JP2009299134A - ハースロール - Google Patents

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Abstract

【課題】合金元素として多量のマンガン(Mn)を含有する高張力鋼板を搬送する場合であっても、ハースロールのロール周面に形成されたジルコニア皮膜が破壊されないようにする。
【解決手段】酸化イットリウム(Y2 3 )で安定化された又は部分安定化されたジルコニア(ZrO2 )粉末を溶射することにより、酸素含有率〔O〕(単位:質量%)とイットリウム含有率〔Y〕(単位:質量%)との関係が下記の(1)式を満たす皮膜を形成する。
〔O〕≧−0.06〔Y〕+26‥‥(1)
【選択図】図1

Description

本発明は、ロール周面にセラミックス皮膜が形成されたハースロール(熱処理炉で使用される搬送ロール)に関する。
連続焼鈍ライン(CAL)や連続溶融亜鉛めっきライン(CGL)の焼鈍炉内は、温度が600〜1300℃で酸化性雰囲気または還元性雰囲気となっており、被熱処理材である鋼板は、ハースロールで長時間連続的に搬送されながら焼鈍される。そのため、このような焼鈍炉内に配設されるハースロールは、ロール周面に摩耗が生じたり、温度の上昇および降下過程で熱応力を受ける。
また、焼鈍過程で、鋼板に含まれるMnやSiなどの酸化され易い元素が、表面に濃化して酸化物を形成し、これらの酸化物がハースロールの周面に凝着して堆積し、凸状の異物(いわゆる、ピックアップ)が形成される場合がある。
そして、ハースロールの周面に摩耗やピックアップに伴う凹凸が発生すると、鋼板がハースロールで搬送されている間に、鋼板の表面に疵が付いて品質低下の原因になるため、これを防止する必要がある。
下記の特許文献1には、Y2 3 が4〜25wt%で残部が実質的にZrO2 であるセラミックス皮膜を連続焼鈍炉のハースロールに溶射により形成することで、ハースロールの高温耐摩耗性を向上させ、酸化物がロールの表面(ロール周面)に凝着して堆積することを防止できると記載されている。
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、合金元素として多量のマンガン(Mn)を含有する高張力鋼板の場合、鋼板表面に濃化したMnがハースロール表面に付着して拡散するため、Mn拡散領域でジルコニアの立方晶および正方晶安定化元素であるイットリウム(Y)濃度が低下して、立方晶から正方晶、正方晶から単斜晶への変態が促進される。この結晶変態に伴う体積変化(正方晶⇒単斜晶で約4%)によって、ハースロール表面に形成されたジルコニア皮膜には高い圧縮応力が負荷され、その結果、皮膜が破壊される恐れがあるため、これを防止する必要がある。
特開昭61−124534号公報
本発明の課題は、合金元素として多量のマンガン(Mn)を含有する高張力鋼板を搬送する場合であっても、ハースロールのロール周面に形成されたジルコニア皮膜が破壊されないようにすることである。
上記課題を解決するために、本発明は、酸化イットリウム(Y2 3 )で安定化された又は部分安定化されたジルコニア(ZrO2 )粉末を溶射することにより、ロール周面にジルコニア系セラミックス皮膜が形成され、前記皮膜中の酸素含有率〔O〕(単位:質量%)とイットリウム含有率〔Y〕(単位:質量%)との関係が下記の(1)式を満たすことを特徴とするハースロールを提供する。
〔O〕≧−0.06〔Y〕+26‥‥(1)
なお、安定化ジルコニアとは、立方晶ジルコニアが室温でも安定化されているものであり、また、部分安定化ジルコニアとは、正方晶ジルコニアが室温でも一部残存した状態を指し、外部応力を受けると正方晶から単斜晶へのマルテンサイト変態が生じ、特に引張応力の作用によって進展する亀裂の成長を抑制し、高い破壊靭性を持つ。
本発明者らの検討により、合金元素として多量のマンガン(Mn)を含有する高張力鋼板をハースロールで搬送する際に、鋼板に含まれるMnは、ロール周面に形成されたジルコニア系セラミックス皮膜の酸素欠損部に拡散し易いことが分かった。
したがって、本発明のハースロールによれば、ロール周面に、前記皮膜中の酸素含有率〔O〕(単位:質量%)とイットリウム含有率〔Y〕(単位:質量%)との関係が下記の(1)式を満たすジルコニア系セラミックス皮膜が形成されていることで、皮膜に酸素欠損が生じ難くなる。よって、合金元素として多量のマンガン(Mn)を含有する高張力鋼板を搬送する場合に、鋼板に含まれるMnが前記皮膜に拡散することが抑制される。よって、皮膜に含まれるイットリウムの濃度が保持されて、皮膜を構成するジルコニアが立方晶、正方晶から単斜晶へ変態し難くなるため、皮膜の破壊が防止される。
本発明のハースロールによれば、合金元素として多量のマンガン(Mn)を含有する高張力鋼板を搬送する場合であっても、ロール周面に形成されたジルコニア皮膜が破壊され難いため、ハースロールの寿命を長くすることができる。よって、長期に亙って耐ピックアップ性が保持される。
以下、本発明の実施形態について説明する。
50mm×50mm×厚さ10mmのSUS304からなる板を基材とし、その表面に中間層として、厚さ100μmのCoCrAlYからなる層を溶射により形成した。
その上に、安定化剤の酸化イットリウム(Y2 3 )を7、8、12、20質量%含有するジルコニア(ZrO2 )粉末を使用し、条件を変えて溶射を行うことにより、組成の異なる7種類のジルコニア系セラミックス皮膜を厚さ150μmで形成した。
具体的には、溶射時の材料温度、溶射ガンの出力(溶射粒子飛行速度)を変更することで、皮膜の組成を変えている。溶射時の材料温度が高いほど、溶射粒子が酸化されやすいため、皮膜に含まれる酸素量は多くなる。溶射方法としては、熱源として燃焼ガスを用いるフレーム溶射や爆発溶射、電極間に不活性ガスを流した状態で放電させたプラズマを熱源としたプラズマ溶射が適用できる。
前者は一般的に3000℃程度、後者は5000〜10000℃程度であり、プラズマ溶射の方が高熱で溶射される。そのため、プラズマ溶射を行った場合は、皮膜に含まれる酸素量は多くなるが、爆発溶射などと比較して粒子飛行速度は遅いため、皮膜の密着性の点では劣る。よって、皮膜中の酸素含有率を高くしながら皮膜の密着性を保持するためには、高温、且つ、速い粒子飛行速度で溶射を行う必要がある。
また、溶射後に皮膜の断面をEDX(エネルギー分散型X線)分析し、各構成元素の含有率を測定した。
次に、得られたジルコニア皮膜がMnと反応して変態が生じるかどうか調べるために、各基材のジルコニア皮膜の上にMnO2 粉末を載せて、窒素雰囲気中で温度900℃に100時間保持する試験を行った。この試験の前後で皮膜の相構造をX線回折で調べ、正方晶系のジルコニア皮膜の単斜晶への変態進行度合い(単斜晶比率:Xm )を下記の(2)式で算出した。
Figure 2009299134
これらの結果を下記の表1に示す。
Figure 2009299134
これらの結果から、イットリウム含有率〔Y〕と酸素含有率〔O〕との関係を示すグラフを作成した。このグラフを図1に示す。
このグラフに下記の(1’)式を示すラインを引いた。このラインは、ZrO2 とY2 3 がともに酸素欠損が無い(理想)状態での、イットリウム含有率〔Y〕と酸素含有率〔O〕との関係を示す。
〔O〕=−0.06〔Y〕+26‥‥(1’)
このグラフの7つのプロットのうち、(1’)式を示すラインより上側にあるNo. 1,3〜5は試験後の単斜晶比率が0であり、下側にプロットされたNo. 2,6,7は、それぞれ試験後の単斜晶比率が0.7%、2.3%、1.2%である。すなわち、イットリウム含有率〔Y〕と酸素含有率〔O〕との関係を示すプロットが、(1’)式を示すラインより上側にあれば酸素欠損が無く、試験後の単斜晶比率が0となり、(1’)式を示すラインより下側にあれば酸素欠損があり、試験後に単斜晶比率が生じている。よって、皮膜の組成をイットリウム含有率〔Y〕と酸素含有率〔O〕との関係が下記の(1)式を満たすようにすることで、ZrO2 とY2 3 がともに酸素欠損が無く、皮膜に含まれるY2 3 (安定化剤)の濃度が保持されて、単斜晶比率の変態が抑制できる。
〔O〕≧−0.06〔Y〕+26‥‥(1)
直径900mm、厚さ28mmの中空ロールのロール周面に、下記の方法で中間層とセラミックス皮膜を形成することで、連続焼鈍ライン用のハースロールA,Bを得た。
先ず、各中空ロールのロール周面に、中間層として、CoCrAlYからなる層を100μm溶射により形成した。この上に、ハースロールAでは、Y2 3 含有率が8.0質量%で残部がZrO2 であるジルコニア粉末を溶射することで、150μmのジルコニア系セラミックス皮膜を形成した。ハースロールBでは、Y2 3 含有率が8.0質量%で残部がZrO2 であるジルコニア粉末を溶射することで、150μmのジルコニア系セラミックス皮膜を形成した。ハースロールAの溶射条件は、ハースロールBの溶射条件と比較して、高出力且つ基材との距離を大きくして、酸素欠損が少なくなるようにした。
また、溶射後に皮膜の断面をEDX(エネルギー分散型X線)分析し、各構成元素の含有率を測定した。これらの結果を下記の表2に示す。なお、ハースロールAは、皮膜中のイットリウム含有率〔Y〕と酸素含有率〔O〕との関係を示す(1)式を満たすが、ハースロールBはこれを満たさない。
Figure 2009299134
そして、これらのハースロールA,Bを連続焼鈍ラインの炉(操業条件は、炉温:800〜850℃、雰囲気:3%H2 −N2 、露点:−40℃、搬送する鋼板:SAPH440)に設置して3カ月間の連続操業を行った後に、炉を開放して、ロール周面にピックアップが発生しているかと皮膜の剥離が生じているかについて調べた。
その結果、本発明の実施例に相当するハースロールAでは、ロール周面にピックアップの発生はなく、皮膜の剥離も生じていなかった。これに対して、比較例に相当するハースロールBでは、ロール周面にピックアップは発生していなかったが、皮膜の剥離が生じていた。
ハースロールのロール周面に形成された皮膜のイットリウム含有率〔Y〕と酸素含有率〔O〕との関係を示すグラフである。

Claims (1)

  1. 酸化イットリウム(Y2 3 )で安定化された又は部分安定化されたジルコニア(ZrO2 )粉末を溶射することにより、ロール周面にジルコニア系セラミックス皮膜が形成され、前記皮膜中の酸素含有率〔O〕(単位:質量%)とイットリウム含有率〔Y〕(単位:質量%)との関係が下記の(1)式を満たすことを特徴とするハースロール。
    〔O〕≧−0.06〔Y〕+26‥‥(1)
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