JP2010022143A - パンタグラフ用すり板集電材料 - Google Patents

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Abstract

【課題】摺動特性と集電特性とを兼ね備えつつ、機械的特性を向上させることができるパンタグラフ用すり板集電材料を提供することを目的とする。
【解決手段】送電用架線と接触する摺動面を備えた基材を有し、この基材が炭素繊維強化炭素複合材料からなるパンタグラフ用すり板集電材料であって、上記炭素繊維強化炭素複合材料は、中央部に配置された主摺動部2とこの主摺動部2の周縁に配置された補助摺動部3とから成り、且つ、上記主摺動部2における炭素繊維は、上記摺動面に対して全て垂直方向に延在する一方、上記補助摺動部3における炭素繊維には、上記摺動面に対して非垂直方向に延在するものが含まれていることを特徴とする。
【選択図】図1

Description

本発明は、鉄道車両のパンタグラフに用いられるすり板集電材料に関する。
電気車には、パンタグラフ最上部にすり板集電材料が取り付けられており、このようなパンタグラフ用すり板集電材料(以下、単にすり板と称することがある)は、硬質銅材からなる架線と接触しつつ互いに摩擦しながら大電流を集電するという作用を発揮する。このようなすり板では、架線の摩耗が少なく、且つすり板自身の摩耗が少ないということが要求されることから、近年、すり板として金属(合金)系のものからカーボン系のものに移行しつつある。
従来のカーボン粉を基材としたカーボン−銅系すり板としては、基材内部の気孔に銅系の溶融金属を含浸した銅含浸型カーボン系すり板が最も幅広く使用されている(例えば特許文献1参照)。これは、銅含浸型カーボン系すり板が耐摩耗性に優れているという理由による。但し、炭素粉と銅粉を混合、成形、焼成して得られる混合焼結型に比べて、耐摩耗性に優れる理由については、未だ明らかとなっていない。そこで、摩耗メカニズムを解明することこそ、耐摩耗性に優れた次世代すり板の開発に繋がると考え、鋭意研究した結果、摩耗特性とカーボン粒子の結合力とは大きな相関関係を有していることが判明した。具体的には、以下の通りである。
即ち、路線によっては、冬季に架線表面に霜や氷柱などが付着し、架線とすり板が離れることでアークが発生する(以下、離線アークということがある)。当該離線アークにより発生する熱は、すり板表面近傍で数千度にも達するといわれ、すり板表層部の銅を溶出させるが、銅が溶出しても、カーボン粒子の結合力が強いすり板ほど、摩耗量が少なく、長時間の摺動が可能であった。このことは、カーボン粒子の結合力が強いすり板ほど、機械的、電気的な摺動に優れていることを示しており、カーボン粒子が離脱しにくい基材を開発することが、耐摩耗性に優れた次世代のすり板を提供できることを意味する。
炭素繊維は、軽量、且つ、比強度や耐衝撃性が高い等の特徴を有することから、多分野で応用が検討されており、炭素繊維の特徴を考慮すると、次世代のパンタグラフ用すり板集電材料の候補にもなりうると考えられる。例えば、下記特許文献2、3では、パンタグラフ用すり板集電材料に炭素繊維を用い、チタンを添加することにより銅との濡れ性を改善して、すり板の強度(靱性)を改善すること、または離線アークによる損耗を防止することを目的としたパンタグラフ用すり板集電材料が提案されている。
特許番号第2697581号 特開2000−037001号公報 特開第3987656号
しかしながら、パンタグラフ用すり板集電材料として炭素繊維を用いただけでは、耐摩耗性を飛躍的に向上させることができない。
本発明は上記事情に鑑み、耐摩耗性を飛躍的に向上させることができるパンタグラフ用すり板集電材料を提供することを目的とする。
上記目的を達成するために本発明は、送電用架線と接触する摺動面を備えた基材を有し、この基材が炭素繊維強化炭素複合材料からなるパンタグラフ用すり板集電材料であって、上記炭素繊維強化炭素複合材料における炭素繊維は、上記摺動面に対して全て垂直方向に延在していることを特徴とする。
炭素繊維が摺動面に対して全て垂直方向に延在している炭素繊維強化炭素複合材料をパンタグラフ用すり板集電材料(以下、単に、すり板と称することがある)として用いれば、炭素繊維の延在方向ではカーボン粒子の結合力が強くなり、粒子離脱を防止することができるので、送電用架線とすり板とが摺動した場合のすり板摩耗量を飛躍的に低減することができる。
また、通電させながら送電用架線とすり板とを摺動した場合には、これらを通電させずに摺動した場合に比べて、すり板の摩耗量が著しく増大する。これは、離線アークなどによる電気的な摩耗が、機械的な摩耗に比べて多いということに起因するものと考えられる。このように、機械的な摩耗のみならず電気的な摩耗が生じる状態であっても、炭素繊維が摺動面に対して全て垂直方向に延在していれば、摩耗量を大幅に低減できる。即ち、上記構成のすり板では、いずれの状態においても、極めて優れた耐摩耗性を実現することができる。
尚、炭素繊維が摺動面に対して全て垂直方向に延在しているとは、炭素繊維が摺動面に対して完全に90°となっている場合のみならず、炭素繊維が摺動面に対して若干傾いている場合を含むものである(即ち、全ての炭素繊維が摺動面に対して、実質的に垂直方向に延在していれば足るものである)。
上記炭素繊維には銅が含浸されていることが望ましい。
このように炭素繊維に銅が含浸されていれば、架線との抵抗を小さくすることができるので、架線やすり板の摩耗が少なくなり、しかも導電性が向上するからである。
送電用架線と接触する摺動面を備えた基材を有し、この基材が炭素繊維強化炭素複合材料からなるパンタグラフ用すり板集電材料であって、上記炭素繊維強化炭素複合材料は、中央部に配置された主摺動部と、この主摺動部の周縁に配置された補助摺動部とから成り、且つ、上記主摺動部における炭素繊維は、上記摺動面に対して全て垂直方向に延在する一方、上記補助摺動部における炭素繊維には、上記摺動面に対して非垂直方向に延在するものが含まれていることを特徴とする。
上述の如く、炭素繊維が摺動面に対して全て垂直方向に延在している炭素繊維強化炭素複合材料では、すり板の摩耗量を飛躍的に低減できるが、当該炭素繊維強化炭素複合材料は機械的強度が小さいため、送電用架線と摺動した場合に破壊される(竹のように裂ける)ことがある。一方、炭素繊維が摺動面に対して非垂直方向に延在しているものが含まれる炭素繊維強化炭素複合材料では、すり板の摩耗量は大きくなるが、強度が高く且つ靱性が高い(即ち、耐衝撃性に優れる)。そこで、すり板を、中央部に配置された主摺動部と、この主摺動部の周縁に配置された補助摺動部とから構成し、主摺動部における炭素繊維は、摺動面に対して全て垂直方向に延在する一方、補助摺動部における炭素繊維には、摺動面に対して非垂直方向に延在するものが含まれていれば、主摺動部の存在によりすり板の摩耗量を低減しつつ、耐衝撃性に優れる補助摺動部の存在により、主摺動部に用いられている炭素繊維強化炭素複合材料が破壊されるのを抑制できる。
上記補助摺動部における炭素繊維が、上記摺動面に対して全て平行方向に延在している連続繊維、二方向に交互積層させてなるクロス繊維、又は、三次元的に配向させてなるランダム繊維から成ることが望ましい。
炭素繊維が、上記摺動面に対して全て平行方向に延在している連続繊維である場合、炭素繊維の延在方向の強度が非常に高くなるので、上記効果が一層発揮される。また、このようなことを考慮すれば、炭素繊維が二方向に配列したクロス繊維から成る場合には、どちらか一方の方向に配列された炭素繊維が摺動面に対して平行方向に延在していることが望ましい。
上記摺動面の全面積に対する摺動面における上記補助摺動部の面積の比率(以下、単に、補助摺動部の面積比率と称することがある)が9%以上50%未満であることが望ましい。
補助摺動部より主摺動部の方が耐摩耗性に優れているため、補助摺動部の面積比率が50%を超えると、耐摩耗性が低下することがある一方、主摺動部より補助摺動部の方が機械的強度が大きいので、補助摺動部の面積比率が9%未満になると、機械的強度が低下するからである。
上記主摺動部の炭素繊維には銅が含浸されている、また、主摺動部の炭素繊維のみならず補助摺動部の炭素繊維にも銅が含浸されていることが望ましい。
このように炭素繊維に銅が含浸されていれば、架線との抵抗を小さくすることができるので、架線やすり板の摩耗が少なくなり、しかも導電性が向上するからである。
本発明によれば、パンタグラフ用すり板集電材料の耐摩耗性を飛躍的に向上させることができるという優れた効果を奏する。
本発明の最良の形態を図面に基づき説明する。
図1は本発明に係るパンタグラフ用すり板集電材料の一例を示す斜視図(図1においては炭素繊維の延在方向を模式的に表している)、図2はその平面図、図3は正面図、図4は側面図であり、また、図5は図2のA−A線矢視断面図、図6は図2のB−B線矢視断面図である。
図1〜図6に示すように、パンタグラフ用すり板集電材料(以下、単に、すり板と略することがある)1は主摺動部2と補助摺動部3とを有しており、架線(図示せず)に接触する面4は平行四辺形となるように構成されている。上記すり板1は金属製のさや5に保持されており、このさや5はボルト6により図示しないパンタグラフの舟体に固定されている。図2及び図6に示すように、上記すり板1の長さL1は270mm、幅L2は40mm、高さL3は20mmとなっており、また、補助摺動部3の幅L4は2mmとなっている。
上記構造のすり板は、例えば、以下のようにして作製することができる。
ここで、上記主摺動部2と補助摺動部3とは炭素繊維強化炭素複合材料から成る。主摺動部2の作製方法としては、まず、炭素繊維を一方向に集束させなるプリプレグシートを作製し、次に、樹脂にフィラーとしての炭素粉を配合、混合したものを作製する。
次いで、前記プリプレグシート中の炭素繊維がすべて同一方向となるようにプリプレグシートを積層させ、プリプレグシートの層間に前記フィラーが含まれたフェノール樹脂を塗付した。続いて、プレス機(神藤金属工業所製WFA−50)を用いて、プリプレグシート中の炭素繊維がプレス機の台座に対して水平となるようにプリプレグシートの積層体を設置し、上部から下部方向に向かって、面圧200kg/cm2の荷重をかけ、昇温温度約10℃/minで200℃硬化することにより、炭素繊維が全て同一方向となる炭素繊維積層体を作製した。この時、得られた炭素繊維積層体の大きさは、266×36×45mmであった。さらに、上記炭素繊維積層体を昇温温度30℃/h、不活性ガス雰囲気中1000℃で焼成し、結合材である前記樹脂成分を炭素化させた後、HIP法により純銅を含浸させ、全ての炭素繊維が摺動面に対して垂直方向に延在するように、266mm×36mm×20mm(摺動部は266×36mm)の形状に炭素繊維積層体を加工し主摺動部2を得た。次に、主摺動部2の外周部にフェノール樹脂(群栄化学工業株式会社製J-325)を予め塗布した炭素繊維(一方向に配列した連続繊維)を、ワインディング等の装置を用いて直接巻きつけ、昇温温度30℃/h、不活性ガス雰囲気中1000℃で焼成し、主摺動部2と補助摺動部3から構成される長さL1が270mm、幅L2が40mm、高さL3が20mm、補助摺動部3の幅L4が2mmとなるパンタグラフ用すり板集電材料を作製した。尚、補助摺動部3における炭素繊維は摺動面に対して全て平行方向に延在されている。
ここで、上記大きさのパンタグラフ用すり板集電材料の場合には、補助摺動部3の幅L4は約1.6〜5mmであることが望ましく、2〜3mmであることが更に望ましい。理由として以下のことが挙げられる。物理的強度(後述の実験3及び実験4)を測定した実験用のパンタグラフ用すり板集電材料の主摺動部2と補助摺動部3を含む寸法は、図10図11、図12で示すと、外幅L21が10mm、高さL24が10mm、外長さL25が60mmであり、曲げ強度を100MPa以上とするためには、補助摺動部の面積比率を9.2%以上(補助摺動部の肉厚L23を0.4mm以上)としなければならない。補助摺動部の面積比率を9.0%として実機すり板に換算した場合、補助摺動部3の幅L4は1.6mmとなる。したがって、パンタグラフ用すり板集電材料の補強効果を十分に発揮させるためには、補助摺動部3の幅L4の下限を1.6mm(補助摺動部の面積比率を約9.0%)とするのが望ましく、特に、2mm(補助摺動部の面積比率を約10%)とするのが望ましい。
但し、補助摺動部3の幅L4が余り大きくなると、主摺動部2の面積が小さくなり過ぎて、すり板集電材料の耐摩耗性が低下する。したがって、このような不都合を回避するには、補助摺動部3の幅L4は5mm以下であることが望ましく、3mm以下であることが特に望ましい。
また、炭素繊維強化炭素複合材料に用いられる炭素繊維としては、PAN系、ピッチ系のどちらでも良く、炭素繊維表面へのサイジング剤の付着の有無に関わらず使用することができる。また、上記主摺動部2と補助摺動部3の材料に用いられる炭素繊維には、熱処理温度が800〜2000℃のものが好適に使用される。
更に、上記炭素繊維は主に樹脂溶液を塗布して使用するが、樹脂の種類としてフェノール樹脂、フラン樹脂、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂が用いられる。この中で、高温での接着性能、価格の面からフェノール樹脂、エポキシ樹脂がより好ましい。また、これらの樹脂液にフィラーとして粉末を混合することができる。フィラーとして黒鉛粉末、炭素粉末の他、銅粉、鉄粉などの金属粉末等が例示される。
加えて、主摺動部2には、HIP法により高温高圧条件下にて溶融金属を含浸させることができる。また、補助摺動部3にも、同様にHIP法により高温高圧条件下にて溶融金属を含浸させることが好ましい。
また、主摺動部2の側面外周部を炭素繊維強化炭素複合材料で囲む方法としては、下記(1)〜(3)に示す方法が例示される。
(1)主摺動部2の外周部に樹脂を塗布した炭素繊維(一方向に配列した連続繊維又は二方向に配列したクロス繊維)を、ワインディング等の装置を用いて、もしくは手動で直接巻きつけ、昇温温度30℃/h、不活性ガス雰囲気中1000℃で焼成し、主摺動部2と接着する方法。
(2)ダミーの被巻き付け体(例えば、黒鉛治具)に樹脂を塗布した炭素繊維を巻き付けた後、熱処理して得られた中空状の炭素繊維強化炭素複合材料(補助摺動部3)を主摺動部2にはめ込み熱処理して接着する方法。
(3)板状の炭素繊維板に樹脂を塗布し、これが主摺動部2を囲うように配置した後、熱処理して接着する方法。
以下に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例のみに限定されるものではない。
〔実験1〕
(試料1)
先ず、炭素繊維を一方向に集束させてなるプリプレグシートを作製し、更に、フェノール樹脂(群栄化学工業株式会社製J-325)に炭素粉(東洋炭素株式会社製)を混合(混合比率は、炭素粉:フェノール樹脂=1:9)を混合した。次に、プリプレグシート間に樹脂を塗付しつつ、炭素繊維が同一方向となるようにプリプレグシートを積層させてプリプレグシート積層体を作製した。続いて、プレス機(神藤金属工業所製WFA−50)を用いて、プリプレグシート中の炭素繊維がプレス機の台座に対して水平となるようにプリプレグシート積層体を設置し、上部から下部方向に向かって、面圧200kg/cm2の荷重をかけ、昇温温度約10℃/minで200℃硬化した後、昇温温度30℃/h、不活性ガス雰囲気中1000℃で焼成して、炭素繊維積層体を作製した。その後、全ての炭素繊維が摺動面に対して垂直方向に延在するように(以下、このような炭素繊維を、炭素繊維(⊥)と記述することがある)炭素繊維積層体を図7に示す試料10の幅L11を20mm、長さL12を32mm、高さL13を10mm(摺動面10aは20mm×32mm)の形状に加工し、HIP法により銅を含浸することにより炭素繊維強化炭素複合材料を作製した。
このようにして作製した試料を、以下、試料A1と称する。
(試料2)
上記試料A1と同様にして作製した炭素繊維積層体を、全ての炭素繊維を摺動面に対して平行方向に延在するように加工した(以下、このような炭素繊維を、炭素繊維(//)と記述することがある)他は、上記試料A1と同様にして試料を作製した。
このようにして作製した試料を、以下、試料A2と称する。
(試料3)
プリプレグシートの積層時に、各プリプレグシートの炭素繊維が二方向となるように0°と90°にプリプレグシートを交互積層させ(即ち、隣接するププリプレグシートの炭素繊維が直交するようにプリプレグシートを交互積層させ)て、半数の炭素繊維を摺動面に対して平行方向に延在させる一方、残りの炭素繊維を摺動面に対して垂直方向に延在するように加工した(以下、このような炭素繊維を、炭素繊維(// ⊥)と記述することがある)他は、上記試料A1と同様にして試料を作製した。
このようにして作製した試料を、以下、試料A3と称する。
(試料4)
試料として従来用いられている東洋炭素株式会社製PC−78Aを用いた。このPC−78Aは、粒径の小さいコークス系原料とピッチ系バインダとを使用し、成形、焼成したカーボン焼成体に、HIP法により高温高圧下溶融した銅をカーボンの気孔に含浸することにより得られたすり板専用材であり、炭素繊維は含まれていないものである。
このようにして作製した試料を、以下、試料A4と称する。
(実験内容)
上記試料A1〜A4の機械的な摺動特性を把握するため、粗仕上げ用サンディングベルト(荒れた架線を模擬的に表現したものであって、粒度AA−40のものを用いている)を、ベルトサンダ試験機(日立工機株式会社製BG−100)に取付け、サンディングベルトに各試料を押付けて摺動させ、各試料の摩耗状況を観察したので、その結果を図8に示す。具体的な実験条件は、試験片を30秒間摺動させた後に試験機を停止し、試験片の厚みを測定する作業を繰り返し10回行い、合計5分間摺動させた場合での試験片の摩耗状況を観察した。尚、試料数は各2個である。
(実験結果)
図8から明らかなように、摩耗量は、炭素繊維(⊥)を備えた試料A1が最も少なく、その他の試料A2〜A4については、炭素繊維(// ⊥)を備えた試料A3、従来用いられているPC−78Aを用いた試料A4、炭素繊維(//)を備えた試料A2の順に摩耗量が増加していることが認められる。
以上のことから、摺動面に対して炭素繊維が垂直方向に延在する割合を変えることで、機械的な摩耗量が変化する傾向が見られた。具体的には、試料A1〜A3を比較した場合、炭素繊維が摺動面に対して垂直方向に延在する割合が多いほど摩耗量が少なくなっていることがわかる。
また、炭素繊維を摺動面に対して全て垂直方向に延在させた試料A1の5分間摺動後における摩耗量と、従来用いられているPC−78Aを用いた試料A4の5分間摺動後における摩耗量とを比較すると、前者は後者に対して摩耗量が48%低減していることがわかる。
〔実験2〕
(試料1)
図7において、幅L11を10mm、長さL12を60mm、高さL13を10mm(摺動面10aは10mm×60mm)とした他は、炭素繊維(⊥)を備えた上記試料A1と同様にして試料を作製した。
このようにして作製した試料を、以下、試料B1と称する。
(試料2)
図7において、幅L11を10mm、長さL12を60mm、高さL13を10mm(摺動面10aは10mm×60mm)とした他は、炭素繊維(//)を備えた上記試料A2と同様にして試料を作製した。
このようにして作製した試料を、以下、試料B2と称する。
(実験内容)
上記試料B1、B2における電気的な集電特性を把握するため、外径310mm、内径200mm、厚さ2mmの銅円盤を取付けたすり板摩耗試験機(架線を模擬的に表現したものであって、横山製作所製)を用いて実験を行ったので、その結果を図9に示す。具体的には、試料B1、B2を銅円盤に約1kgfで押付けた状態で、銅円盤を50〜1000rpmの回転速度で摺動させ、通電させずに摺動した場合と、50Vの電圧、20Aの電流を通電させながら摺動した場合とについて摺動集電試験を実施した。そして、通電させずに摺動した場合の離線率を0%とし、通電させて摺動した場合の離線率を5%、10%、30%に変化させた。尚、離線率(%)とは、各試料と銅円盤とが離れた割合を示すものであり、離線率が高いほどアークが多く発生し、各試料の摩耗も増加すると考えた。また、試料数は各2個である。
(実験結果)
図9から明らかなように、離線率が各々0%、5%、10%、30%の場合に、炭素繊維(⊥)を備えた試料B1では、摩耗率はそれぞれ2cm3/万km、10cm3/万km、17cm3/万km、63cm3/万kmであるのに対して、炭素繊維(//)を備えた試料B2では、摩耗率はそれぞれ3cm3/万km、17cm3/万km、27cm3/万km、101cm3/万kmであって、通電させずに摺動した場合、及び通電させながら摺動した場合とも、炭素繊維(⊥)を備えた試料B1の方が炭素繊維(//)を備えた試料B2よりも摩耗率が小さいことが認められた。
尚、通電させながら摺動した場合の摩耗率は、通電させずに摺動した場合と比較すると、試料B1及び試料B2共に増加する傾向にあり、更に離線率が高くなるほど摩耗率の増加が顕著であるということから、パンタグラフ用すり板集電材料は、摺動に集電機能が加わることで摩耗率が大幅に増加することが認められ、極めて過酷な条件で使用されることがわかる。但し、このように極めて過酷な条件下であっても、炭素繊維を摺動面に対して全て垂直方向に延在させた試料B1では、摩耗率を大幅に低減できることが判明した。
〔実験3〕
(試料1)
先ず、上記実験1の試料1と同様にして作製した炭素繊維強化炭素複合材料(主摺動部であって、大きさは実験1の試料1と異なる)の周縁に、ワインディング装置を用いて、炭素繊維(東レ株式会社製、T−700)にフェノール樹脂(群栄化学工業株式会社製、J−325)を塗布したものを巻きつけた。次に、昇温温度約10℃/minで200℃硬化を行なった後、昇温温度30℃/h、不活性ガス雰囲気中1000℃で焼成を行ない、更に、当該焼成物を切断することにより、図12に示すように、主摺動部2の周縁に補助摺動部3が設けられた実験用のパンタグラフ用すり板集電材料を作製した。尚、上記主摺動部2において、炭素繊維強化炭素複合材料の炭素繊維の延在方向は摺動面に対して全て垂直方向となっており、上記補助摺動部3において、炭素繊維強化炭素複合材料の炭素繊維の延在方向は摺動面に対して全て平行方向となっている。
ここで、図11に示すように、主摺動部2においては、幅L27が9.2mm、高さL28が10mm、長さL29が59.2mmとなっており、また、図10に示すように、補助摺動部3においては、外幅L21が10mm、内幅L22が9.2mm、肉厚L23が0.4mm、高さL24が10mm、外長さL25が60mm、内長さL26が59.2mmとなっている。
主摺動部2及び補助摺動部3の大きさは上記の如くとなっているため、摺動面に位置する補助摺動部3の面積(図12の3bの面積)は55.36mm2であり、摺動面に位置する主摺動部2の面積(図12の2bの面積)は544.64mm2であるということから、摺動面の全面積に対する補助摺動部の面積の比率(以下、単に、補助摺動部の面積比率と称することがある)は、約9.2%となっている。
このようにして作製したパンタグラフ用すり板集電材料を、以下、試料C1と称する。
(試料2)
補助摺動部3において、内幅L22を8mm、内長さL26を58mmとし、且つ、主摺動部2において、幅L27を8mm、長さL29を58mmとした。このように規制することにより、補助摺動部3の肉厚L23を1mmとした。上記構造とした以外は、上記試料1と同様にして実験用のパンタグラフ用すり板集電材料を作製した。
尚、摺動面に位置する補助摺動部3の面積は136mm2であり、摺動面に位置する主摺動部2の面積は464mm2であるということから、補助摺動部の面積比率は、約23%となっている。
このようにして作製したパンタグラフ用すり板集電材料を、以下、試料C2と称する。
(試料3)
補助摺動部3において、内幅L22を7mm、内長さL26を57mmとし、且つ、主摺動部2において、幅L27を7mm、長さL29を57mmとした。このように規制することにより、補助摺動部3の肉厚L23を1.5mmとした。上記構造とした以外は、上記試料1と同様にして実験用のパンタグラフ用すり板集電材料を作製した。
尚、摺動面に位置する補助摺動部3の面積は201mm2であり、摺動面に位置する主摺動部2の面積は399mm2であるということから、補助摺動部の面積比率は、約34%となっている。
このようにして作製したパンタグラフ用すり板集電材料を、以下、試料C3と称する。
(試料4)
補助摺動部3において、内幅L22を6mm、内長さL26を56mmとし、且つ、主摺動部2において、幅L27を6mm、長さL29を56mmとした。このように規制することにより、補助摺動部3の肉厚L23を2mmとした。上記構造とした以外は、上記試料1と同様にして実験用のパンタグラフ用すり板集電材料を作製した。
尚、摺動面に位置する補助摺動部3の面積は264mm2であり、摺動面に位置する主摺動部2の面積は336mm2であるということから、補助摺動部の面積比率は、約44%となっている。
このようにして作製したパンタグラフ用すり板集電材料を、以下、試料C4と称する。
(試料5)
上記実験2の試料1と同様にして実験用のパンタグラフ用すり板集電材料を作製した。
このようにして作製したパンタグラフ用すり板集電材料を、以下、試料C5と称する。
(実験内容)
試料C1〜C5の曲げ強度を把握するため、引張圧縮試験機(株式会社今田製作所製SDW500S−SH)を用い、曲げ強度を測定したので、その結果を図13に示す。なお、実験は、支点間距離を40mmとし、試験片中央に毎秒約3kgfの均一速度で直行に荷重を加えて、試験片が破壊した最大荷重を測定し、この最大荷重を曲げ強度とした。また、試料数は各2個である。
(実験結果)
図13から明らかなように、補助摺動部を設けない試料C5では、曲げ強度が12MPaであって十分な曲げ強度が得られないのに対して、補助摺動部を設けた試料C1〜C4では、曲げ強度が100MPa以上であって十分な曲げ強度が得られることが認められる。したがって、主摺動部の周縁に補助摺動部を設けることにより、優れた摺動集電特性を維持しつつ、機械的強度が向上することがわかる。
また、補助摺動部の面積比率について検討すると、補助摺動部の面積比率が9.2%の場合には曲げ強度が101MPa、23%の場合には曲げ強度が191MPa、補助摺動部の面積比率が34%の場合には曲げ強度が219MPa、補助摺動部の面積比率が44%の場合には曲げ強度が281MPaとなっている。このことから、補助摺動部の面積比率が9.2%であれば曲げ強度は100MPa以上となる。したがって、補助摺動部の面積比率は約9%以上であれば曲げ強度を十分に向上させることができる。
但し、補助摺動部は主摺動部に比べて摺動集電特性に劣るため、補助摺動部の面積比率が余り大きくなると、すり板の摺動集電特性が低下する。したがって、補助摺動部の面積比率は50%未満であることが好ましい。
以上のことから、補助摺動部の面積比率は9%以上50%未満であることが好ましい。
〔実験4〕
(試料1〜5)
試料1〜5としては、上記実験3で示した試料C1〜C5を用いた。
(実験内容)
上記試料C1〜C5における耐衝撃性を調べるため、シャルピー衝撃試験機(前川試験機製作所株式会社製)を用い、長手方向の側面略中央部にハンマーを衝突させる(図12のC方向から衝突させる)ことにより、50Jの衝撃を加えてシャルピー衝撃値を測定したので、その結果を表1に示す。尚、試料数は各2個である。
Figure 2010022143
(実験結果)
表1から明らかなように、主摺動部の周縁に補助摺動部が設けられていない試料C5のシャルピー衝撃値は2.7kJ/m2であるのに対して、主摺動部の周縁に補助摺動部が設けられた試料C1〜C4のシャルピー衝撃値は、各々9.3kJ/m2、18.5kJ/m2、32.9kJ/m2、31.3kJ/m2、であり、主摺動部の周縁に補助摺動部が設けられた試料C1〜C4は主摺動部の周縁に補助摺動部が設けられていない試料C5より、シャルピー衝撃値が約3.4〜12.2倍大きくなっていることが認められる。このことから、主摺動部の周縁に補助摺動部を設けるのが好ましいことがわかる。尚、このような実験結果となった理由は、主摺動部の周縁に補助摺動部が設けられた試料C1〜C4では、シャルピー衝撃値の比較的低い主摺動部の内部で衝撃が吸収され、補助摺動部により試験片形状が保持されることにより、全体として高い衝撃値になったものと推測される。
本発明は鉄道車両のパンタグラフに用いることができる。
本発明に係るパンタグラフ用すり板集電材料の一例を示す斜視図である。 本発明に係るパンタグラフ用すり板集電材料の一例を示す平面図である。 本発明に係るパンタグラフ用すり板集電材料の一例を示す正面図である。 本発明に係るパンタグラフ用すり板集電材料の一例を示す側面図である。 図2のA−A線矢視断面図である。 図2のB−B線矢視断面図である。 実験に用いた試料の斜視図である。 摺動時間と摩耗量との関係を示すグラフである。 離線率と摩耗率との関係を示すグラフである。 実験に用いた試料における補助摺動部の斜視図である。 実験に用いた試料における主摺動部の斜視図である。 実験に用いた試料の斜視図である。 補助摺動部の面積比率と曲げ強度との関係を示すグラフである。
符号の説明
1 パンタグラフ用すり板集電材料
2 主摺動部
3 補助摺動部
5 さや

Claims (7)

  1. 送電用架線と接触する摺動面を備えた基材を有し、この基材が炭素繊維強化炭素複合材料からなるパンタグラフ用すり板集電材料であって、
    上記炭素繊維強化炭素複合材料における炭素繊維は、上記摺動面に対して全て垂直方向に延在していることを特徴とするパンタグラフ用すり板集電材料。
  2. 上記炭素繊維には銅が含浸されている、請求項1に記載のパンタグラフ用すり板集電材料。
  3. 送電用架線と接触する摺動面を備えた基材を有し、この基材が炭素繊維強化炭素複合材料からなるパンタグラフ用すり板集電材料であって、
    上記炭素繊維強化炭素複合材料は、中央部に配置された主摺動部とこの主摺動部の周縁に配置された補助摺動部とから成り、且つ、上記主摺動部における炭素繊維は、上記摺動面に対して全て垂直方向に延在する一方、上記補助摺動部における炭素繊維には、上記摺動面に対して非垂直方向に延在するものが含まれていることを特徴とするパンタグラフ用すり板集電材料。
  4. 上記補助摺動部における炭素繊維が、上記摺動面に対して全て平行方向に延在している連続繊維体、二方向に交互積層させてなるクロス繊維体、又は、三次元的に配向させてなるランダム繊維体から成る、請求項3記載のパンタグラフ用すり板集電材料。
  5. 上記摺動面の全面積に対する上記補助摺動部の面積の比率が9%以上50%未満である、請求項3又は4に記載のパンタグラフ用すり板集電材料。
  6. 上記主摺動部の炭素繊維には銅が含浸されている、請求項3〜5のいずれか1項に記載のパンタグラフ用すり板集電材料。
  7. 上記補助摺動部の炭素繊維には銅が含浸されている、請求項6に記載のパンタグラフ用すり板集電材料。
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