次に、本発明の建築物、特に住居の換気構造について具体的に説明する。以下の説明において、基本的には同一の部材には同一の付番を付してある。
本発明の建築物、特に戸建て住宅の換気構造は、図3、図4、図5、図6に示されるように、建築物の基礎上部よりも上方、多くの場合は小屋裏に設けられた吸気口10と、給気シャフト40と、この給気シャフトに開閉自在に形成された複数の給気口50と、居室60の空気を還気するための還気口70とを有している。
本発明の住居の換気構造において、空気を導入するための吸気口10は、この建築物の基礎上面よりも上方に設けられており、通常は、小屋裏の妻壁上部に風雨が侵入しないように開口されている。
本発明の住居の換気構造において必要とされる空気は、この吸気口10から建築物内に導入される。吸気口から外気を取り入れる原動力は、主に排気手段である第三種機械換気装置80による室内の負圧である。
屋外の空気は吸気口10を経て屋内に導入されるが、吸気口には防火ダンパー130が付けられているのが一般的である。さらに、本発明においては、近隣の火災や有害な焚き火などの煤煙やガスを含む外気を吸気しないように、吸気口に接続するダクトに防煙・吸気停止手段12を設けることができる。
例えば、防煙・吸気停止装置には、センサー、開閉弁、信号発信機などが装備され、給気手段と排気手段に連結されている。現在においては、煙感知器は、設置が義務付けられるほどに普及している。それ故、煤煙や有害ガスの感知は専用のセンサーが既に汎用的に使われており、その信号を受けって給気手段と排気手段を自動的に停止させることは、現在では容易な技術であるが、しかしその様な機能を持たせた換気装置は住宅用としては多くはない。
また、給気手段のみの停止では、排気手段による室内側の負圧により吸気口から空気が入ってくる場合も有るので、給気手段、排気手段徒共に停止させることが好ましい。センサーが感知すると自動的に電磁開閉弁が閉鎖し、給気手段と排気手段に停止の信号を送り、吸気が止まる。吸気の再開は、状況が様々なことから、手動で作動開始を行うのが現実的である。
吸気口10、防火ダンパー130と防煙・吸気停止手段12を通過した外気は、塵埃、土ぼこり、虫などの侵入防止の為のフィルター15によって浄化する為に、集中的に吸気する場合には、少なくとも、屋外からの侵入物を遮蔽するためのヘパ・フィルターなどの不純物除去の装置が配置する必要がある。集中的に吸気する場合は、特に防塵、防虫等の不純物除去の装置が実際には極めて重要になる。
さらに、吸気口から給気シャフトに至る中間に、例えば、湿度、温度などが室内を流通している空気と著しく相違する場合には、給気シャフト40に至る前にある程度条件調整を行うことが好ましい。このために屋外から吸気された外気が、第3種機械換気装置から排気される空気との間で熱交換を行うことも必要である。吸気された外気は熱交換ボックス18を通って熱交換を行った後に、給気シャフトをへて室内に給気される事もこれまでの第3種機械換気とは異なり、本発明の特徴である。
熱交換時に生じる圧力損失を補う送風補助装置18aを必要に応じて設けても良い。また、図4,5に示すようにダクト21、22,23のいずれかに、環境調整手段14を配置することが好ましい。この環境調整手段14としては、具体的には、予熱装置、冷却装置、除湿装置、加湿装置などを挙げることができ、本発明においてはこの環境調整手段14内に上記のような装置を単独であるいは組み合わせて配置することができる。
こうした装置には、モータなどの駆動部を有する装置が多く存在する。こうした装置の駆動部が駆動することにより、駆動部震動が発生するので、それぞれの駆動部では、駆動による振動をできるだけ低減する必要があり、モーターなどは、通常は防振材などを介して躯体に固定されている。そして、これらの装置は小屋裏に設けられた支持基台29に固定されているとともに、各装置は、ダクトを介して連結されている。このように複数の装置を支持基台29に固定する場合、それぞれの装置の震動が支持基台29に伝達されないように防振ゴム31のような防振材を介して固定することが好ましい。
また、それぞれの装置を連結するダクトによって各装置の震動が伝達されて共振することがあるので、本発明のように駆動部を有する装置をダクトで連結する場合には、可撓部を有する防振性のダクトを使用することにより、共振によるノイズの発生を防止することができる。
殊に給気シャフト40は、この建築物の主幹部分を縦に貫くように配置されることから、この給気シャフト40とダクト23との間の防振対策は、本発明の換気構造の静寂性に非常に高い影響力を及ぼす。本発明では付番27で示すように、蛇腹型の防振性ジョイントを使用することが好ましい。このような蛇腹型の防振性ジョイント27は、防振ゴムなどにより形成することができる。
本発明は、第三種機械換気を主なる駆動力として換気を行う建築物の換気構造に関するものであるが、吸気口から給気シャフトに至る中間に設けられたヘパ・フィルターなどの不純物除去の装置、環境調整手段、消音装置などは、それ自体に送風用の駆動力を有する装置である場合もあるが、それら中間に設けられた手段、装置によって圧力損失が生じる場合には、その圧力損失を補う為に、吸気口から給気シャフトに至る中間にパイプ・ファンなどの送風補助装置を具備することをなんら排除するものではない。必要な場合には、中間に設けられた手段、装置によって圧力損失をパイプ・ファンなどの送風補助装置を設置して、圧力損失をカバーすることが、現実的である。
上記のように吸気口10より導入された空気は、ダクト23を通って給気シャフト40に供給される。
この給気シャフト40には、図3に示されるように小屋裏20から略垂直に床上95まで貫通するタイプと、図4に示されるように、小屋裏20から略垂直に床下空間100まで貫通するタイプとがあり、いずれのタイプの給気シャフト40も、給気シャフト40に導入された空気を居室60あるいは1階天井懐や床下空間100に給気するための給気口50を有している。
この給気シャフト40は、この建築物に設けられた複数の居室60に均一に空気を供給できるように、この建築物の主幹部分を縦に貫くように配置されているとともに、居室60に空気を供給する給気口50を有している。
給気シャフト40から給気される室内空間は、居室であっても、非居室であっても構わない。全般換気にとっての汚染源のあるクリーンゾーンに直接給気されてもよいし、また、廊下や階段脇などの全体的に空気を分配しやすい位置であれば、非居室に給気されてもよい。基本的には、全般換気の居室またはそれに順ずる室内空間で換気対象空間であれば良い。
この給気シャフト40は、室内空間60及び階間の天井懐及び床下空間に充分な空気を供給できる内径を有しており、通常はこの給気シャフトの任意の断面における差し渡し外径が15cm以上、好ましくは20〜40cmの範囲内にある。
従来から使用されていたダクトは直径が5cm以上15cm未満の給気用ダクトでは、小屋裏、天井裏、壁内を蛇行するダクト内の清掃は現実的には不可能であった。これに対して本発明で使用する給気ダクトの差し渡し外径が15cm以上、好ましくは20〜40cmあり、しかも、小屋裏から垂下しているために、給気シャフト40の内部を常に清潔に保つことができる。
なお、本発明で使用する給気シャフトの断面形状は、円形、楕円形、矩形など任意の形状を採ることができる。この給気シャフト40は、内周壁面を拭き掃除できる程度の強さを有していることが好ましく、給気シャフトの材質は、シャフト内面が拭き掃除できるような強さを有するものである。さらに、空気搬送時の圧力損失小さく、給気口取り付け等の加工がしやすいものであれば良い。このような素材として、紙製、プラスチック製、金属製、木製等のシャフトを挙げることができる。汎用的な塩ビ製パイプを利用すれば、コスト、入手しやすさ、維持管理等において有利である。また、場合によっては、消音のためにグラスウールダクトを用いる場合もあるが、シャフト内面を清掃しやすくしておく必要がある。また、空気は搬送時の静圧に耐え、また設置工事をしやすくする為に自立できて、形態が維持できる為の或る程度の強度がシャフトには必要である。
このような給気シャフト40の特性を考慮すると、紙菅なども利用可能であるが、通常はポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリα−オレフィン製のパイプ;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデンなどの塩素化合成樹脂のパイプなどの合成樹脂パイプを用いて形成されていることが望ましい。特にポリ塩化ビニルのような塩素化ポリオレフィンのパイプは、耐熱性および耐久性に優れ、加工も容易であるとともに安価であり、さらに、自己消化性を有することから、本発明における給気シャフトとして好適である。
この給気シャフト40の外周側には、必要により、断熱材を配置することができる。居室内空気と給気シャフト40内を通過する空気との間に温度差が生じた場合、特に給気シャフト内空気の温度が低い場合、給気シャフト40外周面に断熱材を配置することにより、給気シャフト40の外周面である居室内壁に結露が生ずるのを防止することができる。また、このような断熱材を配置することにより、給気シャフト40内を通過する空気の流動音を消音することも可能である。
一般のセントラル式で給気を行う場合には、給気ダクト内の汚れなどの衛生状態、清潔さは、そのまま給気の空気質に影響を与える。本発明による給気シャフトと従来のダクト方式との決定的な相違の一つは、この点にある。
従って、給気シャフト40内における塵埃の堆積、虫の死骸などの有機物の付着、さらには黴等の発生がないようにしなければならない。従来の給気ダクトでは、ダクト内が不衛生になると、このダクトによって給気される空気も汚染されていたが、その解決策は従来のダクト方式では殆ど不可能または大きな困難を伴うものであった。
本発明で採用する給気シャフト40では、その内部を衛生に保つために、点検口42および清掃口44が形成されており、給気シャフト40内を常に監視することができるとともに、この給気シャフト40内を常に衛生的に保つことができる。
すなわち、このような給気シャフト40内にはシャフト23から奇麗な空気が供給されることから、その内壁面を常にきれいな状態に保つことが必要であり、図8に示すように、このために本発明で採用する給気シャフト40内の状態を常時点検できる点検口42を有している。
この点検口42は、給気シャフト40に設けられた、例えば透明部材から形成された窓であり、給気シャフト40の一部を切り取って形成された開口部に、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂などの透明樹脂を嵌め込むことにより形成することができる。
また、この給気シャフト40には、上記の点検口42から内部を点検して掃除が必要になった場合に、給気シャフト40内壁を掃除するための清掃口44を有している。清掃口44は、図8に示すように、給気シャフト40の一部を切り取って蝶番などで開閉自在に形成された給気シャフトの開口部である。
このような清掃口44を設けることにより、吸気シャフト40の内周壁面を常に清潔に保つことができる。上記のような清掃口44は、二階建て、三階建てなどの建物では、各階に設けるなど、多数設けることができる。また、この清掃口44に点検口42を形成することもできる。なお、実用上は清掃口と点検口が同一のものであっても構わない。
また、この給気シャフト40の底部は、取り外し自在の底面板47によって密閉されているが、図8に示すように給気シャフト40の底部に可動式底面板45を配置して、給気シャフト40内を清掃口44から拭き掃除した際に落下した汚れを可動式底面板45の上に落して、最後に可動式底面板45の上面に設けられたフック46を用いて、引き上げて可動式底面板45の上面にある汚れを拭き取ることにより、給気シャフト40内をより清潔に保つことができ、この給気シャフト40から供給される給気をよりクリーンにすることができる。
また、本発明で使用する給気シャフト40の内表面には、空気中に飛散しない抗菌剤あるいは防黴剤などの安全な薬剤処理を施すこともできる。さらには、シャフト内点検のための照明に殺菌灯を設けても良い。このように本発明で使用する給気シャフト40には、給気シャフト40内を衛生的に維持する為の種々の手段を具備することができる。
このような給気シャフト40には、各居室60に給気を行うための給気口50を有しており、それぞれの給気口50には、この給気口50を開口面積を調整して流出空気の流量を調整するための開口調整部材52が配置されている。この開口調整部材52は、ダンパー形式であってもよいが、給気シャフト40の形状が、円筒である場合には、図9に示すように、給気シャフト40の曲率に沿ったシャッター52aであってもよい。このシャッター52aは、両端部が挟持具52b、52bによって上下動可能に挟持されており、シャッター52aが下方に下がることにより、給気口50の開口面積を調整することができるように形成されている。
給気口50の開閉は、それぞれの居室60において独立して行えるようにされていることが好ましい。また、給気口の背面には防火ダンパーを設けることが好ましい。
本発明で使用される給気シャフト40には、換気対象空間に開いた給気口50が複数個設けられているが、この給気口50は、一般的に家庭用で使われている簡便な風量調整が可能なものであることが好ましい。給気口50から噴出す空気の方向は、給気口のフィン、給気口の設置の向きなどにより調整される。
また、給気口の背面に防火ダンパーを設ける場合もあるが、防火ダンパーの弁の開閉の調整により風量調整が行われても良い。給気口50は、給気シャフト40が収められているシャフトスペースの外側に設けられる。必要換気空気量は設計時で既に把握されているが、その確認は、各給気口の風量測定で行われる。
一般に給気シャフト40は通常はシャフトスペースに収められており、このシャフトスペースには給気シャフト40内の点検、清掃の為の作業が可能な扉等の開口部が設けられている。ただし、シャフトスペースは、室内デザイン的な要素が強く、機能的には本発明での給気シャフト40に必須のものではないが、室内の衣装、インテリアデザインにおいては大きな設計要素となる。
給気シャフト40に設けられた給気口50から室内に適切な空気量が給気されるが、この適切な空気量は、或る給気口が負担すると計画された必要換気量の空気の量である。この量は従来の換気基準と設計法から算出される。給気シャフトから給気される給気量の総和は、室内の換気対象空間に必要な換気空気量の総和である。給気シャフトから給気口をへて室内に吸気する際の駆動力は、主に排気手段である第三種機械換気装置による室内の負圧である。また、補助的送風装置による静圧が加わる場合もある。
所定の換気対象空間への給気量の調整は、給気シャフト40に開閉自在に形成された給気口50の開閉の程度、またはそれに付属する防火ダンパー48の開閉の程度等によって行われ、風量測定によって風量確認が行われる。また、給気の風向は、給気口50のフィンの調整あるいは取り付け向きにより調整することができる。
なお、上記のような構成を有する給気シャフト40は、小規模な建築物の場合にはその中央部を、またある程度大きな建築物においては複数部を縦に貫く空間であり、煙突効果を有することから、非常の場合に備えて防火遮断壁を配置することが好ましく、この防火遮断壁は、図8に示すように給気シャフト40内に配置することもできるし、上記のようなシャッター52aを用いて、給気口50を一斉に閉じることによって防火遮断壁とすることもできる。
上記のような給気シャフト40に設けられた給気口50は、室内空間60に給気を行う。また、全般換気される居室またはこれに準ずる室内空間であって換気対象の空間にも給気されることは勿論である。
このように給気シャフト40から室内へ給気された新鮮な空気は汚染された空気は、室内空間に設けられた還気口70に流れ込む。本発明において、還気は、従来言われていたクリーンゾーンおよびダーティーゾーンの両方で行われることになる。還気口70に流れ込む空気は、図4に示す例では、還気口70からのダクト71を通して、熱交換ボックス18を通って熱交換を行った後に、外部に排出される。なお、ダクト71には、小屋裏換気口71aが形成してあり、そこから小屋根裏の空気も、ダクト71に引き込まれる。
給気シャフト40から給気される空気は新鮮空気であり、室内の汚染は受けていない。その空気がクリーンゾーンあるいはダーティーゾーンを流れて行き、この空気が流れることに伴って、空気は次第に汚染される。
このような空気の流れを形成するための駆動力や運動エネルギーとなるものは、第三種機械換気装置である排気手段により生じる機外静圧であり、室内側を屋外側に対して負圧状態にすることによって生じ圧力である。
本発明において還気口70は、所謂クリーンゾーンおよびダーティーゾーンに設けられており、給気シャフト40の給気口から供給されて居室内あるいは非居室内を通過することによって汚染された空気は、この還気口70に吸い込まれる。この還気口70は、出来るだけ汚染源近くに設置されるのが良い。特に、住宅の気密化によって、臭気、余分な水蒸気、あるいは熱が住居の中に留まる傾向があることから、こうした臭気、余分な水蒸気あるいは熱は、発生場所近傍に設けられた還気口から直ちに除去する必要がある。
本発明では、各居室あるいは非居室に還気口70が配置されており、給気シャフト40から供給された空気の移動距離は非常に短く、従来のように、クリーンゾーンで汚染された空気が家の中を流れてダーティーゾーンに設置された還気口で吸引されるといったことは殆ど無い。汚染源近くで環気されるからである。
なお、本発明では、給気シャフト40を用いて住宅の換気を行うものであるが、給気シャフト40からの室内への給気が、距離あるいは隔壁、障害物等によって換気対象空間にスムースに流れない場合等においては、例えば還気口を空気が流れ難い空間に設置すれば、強制的に還気される事から空気は当該空間に流入する。
さらには、例えば居室空間が空気の流れが分断されるように細切れに計画されるような場合には、個別に還気口を設置し、ダクトで排気手段と連結するように計画しても良い。
なお、上記の説明は、給気シャフト40は、この住居に対して一本配置した例に基づくものであるが、給気シャフト40は二本以上配置する場合もある。それらは、必要換気量や給気と還気とのスムースな連携が確保されるように配置されればよい。
本発明の換気構造を図3、図5を参照して説明する。
図3、図5は、中小規模の戸建て住宅の換気構造の例である。このような中小規模の戸建て住宅において、室内の換気量は、150m3 /時間程度の風量である。
図3では、屋内のほぼ中央のホールに、壁に接して給気シャフト40を収めているシャフトスペース(図示せず)が配置されている。小屋裏20には吸気口10、ダクト11、給気シャフト40上部があり、給気シャフトは小屋裏から天井を通過して室内に略垂直に一階床上まで伸びている。
図5では、給気ダクトが小屋裏から床下まで伸びている。給気シャフト40からは、防火ダンパーのついたフィン付きの複数の吸気口50が各階の室内空間や床下空間に向かって開いている。還気口70は、居室の窓側や、洗面所、トイレ等の天井に設置されている。また、換気対象空間への給気がシャフトから非常に容易に行われるようなオープンな空間計画の場合には、シャフトの吸気口が取り付くシャフトの穴を開放して給気口の代わりに、シャフトスペースの壁面にグリルやガラリを設けて、そこを通して面としての給気を行っても良い。この場合には気流速度が緩やかでありソフトな給気が可能になる。
従来のセントラル式第三種機械換気においては、吸気口は室内の外壁に多数分散してクリーンゾーンに設けられており、外気は吸気口から空気されてそのまま室内に給気される。分散して設置される給気口(吸気口)は、冬季においては外気からの浮力を受け、浮力が外壁に内側から外側に掛かる場合には、吸気は浮力によって妨害されることになり、必要な空気量が給気されない現象も生じる。これは冬季におけるセントラル式の第三種機械換気が原理的に抱える難点である。
さらに、前述したように、冬季の低温な外気が直接室内に入る為に、給気された温度が低く重たい空気は、床を這って拡散することになり、実内の上下の温度差を作りやすくしてしまい、また、コールドドラフトとして居住者に不快感を与えるものであった。いうまでもなく夏季には、冷房されている室温よりも高い気温の外気を屋外から直接室内に給気することになる。このような現象も、これまでのセントラル式の第三種機械換気に伴う室内温熱環境上の難点あった。
本発明は、上記のようなこれまでのセントラル式第三種機械換気の難点または原理的問題を、給気シャフトを用いることにより解決している。すなわち、吸気口分散させて設置するものではなく小屋裏の妻壁に集中的に一箇所または多くとも2箇所開口し、外気を直接室内に吸気して給気とするのではなく、屋外空気はいったん屋内に設けられた給気シャフトを経て間接的に室内に給気されることになる。このような方法は、基本的には第三種機械換気による換気計画の考え方の相違に基づくものである。
以上の様に、給気シャフトを用いた本発明による給気方法は従来の計画上及び施工上の給気に関する不合理性と住人の衛生に関する不安を取り除くものであるが、室内空間に給気された空気の還気に関しても還気シャフトを用いて、維持管理しやすく、かつ合理的な施工が可能な還気シャフトを設けた住宅の換気構造を構成することができる。
本発明において、還気については従来のセントラル方式による第三種機械換気の環気側に、室内に設けられた還気口からダクトを通して、蛸足式に環気空気を集めることが出来るが、図6に示すように、維持管理しやすく衛生的な、合理的施工が可能な還気シャフト120を用いることが好ましい。
本発明は、室内に設けられた還気口に接続した、天井、壁の内側に配管されたダクトが、排気手段と連結された還気シャフトへ接続されており、室内の空気は還気口を通してダクトに入り、ダクトから還気シャフトに集中され、しかる後に排気手段を通って排気口から屋外に強制的に排出されることを特徴とするものである。
実施例としては、図6に見るように第三種機械換気装置による還気に際して、天井もしくはその近辺の高さに設けられた還気口70からのダクト71が還気シャフト120へ接続され、その還気シャフト120が第三種機械換気装置の排気手段80と連結されている。還気シャフト120は、小屋裏20から1階の還気口が設けられる天井近傍の高さに設けられる。
環気シャフトの断面120の大きさは、還気口70からのダクト71との接続のために還気口からのダクト71と同じまたはそれ以上の大きさを必要とするが、第三種機械換気装置に設けられている還気口のダクト接続部の大きさに等しいか、またはそれ以上でかつ15cm以上あれば施工は可能である。
還気シャフト120を用いることにより、従来の給気ダクトと同じような、還気ダクトの振り回しの欠点を解決することができる。従来の還気ダクトの衛生的な維持管理は、室内から出てゆく空気であることから、ゴミが室内には入ってこないという予想のもとに、さして問題にはならないと考えられていた。
しかしながら、多くの場合、ダクト内部や機械換気装置の換気側内部は、室内に給気された空気よりも遥かに様々な物質による汚染がひどいのが実状である。それは、これまでのセントラル式の第三種機械換気の還気口についているフィルターに塵埃が付着して膜を作っている現象に象徴的に現れている。
このような汚染された室内の空気を排出するために換気を行うのであり、換気された空気が居室内に戻ることはないという意味では従来の第三種機械換気においても換気の機能を果たしていることも事実であるが、換気口やダクトに堆積したゴミをそのままにしておくことは、衛生的な居住空間を形成する上で好ましいものであるとは言えない。例えば、機械的に居室内空気を吸引する還気口からのゴミの落下、雑菌の繁殖の養分の蓄積など、塵埃の堆積による非衛生的な状態などが想定される。
本発明は、個々の還気口から引かれるダクトを短くし、かつ略垂直に環気シャフト120を設けることにより、給気シャフトと同じような管理機能上の効果を得ることができる。つまり、室内の空気は還気口を経て従来のダクト71により横方向に搬送され、ダクト71が接続している還気シャフト120により縦方向に搬送されることになる。
還気シャフトの採用により、還気全体のダクト長さが節約できるし、このことによって、ダクトの曲がり等による、圧力損失を小さく抑えることができる。さらに、それによって、外気の吸気力、給気シャフトからの室内への給気力を高めることができる。還気用ダクト全体の圧力損失を低く抑える事は、運転時のエネルギーの低減、設備の最適化の観点からも重要であるが、本発明の様に排気手段により作られる室内の負圧を利用した給気シャフトによる吸気と給気においては、計画換気量を確保する為には必要である。還気シャフトにより、総ダクトの圧力損失は抑制される。
本発明で使用される還気シャフト120は、通常は、シャフト内面が拭き掃除できる素材で形成されている。さらに、空気搬送時の圧力損失が小さく、給気口取り付け等の加工がしやすいものであれば良い。このような還気シャフト120の例としては、紙製シャフト、プラスチック製シャフト、金属製シャフト、木製等のシャフトを挙げることができる。
特に本発明では、汎用的なポリ塩化ビニルパイプを利用すれば、コスト、入手しやすさ、維持管理等において有利である。また、場合によっては、消音のためにグラスウールダクトを用いる場合もあるが、グラスウールシャフトを使用する場合には、シャフト内面を清掃しやすく加工することが望ましい。また、空気の搬送時の静圧の維持や、設置工事をしやすくする為には、還気シャフト120は、自立できて、形態が維持できる為の或る程度の強度を有している。ポリ塩化ビニルパイプからなる還気シャフトはこれらの要件をある程度満足している。
本発明において、還気口70は、一般的に家庭用で使われている簡便なものでよいが、風量調整が可能なものを使用することが好ましい。また、還気口70の背面に防火ダンパーを設ける場合も有るが、防火ダンパーの弁の開閉の調整により風量調整が行われても良い。必要換気空気量は設計時で既に把握されているが、その確認は、各給気口の風量測定で行われる。
上記のような環気シャフト120が収められているシャフトスペースは、還気シャフト内の点検、清掃の為の作業が可能な扉等の開口部が設けられていることが好ましい。ただし、シャフトスペースは、室内デザイン的な要素が強く、機能的には本発明での還気シャフトに必須のものではないが、給気シャフトのスペースと同様に、室内デザインの大きな要素である。
本発明において、上記のような還気シャフト120の設置本数は、基本的には必要換気空気量と第三種機械環気装置の能力、及びその配置によって決定されるが、例えば時間当たり200m3 程度の必要換気量の場合であれば、一本で賄えることになるが、大きな換気空気量を必要とする建築物の場合には、これを多数本に分散させることもできる。
上記のようなシャフト40,120は、シャフトスペースに収容することができる。このシャフトスペースには、給気シャフトまたは還気シャフトを単独で収容することもできるし、給気シャフト40および換気シャフト120の両方を収容することもできる。シャフトスペースの配置と給気及び還気シャフトとの組み合わせは、個々の住宅において最適に設定されれば良い。竪穴空間としてシャフト関係を纏めて収納できるようなシャフトスペースであれば、建物の全体計画にもかなりの合理性を得ることが可能である。
図6には、給気シャフト40と還気シャフト120が、二階の居室60の間に設けられたシャフトスペースに納められた態様の例が示されている。
この二階の室内60には、給気シャフト40に設けられた給気口50から供給される。二階の室内60および一階の室内60には、それぞれ還気口70が設けられており、室内空気は小屋裏20に設けられた排気手段80の吸引力によって、室内60の天井に配置された還気口70から吸引されて、ダクト71を介して還気シャフト120に導入される。
この還気口70には、還気される空気量を調整することができるように、その開口部の面積を調整できるように形成されており、この開口部の面積の調整手段が防火ダンパーを兼ねていてもよい。
環気シャフト120には、給気シャフト40と同様に、点検口122および清掃口123が形成されており、また、還気シャフト120の底部は、取り外し自在の底面板124によって密閉されているが、この底面板124は、還気シャフト120内を掃除する際に取り外して内部にたまった塵等を除去できるように形成されている。
このような還気シャフト120の上端部は、給気シャフト40と同様に、防振材からなる防振性ジョイント125がダクト126の中間に設けられている。このダクト126は、小屋裏20に配置された排気手段80に接続されており、この排気手段80である第三種機械換気装置の駆動力により、居室60の空気を還気すると共に、集められた空気をダクト82を通って排気口90から屋外に排気する。なお、ダクト127には、必要によっては、空気の逆流を防止するための逆止弁129、排気口90から排気用のダクト127への昆虫、小動物などの侵入を防止するためのフィルター130などを設けることができる。
上記のように本発明の住宅の換気構造においては、給気シャフト40を用いて室内空間に給気を行うとともに、この給気された空気を、従来のようにダーティーゾーンに流して排気するのではなく、汚染された空気の移動距離をできるだけ短くして、適宜室内に設けられた還気口から機械力を用いて強制的に換気するものである。そして、給気のために給気シャフトを用い、さらに好ましくは還気のために還気シャフトを用いることにより、シャフト内を常に清潔に保つことができ、従って、室内の空気を常に清潔な状態に維持することが可能である。
室内空間に給気された空気は、還気口を経て、還気シャフトに集められ、排気手段によって屋外に排気されるが、これに対して、階間天井懐や床下に給気された空気は、壁内通気層をとおって小屋裏に集められる。壁内通気層は室内間仕切りの中空部及び外壁の断熱材と内装下地材とで挟まれた空間であり、床下から小屋裏まで連通していることが必要である。階間天井懐や床下の空気が小屋裏に集中するときの駆動力は、小屋裏に別途設置された小屋裏換気装置の吸引力による負圧である。図5にその基本構成が示されている。
具体的には、給気シャフト40を床下空間100まで延設して、この給気シャフト40の底部近傍に設けられた給気口50から床下空間100に空気を給気する。図6や図10等に示すように、床下空間100は、通常はべた基礎131で囲われており、このべた基礎131には、基礎外断熱が施されていることが温熱的には好ましいが、状況により基礎内断熱で断熱が行われていても本発明の利用を妨げるものではない。
なお、図10に示すべた基礎布部131には、断熱材133が設けられており、図10ではべた基礎布部131の外側に配置された外断熱構造の断熱構造が示されている。また、床下空間を形成する基礎の形式は、べた基礎が好ましいが、布基礎と防湿コンクリートを併用する基礎であっても構わない。床下空間が、断熱、気密されていて、衛生的な状態が維持されるように形成されていれば、とりあえずは本発明を実施することが可能である。
床下に給気された空気は、湿気が溜まりがちな床下を室内空気と同じ良好な空気質で通気することによって、床下空間を良好な状態に保つことを可能とする。従来、床下空間の環境状態は、軽視されがちであったが、建築物の気密化が進むに連れ床下の弊害が無視できなくなってきた。このため床下の通気確保の工夫が見直されるようになり、様々な床下換気扇が生産されているが、本発明は床下空間の換気を室内換気の延長として捉え、その問題を解決しようとするものである。
階間天井懐や床下に給気された空気は、壁内通気層135をとおって小屋裏20に集められるが、特に外壁の通気層135は、室内温熱環境の観点からも重要である。この壁内通気層は、温熱的には外壁の断熱材と室内下地材とに挟まれた空間であれば良い。断熱材と室内下地材との間に、例えば合板やアルミ箔等の面状部材等があっても本発明の効果には本質的な変化は無い。また、室内間仕切りなどの中空内部も壁内通気層になりうる。
よって、本発明における壁内通気層とは、断熱材と室内下地材とに挟まれた空間、及び、または室内間仕切り内部の中空となっている空間であって、床下から小屋裏まで連通している空間をいう。
これら壁内通気層において温熱的に重要なのは、建物外皮を構成する外壁の設けられた壁内通気層である。建物外皮は室内の温熱的環境状態を決定する大きな役割を持つが、その性能の確保の為に断熱材が重要な機能を果たす。本発明における断熱の方法としては、充填断熱(内断熱)、外張り断熱(外断熱)のいずれの工法であっても構わない。断熱材と室内下地材とによって形成される空間が床下から小屋裏までの通気を行えるように作られればよい。
ただし、一般的に言うならば、外張り断熱工法の方が通気層を造りやすいことは周知のことである。さらには、壁内通気層に要求される層としての機能確保の為の気密性能も外張り断熱工法の方が確保しやすいことも周知である。以上のことから、本発明においても外張り断熱工法を推奨する。なお、基礎の断熱や小屋裏の断熱も外張り断熱工法で行えば、確実な断熱性能と気密性能が得られ易いことから、建築物の断熱・気密工法として完全な外張り断熱工法は、本発明に適した工法といえる。
また、屋内の空気の移動の駆動力を主に第三種機械換気装置の機外静圧力によっており、そのために屋内全体が負圧である必要があることから、気密性の高い屋内空間が要求されることになるが、完全な外張り断熱工法は、その意味でも適した工法であるといえる。
床下空間100及び1階懐に給気された空気は、上記の壁内通気層135を通って、小屋裏空間20へと移動する。小屋裏空間への空気の移動の原動力は、小屋裏に設置された小屋裏換気装置140による負圧である。小屋裏20には、小屋裏換気装置140が配置されており、床下から壁内通気層を通って来た空気を屋外へと排気する。
この排気の際、たとえば、小屋裏の妻壁に設けられた小屋裏専用の吸気口150から吸気される小屋裏換気用の空気と伴に、床下からの空気も排気されることになる。小屋裏換気専用の空気取り入れ口(吸気口)150から小屋裏20に導入され、小屋裏換気装置140から排出される空気流に同伴されて小屋裏換気装置140から屋外に排出される。
小屋裏換気専用の吸気口150を設ける理由は、夏季及び中間期における小屋裏の温度上昇を抑制するに必要な小屋裏換気空気量が、床下からの空気量では不足する為である。小屋裏の温度上昇は、小屋裏の換気によって抑制されるが、屋根の地垂木の外側に断熱する外張り断熱工法が施工されていれば、その効果は助長されることになる。
このことは、屋根の外張り断熱工法によって先ずは屋根からの熱の進入を少なくし、さらに進入してきた熱を小屋裏換気によって屋外へと排熱すると表現することも可能である。さらに、換気に係わる諸設備の設置や後のメンテナンス・スペース等を考慮すると、屋根外張り断熱工法は、その意味でも本発明に適した工法である。
本発明の換気構造では、給気シャフトから床下空間への給気が行われるのは、主に夏季の室温が上昇するときであるが、春、秋等の中間期あるいは梅雨、秋雨期のように湿度が高くかつ気温が上がる日中なども床下空間への給気が行われる。従って、本発明の換気構造において、床下空間あるいは天井懐などへの給気は、冬季間、特に暖房時以外の時期であり、暖房時は床下空間などへ給気を行うことを特に必要とするものではないが、それ以外の時期には、床下空間100、天井懐110へ給気を行い、こうして給気された空気を躯体内空間を介して小屋裏20に流通させることにより、建築物全体の状態を最良の状態に保つことができる。
すなわち、一般的に、住宅建築の小屋裏は他の屋内空間よりも温度が上昇しやすい空間であり、特に夏季の日中から夜間に関しては小屋裏20にある暖気が、小屋裏直下の部屋にこうした小屋裏20の熱が流入することになり、小屋裏直下の部屋の室温も上昇する傾向がある。このような現象がひどい場合には、外壁上部までもが小屋裏の温度上昇によって熱せられ、焼け込みといわれる現象さえ生ずることがあり、住宅建築に多大なダメージを与えると伴に、居住者には熱的な大きな負荷を与えてしまうこともある。
本発明の住宅の換気構造を用いて、屋外の空気を床下空間100に供給し、この床下空間100に供給された給気を住宅の壁面に設けられた壁内通気層135を用いて小屋裏20に供給することにより、建築物の躯体を生活に支障の無い温度にすることが可能であり、そのために小屋裏20の熱を排出する必要がある。
また、本発明において、給気シャフト40を用いて床下空間100に給気を供給して、壁内、小屋裏、屋外への排気という躯体内の空間を通気させることにより、上記の躯体内に溜まる熱の室内への影響を緩和する以外にも幾つかの効果が奏される。
たとえば、躯体内空間の乾燥に伴う木材の過度の乾燥を防止することができ、木材の呼吸を確保し、さらには、湿気溜りを無くすことによって、黴の繁殖の抑制などを行うことができ木材の健全さを保つことが可能である。木材の健全さの維持は、地震国である日本においては不可欠の必須事項であり、耐震性能の確保の前提をなすものであることは、周知のことであるが、しかし、実際には往々にして無視されることも少なくない。本発明は木材の健全さの維持を、あえて手を掛けないで、不安定な質の外気を直接に通気させるのではなく、室内の換気用空気で躯体内の換気を無理なく安全に行うことができる発明でもある。
このような躯体内の通気を形成する建築物の工法の先行技術としては、たとえば、実用新案『建築物の棟換気装置』(公開番号 実開平 2−118019公報)や実用新案『建築物の断熱構造』(公開番号 実開平 2−56207号公報)及び実用新案『通気循環構造を利用した建築物の壁構造』(公開番号 実開平 1−79706公報)等(以下、当該工法と言う。)がある。躯体内の通気を図るという発想を用いた工法は、他にも散見されるが、当該工法は床下換気口を除けば、全く完全な外張り断熱工法であり、その断熱・気密や居住環境の水準は他工法を抜いて高いと言われ、多くの実績が積み重ねられている。よって、本発明においては、当該工法を検討しておけば充分である。
具体的に当該工法を例にして躯体内の通気を形成する方法を説明すると、当該工法は、床下換気口から屋外空気を床下空間に取り込んで、外張り断熱材と室内下地との間の空間を小屋裏に通じる壁内通気層として用いている。室内間仕切壁の内部中空部も通気層として用いる点では、本発明と同一である。当該工法によれば、床下から外気を取り入れて、壁内通気層を通して、小屋裏まで空気を上げる原動力は、浮力である。その浮力は、室内温度、正確には壁内通気層の温度が、外気温よりも高い時にのみ生ずる浮力である。よって、温度条件が逆転すれば、空気は床下から入ってくるのではなく、逆に小屋裏換気口から吸気して、壁内通気層を通って、床下換気口から出ていくことになる。
このように、自然浮力を利用して目的を達成することは、大きく温度条件に左右されることになる。また、当該工法に関連して小屋裏にファンを用いたものも工夫されているが、上記工法に開示されている限りでは、プロペラ式のファンであり静圧を得るには適したものではなく、やはり大きく屋内外の温度に依存することになる。本発明は、このような温度条件に依存した躯体内の換気方法ではない。また、本発明では室内の換気空気と躯体内の換気空気とは同一であって、当該工法のように床下換気口近傍の空気という偶然に任せた、関与し得ない空気、制御されていない空気ではない。
本発明と本質的に異なる点は、床下換気口の有無、それ故、躯体内の換気に如何なる空気を利用するかと言う点が決定的に異なる。それと伴に、室内の換気と躯体内の換気の関係やそのあり方も必然的に異なるものとなる。さらには、本発明のような室内空間に関する換気計画の基本的考えやその実施の仕方、手段や装置及び建築物との関連も異なることになる。要するにそれらの相違は、躯体内の換気や壁内通気に用いる空気の質に係わる技術思想がまったく異なるところに起因する。
本発明の建築物、特に住宅の換気構造では、躯体内の換気・通気の基本構造は、既に述べたように室内換気の延長として給気シャフト40を床下空間100にまで延設して、屋外の空気を給気手段30を用いて機械力により強制的に床下空間に供給し、この給気シャフト40から床下空間100に供給された空気を用いて躯体内換気・通気を行っている。これに対して当該工法における換気は、上述のように室内換気と全く別に屋外の空気を用いて躯体内換気・通気を行うものであり、本発明とはまったくその構造が異なるものである。また、当然のことであるが、当該工法には給気シャフトのような概念はない。すなわち、当該工法においては、室内の換気とは全く別のものとして、躯体内空間の換気・通気が捉えられている。
さらに、本発明の建築物、特に住宅の換気構造においては、躯体内に取り入れる空気の質が、当該工法により導入される空気の質と異なる。即ち、当該工法においては、床下換気口には、床下換気口の設置場所との関係から流入する外気は地面を這って流入する。従って、梅雨、秋雨の多雨の時期での地表面上の高湿な空気が床下換気口から流入し、さらに夏季には、地面、アスファルトや犬走りを走る熱気を伴った高温で多湿な空気が流入する。
また、流入する空気中には、必然的に土埃あるいは害虫なども含まれることがある。当然のことながら、住宅の立地条件次第では車からの排ガスや周辺の臭気、隣接畑地の農薬なども床下換気口から躯体内に入ってくる。当該工法では、室内空間は、床、壁、天井の下地と仕上げ材とで構成される僅かな厚さの区画材で仕切られており、これらの区画材で区画された室内空間と躯体内空間との間には少なからず間隙が存在するので、当該工法の場合には躯体内空間を通気することにより、躯体内を通過するはずの空気が室内空間内に侵入することを完全に防止することはできない。
このため躯体内の換気・通気がかえって居室内の環境を悪化させるといった弊害が生ずる場合もある。すなわち、室内空間と躯体内空間との間では、空気の出入りに示されるように、熱、湿気、ガス、塵埃、有機物質などの環境構成要素のやり取り、出入りがあると考えるのが自然である。少なくとも、一般的な戸建て住宅はその様に作られているし、また、当該工法においても室内空間を区画する部材、方法については何も述べられていないことから、その様に考える事は、妥当性がある。
生活の場である室内空間は、建築物の躯体内空間によって囲繞されているので、躯体内空間を通過する空気の質は、室内空間の空気の質にも多大な影響を及ぼすことから、住居の換気構造を計画する際には、躯体内を通過する空気の質をも考慮する必要がある。例えば、躯体内空間を通過する空気の状態によって、黴の発生を防止し、木材の不朽の抑制し、さらに、余分な湿気や熱の排出が可能になり、また、有害な揮発性有機物質の排出することができ、さらに、木材に適度な湿度を付与することもできる。
従って躯体内空間を通過する空気質の良さは、建築物にとっても最適な環境を形成するに不可欠な要件である。その点に関しては、当該工法は単に外気を導入することのみに重点を置いており、その外気が躯体内空間の空気環境を作ると同時に室内へも少なからぬ影響を及ぼしていることへの配慮を欠く。
本発明の建築物、特に住宅の換気構造で導入される空気は、住宅において人がより快適に過ごせるように調整された空気を、給気シャフト40を介して各居室、非居室に供給されるものであり、本発明では、このような給気シャフト40を床下空間まで延設して床下空間100にも、室内空間に供給される給気と同一の空気を供給し、この床下空間100に給気された空気を壁体に設けられた通気層135を介して小屋裏20に搬送しており、また天井懐110にも同様の質の空気を給気している。
即ち、本発明の建築物、特に住居の換気構造においては、住宅内で人が快適に生活するのに適した空気を建築物の床下空間、躯体内空間および小屋裏にも供給して、建築物の給気および排気を行っているのである。住居の居室内に給気される空気は、その家に取り込むことができ得る最良の状態の空気であり、本発明においては、このようなその家にとって最良の状態の空気を建築物の躯体内空間などにも供給して、建築物全体に最良の状態の空気を供給しているのである。
本発明の建築物、特に住宅の換気構造においては、そこに居住する人間が呼吸する空気と躯体内空間を通過する空気とは同じである。躯体内空間の空気は人が生活をしない空間の空気であるから、何でも構わないということにはならない。本発明においては、躯体内換気・通気は、室内換気の延長として捉えられており、当該工法あるいはそれに類する工法とはその考えと実態とを全く異にするものである。
上記のような観点から、屋外の空気を機械力を用いて強制的に給気シャフト40から居室等に行うとともに、この給気シャフト40の下端部を床下空間にまで延設して、床下空間100にも、各居室等に供給したのと同じ空気を給気する本発明は、当該工法に見るようなこれまでの躯体内に関する換気と室内の換気との関係、さらにはその根底にある換気計画の空気の質をも含めた技術思想に関して明らかに異なり、独自の進歩性と新規性また、有効性・効果に関して先進性を持つものと言える。
さらに、本発明と当該工法との決定的な違いは、換気そのものの確実性にある。つまり本発明において確保される換気の通常の性能は、当該工法においてはかなり困難である。躯体内の換気・通気に用いられる空気の質が、本発明と当該工法では全く異なること、また、当該工法では床下換気口から入ってくる空気の室内への侵入を防止できないことは前述したが、換気の確実な確保という観点から見れば、前述の内容は当該工法において床下換気口を開放しているときは、換気の前提となる気密性が確保しにくいことを意味している。
当該工法における気密性は、外張り断熱材またはその近傍で確保されている。室内空間を区画する床、内装壁、天井などで気密性が確保されているわけではない。その点では本発明も同様である。しかし、本発明においては、床下換気口を設置してはいない。当該工法が床下を閉鎖している時は、床下換気口と断熱材などにより建物全体としての気密性は確保されるが、床下換気口を開放した時には、住宅全体の気密性は確保し得ない。室内空間と躯体内空間との間では、空気の出入りに示されるように、熱、湿気、ガス、塵埃、有機物質などの環境構成要素のやり取り、出入りがあると考えるのが自然である。
ということは、すなわち換気装置が稼動していても、実際の換気がどの様に行われているかが不明になることを意味している。換気装置は稼動しているものの、換気の為の空気が何処から入って、室内空間の中でどの様な経路を通って室外に出てゆくのかが把握できないことになる。室内空間における空気の移動の経路は換気計画の中心課題の一つであることは前述しているが、その経路を確保する為には換気用の空気が何処から入り、何処から出てゆくかが明確でなければならない。
そのためには、建物全体の気密性が確保されていることが前提となる。しかし、当該工法において床下換気口が開放されている場合には、建物全体の気密性が確保されないことになることから、換気装置は稼動しているものの、換気そのものが行われていることさえ不明になる。
セントラル式第三種機械換気を用いた排気手段でつくられる室内の負圧を利用して、外壁の所定の場所に設けられた給気口から外気を吸気する場合には、給気口から吸気されるのか、そうではなくて、室内空間を区画する部材の隙間から室内に空気が入ってくるのかは不明になる。一般的には建物全体の気密性能(C値)が、次世代省エネ基準で要求される最低の気密性能であるC値:5の場合だと、給気口から入ってくる空気は20%以下と言われている。
すなわち、換気に必要な残りの空気は、何処から入ってくるのか分からない状態にある。このような状態で、室内空間が確実に換気されていると言い難いのは明白である。少なくとも換気の計画性は、実際のところ無いに等しい。室内空間の区画材のみで、気密性能C値:5以下を達成することには、困難であり、一般的に言われる気密性の無い建物のC値:10よりも気密性が悪くなる。
当該工法の床下換気口の開放は、換気と気密性の関係において、このような状態をもたらしてしまう、大きな欠点を持っている。第三種機械換気装置を用いた場合の床下ダンパーの開放は、換気の計画性を確保するには致命的な状況を作り出してしまうのである。
それに対して、本発明は気密性能を維持しつつ、躯体内の換気も可能にすることが出来る。建築基準法では換気と気密性を連動させた規程は無く、それ故、室内の換気による空気の移動経路、換気効率などは問うてはいないが、換気装置だけが稼動しその換気がどの様にして行われているかが分からない様なことでは、換気の計画性を重んじる現代の戸建住宅の換気の意義を損なうものともいえる。
このような当該工法に対して、床下換気口の設置を行わない本発明においては、当該工法の床下換気口の開放時における、換気にとっての致命的欠陥である気密性の喪失は、本発明においては通常は無いことは、本発明と当該工法の技術思想が全く異なることからも明らかである。
ただし、本発明においては、外部からの点検口という意味では、図11に見るように床下換気口132は有効である。例えば、配管の損傷や浸水などにより、べた基礎内部に水が溜まった時などには、排水の為の開口部として有効である。このような場合は、当該工法が床下換気口を季節的に長時間開放して、その間は換気の前提である気密性を放棄することとは全く意味を異にすることは言うまでもない。
さらには、建物の外側からのマイクロスコープ等を用いての目視点検にも、床下点検口は有効である。点検中の床下換気口の開放による建物全体の気密性は失われ、換気の計画性は崩れるが、短時間であれば実質的な支障はない。
このように本発明と当該工法を比較するとき、当該工法は単に夏季の躯体内に蓄積される熱の排出を第一の目的に置き、その副次効果としての木材の健全性の保持を目的としている。それ故、当該工法は、換気の技術的要件を軽視した為に、躯体内の換気・通気において、躯体内に導入される空気の質とその室内空間への影響、また、床下換気口を開放することによる躯体内の気密性の喪失と室内換気の計画性と換気効率の放棄については、殆ど無頓着な状態を作り出しているといえる。以上のことから、躯体内の換気・通気を図るということにおいては、本発明と当該工法とに外見的共通点を見出すものの、本発明は、上記の技術的内容において、当該工法とは技術思想を全く異にし、それ故その具現化も全く異にすると言える。
本発明の住宅の換気構造は、上述のような構成を有するが、本発明の目的を逸脱しない範囲内で、種々改変することができる。たとえば、床下空間を形成するための布基礎に排気装置を配置することもできるし、さらに床下空間にある空気を小屋裏に効率よく移送するためのファンを躯体内空間あるいは床下空間に配置してもよい。
このように本発明によれば、住宅に新たな換気構造を導入することができる。