(発明の詳細な説明)
定義
便宜上、本明細書、実施例、および添付の特許請求の範囲で使用されている一定の用語および語句の意味は、下記の通りである。
IL−1などポリペプチドの活性に適用される「異常型活性」という用語は、天然型ポリペプチドの活性と異なる活性、または健康な被験体のポリペプチドの活性とは異なる活性を意味する。ポリペプチドの活性はその天然型対応物の活性よりも強いせいで異常型になることもある。あるいは、活性がその天然型対応物と比較して弱いか欠けているせいで異常型になることもある。また、異常な活性は活性の変化であってもよい。例えば、異常型ポリペプチドは、異なった標的ペプチドと相互作用し得る。IL−1遺伝子座のポリペプチドをコードしているIL−1遺伝子座の遺伝子の過剰発現または過少発現によって、細胞が異常なIL−1活性を有することもある。
「対立遺伝子」いう用語は、さまざまな多型領域に見出されるさまざまな配列変異体を意味する。例えば、IL−1RN(VNTR)は少なくとも5種類の異なった対立遺伝子をもつ。配列変異体は、一塩基または多塩基の変化であってもよく、挿入、欠失、または置換などを含むが、これらに限定されず、または、さまざまな数の配列の繰り返しであってもよい。
「対立遺伝子パタ−ン」という用語は、1つ以上の多型領域における1つまたは複数の対立遺伝子の同一性を意味する。例えば、対立遺伝子パタ−ンは、IL−1RN遺伝子座のVNTRにあるIL−1RN対立遺伝子1の少なくとも1つのコピーをもつ対立遺伝子パタ−ンであるIL−1RN(VNTR)対立遺伝子1のように、多型部位において単一の対立遺伝子からなるものであってもよい。あるいは、対立遺伝子パタ−ンは、単一の多型部位においてホモ接合状態またはヘテロ接合状態からなるものであってもよい。例えば、IL−1RN(VNTR)対立遺伝子2,2は、IL−1RNのVNTRマーカーにおける第2の対立遺伝子のコピーが2つあって、IL−RN(VNTR)対立遺伝子2のホモ接合状態に相当する対立遺伝子パターンである。あるいは、対立遺伝子パターンは、1つより多い多型部位において同一の対立遺伝子からなっていてもよい。
本明細書において「抗体」という用語は、IL−1Bポリペプチドと特異的に反応する完全抗体またはその結合性断片などの結合因子を意味するものである。抗体は、通常の技術を用いて断片化することができ、断片は、完全抗体について上記したのと同じように利用するためにスクリーニングすることができる。例えば、F(ab)2断片は、抗体をペプシンで処理して生成させることができる。得られたF(ab)2断片を処理してジスルフィド架橋を還元し、Fab断片を作成することができる。本発明の抗体は、抗体の少なくとも1つのCDR領域によって与えられたIL−1Bポリペプチドに対するアフィニティーを有する二重特異性分子、一本鎖分子、およびキメラかつヒト化分子をさらに含むよう意図されている。
「生物学的活性」または「生物活性」または「活性」または「生物学的機能」は、同義的に使用され、IL−1に適用される場合、本明細書中の目的では、IL−1ポリペプチドによって(その本来の立体構造で、または変性された構造で)、もしくはその任意の部分配列(断片)によって、直接的もしくは間接的に行われるエフェクター機能または抗原機能を意味する。生物学的活性には、結合、レセプターからのシグナル伝達の効果、遺伝子発現の調節、または抗原エフェクター機能などが含まれうる。
本明細書において「IL−1ポリペプチドの生物活性断片」という用語は、完全長IL−1ポリペプチドの断片であって、野生型IL−1ポリペプチドの活性を特異的に模倣するかまたはこれに拮抗する断片を意味する。この生物活性断片は、好適には、インターロイキンのレセプターと相互作用することができる断片である。
「細胞」、「宿主細胞」、または「組み換え宿主細胞」は、本明細書において同義的に使用される用語であり、特定の対象となる細胞ばかりでなく、そのような細胞の後代または後代となる可能性のあるものも意味する。突然変異または環境の影響によって、後継世代で一定の変化が生じる可能性もあるため、そのような後代は、実際には親細胞と同一ではないかもしれないが、それでも本明細書に使用されている用語の範囲内にある。
「キメラ」、「モザイク」、「キメラ哺乳動物」などは、そのゲノム含有細胞の少なくとも一部にノックアウト構造またはノックイン構造をもつトランスジェニック哺乳動物を意味する。
「対照」または「対照サンプル」という用語は、使用される検出技術に適した任意のサンプルを意味する。対照サンプルは、使用される対立遺伝子検出法の生成物、または検査すべき物質を含んでいてもよい。さらに、対照は陽性対照であっても陰性対照であってもよい。一例として、対立遺伝子検出法がPCR増幅法の後サイズ分画法を行うものである場合には、対照サンプルは適当なサイズのDNA断片を含んでいてもよい。同様に、対立遺伝子検出法が、変異タンパク質の検出を含む場合、対照サンプルは、変異タンパク質のサンプルを含んでいてもよい。しかし、対照サンプルは、検査すべき物質を含むことが好ましい。例えば、対照は、ゲノムDNAサンプル、またはIL−1遺伝子クラスターの一部をクローニングしたものを含んでいてもよい。しかし、検査すべきサンプルがゲノムDNAである場合、対照サンプルは、好適にはゲノムDNAの高純度サンプルである。
「心血管疾患」とは、本明細書の定義では、臨床的症状および臨床的兆候などの臨床的事象を特徴とする、心血管の障害である。臨床的症状とは、病変が存在することを臨床医に示唆する、患者によって報告された経験である。臨床的兆候とは、病変が存在することを臨床医に示唆する、理学的検査または臨床検査についての客観的所見である。「心血管疾患」には「冠動脈疾患」および「末梢血管疾患」が含まれ、いずれの用語も下記に定義されている。心血管疾患の臨床的症状には、胸痛、息切れ、虚脱感、失神発作、意識変容、四肢痛、夜間発作性呼吸困難、一過性の虚血性発作、および患者によって経験されるその他の現象が含まれる。心血管疾患の臨床的兆候には、EKG異常、末梢脈拍の変化、動脈雑音、異常心音、心拍数(heartrale)の異常および異常な心臓喘鳴、頚静脈怒張、神経変性などの所見、ならびに臨床医によって識別されるその他の所見が含まれる。心筋梗塞(MI)または脳卒中(「脳血管障害」もしくは「CVA」ともよばれる)などの心血管疾患においては、臨床的症状と臨床的兆候が一緒になることがあり、そのような場合、患者がある現象(症状)を報告し、臨床医が別の現象(兆候)を認知するが、それらはすべて根底にある病変を示している。「心血管疾患」には、動脈硬化巣性障害、閉塞性障害、および狭窄症の血管障害に関係した疾患が含まれる。例えば、その用語が下記に定義されているように、動脈巣の障害によって生じる心血管疾患は「動脈巣性疾患」と名づけることができる。動脈硬化巣性疾患に伴う臨床的事象には、後続する急性血栓症または末梢塞栓を伴う動脈巣破壊を特徴とする兆候および症状が含まれる。動脈硬化巣性疾患の例には、ある特定の脳卒中および心筋梗塞が含まれる。別の例としては、閉塞性障害によって生じる心血管疾患を「閉塞疾患」と名づけることができる。閉塞疾患に関連した臨床的事象には、動脈の進行性の閉塞が、標的組織まで達する循環血液の量に影響を与える兆候および症状が含まれる。進行性動脈閉塞は、循環血液量が組織を維持するのに足りなければ、最終的には組織壊死に至る可能性のある進行性虚血症をもたらすことがある。閉塞疾患の兆候および症状には、跛行、安静時疼痛、狭心症、および壊疽、ならびに血管の狭窄および末梢灌流の減少を示す理学的所見および検査所見が含まれる。さらに別の例として、再狭窄によって生じる心血管疾患は、ステント内狭窄症と名づけることができる。ステント内狭窄症は、ステントが存在していることが新たな拡張配置において血管を保持するのに役立つものである場合、経皮経管的血管形成術のような処置の一部として置かれている動脈ステントが進行性的に遮断されることによってもたらされる兆候および症状を含む。ステント内狭窄症を伴う臨床的事象には、復元された動脈の再狭窄が原因となる臨床的事象がある。
「心血管障害」は、広く冠動脈障害および末梢動脈障害を意味する。「心血管障害」という用語は、構造的、組織学的、生化学的、または他のいかなる異常であろうとも、動脈の任意の異常に適用することができる。この用語は、動脈硬化巣を特徴とする障害(本明細書においては「動脈硬化巣性障害」とよばれる)、血管閉塞を特徴とする障害(本明細書においては「閉塞性疾患」とよばれる)、および再狭窄を特徴とする障害を含む。「心血管障害」は、一次的に動脈で生じることがある。すなわち、医療的もしくは外科的介入の前に生じることがある。原発性心血管障害には、とりわけ、アテローム性動脈硬化、動脈閉塞、動脈瘤形成、および血栓が含まれる。「心血管障害」は、二次的に、すなわち、医療的もしくは外科的介入の後に動脈で生じることがある。二次的な心血管障害には、とりわけ、外傷性動脈瘤形成、再狭窄、および術後の移植片閉塞が含まれる。
「心血管障害原因性機能変異」は、被験体において心血管障害の発症を引き起こすかその一因となる変異を意味する。好適な変異は、IL−1複合体内部で生じる。IL−1遺伝子(例えば、IL−1A、IL−1B、またはIL−1NR)、またはそれに連結している遺伝子座の内部で起きた心血管障害原因性機能変異は、例えば、遺伝子のオープンリーディングフレームまたはスプライシングパターンを変え、その結果、不活性もしくは低活性の遺伝子産物を形成し得る。例えば、IL−1A遺伝子座のイントロン6に存在する変異は、5個から18個の反復単位に相当する、さまざまな数の46bp配列の縦列反復に対応する(Baillyら(1993)Eur.J.Immunol.23:1240−45)。これらの反復配列は、転写因子を結合させることができる3つの潜在的な結合部位:SP1部位、ウイルスエンハンサー要素、およびグルココルチコイド応答要素を含んでいるが、そのために、多数の反復単位をもつIL−1Aイントロン6VNTR対立遺伝子を有する個体は、IL−1A遺伝子の転写調節の変化、およびその結果として炎症性サイトカイン産生の摂動にさらされる可能性がある。実際、この多型性IL−1A遺伝子座における反復数が増えると、IL−1α合成の低下がもたらされるという証拠がある(Baillyら(1996)Mol Immunol 33:999−1006)。あるいは、突然変異の結果、高活性遺伝子産物がもたらされ得る。例えば、IL−1Bの対立遺伝子(+6912におけるG)の多型は、IL−1BmRNAの3’UTR(非翻訳領域)で生じ、(+6912における)IL−1B遺伝子の対立遺伝子1と比較して、IL−1BのmRNAおよびIL−1Bタンパク質両方の定常状態の量が約4倍増加することに関係している。さらに、IL−1B(−511)変異が、ネガティブグルココルチコイド応答要素のプロモーター結合部位付近で生じる(Zhangら(1997)DNA Cell Biol 16:145−52)。この要素によって、デキサメタゾンによるIL−1B発現の抑制が4倍強化され、このネガティブ応答要素が欠失すると、IL−1Bプロモーター活性が2.5倍増大する。したがって、IL−1B(−511)の多型性はサイトカイン産生および炎症反応に直接影響を与える。これらの例は、IL−1AまたはIL−1B遺伝子に存在する遺伝的変異が、IL−1サイトカイン活性の産生または調節の変化を直接にもたらすことができることを示している。
「心血管障害の治療法」は、被験体における心血管障害を構成する異常の発生を阻止または遅延させるか、その程度を低下させる任意の薬剤もしくは治療法(医薬品、栄養補助食品、および外科的手段など)を意味する。心血管障害治療薬は、動脈硬化巣性障害、閉塞性障害、および再狭窄症など、任意の心血管障害の治療に関する。心血管の障害の各カテゴリーを対象とする治療薬の例が本明細書に挙げられている。当然のことながら、治療薬は心血管障害の1つより多いカテゴリーに有用であろう。治療薬は、ポリペプチド、ペプチド模倣体、核酸、またはその他の無機質もしくは有機質の分子であってもよく、好ましくは、ビタミン、ミネラル、またはその他の栄養物などの「低分子」であってもよい。好ましくは、治療薬は、天然ポリペプチドの作用を模倣、増強(作動)、または阻害(拮抗)することによって、IL−1ポリペプチドの少なくとも1つの活性、例えば、レセプターとの相互作用を調節することができる。IL−1アゴニストは、野生型のタンパク質、または、例えば、レセプター結合活性など、野生型の少なくとも1つの生物活性を有する、野生型の誘導体であってもよい。また、IL−1アゴニストは、遺伝子発現を上方調節する化合物、またはタンパク質の少なくとも1つの生物活性を増加させる化合物であってもよい。また、IL−1アゴニストは、ポリペプチドが、別の分子、例えば、レセプターと相互作用するのを増加させる化合物であってもよい。IL−1アンタゴニストは、タンパク質が、別の分子、例えば、レセプター、またはシグナル伝達もしくは翻訳後プロセッシングを阻害する薬剤(例えば、IL−1変換酵素(ICE)インヒビター)と相互作用するのを阻害または低下させる化合物であってもよい。したがって、好適なアンタゴニストは、レセプターへの結合を阻害または低下させて、その後のレセプターの活性化を阻止する化合物である。また、IL−1アンタゴニストは、遺伝子の発現を下方調節するか、または存在するタンパク質の量を減少させる化合物でもあってよい。アンタゴニストは、ドミナントネガティブ型のポリペプチド、例えば、標的ペプチド、例えばレセプターと相互作用することができるが、レセプターの活性化を促進しない形態のポリペプチドであってもよい。また、アンタゴニストは、ドミナントネガティブ型のポリペプチドをコードする核酸、アンチセンス核酸、またはRNAと特異的に相互作用することができるリボザイムであってもよい。さらに別のアンタゴニストは、ポリペプチドに結合してその作用を阻害する分子である。そのような分子には、ペプチド、例えば、生物学的活性を有しない標的ペプチドの形態、およびレセプターへの結合を阻害する標的ペプチドの形態が含まれる。このように、これらのペプチドは、タンパク質の活性部位に結合して、そのタンパク質が標的ペプチドと相互作用するのを妨げる。さらに他のアンタゴニストには、ある分子のエピトープと特異的に相互作用し、その結果、その結合がポリペプチドの生物学的機能を妨げる抗体が含まれる。さらに別の好適な実施形態では、アンタゴニストは低分子であり、例えば、ポリペプチドと標的レセプターとの相互作用を阻害することができるものなどである。あるいは、この低分子は、レセプター結合部位以外の部位と相互作用することによって、アンタゴニストとして機能することができる。好適な治療薬には、脂質低下薬、抗血小板薬、抗炎症薬、および降圧薬が含まれる。
本明細書において「脳血管疾患」とは、遮断された末梢血管が脳循環の一部である、末梢血管疾患(下記に定義されている)の1つの型である。脳循環には、頸動脈系および椎骨動脈系が含まれる。脳血管疾患についてのこの定義は、動脈閉塞の徴候としては起こることのない脳内出血を特異的に包含しようとするものである。閉塞は、プラークの破裂または塞栓形成などの機構によって、突発的に生じることがある。閉塞は、血管内膜筋肥厚およびプラーク形成による動脈の狭小化によって進行的に生じることもある。閉塞は完全なことも部分的なこともある。閉塞が一定の程度および持続期間続くと、脳虚血、すなわち、数秒から数分間持続する血流の低下が生じる。虚血および梗塞は局所的なものであっても広範なものであってもよい。脳虚血または脳梗塞の結果、「脳卒中」または「脳血管障害(CVA)」と名づけられている臨床的事象である、非痙攣性の局所的な神経学的欠損が突然起こることがある。脳血管障害には、血栓症および塞栓症という、2種類の広義の病理カテゴリーがある。血栓性脳卒中は、患者の80〜90%で警告症状なしに起き、血栓性脳卒中の10%〜20%では一過性の脳虚血発作が前触れとなっている。心血管疾患は動脈巣性障害を伴うことがある。この型の脳血管疾患の兆候および症状は、動脈巣に関係したものであり、血栓または塞栓の形成による突発性動脈閉塞に起因する脳卒中が含まれる。脳血管疾患は、閉塞性障害を伴うことがある。この型の脳血管疾患の兆候および症状は、全体的または局所的な脳虚血による血流の進行性遮断に関係する。このような状況では、脳卒中などの神経学的変化が見られることがある。
「臨床的事象」とは、疾患の臨床的に識別可能な兆候、または疾患の臨床的に報告可能な症状が生じることである。「臨床的に識別可能」とは、その兆候が医療提供者によって認識され得ることを示す。「臨床的に報告可能」とは、その症状が医療提供者に対して説明することができるタイプの現象であることを示す。臨床的に報告可能な症状を特定の患者が自身でそれらを報告することができなくても、それらが一般的に患者から医療提供者に説明できるタイプの現象であれば、臨床的事象が臨床的に報告可能な症状を含むことができる。
「冠動脈疾患」(「CAD」)は、心臓に血液を供給する動脈の閉塞に関係する血管障害を意味する。閉塞は、プラークの破裂または塞栓形成などの機構によって、突発的に生じることがある。閉塞は、内膜筋肥厚およびプラークの形成によって動脈が狭小化することによって、進行的に生じることがある。心臓に血液を供給する動脈の閉塞によって生じる臨床的兆候および臨床的症状は冠動脈疾患の兆候である。冠動脈疾患の兆候には、狭心症、虚血、心筋梗塞、心筋症、鬱血性心不全、不整脈、および動脈瘤形成などがある。当然のことながら、冠循環における動脈硬化巣性疾患は、心筋梗塞として顕在化する動脈血栓症または末梢血栓を伴う。当然のことながら、冠循環における閉塞症は、一般的に薬理学的介入および血管形成術によって治療される病状である、狭心症症状を伴う動脈狭窄症に付随するものである。
「疾患」とは、臨床的兆候および臨床的症状などの臨床的事象を特徴とする障害である。本明細書において考察される疾患には、心血管疾患、末梢血管疾患、CAD、脳血管疾患、および動脈硬化巣性疾患、閉塞性疾患、または再狭窄を伴う任意の解剖学的位置における疾患が含まれる。
「障害関連対立遺伝子」または「障害に関連する対立遺伝子」は、被験体に存在していると、その被験体が特定の疾患を発症しているか、その発症に感受性が高いことを示す対立遺伝子を意味する。1つの型の疾患関連対立遺伝子が「心血管障害関連対立遺伝子」であり、これが被験体に存在していることは、その被験体が心血管の障害を発症しているか、その発症に感受性が高いことを示す。これらは、広くその範囲内に、「動脈硬化巣性疾患」に関連した対立遺伝子、「閉塞性疾患」に関連した対立遺伝子、および再狭窄に関連した対立遺伝子を含む。「動脈硬化巣性疾患」に関連した対立遺伝子の例には、IL−1A+4825の対立遺伝子2;IL−1Bの+3954マーカーの対立遺伝子2;IL−1RNの+2018マーカーの対立遺伝子1;およびIL−1B遺伝子の(−511)マーカーの対立遺伝子1または上記対立遺伝子の1つと連鎖不平衡にある対立遺伝子が含まれる。「閉塞性疾患」に関連した対立遺伝子の例には、IL−1A+4825の対立遺伝子1;IL−1Bの+3954マーカーの対立遺伝子1;IL−1RNの+2018マーカーの対立遺伝子2;およびIL−1B遺伝子の(−511)マーカーの対立遺伝子2または上記対立遺伝子の1つと連鎖不平衡にある対立遺伝子が含まれる。再狭窄症に関連した対立遺伝子の例には、IL−1Aの+4825マーカーの対立遺伝子1もしくは+3954マーカーの対立遺伝子1のいずれかを、IL−1Bの−511マーカーの対立遺伝子1もしくはIL−1RNの+2018マーカーの対立遺伝子1のいずれかと組み合わせたもの、または上記対立遺伝子の1つと連鎖不平衡にある対立遺伝子が含まれる。「歯周障害関連対立遺伝子」は、被験体に存在していると、その被験体が歯周疾患を発症しているか、その発症に感受性が高いことを示す対立遺伝子を意味する。
「遺伝子の破壊」および「標的破壊」という語句または同様の語句は、遺伝子の野生型のコピーと比べて、細胞内でその遺伝子が発現されるのを阻止するために天然DNA配列を部位特異的に中断すること意味する。中断は、遺伝子の欠失、挿入もしくは修飾、またはそれらの任意の組み合わせで引き起こすことができる。
本明細書において「塞栓」「塞栓症」または「塞栓形成」は動脈−動脈間の塞栓症もしくは塞栓形成を意味する。
「動脈硬化巣性疾患」は、動脈内での動脈硬化過程の一部として動脈硬化巣が形成されることを特徴とする心血管の障害を意味する。動脈硬化巣は骨折、血栓症、または破裂を起こしやすい。プラークの完全性が変化すると、血管を局所的に機械的に遮断するか、または血管の下流に断片または関連した凝血塊を送り込んで、より遠位で閉塞を引き起こすことがある。プラークが割れると、局所的な血栓を形成する病巣となることがある。動脈硬化巣性疾患は、IL−1遺伝子座における対立遺伝子パターン1に関連している。
「動脈巣性疾患治療法」は、被験体における動脈巣性障害を構成する異常の発生を阻止または遅延させるか、その程度を低下させる任意の薬剤または治療法(医薬品、栄養補助食品、および外科的手段など)を意味する。この用語には、動脈巣を安定させることによって作用するある特定の薬剤、抗血栓作用または抗血小板作用のある特定の薬剤、および抗酸化作用のある特定の薬剤が含まれる。動脈巣性障害関連治療薬の例には、スタチン系薬剤、抗プロスタグランジン作用のある抗炎症薬、IL−1およびTNF−αに対するテニダップなどの抗炎症薬およびサイトカイン阻害剤、テトラサイクリンおよびその関連薬剤および特異的MMP阻害剤などのマトリクスメタロプロテアーゼ(MMP)阻害剤、ならびに組み換えIL−1レセプターアンタゴニストが含まれる。さらに、この用語は、IL−1を阻止する栄養補助食品、例えば、魚油、ω−3脂肪酸、多価不飽和脂肪酸などの薬剤、およびブチル化ヒドロキシアニソール(BHA)など、抗酸化作用のある栄養補助食品を含む。
本明細書において「ハプロタイプ」という用語は、統計学的に有意なレベルで(pcorr<0.05)、集団として一緒に遺伝する(連鎖不平衡にある)一連の対立遺伝子を意味するものである。本明細書において、「IL−1ハプロタイプ」という語句はIL−1遺伝子座内のハプロタイプを意味する。
本明細書において「IL−1アゴニスト」は、IL−1の生物活性、もしくはIL−1の生物学的経路内の遺伝子の生物活性を模倣、上方調節(増強または補強)するか、または別の方法で増加させる薬剤を意味する。IL−1アゴニストは、プロモーター領域でのIL−1遺伝子発現の調節、mRNAスプライシング機構の調節、mRNAの安定化、翻訳のためのタンパク質のリン酸化、プロIL−1の成熟型IL−1への変換、およびIL−1の分泌など、任意のさまざまな異なったレベルに作用することができる。IL−1合成を増加させるアゴニストには以下のものが含まれる:リポ多糖類、IL−1B、cAMP誘導剤、NfκB活性化剤、AP−1活性化剤、TNF−α、酸化LDL、高度グリコシル化最終産物(AGE)、シアストレス、低酸素症、酸素過剰症、虚血、最灌流傷害、ヒスタミン、プロスタグランジンE2(PGE2)、IL−1、IL−3、IL−12、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、単球コロニー刺激因子(M−CSF)、幹細胞因子、血小板由来成長因子(PDGF)、補体C5A、補体C5b9、フィブリン分解生成物、プラスミン、トロンビン、9−ヒドロキシオクタデカン酸、13−ヒドロキシオクタデカン酸、血小板活性化因子(PAF)、H因子、レチノイン酸、尿酸、ピロリン酸カルシウム、ポリヌクレオシド、c−反応性タンパク質、α−アンチトリプシン、タバコ抗原、コラーゲン、β−1インテグリン、LFA−3、抗HLA−DR、抗IgM、抗CD3、フィトヘマグルチニン(CD2)、sCD23、紫外線B照射、ガンマ線照射、サブスタンスP、イソプロテレノール、メタンフェタミン、およびメラトニン。IL−1mRNAを安定化するアゴニストには、細菌内毒素およびIL−1が含まれる。利用可能なIL−1のI型レセプターの数を増大させることによって機能するその他のアゴニストには、IL−1、PKC活性化因子、デキサメタゾン、IL−2、IL−4、およびPGE2が含まれる。他の好適なアンタゴニストは、IL−1によって活性化されるかIL−1シグナル伝達経路において利用されるシグナル伝達因子(例えば、NF□BおよびAP−1、PI3キナーゼ、ホスホリパーゼA2、プロテインキナーゼC、JNK−1、5−リポキシゲナーゼ、シクロオキシゲナーゼ2、チロシンリン酸化、iNOS経路、Rac、Ras、TRAF)を妨害または阻害する。さらに他のアゴニストは、IL−1によって発現が誘発される遺伝子の生物活性を増大させ、以下のものが含まれる:IL−1、IL−1Ra、TNF、IL−2、IL−3、IL−6、IL−12、GM−CSF、G−CSF、TGF−β、フィブリノゲン、ウロキナーゼプラスミノーゲンインヒビター、1型および2型のプラスミノーゲン活性化因子インヒビター、p−セレクチン(CD62)、フィブリノゲンレセプター、CD−11/CD18、プロテアーゼネキシン−1、CD44、マトリクスメタロプロテイナーゼ−1(MMP−1)、MMP−3、エラスターゼ、コラゲナーゼ、組織メタプロテアーゼインヒビター−1(TIMP−1)、コラーゲン、トリグリセリド増加性Apo CIII、アポリポタンパク質、ICAM−1、ELAM−1、VCAM−1、L−セレクチン、デコリン、幹細胞因子、白血病抑制因子、IFN□、□、□、L−8、IL−2レセプター、IL−3レセプター、IL−5レセプター、c−kitレセプター、GM−CSFレセプター、シクロオキシゲナーゼ−2(COX−2)、2型ホスホリパーゼA2、誘導型一酸化窒素合成酵素(iNOS)、エンドセリン−1、3、γグルタミルトランスフェラーゼ、Mnスーパーオキサイドジスムターゼ、C−反応性タンパク質、フィブリノゲン、血清アミロイドA、メタロチオネイン、セルロプラスミン、リゾチーム、キサンチンデヒドロゲナーゼ、キサンチンオキシダーゼ、血小板由来成長因子A鎖(PDGF)、メラノーマ増殖刺激活性(gro−□、□、□、)、インスリン様成長因子−1(IGF−1)、アクチビンA、プロ−オピオメラノコルチコトロピン、コルチコトロピン放出因子、Bアミロイド前駆体、基底膜タンパク質40、ラミニンB1およびB2、構成的熱ショックタンパク質p70、P42マイトジェン、活性化タンパク質キナーゼ、オルニチンデカルボキシラーゼ、ヘムオキシゲナーゼ、ならびにG−タンパク質□サブユニット)。
本明細書において「IL−1アンタゴニスト」は、IL−1の生物活性を下方調節するか、または別のやり方でそれを減少させる薬剤を意味する。IL−1アンタゴニストは、プロモーター領域におけるIL−1遺伝子発現の調節、mRNAスプライシング機構の調節、mRNAの安定化、翻訳のためのタンパク質のリン酸化、プロIL−1の成熟型IL−1への変換、およびIL−1の分泌など、任意のさまざまの異なったレベルに作用する。IL−1産生のアンタゴニストには、以下のものが含まれる:コルチコステロイド、リポキシゲナーゼインヒビター、シクロオキシゲナーゼインヒビター、γ−インターフェロン、IL−4、IL−10、IL−13、形質転換成長因子β(TGF−β)、ACEインヒビター、n−3多価不飽和脂肪酸、抗酸化剤および脂質還元剤。IL−1mRNAを不安定化させるアンタゴニストには、脱アデニル化を促進する薬剤が含まれる。翻訳のためにIL−1タンパク質のリン酸化を抑制または阻止するアンタゴニストには、ピリジニル−イマダゾール化合物、例えば、テブフェロン、および微小管形成を抑制する化合物(例えば、コルチシン、ビンブラスチン、およびビンクリスチン)などが含まれる。プロIL−1の成熟型IL−1への変換を抑制または阻止するアンタゴニストには、インターロイキン変換酵素(ICE)インヒビター、例えば、εICEアイソフォーム、ICEα、β、およびγアイソフォーム抗体、CXrm−A、トランスクリプトX、内在性テトラペプチド競合的基質インヒビター、トリプシン、エラスターゼ、キモトリプシン、キマーゼ、ならびにその他の非特異的ナプロテアーゼなどが含まれる。IL−1の分泌を阻止または抑制するアンタゴニストには、アニオン輸送をブロックする薬剤が含まれる。IL−1レセプターの相互作用を妨げるアンタゴニストには、以下のものが含まれる:I型IL−1レセプターのグリコシル化を阻害する薬剤、IL−1RIに対するアンチセンスオリゴヌクレオチド、IL−1RIに対する抗体、およびIL−1RacPに対するアンチセンスオリゴヌクレオチド。利用可能なIL−1−1型レセプターの数を減らすことによって機能する他のアンタゴニストには、TGF−β、COX阻害剤、IL−1のII型レセプターを増加させる因子、デキサメタゾン、PGE2、IL−1、およびIL−4が含まれる。その他の好適なアンタゴニストは、IL−1によって活性化されるか、IL−1のシグナル伝達経路において利用されるシグナル伝達因子(例えば、NF□BおよびAP−1、PI3キナーゼ、ホスホリパーゼA2、プロテインキナーゼC、JNK−1、5−リポキシゲナーゼ、シクロオキシゲナーゼ2、チロシンリン酸化、iNOS経路、Rac、Ras、TRAF)を妨害または抑制する。その発現がIL−1によって誘導される遺伝子の生物活性を妨害するさらに他のアンタゴニストには、以下のものが含まれる:IL−1、IL−1Ra、TNF、IL−2、IL−3、IL−6、IL−12、GM−CSF、G−CSF、TGF−β、フィブリノゲン、ウロキナーゼプラスミノーゲンインヒビター、1型および2型のプラスミノーゲン活性化因子インヒビター、p−セレクチン(CD62)、フィブリノゲンレセプター、CD−11/CD18、プロテアーゼネキシン−1、CD44、マトリクスメタロプロテイナーゼ−1(MMP−1)、MMP−3、エラスターゼ、コラゲナーゼ、組織メタロプロテアーゼインヒビター−1(TIMP−1)、コラーゲン、トリグリセリド増加性ApoCIII、アポリポタンパク質、ICAM−1、ELAM−1、VCAM−1、L−セレクチン、デコリン、幹細胞因子、白血病抑制因子、IFN□、□、□、L−8、IL−2レセプター、IL−3レセプター、IL−5レセプター、c−kitレセプター、GM−CSFレセプター、シクロオキシゲナーゼ−2(COX−2)、2型ホスホリパーゼA2、誘導型一酸化窒素合成酵素(iNOS)、エンドセリン−1、3、γグルタミルトランスフェラーゼ、Mnスーパーオキサイドジスムターゼ、C−反応性タンパク質、フィブリノゲン、血清アミロイドA、メタロチオネイン、セルロプラスミン、リゾチーム、キサンチンデヒドロゲナーゼ、キサンチンオキシダーゼ、血小板由来成長因子A鎖(PDGF)、メラノーマ増殖刺激活性(gro−□、□、□)、インスリン様成長因子−1(IGF−1)、アクチビンA、プロ−オピオメラノコルチコトロピン、コルチコトロピン放出因子、Bアミロイド前駆体、基底膜タンパク質40、ラミニンB1およびB2、構成的熱ショックタンパク質p70、P42マイトジェン、活性化タンパク質キナーゼ、オルニチンデカルボキシラーゼ、ヘムオキシゲナーゼ、ならびにG−タンパク質□サブユニット)。その他の好適なアンタゴニストには、以下のものが含まれる:ハイメニアルディシン、ヘルビマイシン(例えば、ヘルビマイシンA)、CK−103Aおよびその誘導体(例えば、4,6−ジヒドロピリダジノ[4,5−c]ピリダジン−5(1H)−オン)、CK−119、CK−122、イオドメタシン、アフラトキシンB1、レプチン、ヘパリン、二環式イミダゾール(例えば、SB203580)、PD15306HCl、ポドカルプ酸誘導体、M−20、ヒト[Gly2]グルカゴン様ペプチド−2、FR167653、ステロイド誘導体、グルココルチコイド、ケルセチン、テオフィリン、NO−合成酵素阻害因子、RWJ68354、ユークリプトール(Euclyptol)(1.8−シネオール)、マグノサリン、N−アセチルシステイン、α−メラトニン刺激ホルモン(□−MSH)、トリクロサン(2,4,4’−トリクロロ−2’−ヒドロキシジフェニルエーテル)、プロスタグランジンE2、および4−アミノピリジンエタクリン酸、および4,4’−ジイソチオシネートスチルベン−2,2’−ジスルホン酸(DIDS)、グルコース、リポホスホグリカン、アスピリン、異化遮断薬、ジアセルヘイン、チオール修飾薬、亜鉛、モルヒネ、ロイコトリエン生合成インヒビター(例えば、MK886)、血小板活性因子レセプターアンタゴニスト(例えば、WEB2086)、アミオダロン、トラニラスト、S−メチル−L−チオシトルリン、β−アドレナリンレセプターアゴニスト(例えば、プロカテロール、クレンブテロール、フェノテロール、テルブタリン、ヒアルロン酸、抗TNF−□抗体、抗IL−1□自己抗体、IL−1レセプターアンタゴニスト、IL−1R関連キナーゼ、可溶性TNFレセプターおよび抗炎症性サイトカイン(例えば、IL−4、IL−13、IL−10、IL−6、TGF−□、アンジオテンシンII、可溶性IL−1のII型レセプター、可溶性IL−1のI型レセプター、組織プラスミノーゲン活性化因子、ジンクフィンガータンパク質A20IL−1ペプチド(例えば、(Thr−Lys−Pro−Arg)(ツフトシン)、(Ile−Thr−Gly−Ser−Glu)IL−1−α、Val−Thr−Lys−Phe−Tyr−Phe、Val−Thr−Asp−Phe−Tyr−Phe、インターフェロン−α2b、インターフェロンβ、IL−1−β類似体(例えば、IL−1−βトリペプチド:Lys−D−Pro−Thr)、グリコシル化IL−1−α、およびIL−1raペプチド。
本明細書において「IL−1遺伝子クラスター」および「IL−1遺伝子座」という用語は、第2染色体の2q13領域か、またはその近傍の核酸すべてを含み、少なくともIL−1A遺伝子、IL−1B遺伝子、およびIL−1RN遺伝子、ならびにその他の連結した配列を含む(Nicklinら、Genomics 19:382−84,1994)。本明細書において「IL−1A」、「IL−1B」、および「IL−1RN」という用語は、それぞれIl−1α、IL−1β、およびIL−1レセプターアンタゴニストをコードする遺伝子を意味する。IL−1A、IL−1B、およびIL−1RNの各遺伝子のアクセッション番号は、それぞれX03833、X04500、およびX64532である。
「IL−1機能変異」は、変化した表現型をもたらす(すなわち、IL−1遺伝子またはタンパク質の機能に影響を及ぼす)、IL−1遺伝子クラスター内部における変異を意味する。この例には以下のものが含まれる:IL−1A(+4845)対立遺伝子2、IL−1B(+3954)対立遺伝子2、IL−1B(−511)対立遺伝子1、およびIL−1RN(+2018)対立遺伝子1。
「IL−1X(Z)対立遺伝子Y」は、IL−1遺伝子座の多型部位において遺伝子Xに存在する、Yと命名された特定の対立型を意味するが、ここで、XはIL−1のA、B、もしくはRN、またはIL−1遺伝子座内のその他の遺伝子で、ヌクレオチドZまたはその近傍に位置しており、ヌクレオチドZは、ある特定のIL−1遺伝子Xの主な転写開始部位をヌクレオチド+1とし、それに対して番号付けられている。さらに、本明細書において「IL−1X対立遺伝子(Z)」は、ヌクレオチドZまたはその近傍に位置する遺伝子XのIL−1多型部位のすべての対立遺伝子を意味する。例えば、「IL−1RN(+2018)対立遺伝子」という用語は、+2018マーカーにおけるIL−1RN遺伝子の代替的な型を意味する。「IL−1RN(+2018)対立遺伝子1」は、センス鎖の+2018位にシトシン(C)を含むIL−1RN遺伝子の型を意味する。Clayら、Hum.Genet.97:723−26,1996。「IL−1RN(+2018)対立遺伝子2」は、プラス鎖の+2018位にチミン(T)を含むIL−1RN遺伝子の型を意味する。被験体が2つの同一のIL−1RN対立遺伝子を持っている場合、この被験体はホモ接合体であるか、同型接合状態にあるといわれる。被験体が2つの相異なるIL−1RN対立遺伝子を持っている場合、この被験体はヘテロ接合体であるか、異種接合状態にあるといわれる。「IL−1RN(+2018)対立遺伝子2,2」という用語は、ホモ接合型のIL−1RN(+2018)対立遺伝子2という状態を意味する。逆に、「IL−1RN(+2018)対立遺伝子1,1」という用語は、ホモ接合型のIL−1RN(+2018)対立遺伝子1という状態を意味する。「IL−1RN(+2018)対立遺伝子1,2」という用語は、ヘテロ接合型対立遺伝子1および2という状態を意味する。
本明細書において「IL−1に関連する」とは、ヒト第2染色体(2q12−14)上のヒトIL−1遺伝子座の遺伝子に関係するすべての遺伝子を含む意味である。これらには、第2染色体(2q13−14)上に位置するヒトIL−1遺伝子クラスターのIL−1遺伝子を含み、以下のものを含む:インターロイキン−1αをコードするIL−1A遺伝子、インターロイキン−1βをコードするIL−1B遺伝子、およびインターロイキン−1レセプターアンタゴニストをコードするIL−1RN(またはIL−1ra)遺伝子。さらに、これらのIL−1関連遺伝子には、ヒト第2染色体(2q12)上に位置するI型およびII型のヒトIL−1レセプター遺伝子、ならびにマウス第1染色体の19.5cMのところに位置しているマウス相同体が含まれる。インターロイキン1α、インターロイキン1β、およびインターロイキン1RNは、これらがすべてIL−1のI型レセプターに結合するという点では関連しているが、インターロイキン1αおよびインターロイキン1βのみがIL−1のI型レセプターを活性化させるアゴニストリガンドであり、一方、インターロイキン1RNは天然のアンタゴニストリガンドである。「IL−1」という用語が遺伝子産物もしくはポリペプチドに関して使われる場合、ヒト第2染色体(2q12−14)上のインターロイキン1遺伝子座によってコードされているすべての遺伝子産物、および別の種に由来する対応相同体、またはその機能変異体を意味するものである。このように、IL−1という用語は、IL−1αおよびIL−1βなど、炎症反応を促進する分泌ポリペプチド、ならびにIL−1レセプターアンタゴニストおよびIL−1のII型(デコイ)レセプターなど、炎症反応に拮抗する分泌ポリペプチドを含む。
「IL−1レセプター」または「IL−1R」は、IL−1遺伝子座によってコードされるリガンドに結合し、および/またはそのリガンドからのシグナルを伝達することができる、さまざまな細胞膜結合タンパク質レセプターを意味する。この用語は、インターロイキン−1(IL−1)分子を結合することができる任意のタンパク質に適用され、哺乳動物の原形質膜タンパク質としての天然の立体配置で、IL−1によって細胞にもたらされたシグナルを伝達する役割を恐らく果たす。本明細書において、この用語は、IL−1結合活性またはシグナル伝達活性を有する天然型タンパク質の類似体を含む。例には、米国特許第4,968,607号に記載されているヒトおよびマウスのIL−1レセプターが含まれる。「IL−1核酸」という用語は、IL−1タンパク質をコードする核酸を意味する。
「IL−1ポリペプチド」および「IL−1タンパク質」は、IL−1α、IL−1β、およびIL−1RNに対するIL−1のゲノムDNA配列によってコードされるアミノ酸配列を含むポリペプチド、またはその断片、ならびにその相同体を含み、アゴニストポリペプチドおよびアンタゴニストポリペプチドを包含しようとするものである。
「ステント内狭窄」は、血管形成術の過程で置かれたステント内部の進行性の閉塞を意味する。ステント内狭窄は、動脈ステント内部で起こる再狭窄の一形態である。
「リスク増大」は、個体において疾患もしくは障害が起きる頻度が、集団において疾患もしくは障害が起きる頻度と比較して、統計学的に高いことを意味する。リスク増大に関連していると同定された因子が「危険因子」と名づけられている。特定の多型対立遺伝子を保有することが特定の心血管疾患に対する危険因子であり、特定の疾患のリスク増大と関連している。
本明細書において「相互作用する」という用語は、分子間の検出可能な関係または会合(例えば、生化学的相互作用)、例えば、本来はタンパク質−タンパク質間、タンパク質−核酸間、核酸−核酸間、およびタンパク質−低分子間、または核酸−低分子間の相互作用などを意味する。
DNAやRNAなどの核酸に関して本明細書において用いられる「単離」という用語は、高分子の天然源に存在する他のDNA、またはRNAのそれぞれから分離された分子を意味する。例えば、対象とするIL−1ポリペプチドの1つをコードする単離された核酸は、好ましくは、自然ではゲノムDNA内のIL−1遺伝子に直接隣接する10キロベース(kb)以下の核酸配列、より好ましくは、5kb以下のそのような天然の隣接配列、最も好ましくは、1.5kb未満のそのような天然の隣接配列を含む。本明細書において単離されたという用語は、組み換えDNA技術によって作成する場合、細胞物質、ウイルス物質、もしくは培養基を実質的に含まない核酸もしくはペプチド、または、科学的に合成される場合、化学的な前駆体もしくはその他の化学物質を意味する。さらに、「単離された核酸」は、断片として天然には存在せず、自然状態では見出されないと考えられる核酸断片を含む意味である。「単離された」という用語も、本明細書では、他の細胞タンパク質から分離されたポリペプチドを意味し、精製ポリペプチドおよび組み換えポリペプチドを含む意味である。
「ノックイン」トランスジェニック動物は、そのゲノム内に改変遺伝子が導入された動物を意味し、改変遺伝子は、外来性の起源をもつものでも内在性のものであってもよい。
「ノックアウト」トランスジェニック動物は、内在性遺伝子の発現が(例えば、遺伝子の少なくとも一部の欠失、遺伝子の少なくとも一部を別の配列と置換すること、終止コドンの導入、重要なアミノ酸をコードする塩基の変異、またはイントロン連結の除去などによって)部分的にまたは完全に抑制されている動物を意味する。
「ノックアウト構築物」は、細胞にある内在性DNA配列によってコードされるタンパク質の発現を減少または抑制するために用いることができる核酸配列を意味する。単純な例では、ノックアウト構築物は、IL−1RN遺伝子などの遺伝子からなっており、この遺伝子の重要部分に欠失があるために、そこから活性タンパク質を発現させることができない。あるいは、天然遺伝子にいくつかの終止コドンを加えてタンパク質を早期に停止させることができるか、イントロン連結を不活性化させることができる。一般的なノックアウト構築物においては、遺伝子の一部を選択マーカー(neo遺伝子など)で置換する。そのため、この遺伝子は、IL−1RN5’/neo/IL−1RNの3’と表記することができるが、ここで、IL−1RN5’およびIL−1RN3’は、IL−1RN遺伝子の一部に対して、それぞれ、上流または下流にあるゲノム配列またはcDNA配列を意味し、また、neoはネオマイシン耐性遺伝子を意味する。別のノックアウト構築物では、隣接位置に第2の選択マーカーを付加して、遺伝子をIL−1RN/neo/IL−1RN/TKと表記するが、ここで、TKは、上記構築物のIL−1RNの5’配列またはIL−1RNの3’配列に付加することができるチミジンキナーゼ遺伝子であって、適当な培地において更に逆に選択することができる(すなわち、負の選択マーカーである)チミジンキナーゼ遺伝子である。この2マーカー構築物によって、一般的にはTK配列を保持する非相同組み換え現象から、隣接するTKマーカーが除去される相同組み換え現象を選択することができる。遺伝子の欠損および/または置換は、エキソン、イントロン、特にイントロン連結部、および/またはプロモーターなどの調節領域に由来するものであってもよい。
「連鎖不平衡」は、所定の対照群における各対立遺伝子のそれぞれの発生頻度から予想されるよりも高い頻度で2つの対立遺伝子が共遺伝することを意味する。独立して遺伝する2つの対立遺伝子の期待発生頻度は、第1の対立遺伝子の頻度に第2の対立遺伝子の頻度を乗じたものである。期待頻度で共遺伝する対立遺伝子を「連鎖不平衡」にあるという。連鎖不平衡の原因はしばしば不明である。ある特定の対立遺伝子の組み合わせに対する選択によるのかもしれないし、遺伝子的に異種の集団が最近になって混在するようになったせいなのかもしれない。さらに、疾患遺伝子と非常に強く連鎖したマーカーの場合、その疾患変異が最近になって生じ、そのため、特定の染色体領域において組換え現象によって平衡に到達するまでの十分な時間がまだ経過していない場合には、この疾患遺伝子と対立遺伝子(または連鎖対立遺伝子群)との関連性が期待される。1つより多い対立遺伝子からなる対立遺伝子パターンについて言う場合、第1の対立遺伝子パターンを含む対立遺伝子がすべて、第2の対立遺伝子パターンの少なくとも1つの対立遺伝子と連鎖不平衡にあれば、第1の対立遺伝子パターンは第2の対立遺伝子パターンと連鎖不平衡にある。連鎖不平衡の一例は、IL−1RN(+2018)およびIL−1RN(VNTR)の多型部位にある対立遺伝子間に生じる連鎖不平衡である。IL−1RN(+2018)にある2つの対立遺伝子は、IL−1RN(VNTR)の2つの最も高頻度の対立遺伝子と100%連鎖不平衡にあり、それらが対立遺伝子1および対立遺伝子2である。
「マーカー」という用語は、個体間で多様であることが知られている、ゲノム内の配列を意味する。例えば、IL−1RN遺伝子は、さまざまな数の反復配列(VNTR)からなる
「調節する」は、ある物質が生物活性を調節できることを意味する。IL−1の生物活性に適用される場合、アゴニストもしくはアンタゴニストは、例えば、IL−1合成レセプターの相互作用、またはIL−1媒介シグナル変換機構に作用または拮抗することによって生物活性を調節することができる。
「変異遺伝子」、「変異」、または「機能的変異」は、遺伝子の対立遺伝子型意味し、これは、変異遺伝子を持たない被験体と比較して、変異遺伝子を有する被験体の表現型を変化させる能力をもつ。変異によって引き起こされた表現型の変化は、ある特定の薬剤によって修正または補償することができる。被験体が、表現型を変化させるには、この変異についてホモ接合型でなければならない場合、この変異を劣性という。変異遺伝子の1つのコピーで被験体の表現型を変えるのに十分であれば、この変異を優性という。被験体が変異遺伝子の1つのコピーをもち、表現型がホモ接合型とヘテロ接合型の中間であれば、この変異を共優性という。
本発明の「非ヒト動物」には、齧歯類、ヒト以外の霊長類、ヒツジ、イヌ、ウシ、ヤギなどの哺乳類、ゼノパス属など両生類、およびトランスジェニック鳥類(例えば、ニワトリ、鳥など)が含まれる。本明細書において「キメラ動物」という用語は、組み換え遺伝子が存在している動物、または動物の全細胞ではなく一部の細胞内で組み換え遺伝子が発現している動物を意味する。「組織特異的キメラ動物」という用語は、ある組織内の中では、組み換えIL−1遺伝子の1つが存在および/または発現されているか破壊されているが、他の組織ではそのようなことがないということを意味する。「非ヒト哺乳動物」という用語は、ヒトを除く、哺乳綱の任意の動物を意味する。
本明細書において、「核酸」という用語は、デオキシリボ核酸(DNA)、および、必要に応じて、リボ核酸(RNA)などのポリヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドを意味する。また、当然のことながら、この用語は、ヌクレオチド類似体(例えば、ペプチド核酸)から作られたRNAまたはDNAいずれかの類似体、および、記載された実施形態に適用可能であるため、一本鎖(センスまたはアンチセンス)および二本鎖のポリヌクレオチドを同等物として含む。
「閉塞性障害」は、アテローム性動脈内膜硬化症の存在に伴う、動脈壁の進行性肥厚を特徴とする心血管の障害を意味する。閉塞性障害によって、動脈の進行性閉塞がもたらされる。閉塞性障害は、十分に進行するにつれて、動脈によって灌流されている組織内の臨床的な兆候および症状が生じた場所への動脈の流量を減少させることがある。これらの臨床的事象は灌流組織の虚血に関連がある。重篤な場合、虚血は、梗塞または壊疽とよばれる組織の壊死を伴う。閉塞性障害はIl−1遺伝子座における対立遺伝子パターン2sと関連している。
「閉塞性障害治療」は、被験体における閉塞性障害を構成する異常の発生を阻止または遅延させるか、その異常の程度を低下させる任意の薬剤または治療法(医薬品、栄養補助食品、および外科的手段など)を意味する。閉塞性障害治療薬の例には、抗酸化物である薬剤、血清脂質を低下させる薬剤、酸化脂質の作用を遮断する薬剤、および脂質代謝に影響するか、そうでなければ脂質活性作用を有するその他の薬剤が含まれる。
「末梢血管疾患」(「PVD」)は、末梢(すなわち、非冠状)動脈の遮断によって生じる心血管疾患である。遮断は、動脈硬化巣性疾患で起きるように、プラークの破裂または塞栓形成などの機構によって突発的に生じることがある。遮断は、閉塞性疾患のように、血管内膜筋肥厚および動脈硬化巣形成によって動脈が狭小化するにつれて、次第に生じることもある。遮断は完全なことも部分的なこともある。末梢動脈の遮断によって生じる臨床的な兆候および症状は、末梢血管疾患の兆候である。末梢血管疾患の兆候には、とりわけ、跛行、虚血、腸管アンギーナ、血管性(vascular−based)腎不全、一過性虚血発作、動脈瘤形成、末梢塞栓形成、および卒中が含まれる。虚血性脳血管疾患は、末梢血管疾患の一つである。
「多型性」という用語は、遺伝子またはその一部に1つ以上の型(例えば、対立遺伝子多型)が共存していることを意味する。少なくとも2つの相異なる型、すなわち、2つの相異なるヌクレオチド配列が存在する遺伝子の部分を「遺伝子の多型領域」とよぶ。遺伝子の多型領域にある特異的な遺伝子配列が対立遺伝子である。多型領域は1個のヌクレオチドであってもよく、その同一性が、異なった対立遺伝子において異なっている。また、多型領域は数ヌクレオチドの長さであってもよい。
「疾患になりやすい傾向」、また、疾患に対する「素因」または「感受性」という用語、または同様の語句は、ある特定の対立遺伝子が、被験体が特定の疾患(本明細書においては心血管疾患)を発症することに関連しているか、その前兆となっていることが本明細書によって発見されていることを意味する。すなわち、この対立遺伝子は、疾患に罹っている個体において、健康な個体と較べて出現頻度が高い。したがって、これらの対立遺伝子を用いて、発症前または疾患になる前の個体においても、疾患を予測することができる。これらの対立遺伝子は、疾患の根底にある障害に関係していると考えられる。
「再狭窄」という用語は、病変血管の再建手術の後に発生する、何らかの前閉塞性病変を意味する。この用語は、既存の狭窄の再発ばかりでなく、血管バイパスの後に部分的に閉塞した移植静脈など、以前は正常であった血管にも適用される。再狭窄は、動脈に関する治療的介入の後に生じる、何らかの血管腔狭窄も意味する。したがって、再狭窄をもたらす損傷は、アテローム性動脈硬化症に対する外傷(血管形成術で見られる)、病変部の切除(動脈内膜切除で見られる)、外傷(例えば、遮断による傷害)、または外科的吻合などを含むことができる。再狭窄は、冠血管系であろうと抹消血管系であろうと、血管再建の結果、随時生じることがある(ColburnおよびMoore(1998)Myointimal Hyperplasia pp.690−709 in Vascular Surgery:A Comprehensive Review(Philadelphia:Saunders,1998))。例えば、研究によれば、冠動脈形成術後の症候性再狭窄発生率が30%〜50%にのぼることが報告されている(BerkおよびHarris(1995)Adv.Intern.Med.40:455−501参照)。さらなる例としては、頸動脈内膜切除術後、研究の対象となった患者の20%において50%以上の血管狭窄があった(Clagettら(1986)J.Vasc.Surg.3:10−23)。再狭窄のさらに別の例が鼠径下の血管バイパスで見られ、3年目には、人工血管の40%〜60%、および静脈移植血管の20%〜40%が閉塞している(DalmanおよびTaylor(1990)Ann.Vasc.Surg.3:109−312、Szilagyiら.(1973)Ann.Surg.178:232−246)。関与する血管のさまざまな内径、余病の程度、および局所的血行などの因子の組み合わせによって、さまざまな程度の症状が、さまざまな解剖学的部位において前閉塞性病変を伴う。ステント内狭窄は、再狭窄の一種である。
「再狭窄の治療」は、患者における再狭窄を構成する異常の発生を阻止または遅延させるか、その程度を低下させる任意の薬剤もしくは治療法(医薬品、栄養補助食品、および外科的手段など)を意味する。再狭窄には3つの相が含まれると考えられている。第1相は、損傷部位に白血球を補充することを含む炎症反応および最初の48時間内に血栓が形成されることによって特徴づけられる。接着分子ICAM−1、E−セレクチン、P−セレクチン、およびVCAM−1の発現によって内皮が活性化される。同時に、インテグリンを上方調節することによって、マクロファージと線維芽細胞が損傷部位に移動し始める。第2相は、血管壁中膜内で平滑筋細胞が増殖し、これらの細胞が内膜内に移動することによって特徴づけられる。平滑筋細胞の増殖および移動を調節する成長因子およびサイトカインが血小板、白血球、および平滑筋から放出される。最後の相は、平滑筋からの細胞外基質の分泌段階を含む。再狭窄障害治療薬は、再狭窄過程を調節して、これらのプロセスのいずれかに影響するように作用することができる。再狭窄障害治療薬は、NO合成過程に影響する薬剤、例えば、トログリタゾンおよびトラニラストを含んでいてもよい。再狭窄障害治療法には、再狭窄の進行またはステント内再狭窄の進行に影響する放射線療法などの物理的介入が含まれる。再狭窄障害治療法には、遺伝子改変された内皮細胞をステントに播種すること、ヘパリンまたはそれに関連する薬剤でステントを被覆すること、薬剤装填高分子ステントを提供すること、血小板糖タンパク質受容体抗体を溶出する高分子被覆ステントをつくること、血小板糖タンパク質レセプター抗体を溶出する高分子被覆ステントを構築すること、またはその他のステント改良技術などがある。再狭窄障害治療法には、遺伝子操作技術、例えば、治療遺伝子を移植することを含むもの、あるいは、また、ハイドロゲルで被覆された医療装置にプラスミドDNAを取り込ませることを含むものなどがある。また、再狭窄障害治療法には、再狭窄の発生を最小にするかそれを回避することを意図した外科的処置または外科治療計画の一部などがある。再狭窄障害は、血管内処置が行われたすべての自然の動脈、および血管移植片として用いられた自家静脈において生じることを理解されたい。近位吻合または遠位吻合、または静脈移植自体の内膜過形成が、例えば、鼠径下の血管再建の遅発性不全の主な原因となったままである。人工移植による再建においては、このような問題は極めてまれである。閉塞性障害への傾向を診断することによって、外科医が、血管再建に用いる移植材料の種類を選択する参考になるかもしれず、または、この処理の補助剤として用いる薬剤の選択に影響を与えるかもしれない。
「危険因子」とは、リスク増大に関連すると同定されている因子のことである。心血管障害または心血管疾患の危険因子は、それらの状態を発症させるか悪化させるリスク増大に関連していると同定された任意の因子である。危険因子は、心血管障害患者において有害な臨床事象または有害な臨床的転帰と関連していることもある。心血管疾患の危険因子には、喫煙、有害な脂質プロフィール、脂質値またはコレステロール値の上昇、糖尿病、高血圧、凝固能亢進状態、ホモシステイン値の上昇、および運動不足などが含まれる。特定の多型対立遺伝子をもつことが特定の心血管障害の危険因子であり、特定の障害の危険因子の増大と関連している。
本明細書において「低分子」は、分子量が約5kD未満、最も好ましくは、約4kD未満の組成物を意味しようとするものである。低分子は、核酸、ペプチド、ペプチド模倣体、炭水化物、脂質、またはその他の有機分子もしくは無機分子であってもよい。
本明細書において、「特異的にハイブリダイズする」または「特異的に検出する」という用語は、核酸分子が、サンプルである核酸の連続した少なくとも約6個のヌクレオチドとハイブリダイズできることを意味する。
本明細書において理解されている「狭窄症」は、閉塞性障害または再狭窄症において見られる動脈の狭小化を意味する。狭窄症は、狭小化した動脈のセグメントを通過する血流の減少を反映した症状を伴うことがあり、そのような場合には、狭窄を生じさせる障害を疾患と名付ける(すなわち、閉塞症または狭窄症)。狭窄症は、血管中に無症状で存在することがあり、血管造影法や血管の臨床実験のような診断的介入によって初めて検出される。
「転写調節配列」は、本明細書全体を通して用いられる一般的用語で、開始シグナル、エンハンサー、およびプロモーターなど、それらが機能できるように結合しているタンパク質コード配列の転写を誘導したり調節したりするDNA配列を意味する。
本明細書において、「導入遺伝子」という用語は、細胞内に導入された(例えば、IL−1ポリペプチドの一つ、またはそれに対するアンチセンス転写物をコードする)核酸配列を意味する。導入遺伝子は、それが導入されるトランスジェニック動物または細胞にとって一部または全体が異種性、すなわち外来性であってもよく、あるいは、それが導入されるトランスジェニック動物または細胞に内在する遺伝子と相同であるが、それが挿入される細胞のゲノムを変更するような方法で、動物のゲノムの中に挿入されるように設計されているか、挿入されている(例えば、本来の遺伝子の位置とは異なる位置に挿入されているか、挿入の結果、ノックアウトが生じる)。また、導入遺伝子は、エピソームの形態で細胞内に存在することも可能である。導入遺伝子は、1個以上の転写調節配列、およびその他、選択された核酸の発現を最適にするために必要な任意の核酸、例えば、イントロンなどを含むことができる。
「トランスジェニック動物」は、任意の動物、好ましくは非ヒト哺乳動物、鳥、両性類であって、その動物の1つ以上の細胞が、人為的に、例えば、当技術分野において周知の遺伝子導入技術によって導入された異種性核酸を含む動物を意味する。核酸は、慎重な遺伝子操作を介して、例えば、マイクロインジェクションによるか組み換えウイルスに感染させて、細胞の前駆体に直接または間接に導入することによって細胞に導入する。遺伝子操作という用語には、古典的な交配法や体外受精は含まれず、組み換えDNA分子を導入することに関する。この分子は染色体内に組み込むこともでき、あるいは染色体外で複製するDNAであってもよい。本明細書に記載された一般的なトランスジェニック動物においては、導入遺伝子によって、IL−1ポリペプチドの1つの組み換え型、すなわち、アゴニスト型またはアンタゴニスト型を細胞が発現するようになる。しかし、組み換え遺伝子が無変化であるトランスジェニック動物も、例えば、下記のFLPレコンビナーゼまたはCREレコンビナーゼに依存性の構築物も想定されている。さらに、「トランスジェニック動物」には、1つ以上の遺伝子の遺伝子破壊が、組み換え技術およびアンチセンス技術など、人為的介入によってもたらされる組み換え動物も含まれる。この用語はすべての後代世代を含む。したがって、創始動物およびその子孫であるF1、F2、F3などもすべて含まれる。
本明細書において「治療」という用語は、疾患の少なくとも1つの症状、または障害と関連した少なくとも1つの異常を治癒および改善することを包含しようとするものである。心血管障害治療薬を投与することによって、心血管障害の治療を行うことができる。また、心血管障害の治療は、心血管障害に関連する危険因子を変更することによって行うこともできる。
「治療計画」は、患者に対する危険因子の影響を修正するために行われる少なくとも1回の介入を意味する。心血管の障害または疾患の治療計画は、心血管の障害または疾患に関係する危険因子を扱うこともできる。治療計画は、患者の行動を変えること、例えば、禁煙などに焦点を合わせた介入を含むことができる。治療計画は、治療薬を患者に投与する介入を含んでいてもよい。例を挙げれば、適切な投薬を用いてコレステロール値を低下させることができ、インスリンを用いて糖尿病を制御することができる。退薬によってニコチン中毒を治療することができる。治療計画は、診断に役立つ介入を含んでいてもよい。例えば、高血圧の危険因子が存在することによって、高血圧の病因を決定できる診断的介入が生じ得る。高血圧の理由を同定した後、さらに治療を行うことができる。
「ベクター」という用語は、それに連結されている別の核酸を輸送することができる核酸分子を意味する。好適なベクターの一つがエピソーム、すなわち、染色体外複製能力をもつ核酸である。好適なベクターは、自己複製および/またはそれらが連結させている核酸を発現することができるベクターである。それが機能できるように結合している遺伝子の発現を指令できるベクターが、本明細書では「発現ベクター」とよばれる。一般的に、組み換えDNA技術において有用な発現ベクターは、しばしば、ベクターの形では染色体に結合していない環状二重鎖DNAループを一般に意味する「プラスミド」の形になっている。プラスミドはベクターの最も一般的に用いられる形態であるため、本明細書において、「プラスミド」および「ベクター」は同義的に用いられる。しかしながら、本発明は、同等の機能を果たし、かつ、今後当技術分野において周知となる他の形態の発現ベクターを含むものである。
「野生型対立遺伝子」という用語は、被験体において2コピー存在する場合、野生型表現型となる遺伝子の対立遺伝子を意味する。遺伝子内でのある特定のヌクレオチドの変化は、ヌクレオチドが変化している遺伝子を2コピーもつ被験体の表現型に影響を及ぼさないことから、具体的な遺伝子には、いくつかの相異なる野生型対立遺伝子が存在する可能性がある。
4.2 概論
本発明のキットおよび方法は、少なくとも部分的に、IL−1遺伝子クラスターの4つの多型遺伝子座における対立遺伝子パターンが心血管の障害に関連しているという新たな知見に基づいている。これらのパターンを、本明細書においては、パターン1、2、および3とよぶ。パターン1は、IL−1A(+4845)もしくはIL−1B(+3945)の対立遺伝子2、およびIL−1B(−511)もしくはIL−1RN(+2018)の対立遺伝子1、または上記対立遺伝子の1つと連鎖不平衡にある対立遺伝子を含む対立遺伝子パターンを含んでいる。好適な実施形態では、この対立遺伝子パターンによって、動脈硬化巣性障害を診断することができる。パターン2は、IL−1B(−511)もしくはIL−1RN(+2018)の対立遺伝子2、およびIL−1A(+4845)もしくはIL−lB(+3954)の対立遺伝子1、または上記対立遺伝子の1つと連鎖不平衡にある対立遺伝子を含む対立遺伝子パターンを含んでいる。好適な実施形態では、この対立遺伝子パターンによって、動脈硬化巣性障害を診断することができる。パターン3は、IL−1A(+4845)の対立遺伝子1またはIL−1B(+3945)の対立遺伝子1、およびIL−1B(−511)の対立遺伝子1またはIL−1RN(+2018)の対立遺伝子1、または上記対立遺伝子の1つと連鎖不平衡にある対立遺伝子を含む対立遺伝子パターンを含んでいる。好適な実施形態では、この対立遺伝子パターンによって再狭窄障害を診断することができる。一つの態様では、本発明は、被験体が心血管障害に罹っているか否かを判定するための新たな方法およびキットを提供する。一つの態様では、本発明は、被験体が動脈巣性障害に罹っているか否かを判定するための新たな方法およびキットを開示する。一つの態様では、本発明は、被験体が閉塞性障害に罹っているか否かを判定するための新たな方法およびキットを開示する。一つの態様では、本発明は、被験体が再狭窄症に罹っているか否かを判定するための新たな方法およびキットを開示する。
図1に示されているように、IL−1α、IL−1β、およびIL−1RNの遺伝子は、第2染色体上のクラスター内に位置している。図2に示されているように、IL−1遺伝子座にある一定の遺伝子は連鎖不平衡にある。さらに、図3に示すように、ハプロタイプのパターンを同定することができ、集団内でのその頻度を確認することができる。3つのハプロタイプパターンであるパターン1、2、および3は、表1に示したIL−1遺伝子クラスター内の4つの多型遺伝子座によって定義することができる。
ハプロタイプパターン1は動脈巣性障害に関連している。ハプロタイプパターン2は閉塞性障害に関連している。ハプロタイプパターン3は再狭窄症に関連している。上記したように、これらの対立遺伝子は他の対立遺伝子と連鎖不均衡にあるために、そのような他の連鎖対立遺伝子を検出すれば、その被験体が心血管障害に罹っているか、これを発症する素因をもっていることも示すことができる。
破裂しやすいアテローム硬化性プラーク(動脈硬化巣性障害に見られる不安定なプラーク)には、ある特定の構造的、細胞的、および分子的な特徴がある。脆弱なプラークを覆っている線維性皮膜の破裂が、冠動脈血栓症の最も一般的な原因である。一般的に、動脈硬化巣は、大きな脂質コアと、炎症細胞によってしばしば浸潤される薄い線維性皮膜を有している。コアを形成する脂質の性質も重要である;例えば、コレステロールエステルの形になった脂質はプラークを軟化させ、結晶コレステロールは逆の作用を有し得る。さらに、炎症細胞浸潤はプラークの脆弱性を示すマーカーであることが分かる。酸化リポタンパク質、感染性因子、または、熱ショックタンパク質などの自己抗原など、いくつかの因子が、アテローム硬化性プラークにおいて慢性炎症反応を刺激し得る。次に、活性化マクロファージおよびTリンパ球がプラーク内に流入し、続いてサイトカインおよびマトリクス分解性タンパク質が流入すると、プラークの結合組織のフレームワークの軟化がもたらされる。細胞外基質分解酵素群およびある特定のサイトカインが、プラークの脆弱性の病因における重要な因子である。動脈硬化巣性障害と診断された後、上記したような動脈硬化巣の特徴に対処するため、治療法を工夫することができる。
一つの実施形態において、本発明は、顕著な冠動脈狭窄、頸動脈壁内膜中膜肥厚の増加、およびIL−1遺伝子型パターン2の間の関連性を開示する。パターン2の存在を測定して、CADを発症する危険因子を判定することができる。このパターン、およびその病態生理学的に関連するものを図4に示す。その知見が図5に要約されている臨床試験を行って、遺伝子マーカーと症候性冠動脈狭窄の存在との関連を判定した。この臨床試験の結果を図6に示すが、ここで、IL−1RN遺伝子座の対立遺伝子2にとってホモ接合である患者の約75%は顕著な冠状動脈狭窄に罹っていると判定された。
一つの実施形態において、本発明は、再狭窄とIL−1遺伝子座における遺伝子型パターン3との関係を開示する。図7に示されているように、ある研究では、パターン3の遺伝子型が、再狭窄のリスクの約3倍の増加と関連している一方で、このリスクがパターン2の遺伝子型に関しては0.5、パターン1の遺伝子型に関しては1.0であることを示している。同じ研究のデータを示す図8は、IL−1RN(+2018)における対立遺伝子1についてホモ接合である被験体の約40%が顕著な再狭窄に罹っており、25%が標的血管の血行再建を必要としていたことを示している。
当然、上記の心血管障害の1つに苦しむ患者に対する一定の危険因子の影響と関連疾患の発症との間に関連があり、また危険因子の影響と関連疾患の進行との間に関連があると考えられる。根底にあるハプロタイプパターンの診断を参考にして、臨床医は、勧告を行ったり、特定の障害または疾患への危険因子の影響を低下させるように医療介入を設計したりすることができる。
例えば、患者のIL−1遺伝子型パターンを心血管の障害および疾患に対する全コレステロール値の影響と関連付けることができる。ある特定のIL−1遺伝子型パターンの存在下である特定の血清コレステロール値が存在することは、冠動脈閉塞症および動脈硬化巣性疾患に対する統計学的に判定可能なリスクと関連している。これらの関連が図9に図示されている。図10は、これらの関連を補強するデータのいくつかを要約したものである。これらのデータは、パターン1が、低血清コレステロール値であっても、動脈硬化巣型の事象のリスクを強く予測するものであることを示している。動脈硬化巣型の事象は、パターン2を有する患者においても観察されるが、血清コレステロール値と強い相関関係がある。IL−1遺伝子型パターン2の全般的な関連が図11に図式化して要約されている。
本発明の方法およびキットを用いて、IL−1遺伝子型パターンを被験体のLp(a)値に関連付けて、閉塞性CADのオッズ比を測定することができる。当然ながら、コレステロールはリポタンパク質粒子の形で体液に輸送される。これらの凝集体のタンパク質成分は、特異的細胞ターゲッティング能をもっている。リポタンパク質粒子は、それぞれ、密度によって分類され、1)コアとなる脂質の主要物質種、および2)粒子の外殻である特異的アポリポタンパク質を含む。LDLは、例えば、アポリポタンパク質B−100の外殻を有するコレステロールコアをもっている。リポタンパク質(a)[Lp(a)]は、LDL、およびプラスミノーゲンを模倣するタンパク鎖を含む。Lp(a)には、プラスミノーゲンおよびtPAのフィブリンへの結合を妨害し、プラスミノーゲン活性化因子インヒビター(PAI)の合成を刺激するアテローム効果およびプロトロンビン効果があると考えられる。研究によって、Lp(a)と冠動脈疾患(CAD)の関係が明らかにされた。Lp(a)濃度に対するIl−2遺伝子型パターンを測定すると、図12に示された関係である、パターン2患者における冠状動脈狭窄の兆候とLp(a)量との関係が示される。IL−1B(−511)対立遺伝子2に関してホモ接合型である患者は、低Lp(a)量であっても、症候性狭窄症のリスクが非常に増大している。図13は、LDLの上昇と冠状動脈閉塞のリスクとの関係を示しており、パターン2と血清脂質量の上昇との相互関係を示している。
本発明の方法およびキットを用いて、C反応性タンパク質(CRP)量をIL−1遺伝子型パターンと関連付けることもできる。IL−1B(+3954)における対立遺伝子2に関してホモ接合型であるパターン1患者の50%以上が、0.20より多いCRPをもっていることが分かり、一方、IL−1B(+3954)における対立遺伝子1に関してホモ接合型であるパターン2患者は、常にわずか約28%の確率で、0.20より多いCRPをもっていた。これらのデータは図14で説明されている。
4.3 予測医学
4.3.1 心血管障害に関連した遺伝子多型
本発明は、少なくとも部分的に、被験体における心血管障害の発症と(統計学的に有意な程度に)関連している対立遺伝子を同定したことに基づく。したがって、被験体において、単独、またはその他の手段を併用して、これらの対立遺伝子を検出することは、その被験体が心血管障害をもっているか、その発症の素因をもっていることを示す。例えば、以下の例に示されているように、血管閉塞によって引き起こされる冠動脈障害またはその他の血管障害を発症する傾向に関連するIL−1多型対立遺伝子には、IL−1B(−511)の対立遺伝子2、IL−1RN(VNTR)の対立遺伝子2、IL−1RN(+2018)の対立遺伝子2、IL−1A(+4845)の対立遺伝子1もしくはIL−1B(+3954)の対立遺伝子1、または上記対立遺伝子の1つと連鎖不平衡にある対立遺伝子が含まれる。
また、本発明は、動脈硬化巣の破裂が原因となって引き起こされる心血管疾患に罹る傾向またはそれに対するより大きなリスクに関連するIL−1多型対立遺伝子も開示する。これらには、IL−1A(+4845)の対立遺伝子2、IL−1B(+3954)の対立遺伝子2、IL−1(−511)の対立遺伝子1、およびIL−1RN(+2018)の対立遺伝子1、または上記対立遺伝子の1つと連鎖不平衡にある対立遺伝子が含まれる。このパターンも、重症の成人型歯周病を発症するリスクの増加と関連している。
例えば、IL−1(−511)の対立遺伝子2およびIL−1RN(VNTR)の対立遺伝子2は、互いに関連し、かつIL−1(44112332)ハプロタイプを定義する、その他いくつかのIL−1多型と連鎖不平衡にある(Coxら、(1998)Am.J.Hum.Genet.62:1180−88)。具体的には、44112332ハプロタイプは以下の遺伝子型を含む:
したがって、本発明の代替的な実施形態において、IL−1Aの222/223マーカー、IL−1Aのgz5/gz6マーカー、IL−1Aの−889マーカー、IL−1Bの+3954マーカー、IL−1B/IL−1RN遺伝子間領域にあるgaat.p33330マーカー、またはIL−1B/IL−1RN遺伝子間領域にあるY31マーカーにおける遺伝子型解析を決定し、IL−1Aの222/223マーカーの対立遺伝子4、IL−1Aのgz5/gz6マーカー対立遺伝子4、IL−1Aの−889マーカーの対立遺伝子1、IL−1Bの+3954マーカーの対立遺伝子1、gaat.p33330マーカーの対立遺伝子3、またはY31マーカーの対立遺伝子3が、心血管障害、特に動脈の閉塞が原因となる障害を発症する可能性が増大していることを示している。ある特定の実施形態では、閉塞症の傾向を診断することによって、閉塞性の臨床現象の発生増加に関連した生活要因を変えさせたり、閉塞性の症状または兆候のリスクを減らすための治療法を導入したりすることができる。他の実施形態では、閉塞症の傾向を診断することによって、動脈狭窄が症状および兆候に関与している状況である腸管アンギーナ、腎血管性高血圧など、これ以外では診断困難な疾患の説明を臨床医に告げることができる。
さらに、エキソン2(8006)(GenBank:8006におけるX64532)ともよばれる、IL−1RN(+2018)多型の対立遺伝子2(Clayら(1996)Hum Genet 97:723−26)は、IL−1RN(VNTR)多型遺伝子座の対立遺伝子2と連鎖不平衡にあることが知られているが、それは、同様に、44112332ヒトハプロタイプの一部である。このように、IL−1RN(+2018)遺伝子座の対立遺伝子2(すなわち、+2018におけるC)は、44112332ハプロタイプに関連した対立遺伝子バリアントであり、そのため、個体が血管障害を発症する可能性を判定するための予測的遺伝子型解析の代替的な標的となる。同様に、IL−1RN代替的エキソン(エキソン1ic、細胞内型の遺伝子産物を産生する)にあるその他3つの多型も、IL−1RN(VNTR)の対立遺伝子2と連鎖不平衡にある(Clayら(1996)Hum Genet 97:723−26)。これらには以下のものが含まれる:IL−1RNエキソンlic(1812)多型(GenBank:1812におけるX77090);IL−1RNエキソン1ic(1868)多型(GenBank:1868におけるX77090);およびIL−1RNエキソンlic(1887)多型(GenBank:1887におけるX77090)。さらに、この遺伝子の代替的にスプライシングされる細胞内型のプロモーターにおけるさらに別の多型であるPic(1731)多型(GenBank:1731におけるX77090)も、IL−1NR(VNTR)多型遺伝子座の対立遺伝子2と連鎖不平衡にある(Clayら(1996)Hum Genet 97:723−26)。これらのIL−1RN多型遺伝子座のそれぞれに関する対応配列の変異を以下に示す。
これらの多型遺伝子座に関して、対立遺伝子2の変異配列が、IL−1RN(VNTR)遺伝子座の対立遺伝子2と連鎖不平衡にあると判定されている(Clayら(1996)Hum Genet 97:723−26)。
同様に、動脈硬化巣性疾患に対するリスクの増大に関連する33221は、以下の遺伝子型を含む:
本発明の代替的な実施形態において、IL−1Aの−889マーカー、IL−1B/IL−1RN遺伝子間領域のgaat.p33330マーカー、IL−1B/IL−1RN遺伝子間領域のY31マーカーにおける遺伝子型解析が決定され、IL−1Aの−889マーカーの対立遺伝子1、gaat.p33330マーカーの対立遺伝子4、またはY31マーカーの対立遺伝子6が、心血管障害、特に動脈硬化巣性障害のリスクの増大を示している。これらの疾患は、血栓および塞栓によって臨床事象をもたらす。しばしばこの臨床事象は、虚血という前兆を伴わずに生じる。慢性虚血は、本明細書に開示されているように、動脈硬化巣性疾患ではなく閉塞性の心血管疾患と関連している。破局的な臨床事象を起こしやすい傾向を早期に検出できれば、現行の診断設備を著しく補強するものとなろう。脳循環内の動脈硬化巣という臨床事象は、大脳の血管を遮断して卒中またはCVAを引き起こし、不可逆的脳梗塞に至りうる急性虚血を引き起こすことがある。心筋循環内の動脈硬化巣という臨床事象は、冠血管を遮断して心筋梗塞を引き起こし、不可逆的心筋障害に至りうる急性虚血を引き起こすことがある。非大脳抹消血管系内の動脈硬化巣という臨床事象は、壊疽および実質欠損をもたらす虚血を突然引き起こすことがある。これらの動脈硬化巣性臨床事象は前兆なしに起こる可能性があるため、リスクの増加と関連した遺伝子型の同定は、早期かつ広範な診断的および治療的な介入による、これら危険にさらされている被験体の臨床モニタリングの増加をもたらしうる。また、別の実施形態において、これらは、重症の成人型歯周病を発症するリスクの増加を示すものでもある。さらに別の実施形態では、重症の成人型歯周病が存在することが、動脈硬化巣性疾患のリスクの増加の指標となる。
上記の対立遺伝子パターンに加えて、本明細書に記載されているように、当業者は、心血管障害に関連する対立遺伝子と連鎖不平衡にある別の対立遺伝子(多型および変異を含む)を容易に同定することができる。例えば、心血管障害でない被験体からなる第1集団から核酸サンプルを採取することができ、また、心血管に障害をもっている第2の被験体集団からもDNAを採取することができる。次に、この核酸サンプルを比較して、第1の集団と比較して第2の集団で大きな比率を占めている対立遺伝子を同定することができるが、その場合、そのような対立遺伝子を心血管障害に関連しているものと推定する。あるいは、心血管障害に関連した対立遺伝子と連鎖不平衡にある対立遺伝子は、例えば、大きな集団を遺伝子型解析してから統計解析を行うことによって同定し、どの対立遺伝子が期待以上により広く共に出現しているかを決定することができる。好ましくは、この群は、遺伝的に関係のある個体からなるよう選択する。遺伝的に関係のある個体には、同一人種、同一民族集団、さらには同一家族の個体が含まれる。対照群と被検群の間の遺伝的相関度が増加するにしたがって、病因対立遺伝子とより遠位で連鎖している多型対立遺伝子の予測値も増加する。これは、創始者集団内で染色体に沿って連鎖している多型性が遺伝的交差事象を介して再分布するまでの進化的な時間が経過していないためである。したがって、人種特異的、民族特異的、さらには家族特異的な診断遺伝子型アッセイ法を開発して、ヒトの進化においてごく最近、たとえば、主な人種に分岐した後に、ヒト集団が別々の民族群に分かれた後に、さらには具体的な家系の最近の歴史においても、生じた疾患対立遺伝子の検出を可能にすることができる。
2つの多型マーカー間、または1つの多型マーカーと疾患を引き起こす変異との間における連鎖不平衡は準安定状態である。選択圧が存在しないか、基底にある変異事象が散発的に連鎖して再発することで、多型は染色体組み換え現象によって最終的に分離されて、ヒト進化の過程で連鎖不平衡に達する。したがって、疾患または状態と連鎖不平衡にある多型対立遺伝子を発見する可能性は、以下の少なくとも2つの因子の変化に伴って増加する可能性がある:多型マーカーと病因性変異との間の物理的距離の減少、およびこの連鎖した2つのものを分離するのに利用される減数分裂世代数の減少。後者の因子を考察すると、2つの個体の関係が近いほど、連鎖した多型を含む、親の染色体または染色体領域を共有している可能性が高く、各世代で生じる減数分裂による交差事象を介してこの2つの連鎖した2つのものが連鎖しなくなる可能性は低いことが示唆される。その結果、2つの個体の関係が近いほど、離れた位置にある多型が共遺伝する可能性が高い。したがって、共通の人種、民族、または家系によって近縁にある個体同士では、かなり遠く離れた位置にある多型遺伝子座の信頼性が、連鎖している病因性変異の遺伝を示す指標として信頼できる。
本発明に係るキットの一つの実施形態において提示されるオリゴヌクレオチドは、目的の領域を増幅するため、または問題となっているマーカーに対する直接的な対立遺伝子特異的オリゴヌクレオチド(ASO)ハイブリダイゼーションのために用いることができる。すなわち、オリゴヌクレオチドは、目的とするマーカーに隣接する(PCR増幅のために必要とされる)か、または(ASOハイブリダイゼーションにおけるように)マーカーと直接重複していてもよい。上記の検出法に用いられる適当なプライマーの例には、以下のものが含まれる:
これらは、ヒトIL−1RN(VNTR)多型遺伝子座を増幅してタイピングするために使用することができる;
これらは、ヒトIL−1RN(+2018)多型遺伝子座を増幅してタイピングするために使用することができる;
これらは、ヒトIL−1B(−511)多型遺伝子座を増幅してタイピングするために使用することができる;
これらは、ヒトIL−1B(+3954)多型遺伝子座を増幅してタイピングするために使用することができる;
これらは、ヒトIL−1A(+4845)多型遺伝子座を増幅してタイピングするために使用することができる。
IL−1遺伝子座の具体的な遺伝子、例えば、IL−1A、IL−1B、もしくはIL−1RN、またはそれらの関連遺伝子などとハイブリダイズするように、適当なプローブを設計することができる。あるいは、これらのプローブを、遺伝子間配列など、関連するゲノム上の遺伝子座の別の領域を取り込むことも可能である。実際、ヒト第2染色体のIL−1領域は約400,000塩基対に及び、一塩基変異多型の平均を1,000塩基ごとである仮定すると、約400SNPを単独で含む。本発明で利用可能な、さらに別の多型を、さまざまな公開情報源から入手することができる。例えば、ヒトゲノムデータベースは遺伝子内SNPを収集しており、配列で検索可能であり、現在約2,700エントリーを含んでいる(http://hgbase.interactiva.de)。また、マサチューセッツ工科大学によって運営されているヒト多型データベース(MIT SNP database(http://www.genome.wi.mit.edu/SNP/human/index.html))も利用可能である。このような情報源から、SNPおよびその他のヒト多型を見出すことができる。
例えば、これらのデータベースのいずれかでヒトゲノムのIL−1領域を調べると、IL−1遺伝子座の遺伝子は、127.4cM(センチモルガン)におけるAFM220ze3マイクロサテライトマーカーと名づけられたセントロメア近位多型マーカー(GenBank受入番号Z17008参照)、および127.9cMにおけるAFM087xa1マイクロサテライトアンカーマーカーと名づけられた遠位多型マーカー(GenBank受入番号Z16545参照)の近傍に位置していることが明らかになる。これらのヒト多型遺伝子座は、どちらもCAジヌクレオチド反復マイクロサテライト多型であり、そのため、ヒト集団において高度のヘテロ接合性を示す。例えば、AFM220ze3の1つの対立遺伝子は、配列TGTACCTAAGCCCACCCTTTAGAGC(配列番号14)を5’プライマーとし、配列TGGCCTCCAGAAACCTCCAA(配列番号15)を3’プライマーとすると、211bpのPCR増幅産物を生成させる。さらに、AFM220ze3の1つの対立遺伝子は、配列GCTGATATTCTGGTGGGAAA(配列番号16)を5’プライマーとし、配列GGCAAGAGCAAAACTCTGTC(配列番号17)を3’プライマーとすると、211bpのPCR増幅産物を生成させる。これらヒト第2染色体のCAジヌクレオチド反復多型の5’側および3’側に存在するユニークな配列に対応する同等のプライマーは当業者に明白であろう。適切な同等プライマーには、指定されたプライマーの約1kb以内でハイブリダイズするもの、また、長さが約17bpから約27pのいずれかであるものが含まれる。ユニークなヒト染色体のゲノム配列を増幅するためのプライマーを設計するための一般的なガイドラインは、それらが少なくとも約50℃の融解温度を有することであるが、おおよその溶解温度を、Tmelt=[2×(AもしくはTの数)+4×(GもしくはCの数)]という公式を用いて推定することができる。
他のいくつかのヒト多型遺伝子座がこれら2つのCAジヌクレオチド反復配列多型の間に存在し、遺伝的に近縁な個体からなる家族もしくはその他の集団において心血管障害の予後的対立遺伝子を決定するためのもう一つの標的となる。例えば、the National Center for BiotechnologyInformationのウェブサイト(www.ncbi.nlm.nih.gov/genemap/)には、IL−1遺伝子座の領域におけるいくつかの多型マーカーが掲載されており、これらのマーカーを増幅したり解析したりする際の指針を提供している。
したがって、本発明のヌクレオチドセグメントは、ヒト第2染色体q12−13の相補鎖、もしくはその領域に由来するcDNAと選択的に二重鎖分子を形成することができるように、またはこの領域からDNAもしくはcDNAを増幅するためのプライマーを提供することができるように用いることが可能である。この目的で適切なプライマーを設計するには、いくつかの因子を考慮する必要がある。例えば、長さが10、15、もしくは18ヌクレオチドから約20ヌクレオチド、または約30ヌクレオチドの断片が特に有用であろう。これよりも長い、40、50、80、90、100ヌクレオチド、さらには完全長まである配列が、ある特定の実施形態にとってはなおいっそう好ましい。少なくとも約18ヌクレオチドから20ヌクレオチドというオリゴヌクレオチドの長さが、分子プローブとして有用であるための十分に特異的なハイブリダイゼーションを可能にするのに十分であると、当業者によく認識されている。さらに、想定された用途に応じ、標的配列に向けられプローブがさまざまな程度の選択性を達成するよう、さまざまなハイブリダイゼーション条件を用いることが望まれよう。高選択性が必要な用途には、一般的に、比較的ストリンジェントな条件を用いて、ハイブリッドを形成することが望まれる。例えば、相対的に低塩および/または低温の条件、例えば、約50℃から約70℃の温度で0.02Mから0.15MのNaClによって提供される条件。このような選択条件は、プローブと、鋳型または標的鎖の間のミスマッチを、あるとしてもほとんど許容し得ない。
上記した対立遺伝子の検出、例えば、血管の厚さ(例えば、超音波によって測定する)、または被験体が喫煙するか、飲酒するか、過体重か、ストレスを受けているか、コレステロール値が高いか低いか、Lp(a)値が高いか、あるいは運動しているか否かを同定するとともに、被験体において、他の対立遺伝子または血管障害の兆候を検出またはモニタリングすることができる
4.3.2 対立遺伝子の検出
ヒト多型遺伝子座で特異的対立遺伝子を検出するために、数多くの方法が利用可能である。特異的多型対立遺伝子を検出するための好適な方法は、部分的には、多型性の分子的性質に依存するであろう。例えば、多型遺伝子座のさまざまな対立遺伝子型がDNAの一塩基対だけの違いであり得る。そのような一塩基多型(すなわちSNP)は、遺伝的変異の主な原因であり、既知のすべての多型のほぼ80%を含み、ヒトゲノムにおけるその密度は1,000塩基対あたり平均1塩基対であると推定されている。SNPは、最も高頻度には、わずか2つの異なる型の2対立遺伝子として存在する(DNA内に存在する4つの異なるヌクレオチド塩基に対応して、最大4つの異なる型のSNPが理論的には可能であるが)。それにもかかわらず、SNPは他の多型よりも変異として安定しているため、マーカーと未知の変異との間の連鎖不平衡を利用して、疾患を引き起こす変異をマッピングする関連づけ研究に適したものとなっている。また、SNPには一般的に2つの対立遺伝子しかないため、測長ではなく、単純なプラス/マイナスアッセイ法によって遺伝子型を決めることができ、自動化しやすくなっている。
個体において特定の一塩基多型対立遺伝子の存在を検出するために、さまざまな方法が利用可能である。この分野の進歩によって、大規模なSNP遺伝子型を正確、容易、かつ安価に行えるようになった。ごく最近、例えば、ダイナミック・アリル特異的ハイブリダイゼーション(DASH)法、マイクロプレートアレイ・ダイアゴナル・ゲル電気泳動(microplate array diagonal gel electrophoresis)(MADGE)法、ピロシーケンス法、オリゴヌクレオチド特異的ライゲーション法、TaqMan装置、また、Affimetrix SNPチップなどさまざまなDNA「チップ」技術など、いくつかの新技術が説明されている。これらの方法は、一般的にはPCR法による標的遺伝領域の増幅を必要とする。観血切断によるシグナル低分子の生成に続く質量分析もしくは固定パッドロックプローブおよびローリングサークル型増幅法に基づいた、さらに他の新たに開発される方法によって、最終的には、PCR法が必要とされなくなり得る。特異的な一塩基多型を検出するために当技術分野において知られている方法のいくつかを下記にまとめた。本発明の方法は、すべて利用可能な方法を含むものと考えられる。
一塩基多型の解析を容易にするために、いくつかの方法が開発されてきた。一つの実施形態において、例えば、Mundy,C.R.(米国特許第4,656,127号)に開示されているように、特殊エキソヌクレアーゼ耐性ヌクレオチドを用いて、一塩基多型を検出することができる。この方法に従えば、多型部位の3’に隣接している対立遺伝子配列に相補的なプライマーを、特定の動物またはヒトから得られた標的分子とハイブリダイズさせることができる。標的分子上の多型部位が、存在する特定のエキソヌクレアーゼ耐性ヌクレオチド誘導体に相補的なヌクレオチドを含んでいれば、その誘導体はハイブリダイズしたプライマーの末端に取り込まれる。この取り込みによって、プライマーはエキソンヌクレアーゼ耐性となるため、検出可能となる。サンプルのエキソヌクレアーゼ耐性誘導体の同一性は既知であるため、プライマーがエキソヌクレアーゼ耐性になったことが分かれば、標的分子の多型部位に存在するヌクレオチドが、反応に用いられたヌクレオチド誘導体のヌクレオチドに相補的であったことが分かる。この方法には、大量の無関係な配列データを決定する必要がないという利点がある。
本発明の別の実施形態では、溶液を利用する方法が、多型部位のヌクレオチドの同一性を判定するために用いられる。Cohen,D.ら(仏国特許第2,650,840号;PCT出願番号:WO91/02087)。米国特許第4,656,127号のMundyの方法のように、多型部位の3’側の直近にある対立遺伝子配列に相補的なプライマーが使用される。この方法は、標識ジデオキシヌクレオチド誘導体を用いてその部位のヌクレオチドを同定するものであるが、この誘導体は、該多型部位のヌクレオチドに相補的である場合、プライマーの末端に取り込まれるであろう。
ジェネティックビット解析法またはGBATMとして知られる別の方法が、Goelet,P.らによって記載されている(PCT出願番号:92/15712)。Goelet,P.らの方法は、標識されたターミネーターと、多型部位の3’側配列に相補的なプライマーとの混合物を用いる。したがって、取り込まれる標識ターミネーターは、評価されている標的分子の多型部位に存在するヌクレオチドによって決定され、また、これに相補的である。Cohenらの方法(仏国特許第2,650,840号;PCT出願番号:WO91/02087)とは対照的に、Goeletらの方法は、好ましくは、プライマーまたは標的分子が固相に固定されている、不均一相アッセイ法である。
最近、DNAにおける多型部位をアッセイするための、プライマー誘導型ヌクレオチド取り込み法がいくつか記載されている(Komher,J.S.ら、Nucl.Acids.Res.17:7779−7784(1989);Sokolov,B.P.,Nucl.Acids Res.18:3671(1990);Syvanen,A.−C.ら、Genomics 8:684−692(1990);Kuppuswamy,M.N.ら、Proc.Natl.Acad.Sci.(U.S.A.)88:1143−1147(1991);Prezant,T.R.ら、Hum.Mutat.1:159−164(1992);Ugozzoli,L.ら、GATA 9:107−112(1992);Nyren,P.ら、Anal.Biochem.208:171−175(1993))。これらの方法は、多型部位における塩基を識別するのに標識デオキシヌクレオチドの取り込みに依存するという点で、GBATM法とは異なる。このような方式では、シグナルが、取り込まれたデオキシヌクレオチドの数に比例するため、同一ヌクレオチドの連続中に存在する多型が、その連続の長さに比例するシグナルを生じさせることができる(Syvanen,A.−C.ら、Amer.J.Hum.Genet.52:46−59(1993))。
タンパク質翻訳を早期終了させる変異に関して、タンパク質切断テスト(PTT)が効率的な診断方法を提供する(Roestら、(1993)Hum.Mol.Genet.2:1719−21;van der Luijtら、(1994)Genomics 20:1−4)。PTTのためには、まず、利用可能な組織からRNAを単離して逆転写し、PCRによって対象領域を増幅する。次に、逆転写PCRの産物を、RNAポリメラーゼプロモーターと真核生物での翻訳を開始させるための配列とを含むプライマーを用いるネステッドPCR増幅法の鋳型として用いる。対象領域を増幅した後に、プライマーに組み込まれたユニークなモチーフによって、PCR産物をインビトロで連続的に転写および翻訳することが可能になる。翻訳産物をドデシル硫酸ナトリウム・ポリアクリルアミドゲル電気泳動すると、切断ポリペプチドの出現が、翻訳を早期停止させる変異の存在を知らせる。この技術の変法では、DNAを(RNAに対立するものとして)、対象となる標的領域が単一エキソンに由来するものである場合にはPCRの鋳型として用いる。
本明細書に記載された診断に用いるために、任意の細胞型もしくは組織を利用して核酸サンプルを得ることができる。好適な実施形態において、既知の技術(例えば、静脈穿刺)によって得られる血液などの体液、または唾液からDNAサンプルを得る。あるいは、乾燥したサンプル(例えば、毛髪もしくは皮膚)について核酸テストを行うことができる。RNAもしくはタンパク質を用いる場合、利用する細胞もしくは組織はIL−1遺伝子を発現していなければならない。
また、診断処理は、核酸精製を必要としないよう、生検もしくは切除物から得られた患者の組織の(固定および/または凍結した)組織切片について、直接インサイチュで行うことも可能である。このようなインサイチュ法のためのプローブおよび/またはプライマーとして、核酸試薬を用いることもできる(例えば、Nuovo,G.J.,1992,PCR in situ hybridization:protocols and applications,Raven Press,NY参照)。
1つの核酸配列の検出に主な焦点を合わせる方法以外に、このような検出スキームにおいて、プロファイルを評価することも可能である。例えば、ディファレンシャルディスプレイ法を利用して、フィンガープリントプロファイルを作成することができる。
好適な検出法は、IL−1の炎症促進性ハプロタイプの少なくとも1つの対立遺伝子の一領域に重複するプローブであって、変異領域または多型領域の周りにヌクレオチドを約5個、10個、20個、25個、もしくは30個もつプローブを用いる対立遺伝子特異的ハイブリダイゼーション法である。本発明の好適な実施形態において、心血管の障害に関与する対立遺伝子変異体と特異的にハイブリダイズすることができるいくつかのプローブを固相支持体、例えば、「チップ」(最大約250,000個のオリゴヌクレオチドを保持することができる)に付着させる。リソグラフィーなど、さまざまな方法によって、オリゴヌクレオチドを固形支持体に結合させることができる。「DNAプローブアレイ」ともよばれる、オリゴヌクレオチドを含むこれらのチップを用いる変異検出解析法は、例えば、Croninら(1996)Human Mutation 7:244に記載されている。一つの実施形態において、チップは、遺伝子の少なくとも1つの多型領域の全対立遺伝子多型を含む。次に、固相支持体を被検核酸と接触させると、特異的プローブとのハイブリダイゼーションが検出される。したがって、1つ以上の遺伝子の数多くの対立遺伝子変異体の同一性は簡単なハイブリダイゼーション実験で同定することができる。
これらの技術も、解析の前に核酸を増幅する工程を含む。増幅技術は当業者に周知であり、クローニング法、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法、特異的対立遺伝子のポリメラーゼ連鎖反応(ASA)法、リガーゼ連鎖反応(LCR)法、ネステッドポリメラーゼ連鎖反応法、自律的配列複製法(Guatelli,J.C.ら、1990,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87:1874−1878)、転写増幅系(Kwoh,D.Y.ら、1989,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86:1173−1177)、およびQ−βレプリカーゼ法(Lizardi,P.M.ら、1988,Bio/Technology 6:1197)。
サイズ分析法、制限酵素切断後のサイズ分析法、反応産物内の特異的標識オリゴヌクレオチドプライマー検出法、対立遺伝子特異的オリゴヌクレオチド(ASO)ハイブリダイゼーション法、対立遺伝子特異的5’エキソヌクレアーゼ検出法、シークエンシング法、ハイブリダイゼーション法など、さまざまな方法で、増幅産物をアッセイすることができる。
PCRによる検出手段は、複数のマーカーを同時に多重増幅することを含み得る。例えば、大きさが重ならならず、同時に解析することができるPCR産物を生成させるために、PCRプライマーを選択することが当技術分野においてよく知られている。あるいは、示差的に標識されているために、それぞれが区別をつけて検出されうるプライマーによって、さまざまなマーカーを増幅することが可能である。当然、ハイブリダイゼーションによる検出手段によって、サンプル中の多数のPCR産物を分別検出することができる。複数のマーカーを多重解析することが可能な、その他の方法が当技術分野において知られている。
単に説明的な実施形態において、本方法は、(i)患者から細胞のサンプルを集める工程、(ii)サンプルの細胞から核酸(例えば、ゲノム核酸、mRNA、またはその両方)を単離する工程、(iii)この核酸サンプルを、対立遺伝子のハイブリダイゼーションおよび増幅を生じさせる条件下で、IL−1プロ炎症性ハプロタイプの少なくとも1つの対立遺伝子に、5’および3’で特異的にハイブリダイズする1つ以上のプライマーと接触させる工程、および(iv)増幅産物を検出する工程を含む。これらの検出スキームは、核酸分子が極めて少数しか存在しない場合に、そのような分子を検出するために特に有用である。
被験体アッセイの好適な実施形態において、IL−1プロ炎症性ハプロタイプの対立遺伝子が、制限酵素の切断パターンの変化によって同定される。例えば、サンプル用および対照のDNAを単離し、(任意で)増幅し、1種類以上の制限エンドヌクレアーゼで分解して、断片長をゲル電気泳動法によって決定する。
さらに別の実施形態において、当技術分野において周知のさまざまなシークエンシング反応の任意のものを用いて、対立遺伝子を直接シークエンシングすることができる。シークエンシング反応の例には、MaximおよびGilbert((1977)Proc.Natl Acad Sci USA 74:560)もしくはSanger (Sangerら(1977)Proc.Nat.Acad.Sci USA 74:5463)によって開発された技術に基づいた反応が含まれる。また、被験体アッセイを行う場合、さまざまな自動シークエンシング法のいずれかを利用することも考えられ(例えば、Biotechniques(1995)19:448参照)、質量分析法によるシークエンシングなどがある(例えば、PCT公開番号:WO94/16101;Cohenら(1996)Adv Chromatogr 36:127−162;およびGriffinら(1993)Appl Biochem Biotechnol 38:147−159参照)。ある特定の実施形態にとっては、核酸塩基のわずか1つ、2つ、または3つが存在することをシークエンシング反応で決定する必要であることは当業者に明らかである。一例を挙げれば、例えば、1つの核酸だけが検出されるA−トラッキング(A−track)などを行うことができる。
さらなる実施形態において、切断剤(ヌクレアーゼ、ヒドロキシルアミン、または四酸化オスミウム、およびピペリジンと併用して)からの保護作用を用いて、RNA/RNAまたはRNA/DNAまたはDNA/DNAのヘテロ二本鎖内のミスマッチ塩基を検出することができる(Myersら(1985)Science 230:1242)。一般的に、「ミスマッチ切断」という、当技術分野の技術は、野生型対立遺伝子を含む(標識された)RNAまたはDNAをサンプルとハイブリダイズさせて形成させたヘテロ二本鎖を提供することによって開始する。この二本鎖を、対照鎖とサンプル鎖の間の塩基対合のミスマッチのせいで存在する、二重鎖の一本鎖領域を切断する薬剤で処理する。例えば、RNA/DNA二重鎖をRNA分解酵素で処理し、DNA/RNAハイブリッドをS1ヌクレアーゼで処理してミスマッチ領域を酵素的に分解することができる。別の実施形態において、ミスマッチ領域を分解するために、DNA/DNAまたはRNA/DNAの二重鎖をヒドロキシルアミンまたは四酸化オスミウムで処理し、かつピペリジンで処理することができる。次に、ミスマッチ領域を分解した後、得られた物質を変性ポリアクリルアミドゲル上でサイズによって分離して変異部位を決定する。例えば、Cottonら(1988)Proc.Natl Acad Sci USA 85:4397;およびSaleebaら(1992)Methods Enzymol.217:286−295参照。好適な実施形態において、対照用のDNAまたはRNAを検出のために標識することができる。
さらに別の実施形態において、ミスマッチ切断反応は、二本鎖DNA内のミスマッチ塩基対を認識する、1種類以上のタンパク質(いわゆる「DNAミスマッチ修復」酵素)を利用する。例えば、大腸菌のmutY酵素はG/AミスマッチのAを切断し、HeLa細胞由来のチミジンDNAグリコシラーゼはG/TミスマッチのTを切断する(Hsuら(1994)Carcinogenesis 15:1657−1662)。例示的実施形態に従って、IL−1遺伝子座ハプロタイプの対立遺伝子に基づいたプローブを、テスト細胞由来のcDNAまたはその他のDNA産物にハイブリダイズさせる。この二重鎖をDNAミスマッチ修復酵素で処理すると、切断産物があれば、電気泳動法プロトコルなどから検出することができる。例えば、米国特許第5,459,039号参照。
他の実施形態では、電気泳動移動度の変化を用いてIL−1遺伝子座の対立遺伝子を同定する。例えば、一本鎖DNA高次構造多型(SSCP)を用いて、変異型核酸と野生型核酸の電気泳動移動度の差異を検出することができる(Oritaら(1989)Proc Natl.Acad.Sci USA 86:2766参照、 また、Cotton(1993)Mutat Res 285:125−144;およびHayashi(1992)Genet Anal Tech Appl 9:73−79も参照)。サンプルおよび対照のIL−1遺伝子座対立遺伝子の一本鎖DNA断片を変性させてから復元させる。一本鎖核酸の二次構造は、配列によってさまざまであり、その結果、電気泳動移動性が変化し、一塩基の変化でも検出可能になる。DNA断片を標識し、標識プローブで検出することも可能である。(DNAではなく)RNAを用いてアッセイの感度を高めることもできるが、二次構造のほうが配列の変化により感受性が高い。好適な実施形態において、本発明は、電気泳動移動性の変化に基づいて、ヘテロ二重鎖解析法を用いて、二本鎖へテロ二重鎖分子を分離する(Keenら(1991)Trends Genet 7:5)。
さらに別の実施形態において、変性濃度勾配ゲル電気泳動法(DGGE)を用いて、変性剤の濃度勾配を含むポリアクリルアミドゲル中での対立遺伝子の移動を測定する(Myersら(1985)Nature 313:495)。解析法としてDGGEを用いる場合、例えば、PCR法によって約40bpの高融点のGCリッチなDNAからなるGCクランプを付加するなどして、DNAを修飾し、これが完全には変性しないことを確実にすべきである。さらなる実施形態において、変性剤勾配に代えて温度勾配を用い、対照DNAおよびサンプルDNAの移動度の違いを同定する(RosenbaumおよびReissner(1987)Biophys Chem 265:12753)。
対立遺伝子を検出するためのその他の方法の例には、選択的オリゴヌクレオチドハイブリダイゼーション法、選択的増幅法、または選択的プライマー伸長法などが含まれるが、これらに限定されない。例えば、(例えば、対立遺伝子バリアントにおける)既知の変異またはヌクレオチド差異が中央に位置するオリゴヌクレオチドプライマーを調製してから、完全なマッチが存在する場合にハイブリダイゼーションが可能な条件下で標的DNAにハイブリダイズさせることができる(Saildら(1986)Nature 324:163);Saikiら(1989)Proc.Natl Acad. Sci USA 86:6230)。このような対立遺伝子特異的オリゴヌクレオチドハイブリダイゼーション法を用いて、オリゴヌクレオチドをPCR増幅された標的DNAにハイブリダイズさせる場合には、1反応あたり1つの変異または多型領域を調べることができ、オリゴヌクレオチドをハイブリダイゼーション用の膜に付着させ、標識した標的DNAにハイブリダイズさせる場合には、いくつかの異なった変異または多型領域を調べることができる。
あるいは、選択的PCR増幅法に依存する対立遺伝子特異的増幅法を、本発明とともに用いることもできる。特異的増幅のためのプライマーとして用いるオリゴヌクレオチドは、目的とする変異または多型領域を、(増幅が示差的ハイブリダイゼーションによって行われるよう)分子の中心(Gibbsら(1989)Nucleic Acids Res.17:2437−2448)、または適当な条件下でミスマッチを防止できるか、ポリメラーゼによる伸長を低下させることができる場所である1つのプライマーの3’最末端部(Prossner(1993)Tibtech 11:238)に持っていてもよい。さらに、変異領域に新規の制限部位を導入して、切断を利用した検出を可能とすることが望ましくあり得る(Gaspariniら(1992)Mol.Cell Probes 6:1)。ある特定の実施形態において、増幅は、増幅用Taqリガーゼを用いても行うことができると予想される(Barany(1991)Proc.Natl.Acad.Sci USA 88:189)。そのような場合、5’側配列の3’末端に完全にマッチする場合にだけライゲーションが生じるので、増幅の有無を調べることによって特異的部位に既知の変異が存在することを検出できるようになる。
別の実施形態において、例えば、米国特許第4,998,617号、およびLandegren,U.ら((1988)Science 241:1077−1080)に記載されているように、オリゴヌクレオチドライゲーションアッセイ(OLA)法を用いて、対立遺伝子バリアントの同定を行う。OLAプロトコルは、標的の一本鎖の隣接配列とハイブリダイズできるように設計された2種類のオリゴヌクレオチドを用いる。一方のオリゴヌクレオチドは、例えば、ビオチニル化された分離用マーカーに結合しており、もう一方が検出用に標識されている。厳密に相補的な配列が標的分子内に存在していれば、オリゴヌクレオチドがハイブリダイズして、それらの末端が隣接し、ライゲーション基質を生じさせる。次いでライゲーションによって、アビジン、または別のビオチンリガンドを用いて、標識オリゴヌクレオチドを回収することが可能になる。Nickerson,D.A.らが、PCR法およびOLA法の性質を組み合わせた核酸検出アッセイ法を記載している(Nickerson,D.A.ら(1990)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87:8923−27)。この方法では、PCR法を用いて標的DNAの指数関数的増幅を行ない、それを、OLA法を用いて検出する。
このOLA法に基づいたいくつかの方法が開発され、これらを用いてIL−1遺伝子座ハプロタイプを検出することができる。例えば、米国特許第5,593,826号は、3’−アミノ基を有するオリゴヌクレオチド、および5’−リン酸化オリゴヌクレオチドを用いて、ホスホルアミデート結合を形成させるOLA法を開示している。Tobeら((1996)Nucleic Acids Res 24: 3728)に記載された、OLA法の別の変法では、PCR法と組み合わせたOLA法によって、単一のマイクロタイターウェルの中で2つの対立遺伝子をタイピングすることが可能となる。ユニークなハプテン、すなわちジゴキシゲニンおよびフルオレセインで、対立遺伝子特異的なプライマーをそれぞれ標識することによって、各OLA反応を、異なった酵素レポーター、アルカリホスファターゼまたは西洋ワサビペルオキシダーゼで標識されているハプテン特異的抗体を用いて検出することができる。このシステムでは、2つの相異なる発色をもたらす高処理フォーマットを用いて、2つの対立遺伝子を検出することが可能になる。
本発明の別の実施形態は、動脈閉塞に起因するか、または動脈硬化巣の形成に起因するか、または再狭窄の形成に起因する心血管障害を発症する素因を検出するためのキットに関する。本キットは、IL−1遺伝子座ハプロタイプの少なくとも1つの対立遺伝子に5’および3’をハイブリダイズさせる5’オリゴヌクレオチドおよび3’オリゴヌクレオチドなど、1つ以上のオリゴヌクレオチドを含むことができる。その後の解析に便利なサイズのPCR産物を生成させるためには、PCR増幅用オリゴヌクレオチドを、25〜2500塩基対離れて、好ましくは約10〜約500塩基対離れてハイブリダイズさせなければならない。
本発明の診断法において使用するための特に好適なプライマーには、配列番号:1〜10が含まれる。
本発明の方法によるIL−1多型対立遺伝子の増幅および検出で使用するための別のオリゴヌクレオチドの設計が、ヒトIL−1遺伝子座を含むヒト染色体2q13から得られた最新の配列情報、およびこの遺伝子座に関して利用できるヒト多型の最新情報の両方を利用できることにより促進される。このような配列情報、およびプライマー配列の設計および最適化に関する当技術分野において既知の標準的な方法を用いて、これらの遺伝子におけるヒト多型を検出するのに適したプライマーを容易に設計することができる。例えば、Primer2.1、Primer3またはGeneFisherなど市販のプライマー選択プログラムを用いて、そのようなプライマー配列を最適に達成することができる(Nicklin M.H.J.,Weith A.Duff G.W.,“A Physical Map of the Region Encompassing the Human Interleukin−1α,Interleukin−1β, and Interleukin−1 Receptor Antagonist Genes”Genomics 19:382(1995);Nothwang H.G.ら、“Molecular Cloning of the Interleukin−1 gene Cluster:Construction of an Integrated YAC/PAC Contig and a partial transcriptional Map in the Region of Chromosome 2q13”Genomics 41:370(1997);Clarkら(1986)Nucl.Acids.Res.,14:7897−7914[公表された正誤表が下記に記載されている:Nucleic Acids Res.,15:868(1987)、およびthe Genome Database(GDB)project at the URL http://www.gdb.orgも参照)。
キットで用いるためには、オリゴヌクレオチドは、合成オリゴヌクレオチド、制限酵素断片、cDNA、合成ペプチド核酸(PNA)など、さまざまな天然および/または合成の組成物のいずれであってもよい。また、アッセイ用キットおよびアッセイ法は、アッセイにおいて同定を容易にするために、標識オリゴヌクレオチドを用いてもよい。用いることができる標識の例には、放射性標識、酵素、蛍光化合物、ストレプトアビジン、アビジン、ビオヒン、磁性成分、金属結合部分、抗原、または抗体成分などが含まれる。
本キットは、任意で、DNAサンプリング手段も含むことが可能である。DNAサンプリング手段は当業者によく知られており、濾紙、AmpliCardTM(Sheffield大学、Sheffield,England S10 2JF;Tarlow,J W,ら、J.of Invest.Dermatol.103:387−389(1994))などの基質;NuleonTMキット、溶菌用緩衝剤、プロテイナーゼ溶液などのDNA精製試薬;10×反応緩衝液、耐熱性ポリメラーゼ、dNTPなどのPCR試薬;およびHinfI制限酵素、対立遺伝子特異的オリゴヌクレオチド、乾血由来のネステッドPCR用縮退オリゴヌクレオチドプライマーなどの対立遺伝子検出手段を含むことができるが、これらに限定されない。
4.3.3 薬理ゲノミクス
心血管障害の発症に対する感受性に関連する特定の対立遺伝子についての知識は、単独で、または心血管障害の一因となる他の遺伝子欠損についての情報とともに、「薬理ゲノミクス」の目標である、個体の遺伝子プロファイルに応じて予防および治療をカスタマイズすることを可能にする。
心血管疾患を予防および治療する一つの方法は、特定の疾患に関する危険因子の同定に関係する。
例えば、以下のマーカー:IL−1A+4845もしくはIL−1B(+3954)の対立遺伝子2、または以下のマーカー:IL−1B(−511)もしくはIL−1RN(+2018)の対立遺伝子1のいずれか、またはこれらの対立遺伝子のいずれかと連鎖不平衡にある任意の核酸配列を有する被験体は、動脈硬化巣の形成を特徴とする心血管障害に罹っているか、これを発症する素因をもつ可能性があり、心筋梗塞、脳卒中、急性末梢血管閉塞、および中型から大型の動脈における動脈瘤形成のリスク増大に対する素因をもつ可能性がある。これらの患者は、重症の成人性歯周炎を発症する素因ももつ。
心血管疾患を治療する別の方法は、組織の血行に影響を及ぼす心血管障害が存在することで、その標的組織に関連する臨床的な症状および兆候を生じさせないように、元となる障害の進行を妨げ、疾患の症状および兆候を軽減し、または標的となる組織を保護することに関する。
一例として、ある特定の薬剤がアテローム硬化性プラークに対して安定化作用を、または動脈硬化巣性疾患の後発症に対してその他の有益な効果を有する。例えば、β−アドレナリン作動性レセプター遮断薬が心筋梗塞の再発を減少させ、アンジオテンシン変換酵素インヒビターが心筋梗塞の発生率を低下させ、ある特定の抗生物質および抗酸化薬もプラークを安定させるのに効果が高いことが示されている。脂質を低下させる能力を有する薬剤、例えば、3−ヒドロキシ−3メチルグルタリル−補酵素Aレダクターゼ阻害剤(スタチン)なども重要である。本明細書に開示されたパターン1のIL−1遺伝子型の開示に基づけば、これらの患者は、血管再生またはその他の観血的技術ではなく、プラークの安定を目的とした治療薬に対して良好に反応する可能性がある。
細胞レベルでは、血清コレステロール値の低下が、アテローム硬化性プラーク内にある炎症細胞の減少をもたらす。分子レベルでは、脂質低下が、これらのプラークにおけるメタロプロテイナーゼ活性を低下させることが明らかになっている。
一つの実施形態において、遺伝子治療などの技術を用いて、不安定プラークを安定化させることができ、例えば、これには、マトリクスメタロプロテイナーゼの組織インヒビターを過剰発現させること、およびプロ炎症性分子を遮断するアンチセンス法などが含まれ得る。
一方、以下のマーカー:IL−1A+4845もしくはIL−1B(+3954)の対立遺伝子1、または以下のマーカー:IL−1B(−511)もしくはIL−1RN(+2018)の対立遺伝子2のいずれかを有する被験体は、血管再生などの特定の方法、または動脈内膜−内側肥厚の進行を変化させる方法に対して良好に反応する可能性がある。
心血管障害および疾患を管理するためのさらに別の方法は、心血管障害のリスクを増大させる条件を管理することを含む。
アテローム性硬化症の進行に関連した因子には、糖尿病、高血圧、高コレステロール血症、高リポタンパク質−a、肥満、および喫煙が含まれる。これらの中で、薬理学的介入に適した因子には:i)肥満、ii)高血圧、およびiii)異常脂質血症が含まれる。脂質低下剤の例には、以下のものが含まれる:コレスチラミン、コレスチポールなどアニオン交換樹脂;シンバスタチン、プラカスタチン(pracastatin)、セリバスタチン、フルバスタチン、アトルバスタチン、ロバスタチンなどのHMG−CoA還元酵素インヒビターまたは(スタチン);フェノフィブラート、ベンザフィブラート、ゲムフィブロジル、クロフィブラート、シプロフィブラートなどのフィブラート;ニコチン酸およびその類似体;アシピモックス、ニコフラノース;レセプター非介在性LDLクリアランスを増加させ、LDL酸化を低下させるプロブコール;マクセパ、オマコールなどの魚油;ならびにパマクエシド、チクエシドなどのコレステロール吸収阻害剤。
したがって、このような遺伝子型解析に基づいて、被験体における疾患の具体的な分子基盤に対処する治療薬を開発することができる。すなわち、心血管障害に関して、個体のIL−1プロファイルを集団のプロファイルと比較することによって、特定の患者または患者集団(すなわち、同一の遺伝子変化を有する患者の集団)に安全かつ効果的であると期待される薬剤または治療法を選択したり設計したりすることができる。
さらに、遺伝子プロファイルに基づいて、最も高い臨床的有用性を示すことが期待される集団を標的できることによって以下のことが可能になる:1)心血管障害の予防および治療にすでに販売されている薬剤のリポジショニング;2)患者サブグループに特異的な、安全性および有効性の制約のために、その臨床開発が中断されている薬剤候補の救済;ならびに3)治療候補薬開発の加速化および低廉化ならびに薬剤分類の最適化(例えば、血管障害原因性変異に対する、さまざまな薬用量の効果を測定することが有効量を最適化するのに有用であるため)。
タンパク質(例えば、IL−1α、IL−1β、およびIL−1Ra)、mRNA、および/または転写レベルを測定することによって、特定の治療薬による個体治療を観察することができる。検出されたレベルに応じて、治療法を維持するか(用量を増やしたり減らしたりして)調整することができる。好適な実施形態において、薬剤で被験体を治療する有効性は、以下の工程を含む:(i)その薬剤を投与する前に、被験体から投与前サンプルを採取する工程;(ii)投与前サンプル中のタンパク質、mRNA、もしくはゲノムDNAのレベルまたは量を検出する工程;(iii)被験体から1つ以上の投与後サンプルを採取する工程;(iv)投与後サンプルにおけるタンパク質、mRNA、もしくはゲノムDNAの発現または活性のレベルを検出する工程;(v)投与前サンプルにおけるタンパク質、mRNA、もしくはゲノムDNAの発現または活性のレベルを、投与後サンプルにおける対応するタンパク質、mRNA、もしくはゲノムDNAとそれぞれ比較する工程;および(vi)被験体へのその薬剤投与をそれ相応に変更する工程。
また、IL−1遺伝子以外の遺伝子の発現レベルを検出して、その治療薬が、有害なおそれがある遺伝子の発現を増加も減少もさせないことを確認するために、治療薬を投与する前後に、被験体の細胞を採取することも可能である。これは、例えば、転写をプロファイリングする方法を用いて行うことができる。すなわち、インビボで治療薬に曝露された細胞から採取したmRNA、および治療薬に曝露されなかった同型の細胞から採取したmRNAを逆転写し、多数の遺伝子のDNAを含んでいるチップにハイブリダイズさせることができ、それによって、その治療薬で処理された細胞および処理されていない細胞における遺伝子発現を比較することができる。
4.4 心血管障害および障害の治療薬
IL−1(例えば、IL−1α、IL−1β、またはIL−1レセプターアンタゴニスト)の調節因子、またはIL−1遺伝子と連鎖不平衡にある遺伝子によってコードされるタンパク質の調節因子は、タンパク質、ペプチド、ペプチド模倣体、低分子、または核酸など、任意のタイプの化合物を含むことができる。好適なアゴニストには、核酸(例えば、IL−1タンパク質、またはIL−1タンパク質によって上方制御または下方制御されるタンパク質をコードするもの)、タンパク質(例えば、IL−1タンパク質、またはそれによって上方制御または下方制御されるタンパク質)、または低分子(例えば、IL−1タンパク質の発現または結合を調節するもの)が含まれる。好適なアンタゴニストは、例えば、本明細書に記載されているアッセイ法によって同定することができるが、それらには、核酸(例えば、一本鎖(アンチセンス)または二本鎖(三重鎖)のDNAまたはPNA、およびリボザイム)、タンパク質(例えば、抗体)、およびIL−1の転写および/またはタンパク質活性を抑制または阻害するために作用する低分子が含まれる。
4.4.1 有効量
このような化合物の毒性および治療効果は、例えば、LD50(集団の50%にとって致死的である用量)およびED50(集団の50%において治療上有効な用量)を決定するための、細胞培養物または実験動物における標準的な薬学的方法によって測定することができる。毒性作用と治療効果の用量比が治療指数であり、これをLD50/ED50比として表すことができる。大きな治療指数を示す化合物が好ましい。毒性副作用を示す化合物を用いることもできるが、未感染の細胞への損害の可能性を最小にして副作用を軽減するように注意して、そのような化合物を患部組織部位に標的する送達系を設計すべきである。
ヒトに使用する用量域を処方するときに、細胞培養アッセイおよび動物実験から得られたデータを用いることができる。そのような化合物の投薬量は、好ましくは、毒性をほとんどか全く示さずにED50を含む血中濃度範囲内にある。投薬量は、用いられる剤形および利用される投与経路に応じて変えることができる。本発明の方法で用いられる任意の化合物について、その治療上の有効量は、まず細胞培養アッセイ法から見積もることができる。用量は、動物モデルにおいて、細胞培養で決定されたIC50(すなわち、症状の最大半量を阻止する試験化合物濃度)を含む循環血漿濃度域となるよう処方することができる。このような情報を用いて、ヒトにおいて有用な用量をより正確に決定することができる。血漿におけるレベルは、例えば、高速液体クロマトグラフィーによって測定することができる。
4.4.2 処方および用法
本発明に従って使用するための組成物を、1つ以上の生理学的に許容される担体または賦形剤を用いて常法どおりに処方することができる。すなわち、化合物およびその生理学的に許容される塩または溶媒和化合物を、例えば、注射、吸入(経口または経鼻)、または送気によって投与するため、または経口、口腔、非経口、または直腸に投与するために処方することができる。
このような治療法のために、本発明の化合物を、全身型および局所型または局在化型の投与など、さまざまな投与負荷用に処方することができる。技術および処方は、通常、Remmington’s Pharmaceutical Sciences,Meade Publishing Co.,Easton,Pa.に記載されている。全身投与するためには、筋肉内、静脈内、腹腔内、および皮下などへの注射が好ましい。注射するためには、本発明の化合物を、溶液に、好ましくはハンクス液またはリンゲル液などの生理学的に適合する緩衝液に処方することができる。さらに、これらの化合物を固形に処方して、使用直前に再溶解または懸濁することも可能である。凍結乾燥の形態も含まれる。
経口で投与するためには、組成物を、例えば、錠剤またはカプセル剤の形態にすることができ、結合剤(例えば、アルファ化トウモロコシデンプン、ポリビニルピロリドン、またはヒドロキシプロピル・メチルセルロース);充填剤(例えば、乳糖、微結晶性セルロース、またはリン酸水素カルシウム);潤滑剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム、タルク、またはシリカ);崩壊剤(例えば、ジャガイモデンプンまたはグリコール酸ナトリウムデンプン);または湿潤剤(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム)など、薬学的に許容される賦形剤を用いて常法によって調製することができる。錠剤は、当技術分野で周知の方法によってコーティングすることができる。経口投与用の液体医薬品は、例えば、液剤、シロップ剤、または懸濁剤の形態にすることができ、または、それらを、使用前に水またはその他の溶媒を用いて構成する乾燥製品として提供してもよい。このような液体医薬品は、懸濁剤(例えば、ソルビトールシロップ、セルロース誘導体、または硬化食用油脂);乳化剤(例えば、レシチンまたはアカシア);非水性媒体(例えば、アチオンド油、油性エステル、エチルアルコール、または分別植物油);および保存剤(例えば、p−ヒドロキシ安息香酸メチル、p−ヒドロキシ安息香酸プロピル、またはソルビン酸)など、薬学的に許容される添加剤を用いて常法によって調製することができる。また、この医薬品は、必要に応じて、緩衝塩、香味添加剤、着色剤、および甘味剤を含むことができる。
経口投与用医薬品を適切に処方して、活性化合物を制御放出させることも可能である。口腔投与するために、組成物を、常法どおりに処方した錠剤またはトローチ剤の形態にすることができる。吸入による投与を行うためには、本発明に従って用いられる化合物を、適当な噴霧剤、例えば、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、二酸化炭素またはその他の適当なガスを用いて、加圧容器または噴霧器からエアゾールスプレーとなる形で適宜送達する。加圧エアゾルの場合、計量された量を送達するためのバルブを備えることによって、用量単位を決定することができる。吸入器あるいは送気器に用いられる、例えば、ゼラチン製のカプセルおよびカートリッジは、本化合物と、例えば、乳糖またはデンプンなど、適当な粉末基剤との混合粉末を含むよう処方することができる。
本化合物は、例えば、ボーラス注射または持続注入法などの注入によって非経口投与するために処方することができる。注入用医薬品は、添加保存剤とともに単位投薬形態、例えば、アンプルにして、または多回用量容器で提供することができる。組成物は、油性または水性の溶媒中の懸濁剤、液剤、またはエマルジョンのような形態にすることができ、懸濁剤、安定化剤、および/または分散剤を含んでもよい。あるいは、活性成分を、使用前に適当な溶媒、例えば、発熱物質を含まない滅菌水で構築するための粉末の形態にすることも可能である。
また、本化合物は、例えば、ココアバターまたはその他のグリセリドのような従来型の座薬基剤を含む座薬または停留浣腸などの直腸投与用組成物に処方することができる。
上記の剤形以外に、化合物をデポー医薬品としても処方することができる。このように効能が非常に長時間持続する医薬品は、(例えば、皮下または筋肉内への)埋め込みによって、または筋肉注射によって投与することもできる。このように、例えば、化合物を、適当なポリマー物質または疎水性物質(例えば、許容可能な油中のエマルジョンとして)、またはイオン交換樹脂を用いて、あるいは難溶性誘導体として、例えば、難溶性塩として処方することが可能である。その他適当な送達系には、長期間にわたり薬剤を非観血的に局所伝達することができる微粒子が含まれる。この技術は、炎症や虚血を引き起こさずに心臓やその他の器官の選択された任意の部分に冠動脈カテーテルを介して注入することができる、前毛細血管の大きさの微粒子を利用する。投与された治療薬は、これらの微粒子からゆっくり放出され、周囲の組織細胞(例えば、内皮細胞)によって吸収される。
全身投与も、経粘膜的または経皮的な手段によって行うことができる。経粘膜的または経皮的に投与するためには、透過される障壁に適した浸透剤を医薬品中で用いる。そのような浸透剤は当技術分野において一般に知られており、それらには、例えば、経粘膜投与するための、胆汁酸塩、およびフシジン酸誘導体が含まれる。さらに、界面活性剤を用いて浸透を促進してもよい。経粘膜投与は、鼻内スプレーによることが可能であり、座薬を用いてもよい。局所投与するためには、本発明のオリゴマーを、当技術分野周知の軟膏、膏薬、ゲル剤、またはクリーム剤に処方することができる。外傷または炎症を治療するために洗浄溶液を局所的に用いて治癒を加速させることができる。
組成物は、所望であれば、活性成分を含んだ1つ以上の単位剤形を含むことができるパックまたはディスペンサーで提供することが可能である。パックには、ブリスターパックのように、例えば、金属箔または樹脂箔を含むことができる。パックまたはディスペンサーには、投与指示書を添付することができる。
4.5 心血管障害および疾患の治療薬を同定するためのアッセイ法
血管障害の発生を引き起こすか、またはその一因となる変異を同定したことに基づいて、本発明はさらに、例えば、血管障害の治療薬を同定するために、細胞を利用するアッセイ法、または無細胞アッセイ法を特徴とする。一つの実施形態において、細胞膜の外表面上で、IL−1レセプター、またはIL−1遺伝子と連鎖不平衡にある遺伝子によってコードされるタンパク質のレセプターを発現する細胞を、試験化合物だけが存在するか、または試験化合物と別のタンパク質が存在する中でインキュベートし、例えば、マイクロフィジオメーターを用いて、試験化合物とレセプターの間、またはタンパク質(好ましくは、タグ付きタンパク質)とレセプターの間の相互作用を検出する(McConnellら(1992)Science 257:1906)。レセプターと試験化合物またはタンパク質との相互作用は、フィジオメーターによって、培地の酸性化の変化として検出される。したがって、このアッセイ系は、例えば、タンパク質−レセプター相互作用を妨げることによって機能する分子アンタゴニスト、また、レセプターを活性化させることによって機能する分子アゴニストを同定する手段を提供する。
また、細胞アッセイ法または無細胞アッセイ法を用いて、IL−1遺伝子またはこれと連鎖不平衡にある遺伝子の発現を調節する化合物、mRNA翻訳を調節する化合物、またはmRNAもしくはタンパク質の安定性を調節する化合物を同定することもできる。したがって、一つの実施形態において、IL−1、またはその他のタンパク質を産生する能力のある細胞を、試験化合物とともにインキュベートし、細胞培地中で産生されたタンパク質の量を測定して、試験化合物と接触していない細胞から産生されたものと比較する。例えば、1つ以上の対照遺伝子の発現を測定するなど、さまざまな対照解析によって、タンパク質に対する化合物の特異性を確認することができる。特に、本アッセイ法を用いて、アンチセンス化合物、リボザイム化合物、および三重鎖化合物を測定することができる。
また、無細胞アッセイ法を用いて、タンパク質と相互作用して、このタンパク質の活性を変更することができる化合物を同定することができる。このような化合物は、例えば、タンパク質の構造を改変して、それがレセプターに結合できるようにすることができる。好適な実施形態において、そのような化合物を同定するための無細胞アッセイ法は、本質的には、結合パートナーの有無に関わらず、タンパク質と、試験化合物または試験化合物のライブラリーとを含む反応混合物からなる。試験化合物は、例えば、結合パートナーの誘導体、例えば、生物学的に不活性な標的ペプチド、または低分子であってもよい。
したがって、本発明のスクリーニングアッセイ法の一つの例は、タンパク質またはその機能性断片を、試験化合物または試験化合物のライブラリーと接触させる工程、および複合体の形成を検出する工程が含まれる。検出を行うためには、分子を特異的マーカーで、また試験化合物または試験化合物のライブラリーを別のマーカーで標識することができる。そして、インキュベーション工程および洗浄工程の後に、これら2つの標識のレベルを測定することによって、試験化合物とタンパク質またはその断片との相互作用を検出することができる。洗浄工程の後に2つの標識が存在すれば、相互作用があったことを示している。
また、光学現象である表面プラズモン共鳴(SPR)を検出するリアルタイムBIA(生体分子相互作用解析法、Pharmacia Biosensor AB)を用いて、分子同士の相互作用も同定することもできる。検出は、生体分子特異的な界面における高分子の質量変化によるもので、相互作用物の標識化を必要としない。一つの実施形態において、試験化合物のライブラリーを、例えば、マイクロフローセルの一壁を形成するセンサー表面上に固定することができる。そして、タンパク質またはその機能性断片を含む溶液をセンサー表面上に流し続ける。シグナル記録上に示される共鳴角の変化が、相互作用が生じたことを示す。この方法は、例えば、BIAtechnology Handbook by Pharmaciaでさらに説明されている。
本発明のスクリーニングアッセイ法の別の例は、以下の工程を含む:(a)以下のものを含む反応混合物を作成する工程:(i)IL−1、または別のタンパク質、(ii)適当なレセプター、および(iii)試験化合物;ならびに(b)タンパク質とレセプターの相互作用を検出する工程。試験化合物不存在下での相互作用と比較して、試験化合物の存在下でのタンパク質とレセプターの相互作用が統計学的に有意に変化(増強または抑制)すれば、アンタゴニスト(インヒビター)の存在が示される。このアッセイ法の化合物は、同時に接触させることができる。あるいは、まず、タンパク質を適当な時間、試験化合物と接触させ、その後、レセプターを反応混合物に加える。試験化合物のさまざまな濃度を用いて得られたデータから用量反応曲線を作ることによって、この化合物の効能を評価することができる。さらに、対照アッセイを行って比較のためのベースラインを提供することもできる。
タンパク質およびレセプターの間での複合体形成は、さまざまな手法で検出することができる。複合体形成の調節は、例えば、放射性標識タンパク質、蛍光標識タンパク質、または酵素標識タンパク質など、検出用に標識されたタンパク質を用いて、免疫測定法によるか、またはクロマトグラフ的検出法によって定量化することができる。
一般的には、タンパク質またはレセプターを固定化して、複合体を形成していない一方または両方のタンパク質から複合体の分離を容易にすること、およびアッセイ法の自動化を提供することも望ましいであろう。タンパク質とレセプターの結合は、反応物を入れるに適した任意の容器内で行うことができる。この例には、マイクロタイタープレート、試験管、および微小遠心管が含まれる。一つの実施形態において、タンパク質を基質に結合させるドメインを付加する融合タンパク質を提供することができる。例えば、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ融合タンパク質を、グルタチオンセファロースビーズ(Sigma Chemical,St.Louis,Mo.)上またはグルタチオン誘導体マイクロタイタープレート上に吸着させることができ、次いで、これらをレセプター、例えば、35S−標識レセプター、および試験化合物と混合してから、複合体形成に資する条件下、例えば、生理学的な塩およびpHの条件下で、この混合物をインキュベートするが、ただし、ややストリンジェントな条件のほうが望ましくあり得る。インキュベーション後、ビーズを洗浄して非結合標識を除去し、基質を固定して放射標識を直接に(例えば、シンチラントに置かれたビーズ)測定するか、または複合体を引き続き解離させた後、上清中で測定する。あるいは、複合体を基質から解離させ、SDS−PAGE法によって分離し、ビーズ画分内に存在するタンパク質およびレセプターの量を、添付の実施例に記載されているような標準的な電気泳動法を用いてゲルから定量化することができる。基質上にタンパク質を固定化するための別の技術も、本発明のアッセイに使用することができる。例えば、ビオチンとストレプトアビジンの結合を利用して、タンパク質またはレセプターを固定化することができる。また、トランスジェニック動物を作製して、アゴニストおよびアンタゴニストを同定したり、治療候補薬の安全性および効能を確認したりすることもできる。本発明のトランスジェニック動物には、適当な内在性プロモーターの制御下、または異種性プロモーターの制御下にある心血管障害原因性変異を含む非ヒト動物などがありうる。
また、トランスジェニック動物は、適当なプロモーターまたはその断片の制御下に導入遺伝子、例えば、レポーター遺伝子を含んでいる動物であってもよい。これらの動物は、例えば、遺伝子発現を調節して、例えば、IL−1タンパク質の産生を調節する薬剤を同定するのに有用である。非ヒトトランスジェニック動物を得る方法は当技術分野においてよく知られている。好適な実施形態において、心血管障害原因性変異の発現は、例えば、望ましいパターンで発現を制御するcis−作用配列を利用して、特定のサブセットの細胞、組織、または発生段階に限定される。本発明では、タンパク質のこのようなモザイク発現は、多様な系統解析に必須である場合もあり、例えば、それ以外では正常な胚の内部にある組織の小パッチにおける発達を全体的に変更する可能性のある発現レベルの影響を評価する手段をさらに提供することができる。このような目的で、組織特異的な調節配列および条件的調節配列を用いて、変異の発現を一定の分布様式に制御することができる。さらに、例えば、条件的組換え系または原核生物の転写調節配列によって、時間的発現パターンを提供することができる。インビボでの部位特異的な遺伝子操作技術によって、変異の発現を可能にする遺伝子技術は当業者に既知である。
本発明のトランスジェニック動物はすべて、それらの複数の細胞の内部に、本発明に係る心血管障害原因性変異導入遺伝子を含み、この導入遺伝子は「宿主細胞」の表現型を変更する。説明的実施形態において、バクテリオファージP1のcre/loxPリコンビナーゼ系(Laksoら(1992)PNAS 89:6232−6236;Orbanら(1992)PNAS 89:6861−6865)、または出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)のFLPリコンビナーゼ系(O’Gormanら(1991)Science 251:1351−1355;PCT公開公報番号:WO92/15694)のいずれかを用いて、インビボにおける部位特異的遺伝子組み換え系を作出することができる。Creリコンビナーゼは、loxP配列の間にある部位特異的な介在標的配列の組み換えを触媒する。loxP配列は、Creリコンビナーゼが結合する、34塩基対のヌクレオチド反復配列であって、Creリコンビナーゼ介在型遺伝子組み換えに必要である。Creリコンビナーゼが存在する場合、loxP配列の配向性によって、介在標的配列が切り出されるか反転するかが決まり(Abremskiら(1984)J.Biol.Chem.259:1509−1514);loxPが直接反復配列として配向されている場合には、標的配列の切り出しを触媒し、loxp配列が逆方向配列として配向されている場合には、標的配列の反転を触媒する。
したがって、標的配列の遺伝子組み換えは、Creリコンビナーゼの発現に依存している。リコンビナーゼの発現は、調節制御を受けるプロモーター要素、例えば、組織特異的なプロモーター要素、発生段階特異的なプロモーター要素、外部から加えられた因子によって誘導または抑制されるプロモーター要素によって調節することができる。この調節制御の結果、標的配列の遺伝子組み換えは、リコンビナーゼの発現がプロモーター要素によって媒介されている細胞内でのみ生じる。このように、原因変異導入遺伝子の発現の活性化は、リコンビナーゼ発現の調節を介して制御することができる。
cre/loxPリコンビナーゼ系を用いて原因変異導入遺伝子の発現を調節するには、Creリコンビナーゼおよび主題のタンパク質をコードする導入遺伝子を含むトランスジェニック動物を作製することが必要である。「二重」トランスジェニックの作製することによって、Creリコンビナーゼおよび心血管障害原因変異導入遺伝子を含む動物を提供することができる。このような動物を提供するために便利な方法は、それぞれが導入遺伝子をもつ2頭のトランスジェニック動物を交配することである。
導入遺伝子の発現を促進するためには、原核生物のタンパク質が同時に発現されてことを必要とする原核細胞プロモーター配列を用いて、同じような条件導入遺伝子を提供することができる。プロモーター、および対応するトランス活性化原核生物タンパク質は、米国特許第4,833,080号に記載されている。
さらに、条件導入遺伝子は、トランス活性化タンパク質、例えば、リコンビナーゼまたは原核細胞タンパク質をコードする遺伝子を組織に送達して、例えば、細胞型特異的に発現させる遺伝子療法類似法によって発現させることができる。この方法であれば、トランス活性化因子の導入によって「スイッチが入る」まで導入遺伝子は無発現のまま、成人期に至ることが可能であろう。
例示的な実施形態において、非ヒト動物の生殖系列に導入遺伝子を導入して、本発明の「トランスジェニック非ヒト動物」を作製する。さまざまな発生段階にある胚性標的細胞を用いて導入遺伝子を導入することができる。胚性標的細胞の発生段階に応じて、さまざまな方法が用いられる。本発明を実施するために用いられる任意の動物の具体的な系列は、全般的に良好な健康状態、十分な胚産生量、胚における前核の良好な可視性、および良好な生殖適応性について選択される。加えて、ハプロタイプが重要な因子である。例えば、トランスジェニックマウスを作製しようとする場合、C57BL/6株またはFVB株などの系統がよく用いられる(Jackson Laboratory,Bar Harbor,Me.)。好適な系統は、C57BL/6またはDBA/1など、H−2b、H−2d、またはH−2qを有する系統である。本発明を実施するために用いられる系統は、それ自体がトランスジェニック系統であってもよく、および/またはノックアウト系統であってもよい(すなわち、1個以上の遺伝子が部分的または完全に抑制されている動物から得られる)。
一つの実施形態において、導入遺伝子構築物を一細胞期の胚に導入する。マイクロインジェクション法にとっては接合体が最良の標的である。マウスでは、雄性前核は直径約20マイクロメーターの大きさになり、1〜2plのDNA溶液を再現可能に注入できる。遺伝子移入のための標的として接合体を用いることには、ほとんどの場合、第一卵割の前に、注入されたDNAが宿主DNAに組み込まれるという点に主な利点がある(Brinsterら(1985)PNAS 82:4438−4442)。その結果、トランスジェニック動物のすべての細胞が、組み込まれた遺伝子を担持することになる。また、このことは、生殖細胞の50%が導入遺伝子を保持するため、通常、創始動物の子孫に導入遺伝子が効率的に伝達されることにも反映されよう。
通常、前核が出現するまで、適当な培地内で受精胚をインキュベートする。ほぼこの時期に、導入遺伝子を含むヌクレオチド配列を、下記のように雌性前核または雄性前核に導入する。マウスなど、いくつかの種では、雄性前核が好ましい。外来性の遺伝物質は、卵核または接合体の雌性前核による処理を受ける前に、接合体の雄性DNA相補配列(complement)に付加するのが最も好ましい。卵核または雌性前核は、おそらく雄DNAのプロタミンをヒストンに置換することによって、雄性DNA相補配列に影響を及ぼす分子を放出し、それによって、雌性DNA相補配列と雄性DNA相補配列の結合を促進して2倍体接合体を形成すると考えられる。したがって、外来性の遺伝物質は、雌性前核によって影響を受ける前に、雄性DNA相補配列またはその他任意のDNA相補配列に付加することが好ましい。例えば、雄性前核の形成後速やかに、外来遺伝物質を早期雄性前核に付加するが、この時、雄性前核および雌性前核が十分分離されていて、どちらも細胞膜の近くに位置している。あるいは、脱凝縮を受けるよう誘導された後の精子の核に、外来性遺伝物質を付加し得る。こうすると、外来遺伝物質含む精子を卵子に付加することができ、または、脱凝縮した精子を、その後速やかに付加された導入遺伝子構築物とともに、卵子に付加することができる。
胚への導入遺伝子のヌクレオチド配列の導入は、例えば、マイクロインジェクション、電気泳動、またはリポフェクションなど、当技術分野で周知の任意の手段によって行うことができる。導入遺伝子ヌクレオチド配列を胚に導入した後、胚をさまざまな時間インビトロでインキュベートすることができ、または、代理宿主に再移植してもよく、または、その両方を行ってもよい。成熟するまでインビトロでインキュベートすることは、本発明の範囲内にある。一つの一般的な方法は、種に応じて、約1〜7日間インビトロで胚をインキュベートしてから、それらを代理宿主に再移植することである。
本発明の目的にとって、接合子とは、本質的に、完全な生物に発達することができる2倍体細胞の構造である。一般的に、接合子は、1個または複数の配偶子に由来する2個の半数体核の融合によって自然または人工的に形成された核を含む卵子で構成されている。すなわち、配偶子の核は、本来適合性があるもの、すなわち、分化を受けて、機能的な生物に発達することができる生存力のある接合子になるものでなければならない。一般的に、正倍数体の接合子が好ましい。異数性の接合子が得られた場合には、その染色体数は、どちらかの配偶子が由来する生物の正倍数体数に対して1個より多い違いがあってはならない。
同様の生物学的な考慮に加えて、物理学的な考慮によっても、接合子の核に加えることができるか、または接合子核の一部を形成する遺伝子材料に加えることができる外来遺伝子物質の量(例えば、容量)が決まる。遺伝子材料が除かれていない場合には、加えることができる外来遺伝物質の量は、物理的に破壊することなく取り込まれる量に制限される。一般的に、挿入される外来遺伝物質の容量は、約10ピコリットル以下である。付加による物理的効果は、接合子の生存力を物理的に破壊するほど大きいものであってはならない。DNA配列の数と変異の生物学的限界は、具体的な接合子、および外来遺伝物質の機能によってさまざまであるが、当業者には容易に分かる。なぜなら、外来性の遺伝物質など、得られた接合子の遺伝物質は、生物学的に、その接合子が機能的な生物に分化および発達するのを開始および維持することができなければならないからである。
接合子に付加される導入遺伝子構築物のコピー数は、付加される外来遺伝物質の総量に応じて決まり、遺伝的形質転換を生じさせることができる量であろう。理論的には、たった1コピー必要なだけであるが、通常は、1コピーを機能させるために、例えば1,000〜2,000コピーの導入遺伝子構築物など、多数のコピーが使用される。本発明では、外来DNA配列の表現型への発現を促進するためには、挿入された各外来DNA配列の機能的なコピーを1個以上もつ利点がしばしばあるはずである。
細胞、核膜、またはその他既存の細胞組織や遺伝的構造に対して破壊的でない限り、核の遺伝物質の中に外来遺伝物質を付加することを可能にする任意の技術を利用することができる。外来性の遺伝物質は、好適には、マイクロインジェクションによって核の遺伝物質に挿入する。細胞および細胞組織のマイクロインジェクションは当技術分野において既知であって利用されている。
再移植は標準的な方法を用いて行われる。通常は、代理宿主を麻酔下におき、卵管に胚を挿入する。具体的な宿主に移植される胚の数は種ごとに異なるが、通常は、種が自然に産む子孫の数と同程度である。
任意の適当な方法によって、導入遺伝子の存在および/または発現について、代理宿主のトランスジェニック後代をスクリーニングすることができる。スクリーニングは、導入遺伝子の少なくとも一部と相補的なプローブを用いて、しばしば、サザンブロット解析法またはノーザンブロット解析法によって行われる。タンパク質に対する抗体を用いるウエスタンブロット解析法を、導入遺伝子産物の存在をスクリーニングするための代替法または別法として利用することができる。一般的には、尾組織からDNAを調製し、導入遺伝子について、サザンブロット法またはPCR法で解析する。あるいは、サザン解析法またはPCR法を用いて、最高レベルで導入遺伝子を発現すると考えられる組織または細胞を導入遺伝子の存在および発現について検査するが、この解析には任意の組織または細胞型を用いることもできる。
導入遺伝子の存在を評価するための代替法または別法には、酵素アッセイ法および/または免疫アッセイ法など、適当な生化学的アッセイ法、特定のマーカーまたは酵素の活性についての組織染色法、フローサイトメトリー解析法などが含まれるが、これらに限定されない。また、血液の分析は、血液中で導入遺伝子産物の存在を検出するのにも、また、さまざまな型の血液細胞およびその他の血液成分の量に対する導入遺伝子の作用を評価するためにも有用であろう。
トランスジェニック動物の後代は、トランスジェニック動物を適当なパートナーと交配させるか、またはトランスジェニック動物から採取した卵子および/または精子をインビトロで受精させて得ることができる。パートナーとの交配を行う場合、パートナーは、トランスジェニックであるかノックアウトであるかを問わないが、トランスジェニックである場合、同一または異なった導入遺伝子、またはその両方を含んでもよい。あるいは、パートナーは親系列であってもよい。インビトロでの受精を用いる場合、受精胚を代理宿主に移植するか、インビトロでインキュベートするか、あるいはその両方を行うことができる。いずれの方法を用いても、上記の方法、またはその他の適当な方法を用いて、導入遺伝子の存在について子孫を評価することができる。
本発明に従って作製されたトランスジェニック動物は、外来性の遺伝物質を含む。さらに、そのような実施形態において、配列は、転写調節因子、例えば、プロモーターに結合され、好ましくは、特定の型の細胞内で導入遺伝子を発現させる。
レトロウイルス感染を用いても、導入遺伝子を非ヒト動物に導入することができる。発生中の非ヒト胚を、杯盤胞段階までインビトロで培養することができる。この過程では、割球をレトロウイルス感染の標的とすることができる(Jaenich,R.(1976)PNAS 73:1260−1264)。酵素処理によって透明帯を除去して、割球を効率的に感染させる(Manipulating the Mouse Embryo,Hogan eds.(Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,1986)。導入遺伝子を導入するために用いられるウイルスベクター系は、一般的には、導入遺伝子を担持した複製欠損レトロウイルスである(Jahnerら(1985)PNAS 82:6927−6931;Van der Puttenら(1985)PNAS 82:6148−6152)。ウイルス産生細胞の単層上で割球を培養することによって、トランスフェクションを容易かつ効率的に行う(Van der Putten、上掲;Stewartら(1987)EMBO J.6:383−388)。あるいは、後の段階で感染させることができる。ウイルスまたはウイルス産生細胞を胞胚腔に注入することができる(Jahnerら(1982)Nature 298:623−628)。非ヒトトランスジェニック動物を形成した細胞のサブセットだけで取り込みが起きるため、創始動物の大部分は導入遺伝子についてモザイクであろう。さらに、創始動物は、ゲノム内のさまざまな位置に、導入遺伝子のさまざまなレトロウイルス挿入配列を含むことがあり、それらは、一般的に後代で分離する。さらに、妊娠中期胚の子宮内でのレトロウイルス感染によって、導入遺伝子を生殖系列に導入することも可能である(Jahnerら(1982)上掲)。
導入遺伝子を導入するための第3の型の標的細胞は胚性幹(ES)細胞である。ES細胞を、インビトロで培養された未移植胚から得て胚と融合させる(Evansら(1981)Nature 292:154−156;Bradleyら(1984)Nature 309:255−258;Gosslerら(1986)PNAS 83:9065−9069;およびRobertsonら(1986)Nature 322:445448)。DNAトランスフェクション法、またはレトロウイルス介在型遺伝子導入法によって、導入遺伝子をES細胞に効率的に導入することができる。その後、このような形質転換ES細胞を非ヒト動物由来の杯盤胞と混合することができる。その後、ES細胞は胚でコロニーを形成し、得られたキメラ動物の生殖系列の元となることができる。概説については、Jaenisch,R.(1988)Science 240:1468−1474参照。
本発明は、以下の実施例によってさらに具体的に説明されるが、実施例は、いかなる意味においても制限的であると解されるべきではない。すべての引用文献(本出願全体で引用されている参考文献、発行済み特許、公開特許出願を含む)の内容は、参照されて本明細書に明示的に組み込まれる。本発明の実施には、別段の記載がない限り、当技術分野の技術の範囲内にある従来の技術が用いられる。そのような技術は、文献中に十分に記載されている。例えば、Molecular Cloning A Laboratory Manual,(2nd ed.,Sambrook, Fritsch and Maniatis,eds.,Cold Spring Harbor Laboratory Press:1989);DNA Cloning,Volumes I and II(D.N.Glover ed.,1985);Oligonucleotide Synthesis(M.J.Gait ed.,1984);米国特許第4,683,195号;米国特許第4,683,202号;およびNucleic Acid Hybridization(B.D.Hames & S.J.Higgins eds.,1984)参照。
実施例1:一枝性冠動脈疾患マーカー
この研究の目的は、初期のアテローム性冠動脈硬化、すなわち、一枝性冠動脈疾患の患者のほうが以下の遺伝子内に特定の対立遺伝子を有している可能性が高いかどうかを判定することであった:IL−1A(−889マーカー)、IL−1B(−511および+3954マーカー)、IL−1RN(VNTRマーカー)、またはTNFα(−308マーカー)。多枝疾患は、一般的に、データの解釈を複雑にすることがある多数の因子を含む可能性がある、この疾患の後期を代表するものである。したがって、胸痛を訴える患者を心臓病専門医に調べてもらい、1つより多い冠動脈に有意なアテローム性動脈硬化があるという血管造影法による証拠がある患者を解析から除外した。
患者コホート:大腿動脈または上腕動脈の血管造影を従来の方法を使用して行った。検査された患者のうち85人は血管造影による明確な管腔の異常が見られず、これらを血管造影的には正常な冠動脈を持つ対照として分類した。目視検査により、3つの心外膜冠状血管の1つが管腔の直径を減少させる心外膜狭窄を含んでいる場合、患者を一枝疾患に罹っているものとして分類した。患者58名は、一枝性冠動脈疾患に罹っていることが分かった。多枝性疾患の患者を除外した。対照集団および一枝疾患集団はほぼ同じ平均年齢で;それぞれ、57.6±10.4歳および56.4±9.4歳であった。対照集団の男女比は1:1.7、罹患集団では2.6:1であった。
一般的な方法:核酸技術に関わる反応および操作は、別段の記載がない限り、Sambrookら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989)に一般的に記載された通りに行った。ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法をPCR Protocols:A Guide to Methods and Applications,Academic Press,San Diego,Calif.(1990)に一般的に記載されている通りに行った。遺伝子型判定法は、米国特許第4,666,828号;米国特許第4,683,202号;米国特許第4,801,531号;米国特許第5,192,659号;および米国特許第5,272,057号ならびにMcDowellら、Arthritis & Rheumatism,38(2):221−8(1995)に記載されたものであった。
DNA調製:DNAは、塩析法の変法を用いて全血から抽出した(NucleonTM II,Scotlab,UK)。
IL−1RNの遺伝子型判定:IL−1RNに関連した対立遺伝子は、既にTarlowら、Human Genetics, 91:403−4 (1993). Enzymes used in PCR were from Promega(UK)に記載されている。PCR法で用いた酵素はPromega(UK)から購入、サーモサイクラーはMJ Research DNA EngineまたはBiometraから購入した。以下のプライマーをDNA合成装置で作成した:
PCR増幅は、マグネシウム最終濃度1.75mM、および96℃にて1分間を1サイクル;[94℃にて1分間、60℃にて1分間、および70℃にて1分間]を30サイクル;さらに70℃にて2分間を1サイクルというサイクリングプロトコルで行った。PCRの後、さまざまな対立遺伝子を、臭化エチジウムで染色された2%アガロースゲルの上で電気泳動し、UV光下で可視化および同定した。各実験では、DNAを用いない陰性対照を行った。
IL−1RN遺伝子の第2イントロンは、以下の5つの対立遺伝子を生じる可変数タンデム反復(VNTR)領域を含む。
対立遺伝子1は4つの反復を含み412bpのPCR産物を表示する;
対立遺伝子2は2つの反復を含み240bpのPCR産物を表示する;
第3対立遺伝子は3つの反復を含み326bpのPCR産物を表示する;
第4対立遺伝子は5つの反復を含み498bpのPCR産物を表示する;かつ
第5対立遺伝子は6つの反復を含み584bpのPCR産物を表示する。
IL−1B(−511)の遺伝子型判定
IL−1Bの−511マーカーはdiGiovine,Hum.Molec. Genet.,1(6):450(1992)に記載されていた。IL−1Bの−511塩基における一塩基可変(C/T)マーカーは、対立遺伝子1(C)上のAvaI部位、および対立遺伝子2(T)上のBsu36I部位に基づいて同定された。PCRは95℃にて2分間を1サイクル、[95℃にて1分間、53℃にて1分間、および74℃にて1分間]を35サイクル、さらに74℃にて4分間を1サイクルで行われた。PCR産物の解析は、36℃にて8時間AvaIおよびBsu36Iによる制限酵素消化、その後8%PAGEでサイズ分析によるものであった。ABI DNA合成装置によって、以下のプライマーを作成した(Clarkら、Nucl.Acids.Res.,14:7897−7914(1986)[正誤表がNucleic Acids Res.,15(2):868(1987)に掲載されている];GENBANK X04500:
結果:対照患者と罹患患者の間に、IL−1A(−889マーカー)、IL−1B(+3954マーカー)、またはTNFα(−308マーカー)の遺伝子の異なった対立遺伝子の頻度の有意な差異は見られなかった。しかし、IL−1RN遺伝子のVNTRマーカーの対立遺伝子2が、対照患者では22%なのに対し、一枝疾患の患者においては41%と有意に大きな比率を占めた。対立遺伝子2を少なくとも1コピー有する個体が一枝性冠動脈疾患に罹っている可能性は、対立遺伝子2に対して陰性である個体より2.44倍高いと推定される(オッズ比=2.44、p=0.003、95%信頼区間=1.35−4.43)。
さらに、2コピーを持った個体、すなわちIL−1RNの対立遺伝子2についてホモ接合であった個体が一枝性冠動脈疾患に罹っている可能性は、対立遺伝子2について陰性である人より5.36倍高かった(オッズ比=5.36、p=0.005、95%信頼区間=1.6−17.97)。
IL−1B遺伝子内の−511マーカーの対立遺伝子2の1コピーの保有が、対照では38%であるのに比べて、一枝性冠動脈疾患では52%に増加した。対立遺伝子2を少なくとも1コピー有する個体が一枝性冠動脈疾患に罹っている可能性は、対立遺伝子2に対して陰性である者より1.74倍高いと推定される(オッズ比=1.74、p=0.1、95%信頼区間=0.86−3.52)。
これらの知見は、IL−1RN遺伝子の対立遺伝子2が、一枝狭窄を呈する、冠動脈閉塞性疾患の発症に感受性のマーカーであることを示している。この対立遺伝子は、疾患に関連した対立遺伝子が1コピー(ヘテロ接合)または2コピー(ホモ接合)存在するかに応じて、冠動脈疾患のリスク増大に2.4倍から5.4倍関連している。冠動脈疾患のリスクに対するこの対立遺伝子の影響を、その他の共通リスク因子と比較して、表1に示す。
さらに、IL−1Bの対立遺伝子が一枝性冠動脈疾患と関連していることが発見された。この対立遺伝子は、冠動脈疾患のリスク増大に1.74倍関連している。
実施例2 多枝性冠動脈疾患マーカー
本研究の目的は、後期または拡散型の冠動脈アテローム性硬化症、すなわち、多枝性冠動脈疾患の患者が、IL−1遺伝子クラスターまたはTNFαの遺伝子の特定の対立遺伝子を持つ可能性が高いかどうかを判定することであった。
患者コホート:1つより多い心外膜冠状血管が、目視による評価で菅腔直径を50%超減少させる心外膜狭窄を含めば、患者を多枝性疾患に罹っているものと分類した以外、実施例1のとおりに、患者コホートを決定した。検査された患者の中で、86名が正常な冠動脈を持つ対照として分類され、患者315名が多枝性冠動脈疾患に罹っていることが見出された。対照集団および一枝疾患集団は、ほぼ同じ平均年齢で;それぞれ、57.6±10.4歳および60.8±1.13歳であった。対照集団の男女比は1:1:7、罹患集団では3.7:1であった。
一般的な方法:反応および方法は実施例1におけるとおりであった。
結果:IL−1A(−889マーカー)、IL−1B(+3954マーカー)、またはTNF−RN(VNTRマーカー)の遺伝子における異なった対立遺伝子の発生頻度には、対照患者と罹患患者の間に有意な差異は見られなかった。しかし、IL−1B遺伝子の−511マーカーのBsu36I対立遺伝子(対立遺伝子2)の1コピーの保有が、対照の22%に対して多枝疾患患者では54%に増加した。−511マーカーの対立遺伝子2を少なくとも1コピー有する個体が多枝性冠動脈疾患に罹っている可能性は、対立遺伝子2に対して陰性である個体よりも1.92倍高いと推定される(オッズ比=1.92、p=0.009、95%信頼区間=1.17−3.16)。少なくとも、−511マーカーに関して、この集団では投薬効果がまったく見られないように思われる。
要約すれば、IL−1B遺伝子の対立遺伝子は、多枝性冠動脈疾患に関連していることが発見された。この対立遺伝子は、冠動脈疾患のリスクを1.92倍に増大させることと関連している。
一枝性冠動脈疾患および多枝性冠動脈疾患は、それぞれ、IL−1遺伝子クラスターのさまざまな遺伝子と連鎖しているように見える。このことは、一枝表現型を生じるようにIL−1βの作用をIL−1RAが調節する場合には、真の生物学的区別として生じ得る。あるいは、いずれの遺伝子も、実際、冠動脈疾患全体と関連し、ここで観察された関連はこの特定の集団が冠動脈疾患を発症した様式に起因し得る。いずれの解釈でも、IL−1生物学と冠動脈疾患との強固な関連が構築されている。
実施例3:インターロイキン−I遺伝子バリアントと頸動脈壁肥厚との関連
頸動脈内膜中膜肥厚(IMT)と第2染色体上のインターロイキン−1(IL−1)遺伝子クラスターの4つの基本的な2対立遺伝子マーカー(IL−1A(+4845)、IL−1B(+3954)、IL−1RN(+2018))との関連を、the Atherosclerosis Risk in Communities(ARIC)Studyの参加者、米国社会から選ばれた年齢45〜64歳の男女15,792名のコホートの中で調べた。Bモード超音波によって奥壁の厚さを測定し、心血管疾患のリスクが最大の個体を同定するために経験的に選択された平均IMT(1mm以上)の増加の切点を用いて解析した。心血管疾患の病歴を持つ者を除外した後、アフリカ系米国人252名および白人924名の層別無作為サンプルを遺伝子型判定した。アフリカ系米国人の中では、年齢、性別、および治験施設に合わせて調整した基本モデルにおいて、IL−1RN(+2018)のまれな対立遺伝子(対立遺伝子2)の保有者のほうが非保有者よりも、平均IMTが1mm以上(16%対5% p=0.04)である可能性が高い。また、白人の中では、IMTが増加した個体の調整比率のほうが、IL−1RN(+2018)の対立遺伝子2の保有者よりも高かった(9%対6%)が、この相違は統計学的に有意なものではなかった(p=0.10)。いずれの民族集団においても、IL−1A(+4845)、IL−1B(+3954)、またはIL−1B(−511)の変異体と頸動脈IMTとの関連は見られなかった。
実施例4:プラーク形成およびプラーク不安定性の増大に関連したIL−1遺伝子型
IL−1受容体アンタゴニストに関連する遺伝子および連鎖IL−1B遺伝子の多型は、冠状動脈内の大型(血管の50%超の閉塞)のプラークおよび頸動脈壁内の初期の動脈硬化の変化と強く関連している(ARICデータ)。これらのデータは、IL−1RN(+2018)対立遺伝子2および/またはIL−1B(−511)対立遺伝子2を含む遺伝子多型パターンが大型の閉塞型プラークを予測するものであることを示唆する。
あるIL−1遺伝子型が、血栓および塞栓などの臨床的事象のリスク増大と関連している。本発明者らは、IL−1A(+4845)およびIL−1B(+3954)の遺伝子座の一方または両方の対立遺伝子2が炎症反応を増加させ、そのために、プラークの脆弱性、ならびに血栓および塞栓などの臨床的事象のリスクを増大させると予測できると提唱する。このリスクは低コレステロール値の個体において最大であり得る。その理由は、IL−1野生型(例えば、IL−1A(+4845)=1.1およびIL−1B(+3954)=1.1)でも、値が高いほど最大の炎症反応が活性化すると予想されるからである。
本発明者らは、大型の閉塞性プラークに関連した遺伝子型、すなわち、IL−1RN(+2018)対立遺伝子2またはIL−1B(−511)対立遺伝子2が、プラークの脆弱性に対するリスクの低下を予測できると提唱する。
臨床的事象(ARIC)について長期にわたって追跡されていた健康な約15,000の個体から、370の血栓または塞栓が記録された。約900人の無作為化された層別の対照を比較のために選抜した。
IL−1A(+4845)およびIL−1B(+3954)の対立遺伝子2は動脈硬化巣に関連した臨床的事象に影響を及ぼす:
・LDLが130より低い場合(n=535)
IL−1A(+4845)遺伝子型2.2:診療的事象のオッズ比(OR+95%CI)=3.03(0.96〜9.1);p=0.059
・総コレステロール値が200より小さい場合(n=425)
IL−1A(+4845)遺伝子型2.2:OR=6.25(1.69〜20.00);p=0.006
IL−1B(+3954)遺伝子型1.2または2.2:OR=2.58(1.25〜5.31);p=0.010
IL−1RN(+2018)にある対立遺伝子2は動脈硬化巣に関連した臨床的事象に逆相関して、アテローム性プラークの安定化を示唆する:
・すべての場合(n=1214)
IL−1RN(+2018)遺伝子型1.2または2.2:OR=0.65(0.43−0.96);p=0.031
・LDLが160より大きい場合(n=343)
IL−1rn(+2018)遺伝子型1.2または2.2:OR=0.32(0.14−0.73);p=0.058
・総コレステロールが240より大きい場合(n=307)
IL−1RN(+2018)遺伝子型1.2または2.2:OR=0.28(0.11−0.68);p=0.054
実施例5:ハプロタイプパターン1と一致するIL−1複合遺伝子型が歯周病と関連しており、ハプロタイプパターン2と一致するIL−1遺伝子型が閉塞性心血管疾患と関連している
歯周病、心血管疾患、および第2染色体上のインターロイキン−1(IL−1)遺伝子クラスターの4つの基本的な2対立遺伝子マーカー(IL−1A(+4845)、IL−1B(+3954)、IL−1B(−511)、およびIL−1RN(+2018))の関連性を調べた。
表2に示したように、IL−1遺伝子クラスターの4つの多型遺伝子座(IL−1A(+4845)、IL−1B(+3954)、IL−1B(−511)、IL−1RN(+2018))によって、2つのハプロタイプパターンを定義することができる。一つのパターンはIL−1A(+4845)遺伝子座およびIL−1B(+3954)遺伝子座の両方で対立遺伝子2を含む。もう一つのパターンはIL−1B(+3954)遺伝子座およびIL−1RN(+2018)遺伝子座の両方に対立遺伝子2を含む。
ハプロタイプパターンは、対立遺伝子2が1つの遺伝子座において見出されると、これが他の遺伝子座においても見出されるであろうということを示す。以前のデータ(Coxら(1998)Am.J.Hum.Genet.62:1180−1188)は、対立遺伝子2がIL−1A(+4845)に見出されると、対立遺伝子2が約80%の確率でIL−1B(+3954)遺伝子座に存在することを示している。ハプロタイプは、単一コピーの染色体に関してのみ関連性がある。第2染色体のコピーが2つあり、標準的な遺伝子型判定法では、どちらの染色体のコピー上に特定の対立遺伝子が見出されるかを同定することができないために、特別な統計プログラムを使用して、判定している遺伝子型パターンからハプロタイプパターンを推測する。
アテローム性動脈硬化症の研究の一部であった新たな集団で、これらの遺伝子パターンの分布を評価した(Pankowら(1999)The ARIC study.European Atherosclerosis Society Annual Meeting,Abstract,#646)。この集団(N=1,368)において、被験体の10.2%でIL−1A(+4845)遺伝子型2.2が見出された。しかしながら、IL−1B(+3954)遺伝子型2.2の被験体(N=95)において、被験体の71.6%でIL−1A(+4845)遺伝子型2.2が見出された。このことは、IL−1A(+4845)の対立遺伝子2が、集団内でのこれらのマーカーそれぞれの分布を考えて予想した以上の高率で、IL−1B(3954)の対立遺伝子2と共遺伝することを示している。パターン2に特有な2つの遺伝子座の対立遺伝子2に関して、同様のデータが存在する。さらに、遺伝子型パターン1が見られる場合、他方のパターンの特徴である遺伝子座のどちらかに対立遺伝子2が存在する可能性は非常に低い。
また、これら2つの遺伝子型パターンも、インターロイキン−1の機能生物学の特定の差異に関連している。例えば、IL−1B(+3954)の対立遺伝子2のコピーを1つか2つ有する個体から採取した末梢血単球をLPSで刺激すると、遺伝子型パターンIL−1B(+3954)=1.1を持つ個体から採取した単球の2〜4倍、IL−1Bを産生した(DiGiovini,FSら(1995)Cytokine,7:606)。重症の歯周病の個体から単離された、末梢血の多形核白血球に関して、同様のデータが最近報告されている(Gore,EAら(1998)J.Clin.Periodontol.,25:781)。さらに、パターン1を示している複合遺伝子型の被験体由来の歯肉溝滲出液(GCF)が、この遺伝子型に対して陰性である個体由来のGCFよりも、IL−1Bレベルが2〜3倍高い(Engelbretson,SPra(1999)J.Peridontol.,印刷中)。パターン2に関して、IL−1RN+2018の対立遺伝子2がIL−1受容体のアンタゴニストタンパク質のレベルの減少と関連していることを示しているデータも見られる。したがって、パターン1の遺伝子型はIL−1アゴニストの増加と関連していると考えられ、またパターン2はIL−1受容体アンタゴニストのレベルの減少と関連していると考えられる。
パターン1と一致する複合IL−1遺伝子型は、重症の成人型歯周病に対する感受性の増加と関連している(Kornman,KSら(1997),上掲;Gore,EAら(1998),上掲;McGuire,MKら(1999)J.Periodontol.,印刷中;McDevitt,MJら(1999)J.Periodontol.,印刷中)。歯周病に対するIL−1遺伝子型の影響の1つの態様は、一般に認められた歯周病の病原菌を含む、特定の細菌の複合体の歯肉下での量の増強であると思われる(Socransky, SSら(1999)IADR Annual Meeting,Abstract#3600)。しかし、パターン1の遺伝子型は、閉塞性心血管疾患のリスク増大には関連していなかった。Pankowおよび共同研究者によって提供されたthe Atherosclerosis Risk in Communities(ARIC)の研究データ(Pankowら、上掲、参照)では、閉塞性心血管障害を指し示す頸動脈壁内膜中膜肥厚(IMT)の超音波計測値をもつ個体を、IL−1遺伝子多型に関して、層別無作為対照集団と比較した。IL−1A(+4845)またはIL−1B(+3954)はいずれも、IMTの高リスクとの関連を示さなかった。
最近、パターン2に特徴的な遺伝子型が、閉塞性心血管疾患に対する感受性の増大に関連づけられたが、歯周病のリスク増大とは関連しなかった。冠動脈疾患についての報告では、冠動脈狭窄の血管造影図上の証拠をもつ患者が、IL−1RN(+2018)遺伝子座またはIL−1B(−511)遺伝子座の対立遺伝子2の保有者である可能性が有意に高い(Francisら、上掲、参照)。いずれの遺伝子座もハプロタイプパターン2に特徴的である。上述したように、ARIC研究では、IMT測定値が高いアフリカ系米国人がIL−1RN(+2018)を保有していることが、同じ民族の対照よりも有意に高かった。IMT測定値が高い白人では、1コピーのIL−1RN(+2018)対立遺伝子2を保有していることが、対照におけるよりも有意に高かったが、この遺伝子座においてホモ接合である個体は、対照と異なってはいなかった。本実験の白人では、IL−1RN(+2018)の対立遺伝子2についてホモ接合である個体の数は、別の集団で見られる数よりも実質的に少なかったことに留意すべきである。
歯周病の個体と歯肉が健全な個体を、パターン1およびパターン2に一致する遺伝子型パターンについて調べると、重症の成人型歯周病の個体ではパターン1と一致する遺伝子型が優勢であるが、健康な歯周状態の個体は、パターン1にもパターン2にも支配されない遺伝子型パターンであることが分かった。したがって、ハプロタイプパターン1と一致するIL−1遺伝子型は重症の歯周病およびプラーク脆弱性障害に関連しており、閉塞性心血管疾患には関連していない。一方、ハプロタイプパターン2と一致しているIL−1遺伝子型は、歯周病またはプラーク脆弱性障害ではなく、閉塞性心血管疾患に関連している。一つのメカニズムは、IL−1遺伝子型パターン1が、プラークの脆弱性に直接影響を与えるというものであろう。別のメカニズムは、パターン1が、歯周病に直接影響を与えて、口内の慢性炎症過程の一部に見られる歯周細菌を介して心血管疾患に間接的な影響を与えるというものであろう。もう一つのメカニズムは、IL−1遺伝子パターン2が、直接的に心血管の閉塞性障害に影響を与えるが、歯周病には影響しないというものであろう。このように、同じように両方の疾患における免疫炎症反応を直接変える共通の基本的メカニズムによって、および口内の細菌負荷を促進して心血管疾患に影響を与えるメカニズムによって、IL−1遺伝子多型が、心血管疾患と重症の歯周病に影響を与える可能性がある。ハプロタイプパターン1と一致するIL−1遺伝子型は、集団の一部において、免疫炎症反応と歯周炎と歯肉縁下の細菌負荷の両方を増幅することによって、心血管疾患の関連性に影響を与える可能性もある。
実施例5
メイヨクリニックでの実験
実験デザイン ミネソタ州ロチェスターにあるメイヨクリニックで、臨床的に指示されて冠動脈造影検査を受けた18歳から75歳の患者について本実験を考察した。患者が、治療を必要とする糖尿病に罹っている場合、年に50箱よりも多い喫煙歴がある場合、臓器移植の前か、その予定がある場合、妊娠している場合、経皮的または外科的な冠動脈再建を行う前、出血が続いているか、ヘモグロビン値が8g/dLよりも低い場合、30日以内に輸血を受けている場合、血行動態が不安定な場合、ヒト免疫不全症ウイルスに感染している場合、透析を必要とする腎不全に罹っている場合、および胸部への放射線治療歴がある場合には、実験に組み込むのに不適格とした。504人の患者が、この時期に冠動脈造影検査を受け、本実験に適した患者の>90%に相当する。
血管造影解析 手動式ノギスまたは視覚分析によって冠動脈造影図を解析し、正常な冠動脈(狭窄がないか、狭窄が10%以下である平滑な動脈)を示すもの、軽度疾患(管腔の直径が10%から50%減少している冠動脈)を示すもの、一枝疾患(1本の冠動脈、またはその主要分枝の50%以上)を示すもの、二枝冠動脈疾患(2本の冠動脈に管腔直径の50%以上の狭窄)を示すもの、および三枝疾患(3本の冠動脈に管腔直径の50%以上の狭窄)を示すものに分けた。血管造影図は、患者の危険因子および遺伝子解析結果を無視して解析した。
実験室での解析 アポリポタンパク質A1、アポリポタンパク質B、Lp(a)、およびフィブリノゲンの測定をCOBAS MIRA装置上で行った。これらのアッセイで正常値の範囲は、アポリポタンパク質A1、115〜190 mg/dL;アポリポタンパク質B、70〜160mg/dL;およびLp(a)、2.5〜7.0mg/dL;フィブリノゲンの正常値の範囲は未報告である。総血漿ホモシステイン値を測定した。
定義 患者の一親等の親族で、喫煙もせず糖尿病もない者が55歳以下の時に冠動脈疾患を発症している場合には、冠動脈疾患の家族歴があるものと考えた。脂質異常症は、総コレステロール値が250mg/dL以上であるか、もしくはLDL値が150mg/dL以上である場合、または治療前の脂質値が不明な患者が不高脂血症治療薬による治療を継続している場合と定義した。狭心症および心不全は、それぞれthe Canadian Heart AssociationおよびNew York Stateの分類スキームに従って分類した。
統計的方法 数値は、パーセントで、また、平均値±1標準偏差で表示する。オッズ比については、95%信頼区間を括弧内に示す。
冠動脈疾患の関連要因を判定するための予備的解析では、無疾患、軽度疾患、一枝疾患、二枝疾患、および三枝疾患の患者の間で、さまざまな従来からの危険因子および新たな危険因子、およびIL−1クラスター遺伝子の中の対立遺伝子変異体の関連性を検定するために、まず、カイ二乗検定および一元配置分散分析を行った。そして、冠動脈疾患を再分類して、無疾患または軽度疾患の患者と、一枝、二枝、または三枝の狭窄をもつ患者を比較した。いくらかの閉塞はあるが、冠動脈狭窄が50%未満の患者は、軽度の冠動脈疾患に罹っていると見なして、閉塞がない(無疾患)患者と一緒のグループに入れた。一方、一枝、二枝、または三枝の冠動脈に50%以上の狭窄をもつ患者は、重度の冠動脈狭窄をもつと考えられたため、1つのグループに入れて、さらなる解析を行った。正確な傾向検定を用いて、多型を有する患者の比率の傾向を検定した。
ロジスティック回帰分析モデルを、4分位および3分位によるさまざまな危険因子について、所定の増加した4分位値および3分位値について報告されたオッズ比に適合させた。IL−1遺伝子クラスター遺伝子の対立遺伝子バリアントと冠動脈疾患との関連性をさらに解析するために、多重ロジスティック回帰モデルを、各モデルに含まれる統計的に有意な交絡因子に適合させた。すべての従来からの危険因子および新たな危険因子をモデルに組み込み、このモデルを段階的に適合させて、モデルに組み込まれたすべての因子が統計的に有意である最善の適合モデルを得た。さらに、潜在的に効果的な修飾因子をモデルに組み込んだ。この多重ロジスティック回帰モデルに対する応答は、上記で定義した重症の冠動脈狭窄が存在するか否かであった。
本実験に組み込まれたすべての被験体を解析すること以外に、さらに、60歳以下の被験体と60歳を超えた被験体に対し別々に統計解析を行った。冠動脈疾患では年齢が強い危険因子であることが明らかになっているため、また、多因子疾患における遺伝的影響は、早発症例でもっとも明白であると考えられていることから、年齢別の解析が適当であると考えられた。さらに、エピスタシスによって、遺伝的影響が、男性と女性とで異なった結果をもつよう決定されている可能性があるため、性別によるサブセット解析も重要であると考えられ、いくつかの解析では、男性と女性を別々に処理した。
実施例6:ミュンヘンでの実験
方法
患者
本実験は、Deutsches Herzzentrum Munchen and 1. Medizinische Klinik rechts der Isar der Technischen Universitat Munchenにおいて冠動脈ステント移植を受けた症候性冠動脈疾患に罹った1850人の白人の継続患者を含んでいた。すべての患者が、6ヶ月目に血管造影の追跡調査を受けるよう計画された。本実験に参加したすべての患者に、介入、追跡的血管造影、および遺伝子型判定に対するインフォームドコンセントを書面で伝えた。本実験のプロトコルは、ヘルシンキ宣言に適合しており、研究所の倫理委員会の承認を受けたものである。
ステント留置のプロトコル、およびステント後療法は当技術分野における専門化には周知のものである。ほとんどのステントは、従来の血管形成術用バルーン上に手動で取り付けられ移植された。術後療法は、アスピリン(100mgを1日2回ずつ無期限に)およびチクロピジン(250mgを1日2回ずつ4週間)から構成された。ステント移植後の残存血栓または血流障害による解離による次善の結果に終わった患者には、ステント挿入処置の間はボーラス注入として、その後は12時間の連続輸液としてアブシキシマブによる追加治療を受けさせた。アブシキシマブを投与する決定は、手術者の裁量で行われた。
IL−1RN遺伝子型の判定
ゲノムDNAを、200mlの末梢血白血球から、QIAmp 血液キット(Qiagen,Hilden,Germany)および高純度PCR鋳型調製キット(Boehringer Mannheim,Mannheim,Germany)を用いて抽出した。
ABI Prism配列検出システム(PE Applied Biosystems,Weiterstadt,Germany)を用いて、IL−1RN遺伝子型の判定を行った。5’ヌクレアーゼ反応における対立遺伝子特異的蛍光発生プローブの使用は、DNA増幅と遺伝子型判定を一つのアッセイ法33として組み合わせたものである。エキソン2の一塩基多型であるIL−1RN (+2018)は、本実験26で遺伝子型判定される多型であった。プライマーおよびプローブのヌクレオチド配列は以下のとおりである:フォワードプライマー5’GGG ATG TTA ACC AGA AGA CCT TCT ATC T 3’、リバースプライマー5’CAA CCA CTC ACC TTC TAA ATT GAC ATT3’、対立遺伝子1用プローブ5’ AAC AAC CAA CTA GTT GCT GGA TAC TTG CAA 3’、対立遺伝子2用プローブ5’ ACA ACC AAC TAG TTG CCG GAT ACT TGC 3’。対立遺伝子1用のプローブは、蛍光色素6−カルボキシ−フルオロセイン(FAM)で標識し、対立遺伝子2用は蛍光色素テトラクロロ−6−カルボキシ−フルオロセイン(TET)で5’末端を標識した。どちらのプローブも、消光物質である6−カルボキシ−テトラメチル−ローダミン(TAMRA)で3’末端を標識した。サーモサイクリングのプロトコルは、95度での変性を15秒、および64℃でのアニーリング/伸長を1分間を40回繰り返すことで構成された。本来の被験体コードとは無関係の新たな被験体コードをもつ重複DNAサンプルを用い、20%の患者で判定を繰り返すことによって、遺伝子型の確認を行った。
血管造影による評価
修正されたAmerican College of Cardiology/American Heart Associationの評点方式に従って冠動脈病変を分類した。左心室機能を、7セグメント分割を用いた2方向血管造影図に基づいて定量的に評価し、コントラスト血管造影図で少なくとも2つの低運動(hypokinetic)セグメントの存在で左心室機能が低下しているという診断を確認した。定量的なコンピューターによる血管造影図解析を、ステント留置の直前、ステント留置の直後、および追跡検査で得られた血管造影図に対し、自動式エッジ検出システムCMS(Medis Medical Imaging Systems,Nuenen,The Netherlands)を用いて、オフラインで行った。操作者は、患者のIL−1RN遺伝子型を知らなかった。すべての評価した血管造影図について、標的病変の同じような突起部を用いた。最小内腔径、補間参照直径、径狭窄、病変長、および最大に膨張したバルーンの直径が、この解析システムで得られた血管造影パラメーターであった。急性内腔獲得(Acute lumen gain)を、介入後の最小内腔径と介入前の最小内腔径との差として計算した。遠隔期損失径は、介入後の最小内腔径と追跡血管造影時の最小内腔径との差として計算した。遠隔期損失と急性内腔獲得の比率を損失指数として計算した。
定義および実験評価項目
本実験の主な評価項目は再狭窄であった。再狭窄の以下の2つの指標を評価した:6ヶ月後の追跡血管造影で50%の径狭窄と定義される血管造影による再狭窄の発生、および介入後1年以上たったステント留置部位における血管造影による再狭窄の存在下で虚血の症状または兆候があるために標的血管再血行再建(PTCA、または大動脈冠動脈バイパス手術[CABG])が必要であること。評価されたその他の主な有害事象は:何らかの原因による死亡および心筋梗塞。すべての死亡例は、剖検によって心臓以外の原因であったことが確認されない限り、心臓が原因であると見なした。急性心筋梗塞の診断は、EPISTENT試験(新たな病的Q波、またはクレアチンキナーゼ値[CK]、またはその上限値の少なくとも3倍のそのMBイソ酵素)35で適用された基準に基づいて行った。CKは、ステント留置処置の48時間にわたり系統的に測定した。1年間の追跡期間中、臨床事象を観察した。この評価は、再入院記録、委託医師、または患者との電話インタビューによってもたらされた情報に基づいて行われた。インタビュー中に心臓症状を示した患者のすべてについて、少なくとも1回の臨床検査および心電図による検査を、外来患者向け診療所で、または委託医師によって行った。
統計学的解析
離散変数は回数またはパーセントで表し、必要であれば、カイ二乗またはフィッシャーの正確検定で比較した。連続変数は平均SDで表して、対応のない両側t検定、または2群超に対する分散分析によって比較した。オッズ比および95%信頼区間を計算して、リスク解析を行った。主な解析は、IL−11RN*2対立遺伝子のヘテロ接合保有者とホモ接合保有者とを混合し、IL−11RN*1対立遺伝子のホモ接合保有者と比較することにあった。さらに、IL−1RN遺伝子型と再狭窄との間の関連を、IL−1RN*2対立遺伝子の保有者と非保有者を比較したところP値0.30を示した臨床および病変に関連した特徴も含む多変量ロジスティック回帰モデルにおいて評価した。この多変量モデルにおいて、本発明者らは、IL−1RN遺伝子型と年齢の間に相互作用の可能性があるかを調べた。再狭窄症などの多因子過程に対する遺伝的因子の相対的寄与は、年齢とともに低下するため、本発明者らは、予め特定しておいた60歳未満の患者のサブグループで追加的な解析を行った。続いて、本発明者らは、遺伝子の用量効果、すなわち、推定対立遺伝子が0個、1個、または2個存在すると段階的に表現型質による応答が増加することを評価するために傾向検定法を用いた。統計的有意性は、P値0.05で認めた。
結果
患者の特徴
実験集団において観察されたIL−1RN遺伝子型は、954人(51.6%)で1/1、742人(40.1%)で1/2、また154人(8.3%)で2/2であった。したがって、対立遺伝子2の頻度は0.28であった。観察された分布は、ハーディー−ワインベルグ平衡に適合していた。患者の主な基本特性を表1に列挙し、IL−1RN*2対立遺伝子の保有者と非保有者の間で比較した。IL−1RN*2対立遺伝子の保有者では、糖尿病が高頻度になり、左心室の機能が低下する傾向があった。その他の特徴は、2つのグループで同じように分布していた。介入時の血管造影による特徴および処置による特徴を表2に示し、IL−1RN*2対立遺伝子の保有者と非保有者の間で有意差がないことを示す。
LADは、左冠状動脈前下降枝を示し:LCxは左冠動脈回旋枝;RCAは右冠動脈;複雑病変は、the American College of Cardiology/American Heart Associationの評点方式に従ったACC/AHA病変型B2およびCであると定義された。
IL−1ra多型、ステント後の死亡率および心筋梗塞
表3に、IL−1RN*2対立遺伝子の保有者と非保有者で冠動脈ステント留置後最初の30日以内に観察された有害な臨床事象を示す。IL−1RN*2対立遺伝子の存在と、死亡、心筋梗塞、および標的血管再建とのには関連がなく、IL−1ra遺伝子における多型性は、冠動脈ステント留置後早期の血栓事象のリスクに有意な影響を示さない。
また、1年間の追跡調査で、IL−1RN*2対立遺伝子の存在と、介入後の死亡率または心筋梗塞の発症との間には相関関係がないことも示された。1年間で、IL−1RNが1/2である患者およびIL−1RNが2/2である患者の混合グループの死亡率は2.8%で、IL−1RNが1/1である患者では2.2%であった(P=0.42)。その結果、1.28というオッズ比を得た(95%信頼区間、0.71〜2.29)。非致死性心筋梗塞の発生率は、IL−1RN*2対立遺伝子の保有者では3.5%であり、IL−1RN*1対立遺伝子のホモ接合保有者では3.9%であった(P=0.54)。そして、それぞれのオッズ比は0.86(0.53〜1.4)であった。
IL−1ra多型、およびステント後の再狭窄
対照血管造影を、中央値で188日後(4分位範囲、171〜205日)に84%の患者で行った。対照血管造影をもつ患者の比率は、IL−1RN*2対立遺伝子の有無で分けられた2つのグループで同じであった。表4に、6ヶ月後の血管造影図の定量的評価結果を示す。
注目すべきは、ステント留置後の過形成応答を反映する損失指数が、IL−1RN*2対立遺伝子を保有していた患者では有意に低かったことである。血管造影上での再狭窄の発生も、IL−1RN*2対立遺伝子保有者で有意に低く、30.2%で、これに対しIL−1RNが1/1である患者では35.6%であった。したがって、IL−1RN*2対立遺伝子の存在が、再狭窄率の22%低下と関連していた(オッズ比、0.78[0.63〜0.97])。標的血管再血行再建が必要となることで示される臨床上の再狭窄も有意に低く、L−1RN*2対立遺伝子保有者では17.7%、これに対し、IL−1RN*1対立遺伝子についてホモ接合体である患者では22.7%であった(P=0.026)。この結果、オッズ比0.73(0.58〜0.92)が得られた。
年齢、性別、糖尿病の有無、喫煙習慣、左心室機能の低下および再狭窄病変、血管の大きさ(すべての変数は、単変量解析でP値が0.30で異なっている)を、血管造影による再狭窄の多変量モデルに、L−1RN*2対立遺伝子の有無とともに入力した。高齢(P=0.005)、糖尿病の存在(P<0.001)、再狭窄病変(P<0.001)、および小血管のサイズ(P<0.001)が、独立して、再狭窄のリスクと相関していた。反対に、L−1RN*2対立遺伝子の存在は、再狭窄のリスク低下と独立して(P<0.001)、調整したオッズ比0.81(0.71〜0.92)で相関していた。さらに、若年患者におけるこの対立遺伝子の次第に強くなる保護効果に反映されているように、L−1RN*2対立遺伝子の存在と年齢との間には有意な相互作用(P=0.009)があった。
予め特定された60歳未満の患者のサブグループ(n=696)における解析の結果を表5に示す。1年間の追跡期間の間、IL−1RN*2対立遺伝子保有者の17.1%、およびホモ接合のIL−1RN*1対立遺伝子保有者の24.9%で標的血管再血行再建が必要となった(P=0.013)。したがって、IL−1RN*2対立遺伝子の存在は、虚血が原因の再介入の必要が37%(オッズ比:0.63[0.43〜0.91])低下したことと関連していた。6ヶ月目に対照実験(60歳未満の患者の590人、すなわち、85%で行われた)のために取得した定量的血管造影データを表5に示す。
血管造影上での再狭窄の発生は、IL−1RNが1/2である患者およびIL−1RNが2/2である患者の混合グループでは25.6%で、IL−1RNが1/1である患者では38.5%であった(P<0.001)が、これは、45%の低下に相当する(オッズ比:0.55[0.39〜0.78])。再狭窄の発生率は、IL−1RN*2対立遺伝子についてヘテロ接合およびホモ接合であると次第に減少した。血管造影上での再狭窄の比率は、IL−1RNが1/1である患者では38.5%、IL−1RNが1/2である患者では26.3%、また、IL−1RNが2/2である患者では22.4%であった(P=0.001、傾向検定)。標的血管再血行再建率は、IL−1RNが1/1である患者では24.9%、IL−1RNが1/2である患者では17.9%、またIL−1RNが2/2である患者では13.2%であった(P=0.01、傾向検定)。
実施例7.複合IL−1遺伝子型と心血管疾患に対する素因との関連性
IL−1複合遺伝子型を、炎症メディエーターの発現および有害な心疾患に関連づける実験を行った。同定されるのは、複合遺伝子型、および、それと、心血管疾患に対する素因が強まる危険性、または逆にそれが低下することとの関係である。また、同定されるのは、民族集団における遺伝子型の普及である。IL−1遺伝子クラスターの複合遺伝子型は、LDL(「悪玉」)コレステロールなど、問題のある環境下における炎症因子の各個体における発現を区別するのに有用であるが、それによって、心疾患に対する遺伝的リスクを同定し、個体ごとの医療上の決定(例えば、栄養および生活様式)を行うことで、健康な個体が心臓の健康を維持する手助けをする。
データは、IL−1遺伝子クラスターの遺伝的変異と生化学的転帰または臨床転帰との関連性を評価した臨床実験から得たもので、IL−1遺伝子変異が、生物学的/分子的メカニズム、疾患/臨床転帰の関連性、およびバイオマーカーの変化または疾患リスクによって測定される抗炎症補給(anti−flammatory supplementation)に対する応答に影響を与えることを裏付けている。
表7―1は、白人およびアジア人(ここでは朝鮮人)の集団において優勢なIL−1ハプロタイプを提示する。
表7−2に示されたデータは、3つの異なった複合遺伝子型パターンのうち1つを有する個体が、炎症の過剰発現およびCVDのリスク増大に「陽性」なIL−1遺伝子型として分類され、一方、2つの異なった複合遺伝子型パターンのうち1つを有する個体は、炎症の過剰発現およびCVDのリスク低下に「陰性」なIL−1遺伝子型として分類されることを明らかにしている。
表7−3は、表7−2に示されたリスクパターンの民族性による普及を示している。
炎症メディエーターの増加と、心血管疾患のリスク増大に関連した複合遺伝子型パターンとの関連性
若年でのCVDと第1回目の心臓発作のリスク増大と、IL−1βバイオマーカーおよびCRPバイオマーカーの発現増加ととの相関を明らかにするためにDARIC(コミュニティにおける歯のアテローム硬化性リスク)実験を行った。
複合遺伝子1aパターンは、GCFIL−1βの32%の増加(P=0.01)および血清におけるCRPの24%の増加(P=0.087)と関連があった。
複合遺伝子1bパターンは、GCFIL−1βの28%の増加(P=0.02)と関連があったが、血清中のCRPの増加とは有意な関連はなかった。
複合遺伝子1cパターンは、GCFIL−1βのレベル増大とは有意な関連はなかったが、血清におけるCRPの54%の増加と関連があった(P=0.01)。
別の実験も同じ結果となり、パターン1aが、血清におけるCRPの81%の増加(P=0.0001)に関連し、パターン1bは、血清中のCRPの増加とは有意な関連はなく、またパターン1cが、血清におけるCRPの32%の増加(P=0.04)に関連していることを示した。
IL−1遺伝子の変異、および炎症メディエーターに関する別の実験を表7−4に記載する。
表7−4の参考文献
1.Iacovielloら Arterioscler Thromb Vasc Biol 2005;25:222−227。
2.Hallら Arthriris Rheum 2004;50(6):1976−1983。
3.Bergerら Cytokine.2002;17:171−174。
4.Eklundら Eur Cytokine Netw 2003 Jul−Sep;14(3):168−171。
5.Latkovskisら Eur J Immunogenet 2004;31(5):207−213。
特に興味深いのは、Iacovielloの研究であり、IL−1B(−511)1.1遺伝子型が、若年でのMIのリスク増大(男性では45歳未満、女性では50歳未満(OR−2.2))に関連していることを明らかにした。さらに、IL−1B(−511)1.2遺伝子型は、若年でのMIのリスク増大(男性では45歳未満、女性では50歳未満(OR=1.8))に関連している。
また、興味があるのは、メイヨクリニックで行われた実験であるが、冠動脈疾患を有する個体が、疾患のない個体よりもMIのリスクが高いこと、多枝疾患(MVD)の患者は、一枝疾患の患者よりもMIのリスクが高いこと、および、冠動脈疾患の程度とは無関係に、IL−IA+4845およびIL−IB+3954においてCVD遺伝子型について陽性の個体(パターン1aおよび1cと一致する)は、陰性の検査結果だった個体よりもMIのリスクがさらに高いことを発見した。また、メイヨでの実験は、IL−IA(+4845)およびIL−IB(+3954)において陽性のCVD遺伝子型(パターン1aおよび1cと一致する)が、心臓カテーテルの時期(2歳若い)および定型的および非定型的な胸痛(2歳若い)がより若年になることにも有意に関連していることも発見した。最後に、この実験では、冠動脈疾患をもつ個体で、CDV検査で陽性であった個体(すなわち、リスクパターン1a、1b、または1c)では、事前に記載された心臓発作のリスクの増大と有意な相関があることが発見された。
CVDパターンと心筋梗塞との関連性も判定され、以下の表7−5に記載されている。
実施例8.複合IL−1遺伝子型と、朝鮮人男性における心血管疾患に対する素因との関連性
朝鮮人男性に存在するIL−1複合遺伝子型を、炎症メディエーターの発現、および有害な心疾患に対するリスクと関連づける実験を行った。同定されたのは、新しい遺伝子マーカーであるIL−1B(+3877)対立遺伝子、および2コピーのIL−1B(+3877)対立遺伝子1、1コピーのIL−1B(−511)対立遺伝子1、および1コピーのIL−1B(−511)対立遺伝子2を含む複合遺伝子型であった。表8−1は、CVDに連鎖したIL−1遺伝子型のパターン、およびこれらの対立遺伝子の、他のIL−1遺伝子クラスター対立遺伝子との関連性を示している。
白人と朝鮮人の男性被験体を比較する実験を行った。サンプル集団は以下のとおりである:n=133 MIをもつCAD+の被験体(ほぼ55歳以下)、n=169 MIなしでCAD+(ほぼ55歳以下)、およびn=302対照。平均年齢は54歳であった。C反応性タンパク質(CRP)の測定値は以下のとおりである。3分位は以下のように分配した<0.37;0.37〜1.08;>1.08mg/1。CRP>3mg/1が、コホートの12%に見られた。
表8−2に示すように、CRPレベルは、CVDに関連する遺伝子型と関連していた。表8−1と同じように、白人におけるマーカーは、IL−IA(+4845)対立遺伝子2+IL−IB(+3954)対立遺伝子2を含み、アジア人(例えば、朝鮮人)におけるマーカーは、IL−1B(+3877)1.1を含む。IL−1Bプロモーター中の機能的なハプロタイプのマーカーは、IL−1B(−511)を含む。
CVD関連遺伝子型の相対的分布を表8−3に示す。表8−1と同じように、白人におけるマーカーは、IL−IA(+4845)対立遺伝子2+IL−IB(+3954)対立遺伝子2を含み、アジア人(例えば、朝鮮人)におけるマーカーは、IL−1B(+3877)1.1を含む。
この実験では、心筋梗塞(MI)をもつ被験体を対照被験体と比較した。133人のCAD+MI+と302人の対照が存在した。データを、年齢、BMI、および喫煙について調整した。MIのリスクを示す遺伝子型パターンは、2コピーのIL−1B(−511)対立遺伝子2、および2コピーのIL−1B(+3877)対立遺伝子1を含む(パターン1d;p=0.01)と判定された。MIのリスクを示す別の遺伝子型パターンは、IL−1B(−511)対立遺伝子1、IL−1B(−511)対立遺伝子2、および2コピーのIL−1B(+3877)対立遺伝子1を含む(パターン1c;p=0.09)。
さらなる解析では、MIを有する若い(55歳以下)被験体を、高齢(56歳以上)対照と比較した。発病が55歳以下の時であった97人のCAD+MI+被験体、および56歳以上の132人の対照が存在した。データを、BMIおよび喫煙について調整した。MIのリスクを示す遺伝子型パターンは、2コピーのIL−1B(−511)対立遺伝子2、および2コピーのIL−1B(+3877)対立遺伝子1を含む(パターン1d;p=0.01)と判定された。MIのリスクを示す別の遺伝子型パターンは、IL−1B(−511)対立遺伝子1、IL−1B(−511)対立遺伝子2、および2コピーのIL−1B(+3877)対立遺伝子1を含む(パターン1c;p=0.05)。
さらに、MIを有する被験体を、非MI対照と比較した。133人のMI陽性被験体、および169人のMI陰性被験体が存在した。一般的に、MI陰性被験体は、より高齢で、体重が軽く、かつ、より大量にアルコールを摂取していた。データを、年齢、BMI、および血清脂質量を治療する薬剤について調整した。MIのリスクを示す遺伝子型パターンは、2コピーのIL−1B(−511)対立遺伝子1、およびIL−1B(+3877)対立遺伝子2を含む(パターン1b;p=0.15)と判定された。MIのリスクを示す別の遺伝子型パターンは、IL−1B(−511)対立遺伝子1、IL−1B(−511)対立遺伝子2、および2コピーのIL−1B(+3877)対立遺伝子1を含む(パターン1c;p=0.02)を含む。MIのリスクを示す別の遺伝子型パターンは、2コピーのIL−1B(−511)対立遺伝子2、および2コピーのIL−1B(+3877)対立遺伝子1を含む(パターン1d;p=0.02)を含む。
さらなる解析では、CADおよびMIをもつ、55歳またはそれよりも若い被験体を、CADをもつがMIはない対照被験体と比較した。77人のMI+被験体、および79人MI被験体が存在した。MI陰性被験体は、より高齢で、体重が軽く、かつ、より大量にアルコールを摂取していた。データを、BMI、喫煙、およびHDLについて調整した。MIのリスクを示す遺伝子型パターンは、2コピーのIL−1B(−511)対立遺伝子1、およびIL−1B(+3877)対立遺伝子2を含む(パターン1b;p=0.04)と判定された。MIのリスクを示す別の遺伝子型パターンは、IL−1B(−511)対立遺伝子1、IL−1B(−511)対立遺伝子2、および2コピーのIL−1B(+3877)対立遺伝子1を含む(パターン1c;p=0.01)。MIのリスクを示す別の遺伝子型パターンは、2コピーのIL−1B(−511)対立遺伝子2、および2コピーのIL−1B(+3877)対立遺伝子1を含む(パターン1d;p=0.02)。
この実験の別の局面で、HDL量とMIのリスクを比較した。156人の55歳またはそれよりも若いCADをもつ被験体が存在した。40mg/dl以下のHDLをもつ被験体には、MIの関連するIL−1リスクがないと判定された。40mg/dlを超えるHDLを有する被験体(n=95)では、以下のMIリスクパターンが見られた。パターン1b(p=0.05);パターン1c(p=0.04)、およびパターン1d(p=0.02)。
さらに、健康な対照被験体のCRPレベルを測定した。平均年齢が54歳の302人の被験体を解析した。CRPの3分位は以下のとおりである:<0.37;0.37〜1.08;>1.08mg/1。12%のコホートが、3mg/1以上のCRPをもつことが分かった。2コピーのIL−1B(+3877)対立遺伝子1を含む遺伝子型が、CRPの40%の増加と関連していた(p=0.03)。この結果は、IL−1B(−511)のすべての遺伝子型の組み合わせで確認された。