以下、図面を参照して本発明に係る実施形態を説明する。図1は本発明の実施形態に係る内燃機関の一例として示すエンジンを搭載した自動二輪車1の左側面図である。なお、以下の説明における方向の概念は、この自動二輪車1に騎乗した運転者から見た方向と一致している。
図1に示すように、自動二輪車1は、前輪2及び後輪3の間に設けられた車体をなすフレーム4を備え、このフレーム4内にエンジン5(内燃機関)が配置されている。このエンジン5は、V型2気筒・水冷式の4サイクルエンジンであり、2つの気筒6,7が側面視でV字状となるように前後に分かれて配列されている。前方気筒6と後方気筒7との間にはV字状空間8が形成され、このV字状空間8の左側を覆って化粧板8aが設けられている。エンジン5の上方には燃料タンク9が設けられ、その燃料タンク9の後方には運転者用のシート10が設けられている。
エンジン5の出力は、図示しないドライブシャフト或いはチェーンを介して後輪3に伝達され、後輪3が回転することにより自動二輪車1に推進力が付与される。エンジン5の前方には、推進力が付与された自動二輪車1の前進走行中に前方から吹きつける風Wを利用して冷却水(冷却液)を放熱させるラジエータ11が取り付けられている。なお、走行中か否かに関わらず冷却水を放熱可能にすべく、ラジエータ11は強制冷却用の電動式ファンを備えていてもよい。
図2はエンジン5の斜視図である。図3はエンジン5の平面図である。図2及び図3に示すように、エンジン5は、合面15にて左ケース部13と右ケース部14とに左右分割されるクランクケース12を有している。クランクケース12の左側前部には、発電機40(図5参照)を収容するための第1発電機カバー16(第1のカバー体)が取り付けられている。第1発電機カバー16の左側には、冷却水が通過する冷却液収容室49(図5参照)を形成するための第2発電機カバー17(第2のカバー体)が取り付けられている。クランクケース12の右側には右カバー18(クラッチカバー)が取り付けられている。
図2に示すように、前方気筒6は、クランクケース12の前上部から前上方に向けて斜めに延びており、後方気筒7は、クランクケース12の前上部から後上方に向けて斜めに延びている。各気筒6,7は、クランクケース12の上面に締結されたシリンダブロック19と、シリンダブロック19の上面に締結されたシリンダヘッド20と、シリンダヘッド20の上面に締結されたシリンダヘッドカバー21(図4参照)と、シリンダヘッドカバー21の上側を覆う化粧カバー22とを備える。V字状空間8の上部には、各気筒6,7のシリンダヘッド20に連結されるエンジン5の吸気系23が配置される。
図4は図1のIV−IV線に沿って示すエンジン5の模式的断面図である。図4に示すように、クランクケース12の前部には、クランクシャフト24がクランク軸線Aを左右に向けた状態で回転自在に支持されている。クランクケース12の内部には、クランクシャフト24の一対のジャーナル部24a,24aを支持する側壁13a,14aにより囲まれて、クランク室25が形成されている。このクランク室25には、クランクシャフト24のクランクピン24bが図示しないクランクウェブと共に収容される。
左右のケース部13,14はそれぞれ、側壁13a,14aから筒状に左右外方に延びる周状リブ13c,14cを有している(図2及び図3も参照)。これによりクランクケース12の左側には左ケース部13の周状リブ13cにより規定される左側開口13bが形成され、クランクケース12の右側には、右ケース部14の周状リブ14cにより規定される右側開口14bが形成されている。
第1発電機カバー16はこの左側開口13bを塞ぐように左ケース部13に結合され、これによりクランク室25の左側には第1発電機カバー16と左ケース部13とにより囲まれた発電機収容室26が形成されている。クランクシャフト24の左端部24c(一端部)は、左ケース部13の側壁13aから突出してこの発電機収容室26内に収容されている。また、右カバー18は右側開口14bを塞ぐように右ケース部14に結合され、これによりクランク室25の右側には右カバー18と右ケース部14とにより囲まれた右室(クラッチ収容室)27が形成されている。クランクシャフト24の右端部24dは、右ケース部14の側壁14aから突出してこの右室27内に収容されている。
シリンダブロック19には、上下に開口する円筒状のシリンダ28が形成され、該シリンダ28内にはピストン29が摺動自在に挿入されている。シリンダ28の下端はクランク室25と連通しており、各ピストン29は、コンロッド30を介して単一のクランクピン24bと連結されている。これにより、各ピストン29のシリンダ28内での往復運動と、クランクシャフト24の回転運動とが互いに変換可能になる。
シリンダブロック19の上面には、シリンダ28を取り囲むようにして環状のジャケット31が開口しており、このジャケット31の開口は、図示しないガスケットを介してシリンダヘッド20の下面により塞がれる。このシリンダヘッド20の下面には、シリンダ28の上端と連通する燃焼室32が形成されている。
燃焼室32には、吸気系23(図2,図3参照)から供給される混合気を取り入れるための吸気口(図示略)と、燃焼室32内のガスを排出するための排気口(図示略)とが設けられている。シリンダヘッド20の内部には、吸気口及び排気口を開閉する吸気バルブ及び排気バルブ(図示略)が収容され、シリンダヘッド20及びシリンダヘッドカバー21の内部には、これらバルブを駆動する動弁機構(図示略)と、燃焼室32内の混合気を点火する点火プラグ(図示略)が収容されている。
このエンジン5は、ピストン29がシリンダボア28内を2往復する間に、燃焼室32内に取り入れられて圧縮された混合気を点火して燃焼させ、燃焼室から燃焼ガスを排出するように動作する。この点火による混合気の爆発燃焼力がピストン29及びコンロッド30を介してクランクシャフト24に回転運動として伝達され、クランクシャフト24がエンジン出力軸として回転駆動される。
クランクシャフト24の回転は、クランクケース12の後部に収容された多段変速機(図示略)を介して上記ドライブシャフト或いはチェーンに伝達され、後輪3(図1参照)に伝達される。右室27には、クランクシャフト24の回転を多段変速機に伝達するための減速機構及びクラッチ(図示略)が収容されており、クランクシャフト24の右端部24dにはこの減速機構の出力要素33が固定されている。また、クランクシャフト24の右端部24dには、クランクシャフト24の回転を後方気筒7の動弁機構に伝達する伝動機構の出力要素34が固定されており、右室27は、この伝動機構を収容するためのトンネル37aが連通している。これら出力要素33,34は、減速機構及び伝動機構が例えばチェーン伝動を利用する形態のときにはスプロケットから構成され、ギヤ列を利用する形態のときにはギヤから構成される。
図5は発電機収容室26の周辺を示す図4の部分拡大図である。図5に示すように、クランクシャフト24の左端部24cには、クランクシャフト24の回転を前方気筒6の動弁機構に伝達する伝動機構のスプロケット35が固定されており、発電機収容室26は、この伝動機構のタイミングチェーン36を収容するチェーントンネル37bと連通している。また、発電機収容室26には、クランクケース12に回転自在に支持されたバランサシャフト38にクランクシャフト24の回転を伝達する伝動機構39と、クランクシャフト24の左端部24cに設けられた発電機40とが収容されている。発電機40は外形が円柱状に形成され、その大部分がクランクケース12から左方向に突出して配置されている。
図6は図5のVI−VI線に沿って示す第1発電機カバー16の右側面図である。図7は図5のVII−VII線に沿って示す第1発電機カバー16の左側面図である。図6及び図7に示すように、第1発電機カバー16は、例えばアルミニウム合金等から鋳造によってカップ状に形成され、左ケース部13に固定される第1基部16pと、第1外周壁16aと、第1側壁16bとを有している。第1外周壁16a及び第1側壁16bは、短筒状(本実施形態では略短円筒状)に形成され、第1側壁16bは板状に形成されて第1外周壁16aの軸方向一端側を塞ぐようにして設けられている。第1基部16pは、第1外周壁16aの軸方向他端側に形成される開口縁全周から径方向外側に広がるように延びている。第1基部16pの周縁部には、左ケース部13aに固定するためのボルトが螺着する複数の第1ボルト孔形成部16qが形成されている。複数の第1ボルト孔形成部16qは第1外周壁16aの外周面よりも外側において互いに間隔をあけて配置されている。なお、図示略するが左ケース部13の周状リブ13c(図2乃至図5参照)においても、複数のボルト孔が形成されて左側に開口している。
図5に示すように、第1発電機カバー16は、第1基部16pの周縁部をゴム等のシール部材(図示略)を介して左ケース部13から左側に突出する周状リブ13cに当接させた状態で、各第1ボルト孔形成部16q(図6,図7参照)にボルトを螺着させることにより左ケース部13と結合される。これにより第1基部16pの周縁部と周状リブ13cとがシール部材を介して隙間なく当接する。この当接領域は、少なくとも第1外周壁16aの外周面よりも外側をクランク軸線A周りに一周する第1の閉ループをなす。このようにクランクケース12の左側開口12bが第1発電機カバー16により塞がれ、密閉された発電機収容室26が形成される。この発電機収容室26は、左ケース部13の側壁13aの左側面と、周状リブ13cの内周面と、第1発電機カバー16の内面(第1外周壁16aの内周面、第1側壁16bの右側面、筒部16cの外周面、底壁16dの右側面)とにより区画されている。なお。第1基部16eが左ケース部13aと結合された状態では、第1外周壁16aがクランク軸線Aと同軸上に配置される(図7参照)。
また、第1発電機カバー16の第1側壁16bにはクランク軸線Aを取り囲むようにして略筒状の筒部16cが一体的に形成されている。筒部16cは左側が開放しており右側が底壁16dにより塞がれている。筒部16cの開放面は第1側壁16bよりも左側に突出しており、底壁16dは第1側壁16bよりも右側に形成されている。
図5及び図6に示すように、第1発電機カバー16の筒部16cには、発電機固定用のボルト46が螺着するボルト孔形成部16rが複数形成されている。各ボルト孔形成部16rは、筒部16cの右側端面に開放して左側に底を有した非貫通のボルト孔16sを規定している。
図5に示すように、発電機40は、クランクシャフト24の左端部24cに固定された円筒状のロータ41と、第1発電機カバー16に固定されたステータコア42とから構成される。ロータ41の中心部には左端部24cにスプライン嵌合されるボス部41aが形成されており、ロータ41は開放面を左側に向けた状態で固定される。ロータ41の円筒内周面には、永久磁石43が取り付けられている。
ステータコア42は、磁性体からなるドーナツ状のステータ44と、ステータ44の外周部に巻かれたコイル45とを備えている。ステータ44の内周部44aは、第1発電機カバー16の底壁16dの右側面から突出する円環状のリブ16eに全周に亘って嵌め合わされ、ステータ44の左側面のうちコイル45が巻かれていない内周部が底壁16dの右側面に当接して支持される。ステータ44は、このように軸方向且つ径方向に位置決めされた状態で複数本のボルト46(図5では1つのみ示す)を筒部16cの各ボルト孔16sに螺着させることにより第1発電機カバー16に結合される。
ロータ41をクランクシャフト24に固定すると共にステータコア42を第1発電機カバー16に固定した状態で上記のように第1発電機カバー16を左ケース部13に結合すると、ステータコア42がロータ41の円筒内側に収容され、コイル45が永久磁石43と所定間隔をおいて径方向に対向される。このように構成される発電機40は、クランク軸線Aと同軸上に配置されることとなる。
クランクシャフト24が回転駆動されると、ロータ41が共に回転して永久磁石43がコイル45の外周側を周回し、コイル45が電磁誘導により交流電力を発電する。該コイル45からは電線47が延びており、該電線47を介して発電機40の起電力が自動二輪車1(図1参照)に設けられた所定の電気部品に供給されるようになっている。
図7に示すように、第1発電機カバー16の筒部16cには複数のボルト孔形成部16tが形成されている。これら複数のボルト孔形成部16tは周方向に互いに離れて配置されている。各ボルト孔形成部16tは、筒部16cの左側端面に開放して右側に底を有した非貫通のボルト孔48aを規定している(図5参照)。
図8は図5のVIII−VIII線に沿って示す第2発電機カバーの右側面図である。図9は図5の矢印IX方向に見た第2発電機カバーの左側面図である。図8及び図9に示すように、第2発電機カバー17は、例えばアルミニウム合金等の鋳造によってカップ状に形成され、第1発電機カバー16と固定されるための第2基部17pと、第2外周壁17aと、第2側壁17bとを有している。第2外周壁17b及び第2側壁17bは、短筒状(本実施形態では略短円筒状)に形成されている。第2側壁17bは板状に形成されて第2外周壁17aの軸方向一端側を塞ぐように設けられている。第2基部17pは、第2外周壁17aの軸方向他端側に形成される開口縁全周から径方向外方に広がるように延びている。第2基部17pには、第1発電機カバー16に固定するためのボルト(図示略)が螺着する複数のボルト孔形成部17qが形成されている。複数のボルト孔形成部17qは、第2外周壁17aの内周面よりも外側に第2外周壁17aの周りに互いに間隔をあけて配置されており、各ボルト孔形成部17qにはボルト孔48aが貫通形成されている。
図5に示すように、第2発電機カバー17においては、まず、第2基部17pをゴム等のシール部材を介して筒部16cの開放面に隙間なく当接させ、第2発電機カバー17に形成されたボルト孔48bが第1発電機カバー16に形成されたボルト孔48bと同軸上に配置される。この状態で、図示しないボルトをボルト孔48a,48bに挿入することにより、第2発電機カバー17が第1発電機カバー16と結合される。これにより、第2基部17pの周縁部と第1発電機カバー16の筒部16cの開放端面とがシール部材を介して隙間なく当接する。この当接領域は、少なくとも第2外周壁17aの内周面よりも外側をクランク軸線A周りに一周する第2の閉ループをなす。このように第1発電機カバー16の筒部16cにより規定される開口が第2発電機カバー17によって塞がれ、密閉された冷却液収容室49が形成される。冷却液収容室49は、第1発電機カバー16の外面(筒部16cの内周面、底壁16dの左側面)と、第2発電機カバー17の内面(第2外周壁17aの内周面、第2側壁17bの右側面)とにより区画されている。なお、このように第2発電機カバーが第1発電機カバーに組み付けられた状態において、第2外周壁17aはクランク軸線Aと同軸になるように配置される。
冷却液収容室49は、第1発電機カバー16の筒部16c及び底壁16dにより発電機収容室26と仕切られており、発電機収容室26と独立している。また、冷却液収容室49は、クランク軸線Aを取り囲む筒部16cの内周面により区画されており、側面視にて発電機40と重なっている。言い換えると、クランク軸線Aに関して冷却液収容室49は、発電機と隣接して配置される。また冷却液収容室49は、クランク軸線Aを通過してクランク軸線Aに垂直な方向に広がる。本実施形態では冷却液収容室49はクランク軸線Aを中心として広がり、クランク軸線Aを中心とする略円筒状の空間に形成される。
このように冷却液収容室49は、第1発電機カバー16の筒部16cと、第1側壁16bに対して右側に形成された底壁16dの左側面により区画されているため、第2発電機カバー17の第2外周壁17aの左右方向の寸法を小さくしても、冷却液収容室49の容積を確保することができる。従って、第1発電機カバー16の左側に第2発電機カバー17を取り付けて冷却液収容室49を形成する構成でありながら、エンジン5がクランク軸線方向に大型化するのを防止することができる。
さらに、発電機収容室26を区画する底壁16dの少なくとも右側面は、径方向内側に向かうに連れて左側へと湾曲しており、発電機収容室26には、クランク軸線A上の左端部において椀状に左側へ窪んだ凹部が形成されている。クランクシャフト24の左端はこの凹部内に配置されている。このため、冷却効率を向上させるべく例えば筒部16cの右側への突出量を大きくして冷却液収容室49の容量を大きくした場合でも、クランクシャフト24の端部を凹部内に配置することでこの端部と底壁16dとの干渉を避けることができる。このように底壁16dの右側面を湾曲させることにより、エンジン5のクランク軸線方向に対する小型化と、冷却液収容室49の容量の確保とが両立される。
図4は、燃焼室32の周辺を冷却するための冷却水(冷却液)を循環させる冷却水循環装置50の構成も模式的に示している。この冷却水は、特に限定されないが、エチレングリコール又は水を主成分とした低凝固点且つ高沸点の液体である。図4に示すように、冷却水循環装置50は、クランクシャフト24の回転が伝達されて駆動されるポンプ51を有している。取付構造の図示を省略するがこのポンプ51は、クランクケース12の内部左側又は第1発電機カバー16の内部に配置されている。また、特に限定されないが、本実施形態ではポンプ51はクランク軸線Aよりも後方に配置されている。
また、冷却水循環装置50は、ポンプ51の吐出口を冷却液収容室49と連通させる供給流路52(第1流路)、冷却液収容室49を前方気筒6のジャケット31と連通させる前方流路53(第2流路)、冷却液収容室49を後方気筒7のジャケット31と連通させる後方流路54(第2流路)、前方気筒6のジャケット31及び後方気筒7のジャケット31の夫々をポンプ51の吸入口と連通させる戻し流路55(第3流路)を有している。これら流路52〜55により冷却水の循環路50aが構成される。
供給流路52は、クランクケース12又は第1発電機カバー16の内部に形成されてポンプ51の吐出口と連通する内部流路56と、一端がクランクケース12又は第1発電機カバー16に接続されて内部流路56と連通し、他端が第2発電機カバー17に接続されて冷却液収容室49への冷却液の流入口49aと連通する供給配管57の内部流路とからなる。
前方流路53は、シリンダブロック19に形成されて前方気筒6のジャケット31と連通する内部流路58と、一端が第2発電機カバー17に接続されて冷却液収容室49からの冷却液の前方流出口49bと連通し、他端が前方気筒6のシリンダブロック19に接続されて該内部流路58と連通する前方配管59の内部流路とからなる。後方流路54は、シリンダブロック19に形成されて後方気筒7のジャケット31と連通する内部流路60と、一端が第2発電機カバー17に接続されて冷却液収容室49からの冷却液の後方流出口49cと連通し、他端が後方気筒7のシリンダブロック19に接続されて該内部流路60と連通する後方配管61の内部流路とからなる。
前方流路53及び後方流路54の内部流路58,60はシリンダヘッド20に形成することも可能であるが、各気筒6,7の中で冷却液収容室49により近い側に設けられるシリンダブロック19に流路を形成することにより、前方配管59及び後方配管61の配管長を短くしている。なお、供給配管57、前方配管59及び後方配管61は、金属材やゴム材など様々な材料から成形されうる。
戻し流路55は、前方気筒6のジャケット31に接続された前方戻し部55aと、後方気筒7のジャケット31に接続されて前方戻し部55aと集合される後方戻し部55bと、ポンプ51の吸入口を前方戻し部55a及び後方戻し部55bの集合部分と連通させる集合戻し部55cとを含む。このような戻し流路55も、シリンダブロック19やシリンダヘッド20の内部に形成された流路や、前方気筒6及び後方気筒7の外部に配置された配管の内部流路等を含んでなる。
この集合戻し部55cには、図1にも示したラジエータ11が設けられている。なお、集合戻し部55cには、冷却水の温度調節を行うためのサーモスタットや、冷却水の圧力調節を行うためのリザーバタンクなどを設けてもよい。
図10は図9のX−X線に沿って示す第2発電機カバー17の断面図である。図5及び図10に示すように、第2発電機カバー17の第2側壁17bの右側面からは、右方向に向けて円筒状の囲繞部17cが冷却液収容室49内に突出している。囲繞部17cは、クランク軸線Aに略同軸に配置され、囲繞部17cの右側端部と第1発電機カバー16との間には隙間が形成されている。このため冷却液収容室49は概ね、囲繞部17cの内周面に囲まれた第1領域49dと、囲繞部17cの開放面よりも右側の第2領域49eと、囲繞部17cの外周面と第2発電機カバー17の第2外周壁17aの内周面とに囲まれた第3領域49fとに分かれている。
図8及び図9に示すように、第2発電機カバー17の第2側壁17bの左側面には、後方に開口する円筒状の接続部17dが一体的に形成されている。この接続部17dには、供給配管57の端部が挿入される。また、この接続部17dは、第2側壁17bに形成された内部流路17eを介して冷却液収容室49の流入口49aと連通している。図8及び図10に示すように、流入口49aは、囲繞部17cの内側の領域である冷却液収容室49の第1領域49dに設けられ、本実施形態ではクランク軸線Aと略同軸上に配置される。
前述したようにポンプ51(図4参照)はクランク軸線Aよりも後側に配置されているため、図3,図7,図9及び図10に示すように、供給配管57は接続部17dから後方に向けて直線的に延びるように取り回されるようになり、供給流路52がコンパクトに構成される。なお、接続部の円筒軸の延在方向及び接続部の開口が向けられる方向は、このように供給配管を直線的に延在させるべくポンプの取付位置に応じて適宜変更されうる。
図8及び図9に示すように、前方配管59が接続される前方流出口49bは、第2発電機カバー17の第2外周壁17aの前上部に設けられており、後方配管61が接続される後方流出口49cは、第2発電機カバー17の第2外周壁17aの後上部に設けられている。このように前方流出口49b及び後方流出口49cは、囲繞部17cの外側の領域である冷却液収容室49の第3領域49fに開口している。
図5及び図7に示すように、第1発電機カバー16の筒部16cの底壁16dの左側面からは、クランク軸線Aに関して径方向に延びる複数のフィン16f(凸部)が冷却液収容室49内に突出している。図5に示すように、これらのフィン16fは、冷却液収容室49において第2領域49e内に配置されることとなる。
図11はフィン16fの周辺を示す図7の部分拡大図である。なお、図11には、フィン16fと囲繞部17c(想像線参照)との側面視での位置関係も示している。図11に示すように、複数のフィン16fは、周方向に所定角度θ(本実施形態では30度)ごとに並ぶようにして、クランク軸線Aを中心にして径方向(クランクシャフト24の軸直交方向)に放射状に配置されている。これにより、第1発電機カバー16の底壁16dの左側面には、フィン16fとして冷却液収容室49の第2領域49e内に突出する部分と、フィン16f同士の間の部分とにより凹凸部が形成されることとなる。
各フィン16fの基端部16gとクランク軸線Aとの間隔R1は、第2発電機カバー17の囲繞部17cの内径r1と略等しく、フィン16fの先端部16hとクランク軸線Aとの間隔R2は、囲繞部17cの外径r2よりも大きくなっている。以下の説明では、冷却液収容室49の第2領域49eのうち、フィン16fの基端部16gよりも径方向内側の空間を内側部62とし、フィン16f同士の間に挟まれた空間を中間部63とし、フィン16fの先端部16hよりも径方向外側の空間を外側部64としている。前述の間隔R1が第2発電機カバー17の囲繞部17cの内径r1と略等しいため、第2領域49eの内側部62は第1領域49dと側面視で略重なっている。
図4に示すエンジン5が稼動してクランクシャフト24が回転駆動されると、発電機40が駆動されて交流電力を発電する。それに伴いステータコア42が発熱し、この熱はステータ44と当接している第1発電機カバー16に伝導する。また、クランクシャフト24が回転駆動されると、ポンプ51が駆動されて冷却水が循環路50aに沿って循環するようになる。クランクシャフト24の回転に基づき自動二輪車1が前進しているときには、前方からの風Wがラジエータ11に吹き付け(図1参照)、戻し流路55(集合戻し部55c)内の冷却水が放熱される。なお、自動二輪車1が停止しているときにも電動ファンが動作して冷却水を放熱可能である。このため、ポンプ51の吸引口には順次放熱された冷却水が導かれる。
ポンプ51から吐出された冷却水は、図10に示す供給流路52及び内部流路17eを経て、流入口49aを通り冷却液収容室49の第1領域49dに流入する。
図5に矢印Dで示すように、第1領域49dに流入した冷却水は、囲繞部17cの内周面に案内されて囲繞部17cの軸方向である右側(左右内側)に向けて流れ、第2領域49eに流入する。図11に示すように第1領域49dと第2領域49eの内側部62とは側面視で略重なっているため、第1領域49dからの冷却水は、まず第2領域49eのうちこの内側部62に流入する。
図11に矢印Eで示すように、第2領域49eの内側部62の冷却水は、フィン16fに案内されて偏りが防がれて径方向外側に向けて放射状に流れて中間部63を通り抜け、外側部64に流入する。なお、図5に矢印Eで示すように、冷却水が中間部63を通り抜けるときには、流れが左側へと反転して外側部64へと流入するようになっており、次いで第3領域49fに右側から流入する。このように第2領域49e内では冷却水が、第1発電機カバー16の底壁16dの左端面及びフィン16fの表面(すなわち、前述した底壁16d左側面の凹凸部の表面)と接触して流れていく。このとき、冷却水は第1発電機カバー16との間で熱交換を行い、ステータコア42からの熱が伝導される第1発電機カバー16を放熱させる。従って、冷却水により、第1発電機カバー16が直接的に冷却されてステータコア42が間接的に冷却されるようになる。また、フィン16eが形成されることにより冷却液収容室49内で冷却水が滞留することが防がれる。
図5に矢印Fで示すように、第3領域49f内に流入した冷却水は、囲繞部17cの外周面に案内されて左側に向けて流れていく。図8に矢印Fで示すように、第3領域49f内を左側へと流れた冷却水は、一部が前方流出口49bを通って前方流路53を構成する前方配管59の内部流路へと流れ、一部が後方流出口49cを通って後方流路54を構成する後方配管61の内部流路へと流れていく。
図4に示すように、前方流路53内の冷却水は前方気筒6のジャケット31に導かれ、後方流路54内の冷却水は後方気筒7のジャケット31に導かれる。両ジャケット31内の冷却水は、混合気の燃焼により温度上昇している燃焼室32やシリンダボア28の上部を規定しているシリンダヘッド20の下部やシリンダブロック19の上部との間で熱交換を行い、シリンダボア28の上部や燃焼室32を冷却する。両ジャケット31から流出した冷却水は戻し流路55に流入し、ラジエータ11によって再び放熱された後にポンプ51の吸入口へと導かれる。
このように、本構成のエンジン5は、ラジエータ11により放熱された冷却水が冷却液収容室49を順次通過した後、ジャケット31に導かれるように構成されているため、発電機40の冷却効率が向上する。このとき、ジャケット31には、第1発電機カバー16との間の熱交換により温度上昇した冷却水が導かれるものの、第1発電機カバー16の第1側壁16bの温度はシリンダヘッド20の下部の温度と比べると非常に低いため、シリンダボア28及び燃焼室32の冷却効率に影響を及ぼすことは少ない。
また、第1発電機カバー16の筒部16cの外周面及び底壁16dの右側面(第1発電機カバー16の内面の一部)により発電機収容室26が区画され、第1発電機カバー16の筒部16cの内周面及び底壁16dの左側面(第1発電機カバー16の外面の一部)により冷却水が通過する冷却液収容室49が区画されている。このため、クランクシャフト24の左端部24c、スプロケット35、伝動機構39、発電機40、電線47等のエンジン5の部品を密閉した状態で収容する発電機収容室26のシール性が向上し、発電機収容室26内の部品が冷却水から保護される。
具体的には、上述したように発電機収容室26を区画する第1発電機カバー16と左ケース部13との当接部分は予め定められた第1の閉ループに沿って環状に配置され、冷却液収容室49を区画する第1発電機カバー16と第2発電機カバー17との当接部分は予め定められた第2の閉ループに沿って環状に配置されている。本実施形態では、図7を参照すると、クランク軸線Aに垂直な平面に投影した場合に、第1基部16pの周縁部がなす第1の閉ループの内側に、筒部16cの開放端面がなす第2の閉ループが形成される。このように、冷却液収容室40から冷却液が漏れる可能性がある位置と、発電機収容室26に液体が侵入する可能性がある位置とを離間することができ、冷却液が発電機収容室に侵入するおそれを低下させることができる。また、図5を参照すると、第1の閉ループよりも第2の閉ループが左側に突出した位置にあり、冷却液が発電機収容室26に侵入するのをさらに防ぐことができる。
また、図5に示すように、発電機収容室26を冷却液収容室49と軸方向に仕切る第1発電機カバー16の筒部16cには、ステータ44を固定するためのボルト孔16sと第2発電機カバー17を固定するためのボルト孔48bが形成されている。これらボルト孔16s,48bは何れも非貫通孔であるため、冷却水がボルト孔を介して発電機収容室26に侵入するのを防ぐことができる。
また、冷却液収容室49は、クランク軸線Aの周りに形成され、クランクシャフト24上に配置される発電機40に対して左側(左右外側)に形成され、発電機収容室26と軸方向に並んで配置されている。このため、発電機40から生じる騒音や振動を冷却液収容室49内を通過する冷却水によって低減させることができ、外部にこのような騒音や振動が伝達しにくくなる。このため、発電機40の周辺に従来設けられることのあった防音や防振のための構造を簡略化したり省略することができる。なお、上記の実施形態では冷却液収容室49を区画する筒部16cの中心軸とクランク軸線Aとを一致させて冷却液収容室49をクランク軸線Aの周りに形成しているが、冷却液収容室がクランク軸線を取り囲むように形成されていればよく、必ずしもこれら2つの軸線を同軸上に配置しなくてもよい。
また、発電機40のステータコア42が冷却液収容室49を区画する第1発電機カバー16に当接した状態で固定されている。このため、第1発電機カバー16にはステータコア42の熱が伝導しやすくなり、発電機40の冷却効率を向上させることができる。
しかもステータコア42は、そのステータ44の内周部を全周に亘って第1発電機カバー16のリブ16eに当接させている。このため、リブ16eとステータ44とが部分的に接触する場合に比べて熱伝達性を向上でき、発電機の冷却効果を高めることができる。また筒部16cの内面が冷却液に接することにより、ステータ44を固定するためのボルト孔16sに挿入されたボルト46、及びこのボルト孔16sを形成するボルト孔形成部16tを介してステータ44の熱をさらに効果的に奪うことができる。
但し、ステータコア42を第1発電機カバー16に直接接触させる構造に限らず、少なくともステータコア42の熱を第1発電機カバー16に伝導可能な構造であればよい。例えば、ステータコア42と第1発電機カバー16の第1側壁16bとの間に熱伝導性の高い部材をステーとして設け、ステータコア42の熱をこのステーを介して間接的に第1発電機カバー16に伝導させる構成としてもよい。
また、第2発電機カバー17の第2側壁17bの内面に囲繞部17cを設け、流入口49aを囲繞部17cの内側の領域(第1領域49d)に設け、また、流出口49b,49cを囲繞部17cの外側の領域(第3領域49f)に設けているため、冷却液収容室49に流入した冷却水が、第1発電機カバー16に向けて流れた後に流出するようになる。さらに、第1発電機カバー16には、複数のフィン16fを設けているため、第1発電機カバー16の冷却水との接触面積が大きくなっている。このようなことから第1発電機カバー16の冷却効率が向上し、発電機40の冷却効率も向上する。なお、フィン16fに替えて、筒部16cの底壁を右側へ窪ませて凹部を形成してもよい。この場合においても同様にして第1発電機カバー16の冷却水との接触面積を大きくすることができる。
なお、このフィン16fは、径方向に放射状に延びている。従って、囲繞部17cの内側の第1領域49dを第1発電機カバー16に向けて流れた冷却水が、フィン16fの延在方向に案内されて偏りなく囲繞部17cの外側の第3領域49fに向けて流れるようになる。
さらに、冷却液収容室49には、ポンプ51からの冷却水を流入させる単一の流入口49aと、気筒の数に対応した流出口49b,49cとが形成されており、冷却液収容室49は、ポンプ51からの冷却水を2つの気筒6,7の夫々に導くための循環路50aの分岐部として機能している。このため、ポンプ51からの冷却水を導く流路を分岐させるために特別な構造や部品を設ける必要がなく、循環路50aを簡素に構成することができる。
また、冷却液収容室49の流出口49b,49cを第2発電機カバー17の第2外周壁17aに形成しているため、図3に示すように、前方配管59及び後方配管61を上下に延在する状態で取り回すことができるようになる。すなわち、流出口を第2発電機カバー17の第2側壁17bに形成する場合と比べて、配管が側方に突出する量を抑えることができ、循環路50aをコンパクトに構成することができる。
この実施形態では複数の気筒を有する内燃機関としてV型エンジンを例示したが、水平対向型エンジンや星型エンジンにも本発明を適用することができる。この場合にも気筒数に対応する個数の流出口を設け、各流出口と各気筒のジャケットとを連通させる流路を設けることにより、冷却液収容室を循環路の分岐部として機能させることができる。また、単気筒エンジンや、単一の気筒内に複数のシリンダボア及び燃焼室を有し、共通のジャケットにより各燃焼室を冷却するように構成された並列多気筒エンジンにも本発明を適用することができる。この場合においても単一の流出口を形成することにより、冷却水に対するシール性が向上した発電機収容室を提供することができる。
なお、この実施形態では、燃焼室周辺のジャケットに供給される冷却水が冷却液収容室内を通過するように構成された水冷式エンジンを例示したが、この構成に限られず、例えば冷却液収容室内を潤滑油が冷却液として通過するように構成してもよい。この場合、潤滑油を循環させるための潤滑油循環装置を備えたエンジンであれば、燃焼室の冷却方式に関わらず、空冷式エンジン等の様々なエンジンにおいて本発明を適用可能となる。
この構成においては、潤滑油を溜めるオイルパンを更に備え、図4に示すポンプ51を、クランクシャフト24により駆動されてオイルパン内の潤滑油を吸入して吐出するオイルポンプに替え、ジャケット31を、例えばクランクシャフト24のジャーナル部24a,24a等のエンジン各所における潤滑必要部位に替えればよい。そして、供給流路52を、オイルポンプから冷却液収容室49へと潤滑油を導く油路に替え、前方流路53及び後方流路54を、冷却液収容室49から潤滑必要部位へと潤滑油を導く油路に替え、戻し流路55を、潤滑必要部位からオイルパンへと潤滑油を戻す油路に替え、ラジエータ11を、潤滑油を放熱させるためのオイルクーラに替えればよい。更に潤滑油循環装置には、潤滑油から金属粉等の異物を取り除くオイルストレーナ等も適宜設けられる。この構成によれば、オイルポンプが駆動されると、オイルクーラにより放熱されてオイルストレーナで濾過された潤滑油が、発電機収容室26とは独立して形成される冷却液収容室49内を順次通過し、この潤滑油により発電機40が冷却されるようになる。
また、発電機をクランクシャフトの反対側の端部に取り付けても同様に適用することができる。また、エンジンは位置によっては前後方向など任意の基準とする方向を左右方向に替えて説明されるものも含む。
また、本発明に係る内燃機関は、自動二輪車に限らず、小型滑走艇や不整地走行車両など他の乗物に搭載してもよい。