以下、添付図面に従って本発明のインクジェット記録方法及び装置の好ましい実施の形態について詳説する。
先ず、本発明のインクジェット記録方法で用いられるインク、凝集処理液(以下、単に「処理液」という)、及び記録媒体としての印刷用コート紙について説明する。
[インク]
以下、本発明で使用するインク(水性インク)について詳細に説明する。インクは、樹脂分散剤(A)と、前記樹脂分散剤(A)によって分散された顔料(B)と、自己分散性ポリマー微粒子(C)と、水性液媒体(D)とを少なくとも含んでいる。
<樹脂分散剤(A)>
樹脂分散剤(A)は、水性液媒体(D)中での顔料(B)の分散剤として用いるものであり、顔料Bを分散しうる樹脂であれば如何なる樹脂でもかまわないが、樹脂分散剤(A)の構造は、疎水性構造単位(a)と、親水性構造単位(b)とを有することが好ましい。必要に応じて、樹脂分散剤(A)は、前記疎水性構造単位(a)及び前記親水性構造単位(b)とは異なる構造単位(c)を含むことができる。
親水性構造単位(b)及び疎水性構造単位(a)の組成としては、それぞれの親水性、疎水性の程度にもよるが、疎水性構造単位(a)が樹脂分散剤(A)全体の質量に対して80質量%を超えて含有されることが好ましく、85質量%以上がより好ましい。即ち、親水性構造単位(b)は15質量%以下にする必要があり、親水性構造単位(b)が15質量%よりも多い場合には、顔料の分散に寄与せず単独で水性液媒体(D)中に溶解する成分が増加し、顔料(B)の分散性等の諸性能を悪化させ、インクジェット記録用インクの吐出性を悪化させる原因となる。
本発明における樹脂分散剤(A)として好ましい具体例を以下に示すが、本発明は以下に限定されるものではない。
<顔料(B)と樹脂分散剤(A)の比率〉
顔料(B)と樹脂分散剤(A)の比率は、重量比で100:25〜100:140が好ましく、さらに好ましくは100:25〜100:50である。樹脂分散剤が100:25以上の場合は分散安定性と耐擦性が良化する傾向となる。樹脂分散剤が100:140以下の場合も、分散安定性が良化する傾向となる。
<顔料(B)>
本発明において、顔料(B)とは化学大辞典第3版1994年4月1日発行(編集 大木道則他)の518頁に記載のように、水、有機溶剤にほとんど不溶の有色物質(無機顔料では白色も含む)の総称であり、本発明では有機顔料と無機顔料とを用いることができる。
また、本発明において、「樹脂分散剤(A)によって分散された顔料(B)」とは、樹脂分散剤(A)によって分散保持されている顔料をいい、水性液媒体(D)に樹脂分散剤(A)を用いて分散保持されている顔料として用いることが好ましい。水性液媒体(D)中には更に分散剤を含んでいても、含んでいなくともよい。
本発明において、樹脂分散剤(A)によって分散された顔料(B)としては、樹脂分散剤(A)によって分散保持されている顔料であれば、特に限定されないが、中でも、顔料分散の安定性、吐出安定性の観点から、転相法により作製されたマイクロカプセル化顔料であることが一層好ましい。
本発明に含有される顔料(B)として、マイクロカプセル化顔料を好ましい例として挙げることができる。マイクロカプセル化顔料とは、顔料が樹脂分散剤(A)で被覆された顔料である。
マイクロカプセル化顔料の樹脂は、前記樹脂分散剤(A)を用いる必要があるが、更に、水に対して自己分散能又は溶解能を有し、かつアニオン性基(酸性)を有する高分子の化合物を樹脂分散剤(A)以外の樹脂に用いることが好ましい。
本発明において使用可能な顔料として、イエローインクの顔料としては、C.I.ピグメントイエロー1、2、3、4、5、6、7、10、11、12、13、14、14C、16、17、24、34、35、37、42、53、55、65、73、74、75、81、83、93、95、97、98、100、101、104、108、109、110、114、117、120、128、129、138、150、151、153、154、155、180等が挙げられる。
また、マゼンタインクの顔料としては、C.I.ピグメントレッド1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、21、22、23、30、31、32、37、38、39、40、48(Ca)、48(Mn)、48:2、48:3、48:4、49、49:1、50、51、52、52:2、53:1、53、55、57(Ca)、57:1、60、60:1、63:1、63:2、64、64:1、81、83、87、88、89、90、101(べんがら)、104、105、106、108(カドミウムレッド)、112、114、122(キナクリドンマゼンタ)、123、146、149、163、166、168、170、172、177、178、179、184、185、190、193、202、209、219等が挙げられ、特に、C.I.ピグメントレッド122が好ましい。
また、シアンインクの顔料としては、C.I.ピグメントブルー1、2、3、15、15:1、15:2、15:3、15:4、16、17:1、22、25、56、60、C.I.バットブルー4、60、63等が挙げられ、特に、C.I.ピグメントブルー15:3が好ましい。
その他のカラーインクの顔料としては、C.I.ピグメントオレンジ5、13、16、17、36、43、51、C.I.ピグメントグリーン1、4、7、8、10、17、18、36、C.I.ピグメントバイオレット1(ローダミンレーキ)、3、5:1、16、19(キナクリドンレッド)、23、38等も挙げられる。その他顔料表面を樹脂等で処理したグラフトカーボン等の加工顔料等も使用できる。
黒色系のものとしては、例えばカーボンブラックが挙げられる。かかるカーボンブラックの具体例としては、三菱化学製のNo.2300、No.900、MCF88、No.33、No.40、No.45、No.52、MA7、MA8、MA100、No2200B 等が、コロンビア社製のRaven5750、Raven5250、Raven5000、Raven3500、Raven1255、Raven700等が、キャボット社製のRegal 400R、Regal330R、Regal660R、Mogul L、Monarch700、Monarch800、Monarch 880、Monarch 900、Monarch 1000、Monarch 1100、Monarch 1300、Monarch 1400等が、デグッサ社製のColor Black FW1、ColorBlack FW2、Color Black FW2V、Color Black FW18、Color Black FW200、ColorBlack S150、Color Black S160、Color Black S170、Printex 35、Printex U 、Printex V、Printex 140U、Special Black 6、Special Black 5、Special Black4A、Special Black4等が挙げられる。
上記の顔料は、単独種で使用してもよく、また上記した各群内もしくは各群間より複数種選択してこれらを組み合わせて使用してもよい。
本発明におけるインク中の顔料(B)の含有量としては、インクの分散安定性、濃度の観点から、1〜10質量%が好ましく、2〜8質量%がより好ましく、2〜6質量%が特に好ましい。
<自己分散性ポリマー微粒子(C)>
本発明に用いられるインクは、自己分散性ポリマー微粒子の少なくとも1種を含有する。本発明における自己分散性ポリマー微粒子とは、他の界面活性剤の不存在下に、pr樹脂自身が有する官能基(特に、酸性基またはその塩)によって、水性媒体中で分散状態となりうる水不溶性ポリマーであって、遊離の乳化剤を含有しない水不溶性ポリマーの微粒子を意味する。
ここで分散状態とは、水性媒体中に水不溶性ポリマーが液体状態で分散された乳化状態(エマルジョン)、及び、水性媒体中に水不溶性ポリマーが固体状態で分散された分散状態(サスペンジョン)の両方の状態を含むものである。
本発明における水不溶性ポリマーにおいては、水溶性インクに含有されたときのインク凝集速度とインク定着性の観点から、水不溶性ポリマーが固体状態で分散された分散状態となりうる水不溶性ポリマーであることが好ましい。
本発明における自己分散性ポリマー微粒子は、芳香族基含有(メタ)アクリレートモノマーに由来する構成単位を含み、その含有量が10質量%〜95質量%であることが好ましい。芳香族基含有(メタ)アクリレートモノマーの含有量が10質量%〜95質量%であることで、自己乳化又は分散状態の安定性が向上し、更にインク粘度の上昇を抑制することができる。
本発明においては、自己分散状態の安定性、芳香環同士の疎水性相互作用による水性媒体中での粒子形状の安定化、粒子の適度な疎水化による水溶性成分量の低下の観点から、15質量%〜90質量%であることがより好ましく、15質量%〜80質量%であることがより好ましく、25質量%〜70質量%であることが特に好ましい。
本発明における自己分散性ポリマー微粒子は、例えば、芳香族基含有モノマーからなる構成単位と、解離性基含有モノマーからなる構成単位とから構成することができるが、必要に応じて、その他の構成単位を更に含んで構成することができる。
本発明における自己分散性ポリマー微粒子を構成する水不溶性ポリマーの分子量範囲は、重量平均分子量で、3000〜20万であることが好ましく、5000〜15万であることがより好ましく、10000〜10万であることが更に好ましい。重量平均分子量を3000以上とすることで水溶性成分量を効果的に抑制することができる。また、重量平均分子量を20万以下とすることで、自己分散安定性を高めることができる。尚、重量平均分子量は、ゲル透過クロマトグラフ(GPC)によって測定することできる。
本発明における自己分散性ポリマー微粒子を構成する水不溶性ポリマーは、ポリマーの親疎水性制御の観点から、芳香族基含有(メタ)アクリレートモノマーを共重合比率として15〜90質量%とカルボキシル基含有モノマーとアルキル基含有モノマーとを含み、酸価が25〜100であって、重量平均分子量が3000〜20万であることが好ましく、芳香族基含有(メタ)アクリレートモノマーを共重合比率として15〜80質量%とカルボキシル基含有モノマーとアルキル基含有モノマーとを含み、酸価が25〜95であって、重量平均分子量が5000〜15万であることがより好ましい。
本発明における自己分散性ポリマー微粒子の平均粒径は、10〜400nmの範囲であることが好ましく、10〜200nmがより好ましく、10〜100nmがさらに好ましい。10nm以上の平均粒径であることで製造適性が向上する。また、400nm以下の平均粒径とすることで保存安定性が向上する。
また、自己分散性ポリマー微粒子の粒径分布に関しては、特に制限は無く、広い粒径分布を持つもの、又は単分散の粒径分布を持つもの、いずれでもよい。また、水不溶性粒子を、2種以上混合して使用してもよい。
尚、自己分散性ポリマー微粒子の平均粒径及び粒径分布は、例えば、光散乱法を用いて測定することができる。
本発明の自己分散性ポリマー微粒子は、例えば、水性インク組成物に好適に含有させることができ、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
<水性液媒体(D)>
インクジェット記録方式のインクにおいて、水性液媒体(D)とは、水及び水溶性有機溶媒の混合物を表す。水溶性有機溶媒は乾燥防止剤、湿潤剤あるいは浸透促進剤の目的で使用される。水溶性有機溶媒としては、後記する処理液でのHBS(水溶性高沸点溶媒)を好適に使用できる。
インク組成物は、乾燥防止剤、湿潤剤あるいは浸透促進剤の目的のために、水溶性溶剤を用いる。特に、インクジェット記録方式の水系インク組成物として用いる場合は、乾燥防止剤、湿潤剤あるいは浸透促進剤の目的で、水溶性有機溶剤が好ましく使用される。
ノズルのインク噴射口において該インクジェット用インクが乾燥することによる目詰まりを防止する目的で乾燥防止剤や湿潤剤が用いられ、乾燥防止剤や湿潤剤としては、水より蒸気圧の低い水溶性有機溶剤が好ましい。
また、インク組成物(特に、インクジェット用インク組成物)を紙により良く浸透させる目的で、浸透促進剤として水溶性有機溶剤が好適に使用される。
本発明においては、カールを抑制する目的のため、(a)水溶性溶剤は、SP値27.5以下の水溶性溶剤を90質量%以上含有し、かつ、下記構造式(1)で表される化合物(具体的な構造式をもらう)を含有する。
ここで、「SP値27.5以下の水溶性溶剤」と「構造式(1)で表される化合物」とが同一であっても、異なるものであってもよい。
本発明でいう水溶性溶剤の溶解度パラメーター(SP値)とは、分子凝集エネルギーの平方根で表される値で、R.F.Fedors,Polymer Engineering Science,14,p147(1967)に記載の方法で計算することができ、本発明においてはこの数値を採用する。
本発明に使用される(a)水溶性溶剤は、単独で使用しても、2種類以上混合して使用しても構わない。
(a)水溶性溶剤の含有量としては、全インク組成物中、安定性および吐出信頼性確保の点から、1質量%以上60質量%以下が好ましく、5質量%以上40質量%以下がより好ましく、10質量%以上30質量%以下が特に好ましく使用される。
本発明に使用される(c)水の添加量は特に制限は無いが、全インク組成物中、安定性および吐出信頼性確保の点から、好ましくは10質量%以上99質量%以下であり、より好ましくは30質量%以上80質量%以下であり、更に好ましくは、50質量%以上70質量%以下である。
<界面活性剤>
本発明におけるインクには、界面活性剤(以下、表面張力調整剤ともいう。)を添加することが好ましい。界面活性剤としてはノニオン、カチオン、アニオン、ベタイン界面活性剤が挙げられる。表面張力の調整剤の添加量は、インクジェットで良好に打滴するために、本発明におけるインクの表面張力を20〜60mN/mに調整する量が好ましく、より好ましくは20〜45mN/m、更に好ましくは25〜40mN/mに調整できる量である。
界面活性剤としては、分子内に親水部と疎水部を合わせ持つ構造を有する化合物等が有効に使用することができ、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤のいずれも使用することができる。更には、上記高分子物質(高分子分散剤)を界面活性剤としても使用することもできる。
<その他成分>
本発明に使用されるインクはその他の添加剤を含有してもよい。その他の添加剤としては、例えば、紫外線吸収剤、褪色防止剤、防黴剤、pH調整剤、防錆剤、酸化防止剤、乳化安定剤、防腐剤、消泡剤、粘度調整剤、分散安定剤、キレート剤等の公知の添加剤が挙げられる。
[処理液]
本発明に用いられる処理液としては、凝集剤を含有すると共に溶媒としてHBS(水溶性高沸点溶媒)を8〜25質量%の濃度で含むもの、更に好ましくは10〜20質量%の濃度で含むものを使用する。
本発明における処理液は、インク中の成分を凝集(固定化)させる凝集剤の少なくとも1種を含有する。本発明における凝集剤は、紙上においてインクと接触することにより、インクを凝集(固定化)可能なものである。例えば、処理液を付与することにより印刷用コート紙上に凝集剤が存在している状態でインクが着滴して接触することにより、インク中の成分を凝集させて紙上に固定化することができる。
インクを凝集(固定化)可能なことが望ましいことから、インクと接触した際にインク中に溶解しやすい素材であることが好ましく、この点で水溶性の高い多価金属塩はより好ましく、水溶性の高い酸性物質が更に好ましい。また、インクと反応してインク全体を固定化させる観点から、2価以上の酸性物質が特に好ましい。また、凝集剤として、カチオン性化合物も使用することができる。
ここで、インクの凝集反応は、インク中に分散した粒子(着色剤(例えば、顔料)、樹脂粒子等)の分散安定性を減じ、インク全体の粘度を上昇させることで達成することができる。例えば、カルボキシル基等の弱酸性の官能基で分散安定化しているインク中の顔料、樹脂粒子などの粒子の表面電荷を、よりpKaの低い酸性物質と反応させることにより減じ、分散安定性を低下することができる。したがって、処理液に含まれる凝集剤としての酸性物質は、pKaが低く、溶解度が高く、価数が2価以上であることが好ましく、インク中の粒子を分散安定化させている官能基(例えば、カルボキシル基)のpKaよりも低いpH領域に高い緩衝能を有する2価又は3価の酸性物質であることがより好ましい。
具体的には、リン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、クエン酸、フタル酸、2−ピロリドン−5−カルボン酸などが挙げられる。また、これらとpKa、溶解度が類似した他の酸性物質も使用可能である。
これらの酸性物質の中でも、クエン酸は、保水力が高く、凝集したインクの物理強度が高くなる傾向にあり、機械特性がより要求される系で好ましく用いられる。一方、マロン酸は、逆に保水力が低く、処理液の乾燥を早めたい場合に好ましく用いられる。
このように、凝集剤は、インクの凝集化能力とは別の副次的因子により、適宜選択して使用することも可能である。
前記多価金属塩としては、周期表の第2属のアルカリ土類金属(例えば、マグネシウム、カルシウム)、周期表の第3属の遷移金属(例えば、ランタン)、周期表の第13属からのカチオン(例えば、アルミニウム)、ランタニド類(例えば、ネオジム)、の塩を挙げることができる。
前記カチオン性化合物としては、カチオン性界面活性剤が好適に挙げられる。カチオン性界面活性剤としては、例えば、1級、2級、又は3級アミン塩型の化合物が好ましい。更に、所望のpH領域でカチオン性を示す両性界面活性剤も使用可能である。
前記凝集剤は、1種単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
インクを凝集させる凝集剤の処理液中における濃度(含有量)としては、1〜40質量%が好ましく、より好ましくは5〜30質量%であり、更に好ましくは10〜25質量%の範囲である。
また、本発明における処理液は、前記凝集剤に加えて、溶媒としてHBS(水溶性高沸点溶媒)を8〜25質量%(更に好ましくは10〜20質量%)含む。ここで、HBS(水溶性高沸点溶媒)とは、沸点が120℃以上の有機性溶媒を言う。
HBSとしては、例えば、多価アルコール類、多価アルコール類誘導体、含窒素溶媒、アルコール類、含硫黄溶媒等の各種のHBSが挙げられる。なお、HBSは、単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
各種HBSの具体例としては、多価アルコール類では、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、トリエチレングリコール、1、5−ペンタンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール、グリセリン等が挙げられる。
多価アルコール誘導体としては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、ジグリセリンのエチレンオキサイド付加物等が挙げることができる。
含窒素溶媒としては、ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、シクロヘキシルピロリドン、トリエタノールアミン等が、アルコール類としてはエタノール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、ベンジルアルコール等のアルコール類を挙げることができる。
含硫黄溶媒としては、チオジエタノール、チオジグリセロール、スルフォラン、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。その他、炭酸プロピレン、炭酸エチレン等を用いることもできる。
また、処理液の場合にもインクの場合と同様に、カールを抑制する目的から、水溶性高沸点溶媒のSP値は27.5以下のものが好ましい。以下、SP値が27.5以下である水溶性高沸点溶媒の具体例を以下に示す。いうまでもなく本発明はこれに限定されるものではない。尚、SP値を括弧内に示した。
即ち、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(DEGmEE)(22.4)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(DEGmBE)(21.5)、ジエチレングリコールジエチルエーテル(DEGdEE)(16.8)、トリエチレングリコールモノブチルエーテル(TEGmBE)(21.1)、プロピレングリコールモノエチルエーテール(PGmEE)(22.3)、ジプロピレングリコール(DPG)(27.1)、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(DPGmME)(21.3)、トリプロピレングリコール(TPG)(24.7)、1,2−ヘキサンジオール(27.4)、トリオキシプロピレングリセリルエーテル(26.4、例えばGP−250(三洋化成工業(株)製))、ヘキサオキシプロピレングリセリルエーテル(23.2、例えばGP−400(三洋化成工業(株)製))
ヘキサデカオキシプロピレングリセリルエーテル(20.2、例えばGP−1000(三洋化成工業(株)製))、ジオキシエチレンジオキシプロピレンブチルエーテル(20.1、例えば50HB−55(三洋化成工業(株)製))、デカオキシエチレンヘプタオキシプロピレンブチルエーテル(19.0、例えば50HB−260(三洋化成工業(株)製))
処理液の印刷用コート紙への付与量としては、インクを安定化させるに足る量であれば特に制限はなく、0.25g/m2以上であることが好ましく、水性インクを凝集により固定化しやすい点で、0.30g/m2以上2.0g/m2未満であることがより好ましく、0.40g/m2以上1.5g/m2未満であることが更に好ましい。
処理液の表面張力(25℃)は、20mN/m以上60mN/m以下であることが好ましい。より好ましくは、25mN以上50mN/m以下であり、更に好ましくは、25mN/m以上45mN/m以下である。表面張力は、Automatic Surface Tensiometer CBVP-Z(協和界面科学株式会社製)を用い、インクを25℃の条件下で測定されるものである。処理液の表面張力を上記の好ましい範囲とするために、処理液中に界面活性剤を添加することが好ましい。界面活性剤の具体例としては、分子内に親水部と疎水部とを合わせ持つ構造を有する化合物等を有効に使用することができ、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤のいずれも使用することができる。処理液中の含有量としては0.01〜5質量%の範囲であることが好ましい。
また、処理液の25℃での粘度は、0.5〜3.5ml/m2の範囲で塗布を安定に行なう観点から、1.2mPa・s以上15.0mPa・s以下であることが好ましく、より好ましくは2mPa・s以上12mPa・s以下であり、更に好ましくは2mPa・s以上8mPa・s以下である。特に、水性処理液を紙上に塗布する場合は、粘度(25℃)は2〜8mPa・sが好ましく、2〜6mPa・sがより好ましい。粘度は、VISCOMETERTV−22(TOKI SANGYO CO.LTD製)を用い、水性処理液を25℃の条件下で測定されるものである。
[印刷用コート紙]
本発明に用いられる印刷用コート紙としては、上述した処理液に対するコップ吸水度が10秒で8〜22g/m2(更に好ましくは10〜20g/m2)の範囲内であるものを使用する。
印刷用コート紙に使用可能な支持体としては、例えば、LBKP、NBKP等の化学パルプ;GP、PGW、RMP、TMP、CTMP、CMP、CGP等の機械パルプ;DIP等の古紙パルプなどの木材パルプと、顔料とを主成分とし、バインダー、さらにサイズ剤、定着剤、歩留まり向上剤、カチオン化剤、紙力増強剤等の各種添加剤を1種以上混合し、長網抄紙機、円網抄紙機、ツインワイヤー抄紙機等の各種装置を使用して製造される原紙、さらに澱粉、ポリビニルアルコール等を用いてなるサイズプレスやアンカーコート層を設けた原紙、あるいはこれらのサイズプレスやアンカーコート層の上にコート層を設けてなるアート紙、コート紙、キャストコート紙等の塗工紙などが挙げられる。
支持体の坪量は、通常、40〜300g/m2程度であるが、特に制限されるものではない。
本発明で用いられる印刷用コート紙は、上記のような支持体上に、コート層を塗設することにより形成される。コート層は顔料及びバインダーを主成分とする組成の塗布物から構成されるものであり、支持体上に少なくとも1層塗設される。顔料としては、白色顔料を好適に使用することができる。このような白色顔料としては、例えば、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、カオリン、タルク、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、硫化亜鉛、炭酸亜鉛、サチンホワイト、珪酸アルミニウム、ケイソウ土、珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム、合成非晶質シリカ、コロイダルシリカ、アルミナ、コロイダルアルミナ、擬ベーマイト、水酸化アルミニウム、リトポン、ゼオライト、加水ハロイサイト、水酸化マグネシウム等の無機顔料;スチレン系プラスチックピグメント、アクリル系プラスチックピグメント、ポリエチレン、マイクロカプセル、尿素樹脂、メラミン樹脂等の有機顔料が挙げられる。
バインダーとしては、例えば、酸化澱粉、エーテル化澱粉、リン酸エステル化澱粉等の澱粉誘導体;カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース誘導体;カゼイン、ゼラチン、大豆蛋白、ポリビニルアルコールまたはその誘導体;各種鹸化度のポリビニルアルコール又はそのシラノール変性物、カルボキシル化物、カチオン化物等の各種誘導体;ポリビニルピロリドン、無水マレイン酸樹脂、スチレン−ブタジエン共重合体、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体等の共役ジエン系共重合体ラテックス;アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルの重合体又は共重合体等のアクリル系重合体ラテックス;エチレン酢酸ビニル共重合体等のビニル系重合体ラテックス;或はこれら各種重合体のカルボキシ基等の官能基含有単量体による官能基変性重合体ラテックス;メラミン樹脂、尿素樹脂等の熱硬化性合成樹脂等の水性接着剤;ポリメチルメタクリレート等のアクリル;酸エステル;メタクリル酸エステルの重合体又は共重合体樹脂;ポリウレタン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニルコポリマー、ポリビニルブチラール、アルキッド樹脂等の合成樹脂系接着剤等を挙げることができる。
コート層の顔料とバインダーとの配合割合は、顔料100質量部に対し、バインダーが3〜70質量部、好ましくは5〜50質量部である。顔料100質量部に対するバインダーの配合割合が3質量部未満であると、そのような組成物からなるインク受理層の塗膜強度が不足することがある。一方、この配合割合が70質量部を超えると、水溶性高沸点溶媒の吸収が極端に遅くなる。
更に、コート層には、例えば、染料定着剤、顔料分散剤、増粘剤、流動性改良剤、消泡剤、抑泡剤、離型剤、発泡剤、浸透剤、着色染料、着色顔料、螢光増白剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防腐剤、防バイ剤、耐水化剤、湿潤紙力増強剤、乾燥紙力増強剤などの各種添加剤を適宜配合することができる。
インク受理層の塗工量は、要求される光沢、インク吸収性、支持体の種類等により異なるので一概には言えないが、通常は1g/m2以上である。また、インク受理層はある一定の塗工量を2度に分けて塗設してもよい。このように2度に分けて塗設すると、同塗工量を1度に塗設する場合に比較して光沢が向上する。
コート層の塗設は、例えば、各種ブレードコータ、ロールコータ、エアーナイフコータ、バーコータ、ロッドブレードコータ、カーテンコータ、ショートドウェルコータ、サイズプレス等の各種装置をオンマシン或いはオフマシンで使用して行なうことができる。また、コート層の塗設後に、たとえばマシンカレンダー、TGカレンダー、ソフトカレンダー等のカレンダー装置を使用してインク受理層の平坦化仕上げを行なってもよい。
尚、コート層の層数は、必要に応じて適宜に決定することができる。また、コート紙はコート層塗設量に応じてアート紙、上質コート紙、中質コート紙、上質軽量コート紙、中質軽量コート紙、微塗工印刷用紙と分類され、コート層の塗設量はアート紙で両面40g/m2前後、上質コート紙、中質コート紙で両面20g/m2前後、上質軽量コート紙、中質軽量コート紙では両面15g/m2前後であり、微塗工印刷用紙は両面12g/m2以下である。また、それぞれの分類で紙地光沢に応じてグロス紙、マット紙がある。
グロス系アート紙としては特菱アート(三菱製紙社製)等、マット系アート紙としては(王子製紙社製)等、が上げられる。またグロス系上質コート紙としてはOKトップコート(王子製紙社製)、オーロラコート(日本製紙社製)、リサイクルコートT−6(日本製紙社製)が挙げられ、マット系上質コートとしてはユーライト(日本製紙社製)、ニューVマット(三菱製紙社製)、ニューエイジ(王子製紙社製)、リサイクルマットT−6(日本製紙社製)等が挙げられる。微塗工印刷用紙としてはオーロラL(日本製紙社製)、キンマリHi−L(北越製紙社製)などが挙げられる。
〔インクジェット記録装置〕
図1に示すインクジェット記録装置100は、インク及び処理液(凝集処理液)を用いて、印刷用コート紙114上に画像形成を行う2液凝集方式を適用した記録装置の一態様である。
インクジェット記録装置100は、主として、処理液に対するコップ吸水度が10秒で8〜22g/m2(更に好ましくは10〜20g/m2)の範囲内である上述の印刷用コート紙114を搬送ラインに供給する給紙部102と、印刷用コート紙114に処理液を付与する処理液付与部106と、印刷用コート紙114に色インクを打滴するインク打滴部(印字部)108と、印刷用コート紙114上に形成された画像を定着させる定着部110と、画像が形成された印刷用コート紙114を搬送して排出する排紙部112とを備えて構成される。なお、本実施の形態では、印刷用コート紙114の搬送ラインは、下記に述べる圧胴及び渡し胴からなるドラム搬送方式によって構成される。
給紙部102には、印刷用コート紙114を積載する給紙台120が設けられている。給紙台120の前方(図1において左側)にはフィーダボード122が接続されており、給紙台120に積載された印刷用コート紙114は1番上から順に1枚ずつフィーダボード122に送り出される。これにより、フィーダボード122に送り出された印刷用コート紙114は、渡し胴124aを介して処理液付与部106の圧胴126aに受け渡される。
図示は省略するが、圧胴126aの表面(周面)には、印刷用コート紙114の先端を保持する保持爪(グリッパ)と吸引口が形成されており、渡し胴124aから圧胴126aに受け渡された印刷用コート紙114は、保持爪によって先端を保持されながら圧胴126aの表面に密着した状態(即ち、圧胴126a上に巻きつけられた状態)で圧胴126aの回転方向(図1において反時計回り方向)に搬送される。後述する他の圧胴126b、126cについても同様な構成が適用される。
処理液付与部106には、圧胴126aの回転方向(図1において反時計回り方向)の上流側から順に、圧胴126aの表面に対向する位置に、用紙予熱ユニット134、処理液吐出ヘッド136、及び処理液乾燥部138がそれぞれ設けられている。
処理液吐出ヘッド136は、圧胴126aに保持される印刷用コート紙114に対して処理液を打滴するものであり、処理液流路を介して処理液貯蔵部136a(例えばタンク、カートリッジ等)に連結される。これにより、処理液貯蔵部136aに貯蔵された処理液は、処理液吐出ヘッド136から印刷用コート紙114上に付与される。処理液貯蔵部136aには、上述したように、凝集剤を含有すると共に溶媒としてHBS(水溶性高沸点溶媒)濃度が8〜25質量%(更に好ましくは10〜20質量%)の処理液が貯蔵される。尚、処理液には、上述したように他の添加物が含まれていてもよい。
処理液吐出ヘッド136の構造は、後述するインク打滴部108の各インク吐出ヘッド140C、140M、140Y、140K、140R、140G、140Bと同一構成が適用される。
本例では、印刷用コート紙114の表面に対して処理液を付与する手段として、インクジェットヘッドを適用したが、これに限定されず、例えば、スプレー方式、ロールコータ等による塗布方式などの各種方式を適用することも可能である。
処理液は、後段のインク打滴部108に配置される各インク吐出ヘッド140C、140M、140Y、140K、140R、140G、140Bから印刷用コート紙114に向かって吐出されるインクに含有される色材を凝集させる作用を有する酸性液である。
処理液乾燥部138には、所定の範囲で温度や風量を制御可能な熱風乾燥機が設けられる。これにより、圧胴126aに保持された印刷用コート紙114が処理液乾燥部138の熱風乾燥機に対向する位置を通過する際、熱風乾燥機によって加熱された空気(熱風)が印刷用コート紙114上の処理液に吹き付けられる。
熱風乾燥機の温度や風量は、圧胴126aの回転方向上流側に配置される処理液吐出ヘッド136により印刷用コート紙114上に付与された処理液を乾燥させて、印刷用コート紙114の表面上に固体状又は半固溶状の凝集処理剤層(処理液が乾燥した薄膜層)が形成されるような値に設定される。例えば80℃の熱風によって処理液の乾燥が行われるが、凝集処理剤層の状態に応じて適宜調整するとよい。
本例の如く、印刷用コート紙114上に処理液が付与される前に、用紙予熱ユニット134によって印刷用コート紙114を予備加熱する態様が好ましい。この場合、処理液の乾燥に要する加熱エネルギーを低く抑えることが可能となり、省エネルギー化を図ることができる。本例では、用紙予熱ユニット134についても、処理液乾燥部138と同様な構成が適用される。
処理液付与部106に続いてインク打滴部108が設けられている。処理液付与部106の圧胴(処理液ドラム)126aとインク打滴部(描画ドラム)108の圧胴126bとの間には、これらに対接するようにして渡し胴124bが設けられている。これにより、処理液付与部106の圧胴126aに保持された印刷用コート紙114は、処理液が付与されて固体状又は半固溶状の凝集処理剤層が形成された後に、渡し胴124bを介してインク打滴部108の圧胴126bに受け渡される。
インク打滴部108には、圧胴126bの回転方向(図1において反時計回り方向)の上流側から順に、圧胴126bの表面に対向する位置に、CMYKRGBの7色のインクにそれぞれ対応したインク吐出ヘッド140C、140M、140Y、140K、140R、140G、140Bが並んで設けられており、更に、その下流側にインク乾燥部142a、142bが設けられている。
各インク吐出ヘッド140C、140M、140Y、140K、140R、140G、140Bは、上述した処理液吐出ヘッド136と同様に、インクジェット方式の記録ヘッド(インクジェットヘッド)が適用される。即ち、各インク吐出ヘッド140C、140M、140Y、140K、140R、140G、140Bは、それぞれ対応する色インクの液滴を圧胴126bに保持された印刷用コート紙114に向かって吐出する。
インク貯蔵/装填部(不図示)は、各インク吐出ヘッド140C、140M、140Y、140K、140R、140G、140Bにそれぞれ供給するインクを各々貯蔵するインクタンクを含んで構成される。各インクタンクは所要の流路を介してそれぞれ対応するヘッドと連通されており、各インク吐出ヘッドに対してそれぞれ対応するインクを供給する。インク貯蔵/装填部は、タンク内の液体残量が少なくなるとその旨を報知する報知手段(表示手段、警告音発生手段)を備えるとともに、色間の誤装填を防止するための機構を有している。
インク貯蔵/装填部の各インクタンクから各インク吐出ヘッド140C、140M、140Y、140K、140R、140G、140Bにインクが供給され、画像信号に応じて各140C、140M、140Y、140K、140R、140G、140Bから印刷用コート紙114に対してそれぞれ対応する色インクが打滴される。
各インク吐出ヘッド140C、140M、140Y、140K、140R、140G、140Bは、それぞれ圧胴126bに保持される印刷用コート紙114における画像形成領域の最大幅に対応する長さを有し、そのインク吐出面には画像形成領域の全幅にわたってインク吐出用のノズル(図1中不図示、図2に符号161で図示)が複数配列されたフルライン型のヘッドとなっている。各インク吐出ヘッド140C、140M、140Y、140K、140R、140G、140Bが圧胴126bの回転方向(印刷用コート紙114の搬送方向)と直交する方向に延在するように固定設置される。
印刷用コート紙114の画像形成領域の全幅をカバーするノズル列を有するフルラインヘッドがインク色毎に設けられる構成によれば、印刷用コート紙114の搬送方向(副走査方向)について、印刷用コート紙114と各インク吐出ヘッド140C、140M、140Y、140K、140R、140G、140Bを相対的に移動させる動作を1回行うだけで(即ち1回の副走査で)、印刷用コート紙114の画像形成領域に1次画像を記録することができる。これにより、印刷用コート紙114の搬送方向(副走査方向)と直交する方向(主走査方向)に往復動作するシリアル(シャトル)型ヘッドが適用される場合に比べて高速印字が可能であり、プリント生産性を向上させることができる。
本例のインクジェット記録装置100は、最大菊半サイズの印刷用コート紙までの記録が可能であり、圧胴(描画ドラム)126cとして、印刷用コート紙幅720mmに対応した直径810mmのドラムが用いられる。インク打滴時のドラム回転周速度は、530mm/secである。また、各インク吐出ヘッド140C、140M、140Y、140K、140R、140G、140Bのインク吐出体積は2pLであり、記録密度は主走査方向(印刷用コート紙114の幅方向)及び副走査方向(印刷用コート紙114の搬送方向)ともに1200dpiである。
また、本例では、CMYKRGBの7色の構成を例示したが、インク色や色数の組み合わせについては本実施形態に限定されず、必要に応じて淡インク、濃インク、特別色インクを追加してもよい。例えば、ライトシアン、ライトマゼンタなどのライト系インクを吐出するヘッドを追加する構成も可能であり、各色ヘッドの配置順序も特に限定はない。
インク乾燥部142a、142bは、上述した用紙予熱ユニット134や処理液乾燥部138と同様に、所定の範囲で温度や風量を制御可能な熱風乾燥機を含んで構成される。後述するように、印刷用コート紙114の表面上に形成された固体状又は半固溶状の凝集処理剤層上にインク液滴が打滴されると、印刷用コート紙114上にはインク凝集体(色材凝集体)が形成されるとともに、色材と分離されたインク溶媒が広がり、凝集処理剤が溶解した液体層が形成される。このようにして印刷用コート紙114上に残った溶媒成分(液体成分)は、印刷用コート紙114のカールだけでなく、画像劣化を招く要因となる。
そこで、本例では、各インク吐出ヘッド140C、140M、140Y、140K、140R、140G、140Bからそれぞれ対応する色インクが印刷用コート紙114上に打滴された後、インク乾燥部142a、142bの熱風乾燥機によって70℃に加熱された熱風を吹き付けることにより、溶媒成分を蒸発させ、乾燥を行っている。
インク打滴部108に続いて定着部110が設けられている。インク打滴部108の圧胴(描画ドラム)126bと定着部110の圧胴(定着ドラム)126cとの間には、これらに対接するように渡し胴124cが設けられている。これにより、インク打滴部108の圧胴126bに保持された印刷用コート紙114は、各色インクが付与された後に、渡し胴124cを介して定着部110の圧胴126cに受け渡される。
定着部110には、圧胴126cの回転方向(図1において反時計回り方向)の上流側から順に、圧胴126cの表面に対向する位置に、インク打滴部108による印字結果を読み取る印字検出部144、加熱ローラ148a、148bがそれぞれ設けられている。
印字検出部144は、インク打滴部108の印字結果(各インク吐出ヘッド140C、140M、140Y、140K、140R、140G、140Bの打滴結果)を撮像するためのイメージセンサ(ラインセンサ等)を含み、該イメージセンサによって読み取った打滴画像からノズルの目詰まりその他の吐出不良をチェックする手段として機能する。
加熱ローラ148a、148bは、所定の範囲(例えば50℃〜180℃)で温度制御可能なローラであり、加熱ローラ148と圧胴126cとの間に挟みこまれた印刷用コート紙114を加熱加圧しながら、印刷用コート紙114上に形成された画像を定着させる。
各加熱ローラ148a、148b(定着ローラ)は、本発明の「熱定着手段」の一態様である「加熱加圧手段」に相当するものである。各加熱ローラ148a、148bによる定着処理は、後述する定着制御手段(図4参照)によって制御が行われる。
本例では、例えば加熱ローラ148a、148bの加熱温度は60℃、75℃、圧胴126cの表面温度は60℃に設定される。また、加熱ローラ148a、148bのニップ圧力は0.1MPa、1.0MPaである。加熱ローラ148a、148bの加熱温度は、処理液又はインクに含有されるポリマー微粒子のガラス転移点温度などに応じて設定することが好ましい。
定着ローラとしては、各種のものが利用可能である。弾性(易変形性) を有するものが好ましい。
一例として、ローラの芯材を弾性層で被覆した単層構成のローラや、弾性層をさらに離型層で被覆した2層構成のローラ、弾性層と離型層との間に中間層を有する3層構成のローラが挙げられる。
ローラの芯材は、加圧に対して十分な強度を有するものが、各種利用可能であるが、好ましくは、熱伝導性の良好な材料で形成される物が好ましい。具体的には、A5056、A5052、A5083、A6063等のアルミニウム材のローラ、STKM11等の非磁性ステンレス鋼材のローラ等が例えば用いられる。一例においては、定着ローラに加熱源(ランプヒータ ) が内蔵されるので、中空の円筒体が用いられる。
弾性層は、シリコーンゴムやフッ素ゴム等の合成ゴムで形成すればよい。特に、単層構成とする場合には、画像記録後の印刷用コート紙との離型性に優れるLTV(低温加硫型)シリコーンゴムが好ましく用いることができる。フッ素ゴムとしてはバイトン(デュポン社製)などが好ましくあげられる。また、加熱定着時における熱伝導性を向上するために、これらの合成ゴム中に、フィラーとしてシリカ、アルミナ、酸化マグネシウム等の金属酸化物の粉末を5〜30質量% 配合するもの好ましい。また、同様の理由で、フィラーとして導電性カーボンブラックを用いてもよく、この際には、弾性層の電気抵抗を低減し、帯電防止を図ることができる。弾性層の厚さは、1〜8mmに形成される。ゴム硬度は、JISK 6253−1997に規定されているタイプA デュロメータを用いて測定した値( 以下、JIS Aと記す)で10〜80の範囲で、本発明に適する値に調整する。
離型層は、印刷用コート紙 との離型性を向上するためのものである。離型層は、例えば、PFA(フッ素樹脂)製のチューブで弾性層を被覆して形成してもよく、PTFE、PF A、FEP 等のフッ素樹脂塗料を弾性層の表面に塗布して形成してもよい。離型層の厚さは、10〜100μmに形成される。
本発明では弾性層としてゴム硬度を70、厚さ4mmのシリコーンゴムを用い、離型層30μmのPFA製のチューブを用いている。
また、前記弾性層の表面に、フッ素ゴムとフッ素樹脂とを混合して形成した中間層を形成し、その上に前記離型層を形成した3層構成とすることにより、弾性層と離型層との接着性向上、中間層の緩衝作用による離型層の損傷(クラックの発生等)防止等を図った3層構成の定着ローラも好適である。
さらに、弾性層として耐熱性に優れるHTV(高温加硫型)シリコーンゴムを用い、その上に弾性層の膨潤を防止するためのフッ素ゴム層を中間層として設け、中間層の上に離型層としてLTVシリコーンゴム層を設けてなる、3層構成の定着ローラも、好適である。
なお、本実施形態においては、定着ローラの構成として、芯材の径や肉厚、幅、シャフトの径や長さ等の寸法は、適宜設計されればよい。
特に、定着ローラの軸方向断面の形状については、通常は、芯材や弾性層の厚さは一定に作られるが、ローラのたわみや紙皺を考慮して、軸方向位置によって厚さを変えても良く、いわゆるクラウン形状、逆クラウン形状としても良い。
また、定着ローラとしては、上記のもの以外にも、芯材をシリコーンゴム層、フッ素ゴム層、シリコーンゴムなどの発泡材料を用いたスポンジ状の発泡ゴム層等で被覆してなるソフトローラも、好適に利用可能である。さらに、芯材を、PTFE、PFA 、FE Pなどのフッ素樹脂や、PFTチューブ等で被覆してなるハードローラも好適に利用可能である。
定着ローラは、加熱定着のための押圧力に耐えうるものであれば、公知の各種のローラを用いることができる。なお、加熱源を内蔵するローラは、熱伝導性の高い材料で形成するのが好ましいのはもちろんである。
定着部110に続いて排紙部112が設けられている。排紙部112には、画像が定着された印刷用コート紙114を受ける排紙胴150と、該印刷用コート紙114を積載する排紙台152と、排紙胴150に設けられたスプロケットと排紙台152の上方に設けられたスプロケットとの間に掛け渡され、複数の排紙用グリッパを備えた排紙用チェーン154とが設けられている。
(インク吐出ヘッドの構造)
次に、インク打滴部108に配置されるインク吐出ヘッド140C、140M、140Y、140K、140R、140G、140Bの構造について詳説する。なお、インク吐出ヘッド140C、140M、140Y、140K、140R、140G、140Bの構造は共通しているので、以下、これらを代表して符号160によってインク吐出ヘッド(以下、単に「ヘッド」と称することもある。)を示すものとする。
図2(a)はヘッド160の構造例を示す平面透視図であり、図2(b)はその一部の拡大図であり、図2(c)はヘッド160の他の構造例を示す平面透視図である。また、図3はインク室ユニットの立体的構成を示す断面図(図2(a)、(b)中のX−X線に沿う断面図)である。
印刷用コート紙114上に形成されるドットピッチを高密度化するためには、ヘッド160におけるノズルピッチを高密度化する必要がある。本例のヘッド160は、図2(a)、(b)に示すように、インク滴の吐出孔であるノズル161と、各ノズル161に対応する圧力室162等からなる複数のインク室ユニット163を千鳥でマトリクス状に(2次元的に)配置させた構造を有し、これにより、ヘッド長手方向(印刷用コート紙搬送方向と直交する主走査方向)に沿って並ぶように投影される実質的なノズル間隔(投影ノズルピッチ)の高密度化を達成している。
印刷用コート紙114の搬送方向と略直交する方向に印刷用コート紙114の全幅に対応する長さにわたり1列以上のノズル列を構成する形態は本例に限定されない。例えば、図2(a)の構成に代えて、図2(c)に示すように、複数のノズル161が2次元に配列された短尺のヘッドブロック160’を千鳥状に配列して繋ぎ合わせることで印刷用コート紙114の全幅に対応する長さのノズル列を有するラインヘッドを構成してもよい。また、図示は省略するが、短尺のヘッドを一列に並べてラインヘッドを構成してもよい。
各ノズル161に対応して設けられている圧力室162は、その平面形状が概略正方形となっており、対角線上の両隅部にノズル161と供給口164が設けられている。各圧力室162は供給口164を介して共通流路165と連通されている。共通流路165はインク供給源たるインク供給タンク(不図示)と連通しており、該インク供給タンクから供給されるインクは共通流路165を介して各圧力室162に分配供給される。
圧力室162の天面を構成し共通電極と兼用される振動板166には個別電極167を備えた圧電素子168が接合されており、個別電極167に駆動電圧を印加することによって圧電素子168が変形してノズル161からインクが吐出される。インクが吐出されると、共通流路165から供給口164を通って新しいインクが圧力室162に供給される。
本例では、ヘッド160に設けられたノズル161から吐出させるインクの吐出力発生手段として圧電素子168を適用したが、圧力室162内にヒータを備え、ヒータの加熱による膜沸騰の圧力を利用してインクを吐出させるサーマル方式を適用することも可能である。
かかる構造を有するインク室ユニット163を図2(b)に示す如く、主走査方向に沿う行方向及び主走査方向に対して直交しない一定の角度θを有する斜めの列方向に沿って一定の配列パターンで格子状に多数配列させることにより、本例の高密度ノズルヘッドが実現されている。
即ち、主走査方向に対してある角度θの方向に沿ってインク室ユニット163を一定のピッチdで複数配列する構造により、主走査方向に並ぶように投影されたノズルのピッチPはd× cosθとなり、主走査方向については、各ノズル161が一定のピッチPで直線状に配列されたものと等価的に取り扱うことができる。このような構成により、主走査方向に並ぶように投影されるノズル列が1インチ当たり2400個(2400ノズル/インチ)におよぶ高密度のノズル構成を実現することが可能になる。
尚、本発明の実施に際してノズルの配置構造は図示の例に限定されず、副走査方向に1列のノズル列を有する配置構造など、様々なノズル配置構造を適用できる。
また、本発明の適用範囲はライン型ヘッドによる印字方式に限定されず、印刷用コート紙114の幅方向(主走査方向)の長さに満たない短尺のヘッドを印刷用コート紙114の幅方向に走査させて当該幅方向の印字を行い、1回の幅方向の印字が終わると印刷用コート紙114の幅方向と直交する方向(副走査方向)に所定量だけ移動させて、次の印字領域の印刷用コート紙114の幅方向の印字を行い、この動作を繰り返して印刷用コート紙114の印字領域の全面にわたって印字を行うシリアル方式を適用してもよい。
(インクジェット記録装置の要部ブロック)
図4は、インクジェット記録装置100のシステム構成を示す要部ブロック図である。インクジェット記録装置100は、通信インターフェース170、システムコントローラ172、メモリ174、モータドライバ176、ヒータドライバ178、プリント制御部180、画像バッファメモリ182、ヘッドドライバ184等を備えている。
通信インターフェース170は、ホストコンピュータ186から送られてくる画像データを受信するインターフェース部である。通信インターフェース170にはUSB(Universal Serial Bus)、IEEE1394、イーサネット(登録商標)、無線ネットワークなどのシリアルインターフェースやセントロニクスなどのパラレルインターフェースを適用することができる。この部分には、通信を高速化するためのバッファメモリ(不図示)を搭載してもよい。ホストコンピュータ186から送出された画像データは通信インターフェース170を介してインクジェット記録装置100に取り込まれ、一旦メモリ174に記憶される。
メモリ174は、通信インターフェース170を介して入力された画像を一旦格納する記憶手段であり、システムコントローラ172を通じてデータの読み書きが行われる。メモリ174は、半導体素子からなるメモリに限らず、ハードディスクなど磁気媒体を用いてもよい。
システムコントローラ172は、中央演算処理装置(CPU)及びその周辺回路等から構成され、所定のプログラムに従ってインクジェット記録装置100の全体を制御する制御装置として機能するとともに、各種演算を行う演算装置として機能する。即ち、システムコントローラ172は、通信インターフェース170、メモリ174、モータドライバ176、ヒータドライバ178等の各部を制御し、ホストコンピュータ186との間の通信制御、メモリ174の読み書き制御等を行うとともに、搬送系のモータ188やヒータ189を制御する制御信号を生成する。
メモリ174には、システムコントローラ172のCPUが実行するプログラム及び制御に必要な各種データなどが格納されている。なお、メモリ174は、書換不能な記憶手段であってもよいし、EEPROMのような書換可能な記憶手段であってもよい。メモリ174は、画像データの一時記憶領域として利用されるとともに、プログラムの展開領域及びCPUの演算作業領域としても利用される。
プログラム格納部190には各種制御プログラムが格納されており、システムコントローラ172の指令に応じて、制御プログラムが読み出され、実行される。プログラム格納部190はROMやEEPROMなどの半導体メモリを用いてもよいし、磁気ディスクなどを用いてもよい。外部インターフェースを備え、メモリカードやPCカードを用いてもよい。もちろん、これらの印刷用コート紙のうち、複数の記録媒体を備えてもよい。なお、プログラム格納部190は動作パラメータ等の記録手段(不図示)と兼用してもよい。
モータドライバ176は、システムコントローラ172からの指示にしたがってモータ188を駆動するドライバである。図4には、装置内の各部に配置されるモータ(アクチュエータ)を代表して符号188で図示されている。例えば、図4に示すモータ188には、図1の圧胴126a〜126cや渡し胴124a〜124c、排紙胴150を駆動するモータなどが含まれている。
ヒータドライバ178は、システムコントローラ172からの指示にしたがって、ヒータ189を駆動するドライバである。図4には、インクジェット記録装置100に備えられる複数のヒータを代表して符号189で図示されている。例えば、図4に示すヒータ189には、図1に示す用紙予熱ユニット134、処理液乾燥部138、インク乾燥部142a、142bの熱風乾燥機に内蔵されるヒータなどが含まれている。
定着制御部179は、システムコントローラ172からの指示にしたがって、熱定着手段191による定着処理を制御する。図4には、インクジェット記録装置100に備えられる複数の熱定着手段を代表して符号191で図示されている。例えば、図4に示す熱定着手段191には、図1に示す加熱ローラ148a、148bが含まれている。印刷用コート紙114の種類やインクの種類ごとに、各加熱ローラ148a、148bの最適な加熱温度(定着温度)、加熱時間(定着時間)、加圧力(ニップ圧)が予め求められ、データテーブル化されて所定のメモリ(例えば、メモリ174)に記憶され、印刷用コート紙114の情報や使用インクの情報を取得すると、当該メモリを参照して各加熱ローラ148a、148bの加熱温度や加熱時間、加圧力が制御される。
プリント制御部180は、システムコントローラ172の制御に従い、メモリ174内の画像データから印字制御用の信号を生成するための各種加工、補正などの処理を行う信号処理機能を有し、生成した印字データ(ドットデータ)をヘッドドライバ184に供給する制御部である。プリント制御部180において所要の信号処理が施され、該画像データに基づいて、ヘッドドライバ184を介してヘッド192の吐出液滴量(打滴量)や吐出タイミングの制御が行われる。これにより、所望のドットサイズやドット配置が実現される。例えば、図1に示すヘッド192には、図1の処理液吐出ヘッド136、インク吐出ヘッド140C、140M、140Y、140K、140R、140G、140Bが含まれている。
また、プリント制御部180には画像バッファメモリ182が備えられており、プリント制御部180における画像データ処理時に画像データやパラメータなどのデータが画像バッファメモリ182に一時的に格納される。また、プリント制御部180とシステムコントローラ172とを統合して1つのプロセッサで構成する態様も可能である。
ヘッドドライバ184は、プリント制御部180から与えられる画像データに基づいてヘッド192の圧電素子168に印加される駆動信号を生成するとともに、該駆動信号を圧電素子168に印加して圧電素子168を駆動する駆動回路を含んで構成される。
印字検出部144は、図1で説明したように、ラインセンサを含むブロックであり、印刷用コート紙114に印字された画像を読み取り、所要の信号処理などを行って印字状況(吐出の有無、打滴のばらつきなど)を検出し、その検出結果をプリント制御部180に提供する。プリント制御部180は、必要に応じて印字検出部144から得られる情報に基づいてヘッド192に対する各種補正を行う。
(インクジェット記録方法)
次に、上記のインクジェット記録装置100を用いて、本発明のインクジェット記録方法について説明する。
先ず、給紙部102の給紙台120からフィーダボード122に印刷用コート紙114が送り出されると、その印刷用コート紙114は、渡し胴124aを介して、処理液付与部106の圧胴126aに受け渡される。圧胴126aに保持された印刷用コート紙114は、用紙予熱ユニット134によって予備加熱され、処理液吐出ヘッド136によって処理液が打滴される。その後、圧胴126aに保持された印刷用コート紙114は、処理液乾燥部138によって加熱され、処理液の溶媒成分(液体成分)が蒸発し、乾燥する。これにより、印刷用コート紙114上には固体状又は半固溶状の凝集処理剤層が形成される。
このようにして印刷用コート紙114の表面上に固体状又は半固溶状の凝集処理剤層が形成された後、処理液付与部106の圧胴126aに保持された印刷用コート紙114は、処理液付与部106の圧胴126aから渡し胴124bを介して、インク打滴部108の圧胴126bに受け渡される。圧胴126bに保持された印刷用コート紙114には、入力画像データに応じて、各インク吐出ヘッド140C、140M、140Y、140K、140R、140G、140Bからそれぞれ対応する色インクが打滴される。
各インク吐出ヘッド140C、140M、140Y、140K、140R、140G、140Bから打滴されたインク液滴は、印刷用コート紙114上に形成された固体又は半固溶状の凝集処理剤層の表面に着弾する。このとき、飛翔エネルギーと表面エネルギーとのバランスにより、インク液滴と凝集処理剤層との接触面が所定の面積にて着弾する。インク液滴が凝集処理剤層上に着弾した直後に凝集反応が始まるが、凝集反応はインク液滴と凝集処理剤層との接触面から始まる。凝集反応は接触面近傍のみで起こり、インク着弾時における所定の接触面積で付着力を得た状態でインク内の色材が凝集されるため、色材移動が抑止される。
このインク液滴に隣接して他のインク液滴が着弾しても先に着弾したインクの色材は既に凝集化しているので後から着弾するインクとの間で色材同士が混合せず、ブリードが抑止される。なお、色材の凝集後には、分離されたインク溶媒が広がり、凝集処理剤が溶解した液体層が印刷用コート紙114上に形成される。
続いて、圧胴126bに保持された印刷用コート紙114はインク乾燥部142a、142bによって加熱され、印刷用コート紙114上でインク凝集体と分離した溶媒成分(液体成分)は蒸発し、乾燥する。この結果、印刷用コート紙114のカールが防止されるとともに、溶媒成分に起因する画像品質の劣化を抑えることができる。
インク打滴部108によって色インクが付与された印刷用コート紙114は、インク打滴部108の圧胴126bから渡し胴124cを介して、定着部110の圧胴126cに受け渡される。圧胴126cに保持された印刷用コート紙114は、印字検出部144によってインク打滴部108の印字結果が読み取られた後、加熱ローラ148a、148bによる加熱加圧によって印刷用コート紙114上に形成された画像の定着が行われる。
このとき、定着制御部179(図4参照)によって、各加熱ローラ148a、148bによる定着処理が行われるので、画像変形や画像褶曲の発生を抑えつつ、画像の定着性を確保することができる。
このようにして画像が定着された印刷用コート紙114は、圧胴126cから排紙胴150に受け渡され、排紙用チェーン154によって排紙台152の上方に搬送され、排紙台152上に積載される。
上述した2液凝集方式のインクジェット記録方法において、従来の印刷用コート紙114と処理液との組み合わせでは、次に示すメカニズムによって、画像収縮問題、レジストレーション問題(両面印刷では表裏レジの問題)、及び紙浮き問題が発生し易い。
図5は、画像収縮、表示レジ、紙浮きが発生するメカニズムを模式的に示したものである。図5(A)の処理液付与工程において、印刷用コート紙114に処理液を付与すると印刷用コート紙114の内部に処理液(主に水)が浸透する。この場合、印刷用コート紙114のコップ吸水度が高過ぎると、原紙層(支持体層)への処理液(主に水)の浸透量が多くなり紙繊維の膨潤が強く発生する。これにより、印刷用コート紙114の水平方向の伸縮が発生し、印刷用コート紙114に図6に示すように皺ができるために紙浮きが発生する。
また、図5(B)の処理液乾燥工程において、処理液中の水分が蒸発してHBSが印刷用コート紙114の内部に浸透する。この場合、印刷用コート紙114のコップ吸水度が低過ぎると、HBSが印刷用コート紙114の表面に残存し易くなる。
このHBSの残存によって、図5(C)のインク打滴工程において、印刷用コート紙114とインク(インク画像層)との密着性を阻害し、図5(D)に示すように、インク画像層が水平方向(用紙面に平行な方向)に収縮する。これにより、画像収縮が発生する。
本来、インク中の色材は、処理液中の凝集剤によって凝集力が働き、印刷用コート紙114との密着性が一般的には良くなる。しかし、処理液中のHBS濃度が高過ぎて乾燥後に印刷用コート紙114の表面に残存するHBS量が多くなって印刷用コート紙114の密着性が弱くなると、インク画像層が水平方向に収縮する。したがって、印刷用コート紙114への両面印刷の場合に印刷用コート紙114の表裏面における収縮量が異なることで、図7に示すように、用紙表裏面におけるインク画像層A、Bの端にズレLが生じる。
そこで、本発明では、処理液として、HBS濃度が8〜25質量%の範囲内であるものを使用すると共に、処理液が付与される印刷用コート紙114として、該処理液に対するコップ吸水度が10秒で8〜22g/m2の範囲内であるものを使用するようにしたので、2液凝集方式のインクジェット記録方法において、HBSを含有する処理液を印刷用コート紙114に付与する場合であっても、HBSのメリットを維持しながら、画像収縮問題、レジストレーション問題、及び紙浮き問題を解決することができる。
以上、本発明のインクジェット記録方法及び装置について詳細に説明したが、本発明は、以上の例には限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変形を行ってもよいのはもちろんである。
100…インクジェット記録装置、102…給紙部、106…処理液付与部、108…インク打滴部、110…定着部、112…排紙部、114…印刷用コート紙、136…処理液吐出ヘッド、136a…処理液貯蔵部、138…処理液乾燥部、140…インク吐出ヘッド、148…加熱ローラ、160…ヘッド、161…ノズル、162…圧力室、168…圧電素子、179…定着制御部、180…プリント制御部