以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について詳細に説明する。
まず、本発明に係る熱処理装置の全体構成について概説する。図1は、本発明に係る熱処理装置1の構成を示す縦断面図である。熱処理装置1は基板として略円形の半導体ウェハーWにフラッシュ光を照射してその半導体ウェハーWを加熱するフラッシュランプアニール(FLA)装置である。熱処理装置1は、半導体ウェハーWを収容する略円筒形状のチャンバー6と、複数のフラッシュランプFLを内蔵するランプハウス5と、を備える。また、熱処理装置1は、チャンバー6およびランプハウス5に設けられた各動作機構を制御して半導体ウェハーWのフラッシュ加熱処理を実行させる制御部3を備える。
チャンバー6は、ランプハウス5の下方に設けられており、略円筒状の内壁を有するチャンバー側部63、および、チャンバー側部63の下部を覆うチャンバー底部62によって構成される。また、チャンバー側部63およびチャンバー底部62によって囲まれる空間が熱処理空間65として規定される。熱処理空間65の上方は上部開口60とされており、上部開口60にはチャンバー窓61が装着されて閉塞されている。
チャンバー6の天井部を構成するチャンバー窓61は、石英により形成された円板形状部材であり、ランプハウス5から出射されたフラッシュ光を熱処理空間65に透過する石英窓として機能する。チャンバー6の本体を構成するチャンバー底部62およびチャンバー側部63は、例えば、ステンレススチール等の強度と耐熱性に優れた金属材料にて形成されており、チャンバー側部63の内側面の上部のリング631は、光照射による劣化に対してステンレススチールより優れた耐久性を有するアルミニウム(Al)合金等で形成されている。
また、熱処理空間65の気密性を維持するために、チャンバー窓61とチャンバー側部63とはOリングによってシールされている。すなわち、チャンバー窓61の下面周縁部とチャンバー側部63との間にOリングを挟み込むとともに、クランプリング90をチャンバー窓61の上面周縁部に当接させ、そのクランプリング90をチャンバー側部63にネジ止めすることによって、チャンバー窓61をOリングに押し付けている。
チャンバー底部62には、保持部7を貫通して半導体ウェハーWをその下面(ランプハウス5からの光が照射される側とは反対側の面)から支持するための複数(本実施の形態では3本)の支持ピン70が立設されている。支持ピン70は、例えば石英により形成されており、チャンバー6の外部から固定されているため、容易に取り替えることができる。
チャンバー側部63は、半導体ウェハーWの搬入および搬出を行うための搬送開口部66を有し、搬送開口部66は、軸662を中心に回動するゲートバルブ185により開閉可能とされる。チャンバー側部63における搬送開口部66とは反対側の部位には熱処理空間65に処理ガス(例えば、窒素(N2)ガスやヘリウム(He)ガス、アルゴン(Ar)ガス等の不活性ガス、あるいは、酸素(02)ガス等)を導入する導入路81が形成され、その一端はガスバルブ82を介して図示省略の給気機構に接続され、他端はチャンバー側部63の内部に形成されるガス導入バッファ83に接続される。また、搬送開口部66には熱処理空間65内の気体を排出する排出路86が形成され、ガスバルブ87を介して図示省略の排気機構に接続される。
図2は、チャンバー6をガス導入バッファ83の位置にて水平面で切断した断面図である。図2に示すように、ガス導入バッファ83は、図1に示す搬送開口部66の反対側においてチャンバー側部63の内周の約1/3に亘って形成されており、導入路81を介してガス導入バッファ83に導かれた処理ガスは、複数のガス供給孔84から熱処理空間65内へと供給される。
また、熱処理装置1は、チャンバー6の内部において半導体ウェハーWを水平姿勢にて保持しつつフラッシュ光照射前にその保持する半導体ウェハーWの予備加熱を行う略円板状の保持部7と、保持部7をチャンバー6の底面であるチャンバー底部62に対して昇降させる保持部昇降機構4と、を備える。図1に示す保持部昇降機構4は、略円筒状のシャフト41、移動板42、ガイド部材43(本実施の形態ではシャフト41の周りに3本配置される)、固定板44、ボールネジ45、ナット46およびモータ40を有する。チャンバー6の下部であるチャンバー底部62には保持部7よりも小さい直径を有する略円形の下部開口64が形成されており、ステンレススチール製のシャフト41は、下部開口64を挿通して、保持部7(厳密には保持部7のホットプレート71)の下面に接続されて保持部7を支持する。
移動板42にはボールネジ45と螺合するナット46が固定されている。また、移動板42は、チャンバー底部62に固定されて下方へと伸びるガイド部材43により摺動自在に案内されて上下方向に移動可能とされる。また、移動板42は、シャフト41を介して保持部7に連結される。
モータ40は、ガイド部材43の下端部に取り付けられる固定板44に設置され、タイミングベルト401を介してボールネジ45に接続される。保持部昇降機構4により保持部7が昇降する際には、駆動部であるモータ40が制御部3の制御によりボールネジ45を回転し、ナット46が固定された移動板42がガイド部材43に沿って鉛直方向に移動する。この結果、移動板42に固定されたシャフト41が鉛直方向に沿って移動し、シャフト41に接続された保持部7が図1に示す半導体ウェハーWの受渡位置と図5に示す半導体ウェハーWの処理位置との間で滑らかに昇降する。
移動板42の上面には略半円筒状(円筒を長手方向に沿って半分に切断した形状)のメカストッパ451がボールネジ45に沿うように立設されており、仮に何らかの異常により移動板42が所定の上昇限界を超えて上昇しようとしても、メカストッパ451の上端がボールネジ45の端部に設けられた端板452に突き当たることによって移動板42の異常上昇が防止される。これにより、保持部7がチャンバー窓61の下方の所定位置以上に上昇することはなく、保持部7とチャンバー窓61との衝突が防止される。
また、保持部昇降機構4は、チャンバー6の内部のメンテナンスを行う際に保持部7を手動にて昇降させる手動昇降部49を有する。手動昇降部49はハンドル491および回転軸492を有し、ハンドル491を介して回転軸492を回転することより、タイミングベルト495を介して回転軸492に接続されるボールネジ45を回転して保持部7の昇降を行うことができる。
チャンバー底部62の下側には、シャフト41の周囲を囲み下方へと伸びる伸縮自在のベローズ47が設けられ、その上端はチャンバー底部62の下面に接続される。一方、ベローズ47の下端はベローズ下端板471に取り付けられている。べローズ下端板471は、鍔状部材411によってシャフト41にネジ止めされて取り付けられている。保持部昇降機構4により保持部7がチャンバー底部62に対して上昇する際にはベローズ47が収縮され、下降する際にはべローズ47が伸張される。そして、保持部7が昇降する際にも、ベローズ47が伸縮することによって熱処理空間65内の気密状態が維持される。
図3は、保持部7の構成を示す断面図である。保持部7は、半導体ウェハーWを予備加熱(いわゆるアシスト加熱)するホットプレート(加熱プレート)71、および、ホットプレート71の上面(保持部7が半導体ウェハーWを保持する側の面)に設置されるサセプタ72を有する。保持部7の下面には、既述のように保持部7を昇降するシャフト41が接続される。サセプタ72は石英(あるいは、窒化アルミニウム(AIN)等であってもよい)により形成され、その上面には半導体ウェハーWの位置ずれを防止するピン75が設けられる。サセプタ72は、その下面をホットプレート71の上面に面接触させてホットプレート71上に設置される。これにより、サセプタ72は、ホットプレート71からの熱エネルギーを拡散してサセプタ72上面に載置された半導体ウェハーWに伝達するとともに、メンテナンス時にはホットプレート71から取り外して洗浄可能とされる。
ホットプレート71は、ステンレススチール製の上部プレート73および下部プレート74にて構成される。上部プレート73と下部プレート74との間には、ホットプレート71を加熱するニクロム線等の抵抗加熱線76が配設され、導電性のニッケル(Ni)ロウが充填されて封止されている。また、上部プレート73および下部プレート74の端部はロウ付けにより接着されている。
図4は、ホットプレート71を示す平面図である。図4に示すように、ホットプレート71は、保持される半導体ウェハーWと対向する領域の中央部に同心円状に配置される円板状のゾーン711および円環状のゾーン712、並びに、ゾーン712の周囲の略円環状の領域を周方向に4等分割した4つのゾーン713〜716を備え、各ゾーン間には若干の間隙が形成されている。また、ホットプレート71には、支持ピン70が挿通される3つの貫通孔77が、ゾーン711とゾーン712との隙間の周上に120°毎に設けられる。
6つのゾーン711〜716のそれぞれには、相互に独立した抵抗加熱線76が周回するように配設されてヒータが個別に形成されており、各ゾーンに内蔵されたヒータにより各ゾーンが個別に加熱される。保持部7に保持された半導体ウェハーWは、6つのゾーン711〜716に内蔵されたヒータにより加熱される。また、ゾーン711〜716のそれぞれには、熱電対を用いて各ゾーンの温度を計測するセンサ710が設けられている。各センサ710は略円筒状のシャフト41の内部を通り制御部3に接続される。
ホットプレート71が加熱される際には、センサ710により計測される6つのゾーン711〜716のそれぞれの温度が予め設定された所定の温度になるように、各ゾーンに配設された抵抗加熱線76への電力供給量が制御部3により制御される。制御部3による各ゾーンの温度制御はPID(Proportional,Integral,Derivative)制御により行われる。ホットプレート71では、半導体ウェハーWの熱処理(複数の半導体ウェハーWを連続的に処理する場合は、全ての半導体ウェハーWの熱処理)が終了するまでゾーン711〜716のそれぞれの温度が継続的に計測され、各ゾーンに配設された抵抗加熱線76への電力供給量が個別に制御されて、すなわち、各ゾーンに内蔵されたヒータの温度が個別に制御されて各ゾーンの温度が設定温度に維持される。なお、各ゾーンの設定温度は、基準となる温度から個別に設定されたオフセット値だけ変更することが可能とされる。
6つのゾーン711〜716にそれぞれ配設される抵抗加熱線76は、シャフト41の内部を通る電力線を介してプレート電源98(図7)に接続されている。プレート電源98から各ゾーンに至る経路途中において、プレート電源98からの電力線は、マグネシア(マグネシウム酸化物)等の絶縁体を充填したステンレスチューブの内部に互いに電気的に絶縁状態となるように配置される。なお、シャフト41の内部は大気開放されている。
次に、ランプハウス5は、チャンバー6内の保持部7の上方に設けられている。ランプハウス5は、筐体51の内側に、複数本(本実施形態では30本)のキセノンフラッシュランプFLからなるフラッシュ光源と、その光源の上方を覆うように設けられたリフレクタ52と、を備えて構成される。また、ランプハウス5の筐体51の底部にはランプ光放射窓53が装着されている。ランプハウス5の床部を構成するランプ光放射窓53は、石英により形成された板状部材である。ランプハウス5がチャンバー6の上方に設置されることにより、ランプ光放射窓53がチャンバー窓61と相対向することとなる。ランプハウス5は、チャンバー6内にて保持部7に保持される半導体ウェハーWにランプ光放射窓53およびチャンバー窓61を介してフラッシュランプFLからフラッシュ光を照射することにより半導体ウェハーWを加熱する。
複数のフラッシュランプFLは、それぞれが長尺の円筒形状を有する棒状ランプであり、それぞれの長手方向が保持部7に保持される半導体ウェハーWの主面と平行となるように配置されている。また、複数のフラッシュランプFLは、互いに平行に所定の配列方向(ランプ長手方向と垂直の水平方向)に沿って一列に配列されている。よって、フラッシュランプFLの配列によって形成される平面も水平面となる。
図6は、フラッシュランプFLの駆動回路を示す図である。同図に示すように、コンデンサ93と、コイル94と、フラッシュランプFLとが直列に接続されている。各フラッシュランプFLは、その内部にキセノンガスが封入されその両端部に陽極および陰極が配設された棒状のガラス管(放電管)92と、該ガラス管92の外周面上に付設されたトリガー電極91とを備える。コンデンサ93には、電源ユニット95によって所定の電圧が印加され、その印加電圧に応じた電荷が充電される。また、トリガー電極91にはトリガー回路97から電圧を印加することができる。本実施形態においては、30本のフラッシュランプFLのそれぞれについて図6の駆動回路が設けられており、30個のトリガー電極91は1つのトリガー回路97に接続されている。なお、トリガー回路97についてはさらに後述する。
キセノンガスは電気的には絶縁体であることから、コンデンサ93に電荷が蓄積されていたとしても通常の状態ではガラス管92内に電気は流れない。しかしながら、トリガー回路97からトリガー電極91に高電圧を印加して絶縁を破壊した場合には、コンデンサ93に蓄えられた電荷がガラス管92内の両端電極間で瞬時に流れ、そのときのキセノンの原子あるいは分子の励起によって光が放出される。このようなキセノンフラッシュランプFLにおいては、予めコンデンサ93に蓄えられていた静電エネルギーが0.1ミリセカンドないし10ミリセカンドという極めて短い光パルスに変換されることから、連続点灯の光源に比べて極めて強い光を照射し得るという特徴を有する。
また、図1,図5のリフレクタ52は、複数のフラッシュランプFLの上方にそれら全体を覆うように設けられている。リフレクタ52の基本的な機能は、複数のフラッシュランプFLから出射された光を保持部7の側に反射するというものである。リフレクタ52はアルミニウム合金板にて形成されており、その表面(フラッシュランプFLに臨む側の面)はブラスト処理により粗面化加工が施されて梨地模様を呈する。このような粗面化加工を施しているのは、リフレクタ52の表面が完全な鏡面であると、複数のフラッシュランプFLからの反射光の強度に規則パターンが生じて半導体ウェハーWの表面温度分布の均一性が低下するためである。
制御部3は、熱処理装置1に設けられた上記の種々の動作機構を制御する。図7は、制御部3の構成を示すブロック図である。制御部3のハードウェアとしての構成は一般的なコンピュータと同様である。すなわち、制御部3は、各種演算処理を行うCPU31、基本プログラムを記憶する読み出し専用のメモリであるROM32、各種情報を記憶する読み書き自在のメモリであるRAM33および制御用ソフトウェアやデータなどを記憶しておく磁気ディスク34をバスライン39に接続して構成されている。
また、バスライン39には、チャンバー6内にて保持部7を昇降させる保持部昇降機構4のモータ40、チャンバー6内への処理ガスの給排を行うガスバルブ82,87、搬送開口部66を開閉するゲートバルブ185、ホットプレート71のゾーン711〜716への電力供給を行うプレート電源98、フラッシュランプFLの電源ユニット95およびトリガー回路97等が電気的に接続されている。制御部3のCPU31は、磁気ディスク34に格納された制御用ソフトウェアを実行することにより、これらの各動作機構を制御して、半導体ウェハーWの加熱処理を進行する。
さらに、バスライン39には、表示部35および入力部36が電気的に接続されている。表示部35は、例えば液晶ディスプレイ等を用いて構成されており、処理結果やレシピ内容等の種々の情報を表示する。入力部36は、例えばキーボードやマウス等を用いて構成されており、コマンドやパラメータ等の入力を受け付ける。装置のオペレータは、表示部35に表示された内容を確認しつつ入力部36からコマンドやパラメータ等の入力を行うことができる。なお、表示部35と入力部36とを一体化してタッチパネルとして構成するようにしても良い。
上記の構成以外にも熱処理装置1は、半導体ウェハーWの熱処理時にフラッシュランプFLおよびホットプレート71から発生する熱エネルギーによるチャンバー6およびランプハウス5の過剰な温度上昇を防止するため、様々な冷却用の構造を備えている。例えば、チャンバー6のチャンバー側部63およびチャンバー底部62には水冷管(図示省略)が設けられている。また、ランプハウス5は、内部に気体流を形成して排熱するための気体供給管55および排気管56が設けられて空冷構造とされている(図1,図5参照)。また、チャンバー窓61とランプ光放射窓53との間隙にも空気が供給され、ランプハウス5およびチャンバー窓61を冷却する。
次に、熱処理装置1における半導体ウェハーWの処理手順について説明する。ここで処理対象となる半導体ウェハーWはイオン注入法により不純物(イオン)が添加された半導体基板であり、添加された不純物の活性化が熱処理装置1による光照射加熱処理(アニール)により実行される。以下に説明する熱処理装置1の処理手順は、制御部3が熱処理装置1の各動作機構を制御することにより進行する。
まず、保持部7が図5に示す処理位置から図1に示す受渡位置に下降する。「処理位置」とは、フラッシュランプFLから半導体ウェハーWに光照射が行われるときの保持部7の位置であり、図5に示す保持部7のチャンバー6内における位置である。また、「受渡位置」とは、チャンバー6に半導体ウェハーWの搬出入が行われるときの保持部7の位置であり、図1に示す保持部7のチャンバー6内における位置である。熱処理装置1における保持部7の基準位置は処理位置であり、処理前にあっては保持部7は処理位置に位置しており、これが処理開始に際して受渡位置に下降するのである。図1に示すように、保持部7が受渡位置にまで下降するとチャンバー底部62に近接し、支持ピン70の先端が保持部7を貫通して保持部7の上方に突出する。
次に、保持部7が受渡位置に下降したときに、ガスバルブ82およびガスバルブ87が開かれてチャンバー6の熱処理空間65内に常温の窒素ガスが導入される。続いて、ゲートバルブ185が開いて搬送開口部66が開放され、装置外部の搬送ロボットにより搬送開口部66を介して半導体ウェハーWがチャンバー6内に搬入され、複数の支持ピン70上に載置される。
半導体ウェハーWの搬入時におけるチャンバー6への窒素ガスのパージ量は約40リットル/分とされ、供給された窒素ガスはチャンバー6内においてガス導入バッファ83から図2中に示す矢印AR4の方向へと流れ、図1に示す排出路86およびガスバルブ87を介してユーティリティ排気により排気される。また、チャンバー6に供給された窒素ガスの一部は、べローズ47の内側に設けられる排出口(図示省略)からも排出される。なお、以下で説明する各ステップにおいて、チャンバー6には常に窒素ガスが供給および排気され続けており、窒素ガスの供給量は半導体ウェハーWの処理工程に合わせて様々に変更される。
半導体ウェハーWがチャンバー6内に搬入されると、ゲートバルブ185により搬送開口部66が閉鎖される。そして、保持部昇降機構4により保持部7が受渡位置からチャンバー窓61に近接した処理位置にまで上昇する。保持部7が受渡位置から上昇する過程において、半導体ウェハーWは支持ピン70から保持部7のサセプタ72へと渡され、サセプタ72の上面に載置・保持される。保持部7が処理位置にまで上昇するとサセプタ72に保持された半導体ウェハーWも処理位置に保持されることとなる。
ホットプレート71の6つのゾーン711〜716のそれぞれは、各ゾーンの内部(上部プレート73と下部プレート74との間)に個別に内蔵されたヒータ(抵抗加熱線76)により所定の温度まで加熱されている。保持部7が処理位置まで上昇して半導体ウェハーWが保持部7と接触することにより、その半導体ウェハーWはホットプレート71に内蔵されたヒータによって予備加熱されて温度が次第に上昇する。
この処理位置にて約60秒間の予備加熱が行われ、半導体ウェハーWの温度が予め設定された予備加熱温度T1まで上昇する。予備加熱温度T1は、半導体ウェハーWに添加された不純物が熱により拡散する恐れのない、200℃ないし800℃程度、好ましくは350℃ないし550℃程度とされる。
約60秒間の予備加熱時間が経過した後、保持部7が処理位置に位置したまま制御部3の制御によりランプハウス5のフラッシュランプFLから半導体ウェハーWへ向けてフラッシュ光が照射される。ここで、本実施形態においては、30本のフラッシュランプFLを5つのフラッシュランプ群に分割し、それらフラッシュランプ群の発光タイミングを少しずつずらすようにしている。以下、その具体的な技術内容について説明する。
図8は、複数のフラッシュランプFLの分割例を示す図である。同図に示す例では、30本のフラッシュランプFLが互いに平行に配列方向LDに沿って一列に配列されている。そして、30本のフラッシュランプFLがそれらの配列方向LDに沿って5つのフラッシュランプ群LG1〜LG5に分割されている。フラッシュランプ群LG1〜LG5のそれぞれは6本のフラッシュランプFLを含んで構成される。フラッシュランプ群LG1〜LG5は互いに混在することなく、配列方向LDに沿って順番に整列している。すなわち、フラッシュランプ群LG1〜LG5は、配列方向LDに沿ってこの順番で隣接して配置されている。
図9は、トリガー回路97の構成を示すブロック図である。トリガー回路97は、図示を省略する起電回路にて生じたトリガー電圧を印加するためのトリガースイッチ191と4つのディレイ回路192を備える。図9に示すように、フラッシュランプ群LG1を構成する6本のフラッシュランプFLのトリガー電極91はトリガースイッチ191に直接接続されている。フラッシュランプ群LG1に隣接するフラッシュランプ群LG2を構成する6本のフラッシュランプFLのトリガー電極91は、1つのディレイ回路192を介してトリガースイッチ191に接続されている。
同様に、フラッシュランプ群LG2に隣接するフラッシュランプ群LG3を構成する6本のフラッシュランプFLのトリガー電極91は、2つのディレイ回路192を介してトリガースイッチ191に接続されている。また、フラッシュランプ群LG3に隣接するフラッシュランプ群LG4を構成する6本のフラッシュランプFLのトリガー電極91は、3つのディレイ回路192を介してトリガースイッチ191に接続される。フラッシュランプ群LG4に隣接するフラッシュランプ群LG5を構成する6本のフラッシュランプFLのトリガー電極91は、4つのディレイ回路192を介してトリガースイッチ191に接続される。
本実施形態においては、各ディレイ回路192の遅延時間は0.5ミリ秒に設定されている。従って、制御部3の制御によってトリガースイッチ191がオンになると、まずフラッシュランプ群LG1のトリガー電極91にトリガー電圧が印加された後、0.5ミリ秒遅れてフラッシュランプ群LG2のトリガー電極91にトリガー電圧が印加される。さらに、その後0.5ミリ秒遅れてフラッシュランプ群LG3のトリガー電極91にトリガー電圧が印加され、同様に0.5ミリ秒ずつ遅れてフラッシュランプ群LG4,LG5のトリガー電極91にトリガー電圧が順次印加される。すなわち、トリガー回路97は、5つのフラッシュランプ群LG1〜LG5のそれぞれに印加するトリガー電圧の印加タイミングを順次遅延させる。その結果、フラッシュランプ群LG1〜LG5は0.5ミリ秒ずつ遅れて順次発光することとなる。
図10は、フラッシュランプ群の発光タイミングを示す図である。予め、30本全てのフラッシュランプFLについて、コンデンサ93には電源ユニット95によって電荷が蓄積されている。最初に、トリガースイッチ191がオンになると同時に、フラッシュランプ群LG1のトリガー電極91にトリガー電圧が印加され、フラッシュランプ群LG1を構成する6本のフラッシュランプFLが発光する。フラッシュランプFLから放射されるフラッシュ光の一部は直接に、他の一部は一旦リフレクタ52により反射されてからチャンバー6内の保持部7に保持された半導体ウェハーWに照射される。フラッシュランプFLから照射されるフラッシュ光は、予め蓄えられていた静電エネルギーが極めて短い光パルスに変換された、照射時間が0.1ミリ秒ないし10ミリ秒程度の極めて短く強い閃光である。フラッシュランプFLの発光時間(照射時間)および発光の強度プロファイルはコイル94の定数によって規定される。本実施形態においては、30本のフラッシュランプFLの発光時間は属するフラッシュランプ群に関わらず全て約1ミリ秒とされている。
フラッシュランプ群LG1のトリガー電極91にトリガー電圧が印加されてから0.5ミリ秒遅れて隣接するフラッシュランプ群LG2のトリガー電極91にトリガー電圧が印加され、フラッシュランプ群LG2を構成する6本のフラッシュランプFLが発光する。フラッシュランプ群LG1の発光時間が約1ミリ秒であるため、フラッシュランプ群LG1が発光している途中でフラッシュランプ群LG2の発光が開始されることとなる。すなわち、フラッシュランプ群LG1の発光時間とフラッシュランプ群LG2の発光時間とは約0.5ミリ秒程度オーバーラップする。
次に、フラッシュランプ群LG2のトリガー電極91にトリガー電圧が印加されてから0.5ミリ秒遅れて隣接するフラッシュランプ群LG3のトリガー電極91にトリガー電圧が印加され、フラッシュランプ群LG3を構成する6本のフラッシュランプFLが発光する。フラッシュランプ群LG2の発光時間も約1ミリ秒であるため、フラッシュランプ群LG2が発光している途中でフラッシュランプ群LG3の発光が開始される。すなわち、フラッシュランプ群LG2の発光時間とフラッシュランプ群LG3の発光時間とは約0.5ミリ秒程度重なることとなる。
次に、フラッシュランプ群LG3のトリガー電極91にトリガー電圧が印加されてから0.5ミリ秒遅れて隣接するフラッシュランプ群LG4のトリガー電極91にトリガー電圧が印加され、フラッシュランプ群LG4を構成する6本のフラッシュランプFLが発光する。上記と同様に、フラッシュランプ群LG3の発光時間とフラッシュランプ群LG4の発光時間とも約0.5ミリ秒程度重なることとなる。
最後に、フラッシュランプ群LG4のトリガー電極91にトリガー電圧が印加されてから0.5ミリ秒遅れて隣接するフラッシュランプ群LG5のトリガー電極91にトリガー電圧が印加され、フラッシュランプ群LG5を構成する6本のフラッシュランプFLが発光する。同様に、フラッシュランプ群LG4の発光時間とフラッシュランプ群LG5の発光時間とも約0.5ミリ秒程度重なる。
このように、本実施形態においては、フラッシュランプ群LG1からフラッシュランプ群LG2,フラッシュランプ群LG3,フラッシュランプ群LG4,フラッシュランプ群LG5の順に発光させている。すなわち、5つのフラッシュランプ群LG1〜LG5のうちの一端に位置するフラッシュランプ群LG1から順に他端に向けて隣接するフラッシュランプ群を順次発光させて半導体ウェハーWのフラッシュ加熱を行っている。また、隣接するフラッシュランプ群の発光時間の一部は重なる。
その結果、図11に示すように、半導体ウェハーW上におけるフラッシュ光照射領域LAが矢印AR11にて示す向きに連続して走査されることとなる。このようにしてフラッシュ光照射領域LAが半導体ウェハーW上を走査されるようにすると、半導体ウェハーWの表面全面が一時に急激に熱膨張することはなく、熱膨張が生じる領域もフラッシュ光照射領域LAとともに矢印AR11にて示す向きに移動する。すなわち、半導体ウェハーWの端から順次熱膨張することとなる。このため、フラッシュランプFLからのフラッシュ光照射時の半導体ウェハーWの割れを防止することができる。
また、フラッシュ光照射領域LAにおける半導体ウェハーWの表面温度は、瞬間的に1000℃ないし1100℃程度の処理温度T2まで上昇し、半導体ウェハーWに添加された不純物が活性化された後、急速に下降する。フラッシュ光照射領域LAにおける半導体ウェハーWの表面温度は極めて短時間で昇降するため、半導体ウェハーWに添加された不純物の熱による拡散を抑制しつつ不純物の活性化を行うことができる。
また、フラッシュランプFLからフラッシュ光を照射する前に保持部7により半導体ウェハーWを予備加熱しておくことにより、フラッシュ光照射領域LAにおける半導体ウェハーWの表面温度を処理温度T2まで速やかに上昇させることができる。
フラッシュ加熱が終了し、処理位置における約10秒間の待機の後、保持部7が保持部昇降機構4により再び図1に示す受渡位置まで下降し、半導体ウェハーWが保持部7から支持ピン70へと渡される。続いて、ゲートバルブ185により閉鎖されていた搬送開口部66が開放され、支持ピン70上に載置された半導体ウェハーWは装置外部の搬送ロボットにより搬出され、熱処理装置1における半導体ウェハーWのフラッシュ加熱処理が完了する。
既述のように、熱処理装置1における半導体ウェハーWの熱処理時には窒素ガスがチャンバー6に継続的に供給されており、その供給量は、保持部7が処理位置に位置するときには約30リットル/分とされ、保持部7が処理位置以外の位置に位置するときには約40リットル/分とされる。
本実施形態のようにすれば、トリガー回路97によって、5つのフラッシュランプ群LG1〜LG5のうちの一のフラッシュランプ群LG1から順次隣接するフラッシュランプ群LG2,LG3,LG4,LG5を発光させて半導体ウェハーW上におけるフラッシュ光照射領域LAを走査させているため、半導体ウェハーWの表面の全面が一時に急激に熱膨張することはなく、フラッシュ光照射時の半導体ウェハーWの割れを防止することができる。このため、フラッシュランプFLからより大きな照射エネルギーを半導体ウェハーWに与えることもできる。
また、隣接するフラッシュランプ群の発光時間の一部が重なるように複数のフラッシュランプ群LG1〜LG5の発光タイミングを制御しているため、フラッシュ光照射領域LAが断続的ではなく連続的に半導体ウェハーW上を走査される。このため、半導体ウェハーWの全面において均一な温度履歴のフラッシュ加熱処理が行われる。
以上、本発明の実施の形態について説明したが、この発明はその趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。例えば、上記実施形態においては、5つのフラッシュランプ群LG1〜LG5のうちの一端に位置するフラッシュランプ群LG1から順に他端に向けて隣接するフラッシュランプ群を発光させるようにしていたが、発光の順序はこれに限定されるものではない。他の発光順として、最初に真ん中のフラッシュランプ群LG3を発光させた後、フラッシュランプ群LG2,LG4を発光させ、さらにその後両端のフラッシュランプ群LG1,LG5を発光させるようにしても良い。すなわち、5つのフラッシュランプ群LG1〜LG5のうち中央に位置するフラッシュランプ群LG3から順に両端に向けて隣接するフラッシュランプ群を発光させるようにしても良い。このようにしても、半導体ウェハーW上におけるフラッシュ光照射領域LAが中央から両端に向けて走査されることとなるため、半導体ウェハーWの表面の全面が一時に急激に熱膨張することはなく、フラッシュ光照射時の半導体ウェハーWの割れを防止することができる。
また、上記実施形態においては、30本のフラッシュランプFLを5つのフラッシュランプ群LG1〜LG5に分割していたが、これに代えて3つのフラッシュランプ群、6つのフラッシュランプ群、10のフラッシュランプ群、或いは30のフラッシュランプ群に分割するようにしても良い。3つのフラッシュランプ群に分割した場合、各フラッシュランプ群は10本のフラッシュランプFLを備える。また、6つのフラッシュランプ群に分割した場合、各フラッシュランプ群は5本のフラッシュランプFLを備え、10のフラッシュランプ群に分割した場合、各フラッシュランプ群は3本のフラッシュランプFLを備える。さらに、30のフラッシュランプ群に分割した場合、各フラッシュランプ群は1本のフラッシュランプFLでもって構成されることとなる。いずれの分割態様であっても、フラッシュランプFLの配列方向LDに沿って分割され、複数のフラッシュランプ群のうちの一のフラッシュランプ群から順次隣接するフラッシュランプ群を発光させて半導体ウェハーW上におけるフラッシュ光照射領域LAを走査させる。複数のフラッシュランプ群のうちの一端に位置するフラッシュランプ群から順に他端に向けて発光させるようにしても良いし、中央に位置するフラッシュランプ群から順に両端に向けて発光させるようにしても良い。なお、分割数が偶数の場合、中央に位置する2つのフラッシュランプ群から同時に発光を開始するようにしても良いし、それらのいずれか一方から発光を開始するようにしても良い。
また、ランプハウス5に備えるフラッシュランプFLの本数も30本に限定されるものではなく、任意の本数とすることができ、その総本数によって分割態様も種々のものを採りうる。要するに、複数のフラッシュランプを所定方向に沿って複数のフラッシュランプ群(1本のフラッシュランプでフラッシュランプ群を構成する場合を含む)に分割し、そのうちの任意の一のフラッシュランプ群から順次隣接するフラッシュランプ群を発光させて半導体ウェハーW上におけるフラッシュ光照射領域LAを走査させることにより、上記実施形態と同様にフラッシュ光照射時の半導体ウェハーWの割れを防止することができる。
また、ディレイ回路192の遅延時間は0.5ミリ秒に限定されるものではなく、他の値であっても良い。また、フラッシュランプFLの発光時間も1ミリ秒に限定されるものではなく、コイル94の定数によって0.1ミリ秒から10ミリ秒程度の間のいずれかとしても良い。但し、隣接するフラッシュランプ群の発光時間の一部が重なるように設定した方がフラッシュ光照射領域LAが連続的に半導体ウェハーW上を走査されることとなって好ましい。
また、上記実施形態においては、複数のディレイ回路192を備えるトリガー回路97によってハード的に複数のフラッシュランプ群のそれぞれに印加するトリガー電圧の印加タイミングを順次遅延させることにより、複数のフラッシュランプ群の発光タイミングを制御していたが、これを制御部3によってソフト的に制御するようにしても良い。具体的には、例えば、複数のフラッシュランプ群のそれぞれにトリガースイッチを設け、そのオンオフを制御部3が制御して複数のフラッシュランプ群のそれぞれに印加するトリガー電圧の印加タイミングを順次遅延させるようにしても良い。
また、図6に示すフラッシュランプFLの駆動回路に絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT;Insulated gate bipolar transistor)などのスイッチング素子を組み込み、フラッシュランプFLの発光をチョッパ制御するようにしても良い。各フラッシュランプFLについてはIGBTによって発光をチョッパ制御するとともに、複数のフラッシュランプを複数のフラッシュランプ群に分割し、そのうちの一のフラッシュランプ群から順次隣接するフラッシュランプ群を発光させる。このようにすれば、半導体ウェハーWの割れを防止することができるだけでなく、フラッシュ加熱処理のバリエーションを豊富なものとすることができる。
また、上記実施形態においては、保持部7のホットプレート71によって半導体ウェハーWの予備加熱を行っていたが、これに代えてチャンバー6の下部にハロゲンランプを備え、そのハロゲンランプによって半導体ウェハーWの予備加熱を行い、フラッシュランプFLからのフラッシュ加熱を行うようにしても良い。
また、上記実施形態においては、フラッシュランプFLをキセノンフラッシュランプとしていたが、これに限定されるものではなく、フラッシュランプFLはクリプトンフラッシュランプであっても良い。
また、本発明に係る熱処理装置によって処理対象となる基板は半導体ウェハーに限定されるものではなく、液晶表示装置などに用いるガラス基板であっても良い。