JP2010054214A - 生体分子機能解析用基板、生体分子機能解析用試料体および生体分子機能解析方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】本発明の生体分子機能解析用基板は、開口部の直径が100nm〜1μmの穴部11aまたは幅が100nm〜1μmの溝からなる微小凹部が形成された基板本体11と、基板本体11の微小凹部の上に配置されたナノ線状体からなる網目構造体12とを有する。本発明の生体分子機能解析用試料体は、生体分子機能解析用基板10と、生体分子機能解析用基板10を構成する網目構造体12上に形成された脂質二分子膜20とを有する。
【選択図】図4
Description
従来、生体分子の構造解析としては、X線回折による方法、電子線回折による方法、電子顕微鏡による方法が広く適用されてきた。しかし、これらの手法では、解析対象分子である生体分子の結晶化あるいは凍結が必要で、生体分子が機能する状態のまま解析することはできなかった。核磁気共鳴法(NMR法)のように、溶液中での解析を可能にする手法もあるが、適用範囲は限られており、チャネルタンパク質や受容体タンパク質のような大きくて複雑な生体分子に適用することは困難である。そのため、これらタンパク質を解析するためには、これらタンパク質を機能ドメイン毎に分断して解析することになる。
フクマ・タケシら、「アプライド フィジックス レターズ(APPLIED PHYSICS LETTERS)」、米国物理学会、87巻,2005年、034101−1〜3 アンドウ・トシオら、「ケムフィズケム(CHMPHYSCHM)」、4巻、2003年、p.1196−1202
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、生体分子の機能発現に影響せず、生体分子の機能を正確に解析できる生体分子機能解析用基板、生体分子機能解析用試料体および生体分子機能解析方法を提供することを目的とする。
[1] 開口部の直径が100nm〜1μmの穴部または幅が100nm〜1μmの溝からなる微小凹部が形成された基板本体と、該基板本体の微小凹部の上に配置されたナノ線状体からなる網目構造体とを有することを特徴とする生体分子機能解析用基板。
[2] 基板本体の微小凹部内に蛍光物質が配置されている[1]に記載の生体分子機能解析用基板。
[3] 前記網目構造体を形成するナノ線状体が、解析対象の生体分子を選択的に吸着可能な成分で化学修飾されていることを特徴とする[1]または[2]に記載の生体分子機能解析用基板。
[4] [1]〜[3]のいずれかに記載の生体分子機能解析用基板と、該生体分子機能解析用基板を構成する網目構造体上に形成された脂質二分子膜とを有することを特徴とする生体分子機能解析用試料体。
[5] [1]〜[3]のいずれかに記載の生体分子機能解析用基板を構成する網目構造体上に脂質二分子膜を形成し、該脂質二分子膜にて解析対象の生体分子を保持し、走査プローブ顕微鏡装置を用いて該生体分子の機能を解析することを特徴とする生体分子機能解析方法。
本発明の生体分子機能解析用基板(以下、基板と略す。)の一実施形態例について説明する。
図1,2に、本実施形態の基板を示す。本実施形態の基板10は、穴部11aからなる微小凹部が均一に形成された基板本体11と、基板本体11の穴部11aの開口部の上に配置された網目構造体12とを有する。なお、図1における右上の像は、1つの穴部11aを拡大した像である。
本実施形態例における基板本体11の穴部11aは円形状に開口している。穴部11aの開口部の直径は100nm〜1μmである。穴部11a開口部の直径が前記範囲であることにより、基板10を用いて擬似的な細胞膜を得ることができる。
ナノ線状体としては、例えば、ナノチューブ、ナノワイヤー、ナノファイバなどが挙げられ、その材質としては特に制限はないが、ナノ線状体を容易に形成できる点では、カーボンが好ましい。
ここで、ナノ線状体とは、長さ方向に垂直な断面の直径が1nm〜20nmの線状体のことである。ナノ線状体の長さ方向に垂直な断面の直径が前記下限以上であれば、脂質二分子膜を充分に支持することができる。また、前記上限以下であれば、穴部11aの上に網目構造体12が配置されても、観察目的の生体試料のAFM観察に支障をきたさない。
ナノ線状体としてカーボンナノチューブ(以下、CNTということがある。)を用いる場合、その直径を前記範囲にするためには、後述する網目構造体12の形成方法において、使用する金属触媒の種類、粒子径および密度や、形成時の温度を適宜選択すればよい。例えば、触媒の粒子径を大きくする程、直径は大きくなる。
ナノ線状体としてCNTを用いる場合、CNTを化学修飾する方法としては、例えば、ナノ線状体を、濃硫酸と濃硝酸の混合液で酸化処理してカルボキシル基を形成させた後に、(a)1−エチル−3−(3−ジメチルアミノ)プロピル)カルボジイミドで処理して、カルボジイミド基を形成させる方法、(b)N−ヒドロキシスクシンイミドで処理して、N−ヒドロキシスクシンイミドエステルを形成させる方法などが挙げられる。
ナノ線状体に電圧を印加すると、電界が発生し、その電界によって、脂質二分子膜内での生体分子Aの配置を制御できる。また、生体分子Aの機能の発現を、外部から付与する電気刺激によって制御することも可能になる。
また、化学気相成長法により網目構造体12を形成する場合には、ナノ線状体を容易に形成できることから、鉄等の金属触媒を用いることが好ましい。また、基板本体11の表面にナノ線状体を形成するためには、金属触媒を基板本体11の表面にあらかじめ付着させておくことが好ましい。
また、網目構造体12は穴部11aを塞いで密閉するものではないから、生体分子機能を解析するための基板用として適している。
次に、上記基板10を用いた生体分子機能解析用試料体(以下、試料体と略す。)について説明する。
図4に示すように、本実施形態例の試料体1は、上記基板10と、基板10を構成する網目構造体12上に形成された脂質二分子膜20とを有する。
ベシクルを形成する脂質分子としては、細胞内のリン脂質(例えば、ホスファチジルコリン等)、あるいはそれに類似した脂質分子が好ましく用いられる。ベシクル溶液の溶媒としては、例えば、リン酸緩衝食塩水などが用いられる。ベシクル溶液の溶媒は、穴部11aを満たす液にもなる。
ベシクル溶液における溶媒と脂質分子との混合割合は、溶媒に対して脂質分子0.001〜1質量%が好ましい。
ベシクル溶液中のベシクルの粒径は、穴部11aの開口部の直径より大きいことが好ましい。
ベシクル溶液には、解析対象の生体分子をあらかじめ含有させておいてもよい。
脂質二分子膜20より上にある緩衝液31は、脂質二分子膜形成後に置換することによって、脂質二分子膜20の下にある緩衝液32と異なる組成にすることができる。これにより、細胞内液と細胞外液とが異なる状態を作り出すことができる。
また、試料体1では、穴部11aの上の網目構造体12によって脂質二分子膜20が支持されている。そのため、走査型プローブ顕微鏡装置の探針によって脂質二分子膜20が押圧されても、生体分子Aを含む脂質二分子膜20は撓みにくく、生体分子Aの機能を正確に再現できる。したがって、この試料体1を用いることにより、生体分子Aの機能を正確に解析できる。
次に、上記基板10を用いた生体分子機能解析方法の一実施形態例について説明する。
本実施形態例の生体分子機能解析方法は、基板10の脂質二分子膜20に測定対象の生体分子Aを保持し、走査プローブ顕微鏡装置を用いて生体分子Aの機能を解析する方法である。
生体分子Aを脂質二分子膜20に保持させる方法としては、脂質二分子膜20を形成するためのベシクル溶液にあらかじめ生体分子Aを含有させておく方法、脂質二分子膜20を形成した後に、生体分子Aを再構成したベシクル(プロテオリポソーム)を含む溶液を脂質二分子膜20の上に滴下して融合させる方法などが挙げられる。
走査プローブ顕微鏡装置は、測定センサであるカンチレバーを備えている。
機能解析用測定装置としては、蛍光顕微鏡装置や、電圧印加によって解析対象の生体分子の周囲に電界を生じさせ、かつ解析対象の分子が発する電流の変動を測定できるパッチクランプ装置などが挙げられる。
上記基板10を用いる本実施形態では、一方の電極は穴部11aの底部に設けられることが好ましい。
電極の材質としては、例えば、銅、アルミニウム、金、銀、塩化銀、白金、クロム、ニッケルなどの金属、および導電性樹脂などの導電性物質が挙げられる。
電極の厚みは50〜500nmであることが好ましい。
電極の形成方法としては、例えば、上記導電性物質の薄膜を蒸着、メッキなどにより基板本体上に成膜し、エッチング技術などの微細加工技術を用いて、不要な部分の導電性物質の薄膜を除去する方法などが挙げられる。
フォトリソグラフィ法によりシリコン基板の片面に、直径600nm、深さ350nmの穴部を均一に多数形成した後、シリコン基板の穴部が形成された側の面にシリコン酸化膜を約40nm堆積させて、基板本体を得た。次いで、基板本体の上に、厚さ0.2nmの鉄薄膜を真空蒸着させ、900℃で加熱処理して鉄を凝集させて、鉄粒子を形成させた。この得られた鉄粒子を触媒として、温度900℃、圧力10kPaの条件下、メタンを炭素源としたCVD法により、カーボンナノチューブの網目構造体を基板本体の表面に形成させて、基板を得た。基板の網目構造体が形成された側の面を走査型電子顕微鏡により観察したところ、この網目構造体は穴部の開口部の上にも形成されていた。
また、網目構造体を構成するカーボンナノチューブは、直径が3〜10nmの2層または3層の多層カーボンナノチューブであった。したがって、得られたカーボンナノチューブの直径は、生体膜の細胞骨格(7〜10nm程度)と同等であった。
次いで、得られた基板を、1,2−ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(DPPC)に、DPPC100質量%に対して1質量%の、蛍光修飾脂質4−フルオロ−7−ニトロベンゾフラン付きのホスファチジルエタノールアミンを混合したベシクル溶液に30分間浸漬した。これにより、基板の網目構造体上に脂質二分子膜を展開させた。
次いで、膜タンパク質を再構成したプロテオリポソームを、上記脂質二分子膜に融合させた。プロテオリポソームは、透析法により作製した。すなわち、240μMの脂質ベシクル溶液(卵黄由来のホスホコリンとウシ脳由来のホスファチジルセリンの1:1質量比)2μL、 800mMの界面活性剤(n−アセチル−D−グリコピラノシド)4μLおよび100ng/mlのタンパク質溶液(1M トリス塩酸緩衝液,pH7.4)195μLを混合し、セルロース製の半透膜を用いて5日間の透析を行って、プロテオリポソームを得た。
基板の脂質二分子膜にて膜タンパク質を保持した状態を、AFM(オリンパス社製 NVB500)により観察した。その顕微鏡像を図7に示す。矢印の先の白い輝点が膜タンパク質Bである。このように、本実施例によれば、正確に膜タンパク質の原子力顕微鏡像を得ることができた。
穴部の直径を100nm、深さを100nmとしたこと以外は実施例1と同様にして基板を得た。
次いで、リン酸緩衝液に蛍光色素(アレクサ647、5mM)を混合した溶液に基板を浸漬させて、穴部内に蛍光色素を配置させた。
また、卵黄由来のホスホコリンとウシ脳由来のホスファチジルセリンを、1:1の質量比率で混合し、これに、20質量%のフルオレセイン付きのホスホエタノールアミンを添加して、ベシクル溶液を得た。
次いで、蛍光色素を穴部内に配置した基板に、上記脂質ベシクル溶液10μLを滴下し、30分間静置して、穴部を脂質二分子膜でシールした。その後、穴部外の基板や溶液内に残った蛍光色素は緩衝液で充分に洗浄した。
得られた基板を、蛍光顕微鏡により観察したところ、穴部内の蛍光色素は赤く見えており、脂質二分子膜は緑色に見えていた。これにより、穴部内にのみ蛍光色素が配置され、閉じ込められていることが確認された。
実施例1で得た基板を、濃硫酸(濃度96質量%)と濃硝酸(濃度61質量%)の混合液(体積比3:1)に10分間浸漬して、網目構造体を形成するカーボンナノチューブの表面にカルボキシル基を形成させた。
次いで、基板を1−エチル−3−(3−(ジメチルアミノ)プロピル)カルボジイミド中に30分間、さらに、N−ヒドロキシスクシンイミド中に30分間浸漬して、カーボンナノチューブの表面にN−ヒドロキシスクシンイミドエステルを形成させた。
このように化学修飾させた網目構造体を有する基板によれば、N−ヒドロキシスクシンイミドエステルと膜タンパク質のN末端あるいはリジン残基との置換反応によって、膜タンパク質を固定できるため、脂質二分子膜内での膜タンパク質の流動を抑制できる。
10 基板(生体分子機能解析用基板)
11 基板本体
11a 穴部
11b 溝部
12 網目構造体
20 脂質二分子膜
A 生体分子
Claims (5)
- 開口部の直径が100nm〜1μmの穴部または幅が100nm〜1μmの溝からなる微小凹部が形成された基板本体と、該基板本体の微小凹部の上に配置されたナノ線状体からなる網目構造体とを有することを特徴とする生体分子機能解析用基板。
- 基板本体の微小凹部内に蛍光物質が配置されていることを特徴とする請求項1に記載の生体分子機能解析用基板。
- 前記網目構造体を形成するナノ線状体が、解析対象の生体分子を選択的に吸着可能な成分で化学修飾されていることを特徴とする請求項1または2に記載の生体分子機能解析用基板。
- 請求項1〜3のいずれかに記載の生体分子機能解析用基板と、該生体分子機能解析用基板を構成する網目構造体上に形成された脂質二分子膜とを有することを特徴とする生体分子機能解析用試料体。
- 請求項1〜3のいずれかに記載の生体分子機能解析用基板を構成する網目構造体上に脂質二分子膜を形成し、該脂質二分子膜にて解析対象の生体分子を保持し、走査プローブ顕微鏡装置を用いて該生体分子の機能を解析することを特徴とする生体分子機能解析方法。
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