以下に、本発明に係る流体伝達装置の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、或いは実質的に同一のものが含まれる。また、下記の実施形態では、流体伝達装置に伝達される駆動力を発生する駆動源として、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、LPGエンジンなどのエンジンを用いるが、これに限定されるものではなく、モータなどの電動機を駆動源として、あるいはモータなどの電動機と併用して用いても良い。
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係るトルクコンバータの要部断面図、図2は、本発明の実施形態1に係るトルクコンバータの摩擦係合部(非係合状態)を含む部分断面図、図3は、本発明の実施形態1に係るトルクコンバータの摩擦係合部(係合・半係合状態)を含む部分断面図、図4は、実施形態1に係るトルクコンバータの冷却流路の構成を説明する模式的概略図である。なお、以下の説明では、特に断りのない限り、出力軸50の回転軸線Xに沿った方向を軸方向といい、回転軸線Xに直交する方向、すなわち、軸方向に直交する方向を径方向といい、回転軸線X周りの方向を周方向という。また、径方向において回転軸線X側を径方向内側といい、反対側を径方向外側という。また、軸方向において駆動源が設けられる側(駆動源から駆動力が入力される側)をエンジン側といい、反対側、つまり、トランスミッションが設けられる側(トランスミッションに駆動力を出力する側)を出力軸側という。
ここで、出力軸50は、例えば出力軸側に配置されたトランスミッション(変速機)のインプットシャフトなどである。
図1に示すように、実施形態1に係る流体伝達装置としてのトルクコンバータ1Aは、フロントカバー10と、流体伝達手段としての流体伝達機構20と、ロックアップ手段としてのロックアップクラッチ機構30と、ダンパー手段としてのダンパー機構40と、出力軸50とを備える。このトルクコンバータ1Aは、軸方向に対してエンジン側から出力軸側に向かって、フロントカバー10、ロックアップクラッチ機構30、ダンパー機構40、流体伝達機構20の順番で配置されている。
このトルクコンバータ1Aは、駆動源からフロントカバー10に伝達された駆動力を流体伝達機構20又はロックアップクラッチ機構30に伝達するものである。そして、トルクコンバータ1Aは、流体伝達機構20に伝達された駆動力を流体伝達機構20内部の作動流体としての作動油を介して出力軸50に伝達する一方、ロックアップクラッチ機構30に伝達された駆動力を摩擦係合部31、ダンパー機構40を介して出力軸50に伝達するものである。
フロントカバー10は、駆動源である図示しないエンジンからの駆動力が伝達されるものであると共に、伝達された駆動力を流体伝達機構20又はロックアップクラッチ機構30に伝達するものである。フロントカバー10は、フロントカバー本体部11と、フロントカバーフランジ部12と、セットブロック13と、フロントカバーボス部14とを有する。
フロントカバー本体部11は、出力軸50の中心軸線である回転軸線Xと同軸の円板形状に形成される。フロントカバー本体部11は、膨出部11aを有する。膨出部11aは、フロントカバー本体部11の径方向内側中心部近傍が駆動源出力軸としてのクランクシャフト62側、すなわち、エンジン側に向かって突出するようにして形成される。
フロントカバーフランジ部12は、フロントカバー本体部11の径方向外側端部から出力軸側に突出して形成されている。フロントカバーフランジ部12は、回転軸線Xと同軸の円筒形状に形成される。
セットブロック13は、エンジンからの駆動力の入力部材であるドライブプレート60と連結されるものである。セットブロック13は、フロントカバー本体部11のエンジン側の面の外周端部近傍に周方向に複数形成されている。各セットブロック13は、ドライブプレート60の貫通穴に挿入されたボルト13aがそれぞれボルト穴に螺合することで、ドライブプレート60と締結される。
ここで、ドライブプレート60は、駆動源であるエンジン(不図示)の駆動力が伝達されるものである。ドライブプレート60は、出力軸50の中心軸線である回転軸線Xと同軸の円環板形状に形成される。ドライブプレート60は、径方向内側端部側で固定部材、例えば、ボルト61によりエンジン(不図示)の駆動源出力軸であるクランクシャフト62と固定されている。すなわち、クランクシャフト62には、その端面にボルト穴が形成されており、ドライブプレート60は、径方向内側端部に形成された貫通孔にボルト61が挿入され、このボルト61がクランクシャフト62のボルト穴に螺合することでクランクシャフト62と締結される。クランクシャフト62は、出力軸50の回転軸線Xを中心として出力軸50に対して相対回転可能である。つまり、ドライブプレート60は、クランクシャフト62に対して固定され、回転軸線Xを中心としてクランクシャフト62と共に一体回転可能である。したがって、エンジンの駆動力は、クランクシャフト62からボルト61を介してドライブプレート60に伝達され、ドライブプレート60に伝達された駆動力がフロントカバー10のセットブロック13を介してフロントカバー本体部11に伝達される。なお、このドライブプレート60は、径方向外側端部にいわゆるスタータリングギヤ63が設けられている。
フロントカバーボス部14は、フロントカバー本体部11の膨出部11aにクランクシャフト62側、すなわち、エンジン側に向かって突出するように設けられる。このフロントカバーボス部14は、回転軸線Xと同軸の円柱状に形成される。フロントカバーボス部14は、固定手段、例えば、溶接などにより膨出部11aに固定される。フロントカバーボス部14は、クランクシャフト62の端面に形成された嵌合部62aに挿入され支持されている。つまり、フロントカバー10は、フロントカバーボス部14が嵌合部62aに挿入されることで、回転軸線Xを中心としてクランクシャフト62と共に回転可能に支持される。
流体伝達機構20は、流体伝達手段であり、フロントカバー10に伝達された駆動力を作動流体(作動油)を介して出力軸50に伝達するものである。流体伝達機構20は、ポンプインペラ21と、タービンライナ22と、ステータ23と、ワンウェイクラッチ24と、ポンプインペラ21とタービンライナ22との間に介在する作動流体である作動油とにより構成されている。
ポンプインペラ21は、フロントカバー10に伝達されたエンジンからの駆動力が伝達されるものであり、伝達された駆動力を作動油を介してタービンライナ22に伝達するものである。ポンプインペラ21は、複数のポンプブレード21aと、ポンプシェル21bと、インナーコア21c、スリーブ21dとを有する。各ポンプブレード21aは、翼であり、トルクコンバータ1Aの周方向に等間隔に設けられている。各ポンプブレード21aは、内周にインナーコア21cが取り付けられている。ポンプシェル21bは、回転軸線Xと同軸のリング形状で出力軸側に凹んでおり、凹むことで形成されたポンプシェル21bの内面に各ポンプブレード21aが取り付けられている。ポンプシェル21bは、径方向外側端部がフロントカバー10のフロントカバーフランジ部12の出力軸側端部に例えば溶接などにより固定されることで、フロントカバー10に固定されている。つまり、ポンプインペラ21は、フロントカバー10と一体回転し、フロントカバー10に伝達されたエンジンからの駆動力がポンプシェル21bを介して各ポンプブレード21aに伝達される。また、ポンプインペラ21は、ポンプシェル21bの径方向内側端部がスリーブ21dに固定されている。このスリーブ21dは、回転運動により作動する装置、例えばオイルポンプ(不図示)などに連結されている。
タービンライナ22は、ポンプインペラ21から作動油を介して伝達されたエンジンからの駆動力を出力軸50に伝達するものである。タービンライナ22は、タービンブレード22aと、タービンシェル22bと、インナーコア22cとを有する。各タービンブレード22aは、翼であり、トルクコンバータ1Aの周方向に等間隔に設けられている。各タービンブレード22aは、内周にインナーコア22cが取り付けられている。タービンシェル22bは、回転軸線Xと同軸のリング形状でエンジン側に湾曲しており、湾曲したタービンシェル22bの内面に各タービンブレード22aが取り付けられている。ここで、タービンライナ22は、ポンプインペラ21に対向するように配置されている。
そして、タービンライナ22は、タービンシェル22bの径方向内側端部が例えばリベット51aによりハブ51に固定されている。
ハブ51は、タービンライナ22の基部であり、タービンライナ22の径方向内側に配置されている。ハブ51は、回転軸線Xと同軸の円環状に形成されている。ハブ51は、径方向外側端部がタービンシェル22bの径方向内側端部にリベット51aなどにより固定されることで、タービンシェル22bに固定されている。
また、ハブ51は、径方向内側に出力軸50が挿入されている。ハブ51は、例えばハブ51の径方向内側端部の内周面において軸方向に形成されたスプラインと、出力軸50の外周面において軸方向に形成されたスプラインとがスプライン嵌合することにより、出力軸50に設けられている。この結果、ハブ51と出力軸50とは、相互に駆動力を伝達可能な構成となる。
つまり、タービンシェル22bは、ハブ51を介して出力軸50と一体回転することとなり、タービンライナ22が出力軸50と一体回転することで、流体伝達機構20を構成するポンプインペラ21、作動油及びタービンライナ22を介して伝達されたエンジンからの駆動力が出力軸50に伝達される。
ステータ23は、周方向に形成された複数のステータブレード23aを有し、ポンプインペラ21とタービンライナ22との間に配置されるものである。ステータ23は、ポンプインペラ21とタービンライナ22との間を循環する作動油の流れを変化させ、エンジンから伝達される駆動力に基づいて所定のトルク特性を得るためのものである。
ワンウェイクラッチ24は、トルクコンバータ1Aを収納するハウジング52に対してステータ23を一方向のみに回転可能に支持するものである。このワンウェイクラッチ24は、スリーブ21dおよびハブ51に対して、軸受25,26によりそれぞれ回転可能に支持されている。
ロックアップクラッチ機構30は、ロックアップ手段であり、フロントカバー10に伝達された駆動力を摩擦係合部31を介して出力軸50に伝達するものである。すなわち、ロックアップクラッチ機構30は、フロントカバー10に伝達されたエンジンからの駆動力を流体伝達機構20の作動流体を介さずに直接出力軸50に伝達するものである。
ロックアップクラッチ機構30は、摩擦係合部31と、ピストン部材としてのロックアップピストン32と、作動流体流路33と、ピストン油圧室34とを有する。
本実施形態の摩擦係合部31は、いわゆる湿式多板クラッチを構成するものである。摩擦係合部31は、複数の摩擦係合板としての第1摩擦プレート35、第1ディスク36、第2摩擦プレート37、第2ディスク38からなり、すなわち、4つの摩擦係合板により構成される。なお、本実施形態の第2ディスク38は、ピストン部材としてのロックアップピストン32としても兼用されるが、これに限らず、第2ディスク38とピストン部材としてのロックアップピストン32とをそれぞれ別個に設けてもよい。
摩擦係合板としての第1摩擦プレート35、第1ディスク36、第2摩擦プレート37、第2ディスク38(ロックアップピストン32)は、フロントカバー10の流体伝達機構20側に設けられる。さらに具体的に言えば、第1摩擦プレート35、第1ディスク36、第2摩擦プレート37、第2ディスク38(ロックアップピストン32)は、軸方向に対してフロントカバー10のフロントカバー本体部11とタービンライナ22のタービンシェル22b、ハブ51との間に配置されている。つまり、第1摩擦プレート35、第1ディスク36、第2摩擦プレート37、第2ディスク38(ロックアップピストン32)は、フロントカバー10と流体伝達機構20のポンプシェル21bとによって区画され作動流体(作動油)で満たされる空間部に設けられる。
第1摩擦プレート35、第1ディスク36、第2摩擦プレート37、第2ディスク38(ロックアップピストン32)は、回転軸線Xと同軸の円環板状に形成され、軸方向に対してフロントカバー10とタービンライナ22との間に、軸方向においてフロントカバー10と対向するようにして配置されている。
さらに具体的には、この摩擦係合部31は、軸方向に対してエンジン側から出力軸側に向かって、第1摩擦プレート35、第1ディスク36、第2摩擦プレート37、第2ディスク38(ロックアップピストン32)の順番で配置されている。すなわち、摩擦係合部31は、軸方向に対して第1摩擦プレート35が最もフロントカバー10側に配置され、この第1摩擦プレート35の出力軸側の側方に第1ディスク36が配置される。摩擦係合部31は、この第1ディスク36の出力軸側の側方に第2摩擦プレート37が配置され、この第2摩擦プレート37の出力軸側の側方にロックアップピストン32として兼用される第2ディスク38が配置される。
また、摩擦係合部31は、第1摩擦プレート35及び第2摩擦プレート37がフロントカバー10と共に一体回転するものであり、すなわち、フロントカバー10から駆動力が伝達されるものである。一方、この摩擦係合部31は、第1ディスク36及びロックアップピストン32として兼用される第2ディスク38が出力軸50と共に一体回転するものであり、すなわち、第1摩擦プレート35及び第2摩擦プレート37に伝達された駆動力が後述の摩擦係合面39を介して伝達され、この駆動力を出力軸50に駆動力を伝達するものである。
つまり、この摩擦係合部31は、駆動力の伝達方向に対してフロントカバー10側に連結された摩擦係合板である第1摩擦プレート35、第2摩擦プレート37と、出力軸50側に連結された摩擦係合板である第1ディスク36、第2ディスク38とが軸方向に沿って交互に設けられる。そして、この摩擦係合部31は、軸方向に沿って交互に設けられる第1摩擦プレート35、第2摩擦プレート37と第1ディスク36、第2ディスク38とが後述する摩擦係合面39にて摩擦力により摩擦係合可能である。
第1摩擦プレート35と第2摩擦プレート37とは、内径及び外径が共にほぼ同等に設定されほぼ同等の形状をなしている。第1摩擦プレート35、第2摩擦プレート37は、フロントカバーフランジ部12の内側に挿入されるようにして配置される。第1摩擦プレート35、第2摩擦プレート37は、フロントカバー10に連結部70を介して接続されており、この連結部70によりフロントカバー10に一体回転可能かつ軸方向に相対移動可能に連結されている。
連結部70は、第1摩擦プレート35、第2摩擦プレート37をそれぞれフロントカバー10に連結するものであり、ここでは例えば、スプライン嵌合部により構成されるが、これに限らず、例えば、後述の連結部71で説明するような切欠係合部により構成されていてもよい。連結部70は、第1摩擦プレート35、第2摩擦プレート37の外周面において軸方向に沿って形成されたスプラインと、フロントカバー10のフロントカバーフランジ部12の内周面において軸方向に沿って形成されたスプラインとがスプライン嵌合することにより、第1摩擦プレート35、第2摩擦プレート37とフロントカバー10とを相互に駆動力を伝達可能に連結する。したがって、このトルクコンバータ1Aは、連結部70にて第1摩擦プレート35、第2摩擦プレート37のスプラインと、フロントカバーフランジ部12のスプラインとがスプライン嵌合することで、第1摩擦プレート35、第2摩擦プレート37とフロントカバー10とが一体回転可能かつ軸方向に相対移動可能に連結される。つまり、第1摩擦プレート35、第2摩擦プレート37は、上述したように、複数の摩擦係合板のうちフロントカバー10と一体回転する摩擦係合板をなす。
第1ディスク36と第2ディスク38とは、外径がほぼ同等に設定される一方、ロックアップピストン32として兼用される第2ディスク38の内径が第1ディスク36の内径より小さく設定されている。ここでは、第1ディスク36、第2ディスク38は、外径が、第1摩擦プレート35、第2摩擦プレート37の外径より若干小さく設定されている。第1ディスク36、第2ディスク38は、フロントカバーフランジ部12の内側に挿入されるようにして配置される。
ここで、ロックアップピストン32は、上述したように摩擦係合板の1つ、すなわち、第2ディスク38として兼用されると共に、後述する摩擦係合面39に押圧力を付加するピストン部材としても機能するものである。このロックアップピストン32は、フロントカバー10に対して軸方向に相対移動可能に配置されている。ロックアップピストン32は、径方向外側突出部32aと、径方向内側突出部32bと、連結切欠部32cとを有する。
径方向外側突出部32aは、ロックアップピストン32の径方向外側端部がタービンライナ22側に折れ曲がるようにして形成される。つまり、径方向外側突出部32aは、タービンライナ22側に突出して回転軸線Xと同軸の円筒状に形成される部分である。
径方向内側突出部32bは、ロックアップピストン32の径方向内側端部がフロントカバー10側に折れ曲がるようにして形成される。つまり、径方向内側突出部32bは、フロントカバー10側に突出して回転軸線Xと同軸の円筒状に形成される部分である。
連結切欠部32cは、連結部71の一部を構成するものであり、径方向外側突出部32aに形成される。この連結部71は、ロックアップピストン32と後述するダンパー機構40の中心保持プレート43とを一体回転可能かつ軸方向に相対移動可能に連結するものである。
連結切欠部32cは、ロックアップピストン32のうち後述するダンパー機構40の中心保持プレート43の径方向外側端部に設けられる連結突起部43aと径方向において対向する部分、すなわち、径方向外側突出部32aに形成されている。連結切欠部32cは、径方向外側突出部32aの出力軸側の端部がエンジン側に向かって軸方向に沿って切り欠かれることで形成される。連結切欠部32cは、径方向に対して径方向外側突出部32aの外周面から内周面まで貫通して形成される。連結切欠部32cは、径方向外側突出部32aに対して周方向に等間隔に複数個形成されている。
ロックアップピストン32は、この連結切欠部32cに後述のダンパー機構40の中心保持プレート43の径方向外側端部に設けられる連結突起部43aが挿入され連結切欠部32cと連結突起部43aとが係合することで、ダンパー機構40の中心保持プレート43に対して軸方向に相対移動可能で、かつ、この中心保持プレート43と一体回転可能に支持される。つまり、ロックアップピストン32は、連結部71をなす連結切欠部32cと連結突起部43aとにより、中心保持プレート43に一体回転可能かつ軸方向に相対移動可能に連結される。したがって、第2ディスク38として兼用されるロックアップピストン32は、このロックアップピストン32に伝達された駆動力をダンパー機構40の中心保持プレート43に伝達可能に連結されると共に、フロントカバー10に対しても軸方向に相対移動可能な構成となり、すなわち、フロントカバー10に対して軸方向に接近、離間可能な構成となる。
なお、ロックアップピストン32は、連結部71を介して後述のダンパー機構40の中心保持プレート43に一体回転可能かつ軸方向に相対移動可能に連結された状態で、径方向外側突出部32aがフロントカバーフランジ部12と径方向に所定の間隔を有して対向する。また、ロックアップピストン32は、連結部71を介してのダンパー機構40の中心保持プレート43に一体回転可能かつ軸方向に相対移動可能に連結された状態で、径方向内側突出部32bがハブ51の径方向内側端部の外周面(出力軸50と接触する面とは反対側の面)と対向し接触し軸方向に摺動自在に支持されている。
第1ディスク36は、第2ディスク38として兼用されるロックアップピストン32に連結部72を介して接続されており、この連結部72によりロックアップピストン32に一体回転可能かつ軸方向に相対移動可能に連結されている。
連結部72は、第1ディスク36を第2ディスク38として兼用されるロックアップピストン32に連結するものであり、ここでは例えば、スプライン嵌合部により構成されるが、これに限らず、例えば、上述の連結部71で説明したような切欠係合部により構成されていてもよい。この連結部72は、取付円筒部72aを有する。取付円筒部72aは、回転軸線Xと同軸の円筒形状に形成される。取付円筒部72aは、固定手段、例えば、溶接などによりロックアップピストン32の径方向中間部(径方向に対する径方向外側突出部32aと径方向内側突出部32bとの中間の部分)に固定される。
第1ディスク36は、内周面側に取付円筒部72aが挿入されるようにして配置される。そして、連結部72は、第1ディスク36の内周面において軸方向に沿って形成されたスプラインと、取付円筒部72aの外周面において軸方向に沿って形成されたスプラインとがスプライン嵌合することにより、第1ディスク36とロックアップピストン32(第2ディスク38)とを相互に駆動力を伝達可能に連結する。したがって、このトルクコンバータ1Aは、連結部72にて第1ディスク36のスプラインと、取付円筒部72aのスプラインとがスプライン嵌合することで、第1ディスク36とロックアップピストン32とが一体回転可能かつ軸方向に相対移動可能に連結される。
そして、この第2ディスク38として兼用されるロックアップピストン32は、後述するダンパー機構40及び上述のハブ51を介して出力軸50に一体回転可能に連結される。つまり、第1ディスク36、第2ディスク38として兼用されるロックアップピストン32は、複数の摩擦係合板のうち出力軸50と一体回転する摩擦係合板をなす。
そして、複数の摩擦係合板としての第1摩擦プレート35、第1ディスク36、第2摩擦プレート37、第2ディスク38は、摩擦係合可能な複数の摩擦係合面39をなす。すなわち、第1摩擦プレート35と第1ディスク36とは、第1摩擦係合面39aをなし、第1ディスク36と第2摩擦プレート37とは、第2摩擦係合面39bをなし、第2摩擦プレート37と第2ディスク38とは、第3摩擦係合面39cをなす。
第1摩擦係合面39aは、第1摩擦プレート35の対向壁面35aと第1ディスク36に設けられる摩擦材36aとにより構成される。第2摩擦係合面39bは、第1ディスク36に設けられる摩擦材36bと第2摩擦プレート37の対向壁面37aとにより構成される。第3摩擦係合面39cは、第2摩擦プレート37の対向壁面37bと第2ディスク38に設けられる摩擦材38aとにより構成される。
対向壁面35aは、第1摩擦プレート35において第1ディスク36と軸方向に対向する壁面であり、ここでは、第1摩擦プレート35の出力軸側の壁面である。対向壁面37aは、第2摩擦プレート37において第1ディスク36と軸方向に対向する壁面であり、ここでは、第2摩擦プレート37のエンジン側の壁面である。対向壁面37bは、第2摩擦プレート37において第2ディスク38と軸方向に対向する壁面であり、ここでは、第2摩擦プレート37の出力軸側の壁面である。
摩擦材36a、摩擦材36b及び摩擦材38aは、回転軸線Xと同軸の円環板状に形成される。摩擦材36aは、第1ディスク36において第1摩擦プレート35と軸方向に対向する壁面、ここでは、第1ディスク36のエンジン側の壁面に設けられる。摩擦材36bは、第1ディスク36において第2摩擦プレート37と軸方向に対向する壁面、ここでは、第1ディスク36の出力軸側の壁面に設けられる。摩擦材38aは、第2ディスク38において第2摩擦プレート37と軸方向に対向する壁面、ここでは、第2ディスク38のエンジン側の壁面に設けられる。
すなわち、摩擦係合部31は、軸方向に対してエンジン側から出力軸側に向かって、第1摩擦係合面39aの一方の面をなす対向壁面35a、第1摩擦係合面39aの他方の面をなす摩擦材36a、第2摩擦係合面39bの一方の面をなす摩擦材36b、第2摩擦係合面39bの他方の面をなす対向壁面37a、第3摩擦係合面39cの一方の面をなす対向壁面37b、第3摩擦係合面39cの他方の面をなす摩擦材38aの順番で配置されている。
そして、第1摩擦係合面39aは、対向壁面35aと摩擦材36aとが対向して接触することで摩擦係合可能であり、すなわち、第1摩擦プレート35と第1ディスク36とを摩擦係合可能である。第2摩擦係合面39bは、摩擦材36bと対向壁面37aとが対向して接触することで摩擦係合可能であり、すなわち、第1ディスク36と第2摩擦プレート37とを摩擦係合可能である。第3摩擦係合面39cは、対向壁面37bと摩擦材38aとが対向して接触することで摩擦係合可能であり、すなわち、第2摩擦プレート37とロックアップピストン32として兼用される第2ディスク38とを摩擦係合可能である。
したがって、このロックアップクラッチ機構30は、摩擦係合部31にて第1摩擦係合面39a、第2摩擦係合面39b及び第3摩擦係合面39cが摩擦係合することで、第1摩擦プレート35、第1ディスク36、第2摩擦プレート37、第2ディスク38を一体回転可能に摩擦係合することができる。この結果、ロックアップクラッチ機構30は、この摩擦係合部31にてフロントカバー10と、第2ディスク38として兼用されるロックアップピストン32とを一体回転可能に摩擦係合することができる。
そして、ロックアップクラッチ機構30は、第2ディスク38として兼用されるロックアップピストン32がダンパー機構40の中心保持プレート43に対して軸方向に相対的に移動してフロントカバー10のフロントカバー本体部11に対して接近、離間し、これに伴って第1摩擦プレート35、第1ディスク36、第2摩擦プレート37も軸方向に相対移動することで、対向壁面35aと摩擦材36aとの相対距離、摩擦材36bと対向壁面37aとの相対距離、対向壁面37bと摩擦材38aとの相対距離を変化させることができる。そして、ロックアップクラッチ機構30は、このロックアップピストン32の軸方向に沿った摺動により、対向壁面35aと摩擦材36a、摩擦材36bと対向壁面37a、対向壁面37bと摩擦材38aとをそれぞれ接触させ摩擦係合することができ、またこれらを非接触とし、摩擦係合を解除することができる。
なお、第2ディスク38として兼用されるロックアップピストン32の径方向内側突出部32bとハブ51の径方向内側端部の外周面との間には、ハブ51の径方向内側端部の外周面とこの外周面上を摺動する径方向内側突出部32bとの間からの作動流体(作動油)の漏れを抑制するシール部材S1が配置されている。したがって、フロントカバー10と流体伝達機構20のポンプシェル21bとによって区画されるトルクコンバータ1Aの内部は、ロックアップピストン32により、流体伝達機構20が位置する流体伝達機構空間部Aと、ロックアップクラッチ機構30の摩擦係合部31が位置するクラッチ空間部Bとに区画される。流体伝達機構空間部Aは、軸方向に対してロックアップピストン32より出力軸側の空間、すなわち、軸方向に対してロックアップピストン32とポンプシェル21bとによって区画される空間、クラッチ空間部Bは、軸方向に対してフロントカバー10とロックアップピストン32とによって区画される空間である。この流体伝達機構空間部Aとクラッチ空間部Bとは、摩擦係合部31側で径方向外側突出部32aとフロントカバーフランジ部12との間の連通部分を介して連通可能となっている。
作動流体流路33は、軸方向に対してロックアップピストン32とフロントカバー10との間に作動流体(作動油)が通過可能な空間部として形成される。ここでは、トルクコンバータ1Aの内部にて摩擦係合部31が位置するクラッチ空間部Bが作動流体流路33として機能する。摩擦係合部31は、この作動流体流路33として機能するクラッチ空間部B内の径方向外側の部分に設けられている。そして、この作動流体流路33は、上述のように摩擦係合部31側で径方向外側突出部32aとフロントカバーフランジ部12との間の連通部分を介して流体伝達機構20の内部の流体伝達機構空間部Aと連通可能に形成される。
ピストン油圧室34は、ロックアップピストン32を軸方向に移動させるための油圧押圧力を発生させるためのものである。ここでは、トルクコンバータ1Aの内部にて流体伝達機構20が位置する流体伝達機構空間部Aがピストン油圧室34として機能する。このピストン油圧室34として機能する流体伝達機構空間部Aは、上述したように、ロックアップピストン32とポンプシェル21bとの間に作動流体(作動油)が通過可能な空間部として形成されている。そして、このピストン油圧室34として機能する流体伝達機構空間部Aは、内部の作動油によってロックアップピストン32にフロントカバー10側への押圧力を発生させる。
上記のように構成されるロックアップクラッチ機構30は、ピストン油圧室34として機能する流体伝達機構空間部Aに供給される作動流体(作動油)の液圧(油圧)により、ロックアップピストン32が軸方向に沿ってフロントカバー10側に接近移動し、ロックアップクラッチ機構30の第1摩擦係合面39a、第2摩擦係合面39b及び第3摩擦係合面39cが摩擦係合することで、ロックアップクラッチ機構30がONとなる。ロックアップクラッチ機構30がONとなると、フロントカバー10とロックアップピストン32とが一体回転することとなるので、このロックアップクラッチ機構30は、フロントカバー10に伝達されたエンジンからの駆動力を第1摩擦プレート35、第2摩擦プレート37から第1ディスク36、第2ディスク38として兼用されるロックアップピストン32を介して、後述するダンパー機構40の中心保持プレート43に伝達することとなる。
ここで、このトルクコンバータ1Aは、ロックアップピストン32とポンプシェル21bとの間に形成されピストン油圧室34として機能する流体伝達機構空間部A又はフロントカバー10とロックアップピストン32との間に形成され作動流体流路33として機能するクラッチ空間部Bの一方に油圧制御手段としての油圧制御装置81から作動流体としての作動油が供給される。
この油圧制御装置81は、トルクコンバータ1Aを含むトランスミッションの各部に供給される作動油の流量あるいは油圧を制御するものである。油圧制御装置81は、ECU82に電気的に接続され、このECU82により油圧制御装置81の各弁の開閉制御などが実行される。
そして、油圧制御装置81は、ピストン油圧室34として機能する流体伝達機構空間部Aの油圧と、作動流体流路33として機能するクラッチ空間部Bの油圧との圧力差、すなわち、ロックアップクラッチ機構30のロックアップピストン32の出力軸側の面である押圧力作用面32dに軸方向に作用する押圧力を制御することができる。
油圧制御装置81は、ロックアップクラッチ機構30のON制御時に、例えば、ピストン油圧室34として機能する流体伝達機構空間部Aに作動油を供給し、流体伝達機構20の内部側であるこの流体伝達機構空間部A側からクラッチ空間部Bに作動油を流し、作動流体流路33として機能するクラッチ空間部Bからトルクコンバータ1Aの外部に排出することで、作動流体流路33として機能するクラッチ空間部Bの油圧を低下させ、ピストン油圧室34として機能する流体伝達機構空間部Aの油圧をクラッチ空間部Bの油圧よりも大きくする。これにより、油圧制御装置81は、ロックアップピストン32をフロントカバー10に接近する側(エンジン側)に移動させ、第1摩擦係合面39a、第2摩擦係合面39b及び第3摩擦係合面39cに押圧力を付加して摩擦係合し、フロントカバー10とロックアップピストン32とを摩擦係合させて、フロントカバー10とロックアップピストン32とを一体回転させる。
また、油圧制御装置81は、ロックアップクラッチ機構30のOFF制御時に、例えば、作動流体流路33として機能するクラッチ空間部Bに作動油を供給し、クラッチ空間部B側から流体伝達機構空間部Aに作動油を流し、ピストン油圧室34として機能する流体伝達機構空間部Aからトルクコンバータ1Aの外部に作動油を排出することで、作動流体流路33として機能するクラッチ空間部Bの油圧をピストン油圧室34として機能する流体伝達機構空間部Aの油圧よりも大きく、あるいは同等とする。これにより、油圧制御装置81は、ロックアップピストン32をフロントカバー10から離間する側(出力軸側)に移動させ、第1摩擦係合面39a、第2摩擦係合面39b及び第3摩擦係合面39cの摩擦係合を解除し、フロントカバー10とロックアップピストン32との一体回転を解除する。
ダンパー機構40は、フロントカバー10と出力軸50とを複数の弾性体としての複数のダンパースプリング41を介して相対回転可能に連結するものである。ここでは、フロントカバー10と出力軸50とは、ロックアップクラッチ機構30のON制御時に、ロックアップクラッチ機構30の摩擦係合部31、第2ディスク38として兼用されるロックアップピストン32、ダンパー機構40及びハブ51を介して相対回転可能に連結される。ダンパー機構40は、フロントカバー10とポンプシェル21bとにより区画される空間部、さらに言えば、ロックアップピストン32とポンプシェル21bとによって区画される流体伝達機構空間部Aに収納されており、軸方向に対してタービンシェル22bとロックアップピストン32との間に設けられる。
ダンパー機構40は、複数の弾性体としての複数のダンパースプリング41と、保持部材42とを有する。本実施形態の保持部材42は、複数のダンパースプリング41を保持するものであり、中心保持プレート43と、第1サイド保持プレート44と、第2サイド保持プレート45とを含んで構成される。
このダンパー機構40は、軸方向に対してエンジン側から出力軸側に向かって、第1サイド保持プレート44、中心保持プレート43及び複数のダンパースプリング41、第2サイド保持プレート45の順番で配置されている。
そして、本実施形態のダンパー機構40は、ロックアップクラッチ機構30のON制御時に、フロントカバー10、摩擦係合部31、ロックアップピストン32を順番に介して伝達されるエンジンからの駆動力が中心保持プレート43に入力され、この中心保持プレート43に入力された駆動力をダンパースプリング41を介して第1サイド保持プレート44、第2サイド保持プレート45に伝達し、この第1サイド保持プレート44、第2サイド保持プレート45からハブ51を介して出力軸50に伝達可能である。
複数のダンパースプリング41は、例えば、複数のコイルスプリングである。ダンパースプリング41は、フロントカバー10から中心保持プレート43に伝達されたエンジンの駆動力を第1サイド保持プレート44、第2サイド保持プレート45に伝達するものである。複数のダンパースプリング41は、外側ダンパースプリング41aと、内側ダンパースプリング41bとを含んでいる。外側ダンパースプリング41aと内側ダンパースプリング41bとは、外側ダンパースプリング41aが径方向外側に配置され、内側ダンパースプリング41bが外側ダンパースプリング41aの径方向内側に配置される。
中心保持プレート43、第1サイド保持プレート44、第2サイド保持プレート45は、複数の外側ダンパースプリング41a、内側ダンパースプリング41bを保持するものであり、回転軸線Xと同軸の円環板状に形成される。中心保持プレート43、第1サイド保持プレート44及び第2サイド保持プレート45は、軸方向に対してロックアップピストン32とタービンシェル22bとの間に配置されている。
中心保持プレート43は、上述したようにロックアップピストン32が一体回転可能かつ軸方向に相対移動可能に設けられると共に、外側ダンパースプリング41a、内側ダンパースプリング41bを駆動力伝達可能に保持するものである。中心保持プレート43は、上述の連結突起部43aと、外側中心保持部43bと、内側中心保持部43cとを有する。
連結突起部43aは、中心保持プレート43の径方向外側端部(すなわち、外周面側の端部)に形成されている。この連結突起部43aは、連結部71の一部を構成するものであり、すなわち、上述したロックアップピストン32の連結切欠部32cと共に連結部71を構成するものである。連結突起部43aは、中心保持プレート43に対して周方向に等間隔にそれぞれ複数個形成されている。
連結突起部43aは、中心保持プレート43がロックアップピストン32の径方向外側突出部32aの内側に挿入された状態で、径方向外側突出部32aの連結切欠部32cと径方向において対向するように、中心保持プレート43の径方向外側端部から径方向外側に突出して形成されている。連結突起部43aは、中心保持プレート43が径方向外側突出部32aの内側に挿入された状態で、連結切欠部32cに挿入されるように突出量が設定されている。
中心保持プレート43は、ロックアップピストン32の径方向外側突出部32aの内側に挿入された状態で、連結部71をなす連結突起部43aが連結切欠部32cに挿入され係合することで、ロックアップピストン32に対して相対回転することが規制されると共に軸方向に沿ったロックアップピストン32の相対移動が許容される。つまり、中心保持プレート43は、この連結部71にて、ロックアップピストン32を軸方向に相対移動可能で、かつ、この中心保持プレート43と一体回転可能に支持する。したがって、中心保持プレート43は、連結部71によってロックアップピストン32と駆動力を伝達可能に連結される。そして、中心保持プレート43は、ロックアップクラッチ機構30のON制御時に、エンジンからの駆動力がフロントカバー10、摩擦係合部31、ロックアップピストン32を順番に介して入力される。つまり、フロントカバー10に伝達されたエンジンからの駆動力は、ロックアップクラッチ機構30のON制御時には、この連結部71にてロックアップピストン32から中心保持プレート43に伝達される。
なお、この連結部71は、連結突起部43aと連結切欠部32cとによる切り欠き係合を構成するものに限らず、例えば、スプライン嵌合を構成するものであってもよい。この場合、この連結部71は、ロックアップピストン32の径方向外側突出部32aの内周面、中心保持プレート43の径方向外側端部の外周面の全周にわたってそれぞれ形成されるスプラインにより構成すればよい。
外側中心保持部43b、内側中心保持部43cは、それぞれ中心保持プレート43において複数の外側ダンパースプリング41a、内側ダンパースプリング41bの一部分を保持するものである。外側中心保持部43b、内側中心保持部43cは、ともに中心保持プレート43の周方向に沿って円弧状に形成されたスリットである。外側中心保持部43bと内側中心保持部43cとは、中心保持プレート43において、外側中心保持部43bが径方向外側に設けられる一方、内側中心保持部43cが径方向内側に設けられる。外側中心保持部43bは、内部に外側ダンパースプリング41aが挿入されこの外側ダンパースプリング41aを保持する。内側中心保持部43cは、内部に内側ダンパースプリング41bが挿入されこの内側ダンパースプリング41bを保持する。外側中心保持部43b、内側中心保持部43cは、それぞれ中心保持プレート43に対して周方向に等間隔に複数個形成されており、それぞれに外側ダンパースプリング41a、内側ダンパースプリング41bが保持される。
各外側中心保持部43bは、その周方向の長さが各外側ダンパースプリング41aを付勢した状態で保持できる長さに設定されている。したがって、外側中心保持部43bに外側ダンパースプリング41aが保持されると、外側中心保持部43bの周方向における両端部が外側ダンパースプリング41aの両端部にそれぞれ接触することとなる。つまり、外側ダンパースプリング41aは、各外側中心保持部43bの周方向における両端部に接触し、両端部の間に付勢された状態で保持される。各内側中心保持部43cは、その周方向の長さが各内側ダンパースプリング41bを付勢した状態で保持できる長さに設定されている。したがって、内側中心保持部43cに内側ダンパースプリング41bが保持されると、内側中心保持部43cの周方向における両端部が内側ダンパースプリング41bの両端部にそれぞれ接触することとなる。つまり、内側ダンパースプリング41bは、各内側中心保持部43cの周方向における両端部に接触し、両端部の間に付勢された状態で保持される。
したがって、この中心保持プレート43は、外側中心保持部43b、内側中心保持部43cと外側ダンパースプリング41a、内側ダンパースプリング41bとの周方向端部接触部分において、外側ダンパースプリング41a、内側ダンパースプリング41bとの間で駆動力の伝達が可能となる。
第1サイド保持プレート44、第2サイド保持プレート45は、中心保持プレート43により軸方向の中心部分を保持される複数の外側ダンパースプリング41a、内側ダンパースプリング41bの一部分を駆動力伝達可能に保持するものである。
第1サイド保持プレート44、第2サイド保持プレート45は、軸方向に対して中心保持プレート43の側方にそれぞれ設けられる。ここでは、第1サイド保持プレート44は、軸方向に対して中心保持プレート43のロックアップピストン32側(エンジン側)の側方に設けられ、第2サイド保持プレート45は、軸方向に対して中心保持プレート43のタービンシェル22b側(出力軸側)に設けられる。第1サイド保持プレート44は、第1外側サイド保持部44a及び第1内側サイド保持部44bを有する一方、第2サイド保持プレート45は、第2外側サイド保持部45a及び第2内側サイド保持部45bを有する。
第1サイド保持プレート44と第2サイド保持プレート45とは、第2サイド保持プレート45の内径が第1サイド保持プレート44の内径より小さく設定されている。そして、第2サイド保持プレート45は、径方向内側端部(すなわち、内周面側の端部)がタービンシェル22bの径方向内側端部とともに例えばリベット51aによりハブ51に固定されている。したがって、第2サイド保持プレート45は、ハブ51を介して出力軸50に固定され、ハブ51及び出力軸50と共に一体回転することができる。
そして、第1サイド保持プレート44と第2サイド保持プレート45とは、軸方向に対する第1サイド保持プレート44と第2サイド保持プレート45との間の空間部分に複数の外側ダンパースプリング41a、内側ダンパースプリング41bと共に中心保持プレート43が配置され、この中心保持プレート43及び複数の外側ダンパースプリング41a、内側ダンパースプリング41bを挟み込みこれらを保持する。第1サイド保持プレート44と第2サイド保持プレート45とは、中心保持プレート43の軸方向両側を挟んで相対回転可能に保持する。
ここで、第1サイド保持プレート44と第2サイド保持プレート45とは、例えばリベット46により中心保持プレート43を挟んで一体化されている。また、リベット46により一体化された第1サイド保持プレート44と第2サイド保持プレート45との間にはスリーブ47が設けられている。スリーブ47は、円筒形状であり、リベット46は、スリーブ47の内部に挿入するようにして設けられる。これにより、第1サイド保持プレート44は、第2サイド保持プレート45、ハブ51及び出力軸50と共に一体回転することができる。
そして、スリーブ47は、第1サイド保持プレート44と第2サイド保持プレート45との間で軸方向におけるスペーサとして作用し、第1サイド保持プレート44と第2サイド保持プレート45との軸方向に対する相対的な位置関係を適正に固定する。第1サイド保持プレート44、第2サイド保持プレート45は、このリベット46、スリーブ47を介して中心保持プレート43の軸方向両側にこの中心保持プレート43に対して相対回転可能に組み付けられている。これにより、第1サイド保持プレート44、第2サイド保持プレート45と中心保持プレート43とが相対的に回転する際には、第1サイド保持プレート44と第2サイド保持プレート45との間にスリーブ47が介在され、第1サイド保持プレート44、第2サイド保持プレート45と中心保持プレート43との間に適正なクリアランスが確保されることで、この相対回転が滑らかに行われる。
なお、このリベット46、スリーブ47は、中心保持プレート43を貫通している。ただし、中心保持プレート43は、このリベット46、スリーブ47の部分にスライド部43dが形成されている。スライド部43dは、中心保持プレート43においてリベット46、スリーブ47に対応する部分に円弧状のスリットとして中心保持プレート43を貫通して形成される。スライド部43dは、軸方向に対してリベット46、スリーブ47を内部に挿入可能な位置に円弧状に設けられている。これにより、このスライド部43dは、第1サイド保持プレート44、第2サイド保持プレート45と中心保持プレート43との相対回転に伴ったリベット46、スリーブ47の移動を第1サイド保持プレート44、第2サイド保持プレート45と中心保持プレート43とが所定の捩れ角となるまで許容することができる。
第1サイド保持プレート44の第1外側サイド保持部44a及び第1内側サイド保持部44b、第2サイド保持プレート45の第2外側サイド保持部45a及び第2内側サイド保持部45bは、中心保持プレート43により軸方向に対する中心部分が保持される各外側ダンパースプリング41a、内側ダンパースプリング41bの一部分を収容し保持するものである。第1外側サイド保持部44a、第1内側サイド保持部44bは、第1サイド保持プレート44の中心保持プレート43と対向する壁面、すなわち、出力軸側の壁面に設けられる。第2外側サイド保持部45a、第2内側サイド保持部45bは、第2サイド保持プレート45の中心保持プレート43と対向する壁面、すなわち、エンジン側の壁面に設けられる。
第1外側サイド保持部44a、第1内側サイド保持部44bは、第1サイド保持プレート44の出力軸側の壁面がエンジン側(中心保持プレート43側とは反対側)に窪むことで形成される。第1外側サイド保持部44a、第1内側サイド保持部44bは、第1サイド保持プレート44の周方向に沿って円弧状に形成される。第1外側サイド保持部44a、第1内側サイド保持部44bは、第1サイド保持プレート44に対して周方向に等間隔に複数個形成されている。
第2外側サイド保持部45a、第2内側サイド保持部45bは、第2サイド保持プレート45のエンジン側の壁面が出力軸側(中心保持プレート43側とは反対側)に窪むことで形成される。第2外側サイド保持部45a、第2内側サイド保持部45bは、第2サイド保持プレート45の周方向に沿って円弧状に形成される。第2外側サイド保持部45a、第2内側サイド保持部45bは、第2サイド保持プレート45に対して周方向に等間隔に複数個形成されている。
そして、各第1外側サイド保持部44aと各第2外側サイド保持部45aとは、ともに中心保持プレート43の外側中心保持部43bと軸方向に対向する位置に形成される。各第1内側サイド保持部44bと各第2内側サイド保持部45bとは、ともに中心保持プレート43の内側中心保持部43cと軸方向に対向する位置に形成される。
したがって、ダンパー機構40は、中心保持プレート43の外側中心保持部43bが各外側ダンパースプリング41aの中心部分(軸方向の中心部分)を保持し、第1サイド保持プレート44の第1外側サイド保持部44aが各外側ダンパースプリング41aのうち外側中心保持部43bよりエンジン側の部分を収容し保持する一方、第2サイド保持プレート45の第2外側サイド保持部45aが外側中心保持部43bより出力軸側の部分を収容し保持する。また、ダンパー機構40は、中心保持プレート43の内側中心保持部43cが各内側ダンパースプリング41bの中心部分(軸方向の中心部分)を保持し、第1サイド保持プレート44の第1内側サイド保持部44bが各内側ダンパースプリング41bのうち内側中心保持部43cよりエンジン側の部分を収容し保持する一方、第2サイド保持プレート45の第2内側サイド保持部45bが内側中心保持部43cより出力軸側の部分を収容し保持する。
そして、各第1外側サイド保持部44a、各第2外側サイド保持部45aの周方向における両端部は、各外側中心保持部43bに各外側ダンパースプリング41aが保持された状態で、それぞれ外側ダンパースプリング41aの両端部に周方向において対向し、接触可能となる。各第1内側サイド保持部44b、各第2内側サイド保持部45bの周方向における両端部は、各内側中心保持部43cに各内側ダンパースプリング41bが保持された状態で、それぞれ内側ダンパースプリング41bの両端部に周方向において対向し、接触可能となる。この結果、第1サイド保持プレート44、第2サイド保持プレート45は、第1外側サイド保持部44a、第2外側サイド保持部45a、第1内側サイド保持部44b、第2内側サイド保持部45bと外側ダンパースプリング41a、内側ダンパースプリング41bとの周方向端部接触部分において、外側ダンパースプリング41a、内側ダンパースプリング41bとの間で駆動力の伝達が可能となる。
つまり、各外側ダンパースプリング41a、各内側ダンパースプリング41bは、中心保持プレート43の外側中心保持部43b、内側中心保持部43c、第1サイド保持プレート44の第1外側サイド保持部44a、第1内側サイド保持部44b及び第2サイド保持プレート45の第2外側サイド保持部45a、第2内側サイド保持部45bにより保持され、中心保持プレート43と第1サイド保持プレート44、第2サイド保持プレート45との間で相互に駆動力の伝達が可能となる。
上記のように構成されるダンパー機構40は、ロックアップピストン32に伝達されたエンジンからの駆動力を連結部71にて中心保持プレート43に伝達する。ダンパー機構40は、中心保持プレート43に伝達された駆動力を外側中心保持部43b、内側中心保持部43cの周方向端部から外側ダンパースプリング41a、内側ダンパースプリング41bに伝達する。ダンパー機構40は、外側ダンパースプリング41a、内側ダンパースプリング41bに伝達された駆動力を第1外側サイド保持部44a、第1内側サイド保持部44b、第2外側サイド保持部45a、第2内側サイド保持部45bの周方向端部を介して第1サイド保持プレート44、第2サイド保持プレート45に伝達する。したがって、第1サイド保持プレート44、第2サイド保持プレート45は、ロックアップピストン32に伝達されたエンジンからの駆動力が外側ダンパースプリング41a、内側ダンパースプリング41bを介して伝達され、ロックアップピストン32と同一方向に回転する。そして、ダンパー機構40は、第1サイド保持プレート44、第2サイド保持プレート45に伝達された駆動力を第2サイド保持プレート45からハブ51を介して出力軸50に伝達し、このハブ51を介して出力軸50は、第1サイド保持プレート44、第2サイド保持プレート45と同一方向に回転する。したがって、ダンパー機構40は、中心保持プレート43に伝達された駆動力をダンパースプリング41を介して出力軸50に伝達することができる。
この間、各外側ダンパースプリング41a、各内側ダンパースプリング41bは、それぞれ、中心保持プレート43の外側中心保持部43b、内側中心保持部43cの周方向端部と第1サイド保持プレート44、第2サイド保持プレート45の第1外側サイド保持部44a、第1内側サイド保持部44b、第2外側サイド保持部45a、第2内側サイド保持部45bの周方向端部との間に保持されつつ、伝達される駆動力の大きさに応じて弾性変形する。
次に、本実施形態に係るトルクコンバータ1Aの基本的な動作について説明する。トルクコンバータ1Aは、エンジンが駆動力を発生し、クランクシャフト62が回転すると、エンジンからの駆動力がドライブプレート60を介してフロントカバー10に伝達される。フロントカバー10に伝達されたエンジンからの駆動力は、フロントカバー10に連結されているポンプインペラ21のポンプシェル21bに伝達され、ポンプインペラ21が回転する。流体伝達機構空間部Aの作動油は、ポンプインペラ21が回転すると、ポンプブレード21aとタービンブレード22aとステータ23のステータブレード23aの間を循環し、流体継手として作用する。これにより、フロントカバー10に伝達されたエンジンからの駆動力が、ポンプインペラ21及び作動油を介してタービンライナ22に伝達され、タービンライナ22がフロントカバー10と同一方向に回転する。このとき、ステータ23は、ステータブレード23aを介してポンプブレード21aとタービンブレード22aとの間を循環する作動油の流れを変化させ、これにより、このトルクコンバータ1Aは、所定のトルク特性を得ることができる。
そして、ロックアップクラッチ機構30のOFF時は、摩擦係合部31の摩擦係合が解除されている。したがって、上記のように作動油を介してタービンライナ22に伝達されたエンジンからの駆動力は、ハブ51を介して出力軸50に伝達される。つまり、ロックアップクラッチ機構30のOFF時は、フロントカバー10に伝達されたエンジンからの駆動力が流体伝達機構20を介して出力軸50に伝達される。
一方、ロックアップクラッチ機構30のON時は、摩擦係合部31が摩擦係合することで、フロントカバー10とロックアップピストン32とが一体回転する。したがって、フロントカバー10に伝達された駆動力は、摩擦係合部31を介してロックアップピストン32に伝達される。ロックアップピストン32に伝達されたエンジンからの駆動力は、連結部71を介してロックアップピストン32からダンパー機構40の中心保持プレート43に入力されて、中心保持プレート43に入力された駆動力は、外側中心保持部43b、内側中心保持部43cの周方向端部から外側ダンパースプリング41a、内側ダンパースプリング41bに伝達される。外側ダンパースプリング41a、内側ダンパースプリング41bに伝達された駆動力は、第1外側サイド保持部44a、第1内側サイド保持部44b、第2外側サイド保持部45a、第2内側サイド保持部45bの周方向端部を介して第1サイド保持プレート44、第2サイド保持プレート45に伝達され、第1サイド保持プレート44、第2サイド保持プレート45に伝達された駆動力は、第2サイド保持プレート45からハブ51に伝達される。つまり、ロックアップクラッチ機構30のON時は、フロントカバー10に伝達されたエンジンからの駆動力がロックアップクラッチ機構30、ダンパー機構40及びハブ51を介して作動油を介さずに直接的に出力軸50に伝達される。
そして、ロックアップクラッチ機構30がOFF時からON時、あるいはON時からOFF時に切り替わる場合や、エンジンからの駆動力が変動した場合、出力軸50に伝達される路面からの抵抗力が変動した場合などでは、フロントカバー10と出力軸50との間で伝達される力(エンジンからの駆動力と路面から伝達される被駆動力)が変動し、ダンパー機構40を挟んで駆動側に位置するフロントカバー10と被駆動側に位置する出力軸50とが相対的に回転しようとする。このとき、ダンパー機構40の各外側ダンパースプリング41a、各内側ダンパースプリング41bは、駆動側のフロントカバー10と、被駆動側の出力軸50との相対的な回転に伴って、フロントカバー10側と出力軸50側との間で伝達される力の変動に応じて、それぞれ、中心保持プレート43と第1サイド保持プレート44、第2サイド保持プレート45との間で弾性変形する。これにより、例えば、エンジンの爆発に起因する振動を各ダンパースプリング41が吸収するので、ダンパー機構40を介した駆動力伝達時におけるこもり音などの振動を低減することができる。
また、このトルクコンバータ1Aでは、いわゆるスリップ制御を実行することで、さらなる振動低減を図る場合がある。このトルクコンバータ1Aにおけるスリップ制御は、油圧制御装置81がピストン油圧室34として機能する流体伝達機構空間部Aと作動流体流路33として機能するクラッチ空間部Bとの油圧を所定のバランスで維持するように作動油の供給を制御することで実行される。すなわち、油圧制御装置81は、スリップ制御では、例えば、ピストン油圧室34として機能する流体伝達機構空間部Aに作動油を供給し、流体伝達機構空間部A側からクラッチ空間部Bに作動油を流し、作動流体流路33として機能するクラッチ空間部Bからトルクコンバータ1Aの外部に排出すると共にこの流体伝達機構空間部Aとクラッチ空間部Bとの油圧を所定のバランスで維持する。流体伝達機構空間部Aとクラッチ空間部Bとの油圧が所定のバランスで維持されると、ロックアップクラッチ機構30の摩擦係合部31の各摩擦係合面39はスリップ状態(半係合状態)となり、この各摩擦係合面39において解放と係合の中間の動力伝達状態が形成される。この結果、このスリップ制御を実行し各摩擦係合面39をスリップ状態とすることで、このロックアップクラッチ機構30において振動をさらに低減することができる。
ここで、本実施形態のトルクコンバータ1Aは、上述したように油圧制御装置81がフロントカバー10とポンプシェル21bとで区画される空間部、さらに言えば、ピストン油圧室34として機能する流体伝達機構空間部A又は作動流体流路33として機能するクラッチ空間部Bに対する作動油の供給、排出を制御することで、ロックアップクラッチ機構30のON・OFF制御やロックアップクラッチ機構30のスリップ制御を実行する。このとき、トルクコンバータ1Aは、軸方向に対してフロントカバー10の流体伝達機構20側に設けられた給排出開口部83を介して作動油が供給又は排出される。
給排出開口部83は、スリーブ21dの円筒状部分の軸方向の一方の端部、ここでは、出力軸側の端部に回転軸線X周りに円形状の開口として形成されている。この給排出開口部83は、スリーブ21dの内部空間と連通している。スリーブ21dは、円筒状部分の内側に上述の出力軸50及びハウジング52の一部が挿入されると共に、その内部空間部分が給排出通路84として機能する。すなわち、給排出通路84は、給排出開口部83と連通すると共にフロントカバー10とポンプシェル21bとで区画される空間部、つまり、ピストン油圧室34として機能する流体伝達機構空間部A、作動流体流路33として機能するクラッチ空間部Bと連通する。さらに言えば、給排出通路84は、軸方向の出力軸側の一端部が給排出開口部83により開口する一方、エンジン側の他端部がフロントカバー10のフロントカバー本体部11により閉鎖されると共に、この他端部側で径方向に流体伝達機構空間部A、クラッチ空間部Bと連通している。そして、給排出開口部83を介して供給される作動油は、この給排出通路84を通って流体伝達機構空間部A又はクラッチ空間部Bに供給され、また、流体伝達機構空間部A、クラッチ空間部Bから排出される作動油は、この給排出通路84を通って給排出開口部83から排出される。
ところで、本実施形態のトルクコンバータ1Aは、図1に示すように、ロックアップクラッチ機構30の摩擦係合部31に作動流体としての作動油を径方向の内側に案内可能な冷却流路100を有することで、摩擦係合部31の冷却性能の向上を図り、ロックアップクラッチ機構30の性能の向上を図っている。
以下、図2、図3、図4を参照してロックアップクラッチ機構30の冷却流路100を具体的に説明する。なお、図2は、各摩擦係合面39の摩擦係合が解除された状態、すなわち、非係合状態における摩擦係合部31を含む部分断面図、図3は、各摩擦係合面39が摩擦係合した状態又はスリップ状態、すなわち、係合・半係合状態における摩擦係合部31を含む部分断面図である。また、図4は、冷却流路100の構成を説明する模式的概略図であり、第1摩擦プレート35、第1ディスク36、第2摩擦プレート37、第2ディスク38を図2、図3に示すエンジン側から視た平面図(図2、図3中に矢印L1で示すL1視)又は出力軸側から視た平面図(図2、図3中に矢印L2で示すL2視)を模式的に並べた図である。図4は、図中向かって右側から左側に第1摩擦プレート35のL1視、第1ディスク36のL1視、第1ディスク36のL2視、第2摩擦プレート37のL1視、ロックアップピストン32として兼用される第2ディスク38のL1視の順番で並べている。
ここで、摩擦係合部31は、軸方向に対して最もフロントカバー10側に配置される第1摩擦プレート35がフロントカバー10との間に流入流路108を形成する。流入流路108は、軸方向に対して第1摩擦プレート35とフロントカバー10のフロントカバー本体部11との間に形成される空間部である。
流入流路108は、第1摩擦プレート35の径方向外側端部側でフロントカバーフランジ部12との間の連通部分を介して流体伝達機構空間部A、クラッチ空間部Bと連通している。したがって、流入流路108は、作動流体としての作動油が流入可能な構成となる。
一方、流入流路108は、第1摩擦プレート35の径方向内側端部側で閉塞した空間部となっている。具体的には、第1摩擦プレート35は、当接壁面35bの径方向内側端部近傍がフロントカバー本体部11の突起部11bに当接可能な構成となっている。ここで、第1摩擦プレート35の当接壁面35bは、第1摩擦係合面39aをなす対向壁面35aの背面側の壁面である。フロントカバー本体部11の突起部11bは、フロントカバー本体部11の出力軸側の壁面が出力軸側に突出した部分である。この突起部11bは、回転軸線Xと同軸の円環状に形成される。
流入流路108は、第1摩擦プレート35にロックアップピストン32側から押圧力が作用した際(図3参照)に当接壁面35bと突起部11bとが当接することで、第1摩擦プレート35とフロントカバー本体部11との間に適正な空間部として確保されつつ、この当接壁面35bと突起部11bとの接触面がシール部109として作用することで、当接壁面35bと突起部11bとの間を介した作動流体(作動油)の流通が抑制される。なおこの場合、流入流路108とクラッチ空間部Bとは、基本的には、第1摩擦プレート35を境界としてフロントカバー10側の空間領域が流入流路108、ロックアップピストン32側の空間領域がクラッチ空間部Bとなる。
そして、冷却流路100は、この流入流路108と連通するようにして構成される。具体的には、本実施形態の冷却流路100は、第1流路101と、第2流路102と、第3流路103と、第4流路104と、第5流路105と、第6流路106と、第7流路107とからなる。
第1流路101は、第1摩擦プレート35に設けられる。第1流路101は、第1摩擦プレート35を軸方向に沿って当接壁面35bから対向壁面35aまで貫通する貫通部として形成される(図2、図3参照)。第1流路101は、円柱状に形成され、第1摩擦プレート35に対して周方向に等間隔に複数個設けられている(図4参照)。
第2流路102は、第1ディスク36の摩擦材36aに設けられる。第2流路102は、摩擦材36aを軸方向に沿って貫通する貫通部として形成される(図2、図3参照)。第2流路102は、回転軸線Xと同軸の円環状に形成され、軸方向に対して各第1流路101と対向する位置に設けられている(図4参照)。これにより、このロックアップクラッチ機構30は、スリップ制御において第1摩擦プレート35の対向壁面35aと摩擦材36aとが接触しつつ相対回転する際に、各第1流路101の開口部により摩擦材36aの表面が損傷することを防止することができる。
第3流路103は、第1ディスク36に設けられる。第3流路103は、第1ディスク36を軸方向に沿って摩擦材36a側から摩擦材36b側まで貫通する貫通部として形成される(図2、図3参照)。第3流路103は、円柱状に形成され、第1ディスク36に対して周方向に等間隔に複数個設けられている(図4参照)。また、各第3流路103は、軸方向に対して第2流路102と対向する位置に設けられている。
第4流路104は、第1ディスク36の摩擦材36bに設けられる。第4流路104は、全体として摩擦材36bを軸方向に沿って貫通する貫通部として形成される(図2、図3参照)。第4流路104は、径方向延在部104aと、環状部104bとを含んで構成される(図4参照)。径方向延在部104aは、摩擦材36bに径方向に沿って複数形成される。各径方向延在部104aは、それぞれ径方向外側端部が軸方向に対して各第3流路103と対向する位置に設けられている。環状部104bは、回転軸線Xと同軸の円環状に形成される。環状部104bは、径方向に対して第3流路103より径方向内側の位置に設けられる。そして、各径方向延在部104aは、径方向内側端部がこの環状部104bに接続され、すなわち、径方向内側でこの環状部104bと連通している。
第5流路105は、第2摩擦プレート37に設けられる。第5流路105は、第2摩擦プレート37を軸方向に沿って対向壁面37aから対向壁面37bまで貫通する貫通部として形成される(図2、図3参照)。第5流路105は、円柱状に形成され、第2摩擦プレート37に対して周方向に等間隔に複数個設けられている(図4参照)。また、各第5流路105は、軸方向に対して第4流路104の環状部104bと対向する位置に設けられている。これにより、このロックアップクラッチ機構30は、スリップ制御において第2摩擦プレート37の対向壁面37aと摩擦材36bとが接触しつつ相対回転する際に、各第5流路105の開口部により摩擦材36bの表面が損傷することを防止することができる。
第6流路106は、第2ディスク38の摩擦材38aに設けられる。第6流路106は、摩擦材38aを軸方向に沿って貫通する貫通部として形成される(図2、図3参照)。第6流路106は、回転軸線Xと同軸の円環状に形成され、軸方向に対して各第5流路105と対向する位置に設けられている(図4参照)。これにより、このロックアップクラッチ機構30は、スリップ制御において摩擦材38aと第2摩擦プレート37の対向壁面37bとが接触しつつ相対回転する際に、各第5流路105の開口部により摩擦材38aの表面が損傷することを防止することができる。
第7流路107は、第2ディスク38に設けられる。第7流路107は、第2ディスク38を軸方向に沿ってクラッチ空間部B側(摩擦材38a側)から流体伝達機構空間部A側まで貫通する貫通部として形成される(図2、図3参照)。第7流路107は、円柱状に形成され、第2ディスク38に対して周方向に等間隔に複数個設けられている(図4参照)。また、各第7流路107は、軸方向に対して第6流路106と対向する位置に設けられている。
したがって、各摩擦係合面39にロックアップピストン32側から押圧力が作用し、各摩擦係合面39が摩擦係合した状態又はスリップ状態となると、図3に示すように、第1流路101、第2流路102、第3流路103、第4流路104、第5流路105、第6流路106及び第7流路107は、一続きの冷却流路100をなす。このとき、冷却流路100は、第1流路101が流入流路108に開口し、第7流路107が流体伝達機構空間部Aに開口していることから、第1流路101側で流入流路108と連通する一方、第7流路107側で流体伝達機構空間部Aと連通することとなる。この結果、冷却流路100は、摩擦係合部31の各摩擦係合面39が係合・半係合状態となると、全体として摩擦係合部31に対して軸方向に沿って設けられ、作動油を径方向の内側に案内することができる。ここでは、冷却流路100は、全体として摩擦係合部31を軸方向に貫通している。
また、本実施形態の冷却流路100は、軸方向に沿った一方側に向けて、すなわち、流入流路108を基準にエンジン側から出力軸側に向けて軸方向への折り返しなく作動油を案内することができる。また、本実施形態の冷却流路100は、径方向に沿った一方側に向けて、すなわち、流入流路108を基準に径方向外側から径方向内側に向けて径方向への折り返しなく作動油を案内することができる。
ここで、摩擦係合部31は、各摩擦係合面39が摩擦係合した状態又はスリップ状態となると、図3に示すように、この各摩擦係合面39がフロントカバー10の流体伝達機構20側の空間部、すなわち、フロントカバー10とポンプシェル21bとによって区画されるトルクコンバータ1Aの内部を相対的に低圧な低圧側空間部91と相対的に高圧な高圧側空間部92とに区画することとなる。上述したように、油圧制御装置81は、ピストン油圧室34として機能する流体伝達機構空間部Aの油圧を作動流体流路33として機能するクラッチ空間部Bの油圧よりも大きく設定することで、ロックアップクラッチ機構30をONにする。すなわち、各摩擦係合面39の係合・半係合状態においては、各摩擦係合面39を境界として流体伝達機構空間部A側が高圧側空間部92となり、クラッチ空間部B側が低圧側空間部91となる。
より具体的に言えば、摩擦係合部31は、第1摩擦係合面39a、第2摩擦係合面39b及び第3摩擦係合面39cにおける冷却流路100より径方向内側の部分が低圧側空間部91と高圧側空間部92とのシール部90として作用する。このシール部90は、各摩擦係合面39を介した低圧側空間部91と高圧側空間部92との相互の作動油の漏洩を抑制する。つまり、摩擦係合部31は、各摩擦係合面39が摩擦係合した状態又はスリップ状態となると、各摩擦係合面39による低圧側空間部91と高圧側空間部92との実質的なシール部90が冷却流路100の径方向内側に形成される。
また、流入流路108は、上述したように、第1摩擦プレート35にロックアップピストン32側から押圧力が作用した際(図3参照)に当接壁面35bと突起部11bとの接触面がシール部109として作用する。これにより、流入流路108は、このシール部109により当接壁面35bと突起部11bとの間を介した低圧側空間部91と高圧側空間部92との相互の作動油の漏洩を抑制される。
そして、本実施形態の冷却流路100は、上述したように、流入流路108と流体伝達機構空間部Aとに連通している。つまり、このロックアップクラッチ機構30は、ピストン油圧室34として機能する流体伝達機構空間部A、作動流体流路33として機能するクラッチ空間部Bのシール部90より径方向外側の部分、流入流路108及び冷却流路100が高圧側空間部92となる一方、クラッチ空間部Bのシール部90より径方向内側の部分が低圧側空間部91となる。したがって、この冷却流路100は、高圧側空間部92に連通することとなり、摩擦係合部31の各摩擦係合面39が係合・半係合状態となると、高圧側空間部92の作動油を軸方向に沿って案内すると共に径方向内側に案内することとなる。
上記のように構成されるトルクコンバータ1Aは、スリップ制御時では各摩擦係合面39がスリップ状態となることで、各摩擦係合面39が発熱し温度上昇する。例えば、スリップ制御におけるスリップ量(スリップ回転数)が多くなるにしたがって各摩擦係合面39における発熱量が多くなり、摩擦係合面39の温度上昇が大きくなる。ここで、一般的なトルクコンバータ1Aでは、通常、各摩擦係合面39の焼損等を防止するため、スリップ制御を実行可能な運転領域が摩擦係合面39の温度上昇に応じて制限される。すなわち、スリップ制御における許容伝達トルク(許容トルク容量)や許容スリップ量(許容スリップ回転数)は、摩擦係合面39の温度上昇に応じて制限される。
本実施形態のトルクコンバータ1Aは、摩擦係合部31が複数の摩擦係合板としての第1摩擦プレート35、第1ディスク36、第2摩擦プレート37、第2ディスク38により湿式多板クラッチを構成し複数の摩擦係合面39を構成している。これにより、トルクコンバータ1Aは、例えば、摩擦係合部を単板で構成する場合と比較して、摩擦係合部31全体での摩擦係合面39の面積、言い換えれば、発熱面面積を相対的に増加させることができることから、各摩擦係合面39における単位面積あたりの発熱量を低減することができるので、各摩擦係合面39の温度上昇を抑制することができる。したがって、トルクコンバータ1Aは、ロックアップクラッチ機構30においてスリップ制御を実行可能な運転領域を広げることができ、装置の大型化を抑制しつつ各摩擦係合面39の許容伝達トルク(許容トルク容量)や許容スリップ量(許容スリップ回転数)を増加することができる。この結果、トルクコンバータ1Aは、ロックアップクラッチ機構30のスリップ制御により振動低減を図ることができる運転領域を広げることができ、この結果、より早期にロックアップクラッチ機構30のスリップ制御に移行することができるので燃費を向上することができ、ロックアップクラッチ機構30の性能を向上することができる。
また、本実施形態のトルクコンバータ1Aは、第1摩擦プレート35とフロントカバー本体部11との間に流入流路108が形成されていることから、流体伝達機構空間部A側から摩擦係合部31とフロントカバーフランジ部12との間の連通部分を介してこの流入流路108に作動油が回り込んだ状態となることで、例えば、スリップ制御時に各摩擦係合面39の変形を抑制することができる。すなわち、トルクコンバータ1Aは、ロックアップピストン32側から各摩擦係合面39に作用する押圧力に対して、第1摩擦プレート35に流入流路108の作動油の油圧が反力として作用することで、ロックアップクラッチ機構30の性能を悪化させるような各摩擦係合面39の変形を抑制することができ、各摩擦係合面39の接触角度を常に一定に保持することができる。したがって、トルクコンバータ1Aは、ロックアップクラッチ機構30の各摩擦係合面39において適正な接触状態を確保することができ、各摩擦係合面39の係合状態を常に安定化することができ、よって、ロックアップクラッチ機構30の性能を向上することができる。この結果、トルクコンバータ1Aは、例えば、ロックアップクラッチ機構30におけるスリップ制御の制御性を向上することができ、スリップ制御を精度よく実行することができるので、さらに振動を低減することができ、こもり音などの発生をさらに抑制することができ、燃費をさらに向上できる。
また、トルクコンバータ1Aは、第1摩擦プレート35において第1摩擦係合面39aの一方の面をなす対向壁面35aの背面側の壁面、すなわち、当接壁面35b側の壁面が直接フロントカバー本体部11に接触した状態ではなく、第1摩擦プレート35の当接壁面35b側の壁面とフロントカバー本体部11との間に流入流路108の作動油が介在した状態となり各摩擦係合面39を含む摩擦係合部31のほぼ全体が作動油に覆われた状態となることから、例えば、第1摩擦プレート35を介した摩擦係合部31の放熱性を向上することができるトルクコンバータ1Aは、この作動油が各摩擦係合面39を含む摩擦係合部31の潤滑冷却媒体として作用することで、摩擦係合部31の冷却性能を向上することができる。この結果、トルクコンバータ1Aは、各摩擦係合面39の温度上昇をさらに抑制することができることから、ロックアップクラッチ機構30においてスリップ制御を実行可能な運転領域をさらに広げることができ、燃費を向上することができると共に、各摩擦係合面39の寿命を向上することができ、ロックアップクラッチ機構30の性能をさらに向上することができる。
ここで、作動油は、摩擦係合部31を冷却する際に受熱する熱量により温度上昇する。そして、温度が相対的に上昇した作動油は、低温の作動油に比べて相対的に比重が小さくなる傾向にある。このため、トルクコンバータ1Aの各部の回転軸線X周りの回転に伴って作動油に遠心力が作用すると、温度が相対的に上昇し比重が相対的に小さくなった作動油は、径方向外側から径方向内側に向かって押しやられて流動する。
このとき、本実施形態のトルクコンバータ1Aは、摩擦係合部31に対して軸方向に沿って設けられた冷却流路100が径方向内側に押しやられる作動油を径方向の内側に積極的に案内することから、温度が相対的に上昇し比重が相対的に小さくなった作動油の径方向外側から径方向内側に向かう移動を促進することができる。すなわち、温度が相対的に上昇し比重が相対的に小さくなり径方向内側に押しやられる作動油は、図3に矢印で示すように、流入流路108から冷却流路100の第1流路101に流入し、この第1流路101から第2流路102、第3流路103、第4流路104、第5流路105、第6流路106及び第7流路107を順に通過して第7流路107から流体伝達機構空間部Aに流出する。
この間、冷却流路100を通過する作動油は、各摩擦係合面39を含む摩擦係合部31を効果的に潤滑冷却することができる。また、冷却流路100は、摩擦係合部31に対して軸方向に沿って延在するように設けられていることから、各摩擦係合面39が係合・半係合状態であっても、摩擦係合部31の軸方向中央部分、例えば、第2摩擦係合面39b近傍を効果的に潤滑冷却することができるので、この摩擦係合部31の軸方向中央部分に熱がこもることを抑制することができる。したがって、トルクコンバータ1Aは、摩擦係合部31全体で冷却効率を向上し温度上昇を抑制することができる。またこれにより、トルクコンバータ1Aは、各摩擦係合面39の熱変形を防止することができ、各摩擦係合面39における油膜状態を均一にすることができ、摩擦係数を安定化することができるので、ロックアップクラッチ機構30の性能をさらに向上することができる。この結果、トルクコンバータ1Aは、例えば、ロックアップクラッチ機構30におけるスリップ制御の制御性をさらに向上することができ、スリップ制御を精度よく実行することができるので、さらに振動を低減することができ、こもり音などの発生をさらに抑制することができ、燃費をさらに向上できる。
そして、各摩擦係合面39を含む摩擦係合部31を潤滑冷却し流体伝達機構空間部Aに流出した作動油は、流体伝達機構空間部Aにて放熱し温度が低下することで相対的に比重が大きくなる。温度が低下し相対的に比重が大きくなった作動油は、トルクコンバータ1Aの各部の回転軸線X周りの回転に伴って作動油に遠心力が作用することで、その一部が径方向内側から径方向外側に向かって押しやられ流動し再び流入流路108側に流動する。
つまり、本実施形態のトルクコンバータ1Aは、スリップ制御時に、摩擦係合部31に対して軸方向に沿って設けられ作動油を径方向の内側に案内する冷却流路100がこの作動油の温度差による比重の相違を利用した循環冷却を促進するので、摩擦係合部31の冷却効率をさらに向上することができる。この結果、トルクコンバータ1Aは、各摩擦係合面39の温度上昇をさらに抑制することができることから、ロックアップクラッチ機構30においてスリップ制御を実行可能な運転領域をさらに広げることができ、燃費をさらに向上することができると共に、各摩擦係合面39の寿命をさらに向上することができ、ロックアップクラッチ機構30の性能をさらに向上することができる。
またこのとき、本実施形態のトルクコンバータ1Aは、冷却流路100が軸方向に沿った一方側に向けて折り返しなく作動油を案内し、また、径方向に沿った一方側に向けて径方向への折り返しなく作動油を案内することから、例えば、キャビテーションにより作動油中に気泡や渦が発生することを抑制することができ、冷却流路100を流動する作動油の流れを安定化することができる。したがって、摩擦係合部31の冷却効率をさらに向上することができ、ロックアップクラッチ機構30の性能をさらに安定化することができる。
以上で説明した本発明の実施形態に係るトルクコンバータ1Aによれば、エンジンからフロントカバー10に伝達された駆動力を作動油を介して出力軸50に伝達可能な流体伝達機構20と、フロントカバー10に伝達された駆動力を複数の摩擦係合板としての第1摩擦プレート35、第1ディスク36、第2摩擦プレート37、第2ディスク38(ロックアップピストン32)が摩擦係合可能な摩擦係合部31を介して出力軸50に伝達可能であると共に、摩擦係合部31に作動油を軸方向に直交する径方向の内側に案内可能な冷却流路100を有するロックアップクラッチ機構30とを備える。
したがって、トルクコンバータ1Aは、例えば、摩擦係合部31の各摩擦係合面39が係合・半係合状態となると、摩擦係合部31に設けられ作動油を径方向の内側に案内する冷却流路100が作動油の温度差による比重の相違を利用した循環冷却を促進することから、摩擦係合部31の冷却効率を向上することができるので、ロックアップクラッチ機構30においてスリップ制御を実行可能な運転領域を広げ、燃費を向上することができ、また、各摩擦係合面39の寿命を向上することができ、よって、ロックアップクラッチ機構30の性能を向上することができる。
さらに、以上で説明した本発明の実施形態に係るトルクコンバータ1Aによれば、冷却流路100は、摩擦係合部31に対して出力軸50の軸方向に沿って設けられる。したがって、トルクコンバータ1Aは、摩擦係合部31の軸方向中央部分を効果的に潤滑冷却することができるので、摩擦係合部31の冷却効率をさらに向上することができ、ロックアップクラッチ機構30の性能をさらに向上することができる。
さらに、以上で説明した本発明の実施形態に係るトルクコンバータ1Aによれば、摩擦係合部31は、フロントカバー10と軸方向に対向する第1摩擦プレート35がこの軸方向に対してフロントカバー10との間に作動油が流入可能な流入流路108を形成し、冷却流路100は、流入流路108と連通する。したがって、トルクコンバータ1Aは、第1摩擦プレート35とフロントカバー10との間に流入流路108が形成されていることから、この流入流路108に作動油が回り込んだ状態となることで、各摩擦係合面39の変形を抑制することができると共に摩擦係合部31の冷却性能を向上することができるので、ロックアップクラッチ機構30の性能をさらに向上することができる。また、トルクコンバータ1Aは、冷却流路100がこの流入流路108と連通することから、軸方向の一方側、すなわち、フロントカバー10側の流入流路108から冷却流路100に作動油を導入することができる。
さらに、以上で説明した本発明の実施形態に係るトルクコンバータ1Aによれば、冷却流路100は、軸方向に沿った一方側に向けて作動油を案内し、径方向に沿った一方側に向けて作動油を案内する。したがって、トルクコンバータ1Aは、冷却流路100が軸方向に沿った一方側に向けて折り返しなく作動油を案内し、また、径方向に沿った一方側に向けて径方向への折り返しなく作動油を案内することから、冷却流路100を流動する作動油の流れを安定化することができるので、ロックアップクラッチ機構30の性能をさらに向上することができる。
さらに、以上で説明した本発明の実施形態に係るトルクコンバータ1Aによれば、摩擦係合部31は、複数の摩擦係合板としての第1摩擦プレート35、第1ディスク36、第2摩擦プレート37、第2ディスク38(ロックアップピストン32)が摩擦係合する各摩擦係合面39により、フロントカバー10の流体伝達機構20側の空間部を相対的に低圧な低圧側空間部91と相対的に高圧な高圧側空間部92とに区画し、冷却流路100は、高圧側空間部92に連通する。したがって、トルクコンバータ1Aは、冷却流路100が高圧側空間部92に連通することから、高圧側空間部92の作動油が冷却流路100を流れ高圧側空間部92を循環すると共に冷却流路100にて摩擦係合部31を冷却する。このとき、冷却流路100にて摩擦係合部31を冷却した作動油は、低圧側空間部91と比較して相対的に容積が大きく作動油の充填量が多い高圧側空間部92を循環しているので、冷却流路100に再導入される作動油の温度を効果的に低下させることができる。よって、このトルクコンバータ1Aは、摩擦係合部31の冷却性能をさらに向上することができるので、ロックアップクラッチ機構30の性能をさらに向上することができる。
(実施形態2)
図5は、本発明の実施形態2に係るトルクコンバータの要部断面図、図6は、本発明の実施形態2に係るトルクコンバータの摩擦係合部(非係合状態)を含む部分断面図、図7は、本発明の実施形態2に係るトルクコンバータの摩擦係合部(係合・半係合状態)を含む部分断面図、図8は、実施形態2に係るトルクコンバータの冷却流路及びポンプ機構の構成を説明する模式的概略図である。実施形態2に係る流体伝達装置は、実施形態1に係る流体伝達装置と略同様の構成であるがポンプ手段を備える点で実施形態1に係る流体伝達装置とは異なる。その他、上述した実施形態と共通する構成、作用、効果については、重複した説明はできるだけ省略するとともに、同一の符号を付す。
なお、以下の説明では、この流体伝達装置としてのトルクコンバータは、回転軸線Xを中心軸線としてほぼ対称になるように構成されることから、図5には、回転軸線Xを中心軸線として一方側のみを図示し、特に断りのない限り、回転軸線Xを中心軸線として一方側のみを説明し、他方側の説明はできるだけ省略する。また、図8は、冷却流路及びポンプ手段の構成を説明する模式的概略図であり、第1ディスク236を図6、図7に示すエンジン側から視た平面図(図6、図7中に矢印L3で示すL3視)、出力軸側から視た平面図(図6、図7中に矢印L4で示すL4視)及び軸方向断面を模式的に並べた図である。図8は、図中向かって右側から左側に第1ディスク236のL3視、第1ディスク236の軸方向断面、第1ディスク236のL4視の順番で並べている。
本実施形態の流体伝達装置としてのトルクコンバータ2Aは、ロックアップ手段としてのロックアップクラッチ機構230を備える。ロックアップクラッチ機構230は、摩擦係合部231と、ピストン部材としてのロックアップピストン232と、作動流体流路33と、ピストン油圧室34とを有する。
本実施形態の摩擦係合部231は、いわゆる湿式多板クラッチを構成するものである。摩擦係合部231は、複数の摩擦係合板としての第1摩擦プレート235、第1ディスク236、第2摩擦プレート237からなり、すなわち、3つの摩擦係合板により構成される。なお、本実施形態の第2摩擦プレート237は、ピストン部材としてのロックアップピストン232としても兼用されるが、これに限らず、第2摩擦プレート237とピストン部材としてのロックアップピストン232とをそれぞれ別個に設けてもよい。
摩擦係合板としての第1摩擦プレート235、第1ディスク236、第2摩擦プレート237(ロックアップピストン232)は、フロントカバー10の流体伝達機構20側に設けられる。さらに具体的に言えば、第1摩擦プレート235、第1ディスク236、第2摩擦プレート237(ロックアップピストン232)は、軸方向に対してフロントカバー10のフロントカバー本体部11とタービンシェル22b、ハブ51との間に配置されている。つまり、第1摩擦プレート235、第1ディスク236、第2摩擦プレート237(ロックアップピストン232)は、フロントカバー10と流体伝達機構20のポンプシェル21bとによって区画され作動流体(作動油)で満たされる空間部に設けられる。
第1摩擦プレート235、第1ディスク236、第2摩擦プレート237(ロックアップピストン232)は、回転軸線Xと同軸の円環板状に形成され、軸方向においてフロントカバー10と対向するようにして配置されている。
さらに具体的には、この摩擦係合部231は、軸方向に対してエンジン側から出力軸側に向かって第1摩擦プレート235、第1ディスク236、第2摩擦プレート237(ロックアップピストン232)の順番で配置されている。すなわち、摩擦係合部231は、軸方向に対して第1摩擦プレート235が最もフロントカバー10側に配置され、この第1摩擦プレート235の出力軸側の側方に第1ディスク236が配置され、この第1ディスク236の出力軸側の側方に第2摩擦プレート237(ロックアップピストン232)が配置される。
また、摩擦係合部231は、第1摩擦プレート235及びロックアップピストン232として兼用される第2摩擦プレート237がフロントカバー10と共に一体回転するものであり、すなわち、フロントカバー10から駆動力が伝達されるものである。一方、この摩擦係合部231は、第1ディスク236が出力軸50と共に一体回転するものであり、すなわち、第1摩擦プレート235及び第2摩擦プレート237に伝達された駆動力が後述の摩擦係合面39を介して伝達され、この駆動力を出力軸50に伝達するものである。
つまり、この摩擦係合部231は、駆動力の伝達方向に対してフロントカバー10側に連結された摩擦係合板である第1摩擦プレート235、第2摩擦プレート237と、出力軸50側に連結された摩擦係合板である第1ディスク236とが軸方向に沿って交互に設けられる。そして、この摩擦係合部231は、軸方向に沿って交互に設けられる第1摩擦プレート235、第2摩擦プレート237と第1ディスク236とが後述する摩擦係合面39にて摩擦力により摩擦係合可能である。
第1摩擦プレート235は、フロントカバーフランジ部12の内側に挿入されるようにして配置される。第1摩擦プレート235は、径方向外側突出部235cと、径方向内側突出部235dとを有する。径方向外側突出部235cは、第1摩擦プレート235の径方向外側端部がタービンシェル22b側に折れ曲がるようにして形成される。径方向内側突出部235dは、第1摩擦プレート235の径方向内側端部がタービンシェル22b側に折れ曲がるようにして形成される。つまり、径方向外側突出部235c、径方向内側突出部235dは、第1摩擦プレート235においてタービンシェル22b側に突出して回転軸線Xと同軸の円筒状に形成される部分である。
第1摩擦プレート235は、径方向外側突出部235cが連結部270を介してフロントカバー10に接続されており、この連結部270によりフロントカバー10に一体回転可能かつ軸方向に相対移動可能に連結されている。ここでは、連結部270は、第1摩擦プレート235とフロントカバー10とを相互に駆動力を伝達可能に連結するものであり、上述した連結部70(図1参照)と同様にスプライン嵌合部により構成されるが、これに限らず、例えば、上述した連結部71(図1参照)と同様に切欠係合部により構成されていてもよい。したがって、このトルクコンバータ2Aは、連結部270にて第1摩擦プレート235とフロントカバー10とが一体回転可能かつ軸方向に相対移動可能に連結される。つまり、第1摩擦プレート235は、複数の摩擦係合板のうちフロントカバー10と一体回転する摩擦係合板をなす。
ロックアップピストン232として兼用される第2摩擦プレート237は、フロントカバーフランジ部12の内側に挿入されるようにして配置される。ロックアップピストン232として兼用される第2摩擦プレート237は、内径が第1摩擦プレート235の内径より小さく設定されている。ロックアップピストン232は、上述したように摩擦係合板の1つをなすと共に、後述する摩擦係合面39に押圧力を付加するピストン部材としても機能するものである。
ロックアップピストン232として兼用される第2摩擦プレート237は、径方向内側端部に径方向内側突出部232bを有する。径方向内側突出部232bは、ロックアップピストン232として兼用される第2摩擦プレート237の径方向内側端部がフロントカバー10側に折れ曲がるようにして形成される。
ロックアップピストン232として兼用される第2摩擦プレート237は、径方向内側突出部232bが連結部271を介してフロントカバー10に接続されており、この連結部271によりフロントカバー10に一体回転可能かつ軸方向に相対移動可能に連結されている。連結部271は、ロックアップピストン232として兼用される第2摩擦プレート237とフロントカバー10とを種々の公知の構成により相互に駆動力を伝達可能に連結するものである。連結部271は、回転軸線Xと同軸の円環板状に形成されフロントカバー10に固定される連結円筒部271aを含んで構成される。連結円筒部271aは、内周面がハブ51の円筒部分の外周面と対向し接触している。ロックアップピストン232として兼用される第2摩擦プレート237は、径方向内側突出部232bの内周面がこの連結円筒部271aの外周面と対向し接触し軸方向に摺動自在に支持されている。ここでは、連結部271は、上述した連結部71(図1参照)の切り欠き係合と同様に、径方向内側突出部232bの連結切欠部と連結円筒部271aの連結突起部とが係合することで、ロックアップピストン232として兼用される第2摩擦プレート237とフロントカバー10とを相互に駆動力を伝達可能に連結する。したがって、このトルクコンバータ2Aは、連結部271にてロックアップピストン232として兼用される第2摩擦プレート237とフロントカバー10とが一体回転可能かつ軸方向に相対移動可能に連結される。つまり、ロックアップピストン232として兼用される第2摩擦プレート237は、複数の摩擦係合板のうちフロントカバー10と一体回転する摩擦係合板をなす。そして、ロックアップピストン232として兼用される第2摩擦プレート237は、フロントカバー10に対しても軸方向に相対移動可能な構成となり、すなわち、フロントカバー10に対して軸方向に接近、離間可能な構成となる。
なお、ロックアップピストン232として兼用される第2摩擦プレート237の径方向内側突出部232bと連結円筒部271aとの間、連結円筒部271aとハブ51の円筒部分との間には、連結円筒部271aの外周面とこの外周面上を摺動する径方向内側突出部232bの内周面との間、連結円筒部271aの内周面とハブ51の円筒部分の外周面との間からの作動流体(作動油)の漏れを抑制するシール部材S1がそれぞれ配置されている。したがって、フロントカバー10と流体伝達機構20のポンプシェル21bとによって区画されるトルクコンバータ2Aの内部は、ロックアップピストン232として兼用される第2摩擦プレート237により、流体伝達機構20が位置する流体伝達機構空間部Aと、ロックアップクラッチ機構30の摩擦係合部231が位置するクラッチ空間部Bとに区画される。また、連結円筒部271aには所定の油路が形成されている。
第1ディスク236は、フロントカバーフランジ部12の内側に挿入されるようにして配置される。第1ディスク236は、軸方向に対して第1摩擦プレート235と第2摩擦プレート237との間に配置される。第1ディスク236は、外径が第2摩擦プレート237の外径より若干大きくかつ第1摩擦プレート235の外径より若干小さく設定されている。また、第1ディスク236は、内径が第1摩擦プレート235の内径より若干大きく設定されている。第1ディスク236は、第1摩擦プレート235の径方向外側突出部235c内側、径方向内側突出部235dの外側に挿入されるようにして配置される。
第1ディスク236は、径方向外側突出部236cを有する。径方向外側突出部236cは、第1ディスク236の径方向外側端部がタービンシェル22b側に折れ曲がるようにして形成される。つまり、径方向外側突出部236cは、第1ディスク236においてタービンシェル22b側に突出して回転軸線Xと同軸の円筒状に形成される部分である。上述したロックアップピストン232として兼用される第2摩擦プレート237は、この第1ディスク236の径方向外側突出部236c内側に挿入されるようにして配置される。
そして、第1ディスク236は、径方向外側突出部236cが連結部272を介してダンパー機構40の中心保持プレート43に接続されており、この連結部272により中心保持プレート43に一体回転可能かつ軸方向に相対移動可能に連結されている。ここでは、連結部272は、第1ディスク236と中心保持プレート43とを相互に駆動力を伝達可能に連結するものであり、上述した連結部71(図1参照)と同様に切欠係合部により構成されるが、これに限らず、例えば、上述した連結部70(図1参照)と同様にスプライン嵌合部により構成されていてもよい。したがって、このトルクコンバータ2Aは、連結部272にて第1ディスク236と中心保持プレート43とが一体回転可能かつ軸方向に相対移動可能に連結される。つまり、第1ディスク236は、複数の摩擦係合板のうち出力軸50と一体回転する摩擦係合板をなす。
また、第1ディスク236は、連結部272により中心保持プレート43と連結支持された状態で、径方向内側端部がブッシュ238を介して第1摩擦プレート235の径方向内側突出部235dに相対回転可能に支持されている。
そして、複数の摩擦係合板としての第1摩擦プレート235、第1ディスク236、第2摩擦プレート237は、摩擦係合可能な複数の摩擦係合面39をなす。すなわち、第1摩擦プレート235と第1ディスク236とは、第1摩擦係合面239aをなし、第1ディスク236と第2摩擦プレート237とは、第2摩擦係合面239bをなす。
第1摩擦係合面239aは、第1摩擦プレート235の対向壁面235aと第1ディスク236に設けられる摩擦材236aとにより構成される。第2摩擦係合面239bは、第1ディスク236に設けられる摩擦材236bと第2摩擦プレート237の対向壁面237aとにより構成される。
すなわち、摩擦係合部231は、軸方向に対してエンジン側から出力軸側に向かって、第1摩擦係合面239aの一方の面をなす対向壁面235a、第1摩擦係合面239aの他方の面をなす摩擦材236a、第2摩擦係合面239bの一方の面をなす摩擦材236b、第2摩擦係合面239bの他方の面をなす対向壁面237aの順番で配置されている。
そして、第1摩擦係合面239aは、対向壁面235aと摩擦材236aとが対向して接触することで摩擦係合可能であり、すなわち、第1摩擦プレート235と第1ディスク236とを摩擦係合可能である。第2摩擦係合面239bは、摩擦材236bと対向壁面237aとが対向して接触することで摩擦係合可能であり、すなわち、第1ディスク236とロックアップピストン232として兼用される第2摩擦プレート237とを摩擦係合可能である。
したがって、このロックアップクラッチ機構230は、摩擦係合部231にて第1摩擦係合面239a、第2摩擦係合面239bが摩擦係合することで、第1摩擦プレート235、第1ディスク236、第2摩擦プレート237を一体回転可能に摩擦係合することができる。この結果、ロックアップクラッチ機構230は、この摩擦係合部231にてフロントカバー10と、ダンパー機構40の中心保持プレート43とを一体回転可能に摩擦係合することができる。
そして、ロックアップクラッチ機構230は、第2摩擦プレート237として兼用されるロックアップピストン232が軸方向に移動してフロントカバー10のフロントカバー本体部11に対して相対的に接近、離間し、これに伴って第1摩擦プレート235、第1ディスク236も軸方向に相対移動することで、対向壁面235aと摩擦材236aとの相対距離、摩擦材236bと対向壁面237aとの相対距離を変化させることができる。そして、ロックアップクラッチ機構230は、このロックアップピストン232の軸方向に沿った摺動により、対向壁面235aと摩擦材236a、摩擦材236bと対向壁面237aとをそれぞれ接触させ摩擦係合することができ、またこれらを非接触とし、摩擦係合を解除することができる。
そして、油圧制御装置81は、ピストン油圧室34として機能する流体伝達機構空間部Aの油圧と、作動流体流路33として機能するクラッチ空間部Bの油圧との圧力差、すなわち、ロックアップクラッチ機構230の第2摩擦プレート237として兼用されるロックアップピストン232の出力軸側の面である押圧力作用面232dに軸方向に作用する押圧力を制御することができる。
上記のように構成されるロックアップクラッチ機構230は、ピストン油圧室34として機能する流体伝達機構空間部Aに供給される作動流体(作動油)の液圧(油圧)により、ロックアップピストン232が軸方向に沿ってフロントカバー10側に接近移動し、ロックアップクラッチ機構230の第1摩擦係合面239a及び第2摩擦係合面239bが摩擦係合することで、ロックアップクラッチ機構230がONとなる。ロックアップクラッチ機構230がONとなると、フロントカバー10と中心保持プレート43とが一体回転することとなるので、このロックアップクラッチ機構230は、フロントカバー10に伝達されたエンジンからの駆動力を第1摩擦プレート235、第2摩擦プレート237から第1ディスク236を介して、ダンパー機構40の中心保持プレート43に伝達することとなる。
そして、本実施形態のトルクコンバータ2Aは、図5に示すように、ロックアップクラッチ機構230の摩擦係合部231に作動流体としての作動油を径方向の内側に案内可能な冷却流路200を有することで、摩擦係合部231の冷却性能の向上を図り、ロックアップクラッチ機構230の性能の向上を図っている。そしてさらに、本実施形態のトルクコンバータ2Aは、ポンプ手段としてのポンプ機構293を備えることで、摩擦係合部231の冷却性能のさらなる向上を図り、ロックアップクラッチ機構230の性能のさらなる向上を図っている。
以下、図6、図7、図8を参照してロックアップクラッチ機構230の冷却流路200及びポンプ機構293を具体的に説明する。
ここで、摩擦係合部231は、軸方向に対して最もフロントカバー10側に配置される第1摩擦プレート235がフロントカバー10との間に流入流路208を形成する。
流入流路208は、第1摩擦プレート235の径方向外側突出部235cの近傍、ここでは径方向外側突出部235cの基端部に設けられた開口235eを介して流体伝達機構空間部A、クラッチ空間部Bと連通している。また、第1摩擦プレート235は、当接壁面235bの径方向内側端部近傍がフロントカバー本体部11の突起部11bに当接可能な構成となっている。流入流路208は、第1摩擦プレート235にロックアップピストン232側から押圧力が作用した際(図7参照)に当接壁面235bと突起部11bとが当接することで、第1摩擦プレート235とフロントカバー本体部11との間に適正な空間部として確保されつつ、この当接壁面235bと突起部11bとの接触面がシール部209として作用する。よって、流入流路208は、第1摩擦プレート235の径方向内側端部側で閉塞した空間部となる。
そして、冷却流路200は、この流入流路208と連通するようにして構成される。具体的には、本実施形態の冷却流路200は、第1流路201と、第2流路202と、第3流路203と、第4流路204と、第5流路205とからなる。
第1流路201は、第1摩擦プレート235に設けられる。第1流路201は、第1摩擦プレート235を軸方向に沿って当接壁面235bから対向壁面235aまで貫通する貫通部として形成される(図6、図7参照)。第1流路201は、円柱状に形成され、第1摩擦プレート235に対して周方向に等間隔に複数個設けられている。
第2流路202は、第1ディスク236の摩擦材236aに設けられる。第2流路202は、全体として摩擦材236aを軸方向に沿って貫通する貫通部として形成される(図6、図7参照)。第2流路202は、環状部202aと径方向延在部202bとを含んで構成される(図8参照)。環状部202aは、回転軸線Xと同軸の円環状に形成され、軸方向に対して各第1流路201と対向する位置に設けられている。径方向延在部202bは、摩擦材236aに径方向に沿って複数形成される。各径方向延在部202bは、それぞれ径方向外側端部が環状部202aに接続され、すなわち、径方向外側でこの環状部202aと連通している。
第3流路203は、第1ディスク236に設けられる。第3流路203は、第1ディスク236を軸方向に沿って摩擦材236a側から摩擦材236b側まで貫通する貫通部として形成される(図6、図7参照)。第3流路203は、円柱状に形成され、第1ディスク236に対して周方向に等間隔に複数個設けられている(図8参照)。また、各第3流路203は、軸方向に対して第2流路202の各径方向延在部202bの径方向外側端部と対向する位置に設けられている。
第4流路204は、第1ディスク236の摩擦材236bに設けられる。第4流路204は、全体として摩擦材236bを軸方向に沿って貫通する貫通部として形成される(図6、図7参照)。第4流路204は、径方向延在部204aと、環状部204bとを含んで構成される(図8参照)。径方向延在部204aは、摩擦材236bに径方向に沿って複数形成される。各径方向延在部204aは、それぞれ径方向外側端部が軸方向に対して各第3流路203と対向する位置に設けられている。環状部204bは、回転軸線Xと同軸の円環状に形成される。環状部204bは、径方向に対して第3流路203より径方向内側の位置に設けられる。そして、各径方向延在部204aは、径方向内側端部がこの環状部204bに接続され、すなわち、径方向内側でこの環状部204bと連通している。
第5流路205は、第2摩擦プレート237に設けられる。第5流路205は、第2摩擦プレート237を軸方向に沿って対向壁面237a側(クラッチ空間部B側)から押圧力作用面232d側(流体伝達機構空間部A側)まで貫通する貫通部として形成される(図6、図7参照)。第5流路205は、円柱状に形成され、第2摩擦プレート237に対して周方向に等間隔に複数個設けられている。また、各第5流路205は、軸方向に対して第4流路204の環状部204bと対向する位置に設けられている。
したがって、各摩擦係合面39にロックアップピストン232側から押圧力が作用し、各摩擦係合面39が摩擦係合した状態又はスリップ状態となると、図7に示すように、第1流路201、第2流路202、第3流路203、第4流路204及び第5流路205は、一続きの冷却流路200をなす。このとき、冷却流路200は、第1流路201が流入流路208に開口し、第5流路205が流体伝達機構空間部Aに開口していることから、第1流路201側で流入流路208と連通する一方、第5流路205側で流体伝達機構空間部Aと連通することとなる。この結果、冷却流路200は、摩擦係合部231の各摩擦係合面39が係合・半係合状態となると、全体として摩擦係合部231に対して軸方向に沿って設けられ、作動油を径方向の内側に案内することができる。ここでは、冷却流路200は、全体として摩擦係合部231を軸方向に貫通している。
ここで、摩擦係合部231は、各摩擦係合面39が摩擦係合した状態又はスリップ状態となると、図7に示すように、この各摩擦係合面39がフロントカバー10とポンプシェル21bとによって区画されるトルクコンバータ2Aの内部を相対的に低圧な低圧側空間部291と相対的に高圧な高圧側空間部292とに区画することとなる。つまり、摩擦係合部231は、第1摩擦係合面239a、第2摩擦係合面239bにおける冷却流路200より径方向内側の部分が低圧側空間部291と高圧側空間部292とのシール部290として作用する。このロックアップクラッチ機構230は、ピストン油圧室34として機能する流体伝達機構空間部A、作動流体流路33として機能するクラッチ空間部Bのシール部290より径方向外側の部分、流入流路208及び冷却流路200が高圧側空間部292となる一方、クラッチ空間部Bのシール部290より径方向内側の部分が低圧側空間部291となる。
したがって、この冷却流路200は、高圧側空間部292に連通することとなり、摩擦係合部231の各摩擦係合面39が係合・半係合状態となると、高圧側空間部292の作動油を軸方向に沿って案内すると共に径方向内側に案内することとなる。つまり、このトルクコンバータ2Aでは、高圧側空間部292の作動油が流入流路208から冷却流路200の第1流路201に流入し、この第1流路201から第2流路202、第3流路203、第4流路204及び第5流路205を順に通過して第5流路205から流体伝達機構空間部Aに流出する。そして、流体伝達機構空間部Aに流出した作動油は、その一部が再び流入流路208側に流動する。
そして、本実施形態のトルクコンバータ2Aは、この高圧側空間部292にポンプ機構293が設けられている。
ポンプ機構293は、第1摩擦プレート235、第1ディスク236、第2摩擦プレート237が摩擦係合する各摩擦係合面39をなす一方の面と他方の面との相対回転に伴って、冷却流路200による作動流体の案内方向に応じた方向で作動油を送出可能なものである。ポンプ機構293は、摩擦係合面39を基準とした場合の駆動側の部材と被駆動側の部材との間に設けられる。このポンプ機構293は、高圧側空間部292の作動油を強制的に循環させるものである。
ポンプ機構293は、ブレードとしてのポンプブレード294と、外筒として機能する第1摩擦プレート235の径方向外側突出部235cとを含んで構成される。
ポンプブレード294は、翼であり、出力軸50と共に回転する摩擦係合板である第1ディスク236に設けられる。ポンプブレード294は、第1ディスク236の径方向外側端部である径方向外側突出部236cの外周面に周方向に沿って等間隔で複数設けられる(図8参照)。
外筒としての径方向外側突出部235cは、上述したようにフロントカバー10と共に回転しポンプブレード294の径方向外側を覆うようにして設けられる。すなわち、径方向外側突出部235cは、径方向内側に第1ディスク236の径方向外側突出部236cと共にポンプブレード294が挿入される。そして、径方向外側突出部235cと径方向外側突出部236cとは、径方向外側突出部235cの径方向内側に径方向外側突出部236cと共にポンプブレード294が挿入された状態で、径方向に沿って所定の間隔を有して配置され、この径方向外側突出部235cと径方向外側突出部236cとの間の空間部がポンプ流路295として形成される。すなわち、ポンプ流路295は、径方向外側突出部235cの内周面と径方向外側突出部236cの外周面とにより形成される。ポンプブレード294は、このポンプ流路295内に配置される。ポンプブレード294は、ポンプ流路295内に配置された状態で、先端部が径方向外側突出部235cの内周面との間に所定の間隔を有した位置に配置される。また、このポンプ流路295のエンジン側の端部は、上述の開口235eと軸方向に対向している。
そして、本実施形態のポンプ機構293は、上述のようにフロントカバー10と連結部271を介して連結された第1摩擦プレート235がフロントカバー10と共に回転する回転部材として機能し、出力軸50と連結部272、ダンパー機構40及びハブ51を介して連結された第1ディスク236が出力軸50と共に回転する回転部材として機能する。
上記のように構成されるトルクコンバータ2Aは、スリップ制御時などに、摩擦係合部231に対して軸方向に沿って設けられた冷却流路200が作動油を径方向の内側に積極的に案内することから、温度が相対的に上昇し比重が相対的に小さくなった作動油の径方向外側から径方向内側に向かう移動を促進することができる。すなわち、温度が相対的に上昇し比重が相対的に小さくなり径方向内側に押しやられる作動油は、図7に矢印で示すように、流入流路208から冷却流路200の第1流路201に流入し、この第1流路201から第2流路202、第3流路203、第4流路204及び第5流路205を順に通過して第5流路205から流体伝達機構空間部Aに流出する。この間、冷却流路200を通過する作動油は、各摩擦係合面39を含む摩擦係合部231を効果的に潤滑冷却することができる。
そして、各摩擦係合面39を含む摩擦係合部231を潤滑冷却し流体伝達機構空間部Aに流出した作動油は、流体伝達機構空間部Aにて放熱し温度が低下することで相対的に比重が大きくなる。温度が低下し相対的に比重が大きくなった作動油は、トルクコンバータ2Aの各部の回転軸線X周りの回転に伴って作動油に遠心力が作用することで、その一部が径方向内側から径方向外側に向かって押しやられ流動し再び流入流路208側に流動する。
このとき、ポンプ機構293は、スリップ制御における第1摩擦プレート235と第1ディスク236との相対回転に伴って、外筒としての径方向外側突出部235cとポンプブレード294との相対回転に応じたポンプ作用により冷却流路200による作動油の案内方向に応じた方向で作動油を送出する。すなわち、ポンプ機構293は、第1摩擦プレート235と第1ディスク236の相対回転に伴って、高圧側空間部292の作動油を流体伝達機構空間部A側からポンプ流路295を介して開口235e、流入流路208側に送出することができる。したがって、トルクコンバータ2Aは、このポンプ機構293のポンプ作用により高圧側空間部292の作動油を冷却流路200による作動油の案内方向に応じた方向で強制的に循環させることができることから、冷却流路200への作動油の流入を促進することができ、冷却流路200に流入する作動油の流入量を増加させることができるので、冷却流路200を通過する作動油による摩擦係合部231の冷却効率をさらに向上することができる。この結果、トルクコンバータ2Aは、各摩擦係合面39の温度上昇をさらに抑制することができることから、ロックアップクラッチ機構230においてスリップ制御を実行可能な運転領域をさらに広げることができ、燃費をさらに向上することができると共に、各摩擦係合面39の寿命をさらに向上することができ、ロックアップクラッチ機構230の性能をさらに向上することができる。
また、ポンプ機構293は、スリップ制御における第1摩擦プレート235と第1ディスク236との相対回転に伴って、外筒としての径方向外側突出部235cとポンプブレード294とが相対回転することから、ポンプ機構293による作動油の送出量が各摩擦係合面39をなす一方の面と他方の面との相対回転に応じたスリップ量(スリップ回転数)に応じた送出量となる。つまり、このトルクコンバータ2Aは、スリップ制御においてスリップ量が多くなるにしたがって、径方向外側突出部235cとポンプブレード294との相対回転も増加しポンプ機構293による作動油の送出量も増加する。これにより、トルクコンバータ2Aは、冷却流路200に流入する作動油の流入量もこれに伴って増加することから、スリップ量が多くなり摩擦係合部231の温度が上昇し易い状態になった際にさらに摩擦係合部231の冷却性能を向上することができ、この結果、ロックアップクラッチ機構230の性能をさらに向上することができる。
以上で説明した本発明の実施形態に係るトルクコンバータ2Aによれば、例えば、摩擦係合部231の各摩擦係合面39が係合・半係合状態となると、摩擦係合部231に設けられ作動油を径方向の内側に案内する冷却流路200が作動油の温度差による比重の相違を利用した循環冷却を促進することから、摩擦係合部231の冷却効率を向上することができるので、ロックアップクラッチ機構230においてスリップ制御を実行可能な運転領域を広げ、燃費を向上することができ、また、各摩擦係合面39の寿命を向上することができ、よって、ロックアップクラッチ機構230の性能を向上することができる。
さらに、以上で説明した本発明の実施形態に係るトルクコンバータ2Aによれば、複数の摩擦係合板としての第1摩擦プレート235、第1ディスク236、第2摩擦プレート237が摩擦係合する各摩擦係合面39をなす一方の面と他方の面との相対回転に伴って、冷却流路200による作動油の案内方向に応じた方向で作動油を送出可能なポンプ機構293を備える。したがって、トルクコンバータ2Aは、このポンプ機構293のポンプ作用により作動油を冷却流路200による作動油の案内方向に応じた方向で強制的に循環させることができることから、摩擦係合部231の冷却効率をさらに向上することができ、ロックアップクラッチ機構230の性能をさらに向上することができる。また、トルクコンバータ2Aは、このポンプ機構293による作動油の送出量を、各摩擦係合面39をなす一方の面と他方の面との相対回転に応じたスリップ量(スリップ回転数)に応じた送出量とすることができるので、スリップ量が多くなるにしたがってポンプ機構293による作動油の送出量を増加することができ、この結果、運転状態に応じてロックアップクラッチ機構230の性能をさらに向上することができる。
さらに、以上で説明した本発明の実施形態に係るトルクコンバータ2Aによれば、ポンプ機構293は、出力軸50と共に回転する摩擦係合板である第1ディスク236の径方向外側突出部236cに周方向に沿って複数設けられるポンプブレード294と、フロントカバー10と共に回転しポンプブレード294の径方向外側を覆う外筒としての第1摩擦プレート235の径方向外側突出部235cを有する。したがって、ポンプ機構293は、スリップ制御における第1摩擦プレート235と第1ディスク236との相対回転に伴って、外筒としての径方向外側突出部235cとポンプブレード294とが相対回転することから、機械的な構成により各摩擦係合面39をなす一方の面と他方の面との相対回転に応じて適正に作動油の送出量を調節することができる。この結果、トルクコンバータ2Aは、ロックアップクラッチ機構230の性能をさらに向上することができる。
(実施形態3)
図9は、本発明の実施形態3に係るトルクコンバータの要部断面図、図10は、本発明の実施形態3に係るトルクコンバータの摩擦係合部(係合・半係合状態)を含む部分断面図である。実施形態3に係る流体伝達装置は、実施形態1に係る流体伝達装置と略同様の構成であるが冷却流路が低圧側空間部に連通する点、整流板を備える点が実施形態1に係る流体伝達装置とは異なる。その他、上述した実施形態と共通する構成、作用、効果については、重複した説明はできるだけ省略するとともに、同一の符号を付す。
本実施形態の流体伝達装置としてのトルクコンバータ3Aは、図9、図10に示すように、摩擦係合部31の第1摩擦プレート35が整流板396として兼用される。整流板396として兼用される第1摩擦プレート35は、内径が実施形態1の第1摩擦プレート35(図1参照)の内径より小さく設定されている。
整流板396として兼用される第1摩擦プレート35は、第1摩擦係合面39aを構成する部分より径方向内側の部分が径方向内側に向かって、作動流体流路33として機能するクラッチ空間部B内に延在して形成される。整流板396として兼用される第1摩擦プレート35は、径方向の内側端部が第2ディスク38として兼用されるロックアップピストン32の径方向内側突出部32bの外周面、ハブ51の円筒状部の外周面に対して径方向に所定の間隔を有する位置まで延設される。
そして、整流板396として兼用される第1摩擦プレート35は、作動流体流路33として機能するクラッチ空間部Bを軸方向に対して2つの空間部、すなわち、出力軸側空間部33aとエンジン側空間部33bとに区画する。
また、整流板396として兼用される第1摩擦プレート35は、フロントカバー10との間に流入流路308を形成する。流入流路308は、第1摩擦プレート35の径方向内側で作動流体流路33として機能するクラッチ空間部Bのエンジン側空間部33bと連通している。したがって、流入流路308は、作動流体としての作動油が流入可能な構成となる。
一方、流入流路308は、整流板396として兼用される第1摩擦プレート35の径方向外側端部側で閉塞した空間部となっている。具体的には、整流板396として兼用される第1摩擦プレート35は、当接壁面35bにエンジン側に突出した突起部309aが形成されている。突起部309aは、回転軸線Xと同軸の円環状に形成される。
流入流路308は、第1摩擦プレート35にロックアップピストン32側から押圧力が作用した際(図10参照)に突起部309aとフロントカバー本体部11の出力軸側の壁面が当接することで、第1摩擦プレート35とフロントカバー本体部11との間に適正な空間部として確保されつつ、突起部309aとフロントカバー本体部11との接触面がシール部309として作用することで、突起部309aとフロントカバー本体部11との間を介した作動流体(作動油)の流通が抑制される。
そして、冷却流路300は、この流入流路308と連通するようにして構成される。具体的には、本実施形態の冷却流路300は、第1流路101と、第2流路102と、第3流路103と、第4流路104と、第5流路105と、第6流路306とからなる。ここで、冷却流路300の第1流路101、第2流路102、第3流路103、第4流路104、第5流路105は、実施形態1の冷却流路100(図4参照)の第1流路101、第2流路102、第3流路103、第4流路104、第5流路105とほぼ同様の構成であるので説明を省略する。また、本実施形態の冷却流路300は、第2ディスク38を貫通する第7流路107(図4参照)を備えていない。
冷却流路300の第6流路306は、実施形態1の第6流路106(図4参照)とほぼ同様の構成であるが、摩擦材38aを径方向内側端部まで貫通している点で第6流路106(図4参照)とは異なる。つまり、本実施形態の第6流路306は、各摩擦係合面39にロックアップピストン32側から押圧力が作用し、各摩擦係合面39が摩擦係合した状態又はスリップ状態で、作動流体流路33として機能するクラッチ空間部Bの出力軸側空間部33aと連通することとなる。なお、本実施形態の摩擦係合部31は、第1ディスク36の径方向内側端部に開口337cが形成されている。
したがって、各摩擦係合面39にロックアップピストン32側から押圧力が作用し、各摩擦係合面39が摩擦係合した状態又はスリップ状態となると、図10に示すように、第1流路101、第2流路102、第3流路103、第4流路104、第5流路105及び第6流路306は、一続きの冷却流路300をなす。このとき、冷却流路300は、第1流路101が流入流路308に開口し、第6流路306がクラッチ空間部Bの各摩擦係合面39より径方向内側の部分に開口していることから、第1流路101側で流入流路308と連通する一方、第6流路306側で作動流体流路33として機能するクラッチ空間部Bの出力軸側空間部33aと連通することとなる。この結果、冷却流路300は、摩擦係合部31の各摩擦係合面39が係合・半係合状態となると、全体として摩擦係合部31に対して軸方向に沿って設けられ、作動油を径方向の内側に案内することができる。
ここで、摩擦係合部31は、各摩擦係合面39が摩擦係合した状態又はスリップ状態となると、図10に示すように、この各摩擦係合面39がフロントカバー10の流体伝達機構20側の空間部、すなわち、フロントカバー10とポンプシェル21bとによって区画されるトルクコンバータ3Aの内部を相対的に低圧な低圧側空間部391と相対的に高圧な高圧側空間部392とに区画することとなる。すなわち、各摩擦係合面39の係合・半係合状態においては、各摩擦係合面39を境界として流体伝達機構空間部A側が高圧側空間部392となり、クラッチ空間部B側が低圧側空間部391となる。
より具体的に言えば、摩擦係合部31は、第1摩擦係合面39a、第2摩擦係合面39b及び第3摩擦係合面39cにおける冷却流路300より径方向外側の部分が低圧側空間部391と高圧側空間部392とのシール部390として作用する。このシール部390は、各摩擦係合面39を介した低圧側空間部391と高圧側空間部392との相互の作動油の漏洩を抑制する。つまり、摩擦係合部31は、各摩擦係合面39が摩擦係合した状態又はスリップ状態となると、各摩擦係合面39による低圧側空間部391と高圧側空間部392との実質的なシール部390が冷却流路300の径方向外側に形成される。
また、流入流路308は、上述したように、第1摩擦プレート35にロックアップピストン32側から押圧力が作用した際(図10参照)に突起部309aとフロントカバー本体部11との接触面がシール部309として作用する。これにより、流入流路308は、このシール部309により突起部309aとフロントカバー本体部11との間を介した低圧側空間部391と高圧側空間部392との相互の作動油の漏洩を抑制される。
そして、本実施形態の冷却流路300は、上述したように、流入流路308と作動流体流路33として機能するクラッチ空間部Bの出力軸側空間部33aとに連通している。つまり、このロックアップクラッチ機構30は、ピストン油圧室34として機能する流体伝達機構空間部A及び作動流体流路33として機能するクラッチ空間部Bのシール部390より径方向外側の部分が高圧側空間部392となる一方、クラッチ空間部Bのシール部390より径方向内側の部分、流入流路308及び冷却流路300が低圧側空間部391となる。したがって、この冷却流路300は、低圧側空間部391に連通することとなり、摩擦係合部31の各摩擦係合面39が係合・半係合状態となると、低圧側空間部391の作動油を軸方向に沿って案内すると共に径方向内側に案内することとなる。
上記のように構成されるトルクコンバータ3Aは、スリップ制御時などに、摩擦係合部31に対して軸方向に沿って設けられた冷却流路300が径方向内側に押しやられる作動油を径方向の内側に積極的に案内することから、温度が相対的に上昇し比重が相対的に小さくなった作動油の径方向外側から径方向内側に向かう移動を促進することができる。すなわち、温度が相対的に上昇し比重が相対的に小さくなり径方向内側に押しやられる作動油は、図10に矢印で示すように、流入流路308から冷却流路300の第1流路101に流入し、この第1流路101から第2流路102、第3流路103、第4流路104、第5流路105及び第6流路306を順に通過して第6流路306から作動流体流路33として機能するクラッチ空間部Bの出力軸側空間部33aに流出する。この間、冷却流路300を通過する作動油は、各摩擦係合面39を含む摩擦係合部31を効果的に潤滑冷却することができる。したがって、トルクコンバータ3Aは、摩擦係合部31全体で冷却効率を向上し温度上昇を抑制することができる。
つまり、本実施形態のトルクコンバータ3Aは、スリップ制御時に、摩擦係合部31に対して軸方向に沿って設けられ作動油を径方向の内側に案内する冷却流路300がこの作動油の温度差による比重の相違を利用した循環冷却を促進するので、摩擦係合部31の冷却効率をさらに向上することができる。この結果、トルクコンバータ3Aは、各摩擦係合面39の温度上昇をさらに抑制することができることから、ロックアップクラッチ機構30においてスリップ制御を実行可能な運転領域をさらに広げることができ、燃費をさらに向上することができると共に、各摩擦係合面39の寿命をさらに向上することができ、ロックアップクラッチ機構30の性能をさらに向上することができる。
そして、各摩擦係合面39を含む摩擦係合部31を潤滑冷却し作動流体流路33として機能するクラッチ空間部Bの出力軸側空間部33aに流出した作動油は、開口337cを介して出力軸側空間部33aの径方向内側に向かって流動し、整流板396として兼用される第1摩擦プレート35の径方向内側端部側から作動流体流路33として機能するクラッチ空間部Bのエンジン側空間部33bに流入する。エンジン側空間部33bに流入する作動油は、出力軸側空間部33aを径方向内側に向かって流動する間に放熱し温度が低下することで相対的に比重が大きくなる。温度が低下し相対的に比重が大きくなった作動油は、トルクコンバータ3Aの各部の回転軸線X周りの回転に伴って作動油に遠心力が作用することで、エンジン側空間部33bにて径方向内側から径方向外側に向かって押しやられ流動し再び流入流路308側に流動する。
すなわち、このトルクコンバータ3Aは、整流板396として兼用される第1摩擦プレート35が径方向に延在して設けられることで、冷却流路300の軸方向の一方側、すなわち、第6流路306側から流出した作動油を冷却流路300の軸方向の他方側、すなわち、第1流路101側に導く循環流路としての出力軸側空間部33a及びエンジン側空間部33bを形成することができる。そして、トルクコンバータ3Aは、出力軸側空間部33a及びエンジン側空間部33bが第6流路306側から流出した作動油を整流板396(第1摩擦プレート35)の径方向内側端部を迂回させて第1流路101に循環させることができ、この間に作動油の温度を十分に低下させることができる。言い換えれば、トルクコンバータ3Aは、整流板396として兼用される第1摩擦プレート35により低圧側空間部391を循環する作動油が相対的に高温となる領域である出力軸側空間部33aと、相対的に低温となる領域であるエンジン側空間部33bとを適正に区画することができ、流入流路308に導入される作動油の温度を適正に管理することができる。
また、トルクコンバータ3Aは、上述したように、冷却流路300が低圧側空間部391に連通すると共に、各摩擦係合面39による低圧側空間部391と高圧側空間部392とのシール部390が冷却流路300の径方向外側に形成される。つまり、本実施形態の低圧側空間部391と高圧側空間部392とのシール部390は、例えば、実施形態1の低圧側空間部91(図3参照)と高圧側空間部392(図3参照)とのシール部90(図3参照)と比較して、相対的に径方向外側に形成されることとなる。
そして、第2ディスク38として兼用されるロックアップピストン32は、上述したように、径方向に延在して設けられ、軸方向の一方側の面、ここではエンジン側の壁面332eに作用する低圧側空間部391の作動油の油圧による力と、軸方向の他方側の面、ここでは出力軸側の押圧力作用面32dに作用する高圧側空間部392の作動油の油圧による力との差分に応じて、押圧力作用面32dに対して各摩擦係合面39への押圧力を付加する。そして、このトルクコンバータ3Aは、低圧側空間部391と高圧側空間部392とのシール部390が相対的に径方向外側に形成されることから、低圧側空間部391の作動油の油圧が作用する壁面332eを径方向に対して相対的に広く確保することができる。
このため、このロックアップクラッチ機構30は、低圧側空間部391の作動油の油圧が作用する壁面332eの面積を相対的に大きくすることができることから、壁面332eに作用する低圧側空間部391の作動油の油圧による力と、押圧力作用面32dに作用する高圧側空間部392の作動油の油圧による力との差分が相対的に大きくなるので、押圧力作用面32dを介して各摩擦係合面39に付加される押圧力を相対的に大きくすることができる。この結果、トルクコンバータ3Aは、各摩擦係合面39に作用する押圧力を相対的に大きくすることができることから、ロックアップクラッチ機構30の各摩擦係合面39において伝達可能なトルク容量を高容量化することができるので、ロックアップクラッチ機構30の性能をさらに向上することができる。言い換えれば、トルクコンバータ3Aを径方向に大きくすることなく、低圧側空間部391の作動油の油圧が作用する壁面332eの面積を相対的に大きく確保することができることから、コンパクトな構成で適正な押圧力を各摩擦係合面39に作用させることができるので、装置のコンパクト化とロックアップクラッチ機構30の性能向上とを両立させることができる。また、ピストン油圧室34として機能する流体伝達機構空間部Aの作動油の油圧を必要以上に高くすることなく、低圧側空間部391の作動油の油圧が作用する壁面332eの面積を相対的に大きくすることで各摩擦係合面39に作用する押圧力を相対的に大きくすることができるので、トルクコンバータ3Aの変形を抑制することができる。
以上で説明した本発明の実施形態に係るトルクコンバータ3Aによれば、例えば、摩擦係合部31の各摩擦係合面39が係合・半係合状態となると、摩擦係合部31に設けられ作動油を径方向の内側に案内する冷却流路300が作動油の温度差による比重の相違を利用した循環冷却を促進することから、摩擦係合部31の冷却効率を向上することができるので、ロックアップクラッチ機構30においてスリップ制御を実行可能な運転領域を広げ、燃費を向上することができ、また、各摩擦係合面39の寿命を向上することができ、よって、ロックアップクラッチ機構30の性能を向上することができる。
さらに、以上で説明した本発明の実施形態に係るトルクコンバータ3Aによれば、ロックアップクラッチ機構30は、径方向に延在して設けられ、軸方向の一方側の面に作用する低圧側空間部391の作動油の油圧による力と軸方向の他方側の面に作用する高圧側空間部392の作動油の油圧による力との差分に応じて各摩擦係合面39に押圧力を付加するロックアップピストン32を有し、冷却流路300が低圧側空間部391に連通すると共に、各摩擦係合面39による低圧側空間部391と高圧側空間部392とのシール部390が冷却流路300の径方向外側に形成される。
したがって、トルクコンバータ3Aは、冷却流路300が低圧側空間部391に連通することから、低圧側空間部391の作動油が冷却流路300を流れ低圧側空間部391を循環すると共に冷却流路300にて摩擦係合部31を冷却することできる。そして、トルクコンバータ3Aは、低圧側空間部391と高圧側空間部392とのシール部390が冷却流路300の径方向外側に形成されることから、低圧側空間部391の作動油の油圧が作用する壁面332eの面積を相対的に大きくすることができ、押圧力作用面32dを介して各摩擦係合面39に付加される押圧力を相対的に大きくすることができるので、装置を大型化することなくロックアップクラッチ機構30の各摩擦係合面39において伝達可能なトルク容量を高容量化することができ、ロックアップクラッチ機構30の性能を向上することができる。
さらに、以上で説明した本発明の実施形態に係るトルクコンバータ3Aによれば、径方向に延在して設けられ、冷却流路300の軸方向の一方側から流出した作動油をこの冷却流路300の軸方向の他方側に導く循環流路としてのクラッチ空間部Bの出力軸側空間部33a及びエンジン側空間部33bを形成する整流板396を備える。したがって、トルクコンバータ3Aは、出力軸側空間部33a及びエンジン側空間部33bが冷却流路300の軸方向の一方側から流出した作動油を整流板396として兼用される第1摩擦プレート35の径方向内側端部を迂回させて冷却流路300の軸方向の他方側に循環させることができ、この間に作動油の温度を十分に低下させることができる。この結果、トルクコンバータ3Aは、冷却流路300に再導入される作動油の温度を効果的に低下させることができるので、摩擦係合部31の冷却性能をさらに向上することができ、ロックアップクラッチ機構30の性能をさらに向上することができる。
(実施形態4)
図11は、本発明の実施形態4に係るトルクコンバータの冷却流路の構成を説明する模式的平面図である。実施形態4に係る流体伝達装置は、実施形態1に係る流体伝達装置と略同様の構成であるが冷却流路の構成が実施形態1に係る流体伝達装置とは異なる。その他、上述した実施形態と共通する構成、作用、効果については、重複した説明はできるだけ省略するとともに、同一の符号を付す。
本実施形態の流体伝達装置としてのトルクコンバータ4Aは、実施形態1で説明した冷却流路にかえて、図11に示すように、摩擦材36a、36b、38aにそれぞれ作動油を径方向内側に案内可能な冷却流路400を備える。なお、本図では、摩擦材36aに設けられる冷却流路400を例示しているが、摩擦材38aに設けられる冷却流路400もこれと同様の構成となっている。また、摩擦材36bに設けられる冷却流路400は、摩擦材36aに設けられる冷却流路400の回転軸線X上の点を基準とした点対称形となっている。ここでは、摩擦材36aに設けられる冷却流路400について説明し、他の冷却流路400についての説明は省略する。
冷却流路400は、第1ディスク36の摩擦材36aを軸方向に沿って貫通する貫通部として形成される。冷却流路400は、環状流路401と、傾斜流路402とを含んで構成される。
環状流路401は、回転軸線Xと同軸の円環状に形成される。傾斜流路402は、径方向外側端部が環状流路401と連通する一方、径方向内側が摩擦材36aを径方向内側端部まで貫通している。そして、傾斜流路402は、径方向に対して傾きを有して形成される。さらに言えば、傾斜流路402は、トルクコンバータ4Aの各部の回転軸線X周りの回転に伴った第1ディスク36、摩擦材36aの回転方向L5に対して、径方向外側端部の周方向位置が径方向内側端部の周方向位置より回転方向L5側にずれた位置となるように傾斜して設けられている。そして、この傾斜流路402は、摩擦材36aに対して周方向に等間隔に複数個設けられている。
摩擦係合部31は、各摩擦係合面39が摩擦係合した状態又はスリップ状態となると、各摩擦係合面39による低圧側空間部91と高圧側空間部92との実質的なシール部490が環状流路401の径方向外側に形成される。つまり、この冷却流路400は、低圧側空間部91に連通することとなる。
したがって、トルクコンバータ4Aは、冷却流路400が低圧側空間部91に連通することから、低圧側空間部91の作動油が冷却流路400を流れ低圧側空間部91を循環すると共に冷却流路400にて摩擦係合部31を冷却することができる。
以上で説明した本発明の実施形態に係るトルクコンバータ4Aによれば、例えば、摩擦係合部31の各摩擦係合面39が係合・半係合状態となると、摩擦係合部31に設けられ作動油を径方向の内側に案内する冷却流路400が作動油の温度差による比重の相違を利用した循環冷却を促進することから、摩擦係合部31の冷却効率を向上することができるので、ロックアップクラッチ機構30においてスリップ制御を実行可能な運転領域を広げ、燃費を向上することができ、また、各摩擦係合面39の寿命を向上することができ、よって、ロックアップクラッチ機構30の性能を向上することができる。
さらに、以上で説明した本発明の実施形態に係るトルクコンバータ4Aによれば、冷却流路400は、摩擦係合面39に低圧側空間部91に連通して設けられ径方向に対して傾きを有する傾斜流路402を含んで構成される。したがって、トルクコンバータ4Aは、スリップ制御における各摩擦係合面39をなす一方の面と他方の面との相対回転に伴って、傾斜流路402のポンプ作用により冷却流路400の作動油の径方向内側への移動をさらに促進することができる。この結果、トルクコンバータ4Aは、装置の大型化をすることなく摩擦係合部31の冷却効率をさらに向上することができ、ロックアップクラッチ機構30の性能をさらに向上することができる。
なお、以上の説明では、傾斜流路402を含む冷却流路400が低圧側空間部91に連通するものとして説明したが、これに限らず、高圧側空間部92に連通している実施形態1の冷却流路100(図4参照)の一部にこの傾斜流路402に相当する流路を設けてもよい。例えば、図4に示す冷却流路100の第4流路104の径方向延在部104aを径方向に対して傾きを有する傾斜流路402に相当する流路として形成してもよい。この場合、傾斜流路としての径方向延在部104aのポンプ作用により冷却流路100の作動油の径方向内側への移動をさらに促進することができる。
(実施形態5)
図12は、本発明の実施形態5に係るトルクコンバータの要部断面図である。実施形態5に係る流体伝達装置は、実施形態3に係る流体伝達装置と略同様の構成であるがポンプ手段を備える点で実施形態3に係る流体伝達装置とは異なる。その他、上述した実施形態と共通する構成、作用、効果については、重複した説明はできるだけ省略するとともに、同一の符号を付す。
本実施形態の流体伝達装置としてのトルクコンバータ5Aは、図12に示すように、ポンプ手段としてのポンプ機構593を備える。
そして、本実施形態のポンプ機構593は、低圧側空間部391(例えば、図10参照)に設けられている。ポンプ機構593は、低圧側空間部391において循環流路をなすクラッチ空間部Bの出力軸側空間部33a又はエンジン側空間部33b、ここでは主としてエンジン側空間部33bに設けられている。
ポンプ機構593は、第1摩擦プレート35、第1ディスク36、第2摩擦プレート37、第2ディスク38が摩擦係合する各摩擦係合面39をなす一方の面と他方の面との相対回転に伴って、冷却流路300による作動油の案内方向に応じた方向で作動油を送出可能なものである。このポンプ機構593は、低圧側空間部391の作動油を強制的に循環させるものである。本実施形態のポンプ機構593は、いわゆるベーンポンプを構成するものであり、ロータ597と、外筒598と、連結部材599とを含んで構成される。
ロータ597は、回転軸線Xと同軸の円筒状に形成され、エンジン側空間部33b内に設けられている。すなわち、ロータ597は、軸方向に対して整流板396として兼用される第1摩擦プレート35とフロントカバー10のフロントカバー本体部11との間に配置される。また、ロータ597は、径方向に対して整流板396として兼用される第1摩擦プレート35の径方向内側端部近傍に配置される。なお、本実施形態の整流板396として兼用される第1摩擦プレート35は、連結部70にてスナップリング570aにより軸方向の移動が規制されている。
そして、ロータ597は、内周面側が連結部材599を介して第2ディスク38として兼用されるロックアップピストン32に支持されている。
ここで、連結部材599は、ロータ597と第2ディスク38として兼用されるロックアップピストン32とを一体回転可能かつ軸方向に相対移動可能に連結するものである。連結部材599は、回転軸線Xと同軸の円筒状に形成される。連結部材599は、ロックアップピストン32の径方向内側突出部32bに接触して固定されこのロックアップピストン32と一体回転可能である。そして、連結部材599は、その外周面にロータ597とロックアップピストン32とを相互に駆動力を伝達可能かつ相対移動可能に連結するための連結部、例えば、上述した連結部71(図1参照)と同様の切欠係合部が設けられる。したがって、このトルクコンバータ5Aは、この連結部材599によりロータ597と第2ディスク38として兼用されるロックアップピストン32とが一体回転可能かつ軸方向に相対移動可能に連結される。これにより、トルクコンバータ5Aは、第2ディスク38として兼用されるロックアップピストン32の軸方向に沿った移動を許容することができる。また、言い換えれば、ロータ597は、連結部材599、第2ディスク38として兼用されるロックアップピストン32、ダンパー機構40及びハブ51を介して出力軸50と共に回転することができる。
そして、ロータ597は、複数のベーン597aが設けられる。ベーン597aは、ロータ597の外周面側にロータ597の周方向に沿って等間隔で複数個設けられる。複数のベーン597aは、ロータ597の周方向に沿って放射状に配置される。各ベーン597aは、ロータ597の外周面に対して径方向に往復運動可能に設けられる。
外筒598は、回転軸線Xと同軸の円筒状に形成され、エンジン側空間部33b内に設けられている。すなわち、外筒598は、軸方向に対して整流板396として兼用される第1摩擦プレート35とフロントカバー10のフロントカバー本体部11との間に配置される。そして、外筒598は、整流板396として兼用される第1摩擦プレート35とフロントカバー10のフロントカバー本体部11との間に固定されて支持されている。つまり、外筒598は、整流板396として兼用される第1摩擦プレート35とフロントカバー10のフロントカバー本体部11と共に一体回転可能である。
すなわち、本実施形態のポンプ機構593は、フロントカバー10及びこのフロントカバー10と連結部70を介して連結された整流板396(第1摩擦プレート35)がフロントカバー10と共に回転する回転部材として機能し、出力軸50と連結部71、ダンパー機構40及びハブ51を介して連結されたロックアップピストン32(第2ディスク38)が出力軸50と共に回転する回転部材として機能する。
また、外筒598は、ロータ597の径方向外側にこのロータ597と所定の間隔を有して配置される。ポンプ機構593は、この外筒598の内周面とロータ597の外周面との間の空間部がポンプ流路595として形成される。すなわち、ポンプ流路595は、外筒598の内周面とロータ597との外周面とにより形成される。このポンプ流路595は、クラッチ空間部Bの出力軸側空間部33aとエンジン側空間部33bとに連通している。
そして、外筒598は、径方向内側にロータ597と共に複数のベーン597aが挿入され、複数のベーン597aの径方向外側を覆うようにして設けられ、複数のベーン597aは、このポンプ流路595内に配置される。そして、外筒598は、内周面に所定形状のカム面598aが形成されている。
複数のベーン597aは、ポンプ流路595内に配置された状態で、先端部がこのカム面598aに接触するようにして設けられ、各ベーン597aは、ロータ597と外筒598との相対回転に伴って先端部がカム面598aに接触した状態で周方向に沿って移動することができ、すなわち回転軸線Xを回転中心として回転することができる。そして、複数のベーン597aは、先端部がカム面598aに接触しながらロータ597と共に回転軸線Xを回転中心として回転することで、カム面598aの形状に応じて径方向に往復運動することができる。
したがって、このポンプ機構593は、第2ディスク38として兼用されるロックアップピストン32と共にロータ597が回転すると、各ベーン597aが遠心力等により径方向外側に向けて付勢され、先端部が外筒598のカム面598aに接触しながらロータ597とともに回転する。ポンプ機構593は、第2ディスク38として兼用されるロックアップピストン32と共に回転するロータ597と、整流板396として兼用される第1摩擦プレート35、フロントカバー10と共に回転する外筒598との相対回転に伴い複数のベーン597aの先端部がカム面598aに沿って摺動することで、隣り合う各ベーン597aとカム面598aとによって区画された作動室の容積が変化する。そのため、ポンプ機構593は、その容積変化を利用して流体の吸入・加圧・吐出を行うことができ、本実施形態では、クラッチ空間部Bの出力軸側空間部33a側からポンプ流路595に作動油を吸入し、このポンプ流路595から作動油をエンジン側空間部33b側に吐出し、流入流路308側に送出することができる。
上記のように構成されるトルクコンバータ5Aは、スリップ制御時などに、摩擦係合部31に対して軸方向に沿って設けられた冷却流路300が作動油を径方向の内側に積極的に案内することから、温度が相対的に上昇し比重が相対的に小さくなった作動油の径方向外側から径方向内側に向かう移動を促進することができる。すなわち、温度が相対的に上昇し比重が相対的に小さくなり径方向内側に押しやられる作動油は、例えば、図10に矢印で示すように、流入流路308から冷却流路300の第1流路101に流入し、この第1流路101から第2流路102、第3流路103、第4流路104、第5流路105及び第6流路306を順に通過して第6流路306から作動流体流路33として機能するクラッチ空間部Bの出力軸側空間部33aに流出する。この間、冷却流路300を通過する作動油は、各摩擦係合面39を含む摩擦係合部31を効果的に潤滑冷却することができる。したがって、トルクコンバータ5Aは、摩擦係合部31全体で冷却効率を向上し温度上昇を抑制することができる。
そして、各摩擦係合面39を含む摩擦係合部31を潤滑冷却し作動流体流路33として機能するクラッチ空間部Bの出力軸側空間部33aに流出した作動油は、開口337cを介し出力軸側空間部33aの径方向内側に向かって流動し、整流板396として兼用される第1摩擦プレート35の径方向内側端部側からポンプ機構593を介して作動流体流路33として機能するクラッチ空間部Bのエンジン側空間部33bに流入する。エンジン側空間部33bに流入する作動油は、出力軸側空間部33aを径方向内側に向かって流動する間に放熱し温度が低下することで相対的に比重が大きくなる。温度が低下し相対的に比重が大きくなった作動油は、トルクコンバータ5Aの各部の回転軸線X周りの回転に伴って作動油に遠心力が作用することで、作動流体流路33として機能するクラッチ空間部Bのエンジン側空間部33bにて径方向内側から径方向外側に向かって押しやられ流動し再び流入流路308側に流動する。
このとき、ポンプ機構593は、スリップ制御におけるフロントカバー10、第1摩擦プレート35と第2ディスク38として兼用されるロックアップピストン32との相対回転に伴って、ロータ597と外筒598との相対回転に応じたポンプ作用により冷却流路300による作動油の案内方向に応じた方向で作動油を送出する。すなわち、ポンプ機構593は、フロントカバー10、第1摩擦プレート35と第2ディスク38として兼用されるロックアップピストン32との相対回転に伴って、低圧側空間部391の作動油を出力軸側空間部33a側からポンプ流路595を介してエンジン側空間部33b側に送出することができる。したがって、トルクコンバータ5Aは、このポンプ機構593のポンプ作用により低圧側空間部391の作動油を冷却流路300による作動油の案内方向に応じた方向で強制的に循環させることができることから、冷却流路300への作動油の流入を促進することができ、冷却流路300に流入する作動油の流入量を増加させることができるので、冷却流路300を通過する作動油による摩擦係合部31の冷却効率をさらに向上することができる。この結果、トルクコンバータ5Aは、各摩擦係合面39の温度上昇をさらに抑制することができることから、ロックアップクラッチ機構30においてスリップ制御を実行可能な運転領域をさらに広げることができ、燃費をさらに向上することができると共に、各摩擦係合面39の寿命をさらに向上することができ、ロックアップクラッチ機構30の性能をさらに向上することができる。
また、ポンプ機構593は、スリップ制御における第1摩擦プレート35と第2ディスク38として兼用されるロックアップピストン32との相対回転に伴って、ロータ597と外筒598とが相対回転することから、ポンプ機構593による作動油の送出量が各摩擦係合面39をなす一方の面と他方の面との相対回転に応じたスリップ量(スリップ回転数)に応じた送出量となる。つまり、このトルクコンバータ5Aは、スリップ制御においてスリップ量が多くなるにしたがって、ロータ597と外筒598との相対回転も増加しポンプ機構593による作動油の送出量も増加する。これにより、トルクコンバータ5Aは、冷却流路300に流入する作動油の流入量もこれに伴って増加することから、スリップ量が多くなり摩擦係合部31の温度が上昇し易い状態になった際にさらに摩擦係合部31の冷却性能を向上することができ、この結果、ロックアップクラッチ機構30の性能をさらに向上することができる。
以上で説明した本発明の実施形態に係るトルクコンバータ5Aによれば、例えば、摩擦係合部31の各摩擦係合面39が係合・半係合状態となると、摩擦係合部31に設けられ作動油を径方向の内側に案内する冷却流路300が作動油の温度差による比重の相違を利用した循環冷却を促進することから、摩擦係合部31の冷却効率を向上することができるので、ロックアップクラッチ機構30においてスリップ制御を実行可能な運転領域を広げ、燃費を向上することができ、また、各摩擦係合面39の寿命を向上することができ、よって、ロックアップクラッチ機構30の性能を向上することができる。
さらに、以上で説明した本発明の実施形態に係るトルクコンバータ5Aによれば、複数の摩擦係合板としての第1摩擦プレート35、第1ディスク36、第2摩擦プレート37、第2ディスク38が摩擦係合する各摩擦係合面39をなす一方の面と他方の面との相対回転に伴って、冷却流路300による作動油の案内方向に応じた方向で作動油を送出可能なポンプ機構593を備える。したがって、トルクコンバータ5Aは、このポンプ機構593のポンプ作用により作動油を冷却流路300による作動油の案内方向に応じた方向で強制的に循環させることができることから、摩擦係合部31の冷却効率をさらに向上することができ、ロックアップクラッチ機構30の性能をさらに向上することができる。また、トルクコンバータ5Aは、このポンプ機構593による作動油の送出量を、各摩擦係合面39をなす一方の面と他方の面との相対回転に応じたスリップ量(スリップ回転数)に応じた送出量とすることができるので、スリップ量が多くなるにしたがってポンプ機構593による作動油の送出量を増加することができ、この結果、運転状態に応じてロックアップクラッチ機構30の性能をさらに向上することができる。
さらに、以上で説明した本発明の実施形態に係るトルクコンバータ5Aによれば、ポンプ機構593は、第1摩擦プレート35、第1ディスク36、第2摩擦プレート37、第2ディスク38の径方向内側で出力軸50と共に回転するロータ597に周方向に沿って複数設けられるベーン597aと、第1ディスク36、第2摩擦プレート37、第2ディスク38の径方向内側でフロントカバー10と共に回転し内周面にベーン597aの先端部が接触して移動可能なカム面598aが形成された外筒598とを有する。したがって、ポンプ機構593は、スリップ制御における第2ディスク38として兼用されるロックアップピストン32とフロントカバー10との相対回転に伴って、ロータ597と外筒598とが相対回転することから、機械的な構成により各摩擦係合面39をなす一方の面と他方の面との相対回転に応じて適正に作動油の送出量を調節することができる。この結果、トルクコンバータ5Aは、ロックアップクラッチ機構30の性能をさらに向上することができる。
なお、上述した本発明の実施形態に係る流体伝達装置は、上述した実施形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された範囲で種々の変更が可能である。本発明の実施形態に係る流体伝達装置は、以上で説明した実施形態を複数組み合わせることで構成してもよい。
以上の説明では、ロックアップ手段のピストン部材としてのロックアップピストン32は、ダンパー機構40に対して軸方向に沿って相対移動可能に支持されることで、フロントカバー10に対して接近、離間するものとして説明したがこれに限らない。例えば、ロックアップ手段のピストン部材としてのロックアップピストン32は、ダンパー機構40全体がハブ51に対して軸方向に沿って相対移動可能に支持されることで、このダンパー機構40全体で一体となってフロントカバー10に対して接近、離間可能な構成であってもよい。
以上の説明では、ロックアップ手段は、軸方向に対してフロントカバー10とダンパー機構40との間に設けられるものとして説明したが、これに限らない。例えば、ロックアップ手段は、軸方向に対してダンパー機構40と流体伝達機構20のタービンシェル22bとの間に設けられてもよい。
以上の説明では、ダンパー機構40は、駆動力の伝達経路中に弾性体が設けられるダンパー手段であるものとして説明したが、これに限らない。すなわち、ダンパー機構40は、いわゆるダイナミックダンパー(動吸振動器)であってもよい。
以上で説明したポンプ手段は、上記の構成に限らず、種々のポンプを用いても良く、例えば、トロコイドポンプ、ギヤポンプ、ピストンポンプ等のポンプ機構を用いてもよい。