JP2010089373A - 撥水・撥油性コーティング物品およびその製造 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】コーティング表面の二乗平均粗さ(RMS)値を100nm以上にすることによって高い撥水性・撥油性と高い転落角とを同時に有するコーティング物品を得ることができた。
【選択図】なし
Description
しかし、これらの固体表面に、油汚れなどに対してより高い防汚効果を求める場合には、水のみでなく、油を代表とする低表面張力物質に対しても高い接触角と低い転落角とを有することが望まれる。つまり、撥水性と撥油性との両方を兼ね備えたコーティング膜の形成が求められ、さらに、高い撥水性・撥油性、すなわち超撥水性と超撥油性を兼ね備えたコーティング膜が望まれている。
また、特許文献2には、防汚性ガラスとして、無機顔料などで表面粗さRyが0.05μm以上0.4μm以下である表面を形成し、その上にパーフルオロアルキルシランで膜形成させたものが記載されている。油焼付け汚れも拭き取り易いことが記載されてはいるが、これも水に対する接触角は、100〜110度程度である。
さらに特許文献3では、油の接触角が150度を超える超撥油状態を作製するための方法として、表面粗さを600nm以上に調整し、フルオロアルキルシランなどの表面エネルギーを低下させる材料で撥油層を形成する方法が開示されている。具体的には、ベーマイトのエマルジョンを準備し、ガラス表面にスピンコートし焼成するサイクルを12回繰り返した後、パーフルオロアルキルシランをCVD処理する方法が開示されているが、この方法では、工程数も多く複雑である。
また、特許文献5には、撥水性および撥油性を有する物品であって、撥水性および撥油性を有する層は、下層が疎水性を有するポリマーからなる凹凸構造を有する撥水性層であり、上層がフッ素含有シランカップリング剤からなる撥油性層であるものが記載されている。この表面は、撥水性が水に対する接触角が150度以上、撥油性がサラダ油に対する接触角が100度以上であるというが、下層の凹凸構造を有するポリマー層を形成するために電解酸化(還元)重合を行い、その上に撥油性層を設けるという複雑な工程を必要としている。
このような従来技術の中で、簡便な方法で、より高い撥水性と撥油性とを同時に有し、且つ転落角の低い表面を得ることが望まれている。
その結果、本発明者らは、高い撥水性・撥油性を有し転落角の低いコーティング物品のためには、コーティング物品の表面粗さ(二乗平均粗さ(RMS)値)が特定の値以上である必要があることを見出した。具体的には、本発明者らは、二乗平均粗さ(RMS)が100nm以上であれば、水に対する接触角が150度以上、油に対する接触角が130度以上の超撥水・高撥油性が得られ、さらに、二乗平均粗さ(RMS)が150nm以上であれば、水に対する接触角も油に対する接触角も140度以上の超撥水・超撥油性が得られることを見出した。
また、本発明者らは、そのような、二乗平均粗さ(RMS)値が特定値以上のコーティング物品をゾルゲル法で得るために、コーティング組成物中の触媒を塩基性物質にする、及び/またはコーティング組成物への浸漬・乾燥を例えば3回あるいは5回以上という多数回繰り返せば良いことを見出した。
さらにまた、意外なことに被コーティング物品とコーティング組成物の組成や調製法、コーティング方法を組み合せて調整することで、接触角が150度以上という高い撥水性および撥油性を有すると共に水滴および油滴に対する転落角も10度以下という低いコーティング物品表面が得られることも見出した。
(1)アルコール、アルコキシシラン、パーフルオロアルキルシラン、シリカ微粒子、アルコキシシランの加水分解反応を促進する触媒、および水を含むコーティング組成物をコーティングして得られるコーティング物品であって、その物品表面における二乗平均粗さ(RMS)値が100nm以上であることを特徴とする撥水・撥油性コーティング物品。
(2)物品表面における二乗平均粗さ(RMS)値が150nm以上である上記(1)に記載の撥水・撥油性コーティング物品。
(3)物品がガラス製品あるいは繊維製品である上記(1)または(2)に記載の撥水・撥油性コーティング物品。
(4)水に対する接触角が150度以上の表面を有する上記(1)〜(3)のいずれかに記載の撥水・撥油性コーティング物品。
(5)油に対する接触角が130度以上の表面を有する上記(4)に記載の撥水・撥油性コーティング物品。
(6)転落角が10度以下の表面を有する上記(1)〜(5)のいずれかに記載の撥水・撥油性コーティング物品。
(7)水に対する接触角が150度以上、油に対する接触角が150度以上、転落角が10度以下の表面を有する撥水・撥油性コーティング物品。
(8)アルコール、アルコキシシラン、パーフルオロアルキルシラン、シリカ微粒子、テトラアルコキシシランの加水分解反応を促進する触媒としての塩基、および水を含むコーティング組成物に被コーティング物品を浸漬した後、引き上げ、乾燥することを特徴とする上記(1)〜(7)のいずれかに記載の撥水・撥油性コーティング物品の製造方法。
(9)アルコール、アルコキシシラン、パーフルオロアルキルシラン、シリカ微粒子、アルコキシシランの加水分解反応を促進する触媒、および水を含むコーティング組成物に被コーティング物品を浸漬した後、引き上げ、乾燥する工程を複数回繰り返すことを特徴とする上記(1)〜(7)のいずれかに記載の撥水・撥油性コーティング物品の製造方法。
(10)アルコール、アルコキシシラン、パーフルオロアルキルシラン、シリカ微粒子、テトラアルコキシシランの加水分解反応を促進する触媒としての塩基、および水を含むコーティング組成物に被コーティング物品を浸漬した後、引き上げ、乾燥する工程を3回以上繰り返すことを特徴とする上記(1)〜(7)のいずれかに記載の撥水・撥油性コーティング物品の製造方法。
すなわち、本発明のコーティング物品の製造方法は、コーティング組成物に物品を浸漬、引き上げ、乾燥するという、特殊な装置を必要としない簡単な方法で、表面に所望の表面粗さ(二乗平均粗さ(RMS)値)を形成でき、物品に撥水性と撥油性とを同時に付与できるという利点を有する。
また、乾燥を室温でも行なうことができるので、本発明は、熱に弱い物品に対しても適用することができる。
本発明のコーティング組成物は、固体物品の表面を撥水・撥油処理するのに用いられる。固体物品は、金属、セラミック、ガラス、プラスチックなどの硬い素材でも、紙、繊維などの柔らかい素材でもいずれでも適用できるが、ガラス製品、繊維製品に特に有用に適用できる。本発明のコーティングはフレキシビリティーが高く、紙、繊維などに適用しても柔軟性を保つことができる。
コーティング組成物中のテトラアルコキシシラン濃度は、1〜20重量%程度が好ましい。
撥水性のみでなく、撥油性を奏させるために、シリカ微粒子の平均一次粒径は、20〜40nmが好ましい。この一次粒径範囲であれば、コーティング物品表面に撥水性・撥油性に望ましい凹凸を付与することができる。
好ましいコーティング組成物は、モル比で、アルコール:テトラアルコキシシラン:パーフルオロアルキルシラン:水が100〜300:1:0〜0.8:[テトラアルコキシシラン+パーフルオロアルキルシラン]×4〜20程度である。
浸漬速度は、0.2〜20mm/secが好ましく、10mm/secが最も好ましい。引き上げ速度は、0.2〜20mm/secが好ましく、0.3mm/secが最も好ましい。引き上げ速度が遅いと、コーティングが付着しにくく、引き上げ速度が速いと均一に付着しない。
乾燥は室温〜105℃程度で行なう。加熱するほうが早く乾燥できるが、室温でも十分乾燥できる。
その結果、コーティング組成物のpHは、触媒として塩基を加えることによって、11〜13.5に調整するのが好ましく、pH12程度が最適であることが分かった。
実施例において、接触角および転落角は、接触角計(協和界面科学製: CA-DT)で測定した。測定は、接触角計に10μlの水または油を滴下して行なった。
また、RMS値は、原子間力顕微鏡(AFM;Digital Instrument社製)を用いて測定した。AFM像から得た表面ピーク高Zを基に次の式により、RMS値を算出した(「(株)東陽テクニカ NanoScopeIII Off−line機能」参照)。
RMS = √Σ(Zi−Zave)2/N
N:データポイント数
Zi:各データポイントのZの値
Zave:全Z値の平均
1)コーティング組成物の作製
エタノール16.4g、シリカ微粒子3.0g、テトラエトキシシラン0.41g、ヘプタデカフルオロデシルトリエトキシシラン0.22gを混合し、酸およびアルカリを加えて、液のpHを制御した。酸は塩酸、アルカリは水酸化ナトリウム水溶液を用いた。以上の操作によりコーティング組成物を得た。
2)ガラス基板へのコーティング方法
このコーティング組成物を用い、ガラス基板に浸漬速度10mm/sec、引き上げ速度0.3mm/secで浸漬し、10分室温で乾燥する工程を5回繰り返し、最後に105℃で30分乾燥して、ガラス物品とした。
この図1および図2の結果から、水滴および油滴の接触角はRMSと良い相関を有すること、RMSが100nm以上であるとき、水滴の接触角は150度を超え、油滴の接触角も130度を超えていることが分かる。さらに、RMSが150nm以上であればさらに水滴および油滴の接触角は高くなることが分かる。
また、水滴および油滴に対する高い接触角を得るためには、塩基の添加により、pHを上昇させることが有効で、pH11〜13.5で高い撥水・撥油性が得られ、さらにpH12程度で最高のRMSが得られることが分かる。
浸漬、引き上げ、乾燥という浸漬工程の繰り返し回数(浸漬回数)と得られるコーティング物品の接触角およびRMSとの関係を調べた。
コーティング組成物は、実施例1と同様に作製した。ただし、水酸化ナトリウムを0.3140g添加した。ガラス基板へのコーティング方法も浸漬回数以外は実施例1と同じである。
結果を図3に示した。
図3の結果から、浸漬回数が3回以上になると、接触角150度以上の撥水性、140度以上の撥油性、RMSが100nmを超え、5回以上になるとRMSは150nmを超えることが分かる。さらに浸漬回数を増やすことで接触角およびRMSがさらに高くなることが分かる。
以下の実施例では、転落角の測定も示す。
エタノールを13g、テトラエトキシシランを0.3g、ヘプタデカフルオロデシルトリエトキシシランを0.3g、粒径40nmのシリカ微粒子を1.0g、水および加水分解のための触媒を1規定塩酸を0.04g加えて、コーティング組成物1を得た。
コーティング組成物1にスライドガラスを浸漬し、引上げ速度0.6mm/sで引上げた後、105℃で30分乾燥させて超撥水高撥油コーティング表面1を得た。この表面1のRMSは、228nmであった。
表面の接触角および転落角は表2に示した。表面のRMSは560nmであった。
表面の接触角および転落角は表2に示した。表2に示すとおり、この表面3は、水に対する接触角も油に対する接触角も150度以上であって、且つ、転落角が10度以下という超撥水・超撥油性であった。なお、表面のRMSは761nmであった。この場合、被コーティング物品が布であるため、被コーティング物品自体が、RMS288nmという高いRMSを有しており、それに本発明のコーティング処理を行なうことによって、水に対しても油に対しても転落角が10度以下である極めて優れた撥水・撥油表面が得られることが分かった。
[比較例1]
表面の接触角および転落角を表2に示した。
Claims (10)
- アルコール、アルコキシシラン、パーフルオロアルキルシラン、シリカ微粒子、アルコキシシランの加水分解反応を促進する触媒、および水を含むコーティング組成物をコーティングして得られるコーティング物品であって、その物品表面における二乗平均粗さ(RMS)値が100nm以上であることを特徴とする撥水・撥油性コーティング物品。
- 物品表面における二乗平均粗さ(RMS)値が150nm以上である請求項1に記載の撥水・撥油性コーティング物品。
- 物品がガラス製品あるいは繊維製品である請求項1または2に記載の撥水・撥油性コーティング物品。
- 水に対する接触角が150度以上の表面を有する請求項1〜3のいずれかに記載の撥水・撥油性コーティング物品。
- 油に対する接触角が130度以上の表面を有する請求項4に記載の撥水・撥油性コーティング物品。
- 転落角が10度以下の表面を有する請求項1〜5のいずれかに記載の撥水・撥油性コーティング物品。
- 水に対する接触角が150度以上、油に対する接触角が150度以上、転落角が10度以下の表面を有する撥水・撥油性コーティング物品。
- アルコール、アルコキシシラン、パーフルオロアルキルシラン、シリカ微粒子、テトラアルコキシシランの加水分解反応を促進する触媒としての塩基、および水を含むコーティング組成物に被コーティング物品を浸漬した後、引き上げ、乾燥することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の撥水・撥油性コーティング物品の製造方法。
- アルコール、アルコキシシラン、パーフルオロアルキルシラン、シリカ微粒子、アルコキシシランの加水分解反応を促進する触媒、および水を含むコーティング組成物に被コーティング物品を浸漬した後、引き上げ、乾燥する工程を複数回繰り返すことを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の撥水・撥油性コーティング物品の製造方法。
- アルコール、アルコキシシラン、パーフルオロアルキルシラン、シリカ微粒子、テトラアルコキシシランの加水分解反応を促進する触媒としての塩基、および水を含むコーティング組成物に被コーティング物品を浸漬した後、引き上げ、乾燥する工程を3回以上繰り返すことを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の撥水・撥油性コーティング物品の製造方法。
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