JP2010202930A - 酸化物焼結体ターゲット、該ターゲットの製造方法、透明導電膜および該透明導電膜の製造方法 - Google Patents

酸化物焼結体ターゲット、該ターゲットの製造方法、透明導電膜および該透明導電膜の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】フラットパネルディスプレイ用表示電極等に用いられるITO系非晶質透明導電膜をスパッタ時に水添加することなく製造でき、高エッチング性と低結晶化温度を有し、結晶化後には低抵抗率と高透過率の特性を高い次元で満足する透明導電膜、該透明導電膜製造用のスパッタ時に異常放電のない焼結体ターゲットを提供する。
【解決手段】酸化インジウムを主成分とし、Ge/(Ge+In)の原子%で6〜16%であり、その他の諸特性を有する焼結体ターゲット、該ターゲットを所定の条件でスパッタして得られる非晶質透明導電膜、該非晶質透明導電膜をアニールして得られる結晶質透明導電膜。
【選択図】なし

Description

本発明は、フラットパネルディスプレイ等において、電極として使用される透明導電膜、該透明導電膜の製造方法、該透明導電膜製造用の酸化物焼結体ターゲット、該酸化物焼結体ターゲットの製造方法に関する。
透明導電膜に要求される条件には、低抵抗率、高透過率、耐湿性等をはじめとして様々な条件があり、これらの条件を満足する度合いが比較的最も高い材料は、ITO(Indium Tin Oxide)であり、フラットパネルディスプレイ用表示電極をはじめとして、広範囲の分野にわたって使用されている。現在、産業上の生産工程におけるITO膜の成膜方法の殆どは、大面積に均一性、生産性良く作製できることから、ITO焼結体をターゲットとしてスパッタする、いわゆるスパッタ成膜法である。
しかし、ITO膜には問題もある。その一つはエッチング特性である。ITOの透明導電膜として優れている低抵抗率、高透過率等の諸特性は、ITO膜が結晶化した場合に発現する特徴であるが、ITOの結晶質膜は、化学的安定性が比較的高いため、各種酸等のエッチャントに対するエッチング速度が小さく、生産性に劣る。
このために、エッチング時には、エッチング速度の速い非晶質膜としておいて、エッチング後は、非晶質膜を加熱するアニール工程を行って、ITO膜を結晶化させ、優れた特性を発現させる方法が広く行われている。
ところが、この方法の実現のためには、まず、非晶質のITO膜を作製する必要があり、基板を無加熱にするのみでは、ITO膜の結晶化温度が約150℃程度と比較的低いために、膜の一部が結晶化してしまい、エッチング時に残渣として残って、配線ショート等の問題を引き起こしてしまう。
そこで、スパッタ成膜時にスパッタガスとして使用されているアルゴンガスに水を水蒸気の形態で添加することが行われているが、スパッタ膜にパーティクルが発生してしまったり、チャンバー内の水分濃度の経時変化によって、当初は非晶質が得られた成膜条件であっても、次第に得られる膜の一部が結晶化したものになってしまったり、確実に膜を非晶質化するため添加する水の濃度を高くしてしまうと、膜の結晶化温度が増加したり、結晶化した膜の抵抗率が高くなってしまう等の各種不都合がある。
また、これら透明導電膜の結晶化に関連する問題を逃れるために、成膜からプロセスの最後に到るまで非晶質である透明導電膜材料が一部に使用されている。例えば、酸化インジウムに亜鉛を適切濃度添加した組成材料である。この材料は水等の添加をすることなしに、基板を無加熱でスパッタ成膜することで、非晶質膜が得られ、エッチング速度も比較的大きく、非晶質時の膜の抵抗率が、非晶質ITO膜の抵抗率より小さく等の利点はあるが、当該膜は可視光平均透過率が約85%程度と劣り、膜の構成材料として亜鉛を含んでいるために、膜の耐湿性が悪く、素子特性の経時劣化が大きいという問題がある。
上記のような問題に対して、ITOや酸化インジウムと亜鉛からなる材料とは別の組成を有する透明導電膜として、インジウムとゲルマニウムと酸素からなる材料に関する先行技術としては、以下のものがある。
特許文献1には、Inの酸化物を主成分として、所定のGe濃度を有する非晶質透明導電膜が開示されており、膜が非晶質であるために、エッチングが容易で加工性に優れていることが示されている。しかし、ここで開示されている透明導電膜の結晶性については、非晶質であるものに限られ、膜を結晶化することで得られる特性を利用する技術的思想はなく、そのような膜を得るための特別なターゲット特性等についての記載はない。
特許文献2には、Inの酸化物を主成分として、所定のGe濃度を有し、更に、電気的特性や光学的特性等で規定した透明導電膜が開示されている。しかし、成膜速度を比較的大きくして、結晶性に優れた結晶質の膜に関するものを対象としており、結晶性制御による膜特性の変化を利用する技術的思想はなく、当該膜を得るための特別なターゲット特性についての記載はない。
特許文献3には、Inの酸化物を主成分として、所定のGe濃度を有し、更に、電気的特性や光学的特性等で規定した透明導電膜が開示されている。しかし、結晶性制御による膜特性の変化を利用する技術的思想はなく、当該膜を得るための特別なターゲット特性についての記載はない。
特許文献4には、InとGe系からなり、その複合酸化物相の平均粒径を規定した蒸着ターゲットが開示されており、スパッタ中の異常放電防止に効果があるとしている。しかし、当該ターゲットを使用して得られた膜の特性については、膜の電気抵抗率の記載があるのみであり、結晶性制御による膜特性の変化を利用する技術的思想はなく、また、ターゲット特性については、複合酸化物相の平均粒径のみの規定であり、更に重要なターゲット密度やバルク抵抗等に関する記載はない。
特許文献5には、酸化インジウムにゲルマニウムが所定濃度範囲で置換固溶しているターゲットが開示されており、高投入電源でも安定して高速成膜可能であることが示されている。しかし、固溶限界の制約でGe濃度上限値が低く、結晶性制御による膜特性の変化を利用する技術的思想はなく、また、ターゲット特性については、ゲルマニウムの固溶に関する規定のみであり、更に重要なターゲット密度やバルク抵抗等に関する記載はない。
特許文献6には、酸化インジウムとゲルマニウムからなる焼結体であって、焼結密度と表面粗さを規定したターゲットが開示されており、長時間スパッタ後でもアーキング発生防止効果があるとされている。しかし、膜特性に関してはスパッタ当初の値との変化が殆ど無いことを示しているのみで、その特性自体を改善するものではなく、更には、結晶性制御による膜特性の変化を利用する技術的思想はなく、また、ターゲット特性については、密度と表面荒さの規定のみであり、更に重要な組織構造やバルク抵抗等に関する記載はない。
特許文献7には、酸化インジウムとゲルマニウム酸インジウム化合物に関して、所定の結晶構造を有し、所定のGe濃度範囲である焼結体が開示されており、高速スパッタを安定して実施できるとされている。しかし、得られた膜の特性については、抵抗率が示されているのみであり、結晶性制御による膜特性の変化を利用する技術的思想はなく、また、ターゲット特性については、結晶構造に関する規定のみであり、更に重要な密度やバルク抵抗等に関する記載はない。
特許文献8には、酸化インジウムを主成分として、ゲルマニウム等を含めた各種ドーパントを所定濃度有し、所定の特性を有する透明導電膜や膜の製造方法が開示されており、平滑性が高く、低抵抗率な膜が非晶質膜のアニールによって得られるとされている。しかし、添加物濃度を調整して、結晶化温度を調整することや、アニールによって結晶化させた場合の膜の最適添加Ge濃度に関する技術的思想はない。また、ターゲット特性については、密度やバルク抵抗等を含めて重要特性についての記載はない。
特許文献9には、インジウム、ゲルマニウム及び酸素からなり、抵抗率、表面粗さ、Ge濃度範囲で規定された透明導電膜が開示されている。しかし、結晶性制御による膜特性の変化を利用する技術的思想はなく、また、ターゲット特性については、重要な密度やバルク抵抗等に関する記載はない。
特許文献10には、インジウム、ゲルマニウム及び酸素からなり、Ge濃度範囲、密度で規定されたターゲットが開示されており、原料粉末粒径や焼結時の酸素フロー量を所定条件とすることで、膨れ等がない高密度のターゲットが得られるとされている。しかし、結晶性制御による膜特性の変化を利用する技術的思想はなく、また、ターゲット特性については、密度規定のみであり、重要な組織やバルク抵抗等に関する記載はない。
特許文献11には、酸化インジウムと酸化ゲルマニウムを所定濃度含有するターゲットが開示されており、膜特性を劣化させずに、焼結性に優れたターゲットが得られるとされている。しかし、得られた膜の特性については、抵抗率が示されているだけであり、結晶性制御による膜特性の変化を利用する技術的思想はなく、また、ターゲット特性については、密度の結果が示されているのみであり、重要な組織やバルク抵抗等に関する記載はない。
特許文献12には、酸化インジウムと酸化ゲルマニウムを所定濃度含有する透明導電膜の製造方法が示されており、高透過率、低抵抗率膜が得られるとされている。しかし、得られた膜特性は、透過率と抵抗率のみであり、結晶性制御による膜特性の変化を利用する技術的思想はなく、また、ターゲット特性については、密度の結果が示されているのみであり、重要な組織やバルク抵抗等に関する記載はない。
特開平11−323531号公報 特開平11−329085号公報 特開平11−322333号公報 特開2000−129431号公報 特開2003−20276号公報 特開2003−55049号公報 特開2003−342068号公報 特開2004−241296号公報 特開2002−50231号公報 特開2002−53952号公報 特開昭61−136954号公報 特開昭62−202415号公報
以上のように、インジウムとゲルマニウムと酸素からなる材料に関する先行技術は古くからあったが、ITOの酸化インジウムのスズドーパントの代わりにゲルマニウムを単に置き換えて、得られた膜の透過率や抵抗率が、ITOに近い等の結果の開示に過ぎないものや、焼結密度の向上やスパッタ時の異常放電防止のために、高密度、平坦性、結晶構造が所定の範囲となるターゲットを製造することのみを主眼として、得られる膜特性については特に考慮がないもの、逆に、膜が非晶質であるためにエッチング性に優れている点のみを特徴としているだけで、結晶化時の優れた特性利用を考慮していないものや、結晶化膜の特性のみに注目して、逆に非晶質時の特性を利用していないものやこれらの膜を得るためのターゲット特性に関しては考慮がされていないものばかりであった。
つまり、透明導電膜及びそれを得るためのターゲットに関する課題の一部の解決策を示した先行技術はあっても、これらの課題の間にはトレードオフの関係を有するものもあり、結果として総合的にこれらの課題を解決できるような先行技術はなかった。
本発明はこのような事情に着目してなされたものであって、その目的は、スパッタ成膜時に基板加熱や水添加をする必要がなく、高電力印加による高速成膜をアーキング等の異常放電がなくスパッタ成膜をすることができ、平坦性に優れ、エッチング速度が大きく生産性に優れ、エッチング後にエッチング残渣が残ることがない非晶質膜が得られ、その非晶質膜をあまり高温にせずとも結晶質膜とすることができ、結晶化した膜は低抵抗率、高透過率を有するという各種の課題を同時に解決するものであり、そのためのスパッタリングターゲット用酸化物焼結体、該焼結体の製造方法、非晶質膜、結晶化膜、該膜の製造方法を提供することである。
本発明者らは、酸化インジウムにゲルマニウムを適切濃度添加した所定の条件で製造した酸化物焼結体がスパッタリングターゲットとして、異常放電等がなく良好な特性を有し、該スパッタリングターゲットを用いて所定の条件で成膜することで得られる膜が非晶質であり、エッチング速度が高く、結晶化温度が適切等の優れた特性を有し、該非晶質膜を適切条件でアニールすることで結晶質膜が得られ、結晶質膜の抵抗率、透過率等の諸特性も優れていることを見出し、本発明を完成した。
かかる知見を基礎として完成した本発明は以下のように特定することができる。
1)酸化インジウムを主成分とし、ゲルマニウムを含有する焼結体であって、ゲルマニウムの含有量が、Ge/(Ge+In)の原子%で6〜16%であり、酸化インジウムとゲルマニウム酸インジウム化合物とが混在しており、ゲルマニウム酸インジウム化合物の平均粒径が10μm以下であり、相対密度が98%以上であり、表面粗さ(Ra)が2μm以下であり、バルク抵抗が0.6mΩcm以下であることを特徴とする透明導電膜作製用酸化物焼結体ターゲット。
2)平均粒径が1.5μm以下で揮発性不純物含有量が500ppm以下である酸化インジウム粉末、および平均粒径が1.5μm以下で揮発性不純物含有量が500ppm以下である酸化ゲルマニウムを原料として、微粉砕後の酸化インジウム及び酸化ゲルマニウムの混合原料の平均粒径を0.8μm以下として、焼結温度を1400〜1550℃の範囲で焼結することを特徴とする1)に記載の酸化物焼結体ターゲットの製造方法。
3)酸化インジウムを主成分とし、ゲルマニウムを含有する透明導電膜であって、ゲルマニウムの含有量が、Ge/(Ge+In)の原子%で6〜16%であり、非晶質であり、抵抗率が0.9mΩcm以下であり、可視光透過率が80%以上であり、シュウ酸によるエッチング速度が20Å/秒以上であり、結晶化温度が200〜300℃であることを特徴とする透明導電膜。
4)酸化インジウムを主成分とし、ゲルマニウムを含有する透明導電膜であって、ゲルマニウムの含有量が、Ge/(Ge+In)の原子%で6〜16%であり、結晶質であり、抵抗率が0.4mΩcm以下であり、可視光透過率が90%以上であることを特徴とする透明導電膜。
5)スパッタリング法で3)に記載の透明導電膜を製造する方法であって、1)に記載の焼結体ターゲットを用い、基板を加熱することなく、スパッタリング成膜時の雰囲気ガスがアルゴンと酸素の混合ガスであって、雰囲気ガス中の酸素の含有量が雰囲気ガス全体の5%以下であり、成膜速度が40Å/秒以下であることを特徴とする方法。
6)スパッタリング法で3)に記載の透明導電膜を製造する方法であって、1)に記載の焼結体ターゲットを用い、基板を加熱することなく、成膜時の雰囲気ガスがアルゴンであり、成膜速度が40Å/秒以下であることを特徴とする方法。
7)4)に記載の結晶質透明導電膜を製造する方法であって、3)に記載の透明導電膜をエッチング加工した後に、当該膜を200〜300℃の温度範囲でアニールすることによって結晶質透明導電膜を得ることを特徴とする方法。
以上のように、本発明によれば、スパッタ成膜時に水添加する必要がなく、高電力印加による高速成膜をアーキング等の異常放電がなく実施できるスパッタリングターゲットが得られ、スパッタ成膜によって平坦性に優れ、エッチング速度が大きく生産性に優れ、エッチング後にエッチング残渣が残ることがない非晶質透明導電膜が得られ、その非晶質透明導電膜の結晶化温度は300℃以下とあまり高温でなく、結晶化した膜は低抵抗率、高透過率を有するため、これらスパッタリングターゲット、非晶質透明導電膜、結晶質透明導電膜は、液晶ディスプレイ等に使用される場合等に非常に有用である。
以下に本発明の内容、特に、発明を規定する語句の意味や発明特定事項の範囲の設定理由等について詳細に説明する。
<1.焼結体ターゲット>
1−1 組成
本発明に係る焼結体ターゲットは、酸化インジウムを主成分とし、ゲルマニウムを含有し、ゲルマニウムの含有量がGe/(Ge+In)の原子%で6〜16%であり、酸化インジウムとゲルマニウム酸インジウム化合物とが混在している。
酸化インジウムが主成分であるとは、酸化インジウムにゲルマニウムを添加することで構成される本ターゲットの組成において、酸化インジウムがゲルマニウム酸インジウムを含めた本ターゲットに含まれる他の化合物よりも高濃度であり、また、本ターゲット作製過程において混入してくる、あるいは、原料に不可避的に混入している不純物濃度よりも非常に高濃度であることを意味している。
酸化インジウムを主成分として、添加元素としてゲルマニウムを含有させる際、ゲルマニウムはn型ドナーとして働き、抵抗率を低下させる効果があるが、ゲルマニウム添加量が少なすぎると、充分なキャリア電子を放出させることができずに抵抗率が充分に小さくならない。一方、ゲルマニウム添加量が多すぎると、イオン化不純物散乱を増加させて、移動度が低下するために抵抗率が大きくなってしまう。
また、ゲルマニウム添加は、その原子半径が1.22Åとインジウムの原子半径である1.44Åと比較して非常に小さく、ゲルマニウムがインジウムサイトに置換する際に、結晶構造に大きな歪を生じさせて結晶構造が崩れて非晶質の膜となり易いために、スパッタ成膜で得られる膜の非晶質化に効果があるが、ゲルマニウム添加量が少なすぎると、膜全体が非晶質とはならずに一部が結晶化してしまって、エッチング時に残渣として残ってしまう。一方、ゲルマニウム添加量が多すぎると、結晶化温度が高くなりすぎてしまい、膜を結晶化させることによって発現する優れた特性を発揮させることができない。
上記のように、ターゲットおよび透明導電膜の抵抗率を低減させ、かつ、非晶質透明導電膜の結晶化温度をあまりに高温にさせない等の観点から適切なゲルマニウム添加量は、Ge/(Ge+In)の原子%で6〜16%であり、好ましくは12〜14%である。
ゲルマニウム酸インジウムとは、インジウムとゲルマニウムおよび酸素が結合した化合物を表現するものであり、主としてIn2Ge27から形成されるが、一部においてこの化学的量論組成からずれが多少生じていたりしても、それらをも含めてゲルマニウム酸インジウムに含めるものとする。ターゲット中のゲルマニウム酸インジウム平均粒径は、ターゲット表面の100μm×100μmの視野範囲を電界放射型走査電子顕微鏡で組成分析をすることによって、ゲルマニウム酸インジウムと判断された領域の粒径を画像処理して算出して円相当として得られた径である。本測定では、日本電子株式会社製の高性能フィールドエミッション電子プローブマイクロアナライザJXA-8500F装置を用いた。
本発明の焼結体ターゲットは、酸化インジウムとゲルマニウム酸インジウムの2相からなるのであるが、これら2相では電気抵抗に違いがあり、前者の方が低抵抗である。従って、一般的には、スパッタ成膜時にアルゴンイオンによる電荷が優先的に前者に流れ込み、後者は、電荷が蓄積されて、蓄積限界を超えるとアーキングという異常放電が発生してしまう。しかしながら、高抵抗であるゲルマニウム酸インジウムの平均粒径が小さければ、蓄積電荷の酸化インジウムへ流出量が増加するので、異常放電が抑制される。そのために必要なゲルマニウム酸インジウム平均粒径は10μm以下、好ましくは5μm以下である。
1−2 相対密度
焼結体の相対密度は水でのアルキメデス法で測定した焼結密度の焼結体の理論密度との比率である、(焼結密度/理論密度)×100(%)から算出した。焼結体の相対密度が低いと、その焼結体をターゲットとした長時間のスパッタリング成膜時において、ターゲット表面にノジュールと呼ばれる黒色針状突起物が形成され易くなってしまい、その部分を起点とした異常放電が発生してしまう。従って、焼結体相対密度は98%以上、好ましくは99%以上である。
1−3 表面粗さ
表面粗さ(Ra)とはJIS規格のJISB0601−2001で規定する算術平均粗さのことであり、触針式表面粗さ計を用いて所定の基準長の測定結果から算出することができる。本測定では、Vecco社製Dektak8 STYLIS PROFILER装置を用いた。表面粗さが大きいと、その焼結体をターゲットとした長時間のスパッタリング成膜時において、ターゲット表面にノジュールと呼ばれる黒色針状突起物が形成され易くなってしまい、その部分を起点とした異常放電が発生してしまう。従って、表面粗さRaは2μm以下、好ましくは1μm以下である。
1−4 バルク抵抗
バルク抵抗とはターゲットの抵抗を示す値であり、四端子法によって測定することができる。バルク抵抗の単位は、体積抵抗率を厚みの単位である長さで除したものであるために、Ωと同様であり、ΩやΩ/sqとの表現もあるが、通例に従って、mΩcmと表現した。本測定ではエヌエスピエス社製抵抗率測定器で25℃で測定した。バルク抵抗が大きいとその焼結体をターゲットとして、スパッタを行った場合に、異常放電が発生しやすくなる。従って、バルク抵抗は0.6mΩcm以下、好ましくは0.4mΩcm以下である。
<2.焼結体の製造方法>
2−1 酸化インジウム及び酸化ゲルマニウムの平均粒径
原料である酸化インジウム及び酸化ゲルマニウムの平均粒径とは、粒度分布測定装置で測定される原料粉の粒径特性値でD50と表現されるものであり、粒度分布における累積体積が50%となる粒度のことである。本測定では、株式会社堀場製作所製のレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置LA-920を用いた。原料粉粒径は酸化インジウムおよび酸化ゲルマニウムとも平均粒径が、共に1.5μm以下、好ましくは0.5〜1.2μmとする。平均粒径が1.5μmを超えると、焼結密度が充分高くならない場合があり、このような粒径範囲内とすることで、高密度の焼結体を得ることができる。
もっとも、平均粒径がこの範囲外であっても、後の微粉砕工程で平均粒径を所定の範囲とすることによっても、高密度焼結体を得ることは可能であるが、微粉砕工程自体の手間や不純物の混入の不都合が生じるし、更に、微粉砕前に原料紛の仮焼工程があると、原料紛の粒径は当初より増加しているために、微粉砕で粒径を小さくする手間がより大きくなるので、当初から原料粉粒径が小さい方が好ましい。
2−2 揮発性不純物
原料中の揮発性不純物とは、原料を構成する酸化インジウムおよび酸化ゲルマニウム以外の元素や化合物であって、原料を高温にすると原料から気体の形態で放出される物のことであり、本発明では、塩素、硫黄およびこれらのイオン、窒素酸化物やそのイオン、硫化物やそのイオン、特にアンモニウムイオン、硝酸イオン、硫酸イオンを意味する。このような揮発性不純物の濃度は、合計で500ppm以下、望ましくは100ppm以下、更に望ましくは50ppm以下である。このような揮発性不純物が濃度500ppmを超えて原料に含まれていると、焼結時の比較的低温ではガス成分として揮発しないまま酸化物原料粉中に残留して、高温になった際に揮発することで、焼結体内部にガスの膨れや焼結体の破裂、焼結体密度低下等を引き起こしてしまう。不純物濃度はICP(高周波誘導結合プラズマ)分析法によって測定可能である。
2−3 混合原料の平均粒径
微粉砕後の混合原料の平均粒径とは、酸化インジウムおよび酸化ゲルマニウムが混合された混合原料について、平均粒径を測定した時の値であり、原料紛の粒径測定方法と装置によって測定することができる。微粉砕後の混合原料の平均粒径が0.8μmを超えていると焼結性が悪くなり、高密度焼結体を得る障害となる。
<3.透明導電膜>
3−1 非晶質透明導電膜の組成
酸化インジウムを主成分とし、ゲルマニウムを含有する非晶質透明導電膜中のゲルマニウムの適切濃度範囲は、酸化インジウムと酸化ゲルマニウムの合計の重量に対する酸化ゲルマニウムの重量で5〜12%である。更に好ましくは8〜11%である。ゲルマニウム濃度がこれらの濃度の範囲外であると、結晶化後の透明導電膜の抵抗率があまり小さくならない。更に、特に、ゲルマニウム濃度が12%より高いと、非晶質透明導電膜の結晶化温度が300℃を超える高温となってしまって生産性上問題が生ずる。
3−2 非晶質
透明導電膜が非晶質であるとは、膜中に結晶質を有さないということであり、その判定はX線回折およびエッチング評価で行った。具体的には、透明導電膜のX線回折測定(XRD測定)で酸化インジウム結晶およびゲルマニウム酸インジウム結晶に起因する特有のピークがなく、かつ、シュウ酸二水和物(COOH)2・2H2Oを純水と、シュウ酸:純水=5:95の重量比率で混合した液をエッチャントとして、液温を40℃に保つように恒温槽に入れて、透明導電膜をその膜厚半分程度の厚さまでエッチングした時に、エッチング後の膜表面に結晶質ITOがエッチングされずに残ってしまうことによって発生するエッチング残渣が認められないことで、その膜は非晶質であると判定した。X線回折測定装置としては、株式会社リガク製のX線回折装置RINT1100を用いた。
3−3 膜の抵抗率
膜の抵抗率は膜厚とファンデアパウ法でのホール測定によって求めることができる。本測定で膜厚は、Vecco社製Dektak8 STYLIS PROFILER装置を用い、ホール測定は東陽テクニカ製RESITEST8200装置を用いた。非晶質透明導電膜の抵抗率が、0.9mΩcmを超えると、結晶化後の透明導電膜の抵抗率が充分低くならない。
3−4 膜の可視光透過率
膜の可視光透過率とは、波長550nmにおける膜の透過率であり、本測定では島津製作所製UV-2450分光光度計を用いた。非晶質透明導電膜の可視光透過率が80%より小さいと、結晶化後の透明導電膜の透過率が充分高くならずに透明性に問題が生ずる。
3−5 エッチング速度
シュウ酸によるエッチング速度は、膜のエッチング時間とエッチングされた膜厚から算出した。エッチングの具体的方法は、シュウ酸二水和物(COOH)2・2H2Oを純水と、シュウ酸:純水=5:95の重量比率で混合した液をエッチャントとして、液温を40℃に保つように恒温槽に入れて、ガラス基板上に成膜した透明導電膜を攪拌することで行った。シュウ酸によるエッチング速度が20Å/秒より小さいと生産性に劣る。
3−6 結晶化温度
非晶質透明導電膜の結晶化温度とは、非晶質の膜が全部結晶化するために必要な最低温度であり、厳密には、結晶化温度は膜がその温度になっている時間と相関があり、高温であれば短時間で、ある程度低温であっても長時間たてば結晶化する場合もあり、一義的決定はできないとも言えるが、本発明では、非晶質膜を1時間その温度にしておいて、全部の膜が結晶化した時に、その温度を膜の結晶化温度とした。設定温度は5℃刻みで変化させて結晶化の状況を評価した。
3−7 結晶質
全部の膜が結晶化したことの確認は、X線回折測定装置で、酸化インジウム結晶に対応した特有の回折ピークの存在で行った。結晶化温度は200〜300℃であることが望ましい。200℃より低いと意図せぬ加熱での結晶化が一部に生じてしまうこともあり、300℃を超えると結晶化に必要な温度があまり高温過ぎるために、エネルギーや時間コストを要すると共に、別の特性へ悪影響を及ぼすこともある。結晶化温度は、より好ましくは200〜280℃、更に好ましくは200〜250℃である。
3−8 結晶質透明導電膜の組成
酸化インジウムを主成分とし、ゲルマニウムを含有する結晶質透明導電膜中のゲルマニウムの適切濃度範囲は、酸化インジウムと酸化ゲルマニウムの合計の重量に対する酸化ゲルマニウムの重量で5〜12%である。更に好ましくは8〜11%である。ゲルマニウム濃度がこれらの濃度の範囲外であると、結晶質透明導電膜の抵抗率があまり小さくならない。
以下に本発明に係る酸化物焼結体、透明導電膜等の好適な製造方法について説明する。
(酸化物焼結体の製造方法)
本発明の酸化物焼結体を製造するための原料としては、炭酸インジウムや炭酸ゲルマニウムなどの炭酸化物やその他の化合物等、酸化物の形態以外のものを使用することもできるが、取り扱いの容易さや得られる焼結体特性等の観点からは酸化物形態の原料であることが好ましい。
まず、原料である酸化インジウム粉末と酸化ゲルマニウム粉末とを所定の割合で秤量、混合する。混合が不充分であると焼結体中に組成の偏りが生じて、抵抗率の異なる領域が存在してしまい、スパッタ成膜時に高抵抗率領域での帯電等で異常放電が生じてしまうことがある。
混合の方法としては各種の方法があるが、混合装置としてスーパーミキサーを用いて、毎分2000〜4000回転程度の高速回転で、約2〜5分程度の混合を行うことが望ましい。このような条件での混合によって、原料紛の充分な混合をすることができる。なお、原料粉は酸化物であるために混合時の雰囲気ガスは、特に原料の酸化を防止する等の考慮が必要ないために大気であってもかまわない。
次の段階で、大気雰囲気中で1250〜1350℃、4〜6時間保持の仮焼工程を入れて、原料間の固溶を促進させておくことも有効である。仮焼工程の効果としては、焼結体の組成均一化が一層促進される、ゲルマニウムのインジウムサイトへの置換が促進される、仮焼温度以下で揮発する不純物成分の除去をする、等々があり、特性が優れて安定した高密度焼結体を得るために有効である。
次に、混合紛の微粉砕を行う。これは原料紛のターゲット中での均一分散化や焼結体高密度化のためであり、粒径の大きい原料粉があると、場所による組成むらが生じてしまう。特に、酸化ゲルマニウムは絶縁性なので、スパッタ成膜時の異常放電の原因となってしまう。微粉砕は原料粉の平均粒径が、0.8μm以下、好ましくは0.6μm以下となるまで行うことが望ましく、このような小さな粒径とすることで、焼結体の高密度化等が可能となる。微粉砕の具体的方法としては、混合原料粉に水を加えて、固形分40〜60重量%のスラリーとして、直径1mmのジルコニアビーズで1.5〜3.0時間程度の微粉砕を行う。
次に、混合粉の造粒を行う。これは、原料粉の流動性を良くして、プレス成型時の充填状況を充分良好にするためである。バインダーの役割を果たすPVA(ポリビニルアルコール)をスラリー1kgあたり100〜200ccの割合で混合して、造粒機入口温度200〜250℃、出口温度100〜150℃、ディスク回転数8000〜10000rpmの条件で造粒する。
次に、プレス成型を行う。所定サイズの型に造粒粉を充填し、面圧力700〜900kgf/cm2で成形体を得る。面圧力700kgf/cm2以下であると、充分な密度の成形体を得ることができず、面圧力900kgf/cm2以上にする必要も無く、無駄なコストやエネルギーを要するので生産上好ましくない。
最後に焼結を行う。焼結温度は1400〜1550℃で、保持時間は4〜10時間、昇温速度は4〜6℃/分、降温は炉冷で行うことが好ましい。焼結温度が1400℃より低いと、焼結体の密度が充分大きくならず、1550℃を超えると焼結体からの揮発等による密度低下や炉ヒーター寿命が低下してしまう。保持時間が4時間より短いと、原料粉間の反応が充分進まず、焼結体の密度が充分大きくならず、焼結時間が10時間を越えると、反応は充分起きているので、不必要なエネルギーと時間を要する無駄が生じて生産上好ましくない。
昇温速度が4℃/分より小さいと、所定温度になるまでに不必要に時間を要してしまい、昇温速度が6℃/分より大きいと、炉内の温度分布が均一に上昇せずに、むらが生じてしまう。このようにして得られた焼結体の密度は、相対密度で98〜100%、例えば約99.9%、バルク抵抗は0.1〜0.5mΩcm程度となる。
(スパッタリングターゲットの製造方法)
上記のような製造条件によって得られた酸化物焼結体の外周の円筒研削、面側の平面研削をして、厚さ4〜6mm程度、直径はスパッタ装置に対応したサイズに加工し、銅製のバッキングプレートに、インジウム系合金などをボンディングメタルとして、貼り合わせることでスパッタリングターゲットとすることができる。
(非晶質透明導電膜の製造方法)
基板やスパッタリングターゲットをスパッタ装置内にセットして、炉内の真空度が1×10-4Pa以下とする。炉内の真空度が悪いと残留水分等の影響によって得られる膜の特性が悪くなってしまうことがあるからである。但し、これ以上の高真空にしても膜特性の更なる向上は実現しないのに、要する時間が掛かるため生産性の観点から不都合である。
炉内が上記真空度以下になったら、炉内にアルゴンガスを導入して、アルゴンガス圧を0.4〜0.8Paとする。アルゴンガス圧が低すぎると、基板に到達するターゲット構成元素の粒子の運動エネルギーが大きくなりすぎて、基板へのダメージが大きく、膜抵抗率が増加してしまうとともに、膜が一部結晶化してしまう場合がある。また、逆にアルゴンガス圧が高すぎると、基板に到達するターゲット構成元素の粒子の運動エネルギーが小さくなりすぎて、緻密な膜が形成されず、抵抗率が高くなってしまう。
スパッタ時の雰囲気ガスとしては、アルゴンに酸素ガスを添加した混合ガスを用いることもできる。酸素ガスを添加すると、スパッタ成膜で得られる膜の透過率が向上し、膜の抵抗率が低下する効果を得ることができる。添加する酸素ガスの濃度は5%以下程度とすることが好ましい。酸素濃度が5%を超えると、膜抵抗率が高くなってしまう。酸素ガスを添加せずにアルゴンのみの雰囲気ガスによって成膜しても、その後のアニールで結晶化膜の特性が良いものが得られる。
スパッタ成膜中に雰囲気ガスをスパッタチャンバー内に導入する方法としては、アルゴンと酸素の混合ガスの場合は、それぞれのガスを別々のマスフローコントロラーで制御して、流量比を制御することでスパッタチャンバー内に導入されるガスの組成を制御することができる。また、所定の濃度比となっているアルゴンと酸素の混合ガスを用意しておいて、その混合ガスを単一マスフローコントロラーを通じて、スパッタチャンバー内に導入しても良い。
本発明では、基板を加熱することなくスパッタリング成膜を行うが、「基板を加熱することなく」、とは積極的に基板に各種ヒーター等で熱を加える必要がないという意味であり、基板を加熱する手間、エネルギー、時間等を省略しても良好な非晶質膜が得られることを例示的に意味している。一般に、スパッタ成膜法では、スパッタ成膜中に基板上に飛来して来る粒子の持つエネルギーによって、基板を含めた膜全体の温度が上昇していくが、そのことをもって、基板を加熱するとは解釈されず、このような過程で基板が加熱されることは、本発明の範囲に含まれる。更に、膜特性に影響を与えない程度に基板を加熱することまでをも包含する趣旨である。本発明では、具体的には、基板が100℃以下のときには、無加熱として定義する。
但し、スパッタ雰囲気ガスへ酸素ガス添加による膜の抵抗率や透過率への効果は、スパッタ成膜後の膜についてのものであり、アルゴンガスのみを雰囲気ガスとしてスパッタ成膜した膜をアニールして得られる結晶質膜の抵抗率や可視光透過率は、所定の条件によって作製すると、より良いものが得られる。
ターゲットと基板間隔は50〜110mmとするのが好ましい。基板間隔が短すぎると成膜時に膜が結晶化してしまうことがあり、逆に、長すぎると成膜速度が遅く生産性の問題や緻密な膜が得られないといった問題が生ずる。
スパッタパワーは、例えば、ターゲットサイズが8インチの場合は、300〜900Wとするのが好ましい。スパッタパワーが小さすぎると生産性に劣り、逆に、大き過ぎると膜が結晶化してしまうという問題が生じるためである。
スパッタ方式は直流マグネトロンスパッタ(DCスパッタ)とするのが好ましい。交流電源スパッタ(RFスパッタ)での同一パワーでの成膜速度と比較すると、成膜速度が高く、生産性に優れるためである。
成膜速度は成膜時間と膜厚とから算出できる。成膜速度が40Å/秒を超えるほどのパワーにまで高くして成膜すると、得られた膜の一部が結晶化してしまって、エッチング時に残渣として残ってしまったり、ターゲットに与える高エネルギーによる衝撃やターゲットの冷却不充分によるターゲット中の温度差に起因したターゲットの割れの発生などが生じたりすることがある。
(結晶質透明導電膜の製造方法)
上記のようにして得られた非晶質透明導電膜を結晶化させて結晶質透明導電膜を得るには、例えば、該非晶質透明導電膜を窒素雰囲気下で、添加元素によって若干異なるが、200〜300℃程度の温度で1時間アニールをすることで得ることができる。膜が結晶化したことは回折測定装置で、酸化インジウム結晶に対応した特有の回折ピークの存在で確認できる。
以下に本発明を実施例でさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。すなわち、本願発明の技術的思想の範囲での、変更、他の実施態様は、全て本願発明に含まれるものである。
(実施例1)
平均粒径が1.0μmである酸化インジウム(In23)粉末と平均粒径が1.0μmである酸化ゲルマニウム(GeO2)粉末を、酸化物重量比でIn23:GeO2=95:5(wt%)となるように秤量し、大気雰囲気中でスーパーミキサーにより、毎分3000回転、3分間の混合を行った。Ge/(In+Ge)=6.5原子%。なお、これらの原料に含まれる揮発性不純物濃度は10ppm以下であった。
次に、混合粉に水を加えて、固形分50%のスラリーとして、直径1mmのジルコニアビーズで2時間の微粉砕を行い、混合粉の平均粒径(D50)を0.6μmとした。その後、PVA(ポリビニルアルコール)をスラリー1kgあたり125ccの割合で混合して、造粒機入口温度220℃、出口温度120℃、ディスク回転数9000rpmの条件で造粒した。
さらに、8インチターゲット直径となるような所定のサイズの型に造粒粉を充填し、面圧力780kgf/cm2でプレスして成形体を得た。そして、成形体を昇温速度5℃/分で1500℃まで昇温させ、1500℃で5時間保持後、降温は炉冷とする焼結を行った。
得られた焼結体中のゲルマニウム酸インジウムの平均粒径は2μm、相対密度は99%、表面粗さは1.0μm、バルク抵抗は0.56mΩcmであった。
この焼結体の外周の円筒研削、面側の平面研削をして、厚さ約5mm、直径8インチとし、銅製のバッキングプレートに、インジウムをボンディングメタルとして、貼り合わせることでスパッタリングターゲットとした。
上記スパッタリングターゲットをキヤノンアネルバ社製のSPF-313Hスパッタ装置に取り付け、雰囲気ガスとしてアルゴン100%ガスを用い、その圧力を0.5Pa、ターゲットと基板間隔を80mm、無アルカリガラスを基板として、基板無加熱で、スパッタパワーを785W、成膜時間22秒で直流マグネトロンスパッタ成膜して、膜厚約550Åの膜を得た。スパッタ中に異常放電は発生せず、その後、20kWhスパッタ成膜後でもターゲット表面にノジュールの発生は認められなかった。
上記スパッタ成膜によって得られた膜のXRD測定において、結晶性を示すピークは認められず、シュウ酸二水和物(COOH)2・2H2Oを純水と、シュウ酸:純水=5:95の重量比率で混合した液をエッチャントとして、液温を40℃に保つように恒温槽に入れて、エッチングを行ったが、エッチング残渣は認められず、膜は非晶質であった。また、膜の抵抗率は0.74mΩcm、波長550nmにおける膜の透過率は85.5%、上記シュウ酸エッチャントでのエッチング速度は21.8Å/秒、結晶化温度は230℃であった。
上記非晶質膜を300℃、1時間、窒素雰囲気ガス中でアニールした膜のXRD測定において、結晶性を示すピークが認められ、膜は結晶質であった。膜の抵抗率は0.39mΩcm、波長550nmにおける膜の透過率は90.7%であった。
(実施例2)
酸化物重量比をIn23:GeO2=92:8(wt%)(Ge/(In+Ge)=10.3原子%)となるようにした以外は、実施例1と同様の条件で、焼結体を作製し、得られた焼結体中のゲルマニウム酸インジウムの平均粒径は3μm、相対密度は99%、表面粗さは1.1μm、バルク抵抗は0.42mΩcmであった。
この焼結体をスパッタリングターゲットとして、実施例1と同様条件でスパッタしたところ、実施例1と同様に異常放電やノジュールの発生は認められなかった。また、実施例1と同様条件でスパッタして得られた膜は、非晶質であり、膜の抵抗率は0.71mΩcm、波長550nmにおける膜の透過率は85.6%、上記シュウ酸エッチャントでのエッチング速度は24.8Å/秒、結晶化温度は235℃であった。
上記非晶質膜を300℃、1時間、窒素雰囲気ガス中でアニールした膜のXRD測定において、結晶性を示すピークが認められ、膜は結晶質であった。膜の抵抗率は0.22mΩcm、波長550nmにおける膜の透過率は92.0%であった。
(実施例3)
酸化物重量比をIn23:GeO2=90:10(wt%)(Ge/(In+Ge)=12.8原子%)となるようにした以外は、実施例1と同様の条件で、焼結体を作製し、得られた焼結体中のゲルマニウム酸インジウムの平均粒径は5μm、相対密度は99%、表面粗さは1.0μm、バルク抵抗は0.36mΩcmであった。
この焼結体をスパッタリングターゲットとして、実施例1と同様条件でスパッタしたところ、実施例1と同様に異常放電やノジュールの発生は認められなかった。また、実施例1と同様条件でスパッタして得られた膜は、非晶質であり、膜の抵抗率は0.69mΩcm、波長550nmにおける膜の透過率は85.8%、上記シュウ酸エッチャントでのエッチング速度は26.0Å/秒、結晶化温度は240℃であった。
上記非晶質膜を300℃、1時間、窒素雰囲気ガス中でアニールした膜のXRD測定において、結晶性を示すピークが認められ、膜は結晶質であった。膜の抵抗率は0.17mΩcm、波長550nmにおける膜の透過率は93.5%であった。
(実施例4)
酸化物重量比をIn23:GeO2=88:12(wt%)(Ge/(In+Ge)=15.3原子%)となるようにした以外は、実施例1と同様の条件で、焼結体を作製し、得られた焼結体中のゲルマニウム酸インジウムの平均粒径は7μm、相対密度は99%、表面粗さは1.1μm、バルク抵抗は0.48mΩcmであった。
この焼結体をスパッタリングターゲットとして、実施例1と同様条件でスパッタしたところ、実施例1と同様に異常放電やノジュールの発生は認められなかった。また、実施例1と同様条件でスパッタして得られた膜は、非晶質であり、膜の抵抗率は0.82mΩcm、波長550nmにおける膜の透過率は85.7%、上記シュウ酸エッチャントでのエッチング速度は27.5Å/秒、結晶化温度は245℃であった。
上記非晶質膜を300℃、1時間、窒素雰囲気ガス中でアニールした膜のXRD測定において、結晶性を示すピークが認められ、膜は結晶質であった。膜の抵抗率は0.22mΩcm、波長550nmにおける膜の透過率は93.0%であった。
(実施例5)
実施例3で得られた焼結体をスパッタリングターゲットとして、スパッタ時の雰囲気ガスをアルゴンの代わりに、アルゴンと酸素の混合ガスであって、酸素濃度が1%であるガスを使用した以外は、実施例1と同様条件でスパッタしたところ、実施例1と同様に異常放電やノジュールの発生は認められなかった。
また、実施例1と同様条件でスパッタして得られた膜は、非晶質であり、膜の抵抗率は0.57mΩcm、波長550nmにおける膜の透過率は86.3%、上記シュウ酸エッチャントでのエッチング速度は26.1Å/秒、結晶化温度は240℃であった。
上記非晶質膜を300℃、1時間、窒素雰囲気ガス中でアニールした膜のXRD測定において、結晶性を示すピークが認められ、膜は結晶質であった。膜の抵抗率は0.32mΩcm、波長550nmにおける膜の透過率は91.3%であった。
(実施例6)
実施例3で得られた焼結体をスパッタリングターゲットとして、スパッタ時の雰囲気ガスをアルゴンの代わりに、アルゴンと酸素の混合ガスであって、酸素濃度が2%であるガスを使用した以外は、実施例1と同様条件でスパッタしたところ、実施例1と同様に異常放電やノジュールの発生は認められなかった。
また、実施例1と同様条件でスパッタして得られた膜は、非晶質であり、膜の抵抗率は0.47mΩcm、波長550nmにおける膜の透過率は87.2%、上記シュウ酸エッチャントでのエッチング速度は26.0Å/秒、結晶化温度は240℃であった。
上記非晶質膜を300℃、1時間、窒素雰囲気ガス中でアニールした膜のXRD測定において、結晶性を示すピークが認められ、膜は結晶質であった。膜の抵抗率は0.36mΩcm、波長550nmにおける膜の透過率は91.5%であった。
(比較例1)
酸化物重量比をIn23:GeO2=97:3(wt%)(Ge/(In+Ge)=3.9原子%)となるようにした以外は、実施例1と同様の条件で、焼結体を作製し、得られた焼結体中のゲルマニウム酸インジウムの平均粒径は2μm、相対密度は99%、表面粗さは1.0μm、バルク抵抗は0.59mΩcmであった。
この焼結体をスパッタリングターゲットとして、実施例1と同様条件でスパッタしたところ、実施例1と同様に異常放電やノジュールの発生は認められなかった。また、実施例1と同様条件でスパッタして得られた膜は、非晶質であり、膜の抵抗率は0.80mΩcm、波長550nmにおける膜の透過率は85.6%、上記シュウ酸エッチャントでのエッチング速度は18.0Å/秒、結晶化温度は225℃であった。
上記非晶質膜を300℃、1時間、窒素雰囲気ガス中でアニールした膜のXRD測定において、結晶性を示すピークが認められ、膜は結晶質であった。膜の抵抗率は0.57mΩcm、波長550nmにおける膜の透過率は90.7%であった。
(比較例2)
酸化物重量比をIn23:GeO2=85:15(wt%)(Ge/(In+Ge)=19.0原子%)となるようにした以外は、実施例1と同様の条件で、焼結体を作製し、得られた焼結体中のゲルマニウム酸インジウムの平均粒径は9μm、相対密度は99%、表面粗さは1.1μm、バルク抵抗は1.20mΩcmであった。
この焼結体をスパッタリングターゲットとして、実施例1と同様条件でスパッタしたところ、実施例1と同様に異常放電やノジュールの発生は認められなかった。また、実施例1と同様条件でスパッタして得られた膜は、非晶質であり、膜の抵抗率は1.41mΩcm、波長550nmにおける膜の透過率は83.2%、上記シュウ酸エッチャントでのエッチング速度は30.0Å/秒であった。この膜は600℃でのアニールによっても結晶化しなかった。
上記非晶質膜を300℃、1時間、窒素雰囲気ガス中でアニールした膜の抵抗率は0.41mΩcm、波長550nmにおける膜の透過率は83.8%であった。
(比較例3)
平均粒径が2.0μmである酸化インジウム(In23)粉末と平均粒径が2.0μmである酸化ゲルマニウム(GeO2)粉末を、酸化物重量比でIn23:GeO2=90:10(wt%)(Ge/(In+Ge)=12.8原子%)となるように秤量し、大気雰囲気中でスーパーミキサーにより、毎分3000回転、3分間の混合を行った。なお、これらの原料に含まれる揮発性不純物濃度は10ppm以下であった。
次に、混合粉に水を加えて、固形分50%のスラリーとして、直径1mmのジルコニアビーズで2時間の微粉砕を行い、混合粉の平均粒径(D50)を1.5μmとした。以下は、実施例1と同様の条件で焼結体を作製した。
得られた焼結体中のゲルマニウム酸インジウムの平均粒径は12μm、相対密度は87%、表面粗さは2.0μm、バルク抵抗は0.58mΩcmであった。
この焼結体をスパッタリングターゲットとして、実施例1と同様条件でスパッタしたところ、1分間に12回の異常放電が認められた。
(比較例4)
焼結温度を1350℃にした以外は、実施例1と同様の条件で焼結体を作製し、得られた焼結体中のゲルマニウム酸インジウムの平均粒径は3μm、相対密度は83%、表面粗さは3.0μm、バルク抵抗は10mΩcmであった。
この焼結体をスパッタリングターゲットとして、実施例1と同様条件でスパッタしたところ、1分間に23回の異常放電が認められ、20kWh後のターゲット表面にはノジュールが確認された。
(比較例5)
揮発性不純物である塩素イオン濃度が800ppmの酸化ガリウム粉を原料として用いた外は、実施例1と同様条件で焼結体を作製した。焼結後に焼結体中央部には膨れが生じて、端の部分は焼結体の一部が剥がれてしまった。
(比較例6)
実施例3で作製した焼結体をターゲットとして用いて、基板を200℃に加熱した以外は、実施例3と同様の条件で、スパッタ成膜をした。得られた膜は結晶質であり、エッチング後の表面にエッチング残渣が確認された。ターゲット自体は本発明の材料であるが、できあがった膜は本発明から外れる。
(比較例7)
実施例3で作製した焼結体をターゲットとして用いて、成膜速度を80Å/秒した以外は、実施例3と同様の条件で、スパッタ成膜をした。得られた膜は結晶質であり、エッチング後の表面にエッチング残渣が確認された。ターゲット自体は本発明の材料であるが、できあがった膜は本発明から外れる。
(比較例8)
実施例3で作製した焼結体をターゲットとして用いて、成膜時の雰囲気ガス中の酸素濃度を7%とした以外は、実施例3と同様の条件で、スパッタ成膜をした。得られた膜の抵抗率は0.62mΩcmだった。ターゲット自体は本発明の材料であるが、できあがった膜は本発明から外れる。

Claims (7)

  1. 酸化インジウムを主成分とし、ゲルマニウムを含有する焼結体であって、ゲルマニウムの含有量が、Ge/(Ge+In)の原子%で6〜16%であり、酸化インジウムとゲルマニウム酸インジウム化合物とが混在しており、ゲルマニウム酸インジウム化合物の平均粒径が10μm以下であり、相対密度が98%以上であり、表面粗さ(Ra)が2μm以下であり、バルク抵抗が0.6mΩcm以下であることを特徴とする透明導電膜作製用酸化物焼結体ターゲット。
  2. 平均粒径が1.5μm以下で揮発性不純物含有量が500ppm以下である酸化インジウム粉末、および平均粒径が1.5μm以下で揮発性不純物含有量が500ppm以下である酸化ゲルマニウムを原料として、微粉砕後の酸化インジウム及び酸化ゲルマニウムの混合原料の平均粒径を0.8μm以下として、焼結温度を1400〜1550℃の範囲で焼結することを特徴とする請求項1に記載の酸化物焼結体ターゲットの製造方法。
  3. 酸化インジウムを主成分とし、ゲルマニウムを含有する透明導電膜であって、ゲルマニウムの含有量が、Ge/(Ge+In)の原子%で6〜16%であり、非晶質であり、抵抗率が0.9mΩcm以下であり、可視光透過率が80%以上であり、シュウ酸によるエッチング速度が20Å/秒以上であり、結晶化温度が200〜300℃であることを特徴とする透明導電膜。
  4. 酸化インジウムを主成分とし、ゲルマニウムを含有する透明導電膜であって、ゲルマニウムの含有量が、Ge/(Ge+In)の原子%で6〜16%であり、結晶質であり、抵抗率が0.4mΩcm以下であり、可視光透過率が90%以上であることを特徴とする透明導電膜。
  5. スパッタリング法で請求項3に記載の透明導電膜を製造する方法であって、請求項1に記載の焼結体ターゲットを用い、基板を加熱することなく、スパッタリング成膜時の雰囲気ガスがアルゴンと酸素の混合ガスであって、雰囲気ガス中の酸素の含有量が雰囲気ガス全体の5%以下であり、成膜速度が40Å/秒以下であることを特徴とする方法。
  6. スパッタリング法で請求項3に記載の透明導電膜を製造する方法であって、請求項1に記載の焼結体ターゲットを用い、基板を加熱することなく、成膜時の雰囲気ガスがアルゴンであり、成膜速度が40Å/秒以下であることを特徴とする方法。
  7. 請求項4に記載の結晶質透明導電膜を製造する方法であって、請求項3に記載の透明導電膜をエッチング加工した後に、当該膜を200〜300℃の温度範囲でアニールすることによって結晶質透明導電膜を得ることを特徴とする方法。
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