JP2010168333A - 1液型歯面被覆材 - Google Patents

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Abstract

【課題】 歯面に対する接着強度が極めて高いばかりか、長期接着性、長期耐久性、象牙細管封鎖性、被膜均一性、審美性等の特性に優れた硬化膜を歯の表面に形成することが可能であり、しかも保存安定性に優れ、ワンパッケージの状態で保存可能な1液型歯面被覆材を提供することにある。
【解決手段】 ワンパッケージで保存され且つ歯の表面に直接外面被覆を形成するために使用される1液型歯面被覆材において、
(A)酸性基含有重合性単量体を5質量%以上含む重合性単量体成分;
(B)多価金属イオン;
(C)揮発性の水溶性有機溶媒;
(D)水;
(E)ヒュームドシリカ;
(F)有効量の光重合開始剤;
の各成分がそれぞれ特定の配合量で含有されてなる1液型歯面被覆材。
【選択図】 なし

Description

本発明は、歯科医療分野において用いる歯面被覆材に関するものであり、特にワンパッケージで保存され且つ歯の表面に直接外面被覆を形成するために使用される1液型の歯面被覆材に関する。
従来、歯科分野において、硬化性組成物からなる歯面被覆材が様々な目的で使用されている。例えば、齲蝕の予防や知覚過敏の抑制目的で、歯面の所定部分に歯面被覆材を塗布し、硬化させて硬化膜を形成している。即ち、歯面の所定部分が歯面被覆材の硬化膜で覆われているため、齲蝕を予防することができ、また歯がしみるなどの知覚過敏を抑制することができるのである。また、歯面の変色を遮蔽するためのオペーカーや、歯面の審美性を向上させるための歯科マニキュアとしても歯面被覆材が使用されている。
このような歯面被覆材は、その硬化膜が単独で表面に露出している外面被覆を直接歯の表面に形成する点で、コンポジットレジンや補綴物などを歯に接着固定するために使用されている歯科用接着材とは異なっているが、歯質に対しての接着性が要求される点では歯科用接着材と共通している。従って、歯面被覆材としての提案はあまりなされていないが、歯質に対する良好な接着性を有する接着材は数多く提案されており、このような接着材は、歯面に対する被覆材としても応用できるとされている(例えば特許文献1、特許文献2)。
ところで、接着材として使用されている歯科用硬化性組成物の多くは、重合性単量体として(メタ)アクリル酸エステル類モノマーを含み、且つ光重合開始剤が配合されているが、歯質に対する接着性は十分でなく、歯質に対する接着性の向上が求められている。
接着材の歯質に対する接着性を向上させるために効果的な手段としては、接着材を歯質に塗布する前に、以下のような2段階での歯質前処理;
(1)リン酸、クエン酸、マレイン酸等の酸の水溶液(エッチング処理剤)を歯質表面に塗布して、硬い歯質(主にエナメル質)をエッチングする、
(2)エッチング処理後、ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)等の両親媒性モノマー及び有機溶媒などを主成分とする液(浸透促進剤、プライマーとも呼ばれる)を塗布して、歯質(象牙質)の中へ浸透促進剤を浸透させる、
を施すことが知られている。
然るに、これらの前処理は、操作上煩雑であるため、接着材自体に、該前処理と同等の機能(プライマー機能)を与えたものが開発されている。例えば、特許文献3には、重合性単量体の一部として、リン酸基、カルボン酸基等の酸性基を有する重合性単量体(酸性基含有重合性単量体)を含み、さらに、所定量の水と光重合開始剤とを含有する歯科用接着材が提案されている。この接着材では、酸性基含有重合性単量体が歯質脱灰性と象牙質に対する親和性を有しており、水を含んでいるために、歯質脱灰が効果的に行われる。従って、前述した前処理を行うことなく、簡便な操作で、接着初期において、エナメル質及び象牙質の双方に高い接着強度を示す硬化物を形成することが可能となる。
また、上記特許文献3では、多価金属イオン溶出性フィラー(例えばフルオロアルミノシリケートガラス)を配合することも提案されており、これにより、歯質に対する接着性をさらに向上させえることが開示されている。即ち、この歯科用接着材は、前述したプライマー機能(歯質に対する脱灰機能や象牙質への浸透促進機能)を有していると同時に、その硬化に際して、重合性単量体のラジカル重合に加えて、酸性基含有重合性単量体、水及び上記フィラーから溶出する多価金属イオンの相互作用によるイオン架橋も併せて生じ、これらラジカル重合とイオン架橋との相乗作用により、エナメル質及び象牙質の双方に高い接着強度を有する硬化物を形成することができるというものである。
しかしながら、歯面被覆材は、それ単独で歯の表面に直接外面被覆となる硬化膜を形成し、この硬化膜によって、齲蝕の予防、知覚過敏の抑制を実現するものであるから、長期間にわたって歯質に対して高い接着性を維持し得ること(長期接着性)、耐摩耗性に優れ、長期間にわたって一定の膜厚を維持し得ること(長期耐久性)が要求される。また、特に知覚過敏の抑制の観点からは、外部からの刺激が象牙細管を通じて歯髄の神経細胞への伝達を防止するため、露出した象牙質表面に塗布した時に、象牙細管の奥深くまで浸透して硬化し得ること(象牙細管封鎖性)も要求される。加えて、歯面被覆材塗布後のエアブロー処理の影響を受けずに、硬化膜が均一に形成されることも要求される(被膜均一性)。強いエアブローにより、不均一な被膜が形成された場合、薄いところから、或は膜が形成されないところからしみる可能性があるためである。さらに、歯面の外観を損なわないように審美性も要求され、特に、被覆材を歯科用マニキュアとして用いる場合には、審美性は最も重要な特性である。上述した歯科用接着材を歯面被覆材に転用した場合には、このような歯面被覆材に求められる特有の性質、即ち、長期接着性、長期耐久性、象牙細管封鎖性、被膜均一性、審美性などが不満足である。
例えば、酸性基含有重合性単量体を含む歯科用接着材(光硬化性組成物)では、酸性基含有重合性単量体が比較的親水性の高い単量体であるため、得られる硬化体の耐水性が低くなり、歯面被覆材としては長期接着性が十分ではない。歯面被覆材では、その硬化膜が、口腔内という水分を多く含む過酷な環境に直接曝された状態で長期間存在するため、耐水性が低い場合には、経時と共に歯面に対する硬化膜の接着力が低下していくからである。また、酸性基含有重合性単量体が親水性であるため、その硬化膜が水分を吸収し易く、その結果、硬化膜が歯磨きなどにより摩耗し易く、長期耐久性が不満足となってしまうばかりか、硬化膜の表面に白濁が生じてしまい、硬化膜表面の滑沢性が損なわれやすく、長期間にわたって審美性を維持するという観点からも、その改良が必要である。
さらに、上記のような歯科用接着材を歯面被覆材に適用した場合には、象牙細管封鎖性の点でも不満足である。即ち、上記の歯科用接着材は、歯質脱灰性や象牙質浸透性などのプライマー機能が優れているため、露出した象牙質の表面に塗布した場合には、象牙細管の奥深くまで浸透するのであるが、このような象牙細管の奥深い部分までは硬化時に照射する光の到達量が少なくなり、この内部での重合硬化が効果的に行われなくなる傾向があった。このため、硬化膜が象牙質表面に形成されたとしても、接着強度が不満足となるばかりか、象牙細管の封鎖性が不満足となっている。
このように、歯質に対する接着性に優れるとされる歯科用接着材も、その多くはそのまま歯面被覆材に転用しても、歯質への接着性以外の該用途に特有に求められる諸性状に関して十分ではなく、高度には満足できないものである。なお、歯質に対する接着性をさらに向上させた別の接着材として、特許文献4には、A)酸性基含有重合性単量体を5質量%以上含む重合性単量体成分、(B)多価金属イオン溶出性フィラー、(C)揮発性有機溶媒、および(D)水を含んでなる1液型歯科用接着性組成物が開示され、さらに、特許文献5には、リン酸から誘導される酸性基を有する重合性単量体を少なくとも一部として含んでなる重合性単量体を含む接着組成物に対して、多価金属イオン、水、及びヒュームドシリカを含んでなる歯科用接着性組成物が開示されている。しかし、これらの接着性組成物も、上記歯科用接着材用途が意図されており、いずれも前記歯面被覆材への適応の記載は全くない。してみれば、歯科用接着材として歯質への接着性に優れたものであったとしても、これらが該歯面被覆材に求められる他の諸性状(長期耐久性、象牙細管封鎖性、被膜均一性、審美性等)に対して如何様であるかは不明であり、歯面被覆材として高度に優れたものになり得るかを予測することは困難である。
また、特許文献3のように、組成物中に多価イオン溶出性フィラーを配合して、多価金属イオンによりイオン架橋を形成させて、その接着性を高めている接着性組成物では、保存安定性の点でも難点がある。即ち、多価イオン溶出性フィラーを、酸性基含有重合性単量体及び他の成分と混合してワンパッケージの状態で保存するとゲル化が生じやすい。このために、上記光硬化性組成物では、酸性基含有重合性単量体を含む液と該多価イオン溶出性フィラーを含む液との2液に分割し、ツーパッケージの形態で保存しておかなければならないものになっている。このようなツーパッケージの形態では、歯科医師が臨床に使用する直前にその場でかかる2液を混合して使用しなければならず、歯科医師等にとって極めて煩雑な作業であり、また混合操作や混合時間など、混合条件には操作者によりある程度のばらつきは避けられず、習熟度を要する等の問題を引き起こす。この点、前記特許文献4及び特許文献5の接着性組成物は、同様に多価金属イオンを存在させてイオン架橋を形成させるものでありながら、特定量の揮発性有機溶媒を併用することで希釈して、ワンパッケージの状態で保存しても、このゲル化の問題が生じ難くしてあり優れているが、それでも多価金属イオンの配合量は重合性単量体成分(A)1g当り1.0meq以上であり、保存期間が長期化するとゲル化を抑制しきれない問題が残るものである。
特開平10-236912号公報 特開平10-245525号公報 特開平10-236912号公報 国際公開第2007/139207パンフレット 特開2008-201726号公報
従って、本発明の目的は、歯面に対する接着強度が極めて高いばかりか、長期接着性、長期耐久性、象牙細管封鎖性、被膜均一性、審美性等の特性に優れた硬化膜を歯の表面に形成することが可能であり、しかも保存安定性に優れ、ワンパッケージの状態で保存可能な1液型歯面被覆材を提供することにある。
本発明者は、上記技術課題を克服すべく鋭意研究を重ねた結果、酸性基含有重合性単量体を含む重合性単量体、多価金属イオン、揮発性の水溶性有機溶媒、水、ヒュームドシリカ及び光重合開始剤が、特定の条件を満足するように配合された硬化性組成物は、保存安定性に優れ、1液型の歯面被覆材として、上記のような特性を有している硬化膜を形成し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明によれば、ワンパッケージで保存され且つ歯の表面に直接外面被覆を形成するために使用される1液型歯面被覆材において、
(A)酸性基含有重合性単量体を5質量%以上含む重合単量体成分;
(B)多価金属イオン;
(C)揮発性の水溶性有機溶媒;
(D)水;
(E)ヒュームドシリカ;
(F)有効量の光重合開始剤;
を含有しており、
前記多価金属イオン(B)は、前記重合性単量体成分(A)1g当り0.2〜7.0meqとなるような量で存在し、
前記水溶性有機溶媒(C)は、前記重合性単量体成分(A)100質量部当り30〜150質量部の範囲で且つ下記式(1):
α≧20・X …(1)
式中、αは、前記水溶性有機溶媒(C)の前記重合性単量体成分(A)100質量部当りの配合量であり、
Xは、前記多価金属イオンの量であって、前記重合性単量体成分(A)1g当りの量(meq)を示す数である、
で表される条件を満足するような量で配合され、
前記水(D)は、前記重合性単量体成分(A)100質量部当り3〜30質量部の量で配合され、
前記ヒュームドシリカ(E)は前記重合性単量体成分(A)100質量部当り0.5〜20質量部の量で配合されていることを特徴とする1液歯面被覆材が提供される。
本発明の1液型歯面被覆材においては、
(1)多価金属イオン(B)の配合量が、前記重合性単量体成分(A)1g当り0.3〜1.0未満meqとなるような量であること、
(2)前記多価金属イオン(B)は、多価金属イオン溶出フィラーからの溶出により存在していること、
(3)さらに着色剤(G)を含有していること、
(4)前記重合性単量体成分(A)中の酸性基含有重合性単量体が、リン酸基を含有する重合性単量体であること、
(5)前記多価金属イオン溶出性フィラーは、該フィラー0.1gを10重量%マレイン酸水溶液10mlに加えて23℃で24時間保持した時の多価金属イオン溶出量が、5.0〜500meq/g―フィラーを示すものであること、
が好適である。
本発明の歯面被覆材は、歯面の所定箇所に塗布した後、例えばエアブローにより揮発性の水溶性有機溶媒(C)を揮散させた後に、光照射して重合硬化せしめることにより、歯面に直接外面被覆となる硬化膜を形成するものである。
このような本発明の歯面被覆材は、各成分を歯面への塗布時に重合性単量体成分(A)に含まれる酸性基含有重合性単量体のプライマー機能(歯質脱灰機能及び象牙質に対する浸透性)が十分に発揮され、しかも、重合性単量体成分(A)の重合硬化に加えて、酸性基含有重合性単量体(A)と多価金属イオン(B)と(D)水との相互作用によるポリマー鎖のイオン架橋が形成され、このような重合硬化とイオン架橋とが相乗的に作用し、さらに、該イオン架橋物と親和性の良いヒュームドシリカ(E)が配合されていることにより、硬化体の強度が向上しているため、エナメル質および象牙質の双方に対して強固に接着した硬化膜を形成することができる。
この硬化膜は、後述する実施例に示されているように、高い耐水性を有しており、歯面(エナメル質及び象牙質)に対して長期間にわたって高い接着性を示し、表面の滑沢性も長期間維持され、審美性の点でも優れている。さらに、耐摩耗性に優れ、例えば歯磨きを多数回、繰り返し行った場合においても、硬化膜の摩耗が著しく抑制されており、この硬化膜の耐久性は極めて優れている。
さらに、本発明の歯面被覆材は、その組成が、多価金属イオン(B)の量が所定量となるように水溶性有機溶媒(C)によって適当な濃度範囲に調整されている点に、大きな特徴を有している。これにより、保存時におけるイオン架橋によるゲル化が問題のないレベルに抑制され、ワンパッケージ(1液型)での保存が可能となっている。特に、ヒュームドシリカ(E)成分を配合して、その硬化体の強度を一層に高め、エナメル質および象牙質に対する接着性の他、後述する象牙細管封鎖性や皮膜均一性等にも優れたものにできるため、該多価金属イオン(B)の配合量を重合性単量体成分(A)1g当り0.2〜1.0未満meqの範囲に少なくしても、歯面被覆材として実用上満足できるものにでき、これに起因して上記保存安定性を一層に優れたものにできる。
しかも、多価金属イオンの濃度調整に用いている水溶性有機溶媒(C)は揮発性であるため、該成分(C)は、塗布後のエアブローによって容易に揮散させることができる。即ち、短時間で多価金属イオンによるイオン架橋が強固なものとなるように濃縮することができ、この結果、単量体成分の重合硬化による接着と、酸性基含有重合性単量体の重合物のイオン架橋による接着との相乗効果はほとんど損なわれることなく発揮させることができ、上述した、エナメル質および象牙質の双方に対して著しく高い接着強度を確保することが可能になっている。
また、後述する実施例にも示されているように、本発明の歯面被覆材により形成される硬化膜は、極めて優れた象牙細管封鎖性を示す。
例えば、図2は、象牙細管封鎖性の試験に用いた知覚過敏症モデルの表面を示すSEM写真であるが、図2から理解されるように、この露出した象牙質の表面には、多数の象牙細管の端部が開放状態で存在している。即ち、齲蝕などによって歯の象牙質が露出すると、外部からの刺激が象牙細管を通じて歯髄の神経細胞へ伝達され、歯がしみるなどの知覚過敏を引き起こすこととなる。
しかるに、本発明の歯面被覆材は、この象牙細管内の深くまで浸透し、しかも深く浸透した部分でも、前記イオン架橋の形成やヒュームドシリカ(E)の配合硬化が相乗的に作用して有効に硬化するため、極めて優れた象牙細管封鎖性を示し、知覚過敏を有効に抑制することができるのである。例えば、図3は、上記の知覚過敏症モデルの表面に本発明の歯面被覆材を塗布し、光を照射して重合硬化を行った後、酸処理して該モデルの象牙質表面部分を溶解して除去し、これを垂直に切断したときの切断面のSEM写真を示している。この図3によれば、多数のタグが観察されるが、これらのタグが象牙細管内に浸透して硬化した部分であり、従って、象牙細管内に深く浸透し且つ有効に硬化していることが判る。
本発明の歯面被覆材が、上記のように優れた象牙細管封鎖性を有している理由は、明確に解明されている訳ではないが、本発明者等は次のように推定している。
即ち、本発明の歯面被覆材は、酸性基含有重合性単量体を含有しており、優れたプライマー機能を示し、しかも保存安定性が良好であり、ゲル化が有効に抑制されている。しかも、エアブローによって有機溶剤が除去され、多価金属イオン濃度が高められイオン架橋が十分に形成され、粘度が急激に増大した状態で光が照射されて重合硬化が行われる。この結果、このような増粘が重合効率を大幅に高めることとなり、象牙細管の深部においても非常に強固に固化した硬化物が形成され、優れた象牙細管封鎖性が得られるものと考えられる。
さらに、本発明の歯面被覆材は、塗布後のエアブローの強弱の影響を受けずに、均一な被膜が形成される。例えば、図4は、模擬窩洞に本発明の歯面被覆材を塗布し、エアブローを行って、光照射して重合硬化させ、その後、コンポジットレジンを充填し、光照射を行って、重合硬化させた後の接着界面切断面の模式図である。なお、コンポジットレジンを充填したのは歯面被覆材の被膜を観察しやすくするためである。実施例に示したように、模擬窩洞に適度な厚みを有する均一な膜が形成されている。このような効果が発現する理由は、明確に解明されている訳ではないが、本発明者等は次のように推定している。
即ち、本発明の歯面被覆材を歯面への塗布時に、重合性単量体成分に含まれる酸性基含有重合性単量体成分の重合硬化に加えて、酸性基含有重合性単量体由来の酸性基、水、及び多価金属イオンの作用によるイオン架橋が併せて生じるばかりか、このようなイオン架橋物が親水的なイオン結合部分と疎水的な重合鎖部分を有しており、さらに、イオン架橋物とヒュームドシリカが複雑に混合していることにより、歯質との親和性、なじみが高められる。このような重合硬化とイオン架橋、そして親和性、なじみの相乗効果により、歯面に対して、適度な厚みを有する均一な膜が容易に形成されるものと信じられる。
上述した特性を有する本発明の歯面被覆材は、口腔疾患の防止や、歯牙の審美性を向上させる目的等に適用され、例えば、歯面の変色遮蔽用のオペーカー、歯科マニキュア、齲蝕予防用或いは知覚過敏抑制用の被覆材として使用され、その目的に応じて、歯の全面に塗布して外面被覆となる硬化膜を形成してもよいし、歯面の一部分にのみ塗布して外面被覆を形成することができる。
歯ブラシ摩耗試験に用いる試験片を示す概略図である。 象牙細管封鎖性の試験に用いた知覚過敏症モデルの表面を示す走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。 図2の知覚過敏症モデルの表面に本発明の歯面被覆材(実施例1)による硬化膜を形成した試料片の切断面を酸処理して象牙質表面部分を溶解して除去したときの切断面を示すSEM写真である。 被膜均一性試験に用いる試験片を示す概略図である。
本発明の1液型歯面被覆材は、基本成分として、(A)重合性単量体成分、(B)多価金属イオン、(C)揮発性の水溶性有機溶媒、(D)水、(E)ヒュームドシリカ及び(F)光重合開始剤を含有するものであり、さらに、その用途によっては、必要により(G)着色剤が配合され、ワンパッケージの形態で保存されるものである。また、このものには、保存安定性や、硬化膜の特性を損なわない範囲内で、歯科の分野において公知の各種配合剤を適宜配合することができる。
<重合性単量体成分(A)>
本発明において、重合性単量体成分(A)(以下、単に「単量体成分」と呼ぶ)は、重合硬化して歯面に対する接着性を付与するために使用される成分であるが、歯質に対するエッチング処理能(歯質脱灰性)や象牙質に対する浸透性を発現させるため、少なくとも重合性単量体成分(A)中の5質量%以上は、酸性基含有重合体(A1)であることが必要である。即ち、酸性基含有重合体(A1)の量が少ない場合には、この歯面被覆材は、歯質に対して十分なエッチング処理能を示さないため、歯質に対して十分な接着強度を確保するためには歯質の前処理が必要となってしまうからである。
また、単量体成分(A)は、全てが酸性基含有重合体(A1)であってもよいが、接着界面の強度及び歯質に対する浸透性を調節し、歯質に対してより優れた接着強度及び耐水性、さらには歯面被覆材として必要な親水、疎水性のバランスを調節する為に、酸性基を有しない重合性単量体(A2)を更に含むのが好適である。
例えば、単量体成分(A)中の酸性基含有重合体(A1)の含有割合は、5〜50質量%、特に10〜30質量%の範囲にあり、残部が酸性基を含有していない重合性単量体(A2)であることが好ましい。ここで、酸性基含有重合性単量体(A1)の配合量が少ないと、エナメル質に対する接着強度が低下する傾向があり、逆に多いと象牙質に対する接着強度が低下する傾向がある。
酸性基含有重合性単量体(A1):
本発明において、酸性基含有重合性単量体(A1)は、1分子中に少なくとも1つの酸性基と少なくとも1つの重合性不飽和基を持つ化合物であれば特に限定されず、公知の化合物を用いることができる。
このような単量体(A1)が分子中に有している酸性基としては次に示すようなものを挙げることができる。
酸性基の例;
また、単量体(A1)が分子中に有している重合性不飽和基としては、アクリロイル基、メタクリロイル基、アクリルアミド基、メタクリルアミド基、ビニル基、アリル基、エチニル基、スチリル基のようなものを挙げることができる。
本発明において、上記のような酸性基及び重合性不飽和基を分子中に有している重合性単量体(A1)の具定例としては、下記式で表される化合物が代表的である。
酸性基含有重合体(A1)の代表例;
(但し上記化合物中、Rは水素原子またはメチル基を表す。)
また、上記の化合物以外にも、ビニル基に直接ホスホン酸基が結合したビニルホスホン酸類や、アクリル酸、メタクリル酸、ビニルスルホン酸等を酸性基含有重合体(A1)として使用することができる。
上記で例示した酸性基含有重合体(A1)は、それぞれ単独で又は二種以上を混合して用いることができるが、これらの中でも分子内における酸の価数が2価以上の化合物(多塩基酸化合物)を使用することが、後述する多価金属イオン(B)とのイオン結合性を高め、強固な接着強度を得るという観点から好ましい。このような多塩基酸化合物は、分子内に1価の酸基を2個以上有するものであってもよいし、2価以上の酸基を分子中に少なくとも1個有するものであってもよい。但し、このような多塩基酸化合物のみを酸性基含有重合性単量体(A1)として用いた場合、強度向上の観点からは好ましいが、1液状態での保存安定性は若干低下する傾向がある。従って、多塩基酸化合物と、分子内における酸の価数が1価の酸性化合物とを併用することが、接着強度と保存安定性とを両立させる上で、より好適である。その配合比率は、多塩基酸化合物:分子内における酸の価数が1価の酸性化合物が、1〜5:1、より好ましくは1〜3:1である。
また、酸性基含有重合性単量体(A1)として上記のように多塩基酸化合物と1価酸性化合物とを併用する場合、何れの化合物も、酸性基としてリン酸系の酸基(具体的には、−O−P(=O)(OH)、(−O−)P(=O)OH等)を含有しているものであることが最も好適である。このような組み合わせで酸性基含有重合性単量体(A1)が使用されている系では、歯質に対する脱灰作用(主に酸性度の強いリン酸系の酸基によるものと思われる)が高いばかりでなく、本質的に歯質等に対する結合力も高く、特に高い接着強度が得られ、更に1液状態での保存安定性も良好なものが得られる。
さらに、硬化速度の観点からは、酸性基含有重合性単量体(A1)は、重合性不飽和基としてアクリロイル基、メタクリロイル基、アクリルアミド基、メタクリルアミド基を有する化合物であることが好適である。
酸性基を含有していない重合性単量体(A2):
単量体(A1)と併用され得る酸性基を含有していない重合性単量体(A2)は、酸性基を含有しておらず且つ分子中に少なくとも一つの重合性不飽和基を有しているという条件を満足している限り、公知の化合物を何等制限無く使用できる。かかる重合性単量体が有している重合性不飽和基としては、前述した単量体(A1)で例示したものと同様のものを挙げることができるが、特にアクリロイル基、メタクリロイル基、アクリルアミド基、メタクリルアミド基が好ましい。
このような重合性単量体(A2)の代表例としては、以下の(メタ)アクリレート系単量体を挙げることができ、これらは1種単独で或いは2種以上を組み合わせて使用することができる。
1.モノ(メタ)アクリレート系単量体;
メチル(メタ)アクリレート、
エチル(メタ)アクリレート、
グリシジル(メタ)アクリレート、
2−シアノメチル(メタ)アクリレート、
ベンジル(メタ)アクリレート、
ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、
アリル(メタ)アクリレート、
2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、
グリシジル(メタ)アクリレート、
3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、
グリセリルモノ(メタ)アクリレート、
2−(メタ)アクリルオキシエチルアセチルアセテート等。
2.多官能(メタ)アクリレート系単量体;
エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、
ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、
トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、
ノナエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、
プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、
ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、
2,2’−ビス[4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル]プロパン、
2,2’−ビス[4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシエトキシフェニル]プロパン、
2,2’−ビス{4−[3−(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ]フェニル}プロパン、
1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、
1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、
トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、
ウレタン(メタ)アクリレート、
エポキシ(メタ)アクリレート等。
また、上記(メタ)アクリレート系単量体以外の重合性単量体を混合して用いることも可能である。このような他の重合性単量体としては、フマル酸モノメチル、フマル酸ジエチル、フマル酸ジフェニル等のフマル酸エステル化合物;スチレン、ジビニルベンゼン、α−メチルスチレン、α−メチルスチレンダイマー等のスチレン系化合物;ジアリルフタレート、ジアリルテレフタレート、ジアリルカーボネート、アリルジグリコールカーボネート等のアリル化合物;などを挙げることができる。これらの他の重合性単量体は単独で又は二種以上を混合して用いることができる。
また、本発明において、重合性単量体(A2)として疎水性の高い重合性単量体を用いる場合には、併せて2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等の両親媒性の単量体を使用することが好適である。このような両親媒性の単量体の併用により、本発明の歯面被覆材の必須成分である水の分離を防止し、組成の均一性を確保することができ、安定して高い接着強度を得ることができ、さらには被覆層表面の滑沢性を優れたものにできるからである。両親媒性の単量体の配合量は、重合性単量体(A2)中において、10〜60質量%、より好ましくは30〜45質量%である。
<多価金属イオン(B)>
本発明の歯面被覆材は、成分(B)として多価金属イオンを含有していることが重要である。即ち、多価金属イオンは、酸性基含有重合性単量体(A1)(或いはその重合物)にイオン架橋を導入するものであり、このようなイオン架橋と重合硬化との相乗効果により、硬化膜の歯質(エナメル質及び象牙質)に対する高い接着強度が得られるばかりか、耐水性や耐摩耗性などの膜特性を確保し、長期間にわたって高い接着強度が確保されるばかりか、優れた耐久性、表面の滑沢性(審美性)も長期間維持され、さらには、象牙細管封鎖性、被膜均一性も高められる。
この多価金属イオンとは、前記重合性単量体(A1)が有している酸性基と結合可能な2価以上の金属イオンのことであり、酸性基と結合可能である限り、任意の多価イオンであってよいが、歯科用に使用されるという観点から、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、アルミニウム、スカンジウム、イッテルビウム、チタン、亜鉛、マグネシウム、ジルコニウム、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、ランタノイド等のイオンが好適である。このうち、接着性の高さから3価以上のイオンが好適であり、アルミニウムイオン、ランタンイオン、チタンイオンを成分として含有しているのが、該接着性の高さの他、生体に対する安全性などの観点から最も好ましい。
本発明の歯面被覆材中に存在する多価金属イオン(B)の量は、前述した単量体成分(A)1g当たり0.2〜7.0meqの量とするように調整されていることが重要である。即ち、単量体成分(A)1g当たりの多価金属イオン量が上記範囲に調整されていることにより、適度なイオン架橋により歯面上に強固に接着した硬化膜層を形成することが可能となるのである。金属イオンの量が、上記範囲よりも少ない場合には、イオン架橋が不十分になり、歯質に対する接着強度が低下してしまう。また、上記範囲よりも多い場合には、酸性基含有重合体(A1)による歯質脱灰力が低下するばかりか、ワンパッケージでの保存安定性を確保するために必要な揮発性の水溶性有機溶媒(C)の量が多量となってしまい、歯面被覆材を歯質表面に塗布し、エアブロー処理を行った後に硬化膜を形成する重合性単量体成分が不足しがちとなり、何れの場合においても接着強度が低下する原因となる。上記1液(ワンパッケージ)での保存安定性、及び接着強度の両立の観点より、より好ましくは、前述した単量体成分(A)1g当たり0.3〜3.0meqの量で存在していることが好適である。さらには、本発明の1液型歯面被覆材において、歯質との接着力の向上は、係る多価金属イオン(B)の配合によるイオン架橋の形成だけでなく、ヒュームドシリカ(E)の配合によっても大きく高められているため、該多価金属イオン(B)の配合量は0.3〜1.0未満meqの少ない量であっても、1液型歯面被覆材としての使用に十分な歯質への接着性および象牙細管封鎖性等を発揮させることができ、この場合、ワンパッケージでの保存安定性を飛躍的に高めることができ好適である。
尚、本発明において、歯面被覆材中に存在する多価金属イオンの量は、ICP発光分光分析や原子吸光分析等で各種イオンの濃度を測定し、この測定値から多価金属イオンによる単量体成分(A)とのイオン結合量を、単量体成分(A)1g当りのミリ当量に換算して表したものであり、単量体成分(A)1g当りの各多価金属イオン濃度(mmol/g)にそれぞれの金属イオンの価数をかけて得られる値の総和として求めることができる。
本発明において、上記のような量で多価金属イオン(B)を存在させるためのイオン供給源としては、前述した多価金属のアルコキシド、水溶性塩、水溶性水酸化物、水溶性酸化物、錯塩などのイオン性化合物を、その溶解度や解離度に応じた量で使用することができる。このような多価金属供給源の具体例は、これに限定されるものではないが、以下の通りである。
多価金属アルコキシド:
アルミニウムトリイソプロポキシド
マグネシウムヒドロキシド
カルシウムヒドロキシド
バリウムヒドロキシド
ランタントリイソプロポキシド
スカンジウムトリイソプロポキシド
イッテルビウムトリイソプロポキシド
クロミウムトリイソプロポキシド
チタニウムテトライソプロポキシド
ジルコニウムテトライソプロポキシド
鉄(III)エトキシド
銅(II)エトキシド
亜鉛ビス(2−メトキシエトキシド)
多価金属の水溶性塩:
サリチル酸アルミニウム
塩化アルミニウム
多価金属の水溶性水酸化物:
水酸化アルミニウム
水酸化カルシウム
水酸化ランタン
水酸化マグネシウム
水酸化バリウム
多価金属の水溶性酸化物:
酸化アルミニウム
多価金属の錯塩:
バナジウム(III)テトラキスアセチルアセトナト
マンガン(III)テトラキスアセチルアセトナト
コバルト(III)テトラキスアセチルアセトナト
ニッケル(II)テトラキスアセチルアセトナト
また、本発明においては、多価金属イオン供給源としては、上述した多価金属化合物以外にも、多価金属イオン溶出性フィラー(以下、単に多価金属フィラーと呼ぶ)を使用することもできる。即ち、多価金属フィラーは、硬化膜の機械的強度を向上させる機能を有するため、特に耐摩耗性を高め、硬化膜の耐久性を向上させるという利点を有している。
また、このような多価金属フィラーは、多価金属イオンを前述した範囲内で溶出し得る限り、ナトリウム等の一価の金属イオンを含有していても良いが、一価の金属イオンをあまり多量に含有していると多価金属イオンのイオン架橋性にも影響するため、一価の金属イオンは、できるだけ含有量が少ないのが好ましく、通常は、多価金属フィラー中に含まれる一価金属イオン含量が、多価金属イオンの含有量の10モル%以下、特に5モル%以下のものが好適である。
また、多価金属フィラーからの多価金属イオンの溶出は、通常、歯面被覆材を調製後、室温(23℃)にて3時間〜12時間ほどで完了する。従って、多価金属フィラーを用いた場合の多価金属イオン量は、室温(23℃)にて調製24時間後の多価金属イオン量と実質的に等しく、多価金属フィラーに含まれる総多価金属イオン量と歯面被覆材中の単量体成分(A)含量とから算出することができる。
上述した多価金属フィラーは、前述した範囲の量の多価金属イオンを溶出し得るものであれば特に限定されないが、多価金属イオンが、該多価金属イオンと同時に溶出可能なカウンターアニオンの塩として含まれている場合、溶出−解離したカウンターアニオンが接着強度に悪影響を与える恐れがある(これは、多価金属の水溶性塩を用いた場合も同様である)。従って、本発明では、多価金属イオンのカウンターアニオンが同時に溶出しないような多価金属フィラーを用いるのが好ましい。このような条件を満足する多価金属フィラーとしては、鎖状、層状、網様構造の骨格を有するガラス類において、その骨格の隙間に多価金属イオンを含有したものを挙げることができる。
上記のようなガラス類としては、アルミノシリケートガラス、ホウケイ酸ガラス、ソーダ石灰ガラスなどの酸化物ガラス成分を含有するものや、フッ化ジルコニウムガラス等のフッ化物ガラス成分を含有するものが好適である。即ち、これらの成分を含有するガラス類からなる多価金属フィラーは、多価金属イオンを溶出させた後は、網様構造を有する多孔性の粒子となり、この被覆材により形成される硬化膜の機械的強度や接着層強度を向上させる作用を有する。
本発明においては、硬化膜の強度等の観点から、上述した多価金属フィラーの中ではアルミノシリケートガラスが好適であり、さらには、フッ素徐放性を有しており、歯質を強化するフッ化物イオンが硬化膜から徐々に放出するフルオロアルミノシリケートガラスが最も好適である。
多価金属フィラーにおける多価金属イオンの溶出特性は、該フィラー中に含まれる各種元素の配合比で制御することができる。例えば、アルミニウム、カルシウム等の多価金属イオンの含有率を多くすればこれらの溶出量は一般に多くなるし、また、ナトリウムやリンの含有率を変えることにより多価金属イオンの溶出量を変えることもできるので、多価金属イオンの溶出特性を比較的容易に制御することができる。
また、多価金属フィラーの溶出特性は、一般に知られている方法を用いて制御することもでき、代表的な方法として、多価金属フィラーを酸で処理することにより、フィラー表面の多価金属イオンをあらかじめ除去し、溶出特性を制御する方法が知られている。この方法に用いられる酸は塩酸、硝酸等の無機酸、マレイン酸、クエン酸等の有機酸など一般的に知られている酸が用いられる。酸の濃度、処理時間等は除去するイオンの量によって適宜決定すればよい。
また、多価金属フィラーとして好適なフルオロアルミノシリケートガラスは、例えば、歯科用に使用されるグラスアイオノマーセメントに使用される公知のものが使用できる。一般に知られているフルオロアルミノシリケートガラスは、イオン質量%で表して、下記の組成を有している。
珪素;10〜33%、特に15〜25%
アルミニウム;4〜30%、特に7〜20%
アルカリ土類金属;5〜36%、特に8〜28%
アルカリ金属;0〜10%、特に0〜10%
リン;0.2〜16%、特に0.5〜8%
フッ素;2〜40%、特に4〜40%
酸素;残量
また、上記のアルカリ土類金属中のカルシウムの一部又は全部を、マグネシウム、ストロンチウム、バリウムで置き換えたものも好適である。さらに、上記のアルカリ金属はナトリウムが最も一般的であるが、その一部または全部をリチウム、カリウム等で置き換えたものも好適である。更に必要に応じて、上記アルミニウムの一部をチタン、イットリウム、ジルコニウム、ハフニウム、タンタル、ランタン等で置き換えたガラスを多価金属フィラーとして使用することも可能である。
上述した多価金属フィラーの粒子形状は特に限定されず、通常の粉砕により得られるような粉砕形粒子、あるいは球状粒子でもよく、必要に応じて板状、繊維状等の粒子を混ぜることもできる。
また、多価金属フィラーは、歯面被覆材中に均質に分散することができるという観点から、例えばレーザー回折散乱法で測定した体積換算での平均粒子径(D50)が0.01μm〜5μm、特に0.05μm〜3μm、最も好適には0.1μm〜2μmの範囲にあるのがよい。更に、多価金属イオン溶出量を前述した範囲に容易に調整できるという観点から、該フィラー0.1gを、10重量%マレイン酸水溶液10ml中に温度23℃で24時間浸漬保持した時に溶出した多価金属イオンの量が、5.0〜500meq/g−フィラー、特に10〜100meq/g−フィラーであるものが好適である。この時の多価金属イオン量も、ICP発光分光分析や原子吸光分析等で測定することができる。なお、上記の条件下における24時間後の多価金属イオンの溶出量を、以下、「24時間溶出イオン量」ともいう。
ところで、上述した多価金属フィラーを多価金属イオン供給源として用いた場合には、既に述べたように、硬化膜の耐摩耗性を向上させ、その耐久性をさらに向上させるという利点がある。しかしながら、反面、保存安定性が低くなるおそれもある。従って、多価金属フィラーを用いて所定量の多価金属イオンを歯面被覆材中に存在させた後、ろ過等により、多価金属イオン溶出後のフィラーを除去することも可能である。
<揮発性の水溶性有機溶媒(C)>
本発明においては、上述した量で存在する多価金属イオン(B)に由来するゲル化を防止し、保存安定性を向上させるために、揮発性の水溶性有機溶媒(C)を使用する。即ち、この水溶性有機溶媒(C)によって、溶出する多価金属イオンを特定の濃度に希釈することにより、歯面被覆材を、全ての成分が配合された1液状態(即ち、ワンパッケージの形態)で保存することが可能となるのである。
このような水溶性有機溶媒(C)は、前述した単量体成分(A)100重量部当り30〜150質量部の範囲で且つ、下記式(I):
α≧20・X …(I)
式中、αは、前記水溶性有機溶媒(C)の前記重合性単量体成分(A)100質量部当りの配合量であり、
Xは、前記多価金属イオンの量であって、前記重合性単量体成分(A)1g当りの量(meq)を示す数である、
で表される条件を満足するような量で配合されていることが必要である。即ち、水溶性有機溶媒(C)の配合量が30質量部未満では、この歯面被覆材の歯質への浸透性が低下し、十分な接着力が得られなくなり、その配合量が150質量部を越えると、過度のエアブローをしなければ有機溶媒が歯面に残留するようになり十分な接着力が得られなくなるばかりか、接着成分の濃度が希薄となっている為、エアブロー処理後に歯質表面に残る有効成分(硬化成分)が不足しがちとなり、接着強度や耐水性が低下する。
また、この水溶性有機溶媒(C)の配合量が30〜150質量部の範囲にあったとしても、式(1)の条件を満足していない場合には(即ち、α<20・Xの場合)、多価金属イオンの希釈の程度が低く、このため、ゲル化を生じてしまい、この結果、全ての成分が配合されたワンパッケージの形態での保存が不可能となる。
本発明においては、特に歯質に対して高い接着強度を得るという観点からは、上記の水溶性有機溶媒(C)の配合量は、60〜100質量部の範囲とすることが好ましく、さらに、保存安定性を高めるという観点からは、この配合量は、下記式(II):
α≧25・X …(II)
式中、α及びXは、式(I)で示した通りである、
を満足しているのがよい。
また、本発明の歯面被覆材は、これを歯質表面に塗布後、光照射による硬化に先立って、エアブローによって水溶性有機溶媒(C)を揮発させる。即ち、水溶性有機溶媒(C)の揮発により、歯面に有効成分が濃縮され、酸性基含有重合性単量体(A1)と多価金属イオン間でのイオン架橋が促進され、歯質表面に対して優れた接着強度を得ることができ、耐水性も向上し、硬化膜表面の滑沢性維持にも優れたものになり、さらには、象牙細管の奥深くまで浸透している部分でも硬化が有効に行われるわけである。従って、本発明において使用する水溶性有機溶媒(C)は、水溶性を有していると同時に、室温で揮発性を有するものでなければならない。
本明細書において、「揮発性」とは、760mmHgでの沸点が100℃以下であり、且つ20℃における蒸気圧が1.0KPa以上であることを言う。また、「水溶性」とは、20℃での水への溶解度が20g/100ml以上であることを言う。
このような揮発性の水溶性有機溶媒としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロピルアルコール、アセトン、メチルエチルケトンなどを挙げることができる。これら有機溶媒は必要に応じ複数を混合して用いることも可能である。生体に対する毒性を考慮すると、エタノール、イソプロピルアルコール及びアセトンが好ましい。
<水(D)>
本発明において、成分(D)の水は、各種成分を均一に分散させるための溶媒としての機能を有すると同時に、歯質の脱灰や、酸性基含有重合性単量体(A1)と多価金属イオン(B)とのイオン架橋の促進のために必要である。この水は、貯蔵安定性及び医療用成分に有害な不純物を実質的に含まない蒸留水や脱イオン水が好適に使用される。
このような成分(D)の水の添加量は、前記単量体成分(A)100質量部当り、3〜30質量部、特に5〜25質量部である。水の添加量がこの範囲よりも少ないと、歯質の脱灰やイオン架橋が不十分となり、高い接着強度を得ることができない。また、上記範囲よりも多量に使用されると、この歯面被覆材を歯面に塗布した後のエアブローによる除去性が低減し、歯面に水が多く残存するようになり、十分な接着力が得られなくなり、耐水性も低下する。
<ヒュームドシリカ(E)>
本発明においてヒュームドシリカとは、火炎加水分解法によって製造された非晶質シリカであり、煙霧質シリカとも別名されるものである。具体的には、四塩化ケイ素を酸水素炎中で高温加水分解させることで、液相を経ることなく製造することができる。該方法によって製造されたシリカは、透過型電子顕微鏡で測定した任意の100粒の平均1次粒径が5〜100nm程度であり、緩やかな3次凝集構造をしている。そして、この凝集構造と上記イオン架橋物が水を介して複雑に混合することで、歯質との親和性、なじみが高められる為、本発明の歯面被覆材組成物では、歯質に対する接着強度がより向上し、さらに象牙細管封鎖性や被膜均一性もより優れたものになる。一方、シリカ以外の他の無機充填材はもちろんのこと、同じシリカであっても、湿式法、ゾルゲル法、火炎溶融法等の他の製造方法で得られたものは、ヒュームドシリカのように、接着性組成物中において、緩やかな3次凝集構造が形成され難く、また、粗大な2次凝集粒子を形成する等して、これらのみを用いたのでは、前記ヒュームドシリカを用いる本発明のような優れた接着性や、その他の諸性状改善に関する効果は得られない。
本発明に利用できるヒュームドシリカは、従来公知のものが何ら制限無く利用できるが、比表面積が50m/g以上、より好ましくは100〜300m/gのものが好ましい。比表面積はBET法を用いて測定した値という。
一方、前述のように、ヒュームドシリカはその表面のシラノール基と、イオン架橋点の多価金属イオンとが水を介して結合していることにより、高い接着強度が達成されていると予測されるため、該ヒュームドシリカとしては、表面に少なくともシラノール基数が0.1個/nm以上、より好ましくは0.5〜2個/nm存在しているのが好ましい。ヒュームドシリカ表面のシラノール基数は、該ヒュームドシリカを一度、水に浸漬した後150℃で乾燥して、カールフィッシャー法により測定すれば良い。
本発明に用いるヒュームドシリカは、シラノール基数を上述の好ましい範囲にするために、シランカップリング剤に代表される表面処理剤でその数を調節することが出きる。カップリング処理の方法は公知の方法で行えばよく、シランカップリング剤としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン、ヘキサメチルジシラザン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、ヘキサメチルジシラザンなどが好適に用いられ、特に好ましくは、メチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、ヘキサメチルジシラザンが用いられる。
これらのヒュームドシリカの配合量は、接着強度を向上させつつ、組成物の粘度も一定範囲に抑えて、歯質への浸透性を保持する観点から、前記重合性単量体成分(A)100質量部当り0.5〜20質量部の量で配合される。より好ましいヒュームドシリカの配合量は、重合性単量体成分100質量部に対して5〜15質量部である。
<光重合開始剤(F)>
本発明の歯面被覆材に配合させる光重合開始剤(F)としては、そのもの自身が光照射によって分解しラジカル種を生成する化合物や、このような化合物に重合促進剤を加えた混合物が使用される。
それ自身が光照射にともない分解して重合可能なラジカル種を生成する化合物としては、これに限定されるものではないが、以下のものを例示することができる。
α−ジケトン類;
カンファーキノン
ベンジル
α−ナフチル
アセトナフテン
ナフトキノン
1,4−フェナントレンキノン
3,4−フェナントレンキノン
9,10−フェナントレンキノン
チオキサントン類;
2,4−ジエチルチオキサントン
α−アミノアセトフェノン類;
2−ベンジル−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1
2−ベンジル−ジエチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1
2−ベンジル−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−プロパノン−1
2−ベンジル−ジエチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−プロパノン−1
2−ベンジル−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ペンタノン−1
2−ベンジル−ジエチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ペンタノン
アシルフォスフィンオキシド誘導体;
2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキシド
ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキシド
また、上記した重合促進剤としては、第三級アミン類、バルビツール酸類、メルカプト化合物などが使用される。その具体例は以下の通りである。
第三級アミン類;
N,N−ジメチルアニリン
N,N−ジエチルアニリン
N,N−ジ−n−ブチルアニリン
N,N−ジベンジルアニリン
N,N−ジメチル−p−トルイジン
N,N−ジエチル−p−トルイジン
N,N−ジメチル−m−トルイジン
p−ブロモ−N,N−ジメチルアニリン
m−クロロ−N,N−ジメチルアニリン
p−ジメチルアミノベンズアルデヒド
p−ジメチルアミノアセトフェノン
p−ジメチルアミノ安息香酸
p−ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル
p−ジメチルアミノ安息香酸アミルエステル
N,N−ジメチルアンスラニックアシッドメチルエステル
N,N−ジヒドロキシエチルアニリン
N,N−ジヒドロキシエチル−p−トルイジン
p−ジメチルアミノフェネチルアルコール
p−ジメチルアミノスチルベン
N,N−ジメチル−3,5−キシリジン
4−ジメチルアミノピリジン
N,N−ジメチル−α−ナフチルアミン
N,N−ジメチル−β−ナフチルアミン
トリブチルアミン
トリプロピルアミン
トリエチルアミン
N−メチルジエタノールアミン
N−エチルジエタノールアミン
N,N−ジメチルヘキシルアミン
N,N−ジメチルドデシルアミン
N,N−ジメチルステアリルアミン
N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート
N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート
2,2'−(n−ブチルイミノ)ジエタノール
バルビツール酸類;
5−ブチルバルビツール酸
1−ベンジル−5−フェニルバルビツール酸
メルカプト化合物;
ドデシルメルカプタン
ペンタエリスリトールテトラキス(チオグリコレート)
このような光重合開始剤(F)の配合量は、この歯面被覆材を硬化できるだけの有効量であれば特に限定されず、適宜設定すれば良いが、一般的には、前記単量体成分(A)100質量部当り、0.01〜10質量部、特に0.1〜5質量部の範囲とするのがよい。0.01質量部未満では重合が不十分になり易く、10質量部を越えると、生成重合体の強度が低下し好ましくない。
<着色剤(G)>
本発明の歯面被覆材には、硬化後の被覆層の審美性を高めることを目的で着色剤(G)を添加することが可能である。着色剤を配合することにより、得られる硬化膜の色調を調整することができる。このような着色剤としては、それ自体公知の顔料或いは染料を使用することができる。
染料(或いは顔料)の適当な例としては、フタロシアニンブルー、アンスラキノン誘導体、フロキシンBK、アシッドレッド、ファストアシッドマゼンダ、フロキシンB、ファストグリーンFCF、ローダミンB、塩基性フクシン、酸性フクシン、エオシン、エチスロシン、サフラニン、ローズベンガル、ベーメル、ゲンチアナ紫、銅クロロフィルソーダ、ラッカイン酸、フルオレセインナトリウム、コチニール、シソシン、タルク、および、チタンホワイトなどを挙げることができる。
このような着色剤は、1種単独でも2種以上を併用することもできる。着色剤の配合量は特に限定されず、歯面被覆材の色調や審美性を考慮して適宜の量とすればよいが、一般に、他の特性に悪影響を与えずに、十分な色調を付与する観点からは、前記単量体成分(A)100質量部当り、0.01〜1質量部の範囲、特に0.02〜0.5質量部の範囲が好適である。
<他の配合剤>
本発明の歯面被覆材においては、上述した各種成分以外にも、それ自体公知の各種配合剤を、本発明の目的を損なわない範囲で配合することができる。
例えば、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール等の有機増粘材を挙げることができる。また、ヒュームドシリカに加えて他の無機充填剤を添加することも有効な態様である。さらに、紫外線吸収剤、帯電防止剤、蛍光剤、香料等の各種添加剤を、必要に応じて選択して使用することもできる。これらの配合剤の添加量も、保存安定性や硬化膜の特性を損なわない程度の範囲であることは言うまでもない。
以上説明した各成分は、1液に混合され、本発明の歯面被覆材として使用に供される。その混合方法は、公知の硬化性組成物で実施されている種々の方法に従えばよく、一般的には、赤色光などの不活性光下に、配合される全成分を秤取り、均一溶液になるまでよく混合すればよい。
以下本発明を具体的に説明するために、実施例、比較例を挙げて説明するが、本発明はこれらにより何等制限されるものではない。尚、以下の例で用いた各成分の種類、各種物性の試験・評価方法は、以下の通りである。
<重合性単量体成分(A)>
[酸性基含有重合性単量体(A1)]
PM:
2−メタクリロイルオキシエチルジハイドロジェンフォスフェートとビス(2−メタクリロイルオキシエチル)ハイドロジェンホスフェートの混合物
MDP:
10−メタクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート
[酸性基を含有しない重合性単量体(A2)]
D26E:
2,2−ビス(4−(メタクリロキシエトキシ)フェニル)プロパン
BisGMA:
2,2‘−ビス[4−(2−ヒドロキシ−3−メタクリルオキシプロポキシ)フェニル]プロパン
3G:
トリエチレングリコールジメタクリレート
HEMA:
2−ヒドロキシエチルメタクリレート
<多価金属イオン(B)供給源>
多価金属イオン溶出性フィラー
F−1:製造例1で得た多価金属イオン溶出性フィラー;平均粒径;0.5μm、
24時間溶出イオン量;10 meq/g−フィラー
F−2:製造例2で得た多価金属イオン溶出性フィラー;平均粒径:0.5μm
24時間溶出イオン量;25 meq/g−フィラー
F−3:製造例3で得た多価金属イオン溶出性フィラー;平均粒径;0.5μm
24時間溶出イオン量;50 meq/g−フィラー
多価金属化合物
Al(O−iPr)3: アルミニウムトリイソプロポキシド
La(O−iPr)3: ランタニウムトリイソプロポキシド
Ti(O−iPr)4: チタニウムテトライソプロポキシド
La(OH)3 : 水酸化ランタン
<揮発性の水溶性有機溶媒(C)>
Et−OH:エチルアルコール
IPA:イソプロピルアルコール
<ヒュームドシリカ(E)粒子>
FS1:平均1次粒径18nm、比表面積220m/g、シラノール基数5個/nm
FS2:平均1次粒径18nm、比表面積120m/g、メチルトリクロロシラン処理、シラノール基数1.2個/nm
FS3:平均1次粒径18nm、比表面積200m/g、ジメチルシラン及びジクロロヘキサメチルジシラザン処理、シラノール基数1個/nm
FS4:平均1次粒径40nm、比表面積50m/g、メチルトリクロロシラン処理、シラノール基数1.3個/nm
[その他シリカ粒子]
MS:溶融シリカ、平均1次粒径0.4μm、比表面積8m/g、3−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン処理、シラノール基数2個/nm
SS:ゾルゲルシリカ、平均1次粒径60nm、比表面積70m/g、3−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン処理、シラノール基数3個/nm
PS:沈降シリカ、平均1次粒径30nm、比表面積180m/g、3−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン処理、シラノール基数>5個/nm
<光重合開始剤(F)>
CQ:カンファーキノン
DMBE:N,N−ジメチル−p−アミノ安息香酸エチル
TPO:2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキシド
<着色剤(染料、顔料)>
FCB:フタロシアニンブルー
TW:チタンホワイト
<接着強度測定方法>
試験片の作製:
屠殺後24時間以内に牛前歯を抜去し、注水下、#600のエメリーペーパーで唇面に平行になるようにエナメル質および象牙質平面を削り出した。次に、削り出されて露出した平面に圧縮空気を約10秒間吹き付けて乾燥して歯のモデルを作製した。
上記モデルの平面に直径3mmの孔の開いた両面テープを固定し、ついで直径8mmの大きさの孔の開いたパラフィンワックス(厚さ0.5mm、)を、両面テープの孔とワックスの孔とが同一中心となるように固定して模擬窩洞を形成した。
上記の模擬窩洞内に、試料の歯面被覆材を塗布し、20秒間放置後、圧縮空気を約10秒間吹き付けて乾燥した。
次に可視光線照射器(パワーライト、トクヤマデンタル社製)にて10秒間光照射し、歯面被覆材を硬化させた。
更にその上に歯科用コンポジットレジン(パルフィークエステライトΣ、トクヤマデンタル社製)を充填し、上記の可視光線照射器を用いて30秒間光照射して、接着試験片を作製した。
接着強度の測定:
上記接着試験片を37℃の水中に24時間浸漬した後、引張り試験機(オートグラフ、島津製作所製)を用いてクロスヘッドスピード2mm/minにて引張り、歯牙とコンポジットレジンの引張り接着強度を測定した。1試験当り、4本の引張り接着強度を上記方法で測定し、その平均値を初期接着強度とした。
<保存安定性評価方法>
試料となる歯面被覆材を調製し、次いで37℃のインキュベーター内で3ヶ月間保存した後、この歯面被覆材を用いて、上記した接着強度測定方法と同様の方法を用いて接着強度を測定し、37℃保存前の接着強度(初期接着強度)と比較した。また、該保存品の析出物の有無、及びゲル化状態を目視にて観察し、下記評価基準に従って保存安定性を評価した。
<評価基準>
1 ; 析出物なし、ゲル化なし
2 ; 僅かに析出物あり、ゲル化なし
3 ; 析出物あり、ゲル化なし
4 ; 析出物あり、一部ゲル化
5 ; 全体がゲル化
<硬化体の曲げ強度および耐水性測定方法>
硬化体の作製:
ポリテトラフルオロエチレン製型枠に、圧縮空気を吹き付けて揮発性有機溶媒を揮発させた歯面被覆材を充填し、この歯面被覆材の一方の面にポリプロピレンフィルムを圧接し、歯面被覆材の全体に光が当たるように場所を変えながら、30秒×3回、トクソーパワーライトをポリプロピレンに密着させて光照射を行なった。ついで、歯面被覆材の反対の面にも同様にポリプロピレンを圧接し、同様にして30秒×3回光照射して、試験片となる硬化体を得た。
曲げ強度の評価:
上記の硬化体を37℃水中下24時間浸漬した後、#800の耐水研磨紙にて、硬化体を2×2×25mmの角柱状に整え、この試験片を試験機(島津製作所製、オートグラフAG5000D)に装着し、支点間距離20mm、クロスヘッドスピード1mm/分で3点曲げ強度を測定した。1試験当り、5本の3点曲げ強度を測定し、その平均値を初期曲げ強度とした。
耐水性の評価:
上記方法により作製した3点曲げ強度測定用の試験片を37℃水中下1ヶ月間放置した後に、同様の方法により3点曲げ強度を測定し、初期曲げ強度と比較して耐水性を評価した。
<硬化膜表面の滑沢維持性の評価>
試験片の作製:
接着強度測定の測定と同様にして歯のモデルを作製した。
次いで、上記モデルの削り出された平面全体に試料の歯面被覆材を塗布し、20秒間放置後、圧縮空気を約10秒間吹き付けて乾燥した。
次に、可視光線照射器(パワーライト、トクヤマデンタル社製)にて10秒間光照射し歯面被覆材を硬化させた。形成された硬化膜表面をさっと拭き取って、硬化膜表面に形成される未重合層を取り除き、試験片を得た。
滑沢維持性の評価:
該硬化膜表面の滑沢性を以下に示す評価基準により評価を行なった。
〇:硬化膜表面に光沢が確認できる。
×:硬化膜表面に光沢がなく、曇ったような表面が確認できる。ひどいものでは、歯面被覆材が十分硬化しておらず表面がべちゃべちゃした状態のものもある。
また、各試験片を37℃水中下1ヶ月間放置後に硬化膜表面の滑沢性を評価し、水中放置前の滑沢性と比較した。
<硬化体表面の重合率の測定方法>
圧縮空気を吹き付けて揮発性有機溶媒を揮発させた歯面被覆材を、直径6mmの円柱状の穴を開けたポリテトラフルオロエチレン(厚さ0.5mm)の型に流し込んだ後、該歯面被覆材表面の赤外吸収(IR)スペクトルを赤外分光分析装置(Perkin Elmer社製「Spectrum One」)を用いて、1回反射(ATR)法により測定した。
次に、上記歯面被覆材の表面に、30秒間、全体に光が当たるように可視光線照射器にて光照射して硬化体を得た。
硬化体表面のIRスペクトルを前記と同様の方法で測定し、硬化前及び硬化後(硬化体)のIRスペクトルから、硬化体表面の重合率を以下の式より算出した。
重合率%=100−(Pcc・Qco/Pco)・100
式中、Pccは、硬化体のC=Cピーク強度であり、
Pcoは、硬化体のC=Oピーク強度であり、
Qcoは、硬化前の被覆材のC=Oピーク強度である。
<多価金属イオン量測定方法>
各成分を混合して試料の歯面被覆材を調製し、24時間攪拌した後、100mlのサンプル管に該被覆材0.2gを計り取り、イソプロパノール(IPA)を用いて0.1%に希釈した。
この希釈液をICP(誘導結合型プラズマ)発光分光分析を用いて、重合性単量体成分(A)1g当りに含まれるAl、La、Caイオン濃度(mmol/g)を測定した。なお、各金属イオン濃度は、各イオンの標準試料(1ppm、2.5ppm、6.25ppm)から求めた検量線を用いて換算した。得られた各イオン濃度にそれぞれのイオン価数をかけた値の総和を計算することで、(A)成分1gに対するイオン結合量、即ち多価金属イオン量/meqを求めた。
なお、本実施例及び比較例で使用したフィラーから溶出する多価金属イオンは、上記したAl、La、Caイオン以外のものは検出されなかった。
<歯ブラシ摩耗試験>
試験片の作製:
接着強度の測定と同様にして、象牙質が表面に露出した歯のモデルを作製した。
このモデルの象牙質平面の全面に、試料の歯面被覆材を塗布し、20秒間放置後、圧縮空気を約10秒間吹き付けて乾燥した。次に、可視光線照射器を用いて10秒間光照射して歯面被覆材の硬化膜を形成した。
このように硬化膜が形成されたモデル表面の半分に、歯科用コンポジットレジン(エステライトLハイフロー、トクヤマデンタル社製)を塗布し、上記の可視光線照射器を用いて30秒間光照射して、厚みが約100μmのコンポジットレジン層を形成し、これを試験片とした。この試験片の概略断面を図1に示す。
摩耗試験:
次いで、試験片を歯ブラシ試験器(テスター産業社製:AB−301)にセットし、33質量%歯磨き剤(ライオン製:ホワイト&ホワイト)水溶液を歯ブラシが隠れるように加え、400gfの荷重をかけ、10000回歯ブラシ試験を行った。
摩耗処理後の試験片の処理面の全体にコンポジットレジンを築盛し、硬化させた。
次いで、ダイヤモンドカッターを用い、この試験片を、摩耗処理面に対して垂直に切断し、この切断面を鏡面研磨処理してレーザー顕微鏡で観察した。
この顕微鏡観察により、処理面の半分に形成されているコンポジットレジン層で覆われた歯面被覆材の硬化膜の上面から磨耗された歯面被覆材の硬化膜の表面までの段差を測定し、この段差の大きさで耐摩耗性(耐久性)を評価した。即ち、この段差が小さいほど、硬化膜の耐摩耗性が高く、耐久性に優れていることを示す。
<象牙細管封鎖性の評価方法>
知覚過敏症モデルの作製:
新鮮牛歯を600♯耐水研磨紙を用いて研磨して象牙質を露出させた。次いで、露出した象牙質表面を、歯科用タービンに装着されたロビンソンブラシと歯磨き剤を用いて3分間、清掃研磨した。このように処理された牛歯を、超音波洗浄器を用いて1時間洗浄し、知覚過敏症モデルを作製した。
この知覚過敏症モデルの象牙質表面の顕微鏡写真を図2に示す。
図2の顕微鏡写真に示されているように、この象牙質表面には、多数の象牙細管が露出しており、その開放率は約80%であった。
封鎖性の評価:
上記で作製された知覚過敏症モデルの象牙質表面に試料の歯面被覆材を塗布し、可視光線照射器を用いて10秒間光照射して歯面被覆材の硬化膜を形成した。
このように硬化膜が形成されたモデルの処理面の全体にコンポジットレジンを築盛し、硬化させた後、ダイヤモンドカッターを用いて象牙質面に対して垂直に切断し、この切断面を鏡面研磨処理した。
次いで、上記のモデルを6Nの塩酸溶液に30秒間浸漬し、さらに1%次亜塩素酸ナトリウム水溶液に10分間浸漬し、象牙質の表面側を溶解させた。乾燥後、切断面をSEM観察し、象牙細管の封鎖性を評価した。即ち、歯面被覆材が象牙細管内に奥深く浸透し、奥深く浸透した部分でも良好に硬化している場合には、象牙質が溶解した面に、樹脂のタグが多く形成されており、このタグの有無により、象牙細管の封鎖性を評価できる。
実施例1については、このSEM写真を図3に示した。また、タグが形成されていた場合には、適当に選んだタグ10本の長さ(象牙質平面からタグの先端までの長さ)を測定し、その平均値を比較した。
<被膜均一性の評価方法>
試験片の作製:
歯科用タービンに装着された直径4mmのバーを用いて、新鮮牛歯の唇側面から直径4mm、深さ3mmの第一孔を開き、さらに、同じバーを、その中心を第一孔より半径分ほど放射方向にずらして1.5mmの深さまで下げて、第一孔と重なる第二孔を開き、階段構造の模擬窩洞を形成した。
上記の模擬窩洞内に、試料の歯面被覆材を塗布し、20秒間放置後、圧縮空気を約10秒間吹き付けて乾燥した。
次に可視光線照射器(パワーライト、トクヤマデンタル社製)にて10秒間光照射し、歯面被覆材を硬化させた。模擬窩洞の処理面の全体にコンポジットレジンを築盛し、硬化させた。コンポジットレジンを充填したのは被膜を観察しやすくするためである。
上記模擬窩洞を形成した牛歯を37℃の水中に24時間浸漬した後、ダイヤモンドカッターを用い、模擬窩洞に対して垂直に切断し、被膜均一性に用いる試験片とした。この試験片の概略断面を図4に示す。
被膜均一性の観察:
上記被膜均一性に用いる試験片の切断面を鏡面研磨処理した後、図4に示したエッジ部、および第一孔の左隅角部と右隅角部とを、レーザー顕微鏡で観察しそれぞれ角の頂点における、歯面被覆材により形成された被膜の厚みを測定し、被膜均一性を評価した。即ち、模擬窩洞に形成されたどの角部でも、できるだけ差なく同様な厚みを有する被膜ができた場合には、被膜均一性に優れていることを示す。
<多価金属フィラーの製造>
製造例1:
フルオロアルミノシリケートガラス粉末(トクソーアイオノマー、トクヤマデンタル社製)を湿式の連続型ボールミル(ニューマイミル、三井鉱山社製)を用いて平均粒径0.5μmまで粉砕し、その後粉末1gに対して、20gの5.0N塩酸でフィラー表面を40分間処理し、多価金属フィラー(F−1)を得た。
得られたフィラー0.1gを温度23℃、10重量%マレイン酸水溶液10ml中に浸漬した時の24時間後に溶出した多価金属イオンの量を分析した結果、10 meq/g−フィラー(24時間溶出イオン量)であった。
製造例2:
フルオロアルミノシリケートガラス粉末(トクソーアイオノマー、トクヤマデンタル社製)を湿式の連続型ボールミル(ニューマイミル、三井鉱山社製)を用いて平均粒径0.5μmまで粉砕し、その後粉末1gに対して、20gの5.0N塩酸でフィラー表面を20分間処理し、多価金属フィラー(F−2)を得た。この多価金属フィラーの24時間溶出イオン量は25 meq/g−フィラーであった。
製造例3:
フルオロアルミノシリケートガラス粉末(トクソーアイオノマー、トクヤマデンタル社製)を湿式の連続型ボールミル(ニューマイミル、三井鉱山社製)を用いて平均粒径0.5μmまで粉砕し、多価金属フィラー(F−3)を得た。この多価金属フィラーの24時間溶出イオン量は50 meq/g−フィラーであった。
<実施例1>
下記処方により、各成分を混合し、本発明の歯面被覆材を調製した。
(A1)成分: PM 2.5g
(A2)成分: Bis−GMA 3.0g
3G 2.0g
HEMA 2.5g
(B)成分: F−2 0.08g
(C)成分: IPA 4.0g
(D)成分: 水 1.5g
(E)成分: FS2 1.0g
(F)成分: CQ 0.1g
DMBE 0.15g
この歯面被覆材を用いて、製造直後のエナメル質および象牙質に対する接着強度、保存安定性、硬化体の曲げ強度および耐水性、硬化膜表面の滑沢維持性、硬化膜表面の重合率および被膜均一性を評価した。歯面被覆材の組成を表1に、評価結果を表2に示した。
<実施例2〜21>
各成分の配合処方を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして歯面被覆材を調製し、その評価を行った。評価結果は、表2に示した。
<比較例1〜15>
各成分の配合処方を表3に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして歯面被覆材を調製し、その評価を行った。評価結果は、表4に示した。
実施例1〜21は、各成分が本発明で規定される、歯面被覆材の構成を満足するように配合されたものであるが、いずれの場合においても、エナメル質および象牙質に対して良好な接着強度が得られた。また、37℃のインキュベーター内で3ヶ月間保存した場合においてもゲル化することなく、上記優れた歯質に対する接着性能が維持されており、良好な保存安定性を有していた。また、硬化体の初期曲げ強度も良好であり、37℃水中下3ヶ月放置後においても、上記曲げ強度の値はほとんど低下せず、本発明の歯面被覆材の硬化体は優れた耐水性を有しており、硬化体表面の重合率も高く、硬化膜表面の滑沢維持性にも優れていた。さらに、いずれの場合においても、模擬窩洞に均一な被膜ができ、優れた被膜均一性を有していた。ただし、これらの中でもイオン量が多い程、目視評価による保存安定性が低下傾向にあることがわかる。
これに対して、比較例1および2の歯面被覆材は、(A1)酸性基含有重合性単量体が配合されていないか(比較例1)、その配合量が本発明の規定値より少ない(比較例2)。いずれの場合においても、歯質脱灰力が不足する為、接着強度が低いものであった。また、酸成分が無い、或いは少ない為に、多価金属イオン溶出性フィラーから多価金属イオンが溶出せず、硬化体の曲げ強度および耐水性、硬化体表面の重合率、および硬化膜表面の滑沢維持性も大きく低下した。また、均一な被膜も形成されなかった。
比較例3、4の歯面被覆材は、多価金属イオン(B)が存在していないか(比較例3)、多価金属イオン(B)の量が本発明の規定値より少ない(比較例4)。いずれの場合においても、イオン架橋の形成が不十分になり、歯質に対する接着強度、硬化体の耐水性、硬化体表面の重合率、および硬化体表面の滑沢維持性が大きく低下した。また、均一な被膜も形成されなかった。
また、比較例5の歯面被覆材は、多価金属イオン(B)の量が本発明の規定値より多く、この場合には、歯質脱灰力が低下すると共に、1液で保存可能とする為には(C)揮発性の水溶性有機溶媒の必要量を多くしなければならず、その結果、エアブロー処理後に硬化膜を形成するための有効成分が不足して、歯質に対する接着強度、硬化体の強度、硬化体表面の重合率、および硬化体表面の滑沢維持性が大きく低下した。
比較例6の歯面被覆材は、(C)揮発性の水溶性有機溶媒が配合されていないため、歯面被覆材における歯質への浸透性が不足し、初期接着強度が低下すると共に、保存安定性の測定試験において、37℃放置後1日〜5日経過時点で歯面被覆材がゲル化した。
また、比較例7は、(C)揮発性の水溶性有機溶媒の配合量が、本発明の規定値より多く、エアブロー処理後に硬化膜を形成するための有効成分が不足しがちとなり、このため、歯質に対する接着強度、硬化体の強度、硬化体表面の重合率、および硬化体表面の滑沢維持性が大きく低下した。また、均一な被膜も形成されなかった。
比較例8の歯面被覆材には、(D)水が配合されていないため、歯質脱灰力の低下から接着強度が大きく低下した。また、多価金属イオンもほとんど溶出しないため、硬化体の強度、硬化体表面の重合率、および硬化体表面の滑沢維持性も同様に大きく低下した。また、均一な被膜も形成されなかった。
また、比較例9の歯面被覆材では、(D)水の配合量が、本発明の規定値より多く、エアブロー処理によって(C)揮発性の水溶性有機溶媒を揮発させても水が大量に塗布面に残存し、歯質に対する接着強度、硬化体の強度、硬化体表面の重合率、および硬化体表面の滑沢維持性が大きく低下した。
比較例10、11の歯面被覆材は、(E)ヒュームドシリカが配合されておらず、被覆材の硬化体強度が低いため、硬化体曲げ強度が大きく低下した。また、歯質との親和性及びなじみが低いために均一な被膜が形成されなかった。特に、多価金属イオン(B)の量が多めである比較例11においてはこの被膜均一性の悪化が激しかった。
比較例12〜14の歯面被覆材には、(E)ヒュームドシリカに代えて、他のシリカ粒子を用いた場合であり、歯質に対する接着強度が低下した。また、歯質との親和性及びなじみが低いために均一な被膜が形成されなかった。
比較例15の歯面被覆材には、(F)光重合開始剤が配合されておらず、この場合には、歯面被覆材は硬化せず、硬化膜を形成することができない。
<実施例22〜27>
イオン供給源として、多価金属イオン溶出性フィラー以外の多価金属イオン供給源を使用し、各成分の配合処方を表5に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして歯面被覆材を調整し、その評価を行った。評価結果は、表6に示した。
実施例22〜27は、各成分が本発明で規定される、歯面被覆材の構成を満足するように配合されており、いずれの場合においても、エナメル質および象牙質に対して良好な接着強度が得られた。また、37℃のインキュベーター内で3ヶ月間保存した場合においてもゲル化することなく、上記優れた歯質に対する接着性能が維持されており、良好な保存安定性を有していた。また、硬化体の初期曲げ強度も良好であり、37℃水中下3ヶ月放置後においても、上記曲げ強度の値はほとんど低下せず、本発明の歯面被覆材の硬化体は優れた耐水性を有しており、硬化体表面の重合率も高く、硬化膜表面の滑沢維持性および被膜均一性にも優れていた。ただし、これらの中でもイオン量が多い程、目視評価による保存安定性が低下傾向にあることが分かる。
<磨耗性及び象牙細管封鎖性の評価>
<実施例28〜40>
本発明の歯面被覆材を用いて、磨耗性及び象牙細管封鎖性を評価した。歯面被覆材は表1及び表5に記載したものをそのまま使用した。評価結果を表7、8に示した。
<比較例16〜25>
表3に記載された歯面被覆材のうち、表9に示したものをそのまま用いて、磨耗性及び象牙細管封鎖性を評価した。評価結果を表9に示した。
実施例28〜54は、各成分が本発明で規定される歯面被覆材の構成を満足するように配合されたものであるが、いずれの場合においても、良好な耐摩耗性及び象牙細管封鎖性を有している事がわかる。また、37℃のインキュベーター内で3ヶ月間保存した場合においてもゲル化することなく、上記優れた耐摩耗性及び象牙細管封鎖性が維持されており、良好な保存安定性を有していた。
比較例16および17の歯面被覆材は、(A1)酸性基含有重合性単量体が配合されていないか(比較例16)、その配合量が本発明の規定値より少ない(比較例17)。前者の場合、歯質脱灰力が不足すると共に、多価金属イオンがほとんど溶出されない為、イオン架橋による硬化膜強度の向上効果が得られず、硬化膜はすべて歯ブラシによる磨耗により消失した。また、象牙細管封鎖性に関してもタグの形成が見られなかった。後者の場合でも、歯質脱灰力が不足している為、硬化膜が歯ブラシによる磨耗により、歯質との界面で剥離した。また、象牙細管封鎖性も著しく低下している。
比較例18〜19の歯面被覆材は、多価金属イオン(B)が存在していないか(比較例18)、多価金属イオン(B)の量が本発明の規定値より少ない(比較例19)。いずれの場合においても、イオン架橋の形成が不十分になり、耐磨耗性及び象牙細管封鎖性が著しく低下している。
また、比較例20の歯面被覆材は、多価金属イオン(B)の量が本発明の規定値より多く、この場合には、歯質脱灰力が低下すると共に、1液で保存可能とする為には(C)揮発性の水溶性有機溶媒の必要量を多くしなければならず、その結果、エアブロー処理後に硬化膜を形成するための有効成分が不足して、耐磨耗性及び象牙細管封鎖性が著しく低下している。
比較例21の歯面被覆材は、(C)水溶性有機溶媒が配合されていないため、歯面被覆材における歯質への浸透性が不足し、象牙細管封鎖性が著しく低下すると共に、保存安定性の測定試験において、37℃放置後1日〜5日経過時点で歯面被覆材がゲル化した。
また、比較例22は、(D)揮発性の水溶性有機溶媒の配合量が、本発明の規定値より多く、エアブロー処理後に硬化膜を形成するための有効成分が不足しがちとなり、このため、耐磨耗性及び象牙細管封鎖性が著しく低下している。
比較例23の歯面被覆材には、(D)水が配合されていないため、歯質脱灰力が不足し、硬化膜が歯ブラシによる磨耗により、歯質との界面で剥離した。また、象牙細管封鎖性においても、タグの形成が殆ど見られなかった。
また、比較例24の歯面被覆材では、(D)水の配合量が、本発明の規定値より多く、エアブロー処理によって(C)揮発性の水溶性有機溶媒を揮発させても水が大量に塗布面に残存し、硬化膜の耐磨耗性及び象牙細管封鎖性が著しく低下していた。
比較例25の歯面被覆材には、(E)ヒュームドシリカが配合されておらず、硬化体強度の低下、および歯質との親和性、なじみが低く、歯面被覆材における歯質への浸透性が不足する為、耐磨耗性が低下していた。また、象牙細管封鎖性においても、タグの形成が十分でなかった。

Claims (6)

  1. ワンパッケージで保存され且つ歯の表面に直接外面被覆を形成するために使用される1液型歯面被覆材において、
    (A)酸性基含有重合性単量体を5質量%以上含む重合性単量体成分;
    (B)多価金属イオン;
    (C)揮発性の水溶性有機溶媒;
    (D)水;
    (E)ヒュームドシリカ;
    (F)有効量の光重合開始剤;
    を含有しており、
    前記多価金属イオン(B)は、前記重合性単量体成分(A)1g当り0.2〜7.0meqとなるような量で存在し、
    前記水溶性有機溶媒(C)は、前記重合性単量体成分(A)100質量部当り30〜150質量部の範囲で且つ下記式(1):
    α≧20・X …(1)
    式中、αは、前記水溶性有機溶媒(C)の前記重合性単量体成分(A)100質量部当りの配合量であり、
    Xは、前記多価金属イオンの量であって、前記重合性単量体成分(A)1g当りの量(meq)を示す数である、
    で表される条件を満足するような量で配合され、
    前記水(D)は、前記重合性単量体成分(A)100質量部当り3〜30質量部の量で配合され、
    前記ヒュームドシリカ(E)は前記重合性単量体成分(A)100質量部当り0.5〜20質量部の量で配合されていることを特徴とする1液型歯面被覆材。
  2. 多価金属イオン(B)の配合量が、前記重合性単量体成分(A)1g当り0.3〜1.0未満meqとなるような量である請求項1に記載の1液型歯面被覆材。
  3. 前記多価金属イオン(B)は、多価金属イオン溶出フィラーからの溶出により存在している請求項1または請求項2に記載の1液型歯面被覆材。
  4. さらに着色剤(G)を含有している請求項1〜3のいずれか一項に記載の1液型歯面被覆材。
  5. 前記重合性単量体成分(A)中の酸性基含有重合性単量体が、リン酸基を含有する重合性単量体である請求項1〜4のいずれか一項に記載の1液型歯面被覆材。
  6. 前記多価金属イオン溶出性フィラーは、該フィラー0.1gを10重量%マレイン酸水溶液10mlに加えて23℃で24時間保持した時の多価金属イオン溶出量が、5.0〜500meq/g―フィラーを示すものである請求項3〜5のいずれか一項に記載の1液型歯面被覆材。
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