上述した従来の空気入りタイヤによれば、複合コードがカーカスコードに平行となるように補強層をカーカスに隣接して配設することで、タイヤ内部からカーカスに作用する応力を補強層により確実に受け止めてタイヤ剛性を確保する。しかも、タイヤの静止時には、複合コードの高弾性域の剛性によりフラットスポットの発生を抑制する一方、通常走行状態では、低弾性域の剛性により乗心地の悪化を防止する。このように、従来の空気入りタイヤでは、剛性を高める要素と剛性を低める要素とを備えた補強層により、フラットスポットの発生を抑えた上で、乗り心地の悪化を防ぐ。
しかし、従来の空気入りタイヤであっても、停車時における接地領域と非接地領域とのサイドウォール部の変形から、カーカスのひずみ差により周上の不均一が発生するおそれがある。また、接地領域と非接地領域とのトレッド部の曲げ変形から、ベルト補強層のひずみ差により周上の不均一が発生するおそれがある。このことから、フラットスポットの発生を完全に無くすことは難しく、かつ周上の不均一により耐久性が悪化する。このため、空気入りタイヤのさらなる改善が望まれる。
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、耐久性の悪化を抑えつつ、フラットスポットの発生を抑えることのできる空気入りタイヤを提供することを目的とする。
上記目的を達成するため、本発明にかかる空気入りタイヤでは、一対の円環状のビード部で各端部が折り返されると共にタイヤ周方向にトロイド状に配置され、かつタイヤ子午線方向に沿いつつタイヤ周方向に並設された複数のカーカスコードを有する少なくとも1層のカーカスと、前記カーカスの外周に配置された少なくとも2つのベルトを有するベルト層とを備えた空気入りタイヤにおいて、少なくとも1層の前記カーカスにおける前記カーカスコードは、単位周方向長さ当たりのカーカス剛性が異なる少なくとも2種のコード部をタイヤ周方向に隣接して配設されてなり、前記カーカスの外周には、タイヤ赤道線に対する角度θが0[度]≦θ≦3[度]で配置された補強コードを有し、かつ正規内圧が充填された状態で前記カーカスのタイヤ幅方向最大幅位置でのタイヤ径方向高さHaに対し、前記補強コードの配置域H1が、H1≦(Ha×0.9)および(Ha×1.1)≦H1の範囲に設定された周方向補強層を備えたことを特徴とする。
この空気入りタイヤによれば、カーカス剛性の比較的低いコード部により、サイドウォール部の範囲において、実質的にカーカスコードのエンド数が低減され、柔軟性を備えた領域が得られる。これにより、サイドウォール部の範囲でカーカスの剛性が低減されて当該範囲でのたわみ量が大きくなるのでタイヤ径方向の剛性が低減される。しかも、周方向補強層を設けたことで、サイドウォール部の範囲以外の剛性が増し、トレッド部、ショルダー部あるいはビード部の曲げ変形が抑制されてサイドウォール部での変形が集中する。この結果、タイヤ幅方向およびタイヤ周方向での剛性の不均一が抑えられ、タイヤ耐久性が向上する。さらに、車両の重量などの垂直荷重がサイドウォール部の範囲で吸収され、かつ路面に接地するトレッド部およびショルダー部の変形が抑制されるので、フラットスポットの発生を抑えることができる。
また、本発明にかかる空気入りタイヤでは、前記周方向補強層は、前記カーカスのタイヤ幅方向最大幅位置よりもタイヤ径方向外側に配置され、かつ一部が前記ベルト層、もしくは前記ベルト層の外周に設けられたベルト補強層のタイヤ径方向内側に配置されていることを特徴とする。
この空気入りタイヤによれば、サイドウォール部での曲げ変形部分がビード部寄りに変位されるので、タイヤ接地時でのトレッド部の曲げ変形が抑制される。この結果、フラットスポットの発生をさらに抑えることができる。
また、本発明にかかる空気入りタイヤでは、前記周方向補強層の前記補強コードは、高剛性繊維および低剛性繊維からなる少なくとも2種類の複合コードからなり、前記複合コードは、応力−伸び曲線にて、原点から変曲点に至る低弾性域と、前記変曲点を超える高弾性域とを有すると共に、前記変曲点での伸びδが0.5[%]≦δ≦5.0[%]の範囲に設定されていることを特徴とする。
この空気入りタイヤによれば、タイヤの静止時には、複合コードの高弾性域の剛性によりフラットスポットの発生を抑制できる。一方、通常走行状態では、低弾性域の剛性により乗心地の悪化を防止する。この結果、剛性を高める要素と剛性を低める要素とを備えた補強層により、フラットスポットの発生を抑えた上で、乗り心地の悪化を防ぐことができる。
また、本発明にかかる空気入りタイヤでは、カーカス剛性が最も高い前記コード部の単位周方向長さ当たりのカーカス剛性をRAとし、カーカス剛性が最も低い前記コード部の単位周方向長さ当たりのカーカス剛性をRBとした場合、カーカス剛性RAに対してカーカス剛性RBが、0.4≦RB/RA≦0.9の範囲に設定されていることを特徴とする。
この空気入りタイヤによれば、カーカス剛性RAに対するカーカス剛性RBの比が0.4未満であると、カーカス剛性が最も高いコード部とカーカス剛性が最も低いコード部とのカーカス剛性の差が大きく、ハンドルや車両の振動および車室内騒音の発生原因となる空気入りタイヤの均一性(UF:ユニフォーミティ)が悪化する。一方、カーカス剛性RAに対するカーカス剛性RBの比が0.9を超えると、カーカス剛性が最も高いコード部とカーカス剛性が最も低いコード部とのカーカス剛性の差が小さく、カーカスの剛性を低減できない。このため、カーカス剛性RAに対してカーカス剛性RBが、0.4≦RB/RA≦0.9の範囲に設定されていることが好ましい。
また、本発明にかかる空気入りタイヤでは、タイヤ子午線方向で連続する連続コード部と、ビードフィラーのタイヤ径方向外側端から前記ベルト層のタイヤ幅方向最外側端までの範囲で少なくとも1箇所が切断された切断部を設けられた切断コード部とで、単位周方向長さ当たりのカーカス剛性が異なるコード部が構成されていることを特徴とする。
この空気入りタイヤによれば、切断コード部の切断部により、サイドウォール部の範囲において、実質的にカーカスコードのエンド数が低減され、柔軟性を備えた領域が得られる。これにより、サイドウォール部の範囲でカーカスの剛性が低減されて当該範囲でのたわみ量が大きくなるのでタイヤ径方向の剛性が低減される。しかも、周方向補強層を設けたことで、サイドウォール部の範囲以外の剛性が増し、トレッド部、ショルダー部あるいはビード部の曲げ変形が抑制されてサイドウォール部での変形が集中する。この結果、タイヤ幅方向およびタイヤ周方向での剛性の不均一が抑えられ、タイヤ耐久性が向上する。さらに、車両の重量などの垂直荷重がサイドウォール部の範囲で吸収され、かつ路面に接地するトレッド部およびショルダー部の変形が抑制されるので、フラットスポットの発生を抑えることができる。
また、本発明にかかる空気入りタイヤでは、前記切断コード部の前記カーカスコードは、前記切断部のコード端間隔hが、0.5[mm]≦h≦10[mm]の範囲に設定されており、かつタイヤ周方向に並設された前記カーカスコードの50本当たりの本数m1が、5[本]≦m1≦25[本]の範囲に設定されていることを特徴とする。
この空気入りタイヤによれば、コード端間隔hが0.5[mm]未満の場合は、変形に対する効果が少なく、トレッド部およびショルダー部の変形を抑制する効果が得られ難い。一方、コード端間隔hが10[mm]を超える場合では、カーカスの強度が不足してタイヤ耐久性が悪化する。このため、切断コード部は、切断部のコード端間隔hが、0.5[mm]≦h≦10[mm]の範囲に設定されていることが好ましい。また、カーカスコード50本当たりの切断コード部のカーカスコードの本数m1が5[本]未満の場合は、変形に対する効果が少なく、トレッド部およびショルダー部の変形を抑制する効果が得られ難い。一方、カーカスコード50本当たりの切断コード部のカーカスコードの本数m1が25[本]を超える場合では、カーカスの強度が不足してタイヤ耐久性が悪化する。このため、切断コード部のカーカスコードは、カーカスコードの50本当たりの本数m1が、5[本]≦m1≦25[本]の範囲に設定されていることが好ましい。
また、本発明にかかる空気入りタイヤでは、前記切断コード部は、前記切断部のタイヤ径方向高さH2が、前記カーカスのタイヤ幅方向最大幅位置でのタイヤ径方向高さHaおよびタイヤ断面高さHtに対し、(Ha−0.15×Ht)≦H2≦(Ha+0.15×Ht)の範囲に設定されていることを特徴とする。
この空気入りタイヤによれば、サイドウォール部のタイヤ幅方向最大幅で、変形量が大きくできる範囲で、実質的にカーカスコードのエンド数が低減され、柔軟性を備えた領域が得られる。このため、車両の重量などの垂直荷重をより吸収し、かつ路面に接地するトレッド部およびショルダー部の変形をより抑制して、フラットスポットの発生をさらに抑えることができる。
また、本発明にかかる空気入りタイヤでは、前記切断コード部は、前記カーカスが2層設けられている場合に、2層の前記カーカスのうちの何れかに設けられていることを特徴とする。
この空気入りタイヤによれば、カーカスが2層設けられている場合、両方のカーカスコードに切断コード部が含まれていると、カーカスの強度が不足してタイヤ耐久性が悪化する。このため、カーカスが2層設けられている場合には、何れか一方のカーカスにおけるカーカスコードに切断コード部が含まれるものとし、他方のカーカスにおけるカーカスコードには、切断コード部を含まず連続コード部のみが含まれるものとすることが好ましい。
また、本発明にかかる空気入りタイヤでは、前記切断コード部は、前記カーカスが1層のみ設けられている場合、前記ビード部で前記カーカスの端部が外側に折り返された折返部に前記切断部が設けられていることを特徴とする。
この空気入りタイヤによれば、カーカスが1層のみ設けられている場合、ビード部でカーカスの端部が折り返される前の内側に切断部を設けると、カーカスの強度が不足してタイヤ耐久性が悪化する。このため、カーカスが1層のみ設けられている場合には、折り返された外側の折返部に切断部を設けることが好ましい。
また、本発明にかかる空気入りタイヤでは、前記ビード部で前記カーカスの端部が外側に折り返された折返部において、前記カーカスコードが所定長さに形成された第1コード部と、前記折返部において、前記第1コード部よりも前記カーカスコードの長さが短く形成された第2コード部とで、単位周方向長さ当たりのカーカス剛性が異なるコード部が構成されていることを特徴とする。
この空気入りタイヤによれば、第1コード部よりもカーカスコードの長さが短く形成された第2コード部により、サイドウォール部の範囲において、実質的にカーカスコードのエンド数が低減され、柔軟性を備えた領域が得られる。これにより、サイドウォール部の範囲でカーカスの剛性が低減されて当該範囲でのたわみ量が大きくなるのでタイヤ径方向の剛性が低減される。しかも、周方向補強層を設けたことで、サイドウォール部の範囲以外の剛性が増し、トレッド部、ショルダー部あるいはビード部の曲げ変形が抑制されてサイドウォール部での変形が集中する。この結果、タイヤ幅方向およびタイヤ周方向での剛性の不均一が抑えられ、タイヤ耐久性が向上する。さらに、車両の重量などの垂直荷重がサイドウォール部の範囲で吸収され、かつ路面に接地するトレッド部およびショルダー部の変形が抑制されるので、フラットスポットの発生を抑えることができる。
また、本発明にかかる空気入りタイヤでは、前記第1コード部の前記カーカスコードと前記第2コード部の前記カーカスコードとの前記折返部での長さの差tが、10[mm]≦t≦50[mm]の範囲に設定され、かつ前記第1コード部における前記カーカスコードの総数に対し、前記第2コード部における前記カーカスコードの総数の比m2が、0.1≦m2≦0.5の範囲に設定されていることを特徴とする。
この空気入りタイヤによれば、第1コード部のカーカスコードと第2コード部のカーカスコードとの折返部での長さの差tが10[mm]未満の場合は、変形に対する効果が少なく、トレッド部およびショルダー部の変形を抑制する効果が得られ難い。一方、第1コード部のカーカスコードと第2コード部のカーカスコードとの折返部での長さの差tが50[mm]を超える場合では、カーカスの強度が不足してタイヤ耐久性が悪化する。このため、第1コード部のカーカスコードと第2コード部のカーカスコードとの折返部での長さの差tが10[mm]≦t≦50[mm]の範囲に設定されていることが好ましい。また、第1コード部におけるカーカスコードの総数に対する第2コード部におけるカーカスコードの本数の比m2が、0.1未満の場合は、変形に対する効果が少なく、トレッド部およびショルダー部の変形を抑制する効果が得られ難い。一方、第1コード部におけるカーカスコードの総数に対する第2コード部におけるカーカスコードの本数の比m2が、0.5を超える場合では、カーカスの強度が不足してタイヤ耐久性が悪化する。このため、第1コード部におけるカーカスコードの総数に対する第2コード部におけるカーカスコードの本数の比m2が、0.1≦m2≦0.5の範囲に設定されていることが好ましい。
また、本発明にかかる空気入りタイヤでは、前記第2コード部における折返部端のタイヤ径方向高さH3が、前記カーカスのタイヤ幅方向最大幅位置でのタイヤ径方向高さHaおよびタイヤ断面高さHtに対し、(Ha−0.15×Ht)≦H3≦(Ha+0.15×Ht)の範囲に設定されていることを特徴とする。
この空気入りタイヤによれば、サイドウォール部のタイヤ幅方向最大幅で、変形量が大きくできる範囲で、実質的にカーカスコードのエンド数が低減され、柔軟性を備えた領域が得られる。このため、車両の重量などの垂直荷重をより吸収し、かつ路面に接地するトレッド部およびショルダー部の変形をより抑制して、フラットスポットの発生をさらに抑えることができる。
また、本発明にかかる空気入りタイヤでは、各前記コード部の総数n1が、20≦n1≦200の範囲に設定されていることを特徴とする。
この空気入りタイヤによれば、コード部の総数n1が20未満の場合は、局所的なカーカスの剛性の低下により強度が不足してタイヤ耐久性が悪化する。一方、コード部の総数n1が200を超える場合では、変形に対する効果が少なく、トレッド部およびショルダー部の変形(フラットスポット)を抑制する効果が得られ難い。このため、各コード部の総数n1が、20≦n1≦200の範囲に設定されていることが好ましい。
また、本発明にかかる空気入りタイヤでは、前記周方向補強層の前記補強コードをなす複合コードは、前記高剛性繊維を芳香族ポリアミドとし、前記低剛性繊維を46ナイロンとしたことを特徴とする。
この空気入りタイヤによれば、高剛性繊維を、熱寸法安定性が高く、高弾性な芳香族ポリアミドとしたことで、耐フラットスポット性が向上する。さらに、低剛性繊維を、熱寸法安定性が高い46ナイロンとしたことで、耐フラットスポット性が向上する。
また、本発明にかかる空気入りタイヤでは、扁平率が55[%]以下であることを特徴とする。
この空気入りタイヤによれば、タイヤ幅方向の距離が比較的長い扁平率55[%]以下のものに適用されることで、より顕著に耐フラットスポット性の向上効果を奏する。
本発明にかかる空気入りタイヤは、単位周方向長さ当たりのカーカス剛性が異なる少なくとも2種のコード部をタイヤ周方向で隣接して配設し、かつカーカスの外周に周方向補強層を設けたことにより、耐久性の悪化を抑えつつ、フラットスポットの発生を抑えることができる。
以下に、本発明にかかる空気入りタイヤの実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。また、この実施の形態の構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、あるいは実質的同一のものが含まれる。また、この実施の形態に記載された複数の変形例は、当業者自明の範囲内にて任意に組み合わせが可能である。
図1は、本発明の実施の形態にかかる空気入りタイヤの子午断面図、図2は、図1に示す空気入りタイヤにおけるカーカスのコード部をあらわす概略側面図、図3〜図5は、周方向補強層の配置例をあらわす概略子午断面図、図6は、周方向補強層の応力−伸び曲線を表すグラフ、図7は、図1に示す空気入りタイヤにおけるカーカスの他のコード部をあらわす概略側面図、図8は、図7に示す切断コード部の切断部をあらわす概略図、図9は、図7に示す他のコード部を適用した場合でカーカスを2層設けた形態の概略子午断面図、図10は、図7に示す他のコード部を適用した場合でカーカスを1層設けた形態の概略子午断面図、図11は、図1に示す空気入りタイヤにおけるカーカスのさらに他のコード部をあらわす概略側面図、図12は、本発明の実施の形態にかかる空気入りタイヤの性能試験の結果を示す図表である。
以下の説明において、タイヤ径方向とは、空気入りタイヤ1の回転軸(図示せず)と直交する方向をいい、タイヤ径方向内側とはタイヤ径方向において回転軸に向かう側、タイヤ径方向外側とはタイヤ径方向において回転軸から離れる側をいう。また、タイヤ周方向とは、前記回転軸を中心軸とする周り方向をいう。また、タイヤ幅方向とは、前記回転軸と平行な方向をいい、タイヤ幅方向内側とはタイヤ幅方向においてタイヤ赤道面Sに向かう側、タイヤ幅方向外側とはタイヤ幅方向においてタイヤ赤道面Sから離れる側をいう。
また、以下に説明する空気入りタイヤは、タイヤ赤道面Sを中心としてほぼ対称になるように構成されている。タイヤ赤道面Sとは、空気入りタイヤの回転軸に直交すると共に、空気入りタイヤのタイヤ幅の中心を通る平面である。タイヤ幅は、タイヤ幅方向の外側に位置する部分同士のタイヤ幅方向における幅、つまり、タイヤ幅方向においてタイヤ赤道面から最も離れている部分間の距離である。また、タイヤ赤道線とは、タイヤ赤道面S上にあって空気入りタイヤの周方向に沿う線をいう。そして、以下に説明する空気入りタイヤは、タイヤ赤道面Sを中心としてほぼ対称になるように構成されていることから、空気入りタイヤの回転軸を通る平面で該空気入りタイヤを切った場合の子午断面図においては、タイヤ赤道面Sを中心とした一側のみを図示して当該一側のみを説明し、他側の説明は省略する。
図1に示すように、本実施の形態に係る空気入りタイヤ1は、トレッド部2と、その両側のショルダー部3と、各ショルダー部3から順次連続するサイドウォール部4およびビード部5とを有している。この空気入りタイヤ1は、カーカス6と、ベルト層7と、ベルト補強層8とを含み構成されている。
トレッド部2は、空気入りタイヤ1の外部に露出したものであり、その表面が空気入りタイヤ1の輪郭となる。トレッド部2の外周表面、つまり、走行時に路面と接触する踏面には、トレッド面21が形成されている。このトレッド面21には、タイヤ周方向に延在して形成された複数(本実施の形態では4つ)の周方向主溝22と、これら周方向主溝22により区画形成された複数の陸部をなすリブ23とが設けられている。
ショルダー部3は、トレッド部2のタイヤ幅方向両外側の部位である。また、サイドウォール部4は、空気入りタイヤ1におけるタイヤ幅方向の最も外側に露出したものである。また、ビード部5は、ビードコア51とビードフィラー52とを有する。ビードコア51は、スチールワイヤであるビードワイヤをリング状に巻くことにより形成されている。ビードフィラー52は、カーカス6の端部がビードコア51の位置でタイヤ幅方向外側に折り返されることにより形成された空間に配置される。
カーカス6は、一対のビード部5に対して各タイヤ幅方向端部が折り返され、かつタイヤ周方向にトロイド状に掛け回されてタイヤの骨格を構成するものである。このカーカス6は、有機繊維(ナイロンやポリエステルなど)やスチールなどのカーカスコード61(図2参照)が、ゴム材で被覆されたものである。カーカスコード61は、空気入りタイヤ1のタイヤ赤道線に直交してタイヤ子午線方向に沿いつつタイヤ周方向に複数並設されている。なお、図1で示すカーカス6は、1層で構成されているが、剛性を向上するために多層構造としてもよい。すなわち、本実施の形態でのカーカス6は、所望とする剛性に応じて少なくとも1層設けられている。また、カーカスコード61は、タイヤ赤道線に直交しているが、タイヤ赤道線(タイヤ周方向)に対する角度が実質的に90[度]であって、タイヤ赤道線に対する90度を基準に−5[度]から+5[度]の範囲の角度を含む。
ベルト層7は、少なくとも2つのベルト71,72を積層した多層構造をなし、カーカス6の外周であるタイヤ径方向外側に配置されてカーカス6をタイヤ周方向に覆うものである。ベルト71,72は、有機繊維(ナイロンやポリエステルなど)やスチールなどのコードがゴム材で被覆されたもので、該コードがタイヤ周方向、つまりタイヤ赤道線に対して、所定の角度をつけて配置されている。また、ベルト71,72は、タイヤ赤道線に対して、相互にコードを反対方向に傾けて配置されている。
ベルト補強層8は、ベルト層7の外周であるタイヤ径方向外側に配置されてベルト層7をタイヤ周方向に覆うものである。ベルト補強層8は、有機繊維(ナイロンやポリエステルなど)やスチールなどのコードがゴム材で被覆されたもので、該コードがタイヤ周方向、つまりタイヤ赤道線に対して実質的に0度(タイヤ周方向に対する角度が10°以下)の角度となるように配置されている。
このような空気入りタイヤ1にかかり、図2に示すように、少なくとも1層のカーカス6におけるカーカスコード61は、単位周方向長さ当たりのカーカス剛性が異なる少なくとも2種のコード部611,612をなし、これらコード部611,612がタイヤ周方向に隣接して配設されている。なお、本実施の形態でのカーカスコード61は、カーカス剛性が比較的高いコード部611と、カーカス剛性が比較的低いコード部612との2種のコード部をなしているが、これに限らず、単位周方向長さ当たりのカーカス剛性が異なる3種以上のコード部をなしていてもよい。
コード部611は、カーカス剛性が比較的高く構成された高コード部611Aとして構成されている。この高コード部611Aは、カーカス6において全て同じ剛性に構成されたカーカスコード61のうち、図2に示すように、タイヤ周方向で隣接する距離が密であって、タイヤ周方向の所定寸法でのカーカスコード61の本数(エンド数[本/50mm])が比較的多く配置されている。一方、コード部612は、カーカス剛性が比較的低く構成された低コード部612Aとして構成されている。この低コード部612Aは、カーカス6において全て同じ剛性に構成されたカーカスコード61のうち、図2に示すように、タイヤ周方向で隣接する距離が疎であって、タイヤ周方向の所定寸法でのカーカスコード61の本数(エンド数[本/50mm])が比較的少なく配置されている。
なお、カーカスコード61の1本の剛性は、2[%]伸張時での力で定義するものとする。この剛性をカーカス6の単位周方向長さ当たりのコード本数をかけることでカーカス剛性とすればよい。あるいは、カーカス6をコートゴムごと単位周方向長さ当たりの幅だけ切り出して、コード延在方向の2[%]伸張時の力をカーカス剛性としてもよい。また、図には明示しないが、高コード部611Aおよび低コード部612Aは、上述したエンド数の他、例えば、アラミド繊維、レーヨン繊維、ポリエステル繊維などのコード材料を変更したり、コード径を変更したり、曲付けを与えたり、初期張力を変更したり、縒り数を変更したりすることによりカーカス剛性を調整できる。このように、コード材料、コード径、曲付け付与、初期張力、および縒り数によりカーカス剛性を調整した場合では、高コード部611Aおよび低コード部612Aは、1本のカーカスコード61から構成することができる。
また、カーカス6の外周には、周方向補強層9が設けられている。周方向補強層9は、補強コード91(図2参照)がゴム材で被覆されたものである。補強コード91は、ナイロン繊維、ポリエステル繊維、レーヨン繊維、アラミド繊維、ポリエステル繊維、スチールなどのコード材からなり、同種のコード材を寄り合わせたものである。この周方向補強層9は、カーカス6の外周に、タイヤ赤道線に対する角度θが0[度]≦θ≦3[度]で補強コード91が配置されるようにタイヤ周方向に巻かれている。なお、周方向補強層9は、補強コード91が帯状の長手方向に沿って配置された、例えば10mm幅のストリップ材から構成され、このストリップ材をタイヤ周方向に螺旋状に巻き着けたものであってもよい。周方向補強層9がストリップ材からなる場合、該ストリップ材同士の端部を合わせたり、該端部を重ねたり、該端部間に間隔を設けたりすることで、周方向補強層9の剛性を調整できる。
この周方向補強層9は、空気入りタイヤ1に正規内圧(後に説明する)が充填された状態で、図1に示すようにカーカス6のタイヤ幅方向最大幅位置でのタイヤ径方向高さHaに対し、補強コード91のタイヤ径方向での配置域H1が、H1≦(Ha×0.9)および(Ha×1.1)≦H1の範囲で設けられている。すなわち、周方向補強層9は、カーカス6の外周であって、かつカーカス6のタイヤ幅方向最大幅位置でのタイヤ径方向高さHaに対し、該タイヤ径方向高さHaの−10[%]を超え、かつ+10[%]未満の範囲外に設けられている。なお、図1においては、周方向補強層9が、ショルダー部3の近傍であって、(Ha×1.1)≦H1の範囲に設けられた形態を示している。また、図3においては、周方向補強層9が、ビード部5の近傍であって、H1≦(Ha×0.9)の範囲に設けられた形態を示している。
なお、タイヤ径方向高さHaは、(タイヤ径方向の外径−リム径)/2であって、ビード部5のタイヤ径方向内周側端部(すなわち、リムベース53の位置)からカーカス6のタイヤ幅方向最大幅位置までのタイヤ径方向の高さである。
このように上述した空気入りタイヤ1では、カーカス剛性の異なるコード部611(高コード部611A)と、コード部612(低コード部612A)とを備えたことで、低コード部612Aにより、サイドウォール部4の範囲において、実質的にカーカスコード61のエンド数が低減され、柔軟性を備えた領域が得られる。これにより、サイドウォール部4の範囲でカーカス6の剛性が低減されて当該範囲でのたわみ量が大きくなるのでタイヤ径方向の剛性が低減される。しかも、周方向補強層9を設けたことで、サイドウォール部4の範囲以外の剛性が増し、トレッド部2、ショルダー部3あるいはビード部5の曲げ変形が抑制されてサイドウォール部4での変形が集中する。このため、タイヤ幅方向およびタイヤ周方向での剛性の不均一が抑えられ、タイヤ耐久性が向上する。この結果、車両の重量などの垂直荷重がサイドウォール部4の範囲で吸収され、かつ路面に接地するトレッド部2およびショルダー部3の変形が抑制されるので、フラットスポットの発生を抑えることができる。
また、本実施の形態にかかる空気入りタイヤ1では、図4および図5に示すように、周方向補強層9が、カーカス6のタイヤ幅方向最大幅位置よりもタイヤ径方向外側(すなわち、(Ha×1.1)≦H1の範囲)に配置され、かつ一部がベルト層7のベルト71,72もしくはベルト補強層8のタイヤ径方向内側に配置されている。
かかる構成によれば、サイドウォール部4での曲げ変形部分がビード部5寄りに変位されるので、タイヤ接地時でのトレッド部2の曲げ変形が抑制される。この結果、フラットスポットの発生をさらに抑えることができる。
また、本実施の形態にかかる空気入りタイヤ1では、周方向補強層9の補強コード91は、高剛性繊維および低剛性繊維からなる少なくとも2種類の複合コードとして構成されている。この複合コードは、図6のグラフに示すように、応力−伸び曲線Rにて、原点0から変曲点Cに至る低弾性域とこの変曲点Cを越える高弾性域とを有している。この場合、伸び0の状態における曲線に接する接線T1と、破断点において曲線に接する接線T2との交点Xを通る垂線と曲線Rとの交点が変曲点Cとなる。そして、複合コードにおける変曲点Cでの伸びδが0.5[%]≦δ≦5.0[%]の範囲となるように設定されている。
この複合コードは、高剛性繊維と低剛性繊維との撚り合わせたもので、それぞれ下撚りを与えた高剛性繊維のフィラメント糸条と低剛性繊維のフィラメント糸条とを合糸し、上撚りを与えながら撚り合わせる。下撚り糸は、高剛性繊維のフィラメント糸条と低弾性繊維のフィラメント糸条とがそれぞれ1本ずつであっても、複数本ずつであっても、或いは双方異なる本数ずつの組合せであってもよい。下撚りは高剛性繊維フィラメント糸条および低剛性繊維フィラメント糸条の双方とも同一方向に撚ることが好ましい。また、上撚りの方向は下撚りと逆方向であることが好ましい。また、下撚りにおいて予め高剛性繊維フィラメント糸条と低剛性繊維フィラメント糸条とを撚り合わせ、得られた複合下撚り糸を複数本合わせて上撚りしたものであってもよい。いずれにしても撚り方向・撚り形態はこれらに限定されるものでなく、複合コードとして上述した伸びδの範囲に設定することが重要である。高剛性繊維は、弾性率が25〜250GPaのものが好ましく、例えば、芳香族ポリアミド繊維、ポリエチレンナフタレート繊維などの全芳香族ポリエステル繊維、ポリ−p−フェニレンベンズオキサゾール繊維などを挙げることができる。また、低剛性繊維は、弾性率が2〜15GPaのものが好ましく、例えば、ナイロン繊維、ポリエステル繊維、ポリビニールアルコール繊維などの有機繊維を挙げることができる。
かかる構成によれば、タイヤの静止時には、複合コードの高弾性域の剛性によりフラットスポットの発生を抑制できる。一方、通常走行状態では、低弾性域の剛性により乗心地の悪化を防止する。この結果、剛性を高める要素と剛性を低める要素とを備えた補強層により、フラットスポットの発生を抑えた上で、乗り心地の悪化を防ぐことができる。
また、本実施の形態にかかる空気入りタイヤ1では、周方向補強層9の複合コード(補強コード91)は、高剛性繊維を芳香族ポリアミド(アラミド)とし、低剛性繊維を46ナイロンとしてある。
かかる構成によれば、高剛性繊維を、熱寸法安定性が高く、高弾性な芳香族ポリアミドとしたことで、耐フラットスポット性が向上する。さらに、低剛性繊維を、熱寸法安定性が高い46ナイロンとしたことで、耐フラットスポット性が向上する。
また、本実施の形態にかかる空気入りタイヤ1では、カーカス剛性が最も高い高コード部611Aの単位周方向長さ当たりのカーカス剛性をRAとし、カーカス剛性が最も低い低コード部612Aの単位周方向長さ当たりのカーカス剛性をRBとした場合、カーカス剛性RAに対してカーカス剛性RBが、0.4≦RB/RA≦0.9の範囲に設定されている。すなわち、高コード部611Aの単位周方向長さ当たりのカーカス剛性RAに対し、低コード部612Aの単位周方向長さ当たりのカーカス剛性RBの比が、40[%]以上90[%]以下の範囲に設定されている。
カーカス剛性RAに対するカーカス剛性RBの比が40[%]未満であると、高コード部611Aと低コード部612Aとのカーカス剛性の差が大きく、ハンドルや車両の振動および車室内騒音の発生原因となる空気入りタイヤの均一性(UF:ユニフォーミティ)が悪化する。一方、カーカス剛性RAに対するカーカス剛性RBの比が90[%]を超えると、高コード部611Aと低コード部612Aとのカーカス剛性の差が小さく、カーカス6の剛性を低減できない。このため、カーカス剛性RAに対するカーカス剛性RBの比が40[%]以上90[%]以下の範囲に設定されていることが好ましい。
なお、カーカスコード61のエンド数を変えてカーカス剛性を設定する場合、上記カーカス剛性の比RB/RAの範囲に設定するには、例えば、高コード部611Aを48[本/50mm]、低コード部612Aを24〜38[本/50mm]とすることが好ましい。また、カーカス剛性RAに対するカーカス剛性RBの比が、50[%]以上80[%]以下(0.5≦RB/RA≦0.8)の範囲に設定されていると、ユニフォーミティの悪化が防げ、かつカーカス6の剛性を低減できるので、より好ましい。
また、本実施の形態にかかる空気入りタイヤ1では、コード部611,612の総数n1が、20≦n1≦200の範囲に設定されている。
コード部611,612の総数n1が20未満の場合は、局所的なカーカス6の剛性の低下により強度が不足してタイヤ耐久性が悪化する。一方、コード部611,612の総数n1が200を超える場合では、変形に対する効果が少なく、トレッド部2およびショルダー部3の変形(フラットスポット)を抑制する効果が得られ難い。このため、コード部611,612の総数n1が、20≦n1≦200の範囲に設定されていることが好ましい。
また、本実施の形態にかかる空気入りタイヤ1は、特に、タイヤ幅方向の距離が比較的長い扁平率55[%]以下のものに適用されることで、より顕著に耐フラットスポット性の向上効果を奏する。なお、偏平率とは、図1に示すように、タイヤ幅Wに対するタイヤ高さHtを比率で表したものである。
ところで、本実施の形態にかかる空気入りタイヤ1では、図7に示すように、少なくとも1層のカーカス6におけるカーカスコード61は、カーカス剛性の異なる他のコード部611,612として、連続コード部611Bと切断コード部612Bとを有していてもよい。
切断コード部612Bは、カーカス剛性が比較的低いコード部612を構成するものである。この切断コード部612Bは、ビードフィラー52のタイヤ径方向外側端を通過するカーカス6の法線A(図1参照)の位置から、ベルト層7(タイヤ幅方向に最大幅のベルト71)のタイヤ幅方向最外側端を通過するカーカス6の法線B(図1参照)の位置までの範囲、すなわちサイドウォール部4の範囲で、少なくとも1箇所が切断された切断部612Baが設けられている。切断部612Baは、タイヤ子午線方向に沿うカーカスコード61を切断、あるいは分割することにより設けられる。
連続コード部611Bは、カーカス剛性が比較的高いコード部611を構成するものである。この連続コード部611Bは、タイヤ子午線方向に沿うカーカスコード61が連続して形成され、切断部612Baを有していない。
なお、図7に示すように、切断部612Baを有さない連続コード部611Bと、切断部612Baを有した切断コード部612Bとは、タイヤ周方向に複数並設した複数のカーカスコード61から構成したものでもよく、あるいは1本のカーカスコード61から構成されたものであってもよい。
このように、カーカス剛性の異なるコード部611(連続コード部611B)と、コード部612(切断コード部612B)とを備えた空気入りタイヤ1では、切断コード部612Bの切断部612Baにより、サイドウォール部4の範囲において、実質的にカーカスコード61のエンド数が低減され、柔軟性を備えた領域が得られる。これにより、サイドウォール部4の範囲でカーカス6の剛性が低減されて当該範囲でのたわみ量が大きくなるのでタイヤ径方向の剛性が低減され、かつトレッド部2およびショルダー部3の曲げ変形が抑制される。このため、タイヤ幅方向およびタイヤ周方向の剛性の悪化が抑えられ、タイヤ耐久性が向上する。しかも、周方向補強層9を設けたことで、サイドウォール部4の範囲以外の剛性が増し、トレッド部2、ショルダー部3あるいはビード部5の曲げ変形が抑制されてサイドウォール部4での変形が集中する。このため、タイヤ幅方向およびタイヤ周方向での剛性の不均一が抑えられ、タイヤ耐久性が向上する。この結果、車両の重量などの垂直荷重がサイドウォール部4の範囲で吸収され、かつ路面に接地するトレッド部2およびショルダー部3の変形が抑制されるので、フラットスポットの発生を抑えることができる。
また、図7に示す空気入りタイヤ1では、図8に示すように、切断コード部612Bは、切断部612Baのコード端間隔hが、0.5[mm]≦h≦10[mm]の範囲に設定されている。さらに、切断コード部612Bは、タイヤ周方向に並設されたカーカスコード61の50本当たりの本数m1が、5[本]≦m1≦25[本]の範囲に設定されている。
コード端間隔hが0.5[mm]未満の場合は、変形に対する効果が少なく、トレッド部2およびショルダー部3の変形を抑制する効果が得られ難い。一方、コード端間隔hが10[mm]を超える場合では、カーカス6の強度が不足してタイヤ耐久性が悪化する。このため、切断コード部612Bは、切断部612Baのコード端間隔hが、0.5[mm]≦h≦10[mm]の範囲に設定されていることが好ましい。また、50本当たりの本数m1が5[本]未満の場合は、変形に対する効果が少なく、トレッド部2およびショルダー部3の変形を抑制する効果が得られ難い。一方、50本当たりの本数m1が25[本]を超える場合では、カーカス6の強度が不足してタイヤ耐久性が悪化する。このため、切断コード部612Bは、カーカスコード61の50本当たりの本数m1が、5[本]≦m1≦25[本]の範囲に設定されていることが好ましい。
また、図7に示す空気入りタイヤ1では、図1に示すように、切断コード部612Bの切断部612Baのタイヤ径方向の中心位置の高さH2が、カーカス6のタイヤ幅方向最大幅位置での高さHaおよびタイヤ断面高さHtに対し、(Ha−0.15×Ht)≦H2≦(Ha+0.15×Ht)の範囲に設定されている。
なお、タイヤ断面高さHtは、(タイヤ径方向の外径−リム径)/2であって、ビード部5のタイヤ径方向内周側端部(すなわち、リムベース53の位置)からタイヤ赤道面Sとトレッド面21との交点であるセンタークラウンCLまでのタイヤ径方向の高さである。また、切断部612Baのタイヤ径方向の中心位置の高さH2は、タイヤ断面高さHtと同様にビード部5のリムベース53からのタイヤ径方向の高さである。
かかる構成によれば、サイドウォール部4のタイヤ幅方向最大幅位置で、変形量が大きくできる範囲で、実質的にカーカスコード61のエンド数が低減され、柔軟性を備えた領域が得られる。このため、車両の重量などの垂直荷重をより吸収し、かつ路面に接地するトレッド部2およびショルダー部3の変形をより抑制して、フラットスポットの発生をさらに抑えることができる。
また、図7に示す空気入りタイヤ1では、図9に示すように、カーカス6が2層設けられている場合に、2層のカーカス6のうちの何れか一方に切断コード部612Bが設けられ、他方のカーカス6は連続コード部611Bのみ設けられている。
カーカス6が2層設けられている場合、両方のカーカス6におけるカーカスコード61に切断コード部612Bが含まれていると、切断部612Baによりカーカス6の強度が不足してタイヤ耐久性が悪化する。このため、カーカス6が2層設けられている場合には、何れか一方のカーカス6におけるカーカスコード61に切断コード部612Bが含まれるものとし、他方のカーカス6におけるカーカスコード61には、切断コード部612Bを含まず連続コード部611Bのみとすることが好ましい。
また、図7に示す空気入りタイヤ1では、図10に示すように、切断コード部612Bの切断部612Baは、カーカス6が1層のみ設けられている場合に、このカーカス6において、ビード部5でカーカス6の端部が外側に折り返された折返部6aに設けられている。
カーカス6が1層のみ設けられている場合、ビード部5でカーカス6の端部が折り返される前の内側に切断部612Baを設けると、カーカス6の強度が不足してタイヤ耐久性が悪化する。このため、カーカス6が1層のみ設けられている場合には、折り返された外側の折返部6aに切断部612Baを設けることが好ましい。
ところで、本実施の形態にかかる空気入りタイヤ1では、図11に示すように、少なくとも1層のカーカス6におけるカーカスコード61は、カーカス剛性の異なる他のコード部611,612として、長コード部(第1コード部)611Cと、短コード部(第2コード部)612Cとを有していてもよい。
長コード部611Cは、カーカス剛性が比較的高いコード部611を構成するものである。この長コード部611Cは、少なくとも1層のカーカス6の端部が外側に折り返された折返部6aにおいて、カーカスコード61のコード長が所定長さに形成されている。
短コード部612Cは、カーカス剛性が比較的低いコード部612を構成するものである。この短コード部612Cは、折返部6aにおいて、長コード部611Cよりもカーカスコード61のコード長が短く形成されている。
なお、図11に示すように、長コード部611Cと、短コード部612Cとは、タイヤ周方向に複数並設した複数のカーカスコード61から構成したものでもよく、あるいは1本のカーカスコード61から構成されたものであってもよい。
このように、カーカス剛性の異なるコード部611(長コード部611C)と、コード部612(短コード部612C)とを備えた空気入りタイヤ1では、短コード部612Cにより、サイドウォール部4の範囲において、実質的にカーカスコード61のエンド数が低減され、柔軟性を備えた領域が得られる。これにより、サイドウォール部4の範囲でカーカス6の剛性が低減されて当該範囲でのたわみ量が大きくなるのでタイヤ径方向の剛性が低減され、かつトレッド部2およびショルダー部3の曲げ変形が抑制される。このため、タイヤ幅方向およびタイヤ周方向の剛性の悪化が抑えられ、タイヤ耐久性が向上する。しかも、周方向補強層9を設けたことで、サイドウォール部4の範囲以外の剛性が増し、トレッド部2、ショルダー部3あるいはビード部5の曲げ変形が抑制されてサイドウォール部4での変形が集中する。このため、タイヤ幅方向およびタイヤ周方向での剛性の不均一が抑えられ、タイヤ耐久性が向上する。この結果、車両の重量などの垂直荷重がサイドウォール部4の範囲で吸収され、かつ路面に接地するトレッド部2およびショルダー部3の変形が抑制されるので、フラットスポットの発生を抑えることができる。
また、図11に示す空気入りタイヤ1では、長コード部611Cのカーカスコード61と、短コード部612Cのカーカスコード61との折返部6aでの長さの差tが、10[mm]≦t≦50[mm]の範囲に設定されている。さらに、長コード部611Cにおけるカーカスコード61の総数に対し、短コード部612Cにおけるカーカスコード61の本数の比m2が、0.1≦m2≦0.5の範囲に設定されている。
上記長さの差tが10[mm]未満の場合は、変形に対する効果が少なく、トレッド部2およびショルダー部3の変形を抑制する効果が得られ難い。一方、上記長さの差tが50[mm]を超える場合では、カーカス6の強度が不足してタイヤ耐久性が悪化する。このため、長コード部611Cと短コード部612Cとの折返部6aでのカーカスコード61の長さの差tが10[mm]≦t≦50[mm]の範囲に設定されていることが好ましい。また、上記本数の比m2が0.1未満の場合は、変形に対する効果が少なく、トレッド部2およびショルダー部3の変形を抑制する効果が得られ難い。一方、上記本数の比m2が、0.5を超える場合では、カーカス6の強度が不足してタイヤ耐久性が悪化する。このため、長コード部611Cにおけるカーカスコード61の総数に対し、短コード部612Cにおけるカーカスコード61の本数の比m2が、0.1≦m2≦0.5の範囲に設定されていることが好ましい。
また、図11に示す空気入りタイヤ1では、短コード部612Cの折返部6a端の高さH2が、カーカス6のタイヤ幅方向最大幅位置での高さHaおよびタイヤ断面高さHtに対し、(Ha−0.15×Ht)≦H2≦(Ha+0.15×Ht)の範囲に設定されている。
かかる構成によれば、サイドウォール部4のタイヤ幅方向最大幅位置で、変形量が大きくできる範囲で、実質的にカーカスコード61のエンド数が低減され、柔軟性を備えた領域が得られる。このため、車両の重量などの垂直荷重をより吸収し、かつ路面に接地するトレッド部2およびショルダー部3の変形をより抑制して、フラットスポットの発生をさらに抑えることができる。
本実施の形態では、条件が異なる複数種類の空気入りタイヤについて、タイヤ耐久性および耐フラットスポット性に関する性能試験が行われた(図12参照)。
この性能試験では、タイヤサイズ225/45ZR17の空気入りタイヤを、正規リムに組み付け、正規内圧を充填し、正規荷重を加えた。なお、ここでいう正規リムとは、JATMAに規定される「適用リム」、TRAに規定される「Design Rim」、あるいはETRTOに規定される「Measuring Rim」をいう。また、正規内圧とは、JATMAに規定される「最高空気圧」、TRAに規定される「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」の最大値、あるいはETRTOに規定される「INFLATION PRESSURES」をいう。また、正規荷重とは、JATMAに規定される「最大負荷能力」、TRAに規定される「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」の最大値、あるいはETRTOに規定される「LOAD CAPACITY」をいう。
評価方法は、タイヤ耐久性の性能試験では、ドラム径1707mmでJATMA高速耐久性試験終了後、30分毎に10km/h加速してタイヤが破壊するまで試験を続行した。この結果に基づいて比較例を基準(100)とした指数評価が行われる。この評価は、数値が大きいほど好ましい。また、ユニフォーミティの性能試験では、また、耐フラットスポット性の性能試験では、ユニフォーミティをJASO C607「自動車用タイヤのユニフォーミティ試験方法」に準拠して測定し、時速150km/hで30分予備走行後に、荷重を負荷した状態で1時間ドラム停止する。その後、再び、タイヤユニフォーミティを測定し、ラジアルフォースバリエーションの予備走行前後の差ΔRFVを評価する。この差ΔRFVが小さいほど、耐フラットスポット性に優れる。この結果に基づいて比較例を基準(100)とした指数評価が行われる。この評価は、数値が大きいほど好ましい。
比較例の空気入りタイヤは、タイヤ周方向でのカーカス剛性を変化させず、かつ周方向補強層を設けていない。一方、実施例1〜実施例6の空気入りタイヤは、タイヤ周方向でのカーカス剛性を変化させ、かつ周方向補強層を設けてある。実施例7〜実施例11の空気入りタイヤは、コード部が連続コード部および切断コード部で構成されていると共に、切断コード部の規定が適正化され、かつ周方向補強層が設けられている。実施例12〜実施例14の空気入りタイヤは、コード部が長コード部および短コード部で構成されていると共に、短コード部の規定が適正化され、かつ周方向補強層が設けられている。
図12の試験結果に示すように、実施例1〜実施例14の空気入りタイヤでは、それぞれ耐久性が許容範囲で維持され、かつ耐フラットスポット性に優れていることが分かる。