JP2009142199A - 光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチルアミド及び光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリル、並びに光学活性カルニチンアミドの製造方法 - Google Patents

光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチルアミド及び光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリル、並びに光学活性カルニチンアミドの製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】生産性が高く、コスト面、環境面に共に優れた光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチルアミド及び該前駆体、並びに該誘導体の製造方法を提供する。
【解決手段】ハロヒドリンエポキシダーゼによる酵素反応により光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルを得る工程(1)と、前記工程(1)で得られた反応液を蒸留・濃縮して未反応原料を分離する工程(2)と、前記工程(2)の残渣に加熱処理及び/又は金属塩の添加処理を行う工程(3)と、前記工程(3)で得られる処理液に、特定の条件でニトリルヒドラターゼを添加する工程(4)を含む光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチルアミドの製造方法、並びに前記工程(1)及び(2)を含む前駆体の製造方法。また、前記光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチルアミドを用いた誘導体の製造方法。
【選択図】なし

Description

本発明は、光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチルアミド及び該前駆体である光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリル、並びに光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチルアミドの誘導体である光学活性カルニチンアミドの製造方法に関する。
光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチルアミド及び光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルは、種々の医薬品や生理活性物質の合成原料として有用な物質であり、それらの(R)−体は特にL−カルニチンの合成原料として有用である。
光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチルアミドを製造する方法としては、光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルを水和させる方法が挙げられる。また、光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルの製造方法としては、1,3−ジハロ−2−プロパノールとシアニドドナーとを原料として、酵素反応により製造する方法が挙げられる。この酵素反応に用いる酵素としては、例えば、ハロヒドリンエポキシダーゼが挙げられる。
酵素反応により光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルを製造する方法としては、コリネバクテリウム属、ミクロバクテリウム属、オウレオバクテリウム属の脱ハロゲン化酵素の作用により、1,3−ジハロ−2−プロパノールから光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルを製造する方法(特許文献1及び2)、エピハロヒドリンから光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルを製造する方法(特許文献3)を示されている。
また、遺伝子組換え技術を利用し、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属由来のハロヒドリンエポキシダーゼ酵素をコードする遺伝子DNAを有する組換えベクターを作製し、この組換えベクターを導入した形質転換体を使用して光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルを含む3−ヒドロキシニトリルを製造する方法が示されている(特許文献4及び5、非特許文献1)。
また、レイフソニア(Leifsonia)属の脱ハロゲン化酵素を用いて、1,3−ジハロ−2−プロパノール、もしくはエピハロヒドリンから光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルを製造する方法が示されている(特許文献6)。
また、Janssen等によりアグロバクテリウム ラジオバクター(Agrobacterium radiobacter)AD1株、マイコバクテリウム(Mycobacterium)sp. GP1、アースロバクター(Arthrobacter)sp. AD2が産生するハロヒドリンエポキシダーゼが見出されており、アグロバクテリウム ラジオバクター(Agrobacterium radiobacter)AD1株においては、その酵素の立体構造も明らかにされている(非特許文献2及び3)。
このような酵素反応により生成した光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルは、通常、反応液から有機溶媒で抽出を行い、減圧下に溶媒を除去する方法により回収される。このとき、抽出に使用した有機溶媒には、未反応の1,3−ジハロ−2−プロパノール及びシアニドドナーが含まれるが、酵素反応は抽出に使用する有機溶媒を使用しない系で実施されるため、これらの未反応原料及び抽出溶媒を回収して再利用するためには抽出溶媒の蒸留等の煩雑な操作が必要となり、工業的には必ずしも好適ではなかった。
また、抽出後の反応液についても、抽出溶媒に汚染されるために再利用が困難となり、それらの廃液処理にかかるコスト面・環境面の負担が大きい。そこで、これら未反応原料及び抽出溶媒を効率的に回収、再利用し、光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルを工業上有利に製造する方法が望まれている。
一方、ニトリル化合物の水和によるアミド化合物の製造方法としては、一般に塩酸等の鉱酸やアルカリを使用する方法、アルカリと過酸化水素を併用する方法等が挙げられる。しかし、これらの方法は工程が煩雑であり、副生する酸により収率が低下してしまうことがある(特許文献7)。
また、生物学的反応を利用する方法としては、ニトリルヒドラターゼを用いる方法が知られており、4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルにニトリルヒドラターゼを作用させて4−ハロ−3−ヒドロキシブチルアミドの製造する方法が示されている(特許文献8)。しかし、4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルにニトリルヒドラターゼを作用させる際には、4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルに含まれる青酸によりニトリルヒドラターゼが失活してしまうため、通常、蒸留等の方法により青酸を除去する必要がある。青酸は、例えば1ppm以下に除去された場合でも反応速度を非常に遅くしてしまうため、充分な反応速度を得るには大量のニトリルヒドラターゼが必要となることがあった。
このような問題を解決する手段としては、金属添加等の化学的手法によりニトリル化合物中に極微量に含まれる青酸を低減させる方法が示されている(特許文献9)。
光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチルアミドを製造する方法としては、1,3−ジハロ−2−プロパノールとシアニドドナーから、酵素反応により得られた光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルを、反応液から有機溶媒で抽出し、減圧下に溶媒を除去した後、蒸留により高純度な光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルを留分として回収することにより精製し、その後にニトリルヒドラターゼによる水和反応により製造する方法が挙げられる。しかし、この方法は抽出工程及び蒸留精製工程が煩雑な上、有機溶媒の使用及び蒸留精製時のエネルギー消費によるコスト面・環境面への負担が大きかった。そのため、光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチルアミドを工業上有利に製造する方法が望まれていた。
特許第2840722号公報 特許第3168202号公報 特許第2840723号公報 特許第3073037号公報 特許第3026367号公報 特開2006−325519号公報 特許第2588930号公報 特許第3014171号公報 特許第3428404号公報 Biosci. Biotech. Biochem., 58(8), 1451-1457 (1994) The EMBO Journal, 22(19), 4933-4944 (2003) J Bacteriology, 183(17), 5058-5066 (2001)
以上のような理由から、本発明では、生産性が高く、コスト面、環境面に共に優れた光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチルアミドの製造方法、及び該前駆体である光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルの製造方法を目的とする。また、光学活性カルニチンアミドの製造方法を提供する。
本発明の光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチルアミドの製造方法は、水及びハロヒドリンエポキシダーゼを含む反応溶媒中で、1,3−ジハロ−2−プロパノールとシアニドドナーとを酵素反応させて光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルを得る工程(1)と、前記工程(1)における酵素反応終了後の反応液を蒸留することにより濃縮し、未反応のシアニドドナー及び1,3−ジハロ−2−プロパノールを含む留分を分離する工程(2)と、前記工程(2)の残渣として得られる光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルを含む水溶液に、加熱処理及び/又はシアンイオンと金属錯体を形成する金属塩の添加処理を行う工程(3)と、前記工程(3)で得られる処理液を、処理液中の光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルの濃度(質量%)と塩濃度(質量%)の積が160以下となるように調製した後に、ニトリルヒドラターゼと接触させて、酵素反応により光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチルアミドを得る工程(4)を含む方法である。
また、本発明の光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチルアミドの製造方法は、前記工程(2)で得られる未反応のシアニドドナー及び1,3−ジハロ−2−プロパノールを含む留分を回収し、前記工程(1)の酵素反応に供することが好ましい。
また、前記工程(1)において、酵素反応開始から終了までの間、反応液のpHを5.9〜8.5の間に維持することが好ましい。
また、前記工程(1)において、酵素反応開始後、4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルが0.3mol/kg生成した以降、1,3−ジハロ−2−プロパノールを、1,3−ジハロ−2−プロパノールの濃度が0.8mol/kg以下となるように追添加しながら反応を行うことが好ましい。
また、前記工程(1)において、酵素反応中、シアニドドナーを、シアニドドナーの濃度が0.05〜1.5mol/kgとなるように追添加しながら反応を行うことが好ましい。
また、前記工程(1)において、1,3−ジハロ−2−プロパノールとハロヒドリンエポキシダーゼが接触させる前に、予め0.01〜1.5mol/kgのシアニドドナーを反応系内に存在させておくことが好ましい。
また、前記工程(3)において、工程(2)の残渣として得られる光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルを含む水溶液中のシアンイオン濃度が100ppm以下とすることが好ましい。
また、前記工程(4)において、反応液中の前記工程(3)において添加された金属塩を合計した濃度を10,000ppm以下に調整することが好ましい。
また、前記工程(4)において、酵素反応中の反応液のpHを6〜9に維持することが好ましい。
また、本発明の光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルの製造方法は、水及びハロヒドリンエポキシダーゼを含む反応溶媒中で、1,3−ジハロ−2−プロパノールとシアニドドナーとを酵素反応させて光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルを得る工程(1)と、前記工程(1)における酵素反応終了後の反応液を蒸留することにより濃縮し、未反応のシアニドドナー及び1,3−ジハロ−2−プロパノールを含む留分を分離する工程(2)とを含み、前記工程(2)で得られる未反応のシアニドドナー及び1,3−ジハロ−2−プロパノールを含む留分を回収し、前記工程(1)の酵素反応に供する方法である。
また、本発明の光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルの製造方法は、工程(1)及び工程(2)における好ましい態様が前記光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチルアミドの製造方法と同じである。
また、本発明の光学活性カルニチンアミドの製造方法は、前記方法により得られる光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチルアミドとトリメチルアミンとを接触させる方法である。
本発明の製造方法によれば、煩雑な工程である有機溶媒による抽出、蒸留精製工程を経ることなく、高い生産性で光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチルアミド、及び該前駆体である光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルが得られる。また、本発明の製造方法は、コスト面、環境面において共に優れている。
また、本発明によれば、前記方法により得られた光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチルアミドを用いて光学活性カルニチンアミドを製造する方法を提供できる。
<光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリル及び光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチルアミドの製造方法>
本発明の光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチルアミドの製造方法は、ハロヒドリンエポキシダーゼを用いて、1,3−ジハロ−2−プロパノールとシアニドドナーとから光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルを得る工程(1)と、前記工程(1)で得られた反応液を蒸留・濃縮し、前記2種類の未反応原料を含む留分を分離する工程(2)と、前記工程(2)の残渣として得られる光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルを含む水溶液に対して、加熱処理及び/又は金属塩の添加を行う工程(3)と、前記工程(3)で得られる処理液にニトリルヒドラターゼを作用させて光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチルアミドを得る工程(4)を含む方法である。
また、本発明の光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルの製造方法は、前記工程(1)と工程(2)とを含み、工程(2)で分離回収した未反応原料を工程(1)の酵素反応に供する方法である。
[工程(1):シアノ化酵素反応]
工程(1)は、水及びハロヒドリンエポキシダーゼを含む反応溶媒中で、1,3−ジハロ−2−プロパノールとシアニドドナーとから、酵素反応により光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルを得る工程である。
(光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリル)
4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルとは、下記式(I)で表される化合物である。
Figure 2009142199
(式中、Xはハロゲン原子である。具体的には、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子であり、なかでも塩素原子、臭素原子が好ましく、塩素原子が特に好ましい。また、*は不斉炭素を示しており、その立体配置は(R)体、(S)体のいずれであってもよく、(R)体であることが好ましい。)
また、光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルとは、一方の鏡像異性体(例えばR体)が他方の鏡像異性体(例えばS体)よりも多く含まれている4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリル、又は、いずれか一方の鏡像異性体のみからなる4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルを意味する。光学活性は、光学純度を求めることにより確認できる。なお、本発明における「光学純度」とは、「鏡像異性体過剰率(%ee)」にほぼ等しいものであるとし、次式で定義するものとする。
(光学純度(単位:%ee))≒(鏡像異性体過剰率)
=100×(|[R]−[S]|)/([R]+[S])
ただし、[R]と[S]は試料中の各々の鏡像異性体の濃度を意味する。
4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルとしては、例えば、(R)−4−フルオロ−3−ヒドロキシブチロニトリル、(S)−4−フルオロ−3−ヒドロキシブチロニトリル、(R)−4−クロロ−3−ヒドロキシブチロニトリル、(S)−4−クロロ−3−ヒドロキシブチロニトリル、(R)−4−ブロモ−3−ヒドロキシブチロニトリル、(S)−4−ブロモ−3−ヒドロキシブチロニトリル、(R)−4−ヨード−3−ヒドロキシブチロニトリル、(S)−4−ヨード−3−ヒドロキシブチロニトリルが挙げられ、好ましくは(R)−4−クロロ−3−ヒドロキシブチロニトリル、(S)−4−クロロ−3−ヒドロキシブチロニトリル、(R)−4−ブロモ−3−ヒドロキシブチロニトリル、(S)−4−ブロモ−3−ヒドロキシブチロニトリル等が挙げられる。なかでも、(R)−4−クロロ−3−ヒドロキシブチロニトリルが特に好ましい。
(ハロヒドリンエポキシダーゼ)
本発明の製造方法に用いるハロヒドリンエポキシダーゼは、下記式(II)で表される1,3−ジハロ−2−プロパノールを脱ハロゲン化水素し、下記式(III)で表されるエピハロヒドリンを合成する活性、及びその逆反応を触媒する活性を有する酵素(EC number: 4.5.1.-)である。
Figure 2009142199
(式中、X、Xはそれぞれ独立にハロゲン原子である。X、Xとしてはフッ素、塩素、臭素、ヨウ素が好ましく、塩素、臭素が特に好ましい。)
1,3−ジハロ−2−プロパノールとしては、例えば、1,3−ジフルオロ−2−プロパノール、1,3−ジクロロ−2−プロパノール、1,3−ジブロモ−2−プロパノール、1,3−ジヨード−2−プロパノール等が挙げられる。なかでも、1,3−ジクロロ−2−プロパノール、1,3−ジブロモ−2−プロパノールが好ましい。
Figure 2009142199
(式中、Xはハロゲン原子である。Xはフッ素、塩素、臭素、ヨウ素が好ましく、塩素、臭素が特に好ましい。)
エピハロヒドリンとしては、例えば、エピフルオロヒドリン、エピクロロヒドリン、エピブロモヒドリン、エピヨードヒドリン等が挙げられる。なかでも、エピクロロヒドリン、エピブロモヒドリンが好ましい。
ハロヒドリンエポキシダーゼは下記微生物により産生される。
微生物としては、アグロバクテリウム属(Agrobacterium sp.)、アースロバクター属(Arthrobacter sp.)、オウレオバクテリウム属(Aureobacterium sp.)、コリネバクテリウム属(Corynebacterium sp.)、レイフソニア属(Leifsonia sp.)、ミクロバクテリウム属(Microbacterium sp.)、マイコバクテリウム属(Mycobacterium sp.)、シュードモナス属(Pseudomonas sp.)、リゾビウム属(Rhizobium sp.)等に属する微生物が挙げられる。
なかでも、オウレオバクテリウム属(Aureobacterium sp.)、コリネバクテリウム属(Corynebacterium sp.)、レイフソニア属(Leifsonia sp.)、ミクロバクテリウム属(Microbacterium sp.)、マイコバクテリウム属(Mycobacterium sp.)の微生物が好ましく、(R)−体の4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルが得られる点から、オウレオバクテリウム属(Aureobacterium sp.)DH095(FERM P-12360)、コリネバクテリウム属(Corynebacterium sp.)N-1074(FERM BP-2643)、レイフソニア属(Leifsonia sp.)MRC03(FERM AP-20453)、ミクロバクテリウム属(Microbacterium sp.)N-4701(FERM BP-2644)、マイコバクテリウム属(Mycobacterium sp.)GP1の微生物がより好ましく、コリネバクテリウム属(Corynebacterium sp.)N-1074(FERM BP-2643)が特に好ましい。
ハロヒドリンエポキシダーゼのうち、アミノ酸配列が明らかにされているものについては、米国生物工学情報センター(NCBI; National Center for Biotechnology Information)により提供されるGenBankデータベース(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi?CMD=search&DB=protein)において、以下のAccession No.により登録されている。
Accession No. BAA14361(コリネバクテリウム属(Corynebacterium sp.)N-1074株由来のHheAのアミノ酸配列)
Accession No. AAK92100(アースロバクター属(Arthrobacter sp.)AD2株由来のHheAAD2のアミノ酸配列)
Accession No. BAA14362(コリネバクテリウム属(Corynebacterium sp.)N-1074株由来のHheBのアミノ酸配列)
Accession No. AAK73175(マイコバクテリウム属(Mycobacterium sp.)GP1株由来のHheBGP1のアミノ酸配列)
Accession No. AAK92099(アグロバクテリウム ラジオバクター(Agrobacterium radiobacter) AD1株由来のHheCのアミノ酸配列)
Accession No. AAD34609(アグロバクテリウム チュメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens) 由来のHaLBのアミノ酸配列)
なかでも、(R)−体の4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルが得られる点から、コリネバクテリウム属(Corynebacterium sp.)N-1074株由来のHheB、マイコバクテリウム属(Mycobacterium sp.)GP1株由来のHheBGP1が好ましく、コリネバクテリウム属(Corynebacterium sp.)N-1074株由来のHheBが特に好ましい。
ハロヒドリンエポキシダーゼは、前記微生物を培養することにより生産することができる。又はハロヒドリンエポキシダーゼをコードする遺伝子をクローニングし、当該遺伝子を組み込んで作製した遺伝子組換え微生物によっても生産できる。ハロヒドリンエポキシダーゼ遺伝子を組み込んで作成した遺伝子組換え微生物を培養してハロヒドリンエポキシダーゼを得る方法は、目的のハロヒドリンエポキシダーゼのみを大量に得ることができ、光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルを高い光学純度(例えば、85%ee以上)で得られることから好適に使用される。
また、形質転換に用いる宿主微生物は、特に限定されず、例えば大腸菌(Escherichia coli)あるいはロドコッカス(Rhodococcus)属細菌に属する微生物が挙げられる。また、これら以外の宿主微生物を用いることもできる。
また、天然型のハロヒドリンエポキシダーゼ遺伝子を改変し、酵素機能を改変したハロヒドリンエポキシダーゼを使用してもよい。
ハロヒドリンエポキシダーゼを生産する微生物を培養する培地は、これらの微生物が生育し得るものであれば何れの培地であってもよい。
炭素源としては、例えば、グルコース、シュークロース、マルトース、フルクトース等の糖類、酢酸、クエン酸、フマル酸等の有機酸あるいはその塩、又はエタノール、グリセロール等のアルコール類等を使用できる。
窒素源としては、例えば、ペプトン、肉エキス、酵母エキスやアミノ酸等の一般天然窒素源の他、各種の無機酸アンモニウム塩、有機酸アンモニウム塩等が使用できる。
その他、硫酸、塩酸、燐酸やホウ酸等の無機酸あるいはその塩、用いられる微生物が利用可能なナトリウム、マグネシウム、カリウム、カルシウム等を含む無機塩、鉄、マンガン、亜鉛、コバルト、ニッケル微量金属塩、微生物育成促進剤であるビタミンB1、B2、C、K等のビタミン等が必要に応じて適宜添加される。本発明の微生物の培養は、通常、液体培養で行われるが、固体培養によって行ってよい。
培養は10〜50℃の温度で、pH2〜11の範囲で行われる。微生物の生育を促進させるために通気攪拌を行ってもよい。
また、培養により得られた微生物は、培養液そのまま若しくは該培養物から遠心分離等の集菌操作によって得られる微生物菌体、菌体処理物(例えば、菌体破砕液、粗酵素、精製酵素)、又は常法により固定化した菌体若しくは菌体処理物として利用できる。
本発明におけるハロヒドリンエポキシダーゼとしては、後の工程において菌体等に由来する固形物を除去する際にその除去操作を妨げない点から、菌体を破砕した後、その破砕片を除去して得られる粗酵素液を用いることが好ましい。
菌体の破砕方法としては、ハロヒドリンエポキシダーゼの活性が大きく損なわれない限り特に制限されず、例えば、超音波処理、フレンチプレスやホモジナイザーによる高圧処理、ビーズミルによる磨砕処理、衝撃破砕装置による衝突処理、リゾチーム、セルラーゼ、ペクチナーゼ等を用いる酵素処理、凍結融解処理、低張液処理、ファージによる溶菌誘導処理等が挙げられる。これらの方法は、いずれか1つを単独で実施してもよく、必要に応じて組み合わせて実施してもよい。
また、ハロヒドリンエポキシダーゼ以外の成分が含まれている場合には、必要に応じて精製を行ってもよい。
精製の方法についても、ハロヒドリンエポキシダーゼの活性が大きく損なわれない限り特に制限されず、例えば、核酸分解酵素の添加による核酸の分解、界面活性剤や高分子凝集剤の添加による菌体破砕片の凝集、ろ過や遠心分離による固−液分離や、硫酸アンモニウム等の添加による塩析効果を利用した分画、疎水性クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィーによるカラム精製等が挙げられる。これらの方法は、いずれか1つの方法を単独で実施してもよく、必要に応じて組み合わせて実施してもよい。
(シアニドドナー)
シアニドドナーとは、反応液中に添加した際にシアンイオン(CN)又はシアン化水素を生じる化合物を意味する。
シアニドドナーは、特に制限されず、たとえば、シアン化水素(以下、青酸又はHCNと称することがある)、シアン化カリウム(KCN)、シアン化ナトリウム(NaCN)、アセトンシアンヒドリン(ACH)等が挙げられる。なかでも、シアン化水素、シアン化カリウム、シアン化ナトリウムが好ましい。また、工程(1)における酵素反応では後述するように反応時のpHを調整しながら行うが、酵素反応時に副生する塩が少なくなる点からシアン化水素によりpH調整を行うことが好ましい。
(シアノ化酵素反応)
工程(1)における酵素反応は、水又は緩衝液を含む反応系に、シアニドドナー、1,3−ジハロ−2−プロパノール、及びハロヒドリンエポキシダーゼを添加することにより開始する。
緩衝液としては、例えば、青酸、リン酸、ホウ酸、クエン酸、グルタル酸、リンゴ酸、マロン酸、o−フタル酸、コハク酸又は酢酸等の塩等によって構成される緩衝液、トリス緩衝液、グッド緩衝液等が挙げられる。なかでも、青酸とその塩によって構成される緩衝液、トリス緩衝液が好ましく、緩衝剤由来の不純物が混入しない点から、青酸とその塩のみによって構成される緩衝液が特に好ましい。
前記緩衝液への、シアニドドナー、1,3−ジハロ−2−プロパノール、ハロヒドリンエポキシダーゼの投入順序については、特に制限されないが、反応開始時に高い反応速度を得られる点、及びエピハロヒドリンの副生を抑えることができる点から、1,3−ジハロ−2−プロパノールとハロヒドリンエポキシダーゼを接触させる前に、反応系内に予めシアニドドナーを存在させておくことが好ましい。予め存在させるシアニドドナーの濃度は、反応開始時において、0.01〜1.5mol/kgであることが好ましく、0.8〜1.5mol/kgであることがより好ましい。シアニドドナーの濃度が1.5mol/kg以下であれば、酵素の安定性が良好になる。
また、シアニドドナーは反応進行により消費されるため、追添加することが好ましい。その場合、反応系内のシアニドドナーの濃度が0.05〜1.5mol/kgとなるように追添加することが好ましい。シアニドドナーの濃度が1.5mol/kg以下となるように追添加すれば、酵素の安定性が良好になる。
シアニドドナーの使用量は、最終的に使用する1,3−ジハロ−2−プロパノールの1〜2当量とすることが、反応速度の向上、及びシアニドドナーの効率的な利用の観点から好ましい。ここで、最終的に使用する1,3−ジハロ−2−プロパノールの量とは、反応開始から反応終了までに使用した1,3−ジハロ−2−プロパノールの全量のことを意味する。
1,3−ジハロ−2−プロパノールは、反応開始時に高い反応速度が得られる点から、反応開始時の濃度が0.01mol/kg以上であることが好ましい。反応開始時から光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルが0.3mol/kgまで蓄積するまでの間は、1,3−ジハロ−2−プロパノールを随時追添加していくことができる。この間の1,3−ジハロ−2−プロパノールの濃度は特に制限されないが、酵素の安定性の観点から1mol/kg以下とすることが好ましい。
また、前記緩衝液のpHは、1,3−ジハロ−2−プロパノールを添加する際には、8.5以上としないことが好ましく、8.2以下とすることが好ましい。また、ハロヒドリンエポキシダーゼを添加する際の前記緩衝液のpHは、5.9未満としないことが好ましく、7.0〜8.2とすることがより好ましい。
また、光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルが反応系内に0.3mol/kgまで蓄積した時点で、1,3−ジハロ−2−プロパノールの濃度が0.8mol/kgを超えている場合には、水やシアニドドナーを添加して、1,3−ジハロ−2−プロパノールの濃度が0.8mol/kg以下となるように調整することが酵素の安定性の面から好ましい。そして、それ以降は反応速度の向上、高生産性の観点から、1,3−ジハロ−2−プロパノールの濃度が0.8mol/kgを超えないように追添加していくことがより好ましく、0.01〜0.8mol/kgとなるように追添加していくことがさらに好ましい。
酵素反応時の温度は、酵素の安定性が良好になり円滑に反応が進行する点から0〜30℃とすることが好ましい。
また、反応が進行するに従って反応液中にハロゲン化水素が生成してくるため、反応液のpHが徐々に低下してくる。そのため、反応系内にアルカリを追添加することにより、反応系内のpHを酵素活性が充分に発揮される領域に調整、維持することが好ましい。酵素反応中の反応系のpHは、5.9〜8.5とすることが好ましく、7.0〜8.2とすることがより好ましい。pHを5.9以上とすれば、酵素の安定性が良好となる。また、pHを8.5以下とすれば、副反応を抑制しやすくなる。
pHの調整に用いるアルカリは、ハロゲン化水素と塩を形成し、その塩を含む水溶液において酵素活性が充分に発揮されるpH領域にできるものであれば特に制限されず、例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属、若しくはアンモニアの、水酸化物又は弱酸との塩が挙げられる。なかでも、用いるアルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、シアン化ナトリウム、シアン化カリウムが好ましい。アルカリの使用形態は特に制限されないが、取り扱いの容易さから水溶液とすることが好ましい。
ハロヒドリンエポキシダーゼの使用量は、反応が円滑に進行する量であれば特に制限されない。例えば、反応開始時に反応液1gあたり1U〜1000Uを使用することができる。ここで、1U(ユニット)とは、20℃、pH8.0の緩衝液中において、1分間に1,3−ジクロロ−2−プロパノールから1μmolの塩化物イオンを脱離できる酵素量を意味する。
反応系内の1,3−ジハロ−2−プロパノールの濃度、及び光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルの濃度ならびに光学純度は、例えば、ガスクロマトグラフィー(GLC)や高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によって測定・定量することができる。また、反応系内のシアニドドナーの濃度は、例えば滴定によって定量することができる。これらの定量結果を反応進行の指標として、追添加する1,3−ジハロ−2−プロパノール及びシアニドドナーの量を決定することもできるが、以下に示す方法で1,3−ジハロ−2−プロパノール及びシアニドドナーの濃度をより容易に管理できる。
すなわち、反応開始以降、pHコントローラーを用いてアルカリを加えていくことによりpHを一定に維持すれば、生成したハロゲン化水素量と理論上等モルのアルカリが投入されることになる。ハロゲン化水素の生成量は、1,3−ジハロ−2−プロパノールの消費量、及びシアニドドナーの消費量と同じであるので、アルカリの投入量が反応進行の指標となるの。そのため、反応系に1,3−ジハロ−2−プロパノール及びシアニドドナーを追添加する際の目安とすることができる。
例えば、反応開始時に1,3−ジハロ−2−プロパノールの濃度を0.5mol/kg、シアニドドナーの濃度を1mol/kgとした場合、反応開始以降、pHコントローラーを用いてpHを一定に維持すれば、投入されるアルカリと等モルの1,3−ジハロ−2−プロパノール、及びシアニドドナーを追添加することで、1,3−ジハロ−2−プロパノールの濃度を0.5mol/kg、シアニドドナーの濃度を1mol/kgに安定に維持できる。
酵素反応の反応時間は、基質等の濃度、酵素量、又はその他の反応条件等によって適時選択すればよく、1〜120時間で目的の収率となるように条件を設定することが好ましい。
以上のような方法により、0.3mol/kg以上の光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルを、途中で蓄積が停止させることなく反応系内に蓄積させることができる。反応液中に生成、蓄積した光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルは、下記工程(2)に供される。
また、目的の生成物が光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルである場合等、必要に応じて公知の方法を用いて採取及び精製してもよい。具体例としては、反応液から遠心分離等の方法を用いて菌体を除いた後、酢酸エチル等の溶媒で抽出を行い、減圧下に溶媒を除去することにより4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルのシロップを得ることができる。また、これらのシロップを減圧下に蒸留することによりさらに精製することもできる。
[工程(2):シアノ化酵素反応終了液の濃縮]
工程(2)は、前記工程(1)におけるシアノ化酵素反応の終了後、反応液を蒸留することにより濃縮し、未反応のシアニドドナー及び1,3−ジハロ−2−プロパノールを含む留分を分離する工程である。
(濃縮前処理)
本工程においては、前記工程(1)で得られた反応液からの未反応のシアニドドナーの分離効率の向上、及び1,3−ジハロ−2−プロパノール及び4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルの分解の防止のために、蒸留ボトムを中性又は酸性に維持することが好ましい。蒸留ボトムのpHは、7以下であることが好ましく、5以下であることがより好ましい。pHの下限については特に制限されないが、濃縮中に生成する青酸やハロゲン化水素等の蒸気による装置の腐食を防止する観点、後の工程(3)及び工程(4)において、pHを中性付近に調整する際に生じる塩の生成量を少なくする観点から、pHは0以上とすることが好ましく、2以上とすることがより好ましい。
工程(1)におけるシアノ化酵素反応液のpHが7を超えている場合には、反応液に青酸より強い酸を添加することや、反応液を30℃以上、沸点以下に加熱することでpHを7以下に下げることができる。また、アルカリの投入によりシアノ化酵素反応液のpHを制御している場合には、アルカリの投入を遮断して反応を継続することによってもpHを7以下に下げることができる。反応液を30℃以上、沸点以下に加熱する方法は、前記反応液に青酸より強い酸の添加や、前記アルカリの投入遮断による調整の後に行うことが好ましい。
青酸より強い酸としては、青酸と強塩基からなる塩の水溶液と混合することにより青酸ガスが発生するものであれば特に制限はなく、例えば、p−トルエンスルホン酸、酢酸等の有機酸、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸等の無機酸が挙げられる。
また、pH調整の際にpHが所望の値よりも低くなった場合には、アルカリを添加することにより所望のpHに調整できる。使用するアルカリは、工程(1)において例示した前記アルカリと同じものを使用することができ、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが好ましい。シアン化ナトリウム、シアン化カリウム等の金属シアン化物塩は、濃縮する際にシアノ化酵素反応液のシアンイオン濃度が上昇するために好ましくない。アルカリの使用形態は、特に制限されないが、取り扱いの容易さから水溶液が好ましい。
また、アルカリを添加することによるpH調整は、光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルの分解を抑制しやすい点から、反応液の温度を30℃以下とすることが好ましい。
また、反応液中に酵素反応に使用したハロヒドリンエポキシダーゼ由来の固形物がある場合には、濃縮前に取り除いてもよく、取り除かなくてもよい。前記固形物を除去する場合には、常法によって行えばよく、例えば、ろ過や遠心分離といった方法が挙げられる。
(蒸留による濃縮)
蒸留における圧力及び温度は、用いる装置の種類及び蒸留の目的に応じて適宜決定することができる。本発明の方法では、蒸留中の圧力下における1,3−ジハロ−2−プロパノールの沸点より低い温度においても、1,3−ジハロ−2−プロパノールが得られるため、蒸留の温度は1,3−ジハロ−2−プロパノールが得られる範囲でその沸点よりも低く設定することがエネルギー節約の面から好ましい。通常、蒸留温度を0〜110℃、好ましくは40〜110℃とし、圧力は1〜760Torr、好ましくは50〜760Torrとする。
また、蒸留中は、未反応の1,3−ジハロ−2−プロパノールとシアニドドナーが非酵素的に反応することにより、ラセミ体の4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルが一部生成して光学純度が低下することを防ぐため、蒸留ボトムのpHは7以下としておくことが好ましく、5以下としておくことがより好ましい。蒸留ボトムのpHの調整方法については前記濃縮前処理における方法と同じ方法で行うことができる。また、アルカリを添加することによるpH調整は、光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルの分解を抑制しやすい点から、蒸留ボトムの温度は30℃以下とすることが好ましい。
反応液中のシアニドドナーの濃度が2000ppm以上である場合は、蒸留温度を60〜110℃とし、圧力を300〜760Torrとすることでシアニドドナーの回収率を高めることができる。また、蒸留の温度を60〜85℃としておくことがより好ましい。また、未反応の1,3−ジハロ−2−プロパノールとシアニドドナーが非酵素的な反応による光学純度の低下を防ぐことを優先する場合は60〜80℃とすることがさらに好ましい。
反応液中のシアニドドナーの濃度が2000ppm未満である場合や、濃縮速度を高めたい場合には、蒸留温度を40〜80℃、より好ましくは40〜60℃とし、圧力を1〜300Torr、より好ましくは50〜150Torrとすることで、濃縮速度を高めることができる。
蒸留ボトム中にシアニドドナーが残留すると、後の工程(4)においてニトリルヒドラターゼの活性を著しく阻害するため、極力分離しておくことが好ましい。蒸留ボトム中のシアニドドナーの濃度は100ppm以下とすることが好ましく、10ppm以下とすることがより好ましく、1ppm以下とすることが特に好ましい。
蒸留は、未反応のシアニドドナー及び1,3−ジハロ−2−プロパノールの反応液からの分離効率を向上させるために、空気又は不活性気体を吹き込みながら実施してもよい。蒸留ボトム中のシアニドドナーの濃度を100ppm以下に低減させる際には、空気又は不活性気体を吹き込みながら蒸留することが好ましい。
不活性気体としては、蒸留の際に生成物である4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルや、未反応のシアニドドナー及び1,3−ジハロ−2−プロパノールと実質的に反応しない気体であれば特に制限されず、例えば、水蒸気、窒素、二酸化炭素、ヘリウム、アルゴンが挙げられる。これらの気体は単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよく、蒸留中の組成は一定であっても変化してもよい。空気としては、特に制限されないが、蒸留を行う系内に過剰の酸素が導入されないよう、前記不活性気体により希釈して使用することが好ましい。
これらの気体の流量は特に制限されないが、1〜120時間で反応容器内の気相部が置換されるように設定することが好ましい。
これらの蒸留方法は、必要に応じて組み合わせればよく、また留出したシアニドドナー及び1,3−ジハロ−2−プロパノールを含む留分は、必要に応じて、これらを捕集するのに十分な温度、例えば、−10℃〜10℃に冷却された冷却管を使い用いて捕集できる。
また、前述の操作によりシアニドドナーの回収率を高めて、シアニドドナーを高濃度(例えば10重量%〜99重量%)に含む留分を捕集した後、濃縮速度を上げる場合には、シアニドドナーを高濃度に含む留分を捕集した容器を蒸留の系から切り離すことが好ましい。これにより、濃縮速度を上げた際に、シアニドドナーを高濃度に含む留分からシアニドドナーが再蒸発することを防ぎやすくなる。また、留出したシアニドドナー及び1,3−ジハロ−2−プロパノールを含む留分を捕集した容器は、濃縮中のシアニドドナーの再蒸発を防ぐ観点から、0〜10℃に冷却しておくことが好ましい。
蒸留による濃縮の時間は特に制限されないが、1〜120時間で蒸留ボトムの光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルが所望の濃度となるように実施することが好ましい。蒸留ボトムの光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルの濃度については、その濃度が30質量%を超えると反応中に理論上等モル以上生成するハロゲン化水素の塩が析出して取り扱いが困難となる場合があるため、30質量%以下にすることが好ましい。光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルの濃度を30質量%以上に濃縮しても、シアニドドナー及び1,3−ジハロ−2−プロパノールの回収率や蒸留ボトム内のシアニドドナーの濃度が所望の値とならない場合には、蒸留ボトムに水を加えてさらに蒸留することにより濃縮してもよい。
こうして得られた光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルを主成分とする水溶液は、下記工程(3)に供される。また、目的の生成物が光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルである場合等、必要に応じて、工程(1)で説明した方法と同じ公知の方法により採取及び精製してもよい。
また、回収した未反応のシアニドドナー及び1,3−ジハロ−2−プロパノールを含む溶液は、工程(1)における酵素反応の溶媒として再利用することができる。
回収された未反応の1,3−ジハロ−2−プロパノールは、工程(1)の酵素反応中の反応液と同様、ガスクロマトグラフィー(GLC)や高速液体クロマトグラフィー(HPLC)等により測定・定量することができる。また、反応系内のシアニドドナーも工程(1)の酵素反応中の反応液と同様に、滴定等により定量することができる。
[工程(3):アミド化酵素反応の前処理]
工程(3)は、前記工程(2)の残渣として得られる光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルを含む水溶液に、加熱処理及び/又は金属塩の添加処理を行う工程である。
工程(3)を実施することにより、後の工程(4)における光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルからニトリルヒドラターゼの作用により光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチルアミドを得る工程を円滑に進行させることができる。
(加熱処理)
光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルの加熱処理とは、前記工程(2)で得られる光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルを含む水溶液を加熱することをいう。加熱方法は、本発明の目的が達成されれば特に制限はなく、加圧、減圧、常圧条件下のいずれも選択できる。例えば、前記工程(2)で得られる光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルを含む水溶液を、その沸点以上に加熱して還流又は留去する方法等が挙げられる。
加熱時における光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルを含む水溶液の各成分の濃度は特に制限されないが、前記水溶液中のシアンイオン(シアニドドナー)はニトリルヒドラターゼの活性を著しく阻害するため、極力低減することが好ましい。前記水溶液中のシアンイオンの濃度は、100ppm以下とすることが好ましく、10ppm以下とすることが好ましく、1ppm以下とすることが特に好ましい。
加熱時間は、0.1〜100時間程度とすればよく、0.5〜50時間であることが好ましく、1〜10時間であることがより好ましい。
加熱温度は、40℃程度から光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルが分解しない温度までの範囲であればよく、60〜150℃であることが好ましく、80〜100℃であることがより好ましい。
光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルの水溶液を加熱処理する場合は、光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルの分解を防ぐため、pHを7以下とすることが好ましく、pH5以下とすることがより好ましい。pHの下限については特に制限されないが、加熱時におけるハロゲン化水素等の蒸気による装置の腐食を防止する観点、後の金属塩添加の工程及び工程(4)において、pHを中性付近に調整する際に生じる塩の生成量を少なくする観点から、pHは0以上とすることが好ましく、2以上とすることがより好ましい。
また加熱処理後にはニトリルヒドラターゼが高活性を示す至適pHに再度調節してから、工程(4)のアミド化酵素反応に移ることが好ましい。
pHの調整方法については、青酸及び/又は金属シアン化物を使用しない限り特に制限されず、アルカリを添加することによるpH調整は、光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルの分解を防ぐ観点から0〜30℃で実施することが好ましい。
(金属塩の添加)
前記工程(2)で得られる光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルを含む水溶液に、微量の金属塩を添加することで、光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリル中に極微量含まれるシアンイオンを金属錯体とすることで低減させることができる。これにより、工程(4)のアミド化酵素反応を円滑に進行させることができる。
金属塩としては、ニッケル、亜鉛、コバルトからなる群から選ばれる金属の塩の1種類以上が好ましい。塩の形態は特に制限されず、例えば、硝酸塩、ハロゲン化物塩、硫酸塩、カルボン酸塩が挙げられる。
金属塩の添加量は特に制限されず、シアンイオンの影響を十分に除去して工程(4)におけるニトリルヒドラターゼの失活を防ぐ観点から、光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルを含む溶液に含まれるシアンイオン濃度に応じた量を添加すればよい。
前記工程(2)で得られる光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルを含む水溶液に金属塩を添加する前のシアンイオン濃度は、100ppm以下とすることが好ましく、10ppm以下とすることがより好ましく、1ppm以下とすることが特に好ましい。また、添加する金属塩の濃度は、酵素の安定性の面から、工程(4)における反応液中において10,000ppm以下とすることが好ましく、100ppm以下とすることがより好ましく、10ppm以下とすることが特に好ましい。
添加する金属塩の濃度が反応液中において10,000ppm以下であれば、ニトリルヒドラターゼの失活を抑制しやすい。そのため、添加する金属塩の濃度が10,000ppmを超える場合には、工程(4)において、ニトリルヒドラターゼと、光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリル及び前記金属塩を含む溶液とを接触させる前に、この溶液を希釈するか、金属塩及び金属シアノ錯体を例えば吸着剤等により除去する等の方法により、金属塩の濃度を10,000ppm以下とすることが好ましい。吸着剤としては、例えば、活性炭、活性アルミナ、ゼオライト、シリカゲル、イオン交換樹脂等が挙げられる。
金属塩を添加する際のpHは特に制限されないが、金属塩を添加した後のpHは、金属シアノ錯体の形成を円滑に行う観点から、6以上とすることが好ましく、7以上とすることがより好ましい。また、光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルの分解を防ぐ観点から、pHは9以下とすることが好ましく、8.5以下とすることがより好ましい。
pHの調整方法については、青酸及び/又は金属シアン化物を使用しない限り特に制限されない。アルカリを添加することによるpH調整は、光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルの分解を防ぐ観点から0〜30℃で実施することが好ましい。
金属塩を添加する際、及び添加した後の温度は特に限定されないが、光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルの安定性の観点から0〜40℃とすることが好ましい。
また、金属塩を添加した後、工程(4)のアミド酵素化反応に供するまでの処理時間についても特に限定されないが、金属塩を添加してから1秒以上間隔を開けることが好ましく、5分以上経過してから工程(4)のアミド化反応に供することがより好ましい。
また、金属塩を添加した後、pHを6〜8.5に調整して、その後にpHをこの範囲に維持したまま工程(4)のアミド酵素化反応に供することが好ましい。そのため、金属塩を添加した後にpHが6以下に低下した場合、アルカリを添加することによりpHを6〜8.5に調整し、1秒以上、さらに好ましくは5分以上この範囲に維持したまま工程(4)のアミド化酵素反応に供することが好ましい。
処理時間の上限は特に限定されないが、1時間〜1年間とすることができる。また、処理中に攪拌を行ってもよい。
なお、工程(3)における、金属塩の添加処理と、加熱処理は必要に応じて組み合わせて実施してもよい。組み合わせる場合には、前記の加熱処理を行った後に、金属塩の添加処理を行い、下記工程(4)のアミド化酵素反応に供することが好ましい。
[工程(4):アミド化酵素反応]
工程(4)は、前記工程(3)で得られる処理液と、ニトリルヒドラターゼとを接触させ、酵素反応により光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチルアミドを得る工程である。
(光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチルアミド)
4−ハロ−3−ヒドロキシブチルアミドは、下記式(IV)で表される化合物である。
Figure 2009142199
(式中、Xはハロゲン原子である。具体的にはフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子であり、なかでも塩素原子、臭素原子が好ましく、塩素原子が特に好ましい。また、*は不斉炭素を示し、その立体配置は(R)体、(S)体のいずれであってもよく、(R)体が好ましい。)
また、光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチルアミドとは、一方の鏡像異性体(例えばR体)が他方の鏡像異性体(例えばS体)より多く含まれている4−ハロ−3−ヒドロキシブチルアミド、又は、いずれか一方の鏡像異性体のみからなる4−ハロ−3−ヒドロキシブチルアミドを意味する。
4−ハロ−3−ヒドロキシブチルアミドとしては、例えば、(R)−4−フルオロ−3−ヒドロキシブチブチルアミド、(S)−4−フルオロ−3−ヒドロキシブチルアミド、(R)−4−クロロ−3−ヒドロキシブチルアミド、(S)−4−クロロ−3−ヒドロキシブチルアミド、(R)−4−ブロモ−3−ヒドロキシブチルアミド、(S)−4−ブロモ−3−ヒドロキシブチルアミド、(R)−4−ヨード−3−ヒドロキシブチルアミド、(S)−4−ヨード−3−ヒドロキシブチルアミドが挙げられる。なかでも、(R)−4−クロロ−3−ヒドロキシブチルアミド、(S)−4−クロロ−3−ヒドロキシブチルアミド、(R)−4−ブロモ−3−ヒドロキシブチルアミド、(S)−4−ブロモ−3−ヒドロキシブチルアミドが好ましく、(R)−4−クロロ−3−ヒドロキシブチルアミドが特に好ましい。
(ニトリルヒドラターゼ)
工程(4)において使用される酵素としては、ニトリルヒドラターゼが挙げられる。ニトリルヒドラターゼとは、ニトリル化合物の水和反応によりアミド化合物を生成する反応を触媒する酵素であり、国際的な酵素分類によればリアーゼに属する酵素である。
本発明において使用するニトリルヒドラターゼは、4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルのニトリルをアミドへ変換する反応を触媒する酵素であればよい。
ニトリルヒドラターゼをとしては、例えば、アクロモバクター(Achromobacter)属、アシドボラックス(Acidovorax)属、アグロバクテリウム(Agrobacterium)属、アースロバクター(Arthrobacter)属、バチルス(Bacillus)属、ブレビバクテリウム(Brevibacterium)属、バークホルデリア(Burkholderia)属、キャンディダ(Candida)属、カセオバクター(Caseobacter) 属、コマモナス(Comamonas)属、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属、ディーツィア(Dietzia)属、エンテロバクター(Enterobacter)属、エルビニア(Erwinia)属、ジオバチルス(Geobacillus)属、ゴルドナ(Gordona)属、クレブシエラ(Klebsiela)属、ミクロアスカス(Microascus)モルガネラ(Morganella)属、パントエア(Pantoea)属、プロテウス(Proteus)属、シュードモナス(Pseudomonas) 属、シュードノカルディナ(Pseudonocardia)属、ロドコッカス(Rhodococcus) 属、リゾビウム(Rhizobium)属、セラチア(Serratia)属、シクタリジウム(Syctalidium)属、ツカムレラ(Tukamurella)属、に属する微生物が産生するニトリルヒドラターゼが挙げられる。
具体例としては、例えば、アースロバクター グロビフォルミス(Arthrobacter globiformis)IFO 12138、ブレビバクテリウム ヘルボラム(Brevibacterium helvolum)ATCC11822 、コリネバクテリウム フラベシエンス(Corynebacterium flavescens)IAM 1642 、ロドコッカス エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)IFO 12540 及びIFO 12539 、ストレプトマイセスアルボグリセルス(Streptomyces aLBogriseolus)HUT 6045、ストレプトマイセス クリゾマルス(Streptomyces chrysomallus)HUT 6141、ストレプトマイセス シネレオルバー(Streptomyces cinereouruber)HUT6142、ストレプトマイセス ヂアスタチカス(Streptomyces diastaticus)HUT 6116、ストレプトマイセス オリバセウス(Streptomyces olivaceus)HUT 6061、ストレプトマイセス ルブロシアノヂアスタチカス(Streptomyces rubrocyanodiastaticus)HUT 6117、クレブシエラ ニュウモニアエ(Klebsiella pneumoniae)IFO 12019、IFO 3319、IFO12059、IAM 1063、クレブシエラ ニュウモニアエ サブスピーシズ ニュウモニアエ(Klebsiella pneumoniae subsp. pneumoniae) NH-36T2株、セラチア ピリムシカ(Serratia plymuthica)IFO 3055、セラチア マルセッセンス(Serratia marcescens)IAM 1105、エルビニア キャロトボラ(Erwinia carotovora)IFO 3057、ツカムレラ ポーロメタボラム(Tukamurella paurometabolum)JCM 3226、ゴルドナ ルブロペルチンクタス(Gordona rubropertinctus)JCM 3227、モルガネラ モルガニ(Morganella morganii)IFO 3848、プロテウス ブルガリス(Proteus vulgaris)IFO 3167、エンテロバクター エアロジェネス(Enterobacter aerogenes)IFO 12010、ミクロアスカス デスモスポラス(Microascus desmosporus)IFO6761、キャンディダ グイリエモンディー(Candida guilliermondii)NH-2株(FERM P-11350 号)、パントエア アグロメランス(Pantoea agglomerans)NH-3株(FERM P-11349 号)等が産生するニトリルヒドラターゼが挙げられる。
なお、ATCC番号が付与された微生物菌株は、アメリカンタイプカルチャーコレクション(ATCC)から容易に入手することができる。IFO番号の付された微生物は、(財)醗酵研究所(IFO)発行の「List of Cultures、第8版、第1巻(1988)」に記載されており、現在は独立行政法人製品評価技術基盤機構バイオテクノロジー本部生物遺伝資源部門遺伝資源保存課から入手できる。IAM番号の付された微生物は東京大学応用微生物学研究所から入手できる。JCM番号の付された微生物は、理化学研究所 系統微生物保存機関発行の「Catalogue of strains 第4版(1989)」に記載されており、理化学研究所 系統微生物保存機関より入手できる。HUT番号の付された微生物は、日本微生物保存連盟(JFCC)発行の「Catalogue of Cultures、第4版(1987)」に記載されており、広島大学工学部から入手できる。FERM番号の付された微生物は、独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センターから入手できる。
さらに、ロドコッカス ロドクロウス(Rhodococcus rhodochrous) J-1〔FERM BP-1478号〕、アースロバクター(Arthrobacter)sp. SK103〔FERM P-11300号〕、カセオバクター(Caseobacter)sp. BC23〔FERM P-11261号〕、シュードモナス(Pseudomonas)sp. BC15-2 〔FERM BP-3320号〕、シュードモナス(Pseudomonas)sp. SK31〔FERM P-11310号〕、シュードモナス(Pseudomonas)sp. SK87〔FERM P-11311号〕、シュードモナス(Pseudomonas)sp. SK13 〔FERM BP-3325号〕、ロドコッカス(Rhodococcus)sp. SK70 〔FERM P-11304号〕、ロドコッカス(Rhodococcus)sp. HR11〔FERM P-11306号〕及びロドコッカス(Rhodococcus) sp. SK49〔FERM P-11303号〕等が産生するニトリルヒドラターゼも挙げられる。これらの微生物は、それぞれ前記寄託番号にて独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに寄託されている。
また、前記微生物のニトリルヒドラターゼ遺伝子をクローニングし、形質転換(導入)した微生物も、前記のニトリルヒドラターゼを産生する微生物として含まれる。例えば、米国特許第5807730号に記載のシュードノカルディア(Pseudonocardia)属のニトリルヒドラターゼ遺伝子で形質転換した大腸菌 MT-10822株(FERM BP-5785)、特開平8−266277号公報記載のアクロモバクター(Achromobacter)属のニトリルヒドラターゼで形質転換した大腸菌 MT-10770株(FERM P-14756)、特開平4−211379号公報記載のロドコッカス・ロドクロウス(Rhodococcus rhodochrous)種のニトリルヒドラターゼで形質転換した微生物等が挙げられる。
ニトリルヒドラターゼは、これらの中でも、ロドコッカス(Rhodococcus) 属に属する微生物に由来するニトリルヒドラターゼが好ましく、ロドコッカス・ロドクロウス(Rhodococcus rhodochrous)種由来のものがより好ましく、ロドコッカス ロドクロウス(Rhodococcus rhodochrous)J-1株由来のものが特に好ましい。
ニトリルヒドラターゼを産生する微生物を培養する培地組成は、微生物が生育でき、所望の酵素を産生できるものであれば特に限定はない。例えば、炭素源としてグルコース、フラクトース、シュークロース、マルトース等の糖類、酢酸、クエン酸等の有機酸類、エタノール、グリセロール等のアルコール類等が挙げられ、窒素源としてペプトン、肉エキス、酵母エキス、タンパク質加水分解物、アミノ酸類等の天然窒素源の他に、各種無機、有機酸アンモニウム塩等が挙げられる。このほか、無機塩、微量金属、ビタミン等も必要に応じて適宜使用できる。また、場合によっては、酵素活性を誘導させるために、4−クロロ−3−ヒドロキシブチロニトリル、プロピオニトリル、イソブチロニトリル、ベンジルシアニド等の各種ニトリル化合物、4−クロロ−3−ヒドロキシブチルアミド、プロピオンアミド、イソブチルアミド等の各種アミド化合物等を培地に添加してもよい。前記微生物の培養は常法によればよく、例えば、pH4〜10、温度10〜45℃の条件下にて好気的に10〜180時間培養する方法が挙げられる。培養は液体培養、固体培養のいずれでも行うことができる。
前記のようにして得た微生物菌体は、培養液そのまま、あるいは遠心分離等により得た菌体の懸濁液、菌体処理物(例えば菌体破砕物、菌体抽出物等)、常法により固定化した菌体又は菌体処理物、粗精製した酵素、精製酵素としてアミド化酵素反応に使用することができる。
(アミド化酵素反応)
前記工程(3)で得られる処理液には、光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルの他、前記工程(1)においてシアノ化酵素反応中に理論上等モル以上生成するハロゲン化水素の塩が含まれている。この塩は、本工程(4)におけるアミド化反応液中の光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルの濃度に応じてニトリルヒドラターゼの活性を一部阻害するため、処理液中の4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルの濃度(質量%)と塩濃度(質量%)との積が160以下、好ましくは120以下となるように濃度を調整して、ニトリルヒドラターゼと接触させることが好ましい。また、前記工程(3)で金属塩を添加した場合には、その金属塩の濃度も前記塩濃度に加えて濃度を調整すればよい。すなわち、前記塩濃度は、処理液中に含まれる全ての塩の濃度を意味しており、各工程において緩衝液を使用する場合にはその濃度も加える。
反応系内の光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリル及び光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチルアミドの濃度、並びにそれらの光学純度は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によって測定・定量することができる。
また、反応系内の塩の濃度は、例えば、滴定や、イオンクロマトグラフィー、ICP発光分光分析法や原子吸光分析法によって測定・定量することができる。
前記濃度(光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルの濃度(質量%)と塩濃度(質量%)の積が160以下となるように濃度を調整)の調整方法は特に制限されず、前記工程(3)で得られる処理液の希釈や、脱塩操作等により実施することができる。脱塩操作としては、例えば、前記工程(2)において濃縮時に析出した塩をろ過等により除去する方法、前記工程(2)で得られる光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルを含む水溶液や、前記工程(3)で得られる処理液を電気透析処理やイオン交換樹脂等により処理して塩を除去する方法等が挙げられる。
前記の方法により濃度を調整した、光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルの水溶液は、上述のごとく調製したニトリルヒドラターゼと接触させる前に、pHをニトリルヒドラターゼの活性が十分に発揮できる範囲に調整しておくことが酵素の安定性の面から好ましい。反応液のpHは使用する微生物により適宜選択すればよく、pH4〜10であることが好ましく、酵素の安定性と反応の円滑な進行、及び副反応の抑制の面からpH6〜9程度であることがより好ましく、pH7〜8.5であることが特に好ましい。
工程(4)においては、pHの調整を容易にするために緩衝液を使用することもできる。
緩衝液としては、例えば、リン酸、ホウ酸、クエン酸、グルタル酸、リンゴ酸、マロン酸、o−フタル酸、コハク酸又は酢酸等の塩等によって構成される緩衝液、トリス緩衝液、グッド緩衝液等が挙げられる。工程(1)においては青酸とその塩によってのみ構成される緩衝液を用いることが好ましいが、これらはニトリルヒドラターゼの活性を著しく阻害するため、工程(4)では使用しない。工程(1)で緩衝液を使用した場合、及び本工程(4)において緩衝液を使用する場合は、その濃度についても前記の塩濃度に加えて、光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルの濃度(重量%)との積を算出して濃度を調整することが好ましい。
光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルを含む水溶液とニトリルヒドラターゼとを接触させる方法は特に制限されず、例えば、前記水溶液にニトリルヒドラターゼを一括添加する方法、前記水溶液にニトリルヒドラターゼを分割添加する方法、ニトリルヒドラターゼを含む水溶液に前記水溶液を分割添加する方法が挙げられる。アミド化反応は発熱反応であることから、ニトリルヒドラターゼを前記水溶液に分割添加する方法、及びニトリルヒドラターゼを含む水溶液に前記水溶液を分割添加する方法が好ましい。
工程(4)における酵素反応の反応温度は、使用するニトリルヒドラターゼにより適宜選択すればよく、酵素の安定性、反応の円滑な進行、及び副反応の抑制の観点から0〜50℃程度とすればよく、0〜30℃程度が好ましく、0〜20℃であることがより好ましい。
また、反応時間は、光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルの濃度、酵素量、及びその他の反応条件によっても異なるが、0.5〜120 時間で終了するように条件を設定することが好ましく、副反応の進行を抑制する観点から、0.5〜24時間程度で終了するように設定することがより好ましい。
以上のようにして得られた光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチルアミドは、ろ過や遠心分離による菌体等に由来する固形分の除去、抽出、カラム分離、再結晶等の定法に従い、単離精製することができる。
<光学活性カルニチンアミドの製造方法>
本発明の光学活性カルニチンアミドの製造方法は、前記製造方法により得られた光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチルアミドと、トリメチルアミンとを接触させる方法である。これらの成分の接触(工程(5))は、常法に従って行えばよく、例えば、工程(4)で得られた光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチルアミドを含む水溶液に、トリメチルアミンの水溶液を滴下する方法、若しくは気体のトリメチルアミンを吹き込む方法、又はトリメチルアミンの水溶液に工程(4)で得られた光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチルアミドを含む水溶液を滴下する方法等が挙げられる。
光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチルアミドとトリメチルアミンとの反応は、0〜100℃で行うことができ、反応の円滑な進行と副反応の抑制の観点から、0〜50℃で行うことが好ましく、0〜40℃で行うことが特に好ましい。
トリメチルアミンの使用量は、光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチルアミドに対して1〜3当量であることが好ましく、1.1〜1.5当量であることが特に好ましい。
反応時間は、反応温度、トリメチルアミンの使用量、及びその他の反応条件によっても異なるが、0.5〜120 時間で終了するように条件を設定することが好ましい。
以上のようにして製造した光学活性カルニチンアミドは、ろ過、遠心分離による菌体等に由来する固形分の除去、イオン交換樹脂による脱塩、再結晶等の常法に従って単離精製できる。また、塩基性条件下で加水分解することにより、光学活性カルニチンとすることもできる。
以上説明した本発明の製造方法は、工程(2)において得られた光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルを含む水溶液に加熱処理及び/又は金属塩の添加処理を行う工程(3)を経て、工程(4)においてニトリルヒドラターゼを作用させることにより、煩雑な工程である有機溶媒による抽出、蒸留精製工程を経ることなく、高い生産性で光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチルアミド、及び該前駆体である光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルを製造できる。
また、本発明の製造方法は、工程(1)により得られる光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルを含む反応液から、未反応のシアニドドナー及び1,3−ジハロ−2−プロパノールを効率的に分離回収し、再利用することができるため、生産性が高い上、コスト面、環境面においても優れている。
また、本発明によれば、前記方法により得られた光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチルアミドを用いて、生産性、コスト面、環境面のいずれにも優れた方法で光学活性カルニチンアミドを製造できる。
以下、実施例及び比較例を示して本発明の詳細に説明する。ただし、本発明は以下の記載によっては限定されない。
[分析方法]
本実施例における各成分の分析は、以下に示す方法により行った。
(HPLC分析(1))
工程(1)〜(3)における、1,3−ジクロロ−2−プロパノール(以下、DCPという)、及び4−クロロ−3−ヒドロキシブチロニトリル(以下、CHBNという)の定量は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて表1に示す分析条件で行った。
Figure 2009142199
また、工程(4)における、DCP、エピクロロヒドリン(以下、ECHという)、CHBN、及び4−クロロ−3−ヒドロキシブチルアミド(以下、CHBAという)の定量は、HPLCを用いて表2に示す分析条件で行った。
Figure 2009142199
前記HPLC定量分析においては、予め、濃度既知のDCP、ECH、CHBN、及びCHBAの溶液を用いて検量線を作成し、該検量線を用いて反応液中のDCP、ECH、CHBN及びCHBAの濃度を算出した。また、DCP、ECHの標品は和光純薬工業(株)製である。CHBNの標品については、(R)−CHBNはアヅマックス(株)製であり、ラセミ体のCHBNは特公平5−69818号公報の記載に従って製造した。CHBAの標品は、前記CHBNを原料として特公昭53−13611号公報の記載に従って製造した。
また工程(5)における、カルニチンアミド、及びカルニチンの定量は、HPLCを用いて表3に示す分析条件で行った。
Figure 2009142199
前記HPLC定量分析においては、予め、濃度既知のカルニチンアミド及びカルニチンの溶液を用いて検量線を作成し、該検量線を用いて反応液中のカルニチンアミド及びカルニチン濃度を算出した。カルニチンアミドの標品は、和光純薬工業(株)製の4−クロロアセト酢酸エチル等を原料として、特開昭57−140749号公報に記載の方法に従って製造した。また、カルニチンの標品は、和光純薬工業(株)製である。
(HPLC分析(2))
(R)−CHBN及び(R)−CHBAの光学純度は、以下のようにして測定した。
(R)−CHBN及び/又は(R)−CHBAを含む水溶液を約3mL採取し、等量の酢酸エチル加えて抽出を行った。ついで、酢酸エチル層を分取し、少量の無水硫酸ナトリウムを加えて撹拌した後、上清をエバポレーター(バス温度40℃、30Torr)にて濃縮し酢酸エチルを留去し、(R)−CHBN及び/又は(R)−CHBAを主成分とするオイルを回収した。ついで、1.5mLのマイクロチューブに前記オイルを2μL採取し、ジクロロメタン20μL、ピリジン20μLを加えた後、(R)−α−メトキシ−α−(トリフルオロメチル)フェニルアセチルクロライド(以下、(R)−MTPAという)2μLを添加し、10秒程度振り混ぜた後にそのまま室温で5時間〜24時間静置してエステル化反応を行った。反応終了後、その反応液にジイソプロピルエーテル(以下、IPEという)約300μLを添加し、続いて1N塩酸水溶液を約300μL用いて洗浄して、IPE層を回収した。さらに、そのIPE層を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液約300μLで洗浄し、回収したIPE層をアスピレーターにより減圧濃縮して、残渣をn−ヘキサンと2−プロパノールの混合液(混合比4:1)に溶解させ、これをHPLCにより表4に示す分析条件で分析した。
Figure 2009142199
(R)−CHBN(又はCHBA)の光学純度は、(R)−CHBN(又はCHBA)−(R)−MTPAエステル及び(S)−CHBN(又はCHBA)−(R)−MTPAエステルのエリア面積比から下記式により算出した。
((R)体の光学純度)(単位:%ee)=100×([R]−[S]×r)/([R]+[S]×r)
式中、[R]は被測定試料における(R)−CHBN(又はCHBA)−(R)−MTPAエステルの、[S]は被測定試料における(S)−CHBN(又はCHBA)−(R)−MTPAエステルのエリア面積を示す。また、rはr=[R]rac/[S]racで定義して算出される補正係数であり、[R]racはラセミ体のCHBN(又はCHBA)における(R)−CHBN(又はCHBA)−(R)−MTPAエステルのエリア面積を、[S]racはラセミ体のCHBN(又はCHBA)における(S)−CHBN(又はCHBA)−(R)−MTPAエステルのエリア面積を示す。
なお、前記エリア面積については、事前にラセミ体のCHBN(又はCHBA)の(R)−MTPAエステルについて前記表2に示したHPLC分析条件にて分析しておき、その分析条件で得られた(R)−CHBN(又はCHBA)−(R)−MTPAエステル及び(S)−CHBN(又はCHBA)−(R)−MTPAエステルのエリア面積の比により補正を行った。
(シアンイオン分析)
シアンイオンの分析は滴定により行った。反応液中におけるシアンイオン濃度については、「毒物又は劇物を含有する物の定量方法を定める省令」(昭和四十一年一月八日厚生省令第一号)の「別表第一 シアンイオン標準溶液に係る吸光度の測定」の項に記載の、p−ジメチルアミノベンジリデンロダニンを指示薬とした硝酸銀試液による滴定の方法を参考にして、下記のように測定した。
200mL三角フラスコに、測定に係る液を正確に秤取し、必要に応じてイオン交換水又は蒸留水を加えて約100mLとした後(測定に係る液が100mLある場合は加えない)、苛性アンモニア水(4%水酸化ナトリウムを含む5%アンモニア水)を10mL加えた後(測定に係る液が強酸性の場合、pH>9となるまで増量する)、さらにp−ジメチルアミノベンジリデンロダニン0.02gにアセトンを加えて溶解した溶液(100mL)を0.5mL加え、硝酸銀水溶液(0.1N、又は必要に応じて0.01N)で、液が赤色に変わるまで滴定した。滴定に要した硝酸銀水溶液の量(mL)から下記のいずれかの式によりシアンイオン濃度を算出した。
(シアンイオン濃度)(質量%)=X×Y×52.04/Z×100
(シアンイオン濃度)(ppm)=X×Y×52.04/Z×1000000
式中、Xは滴定に要した硝酸銀水溶液の量(mL)、Yは硝酸銀水溶液の濃度(N)、Zは測定に係る液の重量(mg)を意味する。
(塩化物イオンの分析)
反応液中における塩化ナトリウム濃度については、ホルハルト法における滴定結果から、前記により測定したシアンイオンの濃度を差し引いて塩化物イオンの濃度を算出し、塩化ナトリウム濃度に換算することにより算出した。具体的には下記のようにして行った。
200mL三角フラスコに、0.1N硝酸銀水溶液を正確に20mL取り、測定に係る液を正確に秤取して加える。イオン交換水又は蒸留水50mL、15%硝酸水溶液10mLを加えて、硫酸鉄(III)アンモニウム溶液(硫酸鉄(III)アンモニウム・12水和物10gに20%硝酸水溶液10mLとイオン交換水又は蒸留水80mLを加えて溶解したもの)5mLと、ニトロベンゼン5mLを加え、0.1Nチオシアン酸アンモニウム水溶液で、液が赤褐色を呈するまで滴定し、滴定に要したチオシアン酸アンモニウム水溶液の量(mL)から、シアンイオン及び塩化物イオンを合計した重量モル濃度(A)(mmol/mg)を下記式により算出した。
A(mmol/mg)=(B−C)×D/E
式中、Bはブランク(mL)、Cは滴定に要したチオシアン酸アンモニウム水溶液の量(mL)、Dはチオシアン酸アンモニウム水溶液の濃度(N)、Eは測定に係る液の重量(mg)を意味する。ここで、ブランクとは、0.1N硝酸銀水溶液20mLを前記方法にて滴定(つまり、測定に係る液を加えないで滴定)した際の、滴定に要したチオシアン酸アンモニウム水溶液の量(mL)である。
塩化ナトリウムの濃度は、前記で算出したシアンイオン及び塩化物イオンを合計した重量モル濃度(A)(mmol/mg)から、前記滴定で算出したシアンイオン濃度を重量モル濃度(mmol/mg)に換算した値(F)を差し引き、塩化物イオンの重量モル濃度(mmol/mg)を求め、これに塩化ナトリウムの分子量(58.44)を掛けることにより算出した。具体的には、下式により算出される。
(塩化ナトリウム濃度)(質量%)=(A−F/100)/26.02)×58.44×100
[調製例1]ハロヒドリンエポキシダーゼ発現形質転換微生物JM109/pST111の培養(1)
ハロヒドリンエポキシダーゼ活性を持つ大腸菌形質転換体JM109/pST111(FERM P-12065)の培養を、以下に示すように行った。なお、pST111は、コリネバクテリウム(Corynebacterium)sp.N-1074のハロヒドリンエポキシダーゼ遺伝子(HheB)を含むBam H I - Pst I 1.1kbp断片をpUC118に結合させたプラスミドであり、pST111は、特許文献5(特許第3026367号公報)に記載されている。
JM109/pST111のコロニーを、500mL三角フラスコ中に調製した100mL のLB培地(1%バクトトリプトン、0.5%バクトイーストエキス、0.5%NaCl、1mM IPTG、50μg/mLアンピシリンナトリウム)20本に植菌し、37℃で20時間振盪培養した。LB培地は、アンピシリンナトリウム及びIPTG以外の各成分必要量を水に溶解して100mLにメスアップした後に加熱滅菌(121℃、20分間)を行い、室温に冷却後、予め0.45μmのフィルターでろ過除菌しておいたアンピシリンナトリウム水溶液(100g/L)を50μL、及び予め0.45μmのフィルターでろ過除菌しておいたIPTG水溶液(240g/L)100μLをそれぞれ無菌条件下にて添加して調製した。
ついで、培養菌体を50mMトリス−硫酸緩衝液(pH8)で洗浄し、50mMトリス−硫酸緩衝液(pH8)を20gになるように加えて懸濁した。この菌体懸濁液の活性は1gあたり440Uであった。ついで、この菌体懸濁液を50mMトリス−硫酸緩衝液(pH8)で菌体懸濁液1gあたり400Uになるように希釈した。前記菌体懸濁液の活性は、下記のようにDCPからの塩化物イオン脱離量を測定することにより算出した。
100mLの活性測定用反応液(50mM DCP、50mM トリス−硫酸(pH8))を調製し、温度を20℃に調整した。該反応液に、希釈した菌体懸濁液を添加し、反応を開始した。ハロヒドリンエポキシダーゼ活性による塩化物イオンの遊離に伴うpHの低下に対しては、pH自動コントローラーにより、0.01Nの水酸化ナトリウム水溶液を用いてpHを8に保つよう連続的に調整した。10分間の反応の間に、pHを8に保つために投入された0.01Nの水酸化ナトリウム水溶液の量から、塩化物イオンの生成量を算出し、ハロヒドリンエポキシダーゼ活性(脱クロル活性)(U)を算出した。1Uは前記条件下でDCPから1分間あたり1μmolの塩化物イオンが脱離する酵素量に相当するものと定義した。以下、酵素活性は同様の方法で算出した。
[調製例2]ハロヒドリンエポキシダーゼ発現形質転換微生物JM109/pST111の培養(2)
JM109/pST111のコロニーを、500mLフラスコ中に調製した100mLの前培養培地(ポリペプトンN 20g/L、酵母エキス 5g/L、リン酸二水素カリウム 1.5g/L、アンピシリンナトリウム0.1g/L;pH7.2)に植菌し、温度37℃、回転数210rpmにて、6時間振盪培養を行った。
前培養培地は、アンピシリンナトリウム以外の各成分必要量を水に溶解して100mLにメスアップした後に加熱滅菌(121℃、20分間)を行い、室温に冷却後、予め0.45μmのフィルターでろ過除菌しておいたアンピシリンナトリウム水溶液(100g/L)を無菌条件下にて100μL添加して調製した。
得られた前培養液20mLを、3Lジャーファーメンター中に調製した1.8Lの本培養培地(フルクトース 40g/L、ポリペプトンN 20g/L、酵母エキス 5g/L、リン酸水素二カリウム 1.5g/L、硫酸マグネシウム七水和物 2.375g/L、硫酸マンガン五水和物 0.2g/L、塩化カルシウム二水和物 0.02g/L、硫酸亜鉛七水和物 0.02g/L、アンピシリンナトリウム 0.1g/L、IPTG 0.24g/L、プルロニックL−61(株式会社ADEKA、日本) 0.5g/L) 2本に植菌し、温度37℃、回転数750rpm、通気量2L/分、常圧、pH6.8−7.2制御(水酸化ナトリウム25%水溶液及び硫酸24%水溶液を使用)で24時間培養を行った。
本培養培地は、必要量のフルクトースを水に溶解して500mLにメスアップした後に加熱滅菌(121℃、20分間)したものと、フルクトース及びアンピシリンナトリウム以外の各成分必要量を水に溶解して1.3Lにメスアップした後に加熱滅菌(121℃、20分間)したものとを無菌条件下で混合し、室温に冷却後、予め0.45μmのフィルターでろ過除菌しておいたアンピシリンナトリウム水溶液(100g/L)を1.8mL、及び予め0.45μmのフィルターでろ過除菌しておいたIPTG水溶液(240g/L)を1.8mL添加して調製した。
培養終了後、菌体の集菌、洗浄を行った。2本のジャーファーメンター培養液を混合したものから3565g(OD630=35)を採り、12,000rpm(14,100G)で10分間遠心分離を行い、湿菌体142gを得た。該湿菌体に水278gを加え、均一になるように再懸濁して菌体懸濁液420g(OD630=300)を得た。菌体懸濁液の活性は1gあたり2000Uであった。
ついで、得られた菌体懸濁液のうち220gを約10℃に冷却した後、高圧ホモジナイザーPA2K(NiroSoavi社製、イタリア)を用いて約100MPaで破砕処理を行った。その後、再び約10℃まで冷却した後、再度約100MPaで破砕処理を行い、菌体破砕液170gを得た。これに10%塩酸アルキルジアミノエチルグリシン水溶液を17mL添加し(終濃度0.91%となる)、約10分間撹拌した後、17.0gのセライトHyflo Super Cel(ワールドミネラルズ社、米国)を加え、さらに約5分間撹拌した。ついで、予め9gのセライトHyflo Super Celをプリコートしておいたろ過面積約163cmのNo.5Aろ紙(アドバンテック(株)、日本)及び加圧ろ過器(アドバンテック(株)、日本)を用い、圧力0.2MPaで加圧ろ過を行い、粗酵素液を得た。粗酵素液の活性は1gあたり1750Uであった。
[調製例3]ハロヒドリンエポキシダーゼ発現微生物Corynebacterium sp. N-1074株の培養
ハロヒドリンエポキシダーゼ活性を持つCorynebacterium sp. N-1074株(FERM BP-2643)の培養を以下のように行った。
グルコース1%、ペプトン0.5%、肉エキス0.3%、酵母エキス0.3%からなる培地をpH7.0に調整して、500mL三角フラスコに100mLずつ30本に分注し、120℃で15分殺菌後、予め0.45μmのフィルターでろ過除菌しておいた25%の3−クロロ−1,3−プロパンジオール水溶液を、それぞれ無菌条件下で0.8mLずつ添加した。この培地にCorynebacterium sp. N-1074のコロニーを植菌し、30℃にて48時間振盪培養を行った。
ついで、得られた培養菌体を50mM トリス−硫酸緩衝液(pH 8.0)で洗浄し、50mM トリス−硫酸緩衝液(pH 8.0)を20gになるように加え、懸濁した。この菌体懸濁液の活性は1gあたり450Uであった。この菌体懸濁液を50mM トリス−硫酸緩衝液(pH 8.0)で菌体懸濁液1gあたり400Uになるように希釈した。
[調製例4]ハロヒドリンエポキシダーゼ発現微生物Leifsonia sp. MRC03株の培養
ハロヒドリンエポキシダーゼ活性を持つLeifsonia sp. MRC03株(FERM AP-20453)の培養を調整例3と同様に行い、1gあたり460Uの活性を持つ菌体懸濁液を得た。また、調製例3と同様に、この菌体懸濁液を50mM トリス−硫酸緩衝液(pH 8.0)で菌体懸濁液1gあたり400Uになるように希釈した。
[調製例5]ハロヒドリンエポキシダーゼ発現微生物Aureobacterium sp. DH095株の培養
ハロヒドリンエポキシダーゼ活性を持つAureobacterium sp. DH095株(FERM P-12360)の培養を調整例3と同様に行い、1gあたり440Uの活性を持つ菌体懸濁液を得た。また、調製例3と同様に、この菌体懸濁液を50mM トリス−硫酸緩衝液(pH 8.0)で菌体懸濁液1gあたり400Uになるように希釈した。
[調製例6]ハロヒドリンエポキシダーゼ発現微生物Microbacterium sp. N-4701株の培養
ハロヒドリンエポキシダーゼ活性を持つMicrobacterium sp. N-4701株(FERM BP-2644)の培養を調整例3と同様に行い、1gあたり430Uの活性を持つ菌体懸濁液を得た。また、調製例3と同様に、この菌体懸濁液を50mM トリス−硫酸緩衝液(pH 8.0)で菌体懸濁液1gあたり400Uになるように希釈した。
[調製例7]ニトリルヒドラターゼ発現微生物Rhodococcus rhodochrous J-1株の培養
ニトリルヒドラターゼ活性を有するロドコッカス ロドクロウス(Rhodococcus rhodochrous)J-1株(FERM BP-1478)を、30L容ジャーファーメンターにて、グルコース2%、尿素1%、ペプトン0.5%、酵母エキス0.3%、塩化コバルト0.05%を含む培地(pH7.0)により温度30℃で好気的に60時間培養し、得られた培養菌体を50mMリン酸緩衝液(pH7.7)にて洗浄し、菌体懸濁液500g(乾燥菌体換算20%)を得た。
以下、光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチルアミド、及び該前駆体である光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルの製造について説明する。
[実施例1〜4]
(工程(1):シアノ化酵素反応)
以下の表5に示す条件で反応を行った。反応は、pH電極及びpHコントローラーにより制御されたアルカリ投入配管を装着した300mL容4つ口フラスコに、所定量の水、HCNを投入し、30%NaOHで所定のpH(I)に調整後、DCPを加え均一に溶解するまで攪拌した。
ついで、調整例1の菌体懸濁液20.00g(8.00kU)を加え、所定の温度、pH(II)で反応を開始した。反応開始後は、反応系内のpHを制御するために、pHコントローラーを設定し、30%NaOHにてpHのコントロールを行った。pHコントロールで使用したNaOHとほぼ等モルの割合でDCP及びHCNを追添加し、DCP及びHCNの濃度を所定の範囲内に維持した。各実施例の反応プロファイルについては、表6(実施例1)、表8(実施例2)、表10(実施例3)及び表12(実施例4)に示した。なお、収率は以下の方法により算出した。
(収率)(%)=(CHBN濃度)×(反応液重量)/((DCP使用量)×119.55/128.98)
(DCP使用量)=(DCP仕込み量)+(DCP追加量)
Figure 2009142199
(工程(2):シアノ化酵素反応終了液の濃縮)
前記工程(1)で得られた反応液を、35%塩酸で表5に示す所定のpH(III)に調整後、窒素ガスを毎分5mL吹き込みながら常圧蒸留し、2℃に冷却した冷却管を用いて留出液を得た。各実施例の留出液・釜残組成を、表7(実施例1)、表9(実施例2)、表11(実施例3)及び表13(実施例4)に示す。なお、これらの表中のn.t. (Not Tested)は、評価を行っていないことを意味している。表14以降についても同様である。
Figure 2009142199
Figure 2009142199
Figure 2009142199
Figure 2009142199
Figure 2009142199
Figure 2009142199
Figure 2009142199
Figure 2009142199
(工程(3):アミド化酵素反応前処理)
工程(2)で得たCHBNを含む釜残の一部をCHBN濃度が15%となるように水で希釈し、常圧下、100℃で12時間加熱還流させた。その後、4%NaOHにてpH8.2に調整し、CHBN濃度が10.05%となるよう水で希釈した。
(工程(4):アミド化酵素反応)
前記工程(3)で得られた処理液のうち、19.9gを2℃に冷却し、調製例7のRhodococcus rhodochrous J-1株菌体懸濁液を0.1g加え、反応を開始した。反応結果を表15に示す。
[実施例5]
(工程(1):シアノ化酵素反応)
実施例1の工程(2)で得られた留出液の100.0gに水31.25g、HCN3.41gを加え、30%NaOH 0.65gでpH7.5に調整し、DCP7.3gを加えて均一に溶解するまで攪拌した。ついで、調整例1の菌体懸濁液20.00g(8.00kU)を加え、実施例1と同様に反応を行った。反応開始23時間後、30%NaOHは22.0g投入されており、反応液の全量は200.78gであった。
(工程(2):シアノ化酵素反応終了液の濃縮)
前記工程(1)で得られた反応液に35%塩酸を0.8g添加し、pHを2.0とした後、窒素ガスを毎分5mL吹き込みながら、110Torr, 50℃で減圧蒸留し、2℃に冷却した冷却管を用いて129.92gの留出液及び釜残を得た。反応終了液、留出液、釜残の組成を表14に示す。
(工程(3):アミド化酵素反応前処理)
前記工程(2)で得られたCHBNを含む釜残を、実施例1と同様にして水で希釈し、加熱還流させた後、4%NaOHにてpH8.2に調整し、CHBN濃度が10.05%となるよう水で希釈した。
(工程(4):アミド化酵素反応)
前記工程(3)で得られた処理液のうち、19.9gを実施例1と同様に反応を開始した。反応結果は表15のようになった。
Figure 2009142199
[比較例1]
実施例1の工程(2)で得られたCHBNを含む釜残の一部を4%NaOHにてpH8.2に調整し、CHBN濃度が10.1%となるように水で希釈した。そのうち、19.8gを2℃に冷却し、調製例7のRhodococcus rhodochrous J-1株菌体懸濁液を0.2g加え、反応を開始した。反応結果を表15に示す。
Figure 2009142199
[実施例6〜9]
(工程(1):シアノ化酵素反応)
調製例1の菌体懸濁液のかわりに、調製例3〜6の菌体懸濁液を使用した他は、実施例1と同様に反応を行った。反応終了液組成及び反応の結果は表16に示す。
Figure 2009142199
(工程(2):シアノ化酵素反応終了液の濃縮)
前記工程(1)で得られた反応液を実施例1と同様の方法で蒸留し、留出液及び釜残を得た。留出液の組成を表17、釜残の組成を表18に示す。
Figure 2009142199
Figure 2009142199
(工程(3):アミド化酵素反応前処理)
前記工程(2)で得られたCHBNを含む釜残を、実施例1と同様に水で希釈し、加熱還流させた後、4%NaOHにてpH8.2に調整し、CHBN濃度が10.05%となるよう水で希釈した。
(工程(4):アミド化酵素反応)
前記工程(3)で得られた処理液のうち、19.9gを実施例1と同様に反応を開始した。反応結果を表19に示す。
Figure 2009142199
[実施例10]
(工程(1):シアノ化酵素反応)
pH電極及びpHコントローラーにより制御されたアルカリ投入配管を装着した10L容セパラブルフラスコに、水5452g、HCN169gを投入して攪拌を行った後、30%NaOH29gによりpH7.8に調整した。その後、DCP400gを加え、均一に溶解するまで攪拌した。ついで、調製例2の粗酵素液183g(320kU)を加え、18℃、pH7.8〜7.9で反応を開始した。
反応開始後は、反応系内のpHを制御するために、pHコントローラーを設定し、30%NaOHにてpH7.8〜7.9の制御を行った。反応開始直後はpHが7.0まで低下したが、その後はpH7.8〜7.9の間に維持した。また、並行して、投入された30%NaOHとほぼ等モルの割合でDCP400g及びHCN99gを追添加した。
反応開始から23時間後、30%NaOH820g追加された時点でpH制御を終了し、シアノ化酵素反応終了液7552g(a)を得た。CHBNのDCPからの収率は86.8%であった。
(工程(2):シアノ化酵素反応終了液の濃縮)
前記工程(1)で得られたシアノ化酵素反応終了液(a)のうち、7500gに、35%塩酸を24g添加し、pH2.0に調整した。釜内温80℃、400〜500Torrで減圧濃縮を行い、−10℃で冷却した冷却管を用いて、144gの留出液(b)を得た。続いて、窒素ガスを毎分20mL吹き込みながら、釜内温50〜60℃、80〜100Torrで減圧濃縮を行い、−2℃で冷却した冷却管を用いて、3267gの留出液(c)を得た。このとき、釜内の残渣(d)は3981gであった。留出液(b)及び(c)で得られた、シアノ化酵素反応終了液(a)中の未反応DCP及びHCN、CHBNの回収率はそれぞれ69.0%、53.1%、0.3%であった。
(工程(3):アミド化酵素反応前処理)
前記工程(2)で得られた残渣(d)のうち、2000gを3L容セパラブルフラスコに仕込み、0.1%塩化コバルト(II)水溶液20gを入れ攪拌したのち、30%NaOH2.7gにてpH8.2に調整し、水を257g添加して反応液を希釈した後20℃で1時間攪拌した。攪拌中、pHは8.2のままであった。
(工程(4):アミド化酵素反応)
前記工程(3)で得られた処理液を2℃に冷却し、調製例7のRhodococcus rhodochrous J-1株菌体懸濁液を6g加え、反応開始液の組成(e)にて反応を開始した。反応中、4%NaOHを随時添加し、pHを7.8〜8.2の間に維持した。反応開始から4時間後、HPLCにてCHBNの消失と、CHBAの生成を確認した。このとき、4%NaOHの添加量は2gで、反応液の組成は(f)であり、CHBAのCHBNからの収率は99.9%であった。
前記工程(1)〜(4)における、各液の組成を表20に示す。
Figure 2009142199
表20中、工程(4)おけるCHBNの濃度(重量%)と塩濃度(重量%)の積は、14(%)×(8.04(%)+0.0008(%))=112.57であった。
以下、カルニチンアミドの製造について説明する。
(工程(5):カルニチンアミドの製造)
前記工程(4)で得られた反応液に、30%トリメチルアミン水溶液633gを加え、30℃で攪拌しながら反応を行った。反応開始から5時間後、HPLCにて、CHBAの消失と、カルニチンアミドの生成を確認した。このとき、カルニチンアミドのCHBAからの収率は95%であった。この反応液に36%塩酸54.2gを加えてpH7.0とした後、29.8gの活性炭(精製白鷺、日本エンバイロケミカルズ(株)、日本)を加え、30℃で1時間攪拌した。ろ過面積約163cmのNo.5Cろ紙(アドバンテック(株)、日本)及び加圧ろ過器(アドバンテック(株)、日本)を用い、圧力0.2MPaで加圧ろ過を行ったところ、ろ過に10分を要し、濾液の回収率は99.5%であった。
[実施例11]
工程(1)において、調製例2の粗酵素液183gのかわりに、調製例2の菌体懸濁液160g(320kU)を使用し、水の仕込み量を5475gに変更した以外は、実施例10と同様に工程(1)〜(5)を実施し、pH7.0のカルニチンアミド水溶液2975gを得た。また、このカルニチンアミド水溶液を、実施例10と同様に活性炭を加えて加圧ろ過を行ったところ、ろ過に1時間を要し、濾液の回収率は97%であった。
[実施例12]
工程(1)において、水5452g、HCN169gのかわりに、水1561.6g、実施例10の工程(2)において得た留出液(b)144g、留出液(c)3267gを仕込み攪拌し、30%NaOH29gでpH7.8に調整した後、DCP364.1gを加えた以外は、実施例11と同様に工程(1)〜(5)を実施したところ、実施例11と同様の結果が得られた。
[実施例13]
(工程(3):アミド化酵素反応前処理)
実施例10の工程(2)において得られた残渣(d)のうち、1000gを2L容セパラブルフラスコに仕込み、常圧下、100℃で12時間加熱還流させた後、30%NaOH1.3gにてpH8.2に調整した。
(工程(4):アミド化酵素反応)
前記工程(3)で得られた処理液を2℃に冷却し、調製例7のRhodococcus rhodochrous J-1株菌体懸濁液を3g加え、反応を開始した。反応中、4%NaOHを随時添加し、pHを7.8〜8.2の間に維持した。反応開始から10時間後、HPLCにてCHBNの消失と、CHBAの生成を確認した。このとき、4%NaOHの添加量は1gで、CHBAのCHBNからの収率は99.5%(光学純度91.9%ee)であった。本工程(4)において、CHBNの濃度(質量%)と塩濃度(質量%)の積は、15.93(%)×9.15(%)=145.76であった。
(工程(5):カルニチンアミドの製造)
前記工程(4)で得られた反応液に、30%トリメチルアミン水溶液316.5gを加え、30℃で攪拌しながら反応を行った。反応開始から5時間後、HPLCにて、CHBAの消失と、カルニチンアミドの生成を確認した。このとき、カルニチンアミドのCHBAからの収率は95%であった。この反応液に36%塩酸27.1gを加えてpH7.0とした後、13.5gの活性炭(精製白鷺、日本エンバイロケミカルズ(株)、日本)を加え、30℃で1時間攪拌した。ろ過面積約163cmのNo.5Cろ紙(アドバンテック(株)、日本)及び加圧ろ過器(アドバンテック(株)、日本)を用い、圧力0.2MPaで加圧ろ過を行ったところ、ろ過に9分を要し、濾液の回収率は99.6%であった。
以上のように、実施例1〜13では、コスト面、環境面に優れた方法で、かつ高い生産性で光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチルアミド及び光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリル、並びに光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチルアミド製造できた。
一方、工程(3)を行っていない比較例1では、光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチルアミドの収率が著しく低かった。

Claims (16)

  1. 下記工程(1)〜(4)を含む光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチルアミドの製造方法。
    工程(1):水及びハロヒドリンエポキシダーゼを含む反応溶媒中で、1,3−ジハロ−2−プロパノールとシアニドドナーとを酵素反応させて光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルを得る工程。
    工程(2):前記工程(1)における酵素反応終了後の反応液を蒸留することにより濃縮し、未反応のシアニドドナー及び1,3−ジハロ−2−プロパノールを含む留分を分離する工程。
    工程(3):前記工程(2)の残渣として得られる光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルを含む水溶液に、加熱処理及び/又はシアンイオンと金属錯体を形成する金属塩の添加処理を行う工程。
    工程(4):前記工程(3)で得られる処理液を、処理液中の光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルの濃度(質量%)と塩濃度(質量%)の積が160以下となるように調整した後に、ニトリルヒドラターゼと接触させて、酵素反応により光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチルアミドを得る工程。
  2. 前記工程(2)で得られる未反応のシアニドドナー及び1,3−ジハロ−2−プロパノールを含む留分を回収し、前記工程(1)の酵素反応に供する、請求項1に記載の光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチルアミドの製造方法。
  3. 前記工程(1)において、酵素反応開始から終了までの間、反応液のpHを5.9〜8.5の間に維持する、請求項1又は2に記載の光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチルアミドの製造方法。
  4. 前記工程(1)において、酵素反応開始後、4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルが0.3mol/kg生成した以降、1,3−ジハロ−2−プロパノールを、1,3−ジハロ−2−プロパノールの濃度が0.8mol/kg以下となるように追添加しながら反応を行う、請求項1〜3のいずれかに記載の光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチルアミドの製造方法。
  5. 前記工程(1)において、酵素反応中、シアニドドナーを、シアニドドナーの濃度が0.05〜1.5mol/kgとなるように追添加しながら反応を行う、請求項1〜4のいずれかに記載の光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチルアミドの製造方法。
  6. 前記工程(1)において、1,3−ジハロ−2−プロパノールとハロヒドリンエポキシダーゼが接触させる前に、予め0.01〜1.5mol/kgのシアニドドナーを反応系内に存在させておく、請求項1〜5のいずれかに記載の光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチルアミドの製造方法。
  7. 前記工程(3)において、工程(2)の残渣として得られる光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルを含む水溶液中のシアンイオン濃度が100ppm以下とする、請求項1〜6のいずれかに記載の光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチルアミドの製造方法。
  8. 前記工程(4)において、反応液中の前記工程(3)において添加された金属塩を合計した濃度を10,000ppm以下に調整する、請求項1〜7のいずれかに記載の光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチルアミドの製造方法。
  9. 前記工程(4)において、酵素反応中の反応液のpHを6〜9に維持する、請求項1〜8のいずれかに記載の光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチルアミドの製造方法。
  10. 請求項1〜9のいずれかに記載の方法により得られる光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチルアミドと、トリメチルアミンとを接触させる光学活性カルニチンアミドの製造方法。
  11. 下記工程(1)及び(2)を含み、工程(2)で得られる未反応のシアニドドナー及び1,3−ジハロ−2−プロパノールを含む留分を回収し、工程(1)の酵素反応に供する、光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルの製造方法。
    工程(1):水及びハロヒドリンエポキシダーゼを含む反応溶媒中で、1,3−ジハロ−2−プロパノールとシアニドドナーとを酵素反応させて光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルを得る工程。
    工程(2):前記工程(1)における酵素反応終了後の反応液を蒸留することにより濃縮し、未反応のシアニドドナー及び1,3−ジハロ−2−プロパノールを含む留分を分離する工程。
  12. 前記工程(1)において、酵素反応開始から終了までの間、反応液のpHを5.9〜8.5の間に維持する、請求項11に記載の光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルの製造方法。
  13. 前記工程(1)において、酵素反応開始後、4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルが0.3mol/kg生成した以降、1,3−ジハロ−2−プロパノールを、1,3−ジハロ−2−プロパノールの濃度が0.8mol/kg以下となるように追添加しながら反応を行う、請求項11又は12に記載の光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルの製造方法。
  14. 前記工程(1)において、酵素反応中、シアニドドナーを、シアニドドナーの濃度が0.05〜1.5mol/kgとなるように追添加しながら反応を行う、請求項11〜13のいずれかに記載の光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルの製造方法。
  15. 前記工程(1)において、1,3−ジハロ−2−プロパノールとハロヒドリンエポキシダーゼが接触させる前に、予め0.01〜1.5mol/kgのシアニドドナーを反応系内に存在させておく、請求項11〜14のいずれかに記載の光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルの製造方法。
  16. 前記工程(3)において、工程(2)の残渣として得られる光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルを含む水溶液中のシアンイオン濃度が100ppm以下とする、請求項11〜15のいずれかに記載の光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルの製造方法。
JP2007322570A 2007-12-13 2007-12-13 光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチルアミド及び光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリル、並びに光学活性カルニチンアミドの製造方法 Pending JP2009142199A (ja)

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