本願の発明者は、まず、対象物の表面において、どのような部分からニオイが発生しやすいのかを調べた。対象物としては帽子を用いて、帽子の内側のニオイについて詳細に調べた。
(検証実験1)
帽子の内側のニオイについて詳細に調べた結果、以下のように、時間が経過するにつれてニオイの発生部分が変わることが分かった。
使用した帽子を脱いだ直後には、頭頂部領域(帽子の底の部分)からのニオイが比較的強く放出されていた。帽子を脱いでから時間が経過すると、頭頂部領域よりも、むしろ、帽子の縁部(着用したときに額のまわりを取り囲む部分)のニオイが比較的強かった。すなわち、帽子を構成する布の繊維にニオイが付着した場合、脱いだ帽子からニオイが放出されるが、汗が付着した直後で繊維が十分に水分を含有して濡れた状況においては、臭気強度は比較的小さいことが分かった。また、水分が乾燥するにつれてニオイが放出されやすくなり、臭気強度が大きくなることが分かった。
このような結果となるのは、市販の消臭液によって長期的な消臭効果が得られないことと同じ原理によるものである。
消臭液は広く市販されており、例えば、スプレーで消臭液を噴霧することにより、消臭することができるものが販売されている。市販の消臭液は、水系の溶媒に芳香成分が含有されたものがほとんどであり、芳香成分に加えて、アルコールのような消臭成分が含有されている。消臭の原理としては、衣類や布類の表面に消臭液を塗布・噴霧すると、消臭液の水分や芳香成分など、消臭液の成分がニオイを包み込むことにより、消臭効果を発揮させる。すなわち、ニオイ成分を消臭液で包み込むことにより、ニオイを人間の嗅覚で感じにくくさせる方法である。
しかし、消臭液は一般的に、衣類や布類に付着したニオイを分解する効果を有していない。そのため、消臭液の成分でニオイ物質を包みこんでも、ニオイ物質そのものは分解されずに存在している。時間が経つと、ニオイ物質を包み込んでいた消臭物質がニオイ物質から脱離する。ニオイ物質から消臭物質が脱離すると、再び、ニオイが発生する。このように、消臭物質を用いることによって、短期的なニオイ抑制効果は得られるものの、長期的なニオイの除去効果を維持することは難しい。
なお、ニオイ物質を分解するタイプの薬剤を用いる消臭液もあるが、一般にこのタイプは衣類そのものを傷める可能性があるため使用できない。
市販の消臭液によって短期的なニオイ抑制効果が得られるものの、長期的なニオイ抑制効果が得られないのは、このような理由であると考えられる。上述のように、この検証実験1で、水分が乾燥するにつれてニオイが放出されやすくなり、臭気強度が大きくなるという結果であったのも同様の理由である。
別な言い方をすれば、衣類や布類などの対象物に水分を付着させることによって、短期的なニオイ抑制効果が得られる。つまり、対象物に水分が付着されると、ニオイが空間に放出されるタイミングを遅らせることができる。
この効果についてさらに検証したところ、本願の発明者は、市販の消臭液ではなく、芳香成分を含有しない純水をニオイが付着した衣類や布類表面に噴霧してもニオイの発生を遅らせることができることを確認した。
(検証実験2)
タバコ臭気を付着させた白布について、6名のパネラー(被験者)による6段階臭気強度表示法による官能評価試験を行なった。6段階臭気強度表示法は、ニオイの程度を数値化する手法として、ニオイの強さを6段階に分け、0〜5までの数値で表すものであり、悪臭防止法においては規制基準を定めるための基本的基準として用いられている。
まず、市販の白布(JIS標準のポリエステル布)に、タバコ(マイルドセブン)1本を燃焼させてタバコのニオイを付着させた。同様にして同一量のニオイを付着させた白布を3枚用意した。それぞれの白布に、異なる量の水分を付着させた。白布には、次の(1)〜(3)のようにして水分を付着させた。
(1)水分を意図的に付着させない(タバコのニオイのみ付着した状態)
(2)白布両面に市販スプレーを用いて水分を付着させた(少量の水を付着させた)
(3)白布両面を水中に浸して水分を付着させた(多量の水を付着させた)
それぞれの白布に付着させたニオイの量は同一であり、水分量だけを異ならせた。
次に、上記の(1)〜(3)のようにして水分を付着させた白布のそれぞれに送風を行った。送風を行なった白布の臭気を、6段階臭気強度表示法による官能検査にて比較した。6段階臭気強度表示法による官能検査は、次の(ア)〜(オ)の5つの段階で行った。
(ア)処理直後(水分を付着させた直後)
(イ)風速0.3m/秒の風に当てて1時間放置後
(ウ)風速0.3m/秒の風に当てて3時間放置後
(エ)風速0.3m/秒の風に当てて6時間放置後
(オ)風速0.3m/秒の風に当てて24時間放置後
なお、ニオイを付着させた白布には正イオンであるH+(H2O)m(mは任意の整数)と負イオンであるO2 −(H2O)n(nは任意の整数)、すなわち大気イオンを照射せず、送風だけを行った。
表1は、上記の白布について、6段階臭気強度表示法による官能検査の結果を示す表である。
表1に示すように、(1)水分を意図的に付着させなかった白布では、(ア)処理直後の臭気強度がもっとも強く、(イ)→(ウ)→(エ)→(オ)と放置時間が長くなるに従って、臭気強度は低下した。これは、白布に付着しているニオイ成分が風の流れにより、揮発したことによる。
ところが、(2)白布両面に市販スプレーを用いて水分を付着させた白布では、(ア)処理直後の臭気強度よりも、(イ)風速0.3m/秒の風に当てて1時間放置後の臭気強度が強くなった。そして、(ウ)→(エ)→(オ)と放置時間が長くなるに従って、臭気強度が低下した。
また、(3)白布両面を水中に浸して水分を付着させた白布では、(ウ)風速0.3m/秒の風に当てて3時間放置後の臭気強度が最も強かった。
なお、臭気強度表示の値が1異なると、実際の臭気は10倍異なる。つまり、臭気強度表示が4から3になると、臭気は1/10になる。この結果から、上記の正イオンと負イオンは消臭効果を有していると判断することができる。
このように、水分を付着させなかった白布(1)では送風直後に最も臭気強度が強くなり、水分を付着させた白布(2)と(3)では送風後、ある程度の時間が経過してから臭気強度が強くなるのは、上述のように、市販の消臭液によって得られる短期的な消臭効果と同様の効果が得られたためである。
衣類や布類といった対象物の表面にニオイが付着したものに、液体物質が付与されると、液体成分(この検証実験の場合は水分)がニオイ成分を取り囲むことにより、ニオイの放出が抑制され、臭気強度が低下する。その後、水分が乾燥するにつれて、衣類や布類といった対象物の表面に付着していたニオイ成分が放出されやすくなり、臭気強度が強くなる。(2)白布両面に市販スプレーを用いて水分を付着させる場合と、(3)白布両面を水中に浸して水分を付着させる場合では、水分の付着量が異なっており、乾燥までに要する時間が異なる。そのため、ニオイが放出されるまでに経過する時間が変わり、臭気強度が強くなるまでに経過する時間も変わる。
以上のように、本願の発明者は、ニオイが付着した衣類や布類に水分が付着すると、ニオイが空間に放出されるまでの時間が遅れるという現象を確認した。また、付着した水分量が多いほど、ニオイが放出されるまでに時間がかかることを確認した。
このことから、例えば対象物が帽子等の頭部被覆体の場合には、使用者が着用した帽子等の内側から発せられるニオイは、着用した直後には、水分が少ない乾燥した領域から発せられることになる。つまり、頭頂部近傍からのニオイが強いことになる。一方、着用終了後、時間が経過すると、帽子等の縁部からのニオイが強く観察される。
この現象を確認するために、本願の発明者は、帽子におけるニオイの発生について詳細な評価をおこなった。
(検証実験3)
本発明者は、使用者が着用した頭部被覆体の一例として、使用者が着用した帽子における水分の分布(汗の付着分布)について調べた。
その結果、頭髪部を覆う領域よりも、帽子の縁部、すなわち、額まわりを取り囲む領域に水分が多く付着していることが判明した。
図1は、短髪の使用者の頭髪の状態を模式的に示す図(A)と、図1の(A)に示す使用者が着用した帽子の内側表面における水分の付着状態を示す図(B)である。
図2は、長髪の使用者の頭髪の状態を模式的に示す図(A)と、図2の(A)に示す使用者が着用した帽子の内側表面における水分の付着状態を示す図(B)である。
図3は、頭頂が脱毛している使用者の頭髪の状態を模式的に示す図(A)と、図3の(A)に示す使用者が着用した帽子の内側表面における水分の付着状態を示す図(B)である。
図中においては、頭髪がある部分を破線で囲んで示す。また、水分の付着量が相対的に少なかった部分をA、水分の付着量が相対的に多かった部分をBで示す。
図1の(A)と図2の(A)に示すような頭髪がある頭部の使用者が着用した帽子201,202と、図3に示すような頭頂部が脱毛している使用者が着用した帽子203とでは、図1の(B)と図2の(B)と、図3の(B)に示すように、水分の付着状況に若干の違いがある。
図1に示す短髪の使用者が着用した帽子201と、図2に示す長髪の使用者、すなわち、髪が多い使用者(髪が長い女性を含む)が着用した帽子202では、頭頂部近傍の領域にはほとんど水分が付着していなかった。一方、帽子201,202の縁部(額周りを囲む領域)に水分が相対的に多く付着していた。
図3に示す頭頂部が脱毛している使用者が着用した帽子203では、頭髪が無い領域、すなわち、頭皮が直接接触する箇所には汗の付着が見られた。ただし、帽子203の縁部(額まわりを取り囲む領域)への水分付着も多かった。
このことから、使用者に着用された帽子を使用者の頭部から取り去った直後は、帽子において、頭髪部を覆う領域(水分の付着の少ない領域A)から発生するニオイが強く、帽子を取り去った後、時間が経過して帽子の縁部の領域が乾燥すると、縁部(もともと水分の付着が多かった領域B)からのニオイが強くなることが確認された。
次に、イオンによるニオイの除去効果について説明する。
本願の発明者は、空間に放出する活性化ガスとして、一般的に大気イオンと呼ばれる、プラズマ放電により空気中の酸素及び水蒸気を電離して発生させたイオンが、衣類や布類等の対象物に付着しているニオイに対して消臭効果を有していることを発見した。
このようなイオンを発生させるイオン発生装置は既に実用化されている。このイオン発生装置は、空気中に正イオンであるH+(H2O)m(mは任意の整数)と負イオンであるO2 −(H2O)n(nは任意の整数)を発生させる。この正イオンと負イオンは、水素イオン(H+)または酸素イオン(O2 −)の周囲に複数の水分子が付随した形態、いわゆる、クラスターイオンの形態をなしている。
従来、このような正負イオンを放出するイオン発生素子を搭載する商品としては、エアコンや空気清浄機といった一般家庭向けの白物商品が多かった。従来のイオン発生装置を搭載した空気清浄機や空気調和機は、空間の浮遊粒子または浮遊細菌に対する不活性化や殺菌の効果を高めるために、空間にイオンを放出する。
しかしながら、従来のイオン発生装置を搭載した空気清浄機では、空気中に放出されるイオンが浮遊細菌を不活性化したり殺菌したりする効果を有する上記の正イオンと負イオンであっても、対象物に付着している付着臭の消臭効果は得られていなかった。これは、イオン発生装置が発生させるイオンの寿命が短いので、空気清浄機や空気調和機から空気中に放出された正イオンと負イオンとが衣類や布類などの表面に到達するイオンの量が少なくなってしまうことが原因である。上述のように、ニオイの元となる物質は衣類や布類に付着しているので、イオンが臭気成分を分解するのに必要な量で衣類や布類に到達しないと、イオンによる消臭効果が得られない。すなわち、上記の正負イオンを発生させていても、ニオイを除去、分解する効果を得るためには不十分であった。
たとえば、室内空間に正負イオンを放出する場合、現時点で最高性能の装置を使用しても、室内空間に定常的に存在し得るイオンの濃度は5000個/cm3程度である。対象物が発するニオイの元となる物質は、衣類や布類などの対象物に付着しているので、イオンがニオイ成分を分解するのに必要な量で衣類や布類に到達し照射されないと、イオンによる消臭効果が得られない。
したがって、衣類や布類に付着したニオイの除去効果を高めるためには、イオン濃度が高い状態で、かつ、イオンを衣類や布類に直接照射することが必要である。このようにすることにより、イオンの作用が顕著に表れて、正イオンと負イオンがニオイ成分に及ぼす化学的作用により、ニオイを除去・分解することが可能となる。
このように、正イオンと負イオンの衣類や布類に付着したニオイの除去効果を高めるためには、室内の空気の清浄化を行う場合のようにイオンを空間に放出するよりも、むしろ、衣類や布類に正イオンと負イオンとを吹き付ける方が効果的である。
衣類や布類などの対象物に正イオンと負イオンとを吹き付けて付着臭を除去・分解するためには、対象物に高濃度のイオンを一貫して照射し続けることが効果的である。具体的には、ニオイが付着した部分に、イオン濃度が2,000,000個/cm3といった高濃度条件で照射することが効果的である。ところが、現在、エアコンディショナーや空気清浄機に用いられているイオン発生素子では、2,000,000個/cm3相当の高濃度イオンが観測される領域は、イオン発生素子の近傍、すなわち、イオン発生素子からの距離が10cm程度までの領域に限定されている。したがって、現在用いられているイオン発生素子では、室内空間といった広い領域を一様に2,000,000個/cm3相当の高濃度イオン環境にすることはできない。
衣類などの対象物のニオイを素早く除去するためには、高濃度のイオンを対象物のすべての領域に効果的に照射することが考えられるが、上述のように、イオン発生素子によって発生されるイオンの濃度には限界がある。そのため、イオン発生素子によって高濃度のイオンを発生させたとしても、対象物の全体にイオンを分散させて照射すると、ニオイが発生しやすい特定の部分に照射されるイオンの濃度を十分に高く保つことがでず、効果的にニオイを除去できない可能性がある。
イオンによってニオイが除去される前にニオイが衣類や布類の表面から放出されると、不快なニオイとなって感じられることになる。特に、対象物が帽子等の頭部被覆体である場合には、汗のニオイに加えて頭皮からの脂肪ニオイや埃臭等が付着しているので、不快なニオイが顕著に感じられる。
以上のことから、ニオイを除去する効果を有するイオンを対象物に効果的に放出する付着臭除去装置が必要となる。
ここで、衣類や布類に付着したニオイに対する正イオンと負イオンの効果について説明する。
正イオンH+(H2O)mと負イオンO2 −(H2O)nの両イオンは、化学反応して活性種である・OH(OHラジカル)またはH2O2を生成する。H2O2または・OHは極めて強力な活性を示すため、衣類や布類に付着したニオイを除去することができる。ここで、・OHは一種のラジカルのOHを示している。H+(H2O)mとO2 −(H2O)nからのH2O2または・OHの生成は以下の化学式で表される。
H+(H2O)m+O2 −(H2O)n
→ ・OH+(1/2)O2+(m+n)H2O …(1)
H+(H2O)m+H+(H2O)m’+O2 −(H2O)n+O2 −(H2O)n’
→ 2・OH+O2+(m+m’+n+n’)H2O …(2)
H+(H2O)m+H+(H2O)m’+O2 −(H2O)n+O2 −(H2O)n’
→ H2O2+O2+(m+m’+n+n’)H2O …(3)
本願の発明者は、これらのイオンの照射により、タバコ付着臭(主に、アンモニア系、酢酸系、アルデヒド系、ニコチン系)、人体から発せられるニオイとしては、汗臭(主に、吉草酸や酪酸といった脂肪酸系の成分)、加齢臭(主に、ノネナール)、食品に起因するニオイとしては、調理臭(主に、トリメチルアミン)、排便等腐敗臭(主に、硫化水素やメチルメルカプタン)等といったニオイを除去できることを各種の検証により発見した。以下に、本願の発明者が行ったイオンの消臭効果に係る検証実験について説明する。
(検証実験4)
化学発光法(ケミカルルミネッセンス)によって試験布に付着させたニオイ成分の酸化実験を行なった。
この検証実験の目的は、衣類や布類に付着するニオイ(ニオイ物質)に対して、イオンがどのように作用するか、すなわち、正イオンと負イオンによるニオイの除去・分解のメカニズムを検証することである。
化学発光(ケミカルルミネッセンス)法の原理について説明する。評価ターゲットとする物質(例えば、ニオイ物質)は、励起状態から基底状態に戻る際にエネルギーを光として放出する。このとき放出される光の強度を測定することによって、ターゲット物質が励起状態から基底状態に戻る現象を観測する手法がケミカルルミネッセンス法である。放出される光は、例えば、励起状態を形成する手法として紫外光を用いた場合は、蛍光あるいは燐光として観測される。この検証実験4においては、ターゲット物質にイオンを照射して励起状態を形成している。ただし、化学発光は蛍光や燐光と比較して発光強度が極めて弱いため、ケミカルルミネッセンスの発光検出には液冷式の超高感度の光電子増倍管を使用した。したがって、この検証実験4においては、
(布に付着させた物質の酸化の度合い)∝(ケミカルルミネッセンスの発光強度)
の関係となる。
評価試験としては、ポリエステル製の試験布にニオイ物質としてリノール酸を塗布し付着させた。試験布に上記の正負イオンを下記3条件にて照射した。それぞれの条件を3回ずつ実施し、再現性についても確認を行なった。
(1)イオン60万個/cm3+送風
(2)イオン6万個/cm3+送風
(3)送風のみ(イオン発生素子は作動させない)
イオンの照射を行う場合には、12時間照射した。照射時間が長いのは、化学発光の測定精度を高めるためである。なお、イオンの個数としては、正イオンと負イオンそれぞれの個数を示している。
図4は、化学発光法(ケミカルルミネッセンス)による布に付着させた物質の酸化度合いを示す図である。
図4に示すように、照射するイオン数が多いほど、発光強度が大きくなっている。縦軸は化学発光に伴う光電子増倍管のカウント数としているが、上述の通り、このカウント数は、付着させたリノール酸の酸化度合いを反映している。試験布に照射するイオン濃度と正の相関をもって、ケミカルルミネッセンスの発光強度が増大する。すなわち、イオンの照射により、布に付着した物質(リノール酸)の酸化反応が進行していることを示している。また、イオン発生素子を作動させずに送風のみとした場合においては、12時間経過後もケミカルルミネッセンス発光強度はほとんど変化しておらず、イオンが存在しない場合においては、リノール酸の酸化反応は生じないことがわかった。
以上のように、本願の発明者は、上記の正負イオンが衣類や布類に付着させた物質を酸化分解することを確認した。
(検証実験5)
次に、イオンの衣類や布類に付着したニオイに対する除去特性のイオン濃度依存性を評価した。
まず、JIS標準布(ポリエステル(商品コード:670110))を試験布として、市販の洗剤で洗濯して、10cm×10cm=100cm2の大きさにカットし、10枚を1まとめとして酢酸10mgを付着させた。試験布1枚当たりには、酢酸1mgを付着した。この試験布を1m3の試験ボックス内に吊るして送風しながら2時間、放置した。試験布は、以下の(1)〜(8)の条件で放置された。(2)〜(8)の条件では、イオン発生素子を駆動し、試験布をイオンに2時間暴露した。その後、試験布をアルミパックに密封して60℃にて30分間放置し、その後に試験布から再放出する酢酸量を測定した。なお酢酸濃度の測定は、株式会社ガステックの検知管NO.81L(この検証実験においては、0.488μgの識別が可能)を用いて行なった。
(1)イオン発生なし(送風のみ)
(2)イオン濃度5,000個/cm3
(3)イオン濃度20000個/cm3
(4)イオン濃度25,000個/cm3
(5)イオン濃度88,000個/cm3
(6)イオン濃度500,000個/cm3
(7)イオン濃度1,000,000個/cm3
(8)イオン濃度2,000,000個/cm3
すなわち、イオン濃度の異なる8条件でのニオイの除去特性を評価する。
図5は、試験布の酢酸再放出量の濃度依存性を示す図(A)と、イオンを照射せずに送風を行なった試験布の酢酸再放出量から、各イオン濃度の雰囲気下で送風を行なったときの試験布の酢酸再放出量を引いて求めた酢酸再放出の減少量の濃度依存性を示す図(B)である。
図5の(A)に示すように、イオンを照射しながら送風された試験布から再放出される酢酸の量は、照射したイオンの濃度が高いほど、少なくなった。この結果から、上記の正イオンと負イオンは、酢酸の再放出を抑えて、酢酸の臭気成分が試験布から脱離してニオイを生じさせることを防ぐことができることがわかった。すなわち、上記の正イオンと負イオンは、酢酸の付着臭に対する除去効果を有することがわかった。
また、図5の(B)に示すように、試験布に照射したイオンの濃度と酢酸再放出の減少量が正の相関となっていることから、酢酸付着臭の除去効果がイオンの作用によることがわかる。
図6は、試験布に付着している0.1mgの酢酸を除去するために必要な時間のイオン濃度依存性を示す図である。図6の(A)では、縦軸の所要時間を対数表示して示し、図6の(B)では、図6の(A)に示す結果を、所要時間0〜2.5hourの範囲だけを拡大して示す。
図6の(A)と(B)に示すように、試験布に付着している0.1mgの酢酸を除去するために必要な時間は、イオン濃度が高くなるに従って、短縮される。例えば、イオン濃度が200万個/cm3の場合には、0.003時間、すなわち、約10秒間で試験布に付着した0.1mgの酢酸を除去することができることがわかった。
以上の検証実験4と検証実験5の結果から、化学的に相互作用してH2O2やOHラジカルを生じさせる正イオンとしてH+(H2O)m(mは任意の整数)と負イオンとしてO2 −(H2O)n(nは任意の整数)は、衣類や布類等の対象物に付着している臭気成分を酸化分解することによって、対象物のニオイを除去することが確認された。
すなわち、イオン発生素子からは正イオンとしてH+(H2O)mと、負イオンとしてO2 −(H2O)nとが発生する。発生した正イオンと負イオンの相互作用により、・OH(OHラジカル)が生成される(化学式(1)〜(3))。この・OHが、ニオイ成分、すなわち、ニオイのもととなる有機化合物のC−C結合、C=C結合及びC=O結合等に作用して、これらの結合を分断することによって、消臭効果が得られる。
以下に、代表的なニオイのもととなる物質の・OHによる分解作用を化学式で示す。
酢酸の分解の化学反応式:
CH3COOH+8・OH → 2CO2+6H2O …(4)
アセトアルデヒドの分解の化学反応式:
CH3CHO+10・OH → 2CO2+7H2O …(5)
(検証実験6)
人体から発生するニオイとして、汗臭の代表的物質であるイソ吉草酸によるニオイについて、正負イオンによる脱臭効果を検証した。イソ吉草酸を付着させた試験布について、10名のパネラー(被験者)による6段階臭気強度表示法による官能評価試験を行なった。
まず、試験布(JISポリエステル布)にイソ吉草酸を付着させた後、試験布に送風を行なった。
送風は、イオン発生素子から発生させた正イオンとしてH+(H2O)m(mは任意の整数)と負イオンとしてO2 −(H2O)n(nは任意の整数)とを試験布に照射する場合と、試験布にイオンを照射しない場合との2つの場合について、それぞれ送風装置を4時間動作させて行った。各条件で送風を行なった試験布の臭気を、6段階臭気強度表示法による官能検査にて比較した。試験布に照射させるイオンの濃度は正イオンと負イオンがそれぞれ5,000個/cm3または2,000,000個/cm3、イオンを照射する場合の照射時間は4時間であった。風速は0.1m/秒とした。
表2は、上記の試験布について、6段階臭気強度表示法による官能検査の結果を示す表である。
表2に示すように、汗のニオイであるイソ吉草酸の臭気を付着させた直後には、試験布の臭気強度は4.9であった。この試験布に、イオンを照射せずに送風を4時間行うと、臭気強度が3.8になった。一方、臭気強度4.9の試験布に、イオン濃度5,000個/cm3の正イオンと負イオンを4時間照射しながら送風すると、臭気強度が3.4となった。つまり、イオン濃度5,000個/cm3によって、臭気強度指数として0.5相当の低下が確認される。一方、臭気強度4.9の試験布にイオン濃度2,000,000個/cm3の正イオンと負イオンを4時間照射しながら送風すると、臭気強度が1.9まで大きく低下した。このように、正負イオンの相互作用により、布に付着した汗臭が除去されていることを確認した。
なお、臭気強度表示の値が1異なると、実際のニオイ成分の付着量は概算として10倍異なる。つまり、臭気強度表示が4から3になると、ニオイは1/10になる。この結果から、上記の正イオンと負イオンは、汗のニオイであるイソ吉草酸に対する消臭効果を有していると判断することができる。
したがって、例えば対象物として使用者が使用した後の帽子の内側に付着した汗のニオイに対しても、対象物に正イオンと負イオンを2,000,000個/cm3相当の高濃度で集中的に照射することにより、対象物に付着した汗のニオイ成分を効果的に除去・分解することができる。
(検証実験7)
汗臭の代表的物質であるイソ吉草酸に対する正負イオンの効果について、布表面に照射する風速を変えて、10名のパネラー(被験者)による6段階臭気強度表示法による官能評価試験を行なった。試験方法自体は上述の検証実験6と同じであるが、送風ファンへの印加電圧を調整して、風速を0.1m/秒から0.5m/秒に高めた場合についても官能評価試験を行なった。
試験布に照射させる正イオンと負イオンの濃度は2,000,000個/cm3、イオンを照射する場合の照射時間は4時間、または、2時間とした。
表3は、上記の試験布について、6段階臭気強度表示法による官能検査の結果を示す表である。
表3に示すように、汗のニオイであるイソ吉草酸のニオイを付着させた直後には、試験布の臭気強度は4.9であった。臭気強度4.9の試験布に、イオン濃度2,000,000個/cm3の正イオンと負イオンを風速0.1m/秒で4時間照射しながら送風すると、臭気強度が1.9になった。一方、風速を0.5m/秒と高くした場合においては、正負イオンの照射時間を2時間と短くしても臭気強度が2.2となり、短時間のイオン照射でもニオイの除去効果が得られた。このように、風速を高めることによって、付着したニオイの除去効果が大きくなった。
したがって、風速を高めることにより、付着した汗のニオイを除去する度合いを高めることができる。
(検証実験8)
汗臭の代表的物質であるイソ吉草酸に対する正負イオンの効果について、布表面に照射する送風温度依存性を変えて、10名のパネラー(被験者)による6段階臭気強度表示法による官能評価試験を行なった。
試験方法自体は上述の検証実験6と同じであるが、正イオンと負イオンを発生するイオン発生素子と送風部との間に加熱部(本検証実験ではニクロム線ヒータ)を取り付けて、送風温度を高めることができるようにした。
送風の温度は、通常(加熱なし)の送風では18.9℃であった。一方、加熱部に通電しながら送風した場合には、送風の温度は41℃であった。風速は0.1m/秒とした。試験布に照射させる正イオンと負イオンの濃度は2,000,000個/cm3、イオンを照射する場合の照射時間は4時間、または、1.5時間とした。
表4は、上記の試験布について、6段階臭気強度表示法による官能検査の結果を示す表である。
表4に示すように、汗のニオイであるイソ吉草酸のニオイを付着させた直後には、試験布の臭気強度は4.9であった。臭気強度4.9の試験布に、イオン濃度2,000,000個/cm3の正イオンと負イオンを風速0.1m/秒で4時間照射しながら、加熱をせずに送風すると、臭気強度が1.9になった。一方、41℃に加熱して送風しながら正負イオンを照射すると、イオンの照射時間を1.5時間と短くした場合においても、臭気強度は2.1となった。このように、加熱をしながら送風を行った場合には、短時間でもニオイの除去効果が得られ、対象物に付着したニオイの除去効果が大きくなった。なお、加熱しながら送風する場合と、加熱をせずに送風する場合とでは、イオン濃度2,000,000個/cm3と風速0.1m/秒は同一条件であった。
以上のように、送風温度を高めることにより、付着した汗のニオイに対する除去効果を高めることができることが確認された。
本願の発明者は、以上のことから、対象物に付着したニオイを除去することが可能な正負イオン(大気イオン)を対象物に高濃度で照射する場合には、対象物において相対的に水分量の少ない領域に正イオンと負イオンとを放出することによって、対象物から発生するニオイを最も効果的に抑制することができることを見出した。
このような考察に基づいて、以下にこの発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
(第1実施形態)
図7は、この発明の第1実施形態として、付着臭除去装置の全体を模式的に示す図である。
図7に示すように、付着臭除去装置1は主に、本体101と、支柱102と、イオン放出方向変更部103と、対象物として帽子200を支持する支持部104と、筐体105と、送風部110と、加熱部120と、イオン発生部としてイオン発生素子130と、制御部と、送風量調整部とを備える。
筐体105の内部には、送風部110と、加熱部120と、イオン発生素子130とが収容されて取り付けられている。筐体105は、両端が開口された筒状に形成されている。
送風部110としては、従来用いられている送風の手法を用いることが可能である。送風部110は、一定の方向に気体を送出する。
送風量調整部としては、風速を調整することは公知手法を用いることが可能である。たとえば、送風部110に印加する電圧を高めたり、周波数を高めたり、デューティ比率を高めたりすることにより、風速を高めることが可能である。
加熱部120としては、従来用いられている加熱の手法を用いることが可能である。たとえば、ニクロム線ヒータを加熱部120として用いることができる。
イオン放出方向変更部103は、筐体105を支柱102を中心として回転させて、筐体105の開口の向き自在に調整できるように構成されている可動部である。また、イオン放出方向変更部103は、筐体105を上下方向に移動させることもできるように構成されている。
イオン発生素子130は、プラズマ放電現象を用いた電気的手法によって正イオンのH+(H2O)m(mは任意の整数)と負イオンのO2 −(H2O)n(nは任意の整数)とを発生させる。イオン発生素子130の大きさは、例えば、7cm×2cm×1cm程度であるため、筐体105の内部に容易に設置することが可能である。イオン発生素子130の消費電力は、例えば、0.1W程度と非常に小さい。イオン発生素子130への電源供給方法としては、電池方式を採用することができるので、配線を省くことができる。配線を省略する場合には一般的な電池(一次電池、二次電池)を効果的に用いることができる。一般の交流100Vを用いることも可能である。
図8は、付着臭除去装置が備えるイオン発生素子の全体を示す斜視図(A)と、イオン発生素子の本体の内部を示す斜視図(B)と、図8の(B)に示すイオン発生素子の内部をC−C線の方向から見たときの断面図(C)である。
図8の(A)に示すように、イオン発生素子130は、扁平な略直方体形に形成されている合成樹脂製の本体131に収容されている。イオン発生素子130の本体131には、幅広の一面に略円形の2つの開口132が長手方向に並べて形成されている。イオン発生素子130は、2つの開口132の一方から正イオンを放出し、他方から負イオンを放出する。また、本体131の一側面には、イオン発生素子130が動作するための高電圧が供給される金属製の端子部133が設けられている。イオン発生素子130の概略寸法は7cm×2cm×1cm程度の大きさである。
図8の(B)と(C)に示すように、イオン発生素子130は、本体131内に基板134と、この基板134に設けられた正イオン発生部として正電極135と、負イオン発生部として負電極136及び接地電極137とを備えている。基板134は略矩形の板体であり、絶縁物質で構成されている。正電極135と負電極136は、先端部分が先鋭に尖らせられた丸棒状の電極である。正電極135と負電極136は、基板134に形成された2つの貫通孔134aにそれぞれ通されて、基板134の一面に突出させ、半田または接着剤等を用いて基板134に固定されている。
接地電極137は、基板134より表面積が若干小さい板状の電極であり、基板134に対向するように、基板134から所定間隔を隔てて基板134に固定されている。基板134に対する接地電極137の固定は、接地電極137の四方に延出して設けられた4つの脚部137a(図8の(B)には3つの脚部137aのみ図示している)を略直角に屈曲し、基板134に形成された4つの貫通孔134bに接地電極137の4つの脚部137aをそれぞれ挿通して、半田または接着剤等により脚部137aを固定することで行われる。
接地電極137には、2つの略円形の開口137bが形成されている。接地電極137が基板134に固定された場合、正電極135及び負電極136は接地電極137の開口137bの略中心の位置に固定される。接地電極137の開口137bの縁部137cは、基板134側へ向けて折り曲げてある。正電極135、負電極136及び接地電極137を基板134に固定して本体131に収容した場合には、本体131に形成された2つの開口132と、接地電極137に形成された2つの開口137bとが略同心に配されるようにしてある。
イオン発生素子130の接地電極137は接地電位に接続され、正電極135には正極の高電圧が印加され、負電極136には負極の高電圧が印加される。正電極135及び負電極136にそれぞれ高電圧が印加されると、接地電極137の開口137bの縁部137cが強電界になり、接地電極137からプラズマ放電が発生する。プラズマ放電により空気中の酸素及び水蒸気が電離してイオンが発生する。なお、電極の構造及び印加電圧の最適化により、有害物質とされるオゾンの発生を極力抑えるように制御を行っている。このときに最も安定して発生するイオンは、正イオンのH+(H2O)mと負イオンのO2 −(H2O)nとである。発生するイオンの質量分析などを行って解析した結果、これら以外のイオンの発生はほとんど確認されていない。イオン発生素子130の本体131に形成された2つの開口132のうち、正電極135が設けられた開口132から正イオンH+(H2O)mが放出され、負電極136が設けられた開口132から負イオンO2 −(H2O)nが放出される。
このようなイオン発生素子130を作動させた場合は、イオン発生電極(針型電極)である正電極135と負電極136とからイオンが生成するが、正イオンと負イオンを効果的に衣類や布類に照射させるために、気流の流れを発生させる送風部を組み合わせることが効果的となる。
上述の通り、イオン発生素子で発生したH+(H2O)mとO2 −(H2O)nのイオンは、化学反応して活性種である・OH(OHラジカル)またはH2O2を生成する。上述の検証実験4〜8に示すように、H2O2または・OHは、極めて強力な活性を示すため、衣類や布類に付着したニオイを除去することができる。そのため、正イオンと負イオンの両方を発生させて照射させる。負イオン単独の放出の場合、相互作用が発生しないので、化学反応して活性種であるH2O2または・OH(OHラジカル)が生成しない。そのため、付着したニオイに対する除去特性は非常に小さいものとなる。
なお、以上の説明においては、イオン発生素子130の正電極135と負電極136とも針型電極構造としているが、正イオン及び負イオンを独立して発生させるものであれば、それぞれの電極はプレート型電極であっても、その他の形状であってもかまわない。
図9は、第1実施形態の付着臭除去装置に係る制御関連の構成を示すブロック図である。
図9に示すように、第1実施形態の付着臭除去装置1は、制御関連の構成としては、イオン放出方向変更部103と、送風部110と、送風量調整部111と、加熱部120と、イオン発生素子130と、入力部140と、制御部150とを備える。
制御部150は、入力部140から信号を受信する。また、制御部150は、送風部110と、送風量調整部111と、加熱部120と、イオン発生素子130と、イオン放出方向変更部103に制御信号を送信する。
使用者は、入力部140を通して、送風部110による送風量と、加熱部120による気体の加熱温度を調節することができる。入力部140から信号を受信した制御部150は、使用者が入力した加熱温度で送風部110が送出する気体を加熱するように、加熱部120を制御する。また、使用者が入力した送風量で送風部110が送風するように、送風量調節手段111を制御する。
また制御部150は、この実施の形態においては、帽子200(図7)の頭頂部から縁部に向かって順にイオンを放出するように、イオン放出方向変更部103を制御して、付着臭除去装置1の駆動開始からの時間経過とともにイオンの放出方向を変更させる。
以上のように構成された付着臭除去装置1の動作について説明する。
まず、送風部110が駆動されると、筐体105の内部に気流が発生する。筐体105の内部において発生した気流は、筐体105の内部から外部に流出して、支持部104に支持されている帽子200に当たる。このように、送風部110によって、筐体105の内部の気体が帽子200に向かって送出される。
次に、加熱部120を駆動することによって、送風部110の駆動によって筐体105から帽子200に送出される気体が加熱される。
さらに、イオン発生素子130を駆動することによって、送風部110によって送出される気体とともに、正負イオンを帽子200に向かって送出することができる。
送風部の風速の調整や、イオン発生素子の設置方法の最適化により、一般的な家庭の6畳相当の室内空間であれば、イオン濃度を5,000個/cm3程度で満たすことができる。この実施の形態においては、イオン発生素子130が発生させる正負イオンの濃度を2,000,000個/cm3以上の高濃度、例えば、1億個/cm3とする。このようにすることにより、付着したニオイを効果的に除去することができる。なお、イオン発生素子130において2,000,000個/cm3以上の高濃度、例えば、1億個/cm3の正負イオンを発生させた場合には、この実施の形態における付着臭除去装置1では、帽子200の内側表面で正イオンと負イオンのそれぞれの濃度が2,000,000個/cm3以上になるように、正負イオンを照射することができる。
制御部150がイオン放出方向変更部103を制御して、筐体105の向きを変更させると、筐体105から送出されるイオンを含む気体の流れる向きが変更される。このようにして、帽子200において正負イオンが照射される部分を変更することができる。
帽子の内側においては、部分によって水分の付着量が異なっているために、部分によって乾燥の程度が異なり、時間の経過とともにニオイが最も強く発せられる領域が変化する。
そこで、制御部150は、付着臭除去装置1の駆動開始直後には、まず、所定の領域として、帽子200の頭頂部にイオンを照射するように、イオン放出方向変更部103を制御する。帽子200の頭頂部は、水分付着量が少ない場合が多い。そこでまず、帽子200の頭頂部にイオンを照射することによって、帽子200において相対的に水分の少ない領域に正負イオンを放出することができる。このようにして、帽子200からニオイが発生しやすい部分に集中的に正負イオンを照射することができる。
所定の時間経過後、制御部150は、帽子200の縁部に正負イオンを放出するように、イオン放出方向変更部103を制御する。この実施の形態においては、所定の時間は4時間であるとする。
このようにして、制御部150は、帽子200の内側表面において相対的に乾燥している部分から順に正負イオンが照射されるように、正負イオンの放出方向を時間とともに変化させる。このようにすることによって、ニオイが発生しやすい部分から順に、集中して高濃度の正負イオンを照射することができるので、帽子200の全体のニオイを効果的に除去・分解することができる。
また、使用者は、入力部140に送風量や加熱温度を入力して、送風量を高めたり、加熱温度を高めたりすることによって、帽子200の付着臭を除去するために必要な時間を短縮することができる。
また、筐体105の内側にイオン気流を誘導するガイドを設けることも可能である。気流の流れを制御して、重点的にイオンを多くしたい部分に気流を導くことによって、さらに効率よく脱臭効果を得ることができる。
以上のように、第1実施形態の付着臭除去装置1は、正イオンとしてH+(H2O)m(mは任意の整数)と負イオンとしてO2 −(H2O)n(nは任意の整数)とを発生させるイオン発生素子130と、イオン発生素子130で発生した正イオンと負イオンとを、帽子200において相対的に水分量の少ない所定の領域へ放出するようにイオン放出方向を変更するイオン放出方向変更部103とを備える。
イオン発生素子130において発生した正イオンと負イオンは、イオン放出方向変更部103によって帽子200の所定の領域に放出される。
帽子200の表面では、正イオンと負イオンとが帽子200に付着している臭気成分と接触して反応し、活性物質としての過酸化水素(H2O2)または水酸基ラジカル(・OH)となり、臭気成分を分解する。臭気成分が分解されることによって、帽子200に付着しているニオイが脱臭される。
帽子200の表面の全体に正負イオンを放出するのではなく、帽子200において相対的に水分量の少ない所定の領域へ放出するように、イオン放出方向変更部103によってイオン放出方向を変更する。このようにして、ニオイが発生しやすい領域における正負イオンの濃度を高い濃度に保ち、ニオイが発生しやすい部分から優先的にニオイを除去することができる。
このようにすることにより、帽子200に付着しているニオイを効率よく除去することが可能な付着臭除去装置を提供することができる。
また、付着臭除去装置1においては、イオン発生素子130は、帽子200の表面で正イオンと負イオンのそれぞれの濃度が2,000,000個/cm3以上の濃度になるように、正イオンと負イオンとを発生させる。
このように超高濃度のイオンを発生させて、帽子200においてニオイが発生しやすい領域に超高濃度のイオンを集中的に照射することにより、帽子200に付着したニオイを速やかに分解して除去することができる。
また、付着臭除去装置1は、イオン発生素子130で発生した正イオンと負イオンとを気体とともに帽子200に送出する送風部110と、送風部110の送風量を調整する送風量調整部111とを備える。
正負イオンを気体とともに帽子200に送出する送風部110の送風量を調整することによって、帽子200の表面の乾燥を速めたり、遅くしたりすることができる。
上述のように、帽子200に付着したニオイは、水分が少なく相対的に乾燥した状態の部分では強くなり、水分を比較的多く含有した状態の部分では抑制される。これは、比較的水分が少なく相対的に乾燥している部分では、ニオイ物質が帽子200の表面から離脱しやすいためであると考えられる。
そこで、例えば、送風部110の送風量を高めることによって帽子200の表面の乾燥を速めて、ニオイ物質を帽子200から離脱させやすくすることができる。ニオイ物質を帽子200から離脱させやすくすることによって、ニオイ物質とOHラジカルなどの活性種とが反応しやすくなる。このようにすることにより、帽子200に付着したニオイを除去する時間を短縮することができる。
また例えば、送風部110の送風量を低くすることによって帽子200の表面の乾燥を遅くして、ニオイ物質を帽子200から離脱させにくくすることができる。このようにすることにより、時間をかけて帽子200の脱臭を行うことができる。
また、付着臭除去装置1は、送風部110によって送出される気体を加熱する加熱部120を備える。
送風部110によって送出される気体を加熱することによって、帽子200の表面の乾燥を速めることができる。帽子200の表面の乾燥を速めることによって、帽子200に付着しているニオイ物質を帽子200から離脱しやすくすることができる。ニオイ物質を帽子200から離脱させやすくすることによって、ニオイ物質とOHラジカルなどの活性種とが反応しやすくなる。このようにすることにより、帽子200に付着したニオイを除去する時間を短縮することができる。
(第2実施形態)
第2実施形態の頭部被覆体付着臭除去装置として帽子付着臭除去装置が第1実施形態の付着臭除去装置1(図7)と異なる点としては、使用者は、入力部140(図9)を通して、あらかじめ、使用者の頭髪の状態(短髪か長髪か、頭髪の分布状態、脱毛状態、など)を事前に入力して登録することができるように構成されている。制御部150(図9)は、入力された頭髪の状態に基づいて、イオン放出方向変更部103(図7)を制御して、イオン発生素子130(図7)によって照射される正負イオンの方向を変更する。
また、さらに制御部150に設定部を備えることによって、頭髪の分布状態(脱毛状態)を設定させることも可能である。
例えば、短髪の使用者が着用した帽子では、頭頂部への水分の付着量が相対的に少なく、縁部への水分の付着量が相対的に多い。そこで、相対的に水分量が少ない、帽子の頭頂部に最初に正負イオンを照射するように、制御部150がイオン放出方向変更部103を制御する。
一方、頭頂部が脱毛している使用者が着用した帽子では、頭頂部への水分の付着量は、頭頂部が脱毛していない人に比べて多く、帽子200の縁部への水分の付着量が相対的に少なくなる。そこで、相対的に水分量が少ない、帽子の縁部に最初に正負イオンを照射するように、制御部150がイオン放出方向変更部103を制御する。
このようにすることにより、ニオイが発生しやすい、水分量が相対的に少ない領域に、最初に集中的に高濃度のイオンを照射して付着臭を分解して除去することができるので、帽子200から発生するニオイを抑制することができる。
時間が経過すると、帽子200の他の部分も乾燥する。所定時間の経過後、制御部150は、次に相対的に水分量の少ない部分に正負イオンを照射するように、イオン放出方向変更部103を制御する。
また、制御部150は、所定の時間ごとに、正負イオンを照射する部分を変更してもよい。例えば、頭頂部に頭髪が多いことが入力部140を通して入力された場合には、帽子200の頭頂部では水分量が相対的に少なく、縁部では水分量が相対的に多くなるので、制御部150は最初に帽子200の頭頂部に正負イオンを照射する。その後、帽子200の頭頂部→縁部→頭頂部→縁部→頭頂部→縁部、というように、所定の時間ごとに、正負イオンを照射する部分を交互に変更してもよい。このように正負イオンを照射する場合には、各部分それぞれの合計のイオン照射時間が、各部分で必要とされるイオンの照射時間になるようにする。
制御部150は、ニオイの強い部分には正負イオンの照射時間を長くするように、イオン放出方向変更部103を制御してもよい。
以上のように、第2実施形態の帽子付着臭除去装置は、上記のいずれかに記載の付着臭除去装置と、イオン放出方向変更部103を制御する制御部150と、帽子200を使用する使用者の頭髪の状態を使用者が入力する入力部140とを備え、制御部150は、入力部140に入力された頭髪の状態に基づいて、イオン発生素子130で発生した正イオンと負イオンとを放出する方向を変更するようにイオン放出方向変更部103を制御する。
本願の発明者は、帽子200を使用する使用者の頭髪の状態によって、帽子200の表面における水分量の分布が異なることを見出した。
そこで、使用者の頭髪の状態、すなわち、頭髪の長さ、頭髪の分布、脱毛の状態をあらかじめ入力部140に入力し、入力部140に入力された頭髪の状態に基づいて、制御部150がイオン発生素子130で発生した正イオンと負イオンとを放出する方向を変更するようにイオン放出方向変更部103を制御することによって、帽子200に付着したニオイを効率よく除去することができる。
このようにすることにより、帽子200に付着しているニオイを効率よく除去することが可能な帽子付着臭除去装置を提供することができる。
第2実施形態の帽子付着臭除去装置のその他の構成と効果は、第1実施形態の付着臭除去装置1と同様である。
(第3実施形態)
図10は、この発明の第3実施形態として、付着臭除去装置の全体を模式的に示す図である。
図10に示すように、第3実施形態の付着臭除去装置3が第1実施形態の付着臭除去装置1と異なる点としては、付着臭除去装置3は、水分検知部として湿度検知部160を備える。
湿度検知部160は、帽子200の内側表面の水分を検知する。湿度検知部160は、制御部150に検知した水分量を出力する。制御部150は、湿度検知部160の出力値によって水分量が少ないと判断される領域に、集中的に正負イオンを照射するように、イオン放出方向変更部103を制御する。
また、制御部150にあらかじめ閾値を設定しておき、湿度検知部160によって検知される値が所定値を超えると送風部110による送風量を増加させることも可能である。
このように構成される第3実施形態の付着臭除去装置3では、例えば頭頂部が脱毛している使用者が着用した帽子200の付着臭を除去する場合には、湿度検知部160によって、頭頂部への水分の付着量が相対的に少ないことが検知される。そこで、制御部150は、まず、相対的に水分量が少ない、帽子200の縁部に、最初に正負イオンを照射するように、制御部150がイオン放出方向変更部103を制御する。このようにすることにより、ニオイが発生しやすい、水分量が相対的に少ない領域に、最初に集中的に高濃度のイオンを照射して付着臭を分解して除去することができるので、帽子200から発生するニオイを抑制することができる。
時間が経過すると、帽子200の他の部分も乾燥する。湿度検知部160によって、他の部分の水分量が相対的に少ないことが検知されると、制御部150は、次に相対的に水分量の少ない部分に正負イオンを照射するように、イオン放出方向変更部103を制御する。
このように、帽子200の表面の水分量を検知することによって、より精密に、正負イオンを照射すべき領域を決定することができるので、より効率よく帽子200からのニオイの発生を抑制することができる。
なお、水分検知部としては、湿度検知部160の他、公知の手法を用いることができる。具体的には、例えば、光学的手法として、赤外線のような長波長領域の光の反射状況から水分検出するといった手法により、非接触で応答速度の極めて速く水分検出をすることが可能である。したがって、このような水分検知部を設置することにより、帽子200の内側の汗に起因する水分量を正確に把握することが可能となり、ニオイの放出をさらに抑制することができる。
以上のように、第3実施形態の付着臭除去装置3は、帽子200の表面の水分量を検知する湿度検知部160を備え、イオン放出方向変更部103は、湿度検知部160によって検知されることによって帽子200において決定された水分量が相対的に少ない所定の領域へ正イオンと負イオンとを放出するようにイオン放出方向を変更する。
このようにすることにより、帽子200においてニオイが発生しやすい部分に効率よく正負イオンを放出することができる。
第3実施形態の付着臭除去装置3のその他の構成と効果は、第1実施形態の付着臭除去装置1と同様である。
(第4実施形態)
図11は、この発明の第4実施形態として、付着臭除去装置の全体を模式的に示す図である。
図11に示すように、第4実施形態の付着臭除去装置4が第1実施形態の付着臭除去装置1と異なる点としては、付着臭除去装置4は、ニオイ検知部170を備える。
ニオイ検知部170は、帽子200の内側表面においてニオイを検知して、制御部に出力する。制御部は、特にニオイの強い部分を選定する。
ニオイ検知部170の数に応じてニオイの分布領域の分解度を任意に決定することができる。第1実施形態の付着臭除去装置1(図7)のように、付着臭除去装置4の駆動開始からの経過時間に基づいてイオン放出方向を変更する形態と組み合わせることによって、ニオイ検知部170の数を減らすことができる。
ニオイ検出部170によって検出されたニオイが強い領域に重点的に、または繰り返し、高濃度イオンを照射するように、制御部がイオン放出方向変更部103を制御することによって、帽子200の全体を効率よく消臭できる。このようにして、帽子200の外部に放出されるニオイを抑制することができる。
また、あらかじめニオイ検知部170の出力値に閾値を設定することによって、所定の強さよりもニオイが強い場合には送風部110による送風量を増加するような制御が可能になる。
第4実施形態の付着臭除去装置4のその他の構成と効果は、第1実施形態の付着臭除去装置1と同様である。
以上に開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考慮されるべきである。本発明の範囲は、以上の実施の形態ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての修正と変形を含むものである。