JP2010007145A - クランクシャフト - Google Patents
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Abstract
【解決手段】クランクピン周縁部6の高さ(H)を幅(W)で除した値が0.4以下 (H/W≦0.4)で、且つ、ピントップを基点0°とした角度位相-90°から角度位相+90°までの範囲におけるクランクピン周縁部の幅(W)の最大値(Wmax)と最小値(Wmin)との差が7mm以下 (Wmax-Wmin≦7)となるように、クランクピン周縁部6を形成した。これにより、フィレットIH処理後の冷却時に、フィレット境界に置き割れが発生するのを回避することができる。したがって、焼戻し処理を廃止して生産性を向上させることができる。また、従来必要であった過剰な肉盛りを廃止してクランクシャフトを軽量化することができる。
【選択図】図3
Description
以下に、本願において特許請求が可能と認識されている発明(以下、請求可能発明と称する)の態様を例示し、例示された各態様について説明する。ここでは、各態様を、特許請求の範囲と同様に、項に区分すると共に各項に番号を付し、必要に応じて他の項の記載を引用する形式で記載する。これは、請求可能発明の理解を容易にするためであり、請求可能発明を構成する構成要素の組み合わせを、以下の各項に記載されたものに限定する趣旨ではない。つまり、請求可能発明は、各項に付随する記載、実施形態の記載等を参酌して解釈されるべきであり、その解釈に従う限りにおいて、各項の態様にさらに他の構成要素を付加した態様も、また、各項の態様から構成要素を削除した態様も、請求可能発明の一態様となり得る。
なお、以下の各項において、(1)、(2)項の各々が、請求項1、2の各々に相当する。
従来、クランクシャフトは、フィレットIH処理後の冷却時に、フィレット部とクランクアームのスラスト面との境界(以下、フィレット境界という)に置き割れが発生することが問題となっていた。そこで、本願出願人は、鋭意研究の結果、フィレット境界における表面からの深さが100μmまでの領域の残留応力積分値が20000 MPa・μm以下である場合に、フィレット境界に置き割れが発生しないことを究明した。本項に記載のクランクシャフトによれば、フィレット境界における表面からの深さが100μmまでの領域の残留応力積分値を20000 MPa・μm 以下となる形状設計を行うことにより、フィレットIH処理後の冷却時に、フィレット境界に置き割れが発生するのを回避することができる。
本項に記載のクランクシャフトによれば、軸直角方向の高さ(H)を軸方向の幅(W)で除した値が0.4以下 (H/W≦0.4) となり、且つ、ピントップを基点0°とした軸回りに-90°から+90°までの範囲における幅の最大値(Wmax)と最小値(Wmin)との差が7mm以下 (Wmax-Wmin≦7) となるようにクランクアームのクランクピン周縁部を形成することにより、フィレットIH処理後の冷却時に、フィレット境界(フィレット部とクランクアームのスラスト面との境界)に置き割れが発生するのを回避することができる。これにより、過剰な肉盛りをすることなく置き割れを防止することができるため、焼戻し処理廃止が可能となり、クランクシャフトの生産性を大幅に向上させることができると同時に、クランクシャフトを軽量化してエンジンの燃費性能を向上させることができる。
ここで、フィレットIH後に、フィレット境界に置き割れが発生する2つの理由を説明する。
フィレットIHの冷却時、まず、クランクピン表面およびクランクピン周縁部のスラスト面から冷却される。これにより、クランクピン表面およびスラスト面は、熱収縮(1000℃→350℃)し、続いて、マルテンサイト変態(350℃→100℃)により体積膨張して硬化する。この時、クランクピン表面およびスラスト面には、体積膨張に伴う圧縮応力が発生する。これに対し、クランクアームのクランクピン周縁部内部は、高温を維持していることから未変態のオーステナイトの状態である。
(理由1)
さらに、冷却の進行により、クランクピン周縁部内部がマルテンサイト変態(350℃→100℃)により体積膨張して硬化する。これにより、クランクピン周縁部のスラスト面には、クランクピン周縁部の端方向の引張り応力が発生する。言い換えると、クランクピン周縁部の表面(スラスト面)に対して内部で冷却遅れが生じることに起因して、クランクピン周縁部のスラスト面に引張り応力が発生する。
(理由2)
ピントップ0°のフィレット部と90°位置のフィレット部との冷却速度に差があるため、マルテンサイト変態するタイミングにずれが生じ、中間位置にて引張り応力が生じる。
結果として、(理由1)、すなわち、クランクピン周縁部のスラスト面に発生する引張り応力、および、(理由2)、すなわち、ピン部周方向の変態タイミングの差によって生じる引張り応力により、フィレット境界(フィレット部とクランクアームのスラスト面との境界)に置き割れが発生する可能性が高い。
上記(1)で述べたように、クランクシャフトは、クランクピンのフィレット部とクランクアームのスラスト面との境界における表面からの深さが100μmまでの領域の残留応力積分値を20000 MPa・μm 以下に設定することで、フィレットIH後の冷却時における置き割れを回避することができる。そこで、本願出願人は、この条件を満たすためのクランクシャフトの形状をコンピュータシミュレーションおよび実物での評価により探索した。その結果、上記条件を満たすためのクランクアームのクランクピン周縁部の形状は、軸直角方向の高さ(H)を軸方向の幅(W)で除した値が0.4以下 (H/W≦0.4):(条件1)で、且つ、ピントップを基点0°とした軸回りに-90°から+90°までの範囲における幅の最大値(Wmax)と最小値(Wmin)との差が7mm以下 (Wmax-Wmin≦7):(条件2)であると判明した。
ここで、上記(条件1)を満たすことで、クランクピン周縁部のピントップの剛性が確保され、上記(理由1)に起因する置き割れを回避することができる。また、上記(条件2)を満たすことで、フィレットピントップとフィレットピンショルダとの間の冷却速度差が解消され、上記(理由2)に起因する置き割れを回避することができる。したがって、(条件1)および(条件2)を同時に満たすようにクランクピン周縁部を形成することで、フィレットIH後の冷却時に発生する置き割れを確実に回避することができる。
図1に示されるように、本実施形態のクランクシャフト1は、クランクジャーナル2、クランクピン3、クランクジャーナル2とクランクピン3との間に設けられるクランクアーム4およびクランクアーム4の反対側へ延びるカウンタウェイト5を有する。図2に示されるように、クランクピン3の両端部には、クランクアーム4のクランクピン周縁部6に連続するフィレット部7が設けられる。
図3に、本実施形態のクランクシャフト1におけるクランクピン周縁部6の高さ(H)と幅(W)との関係を示す。この図に示されるように、クランクピン周縁部6の高さ(H)と幅(W)との関係を示す曲線(以下、曲線Cという)は、H/W≦0.4の領域(図3においてグレースケールで示される領域)に属している。具体的には、本実施形態において、クランクピン周縁部6の高さ(H)を幅(W)で除した値の最大値が、角度位相-90°および角度位相+90°の部分で約0.36(≦0.4)であることから、クランクピン周縁部6は、高さ(H)を幅(W)で除した値が、0.4以下 (H/W≦0.4)、すなわち、(条件1)を満たす形状をなす。これにより、クランクピン周縁部6のピントップの剛性が確保され、前述した(理由1)に起因する置き割れを回避することができる。
本実施形態によれば、クランクアーム4のクランクピン周縁部6の高さ(H)を幅(W)で除した値が0.4以下 (H/W≦0.4)で、且つ、ピントップ(頂部)を基点0°としたクランクピン3の軸回りに-90°から+90°(以下、それぞれ角度位相-90°、角度位相+90°という)までの範囲におけるクランクピン周縁部6の幅(W)の最大値(Wmax)と最小値(Wmin)との差が7mm以下 (Wmax-Wmin≦7)となるように、クランクピン周縁部6を形成した。
これにより、図2においてBで示されるフィレット境界(フィレット部7とクランクピン周縁部6のスラスト面8との境界)における表面からの深さが100μmまでの領域の残留応力積分値を20000 MPa・μm 以下とすることができる。
その結果、フィレットIH処理後の冷却時に、フィレット境界Bに置き割れが発生するのを回避することができる。これにより、焼戻し処理を廃止することが可能になり、クランクシャフトの生産性を大幅に向上させることができる。
また、本実施形態によれば、従来必要であった肉盛り9(図5参照)を廃止することが可能になり、クランクシャフト1を軽量化してエンジンの燃費性能を向上させることができる。
Claims (2)
- クランクピンが高周波焼入れ処理されるクランクシャフトであって、
前記クランクピンのフィレット部とクランクアームのスラスト面との境界における表面からの深さが100μmまでの領域の残留応力積分値が、20000 MPa・μm 以下であることを特徴とするクランクシャフト。 - 前記クランクアームのクランクピン周縁部は、
軸直角方向の高さ(H)を軸方向の幅(W)で除した値が0.4以下 (H/W≦0.4) に設定され、
且つ、ピントップを基点0°とした軸回りに-90°から+90°までの範囲における前記幅の最大値(Wmax)と最小値(Wmin)との差が7mm以下 (Wmax-Wmin≦7) に設定されることを特徴とする請求項1に記載のクランクシャフト。
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