JP2009515528A - ポリペプチド膜および方法 - Google Patents

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Abstract

第1層高分子電解質を基質の表面上に堆積させて第1層を形成する段階;および第2層高分子電解質を第1層高分子電解質上に堆積させて第2層を形成する段階を含む、膜を作製する方法を本明細書に開示する。第1層高分子電解質、第2層高分子電解質、またはその両方は、ポリマー沈殿剤の存在下で基質上に堆積し;かつ第1層高分子電解質および第2層高分子電解質は逆極性の正味電荷を有する。高分子電解質多層膜の製造時における生物活性分子の保持を改善する方法もまた開示する。

Description

技術分野
本発明は、ナノ加工したポリペプチド膜およびマイクロカプセルの製造、ならびにそのような膜およびマイクロカプセルの作製法および使用法に関する。より具体的には、本発明は、ナノ加工したポリペプチドマイクロカプセル中への機能性生体高分子の封入に関する。
関連出願の相互参照
本出願は、参照により本明細書に組み入れられる2005年11月14日出願の米国仮特許出願第60/736,723号の恩典を主張する。
背景
高分子電解質多層とは、逆帯電した高分子電解質の交互層から構成される薄膜(例えば、数ナノメートル〜ミリメートル厚)である。そのような膜は、適切な基質上への多層組織化により形成され得る。静電的な多層自己組織化(「ELBL」)において、高分子電解質の組織化の物理的基礎は静電気である。連続層の堆積で膜の面電荷密度の符号が逆になるため、膜の積み重ねが可能となる。逆帯電ポリイオンのELBL堆積の一般的原理を図1に示す。ELBL膜工程は普遍的であり比較的単純であるため、多くの異なる種類の表面上に多くの異なる種類の高分子電解質を堆積させることが可能となる。ポリペプチド多層膜は高分子電解質多層膜の一部であり、荷電ポリペプチドを含む少なくとも1層を含む。ポリペプチド多層膜の重要な利点は、環境にやさしい点である、ELBL膜はまた、封入に用いることができる。ポリペプチド膜およびマイクロカプセルの応用には、例えばナノリアクター、バイオセンサー、人工細胞、および薬物送達媒体が含まれる。
ポリペプチドを多層膜中に取り込むための設計原理は、米国特許出願公開第20050069950号(特許文献1)において最初に明らかにされた。簡潔に説明すると、ELBLに対するポリペプチドの適合性は、ポリペプチド上の正味電荷およびポリペプチドの長さに関連している。ELBLに適したポリペプチドは好ましくは、1つまたは複数のアミノ酸配列モチーフ、すなわち約5〜約15アミノ酸残基の長さを有し、かつ静電的堆積に適した線電荷密度を有する連続したアミノ酸配列を含む。ELBLのためのポリペプチドは、様々な方法で、例えば複数のアミノ酸配列モチーフを直接またはリンカーによって相互に連結することにより設計することができる。適切な長さおよび電荷特性を有するポリペプチドを容易に堆積させて、ポリペプチド多層膜の1層または複数層を形成することができる。
タンパク質、ペプチド、およびオリゴヌクレオチドは、強力な治療薬であり得る。しかし、そのような生体分子は、インビボにおいて種々の分解機構の標的となる。機能の長期維持または制御放出のために、生体適合性微小環境内に生体分子および他の生物活性分子を封入することは、標的部位における生物活性分子の利用能を改善するための戦略である。生体分子で被覆した基質上へのポリペプチド膜の堆積も同様に、生体分子の機能の維持を延長し、または生体分子の放出を制御し得る。静電的な多層ナノ組織化は、安定性が高くかつ透過性を調節できる高分子電解質多層膜およびマイクロカプセルを調製する1つの手段である。
加工した生分解性ポリペプチド膜およびマイクロカプセル中に機能性生物活性高分子、例えばタンパク質を直接かつ効率的に保持することを達成する別の手段の必要性がなお存在する。
米国特許出願公開第20050069950号
概要
1つの態様において、膜の作製法は、第1層高分子電解質を基質の表面上に堆積させて第1層を形成する段階;および第2層高分子電解質を第1層高分子電解質上に堆積させて第2層を形成する段階を含む。第1層高分子電解質、第2層高分子電解質、またはその両方は、ポリマー沈殿剤の存在下で基質上に堆積し;第1層高分子電解質および第2層高分子電解質は逆極性の正味電荷を有する。別の態様において、第1層高分子電解質、第2層高分子電解質、またはその両方は、リジン、グルタミン酸、または中性pHにおいて荷電側鎖を有する別のアミノ酸種のホモポリペプチドを含む。別の態様において、第1層高分子電解質、第2層高分子電解質、またはその両方は設計ポリペプチドを含み、設計ポリペプチドは1つまたは複数の第1アミノ酸配列モチーフを含み、1つまたは複数の第1アミノ酸配列モチーフは5〜15アミノ酸残基からなり、残基当たり0.4以上の大きさの正味電荷を有し、かつ設計ポリペプチドはホモポリペプチドではなく、少なくとも15アミノ酸残基長であり、残基当たり0.4以上の大きさの正味電荷を有する。
別の態様において、高分子電解質多層膜の製造時における生物活性分子の保持を改善する方法は、第1層高分子電解質を基質の表面上に堆積させて第1層を形成する段階;および第2層高分子電解質を第1層高分子電解質上に堆積させて第2層を形成する段階を含む。第1層高分子電解質、第2層高分子電解質、またはその両方は、ポリマー沈殿剤の存在下で基質上に堆積し;第1層高分子電解質および第2層高分子電解質は逆極性の正味電荷を有し;基質は生物活性分子を含む。
上記およびその他の特徴を、以下の図および詳細な説明によって例証する。
詳細な説明
本発明は、高分子電解質多層膜、特に膜を作製するための新規な方法に関する。1つの態様において、膜は生物活性分子を含む。別の態様において、高分子電解質多層膜は、1つまたは複数のポリペプチド層を含む。
本明細書で使用する「層」とは、吸着段階後の、例えば膜形成用の基質上での厚み増加を意味する。「多層」とは、複数(すなわち、2つまたはそれ以上)の厚み増加を意味する。「高分子電解質多層膜とは」、高分子電解質の1つまたは複数の厚み増加を含む膜である。堆積後、多層膜の層は分離した層として残らなくてよい。実際に、特に厚み増加の界面において、種の顕著な混合が起こり得る。
「高分子電解質」という用語には、1,000超の分子量および分子当たり少なくとも5電荷を有するポリカチオンおよびポリアニオン材料が含まれる。適切なポリカチオン材料には、例えばポリアミンが含まれる。ポリアミンには、例えばポリペプチド、ポリビニルアミン、ポリ(アミノスチレン)、ポリ(アミノアクリレート)、ポリ(N-メチルアミノアクリレート)、ポリ(N-エチルアミノアクリレート)、ポリ(N,N-ジメチルアミノアクリレート)、ポリ(N,N-ジエチルアミノアクリレート)、ポリ(アミノメタクリレート)、ポリ(N-メチルアミノ-メタクリレート)、ポリ(N-エチルアミノメタクリレート)、ポリ(N,N-ジメチルアミノメタクリレート)、ポリ(N,N-ジエチルアミノメタクリレート)、ポリ(エチレンイミン)、ポリ(ジアリルジメチル塩化アンモニウム)、ポリ(N,N,N-トリメチルアミノアクリレートクロライド)、ポリ(メチルアクリルアミドプロピルトリメチル塩化アンモニウム)、キトサン、および前述のポリカチオン材料の1つまたは複数を含む組み合わせが含まれる。適切なポリアニオン材料には、例えばポリペプチド、核酸、アルギン酸、カラゲナン、フルセララン、ペクチン、キサンタン、ヒアルロン酸、ヘパリン、ヘパラン硫酸、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、デキストラン硫酸、ポリ(メタ)アクリル酸、酸化セルロース、カルボキシメチルセルロース、酸性多糖、およびクロスカメロース、ペンダントカルボキシル基含有合成ポリマーおよびコポリマー、ならびに前述のポリアニオン材料の1つまたは複数を含む組み合わせが含まれる。
「アミノ酸」とは、ポリペプチドの構成要素を意味する。本明細書で使用する「アミノ酸」には、通常の天然L-アミノ酸20種、他の天然アミノ酸すべて、非天然アミノ酸すべて、および例えばペプトイドといったアミノ酸模倣体のすべてが含まれる。
「天然アミノ酸」とは、通常の天然L-アミノ酸20種、すなわちグリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、スレオニン、システイン、メチオニン、アスパラギン酸、アスパラギン、グルタミン酸、グルタミン、アルギニン、リジン、ヒスチジン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、およびプロリンを意味する。
「非天然アミノ酸」とは、通常の天然L-アミノ酸20種のいずれとも異なるアミノ酸を意味する。非天然アミノ酸は、L-またはD-立体化学を有し得る。
「ペプトイド」すなわちN-置換グリシンとは、対応するアミノ酸と同じ側鎖を有するが、側鎖が残基のα-炭素ではなくアミノ基の窒素原子に付加された、対応するアミノ酸単量体の類似体を意味する。その結果として、ポリペプトイド中の単量体間の化学結合はペプチド結合ではなく、これはタンパク質分解消化を制限するのに有用であり得る。
「アミノ酸配列」および「配列」とは、少なくとも2アミノ酸残基長である連続した長さのポリペプチド鎖を意味する。
「残基」とは、ポリマーまたはオリゴマー中のアミノ酸を意味する;これは、ポリマーを形成するためのアミノ酸単量体の残基である。ポリペプチド合成は脱水を含み、すなわちポリペプチド鎖にアミノ酸が付加されると水分子が1つ「失われる」。
「アミノ酸配列モチーフ」とは、n個(nは5〜15)の残基を含む連続したアミノ酸配列を意味する。1つの態様において、アミノ酸配列モチーフの残基当たりの正味電荷の大きさは0.4以上である。別の態様において、アミノ酸配列モチーフの残基当たりの正味電荷の大きさは0.5以上である。本明細書で使用する正味電荷の大きさとは正味電荷の絶対値を指し、すなわち正味電荷は正または負であってよい。
「設計ポリペプチド」とは、1つまたは複数のアミノ酸配列モチーフを含むポリペプチドであって、ポリペプチドは少なくとも15アミノ酸長であり、ポリペプチド中の残基の総数に対する、同じ極性の荷電残基数−逆の極性の残基数の比はpH 7.0で0.4以上である。言い換えると、ポリペプチドの残基当たりの正味電荷の大きさは0.4以上である。1つの態様において、ポリペプチド中の残基の総数に対する、同じ極性の荷電残基数−逆の極性の残基数の比はpH 7.0で0.5以上である。言い換えると、ポリペプチドの残基当たりの正味電荷の大きさは0.5以上である。ポリペプチドの長さに絶対的な上限はないが、一般的には、ELBL堆積に適した設計ポリペプチドは、実際的な長さ上限1,000残基を有する。
「一次構造」とはポリペプチド鎖中のアミノ酸の連続した線状配列を意味し、「二次構造」とは、非共有結合性相互作用、通常は水素結合によって安定化されるポリペプチド鎖中のほぼ規則的な構造型を意味する。二次構造の例には、αヘリックス、βシート、およびβターンが含まれる。
「ポリペプチド多層膜」とは、上記の設計ポリペプチドのような1つまたは複数のポリペプチドを含む膜を意味する。例えば、ポリペプチド多層膜は、設計ポリペプチドを含む第1層、および設計ポリペプチドと逆の極性の正味電荷を有する高分子電解質を含む第2層を含む。例えば、第1層が正味の正電荷を有する場合、第2層は正味の負電荷を有する;および第1層が正味の負電荷を有する場合、第2層は正味の正電荷を有する。第2層は、別の設計ポリペプチドまたは別の高分子電解質を含む。
「基質」とは、水溶液からの高分子電解質の吸着に適した表面を有する固体材料である。基質の表面は、例えば平面、球状、棒状など、本質的に任意の形状を有してよい。基質表面は規則的または不規則的であってよい。基質は結晶であってよい。基質は任意に生物活性分子を含む。基質の大きさの範囲は、ナノスケールからマクロスケールである。さらに、基質は任意にいくつかの小さな亜粒子を含む。基質は有機材料、無機材料、生物活性材料、またはそれらの組み合わせからなってよい。基質の非限定的な例には、シリコンウエハー;荷電コロイド粒子、例えばCaCO3またはメラミンホルムアルデヒド微粒子;タンパク質結晶;核酸結晶;薬物結晶;生体細胞、例えば赤血球、肝細胞、細菌細胞、または酵母細胞など;有機ポリマー格子、例えばポリスチレンまたはスチレンコポリマー格子;リポソーム;細胞小器官;およびウイルスが含まれる。1つの局面において、基質は、人工ペースメーカー、人工内耳、またはステントなどの医療機器である。
膜形成中または膜形成後に基質を分解するかまたはさもなくば除去する場合、基質は(膜形成のための)「鋳型」と称される。鋳型粒子は、適切な溶媒中に溶解するか、または熱処理によって除去することができる。例えば、部分的架橋メラミンホルムアルデヒト鋳型粒子を使用する場合、鋳型は穏和な化学的方法で、例えばDMSO中で、またはpH値の変化により分解することができる。鋳型粒子の溶解後、交互高分子電解質層から構成される中空多層殻が残る。
「マイクロカプセル」とは、中空殻またはコアを取り囲むコーティングの形態の高分子電解質膜である。したがって、コアという用語はマイクロカプセルの内部を意味する。コアは、例えば液体または結晶形態のタンパク質、薬物、またはこれらの組み合わせなどの様々な異なる封入物を含む。
「生物活性分子」とは、生物学的効果を有する分子、高分子、または高分子集合物を意味する。特定の生物学的効果は、適切なアッセイ法、および生物活性分子の単位重量当たりまたは分子当たりの標準化により測定することができる。生物活性分子は、高分子電解質膜の裏に封入する、保持する、または高分子電解質膜内に封入することができる。生物活性分子の非限定的な例は、薬物、薬物の結晶、タンパク質、タンパク質の機能的断片、タンパク質の複合体、リポタンパク質、オリゴペプチド、オリゴヌクレオチド、核酸、リボソーム、活性治療薬、リン脂質、多糖、リポ多糖である。本明細書で使用する「生物活性分子」は、例えば機能的膜断片、膜構造、ウイルス、病原体、細胞、細胞の凝集体、および細胞小器官などの生物活性構造をさらに包含する。ポリペプチド膜の裏に封入または保持できるタンパク質の例は、ヘモグロビン;酵素、例えばグルコースオキシダーゼ、ウレアーゼ、リゾチームなど;細胞外基質タンパク質、例えばフィブロネクチン、ラミニン、ビトロネクチン、およびコラーゲン;ならびに抗体である。ポリペプチド膜の裏に封入または保持できる細胞の例は、移植島細胞、真核生物細胞、細菌細胞、植物細胞、および酵母細胞である。
「生体適合性」とは、経口摂取、局所適用、経皮適用、皮下注射、筋肉内注射、吸入、移植、または静脈注射において、健康に実質的悪影響をもたらさないことを意味する。例えば、生体適合性膜には、例えばヒトの免疫系と接触した場合に、実質的免疫応答をもたらさないものが含まれる。
「免疫応答」とは、体内のいずれかにおける物質の存在に対する細胞性または体液性免疫系の応答を意味する。免疫応答は、いくつかの方法によって、例えば特定の抗原を認識する抗体の数が血流中で増加することによって特徴づけることができる。抗体はB細胞が分泌するタンパク質であり、抗原は免疫応答を誘発する実体である。人体は、血流および他の部分における抗体数を増すことによって感染と戦い、再感染を阻害する。特定の免疫応答はある程度個体に依存するが、一般的な応答パターンが標準的である。
「エピトープ」とは、抗体が認識するタンパク質の構造または配列を意味する。通常、エピトープはタンパク質の表面上に存在する。「連続したエピトープ」とは、いくつかの連続したアミノ酸残基を含むエピトープであり、折りたたみタンパク質内で接触するか、または空間の限定領域中に存在するアミノ酸残基を含むエピトープではない。
「ポリマー沈殿剤」とは、生物活性分子の溶解度に影響する可溶性ポリマーなどの化学物質を意味する。1つの態様において、ポリマー沈殿剤とは、鋳型上に吸着させる生物活性分子の水中での溶解度、および/または鋳型上での膜の製造に使用する高分子電解質の水中での溶解度を減少させる水溶性ポリマーを意味する。水溶液中で、ポリマー沈殿剤は生物活性分子被覆鋳型の表面から溶媒水分子を引き付けて、大量水溶液中での生物活性分子の溶解度を効率的に減少させ、それによって高分子電解質膜組織化工程中に鋳型上に保持される生物活性分子の量を増加させる。ポリマー沈殿剤はまた、カプセル膜を介した浸透圧勾配を変化させることにより、鋳型溶解時のカプセル安定性に好ましい影響を与え得る。
ポリマー沈殿剤の非限定的な例は、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリアクリル酸(ナトリウム塩)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン、ポリプロピレングリコール(PPG)、ジエチルアミノエチルデキストラン、ポリエチレンイミン(PEI)、および前述のポリマー沈殿剤の1つまたは複数を含む組み合わせである。ポリマー沈殿剤の好ましい分子量は、ポリマーによって異なる。分子量はポリマー沈殿剤の溶解度の強力な決定要因であり、分子量が大きいほど、溶解度は低くなる。生体高分子のポリマー沈殿剤としての使用に関する言及したポリマーのいくつかの分子量の実際の値は、PPGでは425 Da、PVAでは5,000 Da、およびPEIでは40〜60 kDaである。そのようなポリマーの溶解度に関するさらなる詳細は、科学文献において容易に入手することができる。
本明細書に開示する本発明の1つの局面は、多層膜の作製法を提供する。本方法は、逆帯電した高分子電解質の複数の層を基質上に堆積させる段階を含む。逆帯電高分子電解質の少なくとも1つの堆積は、ポリマー沈殿剤の存在下で行う。いくつかの態様において、堆積は多層組織化(LBL)である。連続する堆積層は、逆符号の正味電荷を有する。1つの態様において、1つまたは複数の層は設計ポリペプチドを含む。他の態様において、逆帯電ポリペプチドの少なくとも1つは、ポリ(L-リジン)またはポリ(L-グルタミン酸)などのホモポリペプチドを含む。
静電的多層堆積に適したポリペプチドの設計原理は、参照により本明細書に組み入れられる米国特許出願公開第2005/0069950号に明らかにされている。簡潔に説明すると、第1の設計懸案事項はポリペプチドの長さおよび電荷である。静電気はELBLの基礎であるため、最も重要な設計懸案事項である。適切な電荷特性がなければ、ポリペプチドはpH 4〜10の水溶液中で実質的に可溶性とならず、ELBLによる多層膜の製造に容易に用いることができない。他の設計懸案事項には、ポリペプチドの物理的構造、ポリペプチドから形成される膜の物理的安定性、ならびに膜および成分ポリペプチドの生体適合性および生物活性が含まれる。
上記のように、設計ポリペプチドとは1つまたは複数のアミノ酸配列モチーフを含むポリペプチドであって、少なくとも15アミノ酸残基長であり、ポリペプチドの残基当たりの正味電荷の大きさがpH 7.0で0.4以上であるポリペプチドを意味する。「アミノ酸配列モチーフ」とは、n個のアミノ酸残基(nは5〜15)を含む連続したアミノ酸配列を意味する。pH 7.0で正に荷電した(塩基性)天然アミノ酸は、Arg、His、およびLysである。pH 7.0で負に荷電した(酸性)天然アミノ酸はGluおよびAspである。逆電荷のアミノ酸残基の混合物を含むアミノ酸モチーフは、電荷の全体的比率が特定の基準を満たす限り使用することができる。1つの態様において、設計ポリペプチドはホモポリペプチドではない。
1つの例示的な態様において、アミノ酸配列モチーフは7つのアミノ酸残基を含む。4未満の電荷ではペプチド溶解度が減少し、ELBLにおける制御が低下するため、モチーフサイズ7に対して4つの荷電アミノ酸残基が適切な最小値である。さらに、生体適合性に関して、ゲノムデータ中に同定される各アミノ酸配列モチーフの7アミノ酸残基は、タンパク質の表面上およびその内部の両方の残基に実質的に対応しない限り、連続したエピトープを構成するのに十分長い。したがって、アミノ酸配列モチーフの電荷および長さは、ゲノムデータ中に同定されるアミノ酸配列モチーフが、その配列モチーフが由来した折りたたみタンパク質の表面上に存在する可能性が高いことを保証するのに役立つ。対照的に、非常に短いモチーフは身体にとってランダム配列または特に「自己」でない配列のように見え、よって免疫応答を誘発する場合がある。
場合によって、アミノ酸配列モチーフおよび設計ポリペプチドに関する設計懸案事項は、二次構造、特にαヘリックスまたはβシートを形成しがちなそれらの傾向である。いくつかの態様では、薄膜層形成において制御を最大限にするために、水性媒体中での設計ポリペプチドによる二次構造形成を制御できること、例えば最小限にできることが望ましい。第一に、長いモチーフは溶液中で安定した三次元構造をとる可能性がより高いため、配列モチーフは比較的短いこと、すなわち約5〜約15アミノ酸残基であることが好ましい。第二に、設計ポリペプチド中の連続したアミノ酸配列モチーフ間に共有結合で連結されるグリシンまたはプロリン残基などのリンカーは、ポリペプチドが溶液中で二次構造をとる傾向を軽減する。例えばグリシンは、非常に低いαヘリックス傾向および非常に低いβシート傾向を有し、よってこれはグリシンおよびその隣接アミノ酸が水溶液中で規則正しい二次構造を形成するのにエネルギー的に非常に不利である。第三に、設計ポリペプチド自体のαヘリックスおよびβシート傾向は、合計αヘリックス傾向が7.5未満であり、合計βシート傾向が8未満であるアミノ酸配列モチーフを選択することによって最小限にすることができる。「合計」傾向とは、モチーフ中の全アミノ酸のαヘリックスまたはβシート傾向の合計を意味する。合計αヘリックス傾向および/または合計βシート傾向がある程度高いアミノ酸配列モチーフは、特にGlyまたはProなどのリンカーによって連結した場合に、ELBLに適している。特定の適用においては、ポリペプチドが二次構造を形成する傾向は、薄膜製造の特定の設計特性として比較的高くてよい。天然アミノ酸全20種の二次構造傾向は、Chou and Fasmanの方法を用いて計算することができる(その全体が参照により本明細書に組み入れられるP. Chou and G. Fasman, Biochemistry, 13:211 (1974)を参照されたい)。
別の設計懸案事項は、ポリペプチドELBL膜の安定性の制御である。イオン結合、水素結合、ファンデルワールス相互作用、および疎水性相互作用は、多層膜の安定性に寄与する。さらに、同じ層内または隣接する層内のポリペプチド中のスルフヒドリル含有アミノ酸間に形成される共有結合性ジスルフィド結合は、構造強度を増大し得る。スルフヒドリル含有アミノ酸には、システインおよびホモシステインが含まれる。さらに、スルフヒドリルは、D,L-β-アミノ-β-シクロヘキシルプロピオン酸;D,L-3-アミノブタン酸;または5-(メチルチオ)-3-アミノペンタン酸などのβ-アミノ酸に付加することができる。スルフヒドリル含有アミノ酸は、酸化能の変化によって、多層ポリペプチド膜の「固定」(結合)および「固定解除」層として用いることができる。また、スルフヒドリル含有アミノ酸を設計ポリペプチドの配列モチーフ中に取り込むことで、分子間ジスルフィド結合形成によって、薄膜製造における比較的短いペプチドの使用が可能になる。スルフヒドリル含有アミノ酸を含むアミノ酸配列モチーフは、以下に記載する方法を用いて同定されたモチーフのライブラリーから選択することができ、または新規に設計することができる。
1つの態様において、スルフヒドリル含有設計ポリペプチドは、化学合成したのか宿主生物において産生させたのかにかかわらず、中途のジスルフィド結合形成を妨げるために、還元剤の存在下でELBLにより組織化する。膜の組織化後に還元剤を除去し、酸化剤を添加する。酸化剤の存在下において、スルフヒドリル基間にジスルフィド結合が形成され、それによってチオール基が存在する層内および層間のポチペプチドが「固定」される。適切な還元剤には、ジチオスレイトール(「DTT」)、2-メルカプトエタノール(2-ME)、還元型グルタチオン、トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩(TCEP)、およびこれらの化学物質の2つ以上の組み合わせが含まれる。適切な酸化剤には、酸化型グルタチオン、tert-ブチルヒドロペルオキシド(t-BHP)、チメロサール、ジアミド、5,5'-ジチオ-ビス-(2-ニトロ-安息香酸)(DTNB)、4,4'-ジチオジピリジン、臭素酸ナトリウム、過酸化水素、テトラチオン酸ナトリウム、ポルフィリンジン(porphyrindin)、オルトヨードソ安息香酸、およびこれらの化学物質の2つ以上の組み合わせが含まれる。
生体適合性は、生物医学的適用における設計懸案事項である。そのような適用では、ゲノムまたはプロテオミクス情報をポリマー設計の基礎として用いて、理想的には「免疫不活性」ポリペプチドを得る。このアプローチは、製造または被覆した物体が循環血液と接触する場合に特に有用である。アミノ酸配列モチーフは極性が高いため、典型的には、それらが由来したタンパク質の天然折りたたみ型の表面上に存在する。「表面」とは、溶媒と接触しているか、または単に水の粒状性質という理由で溶媒に到達できない、折りたたみタンパク質の部分である。血液タンパク質中に同定されるアミノ酸配列モチーフは、そのようなタンパク質が血中に存在する場合に、免疫系の細胞および分子と効率的に常に接触している。したがって、折りたたみ血液タンパク質の表面に由来するポリペプチドは、ランダムに選択した配列よりも免疫原性となる可能性が低い。設計ポリペプチドは一般的に生体適合性であるが、免疫応答の程度または任意の他の種類の生物学的応答は、配列モチーフの具体的詳細に十分に依存し得る。
いくつかの方法により、生物活性を膜、コーティング、またはマイクロカプセルに取り込むことができる。例えば、膜を含む設計ポリペプチドは機能的ドメインを含み得る。または、生物活性は、ポリペプチド薄膜によって封入または被覆される別の生物活性分子に付随し得る。1つの態様において、鋳型はタンパク質結晶などの生物活性分子を含む。
この状況における機能的ドメインとは、特定の生体機能性(例えば、ホスホチロシン結合)を有するタンパク質の独立的熱安定性領域である。例えばホスホチロシン結合ドメインおよびタンパク質チロシンホスファターゼドメインを包含するタンパク質テンシンと同様に、多ドメインタンパク質には複数の機能的ドメインが存在し得る。多層膜中に取り込む設計ポリペプチド中に機能的ドメインを含めることで、例えば特異的リガンド結合、インビボでの標的化、バイオセンサー、および生体触媒を含む所望の機能性を有する膜が提供され得る。
生物活性分子は、タンパク質、タンパク質の機能的断片、設計ポリペプチドの一部ではないタンパク質の機能的断片、タンパク質の複合体、オリゴペプチド、オリゴヌクレオチド、核酸、リボソーム、活性治療薬、リン脂質、多糖、リポ多糖、機能的膜断片、膜構造、ウイルス、病原体、細胞、細胞の凝集体、細胞小器官、脂質、炭水化物、医薬品、または抗菌剤であってよい。生物活性分子は、秩序だったまたは無定形の結晶形態であってよい。タンパク質は酵素または抗体であってよい。基質は生物活性分子を含み得る。1つの態様において、基質は、逆帯電ポリペプチドの層の堆積前に、その表面上に堆積した生物活性分子を有する。別の態様において、基質は生物活性分子を含む結晶である。
1つの態様において、アミノ酸配列モチーフは新規に設計される。他の態様において、アミノ酸配列モチーフは、ヒトゲノムなどの特定の生物のゲノムまたはプロテオミクス情報から選択される。例えば、補体C3(gi|68766)またはラクトトランスフェリン(gi|4505043)の一次構造を用いて、ヒト血液タンパク質中のアミノ酸配列モチーフを探索することができる。
ポリペプチド中の第1アミノ酸配列を同定する方法は、ポリペプチド中の開始アミノ酸残基を選択する段階;ポリペプチド中の開始アミノ酸残基およびそれに続くn-1個のアミノ酸残基を含むアミノ酸配列を、正電荷および負電荷の出現について調べる段階であり、ここでnは5〜15である;5〜15個のアミノ酸残基の側鎖のpH 7での正味電荷が0.4*n以上であるならば、その5〜15個のアミノ酸残基をアミノ酸配列モチーフとして決定する段階;または5〜15個のアミノ酸残基の側鎖のpH 7での正味電荷が0.4*n未満であるならば、その配列を捨てる段階を含む。
1つの態様において、中性または負に荷電したアミノ酸のみを含む長さnの負荷電アミノ酸配列モチーフについてタンパク質配列を探索する過程を以下に記載する。最初に、タンパク質配列において第1アミノ酸残基を選択する。第二に、このアミノ酸残基およびそれに続くn-1個のアミノ酸残基を、アルギニン(Arg)、ヒスチジン(His)、またはリジン(Lys)(中性pHにおいて正に荷電し得る3つの天然アミノ酸)の出現について調べる(nは5〜15)。第三に、これらn個のアミノ酸残基中に1つまたは複数のArg、His、またはLysが認められるならば、第2アミノ酸残基においてこの過程を新たに開始する。しかし、これらn個のアミノ酸残基中にArg、His、およびLysが認められなければ、n個の残基を調べて、グルタミン酸(Glu)および/またはアスパラギン酸(Asp)(中性pHにおいて負に荷電する2つのアミノ酸)の出現数を決定する。第四に、n個の残基中にGluおよび/またはAspが少なくとも0.4*n個出現するならば、この配列を負荷電アミノ酸配列モチーフとして目録に入れる。しかし、負荷電アミノ酸残基の出現が0.4*n個未満であるならば、第1アミノ酸残基から開始したこの配列を捨て、例えば第1アミノ酸残基に直接隣接した第2アミノ酸残基においてこの過程を新たに開始する。モチーフを目録に入れた後、第2アミノ酸残基においてこの過程を新たに開始することができる。
正荷電配列モチーフを同定する過程は、中性または正に荷電したアミノ酸残基のみを含むn残基長のアミノ酸配列であって、アミノ酸残基側鎖の中性pHにおける正味電荷の大きさが0.4*n以上であるアミノ酸配列についてタンパク質配列データを探索することと類似している。
モチーフ中に正荷電および負荷電アミノ酸残基の両方を認める、長さnの負荷電アミノ酸配列モチーフまたは正荷電アミノ酸配列モチーフを同定する過程もまた類似している。例えば、長さnの正荷電アミノ酸配列モチーフを同定する手順とは、ポリペプチドにおいて第1アミノ酸残基を選択することである。次に、このアミノ酸残基およびそれに続くn-1個のアミノ酸残基を、中性pH7において正または負に荷電する残基の出現について調べる。n個のアミノ酸残基側鎖の正味電荷を決定する。正味電荷の絶対値が0.4*n未満であるならば、この配列を捨て、別のアミノ酸においてこの新たな探索を開始し、正味電荷の絶対値が0.4*n以上であるならば、この配列はアミノ酸配列モチーフである。モチーフは、正味電荷がゼロよりも大きければ正であり、正味電荷がゼロ未満であれば負である。
本明細書で定義するアミノ酸配列モチーフの新規設計は、配列が天然に認められるものに限定されないことを除いては、本質的に同様の法則に従う。モチーフの長さn、ならびに正味電荷の所望の符号および大きさを選択する。次いでn個のアミノ酸を、n個のアミノ酸の正味電荷の絶対値が0.4*n以上になるように、電荷の所望の符号および大きさをもたらすアミノ酸配列モチーフについて選択する。アミノ酸配列モチーフの新規設計の潜在的利点は、実施者が、特定の公知のタンパク質配列中に見出されるアミノ酸に限定されることなく、所望の正味電荷を達成するためにすべてのアミノ酸(天然アミノ酸20種およびすべての非天然アミノ酸)の中から選択できる点である。アミノ酸のプールが大きいほど、モチーフの配列を設計する上で選択できる物理的、化学的、および/または生物学的特性の潜在的範囲が、ゲノム配列中のアミノ酸配列モチーフの同定と比較して大きくなる。
本明細書で定義する設計ポリペプチドは、1つまたは複数のアミノ酸配列モチーフを含む。ELBL用のポリペプチドを設計する際には、同じモチーフを反復してもよいし、または異なるモチーフを連結してもよい。1つの態様においては、介在配列なしでアミノ酸配列モチーフを共有結合で連結する。別の態様では、設計ポリペプチドは、リンカーによって共有結合で連結された2つまたはそれ以上のアミノ酸配列モチーフを含む。リンカーは、例えばグリシンまたはプロリンなどの1つまたは複数のアミノ酸残基のようにアミノ酸ベースでよく、または2つのアミノ酸配列モチーフを共有結合で連結するのに適した任意の他の化合物であってよい。1つの態様において、リンカーはアミノ酸残基1〜4個、例えばグリシンおよび/またはプロリン残基1〜4個を含む。設計ポリペプチドが、0.4以上という残基当たりの正味電荷の大きさで維持されるように、リンカーは適切な長さまたは組成を含む。
1つの態様において、設計ポリペプチドは15アミノ酸残基長以上である。他の態様において、設計ポリペプチドは、18、20、25、30、32、または35アミノ酸長よりも長い。ポリペプチドの長さの実際の上限は1,000残基である。
アミノ酸配列モチーフを選択したまたは新規に設計した時点で、アミノ酸ベースのリンカーを有する設計ポリペプチドを、固相合成およびF-moc化学、または遺伝子クローニングおよび形質転換後の細菌における異種発現のような、当技術分野で周知の方法を用いて合成する。設計ポリペプチドは、例えばSynPep Corp.(カリフォルニア州、ダブリン)などのペプチド合成会社で合成してもよく、ペプチド合成機を用いて実験室で作製してもよく、または組換えDNA法により作製してもよい。ペプチド合成の新規な方法の任意の開発は、ペプチドの作製を強化し得るが、本明細書に記載するペプチド設計を基本的に変更することはない。
高分子電解質多層膜の作製法は、逆帯電した高分子電解質の複数の層を基質上に堆積させる段階を含む。1つの態様において、少なくとも1つの高分子電解質は、荷電ホモポリペプチドまたは設計ポリペプチドなどのポリペプチドを含む。連続して堆積させる高分子電解質は、逆の正味電荷を有する。図1はELBL堆積を示す模式図である。1つの態様において、設計ポリペプチド(または他の高分子電解質)の堆積は、設計ポリペプチド(または他の高分子電解質)がELBLに適した正味電荷を有するpHにおいて、これを含む水溶液に基質を曝露する段階を含む。他の態様において、設計ポリペプチドまたは他の高分子電解質の基質上での堆積は、逆帯電したポリペプチドの溶液を順次的に噴霧することによって達成する。さらなる他の態様では、基質上での堆積は、逆帯電した高分子電解質の溶液を同時に噴霧することによる。
多層膜を形成するELBL法では、隣接層の逆電荷により組織化の駆動力が提供される。向かい合う層中の高分子電解質が同じ正味線電荷密度を有することは重要ではなく、向かい合う層が逆電荷を有することが重要である。堆積のための1つの標準的な膜組織化手順は、高分子電解質の水溶液をそれがイオン化するpH(すなわち、pH 4〜10)で形成する段階、表面荷電を有する基質を提供する電解、および荷電した高分子電解質溶液中に基質を交互に浸漬する段階を含む。基質は任意に、交互層の堆積間で洗浄する。
高分子電解質の堆積に適した高分子電解質の濃度は、当業者により容易に決定され得る。例示的な濃度は0.1〜10 mg/mLである。典型的に、生成される層の厚さは、表示範囲において、堆積時の高分子電解質の溶液濃度に実質的に依存しない。ポリ(アクリル酸)およびポリ(アリルアミン塩酸塩)などの典型的な非ポリペプチド高分子電解質の場合、層の厚さは溶液のイオン強度に応じて約3〜約5Åである。短い高分子電解質は多くの場合、長い高分子電解質よりも薄い層を形成する。膜の厚さに関して、高分子電解質膜の厚さは、湿度ならびに層数および膜の組成に依存する。例えば、50 nm厚のPLL/PLGA膜は、窒素による乾燥に際して1.6 nmまで収縮する。一般的に、厚さが1 nm〜100 nmまたはそれ以上の膜は、膜の水和状態、および組織化に使用する高分子電解質の分子量に応じて形成され得る。
さらに、安定した高分子電解質多層膜を形成するのに必要な層数は、膜中の高分子電解質に依存する。低分子量のポリペプチド層のみを含む膜の場合、膜は典型的に、逆帯電ポリペプチドの4枚またはそれ以上の二重層を有する。ポリ(アクリル酸)およびポリ(アリルアミン塩酸塩)などの高分子量の高分子電解質を含む膜の場合、逆帯電高分子電解質の単一の二重層を含む膜が安定であり得る。
本明細書に開示するように、1つまたは複数の高分子電解質を、典型的にpH 4〜10の水溶液中で、ポリマー沈殿剤の存在下で基質上に堆積させる。ポリマー沈殿剤を使用することで、例えば、多層膜内に含まれる生物活性分子の喪失が有利に最小限に抑えられる。
所与の一連の堆積条件に関して、特定の分子量のポリマー沈殿剤の量は、特定の堆積工程に不適切な粘度の堆積溶液を生じることなく、鋳型に吸着させる生物活性分子の喪失を最小限にするように選択し得る。一般的に、ポリマー沈殿剤の適切な濃度は、沈殿剤の分子構造およびその分子量に依存する。一般的に、ポリマー沈殿剤の濃度が高いほど、高分子の不溶性が高くなる。ポリマー沈殿剤濃度の代表的な実際値は、以下のように示され得る:分子量3500〜4000 DaのPEGまたは分子量425 DaのPPGまたは分子量5000 DaのPVAまたは分子量40〜60 kDaのPEIについては、5〜15重量%である。300 DaのPEGは、3500〜4000 DaのPEGよりもかなり溶解度が高く;前者は約50重量%まで水溶液中で溶解し得る。特定の沈殿剤の最大有用濃度は、共沈殿剤の濃度の増加と関連して減少し;例えば、PEG 300の有用濃度は、PVAが存在する場合に低くなる。ポリマー沈殿剤およびペプチド溶液の粘性が高すぎる場合、それをどのくらい噴霧するかを制御することは不可能となる。LBL法に関して、粘度は、堆積溶液中の高分子電解質の拡散速度に影響し、膜組織化工程を遅らせ得る。ポリマー沈殿剤として有用な他のポリマーの濃度および分子量を決定するには、吸着させる生物活性分子の保持と堆積溶液の粘度に及ぼす効果間の、任意の特定の堆積条件セットにおけるバランスを平衡させ得る。
ポリマー沈殿剤としてのPEGの例では、約50%(v/v)までの溶液濃度のPEG 300を、溶液が液体状態でありつづける温度範囲にわたり、名目上は、約1気圧の純水において約0〜約100℃で用いることができる。沈殿剤が溶液中に存在し、生物活性分子の機能的活性が不可逆的に不活化されない場合には、ある程度広い温度範囲を用いることが可能である。所与の一連の堆積条件におけるこれらの方法において有効であり得る特定分子量のPEGの濃度は、少なくとも一部において適切な溶液粘度の維持によって決まる。
1つの態様において、多層膜またはマイクロカプセルは生物活性分子を含む。1つの態様において、生物活性分子は、1つまたは複数の高分子電解質層と共に共堆積させる。別の態様においては、基質が生物活性分子を含む。例えば、基質は、薬物またはタンパク質などの液体または結晶生物活性分子を含む鋳型であってよい。別の態様では、基質を生物活性分子で被覆する。例えば、CaC03粒子などの不活性コアを生物活性分子で被覆してから、これに高分子電解質層を堆積させ得る。高分子電解質の堆積後にCaC03粒子を除去して、生物活性分子を含む中空マイクロカプセルを形成することができる。
1つの態様において、ポリマー沈殿剤は、膜の作製における高分子電解質の堆積に、および吸着させる生物活性分子の溶解度を減少させ、それによって封入する材料の量を増加させる上で好ましい効果を及ぼす。所与のポリマー沈殿剤の適切な濃度を実験的に決定する際には、生物活性分子の鋳型からの喪失を測定するための適切なアッセイ法を用い得る。例えば、生物活性分子は、フルオレセインまたはCY3などの蛍光基、蛍光シアニン化合物(Amersham BioSciences)、またはチロシンなどの特徴的な吸光度スペクトルを有する基で標識することができる。鋳型に保持される蛍光または吸収を決定するアッセイを行い、特定濃度の所与のポリマー沈殿剤の存在下または非存在下における生物活性分子の保持を評価することができる。
本発明はさらに、本方法によって作製される膜を含む。いくつかのポリマー沈殿剤は、製造工程中に膜に取り込まれる可能性がある。場合によっては、そのような取り込みは望ましいかまたは有用であり得る。
別の局面において、高分子電解質多層膜の製造時における生物活性分子の保持を改善する方法を提供する。いくつかの態様において、本方法は、生物活性分子を含む基質上に逆帯電高分子電解質の複数の層を堆積させる段階を含み、この場合、逆帯電高分子電解質の1つまたは複数の堆積はポリマー沈殿剤の存在下で行う。1つの態様において、高分子電解質の1つまたは複数はポリペプチドを含む。他の態様において、本方法は、生物活性分子を基質上に吸着させる段階;および生物活性分子で被覆した基質上に逆帯電高分子電解質の複数の層を堆積させる段階を含む。逆帯電高分子電解質の1つもしくは複数の堆積および/または生物活性分子の吸着は、ポリマー沈殿剤の存在下で行う。ポリマー沈殿剤の存在下で高分子電解質層の堆積中に保持される生物活性分子の量は、ポリマー沈殿剤の非存在下で保持される量と比較して、少なくとも15%、少なくとも30%、少なくとも50%、少なくとも67%、少なくとも100%、または少なくとも200%改善される。
いくつかの態様において、逆帯電高分子電解質の堆積は、水溶液からのLBL堆積による。他の態様において、逆帯電高分子電解質の基質上での堆積は、逆帯電高分子電解質の溶液の同時噴霧による。いくつかの態様において、鋳型上に堆積させる逆帯電高分子電解質はアミノ酸配列モチーフを含み、アミノ酸配列モチーフはn個のアミノ酸を含み、アミノ酸モチーフ中の同一電荷の電荷バランスは0.4*n以上である。他の態様において、逆帯電高分子電解質の少なくとも1つはPLLまたはPLGAを含む。
生物活性分子は、例えばタンパク質、オリゴペプチド、核酸、オリゴヌクレオチド、脂質、炭水化物、医薬品、抗菌剤、膜構造、細胞、ウイルス、組織、またはそれらの組み合わせである。タンパク質は酵素であってよい。いくつかの態様において、酵素はグルコースオキシダーゼである。
いくつかの態様においては、生物活性分子を鋳型上に堆積させる。適切な鋳型には、有機基質および/または無機基質が含まれる。鋳型は、基質または鋳型を含む溶液の化学的または物理的特性を変化させることにより溶解または分解され得る材料を含み得る。例えば、いくつかの態様において、鋳型はCaCO3微粒子を含み、これはEDTAとの混合により溶解することができる。他の態様において、鋳型はタンパク質または薬物などの結晶生物活性分子である。
本発明のこの局面は、これらの方法によって作製される、生物活性分子を保持するポリペプチド膜をさらに提供する。
本発明を、以下の非限定的な実施例によりさらに説明する。
実施例1. CaCO3およびMF粒子上へのグルコースオキシダーゼ(GOx)の吸着
モデルタンパク質はGOxとしたが、これはその有用な酵素的特性で選択された。GOx吸着実験では、5 mgのCaCO3粒子(PlasmChem GmbH、ドイツ)またはメラミンホルムアルデヒド(MF)粒子を、10 mM Tris緩衝液、pH 7.4中の37,300単位/gクロコウジカビ(A. niger)由来II-S型GOx(SIGMA、米国) 100μLと混合した。GOxの吸着は、GOx溶液が液体状態のままである温度、名目上は、約1気圧の純水において約0〜約100℃であって、かつGOx酵素活性が不可逆的に不活化されない温度で行い得る。最終粒子濃度は5%(w/v)であった。微粒子上への酵素吸着は、Jasco V-430分光光度計(日本)を用いて、280 nmにおける液相の吸光度の減少により定量した。GOx負荷微粒子を、遠心分離によりポリペプチド吸着溶液から分離した。供給溶液中のGOx濃度および塩濃度に応じた粒子への吸着を、図2に示す。CaCO3粒子に負荷されたGOxの最大量は、約76μg/mg粒子、または粒子体積を4.6 x 10-11 cm3と仮定すると約9.4 x 10-12グラム酵素/粒子であった。図2から、いずれの鋳型に対する最大吸着も、これらの堆積条件下において一価塩を添加せずに達成されたことが示される。
実施例2. ポリペプチドマイクロカプセル中への酵素の封入
商業的供給源から容易に入手できるという理由で、この封入パイロット試験における層の堆積用の逆帯電ポリペプチドとして、ポリ(L-リジン)(PLL)(分子量約14.6 kDa)およびポリ(L-グルタミン酸)(PLGA)(分子量約13.6 kDa)を選択した。PLLおよび/またはPLGAの代わりに設計ポリペプチドに関わる封入も、これに類似すると考えられる。この目的に用いられている逆帯電ペプチドの対の例は、Li and Haynie (2004) Biomacromolecules 5:1667-1670に提供されている。
5 mg/mL GOx溶液0.10 mLをCaCO3微粒子5 mgに添加し、2時間かけて十分に混合し、液相を除去するために1000 x gで5分間遠心分離して、CaCO3微粒子にGOxを吸着させた。
GOx吸着CaCO3微粒子上での各ポリペプチド多層の堆積には、4℃で穏やかに振盪させながら10分間自己組織化を行うこと、およびその後遠心分離して液相中の未結合ペプチドから粒子を分離することが必要であった。10 mM Tris、0.5 M NaCl、pH 7.4中のPLL(分子量約14.6 kDa)またはPLGA(分子量約13.6 kDa)の1 mg/mL溶液0.1 mL量を、4℃で微粒子に添加し、十分に混合した。PLLおよびPLGAの交互層を、微粒子上に堆積させた。ポリペプチド溶液中には、50%(v/v)までのPEG 300(Fluka)が存在した;平均分子量がより高いPEGは、この目的に対して過度に粘性の高い溶液を生じる傾向があった。各ポリペプチド吸着段階の次に粒子から液相を分離した後、組織化溶液上清を芳香族の吸光度について解析した。PLLおよびPLGAは芳香族残基を含まず、したがって280 nmで吸収しない;GOxはこの波長で吸収する。ポリペプチド組織化サイクル間には、2回の中間洗浄段階を脱イオン水により4℃で行った。所望の層数を堆積させるまで(典型的には二重層6枚)、この工程を繰り返した。ポリペプチドの最終層の組織化後、被覆粒子を濯ぎ、遠心分離により回収した。次いで、0.2 M EDTA、pH 7.4を用いる処理により、粒子コアを溶解した。溶解工程は10〜20分間を要した。微粒子を2000 x gでの5分間の遠心分離により回収し、脱イオン水で濯ぎ、10 mM Tris緩衝液0.25 mLに再懸濁した。一定分量の試料を、以下に記載するように酵素活性についてアッセイした。さらなる実験に使用する試料の濃度は、1.5 x 108個カプセル/mLと推定された。図7に示す共焦点蛍光実験については、GOxをCy3標識GOxに置換すること以外、同様の手順に従った。
図3は、ポリマー沈殿剤が存在しない緩衝液中での組織化、40% PEG 300が存在する緩衝液中での組織化、および50% PEG 300が存在する緩衝液中での組織化のための、洗浄液、PLLの組織化緩衝液、およびPLGAの組織化緩衝液中に存在する放出GOxによる280 nmでの吸収としての、封入PLL/PLGA膜の堆積時におけるCaCO3鋳型からの吸着GOxの喪失を示す。40%または50% PEG 300の存在下における第1 PLGA層の堆積時に放出された280 nmでの吸光度の大きさは、PEG 300の非存在下で認められたものよりも有意に低かった。堆積緩衝液中のPEG 300の濃度を10%から50%まで増加させると、膜組織化時における鋳型からのGOxの脱離が減少することが判明した。
PEG 300で検討した濃度に匹敵するPEG 8000の濃度により、ポリペプチド層の自己組織化が時間効率的でない溶液粘度が得られた。PEG 300のように室温で液体である分子量のPEGは、ポリマー沈殿剤として4℃で使用するのに適している。
図4は、封入PLL/PLGA膜の堆積時におけるCaCO3鋳型上のGOxの保持を示す。最初の点は、鋳型上の最初のGOx「負荷」を表す。続く点は、その後のペプチド組織化および粒子濯ぎ段階における鋳型上の残存GOxを示す。2回の堆積サイクルのみを示す。挿入図は、洗浄液および組織化溶液の上清中で測定されたGOx負荷鋳型粒子からのGOxの放出を示す補完データである。
基質としてAmplex Redを含む比色酵素共役アッセイ法を用いて、GOx活性を定量した。図5は、このアッセイ法の反応模式図を示す。GOxが使用するグルコースおよび酸素をカプセル内に拡散させると、グルクロン酸およびH2O2が生成される。H2O2はカプセルの外に拡散し、これをAmplex Redにより間接的に検出する。最初は無色であるこの試薬は、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)(250〜330単位/mg固体)の存在下でH2O2によって酸化され、レゾルフィンを形成し、これをλ=563 nmにおける吸光度により検出することができる。以下の保存溶液を調製した:DMSO中の10 mM Amplex Red試薬(Molecular Probes、米国)、50 mMリン酸緩衝液および0.15 M NaCl(PBS)中の10 U/mL HRP、50 mM PBS中の400 mMグルコース、ならびに50 mM PBS中の100 U/mL GOx。作用溶液は、3つの溶液:Amplex Red 30μL、HRP 75μL、およびグルコース450μLを混合することにより調製した。それぞれ500μLであり0〜10 mU/mLを含むGOxの標準物質溶液は、100 U/mL GOx保存溶液を希釈することにより調製した。カプセル試料およびGOxを含まない対照試料それぞれを、50 mM PBS緩衝液で500μLに希釈した。Amplex Red/HRP/グルコース作用溶液40μLを、標準物質、対照、およびカプセル試料を表すチューブに添加して、反応を開始した。反応混合物を、穏やかに撹拌しながら外気温度で暗下にて30分間インキュベートした。レゾルフィンの吸光度を563 nmで測定した。活性測定値を既知量のGOxのものに対して較正することにより、測定した酵素活性を活性GOxの量に変換した。
図6は、酵素アッセイ法を用いて決定した、ポリペプチドの層数に応じた活性封入GOxの量を示す。ポリペプチド組織化溶液中にPEGを添加した場合および添加しなかった場合の、鋳型溶解後のカプセル中に保持された材料の量を示す。6層未満のカプセルは、溶液中で不安定であった。図6に示すように、ポリペプチド組織化をPEGの非存在下で行った場合、微粒子に付随するGOx活性は、二重層2枚までのPLL/PLGAの堆積において顕著に減少した。測定された活性は、二重層3〜6枚の範囲では、層数に依存せずに一定値(例えば、ポリペプチドの堆積前の値の約11%)に到達する傾向があった。PEGをPLLおよびPLGA組織化溶液に添加すると、ポリペプチドベースの「人工細胞」へのGOxの「負荷」が実質的に改善された。二重層6枚の堆積後かつ相分離の前には、約70%の酵素活性が細胞内に保持された。PEGを用いて組織化した二重層6枚細胞を20分間超音波処理しても、酵素活性の減少は起こらなかった。このことから、ポリペプチド多層膜によるGOxの封入が酵素活性を阻害しないこと、および障壁を介した小分子(例えば、グルコース(酵素基質)および反応産物)の拡散を妨げないことが示唆された。人工細胞壁中へのGOxの移行の程度は決定しなかった。
測定された酵素活性が人工細胞に実際に付随していることの確認を、以下のようにして得た。0.22μmフィルターを用いて液相から二重層6枚細胞を分離した後に、溶液中のGOx活性を定量した。PEGの非存在下では濾液中にGOx活性は検出されず;酵素活性は人工細胞中に存在した。PEG手順を使用した場合には、濾液中にある程度の酵素(約1.5 x 10-12 g/カプセル)が検出された。おそらくこれは、遠心分離および洗浄を繰り返し行った際の被覆鋳型/細胞の部分的崩壊が原因であった。細胞の再懸濁化後の濾液中にさらなる活性は検出されず、負荷されたGOxが浸出しなかったことが示唆される。同様のアプローチを用いて、細胞中のGOxの保持を定量した。
GOxを蛍光色素、Cy3モノ反応性NHS-エステル(Amersham Biosciences、英国)で標識して、GOx負荷微粒子を可視化した。CaCO3微粒子上への吸着後に、PLL/PLGA膜内にCy3-GOxを封入した。蛍光顕微鏡観察による人工細胞安定性に及ぼす層数の影響の検討から、二重層3枚未満による被覆は、コア粒子の溶解後に分離する傾向があるものの、3枚またはそれ以上の二重層を有するカプセルは通常、週という時間尺度で水溶液中で安定であることが明らかになった。このことは、本明細書において報告したGOx活性測定値と一致する。膜の厚さは、層数と直接関係する。PLL/PLGA二重層6枚微粒子内へのCy3標識GOxの負荷のさらなる証拠が、共焦点レーザー蛍光顕微鏡観察によって得られた(図7a、左パネル)。明視野照明により得られた右パネルから、微粒子鋳型がEDTAによる処理によって完全に溶解したことが示される。二重層6枚カプセルの蛍光強度横断面プロファイルから、マイクロカプセルの内部が、非結合のCy3標識GOxの実質的量で満たされていることが明らかになった(図7b、左)。細胞の直径は、ほぼ元の鋳型の直径であった(図7b、右)。強度プロファイルにおける2つのピークの出現から、おそらくは静電気引力および散逸により、ある程度のGOxが細胞「膜」に結合していたことが示される。ポリペプチド細胞中へのGOx封入のさらなる証拠が、円二色性分光法より得られた(データは示さず)。
実施例3. 高分子電解質マイクロカプセル中への酵素の封入
別の例では、リン酸緩衝生理食塩水(pH 7.4)中でタンパク質ヘモグロビンを炭酸カルシウム粒子上に負荷し、非ペプチド高分子電解質で封入する。タンパク質負荷効率は、タンパク質溶液に例えば40% PEG 300などのポリマー電解質を添加することにより増加する。吸着したタンパク質を、2つの逆帯電高分子電解質によりLBLで封入する。この目的に適したポリマーは、ポリ(スチレンスルホン酸)、ポリアニオン、およびポリ(アリルアミン)、ポリカチオンである。タンパク質負荷の証拠は、可視域における分光測定により得ることができる:ヘモグロビンは、ヘムの存在により410 nm近傍に大きな吸収帯を有する。
本発明は、組織化緩衝液中にポリマー沈殿剤を含めることにより、ナノ加工した高分子電解質膜およびマイクロカプセル中に機能性生物活性分子を高効率で保持する手段を提示する。高分子電解質多層膜は半透性であり、小分子の透過性を妨げることなくモデル生体物質の漏出を妨げる。封入ポリペプチドの固有の生体適合性は、LBLによる薄膜形成においてより一般的に用いられる非生分解性の合成高分子電解質を上回る、生物医学的適用の利点を提示する。
(特に添付の特許請求の範囲における)「1つの」および「その」という用語ならびに同様の指示語の使用は、本明細書中に特記しない限りまたは文脈により明確に矛盾しない限り、単数および複数の両方を包含すると解釈されるべきである。本明細書で使用する第1、第2などの用語は、任意の特定の順序づけを示すことを意図しておらず、単に例えば複数の層などを示すための便宜上のものである。「含む」、「有する」、「包含する」、および「含有する」という用語は、特記しない限り、制限のない用語(すなわち、「含むがこれに限定されない」を意味する)と解釈されるべきである。数値範囲の記載は、本明細書中に特記しない限り、その範囲内に入るそれぞれ個々の値を個別に参照する省略法として用いることを単に目的としており、それぞれ個々の値は、その値が本明細書に個別に記載されているかのごとく本明細書に組み入れられる。すべての範囲の終点はその範囲内に含まれ、個々に組み合わせ可能である。本明細書に記載する方法はすべて、本明細書中に特記しない限りまたはさもなくば文脈により明確に矛盾しない限り、適切な順序で行うことができる。あらゆる例または例示の用語(例えば「〜など」)の使用は、単に本発明をより明らかにすることを意図するものであり、別段の主張がない限り、本発明の範囲を制限するものではない。本明細書中のいかなる用語も、本明細書で使用する本発明の実施に必須である非請求の要素を示すものと解釈されるべきでない。
本発明を例示的な態様を参照して説明してきたが、本発明の範囲から逸脱することなく様々な変更を行うことができ、本発明の要素を等価物に置換できることが当業者に理解されよう。加えて、本発明の本質的な範囲から逸脱することなく、特定の状況または材料を本発明の教示に適合させるよう多くの修正を行うことができる。したがって、本発明は、本発明を実施するために意図された最良形態として開示される特定の態様に限定されず、添付の特許請求の範囲の範囲内に含まれるすべての態様を含むことが意図される。本明細書中に特記しない限りまたはさもなくば文脈により明確に矛盾しない限り、本発明の考えられ得るすべての変形における上記要素のいずれの組み合わせも、本発明に包含される。
本明細書において添付の図面を参照するが、該図面は例示的な態様である。
逆帯電ポリペプチドの組織化の模式図を示す。 酵素濃度およびNaCl濃度に応じたCaCO3またはメラミンホルムアルデヒド(MF)粒子鋳型上へのグルコースオキシダーゼ(GOx)の吸着能を示す。 ポリマー沈殿剤の非存在下、40% PEG 300の存在下、および50% PEG 300の存在下における、洗浄液、ポリ(L-リジン)PLLの組織化緩衝液、およびポリ(L-グルタミン酸)PLGAの組織化緩衝液中に存在する放出GOxによる280 nmでの吸収としての、封入ポリ(L-リジン)/ポリ(L-グルタミン酸)(PLL/PLGA)膜の堆積時におけるCaCO3鋳型からの吸着GOxの喪失を示す。 堆積溶液中の50% PEG 300の存在下または非存在下における、封入(PLL)/(PLGA)膜の堆積時におけるCaCO3鋳型上のGOxの保持を示す。 ポリペプチドマイクロカプセル中のGOx活性の光度測定の反応模式図を示す。 ポリペプチドの層数に応じた封入GOxの測定活性を示す。 (a) 鋳型溶解後のマイクロカプセルの共焦点顕微鏡像を示す。左、蛍光;右、明視野。(b) カプセルの蛍光強度プロファイル。左、負荷カプセル;右、鋳型溶解前の被覆コア。

Claims (20)

  1. 第1層高分子電解質を基質の表面上に堆積させて第1層を形成する段階;および
    第2層高分子電解質を第1層高分子電解質上に堆積させて第2層を形成する段階
    を含む、膜を作製する方法であって、
    第1層高分子電解質、第2層高分子電解質、またはその両方がポリマー沈殿剤の存在下で基質上に堆積し;かつ
    第1層高分子電解質および第2層高分子電解質が逆極性の正味電荷を有する、方法。
  2. 第1層高分子電解質、第2層高分子電解質、またはその両方が、設計ポリペプチドを含み、
    設計ポリペプチドは、1つまたは複数の第1アミノ酸配列モチーフを含み、
    1つまたは複数のアミノ酸配列モチーフは5〜15アミノ酸残基からなり、かつ残基当たり0.4以上の大きさの正味電荷を有し、
    設計ポリペプチドはホモポリペプチドではなく、少なくとも15アミノ酸残基長であり、残基当たり0.4以上の大きさの正味電荷を有する、請求項1記載の方法。
  3. 第1層ポリペプチド、第2層ポリペプチド、またはその両方が生物活性分子の存在下で堆積する、請求項1記載の方法。
  4. 基質が生物活性分子を含む、請求項1記載の方法。
  5. 生物活性分子が基質上のコーティングの形態である、請求項4記載の方法。
  6. 基質が高分子電解質多層膜堆積後の分解に適した鋳型を含む、請求項5記載の方法。
  7. 生物活性分子がコアの形態である、請求項4記載の方法。
  8. 第1層高分子電解質の堆積前に生物活性分子を基質の表面上に堆積させる段階をさらに含む、請求項1記載の方法。
  9. ポリマー沈殿剤がポリエチレングリコール、ポリアクリル酸、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリプロピレングリコール、または、前述のポリマー沈殿剤の1つもしくは複数の組み合わせを含む、請求項1記載の方法。
  10. 膜がマイクロカプセルの形態である、請求項1記載の方法。
  11. 生物活性分子をマイクロカプセルによって封入する、請求項10記載の方法。
  12. 第1層高分子電解質を基質の表面上に堆積させて第1層を形成する段階;および
    第2層高分子電解質を第1層高分子電解質上に堆積させて第2層を形成する段階
    を含む、高分子電解質多層膜の製造時における生物活性分子の保持を改善する方法であって、
    第1層高分子電解質、第2層高分子電解質、またはその両方がポリマー沈殿剤の存在下で基質上に堆積し;
    第1層高分子電解質および第2層高分子電解質が逆極性の正味電荷を有し;かつ
    基質が生物活性分子を含む、方法。
  13. 第1層高分子電解質、第2層高分子電解質、またはその両方が、設計ポリペプチドを含み、
    設計ポリペプチドは1つまたは複数の第1アミノ酸配列モチーフを含み、
    1つまたは複数のアミノ酸配列モチーフは5〜15アミノ酸からなり、かつ残基当たり0.4以上の大きさの正味電荷を有し、
    設計ポリペプチドはホモポリペプチドではなく、少なくとも15アミノ酸残基長であり、残基当たり0.4以上の大きさの正味電荷を有する、請求項12記載の方法。
  14. 第1層高分子電解質の堆積前に生物活性分子を基質の表面上に堆積させる段階をさらに含む、請求項12記載の方法。
  15. 生物活性分子が基質上のコーティングの形態である、請求項12記載の方法。
  16. 基質が、高分子電解質多層膜堆積後の分解に適した鋳型を含む、請求項12記載の方法。
  17. 生物活性分子がコアの形態である、請求項12記載の方法。
  18. 生物活性分子をポリマー沈殿剤の存在下で基質の表面上に堆積させる段階;
    第1層高分子電解質を基質の表面上に堆積させて第1層を形成する段階;および
    第2層高分子電解質を第1層高分子電解質上に堆積させて第2層を形成する段階
    を含む、膜を作製する方法であって、
    第1層高分子電解質および第2層高分子電解質が逆極性の正味電荷を有する、方法。
  19. 第1層高分子電解質、第2層高分子電解質、またはその両方がポリマー沈殿剤の存在下で基質上に堆積する、請求項18記載の方法。
  20. 基質が、高分子電解質多層膜堆積後の分解に適した鋳型を含む、請求項18記載の方法。
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