以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この発明を実施するための最良の形態(以下実施形態という)によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。
図1は、本実施形態に係るベルト式無段変速機を備えた車両の動力伝達部分における全体の構成を示す模式図である。図2は、本実施形態に係る内燃機関を示す断面図である。図1に示すように、車両100の動力伝達機構は、ベルト式無段変速機110と、内燃機関120と、トルクコンバータ140と、前後進切換機構150と、減速装置160と、差動装置170と、を備える。
図2に示すように、本実施形態に係る内燃機関120は、乗用車やトラック等の図1に示す車両100に搭載されて動力発生源となる。内燃機関120は、例えば、図2に示すように、円筒形状に形成されるシリンダ121の中心軸であるシリンダ軸線SL方向に往復運動するピストン122と、を備えるいわゆるレシプロ式の内燃機関である。
内燃機関120は、シリンダ121と、ピストン122と、燃料が燃焼する筒内燃焼空間123と、クランクシャフト124と、コネクティングロッド125と、吸気ポート126と、排気ポート127と、インジェクタ128と、点火プラグ129と、ECU(Electronic Control Unit)40と、を備える。
筒内燃焼空間123は、シリンダ121の内壁面とピストン122の端面と、シリンダ121に連結されるシリンダヘッドに形成される筒内天井部123aとによって囲まれる空間である。筒内燃焼空間123には、吸気ポート126と排気ポート127とが筒内天井部123aに開口として形成される。
吸気ポート126には、吸気通路130が連結される。吸気通路130は吸気ポート126とは反対側の端部が大気に開口する。これにより、吸気通路130と吸気ポート126とを介して、空気が筒内燃焼空間123に導かれる。
吸気通路130上には、空気の流れの上流側、つまり大気に開口する側の端部から順に、エアクリーナ131と、電子スロットル弁132と、エアフロセンサD01とが設けられる。エアクリーナ131は、大気から取り込んだ空気から塵を取り除く。電子スロットル弁132は、筒内燃焼空間123へ導く空気の量を調節する。エアフロセンサD01は、筒内燃焼空間123へ導かれる空気の量を検出する。
インジェクタ128は、例えば、吸気ポート126に燃料を噴射する噴射口が突出して設けられる。なお、インジェクタ128は、例えば、筒内燃焼空間123に燃料を噴射する噴射口が突出して設けられてもよい。インジェクタ128は、吸気通路130及び吸気ポート126を介して筒内燃焼空間123に供給される空気に対して燃料を噴射する。
点火プラグ129は、筒内燃焼空間123に、点火部が突出して設けられる。点火プラグ129は、筒内燃焼空間123内の燃料に対して点火する。これにより、ピストン122が、シリンダ121内でシリンダ軸線SL方向に移動する。
排気ポート127には、排気通路133が連結される。排気通路133は排気ポート127とは反対側の端部が大気に開口する。これにより、排気通路133と排気ポート127とを介して、筒内燃焼空間123内の排気ガスが筒内燃焼空間123から排出される。排気通路133上には、排気ガス浄化装置134が設けられる。これにより、排気ガスは大気に排出される前に、排気ガス浄化装置134によって浄化される。
コネクティングロッド125は、一方の端部がピストン122に連結され、他方の端部がクランクシャフト124に連結される。これにより、ピストン122の往復運動は、コネクティングロッド125を介してクランクシャフト124に回転運動として伝えられる。
ECU40は、内燃機関120や、図1に示すベルト式無段変速機110等を制御する。ECU40は、エアフロセンサD01や、その他の検出手段に電気的に接続されて、筒内燃焼空間123に導かれる空気の量や、その他の検出結果を取得する。なお、以下、筒内燃焼空間123に導かれる空気の量を吸入空気量という。
また、ECU40は、図2に示す電子スロットル弁132の開度を調節するアクチュエータ132aと、インジェクタ128と、点火プラグ129と、に電気的に接続されてこれらの動作を制御して内燃機関120の出力を制御する。
例えば、ECU40は、電子スロットル弁132の開度を開いて筒内燃焼空間123へ導く空気の量を増やし、エアフロセンサD01から取得した吸入空気量に基づいて、インジェクタ128から噴射する燃料量を現在噴射している量よりも増加させることにより、クランクシャフト124から取り出される回転のトルクを増加させる。
なお、本実施形態では、内燃機関120をレシプロ式の内燃機関として説明したが、内燃機関120はこれに限定されない。内燃機関120は、例えば、ロータリー式の内燃機関でもよい。また、内燃機関120は、燃焼形態も限定されず、例えば、ピストン122が2往復する間に、吸気行程、圧縮行程、膨張行程及び排気行程からなる一連の4行程を行う、いわゆる4ストロークエンジンでもよいし、ピストン122が1往復する間に一連の4行程を行う2ストロークエンジンでもよい。
次に、図1を用いて、車両100の全体の構成を説明する。トルクコンバータ140は、流体クラッチの一種であり、内燃機関120から取り出された回転を作動油を介して前後進切換機構150に伝える。また、トルクコンバータ140は内燃機関120から取り出されたトルクを増幅する。
前後進切換機構150は、トルクコンバータ140からの回転の回転方向を切り替えてベルト式無段変速機110へ前記回転を伝える。
ベルト式無段変速機110は、前後進切換機構150から入力される回転の回転速度を所望の回転速度に変更して出力する。なお、ベルト式無段変速機110の詳細な説明は後述する。
減速装置160は、ベルト式無段変速機110からの回転の回転速度を減速して差動装置170に前記回転を伝える。
差動装置170は、車両100が旋回する際に生じる旋回の中心側、つまり内側の車輪190と、外側の車輪190との回転速度の差を吸収する。
上記構成要素によって車両100の動力伝達機構は形成される。内燃機関120から取り出された回転は、クランクシャフト124を介してトルクコンバータ140に伝えられる。トルクコンバータ140によってトルクが増幅された回転は、ベルト式無段変速機110の入力軸としてのインプットシャフト141を介して前後進切換機構150に伝えられる。
前後進切換機構150によって回転方向が切り替えられた回転は、入力側のシャフトとしてのプライマリシャフト51を介してベルト式無段変速機110に伝えられる。ベルト式無段変速機110によって、回転速度を変更された回転は、減速装置160に伝えられる。
減速装置160によって減速された回転は、減速装置160のファイナルドライブピニオン161と、ファイナルドライブピニオン161に噛み合う差動装置170のリングギア171とを介して差動装置170に伝えられる。
差動装置170に伝えられた回転は、ドライブシャフト180に伝達される。差動装置170側とは反対側のドライブシャフト180には、車輪190が取り付けられる。ドライブシャフト180に伝えられた回転は車輪190に伝達される。これにより、車輪190は回転し、車輪190が路面に前記回転を伝達することにより車両100は走行する。
ベルト式無段変速機110は、プライマリプーリ50と、セカンダリプーリ60と、ベルト80とを含んで構成される。ベルト式無段変速機110は、プライマリプーリ50に回転が入力される。プライマリプーリ50に入力された回転は、セカンダリプーリ60に伝えられる。この時、前記回転は、その回転速度を調整される。
セカンダリプーリ60に伝えられた回転は、減速装置160に伝えられる。なお、入力軸であるプライマリシャフト51の回転速度を出力側のシャフトとしてのセカンダリシャフト61の回転速度で除算した値を変速比という。また、変速比を変更することを、以下、変速という。
図3は、本実施形態に係るプライマリプーリを示す断面図である。ベルト式無段変速機110は、プライマリプーリ50とセカンダリプーリ60とが、ほぼ同様に構成される。よって、本実施形態では、プライマリプーリ50を主に説明する。
プライマリプーリ50は、プライマリシャフト51と、プライマリ固定シーブ52と、プライマリ可動シーブ53と、プライマリプーリ油圧室54と、スプライン55と、プライマリ隔壁56とを備える。プライマリシャフト51は、図1及び図3に示すように、軸受81、軸受82によってインプットシャフト141の回転軸と同軸上に回転可能に支持される。ここで、セカンダリシャフト61は、図1に示すように、軸受83、軸受84によってプライマリシャフト51に対して平行に回転可能に支持される。
プライマリシャフト51は、筒状に形成される。図3に示すように、プライマリシャフト51は、回転軸RLを軸として回転する。プライマリ固定シーブ52は、通常は、プライマリシャフト51と一体に形成される。なお、プライマリ固定シーブ52は、プライマリシャフト51と別個に形成され、プライマリシャフト51に固定して設けられてもよい。このように構成されて、プライマリ固定シーブ52は、回転軸RLを軸にプライマリシャフト51と一体に回転する。ここで、回転軸RLと直交する方向を径方向という。プライマリ固定シーブ52は、プライマリシャフト51の外周から径方向に突出して形成される。
プライマリ可動シーブ53は、プライマリシャフト51とは別個に形成される。プライマリ可動シーブ53は、プライマリシャフト51が嵌め込まれる貫通孔を有して形成される。前記貫通孔の内周面には、スプライン55が形成される。プライマリ可動シーブ53は、スプライン55を介してプライマリシャフト51に嵌め込まれて取り付けられる。プライマリ可動シーブ53は、プライマリ固定シーブ52と対向してプライマリシャフト51に嵌め込まれる。
スプライン55は、プライマリ可動シーブ53がプライマリシャフト51上をプライマリシャフト51の回転軸RLに沿って摺動できるようにプライマリ可動シーブ53を支持する。加えて、スプライン55は、回転軸RLを軸とする回転をプライマリシャフト51からプライマリ可動シーブ53へ伝える。よって、プライマリ可動シーブ53は、スプライン55により、プライマリシャフト51上をスライドして移動すると共に、プライマリシャフト51と一体に回転する。
プライマリ固定シーブ52とプライマリ可動シーブ53との間には、略V字形状のプライマリ溝80aが形成される。また、プライマリ可動シーブ53がプライマリシャフト51上を摺動することにより、プライマリ固定シーブ52とプライマリ可動シーブ53との距離が変化する。ここで、セカンダリプーリ60にも、図1に示すように、プライマリ溝80aと同様のセカンダリ溝80bが形成される。
プライマリ溝80aとセカンダリ溝80bとの間には、金属製の無端ベルトであるベルト80が巻き掛けられている。ベルト80は、プライマリプーリ50の回転をセカンダリプーリ60へ伝える。
図3に示すように、プライマリプーリ油圧室54は、プライマリシャフト51と、プライマリ可動シーブ53と、プライマリ隔壁56とによって囲まれて形成される空間である。プライマリ隔壁56は、貫通孔を有して形成される。プライマリ隔壁56は、前記貫通孔にプライマリシャフト51が嵌め込まれてプライマリシャフト51に設けられる。プライマリ隔壁56は、プライマリ可動シーブ53を境にして、プライマリ固定シーブ52側とは反対側に設けられる。
プライマリプーリ油圧室54は、プライマリプーリ油圧室54に供給される作動油により、プライマリ可動シーブ53をプライマリ固定シーブ52側へ押す。これにより、プライマリシャフト51に沿って、プライマリ可動シーブ53がプライマリ固定シーブ52側へ押される。これにより、プライマリプーリ油圧室54は、プライマリ溝80aに巻き掛けられるベルト80に対して挟圧力を発生させる。
前記挟圧力により、プライマリ可動シーブ53とプライマリ固定シーブ52との距離が変化すると、セカンダリプーリ60が備えるセカンダリ固定シーブ62とセカンダリ可動シーブ63との距離もベルト80の張力を一定に保つように変化する。これにより、プライマリプーリ50に対するベルト80の接触半径と、セカンダリプーリ60に対するベルト80の接触半径とが変化する。このようにして、ベルト式無段変速機110は、内燃機関120から取り出された回転を変速する。
プライマリシャフト51は、第1油路OL01を有する。第1油路OL01は、一方の端部が作動油の供給元であるオイルタンクOTに接続され、他方の端部がプライマリプーリ油圧室54に開口する。これにより、第1油路OL01は、オイルタンクOTとプライマリプーリ油圧室54との間で作動油を流す。第1油路OL01は、プライマリシャフト51の回転軸RLに沿う方向に形成される複数の軸方向油路OL01aと、回転軸RLと直交する方向に形成される複数の径方向油路OL01bとを含んで形成される。
第1油路OL01の経路上には、オイルタンクOTからプライマリプーリ油圧室54に向かって順に、オイルポンプOPと、変速比制御側レギュレータORaと、作動油閉じ込み手段としての作動油閉じ込み装置10とが設けられる。オイルポンプOPは、オイルタンクOTからプライマリプーリ油圧室54に向けて作動油を送る。
ここで、オイルポンプOPは、クランクシャフト124から作動するための動力を得ている。よって、オイルポンプOPが消費する動力が増加すると、クランクシャフト124の有するエネルギーが消費される。このエネルギーの消費を補うために、内燃機関120は、燃料の噴射量が増加する。このように、オイルポンプOPが消費する動力が増加すると、内燃機関120の燃料の消費量が増加する。
本実施形態では、このオイルポンプOPが消費する動力の増加を抑制して、内燃機関120の燃料の消費量の増加を抑制することを目的とする。なお、内燃機関120の燃料の消費量の増加とは、燃費の悪化と同意である。つまり、ベルト式無段変速機110は、オイルポンプOPが消費する動力の増加を抑制することにより、燃費の悪化を抑制する。
変速比制御側レギュレータORaは、プライマリプーリ油圧室54へ供給する作動油の圧力を調節する。また、変速比制御側レギュレータORaは、ECU40と電気的に接続される。なお、変速比制御側レギュレータORaは、プライマリプーリ油圧室54から作動油を排出する際に、オイルタンクOTに作動油を戻す。
作動油閉じ込み装置10は、プライマリプーリ油圧室54からの作動油の排出を制御する装置である。作動油閉じ込み装置10は、所定の期間、プライマリプーリ油圧室54からの作動油の排出を禁止する。なお、プライマリプーリ油圧室54からの作動油の排出が禁止されている状態を閉じ込み状態という。また、プライマリプーリ油圧室54からの作動油の排出が許可されている状態を開放状態という。
図4は、プライマリプーリ油圧室が閉じ込み状態での作動油閉じ込み装置を拡大して示す断面図である。図5は、プライマリプーリ油圧室が開放状態での作動油閉じ込み装置を拡大して示す断面図である。以下に、作動油閉じ込み装置10の一例を説明する。
作動油閉じ込み装置10は、ピストン動作用油圧室11と、シール部12と、弁体13と、ピストン14と、スプリング15とを備える。ピストン動作用油圧室11は、ピストン動作用油圧室11内の作動油の圧力によって、ピストン14に対して押圧力を与える。シール部12は、第1油路OL01内にテーパ面12aを有して形成される。テーパ面12aは、プライマリプーリ油圧室54に近づくほど向かい合うテーパ面同士の距離が大きくなる。
シール部12は、開口12bを有する。この開口12bを介して作動油がシール部12を行き来する。弁体13は、球状に形成される。弁体13の直径は、開口12bの直径よりも大きい。弁体13は、シール部12のテーパ面12aとプライマリプーリ油圧室54側から接触する。これにより、弁体13は、開口12bをプライマリプーリ油圧室54側から塞ぐ。
ピストン14は、受圧面14aと、棒状部14bとを備える。受圧面14aは、ピストン動作用油圧室11内に配置される。棒状部14bは、第1油路OL01内に配置される。棒状部14bは、一方の端部が、受圧面14aと連結される。また、棒状部14bは、他方の端部が、開口12bを貫通して弁体13と接触する、または連結される。これにより、ピストン14がピストン動作用油圧室11内の作動油の圧力によって、弁体13に近づく方向へ移動すると、ピストン14は、弁体13をシール部12から離れる方向へ押す。
スプリング15は、ピストン14に対して弁体13から離れる方向の力を与える。なお、前記力は、ピストン14が、弁体13に近づく方向に動いた後に、その前の状態、つまり、図4に示す閉じ込み状態に戻るために必要な最低限の力である。
ピストン動作用油圧室11には、作動油が供給される。以下に、前記作動油の供給経路を説明する。図2に示すように、プライマリシャフト51には、第1油路OL01と別の第2油路OL02が形成される。第2油路OL02は、一方の端部が作動油の供給元であるオイルタンクOTに接続され、他方の端部がピストン動作用油圧室11に開口する。これにより、第2油路OL02は、オイルタンクOTとピストン動作用油圧室11との間で作動油を流す。第2油路OL02は、プライマリシャフト51の回転軸RLに沿う方向に形成される複数の軸方向油路OL02aと、回転軸RLと直交する方向に形成される複数の径方向油路OL02bとを含んで形成される。
第1油路OL01の経路上には、オイルタンクOTからプライマリプーリ油圧室54に向かって順に、オイルポンプOPと、閉じ込み制御側レギュレータORbと、作動油閉じ込み装置10とが設けられる。オイルポンプOPは、オイルタンクOTからピストン動作用油圧室11に向けて作動油を送る。
閉じ込み制御側レギュレータORbは、ピストン動作用油圧室11に供給する作動油の圧力を調節する。また、閉じ込み制御側レギュレータORbは、後述するECU40と電気的に接続される。なお、閉じ込み制御側レギュレータORbは、ピストン動作用油圧室11から作動油を排出する際に、オイルタンクOTに作動油を戻す。
ここで、図4に示すように、受圧面14aの作動油の圧力を受ける面積を受圧面積Apとする。また、シール部12の弁体13と接触する部分は円形であり、前記円形の面積をシール部面積Acvとする。また、ピストン動作用油圧室11内の作動油の圧力を油圧Pcvとし、プライマリプーリ油圧室54内の作動油の圧力を油圧Psとする。また、スプリング15が発生させる力をスプリング力Fspとする。以下に、プライマリプーリ油圧室54が閉じ込み状態での各油圧室内の油圧の関係と、プライマリプーリ油圧室54が開放状態での各油圧室内の油圧の関係とを説明する。
閉じ込み状態の場合、弁体13は、図4に示すように、シール部12と接触する。これにより、油圧Psの大きさに関係なく、プライマリプーリ油圧室54からの作動油の排出は、作動油閉じ込み装置10により禁止される。
プライマリプーリ油圧室54を開放状態にする場合、油圧Pcvと受圧面積Apとの積が油圧Psとシール部面積Acvとの積にスプリング力Fspを加えた値よりも大きくなるように、閉じ込み制御側レギュレータORbによって油圧Pcvが調節される。これにより、弁体13は、図4に示すように、ピストン14によってシール部12から離れる方向に移動する。弁体13がシール部12から離れると、プライマリプーリ油圧室54内の作動油は、開口12bを介してプライマリプーリ油圧室54内から排出される。
なお、プライマリプーリ油圧室54が開放状態の場合、作動油は、プライマリプーリ油圧室54内に向かって弁体13とシール部12のテーパ面12aとの間の隙間を流れる。この作動油の流れにより、弁体13がシール部12から離れれば、ピストン14が弁体13から離れても、プライマリプーリ油圧室54の開放状態は保たれる。つまり、ベルト式無段変速機110は、プライマリプーリ油圧室54を開放状態に保つのに油圧Pcvを必要としない。
また、ベルト式無段変速機110は、プライマリプーリ油圧室54を閉じ込み状態にする場合、油圧Pcvと受圧面積Apとの積が、油圧Psとシール部面積Acvとの積にスプリング力Fspを加えた値以下になるように、閉じ込み制御側レギュレータORbによって油圧Psを調節される。
ここで、弁体13は、シール部12の開口12bに嵌り込んでいる。よって、ベルト式無段変速機110は、プライマリプーリ油圧室54を開放状態に保つのに油圧Pcvを必要としない。つまり、ベルト式無段変速機110は、プライマリプーリ油圧室54を閉じ込み状態から開放状態へ切り替える際、及びプライマリプーリ油圧室54を開放状態から閉じ込み状態に切り替える際に油圧を必要とする。
なお、作動油閉じ込み装置10は、上述の構成に限定されない。作動油閉じ込み装置10は、所定の期間、プライマリプーリ油圧室54からの作動油の排出を禁止できる構成であればよい。例えば、図3に示す作動油閉じ込み装置10は、プライマリ隔壁56に設けられているが、第1油路OL01の経路上であれば設置場所は限定されない。作動油閉じ込み装置10は、例えば、プライマリシャフト51に設けられてもよい。
ここで、作動油閉じ込み装置10を備えないベルト式無段変速機110の場合、ベルト式無段変速機110の変速比を一定に保つ際は、プライマリプーリ油圧室54内の作動油の圧力を一定に保つためにオイルポンプOPを作動させる。しかしながら、本実施形態の場合、閉じ込み状態の際は、オイルポンプOPを作動させることなく、プライマリプーリ油圧室54内の圧力が一定に保たれる。つまり、オイルポンプOPを作動させることなく、ベルト式無段変速機110の変速比が一定に保たれる。
これにより、閉じ込み状態の間、ベルト式無段変速機110は、オイルポンプOPが消費する動力が減少する。結果として、ベルト式無段変速機110は、内燃機関120の燃料の消費量の増加が抑制される。
しかしながら、プライマリプーリ油圧室54の閉じ込み状態の時間が長くなるほど、以下に記すおそれがある。ベルト式無段変速機110は、ベルト80とプライマリ可動シーブ53とが接触する。ここで、ベルト式無段変速機110の稼動時、ベルト80には、プライマリ可動シーブ53に対する相対的な移動、いわゆるすべりが生じる。
このすべりにより、プライマリ可動シーブ53とベルト80との間には、摩擦熱が生じる。この摩擦熱は、プライマリ可動シーブ53を介して、プライマリ可動シーブ53を含んで構成されるプライマリプーリ油圧室54内の作動油に伝えられる。
また、内燃機関120とベルト式無段変速機110とは、各々を構成する金属部材同士が連結されている。これにより、内燃機関120が発生する熱が、ベルト式無段変速機110に前記金属部材を介して伝えられる。この内燃機関120からベルト式無段変速機110に伝えられる熱も、プライマリシャフト51やプライマリ隔壁56、プライマリ可動シーブ53等を介して、プライマリプーリ油圧室54内の作動油に伝えられる。
このように、作動油は、前記摩擦熱や内燃機関120が発生させる熱を受ける。ここで、以下、前記摩擦熱や内燃機関120が発生させる熱等、作動油が受ける熱を単に熱という。
ここで、プライマリプーリ油圧室54が閉じ込み状態の場合、プライマリプーリ油圧室54内の作動油はプライマリプーリ油圧室54から排出されない。また、プライマリプーリ油圧室54が閉じ込み状態の場合、プライマリプーリ油圧室54内には、新しい作動油が供給されない。よって、プライマリプーリ油圧室54が閉じ込み状態の間、前記熱によって作動油の温度は上昇する。
ここで、作用油の温度が上昇すると、通常、作動油は膨張する。よって、プライマリプーリ油圧室54内の作動油も、前記熱によって温度が上昇すると膨張する。しかし、プライマリプーリ油圧室54は閉じ込み状態であるため、プライマリプーリ油圧室54内の作動油の温度が上昇するとプライマリプーリ油圧室54内の作動油の圧力が上昇する。
よって、プライマリプーリ油圧室54が閉じ込み状態中に作動油の温度が上昇すると、プライマリ可動シーブ53がプライマリ固定シーブ52に近づく方向へ移動する。つまり、プライマリプーリ油圧室54が閉じ込み状態中に作動油の温度が上昇すると、ベルト式無段変速機110の実際の変速比は、ベルト式無段変速機110が目標とする変速比からずれる。
なお、ベルト式無段変速機110の実際の変速比と、ベルト式無段変速機110が目標とする変速比との間に差が生じることを、ベルト式無段変速機110の実際の変速比が、ベルト式無段変速機110が目標とする変速比からずれるという。
なお、ベルト式無段変速機110が目標とする変速比とは、車両100の走行条件からECU40が算出した変速比である。ここでは、ベルト式無段変速機110が目標とする変速比は、内燃機関120の燃料の消費量を最小にすることを目的とした変速比であるとする。よって、実際の変速比が、ベルト式無段変速機110が目標とする変速比からずれると、内燃機関120の燃料の消費量が増大するおそれがある。
なお、場合によっては、ベルト式無段変速機110が目標とする変速比は、例えば、車両100を運転する運転者のドライバビリティを向上することを目的とした変速比である場合もある。この場合、実際の変速比が、ベルト式無段変速機110が目標とする変速比からずれると、車両100を運転する運転者のドライバビリティが低下するおそれがある。
ここで、プライマリプーリ油圧室54内の燃料の温度の上昇を抑制するには、プライマリプーリ油圧室54の閉じ込み状態の時間を低減し、プライマリプーリ油圧室54を開放状態にする時間を増加させればよい。しかしながら、プライマリプーリ油圧室54の閉じ込み状態と開放状態とを頻繁に切り替えると、以下に記すおそれがある。
プライマリプーリ油圧室54の閉じ込み状態と開放状態との切り替えが頻繁に発生すると、プライマリプーリ油圧室54の閉じ込み状態と開放状態との切り替えに必要な油圧の分、オイルポンプOPを動作させるために必要な動力が増加する。結果として、ベルト式無段変速機110は、内燃機関120の燃料の消費量が十分に抑制できないおそれがある。
また、プライマリプーリ油圧室54の閉じ込み状態と開放状態との切り替えが頻繁に発生すると、ピストン14の移動回数が増える。すると、棒状部14bと弁体13との衝突回数も増加し、弁体13が摩耗して変形するおそれがある。また、弁体13とシール部12との衝突により、弁体13とシール部12とが摩耗して弁体13とシール部12とが変形するおそれがある。
これにより、ベルト式無段変速機110は、弁体13とシール部12との間に予期しない隙間ができる。この隙間を作動油が流れて、ベルト式無段変速機110は、閉じ込み状態が正しく保たれない。
これによって、ベルト式無段変速機110は、実際の変速比とベルト式無段変速機110が目標とする変速比との差が増大し、オイルポンプOPを動作させるために必要な動力が増加する。結果として、ベルト式無段変速機110は、内燃機関120の燃料の消費量が十分に抑制できないおそれがある。
このように、作動油閉じ込み装置を備えるベルト式無段変速機110では、内燃機関120の燃料の消費量の増大を抑制するためには、プライマリプーリ油圧室54の閉じ込み状態と開放状態との切り替えの時期が重要な要素となる。よって、ベルト式無段変速機110は、プライマリプーリ油圧室54の閉じ込み状態と開放状態とを最適な時期に切り替えることにより、ベルト式無段変速機110の実際の変速比と、ベルト式無段変速機110が目標とする変速比との差を低減すると共に、内燃機関120の燃料の消費量の増大を抑制する。
ベルト式無段変速機110は以下に記す構成と制御手順とを備える。ベルト式無段変速機110は、図2に示すエアフロセンサD01と、図1に示す機関回転速度センサD02と、変速比センサD03と、ECU40に組み込まれて構成される変速機制御装置20とを備える。
エアフロセンサD01は、上述のように吸入空気量を検出する。エアフロセンサD01は、ECU40と電気的に接続される。これにより、ECU40は、エアフロセンサD01から吸入空気量を取得し、前記吸入空気量に基づいて内燃機関120から取り出されるトルクを算出する。なお、以下、内燃機関120から取り出されるトルクを機関トルクという。
機関回転速度センサD02は、内燃機関120のクランクシャフト124の回転速度を検出する。なお、以下、内燃機関120のクランクシャフト124の回転速度を内燃機関120の機関回転速度という。機関回転速度センサD02は、例えば、クランクシャフト124に設けられる。機関回転速度センサD02は、ECU40と電気的に接続される。これにより、ECU40は、機関回転速度センサD02から内燃機関120の現在の機関回転速度を取得する。
変速比センサD03は、入力側回転速度センサD03aと、出力側回転速度センサD03bとを含んで構成される。入力側回転速度センサD03aは、プライマリシャフト51に設けられて、プライマリシャフト51の回転速度を検出する。出力側回転速度センサD03bは、セカンダリシャフト61に設けられて、セカンダリシャフト61の回転速度を検出する。入力側回転速度センサD03a及び出力側回転速度センサD03bは、ECU40と電気的に接続される。これにより、ECU40は、変速比センサD03からベルト式無段変速機110の現在の変速比を取得する。
図6は、本実施形態に係る変速機制御装置の構成を示す概念図である。ECU40は、図1に示す内燃機関120、図3に示す変速比制御側レギュレータORa、閉じ込み制御側レギュレータORb等と電気的に接続され、これら内燃機関120、変速比制御側レギュレータORa、閉じ込み制御側レギュレータORb等の制御対象の動作を制御する。
ECU40は、例えば、図2に示す内燃機関120のインジェクタ128、点火プラグ129、電子スロットル弁132の開度を調節するアクチュエータ132a等とも電気的に接続される。これにより、ECU40は、インジェクタ128の燃料噴射量及び燃料噴射時期、点火プラグ129の点火時期、電子スロットル弁132の開度等を制御する。つまり、ECU40は、インジェクタ128、点火プラグ129、電子スロットル弁132等を制御することにより、機関トルクを制御する。
また、ECU40は、図2に示すエアフロセンサD01、図1に示す機関回転速度センサD02、入力側回転速度センサD03a、出力側回転速度センサD03b、その他にも内燃機関120の各検出手段類に電気的に接続され、これらの検出手段から各種の情報を取得する。
図6に示すように、変速機制御装置20は、ECU40の中央演算装置Epに組み込まれて構成されている。ECU40は、中央演算装置Epと、記憶部Emと、入力ポートINp及び出力ポートOUTpと、入力インターフェースIFin及び出力インターフェースIFoutとから構成される。なお、ECU40とは別個に、変速機制御装置20を用意し、これをECU40に接続してもよい。
変速機制御装置20は、情報取得部21と、比較判定部22と、演算部23と、変速比制御部24と、閉じ込み制御部25と、を含んで構成される。情報取得部21は、図2に示すエアフロセンサD01、図1に示す機関回転速度センサD02、入力側回転速度センサD03a、出力側回転速度センサD03b等の検出手段が検出した結果、後述する記憶部Emに格納された情報、機関制御部26が有する情報、等を取得する。
比較判定部22は、情報取得部21が各検出手段から得た数値や記憶部Emから取得した数値を比較する。演算部23は、情報取得部21が取得した数値に対して演算を行う。演算部23は、例えば、中央演算装置Epが有するカウンタに対して加算等の演算を行う。変速比制御部24は、プライマリシャフト51の回転速度が、目標とする回転速度になるように、ベルト式無段変速機110の変速比を制御する。閉じ込み制御部25は、図3に示す作動油閉じ込み装置10の動作を制御する。
中央演算装置Epは、変速機制御装置20に加えて、機関制御部26を有する。機関制御部26は、内燃機関120の運転制御を行う。中央演算装置Epと記憶部Emとは、バスBcとにより接続される。中央演算装置Epと入力ポートINpとは、バスBaとにより接続される。中央演算装置Epと出力ポートOUTpとは、バスBbとにより接続される。
変速機制御装置20の情報取得部21は、機関制御部26が有する内燃機関120の運転制御データを取得し、これを利用する。また、変速機制御装置20は、ベルト式無段変速機110の変速比を制御する手順を、機関制御部26があらかじめ備えている内燃機関120の運転制御ルーチンに割り込ませてもよい。
入力ポートINpには、入力インターフェースIFinが接続されている。入力インターフェースIFinには、図1に示す入力側回転速度センサD03a、出力側回転速度センサD03b、機関回転速度センサD02、図2に示すエアフロセンサD01、その他各種検出手段が接続されている。
これらの各種検出手段から出力される信号は、入力インターフェースIFin内のアナログ/デジタルコンバータADCやディジタル入力バッファDIBにより、中央演算装置Epが利用できる信号に変換されて入力ポートINpへ送られる。これにより、中央演算装置Epは、ベルト式無段変速機110の変速比の制御や、内燃機関120の制御に必要な情報を取得できる。
出力ポートOUTpには、出力インターフェースIFoutが接続されている。出力インターフェースIFoutには、変速比制御側レギュレータORa、閉じ込み制御側レギュレータORb、インジェクタ128、点火プラグ129、電子スロットル弁132のアクチュエータ132a、その他内燃機関120における制御対象が接続されている。
出力インターフェースIFoutは、制御回路IFouta、制御回路IFoutb、制御回路IFoutc、制御回路IFoutd、制御回路IFoute等を備えており、中央演算装置Epで演算された制御信号に基づき、前記制御対象を動作させる。このような構成により、前記検出手段からの出力信号に基づき、ECU40の中央演算装置Epは、変速比制御側レギュレータORa、閉じ込み制御側レギュレータORb、インジェクタ128、点火プラグ129、電子スロットル弁132を制御して、ベルト式無段変速機110の変速比及び内燃機関120の出力を制御する。
記憶部Emには、ベルト式無段変速機110の変速比を制御する手順を含むコンピュータプログラムや制御データマップが格納されている。記憶部Emは、RAM(Random Access Memory)のような揮発性のメモリ、フラッシュメモリ等の不揮発性のメモリ、あるいはこれらの組み合わせにより構成できる。
上記コンピュータプログラムは、中央演算装置Epへ既に記録されているコンピュータプログラムとの組み合わせによって、ベルト式無段変速機110の変速比を制御する手順を実現できるものであってもよい。また、この変速機制御装置20は、前記コンピュータプログラムの代わりに専用のハードウェアを用いて、同等の機能を実現するものであってもよい。
図7は、本実施形態に係るベルト式無段変速機の作動油閉じ込み装置を制御する手順を示すフローチャートである。ステップST101で、比較判定部22は、プライマリプーリ油圧室54が閉じ込み状態か否かを判定する。なお、プライマリプーリ油圧室54が閉じ込み状態であるか開放状態であるかの情報は、ECU40の記憶部Emに記憶されている。よって、より具体的には、変速機制御装置20は、まず情報取得部21が記憶部Emからプライマリプーリ油圧室54の状態に関する情報を取得する。次に、変速機制御装置20は、比較判定部22がプライマリプーリ油圧室54が閉じ込み状態か否かを判定する。
プライマリプーリ油圧室54が開放状態の場合(ステップST101、No)、プライマリプーリ油圧室54が閉じ込み状態になるまで、比較判定部22は、ステップST101でプライマリプーリ油圧室54が閉じ込み状態であるか否かを繰り返し判定する。
ステップST101で、プライマリプーリ油圧室54が閉じ込み状態である場合(ステップST101、Yes)、ステップST102で、比較判定部22は、現在のプライマリプーリ油圧室54の閉じ込み状態が、開放状態からの切り替え直後であるか否かを判定する。
なお、切り替え直後とは、プライマリプーリ油圧室54が開放状態から閉じ込み状態に切り替えられてから、所定の時間以内のことをいう。ここで、前記所定時間とは、変速機制御装置20が図7に示す作動油閉じ込み装置10を制御する手順を繰り返し実行する際に、ステップST102の内容を実行してから再度ステップST102の内容を実行するまでに要する時間以内の時間である。
現在のプライマリプーリ油圧室54の閉じ込み状態が、開放状態からの切り替え直後である場合(ステップST102、Yes)、ステップST103で、演算部23は、カウントCTのカウントアップを開始する。ここで、カウントCTは、プライマリプーリ油圧室54が開放状態から閉じ込み状態に切り替えられてからの時間である。
現在のプライマリプーリ油圧室54の閉じ込み状態が、開放状態からの切り替え直後ではない場合、つまり、現在のプライマリプーリ油圧室54の閉じ込み状態が、プライマリプーリ油圧室54の閉じ込み状態の維持による場合(ステップST102、No)、ステップST104で、演算部23は、現在のカウントCTを更新する。なお、演算部23によって更新されたカウントCTは、記憶部Emに記憶される。
演算部23によって、ステップST103の内容またはステップST104の内容が実行されると、ステップST105で、情報取得部21は、現在のカウントCTを記憶部Emから取得する。また、情報取得部21は、エアフロセンサD01から現在の吸入空気量Qを取得する。
次に、ステップST106で、演算部23は、吸入空気量Qに基づいて内燃機関120の現在の機関トルクΔTqを算出する。次に、ステップST107で、演算部23は、機関トルクΔTqに基づいて、プライマリプーリ油圧室54が開放状態から閉じ込み状態となってから、プライマリプーリ油圧室54内の作動油が受けた総熱量である総受熱量Hqを算出する。以下に、総受熱量Hqの算出方法の一例を説明する。
図8は、内燃機関の機関トルクと受熱量との関係を示すグラフである。図8に示すように、内燃機関の機関トルクΔTqと受熱量ΔHqとは、略比例の関係にある。内燃機関120の機関トルクΔTqが大きくなるほど、受熱量ΔHqは大きくなる。
前記比例の関係を用いて、演算部23は、機関トルクΔTqと比例定数とを乗算して受熱量ΔHqを求める。次に、演算部23は、演算部23がステップST107を繰り返し実行する度に、その時の機関トルクΔTqから求められる受熱量ΔHqを順次加算していく。これにより、演算部23は、プライマリプーリ油圧室54が開放状態から閉じ込み状態となってから、プライマリプーリ油圧室54内の作動油が受けた総熱量である総受熱量Hqを算出する。
図9は、各時間の機関トルクを示すグラフである。なお、演算部23は、受熱量ΔHqを加算していくことにより総受熱量Hqを算出するものに限定されない。演算部23は、例えば、プライマリプーリ油圧室54が開放状態から閉じ込み状態となってからの内燃機関120の総機関トルクTqから総受熱量Hqを算出してもよい。
ここで、総機関トルクTqは、内燃機関120から瞬間的に取り出された機関トルクΔTqの集合である。この場合、演算部23は、演算部23がステップST107を繰り返し実行する度に、その時の機関トルクΔTqを加算していく。例えば、プライマリプーリ油圧室54が開放状態から閉じ込み状態となってから時間tが経過したとすると、図9に斜線で示す、横軸と縦軸と時間tを通り横軸に直交する線と、機関トルク線とで囲まれた範囲の面積が総機関トルクTqとなる。演算部23は、この総機関トルクTqと前記比例定数とを乗算して総受熱量Hqを算出する。
なお、本実施形態は、演算部23が所定の演算式によって総受熱量Hqを算出したが、変速機制御装置20はこれに限定されない。例えば、機関トルクΔTqと受熱量ΔHqとの間の関係をマップとして記憶部Emにあらかじめ収納しておき、情報取得部21が前記マップを読み出して、演算部23が前記マップに基づいて受熱量ΔHqを算出し、この受熱量ΔHqを加算していくことで総受熱量Hqを算出してもよい。
この場合、機関トルクΔTqと受熱量ΔHqとの関係を略比例の関係とみなさないため、演算部23は、機関トルクΔTqと受熱量ΔHqとの関係がより正確に記されたマップに基づいて総受熱量Hqを算出できる。
このようにして、演算部23は、機関トルクΔTqに基づいて、総受熱量Hqを算出する。次に、ステップST108で、演算部23は、総受熱量Hqから油圧室内作動油温度Toを算出する。演算部23は、プライマリプーリ油圧室54の容量と総受熱量Hqとに基づいて油圧室内作動油温度Toを算出する。なお、プライマリプーリ油圧室54の容量は、情報取得部21が変速比センサD03から現在の変速比を取得することで算出される。
ここで、プライマリプーリ油圧室54が開放状態から閉じ込み状態となってから、プライマリプーリ油圧室54内の作動油は、熱を受け取るだけではなく、プライマリプーリ油圧室54を構成する部材を介してプライマリプーリ油圧室54内の作動油の熱が外部にも伝えられる。作動油がプライマリプーリ油圧室54を構成する部材を介して外部に与える熱量は、カウントCTが大きくなるほど増加する。よって、演算部23は、カウントCTの大きさから求められる作動油がプライマリプーリ油圧室54を構成する部材を介して外部に与える熱量を総受熱量Hqから減算して油圧室内作動油温度Toを算出する。
次に、図7に示す、ステップST109で、比較判定部22は、油圧室内作動油温度Toが所定値a以上であるか否かを判定する。油圧室内作動油温度Toが所定値a以上である場合(ステップST109、Yes)、ステップST110で、閉じ込み制御部25は、プライマリプーリ油圧室54を開放状態にする。
具体的には、閉じ込み制御部25は、閉じ込み制御側レギュレータORbを制御して、油圧Pcvと受圧面積Apとの積が、油圧Psとシール部面積Acvとの積にスプリング力Fspを加えた値よりも大きくなるように、油圧Pcvを調節する。これにより、プライマリプーリ油圧室54は、開放状態となる。
ここで、所定値aは、プライマリプーリ油圧室54内で作動油が膨張することによって生じる実際の変速比とベルト式無段変速機110が目標とする変速比との差により、車両100が走行する際に内燃機関120の燃料の消費量の増大量が問題にならない範囲の値である。所定値aは、例えば、80度〜120度の値である。
プライマリプーリ油圧室54内の作動油は、通常、−40度〜150度の範囲内での使用を想定されている。よって、プライマリプーリ油圧室54内の作動油の温度が80度〜120度の温度であれば、プライマリプーリ油圧室54内での作動油の膨張量は、内燃機関120の燃料の消費量の増大を抑制するのにあたって問題にはならない範囲となる。なお、以下、プライマリプーリ油圧室54内で作動油が膨張することによって生じる実際の変速比とベルト式無段変速機110が目標とする変速比との差により、車両100が走行する際に内燃機関120の燃料の消費量の増大量が問題になる温度を、燃費悪化温度という。
ステップST110で、閉じ込み制御部25がプライマリプーリ油圧室54を開放状態にすることにより、プライマリプーリ油圧室54内の作動油は排出されて、新しい作動油が導入される。つまり、プライマリプーリ油圧室54内の作動油は、入れ替えられる。このように、変速機制御装置20は、プライマリプーリ油圧室54内の作動油の温度が燃費悪化温度よりも高くなり、作動油の膨張量が内燃機関120の燃料の消費量の増大を抑制するのにあたって問題になる範囲となったときに、プライマリプーリ油圧室54内の作動油を入れ替える。これにより、プライマリプーリ油圧室54内の作動油の温度は、燃費悪化温度よりも低下する。
油圧室内作動油温度Toが所定値aよりも小さい場合(ステップST109、No)、ステップST112で、比較判定部22は、図7に示す作動油閉じ込み装置10を制御する手順以外で、プライマリプーリ油圧室54を開放状態にする要求があるか否かを判定する。
ここで、プライマリプーリ油圧室54を開放状態にする要求がある場合の例を説明する。プライマリプーリ油圧室54を開放状態にする要求がある場合とは、例えば、変速比制御部24がベルト式無段変速機110に対して変速を要求する場合である。また、プライマリプーリ油圧室54を開放状態にする要求がある場合とは、変速比制御部24がベルト式無段変速機110に対して変速を頻繁に要求する可能性があり、プライマリプーリ油圧室54を閉じ込み状態にすべきでないと比較判定部22が判定した場合である。
作動油閉じ込み装置10を制御する手順以外で、プライマリプーリ油圧室54を開放状態にする要求がある場合(ステップST112、Yes)、ステップST110で、閉じ込み制御部25は、プライマリプーリ油圧室54を開放状態にする。
作動油閉じ込み装置10を制御する手順以外で、プライマリプーリ油圧室54を開放状態にする要求がない場合(ステップST112、No)、比較判定部22によって油圧室内作動油温度Toが所定値a以上である(ステップST109、Yes)と判定されるか、作動油閉じ込み装置10を制御する手順以外でプライマリプーリ油圧室54を開放状態にする要求がある(ステップST112、Yes)と判定されるまで、変速機制御装置20は、プライマリプーリ油圧室54を閉じ込み状態に保つ。
ステップST110で、閉じ込み制御部25がプライマリプーリ油圧室54を開放状態にした後は、ステップST111で、演算部23は、カウントCTをクリアする。また、演算部23は、総受熱量Hqをクリアする。
このように、変速機制御装置20は上記手順によって、作動油閉じ込み装置10を制御することにより、プライマリプーリ油圧室54内の作動油の温度が上昇し、燃費悪化温度となったときにプライマリプーリ油圧室54を開放状態にする。これにより、変速機制御装置20は、ベルト式無段変速機110の実際の変速比とベルト式無段変速機110が目標とする変速比との差を低減できる。結果として、変速機制御装置20は、内燃機関120の燃料の消費量の増大を抑制できる。
また、ベルト式無段変速機110が目標とする変速比が、車両100を運転する運転者のドライバビリティを向上することを目的とした変速比である場合、変速機制御装置20は、車両100を運転する運転者のドライバビリティの低下を抑制できる。
ここで、閉じ込み装置を備える従来のベルト式無段変速機には、所定時間が経過したらプライマリプーリ油圧室54を開放状態にするものがある。このような従来のベルト式無段変速機では、実際は、プライマリプーリ油圧室内の作動油の温度が、燃費悪化温度に達していない場合であっても、プライマリプーリ油圧室を開放状態にする。つまり、従来のベルト式無段変速機では、プライマリプーリ油圧室の閉じ込み状態と開放状態とを最適な時期に切り替えられない。
これにより、従来のベルト式無段変速機では、プライマリプーリ油圧室の閉じ込み状態と開放状態との切り替えが頻繁に発生する。結果として、従来のベルト式無段変速機では、内燃機関の燃料の消費量が増大する。
しかしながら、本実施形態では、変速機制御装置20によって、プライマリプーリ油圧室54内の作動油が受けた熱量である総受熱量Hqが算出され、油圧室内作動油温度Toが推定される。よって、ベルト式無段変速機110は、最適な時期にプライマリプーリ油圧室54を開放状態にできる。
これにより、ベルト式無段変速機110は、プライマリプーリ油圧室54の閉じ込み状態と開放状態との切り替えが頻繁に発生することを抑制できる。結果として、ベルト式無段変速機110は、内燃機関120の燃料の消費量の増大を抑制できる。
図10は、本実施形態に係るベルト式無段変速機の作動油閉じ込み装置を制御するほかの手順を示すフローチャートである。なお、変速機制御装置20は、カウントCTと機関トルクΔTqとに基づいて総受熱量Hqを算出したが、本実施形態ではこれに限定されない。変速機制御装置20は、例えば、カウントCTと機関回転数Neとに基づいて総受熱量Hqを算出してもよい。
この場合、変速機制御装置20は、図10に示すステップST205で、機関回転速度センサD02から内燃機関120の機関回転速度ΔNeを取得する。次に、ステップST206で、演算部23は、機関回転速度ΔNeとカウントCTとに基づいて、プライマリプーリ油圧室54が開放状態から閉じ込み状態となってからの機関回転数Neを算出する。次に、ステップST207で、演算部23は、カウントCTと機関回転数Neとに基づいて総受熱量Hqを求める。
ここで、機関回転数Neと総受熱量Hqの関係は、略比例の関係にある。よって、前記比例の関係を用いて、演算部23は、機関回転数Neと比例定数とを乗算して総受熱量Hqを求める。また、演算部23は、カウントCTの大きさから求められる作動油がプライマリプーリ油圧室54を構成する部材を介して外部に与える熱量を上述の総受熱量Hqから減算し、最終的な総受熱量Hqとして算出する。
なお、演算部23は、プライマリプーリ油圧室54が閉じ込み状態となってからの機関回転数Neではなく、瞬間的な機関回転速度ΔNeから総受熱量Hqを求めてもよい。機関回転速度ΔNeと受熱量ΔHqとは、略比例の関係にある。よって、演算部23は、比例定数を用いて瞬間的な機関回転速度ΔNeから瞬間的な受熱量ΔHqを算出し、プライマリプーリ油圧室54が閉じ込み状態となってから受熱量ΔHqを順次加算していくことにより、総受熱量Hqを算出してもよい。
なお、演算部23は、所定の演算式によって総受熱量Hqを算出したが、本実施形態ではこれに限定されない。例えば、変速機制御装置20は、機関回転速度ΔNeと総受熱量Hqとの間の関係をマップとして記憶部Emにあらかじめ収納しておき、情報取得部21が前記マップを読み出して、演算部23が前記マップに基づいて総受熱量Hqを算出してもよい。
なお、変速機制御装置20は、一例として、機関回転速度ΔNeを機関回転速度センサD02から取得して、機関回転速度ΔNeを用いて総受熱量Hqを算出したが、本実施形態ではこれに限定されない。変速機制御装置20の情報取得部21は、例えば、変速比センサD03の入力側回転速度センサD03aからプライマリシャフト51の回転速度を取得して、プライマリシャフト51の回転速度から総受熱量Hqを算出してもよい。
ここで、機関回転速度ΔNeとプライマリシャフト51の回転速度とは、同一の値である。よって、この場合、総受熱量Hqは、機関回転速度ΔNeと同様の手順によって、プライマリシャフト51の回転速度から求められる。つまり、変速機制御装置20は、プライマリシャフト51に入力される回転の回転速度や、プライマリプーリ油圧室54が閉じ込み状態になってからの前記回転の回転数に基づいて総受熱量Hqを算出し、総受熱量Hqから油圧室内作動油温度Toを推定すればよい。
なお、変速機制御装置20は、油圧室内作動油温度Toを推定したが、本実施形態ではこれに限定されない。例えば、変速機制御装置20は、油圧室内作動油温度Toを実際に計測する温度センサをプライマリプーリ油圧室54内に備え、前記温度センサが検出した温度を油圧室内作動油温度Toとしてもよい。これにより、変速機制御装置20は、より正確に油圧室内作動油温度Toを取得できる。
但し、プライマリプーリ油圧室54を構成する部材は、全て回転軸RLを軸に回転するため、変速機制御装置20は、プライマリプーリ油圧室54内に温度センサを備えることが非常に困難である。一方、変速機制御装置20は、一般的な車両100が備える検出手段であるエアフロセンサD01や機関回転速度センサD02や変速比センサD03から取得した各種情報に基づいて、油圧室内作動油温度Toを推定できる。これにより、変速機制御装置20は、新しく構成を追加することなく、一般的な構成を利用して適切な時期にプライマリプーリ油圧室54を閉じ込み状態から開放状態にできる。
また、変速機制御装置20は、カウントCTと機関トルクΔTqとに基づいて算出される油圧室内作動油温度To、カウントCTと機関回転速度ΔNe(機関回転数Ne)とによって算出される油圧室内作動油温度To、また、カウントCTとプライマリシャフト51の回転速度(回転数)とに基づいて算出される油圧室内作動油温度To、を組み合わせて用いてもよい。つまり、複数の要素から油圧室内作動油温度Toを推定してもよい。これにより、変速機制御装置20は、油圧室内作動油温度Toをより正確に推定できる。