JP2010180717A - 触媒異常診断装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】触媒後センサの劣化等に起因する誤診断を防止する。
【解決手段】触媒下流側の空燃比である触媒後センサの出力反転に応答して触媒上流側の空燃比をリッチ・リーンに切替制御し、触媒の酸素吸蔵容量を計測する。そして複数の計測値の平均値CmaxAveと、ばらつき度合いを示すパラメータCmaxVとに基づき、触媒の異常を判定する。触媒後センサが劣化等すると計測値のばらつきが小さくなるという特性を利用する。これにより触媒後センサの劣化等の有無を考慮し、誤診断を未然に防止できる。
【選択図】図7

Description

本発明は、触媒の異常を診断するための装置に係り、特に、内燃機関の排気通路に配置された触媒の異常を診断するための装置に関する。
例えば車両用の内燃機関において、その排気系には排気ガスを浄化するための触媒が設置されている。この触媒の中には酸素吸蔵能(Oストレージ能)を有するものがあり、これは、触媒に流入する排気ガスの空燃比が理論空燃比(ストイキ)よりも大きくなると、即ちリーンになると排気ガス中に存在する過剰酸素を吸着保持し、触媒流入排気ガスの空燃比がストイキよりも小さくなると、即ちリッチになると吸着保持された酸素を放出する。例えばガソリンエンジンでは触媒に流入する排気ガスがストイキ近傍となるよう空燃比制御が行われるが、酸素吸蔵能を有する三元触媒を使用すると、運転条件により実際の空燃比がストイキから多少振れてしまっても、三元触媒による酸素の吸蔵・放出作用により、かかる空燃比ずれを吸収することができる。
一方、触媒が劣化すると触媒の浄化効率が低下する。触媒の劣化度と酸素吸蔵能の低下度との間にはともに貴金属を介する反応であるため相関関係がある。よって、酸素吸蔵能が低下したことを検出することで触媒が劣化したことを検出することができる。一般的には、触媒上流側の空燃比をリッチ及びリーンに交互に切り替えるアクティブ空燃比制御を行い、このアクティブ空燃比制御の実行に伴って触媒の酸素吸蔵容量を計測し、触媒の劣化を診断する方法(所謂Cmax法)が採用される。
ところで、アクティブ空燃比制御の空燃比切替は、触媒下流側の空燃比センサである触媒後センサの出力が所定の判定値に達したタイミングで行われるが、触媒後センサが劣化すると、その応答性が低下し、真の値より大きな酸素吸蔵容量の値が計測される傾向にある。この場合、劣化した触媒を誤って正常と誤診断してしまう問題があり、この問題の対策を講ずる必要がある。
当該対策の一案として、特許文献1には、触媒後センサ出力の判定値を、触媒後センサの劣化度に相関するパラメータの値に応じて補正し、触媒後センサの劣化の影響を排除する技術が開示されている。
特開2008−31901号公報
この特許文献1に記載の技術も前述の誤診断を防止する上で有効であるが、依然として次のような課題が残されている。
即ち、特許文献1に記載の技術では、内燃機関が搭載される車両の走行距離等により触媒後センサの劣化度を推定しているが、推定精度次第では誤診断を免れられない可能性がある。また、触媒後センサが製造ばらつき等により新品当初から応答性が悪いなどの異常がある場合には、触媒後センサの劣化度に基づく補正が行えず、誤診断を避けるのが困難である。
そこで、本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであって、その一の目的は、触媒後センサの劣化や異常に起因する誤診断を防止し得る触媒異常診断装置を提供することにある。
本発明の一形態によれば、
内燃機関の排気通路に配置された触媒の異常を診断する装置であって、
前記触媒の下流側の排気ガスの空燃比を検出する触媒後センサと、
前記触媒後センサの出力が反転するのに応答して、触媒上流側の空燃比をリッチ及びリーンに交互に切り替えるアクティブ空燃比制御を実行するアクティブ空燃比制御手段と、
前記アクティブ空燃比制御の実行に伴って前記触媒の酸素吸蔵容量を計測する計測手段と、
前記計測手段により計測された複数の計測値に基づき、これら計測値の平均値と、当該計測値のばらつき度合いを示すパラメータとを算出する算出手段と、
前記算出手段により算出された前記平均値と前記パラメータとに基づき、前記触媒の異常を判定する判定手段と、
を備えたことを特徴とする触媒異常診断装置が提供される。
本発明者らは、鋭意研究の結果、酸素吸蔵容量計測値のばらつき度合いが触媒後センサの劣化や異常と密接に関連していることを見出し、このことを利用して本発明を創案するに至った。酸素吸蔵容量を複数回計測する場合、通常、計測回毎にエンジンの運転状態が異なることから、触媒の活性度合いが異なり、酸素吸蔵容量計測値がばらつく。このとき、劣化の少ない(酸素吸蔵容量の多い)触媒ほど、ばらつきは大きくなり、酸素吸蔵容量計測値のばらつき度合いを示すパラメータは大きくなる。他方、触媒後センサに劣化等があると、劣化等が無い場合に比べ、酸素吸蔵容量計測値は大きくなる。しかし、触媒の持つ真の酸素吸蔵容量は変わらないため、酸素吸蔵容量計測値のばらつきは小さく、このばらつき度合いを示すパラメータは小さくなる。
従ってこの特性を利用すれば、酸素吸蔵容量を複数回計測したときの複数の計測値の平均値と、ばらつき度合いを示すパラメータとに基づき、触媒後センサの劣化等の有無を考慮しつつ、触媒の異常診断を高精度で行うことができる。これにより前述の誤診断を未然に防止することが可能となる。
好ましくは、前記判定手段は、前記算出手段により算出された前記平均値と前記パラメータとに基づき、前記触媒後センサの異常をも判定する。これにより、上記特性を利用して触媒後センサの異常診断も同時に可能となる。
好ましくは、前記触媒異常診断装置が、前記計測値のばらつき度合いの指標値を前記内燃機関の運転状態に基づき算出する指標値算出手段を更に備え、前記判定手段は、前記指標値算出手段により算出された前記指標値が所定値より大きいときに前記判定を実行し、前記指標値算出手段により算出された前記指標値が前記所定値以下であるときには前記判定を実行しない。
ほぼ同じエンジン運転状態の下で複数の酸素吸蔵容量が計測されると、当該計測値のばらつきが小さくなり、あたかも触媒後センサが劣化等したときと同じ結果となってしまう可能性がある。しかしながらこの好ましい形態によれば、酸素吸蔵容量計測値のばらつき度合いを別の観点から示す指標値を、エンジン運転状態に基づき算出する。そしてこの算出された指標値が所定値より大きいとき、即ちばらつき度合いが大きくなるような条件下であったときは異常判定を実行し、算出された指標値が所定値以下であるとき、即ちばらつき度合いが小さくなるような条件下であったときは異常判定を実行しない。これにより診断精度を高めることができる。
好ましくは、前記触媒異常診断装置が、前記計測手段による計測時に前記触媒後センサ出力の反転毎の計測終了タイミングを遅延させる遅延手段を更に備え、前記計測手段は、前記遅延が実行されたときと実行されなかったときとの前記酸素吸蔵容量を計測し、前記算出手段は、これら計測値に基づき前記平均値と前記パラメータとを算出する。
前述から理解されるように、複数の酸素吸蔵容量は、これら計測値がある程度ばらつくような条件下で計測されるのが望ましい。そこでこの好ましい形態は、触媒後センサ出力の反転毎の計測終了タイミングを遅延させ、かかるばらつき条件を強制的に作り出す。これにより酸素吸蔵容量計測値のばらつきを担保し、診断精度を向上することができる。
この場合、好ましくは、前記触媒異常診断装置が、前記計測値のばらつき度合いの指標値を前記内燃機関の運転状態に基づき算出する指標値算出手段を更に備え、前記遅延手段は、前記指標値算出手段により算出された前記指標値が所定値以下であるときに前記遅延を実行する。これにより、ばらつき度合いが小さくなるようなエンジン運転条件下であったときでも遅延によりばらつき状態を担保することが可能となる。
好ましくは、前記判定手段は、前記平均値が第1の所定値より大きく且つ前記パラメータが第2の所定値より大きいときに前記触媒を正常と判定し、前記平均値が前記第1の所定値以下のときに前記触媒を異常と判定し、前記平均値が前記第1の所定値より大きく且つ前記パラメータが前記第2の所定値以下のときに前記触媒及び前記触媒後センサを異常と判定する。
好ましくは、前記パラメータが、前記複数の計測値の分散値からなる。
好ましくは、前記指標値算出手段は、前記内燃機関の吸入空気量の分散値と前記触媒の温度の分散値とに基づき、前記指標値を算出する。
本発明によれば、触媒後センサの劣化や異常に起因する誤診断を防止することができるという、優れた効果が発揮される。
本発明の実施形態の構成を示す概略図である。 触媒の構成を示す概略断面図である。 異常診断時におけるアクティブ空燃比制御の内容を説明するためのタイムチャートである。 図3と同様のタイムチャートであり、酸素吸蔵容量の計測方法を説明するための図である。 触媒前センサ及び触媒後センサの出力特性を示すグラフである。 触媒後センサの遅れパターンを示す図である。 診断マップを示す図である。 本実施形態の異常診断処理の手順を示すフローチャートである。 別の診断マップを示す図である。 第1変形例の異常診断処理のフローチャートである。 第2変形例の異常診断処理のフローチャートである。 第3変形例の異常診断処理のフローチャートである。
以下、本発明を実施するための最良の形態を添付図面に基づき説明する。
図1は、本実施形態の構成を示す概略図である。図示されるように、内燃機関1は、シリンダブロック2に形成された燃焼室3の内部で燃料および空気の混合気を燃焼させ、燃焼室3内でピストン4を往復移動させることにより動力を発生する。内燃機関1は車両用多気筒エンジン(1気筒のみ図示)であり、火花点火式内燃機関、より具体的にはガソリンエンジンである。
内燃機関1のシリンダヘッドには、吸気ポートを開閉する吸気弁Viと、排気ポートを開閉する排気弁Veとが気筒ごとに配設されている。各吸気弁Viおよび各排気弁Veは図示しないカムシャフトによって開閉させられる。また、シリンダヘッドの頂部には、燃焼室3内の混合気に点火するための点火プラグ7が気筒ごとに取り付けられている。
各気筒の吸気ポートは気筒毎の枝管を介して吸気集合室であるサージタンク8に接続されている。サージタンク8の上流側には吸気集合通路をなす吸気管13が接続されており、吸気管13の上流端にはエアクリーナ9が設けられている。そして吸気管13には、上流側から順に、吸入空気量(内燃機関に流入する空気量)を検出するためのエアフローメータ5と、電子制御式スロットルバルブ10とが組み込まれている。なお吸気ポート、サージタンク8及び吸気管13により吸気通路が形成される。
吸気通路、特に吸気ポート内に燃料を噴射するインジェクタ(燃料噴射弁)12が気筒ごとに配設される。インジェクタ12から噴射された燃料は吸入空気と混合されて混合気をなし、この混合気が吸気弁Viの開弁時に燃焼室3に吸入され、ピストン4で圧縮され、点火プラグ7で点火燃焼させられる。
一方、各気筒の排気ポートは気筒毎の枝管を介して排気集合通路をなす排気管6に接続されている。これら排気ポート、枝管及び排気管6により排気通路が形成される。排気管6には、その上流側と下流側に、酸素吸蔵能を有する三元触媒からなる触媒即ち上流触媒11及び下流触媒19が直列に設けられている。上流触媒11の上流側及び下流側ないし直前及び直後には、排気ガスの空燃比を検出するための空燃比センサ即ち触媒前センサ17及び触媒後センサ18が設けられている。触媒前センサ17は所謂広域空燃比センサからなり、比較的広範囲に亘る空燃比を連続的に検出可能で、その空燃比に比例した値の信号を出力する。他方、触媒後センサ18は所謂Oセンサからなり、理論空燃比を境に出力値が急変する特性(Z特性)を持つ。これら触媒前センサ17及び触媒後センサ18の出力特性を図5に示す。
上述の点火プラグ7、スロットルバルブ10及びインジェクタ12等は、制御手段としての電子制御ユニット(以下ECUと称す)20に電気的に接続されている。ECU20は、何れも図示されないCPU、ROM、RAM、入出力ポート、および記憶装置等を含むものである。またECU20には、図示されるように、前述のエアフローメータ5、触媒前センサ17、触媒後センサ18のほか、内燃機関1のクランク角を検出するクランク角センサ14、アクセル開度を検出するアクセル開度センサ15、その他の各種センサが図示されないA/D変換器等を介して電気的に接続されている。ECU20は、各種センサの検出値等に基づいて、所望の出力が得られるように、点火プラグ7、スロットルバルブ10、インジェクタ12等を制御し、点火時期、燃料噴射量、燃料噴射時期、スロットル開度等を制御する。
ECU20は、触媒前センサ17により検出された空燃比即ち触媒前空燃比A/Ffが目標空燃比A/Ftに一致するように、燃焼室3に供給される混合気の空燃比をフィードバック制御する。一方、触媒11,19は、これに流入する排気ガスの空燃比が理論空燃比(ストイキ、例えばA/Fs=14.6)のときにNOx ,HCおよびCOを同時に高効率で浄化する。よってECU20は、内燃機関の通常運転時、理論空燃比に等しい目標空燃比A/Ftを設定し、触媒前センサ17により検出された触媒前空燃比A/Ffが理論空燃比に一致するようにインジェクタ12から噴射される燃料噴射量をフィードバック制御する。これにより触媒11に流入する排気ガスの空燃比は理論空燃比近傍に保たれ、触媒11において最大の浄化性能が発揮されるようになる。
ここで、異常診断の対象となる上流触媒11についてより詳細に説明する。なお下流触媒19も上流触媒11と同様に構成されている。図2に示すように、触媒11においては、図示しない担体基材の表面上にコート材31が被覆され、このコート材31に微粒子状の触媒成分32が多数分散配置された状態で保持され、触媒11内部で露出されている。触媒成分32は主にPt,Pd等の貴金属からなり、NOx ,HCおよびCOといった排ガス成分を反応させる際の活性点となる。他方、コート材31は、排気ガスと触媒成分32との界面における反応を促進させる助触媒の役割を担うと共に、雰囲気ガスの空燃比に応じて酸素を吸収放出可能な酸素吸蔵成分を含む。酸素吸蔵成分は例えば二酸化セリウムCeOやジルコニアからなる。例えば、触媒成分32及びコート材31の雰囲気ガスが理論空燃比よりリッチであると、触媒成分32の周囲に存在する酸素吸蔵成分に吸蔵されていた酸素が放出され、この結果、放出された酸素によりHCおよびCOといった未燃成分が酸化され、浄化される。逆に、触媒成分32及びコート材31の雰囲気ガスが理論空燃比よりリーンであると、触媒成分32の周囲に存在する酸素吸蔵成分が雰囲気ガスから酸素を吸収し、この結果NOxが還元浄化される。
このような酸素吸放出作用により、通常の空燃比制御の際に触媒前空燃比A/Ffが理論空燃比に対し多少ばらついたとしても、NOx、HCおよびCOといった三つの排気ガス成分を同時浄化することができる。よって通常の空燃比制御において、触媒前空燃比A/Ffを敢えて理論空燃比を中心に微小振動させ、酸素の吸放出を繰り返させることにより排ガス浄化を行うことも可能である。
ところで、新品状態の触媒11では前述したように細かい粒子状の触媒成分32が多数均等に分散配置されており、排気ガスと触媒成分32との接触確率が高い状態に維持されている。しかしながら、触媒11が劣化してくると、一部の触媒成分32に消失が見られるほか、触媒成分32同士が排気熱で焼き固まって焼結状態になるものがある(図の破線参照)。こうなると排気ガスと触媒成分32との接触確率の低下を引き起こし、浄化率を落としめる原因となる。そしてこのほかに、触媒成分32の周囲に存在するコート材31の量、即ち酸素吸蔵成分の量が減少し、酸素吸蔵能自体が低下する。
このように、触媒11の劣化度と触媒11の持つ酸素吸蔵能の低下度とは相関関係にある。そこで本実施形態では、特にエミッションへの影響が大きい上流触媒11の酸素吸蔵能を検出することにより、上流触媒11の劣化度を検出することとしている。ここで、触媒11の酸素吸蔵能は、現状の触媒11が吸蔵し得る最大酸素量である酸素吸蔵容量(OSC;O Storage Capacity、単位はg)の大きさによって表される。
本実施形態の触媒異常診断は前述のCmax法によるものを基本とする。そして触媒11の異常診断に際しては、ECU20によりアクティブ空燃比制御が実行される。アクティブ空燃比制御において、触媒11の上流側の空燃比、即ち燃焼室3内の混合気の空燃比ひいては触媒11に供給される排気ガスの空燃比は、所定の中心空燃比A/Fcを境にリッチ及びリーンにアクティブに(強制的に)且つ交互に切り替えられる。なおリッチ側に切り替えられているときの空燃比をリッチ空燃比A/Fr、リーン側に切り替えられているときの空燃比をリーン空燃比A/Flと称す。
触媒11の異常診断は、内燃機関1の定常運転時で且つ触媒11が活性温度域にあるときに実行される。触媒11の温度(触媒床温)の計測については、温度センサを用いて直接検出してもよいが、本実施形態の場合内燃機関の運転状態から推定することとしている。例えばECU20は、エアフローメータ5によって検出される吸入空気量Gaに基づいて、予め設定されたマップを利用し、触媒11の温度Tcを推定する。なお、吸入空気量Ga以外のパラメータ、例えばエンジン回転速度Ne(rpm)などを触媒温度推定に用いるパラメータに含めてもよい。
以下、図3及び図4を用いて、上流触媒11の酸素吸蔵容量の計測方法を説明する。図3(A),(B)にはそれぞれ、アクティブ空燃比制御を実行したときの、触媒前センサ17及び触媒後センサ18の出力挙動を実線で示す。また、図3(A)には、ECU20内部で発生される目標空燃比A/Ftを破線で示す。図3(A)に示される触媒前センサ17の出力値は触媒前空燃比A/Ffに換算した値である。また図3(B)に示される触媒後センサ18の出力値はその出力値自体、即ち出力電圧Vrの値である。
図3(A)に示されるように、目標空燃比A/Ftは、中心空燃比としての理論空燃比A/Fsを中心として、そこからリッチ側に所定の振幅(リッチ振幅Ar、Ar>0)だけ離れた空燃比(リッチ空燃比A/Fr)と、そこからリーン側に所定の振幅(リーン振幅Al、Al>0)だけ離れた空燃比(リーン空燃比A/Fl)とに強制的に、且つ交互に切り替えられる。そしてこの目標空燃比A/Ftの切り替えに追従して、実際値としての触媒前空燃比A/Ffも、目標空燃比A/Ftに対し僅かな時間遅れを伴って切り替わる。このことから目標空燃比A/Ftと触媒前空燃比A/Ffとは時間遅れがあること以外等価であることが理解されよう。
図示例においてリッチ振幅Arとリーン振幅Alとは等しい。例えばリッチ空燃比A/Fr=14.1、リーン空燃比A/Fl=15.1、リッチ振幅Ar=リーン振幅Al=0.5とされる。通常の空燃比制御の場合に比べ、アクティブ空燃比制御の場合は空燃比の振り幅が大きく、即ちリッチ振幅Arとリーン振幅Alとの値は大きい。
目標空燃比A/Ftは、触媒後センサ18の出力が反転するのに応答して切り替えられる。基本的に、目標空燃比A/Ftが切り替えられる時期ないしタイミングは、触媒後センサ18の出力がリッチからリーンに、又はリーンからリッチに反転するタイミングと同時である。図示されるように、触媒後センサ18の出力電圧Vrは理論空燃比A/Fsを境に急変する。そして当該出力電圧Vrの反転時期、即ち当該出力電圧Vrがリッチ側に反転した時期及びリーン側に反転した時期を定めるため、当該出力電圧Vrに関する二つの反転しきい値VR,VLが予め定められている。ここでVRをリッチ判定値、VLをリーン判定値という。VR>VLであり、例えばVR=0.59(V)、VL=0.21(V)とされる。出力電圧Vrがリーン側即ち減少方向に変化してリーン判定値VLに達した時、出力電圧Vrはリーン側に反転したとみなされ、触媒後センサ18によって検出された触媒後空燃比A/Frは少なくとも理論空燃比よりリーンであると判断される。他方、出力電圧Vrがリッチ側即ち増大方向に変化してリッチ判定値VRに達した時、出力電圧Vrはリッチ側に反転したとみなされ、触媒後空燃比A/Frは少なくとも理論空燃比よりリッチであると判断される。図5に示すように、リッチ判定値VRはストイキ相当値Vstよりも大きな(リッチ側の)値であり、リーン判定値VLはストイキ相当値Vstよりも小さな(リーン側の)値である。リッチ判定値VRとリーン判定値VLとにそれぞれ対応する空燃比の間の狭い領域Y(これを遷移領域という)に理論空燃比が含まれている。なお出力電圧Vrからは触媒後空燃比A/Frが理論空燃比よりもリッチかリーンかを検出できるのみで、触媒後空燃比A/Frの絶対値まで検出するのは困難である。
図3(A),(B)に示されるように、触媒後センサ18の出力電圧Vrがリッチ側の値からリーン側に変化してリーン判定値VLに等しくなった時(時刻t1)、目標空燃比A/Ftはリーン空燃比A/Flからリッチ空燃比A/Frに切り替えられる。その後、触媒後センサ18の出力電圧Vrがリーン側の値からリッチ側に変化してリッチ判定値VRに等しくなった時(時刻t2)、目標空燃比A/Ftはリッチ空燃比A/Frからリーン空燃比A/Flに切り替えられる。このように、触媒後センサ18の出力がリーン又はリッチに反転する毎に空燃比がリッチ又はリーンにアクティブに切替制御される。
このアクティブ空燃比制御を実行しつつ、次のようにして触媒11の酸素吸蔵容量OSCが計測され、触媒11の異常が判定される。
図3を参照して、時刻t1より前では目標空燃比A/Ftがリーン空燃比A/Flとされ、触媒11にはリーンガスが流入されている。このとき触媒11では酸素を吸収し続けているが、一杯に酸素を吸収した時点でそれ以上酸素を吸収できなくなり、リーンガスが触媒11を通り抜けて触媒11の下流側に流れ出す。こうなると触媒後空燃比A/Frがリーン側に変化し、触媒後センサ18の出力電圧がリーン判定値VLに達した時点(t1)で、目標空燃比A/Ftがリッチ空燃比A/Frに切り替えられる。
そして今度は触媒11にリッチガスが流入される。このとき触媒11では、それまで吸蔵されていた酸素が放出され続ける。よって触媒11の下流側にはほぼ理論空燃比A/Fsの排気ガスが流出し、触媒後空燃比A/Frがリッチにならないことから、触媒後センサ18の出力は反転しない。触媒11から酸素が放出され続けるとやがて触媒11からは全ての吸蔵酸素が放出され尽くし、その時点でそれ以上酸素を放出できなくなり、リッチガスが触媒11を通り抜けて触媒11の下流側に流れ出す。こうなると触媒後空燃比A/Frがリッチ側に変化し、触媒後センサ18の出力電圧がリッチ判定値VRに達した時点(t2)で、目標空燃比A/Ftがリーン空燃比A/Flに切り替えられる。
このように、触媒後センサ出力Vrがリーンに反転したのに応答して触媒11の上流側の空燃比がリッチに切り替えられ、また、触媒後センサ出力Vrがリッチに反転したのに応答して触媒11の上流側の空燃比がリーンに切り替えられる。
触媒11の有する酸素吸蔵容量が大きいほど、酸素を吸収或いは放出し続けることのできる時間が長くなる。つまり、触媒が劣化していない場合は触媒後センサ出力Vrの反転周期(例えばt1からt2までの時間)が長くなり、触媒の劣化が進むほどその反転周期は短くなる。
そこで、このことを利用して酸素吸蔵容量OSCが以下のようにして計測される。図4に示すように、時刻t1で目標空燃比A/Ftがリッチ空燃比A/Frに切り替えられた直後、僅かに遅れて実際値としての触媒前空燃比A/Ffがリッチ空燃比A/Frに切り替わる。そして触媒前空燃比A/Ffが理論空燃比A/Fsに達した時点t11から、次に触媒後センサ出力Vrが反転する時点t2まで、次式(1)により、所定の微小時間毎の酸素吸蔵容量dOSCが算出され、且つこの微小時間毎の酸素吸蔵容量dOSCが時刻t11から時刻t2まで積算される。こうしてこのリッチ制御中の反転周期において、最終積算値としての酸素吸蔵容量OSC(この場合、図4にOSC1で示される放出酸素量)が計測される。
Figure 2010180717
ここで、Qは燃料噴射量であり、空燃比差ΔA/Fに燃料噴射量Qを乗じるとストイキに対し不足又は過剰分の空気量を算出できる。Kは空気に含まれる酸素割合(約0.23)を表す定数である。
目標空燃比A/Ftがリーンとなっているリーン制御中でも同様に酸素吸蔵容量(この場合、図4にOSC2で示される吸蔵酸素量)が計測される。そして目標空燃比A/Ftがリッチ・リーンと交互に切り替えられ、リッチ制御とリーン制御が交互に行われる度に、酸素吸蔵容量が計測される。こうして複数の酸素吸蔵容量の値が得られたならば、その平均値OSCavが算出される。
なお、リーン制御中における酸素吸蔵容量の計測については、図4に示すように、時刻t2で目標空燃比A/Ftがリーン空燃比A/Flに切り替えられた後、触媒前空燃比A/Ffが理論空燃比A/Fsに達した時点t21から、次に目標空燃比A/Ftがリッチ側に反転する時点t3まで、前式(1)により微小時間毎の酸素吸蔵容量dOSCが算出され、且つこの微小時間毎の酸素吸蔵容量dOSCが積算される。そして最終的な積算値が、当該リーン制御中の反転周期において計測された酸素吸蔵容量の値となる。酸素放出時と酸素吸蔵時とで酸素吸蔵容量の計測値はほぼ等しい値となるのが理想的である。
次に、酸素吸蔵容量計測値の平均値OSCavに基づき触媒の異常判定がなされる。その方法は後述する。触媒が異常と判定された場合、その事実をユーザに知らせるため、チェックランプ等の警告装置を起動させるのが好ましい。
ところで、前述したように、触媒後センサ18に劣化や異常があると、その応答性が低下し、真の値より大きな酸素吸蔵容量の値が計測されて、劣化した触媒を誤って正常と誤診断してしまう問題がある。
即ち、図6に示すように、触媒後センサ18に劣化や異常があると、触媒後センサ出力Vrの変化ないし反転が正常時よりも遅れる。この遅れのパターンとしては、変化開始のタイミングが遅れるむだ時間遅れのパターンと、変化速度が遅くなる(図中の勾配が緩くなる)時定数遅れのパターンが主である。
このように応答性が低下する結果、触媒後センサ出力Vrがリッチ又はリーンに反転するのが遅れ、微小時間毎の酸素吸蔵容量dOSCの積算時間が長くなり、真の値より大きな酸素吸蔵容量の値が計測されてしまう。異常判定は、基本的に、酸素吸蔵容量計測値が所定の異常判定値より大きいときに触媒を正常と判定するものであるから、大きめの酸素吸蔵容量の値が計測されてしまうと、実際には異常判定値より小さな酸素吸蔵容量しか持たない異常触媒を誤って正常と判定してしまう虞がある。
よって、触媒後センサ18の劣化等をも考慮して誤診断を未然に防止する必要がある。
本発明者らは、鋭意研究の結果、酸素吸蔵容量計測値のばらつき度合いが触媒後センサ18の劣化や異常と密接に関連していることを見出し、このことを利用して誤診断を防止する手法を開発した。以下、これについて述べる。
酸素吸蔵容量を複数回計測する場合、通常、計測回毎に車両及びエンジンの運転状態が異なることから、触媒の活性度合いが異なり、酸素吸蔵容量計測値がばらつく。このとき、劣化の少ない(酸素吸蔵容量の多い)触媒ほど、ばらつきは大きくなり、酸素吸蔵容量計測値のばらつき度合いを示すパラメータは大きくなる。他方、触媒後センサ18に劣化等があると、劣化等が無い場合に比べ、酸素吸蔵容量計測値は大きくなる。しかし、触媒の持つ真の酸素吸蔵容量は変わらないため、酸素吸蔵容量計測値のばらつきは小さく、このばらつき度合いを示すパラメータは小さくなる。
従ってこの特性を利用すれば、酸素吸蔵容量を複数回計測したときの複数の計測値の平均値とばらつき度合いとに基づき、触媒後センサ18の劣化等の有無を考慮しつつ、触媒11の劣化診断を高精度で行うことができる。これにより、前述の誤診断を未然に防止することが可能となる。
ここで、酸素吸蔵容量の複数の計測値について説明する。前述のようなアクティブ空燃比制御を1回行うと、リッチ側とリーン側とで複数の酸素吸蔵容量OSCが計測され、その平均値OSCavが求められる。この平均値OSCavをここでは一つの計測値として取り扱い、Cmaxで表す。即ちCmax=OSCavである。そしてN回(Nは2以上の整数)、アクティブ空燃比制御と計測とを実行すれば、N個の平均値OSCavが得られ、N個の計測値Cmaxが得られる。このN個の計測値Cmaxの平均値をCmaxAveで表す。
他方、ばらつき度合いに関して、本実施形態ではばらつき度合いを示すパラメータとして分散値を用い、CmaxVで表す。分散値CmaxVは次式(2)により算出され、ばらつき度合いが大きくなるほど分散値CmaxVは大きくなる。
Figure 2010180717
次に、これら平均値CmaxAveと分散値CmaxVに基づき触媒の異常判定が行われる。この異常判定は図7に示す診断マップの如く行われる。
まず、平均値CmaxAveが所定の異常判定値Xより大きく、且つ分散値CmaxVが所定の分散しきい値Yより大きいとき、即ち平均値CmaxAveと分散値CmaxVが領域Aに属する値であるときには、触媒11が正常と判定される。このときには大きな酸素吸蔵容量が計測されており、また酸素吸蔵容量計測値が大きくばらついていて触媒後センサ18の劣化等は無いとみなせることから、計測は正常に行われたとして、触媒11を正常と判定する。
また、平均値CmaxAveが異常判定値X以下のとき、即ち平均値CmaxAveが領域Bに属する値であるときには、分散値CmaxVの大小とは無関係に触媒11が劣化ないし異常と判定される。このときには、たとえ触媒後センサ18が劣化等していて酸素吸蔵容量が大きめに計測されたとしても、なお小さな値の酸素吸蔵容量しか計測されていないので、触媒11を劣化ないし異常と判定する。
さらに、平均値CmaxAveが異常判定値Xより大きく、且つ分散値CmaxVが分散しきい値Y以下のとき、即ち平均値CmaxAveと分散値CmaxVが領域Cに属する値であるときには、触媒11及び触媒後センサ18の両方が劣化ないし異常と判定される。このときには大きな酸素吸蔵容量が計測されているが、酸素吸蔵容量計測値のばらつきが小さく、触媒後センサ18の劣化等が発生している可能性がある。そしてこの触媒後センサ18の劣化等の影響で大きな酸素吸蔵容量が計測されている可能性がある。よって計測が正常に行われなかった可能性があるので、万全を期すため、触媒11及び触媒後センサ18の両方を劣化ないし異常と判定する。
このように触媒後センサ18の劣化ないし異常も併せて診断可能である。また、触媒11の劣化ないし異常と、触媒後センサ18の劣化ないし異常とをある程度区別して診断することができるので、診断精度の向上が可能である。
ところで、図6に示したように、触媒後センサ18の応答遅れのパターンとしてむだ時間遅れと時定数遅れの2パターンがあることは既に述べたとおりである。本実施形態の手法によれば、出力波形の変化を評価するのではなく、酸素吸蔵容量計測値のばらつき度合いを評価して触媒後センサ18の劣化等を検出するため、いずれのパターンでも触媒後センサ18の劣化等を確実に検出することができる。
また、触媒後センサが新品当初から異常である場合でも、これが酸素吸蔵容量計測値のばらつき度合いに即座に反映されてばらつき度合いが小さくなるため、かかる異常を確実に検出することが可能である。
次に、図8を参照しつつ、ECU20によって実行される異常診断処理の手順を説明する。
まずステップS101では、酸素吸蔵容量計測値Cmaxの計測回数Nが所定値Mより大きいか否かが判断される。所定値Mは1以上の任意の整数である。N≦Mのときには待機状態となり、N>MのときにはステップS102に進む。例えばM=4とすると、酸素吸蔵容量を5回以上計測したときにステップS102に進むことになる。
ステップS102においては、N個の酸素吸蔵容量計測値Cmaxの平均値CmaxAveが算出される。
次いで、ステップS103に進み、平均値CmaxAveが異常判定値Xと比較される。CmaxAve≦XのときにはステップS109に進んで、触媒11は劣化ないし異常と判定される(図7の領域Bに該当)。
他方、CmaxAve>XのときにはステップS104に進んで、N個の酸素吸蔵容量計測値Cmaxから分散値CmaxVが算出される。
次いで、ステップS105に進み、分散値CmaxVが分散しきい値Yと比較される。CmaxV>YのときにはステップS106に進んで、触媒11は正常と判定される(図7の領域Aに該当)。
他方、CmaxV≦Yのときには、ステップS107に進んで触媒11が劣化ないし異常と判定されると共に、ステップS108において触媒後センサ18が劣化ないし異常と判定される(図7の領域Cに該当)。
次に、変形例を説明する。
まず第1変形例について述べる。前述の基本実施形態では、平均値CmaxAveが異常判定値Xより大きく且つ分散値CmaxVが分散しきい値Y以下のとき一律に触媒11及び触媒後センサ18を劣化ないし異常と診断した。しかし、触媒後センサ18の劣化等による酸素吸蔵容量計測値の誤差には一定の限度があるとも考えられ、異常判定値Xに対し平均値CmaxAveが著しく大きい場合には、触媒後センサ18の劣化等の影響を超えた十分大きな酸素吸蔵容量が計測されており、触媒11を正常と診断しても問題ない場合があり得る。
そこでこの第1変形例では、前述の異常判定値Xに加えてこれより大きい別の異常判定値を設定する。具体的には、図9に示すように、前述の異常判定値Xを第1の異常判定値X1として置き換え、さらにこれより大きい第2の異常判定値X2を設定する。これら異常判定値X1,X2の差は、触媒後センサ18の劣化等による酸素吸蔵容量計測値の誤差の上限に相当する値である。
そして、図示するように、基本実施形態(図7)の領域Cを二分割し、第2の異常判定値X2以下の領域を、触媒11及び触媒後センサ18を劣化ないし異常と判定する領域C、第2の異常判定値X2より大きい領域を、触媒11を正常と判定する領域Dとする。これにより、触媒後センサ18の劣化等の影響をより詳細に考慮し、診断精度をより向上できる可能性がある。
図10には、この第1変形例に係る異常診断処理の手順が示される。なお基本実施形態(図8)と同一のステップには符号を200番台に置き換えるのみで説明を省略する。
基本実施形態と異なるのは、ステップS103に対応するステップS203’で異常判定値Xが第1の異常判定値X1に置き換えられている点と、ステップS210が追加されている点である。
ステップS205でCmaxV≦Yの場合、ステップS210に進んで、平均値CmaxAveが第2の異常判定値X2と比較される。CmaxAve>X2のときにはステップS206に進んで、触媒11は正常と判定される(図9の領域Dに該当)。
他方、CmaxAve≦X2のときには、ステップS207に進んで触媒11が劣化ないし異常と判定されると共に、ステップS208において触媒後センサ18が劣化ないし異常と判定される(図9の領域Cに該当)。
次に、第2変形例について述べる。実際の市場では、エンジンひいては車両の異なる運転状態の下で複数の酸素吸蔵容量が計測されることが想定される。しかし、例えば高速道路などで一定速度での走行が長時間続くなど、エンジン運転状態が変化しないと、ほぼ同じエンジン運転状態の下で複数の酸素吸蔵容量が計測される可能性がある。こうなると、当該計測値のばらつきが小さくなり、あたかも触媒後センサ18が劣化等したときと同じ結果を招き、触媒11および触媒後センサ18を誤って異常と診断してしまう可能性がある。
そこでかかる誤診断を防止するため、酸素吸蔵容量計測値にばらつきが出るようなエンジン運転状態の下で複数の酸素吸蔵容量が計測されたか否かを判断する。具体的には、酸素吸蔵容量計測値のばらつき度合いを別の観点から示す指標値を、エンジン運転状態に基づき算出ないし推定する。そして、この算出された指標値が、所定値より大きいときには異常判定を実行し、所定値以下であるときには異常判定を実行しない。
これを具体的に述べる。触媒の酸素吸蔵容量の大きさは、その劣化度のほか、触媒を通過する排気ガス流量即ちその代用値としての吸入空気量Gaと、触媒の温度Tcとに応じて変化する。そこで、指標値CmaxErrを、吸入空気量Gaと触媒温度Tcとの関数で定義する。本実施形態の場合、吸入空気量Gaの分散値をVga、触媒温度Tcの分散値をVtcとして、次式(3)により指標値CmaxErrを算出する。
Figure 2010180717
但し、F,Gは所定の係数である。吸入空気量の分散値Vgaおよび触媒温度の分散値Vtcは、計測回毎に検出或いは推定された吸入空気量Gaおよび触媒温度Tcに基づき、前式(2)に示したのと同様の式から算出される。
計測回毎のエンジン運転状態がばらつくと、計測回毎の吸入空気量Gaと触媒温度Tcとの値がばらつくため、これらの分散値Vga,Vtcが大きくなり、指標値CmaxErrは大きくなる。逆に、計測回毎のエンジン運転状態がほぼ一定であると、計測回毎の吸入空気量Gaと触媒温度Tcとの値がばらつかず、これらの分散値Vga,Vtcが小さくなり、指標値CmaxErrも小さくなる。
エンジン運転状態がばらつくほど計測回毎の酸素吸蔵容量計測値もばらつくことから、指標値CmaxErrは、酸素吸蔵容量計測値のばらつき度合いに相関した値となる。そこで、指標値CmaxErrをそのしきい値Zと比較し、CmaxErr>Zであれば酸素吸蔵容量計測値にばらつきが出るようなエンジン運転状態であったとみなすことができ、CmaxErr≦Zであれば酸素吸蔵容量計測値にばらつきが出るようなエンジン運転状態ではなかったとみなすことができる。
CmaxErr>Zのときには、酸素吸蔵容量計測値にばらつきが出る筈なので、このときには通常通り異常判定してよい。しかしながら、CmaxErr≦Zのときには、たとえ正常触媒と正常センサの組み合わせであったとしても、酸素吸蔵容量計測値にばらつきが出ない筈である。よってこのときに通常通り異常判定すると、エンジン運転状態の変化がないために酸素吸蔵容量計測値にばらつきが出ないのに、これを誤って触媒後センサ18が劣化等したから酸素吸蔵容量計測値にばらつきが出ないと判断してしまい、誤診断してしまう可能性がある。
よって、CmaxErr≦Zのときには異常判定を実行しないとすることにより、診断精度を向上し、かかる誤診断を未然に防止することができる。
図11には、この第2変形例に係る異常診断処理の手順が示される。なお基本実施形態(図8)と同一のステップには符号を300番台に置き換えるのみで説明を省略する。
基本実施形態と異なるのは、ステップS101に対応するステップS301と、ステップS102に対応するステップS302との間に、ステップS310とステップS311が追加されている点である。
ステップS301でN>Mに達すると、ステップS310に進んで、指標値CmaxErrが算出される。即ち、N回分の吸入空気量Gaと触媒温度Tcのデータから、それぞれの分散値Vga,Vtcが算出され、これら分散値Vga,Vtcに基づき前式(3)から指標値CmaxErrが算出される。
次いで、ステップS311において、この算出された指標値CmaxErrがしきい値Zと比較される。CmaxErr>Zのときには、各計測回が酸素吸蔵容量計測値にばらつきが出るようなエンジン運転状態であったとみなすことができるから、ステップS302以降に進んで通常通り異常判定が行われる。
他方、CmaxErr≦Zのときには、各計測回が酸素吸蔵容量計測値にばらつきが出ないようなエンジン運転状態であったとみなすことができるから、誤判定を防止すべく、ルーチンが直ちに終了される。
次に、第3変形例について述べる。前述から理解されるように、本実施形態の異常診断では酸素吸蔵容量計測値がある程度ばらつくような条件下で複数の酸素吸蔵容量が計測されるのが望ましい。第2変形例はそのような条件かどうかを判断し、そうでなかったら判定を非実行とする或いは中止するものであった。
これに対し、この第3変形例は、触媒後センサ出力Vrの反転毎の計測終了タイミングを遅延ないしディレーさせ、かかるばらつき条件を強制的に作り出すものである。これにより酸素吸蔵容量計測値のばらつきが担保され、診断精度を向上し、誤診断を未然に防止することができる。
この遅延ないしディレーは、好ましくは図4に仮想線で示すように、触媒後センサ出力Vrの反転タイミングを規定するリッチ判定値VRおよびリーン判定値VLを、それぞれ、よりリッチ側の値VR’およびよりリーン側の値VL’に変更することで行う。こうすることで触媒後センサ出力Vrの反転タイミングがDだけ遅れ、酸素吸蔵容量の積算ないし計測終了タイミングがDだけ遅れる。そして、ディレーを行わない場合に比べ、より大きな酸素吸蔵容量が計測され、酸素吸蔵容量計測値はばらつくことになる。
ディレー量を変えつつ(好ましくは増大しつつ)複数回ディレーを実行し、各回毎に酸素吸蔵容量を計測してもよい。リッチ側及びリーン側の一方のみディレーを行ってもよい。なお、反転タイミングを早めても計測値をばらつかせられる可能性があるので、反転タイミングを早めてもよい。この場合、リッチ判定値VRおよびリーン判定値VLをそれぞれよりリーン側の値およびリッチ側の値に変更するのが好ましい。
図12には、この第3変形例に係る異常診断処理の手順が示される。なお基本実施形態(図8)と同一のステップには符号を400番台に置き換えるのみで説明を省略する。
基本実施形態と異なるのは、ステップS101に対応するステップS401と、ステップS102に対応するステップS402との間に、ステップS410とステップS411’が追加されている点であり、さらに別途ステップS412とステップS413が追加されている点である。ステップS410は第2変形例(図11)のステップS310と同様であり、ステップS411’ は第2変形例のステップS311を変更したものである。このようにここでは第2変形例と組み合わせた例を示す。
ステップS401でN>Mに達すると、ステップS410に進んで指標値CmaxErrが算出される。次いで、ステップS411’において、ディレー実行後であるかまたはCmaxErr>Zであるか否かが判断される。
このステップS411’において、CmaxErr>Zが成立しているときは、ステップS402以降に進んで通常通り異常判定が行われる。即ちこの場合は、エンジン運転状態によりばらつきが担保されている場合なので、通常通り異常判定しても問題なく、ステップS402以降に進む。
他方、ステップS411’においてCmaxErr>Zが成立していないとき、即ちCmaxErr≦Zのときには、ばらつきを担保すべくステップS412に進んでディレーが実行され、ステップS413においてこのディレーが実行されたときの酸素吸蔵容量Cmaxが計測される。これにより、強制的にばらつかせられた酸素吸蔵容量計測値Cmaxが得られることになる。なお、ここではディレーを加えた酸素吸蔵容量計測値を一つのみ得るようにしているが、前述したように、異なるディレーを加えた複数の酸素吸蔵容量計測値を得るようにしてもよい。
こうして計測が終了したら、再度ステップS401に戻る。
実際の作動に際し、ステップS401で最初にN>Mに達したとき(即ちN=M+1)からステップS411’がノーとなり、ステップS412,S413,S401と進んだ場合、Cmax計測回数Nはディレーを加えたときの計測回を含めてM+2となっている。そしてこの後、ステップS410で、M+2回分の吸入空気量Gaと触媒温度Tcとのデータから指標値CmaxErrが算出される。
次にステップS411’に進むと、このときにはディレー実行後であるから、CmaxErr>Zの成立の有無に拘わらず、ステップS402以降に進んでM+2回分の酸素吸蔵容量計測値Cmaxに基づき異常判定が実行される。特にステップS402,S404において、ディレーが実行されたときの1回分の計測値と、ディレーが実行されていないときのM+1回分の計測値とに基づき、平均値CmaxAveと分散値CmaxVが算出される。
なお、ここでは第3変形例に第2変形例を組み合わせた例を示したが、第3変形例単独の例も可能である。この場合、ステップS410と、ステップS411’の「またはCmaxErr>Z」の部分を省略すればよい。
以上、本発明の実施形態について詳細に述べたが、本発明の実施形態は他にも様々なものが考えられる。例えば、内燃機関の用途や形式は任意であり、例えば車両用以外であってもよいし、直噴式等であってもよい。
本発明には、特許請求の範囲によって規定される本発明の思想に包含されるあらゆる変形例や応用例、均等物が含まれる。従って本発明は、限定的に解釈されるべきではなく、本発明の思想の範囲内に帰属する他の任意の技術にも適用することが可能である。
1 内燃機関
5 エアフローメータ
6 排気管
11 上流触媒
12 インジェクタ
17 触媒前センサ
18 触媒後センサ
19 下流触媒
20 電子制御ユニット(ECU)
Vr 触媒後センサ出力
Cmax 酸素吸蔵容量計測値
CmaxAve 平均値
CmaxV 分散値
CmaxErr 指標値
Ga 吸入空気量
Tc 触媒温度

Claims (8)

  1. 内燃機関の排気通路に配置された触媒の異常を診断する装置であって、
    前記触媒の下流側の排気ガスの空燃比を検出する触媒後センサと、
    前記触媒後センサの出力が反転するのに応答して、触媒上流側の空燃比をリッチ及びリーンに交互に切り替えるアクティブ空燃比制御を実行するアクティブ空燃比制御手段と、
    前記アクティブ空燃比制御の実行に伴って前記触媒の酸素吸蔵容量を計測する計測手段と、
    前記計測手段により計測された複数の計測値に基づき、これら計測値の平均値と、当該計測値のばらつき度合いを示すパラメータとを算出する算出手段と、
    前記算出手段により算出された前記平均値と前記パラメータとに基づき、前記触媒の異常を判定する判定手段と、
    を備えたことを特徴とする触媒異常診断装置。
  2. 前記判定手段は、前記算出手段により算出された前記平均値と前記パラメータとに基づき、前記触媒後センサの異常をも判定する
    ことを特徴とする請求項1に記載の触媒異常診断装置。
  3. 前記計測値のばらつき度合いの指標値を前記内燃機関の運転状態に基づき算出する指標値算出手段を更に備え、
    前記判定手段は、前記指標値算出手段により算出された前記指標値が所定値より大きいときに前記判定を実行し、前記指標値算出手段により算出された前記指標値が前記所定値以下であるときには前記判定を実行しない
    ことを特徴とする請求項1または2に記載の触媒異常診断装置。
  4. 前記計測手段による計測時に前記触媒後センサ出力の反転毎の計測終了タイミングを遅延させる遅延手段を更に備え、
    前記計測手段は、前記遅延が実行されたときと実行されなかったときとの前記酸素吸蔵容量を計測し、
    前記算出手段は、これら計測値に基づき前記平均値と前記パラメータとを算出する
    ことを特徴とする請求項1または2に記載の触媒異常診断装置。
  5. 前記計測値のばらつき度合いの指標値を前記内燃機関の運転状態に基づき算出する指標値算出手段を更に備え、
    前記遅延手段は、前記指標値算出手段により算出された前記指標値が所定値以下であるときに前記遅延を実行する
    ことを特徴とする請求項4に記載の触媒異常診断装置。
  6. 前記判定手段は、前記平均値が第1の所定値より大きく且つ前記パラメータが第2の所定値より大きいときに前記触媒を正常と判定し、前記平均値が前記第1の所定値以下のときに前記触媒を異常と判定し、前記平均値が前記第1の所定値より大きく且つ前記パラメータが前記第2の所定値以下のときに前記触媒及び前記触媒後センサを異常と判定する
    ことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の触媒異常診断装置。
  7. 前記パラメータが、前記複数の計測値の分散値からなる
    ことを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の触媒異常診断装置。
  8. 前記指標値算出手段は、前記内燃機関の吸入空気量の分散値と前記触媒の温度の分散値とに基づき、前記指標値を算出する
    ことを特徴とする請求項3または5に記載の触媒異常診断装置。
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