発明の開示
本発明は、抗体分泌細胞の選別、刺激、及び不死化の条件及び方法を、培養条件下での細胞の生存率及び不死化剤(immortalizing agent)への感受性を向上するために効果的な形で選択したり組み合わせたりした文献が見られないことに基づいている。
実際、そのような条件及び手法の特定の組み合わせが、驚くべきことに、細胞の不死化を向上させるだけでなく、特定のアイソタイプの抗体を多量に分泌し、生存可能な状態で保存することができる不死化細胞の集団を、抗原に依存しない形で作製するプロセス全体の処理量及び再現性を著しく高めることが発見された。
本発明の方法は、実際は、アイソタイプ特異的な抗体分泌細胞のライブラリーとして使用し、維持することができる細胞のポリクローナル集団を提供する。本手法を用いることにより、異なる機能的及び/又は結合的活性を有する抗体を細胞培養条件下で分泌する細胞の特定のオリゴクローナル、又はモノクローナル集団を、いつでも所望する時に検出し、単離することができる(図1)。
本発明は、1又は2種類以上の特定のアイソタイプの抗体を分泌する細胞の集団を不死化する方法を提供し、その方法は以下の工程:
a)1又は2種類以上の生物学的サンプルから、抗体を分泌する細胞集団を抗原に依存しない形で、少なくとも細胞表面マーカーの発現に基づいて選別する工程;
b)前記の選別された細胞集団を、細胞培養条件下で、少なくとも刺激剤によって刺激する工程;
c)細胞培養物から前記刺激剤を除去する工程;
d)前記特定のアイソタイプの抗体を発現する刺激された細胞集団を、前記細胞培養物から選別する工程;
e)前記の選別され、刺激された細胞集団を、細胞培養条件下で不死化剤に曝露する工程;
f)前記不死化剤を前記細胞培養物から除去する工程;
を含み、ここで、不死化剤はウイルス性の不死化剤である。
さらに、工程(f)の後に、以下の工程を実施することができる:
g)前記細胞培養物から得られた細胞集団を細胞培養条件下で維持する工程;
h)前記細胞培養物内の前記特定のアイソタイプの抗体を分泌する細胞集団の数、生存率、及び/又は増殖活性を測定する工程。
この概略的なプロセスは、以下の事項:
−細胞を単離することができるドナー又は生物学的サンプルの識別;
−抗体分泌細胞を選別、刺激、及び/又は不死化する具体的な手段;
−不死化された抗体分泌細胞集団を細胞培養条件下で維持、成長、及び増殖させる細胞培養条件;
−前記細胞培養物内の前記特定のアイソタイプの抗体を分泌する細胞集団の数、生存率、及び/又は増殖活性を測定する手段;
−抗体の所望の性質及び不死化された抗体分泌細胞をスクリーニングするために選択された関連するアッセイ、
に関連するさらなる条件及び手段を適用することによって、一体的なものとし、適合させることができる。
本発明の方法は、細胞培養条件下で不死化細胞集団として維持することができるそのような細胞の多様性と数を最大化するという目的の下、抗体分泌細胞の選別、刺激、不死化、及びクローン化を最適化する手段及び条件を提供する。実際、得られた細胞集団は、抗体を分泌し、本発明の方法に従って作製された後すぐに所望のスクリーニングアッセイにかけることができる、又はその一部若しくは全部を凍結して後から1種類以上のスクリーニングアッセイに用いることができる、不死化細胞のライブラリーとみなすことができる。
本発明の方法で得られた細胞集団は、細胞培養条件下で抗体を分泌する、特に所望の抗原特異性及び/若しくは生物活性を有するモノクローナル抗体を分泌する細胞の複数のオリゴクローナル又はモノクローナル集団に分割することができる。実際、これらの細胞培養物の上清は、このような抗原特異性及び/又は生物活性を有する抗体を含む培養物を検出するために用いられる。このような抗原結合特異性及び/又は生物活性は、対象であるヒト、哺乳類、ウイルス、バクテリア、植物、寄生虫、有機、又は無機のいかなる抗原も標的とすることができる。
そのような細胞の集団の単離が成功するかどうかは、その細胞の増殖、そのスクリーニングに用いたアッセイ、及び出発物質中(一般的には、ドナー又はドナーのプールからの末梢血液)の抗原特異的B細胞の度数に依存する。実際、不死化された抗体分泌細胞は、細胞の増殖と免疫グロブリンの分泌が最大となり、並びに所望の活性を検出するために細胞培養物の上清を直接使用することができるような条件下で培養されるべきである。必要であれば、細胞の集団は、細胞上清中で所望の抗原特異性及び/又は生物活性を有するモノクローナル抗体を各々が分泌する、1種類以上の細胞培養物が単離されるまで、所望の抗原特異性及び/又は生物活性を示す細胞のプールをスクリーニングするために、さらに分割することができる。
所望の抗原特異性及び/又は生物活性を有するモノクローナル抗体は、従って、細胞培養物を増幅し、この細胞培養物の上清からモノクローナル抗体を精製することによって作製することができる。さらに、モノクローナル抗体をコードするDNAを続いて単離し、宿主細胞中での抗体の組換え発現に使用することができる。
本発明の別の目的は、細胞培養条件下(特に、抗体分泌細胞のポリクローナル、オリゴクローナル、又はモノクローナル細胞培養物)で維持され、本発明の方法で得られ、所望の抗原特異性及び/又は生物活性を有するモノクローナル抗体を識別及び作製するのに用いることができる、不死化された抗体分泌細胞の集団である。抗体は、細胞培養物から直接精製することができ、又は組換えタンパク質として、それをコードするDNA配列を用いて作製して特定の細胞培養物から単離することができる。さらに、1又は2種類以上の特定のアイソタイプの抗体配列をコードするDNA配列を含むDNAライブラリーを、本発明の細胞の集団から、特に対象であるいずれかの種類の結合活性及び/又は生物活性を有する抗体を分泌することが示されている細胞の集団から単離した核酸を用いて調製することができる。
本発明の他の目的は、モノクローナル抗体の識別及び作製のための、本発明の方法によって抗体分泌細胞から得られた細胞の集団、細胞培養物、細胞培養物の上清、及びDNAライブラリーの使用に関する。本発明の方法で得られたこれらの生成物は、所望の抗原結合特異性及び/若しくは生物活性を有するモノクローナル抗体を識別及び作製するためのキットに含めることもでき、又は、自己抗原若しくは異種抗原、ウイルス、バクテリア細胞、トキシン、寄生虫細胞、又はワクチンに対する個体の(若しくは個体の集団の)アイソタイプに特異的な免疫反応の特徴を特定するために使用することもできる。
本発明の方法で得られた細胞の集団及び細胞培養物は、細胞培養物の上清中でモノクローナル抗体を分泌し、モノクローナル抗体を精製する目的のために増幅することができる細胞培養物の作製方法に含めることができる。
実施例により、抗原特異的又はウイルス特異的ヒトIgG抗体を発現する細胞のモノクローナル又はオリゴクローナル集団を同一の生物学的サンプルから得るための、EBVで不死化されたヒトB細胞の集団を作製する目的で、本発明の方法を適用する手段及び条件が提供される。
発明の詳細な説明
本発明は、不死化された抗体分泌細胞を作製し、分泌された抗体の抗原特異性及び/又は生物活性に基づいてスクリーニングすることができる効率を向上する方法を提供する。
特に、実施例では、エプスタイン−バーウイルスを用いて不死化されたヒトB細胞の細胞培養条件下での増殖活性、生存率、及び抗体分泌を、ドナーから単離された一次細胞に手段と条件との適切な組み合わせを適用することによっていかに向上させることができるかについて示している。
細胞の選別及び刺激に関連する特定の手段及び条件を選択することにより、生存し増殖する抗体分泌細胞を得ることに対して思わぬ重要な促進効果がもたらされることが判明し、このことは、後工程で細胞培養物の上清を直接用いたスクリーニングが可能な不死化された抗体分泌細胞の多様性と数の増大に寄与する。
実施例では、さらに、生物学的サンプルからの細胞の最初の選別を、1又は2種類以上の細胞表面マーカーに基づいて行い、これに続いて細胞を1又は2種類以上の刺激剤に曝露する刺激フェーズを行うことができることも示す。しかし、刺激剤は、所定の濃度比で、特定の選別された細胞集団に対して、適切な時間適用された場合にのみ、細胞の生存率及び増殖に影響を与えることなくその活性を最大限発揮する。さらに、刺激剤と不死化剤に細胞を同時に曝露することによる悪影響は明らかであるため、刺激工程と不死化工程は時間的かつ物理的に明確に区別するべきである。
特に、実施例では、EBVで不死化されたヒトIgM陰性(又はIgG陽性)B細胞のための効率的で再現可能な方法を、これらの要素を組み合わせることでいかに確立することができるかについて示しており、この細胞は、その細胞培養物の上清を用い、それが産生する抗体の結合及び/又は機能特性(ヒト細胞へのサイトメガロウイルスの感染の中和、など)に従って、引き続いてクローン化及びスクリーニングを行うことができ、そして最終的には、さらなる特性決定及び組換えタンパク質としての抗体の産生のために単離し、クローン化することができる。
不死化の前に細胞の選別及び活性化という別々の工程を含む逐次的(sequential)な手法は、ウイルス性の不死化剤に加えて(又はその代わりに)多くの場合骨髄腫細胞との融合を用いて、前もってインビトロで免疫された抗原特異的な細胞集団との関連でのみ文献に開示されてきた。
従って、最初のB細胞集団は、細胞毒性剤を用いて特定の細胞種を除去し、次にサイトカイン及び増殖因子と組み合わせて抗原に曝露するか(Borrebaeck C et al.,1988;Davenport C et al.,1992;Laroche−Traineau J et al.,1994)、又は抗原特異的なパニング法を施し、次に選別の前に支持細胞層上で増幅させることが行われた(Steenbakkers P et al.,1993;Steenbakkers P et al.,1994)。
抗体分泌細胞の集団の不死化は、標準的なEBVによる不死化を用いて、又は、EBV及び発癌遺伝子の媒介による形質転換の組み合わせ(US4997764)、EBVによる不死化若しくは非特異的細胞活性とこれに続く骨髄腫細胞系列との融合(Niedbala W and Stott D,1998;WO02/46233)、EBVによる不死化後の特定のアイソタイプを有する抗体を発現する細胞の選別(Morgenthaler N et al.,1996)、若しくは細胞の選別とこれに続くB細胞活性化剤の存在下でのEBVによる不死化の使用(WO91/09115;Hur D et al.,2005;Traggiai E et al.,2004;Tsuchiyama L et al.,1997;WO04/076677)、を用いて行われてきた。
しかし、これらの文献のいずれにも、不死化の前に細胞を選別し活性化する手段及び条件に関する、並びに、特に、所望のアイソタイプと生物活性を有する抗体を発現する細胞のオリゴクローナル又はモノクローナル集団を識別するために広く、直接使用することができる細胞のポリクローナル集団を提供するウイルスによる不死化プロセスの効率性に関連する効果的なプロセスは提供されていない。
本発明の主な目的は、1種類以上の特定のアイソタイプの抗体を分泌する細胞の集団を不死化する方法を提供することであり、その方法は以下の工程:
a)1種類以上の生物学的サンプルから、抗体を発現する細胞の集団を抗原に依存しない形で、少なくとも細胞表面マーカーに基づいて選別する工程;
b)前記の選別された細胞の集団を、細胞培養条件下で、少なくとも刺激剤によって刺激する工程;
c)細胞培養物から前記の刺激剤を除去する工程;
d)1種類以上の特定のアイソタイプの抗体を発現する刺激された細胞の集団を、前記の細胞培養物から選別する工程;
e)前記の選別され、刺激された細胞の集団を、細胞培養条件下で不死化剤に曝露する工程;
f)前記の不死化剤を前記の細胞培養物から除去する工程;
を含み、ここで、不死化剤はウイルス性の不死化剤である。
この方法には、この方法を適用することで得られた細胞の集団の分析及び使用に関連する一連の更なる工程を組み込むことができる(図1)。特に、以下の2工程はこの細胞集団を含む細胞培養を確立するために重要であるため、これらを工程(f)の後に行うべきである:
g)前記の細胞培養物から得られた細胞の集団を細胞培養条件下で維持する工程;
h)前記の細胞培養物内の前記の特定のアイソタイプの抗体を分泌する細胞の集団の数、生存率、及び/又は増殖活性を測定する工程。
本文及び図面により、本発明の方法を、特に末梢血液サンプルから単離されたヒトB細胞にどのように適用することによって対象である抗体を分泌するモノクローナル細胞培養物を得ることができるかに関して、さらに詳細に示す。
実際、本発明の方法により、一方で、個体から採取されてウイルスによる不死化によって捕獲された一次細胞中で発現された所望のアイソタイプの抗体レパートリーの不均一性を、抗原に依存しない形で効率的に表す細胞集団を得ることが可能となる。
他方、本発明の方法で得られ、より均一な生存率と高い増殖性を有する不死化された抗体分泌細胞の集団により、細胞培養条件下で(例:細胞の集団、多量の抗体を含む細胞培養物の上清)、又はその他の分子的要素(例:細胞のオリゴクローナル集団から抽出された核酸を用いて調製されたDNAライブラリー)として得ることができる種々の生物由来物質を通して、そのような抗体レパートリーのより深い分析が可能となる。
さらに、本発明の方法は、不死化された抗体分泌細胞のポリクローナル集団(新たに調製したもの、若しくはあらかじめ調製し、凍結してあったものを解凍したもの)を、統計的に20若しくは19個以下の細胞を含有するプールに分割し、標準条件下で増殖させて作製した細胞培養物中で直接特性決定するのに十分な抗体及び抗体を分泌する不死化細胞を得る可能性を提供する。クローン化工程の数が少ない(通常の2若しくは3個以上の工程ではなく、事実上単一工程)ことによって対象である抗体を分泌する不死化細胞を識別する時間が短縮され、このことは、サブクローン化工程で抗体が失われるリスクを限定し、種々のインビボ若しくはインビトロアッセイでの抗体の特性決定を迅速化する。これは、治療用の標的に特異的な希少な抗体の単離をより迅速かつ正常に行うことができるという点で特に重要である。
従って、本発明の方法は、本文中(特に実施例3を参照)及び図面中(特に図1、図11、及び図13を参照)にまとめた特定のアイソタイプのモノクローナル抗体を識別、作製するためのより複雑な方法へ適合、一体化することができる。
本発明の方法に適用することができる手段と条件に関する定義、並びにさらなる詳細は、前記方法の実行可能な使用、及び前記方法を使用することで得ることができる産物(細胞の集団、細胞の培養物、細胞培養物の上清、及び抗体、特にヒトモノクローナル抗体)の説明と共に、以下の段落に示す。
細胞の「集団」という用語は、一般に、同じ基準を用いて単離された、又は同じ方法を用いて作製された細胞(本発明の場合、抗体分泌細胞)のいかなる集団も意味する。例えば、細胞の集団は、選別ステップ(例:セルソーティング)、処理(例:刺激剤、若しくはウイルス性の不死化剤による)、又は細胞の培養物若しくは集団の、統計的に同数の細胞を有する小プールへの分割(例:細胞培養物をサブクローン化する、若しくは凍結による長期保存のために不死化細胞のバイアルを作製する場合)の結果得られた集団のことである。細胞の集団は生存可能であるべきだが、細胞培養条件下で起こるような特定の生物活性(例:成長、増殖、又は抗体分泌)を必ずしも起こす必要はない。
細胞の「培養物」という用語は、細胞が生物活性(例:成長、増殖、若しくは抗体分泌)を起こすこと、及び/又は細胞を特定の化合物(例:刺激剤、若しくはウイルス性の不死化剤)で処理することを目的として、容器内(例:プレートのウェル、ペトリ皿、フラスコ、ビン)に維持される細胞の集団を意味する。このような実験条件(すなわち、細胞培養条件)は、細胞の成長と増殖のために適切に選択された温度と雰囲気に維持されたインキュベーターの使用(細胞培地の使用と共に)を含む。
細胞培養物は、従って、細胞培地(血清、増殖因子、サイトカイン、栄養分、などを含む)と共に細胞の集団、及び、抗体分泌細胞の場合のように、細胞の集団の成長と増殖を補助するために培養されるさらなる細胞(いわゆる、「支持細胞」)から成る。数日若しくは数週間の後、細胞培地の組成は、細胞による消費によるだけでなく、細胞が分泌する、又はアポトーシス若しくは死の段階に入った時に単に放出される多くの種類の分子によって変化する。従って、細胞培地は定期的に新しいものに交換するか、又は、一部を採取して細胞培地の含有物を分析してもよい。使用した細胞培地(文献中において、細胞培養物の「上清(supernatant)」、並びに「使用済み(spent)」若しくは「調整(conditioned)」細胞培地と定義される)を所定の時点で採取し、例えば、細胞培養条件下で細胞の集団によって分泌された抗体の濃度及び活性を測定することができる。この情報を、そのような細胞の生存率及び増殖に関するデータと共に使用して、細胞培養物の状態及び可能な用途(例:mRNAの単離、スクリーニングアッセイ、モノクローナル抗体の精製、凍結のための細胞の回収、など)を決定するべきである。
「ポリクローナル」という用語は、数多くの種々の抗体(例:103、104、105、若しくはそれ以上)を発現する細胞の培養物又は集団を意味し、各々の抗体は培養物若しくは集団の中の単一の細胞又は細胞のグループによって発現される。特に、(生物学的サンプル中に存在する細胞から抗原に依存しない形で作製されたために)培養物若しくは集団に分割されない、又は、分割されたとしても、元となるポリクローナル培養物若しくは集団の希釈に基づいて統計的に決定することができる最初の細胞数が50個以上(例:200、500、若しくは1000個以上の細胞)の培養物若しくは集団に分割される程度である、本発明の方法で得られる細胞の培養物若しくは集団に適用される。
「オリゴクローナル」という用語は、細胞の培養物又は集団を、元となる培養物又は集団の希釈に基づいて統計的に決定することができる最初の細胞数が50若しくは49個以下(40、20、10、5、1、若しくは1個未満の細胞)である培養物又は集団に分割した結果得られた培養物又は集団を意味する。
細胞の培養物又は集団を、最初の細胞数が20若しくは19個以下である培養物又は集団に分割した結果得られた細胞のオリゴクローナル培養物又は集団が特に重要である。実際、得られた細胞培養物中で単一の、又は非常に支配的な生物学的特徴が検出された場合(例:生物学的アッセイを用いて細胞培養物の上清中で分泌されたタンパク質として識別された抗体、若しくはRT−PCRを用いて培養物から単離されたmRNA中の転写遺伝子として識別された抗体)、そのような細胞培養物はモノクローナル細胞培養物とみなすことができる。
「モノクローナル細胞培養物」とは、お互いに同一であり、その細胞培養物を選別するために用いられた特定の生物学的特徴(例:特定の抗体の分泌)に基づいて少なくとも評価することができるような単一細胞(クローン)の増殖(及び、任意に分化)に由来する細胞だけを含む細胞培養物である。従って、そのような培養物から得られる抗体、細胞の集団、又は細胞培養物は、より正確な形でクローン性を確立するためにさらなる実験操作を必要とする場合であっても、「モノクローナル」と称することができる。
「不死化」という用語は、一般に、本発明の方法により、選別され刺激された細胞の集団をウイルス性の不死化剤に曝露した後に得られる細胞の培養物又は集団を意味する。ウイルスによる不死化に特定のウイルス産物(例:タンパク質、転写物)の存在が付随する場合であっても、細胞培養条件下で成長と増殖を続けていれば、その細胞は不死化されたと定義される。実施例で示すように、生物学的サンプルから得られ、抗体を発現する一次ヒトB細胞を用いることで、細胞のポリクローナル集団を得ることに成功し、続いてこれを用いることで少なくとも104個の細胞を含むオリゴクローナル細胞培養物を作製した。培養を100個、50個、20個、又は5個の細胞で始めた場合、このような全細胞数は、一般に不死化細胞だけが細胞培養条件下で起こすことができる細胞分裂の回数(10若しくは11回以上の細胞分裂)に対応するだけである。
「抗体分泌細胞」という用語は、抗体を発現する遺伝子を含み、抗体を細胞外空間(例:インビボでの血液中、又は、インビトロでの細胞培養物の上清中)で抗体を分泌する能力を有する一次細胞を意味する。
「不死化された抗体分泌細胞」という用語は、ウイルス性の不死化剤への曝露の後に、細胞培養条件下で永久に、又は少なくとも一定の期間及び/若しくはウイルス性の不死化剤へ曝露されていない一次細胞で観察されるよりも非常に多い細胞分裂回数の間、成長、増殖、及び抗体の分泌を行う抗体分泌細胞を意味する。特に、本発明の方法で得られた細胞のポリクローナル集団には、不死化された抗体分泌細胞である生存可能で成長を続けるリンパ芽球が豊富に含まれ、これは続いて細胞培養条件下で細胞のオリゴクローナル及びモノクローナル集団を形成することになる。
「刺激剤」という用語は、抗体分泌細胞によって媒介される刺激反応を起こし、これらの細胞の増殖する芽細胞の状態を引き起こし、細胞培養条件下でリンパ芽球(大型の生存細胞、顕微鏡及びFACSによる前方/側方散乱によって測定)を形成することができる、化合物、又は化合物の特定の組み合わせを意味する。
「刺激フェーズ」という用語は、選別された抗体分泌細胞が刺激剤に曝露される期間を意味する。
「ウイルス性の不死化剤」という用語は、生物学的サンプルから単離された一次細胞からの不死化細胞の作製を可能にするいかなる種類のウイルスの粒子、DNA、又はタンパク質をも意味する。本発明の場合、一次細胞は抗体分泌細胞であり、特には、種々のウイルス性の不死化剤が明らかになっているヒトB細胞である。
「不死化フェーズ」という用語は、選別され、刺激された抗体分泌細胞がウイルス性の不死化剤に曝露される期間を意味する。
本発明の方法を実施する前の工程は、抗体分泌細胞を含む生物学的サンプルを単離すべき個体又は組織を識別することである。
発明の背景、に示すように、抗体を発現し、分泌する細胞は、血液、扁桃腺、生物学的液体(脳脊髄液、又は胸水など)、リンパ節、及びその他のリンパ性器官を含む種々の組織並びに器官から単離され、不死化されてきた。
本発明の方法を用いて不死化することができる細胞は、これらの哺乳類の組織及び器官から抽出するべきである。明らかに、治療又は診断用途を有するヒトモノクローナル抗体を分泌する細胞培養物を作製するためには、ヒト由来の細胞が好ましい。しかしながら、この方法は非ヒト抗体分泌細胞(例えば、げっ歯類、又はサル由来の細胞)に適用することもできる。
一次抗体分泌細胞の多くの異なる種類の集団を、免疫細胞ドナーの状態、並びに求める抗体のアイソタイプ及び活性に応じて好ましくなり得る特性を有するヒトドナーから単離することができる。
本発明の方法は、感染病原体に曝露した患者、又は特定の形態の癌若しくは自己免疫疾患を有する患者などのドナーから選別されたヒトB細胞によって発現されたモノクローナル抗体の識別に適用することができる。従って、ドナーは、無処置、ワクチン接種済み、1若しくは2種類以上の疾患又は感染症にかかっている、特定の治療処置をすでに受けている及び/又はそれに耐性を有する、特定に臨床指標又は状態を示している、誤って病原体に接触した、などの状態であってよい。
適応免疫反応の特異性及びそれが長期間にわたって維持(抗原への最後の曝露から何年という期間でも)されることによってドナーを選択するのに十分な定性的測定が可能となるため、ドナーの血清を用いてその抗原に対する血清陽性の初期測定を行うことができる。最適なドナーを識別するにあたっては、使用するスクリーニングアッセイの特性及び感度が極めて重要であり、好ましくは、ドナー血清をスクリーニングするのに用いるアッセイは、不死化された抗体分泌B細胞からの上清をスクリーニングするのに用いるアッセイと同じであって、所望の機能活性(すなわち、ウイルスの細胞内への進入の阻止、又は腫瘍関連抗原との結合)を有する抗体を検出するよう設計されているべきである。
臨床的な観点において、細胞を精製する組織又は器官の選択は、全体のプロセスを実施するのに十分な量の細胞が入手可能かどうかによって決定することができる。ヒトの臨床サンプルから少量の細胞が入手される場合、及び/又は、不死化の方法を実施することができるのとは異なる場所で細胞が調製される場合は、細胞は、凍結サンプル及び/又は数多くの個体から採取して十分な出発物質を提供するようにプールされていたサンプルから得ることができる。
従って、抗体分泌細胞を含有するサンプル(全末梢血液、又は血清など)を用いて、一連の候補ドナーに予備スクリーニングを行うことができる。特に、勾配遠心分離などの末梢血液単核細胞(PBMC)を単離する標準的な分離技術を用いて、血液又はリンパ性組織から単核細胞を単離することができる。この分離工程の後及び/又は前に、抗体及び抗体分泌細胞存在を検出する標準的な技術(例:ELISA、BIACORE、ウエスタンブロット、FACS、SERPA、抗原アッセイ、細胞培養システム内でのウイルス感染の中和、若しくはELISPOTアッセイ)を用いて、血清(若しくは血漿)、細胞培養物の上清、又は細胞(異なる患者から、異なる組織から、及び/若しくは異なる時点で採取)のサンプルの予備スクリーニングを行うことができる。
文献にはこのような技術の例が提供されており、例えば、ELISPOTを用いたワクチンを接種されたドナーの免疫反応の評価(Crotty S et al.,2004)、新規感染患者に対する診断ツールとしての抗原マイクロアッセイの使用(Mezzasoma L et al.,2002)、及び抗原特異的な免疫反応を測定するその他の技術(Kern F et al.,2005)が示されている。ドナーの選択は、特定のウイルスに対する血清陽性と発癌関連の変異との関連性に基づいて行うこともできる(Butel J,2000)。
このような治療標的に対する抗体反応の予備定性分析(全活性若しくはアイソタイプに特異的な活性のレベルで評価)により、所望の精製抗原(例:癌若しくは特定のウイルスタンパク質に関連する特定のヒト組換えタンパク質)、関連抗原の混合物(例:部分的に精製されたウイルス製剤から得られたもの)、又はバイオアッセイ(例:ウイルス感染性の中和)に対してより高い抗体価を示すB細胞を有するドナーの識別が可能となるはずである。
1若しくは2人以上のドナーが選択されると、B細胞源としては、脾臓、血液、リンパ節、骨髄、腫瘍浸潤リンパ球、慢性感染症/炎症部位からのリンパ球とすることができる。しかし、通常は末梢血液を用いると、ドナーからの採取、保存、及び所定の期間にわたっての抗原に対する血清反応のモニタリングがより容易となる。
例えば、5−50mlの末梢血液を出発物質とすると、約1千万〜1億個のPBMC(末梢血液単核細胞)を精製することができ、これは、本発明の方法を用いて不死化した後にスクリーニングするのに十分な数の抗体分泌細胞の集団を得ることができるはずの細胞の数である。
生物学的サンプルからPBMCを単離した後、文献に記載の多くの方法の一つを用いて、表面上の細胞表面マーカー及び、該当する場合は、その他のタンパク質の発現、並びに細胞の増殖活性、細胞の代謝的及び/又は形態的な状態に基づいて、抗体分泌細胞の特定の選別を実施することができる。
特に、ヒトサンプルから抗体分泌細胞を精製する種々の技術は、ポジティブ及びネガティブ選別の種々の手段及び条件を利用している。これらの細胞は、抗体を発現、分泌する細胞(例:ヒトB細胞)に特有の細胞表面マーカーを発現する細胞を物理的に分離することによって、より容易かつ効率的に選別される。具体的なプロトコルは文献中に見ることができる(Callard R and Kotowicz K”Human B−cell responses to cytokines”in Cytokine Cell Biology:A practical Approach.Balkwill F.(ed.)Oxford University Press,2000,pg.17−31、を参照)。
選別は、通常、これらの細胞表面タンパク質の一つに特異的に結合し、固体支持体(例:マイクロビーズ、若しくはプラスチックプレート)と結合することができるか、又は蛍光活性セルソーター(FACS)を用いて検出可能な蛍光色素で標識することができる抗体を使用して行われる。例えば、ヒトB細胞は、EBVによる不死化の前に、CD19、CD27、及び/若しくはCD22マイクロビーズと結合する支持体(マイクロビーズなど)への親和性、又は特定のアイソタイプに特有の抗体への結合親和性の欠如に基づいて選別される(Li H et al.,1995;Bernasconi N et al.,2003;Traggiai E et al.,2004)。
しかし、細胞マーカーの選択が、恐らくは、選別プロセスによって誘起され、細胞の成長及び生存率を変化させる場合がある細胞内シグナルのため、不死化プロセスの効率と関連するであろう。実際、本特許出願の実施例では、抗原認識及びB細胞活性に関連するシグナル伝達経路を制御するB細胞に限定の膜貫通タンパク質であるCD22(Nitschke L,2005)が、初期のB細胞の選別において好ましい分子と考えられることを示している。CD22陽性集団には種々のアイソタイプ及び特異性を有する抗体を発現する細胞が含まれているので、刺激フェーズの前若しくは後の細胞の選別に、他の表面マーカーを用いてもよい。
別の選択肢として、又は追加的に、CD22に基づく選別に加えてCD27に基づく選別も適用することにより、抗体分泌細胞の特定の濃縮物を得ることができる。CD27は、可変領域遺伝子の体細胞変異を有するヒトB細胞のマーカーとして知られている(Borst J et al.,2005)。CD5、CD24、CD25、CD86、CD38、CD45、CD70、又はCD69などの追加的なマーカーを用いて、細胞の所望の集団を除去したり濃縮したりすることもできる。従って、ドナーの抗原(例:ウイルス、バクテリア、寄生虫など)への曝露歴、抗体価に応じて、全B細胞、CD22濃縮B細胞、又はCD27陽性B細胞などのさらに濃縮されたB細胞の亜集団のいずれを用いるかを決定することができる。
細胞の選別に続いて、しかし不死化フェーズの前に、細胞の集団を適切な刺激剤へ曝露するべきである。本発明の状況において、使用可能な該当する刺激剤として、大きく分けて3種類の化合物が、特にこれらを組み合わせる形で想定されている。
刺激剤の第一の群は、B細胞で発現されるToll様受容体のアゴニストなど、自然免疫反応の活性化剤に代表される。Toll様受容体(TLR)はバクテリアオリゴヌクレオチドの認識、並びに自然免疫及び獲得免疫の両方に関与する広範囲にわたる種々の細胞のポリクローナル活性を誘発するその他の化合物の認識において重要な役割を果たしていることが知られている(Akira S and Takeda K,2004;Peng S,2005)。部分的にToll受容体によって媒介されるこの自然免疫反応の経路は、体の侵入生物体に対する最も早い反応の一つであり、適応免疫反応のB細胞及びT細胞によって媒介される強力な特定の反応を誘発するのに必要な適切な環境及びサイトカイン環境を作り出すのに重要な役割を果たしている(Gay et al.,2006)。ヒト細胞系列及び一次細胞のこの反応性は、ある種のToll様受容体(TLR2、TLR4、TLR6、TLR7、TLR8、TLR9、TLR10)に基づくものであり、これらには各々、特定の発現特性、好ましいリガンド、及び認識必要量がある。
特に、ヒトTLR9はオリゴヌクレオチドを、さらに具体的には、CpGを基にしたオリゴヌクレオチドを認識する(Hemmi H et al.,2000)。CpG2006として知られるものなどのCpGを基にした化合物によるTLR9媒介活性は、細胞の酸化還元バランスの変化、並びにマイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)及びNFカッパBを含む細胞シグナル経路の誘起のきっかけとなり、これに続いて、炎症誘発性サイトカイン、インターフェロン、及びケモカインを産生する(Takeshita F et al.,2001;Hartmann G et al.,2000;Hartmann G and Krieg A,2000;Ulevitch R,2004)。ヒトナイーブB細胞とヒトメモリーB細胞のサブセットは、TLR発現の強い制御の結果として、CpGオリゴヌクレオチドなどのポリクローナル刺激に反応する特定の増殖分化特性を有する(Bernasconi N et al.,2003;Bernasconi N et al.,2002;Bourke E et al.,2003)。CpGオリゴヌクレオチドは、自然免疫の活性化を引き起こし、広範囲にわたる種々の病原体による致死的な攻撃を防ぐことができる(Krieg A,2002)。例えば、CpG−Bと呼ばれるモチーフを含むオリゴヌクレオチドは、一次B細胞の特に強力な活性化剤である(Krieg A et al.,1995;Gursel M et al.,2002;Klinman D,2004;Eaton−Bassiri A et al.,2004)。
一つのToll様受容体に対するアゴニストとして活性ないくつかの種類の化合物が明らかにされており(Coban C et al.,2005;Kandimalla ER et al.,2005;Hayashi E et al.,2005;Bourke E et al.,2003;Ambach A et al.,2004;Sen G et al.,2004)、免疫グロブリンのクラスとサブクラスの産生の差異を測定するためにも、特定のスクリーニング技術が利用可能である(Henault M et al.,2005;Cognasse F.et al.,2005)。
刺激剤の第二の群は、サイトカイン、特に、このような免疫刺激活性を有することが知られているインターロイキン(IL−2、IL−4、IL−6、IL−10、IL−13)に代表され、これらは文献中で比較されてきた(Callard R and Kotowicz K ”Human B−cell responses to cytokines”in Cytokine Cell Biology: A practical Approach.Balkwill F (ed.)Oxford University Press,2000,pg.17−31、を参照)。
刺激剤の第三の群は、TNF受容体ファミリーの細胞膜受容体のアゴニスト、特に、NF−κB経路及びB細胞中での増殖を活性化する、APRIL、BAFF、又はCD40Lなどに代表される(Schneider P,2005;He B et al.,2004;Craxton A et al.,2003;Tangye S et al.,2003)。
刺激剤の種類とその組み合わせ、濃度、並びに刺激フェーズの長さは、細胞の刺激と、抗体分泌細胞の不死化を可能にする若しくは促進するタンパク質の発現との両方に最適な効果をもたらすように選択しなければならない。
実施例では、有用な刺激剤は、特にウイルス性の不死化剤がエプスタイン−バーウイルスである場合に、以下に示す化合物の組み合わせから選択することができることを示す:
a)CpGを基にしたオリゴヌクレオチド、及びサイトカインの組み合わせ;
b)TNF受容体ファミリーの細胞膜受容体のアゴニスト、及びサイトカインの組み合わせ。
その刺激特性に基づき、CpG2006は、可溶性CD40リガンド又はCD40に対するアゴニスト抗体と共に使用されてきたのと同様に(WO91/09115;WO94/24164;Tsuchiyama L et al.,1997;Imadome K et al.,2003)、EBVと共に、不死化ヒトB細胞の作製に使用されてきた(Traggiai et al.,2004;WO04/76677)。
しかし、同様の手法は、CpG2006などのポリクローナル活性化剤が、クローン化及び/又はそれに続くスクリーニングプロセスの間に細胞培養物中に存在する可能性のある様々な細胞種に強い影響を及ぼすことが知られていることから、不死化B細胞の維持及びスクリーニングに悪い影響を与える(Hartmann G and Krieg A,2000;Hartmann G et al.,2000)。特に、CpGは、単核細胞によるIL−12及びIFN−ガンマなどのサイトカインの誘導因子であり、続いて行うバイオアッセイにおいて、特に抗ウイルス抗体をスクリーニングする場合は、そのようなサイトカインの存在は避けるべきである(Klinman D et al.,1996,Fearon K et al.,2003;Abel K et al.,2005)。
実施例では、pG2006とIL−2との組み合わせに対するヒトCD22陽性B細胞の最適な応答が、化合物の特定の濃度を用いることによっていかにして得られるか、そして、その他の多くの公知の刺激剤(例:LPS、又はSAC)はそのような応答をしない、ということを示している。
選別された抗体分泌細胞を刺激剤に曝露する時間の長さは、そのような細胞を不死化する効果的な方法を確立するのに非常に重要である。実際、実施例では、刺激剤の組み合わせ(pG2006とIL−2)が、特に特定の時間枠内で(例えば、約2〜約4日間の刺激)細胞の生存率及び増殖に最大の効果を及ぼすことを示している。しかし、別の選択肢としての刺激剤の組み合わせと時間枠でも、EBVによる不死化、又はその他の不死化剤に同様の効果を与えることができる。
刺激剤の組み合わせの細胞培地への添加は、抗体分泌細胞からの応答を向上させるのに有用であることが分かっているのであれば、不死化フェーズの前、同時、又はそれに続いて行うことができる(例:最初の細胞選別の直後に第一の刺激剤を添加し、数時間若しくは数日後に第二の刺激剤を添加する)。
刺激剤は、希釈したストック液から直接細胞培地へ添加してもよく、又は、例えば、リポソーム、若しくは刺激剤の取り込み及び免疫賦活活性を改善することができるその他の化合物を用いて適切に製剤した後に添加してもよい(Gursel I et al.,2001)。刺激剤は固体マトリックスに結合させることもでき(マイクロビーズ、又は細胞培養プレート上に直接)、これによってより効果的な除去も可能になる。
特定の時間、本発明の方法の特定の工程において刺激剤を適用することの重要性に関する上述の考察から判断して、後の細胞培養条件下での不死化及び維持に悪影響が及ぶことを避けるために、抗体分泌細胞は、従って、刺激剤が効率的に除去されるような形で処理されるべきである。
従って、細胞を新しい培地で1若しくは2回以上洗浄してもよく、そして、さらに希釈して刺激剤による残存する影響を除去するために任意に通常の細胞培地中に維持してもよく(例えば、1日〜6日間まで)、この悪影響は細胞培養物へ特定の化合物を添加することによっても阻害することもできる。
本発明の方法は、発現される抗体のアイソタイプに基づいてさらに選別された細胞に適用され、この選別は細胞を刺激した後であって、該選別され刺激された細胞を不死化剤へ曝露する前に行われる(すなわち、刺激フェーズと不死化フェーズの間)。
細胞のアイソタイプに基づく選別は、ポジティブ選別(特定の細胞が単離される)又はネガティブ選別(不要な細胞が除去される)の手段のいずれかを適用することで行うべきである。例えば、医療用途に認可されているほとんどの治療用抗体がIgGであることからして(Laffy E and Sodoyer R,2005)、刺激されたIgG陽性細胞の集団のみをポジティブ選別するか(FACS若しくは磁気セルセパレーターによる)、又は細胞の集団からIgMを発現する細胞を除去することで選別し、結果としてIgGを発現する細胞を濃縮することができる。蛍光活性又は磁気セルセパレーターを用いた抗体分泌細胞の分離技術は文献中で公知である(Li H et al.,1995;Traggiai E et al.,2004)。抗体分泌細胞の採取源及びその最終用途に応じて、IgD又はIgAを発現する細胞の除去(若しくは濃縮)も所望される場合がある。
同様の手法は、精密な選別が所望される場合は、特定のサブクラスに基づいた細胞の単離にも使用することができる(例:IgG1、IgG2、IgG3、又はIgG4抗体を発現するヒトB細胞の区別)。
特定のアイソタイプを有する抗体を発現する細胞が選別され、刺激された集団は、ここでウイルス性の不死化剤を用いた不死化を行える状態となる。文献によると、不死化された抗体分泌細胞を得るために、抗体分泌細胞に対して、種々の不死化剤を、時には単一プロセスにおいて組み合わせて使用することができる。
本発明の方法では、ウイルス性の不死化剤の中で、好ましくは、抗体分泌細胞に感染しこれを不死化するウイルスを用いるべきである。そのような好ましいウイルスは一般にリンパ球向性ウイルスとして知られており、ガンマヘルペスウイルスに属する。このファミリーに属するウイルスは、種特異的な形でリンパ球に感染し、リンパ球増殖性疾患及びいくつかの悪性腫瘍の発生と関連している(Nicholas J,2000;Rickinson A,2001)。
EBV(エプスタイン−バーウイルス、ヘルペスウイルス4型としても知られる)、及びHHV−8(ヒトヘルペスウイルス8型、KSHV、カポジ肉腫関連ヘルペスウイルスとしても知られる)はヒトリンパ球に感染しこれを不死化する。お互いにいくつかの共通の遺伝的特徴を保存し、種々の哺乳類宿主細胞内で類似の病原性の影響をもたらすその他の発癌性でリンパ球向性のヘルペスウイルスとしては、MHV−68(マウスヘルペスウイルス68型)、HVS(リスザルヘルペスウイルス)、RRV(アカゲザルラジノウイルス)、LCV(霊長類リンフォクリプトウイルス)、EHV−2(ウマヘルペスウイルス2型)、HVA(クモザルヘルペスウイルス(Herpesvirus Ateles))、及びAHV−I(ウシカモシカヘルペスウイルス1型)がある。本発明の方法がそのような哺乳類から得られた抗体分泌細胞に適用される場合は、これらのウイルスを使用することができる。
しかし、完全な形のウイルスだけがB細胞を不死化できるのではなく、そのような特定のウイルス及びその他のウイルスから得られた特定のウイルスタンパク質を含む組換えDNAコンストラクトを用いたB細胞の不死化も成功している(Damania B,2004;Kilger E et al.,1998)。ウイルス遺伝子を含む類似のベクターを細胞内へ、時にはレトロウイルスシステム又はウイルス様粒子を利用して、そのような粒子を形成するための形質導入に必要な因子すべてを提供するパッケージング細胞系列内へ形質導入することができ、これも本発明の方法に使用することができる。
不死化フェーズは、実施例では長めの不死化フェーズが細胞の生存率にとって有害となり得ることが示されているが、1時間から数時間の間、最大でも2−4日までの間継続することができ、少なくともEBVの場合は、抗体分泌細胞を提供するリンパ芽球のポリクローナル集団を確立(大型の生存細胞、顕微鏡及び/又はFACSで測定;図9を参照)するには、4時間が十分な時間であろう。
実施例では、ヒトB細胞をまずCD22の発現によって選別し、適切な時間(約2日〜約4日間)、適切な刺激剤の組み合わせ(CpG2006及びIL−2)で刺激し、最後に好ましいアイソタイプ(IgG陽性若しくは濃縮;IgM陰性若しくは除去)に基づいて選別した場合、EBVの上清を用いることでヒトB細胞を効率的に不死化できることを示している。
B細胞のEVBの媒介による不死化は、主たるEBV受容体と考えられる細胞表面受容体CD21の発現が必要である。CD21はほとんどのB細胞亜集団に存在し、CD19及びB細胞抗原受容体と複合体を形成することによってB細胞の応答を制御している(Fearon D and Carroll M,2000)。しかし、CD21は、細胞の著しい活性化に続いて形質細胞へ変換されるに従って、細胞表面から失われる。従って、EBVで細胞を変換する能力は、B細胞刺激剤の添加によって促進することができるが、EBVの高い効率での不死化が可能になるよう、CD21が細胞表面に維持される条件としなければならない。
本発明は、抗体分泌細胞の不死化された集団をいかに効率よく得ることができるかを示す。実際、選別され、不死化されたB細胞が濃縮された細胞培養集団は、溶解状態ではなく潜伏状態のEBVウイルスによって不死化された場合に成長する能力を維持しつつ、有用な治療用抗体を産生する傾向が高い。B細胞を刺激してIgGを分泌させることができる他の方法とは異なり、この不死化のプロセスにより、集団を高い増殖性及びIgG分泌能の状態に「捕獲」することができる。不死化B細胞の集団の上清は、所望の活性を有する抗体の存在について分析することができる。不死化B細胞の集団は、その後クローン化して抗体分泌細胞のクローンを単離し、抗体遺伝子を単離する分子的手法にかけるか、又は今後の分析のために凍結保存することができる。
EBVの媒介による不死化は、EBVによって発現されたタンパク質によるB細胞の不死化、及びこれに続くEBVと宿主細胞のタンパク質との間の相互作用によって制御される不死化が関与する、複雑なプロセスである(Sugimoto M et al.,2004;Bishop G and Busch LK,2002)。実際、特定のEBVタンパク質及びEBNA2、EBNA1、LMP2、LMP1、又はEBERなどの転写物の発現を測定することによって、この不死化のプロセスを追跡することができる(Thorley−Lawson DA,2001)。これらのタンパク質は、PCR、免疫蛍光法、ウエスタンブロット、又は感染細胞中のEBVのDNA及びタンパク質を検出できるその他の方法によって検出することができる(Schlee M et al.,2004;Park CH et al.,2004;Humme S et al.,2003;Konishi K et al.,2001;Haan K et al.,2001)。
細胞培養物へ添加するEBVの上清の量は、文献に一般的に示される量(10%、20%、30%、若しくはそれ以上)でよいが、EBVの上清の量は比較的多く(50% V/V)しかし曝露時間は比較的短い(約4〜約24時間)という条件下で、この方法を適切に実施できると思われる。
しかし、ウイルス性の不死化剤は、例えば、洗浄及び新しい細胞培地中での細胞の集団の培養などによって除去することが重要である(刺激剤について述べた内容と同様)。
本発明の方法で用いることができるEBVの上清は、一般的な技術を用いて作製することができ、ヒト若しくはげっ歯類の細胞培養物をEBVの研究用株、部分的に欠失した株、若しくは組換え株(並びに、ミニEBV、及びその他のEBVを基にしたベクター)のいずれかで感染させ、感染した細胞をEBVが濃縮された上清から分離する(Speck P et al.,1999;Oh HM et al.,2003;Bass H and Darke C,2004;Radons J et al.,2005;US5798230)。
実施例に示した実験結果は、他の不死化剤に類似の手法を用いることができることを示唆している。抗体分泌細胞を生物学的サンプルから及び細胞培養条件下で精製する選別手段と、上記で明らかにした刺激剤と、何時間から何日という範囲内に維持される刺激フェーズ(しかし、常に不死化フェーズとは区別される)との組み合わせを適切に行うことによって、EBVだけでなく、腫瘍ウイルスによる感染及び/又は癌遺伝子による形質転換などその他のウイルス性の不死化剤で媒介される不死化も改善することができる。
ウイルス性の不死化剤を細胞培養物から除去した後、得られた細胞の集団は、特に、生存可能で増殖するリンパ芽球が濃縮(その他の方法を比較して)されており(図9参照)、これには、オリゴクローナル及びモノクローナル細胞培養物を確立するための使用に適さないだけでなく、選別され、刺激された細胞の成長、繁殖、及び/又は抗体分泌に悪影響を及ぼすことのある物質(サイトカイン、反応性酸素中間体など)を細胞培地中で放出する死細胞や分化細胞が含まれていない。
この意味で、本発明の方法に従って得られた細胞のポリクローナル集団、並びにそのようなポリクローナル集団を分割することによって得られたオリゴクローナル又はモノクローナル集団(不死化された抗体分泌細胞を含む)は、特に有用である。
これらの細胞の集団は、特に抗体の単離、特性決定、及び産生に関連する一連の用途に使用することができる。
例えば、1若しくは2種類以上の特定のアイソタイプの抗体をコードするDNA配列を含むDNAライブラリーであり、ここで該ライブラリーは、これらの細胞の集団から単離された核酸を用いて作製される。免疫した動物又はハイブリドーマに関する文献に記載のように、一般的な分子生物学的技術を用いて、サンプル中に存在する抗体をコードするすべての配列の、全体若しくは一部分のみ(例:抗原を結合する可変領域のみ)を、特異的に(必要であれば)逆転写及び増幅するmRNA又はゲノムDNAを、これらの配列をスクリーニングにかける組換えタンパク質として発現させることを目的として、細胞のサンプルから抽出することができる(Gilliland LK et al.,1996;Lightwood D et al.,2006)。
従って、本発明の方法は、所望の抗原結合特異性及び/又は生物活性を有するモノクローナル抗体を識別し、作製するために用いることができる細胞の集団、細胞の培養物、細胞培養物の上清、及びDNAライブラリーを提供する。
別の選択肢として、そのような生物由来物質は、個体から提供された抗体分泌細胞から得られた場合、これを用いて、自己抗原若しくは異種抗原、ウイルス、バクテリア細胞、トキシン、寄生虫、又はワクチンに対するアイソタイプに特異的な特定の個体の免疫反応の特徴を特定することができる(例えば、個体の中で、一般的に産生される抗体及び/又は免疫システムによって一般的に認識される抗原の識別)。
そのような生物由来物質(すなわち、本発明の、細胞の集団、細胞の培養物、細胞培養物の上清、及びDNAライブラリー)が広く使用され、安定(凍結サンプルとして)であることから、これを、所望の抗原結合特異性及び/又は生物活性を有するモノクローナル抗体を識別及び作製するためのキットに含めることができる。例えば、キットの使用者は、実験室において、所望の性質を有するモノクローナル抗体について、細胞培養物の上清、又はDNAライブラリーのグループのスクリーニングを行うことができる。
本発明は、上述の方法で得られる不死化された抗体分泌細胞のポリクローナル集団を提供する。これらの細胞の集団は、所望の抗原結合特異性及び/又は生物活性を有するモノクローナル抗体を分泌する細胞培養物を作成する方法に用いることができ、この方法は以下の工程を有する:
a)請求項5に記載の細胞の集団、又は請求項6に記載の細胞培養物を、各々が50若しくは51個以上の細胞を含む細胞培養物に分割する工程;
b)前記の細胞培養物の上清をスクリーニングして、所望の抗原結合特異性及び/又は生物活性を示すものを検出する工程;
c)所望の抗原結合特異性及び/又は生物活性を示す細胞培養物を、細胞培養物又は集団に分割する工程;
d)各々が、細胞培養物の上清中で所望の抗原結合特異性及び/又は生物活性を有するモノクローナル抗体を分泌する1若しくは2個以上の細胞培養物となるまで、工程(b)及び(c)を前記細胞培養物に対して繰り返す工程。
別の選択肢として、これらの細胞の集団は、所望の抗原特異性及び/又は生物活性を有するモノクローナル抗体を分泌する細胞培養物を作製するための方法に用いることができ、この方法は以下の工程を含む:
a)請求項6に記載の複数の集団によって得られた細胞培養物の上清をスクリーニングして、所望の抗原特異性及び/又は生物活性を有する抗体を分泌する1若しくは2個以上の細胞培養物を検出する工程;
b)上清中で前記の活性を示す各細胞培養物によって分泌された抗体の配列を特定する工程;
c)そのような活性を持つ細胞培養物の上清中でモノクローナル抗体を分泌する細胞培養物を単離する工程。
そのような方法を正しく実行するためには、細胞のポリクローナル、オリゴクローナル、及びモノクローナル集団を、その性質、特に、細胞培養物の上清中で分泌する抗体の抗原結合活性及び/又は機能活性に関する性質を測定するために、適切な細胞培養条件下で維持しなければならない。
この意味で、不死化された抗体分泌細胞の生存率、増殖、及び抗体分泌を支持するために、不死化フェーズ後の細胞培養条件の選択は特に重要である。
この点で、細胞培養条件の選択は、オリゴクローナル及びモノクローナル細胞培養物を確立し、選別し、増殖させる決定要因となり得る。この目的のために、抗体分泌細胞のプールを、1又は2種類以上のB細胞の増殖を刺激する剤を含む細胞培地中に維持してもよい。
EBVの媒介による不死化の場合、細胞の生存率、増殖性、及びIgG産生を高めるために、EBVの感染は潜伏段階で維持するべきである。しかし、過去にレビューされているように(James K and Bell G,1987)、特定の細胞培養条件を選択することで、クローン化効率を高め、対象であるモノクローナル細胞培養物の選別を促進することができる。
第一の重要な局面は、低密度で細胞が培養される場合に、不死化フェーズに続く抗体分泌細胞の培養に用いられる支持細胞層である。支持細胞層は、照射非/同種異系末梢血液細胞製剤、リンパ芽球様若しくは線維芽細胞系列、臍帯血リンパ球、又は様々な種類の胚性細胞から構築することができる。そのような性質を有する細胞系列の例としては、B細胞の成長と増殖を効率的に支持する変異EL4胸腺種細胞系列である、EL4−B5がある(Ifversen P et al.,1993;Wen et al.,1987)。
第二の重要な局面は、細胞を、容器を用いて培養物中にいかに維持するかである。静置培養(ウェル、若しくはフラスコ中)、均一懸濁培養(連続撹拌反応器、若しくはローラーボトル中)、又は固定培養(中空繊維、若しくはその他の支持体上)を含む種々の手順及び物質を使用することができる。
第三の重要な局面は、本発明の方法を実施する場合と不死化フェーズ後に細胞を培養する場合の両方において、細胞の生存率と増殖を維持するための細胞培地の選択である。特に、後者の期間おいて、オリゴクローナル細胞培養物のように低細胞密度で播種された場合でも、細胞培地(IMDM、又はRPMI−1640など)の選択、及び細胞の栄養分(例:アミノ酸、血清)の選択は、細胞の集団の増殖及び複製を促進するために重要である。
最後に、第四の重要な局面は、上記にまとめたような刺激フェーズに用いられるもののいずれか(例:CpGを基にしたオリゴヌクレオチド、インターロイキン)、又は、4−ヒドロキシノネナール(Ranjan D et al.,2005)、チオレドキシン類(Wendel−Hansen V et al.,1994)、可溶性CD40リガンド若しくはCD40に対するアゴニスト抗体(WO91/09115;WO94/24164;Tsuchiyama L et al.,1997;Imadome K et al.,2003)、若しくはシクロスポリン(Tanner JE and Menezes J,1994;Chen C et al.,2001)などの、特にEBVによる不死化の後に、不死化された抗体分泌細胞に類似の増殖促進効果を有することが知られているその他の化合物のいずれか、などの特定のB細胞増殖促進剤を細胞培地へ添加することである。
B細胞増殖促進剤の選択、並びにこの促進剤を適用する期間(例:細胞の不死化直後の数日のみ)の選択は、後に使用するスクリーニングアッセイの種類にも依存する。このような促進剤が、細胞に基づくアッセイの場合、標的細胞の応答を変化させることによる妨害を起こすことがある場合、その特定の促進剤が細胞培地から除去されるか又は置換されない限り、細胞培養物の上清を直接アッセイに使用することはできない。別の選択肢として、抗体を、少なくとも部分的に細胞培養物の上清から精製することができる(例:タンパク質析出、透析、及び/又は親和性精製)。しかし、細胞のプールを播種した後は、できるだけ早くスクリーニングアッセイを実施して、スクリーニングアッセイで問題を引き起こさない適切な条件の確立、細胞の洗浄、又は細胞培地の交換により、B細胞増殖促進剤(又は、細胞培養物の上清に存在するその他の要素)を除去する必要がないことが好ましい。
抗体産生細胞は、本発明の方法に従って単離され、刺激され、そして不死化され、その後、各々が細胞の集団を代表するいくつかのプールに分離されて別々に培養されるまで(例:6−、12−、24−、32−、若しくは96−ウェルプレート中で)、様々な日数の間(例:1〜10日まで、若しくは2−4週間などのより長い期間)バルク培養物として保存することができる。
細胞培養条件下で維持されるこの細胞のバルクポリクローナル集団は、ドナーの選別のためにすでに血清に対して実施されたアッセイ、又は細胞の今後の用途に対して適切なその他のアッセイを用いて分析し、細胞の存在を確認することができる。さらに、細胞のポリクローナル集団の一定分量をいくつかのバイアルに収容して凍結細胞として保存(樹立哺乳類細胞系列に対して一般的に行われるように)することができ、これは後に解凍され、再び培養される。
細胞のプールは複数であり、10から数百まで(若しくは、実施例3に示すように数千)であってよく、各々が統計的に10、102、103、104、105個、又はそれ以上の細胞を含有する。実施例では、抗体を分泌する細胞培養物を、統計的に5、20、50、及び100個の細胞を含有する集団を出発物質として、いかに確立することができるかを示している。種々の日数の後(例:1〜10日まで、若しくは2−4週間などのより長い期間)、これらの細胞のプールでは、例えば、細胞培養物の上清を(直接、若しくはそこに含まれる抗体を部分的に精製した後)細胞に基づいた、又はその他の結合アッセイに用いることによる特性決定に十分な量の抗体が分泌されたはずである。
少なくとも103、104、又は105個の細胞を含む細胞培養物は、市販のELISAキットで容易に測定することができ、類似のインビトロ分析を実施するのにおおよそ十分である量の抗体を分泌することができ、抗体は細胞培養物の上清に蓄積される(例:全体で1〜300μg/ml、若しくはそれ以上)。さらに、105、104、103個、又はそれ未満の細胞があれば、これらの細胞からの関連mRNAの抽出、増幅、クローン化、及び配列決定により、分泌された抗体の配列を得るのに十分である(実施例3に示すように)。
従って、段階希釈した培養物の上清、若しくは部分的に精製した抗体製剤(例:タンパク質Aカラムによる親和性クロマトグラフィーで得られたもの)の平行実験による用量反応分析を場合によっては用いて、所望の活性を示す陽性のウェルを識別するために、細胞培養物の上清の一定分量を、高い処理量でその結合及び/又は機能活性についてスクリーニングすることができる。
次に、陽性である細胞のプール(すなわち、所望の抗原特異性及び/又は生物活性を示すもの)を用いて新たに一連の細胞のプールを作製することで、スクリーニングをさらに細胞培養物のレベルにまで限定し、その結果として、少なくとも最初のスクリーニングアッセイのレベルで、所望の特異性と活性を有するモノクローナル抗体を分泌する細胞培養物を単離することができる。選別されたモノクローナル抗体は、次に、B細胞に適用可能な組換えDNA技術を用いてEBVで不死化された安定なクローンから単離した後、他のさらに厳しい機能アッセイを用いて再分析し、アイソタイプ及びVH/VL配列のレベルでの特性決定を行うべきである。
この最初の特性決定により、適切なモデル及び臨床実験を用いて得られたさらなるデータと組み合わされた場合、前記の上清から精製された(若しくは、組換えタンパク質として後で発現された)モノクローナル抗体が診断及び/又は治療用途を有するかどうかの識別が可能となる。特に、本発明の方法で不死化された元々の細胞の集団がヒトB細胞のIgG陽性の集団であった場合、このモノクローナル抗体は、ヒトの感染症及び疾患を治療するために直接使用することができるヒトモノクローナルIgG抗体である。
抗体産生のスケールアップは、選択された抗体の全H鎖及びL鎖(若しくは、それらの抗原結合領域のみ)をコードするクローン化された配列が、ベクターを用いてクローン化され、組換えタンパク質として発現される哺乳類、バクテリア、又は植物の細胞システムを用いて実施することができる。
本発明の方法は、例えば、元々の抗体分泌細胞のポリクローナル集団、及び抗体分泌細胞のオリゴクローナル又はモノクローナル細胞培養物から得られた細胞培養物の上清をスクリーニングすることによって特定できる所望の抗原特異性及び/若しくは生物活性に基づいて単離することができる、抗体分泌細胞の不死化されたオリゴクローナル及びモノクローナル細胞培養物を提供する。そして、これらの細胞を用いて、所望の抗原特異性及び/若しくは生物活性を有するモノクローナル抗体を識別し、作製することができる。この目的のために、特定の技術が自動化に適しており、いくつかのモノクローナル細胞培養物からの抗体産生の処理量が大幅に高められる(Chambers R,2005)。
細胞培養物の上清及び精製された製剤に用いるスクリーニングアッセイは、対象である抗体を可能な限り最も高い精度で検出するように選択し、確立するべきである。スクリーニングアッセイは、適切なポジティブ及びネガティブコントロール(例:他のスクリーニング由来の、若しくは市販の他の抗体)を含み、有するべきであり、抗体の所望の用途(例:診断、治療、若しくは予防用途)にとって適切な濃度範囲での結合及び/又は機能活性を測定するのに十分な感度も有するべきである。
例えば、抗体が治療用化合物として使用されると考えられる場合は、アッセイは、100、10、又は1μg/ml(若しくはそれ未満)の抗体濃度で重要な活性を検出可能であることが示されているものであるべきである。しかしながら、この初期の段階での抗体の特性決定では、治療に有用な活性をある程度予想するだけであれば、アッセイで測定された活性の感度で通常は十分である。精製された、又は組換えられたIgGに対するさらなるアッセイは、治療効果、及びそれに関連する投与される可能性のある投与量に関してもっと厳密なものである。
スクリーニングアッセイは、抗体に求められる抗原結合特異性及び/又は生物活性を特定するように確立されるべきであり、精製され、抗原との相互作用の特異性、又は細胞、組織、ウイルス、若しくは動物モデルへの影響を実証する、細胞に基づいた、又は生化学的なアッセイに含まれる自己/同種異系抗原(ヒト、哺乳類、バクテリア、ウイルス、寄生虫、有機、化学的、及びその他の抗原性/アレルゲン性化合物)を利用することができる。
別の選択肢として、細胞又は組織などの複雑で生物学的な、未精製の標的(例:内皮細胞内の遊走、腫瘍細胞の増殖、など)に対する抗原結合特異性及び/又は生物活性を特定するためのアッセイを確立することもできる。
細胞のポリクローナル集団、又はより適切にオリゴクローナル集団に対して細胞培養条件下で実施されるこれらのアッセイの結果を用いて、凍結バイアル中に保存するか、又は、1若しくは2種類以上の特定のアイソタイプの抗体をコードするDNA配列を含むDNAライブラリーを構築するのに用いるべき集団を選択することができる。
モノクローナル抗体の特定の用途に適切な場合があり、その抗体の正確で処理量の高い特性決定も可能とするインビボでの抗体のスクリーニング技術がいくつか、文献に記載されている。免疫沈降法、ウエスタンブロット、ELISA、及び免疫蛍光法などのより古典的な技術と共に、より工夫された手法は、効果的なスクリーニングアッセイのために、小さい器官細胞/器官培養物、チップ、又は多色のナノ粒子を利用している(Bradbury A et al.,2003;Haab BB,2005;Lal SP et al.,2002;Olivo P,1996;Potera C, 2005;WO05/82926;WO05/003379;WO05/83064;WO05/76013)。
抗体分泌細胞の採取源、及び、特定のモノクローナル細胞培養物の選別とモノクローナル抗体の特性決定に用いられるスクリーニングアッセイに応じて、診断ツール(ウイルス、バクテリア、若しくは寄生虫感染症、腫瘍、又は細胞分類用)として、予防若しくは治療ツール(特に、悪性の感染症、免疫媒介若しくは炎症性障害の治療用、又は移植患者の管理用)としてなど、免疫システム、及び臨床関連の抗原全般の検査のための、これらの抗体の多くの異なる用途を想定することができる。従って、これらの抗体、特にヒトモノクローナル抗体を用いて、患者の治療のための薬物の製造、及びヒトの感染性、腫瘍性、自己免疫性、又はアレルギー性疾患の診断のための、モノクローナル抗体又は抗体断片、及び薬理学的に許容される担体を含む医薬組成物を調製することができる。
本発明は、モノクローナル抗体を作製する以下の工程を含む方法も提供する:
a)上述の方法で作製された細胞培養物を増幅する工程;及び
b)前記の細胞培養物の上清からモノクローナル抗体を精製する工程。
特に、EBVによる不死化の明確な利点としては、分泌された抗体の最初の特性決定及び確認を行った後、細胞培養物を直接用いて、インビトロ又はインビボアッセイ(さらなる生化学的、組織若しくは細胞に基づくアッセイ、げっ歯類で確立された疾患モデル、親和性測定のための生物物理学的方法、エピトープマッピング、など)によるさらに広範囲の抗体の特性決定及び確認を行うのに十分な量の抗体(マイクログラム〜ミリグラムの範囲)を精製できるということである。
この目的の下、元々の細胞培養物は、該培養物のクローン性を制御した後、培地及び培養条件を、細胞の増殖を維持して抗体の発現と分泌を改善するように適合させ、さらに最適化することができる(Ling N,2000)。次に、文献に公知の親和性クロマトグラフィーを用いて複雑なタンパク質混合物から抗体を単離する技術を適用して、細胞培養物の上清から抗体を精製することができる(Nisnevitch M and Firer MA,2001;Huse K et al.,2002)。抗体精製のためのこれらの方法は、抗原若しくはエピトープに基づく親和性クロマトグラフィー(Murray A et al.,2002;Sun L et al.,2003;Jensen LB et al.,2004)によるものだけでなく、プロテインA、プロテインG、又は合成基質などの基質に対する抗体の一般的な親和性に基づくものとすることができる(Verdoliva A et al.,2002;Roque AC et al.,2004;Danczyk R et al.,2003)。その他の調製のための抗体の分離装置としては、例えば電気泳動に基づくなどによる工夫がされてきた(Thomas TM et al.,2003)。
明らかに、モノクローナル細胞培養物を用いて、適切な宿主細胞中での組換え抗体の発現へ進む前に、ベクター中で増幅し、クローン化することによって、モノクローナル抗体をコードするDNA配列を識別することができる。選別されたクローン細胞培養物によって分泌された抗体のタンパク質配列は、これらの抗体をコードする核酸を文献に公知の組換えDNA技術(Poul MA et al.,1995;Jovelin F et al.,1995;Heinrichs A et al.,1995;Dattamajumdar AK et al.,1996;Norderhaug L et al.,1997;Chardes T et al.,1999;Jarrin A and Andrieux A,1999;Essono S et al.,2003)を用いて単離することによって容易に決定することができる。
これらの技術を用いて、さらに治療用抗体の構造及び機能の特性決定、並びに最適化も行うことができ(Kim SJ et al.,2005)、又はモノクローナル抗体のインビボでの安定な送達を可能にするベクターも作製することができる(Fang J et al.,2005)。
簡単に述べると、mRNAを細胞培養物から調製し、全H鎖及びL鎖、又はこれらの一部のみ(可変領域など)を特異的に増幅するための縮重プライマーを含むポリメラーゼ連鎖反応法(PCR法)の鋳型として用いることができるcDNAライブラリーへ逆転写することができる。可変領域(抗原結合を担う)のみを単離する場合、これらの配列はベクター中でクローン化することができ、これによってこの配列と所望のアイソタイプ(例えば、ヒトIgGガンマ1)の定常領域(Fc)とが融合することができる。PCR増幅されたDNA断片は、組換えタンパク質として抗体を発現するために他のベクターへ適合させ、再度クローン化することができるコード配列を配列するために、アダプター又は制限酵素部位を用いて、ベクター中へ直接配列又はクローン化することができる。
細胞のポリクローナル、又はオリゴクローナル集団のmRNAを用いて、例えば、ファージディスプレイライブラリー、バクテリアライブラリー、酵母ライブラリー、又はDNA、特にはタンパク質をコードするDNAの複製及び維持に用いることができるその他の形の生物学的ライブラリーとして利用可能にすることができる、特定のアイソタイプの抗体分泌細胞に特異的なcDNAライブラリーを構築することもできる。例えば、組換え抗体配列のライブラリーを、1若しくは2種類以上の細胞のオリゴクローナル集団から抽出されたmRNAを用いて作製することができ、これを用いてバクテリア又は真核生物の宿主細胞中で抗体を産生させ、それから、所望の抗原特異性及び/又は生物活性を有する1若しくは2種類以上の抗体を識別することを目的として、そのような抗体をスクリーニングすることができる。
クローン化と特性決定を行った後、抗体を原核生物(例:大腸菌;Sorensen H and Mortensen K,2005;Venturi et al.,2002)、植物(Ma JK et al.,2005)、又は真核細胞、特に、一過性であるか安定である形質転換された細胞としての高レベルでの発現を可能にするヒト、げっ歯類、若しくはその他の真核細胞系列(例:CHO、COS、HEK293)(Schmidt F,2004)の中で組換えタンパク質として発現させることができる。これは、抗体の特性決定が、インビボアッセイを含むより高度なアッセイを用いて実施しなければならない場合に特に必要となるであろう。宿主細胞は、さらにクローン化モノクローナル抗体の組換え発現レベルに基づいて選択することができる。
この目的の下に、クローン化抗体の配列を、PCR法若しくはその他の組換えDNA技術を用いて、DNAレベルのみ(例:制限酵素部位の除去若しくは添加、コドンの使用の最適化、転写及び/若しくは翻訳制御配列の適合)、又はDNAとタンパク質の両方のレベル(例:他のタンパク質配列の添加、若しくは内部アミノ酸の修飾)で修飾することができる。さらに、これらの抗体に基づく断片(Fv、Fab、F(ab)’、若しくはF(ab)’’)、又は融合タンパク質を、組換えDNA技術を用いて作製することができる。
例えば、組換え抗体は、可変領域に融合される特定のFc領域を選択することによって(Furebring C et al.,2002)、安定化ペプチド配列を添加することによって(WO01/49713)、組換え単鎖抗体断片を生成することによって(Gilliland LK et al.,1996)、又は化学修飾された残基に放射性化学物質若しくはポリマーを添加することによって(Chapman A et al.,1999)、構造及び/又は活性のレベルで修飾することもできる。
種々のベクター系を用いて、トランスフェクトされた細胞系列の安定なプールを作製することができる(Aldrich TL et al.,2003;Bianchi A and McGrew JT,2003)。細胞培養条件の最適化のおかげで(Grunberg J et al.,2003;Yoon SK et al.,2004)、そして高レベルの抗体産生を行うクローンを選択し、又は遺伝子操作することによって(Bohm E et al.,2004;Borth N,2002;Chen K et al.,2001;Butler M,2005)、組換え抗体の高レベルで最適化された安定な発現が実現した(Schlatter S et al.,2005;Dinnis D and James D,2005;Kretzmer G,2002)。
細胞培養物からの非/組換え抗体の精製は、文献で報告されていたり、簡潔に述べられていたりする技術を用いて実施することができる(Hale G et al.,2004;Horenstein AL et al.,2003)。しかし、臨床的な開発及び使用は、抗体の薬物動態的及び薬力学的な特性決定(Lobo E et al.,2004)、並びに、ヒトの治療及びインビボ診断用途のためのマウス、ヒト、及び遺伝子操作したモノクローナル抗体の製造と品質管理に関する国際的要求事項(EUDRA文書3AB4a)の遵守に基づくべきである。
本発明を、これから、以下に示す実施例により説明するが、これらの実施例は、いかなる意味においても本発明を制限するものとして解釈されるべきではない。
実施例
実施例1:細胞培養条件下のB細胞の生存率及び増殖に対する、細胞を精製及び刺激する方法の影響
材料と方法
ヒトB細胞の単離と維持
新鮮な末梢血液単核細胞(PBMC)を、Ficoll/Hypaqueによる従来の密度勾配遠心法で精製した。この後、実験によっては、異なる実験条件に対する応答の平均を調べることと、ドナーの変動による違いを限定するために、単一ドナーからのPBMC又は5名の異なるドナーからプールされたPBMCを用いて細胞をプロセッシングした。
ヒトB細胞を、バリオマックス(VarioMACS)技術(Miltenyi Biotec Inc.)を製造元の説明に従って用い、免疫磁気セルソーティングによってPBMCから単離した。簡単に述べると、PBMCを、0.5%のBSA(ウシ血清アルブミン)及び2mMのEDTA(エチレンジアミン−N,N,N’,N’−四酢酸)を添加したPBS(リン酸緩衝食塩水)中に懸濁し、マイクロビーズと抱合体形成した種々の抗体(CD19、CD22、又はCD27に対する)と共にインキュベートした。それから、マイクロビーズが結合した細胞を洗浄し、磁場を印加した状態でカラム(LSカラム;Miltenyi、cod.30−042−401)に通してポジティブ選別を行った。次に、製造元(Miltenyi Biotec Inc.)の説明書に従って、MACSマルチソート(MultiSort)用分離試薬(releasing agent)(20μl/ml)を4℃で10分間用い、細胞をマイクロビーズから分離した。
セルソーティングによるIgM陽性細胞のネガティブ選別、又はバリオマックス技術(Miltenyi Biotec Inc.)を用いたIgG陽性細胞の磁気選別により、製造元の説明書に従って、IgG陽性B細胞を得た。セルソーティングについては、CD22陽性B細胞(あらかじめ刺激を行ったもの、又は行っていないもの)を最適濃度の抗ヒトIgM−FITC(Becton Dickinson、n.555782)と共に、氷上で1時間インキュベートした。細胞はPBSでよく洗浄し、それから、無菌条件下で高速セルソーター(MoFlo(登録商標)高速セルソーター(High−Performance Cell Sorter))を用いて、IgM陽性及びIgM陰性の細胞へ選別した。
選別された細胞を、10%(v/v)熱失活FCS(ウシ胎児血清)、1mMピルビン酸ナトリウム、100μg/mlストレプトマイシン、及び100U/mlペニシリンを添加した細胞培地RPMI−1640中に懸濁、維持し、24−ウェルプレート中、37℃、5%CO2の存在下で培養した。
細胞培養物中のB細胞の刺激
CpG2006(5’−TCGTCGTTTTGTCGTTTTGTCGTT−3’;配列番号1)はColey Pharmaceutical Groupより購入した。組換えヒトインターロイキン2(IL−2)はRocheから入手した。組換えヒトインターロイキン4(IL−4)はPeprotechから入手した。組換えヒトCD40リガンド(108〜261個のアミノ酸を含む可溶断片)はR&D Systemsより入手した。スタフィロコッカスアウレウス(Staphylococcus aureus)のコワン株(Cowan strain)(SAC)及びリポ多糖(LPS)はSigmaより購入した。
3H−チミジンの取り込みによるB細胞増殖の測定
細胞(2×106/ml)を96−ウェルプレート(50μl/ウェル)に、示した培養条件下で三つ組のサンプルとして播種し、3H−チミジン(NET−027X チミジン、メチル−3H;比活性20Ci/mmol;PerkinElmer)を実験終了の8−16時間前に添加(0.5μCi/ウェル)して標識した。3H−チミジンの取り込みは、細胞をガラス繊維フィルターに採取し、ベータカウンター(Wallach Instrument)を用いて計数することで測定した。
FACSによる表面マーカー発現の分析
細胞(3×105/サンプル)を、0.5%ウシ血清アルブミン含有PBSに懸濁し、FITCで標識した、CD22に対する選別したモノクローナル抗体と共に4℃で30分間インキュベートした。洗浄後、フローサイトメーターFACSCalibur及びソフトウエアCellQuest(Becton Dickinson)を用いて蛍光を分析した。モノクローナル抗体の結合活性のバックグラウンドは、アイソタイプに対応したネガティブコントロールのモノクローナル抗体により算出した。分析した細胞数は10000個であった。
FACSに基づくセルソーティング
細胞のソーティングは、高速セルソーターMoFlo(登録商標)高速セルソーター(Dako)を用いて行った。IgG発現細胞のネガティブ選別は、抗ヒトモノクローナルIgM−FITC(10μl/106細胞;Becton Dickinson、Cat.No.555782)、又は抗ヒトポリクローナルIgM−FITC(2μl/106細胞;Jackson、Cat.No.309−096−043)と共に4℃で1時間インキュベートした細胞(107/ml)を出発物質として行なった。次に細胞を洗浄し、ソーティング用のバッファー(5mMのEDTA、25mMのHepes、及び1%のFCSを含有するPBS)中に懸濁した(10−20×106/ml)。形態パラメーターに基づいて細胞をゲートした(R1)。CD22陽性、IgM陰性B細胞は領域R1内に選別された。
結果
B細胞の精製及び刺激の種々の手法が細胞培養条件下における細胞の生存率及び増殖に与える影響に関する比較に基づいた情報は、文献には少ない。
インターロイキン2(IL−2)は、細胞培養物中におけるこのサイトカインの一次ヒトB細胞に対する増殖促進効果がよく分かっていることから(Banchereau J and Rousset F,1992)、対照化合物として使用した。まず、表面上におけるCD22の表面発現に基づいてヒトPBMCから精製し、次に、公知のポリクローナルB細胞刺激剤であるCpG2006、リポ多糖(LPS)、可溶性CD40リガンド(CD40L)、及びスタフィロコッカスアウレウスのコワン株(SAC)によって共刺激を施した一次B細胞を用いて比較を行った。
4日間の3Hチミジン取り込みアッセイにおいてIL−2と共にLPS,SAC、及びCD40Lを添加した場合は、細胞増殖に関して正の用量反応が測定された。しかし、文献に一般的に記載されている濃度(Bernasconi N et al.,2003;Traggiai E et al.,2004)で添加したCpG2006との組み合わせでは、この化合物は、IL−2と組み合わされた場合、細胞培養物中でB細胞の増殖を誘起する著しく高い能力を有することが示された(図2)。CpG2006とIL−2との組み合わせで得られたのと同様の増殖誘起効果は、このアッセイで可溶性CD40L(少なくとも0.5μg/mlの濃度)を別のサイトカインであるIL−4(少なくとも20ng/ml)と組み合わせた場合の結果でも得られ、このことは、最適な動態とIgG分泌への影響が明らかになれば、この化合物の組み合わせを本発明の方法における刺激剤として使用することができることを示唆している。
IL−2とCpG2006との組み合わせで確認された効果の度合いから判断して、0から2.5μg/mlまでのCpG2006の濃度範囲を用い、IL−2の濃度は一定に維持した状態で、最適なB細胞の増殖と芽球化に対するCpG2006の滴定を行った。
CpG2006に誘起されるCD22陽性ヒトB細胞の著しい増殖が、0.15μg/mlという低い濃度において検出され、0.3μg/mlで定常状態に達した(図3A)。生存細胞と芽球細胞(高前方散乱である大型細胞)の割合について同じ細胞の集団をFACSで分析したところ、最適なCpG2006の濃度はわずかに高め(0.6から1.25μg/mlの間)と見られ、これは、芽球細胞の割合がこの濃度で高くなるからである(図3B)。
このCpG2006/IL−2の組み合わせに関する結果は、CpG2006によるB細胞の刺激効果を1μg/mlよりも低い濃度で得ることができるというこれまでの結果を確認すると同時に、刺激されたCD22陽性B細胞の増殖と芽球化を、ある範囲のCpG2006濃度(0.3−1μg/ml)で得ることができることを示している。
これらの実験において、IL−2は一定の濃度(1000U/ml)で添加したが、CpG200の濃度を一定として、種々のIL−2濃度での同様の用量反応を行い、CpG2006の存在下でのヒトB細胞の増殖と芽球化を誘起することができるIL−2の最適濃度をさらに明らかにすることができる。引き続いて行った実験でも、IL−2を100U/ml〜1000U/mlの間の濃度範囲で用いることが可能であることが示された。
従って、ポリクローナルB細胞の刺激剤の選択に加えて、特定の化合物を(単独で、若しくは組み合わせて)用いるべき濃度の決定も、細胞の増殖に所望の効果を得るために重要である。CpG2006に基づく活性化剤とサイトカインとに対するB細胞の応答性及び増殖性が、CD19/CD27陽性細胞に対して示された(Bernasconi et al.,2002;Jung J et al.,2002)。しかし、文献に公知のB細胞の生存率に対するCpG2006の悪影響(Hartmann et al.,2000;Klinmann D et al.,1996;Fearon K et al.,2003)の少なくともいくつかは、特定の条件、濃度、及び化合物の組み合わせを適用することによって軽減されると考えられる。
生物学的サンプルから一次B細胞を精製する方法は、これらの一次B細胞の生存率及び増殖能力が、細胞培養条件及びインビトロでの刺激剤の存在下での処置によって危うくなることのないようなプロセスを確立するために考慮すべきさらなる要素となり得る。
例えば固体支持体を用いるなどのヒトB細胞のポジティブ選別に有用であるとして主に文献に記載されているのは、2種類の表面マーカー、CD19及びCD22である。IL−2とCpG2006を組み合わせた刺激プロトコルが、CD19又はCD22に特異的なマイクロビーズで精製されたヒトB細胞に適用された。
FACSに基づく細胞の生存率及び芽球化の分析を、刺激の前と後に行った。この細胞精製に対する二つの手法を比較すると、精製の直後は、細胞のCD22陽性集団はCD19陽性集団よりも均一であることが明らかに示された(図4A)。この精製手法に対する細胞の反応は刺激の4日後がより明らかであり(図4B)、CD22陽性集団は、CD19陽性集団に比べて生存細胞の度数が高く、大型で活性な細胞の占める割合がかなり大きい。CD19ではなくCD22に特異的な抗体を担持させたマイクロビーズで精製したB細胞の生存率が高くなったのは、この二つの異なる選別手段によってもたらされた、これらの細胞の増殖能力に対する下流効果が異なることが原因であろう。
さらに、CD22陽性B細胞は、IgG発現細胞、又はCD27陽性メモリーB細胞などのその他の適切なB細胞サブセットのポジティブ選別のためのマイクロビーズなど、さらなる選別手段を適用することによって、選別し、刺激することができる。
細胞の刺激と選別の両方の選択した手段が細胞の生存率及び増殖に影響を及ぼすことが分かると、関与する可能性のあるさらなる要素は、IL−2及びCpG2006の単独の又は組み合わせた刺激に対するCD22陽性ヒトB細胞の細胞生存率及び増殖反応の動態である。
細胞生存率及び増殖は、刺激開始後2、4、及び6日後に測定し、CpG2006(1μg/ml)及びIL−2(1000U/ml)の組み合わせ効果により独特の動態を見せることが示された。CpG2006単独で誘起された3H−チミジンの取り込みの最大は、培養の2日目に早くも観測され、その後は減少している。IL−2単独に対する細胞増殖反応の動態はもっとゆっくりしたものであり、培養の6日目まで3H−チミジンの取り込みが増加している。しかし、CpG2006とIL−2との組み合わせによる刺激では、3H−チミジン取り込みの動態はCpG2006のそれに類似しているが、驚くべきことに2日目で高められ、4日目までそれが継続し、培養の6日目までには減少している(図5)。平行して、CpG2006とIL−2で刺激された培養物中の生存細胞の総数を測定したが、やはり2日目と4日目で生存細胞の数が多かった。
従って、この2種類の刺激剤を組み合わせる利点は、反対方向の動態を有するIL−2とCpG2006によって別々に誘起される効果が互いに平衡に達することができる時、特に培養の4日目に、明らかにより重要となる。これらのデータにより、この刺激剤を同時に添加するだけでなく、順に(すなわち、刺激フェーズの最初に一方を、数時間又は数日後にもう一方)添加することによっても、抗体分泌細胞に対して、細胞の増殖と生存率に同様の、又はより良い効果を及ぼすことができる可能性も示唆される。
実施例2:EBVを用いて不死化されたB細胞の生存率、増殖、及び抗体分泌に対する、細胞を精製及び刺激する方法の影響
材料と方法
選別、及びB細胞の増殖と生存率の分析
ヒトB細胞の選別、刺激、及び分析は、特に断りのない限り、実施例1に示したように実施した。
表面マーカー発現のFACSによる分析
CD21陽性細胞は、CD22に対して上記で示すように、抗CD21−PE抱合体(Caltag Laboratories、Cat.No.MHCD2104、batch 04061206)を用いて、免疫蛍光法及びフローサイトメトリーにより検出した。
エプスタイン−バーウイルス(EBV)上清の調製
EBV産生B95−8マーモセットリンパ腫細胞(ATCC No.CRL−1612;5×105/ml)を、10%FCSを添加したRPMI−1640細胞培地中(完全培地)で4日間増殖させた。
急激に増殖するB95−8細胞を100nMのホルボールエステル(例:PMA;Sigma)で2時間刺激し(Oh HM et al.,2003)、それからHBSS(ハンクス平衡塩類溶液(Hank’s balanced salt solution);Sigma)でよく洗浄して溶液中のPMAを除去した。PMAで刺激されたB95−8細胞を10%FCSを添加したRPMI−1640完全培地中で48時間培養し、上清を回収して遠心分離にかけ、0.22μmの膜でろ過した。
不死化の効率を、異なる血液ドナーからのCD22陽性B細胞の3つの別々の製剤について評価した。すべての場合において急速な不死化が見られ、速やかな複製を示すポリクローナルリンパ芽球様細胞系列が得られた。PMA刺激を行わない従来の条件で調製したウイルスのバッチを用いた不死化を平行して行ったが、複製の速度はこちらの方が遅かった。
刺激されたヒトCD22陽性、IgM陰性B細胞のEBVの媒介による不死化
IL−2(1000U/ml)とCpG2006(1μg/ml)による4日間の刺激の後、EBVの上清に曝露する前にCD22陽性、IgM陰性細胞を新しい培地でよく洗浄し、刺激剤を除去した。
細胞(106/ml)をEBVの上清中と共に(10%FCS添加RPMI−1640中、50% V/V)、最短の4時間から18時間までインキュベートすることで細胞全体の不死化を行い、それから新しい培地で洗浄した。50%のEBVの上清で4−18時間処理した細胞の増殖と生存率は、30%のEBVの上清で7日間処理した細胞の増殖と生存率と同等である。
次に、細胞を濃縮し(10%FCS及び1000U/mlのIL−2を添加したRPMI−1640中106/ml)、24ウェルプレートの各ウェル中の0.5×105個の照射した(3000rad)同種異系PBMCへ8−16日間播種、増殖した。
EBVを用いたヒトB細胞の不死化の種々の方法の結果に関する定性的、及び定量的比較
ヒトB細胞は、実施例1に記載の磁気選別により、5人の正常ドナーからプールしたCD22陽性末梢血液単核細胞(PBMC)として単離し、3つのプールに分離して、各々にEBVに基づいたB細胞不死化の異なる方法を施した。
BASIC法では、これらの細胞のIgG陽性分画をMoFlo高速セルソーター(MoFlo、 Cytomation)及び抗ヒトIgGFITC(Becton Dickinson)を用いたセルソーティングによって選別した。次に、8×105個のCD22陽性、IgG陽性細胞をEBVの上清(上述のようにして調製)と共に12時間培養し、洗浄後、L−グルタミンと、非必須アミノ酸(NEAE)と、10%FCSとを添加したIMDM培地(Gibco−BRL)中、照射した同種異系PBMCの支持細胞層の存在下、1.5×106細胞/mlの密度で、37℃で10日間培養した。
COMBINED法では、8×105個のCD22陽性、IgG陽性細胞をBASIC法と同様にして単離し、それから、L−グルタミンと、NEAEと、10%FCSとを添加したIMDM培地(Gibco−BRL)中、照射した同種異系PBMCの支持細胞層の存在下、1.5×106細胞/mlの密度で、CpG2006(1μg/ml)及びIL−2(200U/ml)、並びにEBVの上清(上述のようにして調製)と共に、37℃で10日間培養した。
SEQUENTIAL法では、CD22陽性PBMCを、まず、L−グルタミンと、NEAEと、10%FCSとを添加したIMDM培地(Gibco−BRL)中、CpG2006(1μg/ml)及びIL−2(200U/ml)の組み合わせにより、37℃で4日間あらかじめ刺激した。次に細胞をPBSで洗浄し、IgG陽性細胞を上述のように磁気選別で濃縮した。そして、あらかじめ刺激された細胞(8×105個のCD22陽性IgG陽性PBMC)を、EBVの上清により37℃で12時間感染させ(BASIC法と同様に)、洗浄後、1.5×106/mlでIMDM培地中(L−グルタミン、NEAE、及び10%FCS添加)、照射した同種異系PBMCの支持細胞層の存在下、37℃で10日間培養した。
ヨウ化プロピジウムとフローサイトメトリーによる細胞数及び生存率の測定
B細胞の総数は顕微鏡で計数することによって測定し、生存率は、FACSCaliburベンチトップ型フローサイトメーター及びソフトウエアCellQuest(Becton Dickinson Biosciences)を用いて、DNA挿入蛍光色素ヨウ化プロピジウムの排除より測定した。簡単に述べると、細胞を室温でヨウ化プロピジウム(PI、Sigma;PBS中、最終濃度2.5μg/ml)に曝露し、30分以内にフローサイトメトリーで分析した。前方散乱及び側方散乱が高く、リンパ球及びリンパ芽球の特徴を有し、PIを排除するものを生存細胞とした。PIで染色され、前方散乱の低い細胞は、死細胞及び残骸である。
CD23の表面発現の分析
CD23の発現は、実施例1に記載のように、直接免疫蛍光法を用いたFACS及び抗ヒトCD23−PE抱合体(Becton Dickinson、カタログ番号555711)を用いたフローサイトメトリーによって電気的にゲートした(R2領域)生存リンパ芽球中で測定した。
分泌IgGの測定
培養物の上清中の全ヒトIgGの分泌は、ELISA(Immuno−Tek/Zeptometrics、cat.no.ZMC0801182)を用い、製造元の説明書に従って測定した。簡単に述べると、培養物の上清を培養物から回収し、4℃で保存した。上清サンプルを段階希釈し、ELISAキットに含まれる精製ヒトIgGの検量線と比較した。この測定値は、10日間の培養期間中に培養物中に蓄積されたIgGの全量を反映している。
結果
このプロセス全体の目的は、不死化された抗体分泌ヒト細胞を最も直接的な方法で作製することであることため、樹立、及び感染させた細胞の上清を用いた応用が非常に容易であるEBVを不死化剤として選択した。しかし、恐らくは、ウイルスが細胞中へ進入するのに用いる細胞表面に存在する受容体であるCD21の発現が限定的であることが理由で、実際に感染しているのはEBVに曝露された細胞のほんの一部であることは公知である(Jondal and Klein,1973;Nemerow et al.,1985; Boyd and Fecondo,1988)。従って、上述の細胞の刺激と精製のための選択した手段及び条件によって、CD21の発現が正の影響を受けるか負の影響を受けるかを見極めることは重要であった。
この目的の下、IL−2(1000U/ml)とCpG2006(1μg/ml)とによる4日間の刺激の後、種々の細胞マーカー(CD22陽性のみ、CD22陽性及びCD27陽性、CD22及びIgG陽性、CD22陽性及びIgM陰性)に基づいて選別されたB細胞集団の増殖の動態、及び異なる時点でのCD21陽性細胞の割合を測定した。すべての実験において、CD21は生存する増殖細胞の>90%で発現され、本発明の方法の状況において、二重選別の手法を用いることが可能であることも確認された。
従って、細胞の刺激と精製に関する選択した手段及び条件が、細胞増殖活性に強い正の影響を与えることが示された後、この手法がいかにしてB細胞の不死化剤に対する反応の仕方を向上させることができるかを調べた。実際、B細胞をEBVへ曝露すると、培養から1週間以内に大部分の細胞が成長を止めるか又は死に至り、続いてEBVで不死化された細胞によって増殖が再開するということは公知である(James K and Bell G,1987)。従って、十分な割合の適切に刺激され、選別されたヒトB細胞をEBVで不死化することができるかどうかだけでなく、これらの不死化されたB細胞がEBV不死化の後の重大な期間を乗り越える能力に関してより優れているかどうかを知ることも、非常に重要になるであろう。
CpG2006及びIL−2であらかじめ刺激した、又は刺激していない、ヒトCD22陽性、IgM陰性B細胞を、EBVの上清に一晩曝露し、洗浄後、照射同種異系PBMCの支持細胞層上に、IL−2(1000U/ml)を含む培地と共に播種した。この後何日かにわたってこの細胞の増殖を測定した。この方法により、B細胞をCpG2006及びIL−2で前処理することによって、EBVによる不死化に続いて再開するB細胞の増殖の速度と程度が向上するかどうかを実証することができる。これは、EBVの上清への曝露後の7日目に最も明らかに示されており、あらかじめ刺激されていない細胞と比べて、刺激された培養物中にはほぼ50%多くの細胞が存在する(図6A)。この結果は、あらかじめ刺激したCD22陽性B細胞でさらにIgM陽性細胞が除去されることがなかったことによっても確認された。
従来の方法では、EBVの上清を用いた不死化の最中(前だけでなく)に、ポリクローナルB細胞活性化剤を用いることの利点が示されていたが、活性化剤を細胞培養物から除去する工程は含まれていなかった(WO91/09115;Hur D et al.,2005;Traggiai E et al.,2004;Tsuchiyama L et al.,1997;WO04/076677)。従って、CpG2006(1μg/ml)及びIL−2(1000U/ml)の存在下又は非存在下でEBV上清に7日間曝露したCD22陽性、IgM陰性B細胞の培養物中の細胞数を測定した。しかし、顕微鏡による細胞数の計数で結論付けることができるように、EBVによる不死化の最中のCpG2006及びIL−2の存在によって、生存B細胞の数が減少する結果となった(図6B)。この減少は、EBVの上清単独に曝露した細胞と比較してもすでに重要なものであるが、別個にあらかじめ行う刺激フェーズによって得られたデータを考えた場合、さらに重要なものとなる(図6A)。
これらのデータは、ヒトB細胞の培養物を刺激剤(CpG2006及びIL−2など、単独で若しくは組み合わせて使用される)で処理する別個の刺激フェーズが、B細胞の選別及びEBVを用いた不死化のプロセス全体に有利な効果をもたらすことを示している。このような正の効果は、さらに特定の刺激剤の組み合わせ(例えば、濃度を下げたCpG2006及び/若しくはIL−2)を用いること、並びに/又は、刺激フェーズの期間を、B細胞が最適な増殖活性及び該当するマーカー(CD21など)の発現を示すように限定することによって(例えば、2〜4日間)、さらに改善することができる。刺激剤がEBVの上清と混合する形で引き続き大量に存在することによってCD22陽性B細胞の成長と生存率が悪影響を受けることから、不死化フェーズの前に刺激剤を除去することは、この方法で最高の結果を得るのに役立つ。
上記で示したデータにより、この方法を、細胞表面マーカーの発現(例えば、CD21、CD23、CD24、CD27、及び/又はCD22)に基づいて確定された特定のヒトB細胞のサブセットへ適用する可能性だけでなく、B細胞によって分泌された抗体に関連するさらなる選別基準を適用することの実行性も実証される。この場合、不死化へ進む前に、特定のアイソタイプ(IgM)の抗体を発現する細胞を除去する技術を使用することである。
実際、CpG2006/IL−2で刺激され、IgMを除去され、EBVで不死化されたCD22陽性B細胞のFACSに基づいた分析をEBV感染後の10日目に行ったところ、ほとんどすべての生存細胞(高い前方散乱を示したもので、右側の二つの区画内に表示)が、引き続き、治療用抗体の産生により好ましい表現型であるIgM陰性(下部右側の区画)であることが確認された(図7A)。不死化され、アイソタイプに特異的なヒトB細胞の培養物を、本発明の方法を用いて作製し、維持できることが、文献中で行なわれた免疫拡散法に従って(Mancini G et al.,1965)上述のB細胞の上清を免疫拡散アッセイで分析することによってさらに実証され、そのようなB細胞が実質的にIgG分泌細胞であることが確認された(図7B)。
EBVによる不死化の前に、B細胞に特異的な刺激とアイソタイプに基づいたB細胞選別との組み合わせを行なうことによる予想外の正の効果は、その他のB細胞選別手段を含めることでさらに向上させることができる。
この手法の効率性は、CD22陽性で、CpG2006/IL−2で刺激され、IgM陰性のB細胞のクローン化効率に基づいて測定することができる。得られた細胞は、CpG2006及びIL−2の存在下、インビトロで2−4日間増幅させ、ポジティブ選別又はIgMに基づいたネガティブ選別によってIgG陽性亜集団の濃縮を行なう。CD22陽性、IgM陰性B細胞をEBVで感染させ、感染の1−4週間後、96−ウェルプレート中で限界希釈によってクローン化する。バルク培養物のクローン化効率は、分析に用いたそのバルク培養物の各希釈率において(例:1:5、1:10、1:25、1:50、1:100、1:200)、又はウェルあたりの各細胞濃度において(例:ウェルあたり、1、5、10、20、25、50、100、200個、若しくはそれ以上の個数の細胞)、成長する細胞を含むウェルの数をスコア化することで評価することができる。
EBVによる不死化を実施するにあたって考慮すべき最も重要な事項の一つは、続いて行なうクローン化に用いる細胞の生存率を維持するということである。このことは、末梢血液中に非常に低い度数(<1:1000)で存在することもある抗原特異的B細胞を識別しようとする場合に特に重要である。EBVはポリクローナルB細胞の刺激剤であるが、B細胞をEBVに曝露すると、初期の間に培養物中で細胞死が発生する結果となることはよく証明されている(Sugimoto M et al.,2004)。
EBVの媒介による細胞の不死化の3つの方法を、5人の正常なドナーからプールしたCD22陽性末梢血液単核細胞(PBMC)に適用し、その結果を比較することにより、本発明を支持するさらなるデータが得られた(図8A)。
BASIC法では、CD22陽性、IgG陽性細胞をEBV含有上清のみに12時間曝露し、洗浄後、支持細胞上、適切な細胞培地中で10日間培養するという、非常に簡単な手法を用いた。COMBINED法では、CD22陽性、IgG陽性細胞を、EBVとポリクローナル活性剤(CpG2006及びIL−2)に同時に、このような化合物を同時に使用することに関して文献に記載の方法と同様にして(Traggiai E et al.,2004;Tsuchiyama L et al.,1997)、細胞培養物中で10日間曝露した。本発明の方法を適用することが可能な方法であるSEQUENTIAL法では、CD22陽性細胞をまずCpG2006とIL−2との組み合わせに曝露し、洗浄した。それから、IgG陽性細胞を精製し、CD22陽性、IgG陽性細胞をEBV含有上清に12時間曝露し、洗浄後、ここでも適切な細胞培地中、支持細胞上で10日間培養した。
CD22陽性、IgG陽性細胞の絶対数は、すべての条件について、EBVへの曝露開始時点を基準としたため、10日間の培養の終了時点で測定した細胞培養物と上清の分析結果のデータにより、この3つの方法の正確な比較ができるはずである。実際、BASIC法及びSEQUENTIAL法の両方において、全細胞数が増加して、最初の細胞数のほぼ2倍(200%)という結果となり、これは1.5倍(150%)という結果であったCOMBINED法よりも顕著である。さらに重要なことには、生存細胞数を測定すると、SEQUENTIAL法を用いて得られた細胞の集団が、BASIC法と、そしてさらに劇的にはCOMBINED法の両方と比べて、生存細胞の数が多かった(図8B)。
そして、3つの方法を用いて得られた細胞の集団の定性分析を、異なる基準を用いてさらに行なった。
FACS分析によると、すべてIgGを発現する細胞の集団であることを除いては、全体として、特に、増殖し、分裂する生存リンパ芽球に対応する領域内(ヨウ化プロピジウム染色に対して陰性であり、高い前方散乱を示す;図9の領域R2)で、組成が異なっていることが分かる。SEQUENTIAL法を用いて得られた細胞の集団は、BASIC法を用いて得られた集団と比較して、著しくこの領域内に集まっているのが見られ、COMBINED法を用いて得られた集団との比較ではそれがさらに際立っている。ヨウ化プロピジウムの蓄積により高い蛍光レベルを有する細胞は、死細胞又は死につつある細胞であり、BASIC法及びCOMBINED法を用いて得られた両集団は、さらなるサブクローン化もスクリーニングアッセイも適用できないこの種の細胞をより多く蓄積していた(図9、左の図)。
サンプル中に存在する生存リンパ芽球の集団も、ほとんどの末梢血液B細胞に低いレベルで存在するが、その発現は一般に活性化によって促進される細胞表面マーカーであるCD23(Azim T and Crawford D,1988)の発現について分析を行った。CD23の発現とIgGの分泌との間の直接の相関が、EBVで不死化されたヒトB細胞の集団において実証されたことから(Wroblewski J et al.,2002)、このような指標を証拠として示すことは重要である。CD23の発現のレベルは横軸にログで示し、その量のCD23を発現する細胞の相対数を縦軸に示す(図9、右の図)。BASIC法及びSEQUENTIAL法の両方において、COMBINED法で得られた細胞の集団での結果と比較して、はるかに高い割合の細胞が高レベルのCD23の発現を誘起することは明らかであり、COMBINED法では、高レベルのCD23を発現する細胞が明らかにほとんど存在せず、CD23の発現がないか低い細胞が蓄積されている。
一次B細胞の同じプールから、上述の3つの方法に従って作製された細胞の集団の定性分析により、本発明の方法の特定の特長に関する重要な情報が得られる。実際、2種類の剤を同時に細胞に曝露するのではなく、EBVによる不死化とポリクローナルによる刺激とを別にすることにより、細胞の集団の生存率、CD23の発現、及び増殖能力が向上することが確認された。さらに、FACS分析により、本発明の方法が、ある面でBASIC法によって得られた細胞の集団に似ているが、生存する芽球様細胞の度数が高い細胞の集団を提供することが分かる(図9、左の図を参照)。
この局面は、異なる方法を比較するための大きな要素:比較的短い細胞培養期間(8−10日)で細胞培養物の上清中に細胞の集団が蓄積するIgGの量、に対して、さらなる重要で驚くべき効果を有するように思われる。これらの培養物からの上清中のIgG分泌レベルの向上は、抗体についてのスクリーニングに良い効果をもたらすことは明らかであるが、それはそのような抗体を発現するオリゴクローナル又はモノクローナル細胞培養物の単離に要する時間を短縮することができるからである。
同一の最初の細胞の集団に対して3つの方法を用いて得た細胞培養物中に蓄積された全IgGを、やはりEBVへの曝露前を定量的に基準として比較することにより、本発明の方法に基づくSEQUENTIAL法の利点がさらに確認された。実際、BASIC法及びCOMBINED法が同様の全IgG濃度(80−100μg/ml)をもたらす場合、SEQUENTIAL法から得られた細胞の上清には、分析したすべての希釈率において、ELISAキットの直線範囲(約150μg/ml)を遥かに超えるレベルの全IgGを発現する細胞が存在した(図10A)。
従って、本発明の方法に従って得られた細胞のポリクローナル集団は、活発に増殖する、生存細胞から成るというだけでなく、ポリクローナル刺激剤などの化合物によって起こり得る妨害がない状態で多くの異なるスクリーニングアッセイを実施するのに十分なレベルの全IgGを発現し、最終的に、対象であるIgG抗体を発現する細胞の存在を特定するプロセスが加速される。
実施例3:治療標的に結合又はこれを中和するIgG抗体を発現するヒトB細胞の選別、刺激、不死化、及びスクリーニング
材料と方法
IgG抗体を発現する不死化されたヒトB細胞の作製
手順の概略を図11に示す。条件及び手段は実施例1及び2に示したものを用いた。
CMVマイクロ中和アッセイ
ヒト胚肺線維芽細胞(HELF)を、10%のウシ胎児血清(FCS)と、1mMのピルビン酸ナトリウム(NaP)と、2mMのグルタミンと、100U/mlのペニシリンと、100μg/mlのストレプトマイシン(GPS)とを添加したイーグル基礎培地(MEM)100μl中、96−ウェルプレートの平底ウェル上に蒔き、37℃で24時間培養する。
各B細胞培養物/クローンからの50μlの上清を、CMV研究用菌株(AD169;5%FCS含有MEM50μl中、500pfu;混合物の全体積は100μl)と共に、96−ウェルプレートの丸底ウェル中で、37℃で1時間インキュベートする。HELF培養物の培地を廃棄し、このウイルス混合物で置換する。次に、プレートを2000gで30分間遠心分離にかけ、CO2下、37℃で90分間インキュベートする。その後、培地を廃棄し、100μlの増殖培地を添加し、培養物をインキュベーター中でさらに72時間維持する。
B細胞の上清のCMV感染活性に対する影響を、HELF細胞の間接免疫ペルオキシダーゼ染色によってヒトCMV前早期抗原(IEA)を染色することで測定する。細胞の単層を50%アセトン及び50%メタノール(−20℃で保存)の溶液で1分間室温(RT)で固定し、PBSで洗浄する。細胞は、1%H2O2を含むPBS中の0.1%トリトンX−100中、氷上で5分間透過処理し、PBSで洗浄する。内在性ペルオキシダーゼを、50%のメタノール及び0.6%のH2O2を含むPBSにより、暗所において、室温で30分間ブロックし、PBSで洗浄する。50μlのタンパク質ブロッキング剤(Ultra Tech HRP 500−600 Test;Streptavidin−Biotin Universal Detection System;PN IM2391)を室温で10分間添加し、PBSで洗浄した。最適濃度の一次抗体(抗ヒトCMV IEA;Argene Biosoft;Ref No.11−003)を室温で60分間添加する。ウェルを洗浄し、ビオチン化二次抗体(Ultra Tech HRP 500−600 Test;Streptavidin−Biotin Universal Detection System;Ref.No.PN IM2391)を、室温で10分間ウェルに添加する。ウェルをPBSでよく洗浄し、0.1%H2O2中のDAB基質(MERCK;ref.no.1.02924.0001)を、暗所において室温で30−45分添加する。PBSで希釈することで反応を停止し、IEA陽性核を顕微鏡で計数する。
B細胞の上清の実験は、ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)及びCMV臨床株VR1814を用いても行なった。
ネガティブコントロールとして、非関連のIgG抗体を含むB細胞上清を用いた。ポジティブコントロールとしては、患者の血清由来で、CMVに特異的な市販のヒトIgG抗体の製剤(Cytotect;Biotest)を用いた(125μg/mlからの段階希釈を使用)。
ELISAに基づくアッセイによるCMV結合タンパク質の検出
第一のアッセイでは、市販品による定量的酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)を用いて、ヒト血清又は血漿中のCMVタンパク質抽出物と結合する特定のIgG抗体の検出を行った。市販のELISAキット(BEIA CMV IgG Quant Kit;Bouty)を製造元の説明書に従って使用し、CMVに特異的なIgG抗体の市販混合物(Cytotect;Biotest)を50U/mlで使用して検証を行った。
簡単に述べると、不活性CMVタンパク質混合物(研究用株AD169由来)で被覆された破壊可能なストリップ(breakable strip)をマイクロプレート中に配置して、1:81で希釈されたB細胞の上清(BEIAシステムのサンプル希釈剤800μlに10μlの上清を添加)と共にインキュベートし、そしてプレートを室温で30分間インキュベートする。洗浄サイクルの後、あらかじめ希釈した西洋ワサビぺルオキシダーゼと抱合体形成したモノクローナル抗ヒトIgG抗体(100μl)を添加し、プレートを室温でさらに30分間インキュベートする。第二の洗浄サイクルの後、あらかじめ希釈した基質−TMB溶液(100μl)を添加し、室温でさらに15分間インキュベートする。停止液(100μl/ウェル)を用いて反応を停止し、光学濃度を450/620ナノメートルにおいて二波長(bichromatism)で測定する。
研究室内で確立したELISA及び固体表面に固定された特定のペプチド又は組換えCMVタンパク質を用いてさらなるアッセイを実施した。
組換えCMV抗原gB免疫優性領域を、グルタチオンS−転移酵素(GST)と共に組換え融合タンパク質として作製して親和性(GST親和性精製;Biodesign Int、cat.No.R18102)によって精製し、又は、ペプチドとして作製した。組換えCMV抗原gH免疫優性領域(VR1814株)も大腸菌内で作製し、GST親和性に基づいてバクテリア細胞ライセートから精製した。これらのELISAは、96−ウェルフォーマットの一般的なELISAプロトコルを、若干の改良を加えて適用することで行なった。簡単に述べると、抗原をPBSで2μg/mlに希釈し、このタンパク質溶液50μlを用い、4℃で一晩インキュベートすることにより、EIAポリスチレンプレート(Nunc、cat.No.469949)の各ウェルを被覆する。タンパク質溶液を除去し、ウェルを100μlの洗浄用バッファー(Tween20を0.05%含有するPBS)で4回洗浄する。次に、1%のミルクを含有するPBS100μlを各ウェルに分注し、プレートを37℃で1時間インキュベートすることによって、非特異的な結合をブロックするための処理を行なった。150μlの洗浄用バッファーで4回の洗浄サイクルを行った後、細胞培養物からの細胞培養物の上清50μlを各ウェルへ同量ずつ分注し、細胞培地50μlのウェルをネガティブコントロールとした。37℃で2時間のインキュベーションの後、プレートを150μlの洗浄用バッファーで4回洗浄し、西洋ワサビペルオキシダーゼで標識した抗ヒトIgG抗体を洗浄用バッファーで1:30000で希釈したもの50μl(Fc−特異的、ヤギ抗ヒトIgG抗体;Sigma、cat.No.A0170)を各ウェルへ分注した。室温で1時間のインキュベーションの後、プレートを150μlの洗浄用バッファーで4回洗浄し、50μl/ウェルの基質−TMB溶液(3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン;Sigma、cat.No.T0440)を分注した。室温で30分のインキュベーションの後、100μl/ウェルの停止液(1N硫酸)で発色反応を停止し、450nmで光学濃度を測定した。
ELISAに基づくHSP60結合性アッセイ
HSP−60と結合する抗体を検出するためのELISAを、組換えヒトHSP60タンパク質(Stressgen)を0.1M、pH9.6のNaHCO3で1μg/mlに希釈したもの50mlで被覆したEIA/RIAウェルストリップを用いて確立し、室温で一晩放置した。ストリップを0.05%のTween−20を含むpH7.4のPBSで3回洗浄し、非特異的結合部位を1%のBSAと5%のショ糖とを含むPBSで、室温で30分かけてブロックする。4回の洗浄後、一連の一次抗体:抗ヒトHSP60(1%BSA含有PBSで、5又は10μg/mlに希釈;Santa Cruz Biologicals)、マウスIgGアイソタイプネガティブコントロール(1%BSA含有PBSで、5μg/mlに希釈)、非関連のヒト組換えIgG抗体(Herceptin、5μg/ml)、細胞培地のみ、及びEBVで不死化されたヒトIgG分泌B細胞の上清ストリップ、と共にストリップを室温で3時間インキュベートした。4回の洗浄後、1%BSA含有PBSで希釈した、西洋ワサビペルオキシダーゼと抱合体形成した抗マウスIgG又は抗ヒトIgG(Dako)と共にストリップを室温で1時間インキュベートした。4回の洗浄後、基質−TMB溶液をストリップに添加し、室温で発色反応を起こさせる。プレートを450nmで読み取りにかける。
結果
本発明の方法は、ヒトウイルス、特に、先天性欠損を起こし、免疫不全患者に対して高い病原性を有するベータヘルペスウイルスである、ヒトサイトメガロウイルス(CMV)(Landolfo S et al.,2003)と結合する及び/又はこれを中和する抗体を血液中に含むことが分かっているドナーから得たヒトB細胞について実験を行なった。
CMVは、図11に簡単にまとめたように、本発明の方法に従って選別、刺激、及び不死化したヒトB細胞が自然に分泌する抗体によって中和することができる臨床上重要な標的ウイルスのよい例である。さらに、CMVに対する種々の治療方法の中で、CMV免疫グロブリン(Cytotec又はCytoGamの名称で市販されている)の静脈内投与は、CMV感染を阻止するには完全に満足する解決法とは言えず、特に免疫不全患者に対してそうであり、強力な抗ウイルス剤の共投与がしばしば行なわれる(Bonaros NE et al.,2004;Kocher AA et al.,2003;Kruger RM et al.,2003)。このような製剤は臨床用とされているが、単に抗CMV抗体の力価が高いプールされたヒト血漿から得られたものである。法規制目的に対して認可された哺乳類細胞中での発現によって得られた精製ヒトモノクローナル抗体を含むより強力な製剤があれば、CMV感染症の治療に役立つであろう。
CMV中和抗体を発現するヒトB細胞は、1若しくは2種類以上の免疫学的スクリーニングアッセイ(免疫ブロット、ELISA、若しくはELISPOTなど)に基づいて、又は市販業者(Sorin Biomedica、イタリア;BioMerieux、フランス)から入手可能な抗原マイクロアレイで選別されたドナーから得ることができる。
ヒトB細胞は、ELISA、ELISPOT、又は中和アッセイで測定した血中の抗CMV抗体の力価が高い選別されたドナーの臨床サンプルから単離した。その細胞を、次に本発明の方法にかけた(図11)。得られたEBVで不死化されたCD22陽性、IgM陰性ヒトB細胞の集団を、元々の集団をサブクローン化することで得られた細胞培養物の上清を直接に、又は間接的に用いてスクリーニングし、CMV中和及び/又はCMV結合IgG抗体を含む細胞の検出を行なった。そして、これらの抗体を産生する元となるB細胞を、続いて行なわれるサブクローン化工程において、これらの抗体をコードするDNAをクローン化し、配列することを目的として、単離することができる。
第一の種類の一次スクリーニングアッセイを、各ウェルに約100個のB細胞を含む96−ウェルプレート中、400を超えるサブカルチャーに適用した。これらのウェルの上清を、ヒトCMVの研究用株(AD169)又は臨床株(VR1814)によるヒト細胞の感染を阻止する能力について、CMVマイクロ中和アッセイでスクリーニングした。スクリーニングを行なった453個のB細胞培養物のうち4個で、研究用CMVの単離物を用いた反復実験において著しい中和活性が見られ、特にこのうちの1個では、反復アッセイにおいて臨床CMVの単離物の中和が見られた(図12A)。
第二の種類の一次スクリーニングアッセイを、異なるCMV血清陽性ドナーから得られ、やはり本発明の方法にかけられたB細胞の集団に適用した。この場合、より感度の高い市販のELISAを用いてCMVに特異的な反応性が検出された。上で特性決定されたようなCMV陽性のサブカルチャーを用いて、一次スクリーニングアッセイで検出されたCMV中和又は結合活性を担う抗体に対応する細胞培養物及び配列を識別することを目的としたサブクローン化プロセスを開始することができる。
ヒトB細胞の上清から精製された製剤としての、又は組換えタンパク質として発現されたこれらの抗体は、文献に公知の器官又は細胞に基づいたインビトロアッセイを用いてさらに確認をすることができる(Reinhardt B et al.,2003;Forthal DN et al.,2001;Goodrum FD et al.,2002)。さらに、関連する前臨床試験を、CMVに感染した動物、特にはヒト宿主細胞を免疫不全げっ歯類に移植することができる動物モデルにおいて実施することができる(Gosselin J et al.,2005;Thomsen M et al.,2005)。これらの抗体によって認識されるCMV抗原/エピトープは、例えば、CMV特異的切断型タンパク質や合成ペプチドを用いたELISA、若しくはウエスタンブロットに基づいた、又は、抗原/エピトープが分かっている他のCMV特異的抗体との競争に基づいた種々のインビトロアッセイによって識別することができる(Greijer A et al.,1999;Schoppel K et al.,1996;Ohlin M et al.,1993)。
サイトメガロウイルスの中和又は結合について分析された細胞培養物の上清を用いて、さらなるスクリーニングアッセイを行うことができる。実際、IgG分泌細胞の大きなレパートリーが使用可能であることにより、CMV感染と関連する可能性のある異なるCMVエピトープ又は抗原に対する結合特異性を有する多くのヒトIgGを識別することが可能となる。例えば、アテローム硬化症患者の血液中に、CMVタンパク質に類似のヒト熱ショックタンパク質60(HSP60)の断片を認識する抗体が高いレベルで含まれていることは公知である。特に、これらのタンパク質の中でUS28と呼ばれるものは、内皮細胞表面で発現し、このタンパク質と結合する抗体は、内皮細胞アポトーシスを引き起こすことができ、このことは、CMV感染が、アテローム硬化症の発病と結びつけられている自己免疫反応のきっかけとなる可能性があるという考えを示唆している(Bason C et al.,2003)。
従って、細胞培養物の上清の65のプール(各々が、CMV血清陽性の個体から得られた一次B細胞を出発物質として作製されたEBVで不死化された細胞の5個のウェルからの上清を含む)を、組換えヒトHSP60を利用したELISAを用いて、HSP60の免疫反応性についてスクリーニングした。6個のプールが、ELISAのバックグランドの3倍という統計的に有意な反応性を反復実験において示した(図12B)。不死化された抗体分泌細胞のこれらの培養物は、細胞のプール内でサブクローン化することができ、スクリーニング及びサブクローン化のプロセスを、ヒトHSP60と結合するヒトモノクローナルIgG抗体を分泌する細胞培養物が単離されるまで続けることができる。
第二の種類の一次スクリーニングアッセイを、特定のCMV血清陽性ドナーから得られ、やはり本発明の方法にかけられたB細胞の集団に適用した。この場合、単一の一次B細胞の集団から、各々が別個のCMV特異的エピトープに対する抗体を発現する不死化細胞のオリゴクローナル又はモノクローナル集団を選別し、それによって個体のCMV感染に対する免疫反応の全体像を提供することを目的として、一連の種々の分析を用い、CMVに特異的な反応性を平行して検出した(図13)。
EBVで不死化された細胞のポリクローナル集団を、各々が統計的に20個の細胞を含む細胞培養物を確立するよう、96−ウェルプレート中へ約4000個のプールに分割し、ここで各ウェルは細胞のオリゴクローナル集団を含む。しかし、所定の抗原に特異的な抗体を産生する細胞の度数が低いため、CMV特異的IgGが上清中で検出されるこれらの細胞培養物はいずれも、ヒトモノクローナル抗体を発現するモノクローナル細胞培養物であると思われる。
最初の実験によって、CMVタンパク質の混合物又はCMV中和抗体が認識することが分かっている特定の抗原に対して特異的であるオリゴクローナル/モノクローナル細胞培養物によって産生された抗体のCMV結合特性の評価を行った。次に、これらのアッセイの少なくとも一つで陽性であったものを、CMVマイクロ中和アッセイでさらに評価した。
細胞のオリゴクローナル/モノクローナル集団の最初のスクリーニングに、特定の2種類のCMV抗原:外被糖タンパク質gB及びgH、を選択した。ウイルスの結合と融合の両方で重要な役割を担うこれらのタンパク質は、より詳細な情報が入手可能であるヒトCMV中和抗体の標的である。血清陽性である個体の血清、並びにこれらの糖たんぱく質を標的とするモノクローナル抗体は、インビトロでHCMVの細胞培養物への感染を阻害する。gB及びgHを標的とする抗体が効果的に働いてヒト血清のウイルス中和能に寄与していることは、抗gB及び抗gHの力価と回復期のヒト結成の全体的中和活性との間の相関、並びにgB及びgH特異抗体の吸着後の血清の中和能の著しい低下によって明確に示された(Cytomegaloviruses. Molecular Biology and Immunology. Reddehase, M. (ed.) Norfolk:Caister Academic Press (2006)、特には、Boehme K and Compton T p.111−130、Mach M pp.265−283、でレビューされている)。
図13にまとめたように、細胞が活発に増殖している(細胞が播種された全ウェルの約35%)オリゴクローナル細胞培養物を使用することで、CMVタンパク質と反応するIgGを含むウェルを、決まったCMVタンパク質に特定のアッセイの(gB−若しくはgH−ELISA)、又は全CMVタンパク質抽出物に特定のアッセイの(BEIA CMV ELISA)少なくとも一つによって識別することが可能であった。特に、ウェルの中には、CMV感染をインビトロで中和するヒトIgGを含むものもあった。
BEIA CMV ELISAのみで陽性であった8個のオリゴクローナル細胞培養物のうち、9G8と呼ぶウェルが、CMV反応性に対して高い陽性を示すヒトIgGを含んでいた(図14)。ウェル9G8からの10000個の細胞を含むサンプルを用いてcDNAを作製し、ヒトIgGのH鎖とL鎖の可変領域の配列を特異的にPCRで増幅した。増幅反応の産物をクローン化し、配列決定し、9G8が、CMVと結合する特定の可変領域を有する新規なヒトIgGを分泌するモノクローナル細胞培養物であることを確認した(図15)。この抗体の可変領域をコードするDNAを用いて、CMVと結合する抗体を作製するのに、単独で、又は9G8によるものと組み合わせて用いることができる特定のCDR配列も決定した。
従って、抗体分泌細胞を不死化する本発明の方法を含むプロセスにより、不死化された細胞のポリクローナル集団から直接作製されたオリゴクローナル細胞培養物から、新規なVH及びVL配列を識別することができる。9G8などの抗体、又はこの抗体の1若しくは2種類以上のCDRを含むタンパク質(例:HCDR3のみ;HCDR1、HCDR2、及びHCDR3;LCDR1、LCDR2、及びLCDR3)は、CMV関連の臨床への応用、及び実験的な応用に、特には、生物学的サンプル中のCMVの検出に有用であり得る。
本発明の方法を用いて、HIV−1、HSV−1、及び/又はHSV−2血清陽性である個体から採取した一次B細胞も不死化した。
例えば、市販のELISAキット(Bouty BEIA HSV−1;cat no.20921)を用い、血漿中のHSV−1タンパク質と結合するIgG抗体の力価が高いことから、6人のHSV−1/HIV−1血清陽性である個体を選別した。この個体からのPBMCをプールし、CMV5ドナーから採取したPBMCに対して上で述べたのと同じ方法を用いて不死化した。
最初の7千万個のPBMCから、ELISAキットだけでなく、gCをコードする配列がlacZ遺伝子で置換されたヌル変異体のウイルスに基づいた、HSV−1感染を中和する抗体を検出するインビトロアッセイ(Laquerre S et al.,1998)を用いることによっても細胞培養物の上清中に検出されるのに十分な量のHSV−1特異的IgG抗体を依然として分泌する、CD22陽性、IgM陰性細胞の190万個の集団を得た。
この細胞のポリクローナル集団を一部用いて、各々が統計的に50−100個の細胞を含む何百というオリゴクローナル細胞培養物を細胞培養物の調製の直後に播種することにより、HSV−1中和活性を有する抗体を分泌する細胞を識別するためのスクリーニングアッセイを行なった。さらに、不死化後に得られた細胞培養物を、樹立哺乳類細胞系列で一般的に行なわれるように、同量ずつバイアル中に凍結した。数ヶ月後、これらのバイアルの一部を解凍し、細胞を、元々のポリクローナル細胞培養物と同様に数日間培養し、そして、それを各々が統計的に5個の細胞を含有する何千というオリゴクローナル細胞培養物を調製するのに用いた。
HSV−1中和アッセイは、両方の種類のオリゴクローナル細胞培養物(すなわち、1ウェルあたり50−100個の細胞を直接播種することで得たもの、又は、元々の細胞のポリクローナル集団を同量含むバイアルを解凍後、1ウェルあたり5個の細胞を播種することで得たもの)に対して実施し、両プロセスともに、インビトロでHSV−1を中和するヒトIgG抗体を発現するオリゴクローナル細胞培養物が識別された。
特に、後者のプロセスで得られたHSV−1中和抗体を分泌する細胞は、20個超のこのようなオリゴクローナル細胞培養物で識別された。これらの細胞培養物のうちのいくつかは同一の抗体であると示すことができるが、陽性であるウェルの数が多いこと、及びRT−PCR技術によってそのような抗体の配列を直接識別できる可能性があることにより、後工程での選別のために、多くの別のオリゴクローナル細胞培養物(恐らくは異なる速度で増殖中)の分析を行なう手段が得られる。実際、抗体の配列を識別、特性決定することができるだけでなく、組換えタンパク質としてクローン化したり発現させたりする必要なしに、活性の分析のために対象であるモノクローナル抗体を直接精製することができ、最も重要な対象であるヒトモノクローナル抗体の識別が加速される。
結論
実施例で紹介した結果は、本発明の方法の複数の利点、及び従来技術からの著しい改良点を示すものである。
選別、刺激、及び不死化の工程の適切な順序によって、特に有用な細胞のポリクローナル集団が得られ、これは、アイソタイプに基づいて、しかしそれが分泌する抗体の特異的な抗原結合特性には依存しない形で単離されると、単一のドナー又はドナーのプールから得られた細胞による種々の特性を有する抗体の検出に用いることができる。
実際、本発明の方法は、平行して、又は順に適用される種々の基準を用いてスクリーニングし、選別することができる、細胞のポリクローナル、オリゴクローナル、又はモノクローナル集団を提供する。実施例2に示すように、本発明の方法によって、高レベルの抗体を分泌し、広範囲のスクリーニングアッセイに適した、生存し増殖する細胞が数多く提供される形で、対象中の抗体レパートリーの多様性が捕捉される。さらに、得られる細胞の集団の組成物がより均一であることにより、さらなる細胞の選別又はソーティングの必要なしに、無作為な形でドナーから提供された一連の極めて広い(完全ではないにしても)抗体の多様性を利用することが可能となる。抗CMV及び抗HSP60のための連続したスクリーニングで示すように、特定のアッセイを血清に施して不死化する細胞のドナーを選別した場合、得られた細胞の集団を後に用いて、広範囲の特性を有する抗体の探索のための免疫反応の分析を行うことができる。
さらに、非常に低い密度で播種した細胞培養物を直接作製し、利用することで、モノクローナル抗体を識別することが可能である。得られた細胞培養物は、種々の細胞培養条件(例:支持細胞、培地、増殖因子)を適用するためか、又は一連の抗原及び生物活性を分析(ドナーCMV5から得られた細胞について示すように)するために、しかし常に単一の細胞の集団を出発として、平行して維持及びスクリーニングを行なうこともできる。
最後に、この手法は、不死化された抗体分泌細胞のポリクローナル集団を作製するのに適しており、それは、何百、何千というオリゴクローナル細胞培養物の選別を自動で行なうこと、及び、各々が本発明の方法で得られた同量の細胞の集団を含む、凍結用の一式のバイアルを作製することの両方に用いることができる。
特に、これらの細胞は、HSV−1血清陽性ドナーから採取した細胞を利用する例で示したように、不死化細胞の集団を所望の抗体特異性についてより詳細に分析、又は再分析する目的で、必要に応じて解凍して分析することができる、抗体分泌細胞のライブラリーとみなすことができる。従って、所望の性質を有するモノクローナル抗体の識別と作製は、ドナーが選択された時、又は細胞の集団が不死化されて凍結された等量サンプルとして保存された時には考慮されなかった(若しくは知られてすらいなかった)標的に対してさえも、達成することができる。