JP2010144558A - エンジンの制御方法および制御装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】圧縮自己着火モードで運転可能な領域をより高負荷側まで拡大しつつ、異常燃焼やエンジン出力の低下を防止する。
【解決手段】エンジンの運転状態が、圧縮自己着火モードが選択されかつ過給機23が使用される過給HCCI領域A2にあるときに、気筒2内の既燃ガス量を制御するEGRを行うとともに、吸気弁11の閉じ時期(IVC)を圧縮行程の下死点よりも遅角させて圧縮開始時期を遅らせ、かつ、エンジン負荷が高いときほど上記EGRの量および吸気弁11の閉じ時期の遅角量を増大させる。
【選択図】図3
【解決手段】エンジンの運転状態が、圧縮自己着火モードが選択されかつ過給機23が使用される過給HCCI領域A2にあるときに、気筒2内の既燃ガス量を制御するEGRを行うとともに、吸気弁11の閉じ時期(IVC)を圧縮行程の下死点よりも遅角させて圧縮開始時期を遅らせ、かつ、エンジン負荷が高いときほど上記EGRの量および吸気弁11の閉じ時期の遅角量を増大させる。
【選択図】図3
Description
本発明は、気筒内の予混合気を圧縮行程時に自己着火させる圧縮自己着火モードと、火花点火により混合気を強制的に着火させる火花点火モードとの間で燃焼形式を切り替え可能で、かつ過給機を備えたエンジンを制御する方法等に関する。
従来、例えば下記特許文献1に示されるように、気筒内に導入される吸入空気に燃料を混合して混合気を生成するとともに、排気上死点の前後に吸気弁と排気弁の双方がともに閉じる密閉期間を設けて既燃ガスを内部EGRガスとして気筒内に残留させることにより、圧縮時の筒内温度を上記混合気の燃焼温度まで上昇させて混合気を自己着火させるようにした、いわゆる予混合圧縮自己着火エンジンが知られている。
この特許文献1に開示された予混合圧縮自己着火エンジンは、さらに、吸入空気を加圧する過給圧可変型の過給機と、エンジンから排気通路に排出された既燃ガス(排気ガス)の一部を外部EGRガスとして気筒内に戻す外部EGR機構とを備えている。そして、高負荷時には、上記過給機を作動させて吸入空気の量を増大させるとともに、上記外部EGR機構に設けられたEGR制御弁を開側に制御して外部EGRの量を増大させるようにしている。
特開2007−198135号公報
上記特許文献1の技術のように、エンジン負荷が高まるのに応じて外部EGRの量を増大させるようにした場合には、内部EGRの供給および過給機の過給により良好になり過ぎた着火性を緩慢化して異常燃焼(ノッキング等)を防止できる等の利点が得られる。
しかしながら、上記構成において、エンジン負荷がさらに高まり、それに応じたEGR量の増大に伴い気筒内の既燃ガス量が増大すると、圧縮時の筒内温度が高くなり過ぎて過早着火を招き、かえって燃焼状態が悪化してしまうおそれがある。このため、エンジン負荷がある程度高まったところで、上記のような圧縮自己着火による燃焼形式(圧縮自己着火モード)から、点火プラグ等を用いた火花点火による燃焼形式(火花点火モード)に切り替える必要が生じるが、上記特許文献1の構成では、この切り替えを比較的早期に(低負荷側で)行わざるを得ず、上記圧縮自己着火による燃費改善等のメリットを十分に発揮させることができないという問題がある。
このような点を考慮すると、過早着火等の異常燃焼が高負荷域でも起きないように筒内温度を適正に制御する等により、圧縮自己着火モードで運転できる領域をより高負荷側まで拡大することが望まれるが、圧縮自己着火モードによる運転は高出力化の面で不利であるため、単に異常燃焼を抑えるのみでは、エンジンの高負荷域で十分な出力を確保できなくなるおそれがある。
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、圧縮自己着火モードで運転可能な領域をより高負荷側まで拡大しつつ、異常燃焼やエンジン出力の低下を効果的に防止することが可能なエンジンの制御方法および制御装置を提供することを目的とする。
上記課題を解決するためのものとして、本発明は、気筒内の予混合気を圧縮行程時に自己着火させる圧縮自己着火モードと、火花点火により混合気を強制的に着火させる火花点火モードとの間で燃焼形式を切り替え可能で、かつ過給機を備えたエンジンを制御する方法であって、エンジンの運転状態が、上記圧縮自己着火モードが選択されかつ上記過給機が使用される過給HCCI領域にあるときに、気筒内の既燃ガス量を制御するEGRを行うとともに、吸気弁の閉じ時期を圧縮行程の下死点よりも遅角させて圧縮開始時期を遅らせ、かつ、エンジン負荷が高いときほど上記EGRの量および吸気弁の閉じ時期の遅角量を増大させることを特徴とするものである(請求項1)。
本発明によれば、エンジンの運転状態が過給HCCI領域にあるときに、エンジン負荷の上昇に応じてEGRの量を増大させるようにしたため、圧縮自己着火モードで燃焼する際の予混合気の燃焼速度を上記EGRによる効果で緩慢化することにより、高負荷時の最大筒内圧を抑制することができ、筒内圧が上昇し過ぎることによるノッキングの発生を効果的に防止することができる。また、エンジン負荷が高いほど吸気弁の閉じ時期を遅角させて実質的な圧縮開始時期を遅らせる(つまり有効圧縮比を小さくする)ようにしたため、圧縮による昇温幅を減少させて筒内温度を低下させることができ、上記EGRの増大により生じ易くなる過早着火を抑制して燃焼状態をより安定化させることができる。さらに、上記過給HCCI領域では、過給機による過給が行われて比較的多量の新気が短期間の間に気筒内に充填されるため、上記のように圧縮開始時期を遅らせたとしても、エンジンの出力は十分に確保される。
以上のことから、本発明によれば、負荷が比較的高い領域まで圧縮自己着火モードによる燃焼形式を維持したとしても、そのことにより懸念される異常燃焼の発生やエンジン出力の低下を極力抑制することができる。このため、圧縮自己着火モードで運転することによる燃費改善等の効果をより拡大させながら、燃焼状態を適正に制御してその安定化を図ることができ、しかもエンジン出力を十分に確保できるという利点がある。
本発明において、好ましくは、上記EGRとして、排気弁の閉じ時期を排気行程の上死点より進角させることで気筒内に既燃ガスを残留させる内部EGRを行うとともに、上記過給HCCI領域でエンジン負荷が高いときには、上記排気弁の閉じ時期の進角量を増大させることにより上記EGRの量を増大させる(請求項2)。
このように、排気弁の閉じ時期を進角させることで内部EGRを行うようにした場合には、より温度の高い燃焼直後の既燃ガスを気筒内に閉じ込めることができるため、自己着火し易い高温の雰囲気を気筒内に容易に形成することができる。そして、内部EGRにより既燃ガスを残留させる際に、エンジン負荷の上昇に応じて上記排気弁の閉じ時期の進角量を増大させることにより、気筒内に残留する既燃ガスの量をエンジン負荷に応じた量に適正に調整できるという利点がある。
上記過給HCCI領域では、エンジン負荷が高いときほど上記過給機による過給圧を上昇させることが好ましい(請求項3)。
このようにすれば、上記のような圧縮開始時期の遅延により負荷の上昇とともに不足がちになる新気を、過給によって効率的に気筒内に充填することができる。このため、負荷が高いときに有効圧縮比をより低下させて筒内温度の過上昇を抑制しつつ、温度の低い新気を気筒内に効率よく充填して空気充填率をより向上させることができ、燃焼状態の安定化を図りながらエンジン出力をより向上させることができるという利点がある。
上記過給HCCI領域で吸気弁の閉じ時期の遅角量を増大させる際には、筒内温度が高いときほどその増大幅を大きくすることが好ましい(請求項4)。
このようにすれば、筒内温度が高いときには圧縮開始時期をより遅らせて有効圧縮比を低下させることにより、筒内温度が過度に上昇することによる過早着火の発生をより効果的に防止できるという利点がある。
また、本発明は、気筒内の予混合気を圧縮行程時に自己着火させる圧縮自己着火モードと、火花点火により混合気を強制的に着火させる火花点火モードとの間で燃焼形式を切り替え可能で、かつ過給機を備えたエンジンを制御する装置であって、エンジンの運転状態を判定する運転状態判定手段と、エンジンの吸排気に関する動作を制御する吸排気制御手段とを備え、上記運転状態判定手段により、エンジンの運転状態が、上記圧縮自己着火モードが選択されかつ上記過給機が使用される過給HCCI領域にあると判定されると、上記吸排気制御手段は、気筒内の既燃ガス量を制御するEGRを行うとともに、吸気弁の閉じ時期を圧縮行程の下死点よりも遅角させて圧縮開始時期を遅らせ、かつ、エンジン負荷が高いときほど上記EGRの量および吸気弁の閉じ時期の遅角量を増大させることを特徴とするものである(請求項5)。
この制御装置によれば、上述した制御方法による場合と同様の作用効果を得ることができる。
以上説明したように、本発明によれば、圧縮自己着火モードで運転可能な領域をより高負荷側まで拡大しつつ、異常燃焼やエンジン出力の低下を効果的に防止することができる。
図1は、本発明のエンジンの制御方法が適用されたエンジンの全体構成を概略的に示す図である。本図に示されるエンジンは、紙面に直交する方向に配置された複数の気筒2(図1ではそのうちの1つのみを示す)を有したシリンダブロック3と、このシリンダブロック3上に配置されたシリンダヘッド4とを備えた多気筒ガソリンエンジンからなるエンジン本体1を有している。このエンジン本体1の各気筒2にはピストン5が嵌挿されており、このピストン5の上面と上記シリンダヘッド4の下面との間に所定容積の燃焼室6が形成されている。上記ピストン5はコネクティングロッドを介してクランク軸7と連結されており、上記ピストン5の往復運動に応じて上記クランク軸7が軸回りに回転するようになっている。
上記シリンダヘッド4には、燃焼室6の天井部に開口する吸気ポート9および排気ポート10が各気筒2ごとに形成されている。吸気ポート9は燃焼室6の天井部から斜め上方に延びてシリンダヘッド4の一方側の側壁に開口し、排気ポート10は他方側の側壁に開口している。これら各開口には、後述する吸気通路20および排気通路25がそれぞれ接続されている。
また、上記シリンダヘッド4には吸気弁11および排気弁12が設けられており、これら吸排気弁11,12によって上記吸気ポート9および排気ポート10がそれぞれ開閉されるようになっている。上記吸排気弁11,12は、それぞれ、シリンダヘッド4に配設された一対のカムシャフト(図示省略)等を含む動弁機構13によりクランク軸7の回転に同期して開閉駆動される。
上記吸気弁11および排気弁12用の各動弁機構13には、可変バルブリフト機構(Variable Valve Lift Mechanism)としてのVVL14と、可変バルブタイミング機構(Variable Valve Timing Mechanism)としてのVVT15とがそれぞれ組み込まれている。上記VVL14は、上記カムシャフトに取り付けられたカムの揺動軌跡を後述するPCM30からの指令に基づき変更することにより、上記吸排気弁11,12のリフト量(開弁量)をエンジンの運転状態に応じて変更するものである。また、上記VVT15は、上記クランク軸7に対するカムシャフトの回転位相をPCM30からの指令に基づき変更することにより、上記吸排気弁11,12の開閉タイミング(位相角度)をエンジンの運転状態に応じて変更するものである。そして、これらVVL14およびVVT15の作動に応じて、上記吸排気弁11,12のリフト特性が変更され、その結果、各気筒2への吸入空気量や残留既燃ガス(内部EGRガス)の量が調整されるようになっている。なお、上記VVL14およびVVT15は、既に様々な形式のものが実用化されて公知であるため、ここではVVL14およびVVT15の構造についての詳細な説明は省略する。
上記シリンダヘッド4には、各気筒2の燃焼室6を臨むように点火プラグ16が設けられており、その上方に設けられた点火回路17からの給電に応じて、上記点火プラグ16から所定のタイミングで放電(火花点火)が行われるようになっている。
さらに、上記シリンダヘッド4には、その吸気側の側方から燃焼室6を臨むようにインジェクタ(燃料噴射弁)18が設けられており、エンジンの吸気行程等においてこのインジェクタ18から燃焼室6に対し直接燃料(ガソリン)が噴射されることにより、燃焼室6内に所定の空燃比の混合気が生成されるようになっている。
図1の右側にあたるエンジンの吸気側には吸気通路20が配設されており、この吸気通路20の一端部が上記シリンダヘッド4の吸気側の側壁に接続されて上記吸気ポート9と連通している。そして、図外のエアクリーナで濾過された空気が上記吸気通路20および吸気ポート9を通じて各気筒2の燃焼室6に供給されるようになっている。
上記吸気通路20の途中部にはサージタンク21が配設されており、吸気通路20のうちこのサージタンク21よりも上流側に位置する共通通路には、例えばバイワイヤー化した電子制御式のスロットル弁22が配設されている。また、上記サージタンク21より下流側の吸気通路20は各気筒2ごとに分岐した分岐通路とされており、上記スロットル弁22により流量が調整された空気が上記分岐通路を通って各気筒2の燃焼室6にそれぞれ導入されるようになっている。
上記スロットル弁22のさらに上流側には、吸入空気を加圧するための過給機23が設けられている。この過給機23は、図外のバッテリ等からの供給電力で作動する電動モータ24により回転駆動され、そのモータ回転数の制御等に応じて過給圧を変更し得るように構成されている。
図1の左側にあたるエンジンの排気側には排気通路25が配設されており、この排気通路25の一端部が上記シリンダヘッド4の排気側の側壁に接続されて上記排気ポート10と連通している。そして、各気筒2の燃焼室6で混合気が燃焼すると、それによって生成された既燃ガス(排気ガス)が上記排気通路25を通じて外部に排出されるようになっている。なお、排気通路25の途中部には、排気ガス中の有害成分を浄化するための触媒コンバータ27が設けられている。
以上のように構成されたエンジンには、その動作を統括的に制御する制御装置として、従来周知のCPUや各種メモリー等からなるPCM(Powertrain Control Module)30が設けられている。
上記PCM30は、エンジンの各部に設けられたセンサ類と電気的に接続されている。具体的に、上記PCM30には、クランク軸7の回転角(クランク角)を検出するクランク角センサ31と、吸気通路20を通過する吸入空気の量を検出するエアフローセンサ32と、スロットル弁22を開閉操作する図外のアクセルペダルの操作量(アクセル開度)を検出するアクセル開度センサ33と、各気筒2の燃焼室6内の圧力を検出する筒内圧センサ34とが電気的に接続されており、これら各種センサ31〜34で検出された状態量が電気信号として上記PCM30にそれぞれ入力されるようになっている。
上記PCM30は、上記各種センサ31〜34から入力される検出値に基づいて、上記VVL14、VVT15、点火回路17、およびインジェクタ18等の各部の動作を統括的に制御する。そして、このようなPCM30により各部が制御されることで、当実施形態のエンジンは、その運転状態に応じて、主に吸気行程中にあらかじめ生成された混合気(予混合気)を圧縮行程時に自己着火させる圧縮自己着火モード(Homogeneous Charge Compression Ignition Mode)と、点火プラグ16を用いた火花点火により混合気を強制的に着火させる火花点火モード(Spark Ignition Mode)との間で燃焼形式を自在に切り替えられるように構成されている。
上記PCM30の機能についてより詳しく説明すると、PCM30は、その機能要素として、運転状態判定手段30a、吸排気制御手段30b、過給機制御手段30c、および記憶手段30dを有している。
上記運転状態判定手段30aは、上記各種センサ31〜34からの入力値に基づきエンジンの負荷(要求トルク)や回転数等を求めるとともに、そこから判別されるエンジンの運転状態が、後述する図2の制御マップにおけるどの領域に相当するのかを判定するものである。
上記吸排気制御手段30bは、上記VVL14およびVVT15を制御して吸排気弁11,12のリフト特性を運転状態に応じ変更することにより、エンジンの吸排気に関する動作を制御するものである。
上記過給機制御手段30cは、上記電動モータ24の駆動を制御することにより、過給機23のON/OFFや、過給機23がONの場合における過給圧をエンジンの運転状態に応じて制御するものである。
上記記憶手段30dは、エンジンの制御に必要な各種データやプログラム等を記憶するものである。この記憶手段30dには、例えば図2に示すように、エンジンの運転状態に応じた各種制御を行うための制御マップが記憶されている。
図2の制御マップについて詳しく説明すると、この制御マップには、HCCI領域AおよびSI領域Bからなる2つの領域が設定されており、エンジンの運転状態が上記2つの領域A,Bのうちのいずれにあるかに応じて、エンジンの燃焼形式が適宜選択されるようになっている。具体的には、高回転・高負荷側に設定されたSI領域Bで上記火花点火モードが選択され、これ以外の領域に設定されたHCCI領域Aで上記圧縮自己着火モードが選択されるようになっている。
上記HCCI領域Aは、過給機23を作動させるか否かに応じてさらに2つの領域A1,A2に分けられる。すなわち、両領域A1,A2のうち、低負荷側に設定されたNAHCCI領域A1では、過給機23が停止して自然吸気(Natural Aspiration)による吸気が行われる一方、この領域A1よりも高負荷側に設定された過給HCCI領域A2では、過給機23の作動により吸入空気の加圧が行われるようになっている。
そして、以上のような制御マップ(図2)に基づくエンジンの運転状態の判定が上記運転状態判定手段30aにより行われ、その判定結果に基づいて、上記吸排気制御手段30bおよび過給機制御手段30cが、上記VVL14、VVT15、および過給機23の動作をそれぞれ制御するように構成されている。
図3は、上記吸排気制御手段30bにより吸排気弁11,12の開閉タイミングがどのように制御されるかを示すタイミングチャートである。具体的に、この図3では、エンジンの運転状態が、図2の状態線図におけるラインLのように変化した場合に、上記吸排気弁11,12の開閉タイミングがエンジン負荷に応じてどのように変化するかを示している。なお、図3において、「IVC」は吸気弁11の閉じ時期、「IVO」は吸気弁11の開き時期、「EVC」は排気弁12の閉じ時期、「EVO」は排気弁12の開き時期をそれぞれ表す。また、図3では、エンジンの膨張行程、排気行程、吸気行程、圧縮行程を縦方向に順に記しており、「TDC」「BDC」は各行程の上死点、下死点をそれぞれ表している。
図3に示すように、エンジンの運転状態がHCCI領域Aにあるときには、排気弁12の閉じ時期(EVC)が排気行程の上死点よりも進角し、かつ吸気弁11の開き時期(IVO)が排気行程の上死点よりも遅角するように、上記VVL14およびVVT15が制御される。これにより、排気行程から吸気行程にかけて吸排気弁11,12の双方が閉じられる、いわゆるネガティブオーバーラップ期間(図中のNVOで示す期間)が設けられ、排気行程を過ぎた後でも所定量の既燃ガスが内部EGRガスとして気筒2内に残留することになる。また、気筒2内では、主に吸気行程中に、インジェクタ18による燃料の噴射が行われ、この噴射された燃料が圧縮行程後期までの間に十分な時間をかけて混合されることにより、略均一な予混合気が生成される。そして、このようにして生成された予混合気が圧縮されることにより発生する熱と、上記内部EGRガスが有する熱とにより、上記予混合気が燃焼温度まで昇温して自己着火による燃焼が起きるようになっている。
さらに、上記HCCI領域Aでは、吸気弁11の閉じ時期(IVC)が圧縮行程の下死点よりも比較的大きく遅角側にずらされ、予混合気の実質的な圧縮開始が相対的に遅めに設定される。これにより、気筒2の有効圧縮比が小さくなり、圧縮による発生熱量が低減される結果、予混合気の温度が過度に上昇して異常燃焼が発生すること等が防止されるようになっている。
一方、エンジン負荷が高まってその運転状態がSI領域Bに移行した場合には、上記吸気弁11の開き時期(IVO)および排気弁12の閉じ時期(EVC)が、それぞれ排気行程の上死点に近づけられる。これにより、SI領域Bでは、上記のようなネガティブオーバーラップ期間(吸排気弁11,12がともに閉じる期間)が設けられず、内部EGRによる既燃ガスの残留制御は行われなくなる。なお、図例では、逆に、排気上死点の前後で吸排気弁11,12が共に開弁される若干のオーバーラップ期間が設けられている。そして、内部EGRが行われない上記SI領域Bでは、混合気が自己着火しないため、混合気の燃焼は、点火プラグ16を用いた火花点火により行われる。すなわち、SI領域Bでは、圧縮上死点付近で点火プラグ16から火花を発生させ、その火花発生部(点火源)からの火炎伝播によって混合気を強制的に燃焼させる制御が行われる。
また、上記SI領域Bでは、上記吸気弁11の閉じ時期(IVC)が圧縮行程の下死点に近いタイミングに戻され、有効圧縮比がピストン5の全ストロークに応じた圧縮比(幾何学的圧縮比)に近づけられる。これにより、混合気が十分な圧縮比で圧縮されてから点火されることになり、その点火に伴って比較的大きな燃焼エネルギーが発生する。なお、当実施形態において、排気弁12の開き時期(EVO)については、HCCI領域AおよびSI領域Bの全運転領域にわたって、略一定のタイミング(膨張行程の下死点よりわずかに進角したタイミング)に維持される。
上記のように、高回転・高負荷側に設定されたSI領域Bで、混合気を火花点火により強制的に燃焼させるのは、HCCI領域Aで行われる圧縮自己着火による燃焼では、あまり高い出力を得ることができないためである。すなわち、上記圧縮自己着火による燃焼は、比較的多量のEGRにより希釈されたかなりリーンな予混合気に対し実現されるものであり、出力の上昇に限界があるため、高回転・高負荷域では、このような圧縮自己着火モードによる燃焼形式に代えて、火花点火により強制的に混合気を燃焼させる火花点火モードが選択されるようになっている。なお、上記火花点火モードでの混合気の生成は、吸気行程から圧縮行程までの間の期間のうち、エンジン負荷に応じた適宜のタイミングでインジェクタ18から燃料を噴射することにより行われるが、上記SI領域Bのような高負荷域では、主に吸気行程中に燃料噴射が行われる。
図4は、過給圧(boost)、吸入空気量(Air)、EGR量(EGR)、および空燃比(A/F)が、エンジン負荷に応じてどのように変化するかを示す図である。本図に示すように、エンジン負荷が小さいNAHCCI領域A1では、過給機23が作動しないため、過給圧(boost)はゼロに維持される。そして、エンジン負荷が高まって過給HCCI領域A2に移行すると、過給機23の作動が開始され、エンジン負荷に応じて過給圧が増大していく。なお、このような過給機23の作動により、気筒2内には、スロットル弁22の開度に応じた量以上の空気が吸入されるため、上記過給HCCI領域A2での吸入空気量(Air)は、NAHCCI領域A1のときよりも急な勾配をもって増大することになる。
エンジン負荷がさらに高まって上記過給HCCI領域A2からSI領域Bに移行すると、過給機23は一旦停止するが、全負荷に近い領域では、エンジン出力を確保するために再度過給機23が作動して過給圧が高められる。
また、図4に示すように、気筒2に残留する内部EGRの量は、図3に示したネガティブオーバーラップ期間(NVO)の増減に伴い、HCCI領域Aにおいて図示のような波形をもって変動する一方、SI領域Bでは内部EGRが行われないため、その量はゼロになる。さらに、空燃比(A/F)については、インジェクタ18からの燃料噴射量および吸入空気量に応じ、HCCI領域Aではリーンに、SI領域Bではそれよりもリッチに(例えば理論空燃比に近い値)に設定される。
次に、図3および図4を用いて、エンジンの運転状態が上記過給HCCI領域A2にあるとき、つまり、燃焼形式として圧縮自己着火モードが選択されかつ過給機23による吸入空気の加圧が行われるときに実行される制御についてより詳しく説明する。この過給HCCI領域A2では、図3に示すように、吸気弁11の閉じ時期(IVC)が圧縮行程の下死点よりも遅角側にずらされ、かつ、その遅角量θ1が、エンジン負荷が高くなるほど大きく設定される。そして、このように吸気弁11のリフト特性が制御されることにより、エンジン負荷の増大に応じて、実質的な圧縮開始時期がより遅めに設定され、有効圧縮比が低減されるようになっている。
また、上記過給HCCI領域A2では、排気弁12の閉じ時期(EVC)が排気行程の上死点よりも進角側にずらされ、かつ、その進角量θ2が、エンジン負荷が高くなるほど大きく設定されることにより、気筒2内に残留する内部EGRの量がエンジン負荷に応じて増大されるようになっている。
さらに、図4に示すように、上記過給HCCI領域A2では、エンジン負荷の増大に応じて、過給機23による過給圧(boost)が高く設定され、過給による吸入空気量の増大効果が高められるようになっている。
ところで、当実施形態において、上記過給HCCI領域A2で吸気弁11の閉じ時期(IVC)の遅角量θ1をエンジン負荷に応じて増大する際には、気筒2の内部温度(筒内温度)が高いときほどその増大幅を大きくするように制御する。すなわち、筒内温度が比較的高いときには、図3中のIVCの破線箇所に示すように、エンジン負荷に応じて吸気弁11の閉じ時期がより大きく遅角側にずらされ、その遅角量θ1の増大幅が相対的に大きく設定されるようになっている。このとき、遅角量θ1の増大幅を決定する際のパラメータとなる上記筒内温度については、筒内圧と略比例するため、当実施形態では、図1に示した筒内圧センサ34から筒内圧を取得し、その値から推定される筒内温度に基づいて上記遅角量θ1の増大幅を決定するようにしている。
次に、エンジンの運転状態が上記過給HCCI領域A2にあるときに上記PCM30により行われる制御動作の手順について、図5のフローチャートを用いて簡単に説明する。図5のフローチャートがスタートすると、PCM30は、まず、クランク角センサ31、エアフローセンサ32、アクセル開度センサ33、および筒内圧センサ34による検出値(センサ値)を読み込む制御を実行する(ステップS1)。
このようにして各種センサ値が読み込まれると、その値に基づき特性される現時点でのエンジンの運転状態が、図2に示した各領域A1,A2,Bのいずれの運転領域に相当するかを特性する処理が、上記運転状態判定手段30aにより実行される(ステップS2)。そして、運転状態判定手段30aは、特性された運転領域が上記過給HCCI領域A2であるか否かを判定する(ステップS3)。
上記ステップS3でYESと判定されて過給HCCI領域A2にあることが確認された場合、PCM30は、上記ステップS1で読み込まれた各種センサ値から特定されるエンジン回転数、負荷、筒内圧を、例えば記憶手段30dに記憶されているマップ形式のデータベース等に照らし合わせる等により、上記エンジン回転数、負荷、筒内圧に応じたバルブタイミングおよび過給圧を決定する制御を実行する(ステップS4)。
このようにしてバルブタイミングおよび過給圧が決定されると、その決定値に応じて上記吸排気弁11,12および過給機23を作動させる制御が、上記吸排気制御手段30bおよび過給機制御手段30cにより実行される(ステップS5)。すなわち、上記吸排気制御手段30bが、吸排気弁11,12用の各VVL14およびVVT15の作動をそれぞれ制御するとともに、上記過給機制御手段30cが、過給機23を駆動するための電動モータ24の作動を制御することにより、図3および図4に示したようなバルブタイミングおよび過給圧が得られるように、上記吸排気弁11,12および過給機23が駆動される。
以上説明したように、当実施形態のエンジンでは、吸入空気を加圧する過給機23が吸気通路20上に設けられるとともに、エンジンの運転状態に応じて、気筒2内の予混合気を圧縮行程時に自己着火させる圧縮自己着火モードと、火花点火により混合気を強制的に着火させる火花点火モードとの間で燃焼形式が切り替えられるようになっている。そして、このようなエンジンを制御するにあたり、当実施形態では、エンジンの運転状態が、上記圧縮自己着火モードが選択されかつ上記過給機23が使用される過給HCCI領域A2にあるときに、排気弁12の閉じ時期(図3のEVC)を排気行程の上死点より進角させることで気筒2内に既燃ガスを残留させる内部EGRを行うとともに、吸気弁11の閉じ時期(IVC)を圧縮行程の下死点よりも遅角させて圧縮開始時期を遅らせるようにし、さらに、エンジン負荷が高いときほど、上記排気弁12の閉じ時期の進角量θ2を増大させ(つまり内部EGRの量を増やし)、かつ吸気弁11の閉じ時期の遅角量θ1を増大させるようにした。このような制御方法によれば、圧縮自己着火モードで運転可能な領域(HCCI領域A)をより高負荷側まで拡大しつつ、異常燃焼やエンジン出力の低下を効果的に防止できるという利点がある。
すなわち、上記実施形態では、エンジンの運転状態が過給HCCI領域A2にあるときに、エンジン負荷の上昇に応じて内部EGRの量を増大させるようにしたため、圧縮自己着火モードで燃焼する際の予混合気の燃焼速度を上記EGRによる効果で緩慢化することにより、高負荷時の最大筒内圧を抑制することができ、筒内圧が上昇し過ぎることによるノッキングの発生を効果的に防止することができる。
ただし、このように内部EGRの量を増やして多量の既燃ガスを気筒2内に残留させると、筒内温度が上昇し過ぎて過早着火を招くおそれがあるが、上記実施形態では、エンジン負荷が高いほど吸気弁11の閉じ時期を遅角させて実質的な圧縮開始時期を遅らせる(つまり有効圧縮比を小さくする)ようにしたため、圧縮による昇温幅を減少させて圧縮時の筒内温度を低下させることができ、上記のような過早着火の発生を抑制して燃焼状態をより安定化させることができる。
このとき、吸気弁11の閉じ時期が遅れることで吸気の吹き返しが起きるため、気筒2内に導入される新気(吸入空気)の量はその分減少することになるが、上記過給HCCI領域A2では、過給機23による過給が行われて比較的多量の空気が短期間の間に気筒2内に充填されるため、実際には新気が不足することはなく、エンジンの出力は十分に確保される。
以上のことから、上記実施形態によれば、負荷が比較的高い領域域まで圧縮自己着火モードによる燃焼形式を維持したとしても(つまりHCCI領域Aをより高負荷側まで拡大したとしても)、そのことにより懸念される異常燃焼の発生やエンジン出力の低下を極力抑制することができる。このため、圧縮自己着火モードで運転することによる燃費改善等の効果をより拡大させながら、燃焼状態を適正に制御してその安定化を図ることができ、しかもエンジン出力を十分に確保できるという利点がある。
また、上記実施形態では、図4に示したように、過給HCCI領域A2において、エンジン負荷が高いときほど過給圧(boost)を上昇させるようにしたため、上記のような圧縮開始時期の遅延により負荷の上昇とともに不足がちになる新気を、過給によって効率的に気筒2内に充填することができる。このため、負荷が高いときに有効圧縮比をより低下させて筒内温度の過上昇を抑制しつつ、温度の低い新気を気筒2内に効率よく充填して空気充填率をより向上させることができ、燃焼状態の安定化を図りながらエンジン出力をより向上させることができるという利点がある。
また、上記実施形態では、図3に示したように、過給HCCI領域A2で吸気弁11の閉じ時期(IVC)の遅角量θ1を増大させる際に、筒内圧センサ34の検出値から推定される筒内温度が高いときほど、上記遅角量θ1の増大幅を大きくするようにしたため、
筒内温度が高いときには圧縮開始時期をより遅らせて有効圧縮比を低下させることにより、筒内温度が過度に上昇することによる過早着火の発生をより効果的に防止できるという利点がある。このとき、圧縮開始時期が遅れることによる新気の不足分については、過給機23による過給圧(boost)の上昇幅を、上記遅角量θ1と連動して増大させる(つまり筒内温度に応じて過給圧の上昇幅を増大させる)ことで解決することができ、これにより、空気充填率が低下するのを効果的に防止してエンジン出力を十分に確保することが可能である。
筒内温度が高いときには圧縮開始時期をより遅らせて有効圧縮比を低下させることにより、筒内温度が過度に上昇することによる過早着火の発生をより効果的に防止できるという利点がある。このとき、圧縮開始時期が遅れることによる新気の不足分については、過給機23による過給圧(boost)の上昇幅を、上記遅角量θ1と連動して増大させる(つまり筒内温度に応じて過給圧の上昇幅を増大させる)ことで解決することができ、これにより、空気充填率が低下するのを効果的に防止してエンジン出力を十分に確保することが可能である。
なお、上記実施形態では、過給HCCI領域A2で、排気弁12の閉じ時期(EVC)を進角させて排気上死点の前後にネガティブオーバーラップ期間(NVO)を設けることにより、高温の既燃ガスを気筒2内に閉じ込める内部EGRを行い、この既燃ガスの熱を利用して予混合気を圧縮行程時に自己着火させるようにしたが、予混合気を自己着火させるには、必要量の既燃ガスを気筒2内に残留(還流)させればよく、そのための具体的手法は上記のような内部EGRに限らない。例えば、燃焼室6から排気通路25に一旦導出された既燃ガス(排気ガス)を所定の経路を経て吸気通路20に戻すいわゆる外部EGRを、上記内部EGRの全部または一部に代えて実施するようにしてもよい。ただし、上記実施形態のように、内部EGRによって既燃ガスを気筒2内に残留させた方が、より温度の高い燃焼直後の既燃ガスを気筒2内に閉じ込めることができるため、自己着火し易い高温の雰囲気を気筒2内に容易に形成できるという点で有利である。
また、上記実施形態では、吸入空気を加圧する過給機23として、電動モータ24により回転駆動される電動式の過給機を設けたが、必要に応じて過給圧を増減することが可能な過給システムであればこれに限ることはなく、例えば、可変翼を有した排気タービンによりコンプレッサを回転駆動する可変容量型のターボ過給機(VGT)を用いることも当然に可能である。
2 気筒
11 吸気弁
12 排気弁
23 過給機
30a 運転状態判定手段
30b 吸排気制御手段
A2 過給HCCI領域
θ1 (吸気弁の閉じ時期の)遅角量
θ2 (排気弁の閉じ時期の)進角量
11 吸気弁
12 排気弁
23 過給機
30a 運転状態判定手段
30b 吸排気制御手段
A2 過給HCCI領域
θ1 (吸気弁の閉じ時期の)遅角量
θ2 (排気弁の閉じ時期の)進角量
Claims (5)
- 気筒内の予混合気を圧縮行程時に自己着火させる圧縮自己着火モードと、火花点火により混合気を強制的に着火させる火花点火モードとの間で燃焼形式を切り替え可能で、かつ過給機を備えたエンジンを制御する方法であって、
エンジンの運転状態が、上記圧縮自己着火モードが選択されかつ上記過給機が使用される過給HCCI領域にあるときに、気筒内の既燃ガス量を制御するEGRを行うとともに、吸気弁の閉じ時期を圧縮行程の下死点よりも遅角させて圧縮開始時期を遅らせ、かつ、エンジン負荷が高いときほど上記EGRの量および吸気弁の閉じ時期の遅角量を増大させることを特徴とするエンジンの制御方法。 - 請求項1記載のエンジンの制御方法において、
上記EGRとして、排気弁の閉じ時期を排気行程の上死点より進角させることで気筒内に既燃ガスを残留させる内部EGRを行うとともに、上記過給HCCI領域でエンジン負荷が高いときには、上記排気弁の閉じ時期の進角量を増大させることにより上記EGRの量を増大させることを特徴とするエンジンの制御方法。 - 請求項1または2記載のエンジンの制御方法において、
上記過給HCCI領域では、エンジン負荷が高いときほど上記過給機による過給圧を上昇させることを特徴とするエンジンの制御方法。 - 請求項1〜3のいずれか1項に記載のエンジンの制御方法において、
上記過給HCCI領域で吸気弁の閉じ時期の遅角量を増大させる際に、筒内温度が高いときほどその増大幅を大きくすることを特徴とするエンジンの制御方法。 - 気筒内の予混合気を圧縮行程時に自己着火させる圧縮自己着火モードと、火花点火により混合気を強制的に着火させる火花点火モードとの間で燃焼形式を切り替え可能で、かつ過給機を備えたエンジンを制御する装置であって、
エンジンの運転状態を判定する運転状態判定手段と、
エンジンの吸排気に関する動作を制御する吸排気制御手段とを備え、
上記運転状態判定手段により、エンジンの運転状態が、上記圧縮自己着火モードが選択されかつ上記過給機が使用される過給HCCI領域にあると判定されると、上記吸排気制御手段は、気筒内の既燃ガス量を制御するEGRを行うとともに、吸気弁の閉じ時期を圧縮行程の下死点よりも遅角させて圧縮開始時期を遅らせ、かつ、エンジン負荷が高いときほど上記EGRの量および吸気弁の閉じ時期の遅角量を増大させることを特徴とするエンジンの制御装置。
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