JP2010201830A - 液体噴射ヘッド及び液体噴射装置並びに圧電素子 - Google Patents
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Abstract
【課題】圧電素子の電流のリークを抑制することができる液体噴射ヘッド及び液体噴射装置並びに圧電素子を提供する。
【解決手段】ノズル開口に連通する圧力発生室と、第1電極と、該第1電極上に形成され厚さが5μm以下の圧電体層と、該圧電体層の前記第1電極とは反対側に形成された第2電極と、を備え、前記圧力発生室に圧力変化を生じさせる圧電素子と、を具備し、前記圧電体層は、鉛、ジルコニウム及びチタンを含み、前記第1電極と前記圧電体層との界面におけるショットキーバリアーの値が0.76eV以上、1.29eV以下である。
【選択図】図11
【解決手段】ノズル開口に連通する圧力発生室と、第1電極と、該第1電極上に形成され厚さが5μm以下の圧電体層と、該圧電体層の前記第1電極とは反対側に形成された第2電極と、を備え、前記圧力発生室に圧力変化を生じさせる圧電素子と、を具備し、前記圧電体層は、鉛、ジルコニウム及びチタンを含み、前記第1電極と前記圧電体層との界面におけるショットキーバリアーの値が0.76eV以上、1.29eV以下である。
【選択図】図11
Description
本発明は、ノズル開口から液体を噴射する液体噴射ヘッド及び液体噴射装置並びに第1電極、圧電体層及び第2電極を具備する圧電素子に関する。
液体噴射ヘッドに用いられる圧電素子としては、電気的機械変換機能を呈する圧電材料、例えば、結晶化した誘電材料からなる圧電体層を、2つの電極で挟んで構成されたものがある。このような圧電素子は、例えば、撓み振動モードのアクチュエーター装置として液体噴射ヘッドに搭載される。液体噴射ヘッドの代表例としては、例えば、インク滴を吐出するノズル開口と連通する圧力発生室の一部を振動板で構成し、この振動板を圧電素子により変形させて圧力発生室のインクを加圧してノズル開口からインク滴として吐出させるインクジェット式記録ヘッドがある。
このようなインクジェット式記録ヘッドに搭載される圧電素子は、例えば、振動板の表面全体に亘って成膜技術により均一な圧電材料層を形成し、この圧電材料層をリソグラフィー法により圧力発生室に対応する形状に切り分けて圧力発生室毎に独立するように圧電素子を形成したものがある(特許文献1参照)
しかしながら、薄膜の圧電材料層を有する圧電素子は、圧電素子にかかる電界が大きくなるため、バルクの圧電材料層と比較すると、その駆動により電流のリークが発生し易い。そして、電流がリークすることにより、圧電素子が発熱や破壊して劣化するという問題が生じる場合がある。なお、このような問題は、インクジェット式記録ヘッドだけではなく、インク以外の液体を噴射する液体噴射ヘッドにも同様に存在する。また、液体噴射ヘッドに用いられる圧電素子に限定されず、他のデバイスに用いられる圧電素子においても同様に存在する。
本発明はこのような事情に鑑み、圧電素子の電流のリークを抑制することができる液体噴射ヘッド及び液体噴射装置並びに圧電素子を提供することを目的とする。
上記課題を解決する本発明の態様は、ノズル開口に連通する圧力発生室と、第1電極と、該第1電極上に形成され厚さが5μm以下の圧電体層と、該圧電体層の前記第1電極とは反対側に形成された第2電極と、を備え、前記圧力発生室に圧力変化を生じさせる圧電素子と、を具備し、前記圧電体層は、鉛、ジルコニウム及びチタンを含み、前記第1電極と前記圧電体層との界面におけるショットキーバリアーの値が0.76eV以上、1.29eV以下であることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
かかる態様では、鉛、ジルコニウム及びチタンを含み厚さが5μm以下の圧電体層を有する圧電素子において、第1電極と圧電体層との界面におけるショットキーバリアーの値が0.76eV以上、1.29eV以下であるので、圧電素子からのリーク電流が抑制され、例えば1.0×10−4μA/cm2以下にすることができる。したがって、発熱や破壊による圧電素子の劣化が防止でき、耐久性に優れた液体噴射ヘッドとなる。
かかる態様では、鉛、ジルコニウム及びチタンを含み厚さが5μm以下の圧電体層を有する圧電素子において、第1電極と圧電体層との界面におけるショットキーバリアーの値が0.76eV以上、1.29eV以下であるので、圧電素子からのリーク電流が抑制され、例えば1.0×10−4μA/cm2以下にすることができる。したがって、発熱や破壊による圧電素子の劣化が防止でき、耐久性に優れた液体噴射ヘッドとなる。
ここで、前記第1電極は、酸化イリジウム及び白金を含むことが好ましい。これによれば、圧電素子からのリーク電流が抑制されると共に、酸化イリジウムを含むことにより圧電体層を形成する際の高温の熱処理により圧電体層を構成する成分が第1電極及びその下地側に拡散するのを防止することができ、また、白金を含むことにより、圧電体層を焼成した際に第1電極の導電性を低下させることなく、第1電極の導電性を確保することができる。
また、前記第1電極は、前記圧電体層側に酸化チタン層を有していることが好ましい。これによれば、第1電極と圧電体層との界面におけるショットキーの値を0.76eV以上、1.29eV以下にし易くなる。
そして前記ショットキーバリアーは、400.0V/μm未満の電界を印加して測定したものであることが好ましい。これによれば、リーク電流を確実に抑制することができると共に、圧電特性(変位特性)も損なわれない。
さらに、本発明の他の態様は、上記態様の液体噴射ヘッドを具備することを特徴とする液体噴射装置にある。かかる態様では、圧電素子からのリーク電流が抑制され、発熱や破壊による圧電素子の劣化が防止された液体噴射ヘッドを具備するため、耐久性に優れた液体噴射ヘッドとなる。
また、本発明の他の態様は、第1電極と、該第1電極上に形成され厚さが5μm以下の圧電体層と、該圧電体層の前記第1電極とは反対側に形成された第2電極とを具備し、前記圧電体層は、鉛、ジルコニウム及びチタンを含み、前記第1電極と前記圧電体層との界面におけるショットキーバリアーの値が0.76eV以上、1.29eV以下であることを特徴とする圧電素子にある。かかる態様では、鉛、ジルコニウム及びチタンを含み厚さが5μm以下の圧電体層を有する圧電素子において、第1電極との界面におけるショットキーバリアーの値が0.76eV以上、1.29eV以下であるので、リーク電流が抑制され例えば1.0μA/cm2以下にすることができる。
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係る液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッドの概略構成を示す分解斜視図であり、図2は、図1の平面図及びそのA−A′断面図である。
図1は、本発明の実施形態1に係る液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッドの概略構成を示す分解斜視図であり、図2は、図1の平面図及びそのA−A′断面図である。
図1及び図2に示すように、本実施形態の流路形成基板10は、シリコン単結晶基板からなり、その一方の面には弾性膜50が形成されている。
流路形成基板10には、複数の圧力発生室12がその幅方向に並設されている。また、流路形成基板10の圧力発生室12の長手方向外側の領域には連通部13が形成され、連通部13と各圧力発生室12とが、各圧力発生室12毎に設けられたインク供給路14及び連通路15を介して連通されている。連通部13は、後述する保護基板のリザーバー部31と連通して各圧力発生室12の共通のインク室となるリザーバーの一部を構成する。インク供給路14は、圧力発生室12よりも狭い幅で形成されており、連通部13から圧力発生室12に流入するインクの流路抵抗を一定に保持している。なお、本実施形態では、流路の幅を片側から絞ることでインク供給路14を形成したが、流路の幅を両側から絞ることでインク供給路を形成してもよい。また、流路の幅を絞るのではなく、厚さ方向から絞ることでインク供給路を形成してもよい。本実施形態では、流路形成基板10には、圧力発生室12、連通部13、インク供給路14及び連通路15からなる液体流路が設けられていることになる。
また、流路形成基板10の開口面側には、各圧力発生室12のインク供給路14とは反対側の端部近傍に連通するノズル開口21が穿設されたノズルプレート20が、接着剤や熱溶着フィルム等によって固着されている。なお、ノズルプレート20は、例えば、ガラスセラミックス、シリコン単結晶基板、ステンレス鋼等からなる。
一方、このような流路形成基板10の開口面とは反対側には、上述したように弾性膜50が形成され、この弾性膜50上には、絶縁体膜55が形成されている。さらに、この絶縁体膜55上には、第1電極60と、厚さが5μm以下、好ましくは1〜5μmの圧電体層70と、第2電極80とが、積層形成されて、圧電素子300を構成している。ここで、圧電素子300は、第1電極60、圧電体層70及び第2電極80を含む部分をいう。一般的には、圧電素子300の何れか一方の電極を共通電極とし、他方の電極及び圧電体層70を各圧力発生室12毎にパターニングして構成する。本実施形態では、第1電極60を圧電素子300の共通電極とし、第2電極80を圧電素子300の個別電極としているが、駆動回路や配線の都合でこれを逆にしても支障はない。また、ここでは、圧電素子300と当該圧電素子300の駆動により変位が生じる振動板とを合わせてアクチュエーター装置と称する。なお、上述した例では、弾性膜50、絶縁体膜55及び第1電極60が振動板として作用するが、勿論これに限定されるものではなく、例えば、弾性膜50及び絶縁体膜55を設けずに、第1電極60のみが振動板として作用するようにしてもよい。また、圧電素子300自体が実質的に振動板を兼ねるようにしてもよい。
本実施形態においては、第1電極60は、酸化イリジウム(IrOx)及び白金(Pt)を含むものであり、さらに、圧電体層70側に酸化チタン(TiOx)を主成分とする酸化チタン層を有している。ここで、酸化チタン層は、詳しくは後述するが、圧電体層70を形成する際に用いた種チタンが酸化されることにより形成された層であり、ルチル構造を有している。また、第1電極60が酸化イリジウムを含むことにより圧電体層70を構成する成分が第1電極60及びその下地側に拡散するのが防止され、また、白金を含むことにより第1電極60の導電性が十分に確保することができる。
また、第1電極60上に形成される圧電体層70は、電気機械変換作用を示す圧電材料であり、鉛、ジルコニウム及びチタンを含み、例えばペロブスカイト構造を有する。圧電体層70としては、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等の強誘電体材料や、これに酸化ニオブ、酸化ニッケル又は酸化マグネシウム等の金属酸化物を添加したもの等が好適である。具体的には、チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O3)、ジルコン酸チタン酸鉛ランタン((Pb,La)(Zr,Ti)O3)又は、マグネシウムニオブ酸ジルコニウムチタン酸鉛(Pb(Zr,Ti)(Mg,Nb)O3)等を用いることができる。また、第2電極は、イリジウム(Ir)等からなる。
そして、本発明においては、第1電極60と圧電体層70との界面におけるショットキーバリアー(Schottky barrier)の値が0.76eV以上、1.29eV以下である。このように、第1電極60と圧電体層70との界面におけるショットキーバリアーの値を0.76eV以上、1.29eV以下にすることにより、圧電素子300のリーク電流を抑制することができる。したがって、発熱や破壊による圧電素子300の劣化が防止できる。また、圧電素子300が複数配列して形成されたインクジェット式記録ヘッドにおいては、製造時のばらつき等で一部の圧電素子300から電流のリークが生じる場合があるが、どの圧電素子300からリークが生じているのか判別するのが困難である。しかしながら、ショットキーバリアーの値を制御するという容易な方法で、リークの発生を評価することもできる。なお、ショットキーバリアーの値が0.76未満ではリーク電流が大きく、1.29eVより大きいと圧電体層70に電圧が印加されなくなり、圧電変位を得られなくなる。
ここで、圧電素子300のリーク電流を決める因子として、第1電極と圧電体層70との界面状態に起因するものと、界面ではなくバルク状態に起因するもの、すなわち圧電体層70そのものに起因するものとが考えられる。そして、界面状態に起因するものには、Schottky Emission current(J=A・T2・Exp[−(e・φB−βSE√E)/(KBT)])と、Fowler−Nordheim tunneling current(J=A・E2・Exp[−B/E])がある。また、バルク状態に起因するものには、Poole-Frenkel current(J=A・E・Exp[−(e・φt−βPF√E)/(kBT)])と、Space-charge-limited current(J=A・E+B・(E−E0)2)がある。なお、式中、Jはリーク電流、Eは印加する電界、A,B,E0は定数、φBはショットキーバリアーの値、βSEはショットキー定数、φtはトラップ準位、βPFはプール・フレンケル定数である。これらのうち、どれが圧電素子300のリーク電流の支配的な因子なのかを明確に区別することは、一般的に困難である。
しかしながら、本実施形態の構成、具体的には、鉛、ジルコニウム及びチタンを含み厚さが5μm以下の圧電体層を有する圧電素子300においては、界面状態に起因するSchottky Emission currentが圧電素子300のリーク電流の支配的因子であるため、ショットキーバリアーの値を0.76eV以上、1.29eV以下に規定することで、リーク電流を抑制することができる。換言すると、本発明は、第1電極60と圧電体層70がショットキー接合されリーク電流の支配的因子がSchottky Emission currentである圧電素子300とし、ショットキーバリアーの値を0.76eV以上、1.29eV以下にすることで、リーク電流を抑制するものである。なお、本発明の圧電素子300は、Fowler−Nordheim tunneling current、Poole-Frenkel currentや、Space-charge-limited currentはリーク電流の支配的因子ではないため、Fowler−Nordheim tunneling current、Poole-Frenkel currentや、Space-charge-limited currentに基づく値を規定しても、リーク電流を抑制し難い。
ここで、リーク電流の支配的因子を、本発明のように界面状態ではなく、Poole-Frenkel currentのようにバルク状態に起因するようにした場合、リーク電流を抑制するためには、圧電体層70の材料自体を調整することになる。このように、圧電体層70の材料を所望のリーク電流値になるように調整すると、圧電特性(変位特性)に大きく影響を与えるため、圧電特性の設計の自由度が小さくなる。一方、本発明においては、第1電極60と圧電体層70との界面におけるショットキーバリアーの値を所定値にすることによりリーク電流を抑制するため、圧電体層70のみを調整するバルク状態に起因する場合よりも圧電特性への影響が少なくなり、圧電体層70を所望の圧電特性を発揮するように調整し易くなる。また、圧電体層70を調整しなくてもショットキーバリアーを所定値にすることもできる。
なお、ショットキーバリアーの値は、圧電体層70の種類だけでなく、第1電極の種類、さらには、第1電極60が酸化チタン層を有する場合は酸化チタン層の厚さや酸化の程度、及びこれらのバランスによって調整することができる。また、ショットキーバリアーの値は、通常の方法、具体的には、J.Appl.Phy.,Vol.92,No.10,15 November 2002の6163頁に記載された方法で求めることができる。
このような圧電素子300を流路形成基板10上に形成する方法は特に限定されないが、例えば、以下の方法で製造することができる。なお、図3〜図6は、本発明の実施形態1に係るインクジェット式記録ヘッドの製造方法を示す圧力発生室の長手方向の断面図である。まず、図3(a)に示すように、シリコンウェハーである流路形成基板用ウェハー110の表面に弾性膜50を構成する二酸化シリコン(SiO2)等からなる二酸化シリコン膜51を形成する。次いで、図3(b)に示すように、弾性膜50(二酸化シリコン膜51)上に、酸化ジルコニウム等からなる絶縁体膜55を形成する。
次に、図3(c)に示すように、白金層にイリジウム層を積層した第1電極60をスパッタリング法等により形成する。白金層は、後段の熱処理により圧電体層70を形成する際に、同時に高温の熱処理が行われても導電性を喪失しない材料として選定される。また、イリジウム層は、圧電体層70を形成する際の高温の熱処理により圧電体層70を構成する成分が第1電極60及びその下地側に拡散するのを防止するためのものである。
次いで、図4(a)に示すように、第1電極60上にチタン(Ti)からなる種チタン層61をスパッタリング法等により形成する。このように第1電極60の上に種チタン層61を設けることにより、後の工程で第1電極60上に種チタン層61を介して圧電体層70を形成する際に、圧電体層70を(100)に80%以上の強配向に制御することができ、電気機械変換素子として好適な圧電体層70を得ることができる。なお、種チタン層61は、圧電体層70が結晶化する際に、結晶化を促進させるシードとして機能し、圧電体層70の焼成時に同時に加熱されることで圧電体層70内に一部拡散する。また、圧電体層70の焼成時に種チタン層61の一部が残留して酸化されることで、最終的には酸化チタン層として、第1電極60の一部を構成している。
次に、第1電極60上に圧電体層70を形成する。ここで、本実施形態では、金属有機物を溶媒に溶解・分散したいわゆるゾルを塗布乾燥してゲル化し、さらに高温で焼成することで金属酸化物からなる圧電体層70を得る、いわゆるゾル−ゲル法を用いて圧電体層70を形成している。圧電体層70の製造方法は、ゾル−ゲル法に限定されず、MOD(Metal-Organic Decomposition)法を用いてもよい。なお、スパッタ法、CVD法または印刷法を用いて圧電体層70を形成することもできるが、それらの方法で圧電体層70を形成した場合、Schottky Emission currentが圧電素子300のリーク電流の支配的因子ではなくなる場合があるため、Schottky Emission currentがリーク電流の支配的因子となるように圧電体層70の材料や製造条件等を調整することが必要になる。
圧電体層70の具体的な形成手順としては、まず、図4(b)に示すように、第1電極60(種チタン層61)上に圧電体層の前駆体膜である圧電体前駆体膜74を成膜する。すなわち、第1電極60が形成された流路形成基板10上にPb,Ti及びZrを含むゾル(溶液)を塗布する(塗布工程)。次いで、この圧電体前駆体膜74を所定温度に加熱して一定時間乾燥させる(乾燥工程)。次に、乾燥した圧電体前駆体膜74を所定温度に加熱して一定時間保持することによって脱脂する(脱脂工程)。なお、ここで言う脱脂とは、圧電体前駆体膜74に含まれる有機成分を、例えば、NO2、CO2、H2O等として離脱させることである。
次に、図4(c)に示すように、圧電体前駆体膜74を所定温度に加熱して一定時間保持することによって結晶化させ、1層目の圧電体膜75を形成する(焼成工程)。
次に、図5(a)に示すように、第1電極60上に1層目の圧電体膜75を形成した段階で、第1電極60及び1層目の圧電体膜75を同時にパターニングする。次いで、図5(b)に示すように、1層目の圧電体膜75上を含む流路形成基板用ウェハー110の全面に、再びチタン(Ti)からなる中間チタン層62を形成後、上述した塗布工程、乾燥工程、脱脂工程及び焼成工程からなる圧電体膜形成工程を行うことにより、図5(c)に示すように2層目の圧電体膜75が形成される。そして、図5(d)に示すように、2層目の圧電体膜75の上に、上述した塗布工程、乾燥工程、脱脂工程及び焼成工程からなる圧電体膜形成工程を繰り返し行うことにより、複数層の圧電体膜75からなる圧電体層70が形成される。
そして、圧電体層70を形成する際の焼成工程で、上述した白金、イリジウム及びチタンが、酸化、合金化又は混合化されて、第1電極60が形成される。なお、合金化とは、金属元素と他の金属元素とが金属結合している状態を言い、混合化とは、金属元素と他の金属元素とが金属結合していない状態を言う。
次に、図6(a)に示すように、圧電体層70上に亘って、例えば、イリジウム(Ir)等からなる第2電極80を形成した後、図6(b)に示すように、圧電体層70及び第2電極80を、各圧力発生室12に対向する領域にパターニングして圧電素子300を形成する。
なお、第1電極60と圧電体層70との界面におけるショットキーバリアーの値は、上記圧電素子300を流路形成基板10上に形成する方法において、圧電体層70の材質、厚さ、組成、焼成温度等の製造条件、すなわち、圧電体層70の種類だけでなく、第1電極60の材質、厚さ、組成、焼成温度等の製造条件、すなわち、第1電極60の種類、及びこれらのバランスによって変化するものであり、また、酸化チタン層を有する第1電極60の場合は、酸化チタン層の厚さや酸化の度合いによっても変化するものである。
(実施例1)
上述した方法で、流路形成基板10上に圧電素子300を作製した。なお、種チタン層61を成膜後、酸素濃度30体積%程度の雰囲気中にて完全に酸化させ、ルチル構造の酸化チタンに変質させた。そして、そのルチル構造の酸化チタン上にチタン酸ジルコン酸鉛からなる圧電体層70を成膜した。本実施例では、1層目の圧電体膜75を形成後、中間チタン層62として種チタン層61と同様のルチル構造の酸化チタンを形成し、その中間チタン層62上に2層目の圧電体膜75を形成している。圧電体層70の焼成温度は700℃である。
上述した方法で、流路形成基板10上に圧電素子300を作製した。なお、種チタン層61を成膜後、酸素濃度30体積%程度の雰囲気中にて完全に酸化させ、ルチル構造の酸化チタンに変質させた。そして、そのルチル構造の酸化チタン上にチタン酸ジルコン酸鉛からなる圧電体層70を成膜した。本実施例では、1層目の圧電体膜75を形成後、中間チタン層62として種チタン層61と同様のルチル構造の酸化チタンを形成し、その中間チタン層62上に2層目の圧電体膜75を形成している。圧電体層70の焼成温度は700℃である。
(実施例2及び比較例1)
各種製造条件を調整し、第1電極60と圧電体層70との界面におけるショットキーバリアーの値が異なる複数の圧電素子300を製造した。
各種製造条件を調整し、第1電極60と圧電体層70との界面におけるショットキーバリアーの値が異なる複数の圧電素子300を製造した。
実施例2では、種チタン層61の膜厚を薄く(2nm)し、焼成時に酸化される酸化チタンが、酸化チタンの下に存在するイリジウム層の酸化膨張により不均一となるように調整している。この結果、圧電体層70と酸化したイリジウムが一部で直接接合している構造となっている。
比較例1では、種チタン層61の膜厚を厚く(10nm)し、焼成時に種チタン層の一部(1層目の圧電体膜75近傍)をルチル構造の酸化チタンとし、基板近傍では酸化していないチタンという構造とした。
(比較例2)
第1電極60のイリジウム層及び種チタン層61を形成せず、第1電極を膜厚130nmの白金とした以外は、実施例1と同様の操作を行った。
第1電極60のイリジウム層及び種チタン層61を形成せず、第1電極を膜厚130nmの白金とした以外は、実施例1と同様の操作を行った。
(試験例1)
実施例1の圧電素子300に電界を印加してリーク電流を測定し、電界とリーク電流との関係をプロットしたものを図7及び図8に示す。図7は、横軸を電界0.5、縦軸を電流の自然対数としたものであり、この図が直線になる程Schottky Emission currentが支配的であることを示す。また、図8は、横軸を1/電界とし、縦軸を電流/電界2の自然対数としたものであり、この図が直線になる程Fowler−Nordheim tunneling currentが支配的であることを示す。
実施例1の圧電素子300に電界を印加してリーク電流を測定し、電界とリーク電流との関係をプロットしたものを図7及び図8に示す。図7は、横軸を電界0.5、縦軸を電流の自然対数としたものであり、この図が直線になる程Schottky Emission currentが支配的であることを示す。また、図8は、横軸を1/電界とし、縦軸を電流/電界2の自然対数としたものであり、この図が直線になる程Fowler−Nordheim tunneling currentが支配的であることを示す。
図7では、値がほぼ直線になっており、界面状態に起因するSchottky Emission currentが、実施例1の圧電素子300のリーク電流の支配的因子であると判断できる。一方、図8では、直線ではなく、Fowler−Nordheim tunneling currentは実施例1の圧電素子300のリーク電流の支配的因子ではないと判断できる。なお、同様の方法で製造した実施例2及び比較例1についても、Schottky Emission currentが、圧電素子300のリーク電流の支配的因子であるといえる。
また、比較例2の圧電素子について、電界を印加してリーク電流を測定し、電界とリーク電流との関係をプロットしたものを図9及び図10に示す。
図9では値がほぼ直線になっており、酸化イリジウム層及び酸化チタン層を有さない比較例2の圧電素子についても、界面状態に起因するSchottky Emission currentがリーク電流の支配的因子であると判断できる。
(試験例2)
実施例1〜2及び比較例1〜2で得られた圧電素子300について、ショットキーバリアーの値を測定した。測定は、再現性が高めで良好な測定結果を得るため、測定電界の範囲を75kV/cm以上、400kV/cm以下の領域で行うとよい。また、測定温度は、120℃以上240℃以下とすることでショットキーバリアーの値を精度良く測定することができる。また、電圧を変化させ5分以上経過後に測定を行うことで、測定するショットキーバリアーの値を安定化させることができる。また、測定温度27℃において189V/μmの電界を印加して、圧電素子300のリーク電流を測定した。これらの結果を表1及び図11に示す。
実施例1〜2及び比較例1〜2で得られた圧電素子300について、ショットキーバリアーの値を測定した。測定は、再現性が高めで良好な測定結果を得るため、測定電界の範囲を75kV/cm以上、400kV/cm以下の領域で行うとよい。また、測定温度は、120℃以上240℃以下とすることでショットキーバリアーの値を精度良く測定することができる。また、電圧を変化させ5分以上経過後に測定を行うことで、測定するショットキーバリアーの値を安定化させることができる。また、測定温度27℃において189V/μmの電界を印加して、圧電素子300のリーク電流を測定した。これらの結果を表1及び図11に示す。
表1及び図11に示すように、種チタン層61の膜厚や有無、圧電体層70の焼成条件によりショットキーバリアーの値が変わり、ショットキーバリアーの値が0.76eV以上、1.29eV以下である実施例1〜2は、比較例と比べてリーク電流が顕著に低かった。この結果からも明確なように、ショットキーバリアーを0.76eV以上、1.29eV以下とすることで、リーク電流を抑制することができる。
このような圧電素子300の個別電極である各第2電極80には、インク供給路14側の端部近傍から引き出され、絶縁体膜55上にまで延設される、例えば、金(Au)等からなるリード電極90が接続されている。
このような圧電素子300が形成された流路形成基板10上、すなわち、第1電極60、絶縁体膜55及びリード電極90上には、リザーバー100の少なくとも一部を構成するリザーバー部31を有する保護基板30が接着剤35を介して接合されている。このリザーバー部31は、本実施形態では、保護基板30を厚さ方向に貫通して圧力発生室12の幅方向に亘って形成されており、上述のように流路形成基板10の連通部13と連通されて各圧力発生室12の共通のインク室となるリザーバー100を構成している。また、流路形成基板10の連通部13を圧力発生室12毎に複数に分割して、リザーバー部31のみをリザーバーとしてもよい。さらに、例えば、流路形成基板10に圧力発生室12のみを設け、流路形成基板10と保護基板30との間に介在する部材(例えば、弾性膜50、絶縁体膜55等)にリザーバーと各圧力発生室12とを連通するインク供給路14を設けるようにしてもよい。
また、保護基板30の圧電素子300に対向する領域には、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間を有する圧電素子保持部32が設けられている。圧電素子保持部32は、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間を有していればよく、当該空間は密封されていても、密封されていなくてもよい。
このような保護基板30としては、流路形成基板10の熱膨張率と略同一の材料、例えば、ガラス、セラミック材料等を用いることが好ましく、本実施形態では、流路形成基板10と同一材料のシリコン単結晶基板を用いて形成した。
また、保護基板30には、保護基板30を厚さ方向に貫通する貫通孔33が設けられている。そして、各圧電素子300から引き出されたリード電極90の端部近傍は、貫通孔33内に露出するように設けられている。
また、保護基板30上には、並設された圧電素子300を駆動するための駆動回路120が固定されている。この駆動回路120としては、例えば、回路基板や半導体集積回路(IC)等を用いることができる。そして、駆動回路120とリード電極90とは、ボンディングワイヤー等の導電性ワイヤーからなる接続配線121を介して電気的に接続されている。
また、このような保護基板30上には、封止膜41及び固定板42とからなるコンプライアンス基板40が接合されている。ここで、封止膜41は、剛性が低く可撓性を有する材料からなり、この封止膜41によってリザーバー部31の一方面が封止されている。また、固定板42は、比較的硬質の材料で形成されている。この固定板42のリザーバー100に対向する領域は、厚さ方向に完全に除去された開口部43となっているため、リザーバー100の一方面は可撓性を有する封止膜41のみで封止されている。
このような本実施形態のインクジェット式記録ヘッドでは、図示しない外部のインク供給手段と接続したインク導入口からインクを取り込み、リザーバー100からノズル開口21に至るまで内部をインクで満たした後、駆動回路120からの記録信号に従い、圧力発生室12に対応するそれぞれの第1電極60と第2電極80との間に電圧を印加し、弾性膜50、絶縁体膜55、第1電極60及び圧電体層70をたわみ変形させることにより、各圧力発生室12内の圧力が高まりノズル開口21からインク滴が吐出する。
(他の実施形態)
以上、本発明の一実施形態を説明したが、本発明の基本的構成は上述したものに限定されるものではない。例えば、第1電極60が、白金及び酸化イリジウムを含み、圧電体層70側には酸化チタン層を有するものを例示したが、第1電極60の材料は特に限定されず、例えば、酸化イリジウムを含まないものや、酸化チタン層を含まないものとしてもよい。また、第1電極60と下地である絶縁体膜55との密着力を向上させるための密着層として絶縁体膜55の上に酸化チタン層を設けたものとしてもよい。
以上、本発明の一実施形態を説明したが、本発明の基本的構成は上述したものに限定されるものではない。例えば、第1電極60が、白金及び酸化イリジウムを含み、圧電体層70側には酸化チタン層を有するものを例示したが、第1電極60の材料は特に限定されず、例えば、酸化イリジウムを含まないものや、酸化チタン層を含まないものとしてもよい。また、第1電極60と下地である絶縁体膜55との密着力を向上させるための密着層として絶縁体膜55の上に酸化チタン層を設けたものとしてもよい。
また、上述した実施形態1では、流路形成基板10として、結晶面方位が(110)面のシリコン単結晶基板を例示したが、特にこれに限定されず、例えば、結晶面方位が(100)面のシリコン単結晶基板を用いるようにしてもよく、また、SOI基板、ガラス等の材料を用いるようにしてもよい。
さらに、上述した実施形態1では、基板(流路形成基板10)上に第1電極60、圧電体層70及び第2電極80を順次積層した圧電素子300を例示したが、特にこれに限定されず、例えば、圧電材料と電極形成材料とを交互に積層させて軸方向に伸縮させる縦振動型の圧電素子にも本発明を適用することができる。
また、これら実施形態のインクジェット式記録ヘッドは、インクカートリッジ等と連通するインク流路を具備する記録ヘッドユニットの一部を構成して、インクジェット式記録装置に搭載される。図12は、そのインクジェット式記録装置の一例を示す概略図である。
図12に示すインクジェット式記録装置IIにおいて、インクジェット式記録ヘッドIを有する記録ヘッドユニット1A及び1Bは、インク供給手段を構成するカートリッジ2A及び2Bが着脱可能に設けられ、この記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3は、装置本体4に取り付けられたキャリッジ軸5に軸方向移動自在に設けられている。この記録ヘッドユニット1A及び1Bは、例えば、それぞれブラックインク組成物及びカラーインク組成物を吐出するものとしている。
そして、駆動モーター6の駆動力が図示しない複数の歯車およびタイミングベルト7を介してキャリッジ3に伝達されることで、記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3はキャリッジ軸5に沿って移動される。一方、装置本体4にはキャリッジ軸5に沿ってプラテン8が設けられており、図示しない給紙ローラーなどにより給紙された紙等の記録媒体である記録シートSがプラテン8に巻き掛けられて搬送されるようになっている。
なお、上述した実施形態1では、液体噴射ヘッドの一例としてインクジェット式記録ヘッドを挙げて説明したが、本発明は広く液体噴射ヘッド全般を対象としたものであり、インク以外の液体を噴射する液体噴射ヘッドにも勿論適用することができる。その他の液体噴射ヘッドとしては、例えば、プリンター等の画像記録装置に用いられる各種の記録ヘッド、液晶ディスプレー等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレー、FED(電界放出ディスプレー)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等が挙げられる。
また、本発明は、インクジェット式記録ヘッドに代表される液体噴射ヘッドに搭載される圧電素子に限られず、他の装置に搭載される圧電素子にも適用することができる。
I インクジェット式記録ヘッド(液体噴射ヘッド)、 II インクジェット式記録装置(液体噴射装置)、 10 流路形成基板、 12 圧力発生室、 13 連通部、 14 インク供給路、 20 ノズルプレート、 21 ノズル開口、 30 保護基板、 31 リザーバー部、 32 圧電素子保持部、 40 コンプライアンス基板、 60 第1電極、 70 圧電体層、 80 第2電極、 90 リード電極、 100 リザーバー、 120 駆動回路、 121 接続配線、 300 圧電素子
Claims (6)
- ノズル開口に連通する圧力発生室と、
第1電極と、該第1電極上に形成され厚さが5μm以下の圧電体層と、該圧電体層の前記第1電極とは反対側に形成された第2電極と、を備え、前記圧力発生室に圧力変化を生じさせる圧電素子と、を具備し、
前記圧電体層は、鉛、ジルコニウム及びチタンを含み、
前記第1電極と前記圧電体層との界面におけるショットキーバリアーの値が0.76eV以上、1.29eV以下であることを特徴とする液体噴射ヘッド。 - 前記第1電極が、酸化イリジウム及び白金を含むことを特徴とする請求項1に記載の液体噴射ヘッド。
- 前記第1電極は、前記圧電体層側に酸化チタン層を有していることを特徴とする請求項1または2に記載の液体噴射ヘッド。
- 前記ショットキーバリアーは、400.0V/μm未満の電界を印加して測定したものであることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の液体噴射ヘッド。
- 請求項1〜4の何れか一項に記載の液体噴射ヘッドを具備することを特徴とする液体噴射装置。
- 第1電極と、該第1電極上に形成され厚さが5μm以下の圧電体層と、該圧電体層の前記第1電極とは反対側に形成された第2電極とを具備し、
前記圧電体層は、鉛、ジルコニウム及びチタンを含み、
前記第1電極と前記圧電体層との界面におけるショットキーバリアーの値が0.76eV以上、1.29eV以下であることを特徴とする圧電素子。
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