本発明は、植生植物の、野生鹿等の動物による食害を防止するようにした食害防止植生材に関するものである。
新規造成地や切り通し、あるいは道路側部の山肌等における斜面は、これを早期に保護しないと、折角形成した斜面の崩落という現象が発生する。この斜面の保護には、自然破壊の防止や景観保持のためもあって、一般には植物を使用した方法、つまり所謂「植生」を施すことが行われている。
この斜面の植生は、近年では山奥深く入った道路法面等の斜面や、治山のための山肌についても行われるようになってきているが、この山間地における斜面では、植生植物の特に野生鹿による食害が増加してきている。つまり、折角生え揃ってきた植生植物の芽を野生鹿が食い荒らしてしまい、十分な植生が行えなくなってしまうという現象が頓に増えてきたのである。
そこで、この野生鹿による食害を防止する対策として、特許文献1及び2に示されているような「忌避剤」を使用する第1の方法と、特許文献3〜6に示されているように、鹿が食害を起こせないようにする構造にする第2の方法とが提案されてきている。
特許文献1及び2に示されているような「忌避剤」を使用する第1の方法では、例えば特許文献1の要約にも示されているように、「植生基材2を収容した植生袋3を備え、植生基材2および/または植生袋3が忌避機能を有するように構成」したものであるが、この忌避機能を長期に亘って維持することは困難ではないかと思われる。何故なら、植生植物が生育する頃までに忌避剤が流亡してしまったり、植生植物自体によって無力化されてしまう可能性が非常に高いと考えられる。
なお、野生鹿が食するのを嫌う「ウィーピンググラス」、「アカマツ」あるいは「クサギ」を植生植物として採用することも検討されたが、これらの植物は食害を受けにくいという一定の効果はあるものの、これらに限定された植生を行うことは好ましくないということで、見送られている。つまり、上記のような植生植物にするという限定があれば、景観の維持ができないことは勿論のこと、その地方にあった植生を行うことができないからである。
これにたいして、特許文献3〜6に示されているような構造的な防止策であると、食害防止機能を長期間発揮できるため、よいのではないかと考えられる。
特開2007−20459号公報、要約
特開2000−234337号公報、要約
特開2003−34933号公報、要約、代表図
特開2006−45846号公報、要約
特開2006−109874号公報、要約
特開2006−299544号公報、要約
特許文献3の「法面緑化工における野生動物からの発芽食害防止方法」では、図6に示すように、「法面1に施工した植物の生育基盤層2の表面にマルチマット材4の上に化学繊維製ラッセルネット5を重ねて成マルチマット3を張設し、さらにそのマルチマットの表面に金網6を張設したことを特徴とする法面緑化工における野生動物からの発芽食害防止方法」であるが、当該文献の段落0005にも記載されているように、「野生鹿などの有蹄動物は、この金網を嫌って寄り付くことがない」ものとなると考えられる。
しかしながら、この特許文献3では、図7にも示すように、「法面に施工した植物の生育基盤層の表面に張設したマルチマットの表面に金網を張設」するものであるため、このマルチマットから生えだした植生植物の芽は直ぐに金網から突出して、鹿に食されてしまうのではないかと考えられる。つまり、この金網は、芽の保護にはなっていないではないかと考えられる。
また、特許文献4では、図8にも示すように、「少なくとも横枠からなる法枠、あるいは少なくとも縦枠からなる法枠と、法枠の表面に取り付けた網よりなる」ものであり、図9及び図10に示すように、「法面地山表面と網との間に保護育成高さhを取る」ものであり、この保護育成高さhを取るものが、間伐材を利用した横枠2あるいは縦枠7なのである。
しかしながら、これらの間伐材を利用した横枠2あるいは縦枠7は、これはこれで保護育成高さhを確保する上で十分であるが、このような横枠2あるいは縦枠7は、山間部の然も急な傾斜(鹿は70度近い傾斜でも移動する)にまで運び込むことは至難の技であり、野生鹿が出るようなところでは、施工が不可能に近いものとなっているのである。
更に、特許文献5や6においても、図11及び図12に示すように、「管理が容易で、かつ鹿等による食害を確実に防止することができる草食動物による食害の防止装置を提供する」(特許文献5)及び「野生動物による新芽や草木の食害や、風による法面表土や種子等の飛散を防止して種子や草木を確実に定着させ、かつ枠型の強度性を高めて枠型の変形や分解による法面の土砂流失を防止して確実に緑化を図る」(特許文献6)ことを目的とした技術が提案されている。
そして、この特許文献5では、「保護エリア1を網状体2によって覆う草食動物による食害の防止装置Dであって、前記網状体2をスペーサ3を介して前記保護エリア1から浮かせた状態で配置」、また特許文献6の技術では、「法面A上に複数の植生部aを画成する枠型1は、複数本の枠材2を連結して構成してある。枠材2は丸太3に基材充填穴3Bを穿設し、鉄芯4を挿通したものからなり、基材充填穴3Bには植生基材7が充填してある。枠材2は鉄芯4を環状連結具9で連結することにより枠型1を構成し、環状連結具9にアンカーを挿通して法面Aに打ち込んで法面Aに固定してある。枠材2に係止して枠型1に被装した金網10により、各植生部aの上方を覆ってある」という構成を有するものであるが、何れも、上記特許文献4におけるのと同様な、「スペーサ3」(特許文献5)、あるいは「法面A上に複数の植生部aを画成する枠型1と、丸太3に基材充填穴3Bを穿設した枠材2」(特許文献6)という施工が困難な構成を有しているのであり、山間地や急傾斜面では施工が困難であると考えられる。
特に、網の高さを維持するものとして、図10や図12に示されているような「丸太あるいは加工されていない間伐材」を使用することは、これらを固定するための手段が大掛かりとなって、実際上の施工は、急傾斜面であれば殆ど不可能に近いと考えられる。
そこで、本発明者等は、野生鹿を代表とする動物の食害を防止できるだけでなく、山間地や急傾斜面でも施工が簡単に行えるようにするにはどうしたらよいか、について種々検討を重ねてきた結果、本発明を完成したのである。
すなわち、本発明の目的とするところは、植生植物の動物からの食害を防止できるだけでなく、山間地や急傾斜面でも施工が簡単に行える植生材を、簡単な構成によって提供することにある。
以上の課題を解決するために、まず、請求項1に係る発明の採った手段は、後述する最良形態の説明中で使用する符号を付して説明すると、
「斜面20上に敷設されることになる植生帯11と、この植生帯11の表面側に部分的に取り付けられて、植生植物Pの動物による食害を防止する網体12とを備えた食害防止植生材10であって、
植生帯11の所定幅La部分の両縁に、網体12の所定幅Laより大きい拡大幅Lb部分の両縁を取り付けて、
これら植生帯11及び網体12間に挿入した高さ保持部材13によって、両植生帯11及び網体12間に、縦断面が三角形となる保護空間Rを形成できるようにしたことを特徴とする食害防止植生材10」
である。
すなわち、この請求項1に係る食害防止植生材10は、基本的には植生帯11と網体12とからなるものであるが、これらの植生帯11と網体12との間に、図1、図3の(a)及び図4に示すように、植生植物Pの保護空間Rを積極的に複数形成するようにしたものであり、これらの保護空間Rの存在によって、特に図4に示すように、網体12下になる保護空間R内にて発芽し生育した植生植物Pを保護するようにしたものである。
この図4に示すように、植生帯11から植生植物Pが発芽あるいは生育するのであるが、植生植物Pの生育が順調にいけば、網体12の網目から上方に突出する。しかし、植生植物Pの全てが網体12の上方に突出するのではなく、植生帯11や斜面20内の「根」は勿論、この根の直上になる「茎」は上方を網体12によって覆われた保護空間R内に位置することになる。その結果、網体12から上に突出した植生植物Pの部分が、例えば図4の右上部分の点線にて示すように、野生鹿や熊等から食害を受けたとしても、保護空間R内の「根」や「茎」は網体12によって保護され、食害を受けることはない。
以上の結果、植生植物Pが図4の右上例で示すような食害を受けたとしても、残存している根や茎によってこの植生植物Pは再び生育を始め、斜面20が丸裸になることはなく、植生が十分果たされるのである。勿論、図4の左下に示したように、食害を全く受けない植生植物Pが存在すれば、この植生植物Pは、網体12の網目からグングン生育していき、必要な植生が完了するのである。
さらに、上記のように、網体12は保護空間R上に浮いた状態にあるが、このことも、植生植物Pが食害に合うことを防止している。何故なら、この食害防止植生材10が斜面20の多くの部分に施工されていると、非常に多数の保護空間Rが存在することになる訳であるが、野生鹿が奥の方に入ろうとすれば、当然網体12上を踏み付けなければならない。ところが、上述したように、網体12下には多数の保護空間Rが存在しているため、各網体12を野生鹿が踏み付けると「フワフワ」することとなって、野生鹿に不安感を与えることになる。つまり、野生鹿は、保護空間Rが存在することによって不安定になっている網体12上を歩くことができず、奥の方にも生えている植生植物Pを食することができなくなるのである。
以上のように、網体12下に保護空間Rが形成できるのは、図3の(b)に示すように、植生帯11の所定幅La部分の両縁に、網体12の所定幅Laより大きい拡大幅Lb部分の両縁を取り付けるとともに、図1及び図2に示すように、これら植生帯11及び網体12間に高さ保持部材13を挿入するようにしたからである。つまり、この高さ保持部材13によって、図3の(a)に示すように、両植生帯11及び網体12間に、縦断面が三角形となる保護空間保護空間Rが形成できるのである。
換言すれば、図3の(b)に示すように、植生帯11の所定幅La部分の両縁に、網体12の所定幅Laより大きい拡大幅Lb部分の両縁を取り付けることによって、これらの植生帯11と網体12との間は物を差し込めるような自由部分、つまり高さ保持部材13を挿入できる箇所ができるのである。これらの植生帯11と網体12との取り付けにあたっては、図2に示すように、リングや針金のような止め材15により行っても良いし、図3の(a)に示すように、所謂アンカー16を採用して行っても良い。
止め材15を採用した場合には、植生帯11と網体12との固定が工場でのプレ加工が行えるため有利である。一方、アンカー16を採用した場合には、斜面20上に植生帯11を敷設して適宜間隔で高さ保持部材13を配置し、これらの高さ保持部材13間にアンカー16を打ち込めばよいことになるから、施工を現場の状況に合わせて行えるという利点を生むことになる。
高さ保持部材13については、図2に示すような構造のものであってもよく、また、図4の(b)に示すような、逆「T」字状となるようなものであってもよいが、少なくとも施工後に不安定となるような「丸太」は避けたい。
そして、植生帯11については一般的なものが採用でき、肥料や植生植物Pの種子を含んだものであってもよい。また、網体12については、所謂金網は勿論、合成樹脂で形成したネットであってもよいが、目合いが1〜5平方センチメートル程度のものであると、野生鹿の足が入り込まないから有利である。
以上のようにした食害防止植生材10は、まず、止め材15によって植生帯11と網体12とを所定間隔で止めたものの場合、高さ保持部材13を抜いた状態の食害防止植生材10を斜面20上に展開してからアンカー16等で固定し、各保護空間Rを形成すべく、植生帯11と網体12との間に高さ保持部材13を差し込めばよく、その施工は斜面20が急斜面であったとしても、簡単に行えるのである。勿論、止め材15で止めた植生帯11と網体12と、高さ保持部材13とは別々に製造及び運搬すればよい。
一方、植生帯11と網体12とを止め材15で止めない食害防止植生材10の場合は、斜面20上に植生帯11を展開した後、この植生帯11上の所定箇所に、現場で組み立てた高さ保持部材13を配置固定する。そして、図3の(a)にも示したように、植生帯11にアンカー16によって網体12を止めれば、高さ保持部材13によって保護空間Rを形成しながら、施工が簡単に完了する。
従って、この請求項1に係る食害防止植生材10は、斜面20の植生を果たすことは勿論、植生植物Pの動物による食害を防止できるだけでなく、山間地や急傾斜面でも施工が簡単に行えるものとなっているのである。
また、上記課題を解決するために、請求項2に係る発明の採った手段は、上記請求項1に記載の食害防止植生材10について、
「高さ保持部材13は、網体12の拡大幅Lb内のほぼ中央内面に当接する水平材13aと、この水平材13aを植生帯11上に保持する支持脚13bとにより構成したこと」
である。
すなわち、この請求項2の食害防止植生材10では、図2または図4の(b)にて示したように、その高さ保持部材13について水平材13aと支持脚13bとによって構成するようにしたものである。このようにすれば、高さ保持部材13自体を施工現場にて組み立てればよいから、その運搬を簡単にできるだけでなく、網体12を持ち上げることになる水平材13aの斜面20上に対する支持を確実に行え、結果的に当該食害防止植生材10それ自体の施工が容易に行えるのである。
特に、この高さ保持部材13では、その支持脚13b自体が植生帯11上に対してしっかりと位置決めできるから、例えば、図10や図12に示したような、急斜面において転がり易い丸太を採用するという不安定な施工が避けられるのである。
従って、この請求項2の食害防止植生材10では、上記請求項1のそれと同様な機能を発揮する他、高さ保持部材13を簡単な構造で施工し易いものとすることができ、保護空間Rの形成が確実に行えるのである。
以上説明したとおり、請求項1に係る発明においては、
「斜面20上に敷設されることになる植生帯11と、この植生帯11の表面側に部分的に取り付けられて、植生植物Pの動物による食害を防止する網体12とを備えた食害防止植生材10であって、
植生帯11の所定幅La部分の両縁に、網体12の所定幅Laより大きい拡大幅Lb部分の両縁を取り付けて、
これら植生帯11及び網体12間に挿入した高さ保持部材13によって、両植生帯11及び網体12間に、縦断面が三角形となる保護空間Rを形成できるようにしたこと」
にその構成上の特徴があり、これにより、植生植物Pの、動物による食害を防止できるだけでなく、山間地や急傾斜面でも施工も簡単に行える食害防止植生材10を、簡単な構成によって提供することができるのである。
また、上記課題を解決するために、請求項2に係る発明によれば、上記請求項1に記載の食害防止植生材10について、
「高さ保持部材13は、網体12の拡大幅Lb内のほぼ中央内面に当接する水平材13aと、この水平材13aを植生帯11上に保持する支持脚13bとにより構成したこと」
に構成上の特徴があり、これにより、上記請求項1のそれと同様な効果を発揮する他、高さ保持部材13を簡単な構造で施工し易いものとすることができ、保護空間Rの形成が確実に行える食害防止植生材10を提供することができるのである。
次に、上記のように構成した各請求項に係る発明を、図面に示した最良の形態である食害防止植生材10について説明するが、この最良形態の食害防止植生材10は、上記各請求項に係る発明の全てを実質的に含むものである。
図1には、施工後の食害防止植生材10を側方から見た部分斜視図が示してあり、図2には、同食害防止植生材10を谷側から上方に向けて見た部分斜視図が示してある。この食害防止植生材10は、斜面20上に敷設されることになる植生帯11と、この植生帯11の表面側に部分的に取り付けられて、植生植物Pの動物による食害を防止する網体12とを備えたものである。
ここで採用している植生帯11は、自然繊維を採用して、ネット状またはマット状に形成したものであり、言わば「土に還る」材料によって形成してある。また、この植生帯11には、図1及び図2中の点線にて示したように、複数の植生材袋14が、所定間隔で施工後に水平となるように取り付けてあるが、これらの植生材袋14中には、植生植物Pの発芽や生育に必要な肥料、土壌改良材、保水材等が収納してある。
勿論、この植生帯11としては、一般的なものが採用でき、肥料や植生植物Pの種子を含んだり添着したりしたものであってもよい。従って、上記植生材袋14は、本発明を実施するにあたって必ずしも必要なものではない。
一方、網体12については、所謂金網は勿論、合成樹脂で形成したネットであってもよいが、本最良形態では、目合い(網目の大きさ)が4平方センチメートル程度の所謂金網を採用した。この目合いの金網であると、野生鹿の足が入り込まないし、踏み付けられても簡単に破れることがないから有利である。
そして、この最良形態の食害防止植生材10では、図3の(b)に示したように、これを構成している上述した植生帯11の所定幅La部分の両縁に、網体12の所定幅Laより大きい拡大幅Lb部分の両縁を取り付けている。つまり、一枚の食害防止植生材10を構成している網体12は、植生帯11よりも長いものであり、このようにしているのは、図3の(a)に示したように、これら植生帯11及び網体12間に挿入した後述する高さ保持部材13によって、両植生帯11及び網体12間に、縦断面が三角形となる保護空間Rを形成できるようにするためである。
つまり、本発明の食害防止植生材10においては、図3の(b)に示したように、植生帯11の所定幅La部分の両縁に、網体12の所定幅Laより大きい拡大幅Lb部分の両縁を取り付けることによって、これらの植生帯11と網体12との間に物を差し込めるような自由部分を積極的に形成するのである。これらの植生帯11と網体12との取り付けにあたっては、図2に示したようなリングや針金のような止め材15により行っても良いし、図3の(a)に示したような所謂アンカー16を網体12の一部に掛かるようにしながら斜面20に打ち込んで行っても良い。
止め材15を採用した場合には、植生帯11と網体12との固定が工場でのプレ加工が行えるため有利である。一方、アンカー16を採用した場合には、斜面20上に植生帯11を敷設して適宜間隔で高さ保持部材13を配置し、これらの高さ保持部材13間にアンカー16を打ち込めばよいことになるから、施工を現場の状況に合わせて行えるという利点を生むことになる。
高さ保持部材13については、図2及び図3に示した最良形態では、板材である二枚の支持脚13bの上端に形成した差込溝内に、一本の板材である水平材13aを差し込んで一体化するようにしたものであり、施工現場において簡単に組立られるようにしたものである。勿論、組み立てる前は、水平材13aも支持脚13bも板材であるから、平らに纏めておくことができるため、保管が簡単に行えるだけでなく、斜面20が急斜面であってもその上への持ち込みも簡単に行えることになる。
また、図4の(b)に示した高さ保持部材13は、二枚の板材を水平材13aと支持脚13bと斜面20にして、支持脚13bに水平材13aを釘等によって止めることにより、逆「T」字状となるようにしたものである。この場合、支持脚13bが植生帯11上に対して平らに置かれ、この平らに置かれた支持脚13b上に水平材13aが立設されることになり、この水平材13aの上端に網体12が係止されることになるのである。
以上のような高さ保持部材13を、植生帯11及び網体12間に形成した自由空間内に挿入すれば、図1及び図2に示したように、網体12下に保護空間Rが形成できるのである。つまり、この高さ保持部材13によって、図3の(a)に示したように、両植生帯11及び網体12間に、縦断面が三角形となる保護空間保護空間Rが形成できるのである。
施工後の本発明に係る食害防止植生材を示す部分斜視図である。
同食害防止植生材を谷側から見上げたときの様子を示す部分斜視図である。
同食害防止植生材を構成している植生帯と網体との関係を示すもので、(a)は斜面上で保護空間を形成している状態の部分縦断面図、(b)は植生帯と網体との固定関係を示す平面図である。
同食害防止植生材を構成している高さ保持部材を説明するもので、(a)は植生植物が生育した状態と保護空間を形成している高さ保持部材との位置関係を示す部分拡大断面図、(b)は(a)に示したのとは別の形態の高さ保持部材を示す側面図である。
斜面上に施工した本発明に係る食害防止植生材の部分平面図である。
従来技術を示す斜視図である。
図6に示したものの部分縦断面図である。
従来の他の技術を示す部分斜視図である。
従来のさらに他の技術を示す斜視図である。
図9に示したものの部分拡大縦断面図である。
従来の別の技術を示すもので、(a)は部分斜視図、(b)は(a)の縦断面図である。
従来のさらに別の技術を示す部分拡大縦断面図である。
符号の説明
10 食害防止植生材
11 植生帯
12 網体
13 高さ保持部材
13a 水平材
13b 支持脚
14 植生材袋
15 止め材
16 アンカー
20 斜面
La 所定幅
Lb 拡大幅
P 植生植物
R 保護空間
本発明は、植生植物の、野生鹿等の動物による食害を防止するようにした食害防止植生材、及びその施工方法に関するものである。
新規造成地や切り通し、あるいは道路側部の山肌等における斜面は、これを早期に保護しないと、折角形成した斜面の崩落という現象が発生する。この斜面の保護には、自然破壊の防止や景観保持のためもあって、一般には植物を使用した方法、つまり所謂「植生」を施すことが行われている。
この斜面の植生は、近年では山奥深く入った道路法面等の斜面や、治山のための山肌についても行われるようになってきているが、この山間地における斜面では、植生植物の特に野生鹿による食害が増加してきている。つまり、折角生え揃ってきた植生植物の芽を野生鹿が食い荒らしてしまい、十分な植生が行えなくなってしまうという現象が頓に増えてきたのである。
そこで、この野生鹿による食害を防止する対策として、特許文献1及び2に示されているような「忌避剤」を使用する第1の方法と、特許文献3〜6に示されているように、鹿が食害を起こせないようにする構造にする第2の方法とが提案されてきている。
特許文献1及び2に示されているような「忌避剤」を使用する第1の方法では、例えば特許文献1の要約にも示されているように、「植生基材2を収容した植生袋3を備え、植生基材2および/または植生袋3が忌避機能を有するように構成」したものであるが、この忌避機能を長期に亘って維持することは困難ではないかと思われる。何故なら、植生植物が生育する頃までに忌避剤が流亡してしまったり、植生植物自体によって無力化されてしまう可能性が非常に高いと考えられる。
なお、野生鹿が食するのを嫌う「ウィーピンググラス」、「アカマツ」あるいは「クサギ」を植生植物として採用することも検討されたが、これらの植物は食害を受けにくいという一定の効果はあるものの、これらに限定された植生を行うことは好ましくないということで、見送られている。つまり、上記のような植生植物にするという限定があれば、景観の維持ができないことは勿論のこと、その地方にあった植生を行うことができないからである。
これ
に対して、特許文献3〜6に示されているような構造的な防止策であると、食害防止機能を長期間発揮できるため、よいのではないかと考えられる。
特開2007−20459号公報、要約
特開2000−234337号公報、要約
特開2003−34933号公報、要約、代表図
特開2006−45846号公報、要約
特開2006−109847号公報、要約
特開2006−299544号公報、要約
特許文献3の「法面緑化工における野生動物からの発芽食害防止方法」では、図6に示すように、「法面1に施工した植物の生育基盤層2の表面にマルチマット材4の上に化学繊維製ラッセルネット5を重ねて成マルチマット3を張設し、さらにそのマルチマットの表面に金網6を張設したことを特徴とする法面緑化工における野生動物からの発芽食害防止方法」であるが、当該文献の段落0005にも記載されているように、「野生鹿などの有蹄動物は、この金網を嫌って寄り付くことがない」ものとなると考えられる。
しかしながら、この特許文献3では、図7にも示すように、「法面に施工した植物の生育基盤層の表面に張設したマルチマットの表面に金網を張設」するものであるため、このマルチマットから生えだした植生植物の芽は直ぐに金網から突出して、鹿に食されてしまうのではないかと考えられる。つまり、この金網は、芽の保護にはなっていないではないかと考えられる。
また、特許文献4では、図8にも示すように、「少なくとも横枠からなる法枠、あるいは少なくとも縦枠からなる法枠と、法枠の表面に取り付けた網よりなる」ものであり、図9及び図10に示すように、「法面地山表面と網との間に保護育成高さhを取る」ものであり、この保護育成高さhを取るものが、間伐材を利用した横枠2あるいは縦枠7なのである。
しかしながら、これらの間伐材を利用した横枠2あるいは縦枠7は、これはこれで保護育成高さhを確保する上で十分であるが、このような横枠2あるいは縦枠7は、山間部の然も急な傾斜(鹿は70度近い傾斜でも移動する)にまで運び込むことは至難の技であり、野生鹿が出るようなところでは、施工が不可能に近いものとなっているのである。
更に、特許文献5や6においても、図11及び図12に示すように、「管理が容易で、かつ鹿等による食害を確実に防止することができる草食動物による食害の防止装置を提供する」(特許文献5)及び「野生動物による新芽や草木の食害や、風による法面表土や種子等の飛散を防止して種子や草木を確実に定着させ、かつ枠型の強度性を高めて枠型の変形や分解による法面の土砂流失を防止して確実に緑化を図る」(特許文献6)ことを目的とした技術が提案されている。
そして、この特許文献5では、「保護エリア1を網状体2によって覆う草食動物による食害の防止装置Dであって、前記網状体2をスペーサ3を介して前記保護エリア1から浮かせた状態で配置」、また特許文献6の技術では、「法面A上に複数の植生部aを画成する枠型1は、複数本の枠材2を連結して構成してある。枠材2は丸太3に基材充填穴3Bを穿設し、鉄芯4を挿通したものからなり、基材充填穴3Bには植生基材7が充填してある。枠材2は鉄芯4を環状連結具9で連結することにより枠型1を構成し、環状連結具9にアンカーを挿通して法面Aに打ち込んで法面Aに固定してある。枠材2に係止して枠型1に被装した金網10により、各植生部aの上方を覆ってある」という構成を有するものであるが、何れも、上記特許文献4におけるのと同様な、「スペーサ3」(特許文献5)、あるいは「法面A上に複数の植生部aを画成する枠型1と、丸太3に基材充填穴3Bを穿設した枠材2」(特許文献6)という施工が困難な構成を有しているのであり、山間地や急傾斜面では施工が困難であると考えられる。
特に、網の高さを維持するものとして、図10や図12に示されているような「丸太あるいは加工されていない間伐材」を使用することは、これらを固定するための手段が大掛かりとなって、実際上の施工は、急傾斜面であれば殆ど不可能に近いと考えられる。
そこで、本発明者等は、野生鹿を代表とする動物の食害を防止できるだけでなく、山間地や急傾斜面でも施工が簡単に行えるようにするにはどうしたらよいか、について種々検討を重ねてきた結果、本発明を完成したのである。
すなわち、本発明の目的とするところは、植生植物の動物からの食害を防止できるだけでなく、山間地や急傾斜面でも施工が簡単に行える植生材、及びその施工方法を、簡単な構成によって提供することにある。
以上の課題を解決するために、まず、請求項1に係る発明の採った手段は、後述する最良形態の説明中で使用する符号を付して説明すると、
「斜面20上に敷設されることになる植生帯11と、この植生帯11の表面側に部分的に取り付けられて、植生植物Pの動物による食害を防止する網体12と、この網体12と植生帯11との間に挿入される高さ保持部材13とを備えた食害防止植生材10であって、
植生帯11の所定幅La部分の両縁に、網体12の所定幅Laより大きい拡大幅Lb部分の両縁を取り付けて、
これら植生帯11及び網体12間に挿入した高さ保持部材13によって、両植生帯11及び網体12間に、縦断面が三角形となる保護空間Rを形成できるようにしたことを特徴とする食害防止植生材10」
である。
すなわち、この請求項1に係る食害防止植生材10は、基本的には植生帯11、網体12、及び高さ保持部材13とからなるものであるが、これらの植生帯11と網体12との間に、図1、図3の(a)及び図4に示すように、植生植物Pの保護空間Rを高さ保持部材13によって積極的に形成するようにしたものであり、これらの保護空間Rの存在によって、特に図4に示すように、網体12下になる保護空間R内にて発芽し生育した植生植物Pを保護するようにしたものである。
この図4に示すように、植生帯11から植生植物Pが発芽あるいは生育するのであるが、植生植物Pの生育が順調にいけば、網体12の網目から上方に突出する。しかし、植生植物Pの全てが網体12の上方に突出するのではなく、植生帯11や斜面20内の「根」は勿論、この根の直上になる「茎」は上方を網体12によって覆われた保護空間R内に位置することになる。その結果、網体12から上に突出した植生植物Pの部分が、例えば図4の右上部分の点線にて示すように、野生鹿や熊等から食害を受けたとしても、保護空間R内の「根」や「茎」は網体12によって保護され、食害を受けることはない。
以上の結果、植生植物Pが図4の右上例で示すような食害を受けたとしても、残存している根や茎によってこの植生植物Pは再び生育を始め、斜面20が丸裸になることはなく、植生が十分果たされるのである。勿論、図4の左下に示したように、食害を全く受けない植生植物Pが存在すれば、この植生植物Pは、網体12の網目からグングン生育していき、必要な植生が完了するのである。
さらに、上記のように、網体12は、高さ保持部材13の存在によって保護空間R上に浮いた状態にあるが、このことも、植生植物Pが食害に合うことを防止している。何故なら、この食害防止植生材10が斜面20の多くの部分に施工されていると、非常に多数の保護空間Rが存在することになる訳であるが、野生鹿が奥の方に入ろうとすれば、当然網体12上を踏み付けなければならない。ところが、上述したように、網体12下には多数の保護空間Rが存在しているため、各網体12を野生鹿が踏み付けると「フワフワ」することとなって、野生鹿に不安感を与えることになる。つまり、野生鹿は、保護空間Rが存在することによって不安定になっている網体12上を歩くことができず、奥の方にも生えている植生植物Pを食することができなくなるのである。
以上のように、網体12下に保護空間Rが形成できるのは、図3の(b)に示すように、植生帯11の所定幅La部分の両縁に、網体12の所定幅Laより大きい拡大幅Lb部分の両縁を取り付けるとともに、図1及び図2に示すように、これら植生帯11及び網体12間に高さ保持部材13を挿入するようにしたからである。つまり、この高さ保持部材13によって、図3の(a)に示すように、両植生帯11及び網体12間に、縦断面が三角形となる保護空間保護空間Rが形成できるのである。
換言すれば、図3の(b)に示すように、植生帯11の所定幅La部分の両縁に、網体12の所定幅Laより大きい拡大幅Lb部分の両縁を取り付けることによって、これらの植生帯11と網体12との間は物を差し込めるような自由部分、つまり高さ保持部材13を挿入できる箇所ができるのである。これらの植生帯11と網体12との取り付けにあたっては、図2に示すように、リングや針金のような止め材15により行っても良いし、図3の(a)に示すように、所謂アンカー16を採用して行っても良い。
止め材15を採用した場合には、植生帯11と網体12との固定が工場でのプレ加工が行えるため有利である。一方、アンカー16を採用した場合には、斜面20上に植生帯11を敷設して適宜間隔で高さ保持部材13を配置し、これらの高さ保持部材13間にアンカー16を打ち込めばよいことになるから、施工を現場の状況に合わせて行えるという利点を生むことになる。
高さ保持部材13については、図2に示すような構造のものであってもよく、また、図4の(b)に示すような、逆「T」字状となるようなものであってもよいが、少なくとも施工後に不安定となるような「丸太」は避けたい。
そして、植生帯11については一般的なものが採用でき、肥料や植生植物Pの種子を含んだものであってもよい。また、網体12については、所謂金網は勿論、合成樹脂で形成したネットであってもよいが、目合いが1〜5平方センチメートル程度のものであると、野生鹿の足が入り込まないから有利である。
以上のようにした食害防止植生材10は、まず、止め材15によって植生帯11と網体12とを所定間隔で止めたものの場合、高さ保持部材13を抜いた状態の食害防止植生材10を斜面20上に展開してからアンカー16等で固定し、各保護空間Rを形成すべく、植生帯11と網体12との間に高さ保持部材13を差し込めばよく、その施工は斜面20が急斜面であったとしても、簡単に行えるのである。勿論、止め材15で止めた植生帯11と網体12と、高さ保持部材13とは別々に製造及び運搬すればよい。
一方、植生帯11と網体12とを止め材15で止めない食害防止植生材10の場合は、斜面20上に植生帯11を展開した後、この植生帯11上の所定箇所に、現場で組み立てた高さ保持部材13を配置固定する。そして、図3の(a)にも示したように、植生帯11にアンカー16によって網体12を止めれば、高さ保持部材13によって保護空間Rを形成しながら、施工が簡単に完了する。
従って、この請求項1に係る食害防止植生材10は、斜面20の植生を果たすことは勿論、植生植物Pの動物による食害を防止できるだけでなく、山間地や急傾斜面でも施工が簡単に行えるものとなっているのである。
また、上記課題を解決するために、請求項2に係る発明の採った手段は、上記請求項1に記載の食害防止植生材10について、
「高さ保持部材13は、網体12の拡大幅Lb内のほぼ中央内面に当接する水平材13aと、この水平材13aを植生帯11上に保持する支持脚13bとにより構成したこと」である。
すなわち、この請求項2の食害防止植生材10では、図2または図4の(b)にて示したように、その高さ保持部材13について水平材13aと支持脚13bとによって構成するようにしたものである。このようにすれば、高さ保持部材13自体を施工現場にて組み立てればよいから、その運搬を簡単にできるだけでなく、網体12を持ち上げることになる水平材13aの斜面20上に対する支持を確実に行え、結果的に当該食害防止植生材10それ自体の施工が容易に行えるのである。
特に、この高さ保持部材13では、その支持脚13b自体が植生帯11上に対してしっかりと位置決めできるから、例えば、図10や図12に示したような、急斜面において転がり易い丸太を採用するという不安定な施工が避けられるのである。
従って、この請求項2の食害防止植生材10では、上記請求項1のそれと同様な機能を発揮する他、高さ保持部材13を簡単な構造で施工し易いものとすることができ、保護空間Rの形成が確実に行えるのである。
そして、以上のように構成した食害防止植生材10は、請求項3に係る発明のように、
「食害防止植生材10を斜面20上に施工する施工方法であって、次の各工程を含むことを特徴とする食害防止植生材10の施工方法。
(1)斜面20上に敷設されることになる植生帯11の所定幅La部分の両縁に、植生植物Pの動物による食害を防止する網体12の、植生帯11側の所定幅La部分より大きい拡大幅Lb部分の両側を取り付ける工程;
(2)この(1)工程によって互いに取り付けられた植生帯11及び網体12を、当該網体12が上側になるようにして斜面20上に展開する工程;
(3)網体12の各所定幅部分Laと植生帯11との間に、少なくとも1つの高さ保持部材13を挿入して、この高さ保持部材13と、網体12及び植生帯11との取付部分との間に、縦断面形状が三角形となる保護空間Rを形成する工程」
によって斜面20上に施工される。
すなわち、この請求項3に係る食害防止植生材10の施工方法では、工程(1)において、斜面20上に敷設されることになる植生帯11の所定幅La部分の両縁に、植生植物Pの動物による食害を防止する網体12の、植生帯11側の所定幅La部分より大きい拡大幅Lb部分の両側を取り付けるのである。この食害防止植生帯10が植生帯11と網体12とを所定間隔で止めてあるから、高さ保持部材13を抜いた状態の食害防止植生材10を斜面20上に展開してからアンカー16等で固定し、工程(3)の各保護空間Rを形成すべく、植生帯11と網体12との間に高さ保持部材13を差し込めばよく、その施工は斜面20が急斜面であったとしても、簡単に行える。勿論、止め材15等で止めた植生帯11と網体12と、高さ保持部材13とは別々に製造及び運搬すればい。特に、この止め材15を採用する場合には、植生帯11と網体12との固定が工場でのプレ加工が行えるため有利である。
次に、工程(2)において、工程(1)において互いに取り付けられた植生帯11及び網体12を、当該網体12が上側になるようにして斜面20上に展開するのである。この工程(2)において、食害防止植生帯10が止め材15によって植生帯11と網体12とを所定間隔で止めたものの場合、当該食害防止植生帯10の上縁を斜面20の上側に固定しておいてから、その他の部分を網体12が上側になるようにして斜面20上から転がり落とせば簡単に展開することになる。
高さ保持部材13については、最良形態では、板材である二枚の支持脚13bの上端に形成した差込溝内に、一本の板材である水平材13aを差し込んで一体化するようにしてあり、施工現場において簡単に組立られるようにしてある。勿論、組み立てる前は、水平材13aも支持脚13bも板材であるから、平らに纏めておくことができるため、保管が簡単に行えるだけでなく、斜面20が急斜面であってもその上への持ち込みも簡単に行える。
以上のような高さ保持部材13を、工程(3)において植生帯11及び網体12間に形成した自由空間内に挿入すれば、網体12下に保護空間Rが形成される。つまり、この高さ保持部材13によって、両植生帯11及び網体12間に、縦断面が三角形となる保護空間保護空間Rが形成できる。
以上説明したとおり、請求項1に係る発明においては、
「斜面20上に敷設されることになる植生帯11と、この植生帯11の表面側に部分的に取り付けられて、植生植物Pの動物による食害を防止する網体12と、この網体12と植生帯11との間に挿入される高さ保持部材13とを備えた食害防止植生材10であって、
植生帯11の所定幅La部分の両縁に、網体12の所定幅Laより大きい拡大幅Lb部分の両縁を取り付けて、
これら植生帯11及び網体12間に挿入した高さ保持部材13によって、両植生帯11及び網体12間に、縦断面が三角形となる保護空間Rを形成できるようにしたこと」
にその構成上の特徴があり、これにより、植生植物Pの、動物による食害を防止できるだけでなく、山間地や急傾斜面でも施工も簡単に行える食害防止植生材10を、簡単な構成によって提供することができるのである。
また、請求項2に係る発明によれば、上記請求項1に記載の食害防止植生材10について、
「高さ保持部材13は、網体12の拡大幅Lb内のほぼ中央内面に当接する水平材13aと、この水平材13aを植生帯11上に保持する支持脚13bとにより構成したこと」に構成上の特徴があり、これにより、上記請求項1のそれと同様な効果を発揮する他、高さ保持部材13を簡単な構造で施工し易いものとすることができ、保護空間Rの形成が確実に行える食害防止植生材10を提供することができるのである。
さらに、請求項3に係る施工方法では、
「食害防止植生材10を斜面20上に施工する施工方法であって、次の各工程を含むことを特徴とする食害防止植生材10の施工方法。
(1)斜面20上に敷設されることになる植生帯11の所定幅La部分の両縁に、植生植物Pの動物による食害を防止する網体12の、植生帯11側の所定幅La部分より大きい拡大幅Lb部分の両側を取り付ける工程;
(2)この(1)工程によって互いに取り付けられた植生帯11及び網体12を、当該網体12が上側になるようにして斜面20上に展開する工程;
(3)網体12の各所定幅部分Laと植生帯11との間に、少なくとも1つの高さ保持部材13を挿入して、この高さ保持部材13と、網体12及び植生帯11との取付部分との間に、縦断面形状が三角形となる保護空間Rを形成する工程」
にその抗せ上の特徴があり、これにより、上記請求項1または2に係る食害防止植生材10の施工を確実に行うことができる。
特に、この請求項3に係る施工方法では、植生帯11の所定幅La部分の両縁に、網体12の所定幅Laより大きい拡大幅Lb部分の両縁を取り付けた食害防止植生材10を、丸めた食害防止植生材10を斜面20上にそのまま転がすようにして展開し、植生帯11及び網体12間に高さ保持部材13を挿入するだけで施工を完了させることができる。
次に、上記のように構成した各請求項に係る発明を、図面に示した最良の形態である食害防止植生材10について説明するが、この最良形態の食害防止植生材10は、上記各請求項に係る発明の全てを実質的に含むものである。
図1には、施工後の食害防止植生材10を側方から見た部分斜視図が示してあり、図2には、同食害防止植生材10を谷側から上方に向けて見た部分斜視図が示してある。この食害防止植生材10は、斜面20上に敷設されることになる植生帯11と、この植生帯11の表面側に部分的に取り付けられて、植生植物Pの動物による食害を防止する網体12とを備えたものである。
ここで採用している植生帯11は、自然繊維を採用して、ネット状またはマット状に形成したものであり、言わば「土に還る」材料によって形成してある。また、この植生帯11には、図1及び図2中の点線にて示したように、複数の植生材袋14が、所定間隔で施工後に水平となるように取り付けてあるが、これらの植生材袋14中には、植生植物Pの発芽や生育に必要な肥料、土壌改良材、保水材等が収納してある。
勿論、この植生帯11としては、一般的なものが採用でき、肥料や植生植物Pの種子を含んだり添着したりしたものであってもよい。従って、上記植生材袋14は、本発明を実施するにあたって必ずしも必要なものではない。
一方、網体12については、所謂金網は勿論、合成樹脂で形成したネットであってもよいが、本最良形態では、目合い(網目の大きさ)が4平方センチメートル程度の所謂金網を採用した。この目合いの金網であると、野生鹿の足が入り込まないし、踏み付けられても簡単に破れることがないから有利である。
そして、この最良形態の食害防止植生材10では、図3の(b)に示したように、これを構成している上述した植生帯11の所定幅La部分の両縁に、網体12の所定幅Laより大きい拡大幅Lb部分の両縁を取り付けている。つまり、一枚の食害防止植生材10を構成している網体12は、植生帯11よりも長いものであり、このようにしているのは、図3の(a)に示したように、これら植生帯11及び網体12間に挿入した後述する高さ保持部材13によって、両植生帯11及び網体12間に、縦断面が三角形となる保護空間Rを形成できるようにするためである。
つまり、本発明の食害防止植生材10においては、図3の(b)に示したように、植生帯11の所定幅La部分の両縁に、網体12の所定幅Laより大きい拡大幅Lb部分の両縁を取り付けることによって、これらの植生帯11と網体12との間に物を差し込めるような自由部分を積極的に形成するのである。これらの植生帯11と網体12との取り付けにあたっては、図2に示したようなリングや針金のような止め材15により行っても良いし、図3の(a)に示したような所謂アンカー16を網体12の一部に掛かるようにしながら斜面20に打ち込んで行っても良い。
止め材15を採用した場合には、植生帯11と網体12との固定が工場でのプレ加工が行えるため有利である。一方、アンカー16を採用した場合には、斜面20上に植生帯11を敷設して適宜間隔で高さ保持部材13を配置し、これらの高さ保持部材13間にアンカー16を打ち込めばよいことになるから、施工を現場の状況に合わせて行えるという利点を生むことになる。
高さ保持部材13については、図2及び図3に示した最良形態では、板材である二枚の支持脚13bの上端に形成した差込溝内に、一本の板材である水平材13aを差し込んで一体化するようにしたものであり、施工現場において簡単に組立られるようにしたものである。勿論、組み立てる前は、水平材13aも支持脚13bも板材であるから、平らに纏めておくことができるため、保管が簡単に行えるだけでなく、斜面20が急斜面であってもその上への持ち込みも簡単に行えることになる。
また、図4の(b)に示した高さ保持部材13は、二枚の板材を水平材13aと支持脚13bと斜面20にして、支持脚13bに水平材13aを釘等によって止めることにより、逆「T」字状となるようにしたものである。この場合、支持脚13bが植生帯11上に対して平らに置かれ、この平らに置かれた支持脚13b上に水平材13aが立設されることになり、この水平材13aの上端に網体12が係止されることになるのである。
以上のような高さ保持部材13を、植生帯11及び網体12間に形成した自由空間内に挿入すれば、図1及び図2に示したように、網体12下に保護空間Rが形成できるのである。つまり、この高さ保持部材13によって、図3の(a)に示したように、両植生帯11及び網体12間に、縦断面が三角形となる保護空間保護空間Rが形成できるのである。
施工後の本発明に係る食害防止植生材を示す部分斜視図である。
同食害防止植生材を谷側から見上げたときの様子を示す部分斜視図である。
同食害防止植生材を構成している植生帯と網体との関係を示すもので、(a)は斜面上で保護空間を形成している状態の部分縦断面、(b)は植生帯と網体との固定関係を示す平面図である。
同食害防止植生材を構成している高さ保持部材を説明するもので、(a)は植生植物が生育した状態と保護空間を形成している高さ保持部材との位置関係を示す部分拡大断面図、(b)は(a)に示したのとは別の形態の高さ保持部材を示す側面図である。
斜面上に施工した本発明に係る食害防止植生材の部分平面図である。
従来技術を示す斜視図である。
図6に示したものの部分縦断面図である。
従来の他の技術を示す部分斜視図である。
従来のさらに他の技術を示す斜視図である。
図9に示したものの部分拡大縦断面図である。
従来の別の技術を示すもので、(a)は部分斜視図、(b)は(a)の縦断面図である。
従来のさらに別の技術を示す部分拡大縦断面図である。
符号の説明
10 食害防止植生材
11 植生帯
12 網体
13 高さ保持部材
13a 水平材
13b 支持脚
14 植生材袋
15 止め材
16 アンカー
20 斜面
La 所定幅
Lb 拡大幅
P 植生植物
R 保護空間
本発明は、植生植物の、野生鹿等の動物による食害を防止するようにした食害防止植生材、及びその施工方法に関するものである。
新規造成地や切り通し、あるいは道路側部の山肌等における斜面は、これを早期に保護しないと、折角形成した斜面の崩落という現象が発生する。この斜面の保護には、自然破壊の防止や景観保持のためもあって、一般には植物を使用した方法、つまり所謂「植生」を施すことが行われている。
この斜面の植生は、近年では山奥深く入った道路法面等の斜面や、治山のための山肌についても行われるようになってきているが、この山間地における斜面では、植生植物の特に野生鹿による食害が増加してきている。つまり、折角生え揃ってきた植生植物の芽を野生鹿が食い荒らしてしまい、十分な植生が行えなくなってしまうという現象が頓に増えてきたのである。
そこで、この野生鹿による食害を防止する対策として、特許文献1及び2に示されているような「忌避剤」を使用する第1の方法と、特許文献3〜6に示されているように、鹿が食害を起こせないようにする構造にする第2の方法とが提案されてきている。
特許文献1及び2に示されているような「忌避剤」を使用する第1の方法では、例えば特許文献1の要約にも示されているように、「植生基材2を収容した植生袋3を備え、植生基材2および/または植生袋3が忌避機能を有するように構成」したものであるが、この忌避機能を長期に亘って維持することは困難ではないかと思われる。何故なら、植生植物が生育する頃までに忌避剤が流亡してしまったり、植生植物自体によって無力化されてしまう可能性が非常に高いと考えられる。
なお、野生鹿が食するのを嫌う「ウィーピンググラス」、「アカマツ」あるいは「クサギ」を植生植物として採用することも検討されたが、これらの植物は食害を受けにくいという一定の効果はあるものの、これらに限定された植生を行うことは好ましくないということで、見送られている。つまり、上記のような植生植物にするという限定があれば、景観の維持ができないことは勿論のこと、その地方にあった植生を行うことができないからである。
これに対して、特許文献3〜6に示されているような構造的な防止策であると、食害防止機能を長期間発揮できるため、よいのではないかと考えられる。
特開2007−20459号公報、要約
特開2000−234337号公報、要約
特開2003−34933号公報、要約、代表図
特開2006−45846号公報、要約
特開2006−109847号公報、要約
特開2006−299544号公報、要約
特許文献3の「法面緑化工における野生動物からの発芽食害防止方法」では、図6に示すように、「法面1に施工した植物の生育基盤層2の表面にマルチマット材4の上に化学繊維製ラッセルネット5を重ねて成マルチマット3を張設し、さらにそのマルチマットの表面に金網6を張設したことを特徴とする法面緑化工における野生動物からの発芽食害防止方法」であるが、当該文献の段落0005にも記載されているように、「野生鹿などの有蹄動物は、この金網を嫌って寄り付くことがない」ものとなると考えられる。
しかしながら、この特許文献3では、図7にも示すように、「法面に施工した植物の生育基盤層の表面に張設したマルチマットの表面に金網を張設」するものであるため、このマルチマットから生えだした植生植物の芽は直ぐに金網から突出して、鹿に食されてしまうのではないかと考えられる。つまり、この金網は、芽の保護にはなっていないではないかと考えられる。
また、特許文献4では、図8にも示すように、「少なくとも横枠からなる法枠、あるいは少なくとも縦枠からなる法枠と、法枠の表面に取り付けた網よりなる」ものであり、図9及び図10に示すように、「法面地山表面と網との間に保護育成高さhを取る」ものであり、この保護育成高さhを取るものが、間伐材を利用した横枠2あるいは縦枠7なのである。
しかしながら、これらの間伐材を利用した横枠2あるいは縦枠7は、これはこれで保護育成高さhを確保する上で十分であるが、このような横枠2あるいは縦枠7は、山間部の然も急な傾斜(鹿は70度近い傾斜でも移動する)にまで運び込むことは至難の技であり、野生鹿が出るようなところでは、施工が不可能に近いものとなっているのである。
更に、特許文献5や6においても、図11及び図12に示すように、「管理が容易で、かつ鹿等による食害を確実に防止することができる草食動物による食害の防止装置を提供する」(特許文献5)及び「野生動物による新芽や草木の食害や、風による法面表土や種子等の飛散を防止して種子や草木を確実に定着させ、かつ枠型の強度性を高めて枠型の変形や分解による法面の土砂流失を防止して確実に緑化を図る」(特許文献6)ことを目的とした技術が提案されている。
そして、この特許文献5では、「保護エリア1を網状体2によって覆う草食動物による食害の防止装置Dであって、前記網状体2をスペーサ3を介して前記保護エリア1から浮かせた状態で配置」、また特許文献6の技術では、「法面A上に複数の植生部aを画成する枠型1は、複数本の枠材2を連結して構成してある。枠材2は丸太3に基材充填穴3Bを穿設し、鉄芯4を挿通したものからなり、基材充填穴3Bには植生基材7が充填してある。枠材2は鉄芯4を環状連結具9で連結することにより枠型1を構成し、環状連結具9にアンカーを挿通して法面Aに打ち込んで法面Aに固定してある。枠材2に係止して枠型1に被装した金網10により、各植生部aの上方を覆ってある」という構成を有するものであるが、何れも、上記特許文献4におけるのと同様な、「スペーサ3」(特許文献5)、あるいは「法面A上に複数の植生部aを画成する枠型1と、丸太3に基材充填穴3Bを穿設した枠材2」(特許文献6)という施工が困難な構成を有しているのであり、山間地や急傾斜面では施工が困難であると考えられる。
特に、網の高さを維持するものとして、図10や図12に示されているような「丸太あるいは加工されていない間伐材」を使用することは、これらを固定するための手段が大掛かりとなって、実際上の施工は、急傾斜面であれば殆ど不可能に近いと考えられる。
そこで、本発明者等は、野生鹿を代表とする動物の食害を防止できるだけでなく、山間地や急傾斜面でも施工が簡単に行えるようにするにはどうしたらよいか、について種々検討を重ねてきた結果、本発明を完成したのである。
すなわち、本発明の目的とするところは、植生植物の動物からの食害を防止できるだけでなく、山間地や急傾斜面でも施工が簡単に行える植生材、及びその施工方法を、簡単な構成によって提供することにある。
以上の課題を解決するために、まず、請求項1に係る発明の採った手段は、後述する最良形態の説明中で使用する符号を付して説明すると、
「斜面20上に敷設されることになる植生帯11と、この植生帯11の表面側に部分的に取り付けられて、植生植物Pの動物による食害を防止する網体12と、この網体12と植生帯11との間に挿入される高さ保持部材13とを備えた食害防止植生材10であって、
植生帯11の所定幅La部分の両縁に、網体12の所定幅Laより大きい拡大幅Lb部分の両縁を取り付けるとともに、高さ保持部材13を、網体12の拡大幅Lb内のほぼ中央内面に当接する水平材13aと、この水平材13aを植生帯11上に保持する支持脚13bとにより構成して、
これら植生帯11及び網体12間に挿入した高さ保持部材13によって、両植生帯11及び網体12間に、縦断面が三角形となる保護空間Rを形成できるようにしたことを特徴とする食害防止植生材10」
である。
すなわち、この請求項1に係る食害防止植生材10は、基本的には植生帯11、網体12、及び高さ保持部材13とからなるものであるが、これらの植生帯11と網体12との間に、図1、図3の(a)及び図4に示すように、植生植物Pの保護空間Rを高さ保持部材13によって積極的に形成するようにしたものであり、これらの保護空間Rの存在によって、特に図4に示すように、網体12下になる保護空間R内にて発芽し生育した植生植物Pを保護するようにしたものである。
この図4に示すように、植生帯11から植生植物Pが発芽あるいは生育するのであるが、植生植物Pの生育が順調にいけば、網体12の網目から上方に突出する。しかし、植生植物Pの全てが網体12の上方に突出するのではなく、植生帯11や斜面20内の「根」は勿論、この根の直上になる「茎」は上方を網体12によって覆われた保護空間R内に位置することになる。その結果、網体12から上に突出した植生植物Pの部分が、例えば図4の右上部分の点線にて示すように、野生鹿や熊等から食害を受けたとしても、保護空間R内の「根」や「茎」は網体12によって保護され、食害を受けることはない。
以上の結果、植生植物Pが図4の右上例で示すような食害を受けたとしても、残存している根や茎によってこの植生植物Pは再び生育を始め、斜面20が丸裸になることはなく、植生が十分果たされるのである。勿論、図4の左下に示したように、食害を全く受けない植生植物Pが存在すれば、この植生植物Pは、網体12の網目からグングン生育していき、必要な植生が完了するのである。
さらに、上記のように、網体12は、高さ保持部材13の存在によって保護空間R上に浮いた状態にあるが、このことも、植生植物Pが食害に合うことを防止している。何故なら、この食害防止植生材10が斜面20の多くの部分に施工されていると、非常に多数の保護空間Rが存在することになる訳であるが、野生鹿が奥の方に入ろうとすれば、当然網体12上を踏み付けなければならない。ところが、上述したように、網体12下には多数の保護空間Rが存在しているため、各網体12を野生鹿が踏み付けると「フワフワ」することとなって、野生鹿に不安感を与えることになる。つまり、野生鹿は、保護空間Rが存在することによって不安定になっている網体12上を歩くことができず、奥の方にも生えている植生植物Pを食することができなくなるのである。
以上のように、網体12下に保護空間Rが形成できるのは、図3の(b)に示すように、植生帯11の所定幅La部分の両縁に、網体12の所定幅Laより大きい拡大幅Lb部分の両縁を取り付けるとともに、図1及び図2に示すように、これら植生帯11及び網体12間に高さ保持部材13を挿入するようにしたからである。つまり、この高さ保持部材13によって、図3の(a)に示すように、両植生帯11及び網体12間に、縦断面が三角形となる保護空間保護空間Rが形成できるのである。
換言すれば、図3の(b)に示すように、植生帯11の所定幅La部分の両縁に、網体12の所定幅Laより大きい拡大幅Lb部分の両縁を取り付けることによって、これらの植生帯11と網体12との間は物を差し込めるような自由部分、つまり高さ保持部材13を挿入できる箇所ができるのである。これらの植生帯11と網体12との取り付けにあたっては、図2に示すように、リングや針金のような止め材15により行っても良いし、図3の(a)に示すように、所謂アンカー16を採用して行っても良い。
止め材15を採用した場合には、植生帯11と網体12との固定が工場でのプレ加工が行えるため有利である。一方、アンカー16を採用した場合には、斜面20上に植生帯11を敷設して適宜間隔で高さ保持部材13を配置し、これらの高さ保持部材13間にアンカー16を打ち込めばよいことになるから、施工を現場の状況に合わせて行えるという利点を生むことになる。
高さ保持部材13については、図2に示すような構造のものであってもよく、また、図4の(b)に示すような、逆「T」字状となるようなものであってもよいが、少なくとも施工後に不安定となるような「丸太」は避けたい。
そして、植生帯11については一般的なものが採用でき、肥料や植生植物Pの種子を含んだものであってもよい。また、網体12については、所謂金網は勿論、合成樹脂で形成したネットであってもよいが、目合いが1〜5平方センチメートル程度のものであると、野生鹿の足が入り込まないから有利である。
以上のようにした食害防止植生材10は、まず、止め材15によって植生帯11と網体12とを所定間隔で止めたものの場合、高さ保持部材13を抜いた状態の食害防止植生材10を斜面20上に展開してからアンカー16等で固定し、各保護空間Rを形成すべく、植生帯11と網体12との間に高さ保持部材13を差し込めばよく、その施工は斜面20が急斜面であったとしても、簡単に行えるのである。勿論、止め材15で止めた植生帯11と網体12と、高さ保持部材13とは別々に製造及び運搬すればよい。
一方、植生帯11と網体12とを止め材15で止めない食害防止植生材10の場合は、斜面20上に植生帯11を展開した後、この植生帯11上の所定箇所に、現場で組み立てた高さ保持部材13を配置固定する。そして、図3の(a)にも示したように、植生帯11にアンカー16によって網体12を止めれば、高さ保持部材13によって保護空間Rを形成しながら、施工が簡単に完了する。
従って、この請求項1に係る食害防止植生材10は、まず第1の特徴として、斜面20の植生を果たすことは勿論、植生植物Pの動物による食害を防止できるだけでなく、山間地や急傾斜面でも施工が簡単に行えるものとなっているのである。
また、この請求項1に記載の食害防止植生材10は、上記各高さ保持部材13を、網体12の拡大幅Lb内のほぼ中央内面に当接する水平材13aと、この水平材13aを植生帯11上に保持する支持脚13bとにより構成したのである。
すなわち、この請求項1の食害防止植生材10では、図2または図4の(b)にて示したように、その高さ保持部材13について水平材13aと支持脚13bとによって構成するようにしたものである。このようにすれば、高さ保持部材13自体を施工現場にて組み立てればよいから、その運搬を簡単にできるだけでなく、網体12を持ち上げることになる水平材13aの斜面20上に対する支持を確実に行え、結果的に当該食害防止植生材10それ自体の施工が容易に行えるのである。
特に、この高さ保持部材13では、その支持脚13b自体が植生帯11上に対してしっかりと位置決めできるから、例えば、図10や図12に示したような、急斜面において転がり易い丸太を採用するという不安定な施工が避けられるのである。
従って、この請求項1の食害防止植生材10では、第2の特徴として、高さ保持部材13を簡単な構造で施工し易いものとすることができ、保護空間Rの形成が確実に行えるものとなっているのである。
そして、以上のように構成した食害防止植生材10は、請求項2に係る発明のように、
「食害防止植生材10を斜面20上に施工する施工方法であって、次の各工程を含むことを特徴とする食害防止植生材10の施工方法。
(1)斜面20上に敷設されることになる植生帯11の所定幅La部分の両縁に、植生植物Pの動物による食害を防止する網体12の、植生帯11側の所定幅La部分より大きい拡大幅Lb部分の両側を取り付ける工程;
(2)この(1)工程によって互いに取り付けられた植生帯11及び網体12を、当該網体12が上側になるようにして斜面20上に展開する工程;
(3)網体12の各所定幅部分Laと植生帯11との間に、網体12の拡大幅Lb内のほぼ中央内面に当接する水平材13aと、この水平材13aを植生帯11上に保持する支持脚13bとにより構成した、少なくとも1つの高さ保持部材13を挿入して、この高さ保持部材13と、網体12及び植生帯11との取付部分との間に、縦断面形状が三角形となる保護空間Rを形成する工程」
によって斜面20上に施工される。
すなわち、この請求項2に係る食害防止植生材10の施工方法では、工程(1)において、斜面20上に敷設されることになる植生帯11の所定幅La部分の両縁に、植生植物Pの動物による食害を防止する網体12の、植生帯11側の所定幅La部分より大きい拡大幅Lb部分の両側を取り付けるのである。この食害防止植生帯10が植生帯11と網体12とを所定間隔で止めてあるから、高さ保持部材13を抜いた状態の食害防止植生材10を斜面20上に展開してからアンカー16等で固定し、工程(3)の網体12の拡大幅Lb内のほぼ中央内面に当接する水平材13aと、この水平材13aを植生帯11上に保持する支持脚13bとにより構成した高さ保持部材13を、各保護空間Rを形成すべく、植生帯11と網体12との間に差し込めばよく、その施工は斜面20が急斜面であったとしても、簡単に行える。勿論、止め材15等で止めた植生帯11と網体12と、高さ保持部材13とは別々に製造及び運搬すればい。特に、この止め材15を採用する場合には、植生帯11と網体12との固定が工場でのプレ加工が行えるため有利である。
次に、工程(2)において、工程(1)において互いに取り付けられた植生帯11及び網体12を、当該網体12が上側になるようにして斜面20上に展開するのである。この工程(2)において、食害防止植生帯10が止め材15によって植生帯11と網体12とを所定間隔で止めたものの場合、当該食害防止植生帯10の上縁を斜面20の上側に固定しておいてから、その他の部分を網体12が上側になるようにして斜面20上から転がり落とせば簡単に展開することになる。
高さ保持部材13については、最良形態では、板材である二枚の支持脚13bの上端に形成した差込溝内に、一本の板材である水平材13aを差し込んで一体化するようにしてあり、施工現場において簡単に組立られるようにしてある。勿論、組み立てる前は、水平材13aも支持脚13bも板材であるから、平らに纏めておくことができるため、保管が簡単に行えるだけでなく、斜面20が急斜面であってもその上への持ち込みも簡単に行える。
以上のような高さ保持部材13を、工程(3)において、網体12の拡大幅Lb内のほぼ中央内面に当接する水平材13aと、この水平材13aを植生帯11上に保持する支持脚13bとにより構成して、植生帯11及び網体12間に形成した自由空間内に挿入すれば、網体12下に保護空間Rが形成される。つまり、この高さ保持部材13によって、両植生帯11及び網体12間に、縦断面が三角形となる保護空間保護空間Rが形成できる。
以上説明したとおり、請求項1に係る発明においては、
「斜面20上に敷設されることになる植生帯11と、この植生帯11の表面側に部分的に取り付けられて、植生植物Pの動物による食害を防止する網体12と、この網体12と植生帯11との間に挿入される高さ保持部材13とを備えた食害防止植生材10であって、
植生帯11の所定幅La部分の両縁に、網体12の所定幅Laより大きい拡大幅Lb部分の両縁を取り付けるとともに、高さ保持部材13を、網体12の拡大幅Lb内のほぼ中央内面に当接する水平材13aと、この水平材13aを植生帯11上に保持する支持脚13bとにより構成して、
これら植生帯11及び網体12間に挿入した高さ保持部材13によって、両植生帯11及び網体12間に、縦断面が三角形となる保護空間Rを形成できるようにしたこと」
にその構成上の特徴があり、これにより、植生植物Pの、動物による食害を防止できるだけでなく、山間地や急傾斜面でも施工も簡単に行える食害防止植生材10を、簡単な構成によって提供することができるのである他、高さ保持部材13を簡単な構造で施工し易いものとすることができ、保護空間Rの形成が確実に行える食害防止植生材10を提供することができるのである。
また、請求項2に係る施工方法では、
「食害防止植生材10を斜面20上に施工する施工方法であって、次の各工程を含むことを特徴とする食害防止植生材10の施工方法。
(1)斜面20上に敷設されることになる植生帯11の所定幅La部分の両縁に、植生植物Pの動物による食害を防止する網体12の、植生帯11側の所定幅La部分より大きい拡大幅Lb部分の両側を取り付ける工程;
(2)この(1)工程によって互いに取り付けられた植生帯11及び網体12を、当該網体12が上側になるようにして斜面20上に展開する工程;
(3)網体12の各所定幅部分Laと植生帯11との間に、網体12の拡大幅Lb内のほぼ中央内面に当接する水平材13aと、この水平材13aを植生帯11上に保持する支持脚13bとにより構成した、少なくとも1つの高さ保持部材13を挿入して、この高さ保持部材13と、網体12及び植生帯11との取付部分との間に、縦断面形状が三角形となる保護空間Rを形成する工程」
にその構成上の特徴があり、これにより、上記請求項1に係る食害防止植生材10の施工を確実に行うことができる。
特に、この請求項2に係る施工方法では、植生帯11の所定幅La部分の両縁に、網体12の所定幅Laより大きい拡大幅Lb部分の両縁を取り付けた食害防止植生材10を、丸めた食害防止植生材10を斜面20上にそのまま転がすようにして展開し、植生帯11及び網体12間に高さ保持部材13を挿入するだけで施工を完了させることができる。
次に、上記のように構成した各請求項に係る発明を、図面に示した最良の形態である食害防止植生材10について説明するが、この最良形態の食害防止植生材10は、上記各請求項に係る発明の全てを実質的に含むものである。
図1には、施工後の食害防止植生材10を側方から見た部分斜視図が示してあり、図2には、同食害防止植生材10を谷側から上方に向けて見た部分斜視図が示してある。この食害防止植生材10は、斜面20上に敷設されることになる植生帯11と、この植生帯11の表面側に部分的に取り付けられて、植生植物Pの動物による食害を防止する網体12とを備えたものである。
ここで採用している植生帯11は、自然繊維を採用して、ネット状またはマット状に形成したものであり、言わば「土に還る」材料によって形成してある。また、この植生帯11には、図1及び図2中の点線にて示したように、複数の植生材袋14が、所定間隔で施工後に水平となるように取り付けてあるが、これらの植生材袋14中には、植生植物Pの発芽や生育に必要な肥料、土壌改良材、保水材等が収納してある。
勿論、この植生帯11としては、一般的なものが採用でき、肥料や植生植物Pの種子を含んだり添着したりしたものであってもよい。従って、上記植生材袋14は、本発明を実施するにあたって必ずしも必要なものではない。
一方、網体12については、所謂金網は勿論、合成樹脂で形成したネットであってもよいが、本最良形態では、目合い(網目の大きさ)が4平方センチメートル程度の所謂金網を採用した。この目合いの金網であると、野生鹿の足が入り込まないし、踏み付けられても簡単に破れることがないから有利である。
そして、この最良形態の食害防止植生材10では、図3の(b)に示したように、これを構成している上述した植生帯11の所定幅La部分の両縁に、網体12の所定幅Laより大きい拡大幅Lb部分の両縁を取り付けている。つまり、一枚の食害防止植生材10を構成している網体12は、植生帯11よりも長いものであり、このようにしているのは、図3の(a)に示したように、これら植生帯11及び網体12間に挿入した後述する高さ保持部材13によって、両植生帯11及び網体12間に、縦断面が三角形となる保護空間Rを形成できるようにするためである。
つまり、本発明の食害防止植生材10においては、図3の(b)に示したように、植生帯11の所定幅La部分の両縁に、網体12の所定幅Laより大きい拡大幅Lb部分の両縁を取り付けることによって、これらの植生帯11と網体12との間に物を差し込めるような自由部分を積極的に形成するのである。これらの植生帯11と網体12との取り付けにあたっては、図2に示したようなリングや針金のような止め材15により行っても良いし、図3の(a)に示したような所謂アンカー16を網体12の一部に掛かるようにしながら斜面20に打ち込んで行っても良い。
止め材15を採用した場合には、植生帯11と網体12との固定が工場でのプレ加工が行えるため有利である。一方、アンカー16を採用した場合には、斜面20上に植生帯11を敷設して適宜間隔で高さ保持部材13を配置し、これらの高さ保持部材13間にアンカー16を打ち込めばよいことになるから、施工を現場の状況に合わせて行えるという利点を生むことになる。
高さ保持部材13については、図2及び図3に示した最良形態では、板材である二枚の支持脚13bの上端に形成した差込溝内に、一本の板材である水平材13aを差し込んで一体化するようにしたものであり、施工現場において簡単に組立られるようにしたものである。勿論、組み立てる前は、水平材13aも支持脚13bも板材であるから、平らに纏めておくことができるため、保管が簡単に行えるだけでなく、斜面20が急斜面であってもその上への持ち込みも簡単に行えることになる。
また、図4の(b)に示した高さ保持部材13は、二枚の板材を水平材13aと支持脚13bと斜面20にして、支持脚13bに水平材13aを釘等によって止めることにより、逆「T」字状となるようにしたものである。この場合、支持脚13bが植生帯11上に対して平らに置かれ、この平らに置かれた支持脚13b上に水平材13aが立設されることになり、この水平材13aの上端に網体12が係止されることになるのである。
以上のような高さ保持部材13を、植生帯11及び網体12間に形成した自由空間内に挿入すれば、図1及び図2に示したように、網体12下に保護空間Rが形成できるのである。つまり、この高さ保持部材13によって、図3の(a)に示したように、両植生帯11及び網体12間に、縦断面が三角形となる保護空間保護空間Rが形成できるのである。
施工後の本発明に係る食害防止植生材を示す部分斜視図である。
同食害防止植生材を谷側から見上げたときの様子を示す部分斜視図である。
同食害防止植生材を構成している植生帯と網体との関係を示すもので、(a)は斜面上で保護空間を形成している状態の部分縦断面、(b)は植生帯と網体との固定関係を示す平面図である。
同食害防止植生材を構成している高さ保持部材を説明するもので、(a)は植生植物が生育した状態と保護空間を形成している高さ保持部材との位置関係を示す部分拡大断面図、(b)は(a)に示したのとは別の形態の高さ保持部材を示す側面図である。
斜面上に施工した本発明に係る食害防止植生材の部分平面図である。
従来技術を示す斜視図である。
図6に示したものの部分縦断面図である。
従来の他の技術を示す部分斜視図である。
従来のさらに他の技術を示す斜視図である。
図9に示したものの部分拡大縦断面図である。
従来の別の技術を示すもので、(a)は部分斜視図、(b)は(a)の縦断面図である。
従来のさらに別の技術を示す部分拡大縦断面図である。
10 食害防止植生材
11 植生帯
12 網体
13 高さ保持部材
13a 水平材
13b 支持脚
14 植生材袋
15 止め材
16 アンカー
20 斜面
La 所定幅
Lb 拡大幅
P 植生植物
R 保護空間