JP2009263731A - 成膜方法及び装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】長時間に渡って付着物が真空容器の内壁面に付着することを防止でき、しかも成膜された無機膜の機能(例えばガスバリヤー膜としての機能)を損ねることがない。
【解決手段】排気系統20を備えた真空容器22内に原料ガスを導入すると共に、真空容器22内に発生させたプラズマによる気相反応によってフィルム12(基板)上に無機膜を成膜するプラズマCVD工程を備えた成膜方法において、プラズマCVD工程では、真空容器12内の内壁面温度を、無機膜が成膜されるフィルム12の基板温度よりも50℃以上、200℃以下の範囲で高い温度に維持した状態で成膜する。
【選択図】 図2
【解決手段】排気系統20を備えた真空容器22内に原料ガスを導入すると共に、真空容器22内に発生させたプラズマによる気相反応によってフィルム12(基板)上に無機膜を成膜するプラズマCVD工程を備えた成膜方法において、プラズマCVD工程では、真空容器12内の内壁面温度を、無機膜が成膜されるフィルム12の基板温度よりも50℃以上、200℃以下の範囲で高い温度に維持した状態で成膜する。
【選択図】 図2
Description
本発明は成膜方法及び装置に係り、特に、プラズマCVD装置を用いて基板上に無機膜を成膜する際に、プラズマCVDの真空容器内壁面に付着する付着物の付着量を抑制する技術に関する。
光学素子、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイなどの表示装置、半導体装置、無機膜太陽電池など、各種の装置に、ガスバリアフィルム、保護フィルム、光学フィルタや反射防止フィルム等の光学フィルムなど、各種の機能性フィルム(機能性シート)が利用されている。これらの機能性フィルムの製造方法の一つとしてプラズマCVD法によって基板上に無機膜を薄膜状に成膜する成膜方法が利用されている。
プラズマCVD法によって、効率良く、高い生産性を確保して成膜を行なうためには、長尺な基板に連続的に成膜を行なうのが好ましい。このような成膜方法を実施する成膜装置として、ロール状の可撓性帯状基板(ウェブ状の基板)を巻き戻してプラズマCVD装置に供給する供給ローラと、成膜済の可撓性帯状基板を巻き取る巻取りローラとを用いる、いわゆるロール・ツー・ロール(Roll to Roll)の成膜装置が知られており、枚葉状の基板を用いてバッチ処理する場合に比べて生産性を上げることができる。
また、ガスバリヤーフィルムや保護フィルム等の機能性フィルムは、単層であるとは限らず、例えば、プラスチックフィルム等の可撓性帯状基板上に、ポリマーを主成分とする有機膜を成膜し、その上に無機物からなる無機膜を成膜してなる機能性フィルムも知られている。一例として、特許文献1には、6官能のアクリレ−トもしくはメタクリレ−トのモノマーもしくはオリゴマーを含む組成物を硬化させた有機膜と、アルミニウム酸化物、ケイ素酸化物、インジウムとスズの複合酸化物、インジウムとセリウムの複合酸化物等の中から選ばれた酸化物からなる無機膜を積層したガスバリヤーフィルムが開示されている。したがって、有機膜の上に無機膜を成膜する場合にもプラズマCVD装置が使用される。
ところで、プラズマCVD装置は、排気系統を備えた真空容器(成膜室)内に原料ガスを導入すると共に、真空容器内に発生させたプラズマによる気相反応によって基板上に無機膜を成膜するものであり、基板上に無機膜を成膜していくうちに、本来、基板上に付着して無機膜を成膜するための付着物が真空装置の内壁面に付着する。そして、内壁面に付着した付着物が剥離して、成膜された無機膜上に異物として落下付着することにより、製造された機能性フィルムの機能特性が悪くなるという問題がある。
かかる問題を解決するための対策として、特許文献2では、真空容器の内壁面に防着シールドを設けて、防着シールドとプラズマとの間に電界を設定して防着シールドにプラズマ中の荷電粒子を衝突させるためのシールドバイアス印加装置を備えることにより、真空容器内への付着物の付着を抑制することが記載されている。また、防着シールドを温調して防着シールドに付着した付着物が剥離しないようにしている。
特開2002−264274号公報
特開平8−330242号公報
しかしながら、特許文献2は、防着シールドやシールドバイアス印加装置を備えなくてはならず装置が大がかりになると共に、ロール・ツー・ロールのように長時間に渡って付着物の付着を防止する必要がある場合には充分とはいえない。
即ち、ロール・ツー・ロールの成膜装置は、生産性を上げるために、供給ローラに巻回されたロール1巻(通常1000m以上)の成膜が終了するまでは運転を停止して真空容器内に付着した付着物を清掃することはできない。したがって、ロール・ツー・ロール方式で成膜を行う場合には、真空容器内に長時間に渡って付着物が付着することを本質的に抑制できる対策が必要になる。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、長時間に渡って付着物が真空容器の内壁面に付着することを顕著に抑制でき、しかも成膜された無機膜の機能(例えばガスバリヤー膜としての機能)を損ねることがないので、特にロール・ツー・ロール方式での成膜に好適な成膜方法及び装置を提供することを目的とする。
請求項1の発明は、前記目的を達成するために、排気系統を備えた真空容器内に原料ガスを導入すると共に、前記真空容器内に発生させたプラズマによる気相反応によって可撓性の基板上に無機膜を成膜するプラズマCVD工程を備えた成膜方法において、前記プラズマCVD工程では前記成膜する無機膜の種類に応じて、前記真空容器内の内壁面温度から前記無機膜が成膜される基板の基板温度を引いた温度差ΔTを大きくしていったときに前記内壁面への付着物の付着量が増大してから減少に転じて前記温度差が0のときの付着量よりも少なくなり始める温度差ΔT1を求めると共に、前記温度差ΔTを前記ΔT1よりも大きくしていったときに成膜済み基板の柔軟性が悪くなり始める温度差ΔT2を求める前準備工程と、前記求めた温度差ΔT1℃以上、ΔT2℃以下に維持した状態で成膜する成膜工程と、を備えたことを特徴とする成膜方法を提供する。
請求項1の発明は、成膜される各種の無機物に応じて適用できるように技術を一般化したものである。即ち、プラズマCVD工程では、前準備工程として、真空容器内の内壁面温度から無機膜が成膜される可撓性の基板の基板温度を引いた温度差を大きくしていったときに内壁面への付着物の付着量が温度差0(ゼロ)のときの付着量よりも少なくなり始める温度差ΔT1を求めると共に、温度差をΔT1よりも更に大きくしていったときに成膜済み基板の柔軟性が悪くなり始める温度差ΔT2を求める。そして、成膜工程では、温度差をΔT1℃以上、ΔT2℃以下に維持した状態で成膜するようにした。
これにより、長時間に渡って付着物が真空容器の内壁面に付着することを抑制でき、しかも成膜された無機膜の機能を損ねることがない。したがって、本発明は、ロール1巻が成膜を終了するまで長時間に渡って、付着物が真空容器の内壁面に付着することを抑制する必要のあるロール・ツー・ロール方式での成膜において特に有効である。
発明者は、可撓性の基板上に無機膜を成膜するときの基板温度(成膜温度ともいう)と真空容器の内壁面の温度との関係において、内壁面温度から基板温度を引いた温度差を大きくしていくと、内壁面への付着物の付着量が次第に増大した後に減少する方向に転じ、温度差がΔT1℃を超えると、温度差0(ゼロ)のときの内壁面への付着物の付着量よりも更に少なくなることを見出した。そして、温度差をΔT1℃以上にすることで内壁面への付着量を顕著に抑制できた。
しかし、温度差をΔT1℃よりも更に大きくしたときに、ΔT2を超えて大きくなり過ぎると、即ち内壁面の温度を上げすぎると、その熱エネルギーで基板に成膜される無機膜が硬くなってしまい、成膜済み基端の柔軟性が低下することを見出した。成膜された無機膜が硬くなると、成膜済み基板を撓ませたり、折り曲げたりしたときに無機膜にピンホールや亀裂が生じ易く、無機膜本来の機能、例えばガスバリヤー性が低下してしまう。特に、有機ELディスプレイ等のように可撓性のディスプレイであることが大きな特徴となる最終製品では、無機膜が硬くなると有機ELディスプレイ用途に使用できない。
したがって、成膜工程では、温度差をΔT1℃以上、ΔT2℃以下に維持した状態で成膜すれば、長時間に渡って付着物が真空容器の内壁面に付着することを顕著に抑制でき、しかも成膜された無機膜の機能(例えばガスバリヤー膜としての機能)を損ねることがない。
請求項2の発明は、前記目的を達成するために、排気系統を備えた真空容器内に原料ガスを導入すると共に、前記真空容器内に発生させたプラズマによる気相反応によって可撓性の基板上に無機膜を成膜するプラズマCVD工程を備えた成膜方法において、前記プラズマCVD工程では、前記真空容器内の内壁面温度を、前記無機膜が成膜される基板の基板温度よりも50℃以上、200℃以下の範囲で高い温度に維持した状態で成膜することを特徴とする成膜方法を提供する。
請求項2の発明は、本発明を具体的な温度で特定したものであり、プラズマCVD工程では、真空容器内の内壁面温度を、無機膜が成膜される基板の基板温度よりも50℃以上、200℃以下の範囲で高い温度に状態で成膜するようにした。即ち、請求項1との関係でみた場合には、ΔT1を50℃とし、ΔT2を200℃とした。
これにより、長時間に渡って付着物が真空容器の内壁面に付着することを抑制でき、しかも成膜された無機膜の機能を損ねることがない。したがって、本発明は、ロール1巻が成膜を終了するまで長時間に渡って付着物が真空容器の内壁面に付着することを抑制する必要のあるロール・ツー・ロール方式での成膜において特に有効である。
請求項3は請求項1又は2において、前記可撓性の基板として長尺な可撓性帯状基板をロール状に巻回し、該ロールから巻き戻して前記プラズマCVD工程に可撓性帯状基板を供給する供給工程と、前記プラズマCVD工程で無機膜が成膜された可撓性帯状基板を巻き取る巻取工程と、を備え、前記成膜を連続して行うことを特徴とする。
請求項3の発明は、本発明が特に有効なロール・ツー・ロールでの成膜に適用したものである。
請求項4は請求項1〜3の何れか1において、前記無機膜はSiNの無機膜であることを特徴とする。
請求項4は、本発明によって成膜する無機膜の好ましい具体例としてSiN無機膜を特定したものである。
請求項5は請求項1〜4の何れか1において、前記供給工程と前記プラズマCVD工程との間に、前記可撓性帯状基板上に有機膜を形成する有機膜形成工程を備えたことを特徴とする。
請求項5は、可撓性帯状基板上に形成した有機膜の上に、無機膜を形成するものであり、本発明は有機膜と無機膜の複層膜からなる機能性シートを製造する際の無機膜成膜方法としても有効である。
請求項6の発明は、前記目的を達成するために、排気系統を備えた真空容器内に原料ガスを導入すると共に、前記真空容器内に発生させたプラズマによる気相反応によって可撓性の基板上に無機膜を成膜するプラズマCVD装置を備えた成膜装置において、前記プラズマCVD装置は、前記真空容器内の内壁面を温調する壁面用温調手段と、前記内壁面の温度を検出する壁面温度検出手段と、前記無機膜が成膜される基板を温調する基板用温調手段と、前記基板の温度を検出する基板温度検出手段と、前記壁面温度検出手段及び基板温度検出手段で検出されたそれぞれの温度の温度差に基づいて、壁面用温調手段及び基板用温調手段を制御する制御手段と、が設けられることを特徴とする成膜装置を提供する。
請求項6は、本発明を装置として構成したものであり、真空容器の内壁面と基板の温度との温度差に基づいて内壁面温度と基板温度とを制御する制御手段を設けた。これにより、長時間に渡って付着物が真空容器の内壁面に付着することを防止でき、しかも成膜された無機膜の機能を損ねることがないように、内壁面温度と基板温度とを制御することができる。
請求項7は請求項6において、前記制御手段は、前記真空容器内の内壁面温度が、前記無機膜が成膜される基板の基板温度よりも50℃以上、200℃以下の範囲で高い温度に維持されるように壁面用温調手段及び基板用温調手段を制御することを特徴とする。
請求項7によれば、成膜時に制御手段が制御する真空容器の内壁面温度と基板温度とを規定したものであり、内壁面温度が基板の基板温度よりも50℃以上、200℃以下の範囲で高い温度に維持されるようにすることが好ましい。
請求項8は請求項6又は7において、前記プラズマCVD装置の上流側に設けられ、前記可撓性の基板として可撓性帯状基板をロール状に巻回し、該ロールから巻き戻して前記プラズマCVD装置に可撓性帯状基板を供給する供給手段と、前記プラズマCVD装置の下流側に設けられ、前記プラズマCVD装置で無機膜が成膜された可撓性帯状基板を巻き取る巻取手段と、を備え、前記成膜を連続して行うことを特徴とする。
請求項8の発明は、本発明が特に有効なロール・ツー・ロールでの成膜に適用したものである。
請求項9は請求項8において、前記供給手段と前記プラズマCVD装置との間に、前記可撓性帯状基板上に有機膜を形成する有機膜形成装置を備えたことを特徴とする。
請求項9は、可撓性帯状基板上に形成した有機膜の上に、無機膜を形成するものであり、本発明は有機膜と無機膜の複層膜からなる機能性シートを製造する際の無機膜成膜装置としても有効である。
本発明の成膜方法及び装置によれば、長時間に渡って付着物が真空容器の内壁面に付着することを防止でき、しかも成膜された無機膜の機能を損ねることがない。したがって、本発明は、供給ローラに巻回されたロール1巻(通常1000m以上)の成膜が終了するまでは運転を停止して真空容器内に付着した付着物を清掃することができないロール・ツー・ロール方式での成膜に特に有効である。
以下、添付図面に従って本発明に係る成膜方法及び装置の好ましい実施の形態について詳説する。
図1及び図2は、ロール・ツー・ロール方式で示した本発明に係る成膜装置10の概念図である。本実施の形態では、可撓性帯状基板としてのプラスチックフィルム12(以下、単にフィルム12という)上にSiN無機膜を成膜する例で説明する。
図1に示すように、本発明の成膜装置10は、供給ローラ14にフィルム12をロール状に巻回し、該供給ローラ14からフィルム12を巻き戻してプラズマCVD装置16に供給し、成膜されたフィルム12は巻取ローラ18に巻き取られる。
図2に示すように、プラズマCVD装置16には、排気系統20を備えた真空容器22が設けられ、真空容器22の対向する側面の一方側(供給ローラ側)にはスリット状の入口24が形成され、他方側(巻取ローラ側)にはスリット状の出口26が形成される。スリット状の入口24や出口26は、真空容器22の機密性を確保するため、フィルム12が接触しない範囲で狭くすることが好ましい。排気系統20についての詳細は図示しないが、例えば排気管にターボポンプ、メカニカルブースターポンプ、ロータリーポンプ等の真空ポンプを組み合わせたものや、更にはクライオコイル等の補助手段、到達真空度や排気量の調整手段等を設けることができる。これにより、真空容器22内は、1×10−4Pa〜1×10−1Paの範囲に減圧される。
また、真空容器22内の略中央部には、フィルム12を巻き掛け支持する回転ドラム28が設けられると共に、図1に示すように、入口24の近傍と出口26の近傍にはそれぞれフィルム12の搬送をガイドするガイドローラ30、32が設けられる。尚、図2では回転ドラムの回転機構については省略してある。これにより、供給ローラ14から供給されたフィルム12は入口24から真空容器22内に搬入され、入口側のガイドローラ30を経て回転ドラム28に巻き掛けられた後、出口側のガイドローラ32にガイドされて出口26から真空容器22外に搬出される。搬出されたフィルム12は巻取ローラ18に巻き取られる。フィルム12の搬送は、巻取ローラ18の巻取力を使用してもよく、あるいはニップローラや真空吸着ドラム等の搬送手段を別途設けてもよい。尚、真空容器22に隣接して供給ローラ14及び巻取ローラ18を収納するケーシング34、36を設け、真空容器22の減圧度に応じてケーシング34、36内を減圧できるように上記と同様の排気系統を備えることが好ましい。また、回転ドラム28は、後述するシャワー電極プレート38に対して接地電極としての役目を行うため、電気的にアース(接地)される。
図2に示すように、回転ドラム28に対向して原料ガスを真空容器22内に放出すると共に放電電極を構成するシャワー電極プレート38が設けられる。シャワー電極プレート38は、電極材料で形成された板状のプレート内が空洞に形成され、回転ドラム28に対向する面にはガスを放出するための多数の小孔が形成される。シャワー電極プレート38には、3本のガス管40、42、44を介してSiH4ガスの供給ボンベ46と、NH3ガスの供給ボンベ48と、N2ガスの供給ボンベ50が連結される。これにより、3種類のガスはシャワー電極プレート38内で混合されて真空容器22内に放出される。
シャワー電極プレート38には更に、高周波電源52が接続され、高周波電源52からシャワー電極プレート38に電圧を印加すると、シャワー電極プレート38と回転ドラム28との間にグロー放電プラズマが生成される。高周波電源52の周波数としては1〜60MHzの範囲が好ましく、電力としては200〜2000Wの範囲が好ましい。また、成膜圧力は、10〜200Paの範囲が好ましい。
また、プラズマCVD装置16には、真空容器22内の内壁面を温調する壁面用温調手段54、54と、内壁面の温度を検出する壁面温度検出手段56、56と、無機膜が成膜されるフィルム12を温調する基板用温調手段58と、フィルム12の温度を検出する基板温度検出手段60と、壁面温度検出手段56及び基板温度検出手段60で検出されたそれぞれの温度の温度差に基づいて、壁面用温調手段54及び基板用温調手段58を制御する制御手段62と、が設けられる。
成膜時に真空容器22の内壁面に付着する付着物は、図2における真空容器22の左右に対向する内壁面22A,22B位置に多く付着し易い。このため、本実施の形態では左右に対向する内壁面22A,22B位置を加熱できるように一対の壁面用温調手段54,54を設けたが、真空容器22の内壁面全体を加熱できるようにしてもよい。また、上述したように、真空容器22の左右に対向する内壁面22A,22B位置に多く付着し易いことから、この位置に着脱自在に防着シールド(従来技術の欄参照)を設けてもよい。
壁面用温調手段54は、真空容器22の壁面外側に加熱板54Aを貼り付け、加熱源で加熱板54Aを加熱することにより真空容器22の壁面を加熱することが好ましい。加熱源は、電気ヒータ、蒸気等を使用できるが、特に限定されない。
基板用温調手段58は、回転ドラム28の回転を阻害しないように回転ドラム28(特にドラム表層部分)を加熱できるものであれば特に限定されず、電気ヒータ、蒸気等を使用できる。
また、成膜時の真空容器22内はプラズマ状態になるので、壁面温度検出手段56は真空容器22の壁内に埋め込む方式のものが好ましく、同様に基板温度検出手段60は回転ドラム28のドラム表層部に埋め込む方式のものが好ましい。なお、基板温度検出手段60は、フィルムそのものの温度を検出していないが、基板用温調手段58の加熱容量、フィルム12の搬送速度等のファクターを調整することで、回転ドラム28の表層部の温度とフルイム温度とを一致させることができる。したがって、プラズマを発生させない状態で予備試験等を行って、前記ファクターを設定しておくとよい。
そして、プラズマCVD装置16の成膜運転中において、壁面温度検出手段56で検出された壁面温度TA及び基板温度検出手段60で検出された基板温度TBは、制御手段62に逐次送られる。制御手段62は、壁面温度TAから基板温度TBを引いた温度差ΔTを求め、温度差ΔTが以下に説明する所定範囲内(ΔT1℃以上、ΔT2℃以下)に入るように壁面用温調手段54と基板用温調手段58の熱源温度を制御する。
これにより、長時間に渡って付着物が真空容器22の内壁面に付着することを防止でき、しかも成膜された無機膜の本来の機能、例えばガスバリアー性を損ねることもない。したがって、本発明の実施の形態のようには、ロール1巻に成膜を終了するまで長時間に渡って付着物が真空容器22の内壁面に付着することを抑制する必要のあるロール・ツー・ロール方式での成膜において特に有効である。
次に、温度差ΔTが所定範囲内(ΔT1℃以上、ΔT2℃以下)に入るようにすることで、付着物が真空容器22の内壁面に付着しにくくなる理由を説明する。
図3は、上記の如く構成されたプラズマCVD装置16を用いて、フィルム上にSiN無機膜を成膜したときの温度差ΔTと真空容器22の内壁面に付着する付着物の付着量との関係(図3の付着量曲線)、及び温度差ΔTと成膜済みフィルムの柔軟性との関係(図3の柔軟性曲線)を調べたものである。
付着物の付着量は、温度差ΔTが0(ゼロ)であるΔT0のときの付着量を基準線とした。なお、温度差ΔTがマイナスになる領域、即ちフィルム温度よりも内壁面温度が低くなる場合には、従来から付着量が多くなることが分かっているので試験しなかった。
付着物の付着量は真空容器22の内壁面において最も付着し易い上記左右壁22A,22Bについて調べると共に、付着量の評価は目視にて行った。
また、柔軟性の評価は、機能性フィルムとしてガスバリヤーフィルムを製造する際に、本発明で成膜した無機膜をガス(例えば水蒸気)バリアー膜として使用することを想定し、水蒸気の透過性で評価した。具体的には、直径30mmの金属棒に成膜済みフィルム12を巻き付けたものと、巻き付けないものとを作成し、両者の水蒸気透過性を比較することで柔軟性を調べた。即ち、柔軟性のない成膜済みフィルム12は金属棒に巻き付けることで無機膜に微細なピンホールや亀裂が生じ、水蒸気透過性が高くなり、ガスバリヤー性が悪化する。図3の右側に示す縦軸は、金属棒に巻き付けた成膜済みフィルムの水蒸気透過率を、金属棒に巻き付けない成膜済みフィルム12と比較したものである。そして、柔軟性曲線が上昇すると、金属棒に巻き付けた成膜済みフィルムの方が巻き付けない成膜済みフィルム12よりも水蒸気透過率が大きくなりガスバリヤー性が悪いことを意味する。
図3の付着量曲線に示すように、内壁面への付着量は、温度差ΔTを0(ゼロ)に維持した状態から次第に大きくしていくに従って増大していき、最大値となった後に減少し始め基準線を更に下回って減少し、次第に減少が停止する。この付着量曲線において、付着量が基準線以下に減少し始めるときの温度差ΔT1を予め求め、成膜運転時の温度差ΔTをΔT1以上に維持した状態で成膜する。これにより、成膜運転時に真空容器22の内壁面に付着物が付着することを顕著に抑制することができる。
一方、図3の柔軟性曲線に示すように、温度差ΔTをΔT1よりも大きくしていくと、最初のうちは金属棒に卷いた成膜済みフィルム12は巻かない成膜済みフィルム12と同じ水蒸気透過率であり同じ柔軟性を維持する。しかし、所定の温度差ΔT以上になると、金属棒に巻いた成膜済みフィルム12は巻かない成膜済みフィルム12よりも水蒸気透過率が大きくなり始め、柔軟性が悪化し始める。
この柔軟性曲線において、成膜済みフィルム12の水蒸気透過率が大きくなり始める、即ち柔軟性が悪化し始める温度差ΔTを求め、それをΔT2とする。このように温度差ΔTを大きくし過ぎると、即ち内壁面温度を高くし過ぎると、温度エネルギーによりフィルム上に組織が緻密で硬い無機膜が成膜され、これにより成膜済みフィルム12の柔軟性が低下するものと考察される。
したがって、図3の付着量曲線と柔軟性曲線から、温度差ΔTをΔT1℃以上、ΔT2℃以下に維持した状態で成膜することで、成膜済みフィルム12の柔軟性を確保しながら真空容器22の内壁面への付着物の付着を顕著に抑制できる。そして、フィルム12上にSiN無機膜を成膜する本実施の形態でΔT1及びΔT2を求めたところ、ΔT1が50℃、ΔT2が200℃であった。
尚、本実施の形態ではSiN(窒化珪素)の例で示したが、SiN(窒化珪素)以外の無機膜、例えばSiO(酸化珪素)やAlO(酸化アルミニウム)についても、予め成膜前の前準備工程として、上記付着量曲線及び柔軟性曲線を作成してΔT1、ΔT2を求めることができる。このように、無機膜の種類に応じてΔT1とΔT2とを個別設定することが好ましいが、無機膜の種類に関係なく、ΔT1を50℃、ΔT2を200℃に設定しても実用上殆ど問題ない程度において上記した効果を得ることができる。したがって、制御手段62に、温度差ΔTが50℃以上、200℃以下に維持されるように壁面用温調手段54と基板用温調手段58の熱源温度を制御する制御プログラムを組み込んでおくこともできる。
尚、本実施の形態では、フィルム12上に無機膜を直接成膜する例で説明したが、フィルム12上に有機膜を形成し、その有機膜の上に本発明の成膜装置10で無機膜を成膜してもよい。また、本実施の形態ではロール・ツー・ロール方式の例で示したが、枚葉状の基板をプラズマCVD装置16に間欠的に供給するバッチ方式にも本発明を適用できる。
次に、真空容器22内の内壁面温度から基板の基板温度を引いた温度差ΔTを50℃以上、200℃以下に維持した状態でフィルム12上にSiN無機膜を成膜した本発明の実施例1〜8と、本発明の条件を満たさないでSiN無機膜を成膜した場合の比較例1〜2とで行った試験を以下に説明する。
(温度差ΔT以外の成膜条件)
・成膜用ガス及び流量:SiH4ガスを50sccm(標準cc/分)、NH3ガスを50sccm 、N2ガスを120sccm
・高周波周波数:13.56MHz
・高周波電力:500W
・成膜圧力:80Pa
・フィルム(基板):ポリエチレンナフタレートフィルム(PENフィルム、帝人デュポン社製、商品名:テオネックスQ65FA)
(付着物の付着量評価方法)
フィルム12の1ロール(1000m)を供給ローラ14からプラズマCVD装置16に供給してSiO無機膜を成膜し、巻取ローラ18に巻き取る連続成膜運転を行い、成膜終了時の1000m時点におけるフィルム12上の異物付着量を光学顕微鏡で観察した。ここで、異物とは、真空容器22の内壁面に付着した付着物がフィルム上に落下したものを言い、光学顕微鏡で見ることにより他の異物と区別した。異物付着の評価は、フィルム12上の1mm角の視野中に異物が10個未満であれば○、異物が10〜30個未満の範囲を△、異物が30個以上を×とした。そして、○及び△を合格とし、×を不合格とした。
・成膜用ガス及び流量:SiH4ガスを50sccm(標準cc/分)、NH3ガスを50sccm 、N2ガスを120sccm
・高周波周波数:13.56MHz
・高周波電力:500W
・成膜圧力:80Pa
・フィルム(基板):ポリエチレンナフタレートフィルム(PENフィルム、帝人デュポン社製、商品名:テオネックスQ65FA)
(付着物の付着量評価方法)
フィルム12の1ロール(1000m)を供給ローラ14からプラズマCVD装置16に供給してSiO無機膜を成膜し、巻取ローラ18に巻き取る連続成膜運転を行い、成膜終了時の1000m時点におけるフィルム12上の異物付着量を光学顕微鏡で観察した。ここで、異物とは、真空容器22の内壁面に付着した付着物がフィルム上に落下したものを言い、光学顕微鏡で見ることにより他の異物と区別した。異物付着の評価は、フィルム12上の1mm角の視野中に異物が10個未満であれば○、異物が10〜30個未満の範囲を△、異物が30個以上を×とした。そして、○及び△を合格とし、×を不合格とした。
(柔軟性の評価方法)
柔軟性については、上述したように、直径30mmの金属棒に無機膜が成膜された成膜済みフィルムを巻き付けたもの(以下「巻付けフィルム」という)と、巻き付けないもの(以下「対照フィルム」という)とを作成し、両者の水蒸気透過性を比較することで柔軟性を調べた。水蒸気透過性は、MOCON社製の水蒸気透過率測定装置(PERMATRAN−W3/33 MGモジュール)を使用した。柔軟性の評価は、巻付けフィルムの水蒸気透過度率が対照フィルムの水蒸気透過率と同じ場合を○とした。また、巻付けフィルムの水蒸気透過率が対照フィルムよりも1〜10%未満の範囲で高くなり、ガスバリヤー性が悪化した場合を△、10%以上で高くなりガスバリヤー性が更に悪化した場合を×とした。そして、○及び△を合格とし、×を不合格とした。
柔軟性については、上述したように、直径30mmの金属棒に無機膜が成膜された成膜済みフィルムを巻き付けたもの(以下「巻付けフィルム」という)と、巻き付けないもの(以下「対照フィルム」という)とを作成し、両者の水蒸気透過性を比較することで柔軟性を調べた。水蒸気透過性は、MOCON社製の水蒸気透過率測定装置(PERMATRAN−W3/33 MGモジュール)を使用した。柔軟性の評価は、巻付けフィルムの水蒸気透過度率が対照フィルムの水蒸気透過率と同じ場合を○とした。また、巻付けフィルムの水蒸気透過率が対照フィルムよりも1〜10%未満の範囲で高くなり、ガスバリヤー性が悪化した場合を△、10%以上で高くなりガスバリヤー性が更に悪化した場合を×とした。そして、○及び△を合格とし、×を不合格とした。
温度差ΔTの条件及び評価を図4の表に示す。表において、実施例1〜実施例4は基板温度(成膜対照温度)を40℃に設定し、真空容器22の壁面温度(内壁面の温度)から基板温度(40℃)を引いた温度差ΔTを50℃、80℃、140℃、200℃にした場合である。同様に、実施例5〜8は基板温度(成膜対照温度)を100℃に設定し、温度差ΔTを50℃、80℃、140℃、200℃にした場合である。
また、比較例1は温度差ΔTが本発明の下限を満たさない40℃の場合であり、比較例2は温度差ΔTが本発明の上限を満たさない220℃の場合である。
図4の表に示すように、本発明における温度差ΔT(50〜200℃の範囲)を満たす実施例1〜8は、柔軟性及び異物付着ともに△〜○の評価であり、合格であった。特に、基板温度を40℃に設定し、温度差ΔTを80℃、140℃に設定した実施例2及び3は、柔軟性及び異物付着とも○の評価であり、良い結果であった。
これに対して、本発明の下限条件を満たさない比較例1は、柔軟性は○であるものの、異物付着が×の評価であり、総合評価として不合格であった。また、本発明の上限条件を満たさない比較例2は、異物付着は○の評価であるものの、柔軟性が×であり、総合評価として不合格であった。
10…成膜装置、12…フィルム(可撓性帯状基板)、14…供給ローラ、16…プラズマCVD装置、18…巻取ローラ、20…排気系統、22…真空容器、24…真空容器の入口、26…真空容器の出口、28…回転ドラム、30、32…ガイドローラ、34、36…ケーシング、38…シャワー電極プレート、40、42、44…ガス管、46…SiH4ガスボンベ、48…NH3ガスボンベ、50…N2ガスボンベ、52…高周波電源、54…壁面用温調手段、56…壁面温度検出手段、58…基板用温調手段、60…基板温度検出手段、62…制御手段
Claims (9)
- 排気系統を備えた真空容器内に原料ガスを導入すると共に、前記真空容器内に発生させたプラズマによる気相反応によって可撓性の基板上に無機膜を成膜するプラズマCVD工程を備えた成膜方法において、
前記プラズマCVD工程では前記成膜する無機膜の種類に応じて、
前記真空容器内の内壁面温度から前記無機膜が成膜される基板の基板温度を引いた温度差ΔTを大きくしていったときに前記内壁面への付着物の付着量が増大してから減少に転じて前記温度差が0のときの付着量よりも少なくなり始める温度差ΔT1を求めると共に、前記温度差ΔTを前記ΔT1よりも大きくしていったときに成膜済み基板の柔軟性が悪くなり始める温度差ΔT2を求める前準備工程と、
前記求めた温度差ΔT1℃以上、ΔT2℃以下に維持した状態で成膜する成膜工程と、を備えたことを特徴とする成膜方法。 - 排気系統を備えた真空容器内に原料ガスを導入すると共に、前記真空容器内に発生させたプラズマによる気相反応によって可撓性の基板上に無機膜を成膜するプラズマCVD工程を備えた成膜方法において、
前記プラズマCVD工程では、
前記真空容器内の内壁面温度を、前記無機膜が成膜される基板の基板温度よりも50℃以上、200℃以下の範囲で高い温度に維持した状態で成膜することを特徴とする成膜方法。 - 前記可撓性の基板として長尺な可撓性帯状基板をロール状に巻回し、該ロールから巻き戻して前記プラズマCVD工程に可撓性帯状基板を供給する供給工程と、
前記プラズマCVD工程で無機膜が成膜された可撓性帯状基板を巻き取る巻取工程と、を備え、前記成膜を連続して行うことを特徴とする請求項1又は2の成膜方法。 - 前記無機膜はSiNの無機膜であることを特徴とする請求項1〜3の何れか1の成膜方法。
- 前記供給工程と前記プラズマCVD工程との間に、前記可撓性帯状基板上に有機膜を形成する有機膜形成工程を備えたことを特徴とする請求項3又は4の成膜方法。
- 排気系統を備えた真空容器内に原料ガスを導入すると共に、前記真空容器内に発生させたプラズマによる気相反応によって可撓性の基板上に無機膜を成膜するプラズマCVD装置を備えた成膜装置において、
前記プラズマCVD装置は、
前記真空容器内の内壁面を温調する壁面用温調手段と、
前記内壁面の温度を検出する壁面温度検出手段と、
前記無機膜が成膜される基板を温調する基板用温調手段と、
前記基板の温度を検出する基板温度検出手段と、
前記壁面温度検出手段及び基板温度検出手段で検出されたそれぞれの温度の温度差に基づいて、壁面用温調手段及び基板用温調手段を制御する制御手段と、が設けられることを特徴とする成膜装置。 - 前記制御手段は、前記真空容器内の内壁面温度が、前記無機膜が成膜される基板の基板温度よりも50℃以上、200℃以下の範囲で高い温度に維持されるように前記壁面用温調手段と前記基板用温調手段とを制御することを特徴とする請求項6の成膜装置。
- 前記プラズマCVD装置の上流側に設けられ、前記可撓性の基板として可撓性帯状基板をロール状に巻回し、該ロールから巻き戻して前記プラズマCVD装置に可撓性帯状基板を供給する供給手段と、
前記プラズマCVD装置の下流側に設けられ、前記プラズマCVD装置で無機膜が成膜された可撓性帯状基板を巻き取る巻取手段と、を備え、前記成膜を連続して行うことを特徴とする請求項6又は7の成膜装置。 - 前記供給手段と前記プラズマCVD装置との間に、前記可撓性帯状基板上に有機膜を形成する有機膜形成装置を備えたことを特徴とする請求項8の成膜装置。
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