1〜3のいずれかに記載の炭素繊維の製造方法。
- 前記アクリル繊維トウに付与される振動の振幅が0.5〜10cmである、請求項1〜4のいずれかに記載の炭素繊維の製造方法。
- 収納容器に収納されたアクリル繊維トウを引き出す引き出し手段と、該引き出し手段により引き出されたアクリル繊維トウを焼成する焼成手段とを有する炭素繊維の製造装置であって、
前記引き出し手段は、引き上げたアクリル繊維トウを前記焼成手段に送る、1つ以上のガイドを有する整トウガイドを具備し、
かつ、前記整トウガイドは、往復動して前記アクリル繊維トウに振動を加えるガイドを最上流に備える、炭素繊維の製造装置。 - 前記最上流に備えられたガイドは、アクリル繊維トウの引き出し方向と同じ方向に往復動する、請求項6に記載の炭素繊維の製造装置。
- 単糸切れがなく、毛羽の発生箇所が1mにつき10箇所以下である、炭素繊維。
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