JP2009193022A - プラスチックレンズの処理方法及び反射防止膜の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】蒸着時の真空度により屈折率が変わりやすい金属酸化物を含む反射防止膜を製造するにあたって、屈折率のバラツキを抑制する。
【解決手段】プラスチックレンズ等の基板にハードコートを塗布する工程S3と、ハードコートを硬化する工程S4と、液体で洗浄する工程S5と、基板の水分率を低下する水分率低下工程S6と、この基板に金属酸化物を蒸着して反射防止膜を形成する工程S13とを有する。これらの工程を経由することで、基板の水分率が低下されるため、蒸着時の基板付近の真空度低下が抑制され、蒸着後の金属酸化物の屈折率バラツキを抑えることができる。
【選択図】図7
【解決手段】プラスチックレンズ等の基板にハードコートを塗布する工程S3と、ハードコートを硬化する工程S4と、液体で洗浄する工程S5と、基板の水分率を低下する水分率低下工程S6と、この基板に金属酸化物を蒸着して反射防止膜を形成する工程S13とを有する。これらの工程を経由することで、基板の水分率が低下されるため、蒸着時の基板付近の真空度低下が抑制され、蒸着後の金属酸化物の屈折率バラツキを抑えることができる。
【選択図】図7
Description
本発明は、例えば眼鏡用プラスチックレンズにおける反射防止膜の形成を含む表面の処理に適用して好適なプラスチックレンズの処理方法及び反射防止膜の形成方法に関する。
レンズや光学フィルム等の光透過性の基板の表面には、光の反射による見えにくさを解消するために、反射防止膜が施される。反射防止膜には、高い反射防止効果を得る構成として、高屈折率層と低屈折率層を交互に積層して成膜された積層膜が広く用いられている。そしてこの積層膜は、入射光の波長帯域と、この波長帯域における高屈折率層及び低屈折率層の各屈折率とから個々の層の膜厚が設定されて、目的とする波長帯域の光に対して最も反射しにくい状態になるように構成される。成膜方法としては蒸着が一般的である。
低屈折率層形成用の蒸着材料としては、二酸化珪素(SiO2)がよく用いられている。二酸化珪素は膜の硬度が高いので、反射防止膜を形成する基板が例えば合成樹脂、すなわちプラスチックレンズ等のように表面が比較的柔らかく傷つきやすい場合に、その欠点を補うことができるという利点を有する。
また、高屈折率層形成用の蒸着材料としては、酸化タンタル(Ta2O5)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化チタン(TiO2)、酸化二オブ(Nb2O5)などが用いられている(特許文献1参照)。
上述した反射防止膜の高屈折率層形成用の材料の中で、酸化ジルコニウム、いわゆるジルコニア(ZrO2)は、酸化タンタルや酸化ニオブ等と比較して安価であり、また蒸着により成膜する場合の成膜レートが高く、生産性に有利である。したがって、ジルコニアはコストの削減が可能な材料として有望である。
しかしながら、ジルコニアを真空蒸着で成膜する場合、成膜時の真空度が屈折率に大きく影響するという問題がある。この屈折率の変動は、蒸着装置のチャンバー内の真空度を一定に制御するだけでは十分抑えられなかった。このため、ジルコニアを高屈折率層として用いた反射防止膜は、反射防止効果にバラツキが生じやすかった。特に、大きなチャンバーになるほど、すなわち一度の蒸着で大量の基板に蒸着を行う場合ほど、このような真空度の制御が困難となってしまい、生産性が損なわれてしまうという問題があった。
以上の問題に鑑みて、本発明は、蒸着時の真空度により屈折率が変わりやすい金属酸化物を含む反射防止膜を形成するにあたって、屈折率のバラツキを抑制することを目的とする。
上記課題を解決するため、本発明は、プラスチックレンズ用の基板の水分率を低下する水分率低下工程と、水分率低下工程の後に、この基板に金属酸化物を蒸着して反射防止膜を形成する工程と、を有することを特徴とする。
蒸着時の真空度によって屈折率が変動する金属酸化物を基板に形成する場合、屈折率の変動を抑制するには、真空チャンバー内だけではなく、蒸着対象物の直近の真空度を精度良く制御することが重要である。本発明者等の研究考察の結果、このような蒸着対象物の直近の真空度は、蒸着対象物である基板から放出されるガス、特にプラスチックの場合は基板の含有する水分率によって左右されることが明らかになった。したがって、金属酸化物を蒸着する前に、予め基板の水分率を低下させておくことによって、その後金属酸化物を蒸着により成膜する際に、金属酸化物の屈折率の変動を抑えることができる。
特に、金属酸化物がジルコニア(ZrO2)を含む場合には、基板の水分率を低下させてから蒸着することによって、屈折率の変動を抑えることができる。
本発明において、水分率低下工程は、加熱による乾燥工程とすることが望ましい。乾燥工程を蒸着前に行うことで、生産効率の低下を抑制することができる。
また、本発明において、水分率低下工程の前に、ハードコートを硬化する工程を有する場合は、水分率低下工程である乾燥工程を、ハードコートの硬化温度よりも低い温度で行うことが望ましい。このように硬化温度より低い温度で水分率を低下することによって、ハードコートの特性を損なうことを抑制ないし回避することができる。
本発明において、水分率低下工程の前に、液体による基板の洗浄工程を有する場合は、洗浄工程直後の基板の水分率よりも低下させることが望ましい。洗浄工程で吸水された水分を低下させ、より望ましくは洗浄工程前の水分率と同等程度に水分量を低下することによって、洗浄による水分量増加の影響を抑制し、屈折率変動をより抑えることができる。
また、基板がプラスチックであり、低屈折率レンズ等のように吸水し易い材料であっても、本発明を適用することで、蒸着後の金属酸化物の屈折率の変動を抑制することができる。
本発明によれば、成膜時の真空度により屈折率が変わりやすいジルコニア等の金属酸化物を含む反射防止膜を形成する際に、屈折率のバラツキを抑制することができる。
以下本発明を実施するための最良の形態の例を説明するが、本発明は以下の例に限定されるものではない。
本発明の実施の形態に係るプラスチックレンズの処理方法及び反射防止膜の形成方法は、上述したように、プラスチックレンズ等の基板の水分量を低下する工程と、この基板に金属酸化物を蒸着して金属酸化物を形成する工程を有する。本発明の実施の形態の例及びその効果を説明する前に、蒸着対象物である基板の水分量が反射防止膜に与える影響について調べた結果を説明する。
本発明の実施の形態に係るプラスチックレンズの処理方法及び反射防止膜の形成方法は、上述したように、プラスチックレンズ等の基板の水分量を低下する工程と、この基板に金属酸化物を蒸着して金属酸化物を形成する工程を有する。本発明の実施の形態の例及びその効果を説明する前に、蒸着対象物である基板の水分量が反射防止膜に与える影響について調べた結果を説明する。
<実験例1>
先ず、基板からのガス放出量と光学特性との関係を調べた。この結果を図1及び図2に示す。図1及び図2は、基板としてプラスチックレンズを用い、基板を1枚とした場合と、200枚とした場合において、それぞれ金属酸化物としてジルコニアおよびSiO2の積層膜により反射防止膜を成膜した場合において、反射率が基準分光値からどの程度ずれるかを示したものである。図1及び図2において実線a1及びa2は実測値、破線b1及びb2は製品の目標とする基準分光値を示す。
先ず、基板からのガス放出量と光学特性との関係を調べた。この結果を図1及び図2に示す。図1及び図2は、基板としてプラスチックレンズを用い、基板を1枚とした場合と、200枚とした場合において、それぞれ金属酸化物としてジルコニアおよびSiO2の積層膜により反射防止膜を成膜した場合において、反射率が基準分光値からどの程度ずれるかを示したものである。図1及び図2において実線a1及びa2は実測値、破線b1及びb2は製品の目標とする基準分光値を示す。
図1と図2を比較すると明らかなように、基板200枚を蒸着装置内に装着して蒸着を行った場合(図2)は、1枚のみを蒸着する場合(図1)と比べて、特に波長λが700nm以上の波長帯域において基準分光値からより大きく反射率が低下してしまうことがわかる。反射率特性は、蒸着膜の屈折率nと膜厚dとの積(nd)に依存するが、この場合、基板の枚数が多くなることによって、屈折率nも膜厚dも共に大きくなっていると考えられる。そしてこのような反射率の変動は、基板の枚数が多いときに顕著となることから、基板から放出されるガスの量を極力減らすことにより、基板表面に所定の分光特性を有する反射防止膜を成膜することができると考えられる。
例えばプラスチックレンズの基板の場合は、大気中の水分を取り込むことや、蒸着前の洗浄工程における水分吸収によって、水分を比較的多く含有していると考えられる。つまり、蒸着膜の光学特性に影響を与えるような基板からの放出ガスとしては水分が最も多く、基板の含有する水分量が、基板付近の真空度に最も大きく影響すると思われる。この仮定に基づき、次の実験を行った。
<実験例2>
蒸着対象物の基板としてプラスチックレンズを用いて、吸水状態について調べた。以下の例では、2種類の異なるプラスチックレンズを基板試料として用意し、温湿環境下及び温水浸漬の2つの条件下において吸水状態を確認した。ここで基板試料SLは熱硬化性アリル樹脂より成る中屈折率レンズ、基板試料HLは熱硬化性アリル樹脂より成る低屈折率レンズを用いた。これらHL及びSLは眼鏡用のプラスチックレンズである。
蒸着対象物の基板としてプラスチックレンズを用いて、吸水状態について調べた。以下の例では、2種類の異なるプラスチックレンズを基板試料として用意し、温湿環境下及び温水浸漬の2つの条件下において吸水状態を確認した。ここで基板試料SLは熱硬化性アリル樹脂より成る中屈折率レンズ、基板試料HLは熱硬化性アリル樹脂より成る低屈折率レンズを用いた。これらHL及びSLは眼鏡用のプラスチックレンズである。
検査方法の条件を以下に示す。
1.室内保管していたレンズを120℃のオーブンに投入して4時間乾燥する。
2.4時間経過した時のレンズの重量を基準重量とする。
3−1.温水浸漬(40℃の温水にレンズを浸漬)し、レンズ重量の経時変化を計測する。
3−2.温湿環境下(温度40℃で相対湿度90%RH)にレンズを放置し、レンズ重量の経時変化を計測する。
1.室内保管していたレンズを120℃のオーブンに投入して4時間乾燥する。
2.4時間経過した時のレンズの重量を基準重量とする。
3−1.温水浸漬(40℃の温水にレンズを浸漬)し、レンズ重量の経時変化を計測する。
3−2.温湿環境下(温度40℃で相対湿度90%RH)にレンズを放置し、レンズ重量の経時変化を計測する。
この結果を図3に示す。図3において、実線c1及び破線c2は試料HL(低屈折率レンズ)の場合で、それぞれ40℃温水浸漬又は温湿環境下での重量変化を示す。また、実線d1及び破線d2は試料SL(中屈折率レンズ)の場合で、それぞれ40℃温水浸漬又は温湿環境下での重量変化を示す。なお、経過時間が0未満の領域は、120℃のオーブンで乾燥している状態での重量変化を示す。
図3から明らかなように、レンズ基板はテスト開始後の比較的初期の段階において、急激に水分を吸収しており、その後、100時間を経過した頃から緩やかに吸水量が変化する。このことから、乾燥状態のレンズの方が、レンズの基板表面からの吸水能力に優れるが、時間が経過すると吸水能力が低下することがわかる。これは、基板の内部方向に浸透する速度が基板表面と比べて緩やかであるためであると思われる。
また、100時間を経過した時点から重量の変化が少なくなるのは、レンズ外部からの水分供給とレンズからの水分放出が平衡に近い状態となるためであると思われる。水分状態がほぼ完全に平衡となった状態での水分量は、飽和水分量と見なすことができる。
また一方、吸水前の乾燥状態での吸水量の変化について着目すると、120℃で加熱乾燥する場合は、4時間程度で吸水量の減少の度合いが減っていることがわかる。すなわち室内保管の基板を完全に乾燥するには、120℃で4時間程度必要であると考えられる。
<実験例3>
次に、試料の水分率を低下させて水分量の変化を調べた。この例においては、実験例2において吸水した基板試料を用いて、加熱により乾燥して水分率低下を試みた。具体的には、飽和吸水量に達した各基板試料のレンズを一旦室内に保管し、70℃の乾燥オーブンに入れて、重量がどのように変化するか確認した。この結果を図4に示す。なお、乾燥温度は、真空蒸着の前にハードコートが形成されていることを想定して設定した。ハードコートの機能を損なわない加熱温度としては、ハードコートの硬化温度より30℃以上低い温度とすることが望ましい。硬化温度が例えば120℃である場合は90℃以下であればよいが、ここでは70℃とした。
次に、試料の水分率を低下させて水分量の変化を調べた。この例においては、実験例2において吸水した基板試料を用いて、加熱により乾燥して水分率低下を試みた。具体的には、飽和吸水量に達した各基板試料のレンズを一旦室内に保管し、70℃の乾燥オーブンに入れて、重量がどのように変化するか確認した。この結果を図4に示す。なお、乾燥温度は、真空蒸着の前にハードコートが形成されていることを想定して設定した。ハードコートの機能を損なわない加熱温度としては、ハードコートの硬化温度より30℃以上低い温度とすることが望ましい。硬化温度が例えば120℃である場合は90℃以下であればよいが、ここでは70℃とした。
図4において、実線eは上述の基板試料HLの平均、実線fは基板試料SLの平均をそれぞれ示す。なお、記号□及び×は温湿環境下で放置したHL、記号■及び○は同様に温湿環境下で放置したSLを示す。図4から明らかなように、いずれのレンズの場合も乾燥開始直後に急激な重量変化が生じている。これは、レンズ表面部に吸着していた水分が初期に放出されることによるものであると思われる。その後重量変化はなだらかになるが、レンズ内部に浸透した水分が拡散してレンズ表面に到達するまでに時間を要すると考えられる。なお、実験例2において吸水速度が速かった低屈折率レンズHL(図3参照)の方が、より速く脱水していることがわかる。
図4の結果から、室内放置に近い温湿環境下、又は強制吸水に近い温水浸漬下で飽和吸水量近くまで吸水した基板に対し、製造ラインにおいて現実的に可能な温度である70℃で元の水分量に近い値となるまで乾燥するには、約10時間程度必要であることがわかる。
実験例2及び3については、基板として他の膜が成膜されていないレンズを用いたが、一般に眼鏡用のプラスチックレンズやその他の光学シート基板等においては、反射防止膜と共にハードコートが形成される。次に、ハードコートを形成した場合の吸水量について調べた結果を説明する。
<実験例4>
実験例2及び3と同様に、基板として低屈折率及び中屈折率プラスチックレンズ基材である基板試料HL及びSLを用いて、ハードコートを成膜した後の吸水量について調べた。以下の例では、各試料について、ハードコート液を塗布した後120℃で1時間のハードコート膜を硬化させる処理を行った。その後基板の洗浄処理を水により20分行い、洗浄工程の前後での重量を測定して、吸水量の変化を調べた。試料HL及びSLのサンプル数Nは共に2とした。この結果を下記の表1に示す。
実験例2及び3と同様に、基板として低屈折率及び中屈折率プラスチックレンズ基材である基板試料HL及びSLを用いて、ハードコートを成膜した後の吸水量について調べた。以下の例では、各試料について、ハードコート液を塗布した後120℃で1時間のハードコート膜を硬化させる処理を行った。その後基板の洗浄処理を水により20分行い、洗浄工程の前後での重量を測定して、吸水量の変化を調べた。試料HL及びSLのサンプル数Nは共に2とした。この結果を下記の表1に示す。
この実験例においては、ハードコートの硬化工程で120℃1時間の加熱が施されるため、硬化前に基板が吸水していた水分はある程度脱水されており、洗浄前の吸水量は比較的低いと思われる。そして表1の結果から、洗浄前後の基板の吸水量は微少であり、ハードコート形成後の基板は、ハードコート形成前の基板と比べて吸水率が低いことがわかる。この場合、吸水された水は主に基板の表層部に吸着していると考えられる。このことから、ハードコート形成後、特に蒸着直前に洗浄工程を含む場合には、少なくとも洗浄時に吸着した表層部の水分を除去する必要があると考えられる。水以外の水溶液等、各種液体を用いて洗浄を行う場合も、同様に水分除去が必要となると推定される。
<考察>
以上の実験例1〜4の結果から、以下のことがわかる。
先ず、ハードコート硬化後の洗浄工程で吸着した水分を、硬化温度以下の例えば70℃の乾燥オーブンで乾燥させる場合、乾燥時間はそれほど必要としないものと思われる。その一方で、熱硬化に係る時間は多くて60分程度であり、実験例3の結果から得られた室内放置からほぼ完全乾燥にいたる時間と考えられる4時間よりも短い。したがって、ハードコート硬化前に吸水した水分を確実に低下させるには、硬化処理だけでは不足する可能性がある。以上のことを総合すると、下記のことがわかる。
以上の実験例1〜4の結果から、以下のことがわかる。
先ず、ハードコート硬化後の洗浄工程で吸着した水分を、硬化温度以下の例えば70℃の乾燥オーブンで乾燥させる場合、乾燥時間はそれほど必要としないものと思われる。その一方で、熱硬化に係る時間は多くて60分程度であり、実験例3の結果から得られた室内放置からほぼ完全乾燥にいたる時間と考えられる4時間よりも短い。したがって、ハードコート硬化前に吸水した水分を確実に低下させるには、硬化処理だけでは不足する可能性がある。以上のことを総合すると、下記のことがわかる。
1.基板にハードコート硬化処理を行う前に、室内保存であってもある程度吸水しているので、水分量を低下することが望ましい。
2.ハードコートを硬化処理によって形成する場合、硬化後の基板は、洗浄処理等を行っても表面に水分が僅かに吸着する程度であり、吸水率は低下する。
3.ハードコートを熱硬化処理によって形成する場合、硬化前に吸水した水分は硬化時の加熱によりいくらか脱水されるが、硬化処理だけでは脱水は不十分であり、他に水分率を低下する工程を設ける必要がある。
2.ハードコートを硬化処理によって形成する場合、硬化後の基板は、洗浄処理等を行っても表面に水分が僅かに吸着する程度であり、吸水率は低下する。
3.ハードコートを熱硬化処理によって形成する場合、硬化前に吸水した水分は硬化時の加熱によりいくらか脱水されるが、硬化処理だけでは脱水は不十分であり、他に水分率を低下する工程を設ける必要がある。
また、上述の結果から、蒸着前に行う水分率低下工程として70℃程度で通常の乾燥処理を行う場合は、中屈折率レンズSL及び低屈折率レンズHL共に、1時間以上行うことが好ましいといえる。なお、図4の結果から、上述したように低屈折率レンズHLは比較的吸水速度が速いが、脱水速度も比較的速いことが分かる。したがって、両者共に1時間以上の乾燥を行うことで、水分量低下処理を確実に行うことができると考えられる。
次に、水分率を低下したプラスチックレンズ等の基板に反射防止膜を蒸着する工程について説明する。図5に、本発明の実施の形態に用いる蒸着装置の一例の概略構成を示す。この蒸着装置1は、真空容器10いわゆるチャンバー内に、蒸着物質を保持する蒸着源2と、電子銃3と、蒸着源2に対向して基板20を保持する基板保持部材5が配置される。図示の例では、ドーム型の基板保持部材5を設けて、例えば眼鏡用のプラスチックレンズが複数枚、例えば100枚〜200枚程度保持され、図示しない駆動機構により矢印rで示すように回転する構成とする。また基板保持部材5の上部、真空容器10の内側に水晶膜厚計等の膜厚測定計6が設けられる。真空容器10には排気手段11が接続され、電子銃3に電源12が接続される。
真空容器10には予備室13が連結されていてもよい。予備室13においても基板保持部材15が収容され、同様に複数枚の基板20が保持される。予備室13は、基板保持部材15に保持される基板20の水分率を低下する手段として、例えば加熱乾燥機構を設ける構成とすることが望ましい。また、図示の例では、予備室13に1つの基板保持部材15を配置しているが、2以上の基板保持部材を配置して、同時に加熱等により水分率を低下する処理を行う構成としてもよい。例えば蒸着処理が30分程度であり、加熱処理を60分行う場合には、予備室13にて2つの基板保持部材を配置し、30分を1周期として合計60分加熱乾燥した基板保持部材を真空容器10側に移動することで、タクトタイムの増加を抑えることができる。すなわち、このように予備室を設けて水分率低下を行い、且つ、蒸着に要する時間と水分率低下の処理時間とを考慮して基板保持部材の配置個数を適宜選定することによって、水分率低下工程の追加によるタクトタイムの増加を抑えることが可能となる。
この蒸着装置1において蒸着を行う場合は、例えば予備室13において予め加熱等により基板20の水分率を低下させた後、真空容器10内に基板保持部材5を導入して、真空容器10内を密閉し、排気手段11により所定の真空度に排気する。そして、電源12により所定の電圧を電子銃3に印加する。電子銃3から出射された電子は図示しない偏向電子ビーム機構によって矢印bで示すように蒸着源2に向かい、蒸着源2内の蒸着材料、例えばジルコニアに照射される。電子照射によって加熱された蒸着材料は、矢印aで示すように基板保持部材5の内側に向かって飛散し、基板20の表面に成膜される。
なお、蒸着装置1としては図5に示す例に限定されるものではなく、その他イオンアシスト法を利用した蒸着装置等、各種構成の蒸着装置を採用できる。
なお、蒸着装置1としては図5に示す例に限定されるものではなく、その他イオンアシスト法を利用した蒸着装置等、各種構成の蒸着装置を採用できる。
次に、このような蒸着装置を用いてプラスチックレンズより成る基板に反射防止膜の形成を含む表面処理を行う実施の形態について説明する。この例においては、図6にその一例の概略断面構成図を示すように、眼鏡用のプラスチックレンズより成る基板20の両側の表面に、ハードコートの密着性を向上させて耐衝撃性を強化するプライマー層21a及び21b、ハードコート22a及び22b、高屈折率層としてジルコニアを含む反射防止膜23a及び23b、更に撥水コート等の保護層24a及び24bをこの順に形成する例について説明する。
図7は、この実施の形態に係る処理方法のフローチャートの一例である。図7に示すように、先ず、処方度数に対応して曲率等が設定されて成形されたレンズ用の基板20を用意する(ステップS1)。次に、ポリウレタン等より成るプライマー層21a、21bを塗布等により形成する(ステップS2)。なお、プライマー層を設けない場合はもちろんこのステップS2は省略可能である。そして、ハードコート用組成液を基板20にディッピング等により塗布する(ステップS3)。その後基板20を例えば120℃、60分間加熱して、ハードコート22a、22bを硬化する(ステップS4)。次に、ハードコート22a、22bを硬化した基板20を水等の液体により例えば20分間洗浄する(ステップS5)。そして本発明においては、この洗浄工程S5の後に、加熱乾燥等によって水分率を低下させる処理を行う(ステップS6)。
次に、基板20に金属酸化膜等を蒸着する蒸着工程に入る(ステップS10)。先ず、基板20を蒸着装置1の真空容器10内に入れる(ステップS11)。そして、真空容器10内の空気を排気する(ステップS12)。続いて、所定の真空度に達した状態で、蒸着源2を電子照射等により加熱し、基板20の表面に金属酸化膜の蒸着を行う(ステップS13)。これにより、基板20の一方の表面の反射防止膜23aを形成する。次に、必要に応じて撥水コート24aを形成する(ステップS14)。なお、撥水コートを蒸着以外の方法で形成することも可能であり、その場合は蒸着装置での処理を終了して外部に搬出した後に撥水コート24a、24bを形成してもよい。
その後、続けて基板20に蒸着を行うかどうか判断する(ステップS15)。例えば基板20のもう一方の表面に反射防止膜23bを蒸着し、撥水コート24bを形成する場合は、例えば基板20を裏返すなどの作業を行って、蒸着する基板を用意し(ステップS16)、ステップS11に戻る。ステップS15において、続けて蒸着する基板がないと判断された場合は、処理の終了(ステップS17)となる。
図7に示す処理工程を経ることによって、基板の水分率を低下させた後に蒸着を行うこととなるので、基板から放出される水分によって真空度が損なわれることなく、屈折率のバラツキが抑制された金属酸化物を形成することができる。これにより、プラスチックレンズ等の基板上に生産性よく反射防止膜の形成を含む表面処理を行うことが可能となる。
図7に示すS1〜S16の工程によって、水分率低下工程として70℃1時間の処理を行って図6に示す膜構成のプラスチックレンズを処理したところ、分光特性のズレが起因となる反射色の不良発生率が50%程度であったところを、2%に減少させることができた。なお、不良品の判定は、製品の目標とする基準反射色のレンズとの対比として目視により行った。
以上説明したように、本発明によれば以下の効果が得られる。
真空蒸着を行う前に、加熱乾燥等によって水分率を低下させることで、基板の周辺の雰囲気の真空度の変動を抑え、これにより真空容器内の真空度の悪下を抑制ないしは回避できる。真空容器内の真空度をほぼ一様に保つことができるので、屈折率のバラツキを抑え、安定した光学特性をもった質の高い金属酸化物層を成膜することができる。
真空蒸着を行う前に、加熱乾燥等によって水分率を低下させることで、基板の周辺の雰囲気の真空度の変動を抑え、これにより真空容器内の真空度の悪下を抑制ないしは回避できる。真空容器内の真空度をほぼ一様に保つことができるので、屈折率のバラツキを抑え、安定した光学特性をもった質の高い金属酸化物層を成膜することができる。
特に、高屈折率材料としてジルコニアを用いる場合は、基板の水分率を低下させておくことで蒸着時の真空度の変動を抑えることができ、真空度の変動により生じる屈折率のバラツキを効果的に抑えることができる。すなわち本発明を適用することによって、安価で成膜レートの高いジルコニア層を、所望の真空度に保持して蒸着することが可能となり、目的とする屈折率のジルコニア層を確実に成膜することができる。これにより、反射防止膜を設けたレンズ等の基板の生産性を大幅に高めることが可能となり、コストの低減化も可能となる。
また、基板からの放出ガスを低減できることから、所望の真空度に比較的短時間で低下させることが可能となるので、蒸着時間を短縮することができる。
更に、水分の放出を抑制して真空度のバラツキを抑えることができるので、真空度の変動がある場合に使用し難いとされる水晶膜厚計を利用することが可能となる。水晶振動子を利用した水晶膜厚計は光学式の膜厚測定計と比べて比較的安価であり、蒸着装置の設備コストを抑えることも可能となる。
更に、水分の放出を抑制して真空度のバラツキを抑えることができるので、真空度の変動がある場合に使用し難いとされる水晶膜厚計を利用することが可能となる。水晶振動子を利用した水晶膜厚計は光学式の膜厚測定計と比べて比較的安価であり、蒸着装置の設備コストを抑えることも可能となる。
また、レンズ等の基板を洗浄する場合は、水分率を少なくとも洗浄工程直後の水分率より低下させ、望ましくは洗浄前の水分率と同等程度に低下させることによって、蒸着工程で基板表面近傍の真空度の変動を抑え、所望の真空度で成膜することができる。洗浄する場合は、洗浄に使用した液体(例えば水や水溶液)の成分がレンズの表面からレンズの本体に向けて浸透する。レンズの特に表皮部分に吸収された水分は、蒸着前の真空引きでレンズ外に放出されやすいことから、レンズ表面の真空度の低下を妨げる。これに対し、本発明によれば、蒸着工程の前に水分率を低下する工程を設けることで、このような基板の表皮付近に吸収された水分を除去することができる。その結果、蒸着時に所望の真空度を保持することができるので、所定の屈折率の酸化物層を成膜することができる。
水分率低下工程として、加熱による乾燥工程とすることで、容易に水分率を低下することができる。例えば蒸着装置の真空容器に連結して設ける予備室において蒸着前の基板を乾燥することで、水分率低下工程を追加することによる生産性の低下を抑制ないしは回避することが可能となる。
基板にハードコートを設ける場合は、その硬化処理工程において、基板内の水分率はある程度低下するが、十分ではなく、特にその後に洗浄工程がある場合は、洗浄後に水分率を低下する工程を設けることが望ましい。その場合に、水分率低下のための加熱温度を硬化温度より低く、望ましくは硬化温度より30℃以上低くすることによって、ハードコートの熱疲労を回避することができる。また、硬化温度に近い温度で加熱すると、ハードコートに熱疲労が生じてしまい、ハードコートに細かな亀裂ができやすくなるが、加熱温度を十分低くすることで、このような亀裂の発生を回避することができる。
また本発明において、基板として眼鏡用等のプラスチックレンズを対象とする場合は、1時間以上の乾燥を行って水分率の低下を行うことにより、基板の近傍の真空度のバラツキを確実に抑制することができる。これにより、チャンバー内の真空度をほぼ一様に保持することができて、基板を大量に同一の蒸着装置内で処理する場合においても、実用的な歩留まりをもって反射防止膜を形成することが可能となる。
なお、本発明は上述の実施形態例において説明した構成に限定されるものではなく、その他本発明構成を逸脱しない範囲において種々の変形、変更が可能である。
1・・蒸着装置、2・・蒸着源、3・・基板、4・・電子銃、5・・基板保持部材、6・・膜厚測定計、11・・排気手段、12・・電源、13・・予備室、15・・基板保持部材、20・・基板、21a,21b・・下地層、22a,22b・・ハードコート、23a,23b・・反射防止膜、24a,24b・・保護層
Claims (8)
- プラスチックレンズ用の基板の水分率を低下する水分率低下工程と、
前記水分率低下工程の後に、前記基板に金属酸化物を蒸着して反射防止膜を形成する工程と、を有する
ことを特徴とするプラスチックレンズの処理方法。 - 前記金属酸化膜がジルコニア(ZrO2)を含むことを特徴とする請求項1記載のプラスチックレンズの処理方法。
- 前記基板を洗浄する洗浄工程を有し、
前記水分率低下工程において、前記基板の水分率を、前記洗浄工程直後の水分率より低下させることを特徴とする請求項1又は2記載のプラスチックレンズの処理方法。 - 前記水分率低下工程は、加熱による乾燥工程であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の反射防止膜の製造方法。
- 前記基板にハードコート液を塗布する工程と、
前記基板を加熱してハードコートを硬化する工程と、を有し、
前記水分率低下工程は、前記ハードコートの硬化温度よりも低い温度で行うことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載のプラスチックレンズの処理方法。 - 基板の水分率を低下した後、
前記基板に金属酸化物を蒸着して反射防止膜を形成する
ことを特徴とする反射防止膜の形成方法。 - 前記金属酸化物がジルコニア(ZrO2)を含むことを特徴とする請求項6記載の反射防止膜の形成方法。
- 前記基板がプラスチックであることを特徴とする請求項6又は7記載の反射防止膜の形成方法。
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