JP2010090029A - 窒化けい素製耐摩耗性部材の製造方法 - Google Patents

窒化けい素製耐摩耗性部材の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】窒化けい素本来の高強度・高靭性特性に加えて所定の電気抵抗値(導電性)を有し、特に摺動特性が優れた窒化けい素製耐摩耗性部材の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】酸素を1.7質量%以下、α相型窒化けい素を90質量%以上含有する平均粒径1.0μm以下の窒化けい素粉末に、炭化けい素を12〜28質量%、Mo,W,Ta,Nbの炭化物からなる群より選択される少なくとも1種をけい化物換算で3〜15質量%、希土類元素を酸化物に換算して2〜10質量%、アルミニウムを酸化物に換算して2〜10質量%、Ti,Hf,Zr、からなる群より選択される少なくとも1種を酸化物に換算して5質量%以下添加した原料混合体を成形して成形体を調製し、得られた成形体を脱脂後、非酸化性雰囲気下で1650〜1850℃の温度で焼結することにより前記炭化物がけい化物になることを特徴とする窒化けい素製耐摩耗性部材の製造方法である。
【選択図】 図1

Description

本発明は窒化けい素を主成分とし適度な電気抵抗値を有する耐摩耗性部材の製造方法に係り、特に静電気の発生を抑制するための導電性を付与した場合であっても、従来の窒化けい素焼結体と同等以上の緻密性と窒化けい素焼結体本来の機械的強度とに加え、耐磨耗性、特に摺動特性が優れた転がり軸受け部材として好適な窒化けい素製耐摩耗製部材の製造方法に関する。
耐摩耗性部材は、例えば軸受部材、摺動部材、圧延用などの各種ロール材、コンプレッサ用ベーン、ガスタービン翼、カムローラなどのエンジン部品など、各種の分野で使用されている。このような耐摩耗性部材には、従来から金属材料のほかセラミックス材料が用いられている。特に、窒化けい素焼結体は機械的強度や耐摩耗性に優れることから、種々の分野で幅広く使用されている。
従来の窒化けい素焼結体の焼結組成としては窒化けい素−希土類酸化物(酸化イットリウムなど)−酸化アルミニウム系、窒化けい素−希土類酸化物−酸化アルミニウム−酸化チタニウム系、窒化けい素−酸化イットリウム−酸化アルミニウム−窒化アルミニウム−チタニウム、マグネシウム、ジルコニウムの酸化物系等が知られている。上記焼結組成における希土類酸化物等の焼結助剤は、焼結中にSi−希土類元素−Al−O−N等からなる粒界相(液相)を生成させ、焼結体を緻密化し高強度化をするために添加されている。
従来の窒化けい素焼結体は窒化けい素原料粉末に上記のような焼結助剤を添加物として加えて成形し、得られた成形体について焼成炉を使用して1650〜1900℃程度の高温で所定時間焼成する方法で量産されている。
上述した窒化けい素焼結体を用いた耐摩耗性部材の中でも、上記の窒化けい素焼結体はセラミックスの中でも摺動特性に優れることからベアリング(軸受け)部材、特にベアリングボールとしても広く実用化されている。このような軸受は種々の用途に用いられており、重要保安部品としての使用も検討されはじめている。このため、窒化けい素焼結体からなる軸受部材、すなわちボールやコロなどの転動体に対しては信頼性をより一層高めることが求められている。
例えば、転動体表面のキズや亀裂などの欠陥は、軸受自体はもとより、それを用いたシステム全体の破損などに繋がることから、そのような欠陥はできる限り排除するような工程がとられている。同様に、転動体の表面近傍に存在するポアなども信頼性の低下原因となるために、ボールやコロなどの最終形状に加工する際に除去している。
特開2002−060276号公報 特開2000−143351号公報 特開平09−157028号公報 特開平11−322435号公報 特開昭61−136963号公報 特開平06−263540号公報 特開2001−335369号公報
しかしながら、上記従来方法によって製造された窒化けい素焼結体では、曲げ強度や破壊靭性値、耐摩耗性がある程度は向上しているものの電気的に絶縁体であることから、例えばハードディスクドライブ装置(HDD)の回転部のベアリングボールとして高速回転を行った際に発生する静電気が軸受け鋼等の金属部材により作製された回転軸部、ボール受け部に効果的に発散されず、経時的に多量の静電気が蓄積される恐れがあり、ハードディスクドライブ装置(HDD)が正常に稼動できないという問題が発生してしまうことが判明した。
一方、従来から電気抵抗値が10−3Ω・cm程度を示す低電気抵抗の窒化けい素焼結体は存在し、主に切削工具などに使用されている。しかしながら、低電気抵抗を実現するために炭化物などの導電付与粒子を多量に添加しているため、導電性付与粒子どうしが凝集し易く、曲げ強度や破壊靭性値の低下を生じやすい問題点があった。また、ベアリングボールのように常に全体から圧縮荷重を受けるような用途においては、このような凝集粒子が多数存在する個所から亀裂が入り易く摺動特性が短時間で劣化してしまう問題点もあった。したがって、ベアリングボールのように全体から圧縮荷重を受けながら使用される焼結体においては凝集粒子が可及的に少ない方が好ましい。
本発明は上記のような課題を解決するためになされたものであり、窒化けい素本来の高強度・高靭性特性に加えて所定の電気抵抗値(導電性)を有し、特に摺動特性が優れた窒化けい素製耐摩耗性部材の製造方法を提供することを目的とする。
本発明は上記目的を達成するため、従来の窒化けい素焼結体を製造する際に、一般的に使用されていた窒化けい素原料粉末、導電性付与粒子の種類および焼結助剤や添加物の種類および添加量、焼成条件を種々変えて、それらの要素が焼結体の特性に及ぼす影響を実験により比較検討した。
その結果、微細な窒化けい素原料粉末に導電性付与粒子として炭化けい素とMo,W,Ta,Nbの炭化物、酸化物、硼化物、けい化物、からなる群より選択される少なくとも1種および希土類元素の酸化物、アルミナ、必要に応じて窒化アルミニウム、酸化チタンなどを所定量ずつ添加した原料混合体を成形脱脂し、得られた成形体を焼結、または焼結した後に所定の条件で熱間静水圧プレス(HIP)処理したときに、窒化けい素焼結体中に導電性付与粒子として炭化けい素とMo,W,Ta,Nbのけい化物からなる群より選択される少なくとも1種が複合分散し、且つ粒界相が希土類元素−Al−O−Nからなる相で構成されることになり、高強度、高靭性特性に加えて、所定の電気抵抗値を有し特に摺動特性が優れた耐摩耗性部材として好適な窒化けい素焼結体が得られるという知見が得られた。本発明は上記知見に基づいて完成されたものである。
すなわち、本発明方法で得られる窒化けい素製耐摩耗性部材は、窒化けい素を55〜75質量%、炭化けい素を12〜28質量%、Mo,W,TaおよびNbから選択される少なくとも1種の元素をけい化物換算で3〜15質量%および希土類元素−Si−Al−O−Nからなる粒界相を5〜15質量%で構成されるセラミックス焼結体からなり、電気抵抗値が10〜10Ω・cm、気孔率が1%以下、3点曲げ強度が900MPa以上であることを特徴とする。
また、上記窒化けい素製耐摩耗性部材において、破壊靭性値が6.0MPa・m1/2以上であることが好ましい。さらに、Ti,Hf,Zrからなる群より選択される少なくとも1種を酸化物に換算して5質量%以下含有することが好ましい。
また、上記耐摩耗性部材において、前記窒化けい素焼結体からなる板状の耐摩耗性部材の上面に設定した直径40mmの軌道上に直径が9.525mmである3個のSUJ2製転動鋼球を配置してスラスト型軸受試験機を構成し、上記転動鋼球に3.92KNの荷重を印加した状態で回転数1200rpmの条件下で回転させたときに、上記窒化けい素製耐摩耗性部材の表面が剥離するまでの回転数で定義される転がり寿命が1×10回以上である耐摩耗性部材とすることも可能である。
さらに、前記窒化けい素焼結体の圧砕強度が200MPa以上であり、この窒化けい素焼結体からなる耐摩耗性部材から直径が9.525mmである3個の転動ボールを調製する一方、SUJ2製鋼板の上面に設定した直径40mmの軌道上に上記3個の転動ボールを配置してスラスト型軸受試験機を構成し、上記転動ボールに5.9GPaの最大接触応力が作用するように荷重を印加した状態で回転数1200rpmの条件下で回転させたときに、上記窒化けい素焼結体製転動ボールの表面が剥離するまでの時間で定義される転がり疲労寿命が400時間以上である窒化けい素製耐摩耗性部材とすることも可能である。
なお、耐摩耗性部材がボール形状である場合の耐摩耗性(転がり疲労寿命)の測定方法として、直径9.525mm(=3/8インチ)のボールを基準値として挙げているが、本発明はこのサイズに限定されるものではない。例えば、ボールのサイズが直径9.525mm(=3/8インチ)と異なる場合は、最大接触応力をボールのサイズに合せて変更して測定するものとする。この場合、最大接触応力の変更については、単位Paが1Pa=1.02×10−5kgf/cm2であることから、測定対象のボールのサイズに合せて比例計算して算出するものとする。また、本発明の耐摩耗性部材はボールのサイズが異なったとしても転がり疲労寿命が400時間以上得られるものである。
本発明に係る耐摩耗性部材の製造方法は、酸素を1.7質量%以下、α相型窒化けい素を90質量%以上含有する平均粒径1.0μm以下の窒化けい素粉末に、炭化けい素を12〜28質量%、Mo,W,Ta,Nbの炭化物、けい化物、酸化物からなる群より選択される少なくとも1種をけい化物換算で3〜15質量%、希土類元素を酸化物に換算して2〜10質量%、アルミニウムを酸化物に換算して2〜10質量%、Ti,Hf,Zrからなる群より選択される少なくとも1種を酸化物に換算して5質量%以下添加した原料混合体を成形して成形体を調製し、得られた成形体を脱脂後、非酸化性雰囲気下で1650〜1850℃の温度で焼結することを特徴とする。
また、上記窒化けい素製耐摩耗性部材の製造方法において、焼結後に30MPa以上の非酸化性雰囲気下で温度1800℃以下で熱間静水圧プレス(HIP)処理を実施することが好ましい。
上記製造方法によれば、耐摩耗性部材を構成する窒化けい素焼結体を調製する際に、窒化けい素原料粉末に導電性付与粒子としての炭化けい素とMo化合物等とを所定量添加し、得られた原料混合体の成形体を所定条件下で脱脂・焼結して形成されているため、窒化けい素焼結体結晶組織中に炭化けい素等が分散して、所定の電気抵抗値(10〜10Ω・cm)が得られ、静電気の発生を効果的に抑制できる導電性が付与される。
また、Mo化合物等は、炭化けい素と併用すると所定の電気抵抗値を得るのに著しい効果をすると共に、炭化けい素の含有量を減少させることが可能であり、焼結性の低下や焼結体の曲げ強度および破壊靭性値や摺動特性の劣化、さらには焼結体で形成したボールの研摩時に発生する脱粒の改善に大きな効果を発揮する。
さらに焼結性が低下することが少ないため、結晶組織の気孔径を極微小化することが可能である。そして、応力が作用した場合に疲労破壊の起点となり易い気孔が減少するため、疲労寿命および耐久性に優れた耐摩耗性部材が得られる。また、窒化けい素結晶組織中に希土類元素等を含む粒界相が形成され、その粒界相中の最大気孔径が0.3μm以下であり、気孔率が1%以下、三点曲げ強度が室温で900MPa以上であり、破壊靭性値が6.0MPa・m1/2以上であり、圧砕強度が200MPa以上の機械的特性に優れた窒化けい素製耐摩耗性部材を得ることも容易である。
本発明方法において使用され、耐摩耗性部材を構成する窒化けい素焼結体の主成分となる窒化けい素粉末としては、焼結性、曲げ強度、破壊靭性値および転がり寿命を考慮して、酸素含有量が1.5質量%以下、好ましくは0.5〜1.2質量%であるα相型窒化けい素を75〜97質量%、好ましくは80〜95質量%含有し、平均粒径が1.0μm以下、好ましくは0.4〜0.8μm程度の微細な窒化けい素粉末を使用することが好ましい。
また、不純物酸素量が1.5質量%を超えるような窒化けい素粉末を用いると、焼結体全体としての酸素濃度が増加し、気孔率が増大するなどして窒化けい素焼結体が低強度化し易い。窒化けい素原料粉末のより好ましい酸素含有量は0.5〜1.2質量%の範囲である。
なお、窒化けい素原料粉末としてはα相型のものとβ相型のものとが知られているが、α相型の窒化けい素原料粉末では焼結体とした場合に強度が不足し易い傾向がある一方、β相型の窒化けい素原料粉末では高温度焼成が必要であるが、アスペクト比が高い窒化けい素結晶粒子が複雑に入り組んだ高強度の焼結体が得られる。したがって、本発明においてはα相型原料粉末を高温度で焼成した窒化けい素焼結体としては、β相型の窒化けい素結晶粒子を主成分とする焼結体とすることが好適である。
本発明方法で得られる耐摩耗部材において、窒化けい素の含有量を55〜75質量%の範囲に限定した理由は、55質量%以上の範囲で焼結体の曲げ強度、破壊靭性値および転がり寿命が格段に向上し、窒化けい素の優れた特性が顕著となるためである。一方、焼結体の電気抵抗値を考慮すると、75質量%までの範囲とする。好ましくは60〜70質量%の範囲とすることが好ましい。
その結果、窒化けい素の出発原料粉末としては、焼結性、曲げ強度、破壊靭性値、転がり寿命を考慮して、酸素含有率が1.5質量%以下、好ましくは0.5〜1.2質量%であり、α相型窒化けい素を90質量%以上含有し、平均粒径が1.0μm以下、好ましくは0.4〜0.8μm程度の微細な窒化けい素粉末を使用することが好ましい。
特に平均粒径が0.7μm以下の微細な原料粉末を使用することにより、少量の焼結助剤であっても気孔率が0.5%以下の緻密な焼結体を形成することが可能である。この焼結体の気孔率はアルキメデス法により容易に計測できる。
導電性付与粒子として含有する炭化けい素は窒化けい素結晶組織中に単独で分散し所定の電気抵抗値を付与する役目を果たすものである。この炭化けい素の含有量が12質量未満では効果が不十分である一方、含有量が28質量%を超える過量となる場合には、焼結性の低下や焼結体の曲げ強度および破壊靭性値や摺動特性の劣化、さらにはボールの研磨時における脱粒が発生しやすいため、含有量は12〜28質量%の範囲とする。好ましくは15〜25質量%の範囲とすることが望ましい。また、この炭化けい素にもα型とβ型とがあるが、双方とも同一の作用効果を有する。
もう一方の導電性付与粒子として焼結体に含有されるMo,W,Ta,Nbからなる群より選択される少なくとも1種の元素のけい化物は、炭化けい素と併用すると、焼結体に所定の電気抵抗を付与するのに著しい効果を発揮する化合物である。また、これらの元素のけい化物は炭化けい素の含有量を相対的に減少させることができるので、炭化けい素の添加による焼結性の低下や焼結体の曲げ強度および破壊靭性値や摺動特性の劣化、さらにはボールの研磨時における脱粒の発生を防止して改善を図るに際して大きな作用効果を併せ持つものである。
上記のMo,W,Ta,Nbの元素の含有量がけい化物換算で3質量未満の場合では、その添加効果が不十分である一方、含有量が15質量%を超える過量となる場合には、焼結性の低下や焼結体の曲げ強度および破壊靭性値や摺動特性の劣化が起こるため含有量は3〜15質量%の範囲とする。好ましくは5〜13質量%の範囲とすることが望ましい。
なお、本発明方法で得られる耐摩耗部材において、Mo,W,Ta,Nbの元素はけい化物として存在するが、原料段階では各種化合物として添加することが可能である。上記けい化物になるものとしては各元素のけい化物の他、Mo,W,Ta,Nbの炭化物、酸化物、硼化物があげられ、これらの化合物を窒化けい素粉末に添加し、焼結することにより窒化けい素のけい素成分と反応してけい化物となる。上記した化合物の中では、特にMoけい化物が顕著な改善効果を有し好適である。なお、当該けい化物には炭けい化物も含まれるものとする。
また本発明方法で得られる耐摩耗性部材において、電気抵抗値は10〜10Ω・cmの範囲に調整される。この電気抵抗値が10Ω・cmを超えるように過大であると、上記耐摩耗性部材で形成したベアリングボールの摺動時に発生する静電気の帯電を効率良く防止することが困難である。逆に、耐摩耗性部材の電気抵抗値が10Ω・cm未満であると、静電気の帯電を防ぐことは可能であるものの窒化けい素焼結体中に導電性付与粒子が大量に含有されている状態となり易くなるため、窒化けい素が本来もつ耐摩耗性や高強度の利点を十分に発揮できなくなるので好ましくない。
焼結助剤として希土類酸化物等を使用した場合には、窒化けい素焼結体組織に希土類元素−Si−Al−O−Nからなる粒界相が形成される。この粒界相は窒化けい素の焼結助剤として希土類酸化物、酸化アルミニウム、窒化アルミニウムなどを使用した場合の希土類元素−Si−Al−O−N系ガラスあるいは結晶化合物で構成されるものあり、窒化けい素焼結体組織を緻密化して耐摩耗性部材の特性を改善する。これらの粒界相の形成量が5質量%未満では、窒化けい素の緻密化が不十分である一方、15質量%を超える過量となる場合には、焼結体の曲げ強度および破壊靭性値や摺動特性の劣化が起こるため、その含有量は5〜15質量%の範囲とされる。好ましくは7〜13質量%の範囲とすることが望ましい。
上記窒化けい素原料粉末に焼結助剤として添加する希土類元素としては、Y,Ho,Er,Yb,La,Sc,Pr,Ce,Nd,Dy,Sm,Gdなどの酸化物もしくは焼結操作により、これらの酸化物となる物質が単独で、または2種以上の酸化物を組み合せたものを含んでもよい。これらの焼結助剤は、窒化けい素原料粉末と反応して液相を生成し、焼結促進剤として機能する。
上記焼結助剤の添加量は、酸化物換算で原料粉末に対して2〜10質量%の範囲とする。この添加量が2質量%未満の場合は、焼結体の緻密化あるいは高強度化が不十分であり、特に希土類元素がランタノイド系元素のように原子量が大きい元素の場合には、比較的低強度で比較的に低熱伝導率の焼結体が形成される。一方、添加量が10質量%を超える過量となると、過量の粒界相が生成し、気孔の発生量が増加したり、強度が低下し始めるので上記範囲とする。特に同様の理由により2〜8質量%とすることが望ましい。
また本発明において選択的な添加成分として使用するアルミニウム(Al)の酸化物(Al)は、上記希土類元素の焼結促進剤の機能を促進し低温での緻密化を可能にし結晶組織において粒成長を制御する機能を果し、Si3N4焼結体の曲げ強度および破壊靭性値などの機械的強度を向上させるために5質量%以下の範囲で添加される。このAlの添加量が酸化物換算で0.2質量%未満の場合においては添加効果が不十分である一方、5質量%を超える過量となる場合には酸素含有量の上昇が起こるため、添加量は5質量%以下、好ましくは0.2〜5質量%の範囲とする。特に0.5〜3質量%とすることが望ましい。
さらに他の選択的な添加成分としての窒化アルミニウム(AlN)は、焼結過程における窒化けい素の蒸発などを抑制するとともに、上記希土類元素の焼結促進剤としての機能をさらに助長する役目を果すものであり、5質量%以下の範囲で添加されることが望ましい。
AlNの添加量が0.1質量%未満の場合においては、より高温度での焼結が必要になる一方、5質量%を超える過量となる場合には過量の粒界相を生成したり、または窒化けい素に固溶し始め、気孔が増加し気孔率の上昇が起こるため、添加量は5質量%以下の範囲とする。特に焼結性、強度、転がり寿命共に良好な性能を確保するためには添加量を0.1〜3質量%の範囲とすることが望ましい。
本発明方法で得られる耐摩耗性部材において、Ti,Hf,Zrの化合物を、必要に応じて他の添加成分として使用するとよい。上記Ti,Hf,Zrの酸化物、炭化物、窒化物、けい化物から成る群から選択される少なくとも1種の化合物は、上記の希土類酸化物等の焼結促進剤としての機能をさらに促進し焼結体の機械的強度を向上させる機能を有する。これらの化合物の添加量が酸化物換算で0.5質量%未満では添加効果が不十分である一方、5質量%を超える過量となる場合には焼結体の強度の低下が起こるため、添加量は5質量%以下の範囲とする。特に1〜3質量%とすることが望ましい。
また上記Ti,Mo等の化合物は窒化けい素セラミックス焼結体を黒色系に着色し不透明性を付与する遮光剤としても機能する。
また焼結体の気孔率は耐摩耗性部材の転がり寿命および強度に大きく影響するため1.0%以下となるように製造する。気孔率が1.0%を超えると、疲労破壊の起点となる気孔が急増して耐摩耗性部材の転がり寿命が低下するとともに、焼結体の強度低下が起こる。好ましくは0.5%以下とする。
さらに上記のように窒化けい素焼結体の気孔率を1.0%以下にし、スラスト型転がり摩耗試験装置(スラスト型軸受試験機)を使用した場合に、所定の転がり寿命を与えるような窒化けい素焼結体を得るためには、前記原料で調製した窒化けい素成形体を脱脂後、1850℃以下の温度で2〜10時間程度、常圧焼結または加圧焼結することが重要である。また焼結操作完了直後における焼結体の冷却速度を毎時100℃以下にして徐冷することにより、気孔径をさらに小さくすることができる。
特に、焼結工程の途中において1250〜1600℃の温度で0.5〜10時間保持することにより生成する液相(結晶粒界相)中の酸素濃度を減少させ液相を高融点化し、液相の溶融時に生じる泡状の気孔の発生を抑制し、かつ最大気孔径を極微小化し、焼結体の転がり寿命を改善することが可能になる。この焼結途中における保持操作は、特に温度が1350〜1450℃の真空雰囲気で処理した場合に顕著な効果を発揮するが、温度が1500〜1600℃の窒素雰囲気中の処理でも同程度の効果が発揮される。
また、焼結後に液相が凝固する温度までに至る焼結体の冷却速度を毎時100℃以下にして徐冷した場合に、液相中の酸素濃度の低減化がさらに促進されるので、転がり寿命を改善した焼結体が得られる。
焼結温度を1650℃未満とした場合には、焼結体の緻密化が不十分で気孔率が1.0vol.%を超えた値になり、機械的強度および転がり寿命が共に低下してしまう。一方焼結温度が1850℃を超えると窒化けい素成分自体が蒸発分解し易くなる。特に加圧焼結ではなく、常圧焼結を実施した場合には、1800℃付近より窒化けい素の分解蒸発が始まる。
上記焼結操作完了直後における焼結体の冷却速度は気孔径を低減したり、粒界相を結晶化させるための制御因子であり、冷却速度が毎時100℃を超えるような急速冷却を実施した場合には、焼結体組織の粒界相が非結晶質(ガラス相)となり、焼結体に生成した液相中での酸素濃度の低減化が不十分となり、焼結体の転がり寿命特性が低下してしまう。
上記冷却速度を厳密に調整すべき温度範囲は、所定の焼結温度(1650〜1850℃)から、前記の焼結助剤の反応によって生成する液相が凝固するまでの温度範囲で十分である。ちなみに前記のような焼結助剤を使用した場合の液相凝固点は概略1600〜1500℃程度である。そして少なくとも焼結温度から上記液相凝固温度に至るまでの焼結体の冷却速度を毎時100℃以下、好ましくは50℃以下、さらに好ましくは25℃以下に制御することにより、焼結体の最大気孔径が0.3μm以下となり、気孔率も0.5%以下となり、転がり寿命特性および耐久性に優れた窒化けい素焼結体が得られる。
本発明に係る耐摩耗性部材を構成する窒化けい素焼結体は、例えば以下のようなプロセスを経て製造される。すなわち前記所定の微細粒径を有し、また酸素含有量が少ない微細な窒化けい素粉末に対して所定量の焼結助剤、導電性付与成分(炭化けい素、Mo化合物等)、有機バインダ等の必要な添加剤および必要に応じてAl,AlN,Ti等の化合物を加えて原料混合体を調製し、次に得られた原料混合体を成形して所定形状の成形体を得る。
原料混合体の成形法としては、汎用の一軸プレス法、金型プレス法、ドクターブレード法、ラバープレス法、CIP法のような公知の成形法が適用できる。
上記金型プレス法で成形体を形成する場合において、特に焼結後において気孔が発生し難い粒界相を形成するためには、原料混合体の成形圧力を120MPa以上に設定することが必要である。この成形圧力が120MPa未満である場合には、主として粒界相を構成する成分となる希土類元素化合物が凝集した箇所が形成され易い上に、十分に緻密な成形体となり得ず、クラックの発生が多い焼結体しか得られない。上記粒界相の凝集した箇所は疲労破壊の起点となり易いため、耐摩耗性部材の寿命耐久性が低下してしまう。一方、成形圧力が200MPaを超えるように過大にした場合、成形型の耐久性が低下してしまうので、必ずしも製造性が良いとは言えない。そのため、上記成形圧力は120〜200MPaの範囲が好ましい。
上記成形操作に引き続いて、成形体を非酸化性雰囲気中で温度600〜800℃、または空気中で温度400〜500℃で1〜2時間加熱して、予め添加していた有機バインダ成分を十分に除去し、脱脂する。
次に脱脂処理された成形体を、窒素ガスやアルゴンガスなどの不活性ガス雰囲気中で1650〜1850℃の温度で所定時間、常圧焼結または雰囲気加圧焼結を行う。加圧焼結法としては、雰囲気加圧焼結、ホットプレス、HIP処理など各種の加圧焼結法が用いられる。
また上記焼結後、得られた窒化けい素焼結体に対し、さらに30MPa以上の非酸化性雰囲気中で温度1800℃以下で熱間静水圧プレス(HIP)処理を実施することにより、疲労破壊の起点となる焼結体の気孔の影響をより低減できるため、さらに改善された摺動特性および転がり寿命特性を有する耐摩耗性部材が得られる。
特に、上記窒化けい素焼結体をベアリングボールのような軸受部材に適用する場合には、常圧焼結または雰囲気加圧焼結後にHIP処理を行うことが有効である。
上記製法によって製造された窒化けい素製耐摩耗性部材は、気孔率が1.0%以下であり、また三点曲げ強度が常温で900MPa以上と機械的特性にも優れている。
また、圧砕強度が200MPa以上、破壊靭性値が6.0MPa・m1/2以上である窒化けい素製耐摩耗性部材を得ることもできる。
本発明に係る窒化けい素製耐摩耗性部材の製造方法によれば、耐摩耗性部材を構成する窒化けい素焼結体を調製する際に、窒化けい素原料粉末に導電性付与粒子としての炭化けい素とMo化合物等とを所定量添加し、得られた原料混合体の成形体を所定条件下で脱脂・焼結して形成されているため、窒化けい素焼結体結晶組織中に炭化けい素等が分散して、所定の電気抵抗値(10〜10Ω・cm)が得られ、静電気の発生を効果的に抑制できる導電性が付与される。
また炭化けい素とMo化合物等とを併用して所定量添加しているため、焼結性が損なわれることが少なく、気孔の発生が抑制されて気孔率を極微小化することが可能であり、静電気の影響が少なく、転がり寿命特性および耐久性が優れた耐摩耗性部材が得られる。そのため、この耐摩耗性部材を転がり軸受部材として使用して軸受部を調製した場合には、長期間に亘って良好な摺動転動特性を維持することが可能であり、動作信頼性および耐久性に優れた回転機器を提供することができる。また、他の用途としては、エンジン部品、各種治工具、各種レール、各種ローラなど耐摩耗性を要求される様々な分野に適用可能である。
すなわち、本発明で使用する窒化けい素焼結体は各種の用途に使用することが可能であるものの、特に耐摩耗性部材に対して有効である。この窒化けい素焼結体を適用し得る耐摩耗性部材は、軸受部材、圧延用などの各種ロール材、コンプレッサ用ベーン、ガスタービン翼、カムローラなどのエンジン部品などが挙げられるが、これらのうちでもベアリングボールのように全面が摺動部となる軸受部材(転動体)に対して効果的である。
また特に、ハードディスクドライブ装置(HDD)の回転部のベアリングボールとして使用した場合には、高速回転を行った際に発生した静電気がベアリングボールを介して軸受け鋼等の金属部材により作製された回転軸部、ボール受け部に効果的に発散されることになり、経時的に多量の静電気が蓄積される恐れがなく、記憶データの損傷もなく、ハードディスクドライブ装置(HDD)を常に正常に稼動させることができるので、特に効果的である。
なお、耐摩耗性部材として使用する窒化けい素焼結体には、必要に応じて表面研摩や被覆処理などの仕上げ加工を行ってもよいことは言うまでもない。言い換えると、窒化けい素焼結体がそのまま耐摩耗性部材として使用可能な場合は、窒化けい素焼結体が直接耐摩耗性部材となる。
以上説明の通り、本発明に係る耐摩耗性部材の製造方法によれば、耐摩耗性部材を構成する窒化けい素焼結体を調製する際に、窒化けい素原料粉末に導電性付与粒子としての炭化けい素とMo化合物等とを所定量添加し、得られた原料混合体の成形体を所定条件下で脱脂・焼結して形成されているため、窒化けい素焼結体結晶組織中に炭化けい素等が分散して、所定の電気抵抗値(10〜10Ω・cm)が得られ、静電気の発生を効果的に抑制できる導電性が付与される。
また炭化けい素とMo化合物等とを併用して所定量添加しているため、焼結性が損なわれることが少なく、気孔の発生が抑制されて気孔率を極微小化することが可能であり、静電気の影響が少なく、転がり寿命特性および耐久性が優れた耐摩耗性部材が得られる。そのため、この耐摩耗性部材を転がり軸受部材として使用して軸受部を調製した場合には、長期間に亘って良好な摺動転動特性を維持することが可能であり、動作信頼性および耐久性に優れた回転機器を提供することができる。また、他の用途としては、エンジン部品、各種治工具、各種レール、各種ローラなど耐摩耗性を要求される様々な分野に適用可能である。
本発明方法で得られる窒化けい素製耐摩耗性部材の転がり寿命特性を測定するためのスラスト型転がり摩耗試験装置の構成を示す断面図。
次に本発明の実施形態を以下に示す実施例を参照して具体的に説明する。
[実施例1]
実施例1として、酸素量が1.1質量%であり、α相型窒化けい素を97質量%含む平均粒径0.55μmのSi3N4(窒化けい素)原料粉末64質量%に対して、導電性付与材として平均粒径0.6μmのβ型炭化けい素粉末(SiC)を16質量%と、平均粒径1μmの炭化モリブデン(Mo2C)粉末を10質量%と、焼結助剤としての平均粒径0.9μmのY(酸化イットリウム)粉末を4質量%と、平均粒径0.7μmのAl(アルミナ)粉末を3質量%と、平均粒径1.0μmのAlN(窒化アルミニウム)粉末を2質量%と、平均粒径0.5μmのTiO(酸化チタン)粉末を1質量%とを添加し、エチルアルコール中で窒化けい素ボールを用いて96時間湿式混合したのち乾燥して原料混合体を調製した。
次に得られた原料粉末混合体に有機バインダを所定量添加し調合造粒粉としたのち、130MPaの成形圧力で金型プレス成形し、曲げ強度測定用サンプルとしての縦50mm×横50mm×厚さ5mmの成形体および転がり寿命測定用サンプルとしての直径80mm×厚さ6mmの円板状成形体をそれぞれ多数製作した。
次に得られた成形体を温度450℃の空気気流中において4時間脱脂した後、窒素ガス雰囲気中で加圧力0.7MPaにて1800℃で4時間焼結した。次に得られた焼結体を窒素ガス雰囲気中98MPaにて温度1700℃で1時間、熱間静水圧プレス(HIP:ホットアイソスタテイックプレス)処理することにより、実施例1に係る窒化けい素焼結体製耐摩耗性部材を調製した。
[比較例1〜3]
比較例1として導電性付与材としてのSiC粉末とMoC粉末とを添加しない点以外は実施例1と同一条件で処理することにより、比較例1に係る窒化けい素焼結体製耐摩耗性部材を調製した。また比較例2として、導電性付与材としてのMoC粉末を添加しない点以外は実施例1と同一条件で処理することにより、比較例2に係る窒化けい素焼結体製耐摩耗性部材を調製した。さらに比較例3として、導電性付与材のSiC粉末を添加しない点以外は実施例1と同一条件で処理することにより比較例3に係る窒化けい素焼結体製耐摩耗性部材を調製した。
こうして得られた実施例1および比較例1〜3に係る窒化けい素製耐摩耗部材について、気孔率、室温での3点曲げ強度、マイクロインデンテーション法における新原方式による破壊靭性値、電気抵抗値、および図1に示すようなスラスト型転がり摩耗試験装置(スラスト型軸受試験機)を用いて、転がり寿命(繰り返し回数)を測定した。
なお、焼結体の気孔率はアルキメデス法によって測定した。また、アルキメデス法による測定限界は0.01%であり、この値以下の気孔率は全て0.01%以下と表示した。
また、三点曲げ強度については焼結体から3mm×40mm×厚さ4mmの曲げ試験片を作成し、スパン(支点距離)を30mmとし、荷重の印加速度を0.5mm/minに設定した条件で測定した。
また電気抵抗値は試料の上下を研削加工し上下の平面上に電極を設置し、室温(25℃)にて試料の抵抗を絶縁抵抗計で測定した。
また各耐摩耗性部材の転がり特性は、図1に示すようなスラスト型転がり摩耗試験装置を使用して測定した。この試験装置は、装置本体1内に配置された平板状の耐摩耗性部材2と、この耐摩耗性部材2上面に配置された複数の転動鋼球3と、この転動鋼球3の上部に配置されたガイド板4と、このガイド板4に接続された駆動回転軸5と、上記転動鋼球3の配置間隔を規制する保持器6とを備えて構成される。装置本体1内には、転動部を潤滑するための潤滑油7が充填される。上記転動鋼球3およびガイド板4は、日本工業規格(JIS G 4805)で規定される高炭素クロム軸受鋼(SUJ2)で形成される。上記潤滑油7としては、パラフィン系潤滑油(40℃での粘度:67.2mm/S)やタービン油が使用される。
本実施例に係る板状の耐摩耗性部材の転がり寿命は、耐摩耗性部材2の上面に設定した直径40mmの軌道上に直径が9.525mmである3個のSUJ2製転動鋼球を配置し、タービン油の油浴潤滑条件下で、この転動鋼球3に3.92KNの荷重を印加した状態で回転数1200rpmの条件下で回転させたときに、上記窒化けい素製耐摩耗性部材2の表面が剥離するまでの回転数を転がり寿命(繰り返し回数)として測定した。各測定結果を下記表1に示す。
Figure 2010090029
上記表1に示す結果から明らかなように実施例1に係る窒化けい素製耐摩耗性部材においては、導電性付与粒子としての炭化けい素粉末および炭化モリブデン粉末を所定量添加して形成されているため、静電気の滞留を防止できる所定の電気抵抗値が得られている一方、気孔の発生が抑制されており、機械的強度特性が良好であり、転がり寿命が1×10回を超え耐久性に優れた窒化けい素製耐摩耗性部材が得られた。
一方、導電性付与材としてのSiC粉末とMoC粉末とを添加しない比較例1においては、破壊靭性値は上昇したものの所定の低い電気抵抗値は全く得られていない。
一方、比較例2のように導電性付与材としてのMoC粉末を添加しない場合および比較例3のように導電性付与材としてのSiC粉末を添加しない場合においては、転がり寿命に有意差は生じていないが、所定の低い電気抵抗値は全く得られていない。
次に本発明方法で得られる窒化けい素製耐摩耗性部材を軸受材の転動ボールに適用した場合について以下の実施例および比較例を参照して具体的に説明する。
[実施例1Bおよび比較例1B〜3B]
前記実施例1および比較例1〜3において作成した調合造粒粉をそれぞれ金型に充填加圧して球状の予備成形体を調製した。さらに各予備成形体を980MPaの成形圧でラバープレス処理を実施することにより、圧砕強度測定用および転がり寿命測定用サンプルとしての球状成形体をそれぞれ調製した。
次に各球状成形体について、実施例1と同一条件で脱脂処理、焼結処理およびHIP処理を実施し、緻密な窒化けい素焼結体を得た.さらに得られた焼結体を研摩加工して直径が9.525mmであり、表面粗さが0.01μmRaであるボール状に形成することにより、それぞれ実施例1Bおよび比較例1B〜3Bに係る耐摩耗性部材としての軸受用転動ボールを調製した。なお、上記表面粗さは、触針式表面粗さ測定器を使用し、転動ボールの赤道上を測定して求めた中心線平均粗さ(Ra)として測定した。
また上記のようにして調製した各実施例および比較例に係る耐摩耗性部材としての転動ボールについて、圧砕強度、転がり疲労寿命および静電気による不具合の有無について調査測定した。
なお上記圧砕強度は、同一寸法のベアリングボール2個を縦に重ねて配置し、旧JIS−B−1501に準じたインストロン万能試験機により、クロスヘッドスピード5mm/分の条件で測定した。
また、転がり(疲労)寿命は、図1に示すスラスト型転がり摩耗試験装置を使用して測定した。ここで前記実施例1等においては評価対象が平板状の耐摩耗性部材2であり、この耐摩耗性部材2の表面を転動するボールはSUJ2製転動鋼球3であったが、本実施例1Bおよび比較例1B〜3Bの窒化けい素製転動ボール8を評価対象とするため、耐摩耗性部材2の代わりにSUJ2製の軸受鋼板9を配置した。
そして各転動ボールの転がり疲労寿命は、上記のように各耐摩耗性部材から直径が9.525mmである3個の転動ボール8を調製する一方、SUJ2製鋼板9の上面に設定した直径40mmの軌道上に上記3個の転動ボール8を配置し、タービン油の油浴潤滑条件下でこの転動ボール8に5.9GPaの最大接触応力が作用するように荷重を印加した状態で回転数1200rpmの条件下で回転させたときに、上記窒化けい素焼結体製転動ボール8の表面が剥離するまでの時間として転がり(疲労)寿命を測定した。
また、静電気による不具合の有無については以下のように調査測定した。すなわち、ハードディスクドライブを回転させるためのスピンドルモータのベアリング部材として各転動ボールを組込み、該スピンドルモータを回転速度8000rpmで200時間連続稼動させたときの静電気による不具合の有無、つまりハードディスクドライブが正常に稼動するか否かにより不具合の有無を判定した。
なお、この転がり摩耗試験におけるその他のベアリング部材として、軸受鋼SUJ2製の回転軸部並びにボール受け部を用いた。各測定・評価結果を下記表2に示す。
Figure 2010090029
上記表2に示す結果から明らかなように実施例1Bに係る窒化けい素製転動ボールにおいては、導電性付与粒子としての炭化けい素粉末および炭化モリブデン粉末を所定量添加して形成されているため、静電気の滞留を防止できる所定の電気抵抗値が得られており、静電気による不具合は完全に防止されていた上に、転がり寿命が400時間を超え耐久性に優れた窒化けい素製耐摩耗性部材が得られた。
一方、導電性付与材としてのSiC粉末とMoC粉末とを添加しない比較例1Bの場合、導電性付与材としてのMoC粉末を添加しない比較例2Bの場合および導電性付与材としてのSiC粉末を添加しない比較例3Bの場合においては、実施例1Bと比較して転がり寿命に有意差は生じていないが、所定の低い電気抵抗値は全く得られていないため、静電気による不具合が発生した。
次に前記実施例以外の組成または処理条件によって調製した板状の耐摩耗性部材について以下の実施例および比較例を参照して具体的に説明する。
[実施例2〜20]
実施例2〜20として実施例1において使用した窒化けい素原料粉末と、SiC粉末と、MoC粉末等と、Y粉末等と、Al粉末と、表3に示すように平均粒径0.9〜1.0μmの各種希土類酸化物粉末の他に、平均粒径0.5μmのTiO粉末と、平均粒径1.0μmのAlN粉末の他に平均粒径0.4〜0.5μmの各種化合物粉末を表3に示す組成比となるように調合して原料混合体をそれぞれ調製した。
次に得られた各原料混合体を実施例1と同一条件で成形脱脂処理した後、表3に示す条件で焼結処理を実施し、さらにHIP処理することにより、それぞれ実施例2〜20に係る窒化けい素製耐摩耗性部材を製造した。
[比較例4〜10]
一方比較例4〜10として表3に示すようにSiCを過少量に添加したもの(比較例4)、SiCを過量に添加する一方、Si含有量を過少としたもの(比較例5)、MoCを過少量に添加したもの(比較例6)、MoCを過量に添加したもの(比較例7)、Yを過少量に添加したもの(比較例8)、Yを過量に添加したもの(比較例9)、TiOを好ましい範囲よりも過量に添加したもの(比較例10)の原料混合体をそれぞれ調製した。
次に得られた各原料混合体を実施例3と同一条件で成形脱脂処理した後、表3に示す条件で焼結操作を実施した後に、さらにHIP処理することにより、それぞれ比較例4〜10に係る窒化けい素製耐摩耗性部材を製造した。
こうして製造した各実施例および比較例に係る各窒化けい素製耐摩耗性部材について、実施例1と同一条件で気孔率、電気抵抗値、室温での三点曲げ強度、破壊靭性値および転がり寿命を測定して下記表3に示す結果を得た。
Figure 2010090029
上記表3に示す結果から明らかなように、所定量の希土類元素、導電性付与粒子としての炭化けい素粉末および炭化モリブデン粉末等を所定量添加して形成された各実施例に係る耐摩耗性部材においては、静電気の滞留を防止できる所定の電気抵抗値が得られている一方、気孔の発生が抑制されており、機械的強度特性が良好であり、転がり寿命が1×10回を超え耐久性に優れた窒化けい素製耐摩耗性部材が得られた。
一方、比較例4〜10で示すように、導電性付与粒子、希土類成分等の添加量が本発明で規定する好ましい範囲外とした焼結体では、実施例と同一条件の焼結操作およびHIP処理を実施しても、耐摩耗性部材表面の転がり寿命が低く、焼結体の電気抵抗値,三点曲げ強度および破壊靭性値等のいずれかの特性において本発明で規定する特性要件が満たされていないことが確認できる。
次に上記実施例2〜20および比較例4〜10に係る耐摩耗性部材を軸受材の転動ボールに適用した場合について以下の実施例および比較例を参照して具体的に説明する。
[実施例2B〜20Bおよび比較例4B〜10B]
前記実施例2〜20および比較例4〜10において作成した調合造粒粉をそれぞれ金型に充填加圧して球状の予備成形体を調製した。さらに各予備成形体を980MPaの成形圧でラバープレス処理を実施することにより、圧砕強度測定用および転がり寿命測定用サンプルとしての球状成形体をそれぞれ調製した。
次に各球状成形体について、実施例1と同一条件で脱脂処理を行った後に、表4に示す焼結途中での保持条件、焼結条件、焼結後の冷却速度およびHIP条件で処理し、さらに得られた焼結体を研摩加工して直径が9.525mmであり、表面粗さが0.01μmRaであるボール状に形成することにより、それぞれ実施例2B〜20Bおよび比較例4B〜10Bに係る耐摩耗性部材としての軸受用転動ボールを調製した。なお、上記表面粗さは、触針式表面粗さ測定器を使用し、転動ボールの赤道上を測定して求めた算術平均粗さ(Ra)として測定した。
また上記のようにして調製した各実施例および比較例に係る耐摩耗性部材としての転動ボールについて、圧砕強度、転がり(疲労)寿命および静電気による不具合の有無を実施例1Bと同様にして測定・評価した。測定評価結果を下記表4に示す。
Figure 2010090029
上記表4に示す結果から明らかなように、所定量の希土類元素、導電性付与粒子としての炭化けい素粉末および炭化モリブデン粉末等を所定量添加して形成された各実施例に係る耐摩耗性部材においては、静電気の滞留を防止できる所定の電気抵抗値が得られている一方、気孔の発生が抑制されており、圧砕強度特性が良好であり、転がり(疲労)寿命が400時間を超え耐久性に優れた窒化けい素製耐摩耗性部材が得られている。
一方、比較例4B〜10Bで示すように、導電性付与粒子、希土類成分等の添加量が本発明で規定する範囲外とした焼結体では、実施例と同一条件の焼結処理およびHIP処理を実施しても、転動ボールの転がり(疲労)寿命が全体に低くなるか、または焼結体の圧砕強度や静電気による不具合等のいずれかの特性において本発明で規定する特性要件が満たされていないことが確認できる。
1 装置本体
2 耐摩耗性部材
3 転動鋼球
4 ガイド板
5 駆動回転軸
6 保持器
7 潤滑油
8 転動ボール(窒化けい素製)
9 軸受鋼板(SUJ2製)

Claims (5)

  1. 酸素を1.7質量%以下、α相型窒化けい素を90質量%以上含有する平均粒径1.0μm以下の窒化けい素粉末に、炭化けい素を12〜28質量%、Mo,W,Ta,Nbの炭化物からなる群より選択される少なくとも1種をけい化物換算で3〜15質量%、希土類元素を酸化物に換算して2〜10質量%、アルミニウムを酸化物に換算して2〜10質量%、Ti,Hf,Zr、からなる群より選択される少なくとも1種を酸化物に換算して5質量%以下添加した原料混合体を成形して成形体を調製し、得られた成形体を脱脂後、非酸化性雰囲気下で1650〜1850℃の温度で焼結することにより前記炭化物がけい化物になることを特徴とする窒化けい素製耐摩耗性部材の製造方法。
  2. 焼結後、30MPa以上の非酸化性雰囲気下で温度1800℃以下で熱間静水圧プレス(HIP)処理を実施することを特徴とする請求項1記載の窒化けい素製耐摩耗性部材の製造方法。
  3. 得られた焼結体の気孔率が0.2%以下であり、三点曲げ強度が900MPa以上であり、電気抵抗値が10〜10Ω・cmであることを特徴とする請求項1または2のいずれか1項に記載の窒化けい素製耐摩耗性部材の製造方法。
  4. 破壊靭性値が6.0MPa・m1/2以上であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の窒化けい素製耐磨耗性部材の製造方法。
  5. 前記窒化けい素焼結体からなる板状の耐摩耗性部材の上面に設定した直径40mmの軌道上に直径が9.525mmである3個のSUJ2製転動鋼球を配置してスラスト型軸受試験機を構成し、上記転動鋼球に3.92KNの荷重を印加した状態で回転数1200rpmの条件下で回転させたときに、上記窒化けい素製耐摩耗性部材の表面が剥離するまでの回転数で定義される転がり寿命が1×10回以上であることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の窒化けい素製耐摩耗性部材の製造方法。
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