以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、説明する順序は、下記の通りである。
1.電解液
2.二次電池
2−1.第1の二次電池(リチウムイオン二次電池:円筒型+塗布法等)
2−2.第2の二次電池(リチウムイオン二次電池:円筒型+気相法等)
2−3.第3の二次電池(リチウム金属二次電池:円筒型)
2−4.第4の二次電池(ラミネート型)
<1.電解液>
本発明の一実施の形態に係る電解液は、二次電池などの電気化学デバイスに用いられるものであり、溶媒と、電解質塩と、化2で表されるスルホン化合物とを含んでいる。このスルホン化合物を含んでいるのは、電解液の分解反応が抑制されるため、その電解液を備えた電気化学デバイスにおいて優れたサイクル特性および保存特性が得られるからである。化2中におけるXの炭素数が2以上4以下の範囲内であるのは、炭素数が1であると十分な化学的安定性が得られず、一方、炭素数が5以上であると十分な溶解性が得られないからである。特に、電解液中における化3に示したスルホン化合物の含有量は、0.01重量%以上5重量%以下の範囲内であるのが好ましい。より高い効果が得られるからである。
(Xは炭素数が2以上4以下の範囲内のアルキレン基、炭素数が2以上4以下の範囲内のアルケニレン基あるいはそれらの誘導体を表す。)
化2に示したスルホン化合物の一例としては、例えば、化3の(1)〜(15)で表される一連の化合物が挙げられる。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。なお、化2に示した構造を有するスルホン化合物であれば、化3に明示した化合物に限定されないことは言うまでもない。
溶媒は、例えば、有機溶剤などの非水溶媒を含んでいる。この非水溶媒としては、例えば、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ブチレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチル、炭酸メチルプロピル、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソラン、1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、酪酸メチル、イソ酪酸メチル、トリメチル酢酸メチル、トリメチル酢酸エチル、アセトニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、メトキシアセトニトリル、3−メトキシプロピオニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリジノン、N−メチルオキサゾリジノン、N,N’−ジメチルイミダゾリジノン、ニトロメタン、ニトロエタン、スルホランあるいはジメチルスルホキシド燐酸などが挙げられる。電解液を備えた電気化学デバイスにおいて、優れた容量特性、サイクル特性および保存特性が得られるからである。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。中でも、溶媒は、炭酸エチレンあるいは炭酸プロピレンなどの高粘度(高誘電率)溶媒(例えば、比誘電率ε≧30)と、炭酸ジメチル、炭酸エチルメチルあるいは炭酸ジエチルなどの低粘度溶媒(例えば、粘度≦1mPa・s)とを混合して含んでいるのが好ましい。電解質塩の解離性およびイオンの移動度が向上するため、より高い効果が得られるからである。
特に、溶媒は、化4で表されるハロゲンを構成元素として有する鎖状炭酸エステルおよび化5で表されるハロゲンを構成元素として有する環状炭酸エステルのうちの少なくとも1種を含んでいるのが好ましい。より高い効果が得られるからである。
(R1〜R6は水素基、ハロゲン基、アルキル基あるいはハロゲン化アルキル基を表し、それらは互いに同一でもよいし異なってもよい。但し、R1〜R6のうちの少なくとも1つはハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。)
(R7〜R10は水素基、ハロゲン基、アルキル基あるいはハロゲン化アルキル基を表し、それらは互いに同一でもよいし異なってもよい。但し、R7〜R10のうちの少なくとも1つはハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。)
化4に示したハロゲンを構成元素として有する鎖状炭酸エステルとしては、例えば、炭酸フルオロメチルメチル、炭酸ビス(フルオロメチル)あるいは炭酸ジフルオロメチルメチルなどが挙げられる。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。
化5に示したハロゲンを構成元素として有する環状炭酸エステルとしては、例えば、化6および化7で表される一連の化合物が挙げられる。すなわち、化6に示した(1)の4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、(2)の4−クロロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、(3)の4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、(4)のテトラフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、(5)の4−フルオロ−5−クロロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、(6)の4,5−ジクロロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、(7)のテトラクロロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、(8)の4,5−ビストリフルオロメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、(9)の4−トリフルオロメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、(10)の4,5−ジフルオロ−4,5−ジメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、(11)の4−メチル−5,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンあるいは(12)の4−エチル−5,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンなどである。また、化7に示した(1)の4−トリフルオロメチル−5−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、(2)の4−トリフルオロメチル−5−メチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、(3)の4−フルオロ−4,5−ジメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、(4)の4,4−ジフルオロ−5−(1,1−ジフルオロエチル)−1,3−ジオキソラン−2−オン、(5)の4,5−ジクロロ−4,5−ジメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、(6)の4−エチル−5−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、(7)の4−エチル−4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、(8)の4−エチル−4,5,5−トリフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンあるいは(9)の4−フルオロ−4−メチル−1,3−ジオキソラン−2−オンなどである。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。中でも、ハロゲンを構成元素として有する環状炭酸エステルは、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンおよび4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンからなる群のうちの少なくとも1種を含んでいるのが好ましい。容易に入手可能であると共に、十分な効果が得られるからである。特に、4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンとしては、より高い効果を得るために、シス異性体よりもトランス異性体が好ましい。
また、溶媒は、不飽和結合を有する環状炭酸エステルを含んでいるのが好ましい。より高い効果が得られるからである。この不飽和結合を有する環状炭酸エステルとしては、例えば、炭酸ビニレンあるいは炭酸ビニルエチレンなどが挙げられる。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。中でも、不飽和結合を有する環状炭酸エステルは、炭酸ビニレンを含んでいるのが好ましい。十分な効果が得られるからである。特に、溶媒が上記したハロゲンを構成元素として有する鎖状炭酸エステルやハロゲンを構成元素として有する環状炭酸エステルを含む場合に、更に不飽和結合を有する環状炭酸エステルを含んでいれば、著しく高い効果が得られる。
電解質塩は、例えば、リチウム塩などの軽金属塩を含んでいる。このリチウム塩としては、例えば、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6 )、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4 )、過塩素酸リチウム(LiClO4 )、六フッ化ヒ酸リチウム(LiAsF6 )、テトラフェニルホウ酸リチウム(LiB(C6 H5 )4 )、メタンスルホン酸リチウム(LiCH3 SO3 )、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCF3 SO3 )、テトラクロロアルミン酸リチウム(LiAlCl4 )、六フッ化ケイ酸リチウム(Li2 SiF6 )、塩化リチウム(LiCl)あるいは臭化リチウム(LiBr)などが挙げられる。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。中でも、電解質塩は、六フッ化リン酸リチウムを含んでいるのが好ましい。内部抵抗が低下するため、電解液を備えた電気化学デバイスにおいて優れた容量特性、サイクル特性および保存特性が得られるからである。
この電解質塩は、化8〜化10で表される化合物を含んでいてもよい。十分な効果が得られるからである。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。
(mおよびnは1以上の整数であり、それらは互いに同一でもよいし異なってもよい。)
(R11は炭素数が2以上4以下の範囲内の直鎖状あるいは分岐状のパーフルオロアルキレン基を表す。)
(p、qおよびrは1以上の整数であり、それらは互いに同一でもよいし異なってもよい。)
化8に示した鎖状の化合物としては、例えば、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム(LiN(CF3 SO2 )2 )、ビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミドリチウム(LiN(C2 F5 SO2 )2 )、(トリフルオロメタンスルホニル)(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミドリチウム(LiN(CF3 SO2 )(C2 F5 SO2 ))、(トリフルオロメタンスルホニル)(ヘプタフルオロプロパンスルホニル)イミドリチウム(LiN(CF3 SO2 )(C3 F7 SO2 ))あるいは(トリフルオロメタンスルホニル)(ノナフルオロブタンスルホニル)イミドリチウム(LiN(CF3 SO2 )(C4 F9 SO2 ))などが挙げられる。
化9に示した環状の化合物としては、例えば、化11で表される一連の化合物が挙げられる。すなわち、化11に示した(1)の1,2−パーフルオロエタンジスルホニルイミドリチウム、(2)の1,3−パーフルオロプロパンジスルホニルイミドリチウム、(3)の1,3−パーフルオロブタンジスルホニルイミドリチウムあるいは(4)の1,4−パーフルオロブタンジスルホニルイミドリチウムなどが挙げられる。中でも、電解質塩は、1,3−パーフルオロプロパンジスルホニルイミドリチウムを含んでいるのが好ましい。十分な効果が得られるからである。
化10に示した鎖状の化合物としては、例えば、リチウムトリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチド(LiC(CF3 SO2 )3 )などが挙げられる。
電解質塩の含有量は、溶媒に対して0.3mol/kg以上3.0mol/kg以下の範囲内であるのが好ましい。この範囲外ではイオン伝導性が極端に低下するため、電解液を備えた電気化学デバイスにおいて容量特性などが十分に得られないおそれがあるからである。
この電解液によれば、溶媒および電解質塩と共に化2に示したスルホン化合物を含んでいるので、そのスルホン化合物を含んでいない場合と比較して、二次電池などの電気化学デバイスに用いられた場合に分解反応が抑制される。この化2に示したスルホン化合物を含んでいない場合とは、化12で表されるスルホン化合物などのように、化2中におけるXとして芳香族環を有するスルホン化合物を含む場合が挙げられる。したがって、電解液を用いた電気化学デバイスにおいて、その電解液が電気化学的に安定化するため、サイクル特性および保存特性の確保に寄与することができる。この場合には、電解液中における化2に示したスルホン化合物の含有量が0.01重量%以上5重量%以下であれば、より高い効果を得ることができる。
特に、溶媒が化4に示したハロゲンを構成元素として有する鎖状炭酸エステルや化5〜化7に示したハロゲンを構成元素として有する環状炭酸エステルを含み、あるいは溶媒が不飽和結合を有する炭酸エステルを含んでいれば、さらに高い効果を得ることができる。
<2.二次電池>
次に、上記した電解液の使用例について説明する。ここで、電気化学デバイスの一例として二次電池を挙げると、電解液は以下のようにして二次電池に用いられる。
<2−1.第1の二次電池(リチウムイオン二次電池:円筒型+塗布法等)>
図1は、第1の二次電池の断面構成を表している。この二次電池は、負極の容量が電極反応物質であるリチウムの吸蔵および放出に基づく容量成分により表されるものであり、いわゆるリチウムイオン二次電池である。図1では、いわゆる円筒型と呼ばれる電池構造を示している。
この二次電池は、ほぼ中空円柱状の電池缶11の内部に、正極21および負極22がセパレータ23を介して巻回された巻回電極体20と、一対の絶縁板12,13とが収納されたものである。電池缶11は、例えば、ニッケル(Ni)めっきが施された鉄(Fe)により構成されており、その一端部および他端部はそれぞれ閉鎖および開放されている。一対の絶縁板12,13は、巻回電極体20を挟み、その巻回周面に対して垂直に延在するように配置されている。
電池缶11の開放端部には、電池蓋14と、その内側に設けられた安全弁機構15および熱感抵抗素子(Positive Temperature Coefficient;PTC素子)16とが、ガスケット17を介してかしめられている。これにより、電池缶11の内部は密閉されている。電池蓋14は、例えば、電池缶11と同様の材料により構成されている。安全弁機構15は、熱感抵抗素子16を介して電池蓋14と電気的に接続されている。この安全弁機構15では、内部短絡あるいは外部からの加熱などに起因して内圧が一定以上となった場合に、ディスク板15Aが反転することにより電池蓋14と巻回電極体20との間の電気的接続が切断されるようになっている。熱感抵抗素子16は、温度の上昇に応じて抵抗が増大することにより電流を制限し、大電流に起因する異常な発熱を防止するものである。ガスケット17は、例えば、絶縁材料により構成されており、その表面にはアスファルトが塗布されている。
巻回電極体20の中心には、例えば、センターピン24が挿入されている。この巻回電極体20では、アルミニウム(Al)などにより構成された正極リード25が正極21に接続されており、ニッケルなどにより構成された負極リード26が負極22に接続されている。正極リード25は、安全弁機構15に溶接されることにより電池蓋14と電気的に接続されており、負極リード26は、電池缶11に溶接されることにより電気的に接続されている。
図2は、図1に示した巻回電極体20の一部を拡大して表している。正極21は、例えば、対向する一対の面を有する正極集電体21Aの両面に、正極活物質層21Bが設けられたものである。正極集電体21Aは、例えば、アルミニウム、ニッケルあるいはステンレスなどの金属材料により構成されている。正極活物質層21Bは、例えば、正極活物質として、電極反応物質であるリチウムを吸蔵および放出することが可能な正極材料のいずれか1種または2種以上を含んでいる。この正極活物質層21Bは、必要に応じて、導電剤や結着剤などを含んでいてもよい。
リチウムを吸蔵および放出することが可能な正極材料としては、例えば、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウムあるいはこれらを含む固溶体(Li(Nix Coy Mnz )O2 );x、yおよびzの値はそれぞれ0<x<1、0<y<1、0<z<1、x+y+z=1である。)、またはスピネル構造を有するマンガン酸リチウム(LiMn2 O4 )あるいはその固溶体(Li(Mn2-v Niv )O4 ;vの値はv<2である。)などのリチウム複合酸化物や、リン酸鉄リチウム(LiFePO4 )などのオリビン構造を有するリン酸化合物などが好ましい。高いエネルギー密度が得られるからである。この他、上記した正極材料としては、例えば、酸化チタン、酸化バナジウムあるいは二酸化マンガンなどの酸化物や、二硫化鉄、二硫化チタンあるいは硫化モリブデンなどの二硫化物や、硫黄や、ポリアニリンあるいはポリチオフェンなどの導電性高分子も挙げられる。
負極22は、例えば、対向する一対の面を有する負極集電体22Aの両面に、負極活物質層22Bが設けられたものである。負極集電体22Aは、例えば、銅(Cu)、ニッケルあるいはステンレスなどの金属材料により構成されている。負極活物質層22Bは、例えば、負極活物質として、リチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料のいずれか1種または2種以上を含んでいる。この負極活物質層22Bは、必要に応じて、導電剤や結着剤などを含んでいてもよい。
リチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料としては、例えば、リチウムを吸蔵および放出することが可能であると共に金属元素および半金属元素のうちの少なくとも1種を構成元素として含む材料が挙げられる。このような負極材料を用いれば、高いエネルギー密度を得ることができるので好ましい。この負極材料は、金属元素あるいは半金属元素の単体でも合金でも化合物でもよく、またはこれらの1種または2種以上の相を少なくとも一部に有するようなものでもよい。なお、本発明において、合金には、2種以上の金属元素からなるものに加えて、1種以上の金属元素と1種以上の半金属元素とを含むものも含める。また、本発明における合金は、非金属元素を含んでいてもよい。この組織には、固溶体、共晶(共融混合物)、金属間化合物あるいはそれらのうちの2種以上が共存するものがある。
この負極材料を構成する金属元素あるいは半金属元素としては、例えば、リチウムと合金を形成することが可能な金属元素あるいは半金属元素が挙げられる。具体的には、マグネシウム(Mg)、ホウ素(B)、アルミニウム、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、ケイ素、ゲルマニウム(Ge)、スズ、鉛(Pb)、ビスマス(Bi)、カドミウム(Cd)、銀(Ag)、亜鉛(Zn)、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)、イットリウム(Y)、パラジウム(Pd)あるいは白金(Pt)などが挙げられる。このうち、特に好ましいのは、ケイ素およびスズのうちの少なくとも1種である。リチウムを吸蔵および放出する能力が大きく、高いエネルギー密度が得られるからである。
ケイ素およびスズのうちの少なくとも1種を含む負極材料としては、例えば、ケイ素の単体、合金あるいは化合物、スズの単体、合金あるいは化合物、またはこれらの1種あるいは2種以上の相を少なくとも一部に有する材料が挙げられる。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。
ケイ素の合金としては、例えば、ケイ素以外の第2の構成元素として、スズ、ニッケル、銅、鉄、コバルト(Co)、マンガン(Mn)、亜鉛、インジウム、銀、チタン(Ti)、ゲルマニウム、ビスマス、アンチモン(Sb)およびクロム(Cr)からなる群のうちの少なくとも1種を含むものが挙げられる。スズの合金としては、例えば、スズ以外の第2の構成元素として、ケイ素、ニッケル、銅、鉄、コバルト、マンガン、亜鉛、インジウム、銀、チタン、ゲルマニウム、ビスマス、アンチモンおよびクロムからなる群のうちの少なくとも1種を含むものが挙げられる。
スズの化合物あるいはケイ素の化合物としては、例えば、酸素(O)あるいは炭素(C)を含むものが挙げられ、スズまたはケイ素に加えて、上記した第2の構成元素を含んでいてもよい。
特に、ケイ素およびスズのうちの少なくとも1種を含む負極材料としては、例えば、スズを第1の構成元素とし、そのスズに加えて第2の構成元素と第3の構成元素とを含むものが好ましい。もちろん、この負極材料を上記した負極材料と共に用いてもよい。第2の構成元素は、コバルト(Co)、鉄、マグネシウム、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、ジルコニウム、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、銀、インジウム、セリウム(Ce)、ハフニウム、タンタル(Ta)、タングステン(W)、ビスマスおよびケイ素からなる群のうちの少なくとも1種である。第3の構成元素は、ホウ素、炭素(C)、アルミニウムおよびリン(P)からなる群のうちの少なくとも1種である。第2の元素および第3の元素を含むことにより、サイクル特性が向上するからである。
中でも、スズ、コバルトおよび炭素を構成元素として含み、炭素の含有量が9.9質量%以上29.7質量%以下の範囲内、スズおよびコバルトの合計に対するコバルトの割合(Co/(Sn+Co))が30質量%以上70質量%以下の範囲内であるCoSnC含有材料が好ましい。このような組成範囲において、高いエネルギー密度が得られると共に優れたサイクル特性が得られるからである。
このCoSnC含有材料は、必要に応じて、さらに他の構成元素を含んでいてもよい。他の構成元素としては、例えば、ケイ素、鉄、ニッケル、クロム、インジウム、ニオブ、ゲルマニウム、チタン、モリブデン、アルミニウム、リン、ガリウムあるいはビスマスなどが好ましく、それらの2種以上を含んでいてもよい。容量特性あるいはサイクル特性がさらに向上するからである。
なお、CoSnC含有材料は、スズ、コバルトおよび炭素を含む相を有しており、この相は結晶性の低いまたは非晶質な構造を有していることが好ましい。また、CoSnC含有材料では、構成元素である炭素の少なくとも一部が、他の構成元素である金属元素あるいは半金属元素と結合していることが好ましい。サイクル特性の低下は、スズなどが凝集あるいは結晶化することによるものであると考えられるが、炭素が他の元素と結合することにより、そのような凝集または結晶化が抑制されるからである。
元素の結合状態を調べる測定方法としては、例えば、X線光電子分光法(X-ray Photoelectron Spectroscopy;XPS)が挙げられる。このXPSでは、金原子の4f軌道(Au4f)のピークが84.0eVに得られるようにエネルギー較正された装置において、グラファイトであれば、炭素の1s軌道(C1s)のピークは284.5eVに現れる。また、表面汚染炭素であれば、284.8eVに現れる。これに対して、炭素元素の電荷密度が高くなる場合、例えば、炭素が金属元素あるいは半金属元素と結合している場合には、C1sのピークは284.5eVよりも低い領域に現れる。すなわち、CoSnC含有材料について得られるC1sの合成波のピークが284.5eVよりも低い領域に現れる場合には、CoSnC含有材料に含まれる炭素の少なくとも一部が他の構成元素である金属元素あるいは半金属元素と結合している。
なお、XPSでは、例えば、スペクトルのエネルギー軸の補正に、C1sのピークを用いる。通常、表面には表面汚染炭素が存在しているので、表面汚染炭素のC1sのピークを284.8eVとし、これをエネルギー基準とする。XPSにおいて、C1sのピークの波形は、表面汚染炭素のピークとCoSnC含有材料中の炭素のピークとを含んだ形として得られる。このため、例えば、市販のソフトウエアを用いて解析することにより、表面汚染炭素のピークと、CoSnC含有材料中の炭素のピークとを分離する。波形の解析では、最低束縛エネルギー側に存在する主ピークの位置をエネルギー基準(284.8eV)とする。
リチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料としては、例えば、炭素材料、金属酸化物あるいは高分子化合物なども挙げられる。もちろん、これらの負極材料と上記した負極材料とを共に用いてもよい。炭素材料としては、例えば、易黒鉛化炭素、(002)面の面間隔が0.37nm以上の難黒鉛化炭素あるいは(002)面の面間隔が0.34nm以下の黒鉛などが挙げられる。より具体的には、熱分解炭素類、コークス類、グラファイト類、ガラス状炭素類、有機高分子化合物焼成体、炭素繊維あるいは活性炭などである。このうち、コークス類には、ピッチコークス、ニードルコークスあるいは石油コークスなどがあり、有機高分子化合物焼成体とは、フェノール樹脂やフラン樹脂などの高分子化合物が適当な温度で焼成されて炭素化したものをいう。炭素材料は、リチウムの吸蔵および放出に伴う結晶構造の変化が非常に少ない。このため、例えば、上記した負極材料と共に用いることにより、高エネルギー密度を得ることができると共に優れたサイクル特性を得ることができる上、さらに導電剤としても機能するので好ましい。金属酸化物としては、例えば、酸化鉄、酸化ルテニウムあるいは酸化モリブデンなどが挙げられ、高分子化合物としては、例えば、ポリアセチレンあるいはポリピロールなどが挙げられる。
導電剤としては、例えば、黒鉛、カーボンブラックあるいはケッチェンブラックなどの炭素材料が挙げられる。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。なお、導電剤は、導電性を有する材料であれば、金属材料あるいは導電性高分子などでもよい。
結着剤としては、例えば、スチレンブタジエン系ゴム、フッ素系ゴムあるいはエチレンプロピレンジエンなどの合成ゴムや、ポリフッ化ビニリデンなどの高分子材料が挙げられる。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。ただし、図1に示したように、正極21および負極22が巻回されている場合には、柔軟性に富むスチレンブタジエン系ゴムあるいはフッ素系ゴムなどを用いることが好ましい。
この二次電池では、正極活物質とリチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料との間で量を調整することにより、正極活物質による充電容量よりも、リチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料による充電容量の方が大きくなっている。これにより、完全充電時においても負極22にリチウム金属が析出しないようになっている。
セパレータ23は、正極21と負極22とを隔離し、両極の接触による電流の短絡を防止しつつリチウムイオンを通過させるものである。このセパレータ23は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレンあるいはポリエチレンなどの合成樹脂からなる多孔質膜、またはセラミックからなる多孔質膜により構成されており、これらの2種以上の多孔質膜を積層したものでもよい。中でも、ポリオレフィン製の多孔質膜は、ショート防止効果に優れ、かつシャットダウン効果による二次電池の安全性向上を図ることができるので好ましい。特に、ポリエチレンは、100℃以上160℃以下の範囲内でシャットダウン効果を得ることができると共に、電気化学的安定性にも優れているので好ましい。また、ポリプロピレンも好ましく、他にも化学的安定性を備えた樹脂であれば、ポリエチレンあるいはポリプロピレンと共重合させたものでもよいし、ブレンド化したものでもよい。
セパレータ23には、液状の電解質として、上記した電解液が含浸されている。優れたサイクル特性および保存特性が得られるからである。
この二次電池は、例えば、以下のようにして製造することができる。
まず、例えば、正極集電体21Aの両面に正極活物質層21Bを形成することにより、正極21を作製する。この正極活物質層21Bを形成する際には、正極活物質の粉末と、導電剤と、結着剤とを混合した正極合剤をN−メチル−2−ピロリドンなどの溶剤に分散させてペースト状の正極合剤スラリーとする。続いて、正極合剤スラリーを正極集電体21Aに塗布して乾燥させたのちに圧縮成型する。また、例えば、正極21と同様の手順にしたがって負極集電体22Aの両面に負極活物質層22Bを形成することにより、負極22を作製する。
続いて、正極集電体21Aに正極リード25を溶接して取り付けると共に、負極集電体22Aに負極リード26を溶接して取り付ける。続いて、正極21および負極22をセパレータ23を介して巻回させて巻回電極体20を形成する。この場合には、正極リード25の先端部を安全弁機構15に溶接すると共に負極リード26の先端部を電池缶11に溶接する。続いて、巻回電極体20を一対の絶縁板12,13で挟みながら電池缶11の内部に収納する。続いて、電池缶11の内部に電解液を注入してセパレータ23に含浸させる。最後に、電池缶11の開口端部に電池蓋14、安全弁機構15および熱感抵抗素子16をガスケット17を介してかしめることにより固定する。これにより、図1および図2に示した二次電池が完成する。
この二次電池では、充電を行うと、例えば、正極21からリチウムイオンが放出され、電解液を介して負極22に吸蔵される。一方、放電を行うと、例えば、負極22からリチウムイオンが放出され、電解液を介して正極21に吸蔵される。
この二次電池によれば、負極22の容量がリチウムの吸蔵および放出に基づく容量成分により表される場合に、電解液が上記した化2に示したスルホン化合物を含んでいるので、サイクル特性および保存特性を確保することができる。
次に、第2および第3の二次電池について説明するが、第1の二次電池と共通の構成要素については、同一符号を付して、その説明は省略する。
<2−2.第2の二次電池(リチウムイオン二次電池:円筒型+気相法等)>
第2の二次電池は、負極22の構成が異なる点を除き、第1の二次電池と同様の構成、作用および効果を有していると共に同様の手順により製造される。
負極22は、第1の二次電池と同様に、負極集電体22Aの両面に負極活物質層22Bが設けられたものである。負極活物質層22Bは、例えば、ケイ素あるいはスズを構成元素として含む負極活物質を含有している。ケイ素およびスズはリチウムを吸蔵および放出する能力が大きく、高いエネルギー密度を得ることができる。特に、ケイ素は、理論容量がより大きいので好ましい。具体的には、例えば、ケイ素の単体、合金あるいは化合物、またはスズの単体、合金あるいは化合物を含有しており、それらの2種以上を含有していてもよい。
この負極活物質層22Bは、例えば、気相法、液相法、溶射法あるいは焼成法、またはそれらの2種以上の方法を用いて形成されたものであり、負極活物質層22Bと負極集電体22Aとが界面の少なくとも一部において合金化していることが好ましい。具体的には、界面において負極集電体22Aの構成元素が負極活物質層22Bに拡散し、あるいは負極活物質層22Bの構成元素が負極集電体22Aに拡散し、またはそれらの構成元素が互いに拡散し合っていることが好ましい。充放電に伴う負極活物質層22Bの膨張および収縮による破壊を抑制することができると共に、負極活物質層22Bと負極集電体22Aとの間の電子伝導性を向上させることができるからである。
なお、気相法としては、例えば、物理堆積法あるいは化学堆積法、具体的には真空蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法、レーザーアブレーション法、熱化学気相成長(CVD;Chemical Vapor Deposition )法あるいはプラズマ化学気相成長法などが挙げられる。液相法としては、電気鍍金あるいは無電解鍍金などの公知の手法を用いることができる。焼成法とは、例えば、粒子状の負極活物質を結着剤などと混合して溶剤に分散させることにより塗布したのち、結着剤などの融点よりも高い温度で熱処理する方法である。焼成法に関しても公知の手法が利用可能であり、例えば、雰囲気焼成法、反応焼成法あるいはホットプレス焼成法が挙げられる。
<2−3.第3の二次電池(リチウム金属二次電池:円筒型)>
第3の二次電池は、負極22の容量がリチウムの析出および溶解に基づく容量成分により表されるものであり、いわゆるリチウム金属二次電池である。この二次電池は、負極活物質層22Bがリチウム金属により構成されている点を除き、第1の二次電池と同様の構成を有していると共に同様の手順により製造される。
この二次電池は、負極活物質としてリチウム金属を用いており、これにより高いエネルギー密度を得ることができるようになっている。負極活物質層22Bは、組み立て時から既に有するようにしてもよいが、組み立て時には存在せず、充電時に析出したリチウム金属により構成されるようにしてもよい。また、負極活物質層22Bを集電体としても利用することにより、負極集電体22Aを省略してもよい。
この二次電池では、充電を行うと、例えば、正極21からリチウムイオンが放出され、電解液を介して負極集電体22Aの表面にリチウム金属となって析出する。一方、放電を行うと、例えば、負極活物質層22Bからリチウム金属がリチウムイオンとなって溶出し、電解液を介して正極21に吸蔵される。
この二次電池によれば、負極の容量がリチウムの析出および溶解に基づく容量成分により表される場合に、電解液が上記した化2に示したスルホン化合物を含んでいるので、サイクル特性および保存特性を確保することができる。
<2−4.第4の二次電池(ラミネート型)>
図3は、第4の二次電池の分解斜視構成を表している。この二次電池は、正極リード31および負極リード32が取り付けられた巻回電極体30をフィルム状の外装部材40の内部に収容したものであり、この電池構造はいわゆるラミネートフィルム型と呼ばれている。
正極リード31および負極リード32は、例えば、それぞれ外装部材40の内部から外部に向かって同一方向に導出されている。これらは、例えば、それぞれアルミニウム、銅、ニッケルあるいはステンレスなどの金属材料により構成されており、薄板状または網目状になっている。
外装部材40は、例えば、ナイロンフィルム、アルミニウム箔およびポリエチレンフィルムがこの順に貼り合わされた矩形状のアルミラミネートフィルムにより構成されている。この外装部材40では、例えば、ポリエチレンフィルムが巻回電極体30と対向していると共に、各外縁部が融着あるいは接着剤により互いに密着されている。外装部材40と正極リード31および負極リード32との間には、外気の侵入を防止するための密着フィルム41が挿入されている。この密着フィルム41は、正極リード31および負極リード32に対して密着性を有する材料、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、変性ポリエチレンあるいは変性ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂により構成されている。
なお、外装部材40は、上記した3層構造のアルミラミネートフィルムに代えて、他の構造を有するラミネートフィルムにより構成されてもよいし、またはポリプロピレンなどの高分子フィルムあるいは金属フィルムにより構成されもよい。
図4は、図3に示した巻回電極体30のIV−IV線に沿った断面構成を表している。この電極巻回体30は、正極33および負極34がセパレータ35および電解質36を介して積層されたのちに巻回されたものであり、その最外周部は保護テープ37により保護されている。
正極33は、正極集電体33Aの両面に正極活物質層33Bが設けられたものである。負極34は、負極集電体34Aの両面に負極活物質層34Bが設けられたものであり、その負極活物質層34Bが正極活物質層33Bと対向するように配置されている。正極集電体33A、正極活物質層33B、負極集電体34A、負極活物質層34Bおよびセパレータ35の構成は、例えば、それぞれ上記した第1あるいは第2の二次電池における正極集電体21A、正極活物質層21B、負極集電体22A、負極活物質層22Bおよびセパレータ23の構成と同様である。
電解質36は、上記した電解液と、それを保持する高分子化合物とを含んでおり、いわゆるゲル状になっている。ゲル状の電解質は、高いイオン伝導率(例えば室温で1mS/cm以上)が得られると共に漏液が防止されるので好ましい。
高分子化合物としては、例えば、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデンとポリヘキサフルオロピレンとの共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレン、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリフォスファゼン、ポリシロキサン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、スチレン−ブタジエンゴム、ニトリル−ブタジエンゴム、ポリスチレンあるいはポリカーボネートなどが挙げられる。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。特に、電気化学的安定性の点から、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリヘキサフルオロプロピレンあるいはポリエチレンオキサイドなどが好ましい。電解液中における高分子化合物の含有量は、両者の相溶性によっても異なるが、例えば、5質量%以上50質量%以下の範囲内であることが好ましい。
電解質塩の含有量は、上記した電解液について説明した場合と同様である。ただし、この場合の溶媒とは、液状の溶媒だけでなく、電解質塩を解離させることが可能なイオン伝導性を有するものまで含む広い概念である。したがって、イオン伝導性を有する高分子化合物を用いる場合には、その高分子化合物も溶媒に含まれる。
なお、電解液を高分子化合物に保持させたもの(電解質36)に代えて、電解液をそのまま用いてもよい。この場合には、電解液がセパレータ35に含浸される。
この二次電池は、例えば、以下のようにして製造される。
まず、電解液と、高分子化合物と、混合溶剤とを含む前駆溶液を調製し、正極33および負極34のそれぞれに塗布したのちに混合溶剤を揮発させることにより、電解質36を形成する。続いて、正極集電体33Aに正極リード31を取り付けると共に、負極集電体34Aに負極リード32を取り付ける。続いて、電解質36が形成された正極33および負極34をセパレータ35を介して積層させたのち、長手方向に巻回させると共に最外周部に保護テープ37を接着させることにより、巻回電極体30を形成する。続いて、例えば、外装部材40の間に巻回電極体30を挟み込み、その外装部材40の外縁部同士を熱融着などで密着させることにより巻回電極体30を封入する。その際、正極リード31および負極リード32と外装部材40との間に、密着フィルム41を挿入する。これにより、図3および図4に示した二次電池が完成する。
なお、この二次電池は、以下のようにして製造されてもよい。まず、正極33および負極34にそれぞれ正極リード31および負極リード32を取り付ける。続いて、正極33および負極34をセパレータ35を介して積層および巻回させると共に最外周部に保護テープ37を接着させて、巻回電極体30の前駆体である巻回体を形成する。続いて、外装部材40の間に巻回体を挟み込み、一辺の外周縁部を除く残りの外周縁部を熱融着などで密着させることにより、袋状の外装部材40の内部に収納する。続いて、電解液と、高分子化合物の原料であるモノマーと、重合開始剤と、必要に応じて重合禁止剤などの他の材料とを含む電解質用組成物を調製し、袋状の外装部材40の内部に注入したのち、外装部材40の開口部を熱融着などで密封する。最後に、モノマーを熱重合させて高分子化合物とすることにより、ゲル状の電解質36を形成する。これにより、図3および図4に示した二次電池が完成する。
この二次電池の作用および効果は、上記した第1あるいは第2の二次電池と同様である。
本発明の実施例について詳細に説明する。
(1)炭素系負極
まず、負極活物質として人造黒鉛を用いて、図3および図4に示したラミネートフィルム型の二次電池を製造した。この際、負極34の容量がリチウムの吸蔵および放出に基づく容量成分により表されるリチウムイオン二次電池となるようにした。
(実験例1−1〜1−4)
まず、正極33を作製した。すなわち、炭酸リチウム(Li2 CO3 )と炭酸コバルト(CoCO3 )とを0.5:1のモル比で混合したのち、空気中において900℃で5時間焼成することにより、リチウム・コバルト複合酸化物(LiCoO2 )を得た。続いて、正極活物質としてリチウム・コバルト複合酸化物91質量部と、導電剤としてグラファイト6質量部と、結着剤としてポリフッ化ビニリデン(PVDF)3質量部とを混合して正極合剤とした。続いて、正極合剤をN−メチル−2−ピロリドンに分散させてペースト状の正極合剤スラリーとした。最後に、厚さ12μmの帯状のアルミニウム箔からなる正極集電体33Aの両面に正極合剤スラリーを塗布して乾燥させたのち、ロールプレス機で圧縮成型することにより、正極活物質層33Bを形成した。こののち、正極集電体33Aの一端に、アルミニウム製の正極リード31を溶接して取り付けた。
続いて、負極34を作製した。すなわち、負極活物質として人造黒鉛粉末90質量部と、結着剤としてPVDF10質量部とを混合して負極合剤としたのち、N−メチル−2−ピロリドンに分散させることにより、ペースト状の負極合剤スラリーとした。最後に、厚さ15μmの帯状の銅箔からなる負極集電体34Aの両面に負極合剤スラリーを塗布して乾燥させたのち、ロールプレス機で圧縮成型することにより、負極活物質層34Bを形成した。こののち、負極集電体34Aの一端に、ニッケル製の負極リード32を溶接して取り付けた。
続いて、正極33と、セパレータ35と、負極34とをこの順に積層し、長手方向に渦巻状に多数回巻回させたのち、粘着テープからなる保護テープ37で巻き終わり部分を固定して、巻回電極体30の前駆体である巻回体を形成した。この場合には、セパレータ355として、厚さ25μmの微多孔性ポリプロピレンフィルムを用いた。続いて、外側から、厚さ30μmのナイロンと、厚さ40μmのアルミニウム箔と、厚さ30μmの無延伸ポリプロピレンとが積層された3層構成(総厚100μm)のラミネートフィルムからなる外装部材40の間に巻回体を挟み込んだのち、一辺を除く外縁部同士を熱融着することにより、袋状の外装部材40の内部に巻回体を収納した。続いて、外装部材40の開口部から電解液を注入してセパレータ35に含浸させることにより、巻回電極体30を形成した。
電解液としては、溶媒として炭酸エチレン(EC)と炭酸ジエチル(DEC)とを混合した混合溶媒と、電解質塩として六フッ化リン酸リチウム(LiPF6 )と、化2に示したスルホン化合物として化3(1)に示したスルホン化合物とを含むものを用いた。この際、混合溶媒の組成を重量比でEC:DEC=30:70、電解液中におけるLiPF6 の濃度を1mol/kgとした。また、電解液中における化3(1)のスルホン化合物の含有量を0.01重量%(実験例1−1)、1重量%(実験例1−2)、2重量%(実験例1−3)あるいは5重量%(実験例1−4)とした。この「重量%」とは、溶媒とスルホン化合物とを合わせて100重量%とする場合の値であり、「重量%」が意味するところは以降においても同様である。
最後に、真空雰囲気中において外装部材40の開口部を熱融着して封止することにより、ラミネートフィルム型の二次電池が完成した。
(実験例1−5)
溶媒としてDECに代えて炭酸エチルメチル(EMC)を用いたことを除き、実験例1−2と同様の手順を経た。
(実験例1−6)
溶媒としてECに代えて4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン(FEC)を用いたことを除き、実験例1−2と同様の手順を経た。
(実験例1−7)
溶媒として炭酸プロピレン(PC)を加えたことを除き、実験例1−2と同様の手順を経た。この際、混合溶媒の組成を重量比でEC:DEC:PC=10:70:20とした。
(実験例1−8)
溶媒としてFECを2重量%加えたことを除き、実験例1−2と同様の手順を経た。
(実験例1−9)
溶媒としてトランス−4,5−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン(トランス−DFEC)を2重量%加えたことを除き、実験例1−2と同様の手順を経た。
(実験例1−10)
溶媒として炭酸ビニレン(VC)を2重量%加えたことを除き、実験例1−2と同様の手順を経た。
(比較例1−1)
電解液に化3(1)のスルホン化合物を含有させなかったことを除き、実験例1−1〜1−4と同様の手順を経た。
(比較例1−2)
化3(1)のスルホン化合物に代えて化12のスルホン化合物を用いたことを除き、実験例1−2と同様の手順を経た。
(比較例1−3,1−4)
電解液に化3(1)のスルホン化合物を含有させなかったことを除き、それぞれ実験例1−6,1−10と同様の手順を経た。
これらの実験例1−1〜1−10および比較例1−1〜1−4の二次電池について常温サイクル特性および高温保存特性を調べたところ、表1に示した結果が得られた。
常温サイクル特性を調べる際には、以下の手順によって二次電池を繰り返し充放電させることにより、放電容量維持率を求めた。まず、23℃の雰囲気中において2サイクル充放電させることにより、2サイクル目の放電容量を測定した。続いて、同雰囲気中においてサイクル数の合計が100サイクルとなるまで充放電させることにより、100サイクル目の放電容量を測定した。最後に、放電容量維持率(%)=(100サイクル目の放電容量/2サイクル目の放電容量)×100を算出した。1サイクルの充放電条件としては、0.2Cの充電電流で上限電圧4.2Vまで定電流定電圧充電したのち、0.2Cの放電電流で終止電圧2.5Vまで定電流放電した。この「0.2C」とは、理論容量を5時間で放電しきる電流値である。
高温保存特性を調べる際には、以下の手順によって二次電池を高温保存したのち、放電容量維持率を求めた。まず、23℃の雰囲気中において2サイクル充放電させることにより、2サイクル目の放電容量(高温保存前の放電容量)を求めた。続いて、再度充電した状態において80℃の恒温槽中に10日間保存したのち、23℃の雰囲気中において放電させることにより、3サイクル目の放電容量(高温保存後の放電容量)を求めた。最後に、放電容量維持率(%)=(高温保存後の放電容量/高温保存前の放電容量)×100を算出した。1サイクルの充放電条件は、常温サイクル特性を調べた場合と同様とした。
なお、上記した常温サイクル特性および高温保存特性を調べる際の手順および条件等は、以降の一連の実験例および比較例に関する同特性の評価についても同様である。
表1に示したように、高温保存特性の放電容量維持率は、電解液が化3(1)のスルホン化合物を含む実験例1−1〜1−4において、それを含まない比較例1−1よりも高くなった。一方、常温サイクル特性の放電容量維持率は、化3(1)のスルホン化合物の含有量が1重量%以下である実験例1−1,1−2では比較例1−1と同等であったが、含有量が2重量%以上である実験例1−3,1−4では比較例1−1よりも低くなった。ただし、実験例1−3,1−4では、常温サイクル特性の放電容量維持率が80%に達しており、十分な放電容量維持率が得られた。これらの結果が得られた実験例1−1〜1−4における化3(1)のスルホン化合物の含有量の下限および上限は、それぞれ0.01重量および5重量%であった。これらのことから、負極34が負極活物質として人造黒鉛を含む二次電池では、電解液が化2に示したスルホン化合物を含むことにより、サイクル特性および保存特性が確保されることが確認された。特に、電解液中における化2に示したスルホン化合物の含有量としては、0.01重量%以上5重量%以下の範囲内が好ましい。
また、高温保存特性の放電容量維持率は、化3(1)のスルホン化合物を含む実験例1−2において、化12のスルホン化合物を含む比較例1−2よりも高くなった。一方、常温サイクル特性の放電容量維持率は、実験例1−2において比較例1−2と同等であった。これらのことから、サイクル特性および保存特性を確保するためには、スルホン化合物として、化12のスルホン化合物よりも、化3(1)のスルホン化合物などの化2に示したスルホン化合物が好ましいことが確認された。
さらに、高温保存特性の放電容量維持率は、溶媒としてDECに代えてEMCを用いた実験例1−5、ECに代えてFECを用いた実験例1−6、ならびにECおよびDECに加えてPCを用いた実験例1−7において、比較例1−1よりも高くなり、実験例1−2とほぼ同等であった。もちろん、この場合の放電容量維持率は、実験例1−6において比較例1−3よりも高くなった。一方、常温サイクル特性の放電容量維持率は、実験例1−5〜1−7において、比較例1−1と同等以上であり、実験例1−2とほぼ同等であった。特に、実験例1−5〜1−7では、溶媒がFECを含む実験例1−6において、常温サイクル特性および高温保存特性の放電容量維持率が著しく高くなり、90%に達した。これらのことから、電解液が化2に示したスルホン化合物を含む二次電池では、溶媒の組成を変更した場合においてもサイクル特性および保存特性が確保されることが確認された。特に、溶媒がFECを含むことにより、より高い効果が得られる。
加えて、高温保存特性の放電容量維持率は、溶媒としてECおよびDECにそれぞれFEC、トランス−DFECあるいはVCを加えた実験例1−8〜1−10において、比較例1−1よりも高くなり、実験例1−2と同等以上であった。もちろん、この場合の放電容量維持率は、実験例1−10において比較例1−4よりも高くなった。一方、常温サイクル特性の放電容量維持率は、実験例1−8〜1−10において、比較例1−1および実験例1−2よりも高くなった。特に、実験例1−8〜1−10では、常温サイクル特性および高温保存特性の放電容量維持率が著しく高くなり、90%に達した。これらのことから、電解液が化2に示したスルホン化合物を含む二次電池では、溶媒が化5に示したハロゲンを構成元素として有する環状炭酸エステルあるいは不飽和結合を有する環状炭酸エステルを含むことにより、より高い効果が得られることが確認された。なお、ここでは溶媒に化4に示したハロゲンを構成元素として有する鎖状炭酸エステルを含有させた場合については実験例を開示していない。しかしながら、電解液の分解抑制の観点から化5に示したハロゲンを構成元素として有する環状炭酸エステルと同様の物性を有している。このため、化4に示したハロゲンを構成元素として有する鎖状炭酸エステルを用いた場合においても上記した効果が得られることは明らかである。
(実験例2−1)
電解質塩として四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4 )を加え、電解液中におけるLiF6 およびLiBF4 の濃度をそれぞれ0.9mol/kgおよび0.1mol/kgとしたことを除き、実験例1−10と同様の手順を経た。
(実験例2−2)
電解質塩としてLiBF4 に代えてビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム(LiTFSI)を加えたことを除き、実験例2−1と同様の手順を経た。
(実験例2−3)
電解質塩としてLiBF4 に代えて化11(2)に示した1,3−パーフルオロプロパンジスルホニルイミドリチウムを加えたことを除き、実験例2−1と同様の手順を経た。
これらの実験例2−1〜2−3の二次電池について常温サイクル特性および高温保存特性を調べたところ、表2に示した結果が得られた。なお、表2には、実験例1−10および比較例1−4の特性も併せて示した。
表2に示したように、高温保存特性の放電容量維持率は、電解液が化3(1)のスルホン化合物を含む実験例2−1〜2−3において、それを含まない比較例1−4よりも高くなり、実験例1−10とほぼ同等であった。一方、常温サイクル特性の放電容量維持率は、1,3−パーフルオロプロパンジスルホニルイミドリチウムを加えた実験例2−3では比較例1−4と同等であったが、LiBF4 およびLiTFSIを加えた実験例2−1,2−2では比較例1−1よりも低くなった。なお、常温サイクル特性の放電容量維持率は、加えた電解質塩の種類によらず、実験例2−1〜2−3において実験例1−10よりも低くなった。ただし、実験例2−1〜2−3では、常温サイクル特性の放電容量維持率が80%に達しており、十分な放電容量維持率が得られた。これらのことから、負極34が負極活物質として人造黒鉛を含むと共に電解液が化2に示したスルホン化合物を含む二次電池では、電解質塩の組成を変更した場合においてもサイクル特性および保存特性が確保されることが確認された。
(2)半金属系負極
次に、負極活物質としてケイ素を用いて、図3および図4に示したラミネートフィルム型の二次電池を製造した。
(実験例3−1〜3−7)
負極集電体34Aの両面に、電子ビーム蒸着法によってケイ素からなる負極活物質層34Bを形成したことを除き、実験例1−1〜1−7と同様の手順を経た。
(実験例3−8〜3−10)
溶媒としてそれぞれFEC、トランス−DFECあるいはシス−DFECを5重量%加えたことを除き、実験例3−2と同様の手順を経た。
(実験例3−11)
溶媒としてVCを2重量%加えたことを除き、実験例3−2と同様の手順を経た。
(実験例3−12)
化2に示したスルホン化合物として、化3(1)のスルホン化合物に代えて化3(2)のスルホン化合物を用いたことを除き、実験例3−2と同様の手順を経た。
(比較例3−1)
電解液に化3(1)のスルホン化合物を含有させなかったことを除き、実験例3−1〜3−4と同様の手順を経た。
(比較例3−2)
化3(1)のスルホン化合物に代えて化12のスルホン化合物を用いたことを除き、実験例3−2と同様の手順を経た。
(比較例3−3,3−4)
電解液に化3(1)のスルホン化合物を含有させなかったことを除き、それぞれ実験例3−6,3−11と同様の手順を経た。
これらの実験例3−1〜3−12および比較例3−1〜3−4の二次電池について常温サイクル特性および高温保存特性を調べたところ、表3に示した結果が得られた。
表3に示したように、常温サイクル特性および高温保存特性の放電容量維持率は、電解液が化3(1)のスルホン化合物を含む実験例3−1〜3−4において、それを含まない比較例3−1よりも高くなった。この結果が得られた実験例3−1〜3−4における化3(1)のスルホン化合物の含有量の下限および上限は、それぞれ0.01重量および5重量%であった。これらのことから、負極34が負極活物質としてケイ素(電子ビーム蒸着法)を含む二次電池では、電解液が化2に示したスルホン化合物を含むことによりサイクル特性および保存特性が確保されることが確認された。特に電解液中における化2に示したスルホン化合物の含有量としては、0.01重量%以上5重量%以下の範囲内が好ましい。
また、高温保存特性の放電容量維持率は、化3(1)のスルホン化合物を含む実験例3−2において、化12のスルホン化合物を含む比較例3−2よりも高くなり、さらに化3(2)のスルホン化合物を含む実験例3−12において、化3(1)のスルホン化合物を含む実験例3−2よりも高くなった。一方、常温サイクル特性の放電容量維持率は、実験例3−2,3−12において比較例3−2よりも高くなり、実験例3−2,3−12では同等であった。これらのことから、サイクル特性および保存特性を確保するためには、スルホン化合物として、化12のスルホン化合物よりも、化3(1)のスルホン化合物や化3(2)のスルホン化合物などの化2に示したスルホン化合物が好ましいことが確認された。
さらに、常温サイクル特性および高温保存特性の放電容量維持率は、溶媒としてDECに代えてEMCを用いた実験例3−5、ECに代えてFECを用いた実験例3−6、あるいはECおよびDECに加えてPCを用いた実験例3−7において、比較例3−1よりも高くなり、実験例3−2とほぼ同等であった。もちろん、この場合の放電容量維持率は、実験例3−6において比較例3−3よりも高くなった。特に、実験例3−5〜3−7では、溶媒がFECを含む実験例3−6において、常温サイクル特性および高温保存特性の放電容量維持率が著しく高くなった。これらのことから、電解液が化2に示したスルホン化合物を含む二次電池では、溶媒の組成を変更した場合においてもサイクル特性および保存特性が確保されることが確認された。特に、溶媒がFECを含むことにより、より高い効果が得られる。
加えて、常温サイクル特性および高温保存特性の放電容量維持率は、溶媒としてECおよびDECにそれぞれFEC、トランス−DFEC、シス−DFECあるいはVCを加えた実験例3−8〜3−11において、比較例3−1および実験例3−2よりも高くなった。もちろん、この場合の放電容量維持率は、実験例3−11において比較例3−4よりも高くなった。特に、実験例3−8〜3−11では、溶媒がトランス−DFECおよびシス−DFECを含む実験例3−9,3−10において、常温サイクル特性および高温保存特性の放電容量維持率が著しく高くなった。これらのことから、電解液が化2に示したスルホン化合物を含む二次電池では、溶媒が化2に示したハロゲンを構成元素として有する環状炭酸エステルあるいは不飽和結合を有する環状炭酸エステルを含むことにより、より高い効果が得られることが確認された。特に、溶媒がDFECを含むことにより、さらに高い効果が得られる。
(実験例4−1〜4−3)
実験例3−1〜3−12について説明した手順によって負極活物質層34Bを形成したことを除き、実験例2−1〜2−3と同様の手順を経た。
これらの実験例4−1〜4−3の二次電池について常温サイクル特性および高温保存特性を調べたところ、表4に示した結果が得られた。なお、表4には、実験例3−9の特性も併せて示した。
表4に示したように、電解液が化3(1)のスルホン化合物を含む点において共通している実験例3−9,4−1〜4−3を比較すると、常温サイクル特性および高温保存特性の放電容量維持率は、実験例4−1〜4−3において、加えた電解質塩の種類によらずに実験例3−9とほぼ同等であった。このことから、負極34が負極活物質としてケイ素(電子ビーム蒸着法)を含むと共に電解液が化2に示したスルホン化合物を含む二次電池では、電解質塩の組成を変更した場合においてもサイクル特性および保存特性が確保されることが確認された。
(実験例5−1〜5−12)
焼結法を用いて負極34を作製したことを除き、実験例3−1〜3−12と同様の手順を経た。負極34を作製する際には、まず、負極活物質として平均粒径2μmのケイ素粉末90質量部と、結着剤としてポリフッ化ビニリデン10質量%とを混合し、N−メチル−2−ピロリドンに分散させたのち、厚さ20μmの銅箔からなる負極集電体34Aの両面に塗布して乾燥させた。続いて、負極活物質層34Bの片面における厚さが15μmとなるように圧縮成型した。最後に、350℃で3時間に渡って加熱し、冷却後に帯状に裁断した。
(比較例5−1〜5−4)
実験例5−1〜5−12と同様に焼結法によって負極集電体34Aの両面にケイ素を含む負極活物質層34Bを形成したことを除き、比較例3−1〜3−4と同様の手順を経た。
これらの実験例5−1〜5−12および比較例5−1〜5−4の二次電池について常温サイクル特性および高温保存特性を調べたところ、表5に示した結果が得られた。
表5に示したように、常温サイクル特性および高温保存特性の放電容量維持率は、実験例5−1〜5−4において比較例5−1よりも高くなった。この結果が得られた実験例5−1〜5−4における化3(1)のスルホン化合物の含有量の下限および上限は、それぞれ0.01重量および5重量%の範囲内であった。これらのことから、負極34が負極活物質としてケイ素(焼結法)を含む二次電池では、電解液が化2に示したスルホン化合物を含むことによりサイクル特性および保存特性が確保されることが確認された。特に、電解液中における化2に示したスルホン化合物の含有量としては、0.01重量%以上5重量%以下の範囲内が好ましい。
また、高温保属特性の放電容量維持率は、実験例5−2において比較例5−2よりも高くなり、さらに実験例5−12において実験例5−2よりも高くなった。一方、常温サイクル特性の放電容量維持率は、実験例5−2,5−12において比較例5−2よりも高くなり、実験例5−1,5−12では同等であった。これらのことから、サイクル特性および保存特性を確保するためには、スルホン化合物として化12のスルホン化合物よりも化3(1)のスルホン化合物や化3(2)のスルホン化合物などの化2に示したスルホン化合物が好ましいことが確認された。
さらに、常温サイクル特性および高温保存特性の放電容量維持率は、実験例5−5〜5−7において比較例5−1よりも高くなり、実験例5−2とほぼ同等であった。もちろん、この場合の放電容量維持率は、実験例5−6において比較例5−3よりも高くなった。特に、実験例5−5〜5−7では、溶媒がFECを含む実験例5−6において、常温サイクル特性および高温保存特性の放電容量維持率が著しく高くなった。これらのことから、電解液が化2に示したスルホン化合物を含有する二次電池では、溶媒の組成を変更した場合においてもサイクル特性および保存特性が確保されると共に、溶媒がFECを含むことにより、より高い効果が得られることが確認された。
加えて、常温サイクル特性および高温保存特性の放電容量維持率は、実験例5−8〜5−11において比較例5−1および実験例5−2よりも高くなった。もちろん、この場合の放電容量維持率は、実験例5−11において比較例5−4よりも高くなった。特に、実験例5−8〜5−11では、溶媒がトランス−DFECおよびシス−DFECを含む実験例5−9,5−10において、常温サイクル特性および高温保存特性の放電容量維持率が著しく高くなった。これらのことから、電解液が化2に示したスルホン化合物を含む二次電池では、溶媒が化2に示したハロゲンを構成元素として有する環状炭酸エステルあるいは不飽和結合を有する環状炭酸エステルを含むことにより、より高い効果が得られることが確認された。特に、溶媒がDFECを含むことにより、さらに高い効果が得られる。
(実験例6−1〜6−3)
実験例5−1〜5−12について説明した手順によって負極活物質層34Bを形成したことを除き、実験例4−1〜4−3と同様の手順を経た。
これらの実験例6−1〜6−3の二次電池について常温サイクル特性および高温保存特性を調べたところ、表6に示した結果が得られた。なお、表6には、実験例5−9の特性も併せて示した。
表6に示したように、実験例5−9,6−1〜6−3を比較すると、常温サイクル特性および高温保存特性の放電容量維持率は、実験例6−1〜6−3において、加えた電解質塩の種類によらずに実験例5−9とほぼ同等であった。このことから、負極34が負極活物質としてケイ素(焼結法)を含むと共に電解液が化2に示したスルホン化合物を含む二次電池では、電解質塩の組成を変更した場合においてもサイクル特性および保存特性が確保されることが確認された。
上記した表1〜表6の結果から明らかなように、負極活物質として用いる材料および負極活物質層34Bの形成方法に関係なく、電解液が化2に示したスルホン化合物を含むことにより、サイクル特性および保存特性が確保されることが確認された。特に、高いエネルギー密度が得られるケイ素を負極活物質として用いた場合において、常温サイクル特性および高温保存特性の双方について放電容量維持率の増加率が増大したことから、より高い効果が得られることがわかった。この結果は、負極活物質としてエネルギー密度が高いケイ素を用いると、炭素材料を用いる場合よりも負極34における電解液の分解反応が生じやすくなることから、化2に示したスルホン化合物による電解液の分解抑制効果が際立って発揮されたものと考えられる。
以上、実施の形態および実施例を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記した実施の形態および実施例において説明した態様に限定されず、種々の変形が可能である。
例えば、上記した実施の形態および実施例では、本発明の二次電池として、負極の容量がリチウムの吸蔵および放出に基づく容量成分により表される場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。本発明の二次電池は、負極の容量がリチウムの吸蔵および放出に基づく容量成分とリチウムの析出および溶解に基づく容量成分とを含み、かつそれらの容量成分の和により表される場合についても同様に適用可能である。この場合には、リチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料の充電容量が正極の充電容量よりも小さくなるように設定される。
また、上記した実施の形態または実施例では、本発明の二次電池の電池構造として円筒型またはラミネートフィルム型を例に挙げ、電池素子の構造として巻回構造を例に挙げて説明した。しかしながら、本発明の二次電池は、コイン型、ボタン型あるいは角型などの他の電池構造を有する場合や、電池素子が積層構造を有する場合についても同様に適用可能である。
また、上記した実施の形態および実施例では、本発明の電解液中における化2に示したスルホン化合物の含有量について、実施例の結果から導き出された数値範囲を適正範囲を説明している。しかしながら、その説明は、含有量が上記した範囲外となる可能性を完全に否定するものではない。すなわち、上記した適正範囲は、あくまで本発明の効果を得る上で特に好ましい範囲であり、本発明の効果が得られるのであれば、含有量が上記した範囲から多少外れてもよい。