JP2010022218A - 新種微生物及びグルコシルセラミドの製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】キャンディダ(Candida)属JPCCY0024株(NITE P−571)が属する種に属する微生物;26S rDNA−D1/D2の塩基配列が、特定の塩基配列と96%以上の相同性を有し、グルコシルセラミド生産能を有するキャンディダ(Candida)属に属する微生物;キャンディダ(Candida)属JPCCY0024株(NITE P−571);かかる微生物を培養する工程を有するグルコシルセラミドの製造方法。
【選択図】なし
Description
スフィンゴ糖脂質の構成成分であるセラミド(Cer)は、ヒトの角質層の細胞間脂質の主成分として40〜60%を占めており、その親水性部分に水分子を保持することで水分の蒸発を抑えると共に、細菌などの体外刺激物が体内へ侵入することを防止する役割を担っていると考えられている。そして、セラミドは加齢に伴い減少し、しわ、肌荒れの原因となることが報告されている。セラミドや、セラミドにグルコースが付加した構造のグルコシルセラミド(GlcCer)は、ヒトの乾燥落屑性皮膚への塗布による水分保持機能改善効果、経口摂取による経皮水分蒸発量の低減効果を有するが報告されており、化粧品や健康食品の原料として注目されている。例えば、セラミドやグルコシルセラミドの日本国内の市場規模は、グルコシルセラミド5%含有の粗抽出物として2005年では5.8トン、金額にすると約13.5億円であり、毎年約20%の伸びが見込まれている。
D.Warnecke and E.Heinz(2003) Recently discovered functions of glucosylceramides in plants and fungi.CMLS,Cell.Mol.Life Sci.60,919−941. R.X.Tan and J.H.Chen(2003) The cerebrosides Nat Prod Rep.20:509−34. Sugawara,T.and Miyazawa,T.(1999) Separation and determination of glycolipids from edible plant sources by high−performance liquid chromatography and evaporative light−scattering detection.Lipids,34:1231−1237. Masahiko Tamura,Osamu Matsumoto,Naoya Takakuwa,Yuji Oda,Masao Ohnishi(2005) Production of Cerebroside from Beet Molasses by the Yeast Saccharomyces kluyveri Food Biotechnology 19:95−105.
本発明は上記事情に鑑みて為されたものであり、グルコシルセラミド生産能を有する新種微生物、及び該微生物を利用するグルコシルセラミドの製造方法を提供することを課題とする。
請求項1に記載の発明は、キャンディダ(Candida)属JPCCY0024株(NITE P−571)が属する種に属する微生物である。
請求項2に記載の発明は、26S rDNA−D1/D2の塩基配列が、配列番号1に示す塩基配列と96%以上の相同性を有し、グルコシルセラミド生産能を有するキャンディダ(Candida)属に属する微生物である。
請求項3に記載の発明は、キャンディダ(Candida)属JPCCY0024株(NITE P−571)である。
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載の微生物を培養する工程を有するグルコシルセラミドの製造方法である。
なお、以下において、「キャンディダ(Candida)属JPCCY0024株(NITE P−571)」のことを「JPCCY0024」と略記することがある。
また、本発明において「グルコシルセラミド」とは、例えば、下記式(1)で表されるように、スフィンゴシン骨格(a)中のアミノ基と、脂肪酸骨格(b)中のカルボキシ基とがアミド結合を形成した構造を有するセラミド骨格(a+b)中のうち、前記スフィンゴシン骨格(a)の分子末端の1級水酸基に相当する水酸基が、グルコースの1位の炭素原子に結合した構造を有する化合物の総称を指すものとする。したがって、「グルコシルセラミド」には、前記スフィンゴシン骨格(a)に由来する炭化水素基の種類や、前記脂肪酸骨格(b)に由来する炭化水素基の種類、あるいは構造式中のいずれかの基の立体配置等が異なる複数の化合物を含む。
JPCCY0024は、以下の手順に従って獲得した。
まず、下記手順で分離培地を作製した。
分離培地:酵母エキス5g、グルコース20g、ペプトン10g、人工海水37g、クロラムフェニコール0.3g、ストレプトマイシン0.15g、アンピシリン0.1g、粉末寒天12gを純水1Lに添加し、121℃で10分間滅菌処理した後、適量を滅菌済み平板に分取して、寒天平板を作製した。
次いで、奄美大島の原生林から採取した土壌を100倍量(質量比)の生理食塩水で激しく撹拌し、上澄みを前記分離培地に塗布し、25℃でインキュベーションを行なった。植菌後3日目に確認できたコロニーを滅菌済み爪楊枝で釣菌し、新たな酵母培地に植菌し、生育を繰り返すことで単菌化を行った。
JPCCY0024の同定は、株式会社テクノスルガに委託して実施した。そして取得した検体を用いて、「簡易形態観察」、「生理・生化学的性状試験(以下、生理性状試験と略記する)」、「26S rDNA−D1/D2塩基配列の同定」を行った。なお、供試菌体としては、下記条件で培養した菌株を使用した。
[培養条件]
培地;Yeast extract−malt agar(YM agar)(Becton Dickinson)
培養温度;温度耐性試験を除き25℃
培養期間;1週間〜1ヶ月間
その他の培養条件;好気培養
以下のものを使用して観察を行なった。
顕微鏡;光学顕微鏡BX51(オリンパス株式会社製)(微分干渉観察)
マウント液;滅菌蒸留水
(1) 巨視的観察(コロニー観察)
YM平板培地上で25℃の温度条件下、培養7日間でコロニーは表1に示す性状を示した。
YM平板培地上で25℃の温度条件下、培養開始10日目に、栄養細胞は球形から広楕円形であり、増殖は多極出芽によることが確認された。培養開始から1ヶ月経過した平板で、有性生殖器官の形成は認められなかった。
試験方法は、Barnet et al.(2000)及びKurtzman and Fell(1998)に準拠し、培養は温度耐性試験を除き25℃で行った。結果を表2〜6に示す。なお、表中、「+」は反応が陽性であることを、「−」は反応が陰性であることを、「W(week)」は弱い陽性反応であることをそれぞれ示す。また、「S(slow)」は試験開始後に2週間から3週間以上かけて徐々に陽性反応が認められたことを、「L(latent)」は試験開始2週間以降に急速に陽性反応が認められたことをそれぞれ示す。
DNA抽出からサイクルシークエンスまでの各操作は、下記の各プロトコールに基づいて行った。
DNA抽出;物理的破壊及びMarmur(1961)の改変法
PCR;puReTaq Ready−To−Go PCR beads(Amersham Biosciences)
サイクルシークエンス;BigDye Terminator v3.1 Kit(Applied Biosystems)
プライマー;NL1、NL2、NL3及びNL4(O’Donnell,1993)
シークエンス;ABI PRISM 3100 Genetic Analyzer System(Applied Biosystems)
配列決定;ChromasPro 1.4(Technelysium Pty Ltd)
相同性検索及び簡易分子系統解析;アポロン2.0(ソフトウェア、テクノスルガ・ラボ)、アポロンDB−FU2.0(データベース、テクノスルガ・ラボ)、国際塩基配列データベース(GenBank/DDBJ/EMBL)
26S rDNA−D1/D2塩基配列の解析結果において、JPCCY0024が帰属すると推定したキャンディダ属には、「The Yeasts,a taxonomic study第4版(Kurtzman and Fell,1998)」において163種が記載されており、これら163種は生理性状に基づき12のグループに分けられている。生理性状試験の結果、JPCCY0024は、炭素源としてイノシトールを資化することから、「キャンディダ属生理性状グループI(Kurtzman and Fell,1998)」に分類される推定された。一方、26S rDNA−D1/D2塩基配列の解析結果において、JPCCY0024が近縁であると推定したキャンディダ ヴァルディヴィアナもまた、「キャンディダ属生理性状グループI」に分類されている。さらに、「キャンディダ属生理性状グループI」に分類されている10種の区別に有効とされる生理・生化学的特徴において、JPCCY0024は、ラフィノース及び硝酸塩を資化し、L−ラムノース及びエリスリトールを資化せず、26S rDNA−D1/D2塩基配列の解析結果においてJPCCY0024が近縁であると推定したキャンディダ ヴァルディヴィアナの特徴と良く一致した。その一方で、「The Yeasts,a taxonomic study第4版(Kurtzman and Fell,1998)」及び「YEASTS:Characteristics and identification第3版(Barnet et al.,2000)」を参考に、JPCCY0024とキャンディダ ヴァルディヴィアナについて、その他の生理・生化学的特徴を比較したところ、キャンディダ ヴァルディヴィアナは、グリセロール、コハク酸、クエン酸を資化し、ビタミン欠乏培地において生育性を示さないとされているのに対し、JPCCY0024は、グリセロール、コハク酸、クエン酸を資化せず、ビタミン欠乏培地において生育し、異なる特徴を示した。したがって、生理性状試験の結果において、JPCCY0024は、26S rDNA−D1/D2塩基配列の解析結果において近縁である推定したキャンディダ ヴァルディヴィアナと類似した性状を示すものの、グリセロール、コハク酸及びクエン酸の資化能、並びにビタミン要求性において異なる特徴を示すことが明らかとなり、26S rDNA−D1/D2塩基配列の解析結果を支持した。
また、本発明のグルコシルセラミドの製造方法は、上記本発明の微生物を培養する工程を有するものである。
JPCCY0004等のキャンディダ属に属する微生物は、公知の手法で培養すれば良い。JPCCY0004であれば、例えば、上記の獲得手順に記載した分離培地や、酵母エキス、バクト トリプトン(Bacto Trypton)、グルコース等を含有する培地を使用すると良い。なかでも糖類としては、前記の資化性を有するものであればいずれも使用し得るが、グルコースが特に好ましい。
培養時の温度は、18〜36℃であることが好ましく、23〜33℃であることがより好ましい。
培養時間は、培養温度にもよるが、12時間以上であることが好ましく、20時間以上であることがより好ましい。培養時間の上限は特に限定されず、目的に応じて適宜選択すれば良いが、通常は、50時間程度で十分である。
培養方法は、静置培養、振とう培養、撹拌培養等、培地の種類に応じて適宜選択すれば良い。そして、好気培養することが好ましい。
そして、JPCCY0024が生産するその他のグルコシルセラミドとしては、下記式(1)中のスフィンゴシン骨格に由来する炭化水素基の種類が異なるもの、脂肪酸骨格に由来する炭化水素基の種類が異なるもの、あるいは構造式中のいずれかの基の立体配置が異なるものが例示できる。ここで、「炭化水素基の種類が異なる」とは、例えば、炭素数、側鎖の有無、側鎖の位置、二重結合の有無、二重結合の位置等が異なることを指す。
クルブロマイセス ラクチス NBRC 1090株も、同様のグルコシルセラミドを生産することが知られている。
<JPCCY0024を使用したグルコシルセラミドの製造>
(グルコシルセラミドの定量)
酵母エキス1質量%、バクト ペプトン(Bacto Peptone)2質量%、グルコース2質量%、バクト アガー(Bacto Agar)1質量%を含有する固形培地を使用して2日間、試料を静置培養し、コロニー形成が確認された酵母(アルカリ耐性株)18株を選別した。これらの中には、JPCCY0024が含まれていた。
次いで、酵母エキス1質量%、バクト トリプトン(Bacto Trypton)2質量%、グルコース2質量%、塩化ナトリウム2質量%を含有し、pHを10に調整した液体培地50mlを使用して、500mlの坂口フラスコ中で上記18株の酵母を30℃、120rpmの条件で48時間振とう培養した。振とう培養後、8000rpmで1分間遠心分離することで菌体を回収し、さらに蒸留水で2回洗浄した。得られた菌体を凍結乾燥し、乾燥菌体の質量を測定した。
得られた乾燥菌体100mgに対して、クロロホルム/メタノール(1/1, v/v) 1mlと、0.8M水酸化カリウム水溶液1mlを加え、5分間超音波によりホモジナイズした後、42℃で30分間インキュベートした。次いで、クロロホルム2.5mlと水1.12mlを加えて混合した後、有機層を分取し、エバポレーターを使用して40℃で減圧乾固後、凍結乾燥した。得られたサンプルをクロロホルム/メタノール(2/1, v/v)100μlに溶解させ、そのうち10μlをTLC分析し、オルシノール硫酸試薬(硫酸/水/エタノール(5/13/27,v/v/v)の混合溶液45mlにオルシノール0.1gを溶解させた試薬)を噴霧後、ホットプレートを使用して110℃で5分間加熱し、呈色させた。この時、TLCの展開溶媒としては、クロロホルム/メタノール/水(65/16/2,v/v/v)を使用した。さらに、グルコシルセラミドの標準物質として、下記式(2)で表される大豆由来の粉末グルコシルセラミド(Avanti polar lipids)をクロロホルム/メタノール(2/1,v/v)に溶解させたものを使用した。また、画像解析ソフトScion Imageを使用してスポットの大きさとその呈色の平均強度を求め、これらを掛け合わせてスポットの呈色強度を算出することで、検量線を作成した。そして、この検量線を使用して、乾燥菌体1gあたりから抽出可能なグルコシルセラミドを定量した。
得られたグルコシルセラミドの構造を、下記二種類の手法で決定した。
(1)ESI−MS/MS
グルコシルセラミドの標準物質として、前記式(2)で表される大豆由来の粉末グルコシルセラミド(Avanti polar lipids)を使用し、検出条件を最適化した。
具体的には、前記大豆由来グルコシルセラミドをクロロホルム/メタノール(2/1,v/v)に溶解させ、濃度を0.1mg/mlに調整し、流速1.0ml/min、正イオンモードの条件で、ESI−MS及びESI−MS/MS分析を行った。ESI−MS/MS分析では、衝突エネルギーを30%から70%まで5%間隔で増大させ、そのスペクトルパターンから、グルコシルセラミドの構造を最も正確に反映したスペクトルが得られるエネルギーを決定することで、検出条件を最適化した。
上記グルコシルセラミド定量時に調製したサンプル20μlを使用して、LC−MS分析を行った。分析には、前記大豆由来のグルコシルセラミドと、下記式(3)で表されるグルコシルセラミドC12β−D−GlucosylCeramide(Avanti polar lipids)の化学合成品を使用した。カラムとしてはAminopropyl−bonded silica gel column(4.6mmI.D×250mmL)を使用した。また、移動層Aとして5mM酢酸アンモニウムを含むアセトニトリル/メタノール/酢酸(97/2/1,v/v/v)、移動層Bとして5mM酢酸アンモニウムを含むメタノール/酢酸(99/1,v/v/v)を使用し、下記グラジエント条件(A.H.Merrill Jr.et al.,2005参照)で、移動層の流速を1.0ml/minとし、正イオンモードで検出を行った。
グラジエント条件:0%B(0分)−0%B(5分)−10%B(7.5分)−10%B(12分)−18%B(16分)−18%B(22分)−100%B(26分)−停止(26.01分)。「%」はいずれも「容量%」を示す。
MS/MS分析の親イオンとしてはナトリウム付加物のイオンを選択し、衝突エネルギーを40%に設定した。最適化した検出条件に基づいて対象酵母由来の脂質を含むサンプル20μlをLC−MS/MS分析に供した。
<クルブロマイセス ラクチス(Kluyveromyces lactis) NBRC 1090株を使用したグルコシルセラミドの製造>
JPCCY0024の代わりに、クルブロマイセス ラクチス NBRC 1090株を使用したこと以外は、実施例1と同様にグルコシルセラミドを製造し、得られたグルコシルセラミドの構造を確認した。クルブロマイセス ラクチス NBRC 1090株は、独立行政法人製品評価技術基盤機構より入手した。
その結果、本菌株の乾燥菌体量は、培養液1Lあたり4.8gであり、本菌株の乾燥菌体1gあたりの前記式(1)で表されるグルコシルセラミドの含有量は0.42mgであることが確認された。以上より、本菌株の前記式(1)で表されるグルコシルセラミドの生産性は、培養液1Lあたり2.0mgであることが確認された。
Claims (4)
- キャンディダ(Candida)属JPCCY0024株(NITE P−571)が属する種に属する微生物。
- 26S rDNA−D1/D2の塩基配列が、配列番号1に示す塩基配列と96%以上の相同性を有し、グルコシルセラミド生産能を有するキャンディダ(Candida)属に属する微生物。
- キャンディダ(Candida)属JPCCY0024株(NITE P−571)。
- 請求項1〜3のいずれか一項に記載の微生物を培養する工程を有するグルコシルセラミドの製造方法。
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