JP2009521926A - プロテアーゼ阻害 - Google Patents

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Abstract

プロテアーゼを阻害する操作された配列を含むタンパク質(2つ以上の操作されたKunitzドメインを有するタンパク質など)およびそのようなタンパク質の使用が開示される。本発明はまた、関節リウマチ、多発性硬化症、クローン病、癌および慢性閉塞性肺障害からなる群から選択される障害の原因となる過剰な活性を有する、1つ以上の操作されたプロテアーゼ阻害性配列を含み2つ以上のプロテアーゼを阻害する、単離されたタンパク質に関する。

Description

(発明の背景)
背景
多くの疾患の病態の局面は、プロテアーゼの過剰な活性を含む。そのようなプロテアーゼ活性を低下させる医薬品を使用して、疾患状態を回復させることができる。
要旨
Kunitzドメインは、強いプロテアーゼインヒビターである。Kunitzドメインの例としては、ヒト血漿カリクレイン、ヒトプラスミン、ヒトヘプシン(hepsin)、ヒトマトリプターゼ(matriptase)、ヒトエンドセリアーゼ(endotheliase)1(hET−1)、ヒトエンドセリアーゼ2(hET−2)およびヒト好中球エラスターゼ(ヒト白血球エラスターゼとしても知られる)を阻害する、天然に存在しないKunitzドメインが挙げられる。Kunitzドメインは、操作されることにより、ほとんどのセリンプロテアーゼに対して非常に高い親和性および特異性を有することができる。
時折、単一の疾患状態において、有害な活性を有する2つ以上のプロテアーゼが存在する。様々な患者において、所与の症状は、2つの異なるプロテアーゼの異常な活性から生じ得る(患者ごとに関与するプロテアーゼが異なる)。これらのような場合において、2つ以上のプロテアーゼを阻害する単一の活性な薬理学的物質を得ることが有用であり得る。しばしば、特異性の低いインヒビター(例えば、低分子インヒビター)が、意図した標的以外のプロテアーゼを阻害することによって重大な副作用を引き起こす。複数のドメイン(各々が、異なるプロテアーゼに対して高い親和性および特異性を有する)を含む分子を使用して、標的以外のプロテアーゼとインヒビターとの交差反応に起因する副作用を引き起こすことなく、様々な標的プロテアーゼを阻害することができる。これにより、複数または様々な調節不全のプロテアーゼを有する患者を処置するための単一の薬剤の開発が可能になる。
1つの局面において、本開示は、1つ以上の操作されたプロテアーゼ阻害性配列を含む単離されたタンパク質を特徴とし、ここで、そのタンパク質は、2つ以上のヒトプロテアーゼを阻害する。例えば、そのタンパク質は、2つ以上のヒトプロテアーゼを(各々が100nM、10nM、1nMまたは0.1nM未満のKiで)阻害する。
1つの実施形態において、本発明のタンパク質は、2つ以上のKunitzドメインを含み、その各々が、同じプロテアーゼを阻害し、本タンパク質は、分子量が大きいために単一のKunitzドメインよりも血清残存時間が長い。本タンパク質は、グリコシル化されていてもよいし、されていなくてもよい。
1つの実施形態において、本タンパク質は、操作されたプロテアーゼ阻害性配列として2つ以上のヒトプロテアーゼを阻害する単一の操作されたKunitzドメインを含む。
そのプロテアーゼ阻害性配列は、例えば、Kunitzドメイン、ペプチド(例えば、24アミノ酸長未満の環状ペプチドまたは鎖状ペプチド)および抗原結合フラグメントの可変ドメインであり得る。例えば、そのプロテアーゼ阻害性配列は、軽鎖可変ドメインとともに、ヒトプロテアーゼと結合して、阻害する重鎖可変ドメインのアミノ酸配列を含み得る。
1つの実施形態において、本タンパク質は、操作されたプロテアーゼ阻害性配列として少なくとも2、3、4、5、6、7または8個のKunitzドメインを含む。例えば、本タンパク質は、2、3、4、5または6個のKunitzドメインを含む。いくつかの場合において、Kunitzドメインの少なくとも1つは、天然に存在するヒトKunitzドメイン(例えば、TFPIまたは本明細書中で述べる他のヒトタンパク質)のフレームワークを含むが、プロテアーゼ結合ループ中の1残基以上において天然に存在するヒトKunitzドメインと異なる。
1つの実施形態において、本タンパク質は、少なくとも15キロダルトンの分子量および/またはマウスにおいて少なくとも30分というβ相半減期を有する。例えば、1つ以上のPEG部分を含むようにそのタンパク質を改変することによってか、または、そのタンパク質をヒト血清アルブミン(HSA)などのキャリアに共有結合することによって、タンパク質の分子量および/またはβ相半減期を増大させてもよい。そのような共有結合は、タンパク質の生成後にそのタンパク質とキャリアとの共有結合性の架橋によってか、または、キャリアを有する融合タンパク質としてのタンパク質の発現によって達成され得る。
1つの実施形態において、Kunitzドメインの少なくとも1つは、2つだけのジスルフィド結合を含む。例えば、本タンパク質は、ウシ膵臓トリプシンインヒビター(BPTI)におけるアミノ酸14位および38位に相当する位置にシステインを含まない。
代表的なタンパク質は:
・関節リウマチ、多発性硬化症、クローン病、癌および慢性閉塞性肺障害の原因となる過剰な活性を有する2つ以上のプロテアーゼ;
・好中球エラスターゼ、プロテイナーゼ3およびカテプシンGの2つ以上(例えば、すべて);
・ヒト好中球エラスターゼ、プロテイナーゼ3、カテプシンGおよびトリプターゼの2つ以上(例えば、すべて);
・ヒト血漿カリクレインおよびヒト好中球エラスターゼ;
・ヒトカリクレイン6(hK6)、ヒトカリクレイン8(hK8)およびヒトカリクレイン10(hK10)の2つ以上(例えば、すべて);
・hK6およびヒト好中球エラスターゼ;
・ヒト組織カリクレイン(h.K1)およびヒト血漿カリクレイン
・ヒトプラスミン、ヒトヘプシン、ヒトマトリプターゼ、ヒトエンドセリアーゼ1およびヒトエンドセリアーゼ2の2つ以上
を阻害し得る。
例えば、本タンパク質は、少なくとも2つのKunitzドメインを含み、第1のKunitzドメインは、好中球エラスターゼに特異的であり、第2のKunitzドメインは、プロテイナーゼ3に特異的である。第1のKunitzドメインは、第2のKunitzドメインのN末端またはC末端であり得る。
DX−88は、ヒト血漿カリクレイン(hpKal1)のKunitzドメインインヒビターであり、DX−890は、ヒト好中球エラスターゼ(hNE)のKunitzドメインインヒビターである。1つの実施形態において、本タンパク質は、(i)DX−88、DX−88と少なくとも85、90、92、95、96、97、98または99%同一のドメインまたはDX−88のプロテアーゼ結合ループ中のアミノ酸残基の少なくとも70、80、85、90、95または100%を含むKunitzドメインならびに(ii)DX−890、DX−890と少なくとも85、90、92、95、96、97、98または99%同一のドメインまたはDX−890のプロテアーゼ結合ループ中のアミノ酸残基の少なくとも70、80、85、90、95または100%を含むKunitzドメインを含む。
1つの実施形態において、本タンパク質は、少なくとも2つのKunitzドメインを含み、その少なくとも2つは、同一であるか、または少なくとも90または95%同一である。1つの例において、本タンパク質は、少なくとも2つのKunitzドメインを含み、その各々は、DX−88、DX−88と少なくとも85、90、92、95、96、97、98または99%同一のドメインまたはDX−88のプロテアーゼ結合ループ中のアミノ酸残基の少なくとも70、80、85、90、95または100%を含むKunitzドメインである。別の例において、本タンパク質は、少なくとも2つのKunitzドメインを含み、その各々は、DX−890と少なくとも85、90、92、95、96、97、98もしくは99%同一のドメインでまたはDX−890のプロテアーゼ結合ループにおけるアミノ酸残基の少なくとも70、80、85、90、95もしくは100%を含むKunitzドメインである。
1つの実施形態において、本タンパク質は、少なくとも2つのKunitzドメインを含み、そのKunitzドメインは、互いに異なる。
1つの実施形態において、少なくとも2つのKunitzドメインは、リンカー(例えば、可撓性親水性リンカー)によって接続されている。例えば、そのリンカーは、35、22、15、13、11または9アミノ酸長未満である。そのリンカーは、少なくとも2、3または4グリシン残基を含み得る。1つの実施形態において、少なくとも2つのKunitzドメインは、血清アルブミン部分によって分断されている。別の実施形態において、少なくとも2つのKunitzドメインは、血清アルブミン部分によって分断されていない。1つの実施形態において、少なくとも2つのKunitzドメインは、T細胞エピトープを含んでいないリンカーによって接続されている。例えば、少なくとも2つのKunitzドメインは、中型から大型の疎水性残基および荷電残基を有しないリンカーによって接続されている。そのリンカーは、グリコシル化部位を含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。例えば、そのリンカーは、3個未満もしくは2個未満のグリコシル化部位を有するか、または1個未満のグリコシル化部位を有する、すなわち、グリコシル化部位を有しない。そのリンカーは、N結合型グリコシル化部位を欠きうる。
1つの実施形態において、本タンパク質は、好中球ディフェンシンの存在下でヒトプロテアーゼを阻害する。本タンパク質は、内在性プロテアーゼ、例えば、メタロプロテアーゼ、例えば、MT6−MMP(ロイコリジン(Leukolysin))による分解に耐性であり得る。例えば、本タンパク質は、MMP−8またはMMP−12によって認識される切断部位を含まない。1つの実施形態において、本タンパク質は、第VII因子と第X因子の両方を阻害しない。本タンパク質は、ヒトビクニンと少なくとも2つのアミノ酸が異なり得る。
別の局面において、本開示は、被験体を処置する方法を特徴とする。この方法は、本明細書中に記載されるタンパク質、例えば、1つ以上の操作されたプロテアーゼ阻害性配列を含むタンパク質(このタンパク質は、2つ以上のヒトプロテアーゼを阻害する)を被験体に投与する工程を含む。例えば、被験体は、少なくとも2つの異なるプロテアーゼのプロテアーゼ活性を低下させる必要がある被験体である。被験体は、第1および第2のヒトプロテアーゼが原因となる障害を有し得、そして、投与されるタンパク質は、その第1および第2のヒトプロテアーゼを阻害する。例えば、そのタンパク質は、第1のヒトプロテアーゼを特異的に阻害するKunitzドメインおよび第2のヒトプロテアーゼを特異的に阻害するKunitzドメインを含む。
別の局面において、本開示は、(i)ヒトセリンプロテアーゼを阻害するKunitzドメインおよび(ii)ヒトプロテアーゼ、例えば、メタロプロテアーゼの結合性および阻害に寄与するポリペプチド配列を含む単離されたタンパク質を特徴とする。1つの例において、そのタンパク質は、1本のポリペプチド鎖からなる。別の例において、そのタンパク質は、少なくとも2本のポリペプチド鎖を含む。1つの実施形態において、一方のポリペプチド鎖は、抗原結合フラグメントの重鎖可変ドメインを含み、他方のポリペプチド鎖は、抗原結合フラグメントの軽鎖可変ドメインを含み、その抗原結合は、ヒトプロテアーゼ、例えば、メタロプロテアーゼに結合して阻害する。
1つの実施形態において、Kunitzドメインは、抗原結合フラグメントの重鎖可変ドメインと同じポリペプチド鎖の構成要素である。別の実施形態において、Kunitzドメインは、抗原結合フラグメントの軽鎖可変ドメインと同じポリペプチド鎖の構成要素である。例えば、Kunitzドメインは、抗体の定常ドメインもしくはその抗原結合フラグメントのC末端側または可変ドメインのN末端側であり得る。別の実施形態において、1つのKunitzドメインは、可変抗体ドメインのN末端側であり、第2のKunitzドメインは、同じ鎖の最後の定常ドメインのN末端側である。その2つのKunitzドメインは、同じ阻害活性を有していてもよいし、異なる阻害活性を有していてもよい。
別の局面において、本開示は、2つ以上のヒトプロテアーゼを阻害するタンパク質を提供する方法を特徴とする。その方法は:第1のヒトプロテアーゼを阻害する第1のKunitzドメインおよび第2のヒトプロテアーゼを阻害する第2のKunitzドメインのアミノ酸配列を提供する工程;複数のKunitzドメインを含むレシピエントタンパク質のアミノ酸配列を提供する工程;およびそのレシピエントタンパク質の改変アミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドを調製する工程を含み、ここで、そのレシピエントタンパク質は、(a)レシピエントタンパク質中のKunitzドメインの1つのアミノ酸が、第1のKunitzドメインの結合性または特異性に寄与するアミノ酸残基と置換され、そして(b)レシピエントタンパク質中のKunitzドメインの別のアミノ酸が、第2のKunitzドメインの結合性または特異性に寄与するアミノ酸残基で置換されるように改変されている。
別の局面において、本開示は、2つ以上のヒトプロテアーゼを阻害するタンパク質を提供する方法を特徴とする。その方法は:第1のヒトプロテアーゼを阻害する第1のKunitzドメインおよび第2のヒトプロテアーゼを阻害する第2のKunitzドメインのアミノ酸配列を提供する工程;ならびに第1および第2のKunitzドメインをコードする配列がインフレームである、ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを調製する工程を含む。それらのドメインは、リンカー配列をコードする配列によって分断され得る。ある特定の実施形態において、(a)リンカーは、中型または大型の疎水性残基も荷電残基も含まないか、または(b)MHC Iエピトープは、第1および第2のKunitzドメインならびにリンカー由来のアミノ酸によって形成されない。1つの実施形態において、第1および第2のヒトプロテアーゼは、単一のヒト疾患の原因となる。
これらの方法は、細胞、例えば、トランスジェニック動物における細胞(例えば、哺乳動物細胞)または培養宿主細胞において、調製されたポリヌクレオチドを発現する工程をさらに含み得る。その方法は、薬学的組成物として、調製されたポリヌクレオチドによってコードされるタンパク質を製剤化する工程をさらに含み得る。
別の局面において、本発明は、関節リウマチを処置する方法を特徴とする。この方法は:関節リウマチを有するかまたは有すると疑われる被験体に、1つ以上の操作されたプロテアーゼ阻害性配列を含むタンパク質の有効量を投与する工程を含む。いくつかの実施形態において、そのタンパク質は、ヒト血漿カリクレインとヒト組織カリクレインの両方を阻害する。
別の局面において、本開示は、肺の炎症を処置する方法を特徴とする。この方法は:肺の炎症を有するか、または有すると疑われる被験体に、1つ以上の操作されたプロテアーゼ阻害性配列を含むタンパク質の有効量を投与する工程を含む。いくつかの実施形態において、そのタンパク質は、ヒト好中球エラスターゼ、プロテイナーゼ3、カテプシンGおよびトリプターゼの2つ以上を阻害する。
別の局面において、本開示は、多発性硬化症を処置する方法を特徴とする。この方法は:多発性硬化症を有するかまたは有すると疑われる被験体に、1つ以上の操作されたプロテアーゼ阻害性配列を含むタンパク質の有効量を投与する工程を含む。いくつかの実施形態において、そのタンパク質は、ヒトカリクレイン6(hK6)、ヒトカリクレイン8(hK8)およびヒトカリクレイン10(hK10)の2つ以上を阻害する。
別の局面において、本開示は、脊髄(spinal chord)損傷を処置する方法を特徴とする。この方法は:脊髄損傷を有するかまたは有すると疑われる被験体に、1つ以上の操作されたプロテアーゼ阻害性配列を含むタンパク質の有効量を投与する工程を含む。いくつかの実施形態において、そのタンパク質は、hK6とヒト好中球エラスターゼの両方を阻害する。
別の局面において、本開示は、慢性閉塞性肺障害を処置する方法を特徴とする。この方法は:慢性閉塞性肺障害を有するかまたは有すると疑われる被験体に、1つ以上の操作されたプロテアーゼ阻害性配列を含むタンパク質の有効量を投与する工程を含む。いくつかの実施形態において、そのタンパク質は、ヒト好中球エラスターゼ、PR3およびカテプシンGの2つ以上を阻害する。
別の局面において、本開示は、炎症性腸疾患(例えば、クローン病または潰瘍性大腸炎)を処置する方法を特徴とする。この方法は:クローン病を有するかまたは有すると疑われる被験体に、1つ以上の操作されたプロテアーゼ阻害性配列を含むタンパク質の有効量を投与する工程を含む。いくつかの実施形態において、そのタンパク質は、ヒト組織カリクレイン(hK1)およびヒト血漿カリクレインを阻害する。
別の局面において、本開示は、ヒトプロテアーゼを阻害する操作されたKunitzドメインを含むタンパク質を特徴とし、ここで、そのKunitzドメインは、天然に存在するほとんどのKunitzドメインに見られる14−38ジスルフィドを有しない。いくつかの実施形態において、そのプロテアーゼは、血漿カリクレイン、ヒト好中球エラスターゼ、プラスミンまたは本明細書中に記載される他のプロテアーゼからなる群から選択される。1つの実施形態において、Kunitzドメインの結合ループは、DX−88、DX−890もしくはDX−1000の結合ループと同一であるか、または少なくとも80、85、90もしくは95%同一である。1つの実施形態において、Kunitzドメインは、DX−88、DX−890またはDX−1000と少なくとも85、90、95または100%同一であるが、BPTIのシステイン14およびシステイン38に相当する位置にシステインを含まない。
別の局面において、本開示は、ポリヌクレオチドのライブラリーを特徴とする。そのライブラリーは、複数のポリヌクレオチドを含み、その各々は、BPTIの14位および38位に相当する位置にシステインを有しないKunitzドメインをコードする配列を含む。Kunitzドメインの第1および/または第2の結合ループにおける1つ以上の残基が、複数のポリヌクレオチド間で異なるように、複数のポリヌクレオチドが異なる。1つの実施形態において、13、15、16、17、18、19、31、32、34、39および40位(BPTIの配列に関してナンバリング)をコードするコドンが異なる。
別の局面において、本発明は、80、85、90、95、98%以下が異なる少なくとも2つのKunitzドメインを含むポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを特徴とする。Kunitzドメインをコードするポリヌクレオチド配列は、少なくとも2つのKunitzドメイン間で同一の1つ以上の残基に相当する位置において異なるコドンを使用する。1つの実施形態において、Kunitzドメインのアミノ酸配列は、同一である。例えば、Kunitzドメインのアミノ酸配列は同一であるが、同一のKunitzドメインをコードするポリヌクレオチド配列は、少なくとも10または20コドン異なる。例えば、Kunitzドメインをコードする核酸配列は、90、80、70、60または50%未満が同一である。
複数のKunitzドメイン、例えば、少なくとも2、3、4、5または6個のKunitzドメインを含むタンパク質を操作することが可能である。各Kunitzドメインは、1つ以上のセリンプロテアーゼに対して高い親和性および特異性を有するように操作され、得られたタンパク質は、親和性および特異性が高い1個から数個のプロテアーゼを阻害し得る。さらに、操作されたタンパク質のサイズは、血清中での寿命を増大させる(例えば、そのタンパク質の分子量を増加させるようにKunitzドメインの外側にアミノ酸残基を含めることによって)サイズであり得る。任意の方法を使用して、複数のKunitzドメインを有するタンパク質を操作することができる。例としては、様々なドメインの融合および多様なKunitzドメインのライブラリーからの1つ以上のドメインの選択が挙げられる。
本発明の1つの局面において、14−38ジスルフィドを有しないKunitzドメインのライブラリーが構築され、高親和性インヒビターが選択される。例えば、そのライブラリーは、Kunitzドメインの第1および/または第2の結合ループ中の1つ以上の位置においてバリエーションを含む。例えば、BPTIの配列に関する13、14、15、16、17、18、19、31、32、34、38、39および40位が異なる。他の局面において、本発明は、遺伝的不安定性を回避するために、普遍なアミノ酸配列またはほぼ普遍なアミノ酸配列をコードする遺伝的多様性の構築、例えば、タンパク質の様々なセグメントをコードする核酸配列間の組換えを含む。
本明細書中で引用されるすべての特許、特許出願および他の参考文献は、それらの全体が参考として援用される。
詳細な説明
多くの障害が、複数のプロテアーゼと関連しており(Churg and Wright,2005,Curr Opin Pulm Med,11:153−9)、ゆえに、少なくとも2つのヒトプロテアーゼを阻害するタンパク質は、そのような障害を処置(例えば、改善および/または予防)するために有用な薬理学的物質であり得る。そのようなタンパク質は、1つ以上のKunitzドメインまたはプロテアーゼを阻害する他の配列を含み得る。
これらの障害のいくつかは、異なるセリンプロテアーゼの過剰なプロテアーゼ活性と関連する。このような場合において、セリンプロテアーゼの任意の対の触媒部位は、単一のKunitzドメインが、有用な親和性を有する両方のプロテアーゼと結合することができない程度に異なり得る。従って、2つ以上のKunitzドメインを含む組成物が、本明細書中に提供され、その組成物は、共有結合によって結合した少なくとも2つの異なる操作されたKunitzドメイン(または異なる特異性を有するKunitzドメイン)を含む。それらのKunitzドメインは、代表的にはペプチド結合によって結合している(が、そのKunitzドメインは、一方のKunitzドメインのカルボキシ末端が、他方のKunitzドメインのアミノ末端にペプチド結合を介して直接結合しているという意味では、ペプチド結合によって直接結合している必要はないことが理解されるべきである);1つ以上のアミノ酸のリンカーは、Kunitzドメインを分断し得る)。ペプチドリンカーは、任意の所望の長さであり得るが、いくつかの実施形態では、リンカーは、限られたサイズ、例えば、35、22、15、13、11または9アミノ酸長未満である。リンカーは、少なくとも2、3または4個のグリシン残基を含み得る。
1つの実施形態において、少なくとも2つのKunitzドメインは、血清アルブミン部分によって分断されていない。1つの実施形態において、少なくとも2つのKunitzドメインは、T細胞エピトープを含まないリンカーによって接続されている。例えば、少なくとも2つのKunitzドメインは、中型から大型の疎水性残基および荷電残基を有しないリンカーによって接続されている。リンカーは、グリコシル化部位を含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。例えば、リンカーは、3個未満もしくは2個未満のグリコシル化部位を有するか、または1個未満のグリコシル化部位を有する、すなわち、グリコシル化部位を有しない。リンカーは、N結合型グリコシル化部位を欠きうる。
いくつかの実施形態において、複数の異なる操作されたKunitzドメインを含んでいるタンパク質は、操作されたKunitzドメインの結合決定基を、複数のKunitzドメインを天然に含むレシピエントタンパク質に移すことによって(例えば、少なくとも2つの操作されたKunitzドメイン(または異なる特異性を有するKunitzドメイン)を含むタンパク質を生成するために、操作された配列を参照することにより天然に存在する配列を改変することによって)生成される。
2つ以上のセリンプロテアーゼが、類似する場合、一方は、標的セリンプロテアーゼのすべてを阻害する、例えば、10nM未満のKiで標的プロテアーゼの各々を阻害するKunitzドメインについて選択することができる。本明細書中で使用されるとき、トリプシン−BPTI複合体中のBPTIに隣接するトリプシン残基に相当する約20残基が、80%同一である場合、2つのセリンプロテアーゼは、「類似する」。理解されるように、2つ以上の標的セリンプロテアーゼを阻害する単一のKunitzドメインを得る見込みは、標的プロテアーゼ間の同一性が増大するにつれて高くなる。いくつかの実施形態において、2つ以上のプロテアーゼに対する特異性を有するKunitzドメインを含むタンパク質は、各標的プロテアーゼに対して100nM、10nM、1nMまたは0.1nM未満のKを有する。
さらに、いくつかの実施形態において、タンパク質は、抗体(または抗原結合フラグメントもしくはその誘導体(例えば、Fab、(Fab)、scFv、Fd、Fv))に結合したKunitzドメインまたはセリンプロテアーゼと結合して阻害する非Kunitzドメインペプチドを含む。
いくつかの障害は、セリンプロテアーゼだけでなく、他のタイプのプロテアーゼ(例えば、メタロプロテアーゼ(例えば、マトリクスメタロプロテアーゼすなわちMMP)またはシステインプロテアーゼ)とも関与する。従って、本発明はまた、メタロプロテアーゼもしくはシステインプロテアーゼを阻害する少なくとも1つのペプチドまたはタンパク質に結合した少なくとも1つのKunitzドメインを含むタンパク質も提供する。メタロプロテアーゼを阻害する代表的なタンパク質は、メタロプロテアーゼと結合して阻害する抗体および抗原結合フラグメントまたはそれらの誘導体(例えば、Fab、(Fab)、scFv、Fd、Fv)、特に、マトリクスメタロプロテアーゼ(MMP)ファミリーのメンバーと結合して阻害するものである。システインプロテアーゼを阻害する代表的なタンパク質は、システインプロテアーゼと結合して阻害する抗体および抗原結合フラグメントまたはそれらの誘導体(Fab、(Fab)、scFv、Fd、Fv)、特に、カテプシンファミリーのメンバー(例えば、カテプシンLおよび/またはカテプシンW)と結合して阻害するものである。
単一または複数のKunitzドメイン含有配列および抗体(または抗原結合フラグメントまたはそれらの誘導体)間の融合は、任意の構造、例えば、Kunitzドメイン含有配列と:a)抗原結合フラグメントもしくは完全長抗体の軽鎖のN末端、b)抗原結合フラグメントもしくは完全長抗体の軽鎖のC末端、c)抗原結合フラグメントもしくは完全長抗体の重鎖のN末端、またはd)抗原結合フラグメントもしくは完全長抗体の重鎖のC末端との融合であり得る。抗体は、Fab、(Fab)、scFv、Fd、Fvとして配列され得る。例えば、軽鎖可変ドメインおよび重鎖可変ドメインを含むタンパク質を使用することで十分であり得る。
阻害するペプチドはまた、本発明のタンパク質に組み込まれ得る。そのような阻害性ペプチドは、1つのKunitzドメインまたは複数のKunitzドメインおよび確実に血液中で長く残存する抗体もしくはアルブミン成分のいずれかを含むタンパク質に融合され得る。メタロプロテイナーゼを阻害するペプチドは、1つ以上の治療的なKunitzドメインを含むタンパク質のいずれかの末端に融合され得る。別の代表的な構造は、Kunitzドメイン間への阻害性ペプチドの挿入である(例えば、そのペプチドを使用して、ヒトTFPIの操作されたバージョンでKunitzドメイン間のリンカーを置き換え得るか、またはそのペプチドを、2つの別個のKunitzドメインを接続するリンカーとして使用し得る)。
プロテアーゼと結合する抗体および/またはペプチドは、標的プロテアーゼを用いた抗体ライブラリーまたはペプチドライブラリーのセレクションによって同定され得る(例えば、U.S.2005/0180977およびHuangら、J Biol Chem.2003,278:15532−40)。そのようなセレクションは、代表的には、同様に標的プロテアーゼを阻害するそれらのライブラリーメンバーを同定するスクリーニング工程と組み合わされる。そのような方法は、当業者によって理解されているような、本明細書中に開示されるセレクションおよびスクリーニング方法と類似する。
「操作された」タンパク質配列(例えば、操作されたKunitzドメイン)とは、本明細書中で言及されるとき、天然に存在しない配列を有するタンパク質のことである。いくつかの実施形態において、操作されたKunitzドメインは、天然に存在するKunitzドメインと少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9または10アミノ酸異なる。
配列の比較および2つの配列間の同一性パーセントの決定は、BLAST(Altschulら(1990)J.Mol.Biol.215:403−410)、特に、TatusovaおよびMaddenによって報告され(1999,FEMS Microbiol.Lett.174:247−250)、米国国立バイオテクノロジー情報センター(National Center for Biotechnology Information)によって提供されている(ncbi.nlm.nih.gov/blast/bl2seq/wblast2.cgiにおいてウェブを介して入手可能)ようなBLAST2配列を使用して行われ得る。2つのヌクレオチド配列を比較するためのパラメータ(例えば、BLASTN)は、マッチに対するリワード(Reward):1;ミスマッチに対するペナルティ:−2;オープンギャップペナルティ:5;ギャップ伸長ペナルティ:2;ギャップx_ドロップオフ:50;期待値(expect):10.0;ワードサイズ:11である。2つのアミノ酸配列を比較するためのパラメータ(例えば、BLASTP)は、行列:BLOSUM62;オープンギャップペナルティ:11;ギャップ伸長ペナルティ:1;ギャップx_ドロップオフ:50;期待値:10.0;およびワードサイズ3である。
本明細書中で使用されるとき、「低ストリンジェンシー」、「中ストリンジェンシー」、「高ストリンジェンシー」または「非常に高いストリンジェンシー」条件下でのハイブリダイゼーションという言及は、ハイブリダイゼーションおよび洗浄についての条件を説明するものである。ハイブリダイゼーション反応を行うための指針は、Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley & Sons,N.Y.(1989),6.3.1−6.3.6に見られ得る。水溶系および非水溶系の方法は、上記参考文献に記載されており、そのいずれかを使用し得る。本明細書中で言及される特定のハイブリダイゼーション条件は、以下のとおりである:(a)約45℃における6×塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム(SSC)の後、少なくとも50℃(洗浄温度は、低ストリンジェンシー条件では55℃に上げることができる)における0.2×SSC、0.1%SDS中での2回の洗浄という低ストリンジェンシーハイブリダイゼーション条件;(b)約45℃における6×SSCの後、60℃における0.2×SSC、0.1%SDS中での1回以上の洗浄という中ストリンジェンシーハイブリダイゼーション条件;(c)約45℃での6×SSCの後、65℃における0.2×SSC、0.1%SDS中での1回以上の洗浄という高ストリンジェンシーハイブリダイゼーション条件;そして(d)65℃における0.5Mリン酸ナトリウム、7%SDSの後、65℃における0.2×SSC、1%SDS中での1回以上の洗浄という非常に高いストリンジェンシーハイブリダイゼーション条件。
Kunitzドメイン
「Kunitzドメイン」は、少なくとも51アミノ酸を有し、かつ、少なくとも2つ、おそらく3つのジスルフィドを含むポリペプチドドメインである。このドメインは、第1と第6のシステイン、第3と第4のシステイン、および必要に応じて第2と第4が、ジスルフィド結合を形成する(例えば、58アミノ酸を有するKunitzドメインでは、システインは、以下に提供されるBPTI配列の番号に従ってアミノ酸5、14、30、38、51および55に相当する位置に存在し得、ジスルフィドは、5位と55位、14位と38位および30位と51位におけるシステイン間で形成し得る)か、または、2つのジスルフィドが存在する場合、それらは、5と55の間および30と51の間に形成し得るように折りたたまれている。それぞれのシステイン間の間隔は、本明細書中に提供されるBPTI配列の番号に従って(表7)、5と55、14と38および30と51に相当する位置間の間隔の7、5、4、3、2または1アミノ酸以内であり得る。BPTI配列は、任意の総称的なKunitzドメインにおける特定の位置をいうための基準として使用され得る。目的のKunitzドメインとBPTIとの比較は、アラインメントされたシステインの数が最大になる、最も適合するアラインメントを同定することによって行われ得る。
BPTI Kunitzドメインの3次元構造(高解像度において)は、公知である。BPTIのX線構造の1つは、「6PTI」としてBrookhaven Protein Data Bankに寄託されている。いくつかのBPTIホモログの3次元構造(Eigenbrotら(1990)Protein Engineering,3(7):591−598;Hynesら(1990)Biochemistry,29:10018−10022)も同様に公知である。少なくとも70個の天然のKunitzドメイン配列が公知である。公知のヒトホモログとしては、TFPIの3つのKunitzドメイン(Wunら(1988)J.Biol.Chem.263(13):6001−6004;Girardら(1989)Nature,338:518−20;Novotnyら(1989)J.Biol.Chem.,264(31):18832−18837;これらの参考文献のいくつかにおいて、TFPIは、LACI(リポタンパク質関連凝固インヒビター)またはEPI(外因性経路インヒビター)として同定されている)、インター−α−トリプシンインヒビターの2つのKunitzドメイン、APP−I(Kidoら(1988)J.Biol.Chem.,263(34):18104−18107)、コラーゲン由来のKunitzドメインおよびTFPI−2の3つのKunitzドメイン(Sprecherら(1994)PNAS USA,91:3353−3357)が挙げられる。TFPIは、3つのKunitzドメインを含む39kDa(表1におけるアミノ酸配列)の分子量を有するヒト血清糖タンパク質である。
Kunitzドメインは、主に2つのループ領域(「結合ループ」)におけるアミノ酸を用いて標的プロテアーゼと相互作用する。第1のループ領域は、BPTIのアミノ酸11−21に相当すると思われる残基間である。第2のループ領域は、BPTIのアミノ酸31−42に相当すると思われる残基間である。Kunitzドメインの代表的なライブラリーは、第1および/または第2のループ領域における1つ以上のアミノ酸位置が異なる。特に有用な異なる位置としては:BPTIの配列における13、15、16、17、18、19、31、32、34および39位が挙げられる。これらの位置の少なくともいくつかは、標的プロテアーゼと密接に隣接していると予想される。
Kunitzドメインの「フレームワーク領域」は、Kunitzドメインの一部であるが、特に第1および第2の結合ループ領域中の残基(例えば、BPTIの11−21およびBPTIの31−42のアミノ酸に相当すると思われる残基)を除外した残基と定義される。フレームワーク領域は、ヒトKunitzドメイン、例えば、TFPIドメイン1由来であり得る。代表的なフレームワークは、少なくとも1、2または3個のリシンを含み得る。1つの実施形態において、リシンは、LACIのフレームワークに見られる位置に相当する位置またはそのような位置から少なくとも3、2または1アミノ酸以内の位置に存在する。
逆に、これらの特定の位置に無いか、またはループ領域内でない残基は、これらのアミノ酸の位置よりも広い範囲のアミノ酸置換(例えば、保存的および/または非保存的置換)を許容し得る。
BPTIは、58アミノ酸を有し、システイン残基を5、14、30、38、51および55位に有する原型のKunitzドメインである。これらは、5:55、14:38および30:51にジスルフィドを形成する。
ほとんどすべてのKunitzドメインにおいて、フェニルアラニン残基は、33および45位に存在する。ほとんどすべてのKunitzドメインにおいて、グリシン残基は、12および37位に存在する。9位と10位の間(9aと呼ばれる)にエキストラ残基(extra residue)が存在する可能性がある。9aが存在する場合、12は、グリシンである必要はない。いくつかの天然のKunitzドメインにおいて、26位の後に3残基以下の挿入が観察される;これらの挿入された残基は、26a、26bおよび26cとナンバリングされ得る。いくつかの天然のKunitzドメインにおいて、42位の後に3残基以下の挿入が観察される(42a、42bおよび42cとナンバリング)。命名されたもの以外のシステイン残基が観察され(例えば、ブンガロトキシンにおいて見られるような)、Kunitzドメインと他のタンパク質とのジスルフィド結合がもたらされ得る。
ほとんどのKunitzドメインは、58アミノ酸を有し、5、14、30、38、51および55位においてCysを有する。これらのドメインは、本明細書中で「基準のKunitzドメイン」と呼ばれる。すべての基準のKunitzドメインは、本質的に同一の主鎖3D構造を有する。TFPIの第1のKunitzドメインは、基準のKunitzドメインである。本発明者らは、TFPI−K1 Kunitzドメインのファージディスプレイライブラリーを構築した(例えば、U.S.6,333,402を参照のこと)。さらに、特定の標的プロテアーゼへの結合について、TFPI−K1フレームワークを有するKunitzドメインを選択することが可能である。次いで、残基13、15−21、34、39−40を、レシピエントKunitzドメインが、特定の標的プロテアーゼに対する親和性を得るように他の任意の基準のKunitzドメインに移すことができる。
非基準のKunitzドメインの1つのクラスは、9a位にエキストラアミノ酸を有するものである。このクラスのKunitzドメインにおいて、残基12は、グリシンである必要はなく、その領域の3D構造は、基準のKunitzドメインの3D構造と異なる。TFPI−2では、第2のKunitzドメインは、この非基準の特徴を有する。TFPI−2 Kunitzドメイン2を再操作するために、好ましい実施形態は、TFPI−2Kunitzドメイン2のライブラリーを構築し、所望の結合特性を選択することである。あるいは、残基8−12および39−43を基準に変更し得る。すなわち、本発明者らは、S9aを削除し、D12をGに変更し得る。本発明者らは、結合に必要なアミノ酸を13および39に置き、40−45をGNANNFに変更する。なぜなら、これらが、これらの位置に最も共通したアミノ酸であるからである。
Kunitzドメインが、セリンプロテアーゼに結合するとき、Kunitzドメインの少数のアミノ酸だけが、セリンプロテアーゼと接触する。正確な数は、セリンプロテアーゼおよびKunitzドメインに依存するが、通常、12〜20である。BPTIおよびトリプシンの場合において、BPTIの13残基(T11、G12、P13、C14、K15、A16、R17、I18、I19、G36、G37、C38およびR39)は、トリプシン中の原子の4Å以内に位置する少なくとも1つの原子を有する。残基12、14、16、37および38は、基準のKunitzドメインにおいて高度に保存されている。BPTIでは、残基34は、トリプシンの原子の5Å以内に存在するバリンである。この位置における荷電側鎖(またはその欠如)および/またはかさ高い側鎖は、結合に影響し得るので、34における大型の残基または荷電残基の置換は、結合性に影響し得る。
BPTIにおける原子の4Å以内に存在するトリプシンの約20残基が存在する(キモトリプシノゲンのナンバリングを使用して):Y39、H40、F41、C42、H57、N97、L99、Y151、D189、S190、C191、Q192、G193、D194、S195、S214、W215、G216、G219およびG226。これらの位置のうち、C42、H57、G193、D194、S195、S214は、トリプシンに相同なセリンプロテアーゼの間で完全に保存されている。39、41、97、99、151および192位は、非常に可変性である。40位は、ヒスチジンであることが多いが、かなり可変性を示す。189位は、Dであることが最も多いが、S、G、AおよびTも既知のセリンプロテアーゼにおいて存在する。190位は、Sであることが最も多いが、G、V、T、A、IおよびPも観察されている。191位は、Cであることが最も多いが、FおよびYも観察されている。215位は、Wであることが最も多いが、F、Y、G、N、SおよびKも観察されている。216位は、Gであることが最も多いが、V、SおよびKも観察されている。219位は、Gであることが最も多いが、S、T、E、P、D、NおよびTも観察されており、残基の欠失もある。226位は、Gであることが最も多いが、T、D、S、EおよびAも観察されている。これらの残基は、基質に接触するので、特定のセリンプロテアーゼの基質特異性に最も直接関与する残基である。他のプロテアーゼについては、Kunitzドメインに接触し得るアミノ酸の数は、20より大きいか、または20未満であり得る。
BPTIおよび他のKunitzドメインは、プロテアーゼ触媒部位において結合するが、切断および放出に抵抗することによってセリンプロテアーゼを阻害する。Kunitzドメインがセリンプロテアーゼを阻害するためには、Kunitzドメインは、触媒部位に密接に適合しなければならない。いくつかの場合において、Kunitzドメインの残基15と残基16の間の結合は切断されるが、その切断されたKunitzドメインは、プロテアーゼから放れない。
BPTIは、特に特異的ではなく、種々のセリンプロテアーゼを阻害し、親和性は、10nMより良好である。例えば、様々なプロテアーゼに対するその親和性は:(ヒト尿カリクレイン(4nM)、ブタの膵臓カリクレイン(0.55nM)、ヒトプラスミン(0.89nM)、活性化タンパク質C(1μM)(Tabyら、1990,Thromb Res,59:27−35)トロンビン(30μM)(Pintigny and Dachary−Prigent,1992,Eur J Biochem,207:89−95)およびウシトリプシン(0.06pM))である。
他のKunitzドメインは、非常に特異的であり得る。例えば、DX−88は、ヒト血漿カリクレインをK約30pMで阻害するが、(ヒト尿カリクレイン(>100μM)、ブタ膵臓カリクレイン(27μM)、ヒトC1r活性化(>20μM)、C1s活性化(>20μM)、ヒトプラスミン(137nM)、ヒト好中球エラスターゼ(>20μM)、ヒト血漿第XIIa因子(>20μM)、ヒト血漿第XIa因子(10nM)、ヒトトロンビン(>20μM)、ヒトトリプシン(>20μM)およびヒトキモトリプシン(>20μM))に対する親和性は、少なくとも250,000倍低い。DX−88のアミノ酸配列を表5に示し、DX−88をコードするDNAを表6に示す。表8は、制限酵素認識部位を含むDX−88遺伝子を示している。
操作されたKunitzドメインは、米国特許第6,333,402号、同第5,663,143号、同第6,953,674号(各々が、参考として援用される)にさらに開示されている。
Kunitzドメインは、より大きなタンパク質内に位置し得、例えば、KunitzドメインのN末端および/またはC末端に配列が存在し得る。
TFPI:組織因子経路インヒビター(TFPI;LACIとも呼ばれる)の配列(GeneBank NM_006287)を表3に示す。第X因子へのTFPIの結合動態は、1993年に公開された(Huangら、1993,J Biol Chem,268:26950−5)。TFPIタンパク質の配列は、Danio rerio(ゼブラフィッシュ)、Canis familiaris(イヌ)、Macaca mulatta(アカゲザル)、Oryctolagus cuniculus(ウサギ)、Pan troglodytes(チンパンジー)、Mus musculus(マウス)、Gallus gallus(ニワトリ)およびHomo sapiens(ヒト)において公知である。TFPIは、3つのKunitzドメインを含む。第1のKunitzドメインは、第VII因子/組織因子複合体における第VII因子に結合して阻害し、Kunitzドメイン2は、第X因子に結合して阻害し、そして、Kunitzドメイン−3は、細胞への結合に関与する(Piro and Broze,2004,Circulation,110:3567−72)。Kunitzドメイン−3による細胞への結合は、P1アルギニンをロイシンに変更することによって低下し得る(Piro and Broze,2004,Circulation,110:3567−72)。
ヒトTFPIを改変することにより、少なくとも2つの異なるヒトプロテアーゼ(例えば、第VII因子および第X因子以外のプロテアーゼ)を阻害し、複数のKunitzドメインを有する操作されたタンパク質が提供され得る。本発明の改変タンパク質の多くは、ヒトTFPIと非常に類似している。TFPIまたはそのKunitzドメインを含むタンパク質は、細胞表面へのポリペプチドの結合が抗原性を増大し得るとき、細胞に結合しないように変更され得る(Leonettiら、1998,J Immunol,160:3820−7)。例えば、Kunitzドメイン3を保持しながらC末端のペプチドGGLIKTKRKRKKQRVKIAYEEIFVKNMを削除するヒトTFPIの改変により、細胞への結合性および他のその結果生じる細胞シグナル伝達事象が低下する。好ましい実施形態において、治療的タンパク質は、任意の遺伝子の発現に対する効果を有さず、細胞に結合しない。
Mineら(Biochemistry(2002)41:78−85.)は、TFPIの第3のKuDomにおける3つのリシン残基(表1におけるK241、K260およびK268に相当する)が、ヘパリンと結合し得、細胞への結合を促進し得る正に帯電したクラスターを形成することを報告した。本発明の1つの実施形態において、K241、K260およびK268の1つ以上は、正に帯電していないアミノ酸に変更される。29位において、Kが、最も共通したAAタイプであり、Qが、2番目に共通しているので、K241Qが、TFPIのKuDom3において正電荷を除去するための好ましい変異である。48位において、Eが、最も共通したAAタイプである。ゆえに、K260Eが、TFPIのKuDom3において正電荷を除去するための好ましい変異である。56位において、Gは、最も共通したAAタイプである。ゆえに、K268Gが、TFPIのKuDom3において正電荷を除去するための好ましい変異である。3つのリシンの少なくとも1つの除去によって、グリコサミノグリカンに結合するTFPI変異体の可能性が低下する。
TFPIは、メタロプロテイナーゼ、例えば、MMP−8によって特定の部位(S174の後およびK20の後)で切断される。P18、L19およびL21は、表42において基質3と一致する。1つの実施形態において、使用されるタンパク質は、TFPIに基づくが、MMP切断を妨害するリンカー配列に改変を含む。例えば、MMPによる切断部位は、そのような切断を回避するために変更される。ある特定の場合において、S174およびK20は、例えば、アラニンに変更される。別の実施形態において、その部位は、そのまま放置される。最も多い場合では、操作されたKunitzドメインは、それらの標的に対して非常に高い親和性を有するので、MMP消化に対する感度を低下または排除するようにTFPIベースのタンパク質を操作することが、必要でない場合もある。
TFPI自体は、第X因子および第VII因子に対して特に高い親和性を有しない。Petersenら(Petersenら、1996,Eur J Biochem,235:310−6)は、Kunitzドメイン1が、第VII因子/TFとK=250nMで結合し、Kunitzドメイン2が、第Xa因子とK=90nMで結合することを報告している。TFPIに基づいて操作されたKunitzドメインタンパク質は、それらの標的に対して非常に高い親和性を有する(例えば、TFPI Kunitzドメインは、第X因子および第VII因子に対する親和性を10nM以下または1nM以下のKに増加するように操作され得る)。基本的なC末端セグメント(リンカー4)はまた、第Xa因子との結合に関連する(Cunninghamら、2002,Biochem J,367:451−8)。例えば、本明細書中に記載されるタンパク質は、第VII因子および第X因子の一方または両方に対して10nMまたは100nMより大きいKを有する。
TFPI−2:TFPI−2のアミノ酸配列を表11に示す。第2のKunitzドメインは、残基9aならびに残基42aおよび42bを有し、基準ではないことに注意されたい。リンカーは、TFPIにおけるものよりも短い。C末端リンカーは、かなり基本的であるが、リンカー1、2および3は、TFPIにおいて対応するリンカーよりもかなり短い。TFPI−2は、TFPIのKunitzドメインが実施例2、3および5においてリモデリングされるのと同じ方法で、Kunitzドメイン1およびKunitzドメイン3をリモデリングすることによって多機能プロテアーゼインヒビターとなるように操作され得る。Kunitzドメイン2は、基準とならざるをえないか、または、Kunitzドメイン2誘導体のライブラリーを作製し、所望の結合特性を有するメンバーを選択し、そして、必要であればKunitzドメイン2をリモデリングし得る。TFPI−2は、TFPIと同様に、細胞表面に結合する。TFPI−2の好ましい誘導体は、細胞に結合しなくなるように改変され、そして、遺伝子発現に影響するものである。
表12は、M13由来のファージ上のM13 IIIの断端上でのTFPI−2 Kunitzドメイン2の提示を引き起こし得るDNA配列を示す。親ファージベクターの配列を表13に示す。表12のディスプレイカセットに結合した制限酵素認識部位を表13において太字で示す。TFPI−2 Kunitzドメイン2ライブラリーを作製するために、PstIとBspEIの間のDNAを表12に示される多様性で合成する。表14は、この合成に使用され得るオリゴヌクレオチド(ON)を示す。ON1U96およびON71L97は、強調された3’末端において相補的である。ON1U21T2およびON147L21は、この長いオリゴヌクレオチドの5’末端と同一であり、これを使用して、この長いオリゴヌクレオチドのPCR増幅を開始することができる。最終生成物の末端の近くにPstIおよびBspEI部位が存在する。二本鎖DNAは、PstIおよびBspEIで切断され、同様に切断されたベクターにライゲーションされる。このライブラリーの理論的多様性は、6.7×1014アミノ酸配列である。実際のライブラリーは、少なくとも10、1010または1011個の形質転換体を含み得る。表12に示される混合物を合成するためにコドンベースの突然変異誘発を使用し得る。
肝細胞成長因子アクチベーターインヒビター−1および−2:複数のKunitzドメインを含む哺乳動物のタンパク質のさらなる例は:肝細胞成長因子アクチベーターインヒビター−1(HAI−1)および肝細胞成長因子アクチベーターインヒビター−2(HAI−2)である。各々は、2つのKunitzドメインを含む。
HAI−1およびHAI−2は、細胞結合型タンパク質である。例えば、Kunitzドメインおよび介在配列のみを含むタンパク質の形態を生成することによって、細胞と関連しない誘導体が調製され得る。細胞の結合に関与するHAI−1およびHAI−2の領域は、例えば、欠失によって不活性化され得る。
ビクニン:表39は、US6,583,108(‘108号特許)において報告されている「ヒト(humin)ビクニン」に対する4つのアミノ酸配列を示す。‘108号の配列番号は、第2のKunitzドメインに続くシグナル配列およびアミノ酸配列において相違を有する「配列番号2」、「配列番号45」および「配列番号47」として示される。表38は、種々のセリンプロテアーゼに対するビクニンの2つのKunitzドメインについての‘108号特許からの親和性データを示す。
プロテアーゼ標的
プロテアーゼは、炎症および組織損傷をはじめとした、多岐にわたる生物学的プロセスに関与する。好中球などの炎症細胞によって産生されるセリンプロテアーゼは、肺気腫などの様々な障害に関係している。同様に、様々な複数のプロテアーゼは、単一の障害の原因となり得る。
特定のプロテアーゼの例としては、以下が挙げられる。好中球エラスターゼは、細胞外マトリックス成分および病原体に対して活性を有する多形核白血球によって産生されるセリンプロテアーゼである。肺気腫は、肺の機能に重大な障害をもたらす肺胞の破壊を特徴とする。ヒト好中球エラスターゼは、約238アミノ酸残基からなり、2つのアスパラギンに結合した炭水化物側鎖を含み、4つのジスルフィド結合によって連結されている(GeneBank Entry P08246)。ヒト好中球エラスターゼは、通常、プロ酵素として発生中の好中球において合成されるが、原始的な顆粒中に活性型で(通常、炎症部位における顆粒から放出されたときに完全な酵素活性を有する状態で)保存される(Gullberg Uら、Eur J Haematol.1997;58:137−153;Borregaard N,Cowland JB.Blood.1997;89:3503−3521)。
他の代表的なプロテアーゼ標的としては:プラスミン、組織カリクレイン、血漿カリクレイン、第VII因子、第XI因子、トロンビン、ウロキナーゼ、トリプシン1、トリプシン2、膵臓キモトリプシン、膵臓エラスターゼ、トリプターゼおよび第II因子が挙げられる。関連するプロテアーゼのクラスとしては:血液凝固に関連するプロテアーゼ、繊維素溶解に関連するプロテアーゼ、補体に関連するプロテアーゼ、細胞外マトリックス成分を消化するプロテアーゼ、基底膜を消化するプロテアーゼおよび内皮細胞に関連するプロテアーゼが挙げられる。例えば、プロテアーゼは、セリンプロテアーゼである。1つ以上のプロテアーゼを阻害する本明細書中に記載されるタンパク質は、これらのクラスの中の1つ以上のプロテアーゼを阻害するように操作され得る。
Kunitzドメインおよび他のプロテアーゼインヒビターの同定
種々の方法を使用して、プロテアーゼ、例えば、ヒトプロテアーゼに結合し、そして/またはそれを阻害するKunitzドメインを同定することができる。これらの方法を使用して、複数のプロテアーゼ(例えば、複数のヒトプロテアーゼ)を阻害するタンパク質の構成要素として使用され得る天然のKunitzドメインおよび天然に存在しないKunitzドメインを同定することができる。例えば、既知のプロテアーゼインヒビターまたはプロテアーゼ耐性タンパク質を変更することによってか、ランダム化されたペプチドもしくはタンパク質のライブラリーを使用することによってか、または、例えば、US2004−0071705(¶102〜112を含む)に記載されているような抗体のライブラリーを使用することによって、他のプロテアーゼインヒビターも同様に同定することができる。当業者に理解されるように、本明細書中のプロテアーゼのインヒビターを同定する方法の説明は、大部分は、Kunitzドメインに対するものであり、その方法は、ペプチドベースまたは抗体ベースのプロテアーゼインヒビターの同定用に適合され得る。
例えば、Kunitzドメインは、複数のライブラリーメンバーの各々が、変更されたKunitzドメインを含むタンパク質のライブラリーから同定され得る。様々なアミノ酸が、そのドメインにおいて変更され得る。例えば、U.S.5,223,409;U.S.5,663,143およびU.S.6,333,402を参照のこと。例えば、DNA突然変異誘発、DNAシャフリング、オリゴヌクレオチドの化学合成(例えば、サブユニットとしてコドンを使用して)および天然遺伝子のクローニングを使用して、Kunitzドメインが変更され得る。例えば、U.S.5,223,409およびU.S.2003−0129659を参照のこと。
Kunitzドメインのライブラリーは、本明細書中に記載されるKunitzドメイン(例えば、本明細書中に記載されるフレームワーク、例えば、改変されたフレームワーク領域または天然に存在するフレームワーク領域を有するKunitzドメイン)の1つ以上の結合ループアミノ酸残基を変更することによって作製され得る。1つの実施形態において、変更された残基は、複数のアミノ酸間で異なっている。
ライブラリーは、タンパク質を生成するために使用される発現ライブラリーであり得る。そのタンパク質を、例えば、タンパク質アレイを使用して整列させることができる。U.S.5,143,854;De Wildtら(2000)Nat.Biotechnol.18:989−994;Luekingら(1999)Anal.Biochem.270:103−111;Ge(2000)Nucleic Acids Res.28,e3,I−VII;MacBeath and Schreiber(2000)Science 289:1760−1763;WO01/98534、WO01/83827、WO02/12893、WO00/63701、WO01/40803およびWO99/51773。
Kunitzドメインはまた、例えば、ファージディスプレイなどのファージライブラリー、酵母ディスプレイライブラリー、リボソームディスプレイまたは核酸−タンパク質融合ライブラリーの形態で複製可能な遺伝的パッケージ上に提示され得る。例えば、U.S.5,223,409;Garrardら(1991)Bio/Technology9:1373−1377;WO03/029456;およびU.S.6,207,446を参照のこと。そのようなライブラリーの結合メンバーを、セレクションによって得ることができ、そして、ハイスループット様式でスクリーニングすることができる。例えば、U.S.2003−0129659を参照のこと。
ディスプレイライブラリーからのセレクション
この項では、プロテアーゼを阻害するKunitzドメインを同定するためのディスプレイライブラリーのメンバーを選択する代表的な方法を説明する。本明細書中に開示される方法はまた、改変され得、そして、他のタイプのライブラリー、例えば、発現ライブラリーまたはタンパク質アレイなどと組み合わせて使用され得る。Kunitzドメインは、ファージ上、特に、繊維状ファージ(例えば、M13)上に提示され得る。好ましい実施形態において、ライブラリーは、セリンプロテアーゼと接触する可能性があり、結合性に影響し得るKunitzドメインの位置において種々のアミノ酸タイプを有するメンバーを含む。固定化されているか、または固定化可能なセリンプロテアーゼ(例えば、結合対の一方のメンバー(例えば、アビジンまたはストレプトアビジン)での改変によって)を標的として使用して、目的のセリンプロテアーゼに対して高親和性を有するライブラリーのメンバーを選択することができる。
代表的なディスプレイライブラリーのセレクションにおいて、ファージライブラリーを、プロテアーゼ(例えば、変異体または化学的に不活性化されたタンパク質)またはそのフラグメントの活性型または不活性型であり得る標的プロテアーゼと接触させ、そしてそれと結合させ得る。セレクションプロセスにおいて、結合したものと結合していないものとの分離を容易にするために、プロテアーゼを固体支持体上に固定化するのが都合よいことが多いが、まず溶液中で標的プロテアーゼと結合させ、次いで、支持体に標的プロテアーゼを結合することによって、結合したものを結合していないものから分離することも可能である。例として、プロテアーゼの存在下でインキュベートするとき、標的プロテアーゼと相互作用するKunitzドメインを提示するファージは、固体支持体上に固定化された標的プロテアーゼと複合体を形成するのに対し、結合していないファージは、溶液中に残り、緩衝液で洗浄される。次いで、結合したファージは、多くの手段(例えば、緩衝液を比較的高い酸性または塩基性のpH(例えば、pH2またはpH10)に変化すること、緩衝液のイオン強度を変化すること、変性剤を加えること、競合相手を加えること、感染することができる宿主細胞を加えること(Hoganら(2005)Biotechniques 38(4):536,538.)または他の公知の手段)によってプロテアーゼから遊離され得る。
例えば、プロテアーゼ結合ペプチドを同定するために、プロテアーゼを固体表面(例えば、マルチウェルアッセイプレート中のウェルのプラスチック表面)に吸着させ得る。続いて、ファージディスプレイライブラリーのアリコートを、固定化されたプロテアーゼおよびファージの構造を維持する適切な条件下(例えば、pH6〜7)でウェルに加える。固定化されたプロテアーゼに結合するポリペプチドを提示するファージがそのプロテアーゼに結合し、ウェル内に保持される。結合していないファージは、除去され得る(例えば、緩衝液による洗浄によって)。ファージライブラリーと固定化されたプロテアーゼとの結合の間に、ブロッキング剤または競合剤を含めることも可能である。
次いで、比較的強い酸pH(例えば、pH2)またはアルカリpH(例えば、pH8〜9)を有する緩衝液で洗浄することによって、固定化されたプロテアーゼに結合したファージを溶出し得る。次いで、プロテアーゼから溶出され、回収されたファージの溶液を中和し、そして、所望であれば、プロテアーゼ結合ペプチドを提示するファージの濃縮混合ライブラリー集団としてプールしてもよい。あるいは、各ライブラリー由来の溶出されたファージを、プロテアーゼ結合物のライブラリー特異的な濃縮集団として別個に維持してもよい。次いで、さらなるセレクションの回のため、および/または、ファージ上に提示されたペプチドの解析のため、および/または、提示された結合ペプチドをコードするDNAを配列決定するために、プロテアーゼ結合ペプチドを提示するファージの濃縮集団を標準的な方法によって生育させてもよい。
次いで、回収されたファージを、細菌細胞の感染によって増幅させてもよく、スクリーニングプロセスを、プロテアーゼに結合しなかったものが少なく、そしてプロテアーゼに結合したものが濃縮されている新しいファージのプールにおいて繰り返してもよい。数回、結合ファージを回収することが、このプロセスを完了するのに十分であり得る。数回(例えば、2または3回)のセレクションの後、結合プール中の選別されたファージクローン由来の結合部分をコードする遺伝子配列が、従来の方法によって決定されることにより、ファージと標的との結合親和性をもたらすペプチド配列が明らかになる。各回のセレクションの後に回収されたファージの数の増加および密接に関連した配列の回収から、スクリーニングが、所望の特徴を有するライブラリーの配列に収束していることが示唆される。
結合ポリペプチドのセットが同定された後、その配列情報を使用して、第2のライブラリーが設計され得る。例えば、第2のライブラリーは、最初のライブラリーよりも詳細に、より小さい配列空間のセグメントを探索することができる。いくつかの実施形態において、第2のライブラリーは、さらなる所望の特性、例えば、ヒトタンパク質に対して高い同一パーセンテージを有する配列を有するメンバーに偏ったタンパク質を含む。
セレクションの反復。ディスプレイライブラリー技術は、反復様式で使用され得る。第1のディスプレイライブラリーは、標的プロテアーゼに結合する1つ以上のKunitzドメインを同定するために使用される。次いで、これらの同定されたKunitzドメインを、突然変異誘発法を用いて改変することにより、第2のディスプレイライブラリーを形成する。次いで、より親和性の高いタンパク質を、例えば、より高ストリンジェンシーまたはより競合的な結合条件および洗浄条件を使用することによって第2のライブラリーから選択する。
いくつかの実施において、突然変異誘発を結合界面であることが知られている領域またはその可能性がある領域に標的化する。Kunitzドメインについて、結合界面付近の多くの位置が知られている。そのような位置としては、例えば、BPTIの配列における13、14、15、16、17、18、19、31、32、34、38および39位が挙げられる。いくつかの代表的な突然変異誘発技術としては:混合ヌクレオチドを用いたDNAの合成、エラープローンPCR(Leungら(1989)Technique 1:11−15)、組換え、ランダム切断を用いたDNAシャフリング(Stemmer(1994)Nature 389−391;「核酸シャフリング」と呼ばれる)、RACHITTTM(Cocoら(2001)Nature Biotech.19:354)、部位定方向突然変異誘発(Zollerら(1987)Nucl Acids Res 10:6487−6504)、カセット突然変異誘発(Reidhaar−Olson(1991)Methods Enzymol.208:564−586)および縮重オリゴヌクレオチドの組み込み(Griffithsら(1994)EMBO J 13:3245)が挙げられる。合成において使用されるヌクレオチドの混合物は、例えば、様々なコドンの最初の2位を任意の塩基とし、最後の塩基をGまたはTとし、そして、すべての20アミノ酸タイプを出現させることが可能なNNKであり得る。あるいは、いくつかのアミノ酸タイプおよびおそらく終止コドンを除外した様々なコドンが使用され得る。NNKにより、32個のコドンが得られ、そのうちの1つが、ストップコドンであるTAGである。NNKはまた、Ser、LeuおよびArgの各々に対して3つのコドン;Val、Ala、Pro、ThrおよびGlyの各々に対して2つのコドンをもたらす;他の12個のアミノ酸タイプは、単一のコドンを有する。様々なコドンNNTは、15個のアミノ酸タイプをもたらし、ストップコドンをもたらさない。NNGは、13個のアミノ酸タイプおよび1つのストップコドンをもたらす。
突然変異誘発は、より限定された様式または標的化された様式でも行われ得る。例えば、目的の位置における親アミノ酸がSerである場合、第1の塩基における(.85T、.05C、.05A、.05G)、第2の塩基において(.85C、.05T、.05A、0.5G)および第3の塩基において(.85T、.05C、.05A、.05G)を有するコドン混合物を使用し得る。このDNA分子のほとんどは、SerをコードするTCTを有するが、他のものは、1、2または3塩基異なるコドンを有し、それにより、多様なアミノ酸タイプがもたらされる。
セレクションの反復の1つの例において、本明細書中に記載される方法は、まず、少なくとも最小の結合特異性で、例えば、100nM、10nMまたは1nM未満という、結合に対する平衡解離定数で、標的プロテアーゼと結合するディスプレイライブラリーからKunitzドメインを同定するために使用される。最初に同定された、Kunitzドメインをコードする核酸配列は、例えば、最初のタンパク質のKunitzドメインよりも増強された特性(例えば、結合親和性、動態または安定性)を有する第2のKunitzドメインを同定するためのバリエーションの導入用の鋳型核酸として使用される。
特異性についてのセレクションまたはスクリーニング。本明細書中に記載されるディスプレイライブラリーセレクションおよびスクリーニング法としては、非標的分子、例えば、標的プロテアーゼ以外のプロテアーゼに結合するディスプレイライブラリーメンバーを排除していくセレクションプロセスまたはスクリーニングプロセスが挙げられ得る。1つの実施形態において、その非標的分子は、不可逆的に結合したインヒビター、例えば、共結合したインヒビターによる処理によって不活性化されているプロテアーゼである。
1つの実施において、いわゆる「ネガティブセレクション」工程または「枯渇」を使用して、標的と、関連するが異なるかまたは関係のない非標的分子とを区別する。ディスプレイライブラリーまたはそのプールを非標的プロテアーゼと接触させる。非標的プロテアーゼに結合しないサンプルのメンバーを回収し、標的分子への結合についての次のセレクションまたはなおも続くネガティブセレクションに対して使用する。ネガティブセレクション工程は、標的プロテアーゼに結合するライブラリーメンバーを選別する前または後であり得る。
別の実施においては、スクリーニング工程を使用する。ディスプレイライブラリーメンバーが、標的分子への結合について単離された後、単離されたライブラリーメンバーの各々は、それが非標的プロテアーゼに結合する能力について試験される。例えば、ハイスループットELISAスクリーニングを使用して、このデータを得ることができる。このELISAスクリーニングはまた、標的への各ライブラリーメンバーの結合についての定量的データを得るために使用され得る。非標的および標的への結合データを比較する(例えば、コンピュータおよびソフトウェアを使用して)ことにより、標的プロテアーゼに特異的に結合するライブラリーメンバーを同定する。
複数の特異性を有する単一のKunitzドメイン
2つ以上の特異性を有する単一のKunitzドメインは、標的セリンプロテアーゼを使用したライブラリーの交互セレクションによって得られる。Kunitzドメインのライブラリーのメンバーを、まず、第1の標的セリンプロテアーゼへの結合について選別し、第1の標的に結合するそれらのライブラリーメンバーを第2の標的セリンプロテアーゼに対してセレクションおよびスクリーニングする。この交互に行うセレクションおよびスクリーニングを、所望する程度の数の標的セリンプロテアーゼに対して行い得る。さらに、その後、標的プロテアーゼのすべてに結合するライブラリーメンバーを所望の結合についてスクリーニングするセレクションを繰り返してもよい。通常、2〜4回の反復セレクションを行う。
例えば、交互セレクションを使用して、ヒトカリクレイン1(h.K1、組織カリクレインとしても知られる)とマウスカリクレイン1(m.K1)の両方を阻害する単一のKunitzドメインを得ることができる。上に記載したように、ライブラリーを、一方の標的(例えば、hK1)に対してまず選別し、次いで、第1のセレクションにおいて同定されたKunitzドメインを次いで、他方の標的(例えば、mK1)に対して選別し得る。その特徴が、疾患動物モデルにおいて評価され得るので、ヒトセリンプロテアーゼおよび別の哺乳動物種(例えば、マウス)由来の対応物を阻害するKunitzドメインが、有用である。
別の例において、ヒト血漿カリクレイン(h.pKal)とヒト組織カリクレインの両方を阻害するKunitzドメインを、2つの標的を用いた交互セレクションによって選別する。そのようなインヒビターは、ヒト血漿カリクレインとヒト組織カリクレインの両方が、過剰に活性である関節炎などの疾患において有利であり得る。1つの実施形態において、Kunitzドメインは、ヒトビクニン(例えば、米国特許第6,583,108号に記載されているように)と少なくとも2、3、5または10アミノ酸異なる。
特異性決定基の転移
2つ以上のKunitzドメインを有する天然タンパク質を改変することにより、2つの異なるヒトプロテアーゼ、例えば、血漿カリクレイン(pKal)およびヒト好中球エラスターゼ(hNE)をそれぞれ阻害する少なくとも2つの操作されたKunitzドメインを有するタンパク質を提供することができる。例えば、DX−88のプロテアーゼ結合ループ由来の残基を、レシピエントタンパク質の一方のKunitzドメインに転移し、そして、DX−890のプロテアーゼ結合ループ由来の残基をもう一方のKunitzドメインに転移することができる。得られたタンパク質は、血漿カリクレインおよびヒト好中球エラスターゼを阻害する。
1つの実施形態において、結合性および/または特異性に寄与する残基を、既存のタンパク質、例えば、血清タンパク質などの天然に存在するタンパク質のKunitzドメインに置換する。いくつかの血清タンパク質は、2または3個のKunitzドメインを含んでいる。これらのKunitzドメインの各々は、1つの標的を阻害するように操作され得る。例えば、ヒト組織の細胞外のコンパートメントは、組織因子経路インヒビター(TFPI、リポタンパク質関連凝固インヒビター(LACI)としても知られる)、組織因子経路インヒビター−2(TFPI−2)、肝細胞成長因子アクチベーターインヒビター−1(HAI−1)、肝細胞成長因子アクチベーターインヒビター−2(HAI−2、胎盤ビクニンとしても知られる)およびビクニン(インター−アルファトリプシンインヒビターとしても知られる)を含む。1つのストラテジーは、マルチKunitzドメインヒトタンパク質の1つを鋳型として使用し、そして、必要とされる親和性および特異性をもたらす残基のみを変化させることである。
親和性および特異性をもたらす残基は、いくつかの残基の置換によって、1つのKunitzドメインから所望の特性を保持する別のKunitzドメインに転移され得る。例えば、DX−88は、TFPIのKunitzドメイン1に基づくものであり、ファージディスプレイライブラリーからのセレクションに基づいて変更されたKunitzドメイン内の5アミノ酸を有する。DX−88は、ヒト血漿カリクレイン(h.pKal)の30pMインヒビターであるが、TFPI Kunitzドメイン1は、h.pKalに対してほとんど親和性を有しない。表7は、いくつかのKunitzドメインのアミノ酸配列、いくつかの野生型のアミノ酸配列、ファージライブラリーから選別されるいくつかアミノ酸配列、いくつかの設計されたアミノ酸配列およびいくつかの設計され、構築され、そして試験されたアミノ酸配列を示している。BPTI、TFPI−K1、TFPI−K2およびTFPI−K3は、天然に存在するKunitzドメインである。DX−88およびDX−1000は、TFPI Kunitzドメイン1誘導体のライブラリーから選別されたものであり、それぞれヒト血漿カリクレインおよびヒトプラスミンを阻害する。TF890は、DX−890との比較によって設計され、高い親和性でヒト好中球エラスターゼを阻害するはずである。TFPI−K2_88は、ヒト血漿カリクレインを阻害するはずであるTFPI−K2の改変物である。TFPI−K3_88は、ヒト血漿カリクレインを阻害するはずであるTFPI Kunitzドメイン3の誘導体である。ITI−K2は、ビクニンの第2のKunitzドメインである。DX−890は、ヒト好中球エラスターゼへの結合性についてBPTI誘導体のライブラリーから選別されるインヒビターに基づいて設計されたヒト好中球エラスターゼの強力なインヒビターである。TFPI−K2_890は、ヒト好中球エラスターゼを阻害するように設計されたTFPI Kunitzドメイン2の誘導体である。TFPI−K3_890は、ヒト好中球エラスターゼを阻害するように設計されたTFPI Kunitzドメイン3の誘導体である。
)新しい操作されたKunitzドメイン配列は、ディスプレイライブラリー技術を使用して選別され得る。「基礎」配列または「骨格」配列は、任意のKunitzドメイン含有タンパク質であり得るが、ある特定の実施形態では、その「基礎」配列は、2つ以上のKunitzドメイン(例えば、TFPI、例えば、TFPI K1)を含む天然に存在するタンパク質由来である。目的の任意のセリンプロテアーゼが、標的として使用され得、それらのセリンプロテアーゼとしては、好中球エラスターゼ(例えば、ヒト好中球エラスターゼ)、プロテイナーゼ3(例えば、ヒトプロテイナーゼ3)、カテプシンG(例えば、ヒトカテプシンG)、トリプターゼ(例えば、ヒトトリプターゼ)、血漿カリクレイン(例えば、ヒト血漿カリクレイン)、好中球エラスターゼ(例えば、ヒト好中球エラスターゼ)、カリクレイン6(例えば、ヒトカリクレイン6)、カリクレイン8(例えば、ヒトカリクレイン8)、カリクレイン10(例えば、ヒトカリクレイン10)、組織カリクレイン(例えば、ヒト組織カリクレイン)、プラスミン(例えば、ヒトプラスミン)、ヘプシン(例えば、ヒトヘプシン)、マトリプターゼ(例えば、ヒトマトリプターゼ)、エンドセリアーゼ1(例えば、ヒトエンドセリアーゼ1)およびエンドセリアーゼ2(例えば、ヒトエンドセリアーゼ2)が挙げられる。
いくつかの実施形態において、レシピエントKunitzドメインは、13、15、16、17、18、19、31、32、34および39位の残基(BPTIの配列に関してナンバリング)が、もとのKunitzドメインにおける残基と同じであるように改変される。あるいは、残基11、13、15−19、31、32、34、39および40が変更され得る。別の実施形態において、11−19、31、32、34および38−40が変更され得る;この場合において、14−38ジスルフィドを、他のアミノ酸タイプに変更することができる。他の実施形態において、レシピエントKunitzドメインは、第1および第2の結合ループにおける残基が、もとのKunitzドメインにおける残基と同じであるように改変される。
ポリペプチドの改変および変更
同様の特性または改善もしくは変更された特性を有する有用な変異体を得るために、Kunitzドメインまたは本明細書中に記載されるタンパク質を変更することもできる。代表的には、多くの変異体が、可能性がある。例えば、本明細書中に記載される結合アッセイ(例えば、蛍光偏光測定法(fluorescence anisotropy))を使用して、変異体を調製し、次いで、試験することができる。
変異体の1つのタイプは、Kunitzドメインまたは本明細書中に記載される他のタンパク質の切断型である。この例では、変異体は、N末端またはC末端からドメインの1つ以上のアミノ酸残基を除去することによって調製される。いくつかの場合において、そのような一連の変異体を調製し、試験する。その一連の変異体の試験からの情報を使用して、プロテアーゼ結合性および/または血清中での安定性に不可欠なドメインの領域を決定する。一連の内部欠失物または内部挿入物を、同様に構築し、試験することができる。Kunitzドメインについて、例えば、最初のシステインであるCのN末端側の1〜5残基または1〜3残基および最後のシステインであるC55のC末端側の1〜5残基または1〜3残基を除去することができ、ここで、そのシステインの各々は、BPTIにおいてそれぞれナンバリングされたシステインに相当する。
変異体の別のタイプは、置換型である。1つの例において、Kunitzドメインをアラニンスキャニングに供することにより、結合活性およびまたは安定性に寄与する残基を同定する。別の例において、1つ以上の位置における置換のライブラリーを構築する。このライブラリーは、偏っていなくてもよいし、特に複数の位置を変更する場合、もとの残基に偏っていてもよい。いくつかの場合において、置換は、すべて保存的置換である。
別の例において、各リシンをアルギニンに置換し、結合親和性を測定する。それにより、リシンを有さず、かつ、選択された結合特性を保持している結合タンパク質が得られ得る。ポリペプチド鎖においてリシン残基を有しないタンパク質は、ペグ化に対してただ1つの部位のみ(アミノ末端)を提供するので、ペグ化のときに、より相同な産物がもたらされる。
変異体の別のタイプとしては、1つ以上の天然に存在しないアミノ酸が挙げられる。そのような変異体ドメインは、化学合成または改変によって生成され得る。1つ以上の位置を天然に存在しないアミノ酸で置換することができる。いくつかの場合において、置換されたアミノ酸は、もとの天然に存在する残基(例えば、脂肪族、荷電、塩基性、酸性、芳香族、親水性)またはもとの残基の同配体に化学的に関連し得る。
非ペプチド結合および他の化学修飾を含めることも可能である。例えば、Kunitzドメインの一部もしくは全部または他のタンパク質をペプチド模倣物、例えば、ペプトイドとして合成してもよい(例えば、Simonら(1992)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:9367−71およびHorwell(1995)Trends Biotechnol.13:132−4を参照のこと)。
タンパク質生成
ポリペプチドの組換え産生。標準的な組換え核酸方法を使用して、本明細書中に記載されるタンパク質(例えば、1つ以上のKunitzドメインを含むタンパク質)を発現することができる。一般に、そのタンパク質をコードする核酸配列は、核酸発現ベクターにクローニングされる。そのタンパク質が十分に小さい場合、例えば、そのタンパク質が、60アミノ酸未満のペプチドである場合、そのタンパク質は、自動化された有機合成方法によって合成され得る。
タンパク質発現用の発現ベクターは、タンパク質をコードするセグメントおよび制御配列、例えば、コーディングセグメントに作動可能にライゲーションされたプロモーターを含み得る。適当なベクターおよびプロモーターは、当業者に公知であり、本発明の組換え構築物を生成するために市販されている。例えば、Sambrook & Russell,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,3rd Edition,Cold Spring Harbor Laboratory,N.Y.(2001)およびAusubelら、Current Protocols in Molecular Biology(Greene Publishing Associates and Wiley Interscience,N.Y.(1989)に記載されている技術を参照のこと。
N結合型グリコシル化のための部位を含まないタンパク質の発現を、細菌、酵母または哺乳動物細胞において行うことができる。N結合型グリコシル化のための部位を有するタンパク質は、非グリコシル化バージョンを得るために細菌において発現され得るか、または、グリコシル化が望まれる場合は、酵母もしくは哺乳動物細胞において発現され得る。ヒトにおいて使用するために、グリコシル化バージョンは、好ましくはCHOまたはHEK293T細胞などの哺乳動物細胞において生成される。
Scopes(1994)Protein Purification:Principles and Practice,New York:Springer−Verlagおよび他のテキストは、組換え(および非組換え)タンパク質を精製するための多くの一般的な方法を提供する。
ペプチドの合成生成。ポリペプチドは、合成手段によって生成することもできる。例えば、Merrifield(1963)J.Am.Chem.Soc,85:2149を参照のこと。例えば、合成ペプチドまたはペプチド模倣物の分子量は、約250〜約8,0000ダルトンであり得る。例えば、ペプチドの有効な分子量を増加させる部分に付着することによって、ペプチドを改変することができる。例えば、親水性ポリマー(例えば、ペプチドの親和性および/または活性を増大させる)を用いてペプチドをオリゴマー化、二量体化および/または誘導体化する場合、その分子量は、より大きくなり得、約500〜約50,000ダルトンの範囲内であり得る。
ペグ化および他の改変
単一のKunitzドメインは、低分子量を有し、少なくともいくつかの場合において、腎臓によって迅速に濾過される。分子量が増大すると、血清残存も増大し得る。
Kunitzドメインを含むタンパク質の分子量を増加させるために、種々の部分をそのタンパク質に共有結合的に付着することができる。1つの実施形態において、その部分は、ポリマー、例えば、水溶性および/または実質的に非抗原性のポリマー(例えば、ホモポリマーまたは非生物学的ポリマー)である。実質的に非抗原性のポリマーとしては、例えば、ポリアルキレンオキシドまたはポリエチレンオキシドが挙げられる。その部分は、循環中、例えば、血液、血清、リンパまたは他の組織中におけるKunitzドメインの安定性および/または保持を、例えば、少なくとも1.5、2、5、10、50、75または100倍増強し得る。1つまたは複数の部分を、Kunitzドメインを含むタンパク質に付着することができる。例えば、上記ポリマーの少なくとも3つの部分にタンパク質を付着する。1つの実施形態において、特に、プロテアーゼ結合ループ中にリシンが存在しない場合、そのタンパク質の各リシンは、ポリマーの部分に付着され得る。
適当なポリマーは、実質的に重量が異なり得る。例えば、約200ダルトン〜約40kDa、例えば、1〜20kDa、4〜12kDaまたは3〜8kDaの範囲、例えば、約4、5、6または7kDaの平均分子量を有するポリマーを使用することができる。1つの実施形態において、化合物に関連するポリマーの個別の部分の平均分子量は、20、18、17、15、12、10、8または7kDa未満である。最終分子量はまた、結合体の所望の有効なサイズ、ポリマーの性質(例えば、直鎖状または分枝状などの構造)および誘導体化の程度に依存し得る。
代表的なポリマーの非限定的なリストとしては、ポリアルキレンオキシドホモポリマー(例えば、ポリエチレングリコール(PEG)またはポリプロピレングリコール、ポリオキシエチレン化ポリオール、その共重合体およびそのブロック共重合体(但し、ブロック共重合体の水溶性が維持される場合))が挙げられる。ポリマーは、親水性ポリビニルポリマー、例えば、ポリビニルアルコールおよびポリビニルピロリドンであり得る。さらなる有用なポリマーとしては、ポリオキシアルキレン(例えば、ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレンおよびポリオキシエチレンとポリオキシプロピレンのブロック共重合体(Pluronics));ポリ乳酸;ポリグリコール酸;ポリメタクリレート;カルボマー;サッカライドモノマーD−マンノース、D−およびL−ガラクトース、フコース、フルクトース、D−キシロース、L−アラビノース、D−グルクロン酸、シアル酸、D−ガラクツロン酸、D−マンヌロン酸(例えば、ポリマンヌロン酸またはアルギン酸)、D−グルコサミン、D−ガラクトサミン、D−グルコースならびにノイラミン酸を含む分枝状または非分枝状の多糖(ホモ多糖およびヘテロ多糖(例えば、ラクトース、セルロース、アミロペクチン、デンプン、ヒドロキシエチルデンプン、アミロース、デキストランスルフェート、デキストラン、デキストリン、グリコーゲンまたは酸ムコ多糖、例えば、ヒアルロン酸の多糖サブユニット)を含む);糖アルコールのポリマー(例えば、ポリソルビトールおよびポリマンニトール);ヘパリンまたはヘパロン(heparon)が挙げられる。いくつかの実施形態において、ポリマーは、種々の異なる共重合体ブロックを含む。
2つ以上のポリマー部分をタンパク質に付着させるさらなる代表的な方法は、US2005−0089515に記載されている。
タンパク質の分子量を増加させる別の方法は、タンパク質の多量体を作製すること(例えば、少なくとも2コピーのタンパク質を融合するように(代表的にはタンデムに融合するが、頭部と頭部との融合もまたあり得る)タンパク質を作製すること)による方法である。多量体は、化学的架橋または多量体をコードする構築物の発現によって生成され得る。DNAの長い反復配列は、不安定であり得るので、様々なコピーのタンパク質をコードするポリヌクレオチドが様々な配列を有することが、好ましい。
結合相互作用の特徴付け
タンパク質(例えば、1つ以上のKunitzドメインを含むタンパク質)の結合特性を、様々なアッセイ様式を使用して容易に評価することができる。例えば、結合特性は、標的プロテアーゼおよび非標的プロテアーゼを阻害する能力の定量的な測定によってアッセイされ得る。あるいは、例えば、タンパク質の結合特性は、特定の標的プロテアーゼに対するそのタンパク質の解離定数(K)または結合定数(Ka)を決定する簡便かつ正確な方法を提供する蛍光偏光測定法(Bentleyら(1985)J.Biol.Chem.260(12):7250−56;Shimadaら(1985)J.Biochem.97(6):1637−44;Terpetschnigら(1995)Anal.Biochem.227(1):140−7;Durkopら(2002)Anal.Bioanal.Chem.372(5−6):688−94)によって溶液中で測定され得る。1つのそのような手順において、評価されるタンパク質をフルオレセインで標識する。フルオレセイン標識されたタンパク質を、マルチウェルアッセイプレートのウェル内で、様々な濃度の特定の標的プロテアーゼまたは非標的プロテアーゼと混合する。蛍光偏光測定法の測定は、蛍光偏光プレートリーダーを使用して行われる。
結合相互作用もまた、ELISAアッセイを使用して解析することができる。例えば、評価されるタンパク質を、標的プロテアーゼ、例えば、限られた量の標的プロテアーゼでコーティングされている底面を有するマイクロタイタープレートに接触させる。その分子をプレートに接触させる。そのプレートを緩衝液で洗浄することにより、非特異的に結合した分子を除去する。次いで、そのタンパク質を認識する抗体を用いて、プレートに結合したタンパク質の量を、プレートを探索することによって測定する。例えば、そのタンパク質は、エピトープタグを含み得る。その抗体は、適切な基質が提供されるとき、比色定量用の産物を生成する酵素(例えば、アルカリホスファターゼ)に連結され得る。ディスプレイライブラリーメンバーが、試験されるタンパク質を含む場合において、その抗体は、すべてのディスプレイライブラリーメンバーの中で定常性の領域(例えば、ファージディスプレイライブラリーメンバーにおいては、主要なファージコートタンパク質)を認識することができる。
タンパク質と特定の標的プロテアーゼとの結合相互作用は、表面プラズモン共鳴(SPR)を使用して解析することができる。例えば、サンプル中に存在するディスプレイライブラリーメンバーを配列決定し、必要に応じて、例えばELISAによって確認した後に、提示されたタンパク質を多量に生成することができ、また、標的の結合性についてSPRを使用してアッセイすることができる。SPRまたはリアルタイム生体分子相互作用解析(BIA)は、相互作用物のいずれをも標識することなく、生体分子特異的な相互作用をリアルタイムで検出する(例えば、BIAcore)。BIAチップの結合表面における質量の変化(結合事象を示唆する)により、表面に近い光の屈折率の変化が生じる(表面プラズモン共鳴(SPR)の光学現象)。屈折度の変化により、生物学的分子間のリアルタイム反応の指標として測定される検出可能なシグナルが生成される。SPRを使用するための方法は、例えば、米国特許第5,641,640号;Raether(1988)Surface Plasmons Springer Verlag;Sjolander,S.and Urbaniczky,C.(1991)Anal.Chem.63:2338−2345;Szaboら(1995)Curr.Opin.Struct.Biol.5:699−705に記載されている。
SPRからの情報を用いて、タンパク質(例えば、Kunitzドメインを含むタンパク質)の標的プロテアーゼに対する結合性についての平衡解離定数(K)および動態学的パラメータ(konおよびkoffを含む)の正確かつ定量的な基準がもたらされ得る。そのようなデータを使用して、様々なタンパク質を比較することができる。SPRからの情報を用いて、構造活性関係(SAR)を明らかにすることもできる。例えば、タンパク質が、単一の親抗体または既知の親抗体のセットのすべての変異型変異体である場合、特定の結合パラメータ、例えば、高い親和性および遅いkoffと相関する、所定の位置における変異体アミノ酸を同定することができる。
結合親和性を測定するためのさらなる方法としては、核磁気共鳴(NMR)および結合滴定(binding titration)(例えば、蛍光エネルギー転移を用いた)が挙げられる。
結合特性を研究するための他の溶液測定としては、蛍光共鳴エネルギー転移(FRET)、NMR、X線結晶構造解析、分子モデリングおよび遊離分子に対する結合分子の測定が挙げられる。遊離分子に対する結合分子の測定は、Sapidyne Instruments Inc.,Boise,ID製のKinExA装置を用いて行うことができる。
プロテアーゼ阻害の特徴づけ
本明細書中に記載されるタンパク質が標的プロテアーゼならびに非標的プロテアーゼを阻害する能力を特徴付けることは、有用であり得る。
Kunitzドメインは、標的プロテアーゼ阻害の強さおよび選択性について選択され得る。1つの例において、プロテアーゼがその基質と反応できるアッセイ条件下において、標的プロテアーゼと基質とを結合させる。このアッセイは、試験タンパク質の非存在下および漸増濃度の試験タンパク質の存在下で行われる。プロテアーゼ活性が50%阻害される試験タンパク質の濃度は、その試験タンパク質に対するIC50値(阻害性濃度)またはEC50(有効濃度)値である。より低いIC50またはEC50値を有するタンパク質は、より高いIC50またはEC50値を有するタンパク質よりも強力な標的プロテアーゼのインヒビターであると考えられる。この局面によれば、好ましいタンパク質は、プロテアーゼ活性の阻害についてインビトロアッセイにおいて測定されるとき、100nM、10nM、1nMまたは0.1nM以下のIC50値を有する。
試験タンパク質は、様々なプロテアーゼに対する選択性についても評価され得る。試験タンパク質は、プロテアーゼおよび他の酵素のパネルに対する作用強度についてアッセイされ、IC50値は、各々について測定される。標的プロテアーゼに対して低いIC50値を示し、かつ、試験パネル(例えば、トリプシン、プラスミン、キモトリプシン)の中の他のプロテアーゼに対してより高いIC50値を示すタンパク質は、標的プロテアーゼに対して選択的であると考えられる。一般に、タンパク質は、そのIC50値が、酵素のパネルにおいて測定されたIC50値のうち2番目に小さいIC50値より少なくとも1桁小さい場合に、選択的であると見なされる。
インビボまたは本明細書中に記載される化合物が投与された被験体のサンプル(例えば、肺洗浄液または血清)において、Kunitzドメイン活性を評価することもできる。
薬学的組成物および処置
例えば、本明細書中に記載されるタンパク質(例えば、少なくとも2つのヒトプロテアーゼを阻害するタンパク質)を含む薬学的に許容可能な組成物もまた特徴付ける。1つの実施形態において、このタンパク質は、1つ以上のKunitzドメインを含む。
例えば、このタンパク質は、複数の標的プロテアーゼを阻害する。薬学的組成物は、薬学的に許容可能なキャリアを含み得る。
代表的なキャリアとしては、生理的に適合する任意およびすべての溶媒、分散媒、被覆剤、抗菌剤および抗真菌剤、等張剤ならびに吸収遅延剤などが挙げられる。好ましくは、キャリアは、静脈内、筋肉内、皮下、非経口、脊髄または上皮への投与(例えば、注射または注入による)に適したものである。投与経路に応じて、活性な化合物は、酸の作用および化合物を不活性化し得る他の天然の条件から化合物を保護する材料でコーティングされ得る。
薬学的組成物は、薬学的に許容可能な塩、例えば、親化合物の所望の生物学的活性を保持し、望ましくない任意の毒物学的作用をもたらさない塩を含み得る(例えば、Berge、S.M.,ら(1977)J.Pharm.Sci.66:1−19を参照のこと)。そのような塩の例としては、酸付加塩および塩基付加塩が挙げられる。酸付加塩としては、無毒性の無機酸(例えば、塩酸、硝酸、リン酸、硫酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、亜リン酸など)から得られる塩ならびに無毒性の有機酸(例えば、脂肪族モノカルボン酸および脂肪族ジカルボン酸、フェニル置換アルカン酸、ヒドロキシアルカン酸、芳香族酸、脂肪族および芳香族のスルホン酸など)から得られる塩が挙げられる。塩基付加塩としては、アルカリ土類金属(例えば、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウムなど)ならびに無毒性の有機アミン(例えば、N,N’−ジベンジルエチレンジアミン、N−メチルグルカミン、クロロプロカイン、コリン、ジエタノールアミン、エチレンジアミン、プロカインなど)から得られる塩が挙げられる。
薬学的組成物は、種々の形態であり得る。これらとしては、例えば、液体、半固体および固体の投与形態(例えば、液体の溶液(例えば、注射可能および注入可能な溶液)、分散液または懸濁液、リポソームならびに坐剤が挙げられる。好ましい形態は、意図される投与様式および治療的適用に依存する。代表的な組成物は、注射可能または注入可能な溶液(例えば、ヒトへの抗体の投与に使用される組成物と同様)の形態である。通常の投与様式は、非経口(例えば、静脈内、筋肉内、動脈内、鞘内、嚢内、眼窩内、心臓内、皮内、腹腔内、経気管的、皮下、表皮下、関節内、被膜下、くも膜下、髄腔内、硬膜外および胸骨内の注射および注入)である。1つの実施形態において、化合物は、静脈内への注入または注射によって投与される。別の実施形態において、化合物は、筋肉内または皮下への注射によって投与される。薬学的組成物は、代表的には、滅菌されていなければならないし、製造および貯蔵の条件下において安定でなければならない。
本組成物は、溶液、マイクロエマルジョン、分散液、リポソームまたは高い薬物濃度に適した他の秩序構造物として製剤化され得る。滅菌された注射可能な溶液は、上で列挙された成分の1つまたは組み合わせとともに適切な溶媒中に必要な量で活性化合物を組み込むことによって調製され得、必要であれば、その後、フィルター滅菌される。一般に、分散液は、基礎となる分散媒を含む滅菌されたビヒクルおよび上で列挙された材料のうち他の必要な成分中に活性化合物を組み込むことによって調製される。滅菌された注射可能な溶液を調製するための滅菌された散剤の場合、調製の好ましい方法は、予めフィルター滅菌されたその溶液から活性成分および任意のさらなる所望の成分の粉末を得る、真空乾燥および凍結乾燥である。例えば、レシチンなどのコーティングを使用することによって、分散液の場合は必要な粒径を維持することによって、そして、界面活性剤を使用することによって、溶液の適正な流動性が維持され得る。吸収を遅延させる薬剤、例えば、モノステアリン酸塩およびゼラチンを組成物に含めることによって、注射可能な組成物の長時間にわたる吸収がもたらされ得る。
本明細書中に記載されるタンパク質は、当該分野で公知の種々の方法によって投与され得る。多くの適用に対して、投与の経路/様式は、静脈内への注射または注入である。例えば、治療的な適用に対して、化合物は、約1〜100mg/mまたは7〜25mg/mの用量に達するように30、20、10、5または1mg/分未満の速度で静脈内注入によって投与され得る。あるいは、用量は、100μg/Kg、500μg/Kg、1mg/Kg、5mg/Kg、10mg/Kgまたは20mg/Kgであり得る。投与の経路および/または様式は、所望の結果に応じて異なる。
ある特定の実施形態において、本タンパク質は、迅速な放出を防ぐキャリア、例えば、植込錠およびマイクロカプセル化送達系をはじめとした放出制御製剤とともに調製される。生分解性で生体適合性のポリマー(例えば、エチレンビニルアセテート、ポリ無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステルおよびポリ乳酸)が使用され得る。そのような製剤を調製するための多くの方法が特許されており、一般に知られている。例えば、Sustained and Controlled Release Drug Delivery Systems,J.R.Robinson,ed.,Marcel Dekker,Inc.,New York,1978を参照のこと。薬学的な製剤化は、十分に確立された技術であり、Gennaro(ed.),Remington:The Science and Practice of Pharmacy,20th ed.,Lippincott,Williams & Wilkins(2000)(ISBN:0683306472);Anselら、Pharmaceutical Dosage Forms and Drug Delivery Systems,7th Ed..,Lippincott Williams & Wilkins Publishers(1999)(ISBN:0683305727);およびKibbe(ed.),Handbook of Pharmaceutical Excipients American Pharmaceutical Association,3rd ed.(2000)(ISBN:091733096X)にさらに記載されている。
本明細書中に記載されるタンパク質(例えば、少なくとも2つのヒトプロテアーゼを阻害するタンパク質)および使用(例えば、処置、予防的または診断的な使用)のための指示書を備えたキットもまた、本発明の範囲内である。1つの実施形態において、キットは、(a)化合物、例えば、化合物を含んでいる組成物、および、必要に応じて(b)情報を提供する物質を備える。その情報提供物質は、本明細書中に記載される方法に関する説明、指示、市場もしくは他の物質および/または本明細書中に記載される方法のために化合物を使用することであり得る。
1つの実施形態において、上記情報提供物質は、適当な様式、例えば、適当な用量、投与形態または投与様式(例えば、本明細書中に記載される用量、投与形態または投与様式)で化合物を投与するための指示を含み得る。別の実施形態において、上記情報提供物質は、適当な被験体、例えば、ヒト、例えば、過剰なエラスターゼ活性を特徴とする障害を有するか、またはその危険性のあるヒトを同定するための指示を含み得る。上記情報提供物質は、化合物の生成、化合物の分子量、濃度、使用期限の日付、バッチまたは製造地情報などについての情報を含み得る。キットの情報提供物質は、上記形態に限られない。多くの場合において、上記情報提供物質、例えば、指示書は、印刷物、例えば、印刷された文章、図および/または写真、例えば、ラベルまたは印刷されたシートとして提供される。しかしながら、上記情報提供物質は、他の様式(例えば、点字、コンピュータ解読可能物質、ビデオ記録物または音声記録物)でも提供され得る。別の実施形態において、本キットの情報提供物質は、リンク情報または連絡先、例えば、キットのユーザーが化合物および/または本明細書中に記載される方法におけるその使用に関する確かな情報を得ることができる実際の住所、電子メールアドレス、ハイパーリンク、ウェブサイトまたは電話番号である。当然ながら、情報提供物質は、任意の組み合わせの様式でも提供され得る。
キットの組成物は、化合物に加えて、他の成分(例えば、溶媒もしくは緩衝液、安定剤または保存剤)および/または本明細書中に記載される状態または障害を処置するための第2の薬剤を含み得る。あるいは、その他の成分は、キット内に含められ得るが、化合物とは異なる組成物または容器内に含められ得る。そのような実施形態において、キットは、化合物と他の成分を混合するためまたは他の成分とともに化合物を使用するための指示書を備え得る。
キットは、化合物を含んでいる組成物用の1つ以上の容器を備え得る。いくつかの実施形態において、キットは、組成物用の別個の容器、分割物またはコンパートメントおよび情報提供物質を含む。例えば、組成物は、ビン、バイアルまたは注射器内に含められ得、上記情報提供物質は、プラスチックスリーブまたは小包内に含められ得る。他の実施形態では、キットの別個のエレメントは、単一の分割されていない容器内に含まれる。例えば、組成物は、ラベルの形態で情報提供物質が付着したビン、バイアルまたは注射器内に入っている。いくつかの実施形態において、キットは、複数の個別の容器(例えば、そのパック)(各々が、化合物の1つ以上の単位投与形態(例えば、本明細書中に記載される投与形態)を含む)を備える。例えば、キットは、複数の注射器、アンプル、箔小包またはブリスター包装(この各々が、化合物の単一の単位用量を含む)を備える。キットの容器は、気密性で、防水性で(例えば、水分または蒸発の変化に不透性)、そして/または遮光性であり得る。
本明細書中に記載されるタンパク質(例えば、少なくとも2つのヒトプロテアーゼを阻害するタンパク質)は、単独か、または、第2の薬剤と組み合わせて、被験体、例えば、患者、例えば、障害(例えば、本明細書中に記載される障害)、障害の症状または障害に対する素因を有する患者に、その障害、障害の症状または障害に対する素因を治療、治癒、軽減、緩和、変化、矯正、回復、改善するか、またはそれらに影響するという目的で、投与され得る。処置はまた、ある状態の発生を遅延させ得る、例えば、その発生を防ぎ得るか、またはその悪化を防ぎ得る。
治療有効量、代表的には、被験体を処置する際、例えば、被験体における障害の少なくとも1つの症状を治癒、軽減、緩和または改善する際に、そのような処置がなされないときに予想される程度よりも大きい程度で、被験体に単回または複数回投与されるときの有効な化合物の量が、投与され得る。組成物の治療有効量は、因子(例えば、疾患の状態、個体の年齢、性別および体重ならびにその化合物が個体において所望の応答を誘発する能力)に応じて変化し得る。治療有効量はまた、治療的に有益な効果が、組成物の任意の有毒または不利益な効果よりも勝る量である。治療的に有効な用量は、好ましくは、処置されていない被験体と比較して、好ましくは測定可能なパラメータを調節する。化合物が測定可能なパラメータを阻害する能力は、ヒト障害における有効性を予測する動物モデル系において評価され得る。
投与レジメンは、最適な所望の応答(例えば、治療的な応答)をもたらすために調整され得る。例えば、単回のボーラスを投与してもよいし、時間をかけていくつかに分割した量を投与してもよいし、治療的な状況の緊急事態によって示唆されるときは、その用量を比例的に減少または増加させてもよい。投与の簡便性および用量の均一性のために投薬単位形態で非経口組成物を製剤化することは、特に有利である。本明細書中で使用されるとき、投薬単位形態とは、処置される被験体に対して統一された用量として適した物理的に分離した単位のことをいう;各単位は、必要な薬学的キャリアと併せて所望の治療効果をもたらすように計算され、予め決められた量の活性化合物を含む。
本明細書中に記載される化合物の治療的有効量または予防的有効量に対する例示的な、非限定的な範囲は、0.1〜20mg/Kg、より好ましくは1〜10mg/Kgである。化合物は、約1〜50mg/mまたは約5〜20mg/mの用量を達成するために20、10、5または1mg/分未満の速度で非経口(例えば、静脈内または皮下)注入によって投与され得る。用量値は、軽減されるべき状態のタイプおよび重症度にあわせて変化し得ることに注意されたい。任意の特定の被験体に対する特定の投与レジメンが、個体の要望および組成物を投与しているかまたは投与の監督をしている者(例えば、監督医師)の専門的な判断に応じて、時間をかけて調節されるべきであることおよび本明細書中で示される用量範囲は、単なる例示であることがさらに理解される。
治療的用途
本発明のタンパク質は、2つ以上のプロテアーゼによって媒介される障害を処置または予防するための治療において使用され得る。同様に、本発明のタンパク質は、2つ以上のプロテアーゼによって媒介される障害を処置するための薬物を製造するために使用され得る。
関節リウマチ(RA):ヒト血漿カリクレイン、ヒト組織カリクレイン(h.K1)およびヒト好中球エラスターゼはすべて、RAに関与している(Volpe−Juniorら、1996,Inflamm Res,45:198−202;Cassimら、2002,Pharmacol Ther,94:1−34;Colman,1999,Immunopharmacology,43:103−8;Dela Cadenaら、1995,Faseb J,9:446−52;Rahmanら、1995,Ann Rheum Dis,54:345−50;Tremblayら、2003,Curr Opin Investig Drugs,4:556−65)。従って、ヒト血漿カリクレイン、ヒト組織カリクレイン(h.K1)およびヒト好中球エラスターゼの群からの少なくとも2つのプロテアーゼを阻害するタンパク質の有効量を、RAを有する(または有すると疑われる)被験体に投与することによって関節リウマチを処置する方法(例えば、総Sharpスコア、Sharp浸潤スコアまたはHAQ障害指標を安定化または改善する方法)が、提供される。
MMP1、2、3、9および13もまた、RAに関与している(Burrageら(2006)Front Biosci.11:529−43)。従って、(a)ヒト血漿カリクレイン、ヒト組織カリクレイン(h.K1)およびヒト好中球エラスターゼの群からの少なくとも2つのプロテアーゼ、(b)MMP−1、MMP−2、MMP−3、MMP−9およびMMP−13の群からの少なくとも1つのプロテアーゼを阻害するタンパク質の有効量を投与することによって、RAを処置する方法(例えば、総Sharpスコア、Sharp浸潤スコアまたはHAQ障害指標を安定化または改善する方法)がまた提供される。
RAは、種々の臨床的基準によって評価され得る。いくつかの代表的な兆候としては、総Sharpスコア(TSS)、Sharp浸潤スコアおよびHAQ障害指標が挙げられる。本発明のタンパク質は、RAを処置するため、例えば、これらの臨床的基準の1つ以上に基づく評価を改善するために投与される。
肺障害:肺の炎症性障害は、ヒト好中球エラスターゼ、プロテイナーゼ3、カテプシンG、トリプターゼ、MMP−12およびMMP−9をはじめとした多くの様々なプロテアーゼが関与する。従って、本発明は、炎症を伴う肺障害を有する(または有すると疑われる)被験体に、これらのプロテアーゼの2つ以上(またはすべて)の活性を阻害するタンパク質の有効量を投与することによって、炎症を伴う肺障害を処置および/または予防するための方法(例えば、PFTスコアを改善もしくは安定化する方法、または、PFTスコアの悪化を遅延、予防もしくは低下させる方法、あるいは、COPD患者に対して、破壊指標スコアを少なくとも10、20、30もしくは40%低下させることによるか、または、年齢および性別が同じ正常な集団に対する正常な破壊指標スコアの少なくとも50、40、30または20%以内に低下させることによる方法)を提供する。炎症を伴う代表的な肺障害としては、喘息、気腫、嚢胞性線維症および慢性閉塞性肺疾患(COPD)(特に、COPDの急性増悪)が挙げられる。特に、ヒト好中球エラスターゼ、プロテイナーゼ3、カテプシンGおよびMMP−12は、COPDと関連するので、COPDを処置するためのタンパク質は、ヒト好中球エラスターゼ、プロテイナーゼ3およびカテプシンGの群からの少なくとも2つのプロテアーゼを阻害し、いくつかの実施形態では、MMP−9および/またはMMP−12をさらに阻害する。
種々の臨床的基準は、肺疾患およびその処置の有効性を評価するために利用可能である。肺機能検査(PFT)(例えば、1秒量(FEV)、6秒量(FEV)、努力肺活量(FVC)、最大呼気流量、パーセンテージとして表されるFEV1とFVCとの比(FEV/FVC)、FVCの中間(25〜75%)の部分の間の平均努力呼気流量より低い努力呼気流量(FEF25−75)および薄面コンピュータ断層撮影(thin section computed tomography))が、肺疾患および処置の有効性を評価するために使用され得る。肺胞中隔の損傷および気腫の基準である「破壊指標」は、COPDならびに本明細書中のタンパク質および方法の治療効果をモニターする際に特に有用であり得る。例えば、Am Rev Respir Dis 1991 Jul;144(1):156−59を参照のこと。
多発性硬化症:多発性硬化症(MS)は、ヒトカリクレイン6(hK6)、ヒトカリクレイン8(hK8)およびヒトカリクレイン10(hK10)と関与し得る。従って、本発明は、これらのプロテアーゼの2つ以上(例えば、3つすべて)を阻害するタンパク質の有効量を、MSを有する(または有すると疑われる)被験体に投与することによって多発性硬化症を処置する方法(例えば、EDSSスコアを低下または安定化する方法、悪化の強度または頻度を低下させる方法、あるいは硬化性の病変のサイズ、数を低下させる方法または硬化性の病変のサイズもしくは数の増大速度を低下させる方法)を提供する。MSを有する患者は、臨床的に明確なMSの診断を確立する際の、医学的分野において認知されている基準(例えば、MSの診断に関するワークショップによって定義された基準)によって同定され得る(Poserら、Ann.Neurol.13:227,1983)。
多発性硬化症の処置の有効性は、当該分野で認知されている任意の方法または基準を使用して調べられ得る。共通して使用される3つの基準は:EDSS(総合障害度評価尺度(extended disability status scale),Kurtzke,Neurology 33:1444,1983)、悪化の発生またはMRI(磁気共鳴画像)である。
脊髄損傷:脊髄損傷は、hK6、ヒト好中球エラスターゼおよび他のセリンプロテアーゼによって悪化し得る。従って、本発明は、少なくとも2つのセリンプロテアーゼhK6およびヒト好中球エラスターゼを阻害するタンパク質の有効量を、脊髄損傷を有する被験体に投与することによって脊髄損傷を処置する方法(例えば、全般的または細密な運動技能を改善すること、患者が行い得る日常生活動作(ADL)を増加させること、反射応答の改善または複雑な移動運動行動の改善)を提供する。
行動の評価は、しばしば、運動障害の正確な性質を定義することができないか、または、脊髄損傷後の運動行動の回復を評価することができない。全般的な運動行動の評価に加えて、脊髄損傷後の機能の回復の評価の隠れた欠陥を評価するために、移動運動用の複雑な検査を使用することが適切である。Sureshらは、ボンネットモンキー(Macaca radiata)において機能の回復を評価するために、反射応答および複雑な移動運動について感度の高い定量的検査を複合行動スコア(combined behavioral score)(CBS)として設計した(J Neurol Sci.(2000)178(2):136−52)。これらの測定は、非侵襲性であるので、ヒト患者における使用に適応され得る。
炎症性腸疾患:炎症性腸疾患(IBD)としては、2つの特徴的な障害であるクローン病および潰瘍性大腸炎(UC)が挙げられる。潰瘍性大腸炎は、大腸において発生するが、クローン病は、消化管全体ならびに小腸および大腸が関与し得る。ほとんどの患者について、IBDは、数ヶ月から数年にわたって継続する、断続的な直腸からの出血、痙攣性の腹痛、体重減少および下痢をはじめとした症状を伴う慢性的な状態である。ヒト組織カリクレイン(h.K1)、ヒト血漿カリクレインおよびヒト好中球エラスターゼは、クローン病と潰瘍性大腸炎の両方に関与している(Colman,1999,Immunopharmacology,43:103−8;Devaniら(2005)Dig.Liver Dis.37(9):665−73;Kunoら(2002)J.Gastroenterol.37(Suppl 14):22−32;Stadnickiら、(1997)Dig.Dis.Sci.42(11):2356−66)。従って、本発明はまた、ヒト組織カリクレイン(h.K1)、ヒト血漿カリクレインおよびヒト好中球エラスターゼの少なくとも2つ(または3つすべて)を阻害するタンパク質の有効量を、被験体に投与することによって、クローン病および/または潰瘍性大腸炎を処置および/または予防する方法(例えば、直腸からの出血、腹部の疼痛/痙攣、体重減少もしくは下痢を減少または排除する方法、ヘマトクリットを改善する方法/貧血の改善を排除する方法あるいはUC患者における潰瘍性大腸炎スコアについての臨床活性指標を改善する方法)も提供する。被験体は、IBDを有するか、IBDを有すると疑われるか、またはIBDを発症する危険性がある。
IBDの症状の多く(例えば、直腸からの出血、腹部の疼痛/痙攣、下痢、体重減少、ヘマトクリット/貧血)は、標準的な方法を使用して定量化され得る。さらに、臨床指標(例えば、潰瘍性大腸炎についての臨床活性指標)を使用して、IBDをモニターし得る。(例えば、Walmsleyら Gut.1998 Jul;43(1):29−32およびJowettら(2003)Scand J Gastroenterol.38(2):164−71もまた参照のこと)。
膵炎 急性膵炎は、膵臓チモーゲンの急激な膵臓内での活性化によって、(放置される場合)膵臓が本質的に自己分解されることを特徴とする。関与する主な酵素は、ヒトトリプシン1および2、ヒト膵臓キモトリプシンならびにヒト膵臓エラスターゼである。従って、本発明は、プロテアーゼであるヒトトリプシン1、ヒトトリプシン2、ヒト膵臓キモトリプシンおよびヒト膵臓エラスターゼの少なくとも2つを阻害するタンパク質を、急性膵炎を有する(または有すると疑われる)被験体に投与することによって、急性膵炎を処置するための方法(例えば、Ransonスコア、急性生理異常・慢性度による重症度評価(Acute Physiology and Chronic Health Evaluation)(APACHE II)スコアまたはBalthazarコンピュータ断層像重症度指標(CTSI)を安定化または改善する方法)を提供する。
癌 多くのセリンプロテアーゼは、癌および腫瘍形成経路に関与する。ヘプシンおよびマトリプターゼは、肝細胞成長因子の活性化に関与する。肝細胞成長因子(HGF)は、多くの腫瘍に対する成長因子であり、その放出を阻止することが、必要な成長因子を腫瘍細胞から奪うことになる。さらに、マトリプターゼはまた、プロuPAをuPA(プラスミノゲンからのプラスミンの生成に関与する酵素)に切断し得る。プラスミンは、様々なマトリクスメタロプロテアーゼ(MMP)の活性化に関与する。プラスミノゲンから活性なプラスミンに変換されるとき、プラスミンは、種々の上皮癌細胞の表面と結合した状態で残存する。MMP活性は、癌細胞を1カ所の部位から離れさせるか、または新しい部位に浸潤させる種々のマトリックスタンパク質を切断する際に重要である。さらに、マトリプターゼはまた、プロuPAをuPA(プラスミノゲンからのプラスミンの生成に関与する酵素)に切断し得る。エンドセリアーゼ1および2はまた、癌に関与している。
従って、本開示は、癌に関与する少なくとも2つのプロテアーゼ、例えば、ヒトプラスミン、ヒトヘプシン、ヒトマトリプターゼ、ヒトエンドセリアーゼ1およびヒトエンドセリアーゼ2の群からの少なくとも2つのプロテアーゼを阻害する本発明の操作されたマルチKunitzドメインタンパク質の有効量を投与することによって、癌(例えば、乳癌(Her2+、Her2−、ER+、ER−、Her2+/ER+、Her2+/ER−、Her2−/ER+およびHer2−/ER−乳癌を含む)、頭頸部癌、口腔癌、喉頭癌、軟骨肉腫、卵巣癌、精巣癌、メラノーマ、脳腫瘍(例えば、星状細胞腫、グリア芽細胞腫、グリオーマ))を処置する方法(例えば、腫瘍成長を遅延、排除または逆転させる方法、転移の数もしくはサイズを予防または減少させる方法、腫瘍細胞の侵襲性を低下または排除する方法、腫瘍進行の間隔を延長する方法あるいは無病生存時間を延長する方法)を提供する。
開示される方法は、固形腫瘍、軟部組織腫瘍およびそれらの転移の予防および処置に有用である。固形腫瘍としては、様々な器官系(例えば、肺、乳房、リンパ系、消化器系(例えば、結腸)および尿生殖器管(例えば、腎臓、尿路上皮または精巣の腫瘍)、咽頭、前立腺および卵巣)の悪性腫瘍(例えば、肉腫、腺癌および癌腫)が挙げられる。代表的な腺癌としては、直腸結腸癌、腎細胞癌、肝臓癌、肺の非小細胞癌および小腸の癌が挙げられる。さらなる代表的な固形腫瘍としては:線維肉腫、粘液肉腫、脂肪肉腫、軟骨肉腫、骨原性肉腫、脊索腫、血管肉腫、内皮肉腫(endotheliosarcoma)、リンパ管肉腫、リンパ管内皮肉腫(lymphangioendotheliosarcoma)、滑膜腫(synovioma)、中皮腫、ユーイング腫瘍、平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、消化器系癌、結腸癌、膵癌、乳癌、生殖器泌尿器系癌、卵巣癌、前立腺癌、扁平上皮癌、基底細胞癌、腺癌、汗腺癌、皮脂腺癌、乳頭状癌、乳頭状腺癌、嚢胞腺癌、髄様癌、気管支原性癌、腎細胞癌、ヘパトーム、胆管癌、絨毛癌、セミノーマ、胎児性癌、ウィルムス腫瘍、子宮頸癌、内分泌系癌、精巣腫瘍、肺癌、小細胞肺癌、非小細胞肺癌、膀胱癌、上皮癌、神経膠腫、星状細胞腫、髄芽腫、頭蓋咽頭腫、上衣腫、松果体腫、血管芽腫、聴神経腫、乏突起膠腫、髄膜腫、メラノーマ、神経芽細胞腫および網膜芽細胞腫が挙げられる。上述の癌の転移もまた、本明細書中に記載される方法に従って処置または予防され得る。
実施例1−真核細胞におけるTFPIの発現
表1は、LACI(組織因子経路インヒビター(TFPI)としても知られる)のアミノ酸配列を示している。表2は、LACI内の様々なKunitzドメインのアミノ酸配列を示している。「|」の印が付けられた位置(11、13、15−19、34、39−40)は、ドメインのプロテアーゼ特異性を変化させるために変更され得る残基の例である。「^」の印が付けられた位置(21および32)もまた、変更され得る。
「$」の印が付けられた位置は、Kunitzドメインの構造に寄与し得る。いくつかの実施において、これらの位置は、変異体において維持されている。他の実施において、それらは多様であるが、限られた程度で多様であり、例えば、保存的置換を可能にする程度で多様である。
LACIは、3つの可能性のあるN結合型グリコシル化(Nx(S/T))部位を含む。表1において、Asn(N)残基は、太字で示され、下線が引かれている。Kunitzドメイン2において、N25(ドメインの初めからのナンバリング)は、潜在的なグリコシル化部位である。この位置は、セリンプロテアーゼと接触する残基から遠く、この部位でのグリコシル化は、プロテアーゼの結合性または阻害を干渉する可能性は低い。リンカー3における第2のAsnのグリコシル化もまた、活性に影響する可能性は低い。Kunitzドメイン3における第3の潜在的部位は、結合部位から遠く、この部位におけるグリコシル化は、プロテアーゼへの結合性またはプロテアーゼの阻害を妨害しないだろう。
表3は、TFPIをコードするcDNAを示している。推定シグナル配列をコードするDNAは、塩基133〜塩基216(下線部)である。表32は、ウサギTFPIについてのcDNAを示している。そこでは、より短いシグナル配列が同定される。成熟タンパク質は、塩基217〜1044によってコードされる。表4は、CHOまたはHEK293T細胞において発現され得るTFPIの改変配列を有するベクターであるpFTFPI_V1の注釈つきのDNA配列を示している。改変により、制限酵素認識部位がもたらされ、TFPIの部分が容易に変更され得る。他のベクターおよび他のシグナル配列が、使用され得る。DNA配列を改変することにより、多くの制限酵素認識部位が導入され、その結果、TFPIの部分が、容易に除去または改変され得る。変更された塩基は、大文字、太字または下線として示される。表4の各行において、感嘆符(!)に続く各性質が解説である。同様の形式のこの表および他の表における裸のDNA配列は、感嘆符およびその行においてそれに続くすべての性質を低下させることによって回復され得る。
表4中のDNA配列は、ヒトTFPI cDNAおよび表15中のオリゴヌクレオチドを使用して構築され得る。第1のcDNAは、鋳型として使用され、ONMatureTおよびON1019L27は、829塩基セグメントのコード領域を増幅するために使用される。このDNAは、プライマー1:(ONSfiT、ONSacHinL)、2:(ONSacHinU、ONMluIL)、3:(ONMluIU、ONBBBL)、4:(ONBBBU、ONXhoBamL)、5:(ONXhoBamU、ONBsmBIL)、6:(ONBsmBIU、ONApaSalL)、7:(ONApaSalU、ONSac2L)、8:(ONSac2U、ONBspE2L)、9:(ONBspE2U、ONBssH2L)および10:(ONBssH2U、ONfinalL)を使用する10回のPCR反応のための鋳型として使用され得る。この10個の産物(異なる1つの産物と重複した20以上の塩基を有する)を混合し、そして、プライマーONSfiTおよびONfinalLで増幅されることにより、874塩基の産物が生成される。この核酸をSfiIおよびXbaIで切断し、同様に切断された発現ベクターにライゲーションする。
実施例2:h.pKalおよびヒト好中球エラスターゼを阻害するTFPI誘導体
ヒト好中球エラスターゼおよびヒト血漿カリクレインは、両方とも、冠状動脈バイパス手術(CBPS)に関連する炎症性応答に関与し得る。従って、ヒト好中球エラスターゼとヒト血漿カリクレインの両方を阻害するタンパク質は、患者を処置するために使用されるとき、例えば、冠状動脈バイパス手術の前、手術中、手術後に、有益な相乗効果を有し得る。
非常に強力で、かつ、ヒト血漿カリクレイン(h.pKal)およびヒト好中球エラスターゼの各々に特異的なインヒビターは、表9に示される遺伝子によってコードされる。変更されたアミノ酸は、太字で示され、変異した塩基は、太字かつ大文字で示される。制限酵素認識部位は、太字で示される。真核細胞において機能的な他の任意のシグナル配列が使用され得る。このタンパク質は、TF88890と名付けられる。この遺伝子は、表4に示される全長TFPIに対して使用されたベクターと同じベクターまたは任意の適当な発現ベクターにおいて発現され得る。発現ベクターを、SfiIおよびXbaIで切断し、その消化されたベクターDNAに、表9に示されるDNAをライゲーションする。表10は、TFPI Kunitzドメイン1およびKunitzドメイン2に変化をもたらすために使用され得るオリゴヌクレオチドを示している。その手順は、以下のとおりである。
ON1U23およびON718L21を用いたpFTFPI_V1のPCRにより、S174までの成熟配列を含む522塩基の産物PNK1が得られる。PNK1を鋳型として使用し、ON1U23およびONK1Botにより、TFPI Kunitzドメイン1の残基13〜20周辺に変更を含む141塩基の産物PNK2が得られる。Kunitzドメイン1内において、変更は、K15R、R17A、I18H、I19PおよびF21Wである。ONK1TおよびONK2B1を用いたPNK1のPCRにより、第1の産物と57塩基重複する265塩基の産物PNK3が得られる。このPCRによって、Kunitzドメイン2に変更:I13P、R15I、G16A、Y17F、I18F、T19PおよびY21Wが導入される。ONK2T1およびONK2B2を用いたPNK1のPCRにより、PNK3と51塩基の重複およびTFPI Kunitzドメイン2における変更を含む長さ104のPNK4が得られる。これにより、R32L、K34PおよびL39Qの変更が導入される。ONK2T2およびON718L21を用いたPNK1のPCRにより、長さ165のPNK5が得られる。PNK2、PNK3、PNK4およびPNK5を混合し、ONSfiTopおよびBotAmpを使用して、573塩基のフラグメントを増幅する。最終PCR産物をSfiIおよびXbaIで切断し、同様に切断された発現ベクターにライゲーションする。この新しいベクターをpFTFPI_V2と呼ぶ。
pFTFPI_V2によってコードされる分子であるTF88890は、以下の特徴を有すると予想される。第1のKunitzドメインは、ヒト血漿カリクレインを阻害し、第2のKunitzドメインは、ヒト好中球エラスターゼ(hNE)を阻害する。この成熟タンパク質は、174アミノ酸であるはずであり、N117およびN167においてグリコシル化され得る。N117は、Kunitzドメイン2における26位である。この部位は、タンパク質においてプロテアーゼ結合部位と異なる側に位置するので、プロテアーゼとの結合性を干渉しないと予想される。N167は、リンカー3中に存在し、hNEの阻害を干渉しないと予想される。このタンパク質は、S174で終結する。MMP−8およびMMP12は、野生型TFPIをこの部位で切断する。従って、この配列で終結しているタンパク質は、野生型TFPIのMMP−8またはMMP12の切断から生じたものであるので、そのようなペプチドの存在は、免疫応答を引き起こす可能性が低い。TF88890の予想される分子量は、19KDa+糖鎖である。細胞表面結合と関与するTFPIの領域が存在しないので、TF88890は、TFPIとは異なり細胞表面と結合しないと予想される。TF88890の分子量は、約14KDaであり、血清中での滞留時間は短いだろう。短い滞留時間は、冠状動脈バイパス手術を受ける患者を処置するためには有用であり得る。しかしながら、長い滞留時間は、例えば、1つ以上のポリマー部分(例えば、PEG部分)を付着することによって、操作され得る。
TF88890に対する代替の構造を、以下の表20〜25に示す。さらなる代替の構造は、塩基508〜579が欠失した表9に示される配列を使用したものである。この構築物は、TF88890Sであり、2つの潜在的なグリコシル化のN結合型部位を有する150アミノ酸を含み得る。TF88890Sは、ヒト血漿カリクレインおよびヒト好中球エラスターゼを阻害し得る。これらの表中の配列は、代表的な成熟アミノ酸配列である。これらの配列を含むタンパク質を分泌によって生成するために、真核細胞(例えば、哺乳動物(例えば、CHOまたはHEK293T)細胞もしくは酵母細胞(例えば、Pichia pastoris))または細菌細胞(例えば、E.coliまたはCaulobacter crescentus)における発現に適したシグナル配列が付加され得る。
3個以上のグリコシル化部位を含まないように、例えば、このタンパク質が、N結合型グリコシル化部位を有しないように、このタンパク質は、消化され得る。
Kunitzドメインは、リンカー、例えば、親水性で可撓性のリンカー(例えば、リンカー:GGSGGSSSSSG)と接続され得る。T細胞エピトープを有しないリンカーが、特に有用である。MHC分子に対するすべてのリガンドは、(a)中型から大型の疎水性アミノ酸(VILMFWY)または(b)荷電アミノ酸(EDRKH)から選択される少なくとも1または2個のアミノ酸タイプを含む。従って、これらのアミノ酸のいずれかを含まないリンカー(例えば、12アミノ酸のリンカー)は、隣接するKunitzドメイン由来の残基の近位から生じ得るエピトープを含むMHC−Iネオ−エピトープの生成を回避する。2つ以上のリンカーを使用する場合(例えば、少なくとも3つのKunitzドメインを有するタンパク質に対して)、Kunitzドメイン間のリンカーは、異なり得る。
例えば、TF88890−2は、TF88890の構造の代替物であり、表20に示される。TF88890−2は、2コピーのTFPI−Kunitzドメイン1を含み、ヒト血漿カリクレイン(h.pKal)のインヒビターにするために第1リンカーが改変され、ヒト好中球エラスターゼのインヒビターにするために第2リンカーが改変されている。
成熟TF88890−3のアミノ酸配列を表21に示す。TF88890−3は、3コピーのTFPI−Kunitzドメイン1を含み、ヒト血漿カリクレインのインヒビターにするために第1および第3リンカーが改変され、ヒト好中球エラスターゼのインヒビターにするために第2リンカーが改変されている。TFPI−Kunitzドメイン1の例は、いかなるT細胞エピトープももたらさないと予想される、親水性で可撓性のリンカー(GGSGGSSSSSG)によって接続されている。第1または第3のKunitzドメインは、異なるプロテアーゼを阻害するように改変され得、それにより、3重特異性のインヒビターがもたらされる。高い分子量は、血清中での滞留時間を延ばすと予想される。
成熟TF88890−4のアミノ酸配列を表22に示す。TF88890−4は、4コピーのTFPI−Kunitzドメイン1を含み、h.pKalのインヒビターにするために第1および第3のリンカーが改変され、ヒト好中球エラスターゼのインヒビターにするために第2および第3のリンカーが改変されている。TFPI−Kunitzドメイン1の例は、いかなるT細胞エピトープももたらさないと予想される、親水性で可撓性のリンカー(GGSGGSSSSSG)によって接続されている。このリンカーは、すべて同じである必要はない。4つすべてのKunitzドメインが、異なるプロテアーゼに特異的であり得る。
成熟TF88890−5のアミノ酸配列を表23に示す。TF88890−5は、4コピーのTFPI−Kunitzドメイン1を含み、h.pKalのインヒビターにするために第1および第3のリンカーが改変され、ヒト好中球エラスターゼのインヒビターにするために第2および第3のリンカーを改変している。TFPI−Kunitzドメイン1の例は、いかなるT細胞エピトープももたらさないと予想される、親水性で可撓性のリンカー(GGSGNGSSSSGGSGSG)によって接続されている。示されるリンカーの各々が、N結合型グリコシル化部位(NGS)を含む。真核細胞において産生される場合、TF88890−5は、3つの部位において、溶解性および血清滞留時間を増大させるはずである糖鎖を有するはずである。それらのリンカーは、同じである必要はない。4つすべてのKunitzドメインが、異なるプロテアーゼに特異的であり得る。
実施例3:TFPIに基づくヒトプラスミンh.pKalおよびヒト好中球エラスターゼのインヒビター
表16は、ヒトTFPI由来のタンパク質でPlaKalEl01と命名されるアミノ酸配列を示している。配列KGGLIKTKRKRKKQRVKIAYEEIFVKNMは、野生型TFPIのC末端由来であり;この配列は、細胞との結合性およびTFPIが遺伝子発現に対して有する効果に関与する。この配列の除去およびKunitzドメイン3における変更によって、細胞と結合せず、かつ、細胞の遺伝子発現を調節しないタンパク質がもたらされる。Kunitzドメイン1において、本発明者らは、Kunitzドメイン1の残基15をLysからArgに変更した。残基17において、本発明者らは、IleをArgに変更した。残基18において、MetをPheに変更する。残基19において、本発明者らは、LysをAspに変更する。残基21において、本発明者らは、PheをTrpに変更する。これらの変更により、ヒトプラスミンの強力なインヒビターであるDX−1000と同一のKunitzドメインがもたらされる。
Kunitzドメイン2では、本発明者らは、以下の変更を行う(すべてがKunitzドメイン内の位置で示される):I13P、G16A、Y17A、I18H、T19P、Y21W、K34IおよびL38E。これらの変更により、ヒト血漿カリクレインと接触するKunitzドメインの一部においてDX−88に非常に類似したKunitzドメインがもたらされる。このドメインは、ヒト血漿カリクレインの強力で特異的なインヒビターである可能性が非常に高い。
Kunitzドメイン3では、本発明者らは、以下の変更を行う:L13P、R15I、N17F、E18F、N19P、K34P、S36G、G39Q。これにより、Kunitzドメインは、非常に特異的なヒト好中球エラスターゼのインヒビターであるDX−890に非常に類似する。PiroおよびBrozeによって報告されたように(Circulation 2004,110:3567−72.)、非常に基礎的なC末端テイルを除去することにより、細胞への結合性が大きく低下する。PiroおよびBrozeはまた、Kunitzドメイン3のR15をLeuに変更することにより、細胞との結合性が大きく低下すると報告した。
PlaKalEl01をコードする遺伝子は、以下のとおり構築され得る。表17に示されるオリゴヌクレオチドを、ヒトTFPIのcDNA(表3に示される)とともにプライマーとして使用する。まず、オリゴヌクレオチドGet_TFPI_topおよびON937L24を使用してコドン1〜コドン276のコード配列を増幅し、それにより、3’末端のコドンが切断される。この828塩基の産物をPKE_P1と呼び、それを6回のPCR反応:a)Get_TFPI_topおよびMutK1:310L43でPKE_P2(220塩基)を生成し、b)MutK1:310U43およびMutK2:517L56でPKE_P3(263塩基)を生成し、c)MutK2:517U56およびMutK2:577L47でPKE_P4(107塩基)を生成し、d)MutK2:577U47およびMutK3:792L55でPKE_P5(270塩基)を生成し、e)MutK3:792U55およびMutK3:867L31でPKE_P6(106塩基)を生成し、そしてf)MutK3:867U31およびONLowCapPKEでPKE_P7(114塩基)を生成するPCR反応のために鋳型として使用する。PKE_P2からPKE_P7を混合し、プライマーONLowCapPKEおよびONNcoIを用いてPCR増幅することにより、末端にNcoIおよびXbaI部位を有する861塩基の産物が得られた。このフラグメントをSfiIおよびXbaIで切断し、そして、真核細胞における発現のために、表9に示されるような発現カセットを有する、同様に切断された発現ベクター(例えば、pFcFuse)にライゲーションする。
実施例4:MMPによる切断に耐性であるPlaKalEl01の改変
MMP−8に対する既知の基質を表42に示す。P3におけるP、P1におけるGおよびP1’におけるIまたはLに対する優先傾向に注意するべきである。MMP−12に対する既知の基質を表43に示す。
表42:MMP−8の基質(MEROPS(http://merops.sanger.ac.uk/)に拠る)
Figure 2009521926
表43:MMP−12に対するいくつかの既知基質の切断
Figure 2009521926
基質
1:アルファ1−プロテイナーゼインヒビター(Homo sapiens)
2:アルファ1−プロテイナーゼインヒビター
3:アルファ1−プロテイナーゼインヒビター
4:インスリンB鎖(酸化型)
5:インスリンB鎖(酸化型)
すべてに対する参考文献:Shapiro,S.D.,Hartzell,W.O.& Senior,R.M.Macrophage elastase.Handbook of Proteolytic Enzymes,2 edn(Barrett,A.J.,Rawlings,N.D.& WoessnerJ.F.eds),p.540−544,Elsevier,London(2004)。
表30は、PlaKalEl02のアミノ酸配列を示している。このタンパク質は、コドン49が、LeuをコードするコドンからProをコードするに変更されており、コドン112が、IleをコードするコドンからProをコードするコドンに変更されており、そしてコドン203が、ThrをコードするコドンからProをコードするコドンに変更されており、それによって、MMP−8またはMMP−12による切断が妨害されるという点でPlaKalEl01と異なる。多くのプロテアーゼは、Proの前で切断することが困難であり、MMP−8またはMMP−12の既知基質のいずれもが、P1’位にProを有する。
実施例5:半減期、メタロプロテイナーゼおよびシステインプロテアーゼ
タンパク質(例としては、タンパク質PlaKalEl01)の半減期は、1)ペグ化、2)Fcのアミノ末端またはカルボキシ末端のいずれかにおけるFc(例えば、IgGのFcドメイン)との融合(例えば、PlaKalEl01::FcまたはFc::PlaKalEl01)、3)アミノ末端またはカルボキシ末端におけるヒト血清アルブミン(またはそのフラグメント)との融合(例えば、PlaKalEl01::hSAまたはhSA::PlaKalEl01、または4)分子量が、許容できる半減期となるのに十分大きくなるまでタンパク質の多量体を形成することをはじめとした方法によって延長され得る。
表18は、PlaKalEl::GGSGGSGGSGGSGG::hSA融合タンパク質のアミノ酸配列を示している。この分子は大きいが、その半減期は、IgGまたはhSAと同程度の数週間であり得る。
PlaKalEl01二量体を表19に示す。リンカー5の後ろに、公知の抗原性配列を回避する13アミノ酸のグリシンリッチ親水性リンカーが挿入される。この後ろに、成熟PlaKalEl01配列のもう1つのコピーが続く。得られたタンパク質は、509成熟アミノ酸配列のPKEPKE02を有する。分子量が高いことから、この分子にPlaKalEl01よりも一層長い半減期をもたらすと予想される。PKEPKE02および関連タンパク質は、60kDaを超える分子量を有すると予想され、数日という半減期を有し得る。
PKEPKE02は、ヒトプラスミン、h.pKalおよびヒト好中球エラスターゼの各々に対して2つの阻害性部位を有する。このタンパク質のKunitzドメインを、さらに操作することにより、6つ以下の異なるセリンプロテアーゼを特異的に阻害するタンパク質が生成され得る。さらに、このタンパク質は、a)他のセリンプロテアーゼ、b)メタロプロテイナーゼ、またはc)システインプロテイナーゼを阻害する1つ以上の短いペプチド配列との融合によって改変され得る。
哺乳動物細胞または酵母における発現、例えば、分泌型発現に適したベクター中の機能的なシグナル配列の後ろに、PKEPKE02をコードする遺伝子を挿入する。例えば、PKEPKE02をコードするDNA配列は、表9に示されるものと類似の発現カセットを有する発現ベクターのSfiI部位とXbaI部位の間に挿入される。表9に示されるようなシグナル配列を使用し、その後ろに、表9におけるような1つまたは2つの終止コドンを有するアミノ酸配列を続けることも可能である。
表31は、ヒト好中球エラスターゼを阻害するために設計された6つのKunitzドメインを含むタンパク質であるElsixの配列を示している。この配列は、TFPIの二量体由来である。変異は、太字で示されている。Kunitzドメイン1において、変異は、K15I、I17F、M18F、K19PおよびE39Qである。Kunitzドメイン2において、変異は、I13P、R15I、G16A、Y17F、I18F、T19PおよびL39Qである。Kunitzドメイン3において、変異は、L13P、R15I、N17F、E18F、N19P、S36GおよびG39Qである。Kunitzドメイン4は、Kunitzドメイン1の繰り返しである;Kunitzドメイン5は、Kunitzドメイン2の繰り返しであり、Kunitzドメイン6は、Kunitzドメイン3の繰り返しである。2つの半分の部分を接続するリンカーは、GlyおよびSerから構成される。nとして示される6つのグリコシル化可能部位が存在する(Kunitzドメイン2のN25における部位、リンカー2におけるN17における部位、Kunitzドメイン3におけるN44における部位および改変TFPIの第2のコピーにおける3つより多い部位)。
表24は、TF890−6の成熟アミノ酸配列を示している。この分子は、各々がヒト好中球エラスターゼを阻害するように設計された6つの同一のKunitzドメインを有する。TFPI Kunitzドメイン1は、変異K15I、I17F、M18F、K19PおよびE39Qによって改変されている。このアミノ酸配列をコードする2個以上のE24 DNA配列が存在する。好ましくは、Kunitzドメインの各例は、遺伝的不安定性の可能性を回避するために異なるものであり得る。リンカーは、各々12アミノ酸長であり、グリシンおよびセリンから構成される。この長さは、次のKunitzドメインのアミノ末端のアミノ酸と組み合わせた1つのKunitzドメインのカルボキシ末端のアミノ酸が、MHC−Iに対するエピトープを形成しない程度の長さである。全体的にグリシンおよびセリンから構成されるペプチドは、MHC−Iエピトープと密接に結合しない可能性がある。
分泌による発現のために、シグナル配列をコードする配列を、TF890−6をコードするDNAの前に付加し得る。分泌による真核生物での発現のために、真核生物のシグナル配列を付加すること、および、Pichia pastorisまたは哺乳動物細胞においてタンパク質を発現することが可能である。TF890−6が、408アミノ酸を含むので、その分子量は、約44.8KDaであり、この分子量は、より少ないKunitzドメインを有するタンパク質と比べて、このタンパク質の血清滞留時間を延長し得る。
表25は、548アミノ酸を含み、およその分子量が60.3KDaであり得るTF890−8のアミノ酸配列を示している。TF890−8は、同一のアミノ酸配列の8つのKunitzドメインを含む。このリンカーは、グリシンおよびセリンから作製されており、すべてが、12アミノ酸長である。この分子は、ヒト好中球エラスターゼに対して一重特異的であるが、DX−890(分子量が約7KDaである単一のKunitzドメイン)よりも長い半減期を有し得る。
同一のDNAの複数のリピートを有することを回避するために、(TF890−リンカー)(nは、1〜10であり得る)に対する遺伝子を以下のとおり操作することができる。表28は、短いリンカー、TFPI Kunitzドメイン1の改変バージョン(1−58番)および多くのリンカー(文字a−l)をコードするDNAを示している。これらの配列は、制限酵素消化を促進する配列を含むプライマーアニーリング配列と隣接している。表28の最後に、dsDNAを生成するためにPCRで使用され得るオリゴヌクレオチドがある。ONUPTF890およびONLPTF890は、上鎖(upper strand)PCRプライマーおよび下鎖(lower strand)PCRプライマーである。ONUATF890およびONUCTF890は、トップ鎖(top strand)であり、ONLBTF890は、下鎖である。CCの後ろで各鎖を切断するBsu36IでdsDNAを切断する。従って、重複は、上鎖における5’−TCA−3’および下鎖における5’−TGA−3’である。これは、ライゲーションによってトップ鎖が連結されることを意味する。本発明者らが、パリンドロームオーバーハングを生成する酵素を使用する場合、トップ鎖とボトム鎖(bottom strand)とがランダムに接続され得る。切断後、長い挿入断片は、複数の挿入断片の挿入に好ましい条件下で、適合するBsu36I部位を有するベクターにライゲーションされる。Bsu36I挿入部位の外側のプライミング部位を使用して、本発明者らは、単離物をスクリーニングすることにより、3、4、5、6、7または8つの挿入断片を有するものを見つけ出す。そのベクターは、真核細胞、好ましくは、哺乳動物細胞において発現できるように設計され得る。表28に示されるように、残基S3−F20、I25−R47およびC51−X_hに対するコドンは、コードされたKunitzドメインアミノ酸配列を維持する様式で変更されるが、DNAの多様性を最大にする。リンカー中の残基は、GまたはSのいずれかであり得る。従って、単位鎖は、正確に同一の短いセグメントを有する。
実施例6:Kunitzドメインの安定化
ジスルフィド結合を有するKunitzドメインは、高濃度かつ37℃における長期間の貯蔵においてオリゴマー化できる。オリゴマー化は、モノマー間でのジスルフィド交換から生じ得る。C14−C38ジスルフィドは、基準のKunitzドメインの表面上に露出しており、他のKunitzドメイン上のシステインと交換することにより、分子間結合が形成され得る。従って、標的プロテアーゼを阻害するが、オリゴマーを形成する可能性が低いKunitzドメインは、C14−C38ジスルフィドの除去によって設計され得る。特に、これらの位置におけるシステイン残基は、システイン以外のアミノ酸(例えば、アラニン、グリシンまたはセリン)に変異され得る。1つの実施形態において、それらの変異は、C14GまたはC38Vである。そのような変異Kunitzドメインは、融解に関して安定性が低いことがあるが、多量体化に関しては安定性が高いことがある。
TFPI Kunitzドメイン1は、変異K15I、I17F、M18F、K19PおよびE39Qによって、ヒト好中球エラスターゼの強力なインヒビターに操作され得る。14−38ジスルフィドを排除するために、Hagiharaら(Hagiharaら、2002,J Biol Chem,277:51043−8)によって見出されたように変異C14GおよびC38Vが作製され得る。これにより、ヒト好中球エラスターゼへの結合性を低下させ得る。表26は、TFPI Kunitzドメイン1に対するディスプレイカセットを示しており、ここで、ヒト好中球エラスターゼに対する親和性をもたらすために、変異K15I、I17F、M18FおよびK19Pが作製される。さらに、12、13、14、38および39位は、Cys以外の任意のアミノ酸であり得る。これにより、2,476,099という多様性がもたらされる。NHKは、アミノ酸FLSY<終止>PHQIMTNKVADEをコードするのに対し、BGGは、アミノ酸WRGをコードすることに注意されたい。これらのコドンの両方を使用することによって、本発明者らは、Cys以外のすべてのアミノ酸を許容する。ONTAAAxCは、NcoI制限酵素認識部位ならびにコドン12、13および14においてNHKを含むT27までのコドンを有する。ONTAABxCは、12および13がNHKであること、ならびに、14がBGGであることを除いて同じ範囲を網羅する。ONTABAxCは、13にBGGならびに12および14にNHKを有する。ONTABBxCは、13と14の両方にBGGおよび12にNHKを有する。ONTBAAxC、ONTBABxC、ONTBBAxCおよびONTBBBxCはすべて、最初の4つのオリゴヌクレオチドと同じパターンで、12にBGG、13および14にNHKまたはBGGを有する。従って、12、13および14は、C以外の任意のAAであり得る。ONLoAAxCは、コドンR20〜E49(XbaI部位である)+scab DNAを網羅する。ONLoAAxCが、下鎖であるので、NHKおよびBGGの逆相補、すなわちMDNおよびccVを有する。表27は、このストラテジーを実施し得るオリゴヌクレオチドを示している。8つの長いオリゴヌクレオチドを混合し、短いオリゴヌクレオチドをプライマーとして使用して、NcoIからXbaIまでのDNAを生成する。そのPCR産物をNcoIおよびXbaIで切断し、TFPI Kunitzドメイン1またはNcoIおよびXbaI部位を有するその誘導体を含んでいるDY3P82のバージョンにライゲーションする。表29は、M13 IIIの断端上にTFPI Kunitzドメイン1を提示するファージベクターであるDY3P82TFPI1の注釈つきの配列を含む。DY3P82TFPI1は、野生型M13 iii遺伝子および、a)ディスプレイの発現が、グルコースによって抑制され得、IPTGによって誘導され得るように、そしてb)ほとんどのファージが、1つ以下のKunitzドメイン::III断端タンパク質を提示するようにPLacによって調節されるディスプレイ遺伝子を有する。これにより、非常に好ましい結合物と単なる適切な結合物とを区別することが可能になる。本発明者らは、ヒト好中球エラスターゼに対する結合物をファージのライブラリーから選択する。DX−890が、K約3pMでヒト好中球エラスターゼと結合するので、非常にストリンジェントな洗浄を使用する。さらに、DX−890を溶出剤として使用してもよい。
14−38ジスルフィドを有さず、標的プロテアーゼを阻害するKunitzドメインを選択することができると予想される。一旦、高親和性の結合およびヒト好中球エラスターゼの阻害をもたらすアミノ酸配列が決定されると、実施例5に示されたような多量体のライブラリーを構築することができる。このアプローチは、任意のKunitzドメインならびに任意の標的プロテアーゼおよび複数の標的プロテアーゼに適用され得る。例えば、ヒト血漿カリクレインが標的である場合、12、13、14、38および39位においてDX−88の配列を変化させることができ、様々なアミノ酸からCysのみが排除される。
実施例7:PKおよび免疫原性研究のためのウサギTFPIの誘導体
表32は、ウサギTFPIのアミノ酸配列を示している。表33は、ウサギTFPIのcDNAを示している。表34は、ウサギTFPIの操作された誘導体であるRaTFPKE01を示している。Kunitzドメイン1において、変異は、Kunitzドメイン1に対してヒトプラスミン阻害活性をもたらすように設計された、Y17R、I18F、K19DおよびF21Wである。Kunitzドメイン2において、変異は、Kunitzドメイン2に対してh.pKa1の阻害をもたらすように設計された、I13P、G16A、Y17A、I18H、T19PおよびL39Eである。Kunitzドメイン3において、変異は、Kunitzドメイン3に対してヒト好中球エラスターゼ阻害をもたらすように設計された、L13P、Q15I、N17F、E18F、I19P、S36GおよびG39Qである。C末端の基礎的なペプチドを切断する。このタンパク質は、PlaKalEl01と同じ様式でCHO細胞において産生され得る。このタンパク質は、約30KDa+糖鎖という分子量を有するはずである。6つのNx(S/T)部位が存在し得るが、1つは、NPTであり、グリコシル化される可能性が低い。本発明者らは、第3のKunitzドメインを変化させ、リシンリッチのC末端ペプチドを除去したので、RaTFPKE01は、妥当な半減期を有するはずであり、細胞に結合しないはずである。
表36は、RaTFPKE01をコードする遺伝子を示している。この配列は、a)シグナル配列、b)ウサギTFPI由来の第1のリンカー、c)下線が引かれたシステインコドンおよび大文字の太字で示された変異を有するKunitzドメイン1、d)第2のリンカー、e)Kunitzドメイン2、f)第3のリンカー、g)Kunitzドメイン3、およびg)最後のリンカーを示すように配置されている。表37は、ウサギTFPI cDNA由来の表36の遺伝子を構築するために使用され得るオリゴヌクレオチドを示している。まず、ウサギTFPI cDNAならびにONrSfiおよびTruncLoを使用して、776塩基の産物PrTF1を生成する。PrTF1は、ONrSfiおよびONrK1Botとともに鋳型として使用することにより、162塩基のオリゴヌクレオチドであるPrTF2が生成される。PrTF1は、ONrK1TopおよびONrK2Bot1とともに鋳型として使用することにより、239塩基のオリゴヌクレオチドであるPrTF3が生成される。PrTF1は、ONrK2To1およびONrK2B2とともに鋳型として使用することにより、103塩基のオリゴヌクレオチドであるPrTF4が生成される。PrTF1は、ONrK2T2およびONrK3B1とともに鋳型として使用することにより、236塩基のオリゴヌクレオチドであるPrTF5が生成される。PrTF1は、ONrK3T1およびONrK3B2とともに鋳型として使用することにより、99塩基のオリゴヌクレオチドであるPrTF6が生成される。PrTF1は、ONrK3T2およびONrXbaILとともに鋳型として使用することにより、117塩基のオリゴヌクレオチドであるPrTF7が生成される。PrTF2〜7を混合し、ONrSfiおよびONrXbaILをプライマーとして使用することにより、790塩基のオリゴヌクレオチドであるPrTF8が生成され、それをSfiIおよびXbaIで切断し、同様に切断された発現ベクターにライゲーションする。
表40は、ウサギTFPIの誘導体である成熟RaTFPKE04のアミノ酸配列を示している。RaTFPKE04は、RaTFPKE01の変異のすべてを有し、Kunitzドメインの各々においてC14GおよびC38Vを有する。この目的は、RaTFPKE01よりも凝集する可能性の低いタンパク質を作製することである。
表35は、2コピーの成熟RaTFPKE01をリンカー=GGSGSSGSGGSGSSGと接続することにより形成される509AAタンパク質であるRaTFPKE02のアミノ酸配列を示している。この成熟タンパク質は、約56Kda+糖鎖という分子量を有するはずである。RaTFPKE02は、ウサギにおいて長い半減期(half−like)を有するはずであり、免疫原性を有しないはずである。表41は、成熟RaTFPKE05のアミノ酸配列を示している。RaTFPKE05は、RaTFPKE02と類似しているが、各Kunitzドメインにおいて、C14は、Gに変更され、C38は、Vに変更されている。RaTFPKE05は、RaTFPKE02よりも凝集する可能性が低い。
実施例8:hNE、hPr3およびhGatGに対するインヒビター
好中球は、活性化されたとき、3つのセリンプロテアーゼ:好中球エラスターゼ(hNE,白血球エラスターゼとしても知られる)、プロテイナーゼ3(Pr3)およびカテプシンG(CatG)を放出する。過剰な好中球の活性化によって引き起こされる損傷を阻止するために、これらのプロテアーゼの2つ以上、例えば、各々親和性および特異性が高い3つすべてのプロテアーゼを阻害する薬剤を使用することができる。ヒト好中球エラスターゼを阻害するKunitzドメインが知られている。CatGのインヒビターは、Kunitzドメインのライブラリーからのセレクションによって得ることができる(米国特許第5,571,698号)。PR3に対するインヒビターは、同様の様式でKunitzドメインライブラリーから得ることができた。
1つの実施形態において、次いで、Pr3阻害活性をもたらすアミノ酸残基(resides)は、別のKunitzドメイン、例えば、マルチドメインタンパク質(例えば、3つのKunitzドメインを含むタンパク質)のKunitzドメインに転移され得る。CatG阻害活性をもたらすアミノ酸残基は、同様に、そのタンパク質の別のKunitzドメインに転移され得る。hNE阻害活性をもたらすアミノ酸残基は、第3のドメインに転移され得る。
別の実施形態において、好中球エラスターゼ、プロテイナーゼ3およびカテプシンGを阻害するKunitzドメインは、例えば、様々なKunitzドメインを含む融合タンパク質を形成することによって互いに物理的に会合する。
いくつかの実施形態において、操作されたタンパク質は、細胞に結合せず、また、以下の特性:(a)好中球ディフェンシンの存在下で機能する能力、(b)MT6−MMP(ロイコリジン)による分解に耐える能力、(c)陰イオン性表面に結合したプロテアーゼを阻害する能力、(d)好中球からのIL−8の産生ならびに単球からのTNFαおよびIL−1βの産生を減少させる能力の1つ以上(例えば、以下の2、3または4つ)を有し得る。
実施例9:動物における薬物動態
以下の方法を使用して、動物、例えば、マウスおよびウサギにおけるタンパク質(例えば、Kunitzドメインを含むタンパク質)の薬物動態(PK)を評価することができる。
試験されるタンパク質を、ヨードジェン(iodogen)法(Pierce)を使用してヨウ素(125I)で標識する。反応チューブを反応緩衝液(25mM Tris、0.4M NaCl,pH7.5)ですすぐ。そのチューブを空にし、次いで、0.1mlの反応緩衝液および12μLの無担体ヨウ素−126,約1.6mCiを加える。6分後、活性化ヨウ素を、試験されるタンパク質を含むチューブに移す。9分後、反応を25μLの飽和チロシン溶液で終結させる。反応物を、Tris/NaCl中の5mlのD−塩ポリアクリルアミド6000カラムによって生成することができる。HSAを使用して、ゲルへの固着を最小限にすることができる。
十分な数のマウス(約36匹)を入手する。各動物の体重を記録する。マウスの場合、それらの動物の尾静脈に約5μgの試験タンパク質を注射する。注射の約0、7、15、30および90分、4時間、8時間、16時間および24時間後に、1匹につき1時点(1時点あたり4匹)でサンプルを回収する。サンプル(約0.5ml)を抗凝血剤(0.02mlのEDTA)中に回収する。細胞を遠心分離し、血漿/血清と分離する。放射線計測およびインライン放射線検出によるHPLCにおけるSECペプチドカラムによって、サンプルを解析することができる。
ウサギの場合、材料を耳静脈に注射する。注射の0、7、15、30、90分、4、8、16、24、48、72、96、120および144時間後に、サンプルを回収し得る。マウスの場合と同様に、サンプルを回収および解析し得る。
データを、インビボクリアランスの「速い」、「遅い」および「最も遅い」期を説明する二指数関数的崩壊曲線(方程式1)または三指数関数的崩壊曲線(方程式2)に当てはめることができる:
Figure 2009521926
ここで:
y=その時点(=投与後のt)における血漿中に残存する標識の量
A=「速い」クリアランス期における総標識
B=「遅い」クリアランス期における総標識
C=「最も遅い」クリアランス期における総標識
α=「速い」クリアランス期の崩壊定数
β=「遅い」クリアランス期の崩壊定数
γ=「最も遅い」クリアランス期の崩壊定数
t=投与後の時間
以下のように、α、βおよびγ期の崩壊定数をそれぞれの期に対する半減期に変換することができる:
α期半減期=0.69(1/α)
β期半減期=0.69(1/β)
γ期半減期=0.69(1/γ)
二指数関数的な方程式を使用してデータを当てはめる場合において、αおよびβ期を通じてのインビボ循環からクリアランスされる総標識のパーセンテージは、以下のとおり算出される:
%α期=[A/(A+B)]×100
%β期=[B/(A+B)]×100
三指数関数的な方程式を使用してデータを当てはめる場合において、αおよびβ期を通じてのインビボ循環からクリアランスされる総標識のパーセンテージは、以下のとおり算出される:
%α期=[A/(A+B+C)]×100
%β期=[B/(A+B+C)]×100
%γ期=[C/(A+B+C)]×100
実施例10:正に帯電したC末端領域を除いたTIFPをコードする遺伝子
表50は、CHO細胞における発現に最適化され、hTFPImC1をコードする遺伝子を示している。hTFPImC1は:a)シグナル配列、b)シグナルペプチダーゼによる切断によってもたらされる短いリンカー、c)コードされるマルチKuDomタンパク質の精製を容易にする6−hisタグ、d)トロンビン切断部位、e)TFPI2−270に対応するコドンを含む。この遺伝子は、CHO細胞などの哺乳動物細胞において発現され得る。コドン271〜304は、排除されている。残基271〜304は、TFPIが、細胞表面に結合すること、内部移行することおよび遺伝子発現を変化させることに関与する。これらの効果は、治療的なプロテアーゼインヒビターにおいて不要である。hTFPImC1は、His6タグを介して銅キレート樹脂上で精製され得る。このHisタグは、R38の後ろで切断するはずのトロンビンによる処理によって除去可能である。
表53は、真核細胞において発現できるように、表50の遺伝子を含むベクターのDNAを示している。表56は、hTFPImC1のアミノ酸配列を示している。N結合型グリコシル化が予想されるAsn残基は、上に「」を伴う太字のNで示される。
hTFPImC1は、表53に示されるベクターで形質転換されたHEK293T細胞において発現した。そのタンパク質をアフィニティークロマトグラフィで精製し、そして、サンプルをゲルクロマトグラフィで解析し、見かけの分子量が約42.5kDaであると示された。
hTFPImC1の細胞表面との結合をフローサイトメトリーによって試験したところ、検出可能な(バックグラウンドよりも高い)細胞表面との結合は示されなかった。
実施例11:改変TFPI,hTFPI[PpKhNE]
表51は、hTFPI[PpKhNE]に対する注釈つきの遺伝子を示している。hTFPI[PpKhNE]は、ヒトプラスミン(hPla)を阻害するように改変されたTFPIの第1のKuDom、ヒト血漿カリクレイン(h.pKal)を阻害するように改変された第2のKuDomおよびヒト好中球エラスターゼ(hNE)を阻害するように改変された第3のKuDomを有する。これらの特異性を達成するために、以下の変異を作製した。第1のKuDomにおいて、本発明者らは、抗プラスミン活性をもたたらす変異K15R、I17R、M18F、K19DおよびF21Wを作製した。第2のKuDomにおいて、本発明者らは、抗血漿カリクレイン活性をもたたらす変異I13P、G16A、Y17A、I18H、T19P、Y21W、K34IおよびL39Eを作製した。第3のKuDomにおいて、本発明者らは、抗ヒト好中球エラスターゼ活性をもたたらす変異L13P、R15I、N17F、E18F、N19P、K34P、S36GおよびG39Qを作製した。表54は、CHO細胞などの真核細胞において、表51に示される遺伝子の発現を可能にするベクターのDNA配列を示している。表57は、注釈つきのhTFPI[PpKhNE]のアミノ酸配列を示している。KuDomの各々に対して、野生型AAを実際のAA配列の下に示す。このタンパク質が、切断型であり、また、第3のKuDomが、改変されているので、細胞表面に結合しないと予想される(上記の実施例10を参照のこと)。hTFPI[PpKhNE]は、ヒトプラスミン(h.Pla)、ヒト血漿カリクレイン(h.pKal)およびヒト好中球エラスターゼ(hNE)を強く阻害すると予想される。
実施例12:Pla301B,ヒトプラスミンの3重インヒビター
表52は、ヒトTFPI由来であり、3つのKuDom(各々が、h.Plaを阻害するように設計されている)を有するタンパク質であるPla301Bをコードする遺伝子を示している。表55は、真核細胞におけるPla301Bの発現を可能にするベクターの配列を示している。表58は、Pla301Bのアミノ酸配列を示している。Pla301Bに対して抗h.Pla活性をもたらすために、本発明者らは、以下の変異を作製した。第1のKuDomにおいて、本発明者らは、変異K15R、I17R、M18F、K19D、F21Wを作製した。第2のKuDomにおいて、本発明者らは、変異I13P、G16A、Y17R、I18F、T19D、Y21WおよびK34Iを作製した。第3のKuDomにおいて、本発明者らは、変異L13P、N17R、E18F、N19D、F21W、K34I、S36GおよびG39Eを作製した。各KuDomは、h.Plaの強力なインヒビターであるはずである。
ヒトプラスミンは、ウロキナーゼタイププラスミノゲンアクチベーター(uPA)によって活性化されることが知られている。uPAは、ウロキナーゼタイププラスミノゲンアクチベーターレセプター(uPA−R)によって細胞表面に結合していることが多い。uPA−uPA−R複合体によって活性化されるh.Plaは、プラスミンレセプター(Pla−R)に結合することが多い。
Pla301Bは、表55に示されるベクターを用いてHEK293T細胞において発現した。このタンパク質をプラスミン阻害についてアッセイし、そして、活性であることが見出された。
実施例13:プラスミン、マトリプターゼおよびヘプシンを阻害するマルチプルKuDomインヒビター
HAI−1は、Kunitzドメイン1を介して(Kirchhoferら、FEBS Lett.2005 579(9):1945−50)マトリプターゼを阻害する(Herterら、Biochem J.2005 390(Pt1):125−36.)(HAI−1Bの第1のKunitzドメインは、HAI−1の第1のKunitzドメインと同一である)。HAI−2のドメイン1は、ヘプシンを阻害する(Parr and Jiang,Int J Cancer.2006 Sep 1;119(5):1176−83)。表61は、プラスミン、マトリプターゼおよびヘプシンを阻害するように設計されているタンパク質であるPlaMatHepのアミノ酸配列を示している。TFPIの第1のKuDomにおいて、本発明者らは、K15をRに、I17をRに、M18をFに、K19をDに、そしてF21をWに変異させた。これは、表7に示されるDX−1000(プラスミンの強力なインヒビター)に相当する。第2のKuDomにおいて、本発明者らは、I13をRに、Y17をSに、I18をFに、T19をPに、Y21をWに、E31をKに、R32をSに、そしてK34をVに変異させた。変異したドメインを、TFPI−K2matrとして表7に示し、野生型AAを小文字、変異を大文字で示す。これらの変化によって、マトリプターゼの強力なインヒビターであるPlaMatHepの第2のドメインが作製されるはずである。TFPIの第3のドメインにおいて、本発明者らは、R11をVに、L13をRに、N17をSに、E18をMに、N19をPに、F21をWに、K34をVに、S36をGに、E42をSに、そしてK48をEにする変異を作製した。K48E変異は、グリコアミノグリカン(glycoaminoglycan)と結合する機会を減少させる。これらの変化をTFPI−K3hepとして表7に示し、これらの変化により、ヘプシンの強力なインヒビターであるPlaMatHepの第3のドメインが作製されるはずである。表61に示されるタンパク質を発現する遺伝子は、本明細書中に示される他のTFPI誘導体の遺伝子から容易に構築される。

表1:ヒトLACI(TFPI)
Figure 2009521926
表2:ヒトLACI(TFPI)におけるKuDomのAA配列
Figure 2009521926
表3:ヒトLACI(TFPI)のcDNA
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表4:pFTFPI_V1の注釈つきのDNA配列
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表5:ヒト血漿カリクレインのインヒビターであるDX−88のAA配列
Figure 2009521926
表6:DX−88をコードするDNA
Figure 2009521926
表7:様々なBPTI関連KuDomの比較
Figure 2009521926
Figure 2009521926
表8:DX:88遺伝子
Figure 2009521926
表9:pFTFPI_V2における発現用のTF88890をコードする遺伝子
Figure 2009521926
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表10:成熟TFPI(1−174)のKuDom1およびKuDom2のリモデリングに対するON
(すべてのONは、5’から3’に記載される)
変異は、小文字の太字で示される。制限酵素認識部位は、大文字の太字である。
Figure 2009521926
表11:TFPI−2
Figure 2009521926
表12:TFPI2 KuDom2のライブラリー
Figure 2009521926
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表13:TFPI2 KuDom2を提示するディスプレイファージのDNA
Figure 2009521926
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表14:TFPI2 KuDom2のライブラリーを作製するためのON
Figure 2009521926
表15:表4に示される改変tfpi遺伝子を構築するためのON
Figure 2009521926
プライマーは、U/L欄に示されるとおりの上鎖(U)または下鎖(L)である。「Len」は、鋳型としてヒトtfpi cDNAおよびプライマーのU−L対とともに得られる産物の長さを示す。
大文字の塩基は、公開されているcDNA配列から逸脱したものを示す。制限部位を太字で示す。2つの制限酵素認識部位が重複している場合、一方に下線を引いた。
表16:改変ヒトTFPI=PlaKalEl01
Figure 2009521926
グリコシル化可能部位を「n」として示す。
表17:PlaKalEl01をコードする遺伝子を構築するためのON
Figure 2009521926
表18:PlaKalE101::(GGS)GG::hSA
Figure 2009521926
グリコシル化可能部位を「n」として示す。
表19:改変ヒトTFPI二量体=PKEPKE02
Figure 2009521926
グリコシル化可能部位を「n」として示す。
表20 TF88890−2
Figure 2009521926
表21 TF88890−3
Figure 2009521926
表22 TF88890−4
Figure 2009521926
表23 TF88890−5
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表24 TF890−6
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表25 TF890−8
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表26:14−38ジスルフィドの除去のためのライブラリー
Figure 2009521926
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表27:14−38ジスルフィドを欠損したKuDomライブラリーを構築するためのオリゴヌクレオチド
Figure 2009521926
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表28:定常AA配列以外の遺伝的多様性のためのライブラリー
リンカーを有するDX−890様TFPI K1ドメインをコードする遺伝子
ヌルライブラリー−DNAレベルでの多様性,すべてが同じAA配列をコードする
Figure 2009521926
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表29:TFPI KuDom1および誘導体を提示するファージベクター
Figure 2009521926
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Figure 2009521926
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表30:改変ヒトTFPI=PlaKalE102
Figure 2009521926
野生型からの変異を太字の大文字で示す。
グリコシル化可能部位を「n」として示す。
表31:改変ヒトTFPI二量体=ELsix
Figure 2009521926
野生型からの変異を太字の大文字で示す。
グリコシル化可能部位を「n」として示す。
表32:ウサギTFPIのAA配列
Figure 2009521926
表33:ウサギTFPIのcDNA配列
Figure 2009521926
表34:ウサギTFPIの誘導体であるRaTFPKE01のAA配列
Figure 2009521926
表35:ウサギTFPIの誘導体であるRaTFPKE02のAA配列
Figure 2009521926
は、グリコシル化され得る。
表36:ratfpke01のDNA
Figure 2009521926
表37:ウサギtfpiからratfpke01を作製するためのオリゴヌクレオチド
すべてのオリゴヌクレオチドが、5’→3’である
Figure 2009521926
表38:米国特許第6,583,108号の表4B
リフォールディングされたビクニン(7−64)による様々なプロテアーゼの阻害に対するKi値
Figure 2009521926
Figure 2009521926
表39:米国特許第6,583,108号からのビクニンのAA配列
Figure 2009521926
表40:ウサギTFPIの誘導体であるRaTFPKE04のAA配列
Figure 2009521926
は、グリコシル化され得る。
表41:ウサギTFPIの誘導体であるRaTFPKE05のAA配列
Figure 2009521926
表44:DX−890のアミノ酸配列
Figure 2009521926
表45:DX−1000のアミノ酸配列
Figure 2009521926
表50:C末端領域を除いた、最適化されたタグ化野生型TFPIであるhTFPImC1
Figure 2009521926
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Figure 2009521926
表51:プラスミン、pKalおよびhNeを阻害するTFPIである、hTFPI[PpKhNE]
Figure 2009521926
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表52:PLA301B
Figure 2009521926
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表53:C末端領域を除いた、最適化されたタグ化野生型TFPIをコードするベクター
Figure 2009521926
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表54:プラスミン、pKalおよびhNeを阻害するTFPIに対するベクター
Figure 2009521926
Figure 2009521926
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表55:DXMMMを含むベクター
Figure 2009521926
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Figure 2009521926
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表56:hTFPImC1のAA配列
Figure 2009521926
表57:hTFPI[PpKhNE]のAA配列
Figure 2009521926
Figure 2009521926
表58:PLA301Bのアミノ酸配列
Figure 2009521926
表60:19個のヒトKuDomを含む103個のKuDomにおけるAAタイプの分布
Figure 2009521926
Figure 2009521926
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表61:プラスミン、マトリプターゼおよびヘプシンを阻害する改変ヒトTFPIであるPlaMatHep
Figure 2009521926
他の実施形態は、以下の特許請求の範囲内である。

Claims (84)

  1. 1つ以上の操作されたプロテアーゼ阻害性配列を含み、2つ以上のヒトプロテアーゼを阻害する、単離されたタンパク質。
  2. 各々が10nM未満のKiで前記2つ以上のヒトプロテアーゼを阻害する、請求項1に記載のタンパク質。
  3. 各々が1nM未満のKiで前記2つ以上のヒトプロテアーゼを阻害する、請求項1に記載のタンパク質。
  4. 前記操作されたプロテアーゼ阻害性配列として、2つ以上のヒトプロテアーゼを阻害する単一の操作されたKunitzドメインを含む、請求項1に記載のタンパク質。
  5. 前記単一の操作されたKunitzドメインが、各々が10nM未満のKiで2つ以上のヒトプロテアーゼを阻害する、請求項4に記載のタンパク質。
  6. 前記操作されたプロテアーゼ阻害性配列として少なくとも2つのKunitzドメインを含む、請求項1に記載のタンパク質。
  7. 3つのKunitzドメインを含む、請求項6に記載のタンパク質。
  8. 4つのKunitzドメインを含む、請求項6に記載のタンパク質。
  9. 5つのKunitzドメインを含む、請求項6に記載のタンパク質。
  10. 少なくとも6つのKunitzドメインを含む、請求項6に記載のタンパク質。
  11. 前記Kunitzドメインの少なくとも1つが、天然に存在するヒトKunitzドメインのフレームワークを含むが、プロテアーゼ結合ループ中の少なくとも1つの残基において該天然に存在するヒトKunitzドメインと異なる、請求項6に記載のタンパク質。
  12. 前記Kunitzドメインの少なくとも1つが、TFPI Kunitzドメインのフレームワークを含むが、プロテアーゼ結合ループ中の少なくとも1つの残基において該TFPI Kunitzドメインと異なる、請求項11に記載のタンパク質。
  13. 少なくとも15キロダルトンの分子量を有する、請求項1に記載のタンパク質。
  14. 少なくとも30分というβ相半減期を有する、請求項1に記載のタンパク質。
  15. 前記Kunitzドメインの少なくとも1つが、ジスルフィド結合を2つだけ含む、請求項1に記載のタンパク質。
  16. 2つ以上のPEG部分で改変されている、請求項1に記載のタンパク質。
  17. 好中球エラスターゼ、プロテイナーゼ3およびカテプシンGからなる群から選択される少なくとも2つのプロテアーゼを阻害する、請求項1に記載のタンパク質。
  18. 好中球エラスターゼ、プロテイナーゼ3およびカテプシンGを阻害する、請求項17に記載のタンパク質。
  19. 関節リウマチ、多発性硬化症、クローン病、癌および慢性閉塞性肺障害からなる群から選択される障害の原因となる過剰な活性を有する2つ以上のプロテアーゼを阻害する、請求項1に記載のタンパク質。
  20. 前記タンパク質が、少なくとも2つのKunitzドメイン、好中球エラスターゼに特異的な第1のKunitzドメインおよびプロテイナーゼ3に特異的な第2のKunitzドメインを含む、請求項17に記載のタンパク質。
  21. 前記第1のKunitzドメインが、前記第2のKunitzドメインのC末端側である、請求項20に記載のタンパク質。
  22. ヒト血漿カリクレインおよびヒト好中球エラスターゼを阻害する、請求項1に記載のタンパク質。
  23. ヒト好中球エラスターゼ、プロテイナーゼ3、カテプシンGおよびトリプターゼの2つ以上を阻害する、請求項1に記載のタンパク質。
  24. ヒトカリクレイン6(hK6)、ヒトカリクレイン8(hK8)およびヒトカリクレイン10(hK10)の2つ以上を阻害する、請求項1に記載のタンパク質。
  25. hK6およびヒト好中球エラスターゼを阻害する、請求項1に記載のタンパク質。
  26. ヒト組織カリクレイン(h.K1)およびヒト血漿カリクレインを阻害する、請求項1に記載のタンパク質。
  27. プラスミン、ヘプシン、マトリプターゼ、エンドセリアーゼ1およびエンドセリアーゼ2からなる群から選択される少なくとも2つのプロテアーゼを阻害する、請求項1に記載のタンパク質。
  28. 前記タンパク質が、10nM未満のKiで各々のプロテアーゼを阻害する、請求項17、18または22〜27に記載のタンパク質。
  29. (i)DX−88またはDX−88のプロテアーゼ結合ループ中のアミノ酸残基の少なくとも90%を含むKunitzドメイン、および(ii)DX−890またはDX−890のプロテアーゼ結合ループ中のアミノ酸残基の少なくとも90%を含むKunitzドメインを含む、請求項1に記載のタンパク質。
  30. 少なくとも2つのKunitzドメインを含み、その各々が、DX−88またはDX−88のプロテアーゼ結合ループ中のアミノ酸残基の少なくとも90%を含むKunitzドメインである、請求項1に記載のタンパク質。
  31. 少なくとも2つのKunitzドメインを含み、その各々が、DX−890またはDX−890のプロテアーゼ結合ループ中のアミノ酸残基の少なくとも90%を含むKunitzドメインである、請求項1に記載のタンパク質。
  32. 前記少なくとも2つのKunitzドメインが、互いに異なる、請求項6に記載のタンパク質。
  33. 前記少なくとも2つのKunitzドメインが、可撓性親水性リンカーによって接続されている、請求項6に記載のタンパク質。
  34. 前記リンカーが、15アミノ酸長未満であり、少なくとも2つのグリシン残基を含む、請求項33に記載のタンパク質。
  35. 前記少なくとも2つのKunitzドメインが、血清アルブミン部分によって分断されていない、請求項6に記載のタンパク質。
  36. 前記少なくとも2つのKunitzドメインが、T細胞エピトープを含まないリンカーによって接続されている、請求項6に記載のタンパク質。
  37. 前記少なくとも2つのKunitzドメインが、中型から大型の疎水性残基および荷電残基を有しないリンカーによって接続されている、請求項6に記載のタンパク質。
  38. 前記少なくとも2つのKunitzドメインが、グリコシル化部位を含むリンカーによって接続されている、請求項6に記載のタンパク質。
  39. 3個未満のグリコシル化部位を有する、請求項1に記載のタンパク質。
  40. グリコシル化部位を有しない、請求項1に記載のタンパク質。
  41. N結合型グリコシル化部位を有しない、請求項1に記載のタンパク質。
  42. 好中球ディフェンシンの存在下で前記ヒトプロテアーゼを阻害する、請求項1に記載のタンパク質。
  43. MT6−MMP(ロイコリジン)による分解に耐性である、請求項1に記載のタンパク質。
  44. MMP−8またはMMP−12によって認識される切断部位を含まない、請求項1に記載のタンパク質。
  45. 前記プロテアーゼ阻害性配列が、ヒトプロテアーゼに結合して阻害する20アミノ酸未満のペプチドのアミノ酸配列を含む、請求項1に記載のタンパク質。
  46. 前記プロテアーゼ阻害性配列が、軽鎖可変ドメインとともにヒトプロテアーゼに結合して阻害する重鎖可変ドメインのアミノ酸配列を含む、請求項1に記載のタンパク質。
  47. 第VIIa因子と第Xa因子の両方を阻害しない、請求項1に記載のタンパク質。
  48. ビクニンと少なくとも2つのアミノ酸が異なる、請求項1に記載のタンパク質。
  49. 被験体を処置する方法であって、請求項1〜48のいずれか1項に記載のタンパク質を該被験体に投与する工程を含む方法であり、ここで、該被験体は、少なくとも2つの異なるプロテアーゼによって引き起こされるプロテアーゼ活性を低下させる必要がある、方法。
  50. 第1および第2のヒトプロテアーゼが原因となるヒト障害を処置する方法であって、複数のKunitzドメインを含むタンパク質の有効量を被験体に投与する工程を含む方法であり、該複数のKunitzドメインは、第1のヒトプロテアーゼを特異的に阻害するKunitzドメインおよび第2のヒトプロテアーゼを特異的に阻害するKunitzドメインを含む、方法。
  51. (i)ヒトセリンプロテアーゼを阻害するKunitzドメイン、および(ii)メタロプロテアーゼの結合性および阻害に寄与するポリペプチド配列を含む、単離されたタンパク質。
  52. 1本のポリペプチド鎖からなる、請求項51に記載のタンパク質。
  53. メタロプロテアーゼの結合性および阻害に寄与する前記ポリペプチド配列が、メタロプロテアーゼと結合して阻害する抗原結合フラグメントの可変ドメインを含む、請求項51に記載のタンパク質。
  54. 少なくとも2本のポリペプチド鎖を含み、一方のポリペプチド鎖は、前記抗原結合フラグメントの重鎖可変ドメインを含み、他方のポリペプチド鎖は、該抗原結合フラグメントの軽鎖可変ドメインを含む、請求項53に記載のタンパク質。
  55. 前記Kunitzドメインが、前記抗原結合フラグメントの重鎖可変ドメインと同じポリペプチド鎖の構成要素である、請求項54に記載のタンパク質。
  56. 前記Kunitzドメインが、前記抗原結合フラグメントの軽鎖可変ドメインと同じポリペプチド鎖の構成要素である、請求項54に記載のタンパク質。
  57. 前記Kunitzドメインが、前記抗原結合フラグメントの定常ドメインのC末端側である、請求項53に記載のタンパク質。
  58. 2つ以上のヒトプロテアーゼを阻害するタンパク質を提供する方法であって:
    第1のヒトプロテアーゼを阻害する第1のKunitzドメインおよび第2のヒトプロテアーゼを阻害する第2のKunitzドメインのアミノ酸配列を提供する工程;
    複数のKunitzドメインを含むレシピエントタンパク質のアミノ酸配列を提供する工程;および
    該レシピエントタンパク質の改変アミノ酸配列をコードする核酸を調製する工程であって、ここで、該レシピエントタンパク質は、(a)該レシピエントタンパク質中の該Kunitzドメインの1つのアミノ酸が、該第1のKunitzドメインの結合性または特異性に寄与するアミノ酸残基と置換され、そして(b)該レシピエントタンパク質中の該Kunitzドメインの別のアミノ酸が、該第2のKunitzドメインの結合性または特異性に寄与するアミノ酸残基と置換されるように改変されている、工程
    を含む、方法。
  59. 2つ以上のヒトプロテアーゼを阻害するタンパク質を提供する方法であって:
    第1のヒトプロテアーゼを阻害する第1のKunitzドメインおよび第2のヒトプロテアーゼを阻害する第2のKunitzドメインのアミノ酸配列を提供する工程;ならびに
    該第1および第2のKunitzドメインをコードする配列がインフレームであり、かつリンカー配列をコードする配列によって分断されているポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを調製する工程であって、ここで、(a)該リンカーは、中型または大型の疎水性残基も荷電残基も含まないか、または(b)MHC Iエピトープは、該第1および第2のKunitzドメイン由来の該第1および第2のKunitzドメインならびに該リンカー由来のアミノ酸によって形成されない工程、
    を含む、方法。
  60. 前記第1および第2のヒトプロテアーゼが、単一のヒト疾患の原因となる、請求項58または59に記載の方法。
  61. 前記調製された核酸を細胞中で発現させる工程をさらに含む、請求項58または59に記載の方法。
  62. 薬学的組成物として、前記調製された核酸によってコードされるタンパク質を製剤化する工程をさらに含む、請求項58または59に記載の方法。
  63. 関節リウマチを処置する方法であって、該方法は:関節リウマチを有するかまたは関節リウマチを有すると疑われる被験体に、1つ以上の操作されたプロテアーゼ阻害性配列を含むタンパク質の有効量を投与する工程を含み、ここで、該タンパク質は、ヒト血漿カリクレイン、ヒト組織カリクレインおよびヒト好中球エラスターゼからなる群から選択される少なくとも2つのプロテアーゼを阻害する、方法。
  64. 前記タンパク質が、マトリクスメタロプロテアーゼ−(MMP−)1、MMP−2、MMP−3、MMP−9およびMMP−13からなる群から選択される少なくとも1つのプロテアーゼをさらに阻害する、請求項63に記載の方法。
  65. 肺の炎症性障害を処置する方法であって、該方法は:肺の炎症性障害を有するかまたは肺の炎症性障害を有すると疑われる被験体に、1つ以上の操作されたプロテアーゼ阻害性配列を含むタンパク質の有効量を投与する工程を含み、ここで、該タンパク質は、ヒト好中球エラスターゼ、プロテイナーゼ3、カテプシンGおよびトリプターゼからなる群から選択される少なくとも2つのプロテアーゼを阻害する、方法。
  66. 前記タンパク質は、マトリクスメタロプロテアーゼ−(MMP−)9およびMMP−12からなる群から選択される少なくとも1つのプロテアーゼをさらに阻害する、請求項65に記載の方法。
  67. 前記肺の炎症性障害が、慢性閉塞性肺障害(COPD)であり、前記少なくとも2つのプロテアーゼは、ヒト好中球エラスターゼ、プロテイナーゼ3(PR3)およびカテプシンGからなる群から選択される、請求項65に記載の方法。
  68. 多発性硬化症を処置する方法であって、該方法は:多発性硬化症を有するかまたは多発性硬化症を有すると疑われる被験体に、1つ以上の操作されたプロテアーゼ阻害性配列を含むタンパク質の有効量を投与する工程を含み、ここで、該タンパク質は、ヒトカリクレイン6(hK6)、ヒトカリクレイン8(hK8)およびヒトカリクレイン10(hK10)からなる群から選択される少なくとも2つのプロテアーゼを阻害する、方法。
  69. 脊髄損傷を処置する方法であって、該方法は:脊髄損傷を有するかまたは脊髄損傷を有すると疑われる被験体に、1つ以上の操作されたプロテアーゼ阻害性配列を含むタンパク質の有効量を投与する工程を含み、ここで、該タンパク質は、ヒトカリクレイン6(hK6)とヒト好中球エラスターゼの両方を阻害する、方法。
  70. 炎症性腸疾患(IBD)を処置する方法であって、該方法は:炎症性腸疾患を有するかまたは炎症性腸疾患を有すると疑われる被験体に、少なくとも2つのプロテアーゼを阻害する1つ以上の操作されたプロテアーゼ阻害性配列を含むタンパク質の有効量を投与する工程を含み、ここで、該2つのプロテアーゼは、血漿カリクレイン、ヒト組織カリクレイン(h.K1)およびヒト好中球エラスターゼからなる群から選択される、方法。
  71. 前記IBDが、クローン病である、請求項70に記載の方法。
  72. 前記タンパク質が、マトリクスメタロプロテアーゼ9(MMP−9)をさらに阻害する、請求項70に記載の方法。
  73. 前記タンパク質が、マトリクスメタロプロテアーゼ9(MMP−9)をさらに阻害する、請求項71に記載の方法。
  74. 急性膵炎を処置する方法であって、該方法は:急性膵炎を有するかまたは急性膵炎を有すると疑われる被験体に、少なくとも2つのプロテアーゼを阻害する1つ以上の操作されたプロテアーゼ阻害性配列を含むタンパク質の有効量を投与する工程を含み、ここで、該2つのプロテアーゼは、ヒトトリプシン1、ヒトトリプシン2、ヒト膵臓キモトリプシンおよびヒト膵臓エラスターゼからなる群から選択される、方法。
  75. 癌を処置する方法であって、該方法は:
    癌を有するかまたは癌を有すると疑われる被験体に、少なくとも2つのプロテアーゼを阻害する1つ以上の操作されたプロテアーゼ阻害性配列を含むタンパク質の有効量を投与する工程を含み、該2つのプロテアーゼは、ヒトプラスミン、ヒトヘプシン、ヒトマトリプターゼ、ヒトエンドセリアーゼ1およびヒトエンドセリアーゼ2からなる群から選択される、方法。
  76. 前記2つのプロテアーゼが、ヒトプラスミン、ヒトヘプシンおよびヒトマトリプターゼからなる群から選択される、請求項75に記載の方法。
  77. 血漿カリクレイン、ヒト好中球エラスターゼおよびプラスミンからなる群から選択されるヒトプロテアーゼを阻害する操作されたKunitzドメインを含むタンパク質であって、ここで、該Kunitzドメインは、14−38ジスルフィドを有しない、タンパク質。
  78. 前記Kunitzドメインの結合ループが、DX−88、DX−890またはDX−1000の結合ループと同一である、請求項77に記載のタンパク質。
  79. 前記Kunitzドメインが、DX−88、DX−890またはDX−1000と少なくとも95%同一であるが、システイン14およびシステイン38に相当する位置においてシステインを含まない、請求項77に記載のタンパク質。
  80. 複数のポリヌクレオチドを含むポリヌクレオチドのライブラリーであって、該ポリヌクレオチドの各々は、14位および38位に相当する位置においてシステインを有しないKunitzドメインをコードする配列を含み、該Kunitzドメインの第1および/または第2の結合ループ中の1つ以上の残基が、該複数のポリヌクレオチド間で異なるように、該複数のポリヌクレオチドが異なる、ライブラリー。
  81. ウシ膵臓トリプシンインヒビター(BPTI)の配列に関して13位、16位、17位、18位、19位、31位、32位、34位および39位をコードするコドンが異なる、請求項80に記載のライブラリー。
  82. 95%以下が異なる少なくとも2つのKunitzドメインを含むポリペプチドをコードするポリヌクレオチドであって、該Kunitzドメインをコードする該配列は、該少なくとも2つのKunitzドメイン間で同一である1つ以上の残基に相当する位置において異なるコドンを使用する、ポリヌクレオチド。
  83. 前記Kunitzドメインが、同一である、請求項82に記載のポリヌクレオチド。
  84. 前記Kunitzドメインが、同一であるが、該同一のKunitzドメインをコードする配列が、少なくとも10コドンにおいて異なる、請求項82に記載のポリヌクレオチド。
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