JP2009241495A - 加工部耐食性に優れたクリア塗装鋼板 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】鋼板10の上にクリア塗膜30を有するクリア塗装鋼板であって、前記クリア塗膜は、23℃、引張速度50mm/分での引張試験において降伏点を有し、かつ破断伸び率が100%以上であり、さらに5℃、引張速度50mm/分での引張試験において破断伸び率が10%以上である、クリア塗装鋼板。
【選択図】図2
Description
特に、鋼板(「塗装原板」ともいう)がめっき鋼板である場合はこの外観の低下が起こりやすい。これは、曲げ加工によりめっき層が割れ、この割れがクリア塗膜に伝播して、鋼素地が露出されるからである。鋼素地が露出されると、Zn系めっき鋼板ではめっき層の犠牲防食作用が発現し、めっき層が腐食して白錆が発生する。この白錆が塗装鋼板の外観を低下させる。Al系めっき鋼板ではめっき層の犠牲防食作用が働かず、鋼素地から赤錆が発生し、塗装鋼板の外観を低下させる。
前記クリア塗膜は、23℃、引張速度50mm/分での引張試験において降伏点を有し、かつ破断伸び率が100%以上であり、さらに5℃、引張速度50mm/分での引張試験において破断伸び率が10%以上である、クリア塗装鋼板。
[2]前記クリア塗膜は、
(A)数平均分子量が3000〜8000、Tgが2〜10℃である脂肪族ポリエステル樹脂を80〜30質量部と、
(B)数平均分子量が15000〜20000、Tgが−3〜2℃であって、フィルムとしたときに、23℃、引張速度50mm/分での引張試験において降伏点を有するポリエステル樹脂を20〜70質量部と、
(C)架橋剤を前記(A)と(B)の合計100質量部に対して10〜20質量部含む、[1]に記載のクリア塗装鋼板。
[3]前記(A)脂肪族ポリエステル樹脂は、下記一般式(C1)で表されるジカルボン酸を含む酸成分と、下記一般式(H1)、(H2)および(H3)で表されるジオールを含むジオール成分から合成され、
前記(B)ポリエステル樹脂は、下記一般式(C2)、(C3)および(C4)で表されるジカルボン酸を含む酸成分と、前記一般式(H2)および(H3)で表されるジオールを含むジオール成分から合成される、[2]に記載の塗装鋼板。
R11は、単結合、または炭素数が1〜3の直鎖または分岐構造のアルキレン基である。
前記式において、R20は、炭素数が4〜8の直鎖または分岐構造のアルキレン基である。
[4]前記(A)脂肪族ポリエステル樹脂は、シクロヘキサンジカルボン酸、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、エチレングリコールから合成され、
前記(B)ポリエステル樹脂は、テレフタル酸、イソフタル酸、アジピン酸、ネオペンチルグリコール、エチレングリコールから合成される、[2]または[3]に記載のクリア塗装鋼板。
[5]前記架橋剤は、ヘキサメチレンジイソシアネートをブロック化剤でブロックした架橋剤を含む、[2]〜[4]いずれかに記載のクリア塗装鋼板。
[6]前記鋼板は、溶融めっき鋼板である、[1]〜[5]いずれかに記載のクリア塗装鋼板。
[7]前記鋼板は、リン酸塩処理により黒色化された溶融Zn系めっき鋼板である、[1]〜[6]いずれかに記載のクリア塗装鋼板。
本発明の塗装鋼板は、鋼板の上にクリア塗膜を有し、このクリア塗膜は、23℃、引張速度50mm/分での引張試験において降伏点を有し、かつ破断伸び率が100%以上であり、さらに5℃、引張速度50mm/分での引張試験において破断伸び率が10%以上であることを特徴とする。
塗膜とは、塗布された塗料の膜を乾燥させて得た膜をいう。本発明では塗料を鋼板に塗布して得られる乾燥前の膜を「塗布膜」、乾燥させた膜を「塗膜」と呼ぶ。
本発明の塗膜は、クリア塗膜である。クリア塗膜とは透明な膜である。本発明において塗膜が透明であるとは、クリア塗膜を形成した塗装鋼板を肉眼で観察したときに、塗膜により鋼板が本来有している金属の意匠が損なわれないことを意味する。しかしながら、透明性は、塗膜の可視光線透過率で評価することが好ましい。可視光線透過率とは、塗膜の380nm〜780nmの波長における光線透過率を光度計により求め、各波長における透過率を積分した値で定義される。本発明のクリア塗膜は、前記可視光線透過率が55%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましい。
クリア塗膜は、以下単に「塗膜」とも呼ばれる。
本発明のクリア塗膜は、23℃、引張速度50mm/分で行った引張試験において、降伏点を有することが必要である。降伏点とは、引張試験の応力−ひずみ曲線において、応力は増加せずに、ひずみだけが増加する点をいう。本発明のクリア塗膜は、降伏点を有するため塑性変形的な挙動を強く示すものといえる。このような塗膜では、延ばされた状態で加熱されても、既に塑性変形していることから塗膜の薄膜化は生じにくい。
一方、図2は塗膜の曲げ加工部に塗膜の薄膜化が発生しない塗装鋼板の断面図である。図2における符号は、図1と同様に定義される。
本発明において、引張強度に用いる試験片の形状は、幅が5〜20mm、長さが30〜70mmのフィルムであればよいが、幅が10mm、長さが50mm、厚みが13μm程度であることが好ましい。
本発明の塗膜は、23℃での引張特性と、5℃での引張特性が前記範囲にあれば、どのような成分で構成されていてもよい。しかしながら、常温特性と低温特性とのバランスをとる必要があるため、本発明の塗膜は、二種類以上のポリマーからなることが好ましい。
このような塗膜においては、(A)脂肪族ポリエステル樹脂と(B)高分子ポリエステル樹脂は架橋剤により(A)同士、(B)同士、または(A)と(B)で架橋される。よって、塗膜が前記(A)〜(C)を含むとは、これらが架橋した状態で存在していることも含む。
脂肪族ポリエステル樹脂とは、分子内に芳香環を含まないポリエステル樹脂である。このようなポリエステル樹脂は耐候性に優れるため、外装用に用いられる本発明の塗装鋼板のマトリックス樹脂として好適である。このような樹脂を含む塗膜は、耐候劣化による微小な塗膜割れの発生が低減されるので、光沢の低下が少なく、加工部においても良好な耐食性を維持できる。
脂肪族ポリエステル樹脂は、数平均分子量が3000〜8000であり、Tgが2〜10℃であることが好ましい。本発明において数平均分子量は、GPCによりポリスチレン換算して求められる。また、本発明においてTgはDSCにより測定される。
本発明の塗膜は、数平均分子量が15000〜20000であり、フィルムとしたときに、23℃、引張速度50mm/分での引張試験において降伏点を有する高分子ポリエステル樹脂を含むことが好ましい。このような高分子量のポリエステル樹脂は強度に優れるため、本発明の塗膜の23℃における引張特性を前記の範囲に調整しうる。また、高分子ポリエステル樹脂は、Tgが−3〜2℃であることが好ましい。このように比較的低いTgを有する樹脂を含む塗膜は、5℃における引張特性が前記範囲に調整される。
本発明においてAr60は、パラフェニレン基であることが好ましい。すなわち、一般式(C2)で表される化合物は、テレフタル酸であることが好ましい。
これらの配合比は、モル比にして、テレフタル酸:イソフタル酸:アジピン酸:ネオペンチルグリコール:エチレングリコール=6〜10:15〜25:15〜25:30〜40:10〜20であることが好ましく、8:20:22:36:14がより好ましい。
本発明の塗膜は、架橋剤を含むことが好ましい。架橋剤を含む塗膜は強度に優れるため加工性が向上する。また、架橋剤により塗膜の柔軟性も調整できるため、本発明の塗膜の引張特性を前記の範囲に調整しやすくなる。
マロン酸ジメチル、アセト酢酸メチル等の活性メチレン型ブロック剤。
ホルムアルドキシム、アセトアルドキシム、メチルエチルケトキシム、メチルイソブチルケトキシム、シクロヘキサノンオキシム、アセトキシム、ジアセチルモノオキシム、ベンゾフェノンオキシム等のオキシム型ブロック剤。
(C)の配合割合は、(A)と(B)の合計100質量部に対して、10〜20質量部であることが好ましい。
本発明の塗膜は、上述の成分以外に、クリア性を損なわない範囲で添加剤を含んでいてもよい。このような添加剤の例には、潤滑剤、防錆顔料、艶消し材等が含まれる。
本発明の塗料は、マトリックス樹脂を溶媒に溶解して調製してよい。樹脂を溶媒に溶解する手段には、公知の手段を用いてよい。
鋼板とは板状の鋼である。鋼板の例には、普通鋼板、めっき鋼板、ステンレス鋼板が含まれる。めっき鋼板の例には、溶融Zn浴、溶融Zn−Al合金浴、溶融Zn−Al−Mg合金浴、溶融Zn−Mg合金浴、溶融Al浴、溶融Al−Si合金浴などを用い、連続めっきまたは浸漬めっきにより得られるものが含まれる。
本発明の塗装鋼板は発明の効果を損なわない範囲で任意に製造してよい。例えば、本発明の塗装鋼板は、既に述べた方法で調製した塗料を、鋼板に塗布する工程(塗布工程)、当該塗膜を加熱して乾燥させる工程(焼付工程)を経て製造されることが好ましい。
塗料を鋼板に塗布する方法の例には、ロールコート、カーテンコート、ダイコート、ナイフコート、ハケ塗り、静電分散法が含まれる。塗料の塗布量は所望の膜厚となるように調整される。
次に、塗料が塗布された鋼板を加熱して塗料を乾燥する。焼付処理は塗膜を乾燥できる温度であれば制限されないが、マトリックス樹脂の分解・変色を低減させるために、低い温度であることが好ましい。
(A)脂肪族ポリエステル樹脂として、数平均分子量が4000、Tgが5℃のポリエステル樹脂αを準備した。当該樹脂のモノマー構成は、シクロヘキサンジカルボン酸:1,6−ヘキサンジオール:ネオペンチルグリコール:エチレングリコール=50:5:20:25であった。また、当該樹脂からなるフィルムを作製し、23℃で50mm/分の引張速度で引張試験を行ったところ、降伏点が確認された。
板厚0.4mmの溶融Zn−6mass%Al−3mass%Mgめっき鋼板に脱脂、水洗、表面調整を行った後、リン酸亜鉛処理を施し、定法により化成処理を施した。
定法により樹脂αとβを80:20(質量比)、ヘキサメチレンジイソシアネートをブロック化剤でブロックした架橋剤(住化バイエルウレタン株式会社製スミジュールBL3175)を樹脂100質量に対し15質量部配合した塗料を製造した。これを用いて、定法により前記めっき鋼板の上に、塗装を施し、乾燥膜厚15μmのクリア塗膜を形成した。このとき乾燥条件は、最高到達板温度230℃とした。
このようにして得た塗装鋼板および塗膜は以下のように評価された。
前記のようにして得ためっき鋼板から試験片を切り出した。曲げ加工性試験は、この試験片を、試験片と同じ厚さの板(「中板」という)を1〜十数枚挟むように180度曲げ加工し、曲げ部外側のクリア塗膜の割れ発生状況により評価した。この試験は、板温度を5℃とする条件と、23℃とする二つの条件で行った。クリア塗膜の割れ発生状況は、塗膜割れ部を倍率100倍でSEM観察して行い、割れが発生しない最小の中板の枚数で曲げ加工性を評価した。すなわち、この枚数が少ないほど加工性に優れるといえる。例えば、中板が5枚では割れが発生しないが、4枚のときに割れが発生した場合は、「塗膜に割れが発生しない曲げ加工度」は5tと評価された。
前記のようにして得ためっき鋼板から試験片を切り出し、以下のように耐候性試験を行った。
試験片の板温度を23℃とし、この試験片に中板を4枚挟み180℃曲げ加工を施した。この加工された試験片をサンシャインウェザーメーターに入れ試験に供した。試験は、ブラックパネル温度:63℃とし、「18分間湿潤→102分間の光照射」のサイクルを繰り返すことにより行った。合計の試験時間が1000時間となった後で試験片を取り出した。この試験片について、めっき加工割れ部の塗膜の厚みと、平坦部の光沢保持率を測定した。
塗膜の厚みは、倍率500倍で光学顕微鏡による断面観察により測定した。
光沢保持率は、試験前の光沢度を100とした場合の試験後の光沢度の割合である。光沢度はJIS K5600−4−7に規定された方法に準拠して測定を行った。測定機器はスガ試験機社製 デジタル変角光沢計 UGV−6Pであり、入射角は60度とした。
テフロン(商標登録)加工した鋼板を準備し、前記と同様に塗装、焼付けを行い、塗装鋼板を準備した。この塗装鋼板から塗膜を遊離し塗膜の引張試験を行った。サンプルは、幅10mm、長さ50mm、厚み13μmとし、引張速度は50mm/分とした。測定温度は23℃であった。
同様にして、測定温度を5℃とした引張試験も行った。
これらの結果を表1に示す。
実施例1と同様にして、表1に示す組成の塗料を製造し、塗装鋼板を得た。塗装鋼板は、実施例1と同様にして評価された。結果を表1に示す。
実施例1と同様にして、表1に示す組成の塗料を製造し、塗装鋼板を得た。塗装鋼板は、実施例1と同様にして評価された。結果を表1に示す。
また、実施例1、2と実施例4の比較から、脂肪族ポリエステル樹脂の配合量が増えると塗膜の伸びが低減し、加工性が低下する傾向があることが分かる。
逆に、実施例10、11と実施例4の比較から、高分子ポリエステルの配合量が増えると、平坦部の光沢度が低下する傾向があることも分かる。
また実施例6と、実施例7〜9の比較から、架橋剤の配合量が、樹脂100質量部に対し、10質量部未満であると、平坦部の光沢度が低下する傾向があることも分かる。
20 めっき層
21 めっき層が割れた部位
30 クリア塗膜
31 めっき層の加工割れ部で薄膜化したクリア塗膜
Claims (7)
- 鋼板の上にクリア塗膜を有するクリア塗装鋼板であって、
前記クリア塗膜は、23℃、引張速度50mm/分での引張試験において降伏点を有し、かつ破断伸び率が100%以上であり、さらに5℃、引張速度50mm/分での引張試験において破断伸び率が10%以上である、クリア塗装鋼板。 - 前記クリア塗膜は、
(A)数平均分子量が3000〜8000、Tgが2〜10℃である脂肪族ポリエステル樹脂を80〜30質量部と、
(B)数平均分子量が15000〜20000、Tgが−3〜2℃であって、フィルムとしたときに、23℃、引張速度50mm/分での引張試験において降伏点を有するポリエステル樹脂を20〜70質量部と、
(C)架橋剤を前記(A)と(B)の合計100質量部に対して10〜20質量部含む、請求項1記載のクリア塗装鋼板。 - 前記(A)脂肪族ポリエステル樹脂は、下記一般式(C1)で表されるジカルボン酸を含む酸成分と、下記一般式(H1)、(H2)および(H3)で表されるジオールを含むジオール成分から合成され、
前記(B)ポリエステル樹脂は、下記一般式(C2)、(C3)および(C4)で表されるジカルボン酸を含む酸成分と、前記一般式(H2)および(H3)で表されるジオールを含むジオール成分から合成される、請求項2記載のクリア塗装鋼板。
R11は、単結合、または炭素数が1〜3の直鎖または分岐構造のアルキレン基である]
- 前記(A)脂肪族ポリエステル樹脂は、シクロヘキサンジカルボン酸、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、エチレングリコールから合成され、
前記(B)ポリエステル樹脂は、テレフタル酸、イソフタル酸、アジピン酸、ネオペンチルグリコール、エチレングリコールから合成される、請求項2に記載のクリア塗装鋼板。 - 前記架橋剤は、ヘキサメチレンジイソシアネートをブロック化剤でブロックした架橋剤を含む、請求項2に記載のクリア塗装鋼板。
- 前記鋼板は、溶融めっき鋼板である、請求項1記載のクリア塗装鋼板。
- 前記鋼板は、リン酸塩処理により黒色化された溶融Zn系めっき鋼板である、請求項1記載のクリア塗装鋼板。
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