JP2009261742A - 部分義歯の装着構造 - Google Patents

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Abstract

【課題】 拘束感がなく、安定して高い維持力を得ることができる部分義歯の装着構造を提供することを第1の目的とし、また、高齢者等に、装着感が快適で、メンテナンスを不要にすることができる部分義歯の装着構造を提供することを第2の目的とする。
【解決手段】 嵌合部は、鉤歯の側面部に宛がわれるように嵌合する、1つまたは2つのアーム11,12を有し、アームは、平面的に見て鉤歯に対して凹の弧状をなし、高さ方向に幅をもつ接触面11fを有し、かつ接触面と反対側の面は丸みを帯びて外に凸であり、鉤歯は、クラウン61によって被覆されている残存歯か、またはインプラントの顎骨固定部に固定された人工歯31、32であることを特徴とする。
【選択図】 図1

Description

本発明は、部分義歯の装着構造に関し、より具体的には、小型化して維持力を向上しながら、自然で快適な装着感を得ることができる、部分義歯の装着構造に関するものである。
部分義歯は、欠損した歯の代わりをする人工歯、その人工歯を固定して顎堤に密着する義歯床、その義歯床に固定され、鉤歯(clasped tooth:クラスプが嵌合する歯)に着脱自由に嵌合されるクラスプ、そのクラスプと一体的に形成されるレスト等から構成される。部分義歯はつぎの3種類の作用を備える必要がある。
(A1)咬合圧に抵抗する支持作用
(A2)離脱力に抵抗する維持作用
(A3)義歯に加わる水平的な力に抵抗する把持作用
レストは、大まかには、支持(把持)作用を有する。一方、クラスプは鉤状のアームからなり、維持歯をその鉤状アームで拘束することにより義歯床の離脱や移動を防止するとされている。より具体的にはクラスプはつぎの作用を有する必要があるとされている。
(c1)維持歯の歯冠部トップからアンダーカットに延びるアームの鉤部が離脱(浮上)力に抵抗することにより、部分義歯の離脱を防止し、すなわち維持作用を発揮し、
(c2)間接的な維持装置を支点とした部分義歯の回転を防止する。この回転防止作用により、間接的な維持装置として機能し、部分義歯の動きを抑制する。
上記のレストとクラスプとは一体鋳造された金属物として形成されることが多い。また、ワイヤーで形成することもできる。
次に、旧来の部分義歯の問題点を具体的に順にあげてゆく。旧来のクラスプは、図23(a),(b)に示すように、人工歯側に固定される固定部108の先端に設けられ、維持歯を捕捉する鉤状の鉤状アーム109が、人工歯側(図中左側)の上部から斜め下部遠方へ延びて維持歯103を囲んで拘束する。なお、図23(a)はクラスプを取り付けた状態を頬側(表側)から見た場合の正面図であり、図23(b)は上面図である。維持歯103は、鉤歯の意味で用いている。
上記の鉤状アーム109は、維持歯103を側部および上部から立体的に取り囲み、維持歯103との接触部分が大きくなるように構成するため、維持歯103へ大きな負担をかけていた。図23(a)において、固定部108から歯冠部トップへと立ち上がる固定部108の先の基点111から突き出し、維持歯の歯冠部トップを上から抑えるレスト110と、基点111から斜め下方に維持歯の豊隆部(張り出し部)を経てアンダーカット部または歯頚部にいたる鉤状アーム109とが、維持歯103を拘束する。この拘束は、立体的なカセ(枷)とたとえることができるほどである。すなわち、旧来の部分義歯では、レスト110による上からの押さえとともに、維持歯のトップ側から斜めに維持歯を周回して根元部にいたる鉤状アーム109により、維持歯103を拘束する。維持歯へ大きな負担がかかるという点では、クラスプが鋳造金属製でも金属ワイヤー製でも同じである。
レスト110を設けた場合、とくに維持歯103のトップにレストを収める溝状のレスト窩を歯牙削除により設ける必要がある。この歯牙削除を行うと、冷水痛や歯髄炎を誘発することがある。また、このレスト窩へのレスト110の嵌め入れに不具合がある場合、義歯床が顎堤粘膜(回復した欠損歯のあとの部分)に十分接触せずに隙間を有する状態となる。この顎堤粘膜と義歯床底部との隙間は、明確に認識することが難しく、隙間があっても義歯が安定して固定されたように見え、装着がそのまま持続される。隙間には食物残渣、粒状物等が入り込み、顎堤粘膜を傷つけ、潰瘍を生じることがある。その場合、歯牙への負担が増大する結果を招く。
装着感または使用感についていえば、旧来の場合、上記立体的な捕捉に起因する違和感が生じるのは自然の成り行きである。さらに、上記のような旧来のクラスプを備えた部分義歯で食物を噛むと、鉤状アーム109の基点111(鉤状アーム109とレスト110との接続部分)が維持歯103の上端に位置するため、テコの原理により基点111付近を支点として鉤状アーム109が動揺し、維持歯103を揺さぶることになる。このため、顎堤粘膜に痛みが生じたり、部分義歯が外れたりする事例を生じる。また、レストでは咬合圧をまともに受けるため、破損が生じ、破損物を呑み込むなどの問題を生じることがあった。さらに、鉤状アーム109が、舌、唇、頬粘膜等と接触し、違和感を生じるなど、良好な使用感が得られないことが多かった。
また、旧来のクラスプを使用した部分義歯は、図23(a),(b)に示すように、鉤状アームが表側に大きく露出することになる。このため、鉤状アーム109が目立って、とくに前歯部において審美性の点で問題があった。
上記の問題を打開するために、鉤状アームやレストを用いずに、図24(a),(b)に示すように、2つの金属アーム4a,4bを含む半円弧状凹部を維持歯3の根元にあてがうように嵌め合わせる半円弧状凹部を少なくとも1つ備える、新しいコンセプトの部分義歯が、本発明と同じ発明者により提案された(特許文献1および2)。この新しいコンンセプトの部分義歯によれば、固定部2から分岐した2つの金属アーム4a,4bを含む半円弧状凹部は、維持歯3の歯牙根元にのみピッタリと宛がうように嵌め合わせるため、維持歯3への拘束はほとんどなく、かつ維持歯に対して傾ける力(モーメント)はどのような状態でも作用せず、その結果、維持歯への負担を画期的に減らすことができる。また、面状部分を維持歯3の歯牙根元にあてがうように嵌め合わせるため、弱った維持歯3であっても上記の半円弧状凹部によって補強され、活力を取り戻す症例さえも確認されている。このため、ぐらついた1本の維持歯があれば、その維持歯の歯牙根元に宛がい、嵌め合わせて、維持歯も含めて全体を長持ちさせる部分義歯を提供することができる。また、2つの金属アームのうち頬側(表側)アームの長さを短くするため、審美的にも優れたものになる。
一方、部分義歯の発展の流れとは別に、インプラント(人工歯根)によって歯牙機能を得る流れがある。一般にインプラントと呼ばれるものは、顎骨に固定するための下部構造と、その下部構造に取り付けられ、口腔内で食物等に接する上部構造とからなる。図25は、インプラントの下部構造を示す図である、下部構造は、ボルト状の顎骨固定部(fixture)30fと、支持台(abutment)30aとからなる。顎骨固定部30fは、顎堤粘膜41を突き抜けて顎骨に埋め込まれる。支持台30aは、顎骨固定部の端に取り付けられ、顎堤粘膜41から露出する配置をとる。図25に示すように、この下部構造の支持台30aに、総義歯を含む上部構造が係止される。係止するために、図26のインプラントは、ボールジョイント35,36を備える。上部構造は、一本の人工歯であってもよく、この場合は、顎骨固定部30fの1本に、人工歯の1本が取り付けられる。図26に示すインプラントによる総人工歯は、顎骨が丈夫な使用者を対象としており、顎骨固定部30fは4本使用されているが、3本または2本の場合もある。しかし、上記の構造は部分義歯または総義歯に対応する上部構造をもつインプラントの使用態様である。インプラントの態様は、1本の顎骨固定部30fに、1本の人工歯を取り付ける構造がほとんどであり、90%以上を占める。
部分義歯と、インプラントとの最大の相違は、インプラントは、上部構造を取り外さずに生活することを前提にしているのに対して、部分義歯は、装着および脱着は自由に行うことが可能なことを前提としている点にある。インプラントは、通常、総義歯に比べて高価であるが、総義歯は、装着および脱着が面倒であり、また不安定であり、それを嫌う人が利用することが多い。
改訂新版オズボーン パーシャルデンチャー 医歯薬出版株式会社、1977年7月、p.166 特許第3928102号公報 WO2006/131969 A1
1.部分義歯からの課題
上記の(A2)維持作用および(A3)把持作用は、実際の場合は、別々に分けて論じられるほど単純ではなく、部分義歯の傾きの発生→維持作用の消失→部分義歯の離脱、といった一連の動きが瞬時に協働して生じ、この結果、装着状態の安定性が失われる場合が生じる。このような事態の発生を防止するため、上記の半円弧状クラスプを備える部分義歯では、傾きの防止、舌側へのずれ等を抑止することを目的に、維持歯の側方(遠心側または近心側)から、当該半円弧状クラスプをその維持歯に嵌め合わせ、その後側の弧状部分を長くとることを重視した構成をとることが多かった。このため、より堅固な維持力を得ながら、かつ上述の快適性、良好な審美性を確保できる部分義歯の装着構造が求められるようになった。
2.インプラントからの課題
高齢者の場合、顎骨が減少し、または弱くなり、顎骨の任意の位置にインプラントを埋設できるわけではない。総義歯にする場合、3本〜4本の顎骨固定部を埋設する必要があり、費用が高額になる。また、費用の多寡によらず、高齢者には、総義歯用に、3本〜4本の顎骨固定部を埋設することが、身体機能上、不可能の場合が多い。とくに顎骨固定部(fixture)に覆いかぶさるように上部構造が取り付けられるので、顎骨固定部に荷重が集中する。とくに顎骨固定部の頂部に水平方向に荷重が加わると、顎骨固定部が傾くようになり、顎骨への負担が大きくなる。このような事態になるのを避けようとすると、従来の総義歯を用いざるを得ない。総義歯は、上述のように不安定なので、義歯安定剤の使用をする場合が多い。自然歯がまったく欠落した使用者にとっては、総義歯か、またはインプラントという選択肢しかなかった。このため、総入れ歯に代わりうる、使用感が快適で、顎骨への負担が小さい”部分義歯”が求められていた。
本発明は、鉤歯に宛がわれるように嵌め合わされる弧状アームを用いて、拘束感がなく、しかも安定して高い維持力を得ることができる部分義歯の装着構造を提供することを第1の目的とする。また、高齢者等に、装着感が快適で、メンテナンスを不要にしながら、総入れ歯に代替可能な部分義歯の装着構造を提供することを第2の目的とする。
本発明の部分義歯の装着構造は、複数の人工歯と、人工歯を保持する義歯床と、義歯床に固定され、鉤歯に嵌め合わされる嵌合部とを備える部分義歯の装着構造である。この装着構造では、嵌合部は、鉤歯の側面部に宛がわれるように嵌合する、1つまたは2つのアームを有し、アームは、平面的に見て鉤歯に対して凹の弧状をなし、高さ方向に幅をもつ接触面を有し、かつ接触面と反対側の面は丸みを帯びて外に凸である。そして、鉤歯は、クラウンによって被覆されている残存歯か、またはインプラントの顎骨固定部に固定された人工歯であることを特徴とする。
上記の構成によれば、嵌合部は人為的に作製されるので、嵌合部のアームの嵌め合いを堅固にするための設計の選択肢を多く持つことができる。嵌め合いを堅固にするための設計の選択肢は、天然歯が残存する残存歯よりもインプラントの人工歯のほうが大きい。しかし、残存歯のクラウンにしても、裸の残存歯を鉤歯とする場合よりも、嵌め合いを堅固にする細工の余地(形状の余裕)は大きい。このため、部分義歯の維持力を安定化し、かつ向上させながら、嵌合部のアーム長を短くするなどの小型化が可能になる。この結果、装着感をいっそう快適にすることができる。アームの断面において、外に丸みを帯びて凸とすることで、アームの剛性を高めながら、舌の動くスペースを広くして、かつ当たりを良くすることができる。なお、インプラントにおける顎骨固定部は、ボルト状のフィクスチャ(fixture)と、その上部に位置して支持台となるアバットメント(abutment)とで構成されるものである。フィクスチャとアバットメントは、分離しない一体物であっても、分離可能で、あとからアバットメントをフィクスチャに取り付けるものでも、どちらでもよい。インプラントの人工歯は、インプラントの上部構造に含まれる人工歯である。上記の構成における人工歯は、1つの顎骨固定部に固定される1本の人工歯である。
上記の鉤歯における、残存歯のクラウンまたは顎骨固定部に固定された人工歯には、アームの嵌合のために、溝状壁または後退壁を形成することができる。これによって、アームによる維持力を、画期的に向上することができ、上述の小型化などをよりいっそう確実にすることができる。また、溝状壁または後退壁にアームが嵌め合わされるので、その分、アームの鉤歯からの丸みをおびた部分が低くなり、口腔内のスペースを広くして舌感が向上する。なお、上記溝状壁または後退壁は、アームが嵌合する箇所全体に形成されていてもよいし、部分的に、たとえばアームの先端付近または根元付近に形成されていてもよい。
上記鉤歯となる、残存歯のクラウンまたは顎骨固定部に固定された人工歯には、アームが嵌合する箇所に、鉤歯の頂部に向かうほど外側に張り出す勾配が付された壁が形成される構造をとることができる。これによって、鉤歯に嵌合しているアームが、鉤歯の上方(頂部方向)に滑って抜けることを防止することができる。すなわちオーバーハングの壁面に接触している弧状固体を垂直方向に、滑らそうとしても、動かないことと同じである。オーバーハングの壁は、弧状固体の一部だけであっても、上方への抜けができないのと同様に、鉤歯における外側に張り出す勾配の壁は、アームの嵌合する箇所の一部であってもよい。
上記の鉤歯となる、残存歯のクラウンまたは顎骨固定部に固定された人工歯には、アームが嵌合する箇所に、鉤歯の根元側ほど後退する勾配が付いた壁が形成され、その後退壁は根元において外に張り出すように位置する張出し部に連続している構成とすることができる。これによって、上述のオーバーハングの壁が奏する作用を得ることができる。また、根元側の張出し部によって、アームの嵌合箇所の収まり、または位置決めを良くすることができる。ただし、張出し部はそれほど大きく設ける必要はなく、わずかにあればそれで足りる。
また、舌側から見て、鉤歯の中心の両側に位置する右斜正面および左斜正面の両方に、壁が形成されており、1つのアームの一方側部分および他方側部分によって両方の壁に宛がわれるように嵌合するか、または分離した2つのアームによって両方の壁に宛がわれるように嵌合することができる。この構造によって、維持力をより強固にすることができる。また、アームを鉤歯周囲に沿って長く巡らす必要がなくなり、局所的な短い板状部分を宛がうなどして十分な維持力を得ることができる。このため、アームの小型化を可能にし、使用者の口腔内状態に適合するように、部分義歯を設計する際に多くの選択肢をもつことができる。
上記の鉤歯をインプラントの人工歯として、顎骨固定部を、右または左の3番位置の顎骨に埋設し、その右または左の3番の人工歯を鉤歯とすることができる。これによって、最も丈夫な、左右3番位置の上顎骨または下顎骨の部分に、インプラントのフィクスチャを埋設することができる。これによって、高齢者であっても3番位置のインプラントの人工歯を用いて、維持力が高く、装着感に優れた部分義歯を用いることができる。このため、すべてインプラントの上部構造によって歯列を形成するよりも、下顎骨または上顎骨の負担を軽減することができる。この点、高齢者とくに後期高齢者にとって、安心である。また、総入れ歯に比べて、安定した維持力の確保、口腔内の快適性、およびメンテナンス不要の点で、優れている。また、義歯床を大きく削除することができ、たとえば人工歯の根本から口蓋側に10mm程度残すだけで、他は削除することができる。このため、上顎に用いた場合、義歯(総義歯、部分義歯)を使用しない人と同じように、味覚を楽しむことができる。なお、左右の3番位置は、犬歯と呼ばれる歯であり、上顎および下顎ともに、最も丈夫であり、高齢になっても維持されている場合が多い。犬歯は、動物の捕食の際に、負荷がよくかかる歯であり、進化の過程で発達し、ヒトに継承され残ったものと推定される。インプラントの問題点の一つは、フィクスチャを埋め込む顎骨の強度または健全性にあり、とくに加齢によって顎骨は細って退化する。このため、高齢者はとくにそうであるが、壮年者であっても、左右1番〜7番のすべての位置で顎骨にフィクスチャを埋め込むことができない場合が多くある。とくに上顎では、その傾向が強い。
上記の嵌合部を2つ備え、鉤歯がインプラントの2本の人工歯であって、顎骨固定部が、右および左の3番位置の顎骨に埋設され、それぞれの顎骨固定部に人工歯が固定され、2つの嵌合部は、右3番の人工歯および左3番の人工歯に嵌め合わされる構成とすることができる。これによって、不快な拘束感を与えない2つの嵌合部によって、2本のインプラントの人工歯に嵌め合わせて、堅固な維持力を得ることができる。上述のように、左右ともに3番位置は、上顎および下顎ともに最も丈夫で、長持ちする部分である。このため、すべての自然歯を失った高齢者に対して、安心かつ安全な歯牙をほぼ完全な状態で提供することができる。
なお、上記の嵌合部は2つあることが望ましいが、上記本発明の構造をもつ1つの嵌合部と、その形態を問わない第2の嵌合部(もう一つの本発明に係るアーム、従来タイプのクラスプ、壁面など)があれば、部分義歯として成立し、維持力、安定性など優れた部分義歯を提供することができる。すなわち、上記の嵌合部は、最低限、1つあればよい。
本発明によれば、鉤歯に宛がわれるように嵌め合わされる弧状アームを用いて、拘束感がなく、しかも安定して高い維持力を得ることができる部分義歯の装着構造を得ることができる。そして、高齢者等に、装着感が快適で、メンテナンスを不要にしながら、総入れ歯に代替可能な部分義歯の装着構造を提供することができる。
(実施の形態1−インプラント人工歯との部分義歯の装着構造の形成−)
図1は、本発明の実施の形態1における部分義歯の装着構造50を示す図である。部分義歯10は、石膏模型Mに装着されている。図1において、鉤歯は、右3番31および左3番32である。これら鉤歯31,32は、下顎に埋め込まれたインプラントの顎骨固定部のアバットメント(図示せず)に固定されている。右3番の鉤歯31には嵌合部のアーム11が、また左3番の鉤歯32にはアーム12が、宛がうように嵌合されている。部分義歯10は、義歯床23に固定された人工歯L1,R1など、および嵌合部の主要部であるアーム11、12を備える。義歯床23は、顎堤粘膜41に覆いかぶさるようにして密着している。部分義歯10上の人工歯は、右3番および左3番を除いたL1,L2,L4〜L7,R1,R2,R4〜R7の12本である。本説明では、部分義歯上の人工歯も、インプラントの上部構造に含まれる人工歯も、同じ人工歯の名称で呼ぶこととする。そして、インプラントの上部構造の人工歯のことを、単にインプラントの人工歯と呼ぶ。
図2は、図1に示す部分義歯10を異なる方向から見た斜視図である。部分義歯10の嵌合部のアーム11,12は、上述のように短い弧状のクラスプであり、鉤歯31,32の根元に宛がうように嵌め合わされる。この簡単化された構造のため、従来のクラスプに比べて、舌感に優れ、味覚などについて快適な装着感を得ることができる。アーム11,12が、鉤歯31,32に嵌め合わされる箇所は、舌側または奥側(後側)であり、頬側または表側(前側)には、ほとんど現れない。このため、審美性にも優れている。ただし、より一層、維持力を高めて装着状態を安定にすることが望まれ、それに応えて追求した結果、本発明を想到するにいたった。図3は、アーム11を示す斜視図であり、(a)は裏面11b側から見た図であり、(b)は接触面11f側から見た図である。図3(a)に示すように、アーム11の裏面11bは丸みを帯びて、外に凸であり、固定部11kが連続している。固定部11kは、図2の右4番の人工歯R4の側の義歯床23に埋め込まれる。また、図3(b)に示すように、接触面11fは、高さ方向に幅をもち、鉤歯31の側面に沿うように形成されている。接触面11fと裏面11bとが会合する端には、鋭角的なエッジ11eが形成される。図3(a),(b)に示すアーム11は、本説明では、1つのアーム11とカウントする。従来は、表側アーム(頬側アーム)と、裏側アーム(舌側アーム)と、分けて、2つにカウントしていた。しかし、本発明の実施の形態では、このあと説明する構造によって表側アームおよび裏側アームを小型化することができ、とくに表側アームを小型化できるため、2つとカウントせずに、連続した1つの弧状部として説明したほうが適切である。
図4は、図3に示すアーム11が嵌合する、右3番の鉤歯31を示す斜視図である。繰り返しになるが、この鉤歯31は、インプラントの人工歯である。鉤歯31は、普通にインプラントに設けられる人工歯ではない。鉤歯31には、アーム11が嵌合する舌側〜遠心側、および舌側〜近心側にかけての両方の斜め正面に、溝状壁、または自然な豊隆部の表面から凹むように後退した後退壁31wが形成されている。さらに、この後退壁31wには、根元側に向かうほど表面が後退するような勾配が付いている。上記の勾配は、根元側に向かうほど引っ込むような勾配といってもよいし、鉤歯31の頂部(先端)に向かうほど張出しが大きくなるような勾配と言い換えてもよい。上記の勾配が付された後退壁31wのために、鉤歯31の根元部には、後退壁がない場合(通常のインプラントの人工歯)にあった箇所の残存箇所ともいえる部分が形成される。その部分は、顎堤粘膜41に囲まれる張出し部31d、および後退壁31の根元の位置からその張出し部31dに連続するステップ部31sである。張出し部31dおよびステップ部31sは、大きく設ける必要はなく、わずかにあればよい。
図5は、図4のV−V線に沿う断面図である。図5において、後退壁31wは、根元側に向かうほど歯軸Cに近づくような勾配θをもつ。勾配θは、たとえば3°〜15°の範囲にすることができる。そして、後退壁31wの根元位置からステップ部31sが形成され、張出し部31dへと連続する。インプラントにおいては、顎堤粘膜41に覆われる顎骨43にフィクスチャ30fが埋め込まれ、そのフィクスチャ30fにアバットメント30aが固定される。人工歯31は、アバットメント30aに固定される。図5において、重要なことは、鉤歯31に後退壁31が形成され、その後退壁31wに、上記の勾配が付されていることである。図5には、アーム11の嵌合状態を示す。アーム11は、後退壁31wに宛がわれ、その接触面11fで接しているが、上記の勾配のために、いわゆるオーバーハングの壁に接しているといってよい。このため、アーム11に歯軸Cに沿って、頂部に向かう力が作用しても、後退壁31wとアーム11の接触面11fとの摩擦力が高いために、アーム11のシフトは生じない。このため、部分義歯は高い維持力をもつことになる。アーム11と後退壁31wとの摩擦力が高いと、アーム11が、鉤歯31の歯面を頂部側に滑って、鉤歯31から抜けることはない。また、上記の2つの面どうしの摩擦力だけでなく、後退壁31w自身が、頂部方向へのアーム11の移動の障害物として作用する。両方の作用によって、オーバーハングの壁31wが、アーム11の抜けの防止をする。この結果、部分義歯10は、高い維持力を得ることができる。この堅固な維持は、他の部分との協働作用により、水平方向の回転力などに抗する高い把持力に寄与することができる。この結果、安定な装着状態を確保される。また、部分義歯10の装着や脱離の設計を容易にできる。さらに、上記の高い維持力および把持力を利用して、部分義歯10の義歯床23の小型化や、アーム11自身の小型化をはかることができる。また、部分義歯の設計の選択肢を増やすことができる。この場合、インプラント体に不適当な力が加わらず、とくにモーメントを生じないようにして優しく維持することができる。
なお、アーム11は、鉤歯31に嵌合する面11fと、外側の丸みを帯びて、外に凸の面11bとを備え、両方の面11f,11bが交差する端にエッジ11eが形成される。エッジ11eは、通常、鉤歯31の歯面に接するように、または歯面の近接範囲に位置するように形成される。上記のアーム11の断面形状のために、アームが舌の動きの障害になることがほとんどない。また、舌が角張った箇所で異物を感じることもない。
図6および図7に、比較のために、後退壁31を設けない場合の鉤歯の形状について説明する。図6は、通常のインプラントの人工歯(3番)31を示す図である。また図7は、図6の断面図である。後退壁がない場合、人工歯31は豊隆部をもち、根元部に嵌合するアーム11も豊隆部に宛がわれるように嵌合する。図7に示す嵌合状態のアーム11に頂部方向の力がかかったとき、アーム11は、比較的小さい力で、鉤歯31から頂部方向に抜けるおそれがある。豊隆部の壁面と、アーム11の接触面11fとの間には大きな摩擦力が生じない。また、豊隆部は、アームの上記方向への移動の障害物にもならず、むしろ容易にする可能性すらある。ただし、インプラントの人工歯は、その形状を変更する余地が大きい。上記の後退壁の形状以外の抜け防止の方策を、たとえマイナーな方策であっても立てることができる。たとえば鉤歯31の歯面とアーム11との摩擦力を高めるために、歯面に特殊な処理を施すことができる。このため、本発明は、最も広くは、後退壁31wを形成していない場合であっても、インプラントの人工歯、およびクラウンに被覆された残存歯、を鉤歯とする部分義歯の装着構造を含むものである。
図8は、図1に示す部分義歯の装着構造のインプラントの人工歯である鉤歯32を示す図である。舌側から見て左側の嵌合部に位置する。鉤歯32は、部分義歯10のアーム12が嵌合される。鉤歯32は、鉤歯31と同様に、後退壁32wが形成されている。後退壁32wの根元からステップ部32sと、張出し部32dとが形成されている点でも、鉤歯31と共通する。後退壁は、舌側から見て、鉤歯の中心の両側の斜正面に形成されている。図9は、鉤歯32に嵌合するアーム12の周辺の部分義歯を示す図である。また、図10(a),(b)はアーム12を示す図であり、(a)は裏面側から見た図であり、また(b)は接触面側から見た図である。義歯床に埋め込んで固定するための固定部は省略されている。鉤歯32に勾配付き後退壁32wが形成され、その後退壁32wの部分にアーム12が嵌合する構成および作用効果は、鉤歯31とアーム11との嵌合の場合と同じであるので、省略する。
本実施の形態では、2つの嵌合部をもつ。これらの嵌合部には、部分義歯を口腔内に装着するための装置であるという点で同じである。しかし、両者は、少し異なる役割を担っている。図2に示すように、アーム11は、アーム12に比べて、弧状の彎曲が少し浅い。換言すれば、アーム12のほうがアーム11よりふところが深い。部分義歯10の装着において、まず、アーム11の嵌合部を水平にしてじわじわと鉤歯31に宛がい、完全な嵌合の手前で止めておく。次いで、アーム12を、頂部側から鉤歯32の歯軸方向Cに沿って落とすように嵌め合わせる。そして、アーム11の鉤歯31への嵌合を仕上げをしながら、アーム12の鉤歯32への嵌合を完成させて装着を完了する。上記の部分義歯の装着操作を、比喩的に、つぎのように表現することができる。
(1)まず、アーム11の嵌合部を、キーを差し込むように鉤歯31に宛がう。キーの動作と表現できる。
(2)アーム12の嵌合部を鉤歯32に落とし込み、上記(1)の状態を固定する。ロックの動作と表現できる。
上記の比喩的な表現から、最初に水平に鉤歯に宛がう、アームの弧状部分のふところが浅いほうの嵌合部をキーと称し、後から歯軸に沿うように落とし込むふところが深いほうの嵌合部をロックと称する。離脱の際、ロックを外さないとキーは外せない構造となっている。
ただし、キーとロックとは、それほど明確に区分けできるものではなく、大雑把な性格付けとみてもよい。本実施の形態のように、上述のアームをもつ2つの嵌合部を備える部分義歯では、上記のキーとロックの性格を持たせた形態にするのがよい。しかし、本発明の部分義歯の装着構造では、必ずしも2つのインプラントの人工歯を含む必要はない。1本の鉤歯が、インプラントの人工歯であればよい。
本実施の形態では、鉤歯31,32が、インプラントに固定された人工歯である点に、特徴の1つがある。また、このあと説明するように、鉤歯31,32が、3番位置であることも、他の特徴と合わせて、独自の作用を奏する点で、特徴の1つを構成する。この2つの特徴が奏する作用効果について説明する。まず、上記2つの特徴が大きな作用効果を奏するための前提条件について説明する。
(1)高齢者は、すべての歯をインプラントで形成することができない。図26に示すインプラントの場合も、顎骨の状態が、すべての位置のフィクスチャの埋め込みを許さない場合が多い。これは、年齢が増えるにつれて、自然に、顎骨が弱くなることによるものであり、頑健であるとないとを問わず、起こることである。また、インプラントによって図26に示す構成の義歯を作製した場合、フィクスチャが埋め込まれる部位の顎骨は、大きな荷重を受ける。ときに、フィクスチャが傾くようなモーメントが作用する場合、骨への負担は大きい。このため、高齢者にインプラントを用いることが不適切な場合が多く生じる。
(2)上記のような顎骨の状態になっても、左右の3番については、上顎および下顎ともに、フィクスチャを埋め込むことが可能なほど丈夫である場合が多い。これは、動物の範疇に属するヒトがもつ特質である。
(3)インプラントによる図26に示すような人工歯の作製が不可能な場合、総義歯が考えられる。しかし、総義歯は装着状態が不安定であり、傾いたり、離脱する事態が発生しやすい。このため、総義歯は、義歯安定剤の使用をすることが多い。総義歯にとって、義歯安定剤の使用は一般的な傾向である。
上記の条件下で、上記2つの特徴を備える部分義歯の装着構造は、つぎの作用効果を奏する。
(E1)高齢者で残存歯が皆無となった場合、インプラントで左右3番にフィクスチャを埋め込み、インプラントによって人工歯を設ける。その人工歯には、アームの嵌合にために、嵌合部に後退壁を形成する。後退壁には、根元に向かうほど後退する長さを大きくする勾配を付ける。これによって、義歯安定剤等を用いることなく、強固な維持力を得ることができ、快適で、審美性に富んだ部分義歯を用いることができる。
(E2)この部分義歯の装着構造における部分義歯は、短い長さのアームによって、鉤歯に嵌合して高い維持力を得ることができる。このため、装着しているのを忘れるほど違和感がなく、快適な部分義歯である。上述のように、義歯床は人工歯側を10mm程度残して大部分の口蓋部分を除去するので、味覚への悪影響はない。この部分義歯は、インプラントの(顎骨固定部/上部構造)による固定に比べて、顎骨への負担が小さい。
上記(E1)および(E2)より、本実施の形態における部分義歯の装着構造は、残存歯のない高齢者が、食物を咬合できる歯を得るための決定版となる可能性がある。
上記の部分義歯の装着構造50は、図11に示す手順で製造することができる。
(M1)顎骨固定部およびその顎骨固定部に固定された人工歯を含むインプラントを形成する。このインプラントを形成する工程において、インプラントの人工歯に、アームの嵌合のために、溝状壁または後退壁を形成する。これら溝状壁または後退壁に上記の勾配を付けることができる。
(M2)インプラントの人工歯に嵌め合わせる嵌合部をもつ部分義歯を形成する。この部分義歯の形成工程では、嵌合部は、弧状をなして人工歯の側面部に宛がわれる、1つまたは2つのアームを有するようにする。そして、溝状壁または後退壁が形成された場合、さらにこれら壁に上記勾配が付された場合、その壁面に適合するように、アームを形成する。
なお、上記の鉤歯31の嵌合部には、上記の勾配を付した後退壁に代えて、図12の変形例に示すように、上部に段差31gの付いた溝状壁31wであってもよい。鉤歯の頂部に対する力がアーム11にかかっても、段差31gが障害になって、アーム11の頂部側への抜けが防止できるからである。ただし、この場合、段差39gは、鉤歯31の周囲に長く設けず、局所的に設けるのがよい。鉤歯31の周面に局所的に位置する段差31gは、局所的であっても、アーム11の離脱防止の作用を得ることができる。そして、あまり段差31gを周面に長く設けると、部分義歯の離脱が容易でなくなる。
(実施の形態2−残存歯クラウンとの部分義歯の装着構造の形成−))
図13は、本発明の実施の形態2における部分義歯の装着構造50を示す図である。鉤歯61,62が、クラウンで被覆された残存歯である点が相違するが、その他の箇所は、図1に示す部分義歯10およびその装着構造50と同じである。図14は、鉤歯61のクラウンを示す図である。また、図15は、クラウンの嵌合部の断面を示す。ここで、鉤歯と、残存歯を被覆するクラウンとを区別しないで、同じ符号61で表示する。
クラウン61に対しても、インプラントの人工歯31と同様に、後退壁61wを設け、その後退壁61wに、根元に向かうほど後退代が増大するような勾配を付ける。そして、後退壁61wの根元にステップ部61sが連続し、張出し部61dへと連なる形状とする。クラウン1の内側は、被覆される残存歯が入るように、空洞61hとなっている。図15には、アーム11が嵌合された状態を示している。図5と同様に、後退壁61wが、アーム11がクラウン61の頂部側に抜けるのを防止する機構が確認される。
上記の部分義歯の装着構造50は、図16に示す手順で製造することができる。
(N1)残存歯を被覆するクラウンを形成する。このクラウン形成工程において、そのクラウンに、アームの嵌合のために、溝状壁面または後退壁面を形成する。上述の勾配を壁に付すことができる。
(N2)残存歯にクラウンを固定した状態で、そのクラウンに嵌め合わせる嵌合部をもつ部分義歯を形成する。アームは、上記の壁に適合する形状にする。
(実施の形態3−分離した2つのアームをもつ嵌合部−)
図17は、本発明の実施の形態3の部分義歯の装着構造における部分義歯10を示す図である。鉤歯については、図1または図13の部分義歯の装着構造50と、実質的に同じある。また、部分義歯10に設けられた嵌合部のアーム11,12等の符号についても、共通して用いる。アームが嵌合する鉤歯については、下顎左右3番をインプラントの人工歯を、鉤歯31,32としている。鉤歯にアームが嵌合する部分に、根元に向かうほど後退する勾配が付いた後退壁や、ステップ部や、張出し部等が形成されている点などでも共通する。本実施の形態の鉤歯については、このあと、鉤歯31については図19に、また鉤歯32については図21において詳しく説明する。
図17に示すように、本実施の形態の部分義歯10では、左側の嵌合部のアーム12が、2つに分離している点に特徴をもつ。また、右側の嵌合部のアーム11は、幅広の部分をもち、全体的に弧長が短い点にも特徴をもつ。その他の点では、実施の形態1、2と同じである。図18は、右側の嵌合部のアーム11を示す図である。アーム12は、義歯床23に固定部11kを埋め込み、固定部11kが弧状部分に連続する付近で、アーム11の幅が幅広くなっている。従来、このような幅広の接触面11fでは、豊隆部にかかると、接触面11fの幅全体が豊隆部にそって接触することができず、浮く部分を生じていた。しかし、図19(a)に示すように、インプラント人工歯の鉤歯の嵌合部に後退壁を設けている。このため、図19(b)に示すように、この後退壁31wに、接触面11fの幅広部分全体を当接させることができる。このため、鉤歯の歯周に沿って長くアーム11を沿わせることなく、局所的に幅広面11fを当接させることで、高い維持力をもつ嵌合を実現することができる。また、他の部分の嵌合部と協働して、水平の回転等に抗する把持力を得ることができる。
図20は、左側の嵌合部のアーム12を示す図である。分離した2つのアーム12は、長短の差はあるが、ともにその弧長に比して幅広といってよい。この幅広の部分を上述の勾配が付いた後退壁に当接させることで、強固な維持力、および把持力を得ることができる。図21は、分離した2つのアーム12が、根元側に向かうほど後退代が大きくなる勾配が付いた後退壁32wに当接して嵌合した状態を示す図である。1つの鉤歯を舌側から見て、右側斜正面と、左側斜正面との両方に、上記の後退壁32wが形成されている。本実施の形態における嵌合部のアームは、左右側の嵌合部ともに、平面的に見て弧状であるが、接触面11f,12fを見ると、幅広部分をもつので、局所的に板状といってもよい性格を帯びている。これらアーム11,12は、鉤歯に設けられた後退壁31w,32wに、局所的に宛がわれることで十分な維持力を得ることができる。また、十分大きい把持力にも寄与する。
上記のアーム11,12は、本来、C字状に近く、旧来の枷(かせ)のようなクラスプの強い被拘束感から解放することを目的としていた。しかし、本発明の実施の形態においては、そのC字状のアームよりも、さらに進化して、鉤歯の斜正面に局所的に宛がうことで維持力を十分確保することができるようになった。本実施の形態におけるアーム11,12は、鉤歯31,32の歯周に沿って長く延びていない。このため、「嵌合」という語でもよいが、「宛がい」、「当接」という語のほうが、本実施の形態のアームの装着の状態を、より適切に表現しているようにおもえる。これによって、当然のことながら、維持力を確保した上での装着感の向上、審美性の改善などを得ることができる。
(実施の形態4−後退壁のないインプラント人工歯、クラウン被覆残存歯の鉤歯−)
本発明の実施の形態4の部分義歯の装着構造では、鉤歯に左右3番のインプラント人工歯またはクラウン残存歯を用いるが、その鉤歯に後退壁がない。すなわち、図1または図13に示す装着構造において、鉤歯に後退壁または溝状壁がない。これは、図6および図7に示す、後退壁や溝状壁がない鉤歯31を用いることと同じである。装着構造等は、図1または図13と大差ないので省略する。
このような部分義歯の装着構造では、十分な維持力を確保するため、アームの弧の長さを長くする。図22(a)は、図3(a)の右側の嵌合部のアーム11に、また、図22(b)は、図10(a)の左側のアーム12に対応するものである。破線部分を後退壁がある鉤歯を用いる場合のアーム11とすると、実線の部分だけ、弧長を延ばしたアームを用いる。言うまでもないが、利用者の口腔状態によって、アームの形状は変わるので、図22は、作用効果を説明するための模式図と解釈されるべきである。上記のことから、十分な維持力を確保しながら、装着感および審美性ともに所定レベル以上のものを得ることができる。
(本発明の部分義歯の装着構造のまとめ)
(S1)鉤歯について:
(1)鉤歯は、インプラントの人工歯、またはクラウン被覆残存歯とする。
(2)鉤歯には、後退壁または溝状壁を設けることが望ましい。しかし、後退壁を設けなくてもよい。
(3)残存歯がまったくない場合、インプラントの人工歯を左右の3番位置に形成して鉤歯とすると、使用感および審美性に優れた”歯”を得ることができる。この”歯”は、部分義歯であるが、総入れ歯、および総インプラント人工歯に代替しうる。そして、総インプラント人工歯に比べて、顎骨の高耐久部の使用による実現性の拡大、費用の大幅削減を得ることができる。また、総入れ歯の不安定感はなく、また義歯安定剤は不要であり、このためメンテナンスを不要化することができる。また、義歯床を大きく除去できるので、味覚、温覚、触覚を普通に楽しむことができ、舌感も良好となる。
(4)レスト窩は不要である(生活歯にとって歯牙削除という犠牲が不要となる)。
(5)鉤歯での歯面との適合が得やすい。
(6)部分義歯の静止時に鉤歯への拘束力などがない。
(7)咬合時に部分義歯が動いても、アームによる拘束がない方向に動くので、鉤歯にかかる負荷を避けることができる。
(8)部分義歯の着脱時に鉤歯に側方(歯軸交差方向)の力が加わりにくい。
(S2)アームについて(旧来タイプとの比較):
(1)短く、薄く、簡単な形態である。
(2)唇側(頬側)部が短いか、または表面(唇側)に出ないので審美的である。
(3)破折しにくい。
(4)長期間の使用でも変形を生じない。
(5)アームの基本的な形態は、鉤歯に設ける後退壁の形状、使用者の状態によっては、進化する形で変えることができる。すなわち、鉤歯に設ける後退壁に宛がうアームを、局所的に板状のものとしてもよい。これは、鉤歯の歯周に沿う弧状のアームという概念から脱却するものである。さらに状況に応じて、分離した2つのアームの形態をとることができる。
(6)材料の使用量が少なく低コスト化につながる(とくにPtやAuを使用する場合に効果的である)。
(S3)部分義歯全体について:
装着時の異物感、違和感がないことに加えて次の作用がある。
(1)アームが唇面にほとんど出ないので、審美性を確保できる。
(2)唇面(頬面)のアームに対して義歯床のレジンの延長上に、白色のレジンを接合させることにより、金属色を容易に隠すことができる。
(3)従来の部分義歯より維持安定性に優れる。
(4)従来の部分義歯より咀嚼能力に優れる。
(5)使用者にとって着脱が容易である。それでいて脱落しにくい。
(6)部分義歯の設計が簡単化される。とくに多数の維持装置を使う必要がない。
(7)アームの形状が簡単なので、清潔を保ちやすい。
(8)部分義歯の設計において、アームの嵌合する箇所は近遠心のどちらでもよく、また舌側(後面)主体に嵌合してもよく、要は全体を考えて設計するのがよい(従来のタイプでは近遠心に応じて設計は相当変動する)。
(9)欠損部の大小は問わない。極端な場合、1本義歯(1本欠損)の場合または13歯欠損(インプラント人工歯が1本またはクラウン被覆残存歯が1本)の場合であっても、問題なく可能である。
(10)義歯床の面積を小さくしても義歯の保持力は十分確保できる。たとえば、上顎においてインプラント人工歯1本、または残存歯1本の場合でも口蓋におけるレジン床をくりぬいて床面積を小さくできる。義歯床に覆われない口蓋は、爽快感と、食事の際の本来の味覚を楽しめる。
(11)緩圧型の維持能力があり、歯牙負担がほとんどなく、歯根膜負担がゼロに近い。
(12)上記本発明のアームは粘膜への食い込みを生じさせることはなく、部分義歯を沈下させるような力が作用しない(従来の場合、部分義歯が食い込んでいることがよくある)。
(13)部分義歯の装着による重い感覚がなく軽やかである。
(14)本発明の上記アームによる1つの嵌合と、その形態を問わない第2の嵌合(もう一つの本発明に係るアーム、従来タイプのクラスプ、壁面など)があれば、部分義歯として成立し、維持力、安定性など優れた部分義歯を提供することができる。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
本発明の部分義歯の装着構造を用いることにより、使用感がよく、鉤歯への負担がほとんどなく、審美性に優れ、着脱が容易で、高度の安定装着状態を維持することができる部分義歯を提供することができ、この分野に大きく寄与することが期待される。
本発明の実施の形態1における部分義歯の装着構造を示す斜視図である。 図1の部分義歯を示す斜視図である。 図1の部分義歯の右側の嵌合部のアームを示す図であり、(a)は裏面側を、また(b)は接触面側を示す図である。 図1の部分義歯の装着構造の右側嵌合部の鉤歯(インプラントの人工歯)を示す図である。 図4のV−V線に沿う断面図である。 通常の3番のインプラント人工歯を示す図である。 図6のインプラント人工歯の断面図である。 図1の部分義歯の装着構造の左側嵌合部の鉤歯(インプラント人工歯)を示す図である。 図1の部分義歯の左側の嵌合部を示す図である。 図1の部分義歯の右側嵌合部のアームを示す図であり、(a)は裏面側を、また(b)は接触面を示す図である。 図1に示す部分義歯の装着構造を製造するフローチャートである。 本発明の実施の形態1の変形例における鉤歯の溝状壁を示す図である。 本発明の実施の形態2における部分義歯の装着構造を示す斜視図である。 図13の部分義歯の装着構造における右側嵌合部の鉤歯のクラウンを示す図である。 図14のクラウンの断面図である。 図13に示す部分義歯の装着構造を製造するフローチャートである。 本発明の実施の形態3における部分義歯を示す斜視図である。 図17の部分義歯における右側嵌合部のアームを示す図である。 図18のアームが嵌合する鉤歯(インプラント人工歯)を示す図であり、(a)は鉤歯そのものを、また(b)はその鉤歯にアームを宛がった状態を示す図である。 図17の部分義歯における左側嵌合部のアームを示す図である。 図20のアームが嵌合する鉤歯(インプラント人工歯)を示す図である。 本発明の実施の形態4の部分義歯の嵌合部のアームを示す図であり、(a)は右側嵌合部のアームを、また(b)は左側嵌合部のアームを示す図である。 従来の部分義歯のクラスプを維持歯に装着した状態を示す図であり、(a)は頬側から見た正面図であり、(b)は上面図である。 従来のクラスプについて改良した部分義歯のクラスプを維持歯に装着した状態を示す図であり、(a)は頬側から見た正面図であり、(b)は上面図である。 インプラントの顎骨にフィクスチャ等を埋め込んだ状態を示す断面図である。 インプラントによる人工歯(総人工歯)の構造を示す図である。
符号の説明
10 部分義歯、11 アーム(舌側から見て右側)、11b アーム裏面、11e エッジ、11f アーム接触面、11k 固定部、12 アーム(舌側から見て左側)、12b アーム裏面、12e エッジ、12f アーム接触面、12k 固定部、23 義歯床、30a インプラントのフィクスチャ、30f インプラントのフィクスチャ、31 インプラント人工歯(鉤歯)、31d 張出し部、31g 段差、31s ステップ部、31w 後退壁(溝状壁)、32 インプラント人工歯(鉤歯)、32d 張出し部、32g 段差、32s ステップ部、32w 後退壁(溝状壁)、35,36 インプラントのボールジョイント、41 顎堤粘膜、43 顎骨、50 部分義歯の装着構造、61 クラウン(鉤歯)、61d 張出し部、61h 空洞、61s ステップ部、61w クラウンの後退壁、C 歯軸線、M 石膏模型。

Claims (7)

  1. 複数の人工歯と、前記人工歯を保持する義歯床と、前記義歯床に固定され、鉤歯に嵌め合わされる嵌合部とを備える部分義歯の装着構造であって、
    前記嵌合部は、前記鉤歯の側面部に宛がわれるように嵌合する、1つまたは2つのアームを有し、
    前記アームは、平面的に見て前記鉤歯に対して凹の弧状をなし、高さ方向に幅をもつ接触面を有し、かつ接触面と反対側の面は丸みを帯びて外に凸であり、
    前記鉤歯は、クラウンによって被覆されている残存歯か、またはインプラントの顎骨固定部に固定された人工歯であることを特徴とする、部分義歯の装着構造。
  2. 前記鉤歯となる、前記残存歯のクラウンまたは顎骨固定部に固定された人工歯には、前記アームの嵌合のために、溝状壁または後退壁が形成されていることを特徴とする、請求項1に記載の部分義歯の装着構造。
  3. 前記鉤歯となる、前記残存歯のクラウンまたは顎骨固定部に固定された人工歯には、前記アームの嵌合する箇所に、前記鉤歯の頂部に向かうほど外側に張り出す勾配が付された壁が形成されていることを特徴とする、請求項1に記載の部分義歯の装着構造。
  4. 前記鉤歯となる、前記残存歯のクラウンまたは顎骨固定部に固定された人工歯には、前記アームが嵌合する箇所に、前記鉤歯の根元側ほど後退する勾配が付いた壁が形成され、その後退壁は前記根元において外に張り出すように位置する張出し部に連続していることを特徴とする、請求項1に記載の部分義歯の装着構造。
  5. 舌側から見て、前記鉤歯の中心の両側に位置する右斜正面および左斜正面の両方に、前記壁が形成されており、前記1つのアームの一方側および他方側によって前記両方の壁に宛がわれるように嵌合するか、または分離した2つのアームによって前記両方の壁に宛がわれるように嵌合していることを特徴とする、請求項2〜4のいずれか1つに記載の部分義歯の装着構造。
  6. 前記鉤歯がインプラントの人工歯であって、前記顎骨固定部が、右または左の3番位置の顎骨に埋設され、その右または左の3番の人工歯を鉤歯とすることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1つに記載の部分義歯の装着構造。
  7. 前記嵌合部を2つ備え、前記鉤歯がインプラントの2本の人工歯であって、前記顎骨固定部が、右および左の3番位置の顎骨に埋設され、それぞれの顎骨固定部に人工歯が固定され、前記2つの嵌合部は、右3番の人工歯および左3番の人工歯に嵌め合わされることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1つに記載の部分義歯の装着構造。
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