JP2009283834A - 放射線検出器 - Google Patents

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Abstract

【課題】放射線検出器を高い電子輸送性を維持したまま、正孔輸送性を大きく向上することができるものとする。
【解決手段】記録用光導電層の両側に電極が設けられ、この電極間に所定のバイアス電圧を印加した状態で、放射線の照射を受けることにより記録用光導電層内部に発生した電荷を電気信号として検出する放射線検出器において、記録用光導電層をアルカリ金属元素を0.0007原子ppm〜0.0035原子ppmの範囲で含有するアモルファスセレンとする。
【選択図】なし

Description

本発明は、X線などの放射線撮像装置に適用して好適な放射線検出器に関するものである。
今日、医療診断等を目的とするX線(放射線)撮影において、X線画像情報記録手段として放射線検出器(半導体を主要部とするもの)を用いて、この検出器により被写体を透過したX線を検出して被写体に関するX線画像を表す画像信号を得るX線撮影装置が各種提案、実用化されている。
この装置に使用される放射線検出器としても、種々の方式が提案されている。例えば、X線を電荷に変換する電荷生成プロセスの面からは、X線が照射されることにより蛍光体から発せられた蛍光を光導電層で検出して得た信号電荷を蓄電部に一旦蓄積し、蓄積電荷を画像信号(電気信号)に変換して出力する光変換方式(間接変換方式)の検出器、或いは、X線が照射されることにより光導電層内で発生した信号電荷を電荷収集電極で集めて蓄電部に一旦蓄積し、蓄積電荷を電気信号に変換して出力する直接変換方式の検出器等がある。
一方、蓄積された電荷を外部に読み出す電荷読出プロセスの面からは、読取光(読取用の電磁波)を検出器に照射して読み出す光読出方式のものや、蓄電部と接続されたTFT(薄膜トランジスタ)を走査駆動して読み出すTFT読出方式のもの等がある。
上述した放射線検出器は、この放射線検出器内に設けられた電荷生成層にX線を照射することによって、X線エネルギーに相当する電荷を生成し、生成した電荷を電気信号として読み出すようにしたものであって、上記光導電層は電荷生成層として機能する。従来より、この光導電層としてはアモルファスセレン(a−Se)、PbO、PbI2、HgI2、BiI3、Cd(Zn)Teなどの材料が使用されている。
上記a−Seは、真空蒸着法等の薄膜形成技術を利用して容易に大面積化に対応が可能であるが、アモルファスゆえの構造欠陥を多く含む傾向があるため、感度が劣化しやすい。そこで、性能を改善するために、適量の不純物を添加(ドーピング)することが一般的に行われており、例えば、特許文献1にはアルカリ金属を0.01 ppm〜10ppmドーピングしたa−Seを利用した記録用光導電層が、特許文献2にはNaを100ppmドーピングしたa−Seを利用した記録用光導電層がそれぞれ記載されている。
特開2003−315464号公報 米国特許第3685989号明細書
従来、a−SeはP型半導体であることから正孔輸送性は十分であって、放射線検出器として高感度を得るには電子輸送性向上が課題であると考えられており、上記特許文献1および2においてもa−SeにNaをドープすることで電子輸送性を向上させていた。これはa−Seの荷電欠陥のうち電子捕獲中心を減少させる効果によるものであった。
しかし、さらなる感度向上のためには、発生キャリアを両電極へ輸送するために電子輸送性の向上のみではなく、正孔輸送性をも向上させて、電子および正孔の輸送性能をともに向上させる必要がある。本発明者が鋭意検討を行ったところ、a−Seにドープするアルカリ金属の濃度を所定の低濃度とすることにより、高い電子輸送性を維持したまま、正孔輸送性を大きく向上できることがわかった。
本発明は上記事情に鑑みなされたものであり、高い電子輸送性を維持したまま、正孔輸送性を大きく向上させることが可能な放射線検出器を提供することを目的とするものである。
本発明の放射線検出器は、記録用光導電層の両側に電極が設けられ、該電極間に所定のバイアス電圧を印加した状態で、放射線の照射を受けることにより前記記録用光導電層内部に発生した電荷を電気信号として検出する放射線検出器において、前記記録用光導電層がアルカリ金属元素を0.0007原子ppm〜0.0035原子ppmの範囲で含有するアモルファスセレンであることを特徴とするものである。
アルカリ金属元素は好ましくは0.0007原子ppm〜0.003原子ppm、さらには0.0007原子ppm〜0.002原子ppmの範囲で含有することが好ましい。アルカリ金属元素の含有量は、記録用光導電層のどの部分においても上記範囲でアルカリ金属元素を含むことを意味する。但し、記録用光導電層の機能を妨げない範囲で、アルカリ金属元素を含まない薄い層を設けることを妨げるものではない。
前記記録用光導電層は、さらにAsを0.1原子%〜0.5原子%の範囲で含有することが好ましい。ここにいう、Asの含有量も、上記アルカリ金属元素の含有量と同様に、記録用光導電層のどの部分においても上記範囲でAsを含むことを意味するが、Asの結晶化防止機能を妨げない範囲で、Asを含まない薄い層を設けることを妨げるものではない。
前記記録用光導電層の少なくとも片側に隣接して、0.2μm〜2μm厚の、Asを2原子%〜14原子%の範囲で含有するアモルファスセレンを設けてもよい。
本発明の放射線検出器は、記録用光導電層の両側に電極が設けられ、この電極間に所定のバイアス電圧を印加した状態で、放射線の照射を受けることにより記録用光導電層内部に発生した電荷を電気信号として検出する放射線検出器において、記録用光導電層がアルカリ金属元素を0.0007原子ppm〜0.0035原子ppmの範囲で含有するアモルファスセレンであるため、高い電子輸送性を維持したまま、正孔輸送性を大きく向上させることができ、従来電子輸送性能のバラツキが大きいとされている純セレンよりも電子輸送性が安定し、さらに正孔輸送性も向上するため、電荷輸送性能に優れた放射線検出器とすることができる。
また、純セレンあるいはアルカリ金属をドープしたセレンは結晶化温度が低く結晶化し易く、このような結晶化の核は蒸着中に生じることが多いため、アルカリ金属と同時に結晶化抑制能を有するAsをドープすることが好ましい。本発明においても、記録用光導電層をさらにAsを0.1原子%〜0.5原子%の範囲で含有するものとすることにより、あるいは、記録用光導電層の少なくとも片側に隣接して、0.2μm〜2μm厚の、Asを2原子%〜14原子%の範囲で含有するアモルファスセレンを設けることにより、耐久性に優れた放射線検出器とすることができる。
放射線検出器には、放射線を直接電荷に変換し電荷を蓄積する直接変換方式と、放射線を一度CsI:Tl、Gd2O2S:Tbなどのシンチレータで光に変換し、その光をa−Siフォトダイオード等で電荷に変換し蓄積する間接変換方式があるが、本発明の放射線検出器は、放射線あるいは光−電荷変換層としてa-Seを用いる系であれば前者の直接変換方式にも、後者の間接変換型の光-電子変換層にも用いることができる。なお、直接変換方式ではより厚いa-Se層を用いるので、本発明の効果はより大きくなる。
また、本発明の放射線検出器は、光の照射により電荷を発生する半導体材料を利用した放射線画像検出器により読み取る、いわゆる光読取方式にも、また、放射線の照射により発生した電荷を蓄積し、その蓄積した電荷を薄膜トランジスタ(thin film transistor:TFT)などの電気的スイッチを1画素ずつON・OFFすることにより読み取るTFT方式にも用いることができる。
以下、光読取方式に用いられる放射線検出器を例にとって説明する。図1は本発明の放射線検出器の一実施形態を示す概略断面図を示すものである。
この放射線検出器10は、記録用の放射線に対して透過性を有する上部電極1、この上部電極1を透過した放射線の照射を受けることにより導電性を呈する記録用光導電層2、上部電極1に帯電される電荷(潜像極性電荷;例えば負電荷)に対しては略絶縁体として作用し、かつ、その電荷と逆極性の電荷(輸送極性電荷;上述の例においては正電荷)に対しては略導電体として作用する電荷蓄積層3、読取用の読取光の照射を受けることにより導電性を呈する読取光導電層4、電磁波に対して透過性を有する下部電極5を、ガラス基板11上に積層してなるものである。
記録用光導電層2と上部電極1との間、読取光導電層4と下部電極5の間には界面の結晶化を防止するための結晶化防止層6および7が設けられ、結晶化防止層6と上部電極1との間には暗電流、リーク電流低減の観点から、整流特性を有する上引き層8が、同様の目的で結晶化防止層7と下部電極5との間には下引き層9が設けられている。また、上部電極1における沿面放電を防止するため、電極上面には表面保護層12が設けられている。さらに、下部電極の下層には透明の有機絶縁層を介して一部任意の波長の光だけを透過させる遮光層(カラーフィルター層)13が形成されている。
上記構成のうち、記録用光導電層2はアルカリ金属元素を0.0007原子ppm〜0.0035原子ppmの範囲で含有するa−Seである。記録用光導電層を構成するa−Seが、アルカリ金属元素を0.0007原子ppm〜0.0035原子ppmの範囲で含有する点について説明する。なお、放射線としてはX線の他、γ線、α線などについて使用することが可能であるが、ここではX線を例にとって説明する。
記録用光導電層2の厚みは、a−Se化合物を用いる場合には100μm以上2000μm以下であることが好ましい。特にマンモグラフィ用途では、150μm以上250μm以下、一般撮影用途においては500μm以上1200μm以下の範囲であることが特に好ましい。
X線吸収率は記録用光導電層の構成元素およびその層厚により決定され、a−Seを用いた記録用光導電層を、例えばマンモグラフィ用として利用する場合、X線のエネルギーは層厚200μmで90%以上、100μmでも80%以上が吸収される。そこで、記録用光導電層の厚さとして、十分なX線吸収量を有する170μmとする。
記録用光導電層の最も重要な機能は、X線吸収により発生した電子および正孔をその場に残存させることなく、効率良く電子蓄積層および上部結晶化防止層(Au電極)まで到達させることである。この効率は電子および正孔の輸送性に依存し、電子および正孔の平均飛程(移動度、寿命、電界の積で定義され、距離の次元を有する)は光過渡電流(Time Of Flight: TOF)測定により評価される。電荷飛程を求める際の電界は、デバイス駆動時の電界の10V/μmとする。
ここで、a−Se:Na系において、デバイス感度と平均電荷飛程の関係をより明確にするために、電子(正孔)飛程をプロットする際には正孔(電子)飛程が3mm以上であるデバイスに限り採用し、デバイス感度の電子・正孔平均飛程依存性をプロットしたものを図2に示す。図2から明らかなように、両電荷の平均飛程の増加とともにデバイスの感度は向上し、電子・正孔平均飛程がそれぞれおよそ4mmで感度が飽和傾向となる。すなわち、X線情報を電荷情報に変換する効率を十分に得るためには、電子・正孔平均飛程はそれぞれ3mm以上が望ましいと言える。なお、一般撮影用途の場合でも平均飛程が3mm以上あれば十分な効率が得られる。
次ぎに、Na濃度と電子および正孔の平均飛程の関係を図3に示す。図3の横軸と縦軸の交差する横軸(横軸の左端)は、純Seを製膜した場合の電子・正孔の平均飛程を示している。実際には純Seを製膜した場合のNa濃度は測定検出下限値以下で測定することができないため、図3に示す純Se に限りなく近い部分(縦軸に限りなく近い部分)は推定しているものではあるが、それを考慮しても電荷輸送性の観点から、Na濃度が0.0007原子ppm以上存在すると電子輸送性が増加し、正孔輸送性が低下することがわかり、0.0007原子ppm以上0.0035原子ppm以下の範囲(図3に示す点線枠内の範囲)であれば電子および正孔の平均電荷飛程3mmが確保できることがわかる。そして、これより、電子と正孔の輸送性のバランスが最も良い膜中のNa濃度は0.0007原子ppm以上0.0035原子ppmとなり、この範囲において最も感度の高い放射線検出器が得られることがわかる。
なお、蒸着膜中のNa濃度は、同じ製膜バッチ中の試料に対して、濃度の絶対値が得られるが感度の低いICP−MSと、感度が高いが濃度の相対値しか得られないQSIMSの2種類の手法を用いて測定した。ICP−MSにおいては、a−Se:Na蒸着試料表面を100mlの超純水で洗浄後、硝酸でエッチングして溶解し、定容として供試液とし、濃度を測定した。QSIMSにおいては、1次イオン種をO2+、1次イオンエネルギー3000eV、1次イオン電流を250μAとし、2次イオン種として80Seおよび23Na強度を検出するために四重極型2次イオン質量分析計を用いた。これにより、各2次イオン強度(1秒当りのカウント数)の深さ方向プロファイルを得て、深さ10μm以上のNa強度が安定した領域において80Seと23Naのカウント数/sをQSIMSにおけるNa濃度とした。複数の試料を測定することにより、図4に示すようにICP−MSとQSIMS間の検量線が求められ、Na濃度(原子ppm) = 23Na/80Se(@QSIMSカウント数比)×50の関係を推定し、推定Na濃度 (原子ppm)とした。
アルカリ金属元素を0.0007原子ppm〜0.0035原子ppmの範囲で含有するa−Seからなる記録用光導電層は、例えば図5に示す真空蒸着装置により製造することができる。図5は記録用光導電層を製造するための真空蒸着装置の模式断面図であり、図6は蒸着容器の部分拡大断面図である。この真空蒸着装置50は、蒸発源であるNaを含むセレン51が収容される蒸着容器52と、蒸着容器52上に設けられたメッシュ状フィルタ53と、蒸発源が被着する基板54を保持する保持部材55とからなり、メッシュ状フィルタ53の下にはメッシュ状フィルタ53を温度制御するためのヒータ57が設けられてなる。
メッシュ状フィルタとしてはステンレス、タンタル、モリブデン、タングステン等の金属網やセラミック網等を用いることができ、メッシュはインチ当たりの網目数として#100〜#625であることが好ましい。メッシュの温度制御には、メッシュ通電や金属鞘(シース)の中に発熱体(ニクロム線など)を保持し、その隙間を熱伝導性のよい絶縁物(酸化マグネシウムなど)の粉末で充填したシースヒータ等のヒータあるいは油冷パイプ等を用いることができる。なお、蒸発容器の上部に別途設けたヒータによって温度制御することも可能である。
蒸着方法としては回転蒸着や直線搬送など、特に限定されるものではなく、原材料セレン51を蒸発容器52内で蒸発容器52に接続された加熱源(図示せず)によって加熱してセレンの蒸気流を生じさせ、この蒸気流がヒータ57によって温度制御されたメッシュ状フィルタ53を通過して基板54に被着することにより、蒸着セレン層58を形成することができる。
電子平均飛程はメッシュ温度に対して極大を有する挙動を示し、正孔平均飛程はメッシュ温度の低下とともに単調に増加する傾向を示す。従って、メッシュの温度を一定の温度範囲に制御することで両電荷輸送性がともに3mm以上とすることが可能となる。
なお、ここでは、蒸発源である原材料として、Naを含むセレンを用いた場合を説明したが、蒸発源である原材料として、Naを含まないセレンと、Naを含有する化合物で表面改質された蒸着容器を用いることによっても、同様にして蒸着セレン層58を形成することができる。
図5に示す真空蒸着装置を用いて温度制御した場合のメッシュ平均温度と膜中のNa量の関係を図7に(メッシュ有り)、図5に示す真空蒸着装置のメッシュ状フィルタ53とヒータ57を取り除き、蒸着容器52を温度制御した場合のコントロール温度と膜中のNa量の関係を図8(メッシュ無し)に示す。なお、メッシュ温度が低すぎる場合には、蒸着中にメッシュが詰まり製膜効率が低く所定の膜厚が得られない等の問題が生じるため、メッシュ温度は210℃近傍から測定している。また、蒸発容器内の加熱は255℃としている。
図7および8から明らかなように、蒸着原料のNa濃度は32原子ppm程度であるが、蒸着後の膜中Na濃度はメッシュ無しの場合で0.03原子ppm〜0.4原子ppmとなって、2.5桁程度低下し、メッシュを導入した場合にはさらに膜中Na濃度が1桁以上低下し0.002原子ppm〜0.02原子ppmとなる。
従って、アルカリ金属元素を0.0007原子ppm〜0.0035原子ppmの範囲で含有するa−Seからなる記録用光導電層は、蒸着時にメッシュ状フィルタを用い、かつそのメッシュ状フィルタを温度制御することにより製造することができる。なお、蒸着原料のNa濃度を1桁以上下げて、数原子ppm程度とすればメッシュを導入しなくても同様の性能を得ることができる。
また、純セレンあるいはアルカリ金属をドープしたセレンは結晶化温度が低下し結晶化し易くなることが知られている。このような結晶化の核は蒸着中の突沸や異物の混入により生じることが多いため、アルカリ金属と同時に結晶化抑制能を有するAsをドープすることが好ましく、記録用光導電層2は、さらにAsを0.1原子%〜0.5原子%の範囲で含有することが好ましい。下記表1はa-Se:Na系デバイス(As非含有、デバイス1)とAsの濃度を変更して共蒸着したa-Se:Na,As系デバイス(デバイス2〜4)の電子飛程/正孔飛程(mm)および感度を比較したものである。Asを0.1原子%以上含有させることによって耐久性を向上させることが可能であるが、表1に示すように、Asの含有量が大きくなるに従って、感度が徐々にではあるが低下することが看取される。従って、耐久性と感度の両方の特性を確保するためには、Asの含有量は0.1原子%〜0.5原子%の範囲とすることが好ましい。
Figure 2009283834
Asを0.1原子%〜0.5原子%の範囲で含有する記録用光導電層を製造するには、上記アルカリ金属元素を0.0007原子ppm〜0.0035原子ppmの範囲で含有するa−Seからなる記録用光導電層を製造する場合と同様、図5に示す真空蒸着装置の蒸着容器52に、蒸発原料であるNaを含むセレンを収容し、加熱すると同時に、別に用意したAs2Se3またはSe-As合金を原料として収容した蒸着容器を所定のAs濃度となるような温度で加熱する、いわゆる共蒸着により製造することができる。
図9は、本発明の別の実施の形態である放射線検出器の構成を示す概略断面図である。なお、この図9において、図1中の構成要素と同等の構成要素には同番号を付し、それらについての説明は特に必要のない限り省略する。図9に示す放射線検出器10は、記録用光導電層2の片側に隣接して、0.2μm〜2μm厚の、Asを2原子%〜14原子%の範囲で含有するa−Seからなる層15(以下、隣接層15という)が形成されているものである。結晶核は記録用光導電層2の特に隣接層15が位置する界面において生じやすい。これはアモルファス層が界面において本質的に自由エネルギー的に不安定になりやすいことや、蒸着開始までの時間に蒸着面に異物が乗る確率が高いこと、膜の蒸着開始時には原料の脱ガス成分が混入し易く、突沸が多いことなど種々の要因に起因している。このような界面近傍にAsを同時にドープすることで結晶核生成を抑制して結晶化を抑制することができる。
隣接層15の層厚を0.2μm〜2μm厚、その隣接層15にAsを2原子%〜14原子%の範囲で含有させることにより、感度劣化が少なく、結晶化に起因する画像欠陥が発生する頻度も少なくなり、耐久性を向上させることができる。隣接層15の層厚が0.2μmよりも薄い場合、例えば0.15μmの場合には、駆動を続けた場合に画像欠陥が急激に増加するため好ましくなく、2μm厚より厚い場合には、画像欠陥を抑制する効果はほとんど向上せず電荷輸送性の悪化した層が厚すぎ電荷蓄積層まで電子が到達できないために感度が低下することとなるため好ましくない。また、Asが1原子%よりも少ない場合には耐久性の向上が図れず、一方、Asが15原子%の場合には界面からの注入が促進され、画像が劣化するため好ましくない。
なお、図9では電荷蓄積層3側の記録用光導電層2に隣接させて、隣接層15を形成した態様を示しているが、結晶化防止層6側の記録用光導電層2に隣接させて隣接層15を形成してもよく、この場合には、隣接層15が結晶化防止層としての機能を果たすため、結晶化防止層6を省略可能である。
隣接層15は、隣接層15の母体であるSeの蒸着源と、Asの蒸着源を別にし、かつ同時に蒸着する共蒸着法を利用して製造することができる。例えば、母体であるSeの蒸着レートは一定とし、Asの蒸着源温度は、時間に対して適宜制御することで、形成することができる。
なお、隣接層15の層厚、あるいは濃度は、上記の各蒸発源の予め測定し、設定した蒸着レートから求めることができる。また、XPS測定において深さ方向にエッチングレートを一定としてエッチングしながらAs濃度を測定し、最終的にエッチングした深さからエッチングレートを求め、深さ位置情報を求めることにより厚さを測定できる。両者の厚さは、良い対応が得られる。
以下、放射線検出器のその他の層について説明する。
(上部電極)
上部電極としては金属薄膜が好ましく用いられる。材料としてはAu、Ni、Cr、Pt、Ti、Al、Cu、Pd、Ag、Mg、MgAg 3原子%〜20原子%合金、Mg-Ag系金属間化合物、MgCu 3原子%〜20原子%合金、Mg-Cu系金属間化合物などの金属から形成するようにすればよい。特に、AuやPt、Mg-Ag系金属間化合物が好ましく用いられる。例えばAuを用いた場合、厚さ15nm以上200nm以下であることが好ましく、より好ましくは30nm以上100nm以下である。例えばMgAg 3原子%〜20原子%合金を用いた場合、厚さ100nm以上400nm以下であることが好ましい。
作製方法は任意であるが、抵抗加熱方式による蒸着により形成されることが好ましい。例えば、抵抗加熱方式によりボート内で金属塊が融解後にシャッターを開け、15秒間蒸着して一旦冷却する。この操作を金属薄膜の抵抗値が十分低くなるまで複数回繰り返す。
(電荷蓄積層)
電荷蓄積層は、蓄積したい極性の電荷に対して絶縁性を有する物質で構成され、As2S3、Sb2S3、ZnS、As2Se3、Sb2Se3等のカルコゲナイド系化合物や、アクリル系有機樹脂、ポリイミド、BCB、PVA、アクリル、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエーテルイミド等の有機高分子や、その他酸化物やフッ化物等により構成される。更には、蓄積したい極性の電荷に対しては絶縁性であり、それと逆の極性の電荷に対しては導電性を有する方がより好ましく、移動度×寿命の積が、電荷の極性により3桁以上差があることが好ましい。
カルコゲナイド系化合物を用いた電荷蓄積層としては、特に、As2Se3、またはAsxSe1-x(15<x<55)、As2Se3にCl、Br、I等のハロゲン元素を500原子ppm〜20000原子ppmまでドープしたもの、またはAs2Se3のSeをTeで50%程度まで置換したもの、またはAs2Se3のSeをSで50%程度まで置換したもの、またはa−Se-Te系でTeを5原子%〜30原子%までドープしたものが好ましく用いられる。このようなカルコゲナイド系元素を含む物質を用いる場合、電荷蓄積層の厚みは0.4μm以上3.0μm以下であることが好ましく、より好ましくは0.5μm以上2μm以下である。このような電荷蓄積層は、1度の製膜で形成しても良いし、複数回に分けて積層しても良い。
有機高分子を用いた電荷蓄積層としては、アクリル系有機樹脂、ポリイミド、BCB、PVA、アクリル、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエーテルイミド等の有機高分子に電荷輸送剤をドープした化合物が好ましく用いられる。好ましい電荷輸送剤としては、トリス(8-キノリノラト)アルミニウム(Alq3)、N,N-ジフェニル-N,N-ジ(m-トリル)ベンジジン(TPD)、ポリパラフェニレンビニレン(PPV)、ポリアルキルチオフェン、ポリビニルカルバゾール(PVK)、トリフェニレン(TNF)、金属フタロシアニン、4-(ジシアノメチレン)-2-メチル-6-(p-ジメチルアミノスチリル)-4H-ピラン(DCM)、液晶分子、ヘキサペンチロキシトリフェニレン、中心部コアがπ共役縮合環あるいは遷移金属を含有するディスコティック液晶分子、カーボンナノチューブ、C60(フラーレン)からなる群より選択される分子を挙げることができる。ドープ量は0.1wt%〜50wt%の間で設定される。このような有機高分子を用いる場合、電荷蓄積層の厚みは0.1μm以上1.5μm以下である。
(読取用光電導層)
読取用光導電層は、電磁波、特に可視光を吸収し電荷を発生する光導電物質で構成され、a−Se、アモルファスSi、結晶Si、ZnO、ZnS、ZnSe、ZnTe、PbO、CdS、CdSe、CdTe、GaAs等のうち少なくとも1つを主成分とする化合物で、エネルギーギャップが0.7eV〜2.5eVの範囲に含まれる半導体物質から構成される。a−Seを主とする光導電物質を用いた場合、本明細書で開示したように電荷輸送性が高いLi, Na, K, Cs, Rb等のアルカリ金属を0.0007原子ppm〜0.0035原子ppmまでの間で微量にドープしたa−Se、またはLiF, NaF, KF, CsF, RbF等のフッ化物を0.01原子ppm〜1000原子ppmまでの間で微量にドープしたa−Se、またはGe、P、As、Sb等のIV族・V族元素を10原子ppm〜1原子%までの間で微量にドープしたa−Se、またはCl、Br、I等のハロゲン元素を原子1ppm〜100原子ppmの間で微量にドープしたa−Se等を用いることができる。特に、Asを10原子ppm〜200原子ppm程度含有させたa−Se、またはAsを0.2原子%〜1原子%程度含有させさらにClを5原子ppm〜100原子ppm含有させたa−Se、または本明細書で開示したように電荷輸送性が高い0.0007原子ppm〜0.0035原子ppm程度のNaを含有させたa−Se、または0.0007原子ppm〜0.0035原子ppm 程度のNaと0.1原子%〜0.5原子%のAsを含有させたa−Se、または1.95±0.02の配位数を有するa−Seが好ましく用いられる。
読取光導電層の厚みは、読取光を十分吸収でき、かつ電荷蓄積層に蓄積された電荷による電界が光励起された電荷をドリフトできれば良く、1μm〜30μm程度が好ましい。
(結晶化防止層)
結晶化防止層としては、記録用光導電層と上部電極の間、あるいは読取用光導電層と下部電極層の間に敷設される。結晶化を防止する目的において、Asが1原子%〜20原子%の範囲でドープされたa−Se、またはS、Te、P、Sb、Geが1原子%〜10原子%の範囲でドープされたa−Se、または上記の元素と他の元素を組み合わせてドープしたa−Se、またはより結晶化温度の高いAs2S3やAs2Se3等を好ましく用いることができる。更に、電極層からの電荷注入を防止する目的で上記ドープ元素に加えて、特に正孔注入を防止するためにLi、Na、K、Rb、Cs等のアルカリ金属、またはLiF、NaF、KF、RbF、CsF、LiCl、NaCl、KCl、RbF、CsF、CsCl、CsBr等の分子を10原子ppm〜5000原子ppmの範囲でドープすることも好ましい。逆に電子注入を防止するために、Cl、I、Br等のハロゲン元素、またはIn2O3等を10原子ppm〜5000原子ppmの範囲でドープすることも好ましい。
電極界面層の厚みは、上記目的を十分果たすように0.05μmから1μm程度が好ましい。
(上引き層、下引き層)
上引き層および下引き層は、暗電流、リーク電流低減の観点から、整流特性を有することが好ましい。上部電極に正バイアスが印加される時にはホールブロック性を、負バイアスが印加される時には電子ブロック性を有することが好ましい。この上塗り層および下引き層の抵抗率は、10-8Ωcm以上であること、膜厚は、0.01μm〜10μmであることが好ましい。
電子ブロック性を有する層の場合、Sb2S3、SbTe、ZnTe、CdTe、SbS、AsSe、As2S3等の組成からなる層、または有機高分子層を用いることができる。無機材料からなる層は、その組成を化学量論組成から変化させ、または2種類以上の同族元素との多元組成とすることでキャリア選択性を調節して用いることが好ましい。有機高分子からなる層は、PVK等の電荷輸送基を有するペンダント部を含む高分子の正孔輸送材料を用いても良いし、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリイミド、ポリシクロオレフィン等の絶縁性高分子に、低分子の正孔輸送材料を混合して用いることもできる。こうした正孔輸送材料としては、オキサゾール誘導体、トリフェニルメタン誘導体、ヒドラゾン誘導体、トリフェニルアミン誘導体等が好ましい。具体的にはNPD、TPD、PDA、m-MTDATA2-TNATA、TPACである。
正孔ブロック性を有する層の場合、CdS、CeO2、Ta2O5、SiO等の無機材料、または有機高分子が好ましい。無機材料からなる層は、その組成を化学量論組成から変化させ、または2種類以上の同族元素との多元組成とすることでキャリア選択性を調節して用いることが好ましい。有機高分子からなる層としては、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリイミド、ポリシクロオレフィン等の絶縁性高分子に、低分子の電子輸送材料を混合して用いることができる。こうした電子輸送材料としては、トリニトロフルオレンとその誘導体、ジフェノキノン誘導体、ビスナフチルキノン誘導体、オキサゾール誘導体、トリアゾール誘導体、C60(フラーレン)、C70等のカーボンクラスターを混合したもの等が好ましい。具体的にはTNF、DMDB、PBD、TAZである。
一方、薄い絶縁性高分子層も好ましく用いることができ、例えば、パリレン、ポリカーボネート、PVA、PVP、PVB、ポリエステル樹脂、ポリメチルメタクリレート等のアクリル樹脂が好ましい。この場合膜厚は、2μm以下が好ましく、0.5μm以下がより好ましい。
(下部電極)
下部電極は、信号取り出しのためにストライプ上に交互配置された櫛型電極構造を有しており、裏面より光を照射するため透明であることと、高電圧印加時の電界集中による破壊などを避けるため平坦性が必要であり、たとえばIZO、ITOが用いられる。下部電極の厚さと平坦性は例えばIZOにおいて、0.2μm、Ra=1nmであることが好ましい。
(表面保護層)
絶縁処理は電極面が全く大気に触れない構造にすることが必要であり、表面保護層は密着被覆する構造とする。また、表面保護層は印加電位を上回る絶縁破壊強度を有すること、さらに、放射線検出器の機能上、放射線透過を妨げない部材であることが必要である。従って、被覆性、絶縁破壊強度および放射線透過率の高い材料および製法として、絶縁性ポリマーの蒸着または溶剤塗布が好ましい。具体例としては、常温硬化型エポキシ樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、アクリル樹脂、ポリパラキシレン誘導体をCVD法で成膜する方法等があげられる。この中でも常温硬化型エポキシ樹脂、ポリパラキシリレンをCVD法で成膜するが好ましく、特にポリパラキシリレン誘導体をCVD法で成膜する方法が好ましい。好ましい膜厚は10μm以上1000μm以下であり、さらには20μm以上100μm以下であることが好ましい。
以上のように、本発明の放射線検出器は、記録用光導電層の両側に電極が設けられ、この電極間に所定のバイアス電圧を印加した状態で、放射線の照射を受けることにより記録用光導電層内部に発生した電荷を電気信号として検出する放射線検出器において、記録用光導電層がアルカリ金属元素を0.0007原子ppm〜0.0035原子ppmの範囲で含有するアモルファスセレンであるため、高い電子輸送性を維持したまま、正孔輸送性を大きく向上させることができ、従来電子輸送性能のバラツキが大きいとされている純セレンよりも電子輸送性が安定し、さらに正孔輸送性も向上するため、電荷輸送性能に優れた記録用光導電層とすることができる。
なお、TFT基板による信号読取を行う方式においても、記録用光導電層に本発明のアルカリ金属元素を0.0007原子ppm〜0.0035原子ppmの範囲で含有するアモルファスセレンを用いた場合には、X線情報を電荷情報に変換する際のアモルファスセレン内のプロセスは上記光読取方式と同様に、電子・正孔ともに高い電荷輸送性が得られることにより感度を最大化させることが可能となる。
本発明の放射線検出器の一実施の形態を示す概略断面図 デバイス感度と平均電荷飛程との関係を示すグラフ 膜中Na量と平均電荷飛程との関係を示すグラフ SIMS強度からNa濃度を決定するための検量線 記録用光導電層を製造するための真空蒸着装置の模式断面図 図5に示す蒸着容器の部分拡大断面図 メッシュ枠平均温度と膜中Na量との関係を示すグラフ コントロール温度と膜中Na量との関係を示すグラフ 本発明の放射線検出器の別の実施の形態を示す概略断面図
符号の説明
1 上部電極
2 記録用光導電層
3 電荷蓄積層
4 読取光導電層
5 下部電極
6,7 結晶化防止層
8 上引き層
9 下引き層
10 放射線検出器
15 隣接層
50 真空蒸着装置
52 蒸着容器
53 メッシュ状フィルタ
57 ヒータ

Claims (3)

  1. 記録用光導電層の両側に電極が設けられ、該電極間に所定のバイアス電圧を印加した状態で、放射線の照射を受けることにより前記記録用光導電層内部に発生した電荷を電気信号として検出する放射線検出器において、前記記録用光導電層がアルカリ金属元素を0.0007原子ppm〜0.0035原子ppmの範囲で含有するアモルファスセレンであることを特徴とする放射線検出器。
  2. 前記記録用光導電層がさらにAsを0.1原子%〜0.5原子%の範囲で含有することを特徴とする請求項1記載の放射線検出器。
  3. 前記記録用光導電層の少なくとも片側に隣接して、0.2μm〜2μm厚の、Asを2原子%〜14原子%の範囲で含有するアモルファスセレンからなる層を有することを特徴とする請求項1記載の放射線検出器。
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