JP2009507490A - 酸素によって調節される微生物 - Google Patents

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Abstract

本発明は、酸素調節型の代謝を行う微生物の新規株に関する。この微生物は、親微生物よりも高い増殖速度を有し、より効率的である。この微生物は、種々の目的産物(例えば、組換えタンパク質、DNAのような核酸、アミノ酸および化学物質)を産生するために使用される。本発明は特に、酸素レベルによって調節される、炭素源からの代謝フラックスを有する微生物を提供する。本発明はまた、酸素感受性プロモーターを含む微生物であって、該プロモーターは、該微生物の1以上の代謝経路を通る、炭素源の代謝フラックスを調節することができ、そして該酸素感受性プロモーターは、天然には該酸素感受性プロモーターの転写制御下にはない異種遺伝子に作動可能に連結されている微生物を提供する。

Description

(関連出願への相互参照)
本願は、2005年9月8日に出願された米国仮特許出願第60/715,702号、および2006年8月18日に出願された国際特許出願PCT/2006/032525号の利益を主張する。これらの内容は、本明細書中に参考として援用される。
(発明の分野)
本発明は、微生物の新規株およびこれらの微生物に関する醗酵プロセスに関する。より具体的には、本発明は、遺伝子改変された微生物株と、商業的製品(例えば、組換えタンパク質、核酸、アミノ酸および専門的化学物質)の産生のためのその株の使用に関する。本発明はまた、そのような使用のための微生物株の調製法に関する。
(背景)
細菌のような微生物は、生物製剤、ワクチン構成要素、プラスミドDNA、ワクチンDNAおよび多くの専門的化学物質(アミノ酸を含む)を製造するために、産業プロセスにおいて広範に使用されている。産業プロセスにおいて使用される細菌は、代表的に、炭素源としてグルコースを補充した液体培地中で増殖する。容量生産性を最大にするため、専門的な化学物質を生産するため、そして細菌の維持のために所望される高密度に細菌を増殖させるために、産業プロセスでは、大量のグルコースが必要とされる。細菌は、代謝産物を高速で取り込み、同化する。代謝産物のフラックスは、特定の代謝産物の濃度が上昇するにつれて、その細菌の中心炭素経路における1以上の生化学反応を圧倒するほどに高いものになり得る。細菌は、1以上の「オーバーフロー」経路を使用することによって、高濃度の代謝産物を蓄積する。
E.coliは、高細胞密度醗酵の間に酸素が不十分になると、酢酸塩を分泌する傾向がある。このルートの原因は、細胞の、O以外のアクセプターに電子を蓄積させる必要性である。次の原因は、解糖系の産物であるアセチル−CoA(これは、酸素の存在下では通常TCAサイクルによって燃焼される)の細胞内蓄積である。しかしながら、Oが少ない場合には、このTCAサイクルが効率的にアセチル−CoAを代謝することができず、そのためアセチル−CoAが細胞内に蓄積する。過剰なアセチル−CoAは、酢酸塩に変換され、酢酸塩は他の有機酸と一緒に排出され、細胞から電子を奪う。このことは、野生においては、E.coliについての生存可能であるが遅い代謝をもたらすが、産業的醗酵においては、細胞密度がより高いレベルに移るにつれ、過剰な酢酸塩は毒性レベルにまで蓄積し得る。
この問題は、回分培養によって伝統的に取り組まれてきた。この回分培養では、炭素源が培地中でメーターで測定され、それによって細胞の増殖を、利用可能なOと同等のレベルへの炭素枯渇によって制限する。炭素源を測定するにも関わらず、結局、酸素の利用性が、高い細胞密度における制限になる。この状況では、醗酵槽の環境もまた、完全な混合の欠如に起因して不均一になり、そしてOレベルは、空間中で場所ごとに変動する。低O領域で分泌された酢酸塩はより多くのOを含む領域に運ばれる細胞によって再吸収されるが、これは代謝的に非効率的であり、最終的に、多くの細胞が蓄積するにつれて、回分培養技術をもってしてもこの酢酸塩レベルは容赦なく上がる。有機酸レベルは培地の緩衝能を超えて上昇するので、pHはNaOHのような無機塩基による滴定によって維持され、このことはさらなる機器およびプラントの職員による注意を必要とするだけではなく、下流の製品精製の複雑性、および醗酵槽の廃棄ストリームにおける塩負荷も上昇させ得る。オーバーフロー代謝を最小化することによって特異的な産物形成を増加させる醗酵レジメンは、当該分野における顕著な改善を担う。
(発明の要旨)
種々の実施形態において、本発明は、酸素レベルによって調節される炭素源由来代謝フラックスを有する微生物を提供する。この微生物は、原核生物(例えば、E.coli、Shigella、Salmonella、Corynebacter、LactococcusまたはStreptomycetes)であり得る。この微生物はまた、真核生物(例えば、酵母)であり得る。この酵母は、Saccharomyces cerevisiae、Schizosaccharomyces pombeまたはPichia種であり得る。上記炭素源は、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、スクロース、マルトース、N−アセチルグルコサミン、β−グルコシド、マンニトール、セルビオース、ソルボース、グルシトール、またはガラクチトールであり得る。
上記微生物は、ホスホエノール依存性ホスホトランスフェラーゼ系のタンパク質をコードする遺伝子に作動可能に連結された酸素調節型プロモーターを含み得る。この微生物は、E.coli O157.H7のスクロース代謝モジュールのタンパク質をコードするタンパク質に作動可能に連結された酸素調節型プロモーターを含み得る。この酸素調節型プロモーターに作動可能に連結された遺伝子は、融合タンパク質をコードし得る。この融合タンパク質は、ユビキチンを含み得る。
本発明の他の実施形態が、本明細書中以下にさらに詳細に考察される。
(発明の詳細な説明)
本発明は種々の形態において実施されることができ、本開示が本発明の例示であるとみなされるべきであり、本発明を例示される具体的な実施形態に限定することを意図されないという理解の下で、いくつかの実施形態の以下の説明がなされる。表題は例示のためのみに提供され、決して本発明を限定すると解釈されるべきではない。任意の表題の下に例示される実施形態が、任意の他の表題の下に例示される実施形態と組み合わされ得る。
そうでないと明示的に示されない限り、本願において特定される種々の範囲における数値の使用は、その述べられた範囲の最小値および最大値の双方の前に、語「約」が存在するかのように、おおよそとして述べられる。この様式において、その述べられた範囲のわずかに上または下のバリエーションが、その範囲内の値と実質的に同じ結果を達成するために使用され得る。本明細書中で使用される用語「約」および「およそ」は、数値に対して言及された場合、当業者にとって本来の、そして通常の意味を有するべきである。また、範囲の開示は、記載された最小値と最大値との間の全ての値、ならびにそれらによって形成される任意の範囲を含む連続的な範囲であると意図される。これは、有限の上限および/または下限を含んで形成され得る範囲、および含まずに形成され得る範囲を含む。従って、当業者は、多くのそのような割合、範囲および割合の範囲が、本明細書中および本発明の全ての代表的な実施形態に提示されるデータおよび数字から一義的に導かれ得ることを認識する。
1つの実施形態において、本発明は、酸素レベルによって調節される代謝フラックスを有する微生物に関する。この微生物が閾値より下のレベルの酸素環境に存在する場合、代謝フラックスが低減される。低レベルの酸素において代謝フラックスを低減させることによって、低減された酸素の環境において産生される所望されない代謝物に対するオーバーフロー代謝が低減され得る。酸素レベルが閾値レベルを超えて増加すると、代謝フラックスが増加され得る。培養中には、効率的な産物合成のために十分な酸素の微小環境と、不十分な酸素の微小環境とが存在し得る。この微生物は、変動する酸素レベルの下で代謝フラックスを自己調節することができ、それによって効率的な産物形成を可能にする条件下でのみ基質を消費することができる。
酸素レベルの関数として代謝速度を調節することによって、酢酸塩および他の所望されないオーバーフロー代謝物の産生が低減され得る。上記微生物に代謝を自己調節させることによって、目的の産物が、より良い効率で、かつより少ないコストで産生され得る。
(1.微生物)
上記微生物は、任意の親微生物に由来し得る。代表的な親微生物は、American Type Culture Collectionから入手可能である。他の代表的な微生物は、S.Y.Lee,”High Density Culture of Escherichia coli”,Tibtech 14:98−103(1996)に記載されている。この親微生物は、酵母のような真核生物であり得る。酵母の代表的な例としては、S.cerevisiae、S.pombeおよびPichia種が挙げられるが、これらに限定されない。この親微生物は細菌のような原核生物でもあり得、有機栄養生物(chemoheterotrophic organotroph)であり得る。細菌の代表的な例としては、E.coli、Shigella、Salmonella、Corynebacter、Lactococcus、およびStreptomycetesが挙げられるが、これらに限定されない。
上記微生物はまた、減少ゲノム微生物(reduced genome microorganism)(例えば、減少ゲノム細菌)でもあり得る。微生物のゲノム中に含まれている多くの遺伝情報が、最終代謝物の産生に不利な影響を及ぼすことなく、欠失され得る。さらに、減少ゲノムを有する微生物は、多くの目的産物の産生において有利であり得る。例えば、減少ゲノムは、より少ないネイティブな産物の産生またはそのレベルの低下につながることがあり、このことは、より複雑でない目的産物の精製につながり得る。さらに、減少ゲノムを有する微生物は、代謝的に要求が少ないことがあり、従って目的産物をより効率的に産生し得る。減少ゲノム細菌は、本明細書中に参考として援用される米国特許第6,989,265号において考察されている。天然ペリプラズムタンパク質の限定された産生を有する減少ゲノム細菌は、ペリプラズムにおける組換えタンパク質発現のために有益であり得る。適した減少ゲノム細菌株の例としては、MDS12、MDS13、MDS39、MDS40、MDS41、MDS42、MDS43、MDS44、MDS45、MDS46、MDS47、MDS48、MDS49、MDS50、MDS51、MDS52、MDS53、MDS54、MDS55、MDS56、MDS57、MDS58、MDS59およびMDS60が挙げられるが、これらに限定されない。これらの減少ゲノム微生物はまた、1またはそれより多くの微生物の遺伝子およびオペロンから新規に導かれ得る。
(2.酸素調節型代謝フラックス)
酸素レベルは、微生物における炭素源の代謝フラックスを調節し得る。炭素源の代謝は、その炭素源の移入(importation)において調節され得る。例えば、その炭素源の移入に関与するタンパク質の発現が、酸素調節型プロモーターの制御下に置かれ得る。
炭素源の代謝はまた、その炭素源を用いる第一の細胞内代謝ステップまたはその後の任意のステップ、あるいはそれらの組み合わせにおいても調節され得る。例えば、解糖に関与するタンパク質、または解糖のための基質へのその炭素源の変換に関与するタンパク質の発現が、酸素調節型プロモーターの制御下に置かれ得る。
(a.炭素源)
上記炭素源は、(天然に、またはその炭素源を代謝することができる酵素をコードする異種遺伝子またはオペロンを導入することによってのいずれかで)上記微生物の増殖および/または代謝をサポートすることができる任意の炭素源であり得る。この炭素源は、単糖(例えば、グルコース、フルクトース、ガラクトースまたはマンノース)であり得る。この炭素源はまた、二糖(例えば、スクロース)であり得る。他の炭素源としては、マルトース、N−アセチルグルコサミン、β−グルコシド、マンニトール、セルビオース、ソルボース、グルシトールおよびガラクチトールが挙げられるが、これらに限定されない。
細菌は、ホスホエノールピルビン酸:炭水化物ホスホエノールトランスフェラーゼ(PTS)系を介して炭素源を取り込み得る。このPTS系は、高品質の外因性炭素源の迅速かつ効率的な取り込みを可能にし得、そして多くの細菌における代謝の異化調節における重要な役割を担っている。このPTS系の1またはそれより多くの構成要素の発現が、酸素調節型プロモーターの制御下に置かれ得、このことが、オーバーフロー産物の産生を低減させ得る。酸素の利用可能性によって調節される、代替的な炭素源取り込み経路が、醗酵の過程を通した産物形成への基質のより効率的な分配を可能にし得る。
上記PTS系は、リン酸によって中継される系(phospho−relay system)を含み、この系では、EIタンパク質(ptsHによってコードされている)がホスホエノールピルビン酸のリン酸基をHprタンパク質(ptsIによってコードされている)に転移させ、これが次に炭水化物特異的EIIAサブユニット(E.coliでは、グルコース特異的EIIAタンパク質はcrr遺伝子によってコードされている)をリン酸化し、これが次いで膜結合型タンパク質または炭水化物輸送複合体と相互作用し得、同族の糖を内在化(internalize)またはリン酸化し得る。この全体の反応によって、外因性の糖を内部の糖−リン酸に輸送しながら、PEPをピルビン酸に変換する。
E.coliにおいて、共通のPTS要素であるptsHおよびptsIをコードする遺伝子は、crr遺伝子と染色体上でつながっている。3つの遺伝子は全て、ptsHの上流に見出されるプロモーターのセットによって転写される。加えて、ptsIにおけるさらなるプロモーターまたはプロモーターペアは、ptsIのみを誘導する転写を生じさせる。ptsHの上流のプロモーターのうちのいくつかの発現が、嫌気条件下で増加する。これらの遺伝子の発現の増加が、糖取り込みの増加および任意のPTS系(これに対して同族の糖が存在する)による活性化をもたらし得る。酸素がTCAサイクルのための電子アクセプターとして限定要素になるにつれて、PTS遺伝子の発現の増加が同時に糖取り込みのキャパシティーを増加させるので、これらの遺伝子の転写の増加は、そのようにして、所望されないオーバーフロー代謝物の産生における役割を果たし得る。ネイティブのptsH結合プロモーターを酸素調節型プロモーターに換えることによって、酸素依存様式でPTSの糖取り込みを調節し得、従って、炭素源の消費が酸素の存在と共役することを確実にする。細胞における1以上のPTS系の共通要素の発現を制御することによって、多数の炭素源のアベイラビリティーおよび/または利用性が制御され得る。上で考察されたように、炭素源の取り込みおよび活性化は、それらを効率的に代謝するためのその微生物のキャパシティーを超えることができ、所望されないオーバーフロー代謝物の産生をもたらす。さらに、PEPから直接的に由来する化合物(例えば、シキミ酸経路に由来する芳香族)は、PEP媒介性糖輸送のためのPEPの消費によって制限され得る。
(1.スクロース)
スクロースは、上記微生物のための炭素源として使用され得る。スクロースは、グルコースとフルクトースとの二糖である。代謝されるためには、スクロースは、細胞内に輸送され得、次いで単糖単位に分けられ得る。グルコースおよびフルクトースは両方、次いで、グルコース−6−リン酸およびフルクトース−6−リン酸として解糖系に入る。
多数の微生物(E.coliのほとんどの株を含む)は、スクロース上で生育することができない。しかしながら、いくつかの株は、単一の炭素源としてのスクロースの取り込みおよび代謝を可能にする遺伝子系を有する。そのような遺伝子系、またはその一部は、上記微生物の染色体に加えられてもよいし、またはプラスミド上でその微生物に加えられてもよい。その微生物に加えられた1つ以上の遺伝子は、酸素調節型プロモーターの制御下に置かれ得る。他の炭素源の取り込みおよび代謝を可能にする遺伝子系もまたその微生物に加えられ得ることもまた、企図される。
米国特許第6,365,723号および同第6,855,814号(これらは、本明細書中に参考として援用される)は、スクロースを単一の炭素源として使用することを可能にする、スクロースの取り込みおよび代謝のためのコンパクトな遺伝子系の代表的な例を記載する。E.coli O157:H7代謝モジュールが、図1に示される。cscB遺伝子産物は、スクロースを細胞内に輸送し、cscAはスクロース加水分解酵素(インベルターゼ)をコードし、このスクロース加水分解酵素が二糖をフルクトースおよびグルコースに分ける。遺伝子cscKはフルクトキナーゼ(フルクトースの解糖代謝の第一の酵素)をコードする。このcscK遺伝子は、他のフルクトキナーゼと高度の類似性を示し、そしてE.coli K−12のfruK遺伝子とリダンダントであり得るが、しかしながら、E.coli K−12細胞はインベルターゼおよびスクロース加水分解活性を欠如し得る。cscR遺伝子産物は、プロモーターに対して結合することによって、スクロースアベイラビリティーに関連するO157:H7の遺伝子の発現を制御するリプレッサーである(lacI−galRファミリーのリプレッサータンパク質の代表的なもの)。
(b.酸素調節型プロモーター)
炭素源からの代謝フラックスは、その炭素源の代謝に関与する1つ以上のタンパク質をコードする遺伝子に作動可能に連結された酸素感受性プロモーターによって調節され得る。酸素の存在下で活性化されるプロモーターの代表的な例は、cyoオペロンおよび酸化ダメージに対して細胞を保護する酵素をコードするスーパーオキシドジスムターゼ(sodA)内のプロモーターである。野生型K12 sodA染色体領域は、図2に示される。
正の酸素感受性プロモーターを使用することによって、十分に高い酸素レベルが、オーバーフロー代謝物または他の副産物の産生を最小にしながら、炭素源の代謝を可能にするタンパク質の発現を誘導し得る。そのプロモーターの応答時間は、非細胞質タンパク質(例えば、膜貫通タンパク質)を構成的に発現させるか、または異なるプロモーターの制御下に置きながら、細胞質代謝タンパク質を酸素感受性プロモーターの制御下に置くことによって、増加され得る。酸素条件を減少させる下で代謝が低減されるスピードは、その代謝タンパク質の回転率(turnover rate)を増加させることによって、増加され得る。例えば、炭素源の代謝に関与するタンパク質は、ユビキチンとの融合タンパク質として発現され得る。本発明はまた、通常は酸素感受性プロモーターの制御下にはない異種遺伝子に作動可能に連結された酸素調節型プロモーターを含む核酸構築物もまた包含する。
(c.増殖速度)
上記微生物は、豊富な炭素源の存在下で増殖される場合、改善された増殖速度を有し得る。0%〜最大許容%濃度の炭素源を含む液体培地内で増殖される場合、その微生物は、その微生物の親と比較した場合、約25%〜約400%大きい(しかしこれらに限定されない)増殖速度を有する。この微生物は、w/vで、少なくとも約0.1%、0.2%、0.3%、0.4%、0.5%、0.6%、0.7%、0.8%、0.9%、1%、1.5%、2%、2.5%、3%、3.5%、4%、4.5%、5%、5.5%、6%、6.5%、7%、7.5%、8%、8.5%、9%、9.5%または10%で、炭素源を含む培地内で増殖され得る。そのような条件では、この微生物は、親微生物と比較して、約30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、100%、105%、110%、115%、120%、125%、130%、135%、140%、145%、150%、155%、160%、165%、170%、180%、185%、190%、195%、200%、205%、210%、215%、220%、225%、230%、235%、240%、245%、250%、255%、260%、265%、270%、275%、280%、285%、290%、295%、300%、305%、310%、315%、320%、325%、330%、335%、340%、345%、350%、355%、360%、365%、370%、375%、380%、385%、390%、395%、または400%大きい増殖速度を有し得る。
(d.代謝フラックス)
上記微生物は、豊富な炭素源の存在下で増殖される場合、改善された代謝フラックスを有し得る。0%〜最大許容%濃度の炭素源を含む液体培地内で増殖される場合、その微生物は、所望される産物に関する炭素源の約5%〜約90%(しかし、これらに限定されない)を含む代謝フラックスを有し得る。株は、約15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、または90%の代謝フラックスを有し得る。
一般的に、任意の所定の経路における各反応ステップを通る代謝のフラックスは、順方向の反応および逆方向の反応の相対速度に依存する。このフラックスは、時間およびサンプルサイズの関数としての、分析物の濃度における変化の速度をいい得る。任意の単一の代謝変換を通る代謝フラックスは、米国特許第6,764,817号および同第6,849,396号(これらの内容は、本明細書中に参考として援用される)に記載される方法論を使用して測定され得る。フラックスおよびその測定についてのさらなるガイダンスは、例えば、Newsholme,E.A.ら、Biochem.Soc.Symp.43:183−205(1978);Newsholme,E.A.およびSart.,C.,Regulation in Metabolism,Chaps.1および3,Wiley−Interscience Press(1973)(これらの内容は、本明細書中に参考として援用される)によって提供される。
(e.産生)
本発明の微生物は、高速で、最終代謝物または他の目的の産物を産生することができる。0%〜最大許容%濃度の炭素源を含む液体培地内で増殖される場合、その微生物は、所望の産物に関する炭素源の約0.001g/L〜約100g/Lの最終代謝物または他の目的の産物を産生し得る。株は、約15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、または80%の代謝フラックスを有し得る。
(f.産生速度)
代謝のフラックスを制御する能力の観点から、上記微生物は、種々の速度で、そして種々の割合の効率の炭素源利用において、種々の量の最終代謝物を産生し得る。本発明の株は、少なくとも、約10g/L、20g/L、30g/L、40g/L、50g/L、60g/L、70g/L、80g/L、90g/L、または100g/Lを含む(しかし、これらに限定されない)レベルで最終代謝物を産生し得る。
上記微生物は、約0.50g/L/hr、0.75g/L/hr、1.00g/L/hr、1.25g/L/hr、1.50g/L/hr、1.75g/L/hr、2.00g/L/hr、2.25g/L/hr、2.50g/L/hr、2.75g/L/hr、3.00g/L/hr、3.25g/L/hr、3.50g/L/hr、3.75g/L/hr、4.00g/L/hr、4.25g/L/hr、4.50g/L/hr、4.75g/L/hr、および5.00g/L/hrを含む(しかし、これらに限定されない)速度で最終代謝物を産生し得る。
上記微生物は、少なくとも約5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、70%、および75%を含む(しかし、これらに限定されない)炭素源利用の効率割合において最終代謝物を産生し得る。
(3.目的の産物)
上記微生物は、豊富な炭素源を含む培地において、高レベルの効率で目的の産物を産生するために使用され得る。この微生物によって産生される目的の産物は、化学物質、アミノ酸、ビタミン、補因子、核酸(例えば、DNA)、脂肪酸、増殖因子、タンパク質およびそれらの中間体を含む(しかし、これらに限定されない)任意の1またはそれより多い産物であり得る。目的の産物は、その微生物によって天然に産生される産物であり得る。目的の産物はまた、その微生物に異種遺伝子が加えられた結果として産生される非天然産物であり得る。
目的の産物は、上記微生物において細胞内に局在し得る。目的の産物はまた、その微生物のペリプラズムに分泌され得る。このペリプラズムは、タンパク質産生のために有益であり得る。なぜなら、(i)組み換えヒトタンパク質が、正確なアミノ末端で産生され、一方で細胞質に産生されたものは、天然のタンパク質には存在しない追加的なメチオニンで始まり得る;(ii)多くのタンパク質が、ペリプラズムスペースにおいて正確に折り畳まれ得る;(iii)正確なジスルフィド結合が、ペリプラズムで形成され得る;(iv)ペリプラズムスペースは、細胞質内よりもずっと少量で、ずっと少ない種のタンパク質しか含まず、このことが精製を簡便にし得る;(v)細胞質よりも少ないプロテアーゼしか存在せず、このことがタンパク質の消化および損失を低減し得る;および(vi)発現されたタンパク質が、より豊富な細胞質タンパク質を実質的に含まない外膜を特異的に破壊することによって、他のペリプラズムタンパク質と一緒に容易に放出され得る。目的の産物はまた、細胞によって倍地中に排出され得る。
(4.発酵)
上記微生物は、回分培養(必要とされる量の炭素源全てが、発酵の開始時に加えられ得る)において所望の産物を産生させるために使用され得る。改変細胞は、酸素のアベイラビリティーに対して炭素源消費を変更することができるのみではなく、この株はまた、半回分培養において所望の産物を産生するためにも使用され得る。炭素源の供給速度は、最大許容濃度を生じるまでの任意の量であり得るが、しかし好ましくは、最大増殖速度を維持するのに必要とされる最小量である。この株はまた、発酵の継続(continuous)様式または「ケモスタット」様式(これらは、より高い希釈率の維持を可能にし得る)において所望の産物を産生し得る。
上記微生物は、必要な代謝経路を所有するために株によって利用される、少なくとも1つの炭素源および少なくとも1つの窒素源および適切な場合は無機塩、増殖因子などを含む合成培地または天然培地における発酵プロセスのために使用され得る。
適した窒素源の例示的な例としては、アンモニア(アンモニアガスおよび水性アンモニアを含む);無機酸または有機酸のアンモニア塩(例えば、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム);ならびに他の窒素含有物質(アミノ酸、肉(meat)抽出物、ペプトン、モラッセ、コーン浸漬液、カゼイン分解物、大豆ケーキ分解物および酵母抽出物を含む)が挙げられるが、これらに限定されない。
無機塩培地中に個々に存在するいくつかのアミノ酸は、炭素源として細菌によって十分には利用され得ない。細菌の各々の種は、各天然アミノ酸の利用能において異なっている。個々に利用されないアミノ酸は、他のアミノ酸の存在下ではよく利用され得る。例えば、セリンは、グリシン、ロイシン、イソロイシンおよびバリンが存在する場合にのみ炭素源として利用され得る。栄養培地(例えば、合成アミノ酸混合物)では、いくつかのアミノ酸が優先的に利用され得、そして他のアミノ酸よりも前に消費され得る。セリン、プロリン、グリシン、アスパラギン酸、スレオニン、グルタミン酸およびアラニンは、一般的な培地構成成分であるカザミノ酸に存在する16のアミノ酸の混合物から完全に取り出され得るが、他のものはより緩やかに、そして不完全に利用され得る。類似の結果が、とリプトンブロスにおいて得られる。最終代謝物として蓄積したアミノ酸を再利用することが所望される場合は、そのアミノ酸は、好ましくは、セリン、プロリン、グリシン、アスパラギン酸、スレオニン、グルタミン酸またはアラニンであり、その培地は、炭素源としてのそれらの使用を刺激するのに必要とされるさらなるアミノ酸を含有し得る。この培地はまた、とリプトン、カザミノ酸および大豆分解物を含む(しかし、これらに限定されない)、タンパク質分解物を含有し得る。
本発明は、以下の非限定的な実施例によって例示される、複数の局面を有する。
(実施例1 酸素調節型スクロース取り込みおよび代謝)
E.coli K12のスクロース異化(Suc)株を、ネイティブsodA遺伝子を、図3に示されるようなE.coli O157:H7のスクロース代謝モジュールと置き換えることによって作製した。この遺伝子を、cscB遺伝子を逆向きにし、そしてそれをcscKと並べて配置することによって、そのモジュール内でオリジナルの構成から再配列した。プロモーター−オペレーター領域をsodA遺伝子のプロモーターおよび調節エレメントによって置換するために、cscR遺伝子を削除した。cscKなしでもまた、この株は作製されえることに注意すべきである。なぜなら、その遺伝子産物の活性は、E.coli K12のfruK遺伝子のものとリダンダントであるからである。この株はまた、スクロース代謝モジュールを、プラスミド上に、またはsodAのような別個のプロモーターの制御下でゲノムに導入することによっても作製され得る。
プライマー1(P1)およびプライマー2(P2)を、単一の2.2Kb片としてcscKおよびcscBの両方を増幅するために設計した(図4b)。P1についての配列は:
Figure 2009507490
であり、これはcscA遺伝子の3’末端との50bpのオーバーラップ、およびcscK遺伝子のリボソーム結合部位(RBS)領域を含むcscK遺伝子の5’末端の20bpと、50bpのオーバーラップを有する。P2についての配列は:
Figure 2009507490
であり、これはsodAターミネーター領域の後の3’末端配列の50bp、およびcscB遺伝子の3’末端の20bpを有する。プライマー3およびプライマー4を、O157:H7ゲノムDNAからcscA(1.4kb)(図4a)を増幅するために設計した。P4についての配列は:
Figure 2009507490
であり、これはRBSを含むsodAプロモーター領域の50bpを有する。P3についての配列は:
Figure 2009507490
であり、これはcscA遺伝子の3’末端の配列と一致する。
cscAまたはcscBを増幅するためのPCRの第1のラウンドにおいて、50μlのPCR反応を、100ngのO157:H7ゲノムDNA、50pmolの各プライマー、0.2mMのdNTP、および2.5UのPfuポリメラーゼを含むチューブにおいて実施した。cscA増幅については、その反応は、95℃で1分を1サイクル、95℃で1分の変性;55℃で15秒のアニーリング;および72℃で4分の伸長を25サイクル、72℃で10分の最終サイクル、で行った。cscKB増幅については、この反応は、アニーリング温度が48℃であったことを除いて同じサイクルで行った。
組換えPCR反応の第2ラウンドにおいて、等モル量のcscAおよびcscKB産物を、50pmolの各プライマー、0.2mMのdNTPおよび2.5UのPfuポリメラーゼを含む50μlの反応液中で、テンプレートとして混合した。その反応は、95℃で5分を1サイクル、95℃で30秒の変性;65℃で30秒のアニーリング;および72℃で7.5分の伸長を5サイクル、次いで95℃で1分の変性;72℃で7.5分の伸長を25サイクル、72℃で10分の最終サイクル、で行った。得られた産物は、3.7kbのサイズであると予想された(図4c)。
組換えPCR産物は、50bpのsodA 5’配列、cscA、cscK、cscBおよびsodAターミネーターの後の3’末端配列の50bpを含んだ。従って、O157:H7オペロン由来のcscAKBオペロンは、MG1655のsodAプロモーターの制御下に置かれ、MG1655 sodA:cscを生じた。そのPCR産物を精製し、プラスミドpKD46を含有する、MG1655のsodA::Tn5変異体の電気泳動のために使用した。図5aに示すように、MG1655細胞は、単一の炭素源として1%スクロースを含むM9培地では増殖することができない。しかしながら、上記cscAKBオペロンを含有すする形質転換細胞は、図5Bに示されるように、アンピシリン(100μg/mlの最終濃度)の存在下で、30℃で2日後に同じ培地で増殖することができる。
(実施例2 酸素調節型スクロース代謝)
インベルターゼは、スクロース代謝が流れなければならないボトルネックであり得る。細胞質酵素のように、インベルターゼは、膜タンパク質よりもより迅速にターンオーバーすることができる。このことは、機能の高速のシャットダウンを達成するのに重要である。実際に、その変性の速度は、ユビキチンタグによって、または他のそのような改変によって、必要に応じてスピードアップされ得る。対照的に、cscBのレベルは、シンポーター(symporter)が膜タンパク質であるため迅速な制御はできそうにない。その結果、本発明者らは、図6に示されるSuc株を作製した。構築物は、lacプロモーターを使用してスクロースシンポーターcscBを独立して調節するために、別個のオペロンを提供する。前述の通り、フルクトキナーゼ遺伝子(cscK)は余分であり得る。
プライマー4およびプライマー5を、O157:H7ゲノムDNAからcscA(1.4kb)を増幅するために設計した。P4は、実施例1において説明したものと同じプライマーであった。P5についての配列は:
Figure 2009507490
であった。従って、cscA遺伝子は、sodAの5’および3’の50bpの配列に隣接している(sodA−cscA−sodA)。プライマーK5およびプライマーB3を、1つの片(2.2kb)(図7a)としてcscKおよびcscBの両方を増幅するために設計した。K5についての配列は:
Figure 2009507490
であり、これはcscK遺伝子のRBS領域を含む。B3についての配列は:
Figure 2009507490
であり、これはcscB遺伝子の3’末端の20bpを有する。
PCRを、cscAまたはcscKBを増幅するために実施した。50mlのPCR反応を、100ngのO157ゲノムDNA、50pmolの各プライマー、0.2mMのdNTP、および2.5UのPfuポリメラーゼを含むチューブ中で実施した。その反応は、95℃で1分を1サイクル、95℃で1分の変性;55℃で15秒のアニーリング;および72℃で4分の伸長を25サイクル、次いで72℃で10分の伸長の最終サイクル、で行った。
4μlのcscKB産物を、EcoRI部位でpCR−Bluntベクター(Invitrogen)にクローニングし、pFD1を作製した。従って、cscKB産物は、誘導性Placプロモーターの制御下に置かれている。2.7kbのPlac−cscKB−ターミネーターフラグメントを、そのプラスミドからPvuII切断によって切り出し、ゲル精製した(図7b)。このフラグメントを、att部位を含むpJW23のSmaI部位にサブクローニングした。この新しいプラスミド(pFD6と命名した)を、次いで、NotIで切断し、大きい方のフラグメントをゲル精製後に回収した。Plac−cscKb−ターミネーターを含むこのフラグメントを、再ライゲーションして、pFD7を生成した。プラスミドpFD7およびpJW289を、組み込みを可能にするために、MG1655またはMDS42(pKD46を含まない)のsodA::Tn5変異体に同時形質転換した。pJW289プラスミドは、以前に記載されたようにその後除いた。pKD46プラスミドを、組換えのために、その除かれた宿主に再び導入した。
sodA−cscA−sodAのPCR産物を、次いで、組換えを可能にするために新しい宿主を形質転換するのに使用した。この形質転換された細胞を、単一の炭素源として1%スクロースを含むM9培地上にプレーティングした。形質転換体は、その倍地上で増殖することができ、Suc+表現型を有する。
(実施例3 酸素感受性プロモーターによるスクロース代謝の制御、およびスクロース陽性細菌についてのスクロースリプレッサーによるスクロース取り込み)
この第3の実施例は、O157:H7のようなスクロース陽性株について、正常の様式で、細胞におけるスクロースのレベルを制御するために、スクロースリプレッサーCscRを保存する。このスキームは、O157:H7のスクロースオペロンにおける正常な位置から、sodAオペロン中へ、cscA遺伝子を配置換えすることと等価である。この制御方法は、酢酸塩を調節するために最も効率的であり得る。なぜなら、スクロースのプールが固定され、唯一の制御する関数がボトルネック酵素であるインベルターゼのレベルであるからである。cscR遺伝子をこのスキームから排除し、このことはスクロースの構成的輸送およびフルクトキナーゼ活性をもたらす。前述の通り、図8に示されるように、sodA遺伝子は、cscAによって置換されるか、またはcscAと一続きで組み合わされるかのいずれかである。
プライマー4およびプライマー5を、O157ゲノムDNAからcscA(1.4kb)を増幅するために設計した。P4およびP5は、実施例1において記載した。従って、cscA遺伝子は、sodAの5’および3’配列の50bpに隣接する。プライマーProK5およびB3を、1片(2.2kb)でcscKおよびcscBを増幅するために設計した。ProK5についての配列は:
Figure 2009507490
であり、これはcscK遺伝子の完全なプロモーター領域を含む。B3についての配列は、上で記載したものと同一である。
PCRを、cscProK−B(2.3kb)(図9a)を増幅するために実施した。50μlのPCR反応を、100ngのO157ゲノムDNA、50pmolの各プライマー、0.2mMのdNTP、および2.5UのPfuポリメラーゼを含むチューブにおいて実施した。その反応は、95℃で1分を1サイクル、95℃で1分の変性;55℃で15秒のアニーリング;および72℃で4分の伸長を25サイクル、次いで72℃で30分の伸長の最終サイクル、で行った。
4μlのcscProK−B産物を、pVR−Bluntベクター(Invitrogen)にクローニングし、pFD8を作製した。このcscProK−Bフラグメントを、HindIII−XbaIフラグメント(2.7kb)(図9b)として切り出し、att部位を含有するpJW23にサブクローニングした。新しいプラスミドpFD14を、次いで、NotIで切断し、大きな方のフラグメントをゲル精製後に回収した。cscProK−B−ターミネーターを含むこのフラグメントを、再ライゲーションして、pFD15を作製した。プラスミドpFD15およびpJW289を、組み込みを可能にするために、MG1655またはMDS42(pKD46を含まない)のsodA::Tn5変異体に同時形質転換した。両方のプラスミドを、以前に記載したように、その後除いた。次いで、プラスミドKD46をその除いた宿主に再び導入した。
cscAのPCR産物を、次いで、組換えを可能にするために上述の新しい宿主に形質転換するのに使用した。形質転換された細胞を、単一の炭素源として1%スクロースを含むM9培地上にプレーティングした。形質転換体はその培地上で増殖することができ、Suc+表現型を有する。
(実施例4 スクロース代謝の酸素調節型増殖)
実施例1のMG1655 sodA::csc株の好気依存性増殖を、単一の炭素源およびエネルギー源としてスクロースを使用して、好気−嫌気−好気サイクルを通じての増殖をモニタリングして、試験した。このサイクルは、500mlのエアリフト醗酵において、醗酵槽を、空気から窒素および二酸化炭素の95:5混合物にスイッチし、次いで適切な間隔の後に空気に戻すことによって開始した。
図10は、単一の炭素源およびエネルギー源として1%スクロースを含む、最小MOPS培地上の上記株の代表的な増殖曲線を示す。嫌気条件下での増殖の欠如は、その細胞がもはやスクロースを異化することができないことを示す。対照的に、グルコース+スクロース上でのMG1655 sodA::cscの増殖は、ヘッドスペースのガスの変化によって比較的不変である。なぜなら、グルコース輸送および解糖は、培養の好気状態または嫌気状態によってのみ影響されるものではないからである。
図11は、2つの類似のエアリフト醗酵の結果を示す。一方は、単一の炭素源およびエネルギー源として0.4%のスクロースを含む最小MOPS培地で実施し、一方は炭素源およびエネルギー源として0.4%スクロースに加えて0.2%グルコースを含む同じ培地において実施した。この株は、嫌気条件下ではスクロース上で増殖しなかったが、酸素が存在するかしないかに関わらず、グルコースを異化し続けた。図10および図11に示される増殖プロットに加えて、観察によって、全体の生存細胞カウントがスクロースのみの培養における嫌気フェーズを通して変化せず、外因性のグルコースが存在する場合には増加し続けることが確認された(図12Aに示す)。このことは、解糖には生化学的な制限は存在せず、スクロースから産生されたグルコース(csc遺伝子産物の作用により)が、それが生じる場合には嫌気増殖をサポートし得ることを示している。従って、嫌気条件下でのスクロース上での増殖の欠如は、酸素依存性sodAプロモーターからのcsc遺伝子の転写の欠如に起因する。
加えて、pHプロフィール(図12B)は、スクロース上での増殖は非常にわずかな酸しか生成しないが、スクロースとグルコースの両方を含む培養では大量の酸が生じることを実証している。グルコースの嫌気同化は大量の酢酸塩およギ酸塩を生成することが公知なので、このこともまた、醗酵の嫌気フェーズの間にスクロース異化がほとんど、または全く起こらないという観念を支持する。スクロースにおいて増殖する培養物が嫌気シフトの過程の間いずれの酸も産生することができないということは、酸素の非存在下では、細胞内でグルコースがほとんど、または全く利用可能でないことを示す。
(実施例5 酸素感受性プロモーターによる、PTS炭水化物系の制御)
ネイティブのPTSプロモーターのsodAプロモーターでの置換を、図13および図14に示す。所望される構築物は3工程で作製する。第1の工程は、一端で染色体標的に相同な独特の配列を共有し、対向する端で2つのPCR産物の融合を可能にするための共通配列を共有する、2つの別個のPCR産物の産生に関する。第1の最初のPCR産物は、cysK遺伝子の3’末端に相同な45塩基対の配列、完全なクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ遺伝子(CAT)とそのプロモーター、第2のPCR産物(以下に説明する)に相同性を提供するための非コードリンカー配列を含む。このCAT遺伝子は、配列
Figure 2009507490
を有する、Oligo1と指定されたプライマーを使用して、プラスミドpACYC184から増幅される。ここで、小文字の配列は、cysK遺伝子の3’末端に相同であり、大文字の配列は、CAT配列の3’末端に相同である。このPCR反応における第2のオリゴは、配列
Figure 2009507490
を有し、Oligo3と指定されている。ここで、小文字の配列は、第2のPCR産物と相同な非コード配列であり、大文字の配列はCATプロモーター領域の5’末端と相同である。50μlのPCR反応を、1ngのpACYC184DNA、50pmolの各プライマー、0.2mMのdNTPおよび2.5UのPfuポリメラーゼを含むチューブにおいて実施する。その反応は、95℃で1分を1サイクル、95℃で1分の変性;55℃で15秒のアニーリング;および72℃で2分の伸長を30サイクル、次いで72℃で10分の伸長の最終サイクル、で行った。
第2の最初のPCR産物は、上記第1のPCR産物と相同性を提供する短い非コード配列、インタクトの酸素依存性sodAプロモーター、およびptsH遺伝子の5’末端に相同な45塩基対の配列を含む。このsodAプロモーター領域を、配列
Figure 2009507490
を有する、Oligo2と指定されたプライマーを使用して、E.coliの染色体DNAから増幅する。ここで、小文字の配列は、上記第1のPCR産物に相同な非コード配列であり、大文字の配列は、E.coli染色体のsodAプロモーター領域の5’側に相同である。このPCR反応の第2のオリゴは、配列
Figure 2009507490
を有し、Oligo4と指定されている。小文字の配列は、ptsH遺伝子に相同であり、大文字の配列はsodAプロモーターの3’に相同である。このオリゴは、効率的に、sodAの開始コドンをptsHの開始コドンで置換する。50μlのPCR反応を、100ngのE.coli MG1655 DNA、50pmolの各プライマー、0.2mMのdNTPおよび2.5UのTurbo Pfuを含むチューブで実施する。この反応は、95℃で2分を1サイクル、95℃で1分の変性;55℃で15秒のアニーリング;および72℃で1分の伸長を30サイクル、次いで72℃で5分の伸長の最終サイクル、で行った。
各反応のPCR産物をアガロースゲルから回収し、第2ラウンドのPCRに先立ってQiagen精製カラム上で精製した。この反応において、2つの第1ラウンドのPCR産物を変性させ、伸長に先立って再アニーリングさせた。50μlのPCR反応を、5ngの精製された第1ラウンドの各PCR産物、0.2mMのdNTPおよび2.5Uのpfuポリメラーゼを含むチューブにおいて実施した。この反応は、95℃で2分を1サイクル、95℃で1分の変性;55℃で15秒のアニーリング;および72℃で1分の伸長を10サイクル、で行った。最初の5サイクルの後、50pmolのOligo1およびOligo4をその反応に加え、さらに25サイクルその反応を続け、その後72℃で5分の伸長の最終サイクルを行った。第2ラウンドのPCR産物を、Qiagenカラムを使用して精製し、組み込みを可能にするために、MG1655またはMDS42(pKD46を含む)に形質転換する。安定な組み込み体をクロラムフェニコール耐性コロニーとして単離する。pKD46プラスミドは、以前に記載されたように除く。
(実施例6 糖代謝の酸素調節型増殖)
酸素調節型プロモーターによるPTS炭水化物輸送系の転写調節は、嫌気条件下での糖消費においてPTS系が果たす役割を低減させる。グルコースまたは他の炭水化物はなお非PTS系を介して取り込まれ得るが、吸収の速度は著しく低減される。なぜなら、PTS系が、E.coliにおいて最高速度の糖取り込み戦略を担っているからである。E.coliでの全てのPTS系における共通の役割を担っているptsH遺伝子およびptsI遺伝子の発現を酸素調節型プロモーターの制御下に持っていくことのさらなる利点は、全てのPTS糖の消費を制御するための単一点での調節を可能にすることである。先の実施例において記載されたスクロースモデルと直接的に関連させることによって、他の糖におけるE.coli株の増殖は、末端の電子アクセプターとしての酸素の利用可能性により密接にマッチするように制限され、それによって、広範な範囲のPTS糖について、操作された細胞によるいオーバーフロー代謝物の産生を最小化し得る。
図1は、E.coli O157:H7のスクロース代謝モジュールを示す。 図2は、野生型K12 sodAプロモーターを示す。 図3は、sodAプロモーターによって制御される、再配列されたO157:H7スクロース代謝モジュールを示す。 図4は、PCR増幅産物、a)cscA、b)cscKB、ならびにc)cscAおよびcscKB組換え産物を示す。 図5は、(a)コロニーを形成せずに、単一の炭素源として1%スクロースを含むM19培地上で増殖したMG1655細胞、および(b)組換え体がM9培地+1%スクロース上で増殖することができる、cscAKBオペロンを含むMG1655 sodA pKD46を示す。 図6は、sodAプロモーターによってcscAのみが酸素による制御され、別のオペロン(Plac)がcscKBを制御する、本発明の代替の実施形態を示す。 図7は、PCR増幅産物、a)cscKB、およびb)Placop−cscKB−ターミネーターフラグメントを示す。 図8は、sodAプロモーターによってcscAのみが酸素による制御され、別のオペロン(cscK)がcscKBを制御する、本発明の代替の実施形態を示す。 図9は、PCR増幅産物、a)cscProK−B、およびb)HindIII−XbaIフラグメントとして切断されたcscProK−Bフラグメントを示す。 図10は、1%スクロースを含む最小MOPS培地上でのMG1655 sodA::cscの増殖曲線を示す。この曲線の四角で囲んだ領域は、嫌気条件下で培養物が増殖した時間を示す。 図11は、単一の炭素源およびエネルギー源として0.4%スクロースを含む最小MOPS倍地(灰色の菱形)、ならびに0.2%グルコースおよび0.4%スクロースを含むMOPS培地(黒四角)上でのMG1655 sodA::cscの増殖曲線を示す。この曲線の四角で囲んだ領域は、嫌気条件下で培養物が増殖した時間を示す。 図12は、単一の炭素源およびエネルギー源として0.4%スクロースを含む最小MOPS倍地(灰色の菱形)、ならびに0.2%グルコースおよび0.4%スクロースを含むMOPS培地(黒四角)上でのMG1655 sodA::cscについての生存細胞計数(パネルA)および培地pH(パネルB)を示す。このプロットの四角で囲んだ領域は、嫌気条件下で培養物が増殖した時間を示す。 図13は、ネイティブPTSプロモーターのsodAプロモーターでの置換を示す。 図14は、sodAプロモーターによって調節されるPTSおよびPCR増幅のために使用され得るオリゴヌクレオチドの組換え構築を示す。

Claims (14)

  1. 酸素レベルによって調節される、炭素源からの代謝フラックスを有する、微生物。
  2. 前記微生物が原核生物である、請求項1に記載の微生物。
  3. 前記原核生物が、E.coli、Shigella、Salmonella、Corynebacter、Lactococcus、およびStreptomycetesからなる群より選択される、請求項2に記載の微生物。
  4. 前記微生物が真核生物である、請求項1に記載の微生物。
  5. 前記真核生物が酵母である、請求項4に記載の微生物。
  6. 前記酵母が、S.cerevisiaeおよびS.pombeからなる群より選択される、請求項5に記載の微生物。
  7. 前記炭素源が、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、スクロース、マルトース、N−アセチルグルコサミン、β−グルコシド、マンニトール、セルビオース、ソルボース、グルシトールおよびガラクチトールからなる群より選択される、請求項1に記載の微生物。
  8. 前記微生物は、ホスホエノールピルビン酸依存ホスホトランスフェラーゼ系のタンパク質をコードする遺伝子に作動可能に連結された酸素調節型プロモーターを含む、請求項1に記載の微生物。
  9. 前記微生物は、E.coli O157.H7スクロース代謝モジュールをコードする遺伝子に作動可能に連結された酸素調節型プロモーターを含む、請求項1に記載の微生物。
  10. 前記遺伝子は、ホスホエノールピルビン酸依存ホスホトランスフェラーゼ系のタンパク質とユビキチンとを含む融合タンパク質をコードする、請求項8に記載の微生物。
  11. 前記遺伝子は、E.coli O157.H7スクロース代謝モジュールのタンパク質とユビキチンとを含む融合タンパク質をコードする、請求項9に記載の微生物。
  12. 微生物における代謝フラックスを調節する方法であって、請求項1に記載の微生物を、所望の代謝フラックスを生じるのに適した栄養条件および酸素濃度の下で培養する工程を包含する、方法。
  13. 微生物におけるオーバーフロー代謝産物の産生を減少させる方法であって、該方法は、請求項1に記載の微生物を、栄養条件下、および酸素の閾値レベルより下、閾値レベルより上、または閾値レベルの酸素濃度下で培養し、それによって該オーバーフロー代謝産物を産生する1以上の代謝経路を通る炭素の流れを変える工程を包含する、方法。
  14. 酸素感受性プロモーターを含む微生物であって、該プロモーターは、該微生物の1以上の代謝経路を通る、炭素源の代謝フラックスを調節することができ、そして該酸素感受性プロモーターは、天然には該酸素感受性プロモーターの転写制御下にはない異種遺伝子に作動可能に連結されている、微生物。
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