本発明は、ゼラチンおよびアラビアゴムを含む着色粒子の作製方法、および当該方法により作製された着色粒子に関する。また、本発明は、当該着色粒子にリガンドを結合させることによりリガンド結合着色粒子を作製する方法、および当該方法により作製されたリガンド結合着色粒子に関する。
免疫学的検査における凝集法は、抗原/抗体が固相された粒子と検体中の目的物質が反応することにより、粒子間で架橋反応が起こること(凝集)を観察する検査方法である。
このための粒子として、古くはヒツジやニワトリ等の動物赤血球を固定化したものを使用していた(OLYMPUS社 anti-PLTオリビオMPHAII、特殊免疫研究所 マイセルanti-HBc、富士レビオ社 セロディアHbs)。赤血球に含まれるヘモグロビンが固定されることにより、褐色を呈するので、特別に染色等の処理を行わなくても、目視が容易であった。しかし、動物由来の細胞であるので、Lot間の差、使用する動物の個体差、或いは、動物細胞を使用することに起因する非特異反応の発生が問題となる。
これらを解決するために人工粒子を使用した凝集試薬が市販され、たとえば、ポリスチレンやゼラチン粒子などの人工的に合成した高分子粒子が使用されている。ここで問題となるのは、凝集反応を視認性良く、観察するための粒子の染色である。ポリスチレン粒子を使用した着色粒子としては、Lab screen(one Lamda社)などが広く使用されている。ゼラチン粒子に関しては、Ortho社 HCV ab PA test II、富士レビオ社 セロディアHTLV1などが市販化されている。しかし、紫等極めて限られた色でしか実現していない。
一方、他の人工粒子として、生体由来のゼラチンと水溶性多糖類を用いた複合コアセルベートが使用されている。ゼラチンと水溶性多糖類であるアラビアゴムを使用する複合コアセルベートの歴史は古く、非特許文献1(HG Bundenberg de Jong. In Colloid Science 1949 Vol2, Amsterdam)によって紹介され、その後、数々の検討がなされている。特許文献1(特開昭59-35143)では有機溶媒非存在下でゼラチン、水溶性多糖及びメタリン酸イオンからコアセルベートを作成する方法を述べている。コアセルベート合成時に有機溶媒を使用する方法も、特許文献2(特開昭57-153658号)、特許文献3(特開昭58-113754号)に記載されている。また、特許文献4(特公平7-86508)は、ゼラチン、アラビアゴムとを親水性有機溶媒の存在下でコアセルベートを形成する方法を報告している。特許文献1および3は、ゼラチンと水溶性多糖類を含む粒子の染色に関して言及しており、「担体を着色する場合には、着色剤を粒子形成前に溶液に加えておくのがよいこと」を述べている。
HG Bundenberg de Jong. In Colloid Science 1949 Vol 2, Amsterdam
特開昭59−35143号公報
特開昭57−153658号公報
特開昭58−113754号公報
特公平7−86508号公報
本発明は、色落ちすることなく安定して染料を含むゼラチン/アラビアゴム着色粒子を作製することを目的とする。
本発明者が、特許文献1および3に記載される従来法に従って、ゼラチン/アラビアゴム粒子の形成前(すなわち粒子形成中)に染料を添加して着色粒子を作製してみたところ、粒子の成長が阻害され粒子自体が作製されないか、あるいは粒子が作製されたとしても、染色後の洗浄操作により染料の色が落ちてしまい、結果的に粒子は染色されないことが検討の結果分かった。一方、本発明者が、粒子形成後に染料を添加して粒子を染色してみたところ、粒子形成後であるにもかかわらず、染料は粒子に安定して組み込まれ、色落ちすることがないことを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は、一つの側面によれば、ゼラチンおよびアラビアゴムを含む着色粒子の作製方法であって、ゼラチン/アラビアゴムコアセルベート粒子を作製する工程、および得られた粒子の懸濁液に染料を添加し、着色粒子を作製する工程を含む方法、並びにこの方法により作製された着色粒子である。
別の側面によれば、本発明は、ゼラチンおよびアラビアゴムを含み、かつリガンドを担持した着色粒子の作製方法であって、前記方法で作製された着色粒子にリガンドを結合させる工程を含む方法、並びにこの方法により作製されたリガンド結合着色粒子である。
更に別の側面によれば、本発明は、リガンドとして抗原または抗体を用いた前記リガンド結合着色粒子を用いて凝集反応を行う工程、および凝集反応の有無を目視で判定する工程を含む免疫学的検査方法である。
本発明により、色落ちすることなく安定して染料を含むゼラチン/アラビアゴム着色粒子を作製することが可能である。また、この着色粒子を利用することで、免疫学的反応の結果を目視で容易に判定することが可能である。
以下、本発明について説明するが、以下の記載は、本発明を説明するためのものであって、本発明を限定するものではない。
1.ゼラチンおよびアラビアゴムを含む着色粒子
本発明において、ゼラチンおよびアラビアゴムを含む着色粒子は、
ゼラチン/アラビアゴムコアセルベート粒子を作製する工程;および
得られた粒子の懸濁液に染料を添加し、着色粒子を作製する工程
を含む方法により作製することができる。この着色粒子は、抗原または抗体を結合させることにより免疫学的検査で利用可能である。
本発明において「ゼラチン/アラビアゴムコアセルベート粒子」は、ゼラチンとアラビアゴムを含むコアセルベート粒子であり、ここで「含む」とは、ゼラチンおよびアラビアゴムを主成分として粒子が構成されているが、その他必要に応じて任意成分を含んでいてもよいことを意味する。任意成分としては、例えば、粒子に所望の性質を付与するために添加される物質、および粒子を形成する際に添加され粒子に混入する化学物質等が挙げられる。ここで「粒子に所望の性質を付与するために添加される物質」には、粒子内に封入される後述の芯物質が含まれる。
本発明の粒子の原料となるゼラチンは、当該技術分野でゼラチンアラビアゴムコアセルベートを調製する際に使用可能なものであればよく、主として、ウシ、ブタの骨や皮に含まれるコラーゲン質を分解生成したものを使用することができる。ゼラチンおよびアラビアゴムは、商業的に入手可能なものを使用することができる。
作製されるコアセルベート粒子の径(直径)は、コアセルベート形成終了時のpHおよびゼラチン/アラビアゴム比(G/A)により適宜調節することができるが、一般に免疫学的分析に使用する粒子を作製する場合には、コアセルベート径(直径)を例えば1〜10μmとすることができる。
「ゼラチン/アラビアゴムコアセルベート粒子を作製する工程」について、以下説明する。
まず、ゼラチンのゲル化温度以上(好ましくは35℃以上、例えば約40℃)において、0.01〜2重量%のゼラチン(G)と0.01〜2重量%のアラビアゴム(A)を、その重量比(G/A)を一般的には0.5〜1.5、好ましくは0.5〜1.2、より好ましくは0.5〜1.0になるように、29〜65重量%の水溶性有機溶媒中で混合する。ここで水溶性有機溶媒は、メタノール、エタノール、プロパノール、アセトン等が使用可能であるが、毒性等を考慮すればエタノールが望ましい。また、G/Aが上記範囲を超えるとコアセルベート径の調製が困難になる傾向があり、上記範囲を下回るとリガンドの結合量が減少する傾向がある。コアセルベートの調製液中には、当該分野で公知のとおり、コアセルベート粒子の凝集を防止するために、界面活性剤を添加しておくことが好ましい。界面活性剤の種類および添加量については、その効果を奏する範囲内において当業者であれば適宜設定することができる。
次いで、酸(例えば酢酸、プロピオン酸、希塩酸、希硫酸)の添加により、ゼラチンアラビアゴムコアセルベートを析出させる。ここで酸の添加量は、作製したいコアセルベート径に応じて適宜設定する。その後ゲル化温度以下(好ましくは35℃以下、例えば約10℃)に冷却し、グルタルアルデヒド、ホルマリン等のアルデヒドで架橋する。
また、コアセルベート粒子の作製にあたっては、芯物質を加えて、芯物質をコアセルベートで包んだいわゆるマイクロカプセルとすることもできる。所望の芯物質を用いることにより、コアセルベートの比重調整、コアセルベートの磁性化等を行うことが可能である。その際には適当な界面活性剤(例えばTween20、Tween80、Triton X-100など)を添加して、分散性を上げておくことが望ましい。芯物質としては、SiO2(ガラス)、TiO2、CuO、CoO、Fe2O3などの金属酸化物の微粉末、カーボン、タルクなど種々のものを利用することができる。磁性体を含有させたコアセルベート粒子は、適宜の磁気発生手段(永久磁石、電磁石等)により、液体中での攪拌、洗浄、測定等の各種処理工程を短時間で行うことができる。なお、当業者であれば、コアセルベート粒子を所望の性質とするために適切な芯物質の種類および芯物質の使用量について適宜選択することができる。
次いで、「作製されたゼラチン/アラビアゴムコアセルベート粒子を着色する工程」について説明する。
本発明において粒子の着色は、作製されたゼラチン/アラビアゴムコアセルベート粒子を、たとえば5〜30重量%の濃度で精製水に懸濁し、そこに染料を添加することにより行うことができる。すなわち、本発明において染料は、粒子作製中ではなく粒子作製後に添加される。
本発明で使用される「染料」は、ゼラチン/アラビアゴムコアセルベート粒子を染色可能なものであれば任意のものを使用することができ、好ましくは反応染料が使用され、より好ましくは反応性の高い反応染料が使用される。本発明において「反応染料」は、化学分野で一般に反応染料と規定される染料を指す。「反応染料」は、より具体的には、染色目的物質の−OH基と化学反応により結合する染料である。本発明では、「反応染料」として市販されている任意の染料を使用することができ、たとえば後述の実施例で使用される染料、Kayacion Red E8BN、Kayacion Turquoise ENA(日本化薬株式会社)などを使用することができる。
粒子の着色は、たとえば、20重量%のゼラチン/アラビアゴムコアセルベート粒子懸濁液を1L調製し、そこに反応染料を0.05〜0.5重量%の量で添加することにより行うことができる。後述の例3に示されるとおり、染料の濃度が増すと、着色粒子の視認性は増大するが、リガンドの結合量が低下する傾向が見られるため、着色粒子の視認性とリガンド結合量の両方の観点から、染料濃度は、20重量%の粒子懸濁液1Lに対し、好ましくは0.05〜0.5重量%であり、より好ましくは0.1〜0.3重量%、更に好ましくは0.1〜0.2重量%である。染料濃度を、粒子1グラムあたりの染料の添加量(g)に換算すると、粒子1gあたり、好ましくは0.0025〜0.025gであり、より好ましくは0.005〜0.015g、更に好ましくは0.005〜0.01gである。
染料を添加された粒子懸濁液は、一般的には室温〜100℃で1〜10時間、たとえば40℃で6時間、撹拌しながら染色反応を行う。
染色反応後、好ましくは、粒子に加熱処理を行う。加熱処理は、粒子懸濁液をオートクレーブで100〜130℃で10〜30分、たとえば120℃で15分、処理してもよいし、粒子懸濁液を60〜180分、煮沸処理してもよい。後述の例2に示されるとおり、粒子に加熱処理を行うことにより、粒子染色後の洗浄による色落ちを低減することができ、安定した染色が可能である。
後述の例1で実証されるとおり、本発明に従って粒子作製後に染料を添加して着色粒子を作製することにより、色落ちすることなく安定して染料を含むゼラチン/アラビアゴム着色粒子を作製することが可能である。
2.リガンド結合着色粒子
本発明では、上述の方法に従って作製された着色粒子にリガンドを結合させることにより、リガンド結合着色粒子を作製することができる。
着色粒子に結合させる「リガンド」は、本発明の着色粒子を用いて行われる分析反応に関与するものであり、免疫学的な分析、生化学的な分析、遺伝学的な分析等、任意の分析反応に関与するものであり得る。リガンドとして、例えば、抗原、抗体、酵素、ホルモン、細胞、核酸等が挙げられるが、これに限定されない。
なお、本発明において、リガンドの着色粒子への結合は、当該技術分野で公知の方法、たとえば、N−ヒドロキシスクシンイミド法、染色法、タンニン酸法、グルタルアルデヒド法等により行うことができるが、リガンド結合効率の観点から、好ましくはN−ヒドロキシスクシンイミド法により行うことができる。N−ヒドロキスクシンイミド法は、着色粒子のカルボキシル基とリガンドのアミノ基との共有結合によるものであるため、リガンド自身が本来アミノ基を有しているものであることが望ましい。
以下、N−ヒドロキシスクシンイミド法について説明する。ここでは、リガンドとして抗体を用いた場合を例に説明する。
まず、N−ヒドロキシスクシンイミドとカルボジイミドを溶かした水溶液(PBS(Phosphate-buffered saline)やMES(2-Morpholinoethanesulfonic acid溶液))に、本発明の着色粒子を懸濁し、室温で2時間から一晩(例えば6〜12時間)反応させる。反応後、着色粒子を遠心洗浄し、目的とする抗体を適切なバッファー(例えばPBS、クエン酸リン酸バッファー、HEPESバッファー)に適切な濃度で溶解したものを加え、室温あるいは冷蔵(2〜8℃)で2時間から一晩反応させる。反応後、BSA(bovine serum albumin)やゼラチン、動物血清などで、未反応の官能基をブロックし(ブロッキング)、所望の免疫学的反応に供される抗体を担持した抗体結合着色粒子が作製される。作製された抗体結合着色粒子は、そのまま目的とする免疫学的反応用の溶液に置換して目的の反応に利用してもよいし、バイアル瓶等に分注して凍結乾燥し、長期保存をすることも可能である。
N−ヒドロキシスクシンイミド法は、着色粒子のカルボキシル基とリガンドのアミノ基を結合させる方法であるが、当該方法において公知のとおり、着色粒子のカルボキシル基を活性化させる物質として、N−ヒドロキシスクシンイミド以外に、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール、3−ヒドロキシ−4−オキソ−3,4−ジヒドロ−1,2,3−ベンゾトリアジンを含むN−ヒドロキシ化合物を使用することができる。また、当該方法において公知のとおり、リガンドの着色粒子への結合反応時に脱水剤として機能するカルボジイミドとして、EDAC;1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド、DIPC;ジイソプロピルカルボジイミド等を使用することができる。なお、後述の実施例では、活性化剤としてN−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)を、脱水剤としてEDACを使用した。
3.免疫学的検査方法
上記方法に従って作製されたリガンド結合着色粒子は、リガンドの種類に応じて種々の分析反応に使用することができる。たとえば、抗原または抗体を結合させた本発明の着色粒子は、免疫学的反応、とりわけMPHA法(Mix Passive Hemagglutination Assay:混合受身血球凝集アッセイ)または受身凝集反応に使用することができる。
たとえば、抗原を結合させた本発明の着色粒子を検体溶液と反応させ、凝集反応の有無を目視で判定することにより、検体溶液中に当該抗原に対する抗体が存在するか否かを検査することができる。
また、後述の例4〜6に記載されるとおり、抗ヒトIgGを結合させた本発明の着色粒子と、検出したい抗体と反応する抗原を固相した基板と、ヒト検体溶液を用いてMPHA法(Mix Passive Hemagglutination Assay)または受身凝集反応(Shibata Y. VoxSang 1981, 41, 25-31)を行うことで、検体溶液中に当該抗原に対する抗体が存在するか否かを検査することができる。すなわち、「検出したい抗体と反応する抗原を固相した基板」と、「検体溶液」と、「検体が由来する生物種に対する抗体を結合した本発明の着色粒子」とを反応させ、着色粒子の固相への付着(結合)の有無を目視で判定することにより、検体溶液中に目的の抗体が存在するか否か検査を行うことができる。ここで本発明の抗体結合着色粒子は、被検生物種に対する抗体を結合しており、抗原と抗体(検出対象の抗体)の複合体を結合し、視覚化する機能を有する。かかる免疫学的反応において本発明のリガンド結合着色粒子は、好ましくは0.1〜0.6 v/v%の粒子浮遊液の状態で使用され得る。
このように本発明のリガンド結合着色粒子は、着色されているため、凝集反応を目視により観察することが可能である。
以上述べたとおり、本発明の方法により、色落ちすることなく安定して染料を含むゼラチン/アラビアゴム着色粒子を作製することが可能になり、これを利用することで、免疫学的反応の結果を目視で判定することが可能である。
例1:着色粒子の作製
(1)コアセルベート作製工程
コアセルベートの主要構成材料のゼラチンS1757はニッピ工業、アラビアゴムは仙波糖化工業より入手した。エタノール、1N NaOH、1N酢酸、グルタルアルデヒド、Tween20は和光純薬製を使用した。コアセルベートは、撹拌機で600rpmで撹拌を行い、合成した。
4.2 gのアラビアゴムを40%EtOH水480 mlに溶かし、更に10% Tween20 1.4 ml、フェリコロイドW10(タイホー工業)0.7 mlを添加し、1N NaOHでpHを10以上にした後、40℃に加温した4%ゼラチン水溶液(ニッピ工業)70mlを混合した。撹拌しながら、0.2N酢酸をゆっくり添加し、コアセルベートを作製した。予め求めたpHにおいて酢酸添加を中止して、7μm径の磁性体粒子を作製した。コアセルベートが形成されたら、氷水の入ったバットにて撹拌して10℃以下に冷却し、ゲル化した。その後、グルタルアルデヒドを14ml加え、そのまま30分間撹拌した後、室温で一晩静置して、コアセルベート(磁性体粒子)を架橋した。
(2)染色工程
コアセルベート作製中またはコアセルベート作製後の何れかの時期に染料を添加して粒子を染色した。以下、コアセルベート作製中の染色(比較例)を、「先染色」ともいい、コアセルベート作成後の染色(本発明の例)を「後染色」ともいう。
コアセルベート作製中の染色に関しては、上記工程のアラビアゴムとゼラチン混合物に酢酸を添加する前に、表1に記載の染料を、記載される添加量で添加し、酢酸を添加してコアセルベートを形成することにより行った。表1において添加量は、アラビアゴム0.6 g、ゼラチン0.4 gあたりの量を示す。ここで添加量0.2 g(コアセルベート調製液中、約0.3重量%)は、通常の染色剤の使用量である。
コアセルベート作製後の染色に関しては、作製されたコアセルベートを20重量%の濃度の懸濁液100 mlに調整し、その懸濁液に0.5重量%(コアセルベート粒子1gあたり0.025g)の染料を添加し、40℃で6時間撹拌することにより染色を行った。使用した染料は表2に示す。
(3)洗浄工程
染色された粒子を精製水で3回水洗した。水洗後、粒子を10%浮遊濃度に調整し、120℃で15分、オートクレーブで加熱処理し、冷却後、洗浄して余分な染料を除去した。
得られた粒子の染色結果を以下の表1〜2および図1に示す。表1には、「先染色」の例(比較例)の結果を示し、表2には、「後染色」の例(本発明の例)の結果を示す。図1は、「後染色」の結果を示し、上段は、左端から順に、Kayacion Red E8BN (0.5重量%);Orange E2G (0.5重量%);Scarlet E2G (0.5重量%);Green ES4BD (0.5重量%);Black PGS (0.5重量%);Blue AB (0.5重量%);Navy PN2R (0.5重量%);Navy ESNR (0.5重量%)の染料の場合を示し、下段は、左から6番目のウェルから順にBlue ESE (0.5重量%);Navy PN2R (0.5重量%);Turquoise ENA (0.5重量%)の染料の場合を示す。
表1に示されるとおり、「先染色」の例では、0.2 g(通常量)の染料の添加により、粒子そのものが合成されなかった。これは、染料の塩類が入ることにより、ゼラチンとアラビアゴムの電気的な結合が阻害されたためと推測される。染料の添加量を0.05 gに減らすことにより粒子の合成は可能になったが、染色された粒子を水洗する際に染色粒子から色が抜け、最終的に染色された粒子は得られなかった。
表2に示されるとおり、「後染色」により、色落ちしない染色粒子の作製が可能になった。ゼラチン/アラビアゴムコアセルベート粒子の染色には、反応染料が好ましく、特に、染色性分類のなかで反応性の高いものが好ましいことが分かった。一方、一般の蛋白染色剤や、ゼラチンを染色するのに好ましいとされている酸性染料は、ゼラチン/アラビアゴムコアセルベート粒子の染色に適さないことが分かった。
これら結果より、以下の実施例ではすべて「後染色」した着色粒子を利用した。また、以下の実施例において染料の添加量(%)は、重量%を表す。
例2:洗浄工程における加熱処理効果
本実施例では、例1の(3)洗浄工程について、「遠心洗浄」を行った場合と「加熱処理による洗浄」を行った場合を比較した。染料としては、Kayacion Red E8BNを、20重量%コアセルベート粒子の懸濁液1Lに対し1.5%の濃度で使用した。
「遠心洗浄」は、「後染色」された粒子を精製水で3回水洗し、その後、粒子を10%浮遊濃度に調整し、遠心分離(1700×gで5分)した。その後、洗浄して余分な染料を除去した。
「加熱処理による洗浄」は、「後染色」された粒子を精製水で3回水洗し、その後、粒子を10%浮遊濃度に調整し、120℃で15分、オートクレーブで加熱処理し、冷却した。その後、洗浄して余分な染料を除去した。
「遠心洗浄」の場合、粒子を10回洗浄しても、上清は透明にならず、粒子からの色落ちがみられた。一方、「加熱処理による洗浄」を行った場合、加熱処理後、3回洗浄すると上清は透明になり、色落ちがみられなくなった。
例3:着色粒子への抗体の感作
本実施例では、例1に記載の方法に従って作製された着色粒子に、N−ヒドロキシスクシンイミド法(EDAC/NHS法)で抗体を結合させ、抗体結合量を2次標識抗体で測定した。染料としては、Kayacion Red E8BN、Turquoise ENA、Scarlet E2Gを、それぞれ0%、0.025%、0.05%、0.1%、0.2%の濃度で使用した。ここで染料濃度は、20重量%コアセルベート粒子の懸濁液1Lに対する濃度を示す。
以下、実験の詳細を記す。
例1に記載の方法に従って作製された着色粒子(洗浄済み粒子)を、20%(V/V)に調整し、純水で遠心洗浄し、NHS(ナカライテスク(株))およびEDAC(Sigma Chemical)をそれぞれ0.01 g/mlの濃度になるように加えて、室温で2時間撹拌し、反応させた。その後、純水で3回洗浄してNHS処理磁性体粒子とした。前処理した磁性体粒子に、ウサギ抗ヒトIgG抗体(Jackson)を0.01M AcOH-AcONa pH5.0で10μg/mLに希釈したものを粒子濃度10%になるように添加して、室温でOverNight撹拌して感作を行った。その後、感作粒子を0.2%BSA/PBS pH7.2で1回洗浄して、同バッファーに1時間浮遊させて時々撹拌してブロッキングを行った。後、0.2%BSA/PBS pH7.2で2回洗浄して、10%濃度になるように浮遊して感作磁性体粒子を得た。結合したIgGを測定するためにこの粒子の一定量を分取して、抗ヒトIgG-POD標識抗体(フナコシ)を2000倍で反応させた後、洗浄して、POD基質液で発色させた。
その結果を図2に示す。
染料の濃度が増すと、着色粒子の視認性は増大するが、抗体結合量は低下する傾向が見られた。着色粒子の視認性と抗体結合量の両方の観点から、染料濃度は、好ましくは0.05〜0.5重量%であり、より好ましくは0.1〜0.3重量%、更に好ましくは0.1〜0.2重量%であると考えられた。ここで染料濃度は、20重量%コアセルベート粒子の懸濁液1Lに対する濃度を示すため、粒子1グラムあたりの染料の添加量(g)に換算すると、好ましくは0.0025〜0.025gであり、より好ましくは0.005〜0.015g、更に好ましくは0.005〜0.01gである。
例4:血小板抗体の検出例
本実施例では、例1に記載の方法に従って作製された着色粒子に抗ヒトIgGを感作し、血小板抽出抗原を固相したプレートを用いて、検体中の血小板抗体を検出した。
染料としては、Kayacion Orange E2G、Scarlet E2G、Green ES4BD、Turquoise ENA、Red E8BNを、0.2重量%の濃度で使用した。染料濃度は、20重量%コアセルベート粒子の懸濁液1Lに対する濃度を示す。
例1に記載の方法に従って作製された着色粒子に、抗ヒトIgG(Jackson)を例3に記載の手順に従って感作し、抗体感作粒子を得た。
血小板抽出抗原固相プレート(オリンパスanti-PLTオリビオMPHAII)に、検体希釈液(0.01M PBS)で希釈した血小板抗体陽性検体(オリンパス(株))の希釈系列を25μL分注して、37℃で30分間反応させた。その後、洗浄液で洗浄して、0.3重量%の上記抗体感作粒子の浮遊液を25μL/well分注し、磁石上で3分間静置した。
その結果を図3に示す。上から順に、Kayacion Orange E2G、Scarlet E2G、Green ES4BD、Turquoise ENA、Red E8BNの染料を使用した例を示す。いずれの例においても、左から順に、血小板抗体陽性検体(血小板抗体陽性血清)の希釈倍率×1,×2,×4,×8,×16,×32,×64を示し、一番右は、検体希釈液(25μL)のみを添加したコントロール(-)を示す。
これら結果は、本発明の抗体感作着色粒子を用いてMPHA法を行うことにより、粒子の結合の有無を目視で判定することができ、これにより検体中に血小板抗体が存在するか否かを検査可能であることを示す。
例5:血漿蛋白抗体の検出例
本実施例では、例1に記載の方法に従って作製された着色粒子に抗ヒトIgGを感作し、IgAを固相したプレートを用いて、検体中IgG型の抗血漿蛋白抗体(抗IgA抗体)を検出した。
染料としては、Kayacion Turquoise ENAを、0.2重量%の濃度で使用した。染料濃度は、20重量%コアセルベート粒子の懸濁液1Lに対する濃度を示す。
例1に記載の方法に従って作製された着色粒子に、抗ヒトIgG(Jackson)を例3に記載の手順に従って感作し、抗体感作粒子を得た。
IgA固相マイクロプレートは、以下のとおり作製した:IgA(フナコシ)をNunc Maxisorp Uプレートに50μL/well分注して、冷蔵オーバーナイトでインキュベート後、純水で3回洗浄し、その後、0.1%BSAでブロッキングした。
IgA固相マイクロプレートに、0.01M PBSで10倍から希釈した抗IgA血漿タンパク抗体検体(中央血液研究所分与)を50μL/well分注して37℃で30分間インキュベートした。その後、マイクロプレートウォッシャーAMW24(バイオテック)を用いて0.05% Tween20を含む生理食塩水で5回洗浄した。洗浄後、5%サッカロース溶液で復元した0.25%濃度の上記抗体感作粒子の浮遊液を25μL/well分注し、磁石上で3分間パターン形成した。
その結果を図4に示す。図4において左の列は、上から順に上記検体の希釈倍率×200、×400、×800、×1600、×2500、×5000、×10000、×20000を示し、右の列は、上から順に陰性検体の例(8例)を示す。
これら結果は、本発明の抗体感作着色粒子を用いてMPHA法を行うことにより、粒子の結合の有無を目視で判定することができ、これにより検体中に抗IgA抗体が存在するか否かを検査可能であることを示す。
例6:顆粒球抗体の検出例
本実施例では、例1に記載の方法に従って作製された着色粒子に抗ヒトIgGを感作し、顆粒球を固相したプレートを用いて、検体中の顆粒球抗体を検出した。
染料としては、Kayacion Turquoise ENAを、0.2重量%の濃度で使用した。染料濃度は、20重量%コアセルベート粒子の懸濁液1Lに対する濃度を示す。
例1に記載の方法に従って作製された着色粒子に、抗ヒトIgG(Jackson)を例3に記載の手順に従って感作し、抗体感作粒子を得た。
顆粒球固相マイクロプレートは、以下のとおり作製した:WGA(小麦胚芽レクチン)を固相したマイクロプレートに顆粒球(自家調製)を10000cell/μL濃度で固相し、洗浄して顆粒球固相プレートとした。
顆粒球固相マイクロプレートに、0.01M PBSで10倍に希釈した検体を50μL/well分注して37℃で30分間インキュベートした。その後、マイクロプレートウォッシャーAMW24(バイオテック)を用いて0.05% Tween20を含む生理食塩水で5回洗浄した。洗浄後、5%サッカロース溶液で復元した0.25%濃度の上記抗体感作粒子の浮遊液を25μL/well分注し、磁石上で3分間パターン形成した。
検体として顆粒球抗体陽性検体(中央血液研究所分与)を使用した場合、陽性パターンを示し、HLA陽性検体(オリンパス(株))を使用した場合も、陽性パターンを示し、陰性検体(社内採血の血清)を使用した場合、陰性を呈した。
「後染色」された粒子の染色結果を示す写真。
染料の濃度と抗体結合量の関係を示すグラフ。
血小板抗体の検出結果を示す写真。
血漿蛋白抗体の検出結果を示す写真。