JP2009234229A - アクリル系樹脂フィルムの製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】配向性が低く、かつ表面状態が良好なアクリル系樹脂フィルムの製造方法を提供することである。
【解決手段】溶融したアクリル系樹脂をダイ1からフィルム状に押出して1本のロール2に接触させ、ロール2の回転によりアクリル系樹脂フィルム10を搬送する過程でエアーナイフ3からエアーを吹き出させてアクリル系樹脂フィルム10をロール2に密着させアクリル系樹脂フィルム10を製造する方法であって、エアーナイフ3は、押出されるアクリル系樹脂フィルム10の幅方向両端部に2台配設されており、エアーナイフ3から吹き付けられる空気温度が20〜160℃である、厚さ10〜200μmのアクリル系樹脂フィルムの製造方法である。
【選択図】図2

Description

本発明は、例えば自動車の内装、家庭電器製品の外装、携帯電話等の表面加飾に好適に用いられるアクリル系樹脂フィルムの製造方法に関する。
アクリル系樹脂は、ガラスに匹敵する透明性から、光学用途をはじめとし、自動車内装材用途等の印刷用基材フィルムとして重要視されている。このようなアクリル系樹脂フィルムの製造方法としてインフレーション法がある。この方法は円筒形ダイを用い、溶融状態で押し出される樹脂の内部に空気を送り込み、該樹脂を膨らませつつ冷却固化するものである。しかし、得られるフィルムの厚み誤差が大きく、またアクリル系樹脂が内部に空気を蓄えることができる溶融弾性を有する必要があるので、汎用性は低い。
アクリル系樹脂フィルムの他の製造方法として、下記(i),(ii)に示すような押出成形法がある。
(i)T型ダイを用い、溶融状態で押し出される樹脂フィルムの片面をロールや金属ベルト等に接触させ、冷却固化する(例えば特許文献1の図2(B))。
(ii)T型ダイを用い、溶融状態で押し出される樹脂フィルムの両面をロールや金属ベルト等に接触させ、冷却固化する(例えば特許文献1の図2(A))。
しかし、前記(i)の方法には、樹脂フィルムに外部から圧力が加わらないため、ロールへの密着性が低く、得られるフィルムの表面状態が悪いという問題がある。また、成膜中にロール汚れが発生するなど品質上、生産上の不具合を有する。
前記(ii)の方法には、ロール等で樹脂フィルムを両面から高圧力で挟み込むので、フィルムの押出方向に高い配向性が発現し、フィルムの収縮率が高くなるという問題がある。また、配向性にムラがあるため、フィルム内の収縮率が均一でない。そのため、このようなフィルムに規則的な柄模様を印刷した場合には、柄に歪みが発生しやすい。
特開2003−334853号公報(図2(A),(B))
本発明の課題は、配向性が低く、かつ表面状態が良好なアクリル系樹脂フィルムの製造方法を提供することである。
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、以下の構成からなる解決手段を見出し、本発明を完成するに至った。
(1)溶融したアクリル系樹脂をダイからフィルム状に押出して1本のロールに接触させ、前記ロールの回転によりアクリル系樹脂フィルムを搬送する過程でエアーナイフからエアーを吹き出させて前記アクリル系樹脂フィルムを前記ロールに密着させアクリル系樹脂フィルムを製造する方法であって、前記エアーナイフは、押出されるアクリル系樹脂フィルムの幅方向両端部に2台配設されており、前記エアーナイフから吹き付けられる空気温度が20〜160℃であることを特徴とする、厚さ10〜200μmのアクリル系樹脂フィルムの製造方法。
(2)前記エアーナイフがエアーを吹き付ける領域は、押出されるアクリル系樹脂フィルムの幅に対して、押出されるアクリル系樹脂フィルムの幅方向端部から1〜20%の領域である前記(1)記載のアクリル系樹脂フィルムの製造方法。
(3)前記アクリル系樹脂が、少なくとも2層以上の多層構造を有するアクリル系ゴム粒子を含有する前記(1)または(2)記載のアクリル系樹脂フィルムの製造方法。
(4)前記アクリル系樹脂が、融点180℃以下の添加剤を800ppm以下の割合で含有する前記(1)〜(3)のいずれかに記載のアクリル系樹脂フィルムの製造方法。
(5)前記アクリル系樹脂が、融点180℃以下の添加剤を含有しない前記(1)〜(3)のいずれかに記載のアクリル系樹脂フィルムの製造方法。
本発明によれば、溶融したアクリル系樹脂をダイからフィルム状に押出して1本のロールに接触させ、該ロールの回転によりフィルムを搬送する過程でエアーナイフからエアーを吹き出させてフィルムをロールに密着させアクリル系樹脂フィルムを製造する。したがって、ロール等でフィルムを両面から高圧力で挟み込むことによるフィルムの押出方向に高い配向性が発現することはなく、得られるフィルムの配向性を低いものにすることができる。
しかも、本発明では、前記エアーナイフを押出されるフィルムの幅方向両端部に2台配設し、前記エアーナイフから吹き付けられる空気温度を20〜160℃にした。このような特定温度のエアーをフィルム両端部に吹き付けると、フィルム両端部をロール表面に均一密着させることができ、その結果、フィルム中央部がフィルム両端部間に張設された状態でロール表面に接触する。このような特定の状態でフィルムを成膜すると成膜状態が安定し、フィルムの表面状態を良好にすることができる。
特に、アクリル系樹脂が前記(4)のように融点180℃以下の添加剤を800ppm以下の割合で含有するか、前記(5)のように融点180℃以下の添加剤を含有しないようにすると、ロールに付着する蒸散成分を著しく減少させることができ、成膜中にロール汚れが発生するのを抑制することができる。
本発明のアクリル系樹脂フィルムを構成するアクリル系樹脂としては、特に限定されるものではないが、光学用途で主に用いられるアクリル系樹脂が好ましい。該樹脂としては、例えばメタクリル樹脂等が挙げられる。
前記メタクリル樹脂としては、例えばメタクリル酸エステルの単独重合体や、それを主成分とする共重合体が挙げられる。前記メタクリル酸エステルとしては、通常メタクリル酸アルキルエステルが用いられ、そのアルキル基は炭素数1〜4程度がよい。具体例としては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル等が挙げられるが、特にメタクリル酸メチルが好ましい。
共重合体とする場合の共重合成分としては、例えばメタクリル樹脂の共重合成分として有利であることが知られているアクリル酸エステルや、メタクリル酸(アルキル)エステルやアクリル酸エステルと共重合可能な他のビニル単量体等が挙げられる。前記アクリル酸エステルとしては、例えばアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル等のアルキルエステルが挙げられる。前記ビニル単量体としては、従来からこの分野で知られている各種のビニル単量体が使用でき、例えば芳香族ビニル化合物やビニルシアン化合物等が挙げられる。なお、前記ビニル単量体はアクリル酸エステルと共重合させてもよい。
本発明に好適に用いられるメタクリル樹脂としては、下記のものが例示される。すなわち、炭素数1〜4のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルエステル50〜100重量%と、アクリル酸エステル0〜50重量%と、これらと共重合可能な他のビニル単量体の少なくとも1種0〜49重量%とからなる単量体の重合によって得られ、ガラス転移温度が40℃以上の熱可塑性重合体である。この範囲に入る重合体を単独で、又は2種以上の重合体の混合物として用いるのが好ましい。前記ガラス転移温度が40℃未満では、得られるフィルムの耐熱性が低くなるため、実用上好ましくない。ガラス転移温度は、メタクリル酸アルキルエステルと共重合される他の単量体の種類と量を変化させることにより適宜設定できる。
アクリル酸エステルの好ましい共重合割合は0.1〜50重量%であり、この場合におけるメタクリル酸アルキルエステルの好ましい共重合割合は50〜99.9重量%である。また、この場合におけるメタクリル樹脂のガラス転移温度は60℃以上であるのが好ましい。なお、本発明において単に「単量体」というときは、単量体1種からなる場合のみならず、複数の単量体が混合された場合も含んでいる。
上記のようなアクリル系樹脂の重合体の重合方法としては、特に限定されないが、例えば通常の懸濁重合、乳化重合、塊状重合等の方法で行うことができる。また、好適なガラス転移温度を得るため、又は好適なフィルムへの成形性を示す粘度を得るために、重合時に連鎖移動剤を使用することが好ましい。該連鎖移動剤の量は、単量体の種類及び組成により適宜決定すればよい。
上記のようなアクリル系樹脂は、一般に硬く、薄いフィルムでは取り扱いが困難なため、アクリル系ゴム粒子を含有させるのが好ましい。該アクリル系ゴム粒子の平均粒子径は0.05〜0.40μm、好ましくは0.06〜0.3μm、より好ましくは 0.1〜0.25μmであるのがよい。平均粒子径が0.40μmよりも大きいと、得られるフィルムの透明性が悪化し、また0.05μm未満であると、得られるフィルムの耐衝撃性が小さく、フィルムが脆くなる。また、0.05μm未満のゴム粒子は、生産し難いことからも好ましくない。
前記平均粒子径は、ゴム粒子を単独でメタクリル樹脂と混合してフィルム化し、その断面において、酸化ルテニウムによるゴム成分の染色を施し、電子顕微鏡で観察して、染色された粒子外層部の直径から求めることができる。
上記のような平均粒子径を有するアクリル系ゴム粒子としては、少なくとも2層以上の多層構造からなるゴム含有重合体であるのが好ましい。前記層の数としては、特に限定されるものではなく、通常2〜4層程度である。下記に、このゴム含有重合体について、2層構造からなる場合と、3層構造からなる場合を例に挙げて説明する。
2層構造からなるゴム含有共重合体としては、例えば弾性共重合体層の表面に所定の重合層を少なくとも1層結合してなるゴム含有重合体が挙げられる。具体的には、アクリル酸アルキルエステル50〜99.9重量%と、これと共重合可能な他のビニル単量体の少なくとも1種0〜49.9重量%と、共重合性の架橋性単量体0.1〜10重量%とからなる単量体を重合して得られる層からなる弾性共重合体層100重量部の存在下に、メタクリル酸エステル50〜100重量%と、アクリル酸エステル0〜50重量%と、これらと共重合可能な他のビニル単量体の少なくとも1種0〜49重量%とからなる単量体10〜400重量部を重合させることにより、後者の単量体からなる重合層を前記弾性共重合体層の表面に少なくとも1層結合してなるゴム含有重合体であるのが好ましい。この際、重合条件を変更させることにより、平均粒子径の異なるものを製造することができる。
前記ゴム含有重合体は、例えば下記のようにして製造することができる。すなわち、弾性共重合体用の上記成分を乳化重合法等により少なくとも一段の反応で重合させて弾性共重合体層を得る。ついで、この弾性共重合体層の存在下、上記したメタクリル酸エステルを含む単量体を乳化重合法等により少なくとも一段の反応で重合させることにより、前記ゴム含有重合体を得ることができる。このような複数段階の重合により、メタクリル酸エステルを含む単量体が弾性共重合体層にグラフト共重合され、グラフト鎖を有する架橋弾性共重合体が生成する。すなわち、このゴム含有重合体は、アクリル酸アルキルエステルをゴムの主成分として含む多層構造を有するグラフト共重合体となる。
なお、弾性共重合体層の重合を二段以上で行う場合、又はその後のメタクリル酸エステルを主成分とする単量体の重合を二段以上で行う場合には、いずれも、各段の単量体組成ではなく、全体としての単量体組成が上記範囲内にあればよい。
前記弾性共重合体層におけるアクリル酸アルキルエステルとしては、例えばアルキル基の炭素数が1〜8のものが挙げられ、特にアクリル酸ブチルやアクリル酸2−エチルヘキシルのようなアルキル基の炭素数が4〜8のものが好ましい。
前記弾性共重合体層におけるアクリル酸アルキルエステルと共重合可能な他のビニル単量体としては、例えばメタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸シクロヘキシルのようなメタクリル酸アルキルエステル、スチレン、アクリロニトリル等が挙げられる。
前記弾性共重合体層における共重合性の架橋性単量体は、1分子内に重合性炭素−炭素二重結合を少なくとも2個有するものであればよく、例えばエチレングリコールジメタクリレート、ブタンジオールジメタクリレートのようなグリコール類の不飽和カルボン酸ジエステル;アクリル酸アリル、メタクリル酸アリル、ケイ皮酸アリルのような不飽和カルボン酸のアルケニルエステル;フタル酸ジアリル、マレイン酸ジアリル、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレートのような多価カルボン酸のポリアルケニルエステル;トリメチロールプロパントリアクリレートのような多価アルコールの不飽和カルボン酸エステル;ジビニルベンゼン等が挙げられる。特に、不飽和カルボン酸のアルケニルエステルや多価カルボン酸のポリアルケニルエステルが好ましい。これらの架橋性単量体は、それぞれ単独で、又は必要により2種以上組み合わせて使用することができる。
前記重合層におけるメタクリル酸エステルとしては、メタクリル酸アルキルエステルが好ましく、例えばメタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル等が挙げられ、前記アクリル酸エステルとしては、例えばアクリル酸メチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸シクロヘキシルのようなアクリル酸アルキルエステルが挙げられ、メタクリル酸エステル及び/又はアクリル酸エステルに共重合可能な他のビニル単量体としては、特に限定されないが、例えばスチレン、アクリロニトリル等が挙げられる。
重合層における前記単量体、すなわちグラフトさせる単量体は、弾性共重合体層100重量部に対して10〜400重量部、好ましくは20〜200重量部であり、少なくとも一段以上の反応で重合させるのが好ましい。なお、グラフトさせる単量体の使用量を10重量部以上にすると、弾性共重合体層の凝集が生じにくく、透明性が良好となる。
3層構造からなるゴム含有共重合体としては、前記弾性共重合体層の内側に、例えばメタクリル酸エステルを主体とする硬質層を設けることにより、3層構造からなるゴム含有共重合体とすることができる。すなわち、このゴム含有共重合体は、硬質層(最内層)と、該硬質層の表面に形成される前記弾性共重合体層(中間層)と、該弾性共重合体層の表面に形成される前記重合層(最外層)で構成される3層構造からなる。
前記3層構造のゴム含有共重合体は、例えば下記のようにして製造することができる。すなわち、最内層を構成する硬質層の単量体をまず重合し、得られた硬質重合体の存在下で、上記の弾性共重合体を構成する単量体を重合し、さらに得られる弾性共重合体の存在下で、上記のメタクリル酸エステルを主体とし、グラフトさせる単量体を重合させればよい。
ここで、最内層となる硬質層は、メタクリル酸エステル70〜100重量%と、それと共重合可能な他のビニル単量体0〜30重量%とからなる単量体を重合させたものが好ましい。この際、他のビニル単量体の一つとして、共重合性の架橋性単量体を用いるのも有効である。メタクリル酸エステルとしては、例えばメタクリル酸アルキルエステル、特にメタクリル酸メチルが有効である。このような3層構造のゴム含有重合体は、例えば特公昭55−27576号公報(米国特許第3,793,402号明細書)に開示されている。特に、同公報の実施例3に記載のものは、好ましい組成の一つである。
上記のようなアクリル系ゴム粒子の含有量としては、アクリル系樹脂100重量部に対して10〜100重量部、好ましくは20〜80重量部の割合であるのがよい。
上記のようなアクリル系樹脂は、通常、添加剤を含有する。該添加剤としては、例えば紫外線吸収剤、酸化防止剤、滑剤等が挙げられる。前記紫外線吸収剤としては、例えばベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、トリアジン系、マロン酸エステル系、オキサルアニリド系等の化合物が挙げられ、前記酸化防止剤としては、例えばヒンダードフェノール系等の化合物が挙げられ、前記滑剤としては、例えばステアリン酸モノグリセライド、ステアリン酸アミド、パルミチン酸、ステアリルアルコール等が挙げられ、これらは1種または2種以上をブレンドして用いてもよい。
特に、前記で例示した添加剤のうち、融点180℃以下のものが好ましく、その含有量としては800ppm以下、好ましくは500ppm以下、より好ましくは含有しないのがよい。融点180℃以下の添加剤は、熱により溶解したアクリル系樹脂から揮発分として蒸散し、ロール等への汚染を引き起こすが、その含有量が800ppm以下であれば、その影響を著しく軽減することができる。なお、前記で例示した添加剤をブレンドして用いる場合には、その合計量を800ppm以下にするのがよい。
一方、融点180℃以下の添加剤の含有量が800ppmよりも多いと、ロール等への汚染の影響が大きく、製品の品質低下を招く。
上記のようなアクリル系樹脂からなる本発明のアクリル系樹脂フィルムは、溶融したアクリル系樹脂を1本のロールと接するようにダイから押出す押出成形法にて製造される。以下、本発明にかかるアクリル系樹脂フィルムの製造方法の一実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。図1は、本発明のアクリル系樹脂フィルムの製造方法に用いる製造装置を示す概略側面図である。図2は、図1に示す製造装置におけるエアーナイフとロールとの位置関係を示す概略平面図である。
図1に示すように、この製造装置は、ダイ1と、キャストロール2(ロール)と、エアーナイフ3とを備えている。ダイ1は、図示しない押出機で溶融混練されたアクリル系樹脂をフィルム状に押出すものであり、例えばT型ダイ等が挙げられる。前記押出機としては、例えば短軸押出機、二軸押出機、タンデム型押出機等が挙げられる。
ダイ1から押出されたフィルム状のアクリル系樹脂は、キャストロール2と接触する。キャストロール2としては、例えば表面が鏡面仕上げされた鏡面ロールまたはこれと同等の表面状態を有するロール等が挙げられる。
キャストロール2は、その内部に熱媒を通して表面温度を所定温度に制御できるように構成されているのが好ましい。前記熱媒としては、例えばスチーム、温水、オイル、冷却水等が挙げられ、その温度制御には、例えばPID制御等の公知の制御方法を採用することができる。
キャストロール2の表面温度は、アクリル系樹脂のガラス転移温度に応じて任意に設定すればよいが、通常、キャストロール2の表面温度(T)が(Tg−20℃)≦T≦(Tg)[但し、Tgはアクリル系樹脂のガラス転移温度である。] の範囲内であるのがよい。これに対し、キャストロール2の表面温度(T)を(Tg−20℃)より低い温度に設定すると、アクリル系樹脂が急激に冷却されるので、得られるアクリル系樹脂フィルム10(以下、フィルム10と言う。)の平坦性が低下するおそれがある。また、(Tg)より高い温度に設定すると、樹脂が冷却されにくく、同様にフィルム10の平坦性が低下するおそれがある。
キャストロール2の周速度は、アクリル系樹脂の吐出量、吐出速度、所望するフィルム厚み等に応じて調整され、通常、3〜100m/分程度、好ましくは15〜50m/分程度である。
キャストロール2の下流側には、さらに冷却ロール5が配設されている。冷却ロール5は、キャストロール2に対向配置されフィルム10を冷却固化するものである。冷却ロール5としては、例えばドリルドロール、スパイラルロール等の金属ロールが挙げられる。
エアーナイフ3は、キャストロール2に対向配置されフィルム10にエアーを吹き付け、該フィルム10をキャストロール2の表面に密着させるものである。ここで、エアーナイフ3は、図2に示すように、押出されるフィルム10の幅方向両端部に2台配設されており、各エアーナイフ3から吹き付けられる空気温度は20〜160℃、好ましくは40〜140℃、より好ましくは60〜120℃に設定されている。
このような特定温度のエアーをフィルム10両端部に吹き付けると、フィルム10両端部をキャストロール2表面に均一密着させることができ、その結果、フィルム10中央部がフィルム10両端部間に張設された状態でキャストロール2表面に接触する。このような特定の状態でフィルムを成膜すると成膜状態が安定し、フィルム10の表面状態を良好にすることができる。
一方、各エアーナイフ3が前記特定の位置に配設されておらず、キャストロール2上のフィルム10両端部にエアーが吹き付けられないと、フィルム10両端部が急激に冷却固化される。その結果、フィルム10両端部に歪みが発生し、該端部から裂けてフィルム10が破断する。
エアーナイフ3から吹き付けられる空気温度が20℃より低いと、冷却設備を有する送風機を設置する必要があり、コスト的な問題が生じる。また、フィルム10両端部が急激に冷却固化され、該固化がフィルム10とキャストロール2との接点より上方にまで進行する。すなわち、ダイ1から溶融状態でフィルム状に押出されたアクリル系樹脂が、キャストロール2と接触する前に既に冷却固化された状態になり、キャストロール2との密着性の効果が得られにくくなる。エアーナイフ3から吹き付けられる空気温度が160℃よりも高いと、キャストロール2への密着性は高まるものの、樹脂温度が高くなりすぎ、フィルム幅方向の厚み誤差が大きくなってフィルム10の平滑性が損なわれる。
各エアーナイフ3から吹き付けるエアーの温度は全て均一であり、エアーナイフ3間で実質的に温度差がないのが望ましい。そのため、本実施形態では、図2に示すような温度調整機構を採用している。すなわち、同図に示すように、エアー加熱手段20(熱風の送風が可能なブロワー等)で加熱加圧されたエアーは、分岐管21を通って各エアーナイフ3に送られる。このとき、エアー加熱手段20から各エアーナイフ3までの距離の違いにより、熱損失に差が生じ、各エアーナイフ3から吹き付けるエアーの温度に差が生じるおそれがある。
そこで、各エアーナイフ3のエアー吹き出し口近傍に、図示しない温度センサを取り付けると共に、該温度センサと電気的に接続された温度調節機22をエアーナイフ3ごとに設け、該温度調節機22より熱媒(オイル等)をエアー吹き出し口近傍に循環させている。そして、温度センサで検知された温度が設定温度を下回った場合には、温度調節機22より熱媒が送られ、エアー吹き出し温度を全てのエアーナイフ3で均一になるようにしている。
各エアーナイフ3がエアーを吹き付ける領域Aは、押出されるフィルム10の幅に対して、フィルム10の幅方向端部から1〜20%の領域であるのがよい。これに対し、前記領域Aが1%よりも小さいと、エアーを吹き付けることによる効果が得られにくくなる。また、フィルム10のうち、エアーナイフ3からエアーを吹き付けられる部分は、厚みが変動して表面状態が悪くなる場合があることから、前記領域Aが20%よりも大きくなると、製品として採取される幅が小さくなり、収率低下を招く。
エアーナイフ3とキャストロール2との間隔は、フィルム10をキャストロール2に密着させる効果が得られる程度であればよく、任意に設定されるものであるが、一般的には0.1〜10mm程度、好ましくは0.5〜1.5mm程度である。また、エアーナイフ3から送風されるエアーの圧力は、フィルム10をキャストロール2に密着させる効果が得られる程度であればよく、特に限定されるものではない。
各エアーナイフ3は、それぞれ独立に図3に示すような取り付け位置の調節、図4に示すような縦向きの上下角度調節、および図5に示すような横向きの傾斜角度調節が可能である。
具体的には、各エアーナイフ3は、図3に示すように、キャストロール2の周方向に沿って取り付け位置(すなわちエアー吹き付け位置)を調節自在に構成されている。すなわち、各エアーナイフ3は、キャストロール2の軸心2aを中心とする円弧状領域内で取り付け位置を調節自在に構成されている。
各エアーナイフ3の取り付け位置の調節は、例えばキャストロール2の外周に沿って複数の円弧状ガイドレール(図示せず)を設け、それぞれのガイドレールにエアーナイフ3をスライド自在に取り付け、任意な位置でエアーナイフ3をガイドレールに固定できるようにすればよい。
エアーナイフ3の縦向き(すなわち押出されたフィルム10の移動方向)における角度調節は、図4に示すように、例えば前記したエアーナイフ3のガイドレールの固定位置で、エアーナイフ3の角度を上下に振り、所定の角度でねじ止めなどで固定すればよい。
エアーナイフ3の横向きの角度調節は、図5に示すように、例えばガイドレールの所定位置において、エアーナイフ3の支持部(図示せず)を所定の縦向き角度に固定した状態で、該支持部に対してエアーナイフ3を横向きに傾け、所定の傾斜角度でエアーナイフ3を固定するようにすればよい。
このようにエアーナイフ3の取り付け位置、縦向きの上下角度、および横向きの傾斜角度をそれぞれ調節可能とすることにより、エアーナイフ3の風向を調整することができる。風向は、押出されるフィルム10をキャストロール2に密着させる効果が得られる向きであれば任意に設定可能であるが、一般的には、押出されるフィルム10とキャストロール2との接点より下流側であり、かつフィルム10が冷却固化されるまでの位置が好ましく、ダイ2から押出されるアクリル系樹脂の吐出量、吐出速度を考慮して設定する。
上記の製造装置を用いてフィルム10を製造するには、まず、アクリル系樹脂を押出機内で溶融混練し、該樹脂をダイ1からフィルム状に押出す。ついで、押出されたフィルム状のアクリル系樹脂を、キャストロール2に接触させながら連続的に搬送する。
このとき、キャストロール2に対向配置され、押出されるフィルム10の幅方向両端部に2台配設されたエアーナイフ3からキャストロール2上のフィルム10両端部に20〜160℃の空気温度を有するエアーを吹き付ける。これにより、フィルム10両端部をキャストロール2表面に均一密着させ、フィルム10中央部をフィルム10両端部間に張設した状態でキャストロール2表面に接触させて成膜する。
成膜されたフィルム10は、キャストロール2および冷却ロール5間に通され、図示しない引取りロールにより搬送ロール上を冷却されながら図1中の矢印Y方向へ引取られて、フィルム10が得られる。
得られるフィルム10の厚さは10〜200μmである。前記厚さが10μmよりも薄いと、フィルムの剛性が低下して破断しやすくなる。また、200μmよりも大きいと、フィルムの成膜状態が不安定になり表面状態が悪化すると共に、冷却されにくくなるので蒸散成分が蒸散しやすくなり、融点180℃以下の添加剤の含有量が800ppmよりも多いと、成膜中にロール汚れが発生する。フィルム10の厚さは、キャストロール2の周速度等により調整することができる。
フィルム10は、ロール等でフィルム両面が高圧力で挟み込まれていないので配向性が低く、かつ前記特定の状態で成膜していることにより表面状態が良好であり、例えば自動車の内装や家電製品の外装、携帯電話などの表面加飾に好適に使用することができる。
以下、実施例を挙げて本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例および比較例において、含有量ないし使用量を表す%及び部は、特記しないかぎり重量基準である。
以下の実施例および比較例で使用したアクリル系樹脂は、以下の通りである。
(アクリル系樹脂)
アクリル系樹脂としてメタクリル樹脂を用い、該メタクリル樹脂として、メタクリル酸メチル97.8%とアクリル酸メチル2.2%とからなる単量体のバルク重合により得られた熱可塑性重合体(ガラス転移温度104℃)のペレットを用いた。なお、このガラス転移温度は、JIS K7121:1987に従い、示差走査熱量測定により加熱速度10℃/分で求めた補外ガラス転移開始温度である。
以下の実施例および比較例で使用したアクリル系ゴム粒子は、以下の3種類である。
(アクリル系ゴム粒子A)
アクリル系ゴム粒子Aとして、最内層がメタクリル酸メチル93.8%とアクリル酸メチル6%とメタクリル酸アリル0.2%とからなる単量体の重合により得られた硬質重合体であり、中間層がアクリル酸ブチル81%とスチレン17%とメタクリル酸アリル2%とからなる単量体の重合により得られた弾性重合体であり、最外層がメタクリル酸メチル94%とアクリル酸メチル6%とからなる単量体の重合により得られた硬質重合体であり、最内層/中間層/最外層の重量割合が35/45/20であり、中間層の弾性重合体の層の平均粒子径が0.22μmである、乳化重合法による球形3層構造のゴム粒子を用いた。
(アクリル系ゴム粒子B)
アクリル系ゴム粒子Bとして、前記アクリル系ゴム粒子Aと基本的に同じ組成であるが、重合条件を変えることにより、中間層の弾性重合体の層の平均粒子径が0.14μmとなった球形3層構造のゴム粒子を用いた。
(アクリル系ゴム粒子C)
アクリル系ゴム粒子Cとして、最内層がアクリル酸ブチル81%とスチレン17%とメタクリル酸アリル2%とからなる単量体の重合により得られた弾性重合体であり、最外層がメタクリル酸メチル94%とアクリル酸メチル6%とからなる単量体の重合により得られた硬質重合体であり、最内層/最外層の重量割合が80/20であり、最内層の弾性重合体の層の平均粒子径が0.08μmである、乳化重合法による球形2層構造のゴム粒子を用いた。
前記アクリル系ゴム粒子A,B及びCにおける中間層または最内層の弾性重合体の層の平均粒子径は、次の方法で測定した。まず、アクリル系ゴム粒子をメタクリル樹脂と混合してフィルム化し、得られたフィルムを適当な大きさに切り出し、切片を0.5%四酸化ルテニウム水溶液に室温で15時間浸漬してゴム粒子部分(弾性重合体の層に該当する部分)を染色した。ついで、ミクロトームを用いて約80nmの厚さにサンプルを切断した後、透過型電子顕微鏡で写真撮影を行った。この写真から無作為に100個の染色されたゴム粒子部を選択し、その各々の粒子径を算出した後、その平均値を平均粒子径とした。
以下の実施例および比較例で使用した添加剤は、次の通りである。
滑剤A:ステアリン酸モノグリセライド、融点68℃。
滑剤B:ステアリン酸アミド、融点145℃。
紫外線吸収剤A:ベンゾトリアゾール系、融点195℃(チバスペシャリティーケミカルズ社製の商品名「チヌビン360」)。
紫外線吸収剤B:ベンゾトリアゾール系、融点127℃(チバスペシャリティーケミカルズ社製の商品名「チヌビンP」)。
酸化防止剤A:ヒンダードフェノール系、融点120℃(SONG WOUN社製の商品名「Songnox1010」)。
[実施例1〜12および比較例1,2]
<アクリル系樹脂フィルムの作製>
上記のアクリル系樹脂、アクリル系ゴム粒子および添加剤を表1に示す組み合わせで用いた。すなわち、上記のメタクリル樹脂ペレット100重量部に対し、アクリル系ゴム粒子A,BおよびCを、表1に示す割合で加え、スーパーミキサーにて混合し、二軸押出機にて表1に示す割合の添加剤をフィードしつつ、溶融混錬してメタクリル樹脂組成物のペレットとした。
このメタクリル樹脂組成物のペレットを、直径65mmφの一軸押出機(東芝機械(株)製)で溶融し、設定温度275℃のT型ダイを介して押出し、得られるフィルム状物を、表面が平滑な金属製のロールとエアーナイフとの間に流し、幅1620mmで表2に示す所定の厚みを有するアクリル系樹脂フィルムを成形した。
なお、前記金属製のロールは、横型であり、面長1800mm、外径450mmφ、表面温度(T)80℃である。前記ロールの周速度は、得られるフィルムの厚みが表2に示す厚みとなるように調整した。
エアーナイフは、押出されるフィルムの幅方向両端部に2台配設し、各エアーナイフから吹き付けられる空気温度を表2に示す温度に設定した。各エアーナイフがエアーを吹き付ける領域は、押出されるフィルムの幅に対して、押出されるフィルムの幅方向端部から7%の領域にした。また、各エアーナイフの取り付け位置、縦向きの上下角度、および横向きの傾斜角度は、以下の通りである。
取り付け位置:鉛直下向きにダイから吐出されたフィルムがロール表面と接触する位置。
縦向きの上下角度および横向きの傾斜角度:エアーナイフのエアー吹き出し口が水平方向になる角度(図4,図5中、実線で示すエアーナイフ3を参照)。
Figure 2009234229
<評価>
上記実施例1〜12および比較例1,2で作製した各フィルムについて、ロール汚れおよび表面状態を評価した。各評価方法を以下に示すと共に、その結果を表2に示す。
(ロール汚れの評価方法)
ロールに付着する蒸散成分を目視観察した。なお、判定基準は以下のものを用いた。
◎:蒸散成分の付着なし
○:蒸散成分の付着が軽微
△:蒸散成分の付着が多い
×:蒸散成分の付着が顕著であり、かつ付着物がフィルムに転写した
(表面状態の評価方法)
フィルムの表面(両面)を目視観察した。なお、判定基準は以下のものを用いた。
◎:良好である
○:僅かに粗れているものの、実使用上は問題のない範囲
△:粗れている
×:ざらつき、凹凸、白濁などの不良が顕著にある
Figure 2009234229
表2から明らかなように、エアーナイフを押出されるフィルムの幅方向両端部に2台配設し、かつ各エアーナイフから吹き付けられる空気温度を20〜160℃にし、フィルムの厚さを10〜200μmにした実施例1〜12では、表面状態が良好なアクリル系樹脂フィルムが得られているのがわかる。特に、融点180℃以下の添加剤の含有量を800ppm以下にした実施例1〜10では、ロール汚れの評価結果において優れた結果を示した。
一方、フィルムの厚さが200μmよりも大きい比較例1、およびエアーナイフから吹き付けられる空気温度が160℃よりも高い比較例2は、いずれも表面状態に劣る結果を示した。
本発明のアクリル系樹脂フィルムの製造方法に用いる製造装置を示す概略側面図である。 図1に示す製造装置におけるエアーナイフとロールとの位置関係を示す概略平面図である。 エアーナイフの取付け位置調節方法を示す概略説明図である。 エアーナイフの縦向きの角度調節方法を示す概略説明図である。 エアーナイフの横向きの傾斜角度調節方法を示す概略説明図である。
符号の説明
1 ダイ
2 キャストロール
3 エアーナイフ
5 冷却ロール
10 アクリル系樹脂フィルム

Claims (5)

  1. 溶融したアクリル系樹脂をダイからフィルム状に押出して1本のロールに接触させ、前記ロールの回転によりアクリル系樹脂フィルムを搬送する過程でエアーナイフからエアーを吹き出させて前記アクリル系樹脂フィルムを前記ロールに密着させアクリル系樹脂フィルムを製造する方法であって、
    前記エアーナイフは、押出されるアクリル系樹脂フィルムの幅方向両端部に2台配設されており、
    前記エアーナイフから吹き付けられる空気温度が20〜160℃であることを特徴とする、厚さ10〜200μmのアクリル系樹脂フィルムの製造方法。
  2. 前記エアーナイフがエアーを吹き付ける領域は、押出されるアクリル系樹脂フィルムの幅に対して、押出されるアクリル系樹脂フィルムの幅方向端部から1〜20%の領域である請求項1記載のアクリル系樹脂フィルムの製造方法。
  3. 前記アクリル系樹脂が、少なくとも2層以上の多層構造を有するアクリル系ゴム粒子を含有する請求項1または2記載のアクリル系樹脂フィルムの製造方法。
  4. 前記アクリル系樹脂が、融点180℃以下の添加剤を800ppm以下の割合で含有する請求項1〜3のいずれかに記載のアクリル系樹脂フィルムの製造方法。
  5. 前記アクリル系樹脂が、融点180℃以下の添加剤を含有しない請求項1〜3のいずれかに記載のアクリル系樹脂フィルムの製造方法。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP2013010225A (ja) * 2011-06-29 2013-01-17 Unitika Ltd ポリアミドフィルムの製造方法

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