JP2010210158A - 耐食性アルミニウム合金部材ならびに伝熱管またはヘッダー管 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】伝熱管またはヘッダー管を構成する耐食性アルミニウム合金部材であって、アルミニウム合金からなる基材と、この基材の外表面に被覆されて当該基材の犠牲陽極層となるアルミニウム合金からなる厚さ200〜2000μmの溶射皮膜22と、この溶射皮膜22の気孔22aに充填され、樹脂23aに平均粒径1μm以下の粒子23bを混合してなる封孔剤23とを備える。封孔剤23は、腐食環境において、樹脂23aから加水分解により離脱した芳香族成分が、酸化物または表面に酸化皮膜を有する金属からなる粒子23bの表面に吸着し、この芳香族成分が露出した溶射皮膜22の気孔22aの壁面へ再吸着することにより、気孔22aに生じた隙間を自己修復することを特徴とする。
【選択図】図3
Description
基材21は、特に限定されないが、通常、JIS規定の3000系、5000系、または6000系アルミニウム合金が用いられ、押出成形等の公知の方法で伝熱管2またはヘッダー管3,4の形状に加工される。基材21の厚さは特に限定されないが、伝熱管2(ヘッダー管3,4)の管径や長さ等に応じて必要な強度が得られる厚さに成形される。また、後記の溶射皮膜22の形成(溶射)前に、基材21の表面(溶射皮膜22を被覆する領域)をブラスト処理等により粗面化することが好ましい。基材21の表面が粗面化されることで、溶射皮膜22が剥離し難くなる。基材21は、伝熱管2およびヘッダー管3,4の形状にそれぞれ成形された後、溶接されて熱交換パネル1の形状に組み立てられる。なお、本発明に係る伝熱管2およびヘッダー管3,4は、それぞれ円筒形状としているが、これに限定されるものではない。
溶射皮膜22は、溶射材料として好適であり、かつ基材21を形成するアルミニウム合金より海水中での電位が卑となる(イオン化傾向が大きい)アルミニウム合金からなる。このようなアルミニウム合金として、Al−Zn合金、Al−Mg合金、Al−Si合金、Al−Mn合金、さらにこれらの二種以上の合金(Zn,Mg,Si,Mnの二種以上の元素を添加したアルミニウム合金)が挙げられる。すなわち、これらの元素を単独または二種以上を添加して、基材21を形成するアルミニウム合金の電位と比較して卑となる電位とすればよい。このようなアルミニウム合金で溶射皮膜22を構成することにより、溶射皮膜22が、腐食環境(海水中)で積極的にアノード反応(M→Mn++ne−、M:Alおよび添加元素、n:価数)を起こすことで、基材21の腐食を防止する(犠牲防食)犠牲陽極層とすることができる。溶射皮膜22は、前記成分のアルミニウム合金を、例えば線状の溶射材料(溶線材料)として、フレーム溶射法等の公知の溶射方法により基材21の表面に溶射されて形成される。
長期にわたる犠牲防食作用を付与するために、溶射皮膜22の厚さは200μm以上とし、300μm以上が好ましい。一方、溶射皮膜22を厚くすると、熱交換効率が低下し、また海水の流れ(流水)により剥離し易くなるため、厚さは2000μm以下とし、1000μm以下が好ましい。
溶射皮膜22は、その形成方法(溶射)から、内部にある程度の気孔22aを含む構造を有する。気孔22aは、図2の断面図ではそれぞれが分断されて示されているが、実際には溶射皮膜22の表面から通じているものが多い。後記するように、本発明に係る耐食性アルミニウム合金部材20においては、溶射皮膜22の気孔22aに封孔剤23を充填させることにより、溶射皮膜22に耐久性を付与している。溶射皮膜22における気孔22aが極度に少ないと、封孔剤23が浸透し難くなり、少ないながら存在する気孔22aが十分に充填されず、却って溶射皮膜22の耐久性が低下する。したがって、溶射皮膜22の断面における気孔22aの面積率は0.5%以上が好ましく、0.8%以上がさらに好ましい。一方、封孔剤23は、後記するように主成分が樹脂であるため、耐エロージョン性で溶射皮膜22に劣り、溶射皮膜22に対して多くなると、封孔剤23の減肉が顕著になる。また、気孔の多い(気孔率の高い)溶射皮膜は、温度差により発生する応力で物理的に割れ易い傾向がある。したがって、溶射皮膜22の断面における気孔22aの面積率は10%以下が好ましく、5%以下がさらに好ましい。なお、本明細書において、溶射皮膜22の断面とは、その厚さ方向の断面であり、すなわち図2に示す耐食性アルミニウム合金部材20の積層方向の断面である。
溶射皮膜22の気孔22aのそれぞれが小さいと、封孔剤23が充填され難い(浸透し難い)。特に、後記するように封孔剤23には粒子が所定の割合で混合されているため、この粒子が気孔22aに充填され難くなる。したがって、溶射皮膜22の断面における気孔22aの1個あたりの面積は平均で5μm2以上が好ましく、10μm2以上がさらに好ましい。一方、気孔22aのそれぞれが大きくなると、ORV10としての熱サイクルによって、溶射皮膜22と封孔剤23との熱膨張特性の差異から溶射皮膜22の気孔22aに生じる隙間が大きくなる。この隙間が後記する封孔剤23の自己修復能力を超えて大きいと、溶射皮膜22の気孔22aの隙間が修復されず、この隙間から海水が浸入して、溶射皮膜22、さらに基材21に腐食を生じる虞がある。したがって、溶射皮膜22の断面における気孔22aの1個あたりの面積は平均で50μm2以下が好ましく、30μm2以下がさらに好ましい。
耐食性アルミニウム合金部材20において、封孔剤23は、溶射皮膜22の気孔22aに、溶射皮膜22の外表面から少なくとも200μmの深さまで充填される。そして、封孔剤23は、1種類以上の芳香族成分を含有する樹脂23aと、当該封孔剤23に対して0.1〜10体積%で樹脂23aに混合された平均粒径1μm以下の粒子23bとから構成される。粒子23bは、酸化物粒子、および表面に酸化皮膜を有する金属粒子の1種以上である。
封孔剤23は、溶射皮膜22の気孔22aに充填させることにより、溶射皮膜22の表面(耐食性アルミニウム合金部材20の表面)から気孔22aを介して海水や酸素が溶射皮膜22に浸入することを阻止して、溶射皮膜22に耐久性を付与する。すなわち、溶射皮膜22の十分に深い位置まで気孔22aが封孔剤23で充填されていないと、海水等が溶射皮膜22の深部に浸入し易くなって溶射皮膜22の耐久性が低下し、さらに基材21との界面まで海水等が浸入して、早期に耐食性アルミニウム合金部材20の耐食性が劣化する。したがって、封孔剤23は、溶射皮膜22の外表面から少なくとも200μmの深さまでにおいて、溶射皮膜22の気孔22aに充填されているようにする。なお、本明細書において、封孔剤23が溶射皮膜22の気孔22aに充填されることを、封孔剤23が溶射皮膜22に浸透するともいう。すなわち、封孔剤23は溶射皮膜22に200μm以上の深さまで浸透させる。ここで、封孔剤が気孔に充填しているとは、溶射皮膜22のある1個の気孔22aの少なくとも一部の領域に封孔剤23が存在するということであり、充填(浸透)の深さとは、溶射皮膜22の当該深さ位置におけるすべての気孔22aの中の少なくとも一部の気孔22aに、封孔剤23が存在するということである。好ましくは、溶射皮膜22の当該深さ位置における気孔22aに対して、封孔剤23が存在する割合が面積率で80%以上であり、理想的には、溶射皮膜22における気孔22aのすべてが隙間なく充填されていることである。ただし、耐食性アルミニウム合金部材20をORV10として使用すると、後記するように、封孔剤23の自己修復により、気孔22aの空洞部(隙間)に封孔剤23が次第に充填されるため、その製造時で、封孔剤23を溶射皮膜22の全体に浸透させる必要はない。耐食性アルミニウム合金部材20の製造時において、溶射皮膜22と基材21との界面に、わずかに封孔剤23が存在する程度で十分に好ましい。また、製造時においては、樹脂23aが硬化によりある程度収縮するため、気孔22aのすべてを隙間なく充填することは困難である。なお、封孔剤23は、溶射皮膜22に浸透させる分に加えて溶射皮膜22の表面に積層されていてもよいが、ORV10としての運転環境下で流水により早期に損耗するため、さらなる効果向上はほとんど得られない。
樹脂23aは、1種類以上の芳香族成分を含有する。芳香族成分としては、スチレン、フェノール、ビスフェノールA、テレフタル酸等が挙げられ、このような芳香族成分を含有する樹脂としては、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリカーボネート樹脂、フェノール樹脂、ポリスチレン樹脂、PET樹脂、アラミド樹脂、ポリイミド樹脂、PEK樹脂等が挙げられる。ただし、耐食性アルミニウム合金部材20の製造上、封孔剤23を溶射皮膜22に表面から浸透させて気孔22aを封孔するために、熱硬化性樹脂が好ましい。そして、芳香族成分は、特に加水分解し易いビスフェノールAが好ましく、ビスフェノールAを含有する樹脂として、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂が挙げられるが、熱硬化性樹脂であるエポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂が好ましい。
粒子23bは、酸化物で形成された粒子、または金属で形成された粒子の表面に酸化皮膜を被覆する粒子であり、いずれも少なくとも表面にO(酸素)原子を有する粒子である。この粒子23bの表面のO原子が樹脂23a中の芳香族成分を吸着する(図3(a)参照)ことにより、前記したように封孔剤23が自己修復する。
粒子23bは、そのサイズが大きくなると、溶射皮膜22の気孔22aに充填され難くなる。したがって、粒子23bの平均粒径は1μm以下とし、0.5μm以下が好ましい。なお、粒子23bのサイズが小さくとも本発明の作用効果に問題はないが、平均粒径が0.05μm未満の粒子は入手、製造が困難であったり、高価なものとなるため、粒子23bの平均粒径は0.05μm以上が好ましい。
粒子23bの含有量が、封孔剤23の全体積(樹脂23a+粒子23b)に対し、0.1体積%未満では、粒子23bが樹脂23aの芳香族成分を吸着する効果が不十分で、前記封孔剤23の自己修復反応が生じない。したがって、粒子23bの含有量は0.1体積%以上とし、1体積%以上が好ましい。一方、粒子23bの含有量が過剰になると、粒子23bに吸着した芳香族成分が脱着し難くなって封孔剤23の自己修復反応が低下するため、粒子23bの含有量は10体積%以下とし、5体積%以下が好ましい。
耐食性アルミニウム合金部材として、下記の供試材を仕様毎に各3枚作製した。
基材としてA5083合金の、縦100mm×横50mm×厚さ3mmの板材を用いた。板材の片面を、ショットブラスト(アルミナ#16〜20)にて平均粗さRa=20〜40μmに粗面化し、その上に溶線式フレーム溶射法(酸素+プロパン炎)にてAl−2%Zn合金からなる溶射皮膜を、膜厚1000μm程度になるように形成した。ただし、供試材No.1,2は、それぞれ膜厚を変化させて溶射皮膜を形成した。これらの溶射において、溶射角度90°で溶射皮膜の気孔率(体積あたり)は1〜3%となり、溶射皮膜断面の気孔の面積率は13〜15%となった。また、供試材No.3〜5においては、形成した溶射皮膜の表面にショットブラストを行って、断面の気孔の面積率を減らし、かつ気孔の1個あたりの面積を小さくなるようにした。一方、供試材No.6〜8においては、溶射角度30°,20°,10°と変えることにより、断面の気孔の面積率を増やし、かつ気孔の1個あたりの面積を大きくした。なお、溶射皮膜の厚さならびに気孔の大きさおよび面積率は、封孔処理された供試材にて後記に示す方法で測定した。
得られた供試材を切り出し、切断面を研磨して、光学顕微鏡にて100倍で5箇所撮影した。5視野の溶射皮膜の厚さを測定し、平均値を表1に示す。また、同撮影写真に対して、画像解析ソフト(ImageJ)を用いて画像を2値化して、溶射皮膜における気孔(封孔剤を含む)の面積率および気孔の1個あたりの平均面積を算出し、それぞれの5視野の平均値を表1に示す。
得られた供試材を切り出し、切断面を研磨してEPMAにて解析し、溶射皮膜の深さ位置毎に封孔剤の樹脂中のC原子を検出した。溶射皮膜の気孔に対して80%以上の面積率でC原子が検出された最大深さ位置を封孔剤の浸透深さとし、表1に示す。
(熱サイクル耐食性)
得られた供試材について、ORVとして海水中で運転した場合の熱サイクルを含めた環境を再現するため、仕様毎に各2枚に対して以下の試験を行った。供試材の溶射皮膜の形成面へ、液温35℃の5%食塩水の噴霧を23時間行った後、LNG温度の模擬として液体窒素に1時間浸漬する工程を1サイクルとして、60サイクル実施した。耐食性は、熱サイクル試験による気孔の拡がりで評価した。具体的には、60サイクル終了後(熱サイクル試験後)の供試材を切り出し、溶射皮膜断面における気孔の面積率を、5箇所×供試材2枚について前記の試験前における方法と同様に測定し、計10点の平均値を算出した。熱サイクル試験前後における供試材の気孔面積率の差の、試験前供試材の気孔面積率に対する百分率を気孔面積増加率として、表1に示す。合格基準は、気孔面積増加率が5%以下とした。
1 熱交換パネル
2 伝熱管
3 下部ヘッダー管(ヘッダー管)
4 上部ヘッダー管(ヘッダー管)
20 耐食性アルミニウム合金部材
21 基材
22 溶射皮膜
22a 気孔
23 封孔剤
23a 樹脂
23b 粒子
Claims (6)
- アルミニウム合金からなる基材と、この基材の一方の面の少なくとも一部に被覆されて当該基材の犠牲陽極層となるアルミニウム合金からなる厚さ200〜2000μmの溶射皮膜と、この溶射皮膜の外表面から少なくとも200μmの深さまでにおいて当該溶射皮膜の気孔に充填された封孔剤と、を備え、
前記封孔剤は、1種類以上の芳香族成分を含有する樹脂と、当該封孔剤に対して0.1〜10体積%で前記樹脂に混合された平均粒径1μm以下の粒子と、を備え、
前記粒子は、酸化物粒子、および表面に酸化皮膜を有する金属粒子の1種以上であることを特徴とする耐食性アルミニウム合金部材。 - 前記溶射皮膜は、その厚さ方向の断面における気孔の面積率が0.5〜10%であり、前記断面上の1個の気孔の面積が平均で5〜50μm2であることを特徴とする請求項1に記載の耐食性アルミニウム合金部材。
- 前記粒子が、ルチル型TiO2粒子を含むことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の耐食性アルミニウム合金部材。
- 前記樹脂が、前記芳香族成分としてビスフェノールAを含有することを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の耐食性アルミニウム合金部材。
- 請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の耐食性アルミニウム合金部材で、前記溶射皮膜側を外面にして形成された、熱交換パネルを構成する伝熱管またはヘッダー管。
- 外表面に供給される海水との熱交換によって内部に流通する液化天然ガスを気化させるオープンラック式気化器の熱交換パネルを構成する請求項5に記載の伝熱管またはヘッダー管。
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