JP2010197345A - X線ナノビーム強度分布の精密測定方法及びその装置 - Google Patents

X線ナノビーム強度分布の精密測定方法及びその装置 Download PDF

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Abstract

【課題】
ナイフエッジを用いて回折X線と透過X線を利用して高精度なX線ビームプロファイルの計測を行うことができる暗視野計測法において、一つのナイフエッジを用いて異なる波長のX線の計測に対応でき、またX線ビームの焦点深度やその他の計測装置の条件に応じて最適な計測を行うことが可能なX線ナノビーム強度分布の精密測定方法及びその装置を提供する。
【解決手段】
ナイフエッジ4は、それを透過するX線の位相を進める作用を有する重金属で長手方向に厚さを連続的又は段階的に変化させて作製するとともに、透過X線と該ナイフエッジの先端で回折した回折X線とが強め合う範囲の位相シフトが得られる厚さ位置でX線ビームを横切るように設定し、回折X線と透過X線とが重ね合わさったX線をX線検出器で測定する。
【選択図】 図1

Description

本発明は、X線ナノビーム強度分布の精密測定方法及びその装置に係わり、更に詳しくは軟X線から硬X線領域のX線ビームの強度分布をnmオーダーの空間分解能で測定することが可能なX線ナノビーム強度分布の精密測定方法及びその装置に関する。
SPring-8に代表される第三世代放射光施設において軟X線から硬X線までの様々な波長領域において、高輝度、低エミッタンス、高コヒーレンスという特徴を持つX線を利用することができるようになった。このことは蛍光X線分析や光電子分光、X線回折等の様々な分析の感度や空間分解能を飛躍的に向上させた。このような放射光を利用したX線解析やX線顕微法は高感度、高分解能であるだけでなく非破壊で観察が可能であるため、現在、医学、生物、材料学等の分野で利用されつつある。
放射光施設において、X線を用いた様々な分析技術に高い空間分解能を付加するためには、高度に集光されたX線ナノビームが必要となる。既に、本発明者らのグループは、K−B(Kirkpatrick and Baez)ミラーからなる集光光学系により、波長が0.6ÅのX線をスポット径が100nm以下になるように集光することに成功している。これは、独自に開発したミラーの高精度加工技術と高精度形状測定技術によるとことが大きい。この加工技術とは、数値制御EEM(Elastic
emission machining)であり、加工面に沿って微粒子を混合した超純水の高剪断流を形成し、一種の化学反応によって微粒子が表面原子と結合し、微粒子の移動とともに表面原子が除去される加工原理である。また、形状測定技術とは、MSI(Microstitching
Interferometry)とRADSI(Relative Angle Determinable Stitching Interferometry)であり、小面積を高精度に形状測定可能な干渉計の部分形状データをつなぎ合わせて全体形状を得るという測定原理で、X線ミラーの形状を全空間波長領域でPV値:1nm以下の測定再現性をもって高精度に計測することが可能である。これらの技術を用いて、2nm(PV値)の精度を持つX線集光ミラーを作製し、SPring-8の硬X線をSub-30nmレベルの回折限界集光に成功している。
我々は、世界最高の超高分解能走査型X線顕微鏡及び超高分解能X線マイクロCTを実現するために、Sub-10nm集光の実現を目指している。この場合、X線ミラーに求められる形状精度が非常に厳しく、中・長周期空間波長で形状誤差がP-V1nm以下であること、設計形状が深いカーブを持っていること、そして深いX線入射角を確保するためにミラー表面への多層膜形成が不可欠なことなどが挙げられる。そのため、X線ミラーの理想面に対する位相誤差を、干渉計等によるオフライン計測により求めるのは非常に困難である。そこで、本発明者らは、集光面におけるX線強度プロファイル情報のみから位相回復計算によってミラー面位相誤差を算出するAt-wavelength形状計測法を提案し、それに基づいて集光光学系の位相誤差を補正し、焦点面での波面の乱れを修正するX線集光方法を提案している(特願2006-357566号)。位相回復法によってX線ミラーの位相誤差を精確に算出するには、精確なX線集光強度プロファイルの取得が不可欠である。
従来、X線ビームの強度プロファイルを測定するには、特許文献1に記載されているように、X線ビームをナイフエッジやワイヤーで少しずつ遮蔽していきながら、ビーム強度の変化を測定する方法がとられている。図14にワイヤースキャン法による測定光学系を示している。この光学系では、入射X線100はスリット101を通して所定幅に制限し、そしてイオンチャンバー102を通り、X線ミラー103の表面で反射し集光される。集光面において、X線ビームの直径よりも十分に大きな直径200μmのAuワイヤー104をミラー表面に対して垂直にピエゾステージにより走査することで集光ビームを徐々に遮り、この間の焦点の後方におけるX線の強度変化を、スリット105を通してX線検出器106により測定する。ここで、X線検出器106には、感度が良く、出力応答も速いアバランシェフォトダイオード(APD)が使用される。前記X線検出器106で測定したX線強度は、イオンチャンバー102で測定された入射X線強度により規格化する。また、前記スリット105は、ワイヤー104のビームに対する傾きが集光強度プロファイル計測に与える影響を排除するために設けている。図15(a)は、X線検出器106で測定されたX線強度プロファイルの変化を示し、これをワイヤー位置について微分することにより図15(b)の集光強度プロファイルが得られる。
しかし、ワイヤースキャン法の問題点として、幾何学的にシャープかつX線が透過しないような十分な厚さのナイフエッジを作製するのが困難であることと、微分する際に強度計測時におけるノイズが強調されることの2点が挙げられる。また、位相回復法によってX線ミラーの位相誤差を精確に算出する場合には、X線強度プロファイルの裾野の広い領域にわたって精確な情報が必要であるが、従来のワイヤースキャン法ではこの領域の信頼性は低い。
そこで、本発明者らは、ワイヤースキャン法のバックグラウンドノイズと微分によってノイズが強調される問題点を克服し、より高精度なX線ビームプロファイル計測を行うことが可能なX線ナノビーム強度分布の精密測定方法及びその装置を提供すべく、X線ビームを横切るようにナイフエッジを走査するとともに、該ナイフエッジの背後でX線源に対して幾何学的暗部となる位置に配置したX線検出器でX線強度を測定する暗視野計測法を用い、X線ビームの断面におけるX線強度分布を測定するX線ナノビーム強度分布の精密測定方法であって、前記ナイフエッジは、それを透過するX線の位相を進める作用を有する重金属で作製するとともに、透過X線と該ナイフエッジの先端で回折した回折X線とが強め合う範囲の位相シフトが得られる厚さに設定し、回折X線と透過X線とが重ね合わさったX線をX線検出器で測定する方法を提案している。
特開平10−319196号公報
しかしながら、前述の本発明者らの提案の測定方法では、特定の波長のX線に対して理論的に最適な厚さのナイフエッジを用いるので、X線の波長が異なれば異なる厚さのナイフエッジを用いなければならず、交換作業が煩雑であるばかりでなく、高価なナイフエッジを多数用意しなければならず、不経済である。更に、ナイフエッジの厚さを理論的に最適な値に選んでも、X線ビームの焦点深度やその他の計測装置の条件によって最適な計測とはならない可能性がある。
そこで、本発明が前述の状況に鑑み、解決しようとするところは、ナイフエッジを用いて回折X線と透過X線を利用して高精度なX線ビームプロファイルの計測を行うことができる暗視野計測法において、一つのナイフエッジを用いて異なる波長のX線の計測に対応でき、またX線ビームの焦点深度やその他の計測装置の条件に応じて最適な計測を行うことが可能なX線ナノビーム強度分布の精密測定方法及びその装置を提供することにある。
本発明は、前述の課題解決のために、X線ビームを横切るようにナイフエッジを走査するとともに、該ナイフエッジの背後でX線源に対して幾何学的暗部となる位置に配置したX線検出器でX線強度を測定する暗視野計測法を用い、X線ビームの断面におけるX線強度分布を測定するX線ナノビーム強度分布の精密測定方法であって、前記ナイフエッジは、それを透過するX線の位相を進める作用を有する重金属で長手方向に厚さを連続的又は段階的に変化させて作製するとともに、透過X線と該ナイフエッジの先端で回折した回折X線とが強め合う範囲の位相シフトが得られる厚さ位置でX線ビームを横切るように設定し、回折X線と透過X線とが重ね合わさったX線をX線検出器で測定することを特徴とするX線ナノビーム強度分布の精密測定方法を提供する(請求項1)。
更に、前記ナイフエッジは、長手方向に厚さを1μmから5μmに連続的又は段階的に変化させた形状であり、それを透過するX線の透過率が80%〜20%の範囲で、位相シフトが0.3λ〜0.7λ(λはX線の波長)になる厚さ位置でX線ビームを横切るように設定し、前記ナイフエッジの先端で回折して該ナイフエッジの背後に回り込んだ回折X線と、ナイフエッジを透過して位相が進んだ透過X線とが重ね合わさったX線をX線検出器で測定することが好ましい(請求項2)。
ここで、前記ナイフエッジの材料がPt又はAuであることが好ましい(請求項3)。そして、前記ナイフエッジの先端部は断面形状が長方形であり、該ナイフエッジの先端面の傾斜角が1mrad以下であること(請求項4)、あるいは前記ナイフエッジの先端部は断面形状が長方形であり、該ナイフエッジの先端面とX線ビームの光軸とのなす角度を1mrad以下に設定すること(請求項5)がより好ましい。
更に、前記ナイフエッジを作り込んだエッジ部材を、該ナイフエッジがX線ビームを横切る方向と、該ナイフエッジの長手方向に沿った方向とに走査することがより好ましい(請求項6)。
また、本発明は、前述の課題解決のために、長手方向に厚さを連続的又は段階的に変化させているとともに、先端部の断面形状が長方形であり、X線ビームの光軸に対して先端面の傾斜角が1mrad以下になるように配置するナイフエッジを作り込んだエッジ部材と、該エッジ部材を保持して該ナイフエッジがX線ビームを横切る方向と該ナイフエッジの長手方向に沿った方向とに走査する高精度な移動ステージと、前記ナイフエッジの背後でX線源に対して幾何学的暗部となる位置に配置したX線検出器とよりなり、前記ナイフエッジは、それを透過するX線の位相を進める作用を有する重金属で作製するとともに、透過X線と該ナイフエッジの先端で回折した回折X線とが強め合う範囲の位相シフトが得られる厚さ位置でX線ビームを横切るように設定し、回折X線と透過X線とが重ね合わさったX線を前記X線検出器で測定することを特徴とするX線ナノビーム強度分布の精密測定装置を構成した(請求項7)。
更に、前記ナイフエッジは、長手方向に厚さを1μmから5μmに連続的又は段階的に変化させた形状であり、それを透過するX線の透過率が80%〜20%の範囲で、位相シフトが0.3λ〜0.7λ(λはX線の波長)になる厚さ位置でX線ビームを横切るように設定し、前記ナイフエッジの先端で回折して該ナイフエッジの背後に回り込んだ回折X線と、ナイフエッジを透過して位相が進んだ透過X線とが重ね合わさったX線をX線検出器で測定することが好ましい(請求項8)。
また、前記X線検出器の前に、X線源に対して幾何学的暗部となる位置に開口を位置させたスリットを配置してなることがより好ましい(請求項9)。
本発明のX線ナノビーム強度分布の精密測定方法及びその装置によれば、幾何学的暗部でナイフエッジの先端位置でのX線強度に比例した回折X線強度を直接検出し、従来のワイヤースキャン法のように微分処理する必要がないため、バックグラウンドノイズの低い計測が可能になる。更に、前記ナイフエッジは、それを透過するX線の位相を進める作用を有する重金属で作製するとともに、透過X線と該ナイフエッジの先端で回折した回折X線とが強め合う範囲の位相シフトが得られる厚さに設定し、回折X線と透過X線とが重ね合わさったX線をX線検出器で測定することにより、信号レベルを高めることができ、もってS/N比を高め、高感度、高空間分解能でX線強度分布を測定することができる。特に、ビームウエストの半値全幅が100nm以下に集光したX線ナノビームの強度分布をnmオーダーの空間分解能で測定することができる。
そして、ナイフエッジのX線光軸方向に対する厚さを連続的又は段階的に変化させたこと、及びナイフエッジを作り込んだエッジ部材を光軸方向と直交する方向で厚さが変化する方向に走査するようにしたことにより、X線の波長に対してナイフエッジの厚さを最適にでき、またX線の焦点深度が浅い場合には、感度は犠牲になるが、ナイフエッジの厚さが薄い部分を使ってシャープなプロファイルを得ることができる。更に、波長が未知のX線に対して回折X線強度が最高になるナイフエッジの厚さを走査量から導出し、あるいはナイフエッジの厚さの変化に対する回折X線強度の変化を計測して厚さ−強度計測特性を導出し、X線の波長とナイフエッジの厚さについて回折X線強度を算出して取得した厚さ−強度計算特性との対比から未知のX線の波長範囲を逆算で測定することもできる。
本発明のX線ナノビーム強度分布の精密測定方法を実現するための測定光学系を示す全体配置図である。 X線ビーム強度分布の測定に使用したSub‐30nm集光光学系を示す説明図である。 (a)はSub‐30nm集光光学系の設計ミラー形状を示すグラフ、(b)は理想集光プロファイルを示すグラフである。 (a)はナイフエッジとX線ビームとの関係を示す配置図、(b)はナイフエッジの厚さを変化させたときの透過X線の強度、透過X線の位相シフト、回折X線の強度の関係を示すグラフである。 (a)はナイフエッジの先端形状とX線ビームの位置関係を示す説明図、(b)はナイフエッジの先端の傾斜を変化させたときの集光プロファイルの計算結果を示すグラフである。 本発明のナイフエッジの製造方法を示し、(a)はSiウエハから切り出したベース、(b)はベース上にPtを蒸着した状態、(c)はFIB加工装置で周囲を削り、所定厚さのナイフエッジを形成した状態をそれぞれ示している。 本発明で用いたナイフエッジを作り込んだエッジ部材の外観を示す斜視図である。 本発明により測定したX線ビーム強度分布のグラフである。 同じく焦点面とその前後位置で測定したX線ビーム強度分布のグラフである。 図8のX線強度分布のみから位相回復法によって算出したX線ミラーの形状誤差分布と、干渉計によるオフライン計測(RADSI)による形状誤差分布を示すグラフである。 本発明で用いたナイフエッジを作り込んだエッジ部材を示し、(a)はエッジ部材の外観を示す斜視図、(b)はエッジ部材の平面図である。 ナイフエッジの実施形態を示し、(a)は中心線に対して対称に両側に傾斜面を形成し、厚さが連続的に変化する両側傾斜タイプのナイフエッジの部分平面図、(b)は一側面に傾斜面を形成し、他側面に直交面を形成し、厚さが連続的に変化する片側傾斜タイプのナイフエッジの部分平面図、(c)は中心線に対して対称に両側に階段面を形成し、厚さが段階的に変化する両側階段タイプのナイフエッジの部分平面図、(d)は一側面に階段面を形成し、他側面に直交面を形成し、厚さが段階的に変化する片側階段タイプのナイフエッジの部分平面図である。 X線の光軸とエッジ部材の走査方向の関係を示す簡略斜視図である。 従来のワイヤースキャン法による測定光学系を示す全体配置図である。 従来のワイヤースキャン法による測定結果を示し、(a)はワイヤーの変位に伴うX線強度の変化を示すグラフ、(b)は(a)を微分して得たX線強度プロファイルを示すグラフである。
次に添付図面に基づいて本発明の詳細を更に詳しく説明する。図1は、本発明のX線ナノビーム強度分布の精密測定方法の測定光学系を示す全体配置図、図2及び図3は測定に用いたX線ビームの集光光学系を示している。
本実施形態では、図1に示すように、入射X線1はスリット2を通して楕円形状が作り込まれたX線ミラー3に斜入射して1次元集光される。そして、X線ビームの焦点面にナイフエッジ4を配置するとともに、その後方にスリット5を配置して直接のX線ビームを遮蔽し、ナイフエッジ4の背後でX線源に対して幾何学的暗部となる位置に配置したX線検出器6でX線強度を測定するのである。前記ナイフエッジ4は、移動ステージ7に保持され、該移動ステージ7を駆動してX線ビームを横切るようにナイフエッジ6を走査する。本実施形態では、移動ステージ7をピエゾステージで構成し、1nmの走査精度を持っている。また、移動ステージ7は、ナイフエッジ6をX線ビームの光軸方向に移動させたり、X線ビームに対して傾斜確度を調節できるようになっている。
ここで、前記X線検出器6には、感度が良く、出力応答も速いアバランシェフォトダイオード(APD)を用いている。そして、前記X線検出器6で測定したX線強度を規格化するため、前記X線ミラー3の直前にイオンチャンバー8を配置し、入射X線強度を常に測定している。
本実施形態で用いたX線ビームは、SPring-8の1km長尺ビームライン(BL29XUL)で、X線エネルギーが15keV(波長λ=0.8Å)である。X線ビームの集光光学系の特性は図2及び図3に示している。図2に示すように、X線ビームは、幅10μmのスリットを通して1km進んだ先に配置したX線ミラーで、焦点距離150mmの位置に集光される。このX線ミラーの反射面の設計形状は、図3(a)に示しているように、長さが100mmで、中央部の深さが約10μmの楕円形状である。そして、X線ミラーの反射面の形状精度は2nm(PV値)以下である。図3(b)に、設計形状のX線ミラーで集光した理想集光プロファイルを示している。理想的なX線ミラーで集光した場合には、ビームウエストの半値全幅(FWHM)は約25nmとなる。楕円型X線集光ミラーは、楕円の幾何学的な性質を利用することにより、光源から焦点までのX線全光路長を一定にすることで波面を保存し、焦点において完全に位相が一致する理想集光を得るものである。
本発明のX線ナノビーム強度分布の精密測定方法は、X線ビームを横切るようにナイフエッジを走査するとともに、該ナイフエッジの背後でX線源に対して幾何学的暗部となる位置に配置したX線検出器でX線強度を測定する暗視野計測法を用い、X線ビームの断面におけるX線強度分布を測定するX線ナノビーム強度分布の精密測定方法であって、前記ナイフエッジは、それを透過するX線の位相を進める作用を有する重金属で作製するとともに、透過X線と該ナイフエッジの先端で回折した回折X線とが強め合う範囲の位相シフトが得られる厚さに設定し、回折X線と透過X線とが重ね合わさったX線をX線検出器で測定することを特徴とする。
本発明の測定原理を簡単に説明する。ナイフエッジの先端エッジ部を平面波からなるX線ビーム中に位置させると、エッジ部で球面波が発生してナイフエッジの背後にX線が回り込む現象(回折)が発生する。また、X線の一部は、ナイフエッジの先端エッジ部を透過する。このナイフエッジの材質が透過するX線の位相を進める作用を有すると、ナイフエッジの厚さに応じて透過X線の位相がシフトするとともに、透過X線の強度が減少する。そして、ナイフエッジの先端エッジ部の背後で、回折X線と透過X線が重ね合わされる。もし、透過X線の位相シフトが半波長分だけ生じ、十分な透過強度を維持していれば、回折X線と重ね合わされる際に強め合うことになる。このナイフエッジの背後に到達したX線は、エッジ部の位置でのX線ビーム強度に比例していることがシミュレーションの結果よりわかっており、このX線を、X線ビームに対して幾何学的暗部となる位置で強度を測定することにより、バックグラウンドノイズに影響されずに、直接X線ビームの強度プロファイルを測定できるのである。また、従来のワイヤースキャン法のように、計測値を微分する必要がないので、ノイズが強調されることもなく、ノイズの影響を最小限に抑制することができるので、高感度、高精度の測定ができる。
また、前記ナイフエッジ4を透過した透過X線を直接検出しない位置にX線検出器を配置し、あるいはX線検出器6の前に配置したスリット5でX線ビームを遮るようにしている。そして、X線検出器6は、可能な限りX線ビームの幾何学的光路から離れた位置に設置して回折X線と透過X線の強度を検出するようにする。この場合、X線検出器6の位置が3〜5mmずれても、回折X線の強度は大して変化はないので、X線検出器6の位置及びスリット5の位置に対する要求精度は低い。この点に関しても、幾何学的暗部であれば回折X線強度のX線検出器6に対する位置依存性は非常に低いことをシミュレーションより確認している。
ここで、透過するX線の位相を進める作用を有する重金属としては、Pt又はAuが代表的であるが、X線の波長や焦点深度、要求される空間分解能に応じて厚さを最適に設計するために、その他の重金属を用いることも可能である。本実施形態で対象としているX線ビームのエネルギーは、10〜20keV(波長は1.2〜0.6Å)であるが、もっと広範囲の波長のX線ビームの強度分布を測定することも可能である。X線の波長が長いほど、位相シフト量が大きくなるので、より薄いナイフエッジでより空間分解能が高い測定が可能となる。更に、本発明の技術を応用して、次世代の半導体露光技術であるEUVL(Extreme Ultra Violet Lithography)で使用する波長13.5nmの極端紫外線の強度分布を高精度に測定することができる可能性がある。
次に、前記ナイフエッジの材質をPtとしたときに、波長0.8ÅのX線を斜入射光学系によって集光した集光強度プロファイルを測定するのに最適な厚さと、先端のエッジ部の形状精度について、シミュレーションによって見積もった結果を図4及び図5に基づいて説明する。図4(a)に示すように、ナイフエッジの厚さを光軸方向に向けて、エッジ部をX線ビームの中央に位置させ、その状態を固定し、厚さを変化させたときの透過X線の強度(実線)、透過X線の位相シフト(一点鎖線)、回折X線の強度(点線)を計算した結果を図4(b)に示す。ナイフエッジの厚さの増加につれて、透過X線の位相シフトは直線状に増加するのに対し、透過X線の強度は指数関数的に減少するので、透過X線の位相シフトが半波長のときに必ずしも回折X線の強度が最大にならない。実用的には、回折X線の強度が最大値の80%程度の範囲になるようにナイフエッジの厚さを設定すれば良い。但し、ナイフエッジの厚さが薄いほど、空間分解能が高くなるので、許容範囲内でできるだけ薄くすることが好ましい。以上の結果より、本実施形態では、波長が0.8ÅのX線ビームに対して、厚さ2000nm(2μm)のPt製のナイフエッジを用いる。
また、ナイフエッジの先端エッジ部に対して要求される形状精度について、図5(a)に示したモデルに基づき、xを変化させたときの強度プロファイルを計算することにより見積もった。具体的には、厚さが2000nmで断面形状が長方形のナイフエッジの先端面に直角三角形の異形部を延長した形状で、図中のxを0nm、2nm、5nm、10nmと変化させることにより、端面の傾斜角度を変えたそれぞれの場合について、回折X線の強度を計算した。その結果を図5(b)に示している。尚、xが0nm(白抜丸)の場合は、理想集光プロファイルに対応する。図5(b)中に、xが2nmの場合は菱形、xが5nmの場合は四角形、xが10nmの場合は三角形でプロットしている。
この結果、xが2nmの場合は、理想集光プロファイルに対する偏差が少なく許容できるが、xが5nmになると偏差が大き過ぎることがわかり、ナイフエッジの先端面の傾斜角度が1mrad以下となるように作製する必要がある。また、ナイフエッジの先端部の断面形状を正確に長方形に作製しても、移動ステージ7に保持した状態で、ナイフエッジの先端面がX線ビームの光軸に対して傾斜しても同様に理想集光プロファイルからずれるので、前記同様に該ナイフエッジの先端面とX線ビームの光軸とのなす角度を1mrad以下に設定する必要がある。従って、前記移動ステージ7は、ナイフエッジ4の姿勢を任意に微調節できる構造にしている。
楕円型X線集光ミラーによる斜入射集光光学系は焦点深度が深いため、X線ビームの半値全幅と比較して、十分に厚さが厚いナイフエッジを用いても空間分解能の高い測定が可能である。つまり、X線ビームをビームウエストが10nm程度になるように集光した場合であっても、厚さ2000nmで先端エッジ部の形状が長方形のナイフエッジを用いて、空間分解能がnmオーダーの精度でX線強度プロファイルを測定することができる。
以上の結果を総合して、本発明は、前記ナイフエッジの厚さを、それを透過するX線の透過率が80%〜20%の範囲で、位相シフトが0.3λ〜0.7λ(λはX線の波長)になるように設定し、前記ナイフエッジの先端で回折して該ナイフエッジの背後に回り込んだ回折X線と、ナイフエッジを透過して位相が進んだ透過X線とが重ね合わさったX線をX線検出器で測定するのである。好ましくは、前記ナイフエッジの厚さを、それを透過するX線の透過率が80%〜20%の範囲で、位相シフトが0.4λ〜0.6λになるように設定する。
次に、前記ナイフエッジの製法について、図6に基づいて説明する。前述の結果より、ナイフエッジは、厚み2000nm、高さ0.5μm以上、幅50μmの形状のPt製と設定した。先ず、Siウエハを0.9mm×9mm(厚さ0.5mm)の短冊状に切ってベース11を用意し(図6(a)参照)、次にベース11の表面にPtを電子ビーム蒸着により2μmの厚さに蒸着させてPt層12を形成し(図6(b)参照)、最後にFIB加工により厚さ2μmのナイフエッジ13を切り出した(図6(c)参照)。ナイフエッジ13を作り込んだエッジ部材10の全体形状を図7に模式的に示す。実際には、このエッジ部材10のベース11を前記移動ステージ7に取り付ける。
前述のスペックのナイフエッジを用いて、図1に示した測定光学系で、理想集光プロファイルが図3(b)に示したX線ビームを焦点面でX線強度プロファイルを測定した結果を図8に示している。この結果、X線ビームのビームウエストにおける半値全幅は、理想集光プロファイルの25nmより若干大きくなっただけで、裾野の広い領域にわたって波動性が再現されている。従来のワイヤースキャン法で測定された図15(b)の結果と比較すれば、本発明の測定方法の優位は明白である。
図9は、焦点面(Y=0μm)とその前後位置(Y=±50μm)で測定したX線ビーム強度分布のグラフである。このように、本発明の測定方法は、焦点面のみならず、焦点面から離れた位置のX線強度分布も精確に測定することができ、単にスポット径だけではなく、ビームウエストの微細構造を解析し、集光の質の向上にもつなげることができる。また、ナイフエッジでX線ビームを複数の方向から走査してX線強度プロファイルを測定し、それらを合成して立体的な強度プロファイルを求めることも可能である。
X線ミラーの形状誤差や多層膜の厚み誤差の影響によって、X線を反射する際に波面が乱れる。その影響は形状誤差の大きさ、空間波長によって焦点面での実際に測定したX線ビームの強度プロファイルに異なった影響を及ぼす。またこの際、形の乱された集光プロファイルは、X線ミラーの形状誤差の情報を含んだものであると考えられる。従って、焦点面又は焦点面近傍のX線強度プロファイルから、位相回復法によって、X線ミラーの位相誤差を算出することができる(特願2006-357566号参照)。X線ミラーの形状誤差の影響は、焦点面若しくは焦点面近傍で計測したX線ビームのX線強度プロファイルの裾野の広い領域にわたって現れるので、X線強度プロファイルを裾野の広い領域にわたって精確に測定することは、X線ミラーの形状誤差を精確に算出する上で重要な意味を持つのである。
図8に示したX線ビームの強度プロファイルの測定結果を用いて、位相回復法によって計算したX線ミラーの形状誤差を図10に太い実線(低周期のもの)で示す。また、図10には、併せて干渉計によってオフライン計測した結果を細い実線(高周期のもの)で示している。両者は非常に良い一致を示し、本発明の測定方法の有効性、信頼性が実証された。しかし、ナイフエッジの厚さを理論的に最適な値に選んでも、X線ビームの焦点深度やその他の計測装置の条件によって最適な計測とはならない可能性がある。
そこで、図11〜図13に示すように、長手方向に厚さが連続的又は段階的に変化したナイフエッジを用いてX線ナノビーム強度分布を精確に測定することが可能な精密測定方法及びその装置を提案する。本実施形態で用いるエッジ部材10は、図11に示すように、長手方向に厚さが連続的に変化したナイフエッジ14を作り込んだものである。このナイフエッジ14は、長さを200μmとし、最小厚さを1μm、最大厚さを5μmとし、その間の厚みを直線的に変化させた形状である。ここで、ナイフエッジ14の長さが200μm程度あれば、X線ビームの直径(FWHM)が100nm以下であれば、そのビーム径の範囲ではナイフエッジ14の厚さが略均一であると見なすことができ、X線強度プロファイルの測定に支障にならない。また、ナイフエッジ14の最小厚さが1μmよりも薄いと十分な位相シフト量が得られず、また機械的強度が弱くなるので扱いが難しくなる。一方、ナイフエッジ14の最大厚さが5μmより厚いと、X線の透過減衰が大きくなり過ぎて、透過X線を利用する本発明の測定原理を活用できなくなり、S/N比が悪くなる。
図12は、長手方向に厚さを変化させたナイフエッジ14A,14B,14C,14Dの各種形状を示している。図12(a)のナイフエッジ14Aは、図11に示したものと同じであるが、中心線に対して対称に両側に傾斜面15,15を形成したテーパー状の両側傾斜タイプであり、長手方向に沿って厚さを連続的に変化させたものである。ここで、前記傾斜面15は、X線の光軸と直交する平面に対して傾斜していることを意味している。図12(b)のナイフエッジ14Bは、一側面に傾斜面15を形成し、他側面に直交面16を形成した片側傾斜タイプであり、長手方向に沿って厚さを連続的に変化させたものである。ここで、前記直交面16は、X線の光軸と直交する平面を意味する。図12(c)のナイフエッジ14Cは、中心線に対して対称に両側に階段面17,17を形成した両側階段タイプであり、長手方向に沿って厚さを段階的に変化させたものである。図12(d)のナイフエッジ14Dは、一側面に階段面17を形成し、他側面に直交面16を形成した片側階段タイプであり、長手方向に沿って厚さを段階的に変化させたものである。何れのタイプの場合も、ナイフエッジ14の厚さを1μmから5μmまで変化させている。尚、階段タイプは、各階段面17はX線の光軸と直交する平面で構成されている。尚、前記ナイフエッジ14の最も厚さが薄い位置を中心におき、その両側に対称に厚みを増していく形状でも良い。
そして、前述の長手方向に厚さが連続的又は段階的に変化したナイフエッジ14を作り込んだエッジ部材10を前記移動ステージ7に固定する。図13に示すように、前記移動ステージ7は、X線の光軸に直交する2方向(V方向とH方向)にnmオーダーの精度で走査できるようになっている。ここで、V方向は、前記エッジ部材10のベース11を水平に配置したときの垂直方向に対応し、ナイフエッジ14の幅方向である。また、H方向は、同じく前記エッジ部材10のベース11を水平に配置したときの水平方向に対応し、前記ナイフエッジ14の長手方向である。そして、X線強度プロファイルを測定するには、先ず、X線の波長が既知の場合には、前記エッジ部材10をH方向に走査してX線ビームが横切る部分の前記ナイフエッジ14の厚さが、理論的に最適な値になるように設定する。ここで、前記ナイフエッジ14の厚さと、H方向の座標とは1対1に対応するので、H方向の座標をモニターすることによって、ナイフエッジ14の厚さを設定できる。それから、前述のように前記ナイフエッジ14がX線ビームを横切るようにエッジ部材10をV方向に走査して、X線強度プロファイルの計測を行うのである。
また、X線ビームの一部が前記ナイフエッジ14の先端部に当っている状態で、エッジ部材10をH方向へ走査し、ナイフエッジ14の厚さに対する回折X線強度を計測し、図4(b)に示したような厚さ−強度計測特性Mを取得した後、その強度が最大になるナイフエッジ14の厚さを特定し、再度その厚さの位置になるようにH方向へ走査し、その厚さ位置でV方向への走査を行うことにより、X線強度プロファイルを最大感度で計測することができる。また、X線の波長が未知であっても、前述の厚さ−強度計測特性Mと、X線の波長とナイフエッジの厚さについて回折X線強度を算出して取得した厚さ−強度計算特性Sとの対比から未知のX線の波長範囲を逆算で計測することができる。尚、予めX線測定装置のメモリーに、多数のX線の波長に対する厚さ−強度計算特性Sのテーブルデータを格納しておくことにより、前述のH方向へ走査した際のデータ処理が迅速に行うことができ、リアルタイムでのX線強度プロファイルの計測に適したものとなる。
1 入射X線
2 スリット
3 X線ミラー
4 ナイフエッジ
5 スリット
6 X線検出器
7 移動ステージ
8 イオンチャンバー
10 エッジ部材
11 ベース
12 Pt層
13 ナイフエッジ
14、14A,14B,14C,14D ナイフエッジ
100 入射X線
101 スリット
102 イオンチャンバー
103 X線ミラー
104 Auワイヤー
105 スリット
106 X線検出器

Claims (9)

  1. X線ビームを横切るようにナイフエッジを走査するとともに、該ナイフエッジの背後でX線源に対して幾何学的暗部となる位置に配置したX線検出器でX線強度を測定する暗視野計測法を用い、X線ビームの断面におけるX線強度分布を測定するX線ナノビーム強度分布の精密測定方法であって、前記ナイフエッジは、それを透過するX線の位相を進める作用を有する重金属で長手方向に厚さを連続的又は段階的に変化させて作製するとともに、透過X線と該ナイフエッジの先端で回折した回折X線とが強め合う範囲の位相シフトが得られる厚さ位置でX線ビームを横切るように設定し、回折X線と透過X線とが重ね合わさったX線をX線検出器で測定することを特徴とするX線ナノビーム強度分布の精密測定方法。
  2. 前記ナイフエッジは、長手方向に厚さを1μmから5μmに連続的又は段階的に変化させた形状であり、それを透過するX線の透過率が80%〜20%の範囲で、位相シフトが0.3λ〜0.7λ(λはX線の波長)になる厚さ位置でX線ビームを横切るように設定し、前記ナイフエッジの先端で回折して該ナイフエッジの背後に回り込んだ回折X線と、ナイフエッジを透過して位相が進んだ透過X線とが重ね合わさったX線をX線検出器で測定する請求項1記載のX線ナノビーム強度分布の精密測定方法。
  3. 前記ナイフエッジの材料がPt又はAuである請求項1又は2記載のX線ナノビーム強度分布の精密測定方法。
  4. 前記ナイフエッジの先端部は断面形状が長方形であり、該ナイフエッジの先端面の傾斜角が1mrad以下である請求項1〜3何れかに記載のX線ナノビーム強度分布の精密測定方法。
  5. 前記ナイフエッジの先端部は断面形状が長方形であり、該ナイフエッジの先端面とX線ビームの光軸とのなす角度を1mrad以下に設定する請求項1〜4何れかに記載のX線ナノビーム強度分布の精密測定方法。
  6. 前記ナイフエッジを作り込んだエッジ部材を、該ナイフエッジがX線ビームを横切る方向と、該ナイフエッジの長手方向に沿った方向とに走査する請求項1〜5何れかに記載のX線ナノビーム強度分布の精密測定方法。
  7. 長手方向に厚さを連続的又は段階的に変化させているとともに、先端部の断面形状が長方形であり、X線ビームの光軸に対して先端面の傾斜角が1mrad以下になるように配置するナイフエッジを作り込んだエッジ部材と、該エッジ部材を保持して該ナイフエッジがX線ビームを横切る方向と該ナイフエッジの長手方向に沿った方向とに走査する高精度な移動ステージと、前記ナイフエッジの背後でX線源に対して幾何学的暗部となる位置に配置したX線検出器とよりなり、前記ナイフエッジは、それを透過するX線の位相を進める作用を有する重金属で作製するとともに、透過X線と該ナイフエッジの先端で回折した回折X線とが強め合う範囲の位相シフトが得られる厚さ位置でX線ビームを横切るように設定し、回折X線と透過X線とが重ね合わさったX線を前記X線検出器で測定することを特徴とするX線ナノビーム強度分布の精密測定装置。
  8. 前記ナイフエッジは、長手方向に厚さを1μmから5μmに連続的又は段階的に変化させた形状であり、それを透過するX線の透過率が80%〜20%の範囲で、位相シフトが0.3λ〜0.7λ(λはX線の波長)になる厚さ位置でX線ビームを横切るように設定し、前記ナイフエッジの先端で回折して該ナイフエッジの背後に回り込んだ回折X線と、ナイフエッジを透過して位相が進んだ透過X線とが重ね合わさったX線をX線検出器で測定する請求項7記載のX線ナノビーム強度分布の精密測定装置。
  9. 前記X線検出器の前に、X線源に対して幾何学的暗部となる位置に開口を位置させたスリットを配置してなる請求項7又は8記載のX線ナノビーム強度分布の精密測定装置。
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