JP3791256B2 - 圧縮自己着火ガソリン内燃機関 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、燃焼室に直接燃料を噴射する燃料噴射弁を備え、ピストンの圧縮作用により燃焼室内の混合気を自己着火して燃焼させる圧縮自己着火ガソリン内燃機関に関する。
【0002】
【従来の技術】
一般のガソリン内燃機関では、燃費削減のため混合気のリーン化には、点火プラグによる火花点火と火炎伝播による燃焼が不安定化することから、自ずと限界があり、また、リーン燃焼時には、排気浄化のための触媒が、いわゆる量論比での燃焼時ほど浄化作用、特にNOxの還元作用を発揮できないという問題がある。
【0003】
この問題を解決するものとして、ピストンの圧縮作用により自己着火燃焼させることにより、リーン燃焼と低エミッションを図った高圧縮比の圧縮自己着火ガソリン内燃機関が知られている(例えば特開平7−332141号公報参照)。
【0004】
このような圧縮自己着火ガソリン内燃機関として、燃焼室に直接燃料を噴射する、いわゆる筒内直接噴射式のガソリン内燃機関が提案されているが、この場合、筒内の燃料と空気とを均質に混ぜるように、単純に噴射時期を吸気行程に設定しただけでは、燃焼安定性に問題があり、運転可能範囲が狭くなるという問題がある。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、通常のガソリン内燃機関では、図10(a)に示すように、排気弁の閉時期EVCと吸気弁の開時期IVOが共にピストン上死点TDC付近となって所定のバルブオーバラップ(O/L)が設定されている。
【0006】
これに対し、図10(b)に示したものは、吸気弁および排気弁のバルブタイミングを、排気弁の閉時期EVCが排気行程途中で、吸気弁の開時期IVOが吸気行程途中となって排気弁および吸気弁が共に閉じている、いわゆるマイナスオーバラップ(マイナスO/L)となるバルブタイミングを有するものである。
【0007】
すなわち、図10(a)に示すバルブタイミングに対し、排気弁の閉時期EVCが進角されて排気行程途中となっており、同時に排気弁の開時期EVOが遅角されてピストン下死点BDCに近い時期となっている。吸気弁については、その開時期IVOが、排気弁の閉時期EVC〜ピストン上死点TDCまでの期間と、ピストン上死点TDC〜吸気弁の開時期IVOまでの期間とがほぼ等しくなるように遅角されている。また、吸気弁の閉時期IVCは、同時に進角されてピストン下死点BDCに近い時期となっている。このとき、ピストン上死点TDC付近におけるバルブオーバラップは存在せず、マイナスO/Lが存在する。
【0008】
このようなマイナスO/Lの期間を設けると、筒内に排気されなかった燃焼ガスが密閉され、圧縮されるので、もともと高温の燃焼ガスは、この圧縮作用により、さらに高温となり、このマイナスO/L期間中に燃料を噴射することで、噴射された燃料は残留燃焼ガスで気化が促進されて、単に吸気行程中に燃料噴射する場合に比べ、燃焼性が向上すると考えられる。
【0009】
しかしながら、単に、マイナスO/L期間中に、必要な燃料の総噴射量全量を噴射すると、筒内温度が上昇するので、吸気充填効率が低下し、燃費も悪化するという問題がある。
【0010】
そこで、この発明は、圧縮自己着火ガソリン内燃機関として、吸気充填効率および燃費の向上を達成しつつ、運転可能範囲を拡げることを目的としている。
【0011】
【課題を解決するための手段】
前記目的を達成するために、請求項1の発明は、燃焼室に直接燃料を噴射する燃料噴射弁を備え、ピストンの圧縮作用により燃焼室内の混合気を自己着火して燃焼させる圧縮自己着火ガソリン内燃機関において、排気弁の閉時期が排気行程途中で吸気弁の開時期が吸気行程途中となって排気弁および吸気弁が共に閉じているマイナスオーバラップとなるバルブタイミングを有し、このマイナスオーバラップ期間中に前記燃料噴射弁による第1回目の燃料噴射を行うとともに、吸気行程中に前記燃料噴射弁による第2回目の燃料噴射を行い、中負荷から圧縮自己着火運転が可能な高負荷側の運転条件において、前記第1回目の燃料噴射時期を、排気弁の閉時期に連続する該閉時期直後から排気行程上死点の間に設定した構成としてある。
【0012】
このような構成の圧縮自己着火ガソリン内燃機関によれば、マイナスオーバラップ期間中には、燃焼室に排気されなかった高温の燃焼ガスが密閉され、この燃焼ガスがピストンにより圧縮されてさらに高温となる。このような雰囲気の中に第1回目の燃料噴射を行うことで、噴射された燃料は高温に晒され改質が進む。このとき燃料は、分子の鎖が切れてラジカルを形成したり、燃焼ガス中に残っている僅かな酸素と結合しアルデヒド程度まで反応が進む。このような燃料の改質により、着火性の悪いガソリン燃料においても着火性が向上し、安定した圧縮自己着火運転が実現する。ピストンが排気上死点に達した後の吸気行程に第2回目の燃料噴射を行うことで、充分な負荷が得られるものとなる。
【0013】
マイナスオーバラップ期間中に全ての燃料を噴射してしまうと、燃料の改質が進みすぎ、さらにはこの時期に熱発生を起こしてしまう場合があり、このような場合には、燃料から仕事として取り出せる効率が悪くなり、燃費の悪化を招くとともに吸気充填効率の低下を招く。
また、中負荷から圧縮自己着火運転が可能な高負荷側の運転条件においては、燃料の改質効果が低負荷運転条件程必要ないことから、第1回目の燃料噴射は、排気弁閉時期直後に行う必要がなく、排気弁閉時期に連続する該閉時期直後から排気上死点までの、どこに設定してもよい。排気上死点を過ぎると、改質効果がなくなり、燃焼安定性および燃費が悪化する。
【0014】
請求項2の発明は、請求項1の発明の構成において、低負荷運転条件において、第1回目の燃料噴射時期を排気弁の閉時期に連続する該閉時期直後に設定してある。
【0015】
上記構成によれば、排気弁が閉じた直後、すなわち吸気弁および排気弁が共に閉じている時期の初期に、第1回目の燃料噴射を行うことで、低負荷運転時での燃料の改質時間が長くとれ、より高度に改質する。
【0018】
請求項3の発明は、請求項1または2の発明の構成において、高負荷運転条件において、第1回目の燃料噴射を行わず、第2回目の吸気行程中での燃料噴射の際に、必要とする燃料の総噴射量全量を噴射する構成としてある。
【0019】
高負荷運転時には、必要とする燃料の総噴射量が多く、着火性が高いため、マイナスオーバラップ期間中に燃料を噴射する必要がなく、吸気行程にて必要燃料量を全て噴射する。
【0020】
請求項4の発明は、請求項1ないし3のいずれか1項の発明の構成において、吸気行程中での燃料噴射時期を、吸気弁開時期に連続する該開時期直後に設定してある。
【0021】
吸気行程の早い時期に燃料を噴射することで、噴射された燃料が吸気を冷却し、吸気充填効率を向上させる。
【0022】
請求項5の発明は、請求項1,2,4のいずれか1項の発明の構成において、吸気行程中での燃料噴射量を、第1回目と第2回目の各噴射量を合わせた総噴射量のうちの半分以上としてある。
【0023】
吸気行程での第2回目の燃料噴射量を多くすることで、噴射された燃料が吸気を冷却し、吸気充填効率を向上させる。
【0024】
請求項6の発明は、請求項1,2,4,5のいずれか1項の発明の構成において、低負荷運転条件において、第1回目の噴射量割合を、第2回目の噴射量と合わせた総噴射量のうちの15〜45%に設定してある。
【0025】
図4に示すように、第1回目の噴射量割合が15%を下回ると、燃焼安定性および燃費が共に悪化し、45%を上回ると、燃焼安定性は良くなるものの、燃費が悪化する。
【0026】
請求項7の発明は、請求項1,2,4ないし6のいずれか1項の発明の構成において、低負荷から圧縮自己着火運転が可能な高負荷側の運転条件において、第1回目の噴射量割合を、負荷の上昇とともに減少するよう設定してある。
【0027】
負荷の上昇に伴って、必要とする燃料の総噴射量が増加し着火性が向上するので、第1回目の噴射量を負荷の上昇とともに減少させる。仮に、第1回目の噴射量を負荷の上昇とともに増加させると、着火性が向上しすぎ、ノッキング強度が高まったり、吸気行程中の第2回目の噴射量が減少して吸気充填効率が悪化し、燃費が悪化してしまう。
【0028】
請求項8の発明は、請求項1,2,4ないし7のいずれか1項の発明の構成において、燃焼安定度を検出する安定度検出手段を設け、この安定度検出手段が、燃焼が不安定になったことを検出したときに、第1回目の噴射量割合を増加させるよう設定してある。
【0029】
上記構成によれば、燃焼が不安定になったときに、第1回目の噴射量割合を増加させることで、着火性が向上し燃焼が安定化する。
【0030】
請求項9の発明は、請求項1,2,4ないし8のいずれか1項の発明の構成において、ノッキングの強度を検出するノッキング強度検出手段を設け、このノッキング強度検出手段が、ノッキング強度が所定値を超えたことを検出したときに、第2回目の噴射量割合を増加させるよう設定してある。
【0031】
上記構成によれば、ノッキング強度が所定値を超えたときに、第2回目の噴射量割合を増加させることで、筒内温度が低下し、ノッキング強度が低下する。
【0032】
請求項10の発明は、請求項1,2,4ないし9のいずれか1項の発明の構成において、ノッキングの強度を検出するノッキング強度検出手段を設け、このノッキング強度検出手段が、ノッキング強度が所定値を超えたことを検出したときに、第1回目の噴射時期を遅角させるよう設定してある。
【0033】
上記構成によれば、第1回目の噴射時期を遅角させることで、発熱量が低下し筒内温度が低下してノッキング強度が低下する。
【0034】
【発明の効果】
請求項1の発明によれば、第1回目の燃料噴射を、排気弁と吸気弁とが共に閉じているマイナスオーバラップ期間中に行って燃料の改質を行うことで、着火性が向上して安定した運転が得られ、運転可能範囲を拡げることができる。また、吸気行程にて第2回目の燃料噴射を行うようにすることで、この2回目に噴射された燃料により吸気が冷却されて吸気充填効率が向上し、燃費も向上する。
また、中負荷から圧縮自己着火が可能な高負荷側の運転条件においては、燃料の改質効果が低負荷運転条件程必要ないことから、第1回目の燃料噴射は、排気弁閉時期直後に行う必要がなく、第1回目の燃料噴射時期を、排気弁の閉時期に連続する該閉時期直後から排気行程上死点の間に設定することで、着火性の向上を図ることができる。
【0035】
請求項2の発明によれば、低負荷運転条件において、第1回目の燃料噴射時期を排気弁の閉時期に連続する該閉時期直後に設定したため、燃料の改質が確実に進み、着火性をより向上させることができる。
【0037】
請求項3の発明によれば、高負荷運転条件においては、第1回目の燃料噴射を行わず、第2回目の吸気行程での燃料噴射の際に、必要とする燃料の総噴射量全量を噴射するようにしたため、必要とする燃料総噴射量が多く、着火性が高い高負荷運転時での燃料噴射制御に最適なものとなる。
【0038】
請求項4の発明によれば、吸気行程での燃料噴射時期を、吸気弁開時期に連続する該開時期直後に設定したため、噴射された燃料が吸気を冷却し、吸気充填効率を向上させることができる。
【0039】
請求項5の発明によれば、吸気行程での燃料噴射量を、第1回目と第2回目の各噴射量を合わせた総噴射量のうちの半分以上としたため、第2回目にて噴射された燃料による吸気の冷却効果が高まり、吸気充填効率を向上させることができる。
【0040】
請求項6の発明によれば、低負荷運転条件において、第1回目の噴射量割合を、第2回目の噴射量と合わせた総噴射量のうちの15〜45%に設定したため、燃焼安定性および燃費を共に良好に維持することができる。
【0041】
請求項7の発明によれば、低負荷運転条件から圧縮自己着火が可能な高負荷側の運転条件において、第1回目の噴射量割合を、負荷の上昇とともに減少するよう設定したため、負荷の上昇に伴って必要とする総噴射量が増加し着火性が向上する上記運転条件での燃料噴射制御に最適なものとなる。
【0042】
請求項8の発明によれば、燃焼安定度を検出する安定度検出手段が、燃焼が不安定になったことを検出したときに、第1回目の噴射量割合を増加させるよう設定したため、着火性が向上し、燃焼を安定化させることができる。
【0043】
請求項9の発明によれば、ノッキング強度を検出するノッキング強度検出手段が、ノッキング強度が設定された所定の許容範囲を超えたことを検出したときに、第2回目の噴射量割合を増加させるよう設定したため、この増加した噴射燃料により筒内温度が低下し、ノッキング強度を低下させることができる。
【0044】
請求項10の発明によれば、ノッキングの強度を検出するノッキング強度検出手段が、ノッキング強度が所定値を超えたことを検出したときに、第1回目の噴射時期を遅角させるよう設定したため、その分発熱量が低下し筒内温度が低下してノッキング強度を低下させることができる。
【0045】
【発明の実施の形態】
以下、この発明の実施の形態を図面に基づき説明する。
【0046】
図1は、この発明の第1の実施の形態を示す圧縮自己着火ガソリン内燃機関の全体構成図で、シリンダブロック1内にはピストン3が上下可能に収容され、シリンダヘッド5には、吸気ポート7を吸気用カム9によって開閉する吸気弁11と、排気ポート13を排気用カム15によって開閉する排気弁17とがそれぞれ設けられている。
【0047】
シリンダヘッド5の吸気ポート7の近傍には、燃焼室19にガソリン燃料を噴射する燃料噴射弁21が取り付けられている。燃料噴射弁21による燃料噴射動作は、吸気弁11および排気弁17の各開閉時期信号V、機関の負荷信号Lの入力を受けるマイクロコンピュータなどからなるコントロールユニット25によって、噴射時期および噴射量が制御される。
【0048】
吸気用カム9および排気用カム15は、吸気弁11および排気弁17が、前記図10(b)に示したようなマイナスオーバラップ(マイナスO/L)期間が発生するバルブタイミングを有するよう動作する。すなわち、排気弁17の閉時期が排気行程途中で吸気弁11の開時期が吸気行程途中となって排気弁17および吸気弁11が共に閉じている状態のバルブタイミングを有するよう動作する。また、本ガソリン内燃機関は、圧縮自己着火運転を可能とするために、圧縮比12以上の比較的高圧縮比に設定してあり、負荷は、吸気量をほぼ一定として燃料の噴射量によって行うようになっている。
【0049】
図2は、吸気弁11および排気弁17の開閉時期、負荷と燃料噴射時期の設定可能範囲S1,S2との関係、負荷と燃料噴射量T1,T2との関係をそれぞれ示したものである。排気弁17は、EVOで開きEVCで閉じ、吸気弁11は、IVOで開きIVCで閉じ、EVCとIVOとの間が、吸気弁11および排気弁17が共に閉じているマイナスO/L期間となる。そして、燃料噴射弁21によ燃焼室19への燃料噴射は、マイナスO/L期間中に、第1回目としてS1で示す負荷によって異なる設定可能範囲で行い、吸気弁11が開弁し始める吸気行程の初期に第2回目としてS2で示す設定可能範囲で行っている。
【0050】
マイナスO/L期間が設定されることで、燃焼室19内には排気されなかった燃焼後のガスが密閉され、この状態でピストン3が上昇して燃焼ガスが圧縮される。もともと高温であった燃焼ガスは、この圧縮作用によりさらに高温となり、このような高温雰囲気中に、第1回目として燃料を噴射することで、噴射された燃料は、改質が進む。このとき燃料は、分子の鎖が切れラジカルを形成したり、燃焼ガス中に残っている僅かな酸素と結合してアルデヒド程度まで反応が進む。このような燃料の改質により、着火性の悪いガソリン燃料においても、着火性が向上し、安定した圧縮自己着火運転が実現できる。
【0051】
ところで、ガソリン自己着火燃焼を低負荷運転条件で実現する場合、マイナスO/L期間中の燃料噴射量が少なすぎると、燃料の改質が進まず、着火性が悪化し燃焼が不安定となって燃費が悪化する。逆に、噴射量が多すぎると、燃料の改質は充分で燃焼は安定するが、燃焼の改質が進みすぎ、さらにはこの時期に熱発生が起こり、このような場合には、燃料から仕事として取り出される効率が悪くなり、燃費の悪化を招く。
【0052】
このようなことから、マイナスO/L期間中に、燃料を噴射する場合、燃焼の安定性および燃費を考慮すると、噴射時期および噴射量共に最適値が存在する。
【0053】
図3は、低負荷運転条件での第1回目の燃料噴射時期と燃焼安定性および燃費との関係を示している。これによれば、排気弁17の閉時期(EVC)初期のAで示す範囲に燃料を噴射することで、燃焼安定性、燃費共に良好となっていることがわかる。
【0054】
図4は、低負荷運転条件での、第1回目と第2回目とを合わせた総噴射量に対する第1回目の噴射量割合と燃焼安定性および燃費との関係を示している。これによれば、総噴射量のうちの15〜45%を第1回目に噴射することで、燃焼安定性、燃費共に良好とすることができる。15%を下回ると、燃焼安定性および燃費が共に悪化し、45%を上回ると、燃焼安定性は良くなるものの、燃費が悪化してしまう。
【0055】
低負荷運転条件で、第2回目として吸気行程中に燃料噴射を行うことで、低負荷運転としての充分な負荷が得られる。この燃料噴射は吸気行程初期に行うことで噴射された燃料が吸気を冷却し、吸気充填効率が向上する。第2回目の噴射量は、図2に示されているように、負荷の上昇に伴って増加させる。
【0056】
一方、中負荷から圧縮自己着火運転が可能な高負荷側の運転条件では、第1回目と第2回目とを合わせた総噴射量が増加し、着火性がもともと高いため、マイナスO/L期間中に噴射する燃料量は極めて少ない量が最適となる。図5は、第1回目と第2回目とを合わせた総噴射量に対する第1回目の噴射量割合と燃焼安定性および燃費との関係を示している。これによれば、燃焼安定性と燃費とが共に良好となるのは、第1回目の噴射量割合が5〜20%程度である。5%を下回ると燃焼安定性および燃費が共に悪化し、15%を上回ると、燃焼安定性は良くなるものの、燃費が悪化してしまう。
【0057】
そして、ここでの噴射量は、図2に示すように、負荷の上昇とともに減少させることで、負荷の上昇に伴って総噴射量が増加し着火性が向上する上記運転条件での第1回目の噴射量制御に最適なものとなる。仮に、この時期の噴射量がゼロの場合には、着火性が安定せず燃費が悪化する。高負荷になるに従って僅かに噴射することで、着火性が安定し燃費が向上する。逆に、この時期の噴射量を増加させると、着火性が向上しすぎ、ノッキング強度が高まったり、吸気行程中の第2回目の噴射量がその分減少して吸気充填効率が低下し、燃費が悪化してしまう。
【0058】
また、上記した中負荷から圧縮自己着火運転が可能な高負荷側の運転条件においては、燃料の改質効果が低負荷ほど必要ないため、噴射時期は、排気弁閉時期の初期とする必要がなく、排気弁閉時期(EVC)から排気上死点(TDC)までの間の、どの位置に設定してもよい。排気上死点を過ぎると、改質効果が足りなくなり、燃焼安定性および燃費が悪化する。
【0059】
図6は、中負荷から圧縮自己着火運転が可能な高負荷側の運転条件での第1回目の燃料噴射時期と燃焼安定性および燃費との関係を示している。これによれば、排気弁17の閉時期(EVC)初期から排気上死点(TDC)までのBで示す範囲のどの位置で燃料を噴射しても、燃焼安定性、燃費共に良好で、排気上死点を過ぎると燃焼安定性、燃費共に悪化していることがわかる。
【0060】
高負荷運転条件では、総燃料噴射量が多く、着火性が高いため、マイナスO/L期間中に燃料を噴射する必要がなく、吸気行程中に必要燃料量の全てを噴射する。
【0061】
低負荷運転条件および、中負荷から圧縮自己着火運転が可能な高負荷側の運転条件での第2回目の燃料噴射量は、総噴射量の半分以上とする。これにより、第2回目にて噴射された燃料による吸気の冷却効果が高まり、吸気充填効率が向上する。
【0062】
このように、マイナスO/L期間中に、燃料の総噴射量全量を噴射せずに第1回目として少量噴射した後、吸気行程中に第2回目として噴射したり、あるいは吸気行程中のみの1回の噴射として、燃料噴射時期および噴射量を最適に制御することで、特別な部品や制御を追加することなく、吸気充填効率および燃費の向上が図れ、安定した運転が全運転域にわたって得ることができる。
【0063】
図7は、この発明の第2の実施の形態を示す圧縮自己着火ガソリン内燃機関の全体構成図である。この実施の形態は、前記図1のシリンダブロック1に、燃焼安定度を検出する安定度検出手段としての安定度センサ27と、ノッキング強度を検出するノッキング強度検出手段としてのノッキング強度センサ29をそれぞれ装着している。負荷に応じた燃料の噴射時期および噴射量は、第1の実施の形態と基本的に同様とする。安定度センサ27としては、機関回転数を検出する回転数センサ、燃焼室内の圧力を検出する燃焼圧センサあるいは機関の振動を検出する振動センサなどでよい。
【0064】
図8は、安定度センサ27による燃料噴射制御動作を示すフローチャートである。まず、安定度センサ27により燃焼安定度を検出し(ステップ801)、この検出した燃焼安定度が設定値を超えて悪くなった場合、つまり燃焼が不安定となった場合には(ステップ803)、マイナスO/L期間中の第1回目の燃料噴射量を増加させ(ステップ805)、これに伴い吸気行程中の第2回目の燃料噴射量を減少させる(ステップ807)。マイナスO/L期間中の噴射量を増加させることで、燃料の改質度が高まって着火性が向上し、安定した燃焼が得られる。
【0065】
図9は、ノッキング強度センサ29による燃料噴射制御動作を示すフローチャートである。まず、ノッキング強度センサ29がノッキングの強度を検出し(ステップ901)、検出したノッキング強度がノッキング強度の限界を超えた場合には、マイナスO/L期間中の第1回目の燃料噴射動作において、その噴射量を減少させるとともに(ステップ905)、噴射時期を最大で排気上死点まで遅角させる(ステップ907)。第1回目の噴射量の減少に伴って吸気行程中の第2回目の燃料噴射量を増加させる(ステップ909)。これにより燃焼室19内の温度が低下し、ノッキング強度が低下する。
【0066】
このように、上記第2の実施の形態では、安定度センサ27およびノッキング強度センサ29により、燃焼安定度およびノッキング強度をそれぞれ制御できるので、機関の過渡的な負荷変化にも素早く対応でき、応答性のよい運転が可能となる。また、燃料噴射弁21の劣化や燃焼室19内のカーボン付着などに起因する微妙な運転状態の変化、すなわち内燃機関が経時変化にも、燃焼安定度およびノッキング強度が逐次制御されるので、容易に対応して安定した圧縮自己着火運転が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の第1の実施の形態を示す圧縮自己着火ガソリン内燃機関の全体構成図である。
【図2】図1の圧縮自己着火ガソリン内燃機関における吸気弁および排気弁の開閉時期、負荷と燃料噴射時期の設定可能範囲との関係、負荷と燃料噴射量との関係をそれぞれ示した説明図である。
【図3】図1の圧縮自己着火ガソリン内燃機関における低負荷運転条件での第1回目の燃料噴射時期と燃焼安定性および燃費との関係を示す説明図である。
【図4】図1の圧縮自己着火ガソリン内燃機関における低負荷運転条件での、第1回目と第2回目とを合わせた総噴射量に対する第1回目の噴射量割合と燃焼安定性および燃費との関係を示す説明図である。
【図5】図1の圧縮自己着火ガソリン内燃機関における中負荷から圧縮自己着火運転が可能な高負荷側の運転条件での、第1回目と第2回目とを合わせた総噴射量に対する第2回目の噴射量割合と燃焼安定性および燃費との関係を示す説明図である。
【図6】図1の圧縮自己着火ガソリン内燃機関における中負荷から圧縮自己着火運転が可能な高負荷側の運転条件での、第1回目の燃料噴射時期と燃焼安定性および燃費との関係を示す説明図である。
【図7】この発明の第2の実施の形態を示す圧縮自己着火ガソリン内燃機関の全体構成図である。
【図8】図7の圧縮自己着火ガソリン内燃機関における安定度センサを用いた燃料噴射制御動作を示すフローチャートである。
【図9】図7の圧縮自己着火ガソリン内燃機関におけるノッキング強度センサを用いた燃料噴射制御動作を示すフローチャートである。
【図10】排気弁および吸気弁の開閉時期を示すバルブタイミング図で、(a)は排気弁の閉時期と吸気弁の開時期が共にピストン上死点付近となって所定のバルブオーバラップ(O/L)が設定されているもの、(b)は排気弁および吸気弁が共に閉じているマイナスオーバラップ(マイナスO/L)期間が設定されているものである。
【符号の説明】
3 ピストン
11 吸気弁
17 排気弁
19 燃焼室
21 燃料噴射弁
27 安定度センサ(安定度検出手段)
29 ノッキング強度センサ(ノッキング強度検出手段)
Claims (10)
- 燃焼室に直接燃料を噴射する燃料噴射弁を備え、ピストンの圧縮作用により燃焼室内の混合気を自己着火して燃焼させる圧縮自己着火ガソリン内燃機関において、排気弁の閉時期が排気行程途中で吸気弁の開時期が吸気行程途中となって排気弁および吸気弁が共に閉じているマイナスオーバラップとなるバルブタイミングを有し、このマイナスオーバラップ期間中に前記燃料噴射弁による第1回目の燃料噴射を行うとともに、吸気行程中に前記燃料噴射弁による第2回目の燃料噴射を行い、中負荷から圧縮自己着火運転が可能な高負荷側の運転条件において、前記第1回目の燃料噴射時期を、排気弁の閉時期に連続する該閉時期直後から排気行程上死点の間に設定したことを特徴とする圧縮自己着火ガソリン内燃機関。
- 低負荷運転条件において、第1回目の燃料噴射時期を排気弁の閉時期に連続する該閉時期直後に設定したことを特徴とする請求項1記載の圧縮自己着火ガソリン内燃機関。
- 高負荷運転条件において、第1回目の燃料噴射を行わず、第2回目の吸気行程中での燃料噴射の際に、必要とする燃料の総噴射量全量を噴射することを特徴とする請求項1または2に記載の圧縮自己着火ガソリン内燃機関。
- 吸気行程中での燃料噴射時期を、吸気弁開時期に連続する該開時期直後に設定したことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の圧縮自己着火ガソリン内燃機関。
- 吸気行程中での燃料噴射量を、第1回目と第2回目の各噴射量を合わせた総噴射量のうちの半分以上としたことを特徴とする請求項1,2,4のいずれか1項に記載の圧縮自己着火ガソリン内燃機関。
- 低負荷運転条件において、第1回目の噴射量割合を、第2回目の噴射量と合わせた総噴射量のうちの15〜45%に設定したことを特徴とする請求項1,2,4,5のいずれか1項に記載の圧縮自己着火ガソリン内燃機関。
- 低負荷から圧縮自己着火運転が可能な高負荷側の運転条件において、第1回目の噴射量割合を、負荷の上昇とともに減少するよう設定したことを特徴とする請求項1,2,4ないし6のいずれか1項に記載の圧縮自己着火ガソリン内燃機関。
- 燃焼安定度を検出する安定度検出手段を設け、この安定度検出手段が、燃焼が不安定になったことを検出したときに、第1回目の噴射量割合を増加させるよう設定したことを特徴とする請求項1,2,4ないし7のいずれか1項に記載の圧縮自己着火ガソリン内燃機関。
- ノッキングの強度を検出するノッキング強度検出手段を設け、このノッキング強度検出手段が、ノッキング強度が所定値を超えたことを検出したときに、第2回目の噴射量割合を増加させるよう設定したことを特徴とする請求項1,2,4ないし8のいずれか1項に記載の圧縮自己着火ガソリン内燃機関。
- ノッキングの強度を検出するノッキング強度検出手段を設け、このノッキング強度検出手段が、ノッキング強度が所定値を超えたことを検出したときに、第1回目の噴射時期を遅角させるよう設定したことを特徴とする請求項1,2,4ないし9のいずれか1項に記載の圧縮自己着火ガソリン内燃機関。
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