JP2009185319A - 分散強化銅及びその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】母材となるCu又はCu合金と、Tiといった化合物形成元素と、炭素ホウ素源とが混合した溶湯を炭素ホウ素源の融点以上に加熱して、上記化合物形成元素と炭素ホウ素源のC及びBとを反応させて炭化物及びホウ化物を生成する。この溶湯を撹拌して、生成した炭化物及びホウ化物を溶湯中に均一的に分散させて凝固する。この工程により、母材に微細な炭化物粒子及びホウ化物粒子が分散した分散強化銅が得られる。
【選択図】図1
Description
(1) 純Cu、又は純Cuと添加元素とからなるCu合金と、以下の化合物形成元素とC及びBを含有する炭素ホウ素源とが混合した溶湯を準備する工程。化合物形成元素は、Ti,Zr,Hf,V,Nb,Ta,Cr,Mo,及びWからなる群から選択される少なくとも1種の元素とする。
(2) 上記溶湯を上記炭素ホウ素源の融点以上として化合物形成元素と炭素ホウ素源中のC及びBとを反応させて炭化物及びホウ化物を生成すると共に、溶湯を撹拌する工程。
(3) 炭化物及びホウ化物の生成及び撹拌を行った溶湯を冷却して凝固する工程。
<組成>
《母材》
本発明分散強化銅は、純Cu又は純Cuに添加元素を添加したCu合金を主成分(母材)とする。添加元素は、Sn,Ni,Si,Fe,P,Ag,Crなどが挙げられる。例えば、公知の組成のCu-Sn合金、Cu-Ni-Si合金、Cu-Fe-P合金、Cu-Ag合金、Cu-Cr合金、Cu-Si合金を母材に利用できる。本発明分散強化銅は、炭化物及びホウ化物分散組織とすることで強度を高められるため、先に列記した公知の組成のCu合金よりも添加元素の含有量を低減可能である。本発明分散強化銅は、この純Cu又はCu合金からなる母材に、C、B及び化合物形成元素を含む組成である。具体的な組成を以下に挙げる。
組成(I) Cを0.001質量%以上1.0質量%以下、Bを0.001質量%以上2.0質量%以下、化合物形成元素を0.004質量%以上16質量%以下含有し、残部がCu及び不可避的不純物からなる
組成(II) Cを0.001質量%以上1.0質量%以下、Bを0.001質量%以上2.0質量%以下、化合物形成元素を0.004質量%以上16質量%以下含有し、更に、所定量の添加元素を含有し、残部がCu及び不可避的不純物からなる
Coupled Plasma)発光分光分析やX線光電子分光法(XPS)により調べられる。分散強化銅中の炭化物及びホウ化物の存在は、例えば、X線回折(XRD)やエネルギー分散型X線分析(EDX)により調べられる。
本発明分散強化銅中のC及びBの大部分又は全部は、母材中に分散される炭化物、ホウ化物として存在する。本発明では、C及びBの一部がそれぞれ、Cu又はCu合金中に固溶していたり、結晶粒界に析出していたりすることを許容する。C及びBの含有量はそれぞれ、母材中に分散される炭化物、ホウ化物を形成するもの、Cu又はCu合金中に固溶しているもの、Cu又はCu合金に析出しているものの合計とする。Cが0.001質量%未満又はBが0.001質量%未満では、母材中に炭化物及びホウ化物が十分に存在せず、化合物粒子の分散による特性の向上効果が得られない。Cが1.0質量%超又はBが2.0質量%超では、元素が単独で結晶粒界に大量に析出して、逆に特性の低下を招く。Cのより好ましい含有量は、0.01質量%以上0.5質量%以下、Bのより好ましい含有量は、0.1質量%以上1.5質量%以下である。
本発明分散強化銅は、周期律表4A族,5A族,及び6A族の元素、具体的には、Ti,
Hf,V,Cr,Mo,及びWからなる群から選択される少なくとも1種の元素を化合物形成元素として含有する。化合物形成元素は、1種でも、2種以上でもよく、複数種とする場合、合計含有量が0.004質量%以上16質量%以下を満たす。化合物形成元素は、Cuと比較して炭化物及びホウ化物を形成し易い元素であり、その大部分又は全部が上記C及びBとそれぞれ反応して形成された炭化物及びホウ化物として母材中に存在する。本発明では、化合物形成元素の一部がCu又はCu合金中に固溶又は析出していることを許容する。化合物形成元素の含有量は、化合物を形成するもの、固溶しているもの、析出しているものの合計とする。化合物形成元素が0.004質量%未満では、母材中に炭化物及びホウ化物が十分に存在せず、化合物粒子の分散による特性の向上効果が得られない。化合物形成元素が16質量%超では、導電率が低下する。化合物形成元素のより好ましい含有量は、0.01質量%以上4.0質量%以下であり、より好ましい元素は、Tiである。Tiは、強度の向上効果が大きい。好ましい含有量は、化合物形成元素の種類によって異なる。表1に各元素の好ましい上限値、下限値を示す。複数種の化合物形成元素を含有する場合、例えば、3種の元素とするとき、各元素の含有量は、各元素における表1に示す範囲の平均値の1/3が目安となるが、実際に実験をして各元素の最適な含有量を求めてもよい。含有量は、添加量を調整することで適宜調整する。母材をCu合金とする場合、添加元素の一部を化合物形成元素とすることができる。大まかな傾向として、化合物形成元素やB,Cの含有量が多くなると強度が高くなり、含有量が少なくなると導電率が高くなる。
《炭化物及びホウ化物》
本発明分散強化銅は、実質的にCと上記化合物形成元素とから構成される炭化物、及び実質的にBと上記化合物元素とから構成されるホウ化物が母材中に分散されている。上記炭化物は、代表的には、Cと上記化合物形成元素からなるもの、具体的には、TiC,HfC,VC,Cr3C2,Mo2C,WCの1種以上が挙げられ、上記ホウ化物は、代表的には、Bと上記化合物形成元素からなるもの、具体的には、TiB2,
HfB2,VB2,CrB,CrB2,MoB2,Mo2B5,MoB,W2B5の1種以上が挙げられる。上記炭化物やホウ化物中に、上記炭化物やホウ化物の他、Tiといった化合物形成元素をそのまま含有していたり、CuやPといった母材に含有される元素を含有していたりすることを許容する。
<溶湯の作製>
本発明分散強化銅は、原料を用意して溶融し、母材となる純Cu又はCu合金と、上記化合物形成元素と、C及びBを含有する炭素ホウ素源とが混合した溶湯を準備する。溶湯は、全ての原料を混合してから溶融して作製してもよいし、まず、Cu又はCu合金の溶湯を作製して、この溶湯に化合物形成元素や炭素ホウ素源を添加して作製してもよい。化合物形成元素は、単体で添加してもよいし、この元素を含有する化合物、例えばCuとの合金で添加してもよい。炭素ホウ素源は、上記溶湯中で化合物形成元素と反応して炭化物及びホウ化物を形成可能なものを利用する。炭素ホウ素源は炭素源とホウ素源とを別個とした複数種としてもよく、例えば、C単体(例えば、グラファイト)、Cを含有する合金や化合物(例えば、Fe-C合金,SiC,CaC2などの炭化物)や、B単体、Bを含有する合金や化合物(例えば、Cu-B合金,B4Cなどのホウ化物)が利用できる。単体で添加するよりも合金や化合物で添加する方が歩留まりが高くなり、ばらつきも小さくなる傾向にある。特に、炭素ホウ素源として炭化ホウ素(B4C)を用いると、炭素源とホウ素源とを別個に用意しなくて済み、かつ余分な元素を含んでいないため、母材に余分な元素が固溶して導電率が低下するなどの悪影響を防止できる。なお、母材に固溶した炭素ホウ素源のうち、B及びC以外の元素は、導電率の低下を防止するために、析出させることが好ましい。
作製した上記溶湯は、炭素ホウ素源の融点(炭素ホウ素源が複数種の場合、最も融点が高いものの融点)以上の温度に加熱する。上記温度に加熱することで、炭素ホウ素源を完全に溶解させて、化合物形成元素と炭素ホウ素源中のC及びBとを十分に反応させて、炭化物及びホウ化物を形成できる。但し、形成される炭化物及びホウ化物の粒成長による粗大化を防止するため、溶湯の温度は、形成される炭化物及びホウ化物の融点を超えないことが好ましい。通常、炭素ホウ素源の融点は、母材となるCuやCu合金の融点よりも高いため、炭素ホウ素源の融点以上の温度に加熱することで母材は溶融状態にある。
溶湯は、上記加熱と共に、撹拌フィンなどで撹拌する。撹拌によりC及びBと化合物形成元素との反応を促進できると共に、溶湯中に形成された炭化物及びホウ化物を母材中に均一的に分散させ、炭化物粒子及びホウ化物粒子が母材中に均一的に分散された本発明分散強化銅を製造できる。
上記加熱及び撹拌した溶湯を凝固させて凝固材を作製する。凝固時の冷却速度を速くして急冷する、具体的には100℃/sec以上、特に150℃/sec以上とすることで、生成された化合物粒子の粒成長を抑制して粗大粒子の出現を低減し、化合物粒子を微細にできる。かつ、急冷することで、撹拌により化合物粒子が均一的に分散した状態の溶湯をほぼそのままの状態で凝固することができる。従って、微細な炭化物粒子及びホウ化物粒子が均一的に分散した組織を有する分散強化銅が得られる。上記冷却速度を満たす急冷は、強制冷却、例えば、水冷、冷風の吹き付けなどを行うことで実現できる。
上記凝固工程以降において、適宜熱処理を行ってもよい。例えば、凝固材、この凝固材に伸線といった塑性加工を施した塑性加工材(伸線後の伸線材、又は伸線途中の加工材)に熱処理を施す。凝固後伸線前、多パスの伸線加工を行う場合は伸線途中、及び伸線後のいずれかにおいて少なくとも1回の熱処理を行うことで、以下の(1)〜(3)の効果が得られる。なお、得られた凝固材は、微細な化合物粒子が母材中に均一的に分散している組織を有することで、凝固後や伸線途中、伸線後に熱処理を施した際、粒子のピン止め効果により母材を構成する結晶粒の粗大化を阻止でき、粗大な結晶粒が伸線時に割れや破断の起点となったり、粗大な結晶粒により伸線材の靭性が低下する、といった不具合を防止できる。
(2)母材が時効型合金や2相型合金である場合、熱処理により、母材に固溶している添加元素の析出を促進して、母材そのものの導電率と強度を高められる。
(3)伸線材や伸線途中の加工材に熱処理を施す場合、伸線加工による歪みを除去して、伸線材の伸びを回復させることができる。
上記本発明分散強化銅は、導電率が高く、高強度であることから、電線用導体の材料に好適に利用できる。本発明分散強化銅からなる凝固材を所望の径となるように伸線して得られた伸線材を導体に利用する。この電線用導体は、φ0.2mm以下といった細径であっても高強度であり、引張強さ:550MPa以上、導電率:40%IACS以上を満たす。このような電線用導体は、例えば、ワイヤーハーネス用電線の導体に利用できる。
純銅からなる母材に炭化物及びホウ化物が分散した分散強化銅を作製し、導電率と引張強さを調べた。
純Cu(OFC)粒、化合物形成元素としてスポンジTi粒、炭素ホウ素源として炭化ホウ素粒(B4C)を用意して坩堝に入れ、アーク溶解炉で溶解した。溶融は、原料の酸化防止のため、アルゴン雰囲気で行った。得られた溶湯を炭化ホウ素の融点(約2350℃)以上にすると共に、撹拌フィンで撹拌した。この混合溶湯を水冷Cu製鋳型に鋳込み、100℃/sec以上の冷却速度(180℃/sec)で急冷して凝固し、幅40mm×厚さ20mm×長さ70mmの凝固材を得た。上記Ti及びB4Cの添加量を異ならせて、組成の異なる凝固材を得た(試料No.1〜4)。得られた凝固材を表面切削して、直径φ12mmの棒状体とし、この棒状体をφ6mmまでスウェージ加工を施した。得られた直径φ6mmの加工材を直径φ0.2mmになるまで伸線した。試料No.1は、伸線材に450℃×8hの熱処理(時効処理)を施し(冷却:炉冷)、試料No.2〜4は、伸線材のままとした。
純Cu(OFC)粒、化合物形成元素としてスポンジTi粒、炭素源としてグラファイトを用意して坩堝に入れ、試料No.1〜4と同様にアーク溶解炉で溶解した。得られた溶湯を2300℃にすると共に、撹拌フィンで撹拌した後、試料No.1〜4と同様にして同じ大きさの凝固材を得た(試料No.100)。得られた凝固材を試料No.1〜4と同様にして、直径φ0.2mmの伸線材を作製し、試料No.1と同様の時効処理を施した。
純Cu(OFC)粒、化合物形成元素としてスポンジTi粒、ホウ素源としてCu-B合金(Bの含有量:2質量%)を用意して坩堝に入れ、試料No.1〜4と同様にアーク溶解炉で溶解した。得られた溶湯を1150℃にすると共に、撹拌フィンで撹拌した後、試料No.1〜4と同様にして同じ大きさの凝固材を得た(試料No.101)。得られた凝固材を試料No.1〜4と同様にして直径φ0.2mmの伸線材とした。
母材をCu合金とする場合、上記純Cu(OFC)粒に代えて、Cu-Cr合金のインゴット(Crの含有量:5質量%)、Cu-Si合金のインゴット(Siの含有量:11質量%)、Cu-Sn合金のインゴット(Snの含有量:0.3質量%)などを用いることができる。
上記スポンジTi粒に代えて、或いは上記スポンジTi粒に加えて、例えば、スポンジHf粒、バナジウムフレーク、Cr粒、Mo粉末(粒径300μm程度)、W粉末(粒径150μm程度)を用いることができる。MoやWなど融点の高い金属は、溶け難いため、粒径の小さい粉末を用いて時間をかけて加熱することが望ましい。
Claims (6)
- 母材に化合物粒子が分散した分散強化銅であって、
母材は、Cu又はCu合金からなり、
Cを0.001〜1.0質量%、Bを0.001〜2.0質量%、Ti,Hf,V,Cr,Mo,及びWからなる群から選択される少なくとも1種の化合物形成元素を0.004〜16質量%含有し、
実質的にCと前記化合物形成元素とからなる炭化物の粒子と、実質的にBと前記化合物形成元素とからなるホウ化物の粒子とが母材中に分散しており、
前記炭化物中の化合物形成元素と前記ホウ化物中の化合物形成元素とが同じ元素である炭化物及びホウ化物を含むことを特徴とする分散強化銅。 - 前記炭化物の粒子の平均粒径は、3μm以下であり、
前記ホウ化物の粒子の平均粒径は、5μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の分散強化銅。 - 前記同じ化合物形成元素は、Tiであることを特徴とする請求項1又は2に記載の分散強化銅。
- 請求項1〜3のいずれか1項に記載の分散強化銅からなることを特徴とする電線用導体。
- 母材に化合物粒子が分散した分散強化銅を製造する分散強化銅の製造方法であって、
純Cu、又は純Cuと添加元素とからなるCu合金と、Ti,Zr,Hf,V,Nb,Ta,Cr,Mo,及びWからなる群から選択される少なくとも1種の化合物形成元素と、C及びBを含有する炭素ホウ素源とが混合した溶湯を準備する工程と、
前記溶湯を前記炭素ホウ素源の融点以上として化合物形成元素と炭素ホウ素源中のC及びBとを反応させて炭化物及びホウ化物を生成すると共に、溶湯を撹拌する工程と、
炭化物及びホウ化物の生成及び撹拌を行った溶湯を冷却して凝固する工程とを具えることを特徴とする分散強化銅の製造方法。 - 前記凝固工程は、溶湯を100℃/sec以上の冷却速度で冷却することを特徴とする請求項5に記載の分散強化銅の製造方法。
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