以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
(第1の実施の形態)
本発明の第1の実施の形態に係る内燃機関の制御装置について、図1ないし図7を参照して説明する。なお、本実施の形態においては、内燃機関の制御装置が4気筒のエンジンを搭載した車両に適用される場合について説明する。
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る内燃機関の制御装置を示す概略構成図である。
図1に示すように、本発明の内燃機関を構成するエンジン2は、車両に搭載され、4つの気筒6を備えている。これらの気筒6は、インテークマニホールド4とそれぞれ接続されており、インテークマニホールド4は、共通のサージタンク5と接続されている。
サージタンク5は、吸気管10と接続されており、吸気管10には、エアクリーナ12、エアフローメータ11およびスロットルバルブ14が配置されている。
スロットルバルブ14は、電動モータ13により駆動されるようになっており、後述するエンジンECU(Electronic Control Unit)8から出力される信号に応じて開度が制御されるようになっている。
また、各気筒6は、エキゾーストマニホールド15と接続されており、このエキゾーストマニホールド15は、排気管16と接続されている。排気管16には、三元触媒コンバータ17および空燃比センサ42が設置されている。
各気筒6には、気筒内に燃料を噴射するための筒内噴射用インジェクタ19が設置されている。また、吸気通路の一部を構成するインテークマニホールド4には、吸気通路内に燃料を噴射するためのポート噴射用インジェクタ20が設置されている。ここで、筒内噴射用インジェクタ19は、本発明に係る筒内噴射手段を構成し、ポート噴射用インジェクタ20は、本発明に係るポート噴射手段を構成する。
筒内噴射用インジェクタ19およびポート噴射用インジェクタ20による燃料の噴射量および噴射タイミングは、エンジンECU8により制御されるようになっている。また、後述するように、エンジンECU8は、これらのインジェクタ19、20における燃料噴射量の噴射割合を制御するようになっている。
筒内噴射用インジェクタ19は、共通の燃料分配管21と接続されており、この燃料分配管21には、エンジン2の動力により駆動する高圧燃料ポンプ23から高圧の燃料が圧送されるようになっている。燃料分配管21と高圧燃料ポンプ23との間には、逆止弁22が設置されており、燃料分配管21側から高圧燃料ポンプ23側への燃料の逆流を防止するようになっている。
また、高圧燃料ポンプ23と並列に電磁スピル弁24が設置されており、高圧燃料ポンプ23の吐出側が電磁スピル弁24を介して吸入側と連結されている。この電磁スピル弁24は、エンジンECU8により開度が制御されるようになっており、開度が小さいほど高圧燃料ポンプ23から燃料分配管21に供給される燃料供給量が増大し、開度が全開になると高圧燃料ポンプ23から燃料分配管21への燃料供給が停止する。
ポート噴射用インジェクタ20は、低圧用の燃料分配管25に接続されている。この燃料分配管25および高圧燃料ポンプ23は、いずれも燃料圧レギュレータ26を介して低圧燃料ポンプ27に接続されている。
低圧燃料ポンプ27は、燃料フィルタ28を介して燃料タンク29内に貯留する燃料を吸入し、燃料圧レギュレータ26に圧送するようになっている。燃料圧レギュレータ26は、低圧燃料ポンプ27から吐出された燃料の圧力、すなわち燃圧が予め定められた設定値よりも高くなると、低圧燃料ポンプ27から吐出された燃料の一部を燃料タンク29に戻すようになっており、ポート噴射用インジェクタ20に供給される燃圧がこの設定値以下となるよう制御するようになっている。
エンジンECU8は、双方向性バス31を介して互いに接続されているCPU(Central Processing Unit)34、RAM(Random Access Memory)33、ROM(Read Only Memory)32、入力ポート35、および出力ポート36等を備えたマイクロコンピュータによって構成されている。CPU34は、RAM33の一時記憶機能を利用しつつ予めROM32に記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより、エンジン2の出力制御などを実行するようになっている。出力ポート36から出力された信号は、A/D変換器47を介して図示しないアクチュエータなどに送信されるようになっている。
なお、本実施の形態に係るエンジンECU8は、後述するように、本発明に係る内燃機関の制御装置、燃料量算出手段、分配算出手段、燃圧検出手段、温度差検出手段、燃料量補正手段、最低値設定手段および制御手段を構成する。
また、エンジンECU8は、エアフローメータ11、水温センサ38、燃料圧センサ40、空燃比センサ42、アクセル開度センサ44、回転数センサ46および燃料温度センサ48と接続されており、これらのセンサから出力された信号を入力ポート35を介して入力するようになっている。
エアフローメータ11は、吸気管10に吸入された空気量を測定し、この吸入空気量に応じた電圧を出力信号として出力するようになっており、エアフローメータ11の出力信号は、A/D変換器37を介して入力ポート35に入力される。
燃料圧センサ40は、燃料分配管21に設置されており、燃料分配管21内の燃圧に応じた電圧を出力信号として出力するようになっており、この出力信号は、A/D変換器41を介して入力ポート35に入力される。したがって、燃料圧センサ40およびエンジンECU8は、本発明に係る燃圧検出手段を構成する。
空燃比センサ42は、排気管16内における排気ガスの酸素濃度および燃料の未燃成分の濃度に応じた電圧を出力信号として出力するリニア空燃比センサにより構成されており、この出力信号は、空燃比を表す信号としてA/D変換器43を介して入力ポート35に入力される。
水温センサ38は、エンジン2に設置され、エンジン2の冷却水温に応じた電圧を出力信号として出力するようになっており、この出力信号は、機関冷却水温を表す信号としてA/D変換器39を介して入力ポート35に入力される。
アクセル開度センサ44は、アクセルペダル18の踏込み量に応じた電圧を出力信号として出力するようになっており、この出力信号は、A/D変換器45を介して入力ポート35に入力される。
回転数センサ46は、エンジン2のクランクシャフトに設置された図示しないタイミングロータの所定の回転角ごとに出力信号としてのパルスを発生し、機関回転数を表す信号として入力ポート35に入力するようになっている。
燃料温度センサ48は、燃料分配管21に設置されており、燃料分配管21内の燃料温度に応じた電圧を出力信号として出力するようになっており、この出力信号は、A/D変換器49を介して入力ポート35に入力される。
また、エンジンECU8のROM32には、吸入空気量および機関回転数と、筒内噴射用インジェクタ19およびポート噴射用インジェクタ20から噴射する合計の燃料噴射量とを対応付けた燃料噴射量マップが記憶されている。エンジンECU8は、エアフローメータ11から吸入空気量を表す信号と、回転数センサ46から機関回転数を表す信号とをそれぞれ取得すると、燃料噴射量マップを参照して、筒内噴射用インジェクタ19およびポート噴射用インジェクタ20から噴射する合計の燃料噴射量を算出するようになっている。
また、エンジンECU8は、空燃比センサ42から入力された実空燃比と、ROM32に記憶されている目標空燃比との偏差を算出し、実空燃比と目標空燃比との偏差が零に近づくようフィードバック制御を実行するようになっている。また、エンジンECU8は、算出された偏差を所定の時間積分することにより学習値を算出し、RAM33に記憶するようになっている。
つまり、本実施の形態に係るエンジンECU8は、実空燃比および目標空燃比から比例項および学習値としての積分項を算出してフィードバック制御をするPIフィードバック制御を実行するようになっている。なお、エンジンECU8は、実空燃比および目標空燃比に基づいて微分項をさらに算出し、比例項、積分項および微分項を用いてPIDフィードバック制御を実行するようにしてもよい。
このPIフィードバック制御において、エンジンECU8は、以下のように燃料補正量dQを算出し、次回の燃料噴射時における合計の燃料噴射量Qallを燃料補正量dQにより補正する。
dQ = Qp + Qi (1)
ここで、Qpは比例項であり、Qiは積分項である。
比例項Qpは、以下のように算出される。
Qp = Kp ・ ΔQ (2)
ここで、Kpは比例ゲインである。また、ΔQは、実空燃比を目標空燃比とするための燃料量と、気筒6内で燃焼された今回の燃料量との差である。なお、気筒6内において燃焼された燃料量は、吸入空気量の検出値を空燃比の検出値で割ることにより算出される。
また、積分項Qiは、以下のように算出される。
Qi = Qi + Ki ・ ΔQ (3)
ここで、Kiは積分ゲインである。
エンジンECU8は、上記の式(2)および式(3)に基づいて比例項Qpおよび積分項Qiをそれぞれ算出すると、これらの値を式(1)に代入し、燃料補正量dQを算出するようになっている。そしてエンジンECU8は、燃料噴射量マップにより算出された合計の燃料噴射量を、燃料補正量dQにより補正して、次回の燃料噴射時において筒内噴射用インジェクタ19およびポート噴射用インジェクタ20から噴射する合計の燃料量Qallを算出するようになっている。
したがって、本実施の形態に係るエンジンECU8、エアフローメータ11および回転数センサ46は、本発明に係るエンジン2の機関回転数および気筒6内に吸入される空気量に基づいて、筒内噴射用インジェクタ19およびポート噴射用インジェクタ20から噴射される合計の燃料量Qallを算出する燃料量算出手段を構成する。
また、エンジンECU8は、筒内噴射用インジェクタ19およびポート噴射用インジェクタ20から噴射される合計の燃料量Qallを算出すると、後述する噴射量算出処理により求められる噴き分け率にしたがって筒内噴射用インジェクタ19とポート噴射用インジェクタ20とによりそれぞれ噴射される燃料量を算出し、それぞれのインジェクタ19、20の噴射弁としてのニードルを軸方向に所定のリフト量で変位させるソレノイドに対して通電を実行するようになっている。ソレノイドに対する通電時間とそれぞれのインジェクタ19、20において噴射される燃料量との関係は、予め実験的な測定により求められており、マップとしてROM32に記憶されている。
したがって、本実施の形態に係るエンジンECU8は、本発明に係る合計の燃料量が噴射されるよう筒内噴射用インジェクタ19およびポート噴射用インジェクタ20を制御する制御手段を構成する。また、軸方向とは、ニードルの長手方向を意味する。
以下、本実施の形態に係る内燃機関の制御装置を構成するエンジンECU8の特徴的な構成について、図1ないし図4を参照して説明する。
エンジン2の制御装置を構成するエンジンECU8は、筒内噴射用インジェクタ19およびポート噴射用インジェクタ20から噴射される合計の燃料量Qallを上述のように算出すると、エンジン2に要求される機関負荷率および機関回転数に基づいて、合計の燃料量Qallを筒内噴射用インジェクタ19とポート噴射用インジェクタ20とに分配する割合を算出するようになっている。
ここで、エンジンECU8により実行される筒内噴射用インジェクタ19およびポート噴射用インジェクタ20に対する燃料分配処理について説明する。
エンジンECU8は、燃料噴射量マップにより算出した合計の燃料量を、上記の式(1)により算出された燃料補正量dQにより補正し、要求噴射量Qallを算出する。そして、算出された要求噴射量Qallを、筒内噴射用インジェクタ19およびポート噴射用インジェクタ20に予め定められた噴き分け率で分配し、筒内噴射用インジェクタ19に割り当てる噴射量をQdb、ポート噴射用インジェクタ20に割り当てる噴射量をQpbとするようになっている。
この噴き分け率は、機関負荷率および機関回転数と対応付けられた基本噴き分け率マップ(図2参照)としてROM32に記憶されている。また、機関負荷率は、アクセル開度センサ44および回転数センサ46により出力されたアクセル開度および機関回転数に基づいて算出されるようになっている。
したがって、本実施の形態に係るエンジンECU8、アクセル開度センサ44および回転数センサ46は、本発明に係る分配算出手段を構成する。
図2は、本発明の第1の実施の形態に係る基本噴き分け率マップを示す図である。
基本噴き分け率マップにおいて、機関回転数がNE1より高い領域および機関負荷率がKL2より高い領域は、直噴領域として定められており、この領域においては筒内噴射用インジェクタ19のみから燃料が噴射されるようになっている。また、機関負荷率がKL1より低く、機関回転数がNE1より低い領域は、ポート噴射用インジェクタ20のみにより燃料が噴射されるポート噴射領域として定められている。
また、機関負荷率がKL1からKL2までの範囲であり、かつ、機関回転数がNE1以下の領域は、直噴およびポート噴射領域として定められており、機関負荷率および機関回転数に応じた基本噴き分け率が定められている。なお、公知のように、筒内噴射用インジェクタ19は、出力性能の上昇に寄与し、ポート噴射用インジェクタ20は、混合気の均一性に寄与するようになっている。したがって、基本噴き分け率は、このように互いに特性の異なる2種類のインジェクタ19、20を、機関回転数と機関負荷率に応じて使い分けることにより、燃費の向上や加速性の向上などが実現されるように設定されている。
次に、エンジンECU8により実行される最低値設定処理について説明する。
エンジンECU8は、筒内噴射用インジェクタ19に供給される燃料の燃圧および筒内噴射用インジェクタ19の温度特性に基づいて、筒内噴射用インジェクタ19における最低噴射量Qminを算出するようになっている。
まず、筒内噴射用インジェクタ19に供給される燃料の燃圧と基本最低噴射量Qminbとの関係について説明する。
図3は、本発明の第1の実施の形態に係る最低噴射量マップを示す図である。
なお、図3(a)は、本発明の実施の形態に係る筒内噴射用インジェクタ19における噴射時間と噴射量との対応を表す図であり、図3(b)は、本発明の実施の形態に係る最低噴射量マップ55を示す図である。
図3(a)に示すように、筒内噴射用インジェクタ19は、エンジンECU8により通電されると、通電時間に比例した噴射量Qで気筒6内に燃料を噴射するようになっている。したがって、エンジンECU8は、筒内噴射用インジェクタ19に対する通電時間を制御することによって、気筒6内に噴射される燃料の噴射量Qを正確に調整することができる。
しかしながら、筒内噴射用インジェクタ19は、通電時間が短くなりすぎると、図示しないニードルのリフト時の摩擦などに起因して、通電時間と噴射量Qとが比例しなくなり、エンジンECU8による燃料の噴射量Qの正確性が低下する。つまり、筒内噴射用インジェクタ19は、通電時間に対して正確な燃料噴射を実行可能な基本最低噴射量Qminbを有している。
また、通電時間と噴射量Qとが比例しなくなる基本最低噴射量Qminbは、筒内噴射用インジェクタ19に供給される燃料の燃圧により変化する。具体的には、図3に示すように、高燃圧時における基本最低噴射量Qminbは、低燃圧時における基本最低噴射量Qminbよりも大きい値となる。
したがって、図3(b)に示すように、エンジンECU8は、筒内噴射用インジェクタ19に供給される燃料の燃圧と基本最低噴射量Qminbとを対応させた最低噴射量マップ55をROM32に記憶している。この最低噴射量マップ55は、高燃圧時における基本最低噴射量Qminbが、低燃圧時における基本最低噴射量Qminbよりも大きくなるように定められている。
したがって、本実施の形態に係るエンジンECU8は、燃圧検出手段により検出された燃料の燃圧に応じて筒内噴射手段から噴射される燃料量の最低値を設定する最低値設定手段を構成する。
次に、筒内噴射用インジェクタ19の温度特性と最低噴射量Qminとの関係について説明する。
エンジンECU8は、筒内噴射用インジェクタ19の温度特性に応じて補正係数Kを算出し、上記の最低噴射量マップ55から算出された基本最低噴射量Qminbを補正係数Kにより補正して、最終的に設定される最低噴射量Qminを算出するようになっている。
具体的には、エンジンECU8は、燃料温度センサ48から筒内噴射用インジェクタ19に供給される燃料の温度を検出した結果を入力することにより、筒内噴射用インジェクタ19を構成するニードルの温度を取得する。また、エンジンECU8は、水温センサ38からエンジン2の冷却水温を検出した結果を入力することにより、筒内噴射用インジェクタ19のニードルを軸方向変位可能に収納するノズル本体の温度を推定する。なお、ここでは、筒内噴射用インジェクタ19に供給される燃料の温度をそのままニードルの温度として推定する場合について説明するが、筒内噴射用インジェクタ19に供給される燃料の温度に応じて推定されるニードルの温度をマップとして予めROM32に記憶しておき、エンジンECU8が、燃料温度センサ48から筒内噴射用インジェクタ19に供給される燃料の温度を検出すると、このマップを参照してニードルの温度を推定するようにしてもよい。もしくは、エンジンECU8は、エンジン2の冷却水温や外気温と、積算燃料流量とに基づいてニードルの温度を推定するためのマップを予めROM32に記憶しておき、これらの情報を表す信号を取得しマップを参照することによりニードルの温度を推定するようにしてもよい。この場合、エンジンECU8は、水温センサ38から冷却水温を表す信号を取得し、図示しない外気温センサから外気温を取得するようにする。また、エンジンECU8は、筒内噴射用インジェクタ19に対する通電時間から積算燃料流量を算出するようにする。
ノズル本体の温度の推定方法は、例えば、エンジン2の始動直前あるいは始動の際において水温センサ38によりエンジン2の冷却水温を検出し、検出した値を初期水温データとしてRAM33に記憶しておく。そして、ノズル本体の温度を推定するときに、エンジンECU8は、水温センサ38から現在のエンジン2の冷却水温を取得し、RAM33に記憶されている初期水温データとの差を算出するようにする。また、エンジンECU8は、初期水温データと現在の水温との差をノズル本体の推定される温度と対応付けたマップを予めROM32に記憶しておく。このマップは、予め実験的な測定に基づいて作成される。そして、エンジンECU8は、初期水温データと現在の水温との差を算出し、ROM32に記憶されたマップを参照することによって、ノズル本体の温度を推定するようになっている。
したがって、本実施の形態に係る水温センサ38および燃料温度センサ48は、本発明に係る温度差検出手段を構成する。
エンジンECU8は、上記のように算出したニードルの温度とノズル本体の温度との差に基づいて、補正係数Kを算出し、下記の式(4)のように最低噴射量マップ55から算出された基本最低噴射量Qminbを補正するようになっている。
Qmin = Qminb ・ K (4)
補正係数Kは、ニードルの温度とノズル本体の温度との差に対応付けられて、温度補正マップとしてROM32に予め記憶されており、ニードルの温度とノズル本体の温度との差が大きいほど、最低噴射量Qminが大きくなるよう補正値が定められている。この補正係数Kは、温度によるニードルとノズル本体との摩擦の状態や軸方向の長さの変化など、筒内噴射用インジェクタ19のニードルの移動性能によって定まるものであり、予め実験的な測定により求められている。例えば、ニードルの温度とノズル本体の温度とが等しいときは、補正係数Kが"1"となるようにし、ニードルの温度とノズル本体の温度との差が大きくなるほど、補正係数Kが"1"より大きい値となるように定められている。以下、ニードルの温度とノズル本体の温度との差が大きいほど最低噴射量Qminを大きくする理由について具体的に説明する。
図4は、本発明の第1の実施の形態に係る筒内噴射用インジェクタ19の温度特性を示す図である。
図4(a)は、筒内噴射用インジェクタ19に供給される燃料の燃圧が4MPaの場合における筒内噴射用インジェクタ19の温度特性である。また、図4(b)は、筒内噴射用インジェクタ19に供給される燃料の燃圧が12MPaの場合における筒内噴射用インジェクタ19の温度特性である。いずれの場合においても、噴射時間と噴射量が比例し正確な燃料噴射を可能とする領域のうち、破線AないしDで示す噴射時間に対応する最低噴射量は、ニードルの温度とノズル本体との温度差が0℃の場合(破線A、C)よりも、温度差が50℃の場合(破線B、D)の方が高くなっている。すなわち、ニードルの温度とノズル本体との温度差が大きいほど最低噴射量が高くなる。
このような現象は、筒内噴射用インジェクタ19が、ニードルの温度に対してノズル本体の温度が高くなると、ノズル本体のみが膨張するため、微少噴射時に特に不安定となっているからである。この結果、ニードルとノズル本体との温度差が大きいときには、ニードルとノズル本体との温度が等しいときと比較して、微少噴射時における噴射精度が低下しており、エンジンECU8が筒内噴射用インジェクタ19に微少噴射を実行するよう制御したとしても、燃料が気筒6内に好適に噴射されない可能性が生じる。
そのため、本実施の形態におけるエンジンECU8は、ニードルの温度とノズル本体の温度を取得すると、これらの温度差を算出し、ニードルの温度とノズル本体の温度との差が大きいほど、最低噴射量Qminを大きい値に設定するようになっている。
なお、補正係数Kは、筒内噴射用インジェクタ19に供給される燃料のいかなる燃圧にも対応可能な値として設定されるようにする。例えば、筒内噴射用インジェクタ19に供給される燃料の燃圧が最大の場合における筒内噴射用インジェクタ19の温度差に応じた最低噴射量の変化量と、筒内噴射用インジェクタ19に供給される燃料の燃圧が最小の場合における筒内噴射用インジェクタ19の温度差に応じた最低噴射量の変化量とを予め実験的に算出し、温度差に応じた補正係数Kがこれらの変化量の平均的な値になるようにする。
あるいは、補正係数Kが、筒内噴射用インジェクタ19に生じている温度差と、筒内噴射用インジェクタ19に供給される燃料の燃圧とに応じた2次元マップとなるようにしてもよい。この場合、エンジンECU8は、基本最低噴射量Qminbを算出する際に取得した燃圧を表す信号をRAM33に記憶しておき、補正係数Kを算出する際に、この燃圧を再び参照するようにする。
図5は、本発明の第1の実施の形態に係る最低噴射量算出処理を説明するためのフローチャートである。なお、以下の処理は、エンジンECU8を構成するCPU34によって所定の時間間隔で実行されるとともに、CPU34によって処理可能なプログラムを実現する。ここで、所定の時間間隔とは、エンジン2のクランクシャフトの一定回転を意味する。
エンジンECU8は、まず、燃料圧センサ40から信号を入力し、筒内噴射用インジェクタ19に供給される燃料の燃圧を検出する(ステップS11)。
次に、エンジンECU8は、ステップS11で検出した燃圧と、ROM32に記憶されている最低噴射量マップ55とを参照することにより、基本最低噴射量Qminbを算出する(ステップS12)。
次に、エンジンECU8は、筒内噴射用インジェクタ19の温度を推定する(ステップS13)。具体的には、エンジンECU8は、水温センサ38により検出されるエンジン2の現在の冷却水温と、エンジン2の始動時における冷却水温との温度差から、筒内噴射用インジェクタ19のノズル本体の温度を推定する。また、エンジンECU8は、燃料温度センサ48から取得した燃料温度を表す信号に基づき、筒内噴射用インジェクタ19のニードルの温度を表す信号を算出し、ノズル本体の温度とニードルの温度との温度差を算出する。
次に、エンジンECU8は、ROM32に記憶されている温度補正マップを参照して、ステップS13で算出した温度差に対応する補正係数Kを算出する(ステップS14)。
次に、エンジンECU8は、ステップS12において算出した基本最低噴射量Qminbと、ステップS14において算出した補正係数Kと、上記の式(4)とを用いて最低噴射量Qminを算出する(ステップS15)。エンジンECU8は、算出した最低噴射量QminをRAM33に記憶する。これにより、エンジンECU8は、後述する噴射量算出処理において、最低噴射量Qminを参照することが可能となる。
図1に戻り、エンジンECU8は、予め定められた噴き分け率に基づいて算出された筒内噴射用インジェクタ19に対する基本直噴噴射量Qdbが、上記の最低噴射量算出処理で算出された最低噴射量Qminを下回っているならば、筒内噴射用インジェクタ19に対する最終直噴噴射量Qdを最低噴射量Qminに保持し、基本直噴噴射量Qdbと最低噴射量Qminとの差を、ポート噴射用インジェクタ20により噴射される燃料量Qpbから減少させ、最終ポート噴射量Qpとするようになっている。
したがって、本実施の形態に係るエンジンECU8は、本発明に係る燃料量補正手段を構成しており、エンジンECU8は、筒内噴射用インジェクタ19およびポート噴射用インジェクタ20に供給されるトータル要求噴射量Qallを変更せずに、筒内噴射用インジェクタ19とポート噴射用インジェクタ20とに対する噴き分け率を補正するようになっている。
一方、エンジンECU8は、予め定められた噴き分け率に基づいて算出された筒内噴射用インジェクタ19に対する基本直噴噴射量Qdbが、上記の最低噴射量算出処理で算出された最低噴射量Qmin以上であるならば、この基本直噴噴射量Qdbを最終的に筒内噴射用インジェクタ19から噴射される燃料量Qdとする。また、エンジンECU8は、予め定められた噴き分け率に基づいて算出されたポート噴射用インジェクタ20に対する燃料量Qpbを、最終的にポート噴射用インジェクタ20から噴射される燃料量Qpとする。
図6は、本発明の第1の実施の形態に係る噴射量算出処理を説明するためのフローチャートである。なお、以下の処理は、エンジンECU8を構成するCPU34によって所定の時間間隔で実行されるとともに、CPU34によって処理可能なプログラムを実現する。ここで、所定の時間間隔とは、エンジン2のクランクシャフトの一定回転を意味する。
エンジンECU8は、まず、燃料噴射量マップにより算出される合計の燃料量と上記の式(1)により算出された燃料補正量dQとを足し合わせることにより、トータル要求噴射量Qallを算出する(ステップS21)。
次に、エンジンECU8は、基本噴き分け率マップを参照して基本噴き分け率を算出する(ステップS22)。基本噴き分け率は、上述のように筒内噴射用インジェクタ19とポート噴射用インジェクタ20とに分配される燃料量の割合であり、エンジン2の機関回転数および機関負荷率と対応付けられた2次元の基本噴き分け率マップとして予めROM32に記憶されている。
次に、エンジンECU8は、基本直噴噴射量Qdbを算出する(ステップS23)。この基本直噴噴射量Qdbは、ステップS21において算出されたトータル要求噴射量Qallと、ステップS22において算出された基本噴き分け率で筒内噴射用インジェクタ19に分配される燃料量の割合との積により求められる。
次に、エンジンECU8は、基本ポート噴射量Qpbを算出する(ステップS24)。この基本直噴噴射量Qpbは、ステップS21において算出されたトータル要求噴射量Qallと、ステップS22において算出された基本噴き分け率でポート噴射用インジェクタ20に分配される燃料量の割合との積により求められる。
次に、エンジンECU8は、筒内噴射用インジェクタ19に対する最低噴射量Qminを取得する(ステップS25)。具体的には、最低噴射量Qminは、上述した最低噴射量算出処理においてエンジンECU8により算出されRAM33に記憶されている。したがって、エンジンECU8は、このステップにおいて、RAM33に記憶されている最低噴射量Qminを取得する。
次に、エンジンECU8は、ステップS23で算出された基本直噴噴射量Qdbと、ステップS25で算出された最低噴射量Qminとを比較し、基本直噴噴射量Qdbが最低噴射量Qmin以上であるか否かを判断する(ステップS26)。
エンジンECU8は、比較の結果、基本直噴噴射量Qdbが最低噴射量Qmin以上であると判断したならば(ステップS26でYes)、基本直噴噴射量Qdbを最終直噴噴射量Qdとし(ステップS27)、次回の燃料噴射において、筒内噴射用インジェクタ19から噴射される燃料量がこの最終直噴噴射量Qdとなるよう筒内噴射用インジェクタ19を制御する。
そして、エンジンECU8は、ステップS24で算出された基本ポート噴射量Qpbを最終ポート噴射量Qpとし(ステップS28)、次回の燃料噴射において、ポート噴射用インジェクタ20から噴射される燃料量がこの最終直噴噴射量Qpとなるようポート噴射用インジェクタ20を制御する。
一方、エンジンECU8は、ステップS26において、基本直噴噴射量Qdbが最低噴射量Qmin未満であると判断したならば(ステップS26でNo)、最低噴射量Qminを最終直噴噴射量Qdとし(ステップS29)、次回の燃料噴射において、筒内噴射用インジェクタ19から噴射される燃料量がこの最終直噴噴射量Qdとなるよう筒内噴射用インジェクタ19を制御する。
そして、エンジンECU8は、ステップS24で算出された基本ポート噴射量Qpbから、最低噴射量Qminと基本直噴噴射量Qdbとの差を引いた値を最終ポート噴射量Qpとし(ステップS30)、次回の燃料噴射において、ポート噴射用インジェクタ20から噴射される燃料量がこの最終ポート噴射量Qpとなるようポート噴射用インジェクタ20を制御する。
図7は、本発明の第1の実施の形態に係る内燃機関の制御装置による空燃比の変化例を示す図である。
以下の例では、アクセルペダル18が踏込まれないアイドリング状態を既に数分間継続し、時間T1において、アクセルペダル18が踏込まれた場合における空燃比の変化を示している。
図7(a)は、エンジン2の負荷および筒内噴射用インジェクタ19に供給される燃料の燃圧の時間変化を示す図である。図7(b)は、筒内噴射用インジェクタ19およびポート噴射用インジェクタ20により噴射される燃料量の時間変化を表す図である。図7(c)は、本実施の形態に係る制御装置を搭載した車両および従来の制御装置を搭載した車両における空燃比の時間変化を示す図である。
時間T1において、アクセルペダル18(図1参照)が踏込まれると、車両が発進を始め、エンジン2(図1参照)の負荷が上昇する(破線61参照)。
また、時間T2に達するまでは、エンジン2の機関負荷率がKL1(図2参照)より小さいため、実線63で表される合計の燃料量は、ポート噴射用インジェクタ20(図1参照)のみによるものとなる。
このとき、筒内噴射用インジェクタ19(図1参照)から燃料が噴射されない状態で燃料分配管21(図1参照)内の燃料の温度がエンジン2の温度とともに上昇する。そのため、燃料分配管21内の燃料の体積が増加し、燃圧が上昇する(実線62参照)。
そして、時間T2において、機関負荷率がKL1に達し、直噴およびポート噴射領域(図2参照)に入ると、エンジンECU8(図1参照)は、基本噴き分け率マップを参照して機関負荷率KLと機関回転数NEとに応じた基本噴き分け率を算出し、基本直噴噴射量Qdbを算出する(実線64参照)。したがって、T2以降における合計の燃料量(実線63参照)は、筒内噴射用インジェクタ19およびポート噴射用インジェクタ20から噴射される燃料量の合計を表している。
このT2においては、基本直噴噴射量Qdbが最低噴射量Qminを下回っているため、筒内噴射用インジェクタ19からは最低噴射量Qminによる燃料噴射が行われ、ポート噴射用インジェクタ20からは、基本ポート噴射量Qpbから最低噴射量Qminと基本直噴噴射量Qdbとの差を差し引いた燃料量、すなわち最終ポート噴射量Qpで燃料噴射が行われる。
この場合、要求噴射量Qallは維持されているため、空燃比の変動が可燃範囲内に収まることになる(実線65参照)。これに対し、従来の内燃機関の制御装置においては、
燃圧にかかわらず最低噴射量Qminが固定値であるため、燃圧が高い場合においては、設定された最低噴射量Qminが実際の筒内噴射用インジェクタ19の最低噴射量よりも低くなることがある。このような状況下においては、エンジンECU8が筒内噴射用インジェクタ19に対して最低噴射量Qminの燃料噴射を実行するよう制御したにもかかわらず、筒内噴射用インジェクタ19からは燃料が噴射されず、結果として、空燃比がリーン側に振れ、可燃範囲から外れることとなる(破線66参照)。
以上のように、本発明の実施の形態に係る内燃機関の制御装置においては、燃圧により変化する燃料噴射量の制御可能範囲に基づいて、筒内噴射用インジェクタ19から噴射される燃料量の最低値を設定することができるので、気筒6内に噴射すべき燃料量が小さい場合においても、筒内噴射用インジェクタ19を制御して気筒6内に実際に噴射される燃料量を、算出した燃料量に近づけることが可能となる。また、筒内噴射用インジェクタ19により噴射される燃料量が最低値Qminを下回る場合には、筒内噴射用インジェクタ19において噴射される燃料量を最低値Qminに維持するとともに、算出された燃料量Qdbと最低値Qminとの差をポート噴射用インジェクタ20により噴射される燃料量Qpbから差し引くので、噴射される合計の燃料量Qallを算出した値と一致させることができる。結果として、排気浄化性能を向上するとともにドライバビリティを向上することができる。
また、筒内噴射用インジェクタ19を構成するニードルとノズル本体との温度差が大きい場合には小さい場合と比較して微少噴射時における噴射精度が低下するので、最低値を大きくすることにより筒内噴射用インジェクタ19における噴射精度が良好な領域のみを使用することができる。また、ニードルとノズル本体との温度差が小さい場合には、大きい場合と比較して燃料噴射量が小さい範囲まで筒内噴射用インジェクタ19を制御できるので、最低値を小さくすることにより実際に噴射される燃料量と算出した燃料量とを従来より近づけることができる。
また、筒内噴射用インジェクタ19に対する最低噴射量Qminが適切に設定されることにより、筒内噴射用インジェクタ19とポート噴射用インジェクタ20とに対する噴き分け率の変更を最小限にすることができる。したがって、噴き分け率の変更に起因する実空燃比の変動を減少することが可能となる。
なお、以上の説明においては、本発明に係る制御装置が筒内噴射用インジェクタ19およびポート噴射用インジェクタ20を備える内燃機関に適用される場合について説明したが、これに限定されず、次に説明する第2の実施の形態のように、本発明に係る制御装置が筒内噴射用インジェクタ19を備える内燃機関に適用されるようにしてもよい。
(第2の実施の形態)
本発明の第2の実施の形態に係る内燃機関の制御装置について、図8ないし図10を参照して説明する。本実施の形態においては、内燃機関の制御装置が4気筒のエンジンを搭載した車両に適用される場合について説明する。
なお、第2の実施の形態に係る内燃機関の制御装置の構成は、上述の第1の実施の形態に係る内燃機関の制御装置の構成とほぼ同様であり、各構成要素については、図1に示した第1の実施の形態と同様の符号を用いて説明し、特に相違点についてのみ詳述する。
図8は、本発明の第2の実施の形態に係る内燃機関の制御装置を示す概略構成図である。
各気筒6には、気筒6内に燃料を噴射するための筒内噴射用インジェクタ19が設置されている。
筒内噴射用インジェクタ19は、共通の燃料分配管21と接続されており、この燃料分配管21には、エンジン2の動力により駆動する高圧燃料ポンプ23から高圧の燃料が圧送されるようになっている。燃料分配管21と高圧燃料ポンプ23との間には、逆止弁22が設置されており、燃料分配管21側から高圧燃料ポンプ23側への燃料の逆流を防止するようになっている。
また、高圧燃料ポンプ23と並列に電磁スピル弁24が設置されており、高圧燃料ポンプ23の吐出側が電磁スピル弁24を介して吸入側と連結されている。この電磁スピル弁24は、エンジンECU8により開度が制御されるようになっており、開度が小さいほど高圧燃料ポンプ23から燃料分配管21に供給される燃料供給量が増大し、開度が全開になると高圧燃料ポンプ23から燃料分配管21への燃料供給が停止する。
高圧燃料ポンプ23は、燃料圧レギュレータ26を介して低圧燃料ポンプ27に接続されている。
また、エンジンECU8のROM32には、吸入空気量および機関回転数と、筒内噴射用インジェクタ19から噴射する燃料量とを対応付けた燃料噴射量マップが記憶されている。エンジンECU8は、エアフローメータ11から吸入空気量を表す信号と、回転数センサ46から機関回転数を表す信号とをそれぞれ取得すると、燃料噴射量マップを参照して、筒内噴射用インジェクタ19から噴射される燃料量を算出するとともに、上述したPIフィードバック制御により算出される燃料補正量dQを加えることによって、筒内噴射用インジェクタ19から噴射する基本直噴噴射量Qdbを算出するようになっている。
また、エンジンECU8は、基本直噴噴射量Qdbが最低噴射量算出処理により算出された最低噴射量Qminよりも小さい場合には、筒内噴射用インジェクタ19から噴射される燃料量が最低噴射量Qminとなるように筒内噴射用インジェクタ19を制御する。
図9は、本発明の第2の実施の形態に係る噴射量算出処理を説明するためのフローチャートである。
なお、以下の処理は、エンジンECU8を構成するCPU34によって実行されるとともに、CPU34によって処理可能なプログラムを実現する。なお、以下の処理は、エンジンECU8を構成するCPU34によって所定の時間間隔で実行されるとともに、CPU34によって処理可能なプログラムを実現する。ここで、所定の時間間隔とは、エンジン2のクランクシャフトの一定回転を意味する。
エンジンECU8は、まず、燃料噴射量マップにより算出される燃料量と上記の式(1)により算出された燃料補正量dQとを用いて、基本直噴噴射量Qdbを算出する(ステップS31)。
次に、エンジンECU8は、筒内噴射用インジェクタ19に対する最低噴射量Qminを算出する(ステップS32)。具体的には、エンジンECU8は、上述した第1の実施の形態における最低噴射量算出処理と同様の処理に従って、筒内噴射用インジェクタ19に対する最低噴射量Qminを算出する。
次に、エンジンECU8は、ステップS31で算出された基本直噴噴射量Qdbと、ステップS32で算出された最低噴射量Qminとを比較し、基本直噴噴射量Qdbが最低噴射量Qmin以上であるか否かを判断する(ステップS33)。
エンジンECU8は、基本直噴噴射量Qdbが最低噴射量Qmin以上であると判断したならば(ステップS33でYes)、基本直噴噴射量Qdbを最終直噴噴射量Qdとし(ステップS34)、次回の燃料噴射において、筒内噴射用インジェクタ19から噴射される燃料量がこの最終直噴噴射量Qdとなるよう筒内噴射用インジェクタ19を制御する。
一方、エンジンECU8は、ステップS33において、基本直噴噴射量Qdbが最低噴射量Qmin未満であると判断したならば(ステップS33でNo)、最低噴射量Qminを最終直噴噴射量Qdとし(ステップS35)、次回の燃料噴射において、筒内噴射用インジェクタ19から噴射される燃料量がこの最終直噴噴射量Qdとなるよう筒内噴射用インジェクタ19を制御する。
図10は、本発明の第2の実施の形態に係る内燃機関の制御装置による空燃比の変化例を示す図である。
以下の例では、車両の走行状態が機関負荷率および機関回転数の高い状態から低い状態に急激に変化した場合における空燃比の変化を示している。
図10(a)は、エンジン2の機関負荷率および筒内噴射用インジェクタ19に供給される燃料の燃圧の時間変化を示す図である。図10(b)は、筒内噴射用インジェクタ19により噴射される燃料量の時間変化を表す図である。図10(c)は、本実施の形態に係る制御装置を搭載した車両および従来の制御装置を搭載した車両における空燃比の時間変化を示す図である。
燃料分配管21(図8参照)内の燃圧が高い状態においてエンジン2(図8参照)の機関負荷率および機関回転数が急激に減少した場合(破線71参照)には、筒内噴射用インジェクタ19(図8参照)から噴射される燃料量が減少するため、燃料分配管21内の燃圧が低下せずに高い状態が維持される(実線72参照)。
このとき、エンジン2の機関回転数の低下および吸入空気量の低下に伴い、筒内噴射用インジェクタ19に対する燃料噴射量の要求値も低下する(実線73参照)。
ここで、本実施の形態においては、エンジンECU8が燃圧に応じて最低噴射量Qminを設定するので、エンジンECU8が筒内噴射用インジェクタ19に最低噴射量Qminを噴射するよう制御する(実線74参照)。この場合、要求値と実際に噴射される最低噴射量Qminとの差に応じた空燃比の変動が発生するものの(実線76参照)、可燃範囲に十分収まることとなる。
これに対し、従来の制御装置においては、最低噴射量Qminを固定値としているため、燃圧が高い状態においては、筒内噴射用インジェクタ19の実際の最低噴射量が、予め設定された最低噴射量Qminより高くなる。
このため、エンジンECU8は、筒内噴射用インジェクタ19に対して最低噴射量Qminの燃料を噴射するよう制御したにもかかわらず、筒内噴射用インジェクタ19から燃料が噴射されず(破線75参照)、この結果、空燃比がリーン側に振れ可燃範囲から外れることとなる(破線77参照)。
以上のように、本発明の実施の形態に係る内燃機関の制御装置においては、燃圧により変化する燃料噴射量の制御可能範囲に基づいて、筒内噴射用インジェクタ19から噴射される燃料量の最低値を設定することができるので、気筒6内に噴射すべき燃料量が小さい場合においても、筒内噴射用インジェクタ19を制御して気筒6内に実際に噴射される燃料量を算出した燃料量に近づけることが可能となる。結果として、排気浄化性能を向上するとともにドライバビリティを向上することができる。
なお、以上の説明においては、エンジンECU8のROM32が、最低噴射量マップ55および温度補正マップを記憶するようにし、最低噴射量マップ55により基本最低噴射量Qminbを算出した後に、温度補正マップに基づいて基本最低噴射量Qminbを補正係数Kで補正し、最低噴射量Qminを算出する場合について説明した。しかしながら、エンジンECU8のROM32が、筒内噴射用インジェクタ19に供給される燃料の燃圧と、ニードルとノズル本体との温度差と、最低噴射量Qminとを対応付けた2次元の最低噴射量マップを記憶するようにしてもよい。
この場合、エンジンECU8は、筒内噴射用インジェクタ19に供給される燃料の燃圧および筒内噴射用インジェクタ19の温度特性を取得すると、ROM32に記憶されている2次元の最低噴射量マップを参照して、最低噴射量Qminを算出する。
また、以上の説明においては、エンジンECU8が、筒内噴射用インジェクタ19のニードルの温度を、燃料分配管21に設置された燃料温度センサ48により検出する場合について説明した。しかしながら、燃料温度センサ48を燃料タンク29など燃料供給経路の上流側に設置し、エンジンECU8が、燃料温度センサ48から取得した燃料温度に基づいて、ニードルの温度を推定するようにしてもよい。この場合、エンジンECU8は、燃料温度センサ48により検出される燃料温度とニードルの推定温度とを対応付けたマップをROM32に記憶するようにする。なお、マップから取得されたニードルの推定温度を、機関回転数および機関負荷率によりさらに補正してもよい。
以上のように、本発明に係る内燃機関の制御装置は、燃料噴射精度を従来のものより高め、排気浄化性能およびドライバビリティを向上できるという効果を奏するものであり、少なくとも気筒内に燃料を噴射可能な内燃機関の制御装置に有用である。