ところで、上記上下アームを短絡させる処理によれば、直流電源の電圧を昇圧することができるとはいえ、こうした処理を行うことで、スイッチング素子の温度が不均一化されることがある。そして、スイッチング素子の温度が過度に高くなると、スイッチング素子の信頼性が低下するおそれがある。
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、回転機及び給電手段間に接続されて且つ、前記回転機を高電位側に接続する高電位側のスイッチング素子と前記回転機を低電位側に接続する低電位側のスイッチング素子との直列接続体を複数備える電力変換回路における前記直列接続体を短絡状態とするように前記スイッチング素子をオン操作する処理を行うに際し、スイッチング素子の過度の温度上昇を抑制することのできる電力変換回路の制御装置、及びこれを備える電力変換システムを提供することにある。
以下、上記課題を解決するための手段、及びその作用効果について記載する。
請求項1記載の発明は、回転機及び給電手段間に接続されて且つ、前記回転機を高電位側に接続する高電位側のスイッチング素子と前記回転機を低電位側に接続する低電位側のスイッチング素子との直列接続体を複数備える電力変換回路に適用され、前記直列接続体を短絡状態とするように前記スイッチング素子をオン操作する処理を行う電力変換回路の制御装置において、前記短絡状態とする直列接続体を、前記スイッチング素子の温度と相関を有するパラメータに応じて可変設定する設定手段を備えることを特徴とする。
短絡状態とする直列接続体には、高電位側のスイッチング素子及び低電位側のスイッチング素子を貫通する電流が流れるため、温度が上昇しやすい。上記発明では、温度上昇を誘発しやすい処理である上記短絡状態とする処理を、温度と相関を有するパラメータに応じて可変設定するために、スイッチング素子の過度の温度上昇を抑制することができる。
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記電力変換回路は、前記直列接続体を短絡状態とすることで前記給電手段の電圧を昇圧するものであることを特徴とする。
上記発明では、設定手段を備えることで、昇圧動作に際して、スイッチング素子の過度の温度上昇を抑制することができる。
なお、上記電力変換回路は、「インダクタを備えて且つ、前記直列接続体が短絡状態とされることで前記インダクタに蓄えられたエネルギが前記直列接続体の短絡状態が解除される際に放出される現象を利用して前記給電手段の電圧を昇圧するもの」又は「インダクタを備えて且つ、前記直列接続体の短絡状態の解除によって前記インダクタに逆起電力が生じる現象を利用して前記給電手段の電圧を昇圧するもの」であることが望ましい。
請求項3記載の発明は、請求項2記載の発明において、前記電力変換回路は、前記高電位側のスイッチング素子及び前記給電手段の正極端子間に接続されるインダクタ及び前記低電位側のスイッチング素子及び前記給電手段の負極端子間に接続されるインダクタからなる一対のインダクタと、前記一対のインダクタのそれぞれについて、当該インダクタ及び前記スイッチング素子間と他方のインダクタ及び前記給電手段間との間に接続される一対のキャパシタとを備えることを特徴とする。
上記発明では、一対のインダクタ及びキャパシタを備えることで、短絡処理によって昇圧動作を適切に行うことができる。
請求項4記載の発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載の発明において、前記回転機は、多相回転機であり、前記設定手段は、前記多相回転機の各相を流れる電流と相関を有する電流パラメータに基づき前記短絡状態とする直列接続体を可変設定することを特徴とする。
スイッチング素子を流れる電流が多いほど、スイッチング素子の温度が高くなる。上記発明では、この点に鑑み、上記「スイッチング素子の温度と相関を有するパラメータ」として、電流パラメータを用いることで、上記可変設定にかかる処理を適切に行うことができる。
請求項5記載の発明は、請求項4記載の発明において、前記電流パラメータは、前記スイッチング素子を流れる電流量であり、前記設定手段は、前記直列接続体のうちこれを構成する前記スイッチング素子を流れる電流量が少量であるものを優先的に前記短絡状態とすることを特徴とする。
スイッチング素子を流れる電流が多いほどスイッチング素子の温度が上昇しやすい。この点、上記発明では、スイッチング素子を流れる電流量が少量であるものを優先的に短絡状態とすることで、スイッチング素子の過度の温度上昇を抑制することができる。
請求項6記載の発明は、請求項4記載の発明において、前記電流パラメータは、前記多相回転機の相電流及び前記電力変換回路のアームの各相に流れる電流のいずれかであり、前記設定手段は、前記直列接続体のうち該当する前記いずれかの量が少量であるものを優先的に前記短絡状態とすることを特徴とする。
スイッチング素子を流れる電流が多いほどスイッチング素子の温度が上昇しやすい。そして、スイッチング素子を流れる電流は、上記いずれかの量と相関を有する。この点、上記発明では、上記いずれかの量が少量であるものを優先的に短絡状態とすることで、スイッチング素子の過度の温度上昇を抑制することができる。
なお、電力変換回路にあっては、上記スイッチング素子に整流手段が並列接続されるものが周知である。この場合、上記いずれかの量は、必ずしもスイッチング素子を流れる電流のみではない。しかし、スイッチング素子と整流手段とが互いに熱干渉をする状況下にあっては、上記いずれかの量を用いることが特に有効である。
請求項7記載の発明は、請求項1〜6のいずれか1項に記載の発明において、前記設定手段は、前記スイッチング素子の温度情報に基づき、前記短絡状態とする直列接続体を可変設定することを特徴とする。
上記発明では、上記「スイッチング素子の温度と相関を有するパラメータ」として、スイッチング素子の温度情報を用いることで、上記可変設定にかかる処理を適切に行うことができる。
請求項8記載の発明は、請求項7記載の発明において、前記設定手段は、前記直列接続体のうちこれを構成する前記スイッチング素子の温度が低いものを優先的に前記短絡状態とすることを特徴とする。
上記発明では、スイッチング素子の温度上昇を招く要因となる短絡状態とする処理を、スイッチング素子の温度が低いものに対して優先的に行うことで、スイッチング素子の過度の温度上昇を抑制することができる。
請求項9記載の発明は、請求項8記載の発明において、前記直列接続体を構成する前記スイッチング素子の温度のばらつきが所定以下である場合、全ての直列接続体を短絡状態とすることを特徴とする。
スイッチング素子に流れる電流が多いほど、スイッチング素子の温度が上昇しやすい。そして、スイッチング素子の温度ばらつきが所定以下であるなら、単一の直列接続体を短絡状態とすることでその直列接続体を構成するスイッチング素子の温度が他と比較して高くなると考えられる。この点、上記発明では、こうした状況下、全ての直列接続体を短絡状態とすることで、特定のスイッチング素子の過度の温度上昇を回避することができるとともに、短絡状態とすることに起因するスイッチング素子の温度の上昇量を最小とすることができる。
請求項10記載の発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載の発明において、前記電力変換回路は、前記直列接続体を短絡状態とすることで前記給電手段の電圧を昇圧するものであり、前記回転機は、複数からなり、前記設定手段は、前記複数の回転機に接続される前記直列接続体のいずれを短絡させるかを前記スイッチング素子の温度と相関を有するパラメータに基づき可変設定することを特徴とする。
上記発明では、スイッチング素子の温度と相関を有するパラメータに基づき、複数の回転機に接続される直列接続体のいずれを短絡状態とするかを可変設定することで、スイッチング素子の温度上昇を抑制することができる。
なお、上記電力変換回路は、「インダクタを備えて且つ、前記直列接続体が短絡状態とされることで前記インダクタに蓄えられたエネルギが前記直列接続体の短絡状態が解除される際に放出される現象を利用して前記給電手段の電圧を昇圧するもの」又は「インダクタを備えて且つ、前記直列接続体の短絡状態の解除によって前記インダクタに逆起電力が生じる現象を利用して前記給電手段の電圧を昇圧するもの」であることが望ましい。
請求項11記載の発明は、請求項10記載の発明において、前記設定手段は、前記短絡状態とする直列接続体を、前記複数の回転機のそれぞれに接続される前記直列接続体に分散させることを特徴とする。
上記発明では、スイッチング素子の温度上昇を招く処理である短絡状態とする処理を、複数の回転機に接続される直列接続体で分散して行うことで、特定のスイッチング素子の温度が過度に上昇することを回避することができる。
請求項12記載の発明は、回転機及び給電手段間に接続されて且つ、前記回転機を高電位側に接続する高電位側のスイッチング素子と前記回転機を低電位側に接続する低電位側のスイッチング素子との直列接続体を複数備える電力変換回路に適用され、前記直列接続体を短絡状態とするように前記スイッチング素子をオン操作する処理を行う電力変換回路の制御装置において、前記電力変換回路は、前記直列接続体を短絡状態とすることで前記給電手段の電圧を昇圧するものであり、前記回転機は、複数からなり、前記短絡状態とする直列接続体を、前記複数の回転機のそれぞれに接続される前記直列接続体に分散させて設定する設定手段を備えることを特徴とする。
短絡状態とする直列接続体には、高電位側のスイッチング素子及び低電位側のスイッチング素子を貫通する電流が流れるため、温度が上昇しやすい。ここで、回転機を複数有する場合、特定の回転機に接続される直列接続体を構成するスイッチング素子の温度のみが過度に高くなるおそれがある。上記発明では、この点に鑑み、短絡処理を行う直列接続体を分散させることで、スイッチング素子の温度上昇を抑制することができる。
なお、上記電力変換回路は、「インダクタを備えて且つ、前記直列接続体が短絡状態とされることで前記インダクタに蓄えられたエネルギが前記直列接続体の短絡状態が解除される際に放出される現象を利用して前記給電手段の電圧を昇圧するもの」又は「インダクタを備えて且つ、前記直列接続体の短絡状態の解除によって前記インダクタに逆起電力が生じる現象を利用して前記給電手段の電圧を昇圧するもの」であることが望ましい。
請求項13記載の発明は、請求項10〜12のいずれか1項に記載の発明において、前記設定手段は、前記電力変換回路と前記回転機のそれぞれとの間の流出入電流に基づき前記複数の回転機のいずれに接続される直列接続体を短絡させるかを可変設定することを特徴とする。
スイッチング素子を流れる電流が多いほど、スイッチング素子の温度が高くなる。上記発明では、この点に鑑み、上記流出入電流を、「スイッチング素子の温度と相関を有するパラメータ」として用いることで、特定のスイッチング素子の温度が過度に高くなることを好適に回避することができる。
請求項14記載の発明は、請求項10〜13のいずれか1項に記載の発明において、前記設定手段は、複数の回転機のそれぞれと接続される前記直列接続体を構成する温度情報に基づき前記複数の回転機のいずれに接続される直列接続体を短絡させるかを可変設定することを特徴とする。
上記発明では、スイッチング素子の温度情報に基づき複数の回転機のいずれに接続される直列接続体を短絡させるかを可変とすることで、特定の直列接続体の温度が過度に高くなることを好適に回避することができる。
請求項15記載の発明は、請求項10〜12のいずれか1項に記載の発明において、前記電力変換回路は、前記高電位側のスイッチング素子及び前記給電手段の正極端子間に接続されるインダクタ及び前記低電位側のスイッチング素子及び前記給電手段の負極端子間に接続されるインダクタからなる一対のインダクタと、前記一対のインダクタのそれぞれについて、当該インダクタ及び前記スイッチング素子間と他方のインダクタ及び前記給電手段間との間に接続される一対のキャパシタとを備えるインピーダンスネットワークを備え、前記設定手段は、それぞれの回転機に接続される前記直列接続体と前記インピーダンスネットワークとの間の流出入電流に基づき前記複数の回転機のいずれに接続される直列接続体を短絡させるかを可変設定することを特徴とする。
スイッチング素子を流れる電流が多いほど、スイッチング素子の温度が高くなる。上記発明では、この点に鑑み、上記流出入電流を、「スイッチング素子の温度と相関を有するパラメータ」として用いることで、特定のスイッチング素子の温度が過度に上昇することを好適に回避することができる。
請求項16記載の発明は、請求項10〜12のいずれか1項に記載の発明において、前記設定手段は、前記複数の回転機のうちのいずれの回転機に接続される前記直列接続体を短絡させるかを周期的に変化させることを特徴とする。
上記発明では、スイッチング素子の温度上昇を招く処理である短絡状態とする処理を、いずれの回転機に接続される直列接続体に行うかを周期的に変化させることで、短絡状態とする処理がなされる頻度が特定の回転機に接続される直列接続体に偏ることを回避することができる。このため、特定の回転機に接続される直列接続体の温度が過度に上昇することを回避することができる。
請求項17記載の発明は、請求項10〜16のいずれか1項に記載の発明において、前記短絡状態とする処理は、前記複数の回転機にそれぞれ指令電圧を印加するための電圧ベクトルの全てがゼロ電圧ベクトルとなる期間においてなされるものであることを特徴とする。
少なくとも1つの直列接続体を短絡状態とする場合、いずれの回転機にも電圧を印加することができない。このため、短絡状態とする処理がなされる際に、指令電圧を印加するための電圧ベクトルがゼロ電圧ベクトルとならない回転機がある場合、この回転機に印加される電圧が不足し、ひいては指令電圧を印加することができなくなるおそれがある。上記発明では、この点に鑑み、全ての電圧ベクトルがゼロ電圧ベクトルとなる期間において短絡状態とする処理を行うことで、回転機に指令電圧を印加する処理を妨げることなく短絡状態とする処理を行うことができる。
請求項18記載の発明は、請求項10〜17のいずれか1項に記載の発明において、前記短絡状態とする処理は、少なくとも1つの回転機に指令電圧を印加するための電圧ベクトルがゼロ電圧ベクトルとなる期間においてなされるものであり、前記短絡状態とされる期間において、前記複数の回転機の中に、前記指令電圧を印加するための電圧ベクトルがゼロ電圧ベクトルとならないものがある場合、その回転機に印加される電圧についての前記短絡状態に起因する不足分を補償する手段を更に備えることを特徴とする。
少なくとも1つの直列接続体を短絡状態とする場合、いずれの回転機にも電圧を印加することができない。このため、短絡状態とする処理がなされる際に、指令電圧を印加するための電圧ベクトルがゼロ電圧ベクトルとならない回転機がある場合、この回転機に印加する電圧が不足し、ひいては指令電圧を印加することができなくなるおそれがある。上記発明では、この点に鑑み、ゼロ電圧ベクトルでない回転機に印加される電圧に関して短絡状態に起因する不足分を補償する手段を備えることで、回転機に指令電圧を印加しつつも、短絡状態とする処理を行うことができる。
請求項19記載の発明は、請求項1〜18のいずれか1項に記載の電力変換回路の制御装置と、前記電力変換回路とを備えることを特徴とする電力変換システムである。
(第1の実施形態)
以下、本発明にかかる電力変換回路の制御装置及び電力変換システムをパラレルハイブリッド車に適用した第1の実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
図1に、本実施形態のシステム構成を示す。図示されるモータジェネレータ10は、3相の電動機兼発電機である。モータジェネレータ10は、インバータIV及びインピーダンスネットワークINを備える電力変換回路を介して、高圧バッテリ12に接続されている。高圧バッテリ12は、所定の高電圧(例えば「288V」)の電圧を印加する2次電池である。
上記インバータIVは、スイッチング素子Sup,Sunの直列接続体と、スイッチング素子Svp,Svnの直列接続体と、スイッチング素子Swp,Swnの直列接続体との並列接続体を備えて構成されている。ここで、スイッチング素子Sup及びスイッチング素子Sunの接続点はモータジェネレータ10のU相に接続されており、スイッチング素子Svp及びスイッチング素子Svnの接続点はモータジェネレータ10のV相に接続されており、スイッチング素子Swp及びスイッチング素子Swnの接続点はモータジェネレータ10のW相に接続されている。なお、これらスイッチング素子Sup,Sun、Svp,Svn、Swp,Swnは、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)にて構成されており、これらにはそれぞれ逆並列にダイオードDup,Dun、Dvp,Dvn、Dwp,Dwnが接続されている。
インピーダンスネットワークINは、上記高圧バッテリ12の正極端子側及びインバータIVの高電位側の入力端子間に接続されるインダクタ20と、上記高圧バッテリ12の負極端子側及びインバータIVの低電位側の入力端子間に接続されるインダクタ22とを備えている。更に、インピーダンスネットワークINは、インバータIVの高電位側の入力端子及びインダクタ20間と高圧バッテリ12の負極端子及びインダクタ22間とを接続するコンデンサ24と、高圧バッテリ12の正極端子及びインダクタ20間とインバータIVの低電位側の入力端子及びインダクタ22間とを接続するコンデンサ26とを備えている。
なお、高圧バッテリ12の正極端子及びインダクタ20間には、逆流防止用の整流手段としてのダイオード30と、回生制御用のスイッチング素子32とが接続されている。また、インバータIVとモータジェネレータ10との電気経路には、U相の電流を検出する電流センサ34と、V相の電流を検出する電流センサ36とが設けられている。
これら電流センサ34,36等の高圧システム内のセンサの出力は、インターフェース40を介して、マイクロコンピュータ(マイコン42)に取り込まれる。マイコン42では、高圧システム内の各種センサの検出値や、ユーザによる要求トルク等に基づき、スイッチング素子Sup,Sun、Svp,Svn、Swp,Swnや、スイッチング素子32を操作する。換言すれば、インバータIVやスイッチング素子32を操作する。特に、マイコン42は、モータジェネレータ10に印加する電圧を指令電圧とすべくPWM処理によってインバータIVを操作する。
更に、この操作に際して、上側アーム及び下側アームの双方のスイッチング素子をオン状態とすることで、スイッチング素子Sup,Sunの直列接続体と、スイッチング素子Svp,Svnの直列接続体と、スイッチング素子Swp,Swnの直列接続体とのうちの少なくとも1つを短絡状態とする処理(shoot-through:以下、短絡処理)を行う。これは、インバータIVの出力電圧を昇圧するための処理である。すなわち、短絡処理を行った後これを解除することでインダクタ20、22に逆起電力が生じる現象を利用して、インピーダンスネットワークINの出力電圧を、高圧バッテリ12の電圧よりも高電圧とすることができる。なお、上記特許文献1には、インダクタ20,22のインダクタンスを互いに等しいとして且つ、コンデンサ24,26の静電容量を互いに等しいとする条件の下、上記直列接続体のスイッチング周期T、短絡処理時間T0、高圧バッテリ12の電圧Voを用いて、出力電圧が「Vo・T/(T−T0)」まで昇圧されることの説明がある。更に、変調率Mを用いて、モータジェネレータ10に印加される交流電圧が、「M・Vo・T/{2・(T−T0)}」となると記載されている。
上記短絡処理を行うことで、インピーダンスネットワークINの出力電圧を昇圧することができ、ひいてはインバータIVの出力電圧を昇圧することができる。ただし、短絡処理時には、インバータIVの出力電圧がゼロとなってしまう。このため、モータジェネレータ10に印加する電圧を指令電圧とするようにPWM処理に従ってスイッチング操作を行っても、短絡処理によってインバータIVの実際の出力電圧が指令電圧とならなくなるおそれがある。こうした事態は、ゼロ電圧ベクトル期間において、短絡処理を行うことで回避することができる。ゼロ電圧ベクトル期間とは、上側アームのスイッチング素子Sup,Svp,Swpが全てオン状態となるV7ベクトル期間と、下側アームのスイッチング素子Sun,Svn,Swnの全てがオン状態となるV0ベクトル期間とのことである。換言すれば、各相のそれぞれについて上側アーム及び下側アームのいずれか一方ずつがオン状態となることを表現する8つの電圧ベクトルのうちの2つのベクトル期間である。すなわち、ゼロ電圧ベクトル期間では、インバータIVから電圧が出力されないため、この期間を利用して短絡処理を行っても、モータジェネレータ10に印加する電圧に変化はない。
ゼロ電圧ベクトル期間に短絡処理を行う場合、この短絡処理の態様として、図2に示す19通りのバリエーションがある。図2に示す「9a〜9d」は、U相のスイッチング素子Sup,Sunの直列接続体のみを短絡させる処理を示す。また、「10a〜10d」は、V相のスイッチング素子Svp,Svnの直列接続体のみを短絡させる処理を示す。また、「11a〜11d」は、W相のスイッチング素子Swp,Swnの直列接続体のみを短絡させる処理を示す。また、「12a,12b」は、U相及びV相を短絡させる処理を示し、「13a,13b」は、U相及びW相を短絡させる処理を示し、「14a,14b」は、V相及びW相を短絡させる処理を示す。更に、「15」は、全相を短絡させる処理を示す。
ところで、短絡処理を行う場合には、短絡させる相のスイッチング素子に比較的大きい電流が流れることに起因して、これらのスイッチング素子の温度が上昇する。一方、例えばモータジェネレータ10の回転速度が所定以下となる極低速運転時等にあっては、短絡処理を行わなくても、スイッチング素子の温度に大きなばらつきが生じているおそれがある。このため、こうした状況下、既に温度が高くなっているスイッチング素子を用いて短絡処理がなされる場合には、そのスイッチング素子の温度が過度に上昇し、ひいてはその信頼性が低下するおそれがある。
そこで本実施形態では、インバータIVを構成するスイッチング素子Sup,Sun、Svp,Svn、Swp,Swnの温度と相関を有するパラメータに応じて、短絡処理を行う直列接続体を可変設定する。以下、これについて詳述する。
図3に、本実施形態にかかる短絡処理の手順を示す。この処理は、マイコン42により、例えば所定周期で繰り返し実行される。
この一連の処理では、まずステップS10において、上記電流センサ34,36の検出値に基づき、相電流Iu,Iv,Iwを取得する。この処理は、上記インバータIVのスイッチング素子の温度と相関を有するパラメータを取得する処理である。すなわち、スイッチング素子に流れる電流がスイッチング素子の温度を上昇させる主な要因であるため、スイッチング素子を流れる電流は、上記パラメータとなる。そして、相電流Iu,Iv,Iwは、スイッチング素子を流れる電流と相関を有するため、相電流Iu,Iv,Iwも上記パラメータとなる。ちなみに、W相の電流Iwについては、電流センサ34、36によって検出される相電流Iu,Ivから、キルヒホッフの法則に基づき算出する。
続くステップS12においては、相電流Iu,Iv,Iwの絶対値が最小となるのが相電流Iuであるか否かを判断する。この処理は、U相のスイッチング素子の温度が最低であると考えられるか否かを判断するためのものである。そして、相電流Iuでないと判断される場合には、ステップS14において、相電流Iu,Iv,Iwの絶対値が最小となるのが相電流Ivであると考えられるか否かを判断する。この処理は、V相のスイッチング素子の温度が最低であるか否かを判断するためのものである。
上記ステップS12,S14の処理によって、いずれの相のスイッチング素子の温度が最低であると考えられるかを判断し、最低であると考えられる相において短絡処理を行う(ステップS16,S18,S20)。続くステップS22では、ゼロ電圧ベクトル期間であるか否かを判断する。そして、ゼロ電圧ベクトル期間であると判断される場合には、ステップS24において、短絡処理を行う。すなわち、ゼロ電圧ベクトル期間内において、インピーダンスネットワークINの出力電圧として要求される電圧に応じた期間、短絡処理を行う。この短絡処理期間は、要求される出力電圧が高いほど長く設定するようにしてもよい。
なお、上記ステップS24の処理が完了する場合には、この一連の処理を一旦終了する。
図4に、本実施形態にかかる短絡処理の態様を示す。詳しくは、図4(a)に指令電圧Vu,Vv、Vwの推移を示し、図4(b)に、相電流Iu,Iv,Iwの推移を示す。また、図4(c)に、スイッチング素子Supの操作態様の推移を示し、図4(d)に、スイッチング素子Svpの操作態様の推移を示し、図4(e)に、スイッチング素子Swpの操作態様の推移を示し、図4(f)に、スイッチング素子Sunの操作態様の推移を示し、図4(g)に、スイッチング素子Svnの操作態様の推移を示し、図4(h)に、スイッチング素子Swnの操作態様の推移を示す。
図示されるように、相電流Iu,Iv,Iwの絶対値が最小となるものについて短絡処理を行うことで、特定のスイッチング素子の温度が過度に上昇することを回避することができる。
以上詳述した本実施形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
(1)スイッチング素子の温度と相関を有するパラメータに応じて短絡処理を行う相を可変設定した。これにより、特定のスイッチング素子の温度が過度に上昇することを抑制することができる。
(2)相電流Iu,Iv,Iwの絶対値が最小である相で短絡処理を行った。ここで、相電流Iu,Iv,Iwを用いる場合、スイッチング素子に流れる電流が最小となる相を選択して短絡処理を行うことには必ずしもならない。これは、相電流Iu,Iv,Iwは、ダイオードDup,Dun,Dvp,Dvn,Dwp,Dwnに流れる電流とスイッチング素子Sup,Sun、Svp,Svn、Swp,Swnに流れる電流との双方からなるためである。このため、相電流Iu,Iv,Iwに基づき短絡処理を行う本実施形態は、これらスイッチング素子とダイオードとが一体的に形成される場合等、これらの熱干渉が大きい場合に特に有効である。
(第2の実施形態)
以下、第2の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
図5に、本実施形態のシステム構成を示す。なお、図5において、先の図1に示した部材と対応する部材については、便宜上同一の符号を付している。図示されるように、本実施形態では、スイッチング素子Sup,Sun、Svp,Svn、Swp,Swnが、その入出力端子(コレクタ及びエミッタ)に流れる電流と相関を有する微少電流を出力するセンス端子STを備えている。そして、マイコン42では、センス端子STの出力電流に基づき、短絡処理を行う。
図6に、本実施形態にかかる短絡処理の手順を示す。この処理は、マイコン42により、例えば所定周期で繰り返し実行される。
この一連の処理では、まずステップS30において、スイッチング素子Sup,Sun、Svp,Svn、Swp,Swnのそれぞれのセンス端子STの出力電流(センス電流Iup,Iun,Ivp,Ivn,Iwp,Iwn)を取得する。この処理は、スイッチング素子の温度と相関を有するパラメータを取得する処理である。続くステップS32においては、U相のセンス電流Iup,Iunのうちの大きい方をセンス電流Iusとし、V相のセンス電流Ivp,Ivnのうち大きい方をセンス電流Ivsとし、W相のセンス電流Iwp,Iwnのうち大きい方をセンス電流Iwsとする。この処理は、各相において上側アーム及び下側アームのいずれか一方にのみ電流が流れることに鑑みてなされるものである。
続くステップS34では、センス電流Ius,Ivs,Iwsが最小となるのがセンス電流Iusであるか否かを判断する。この処理は、U相のスイッチング素子の温度が最低であると考えられるか否かを判断するためのものである。そして、センス電流Iusでないと判断される場合には、ステップ36において、センス電流Ius,Ivs,Iwsが最小となるのがセンス電流Ivsであるか否かを判断する。この処理は、V相のスイッチング素子の温度が最低であると考えられるか否かを判断するためのものである。
上記ステップS34,S36の処理によって、いずれの相のスイッチング素子の温度が最低であると考えられるかを判断し、最低であると考えられる相において短絡処理を行う(ステップS38,S40,S42)。続くステップS44、S46では、先の図3のステップS22、S24の処理と同様の処理を行う。
以上説明した本実施形態によれば、先の第1の実施形態の上記(1)の効果に加えて、更に以下の効果が得られるようになる。
(3)センス電流Ius,Ivs,Iwsに基づき短絡処理を行った。これにより、スイッチング素子の温度上昇と直接相関を有するパラメータに基づき短絡処理を行うことができる。
(第3の実施形態)
以下、第3の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
図7に、本実施形態にかかるインバータIVの冷却装置を示す。図示されるように、本実施形態では、スイッチング素子Sup,Sun、Svp,Svn、Swp,Swnのそれぞれは、対応するダイオードDup,Dun,Dvp,Dvn,Dwp,Dwn及び感温ダイオードSDとともに、パワーカードPCにパッケージングされ、冷却装置に収容されている。ここで、感温ダイオードSDは、スイッチング素子Sup,Sun、Svp,Svn、Swp,Swnの温度を感知するものである。上記冷却装置内には、例えば冷却水等の冷却流体が流動し、これにより、パワーカードPCが冷却される。
ここで本実施形態では、感温ダイオードSDによって感知される温度に基づき短絡処理を行う。以下、これについて詳述する。
図8に、本実施形態にかかる短絡処理の手順を示す。この処理は、マイコン42によって、例えば所定周期で繰り返し実行される。
この一連の処理では、まずステップS50において、スイッチング素子Sup,Sun、Svp,Svn、Swp,Swnのそれぞれの感温ダイオードSDの感知する温度Tup、Tun,Tvp,Tvn,Twp,Twnを取得する。この処理は、スイッチング素子の温度と相関を有するパラメータを取得する処理である。続くステップS52においては、U相のスイッチング素子Sup,Sunの温度Tup,Tunのうちの高い方を温度Tuとし、V相のスイッチング素子Svp,Svnの温度Tvp,Tvnのうち高い方を温度Tvとし、W相のスイッチング素子Swp,Swnの温度Twp,Twnのうち高い方を温度Twとする。この処理は、各相において上側アーム及び下側アームのいずれか一方にのみ電流が流れるために、いずれか一方の温度が特に高くなることに鑑みてなされるものである。
続くステップS54では、温度Tu,Tv,Twが最低となるのが温度Tuであるか否かを判断する。また、ステップ56においては、温度Tu,Tv,Twが最低となるのが温度Tvであるか否かを判断する。これらステップS54,S56の処理によって、いずれの相のスイッチング素子の温度が最低であるかを判断し、最低である相において短絡処理を行う(ステップS58,S60,S62)。そして、ステップS64、S66においては、先の図3のステップS22、S24の処理を行う。
以上説明した本実施形態によれば、先の第1の実施形態の上記(1)の効果に加えて、更に以下の効果が得られるようになる。
(4)スイッチング素子の温度Tu,Tv,Twに基づき、短絡処理を行った。これにより、短絡処理の可変設定にかかる処理を適切に行うことができる。
(第4の実施形態)
以下、第4の実施形態について、先の第3の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
図9に、本実施形態にかかる短絡処理の手順を示す。この処理は、マイコン42によって、例えば所定周期で繰り返し実行される。
この一連の処理では、ステップS70、S72において、先の図8のステップS50、S52と同様の処理を行う。一方、ステップS74では、温度Tu,Tv,Twのうちの最低値に対する最高値の差が規定値α以下であるか否かを判断する。この処理は、スイッチング素子の温度ばらつきが小さく短絡処理を行うのが特に有効な相が存在せず、全相において短絡処理を行うことが望ましいか否かを判断するためのものである。規定値αは、温度ばらつきが小さいために特定の相で短絡処理を行った場合、その相のスイッチング素子の温度が他と比較して過度に高くなると想定される値に設定される。そして、規定値α以下である場合、ステップS78において、全相で短絡処理を行うことを決定する。これは、先の図2のパターン「15」を選択したことを意味する。
一方、規定値αよりも大きい場合には、ステップS76において、温度Tu,Tv,Twのうちの最低値に対する中間値の差が規定値β以下であるか否かを判断する。この処理は、中間値と最低値との差が小さく、これら2相において短絡処理を行うことが望ましいか否かを判断するためのものである。そして、規定値β以下であると判断される場合には、ステップS80において、温度が最低値となる相及び中間値となる相において短絡処理を行うことを決定する。これは、先の図2のパターン「12a,12b,13a,13b,14a,14b」のいずれかを選択したことを意味する。これに対し、規定値βを上回ると判断される場合には、ステップS82において、温度が最低値となる相でのみ短絡処理を行うことを決定する。なお、ステップS78、S80,S82の処理が完了する場合には、この一連の処理を一旦終了する。
以上説明した本実施形態によれば、先の第3の実施形態の効果に加えて、更に以下の効果が得られるようになる。
(5)スイッチング素子の温度のばらつきに応じて、短絡処理を行う相の数を可変とした。これにより、スイッチング素子の温度のばらつきを好適に抑制することができる。
(6)スイッチング素子の温度のばらつきが所定以下である場合、全相で短絡処理を行った。これにより、短絡状態とすることに起因するスイッチング素子の温度の上昇量を最小とすることができる。
(第5の実施形態)
以下、第5の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
本実施形態では、パラレル・シリーズハイブリッド車の電力変換回路に本発明を適用する。図10に、本実施形態にかかる電力変換回路の構成を示す。なお、図10において、先の図1に示した部材と対応する部材については便宜上同一の符号を付している。
図示されるように、本実施形態では、第1モータジェネレータ10及び第2モータジェネレータ10の2つの3相回転機を備えるために、これらに対応して各別のインバータIV1,IV2を備えている。そして、これらインバータIV1,IV2の入力端子は、同一のインピーダンスネットワークINに接続されている。
このように、インバータIV1、IV2がともに同一のインピーダンスネットワークINに接続されている場合、いずれか一方で短絡処理を行うことで、インピーダンスネットワークINの出力電圧を昇圧することができる。ただし、この場合、インバータIV1、IV2のうちのいずれか一方で短絡処理がなされる際には、他方の出力電圧もゼロとなる。このため、他方におけるゼロ電圧ベクトル期間以外の期間に一方の短絡処理がなされる場合には、他方の出力電圧が指令電圧からずれるおそれがある。
そこで本実施形態では、インバータIV1,IV2の双方のキャリアを同一周期で同期させる。そして、インバータIV1,IV2のうちの一方で短絡処理を行って且つ、この一方のインバータを周期的に切り替える。図11に、本実施形態にかかる短絡処理の態様を示す。詳しくは、図11(a1)、図11(a2)は、インバータIV1側のゼロ電圧ベクトル期間を示し、図11(b1)、図11(b2)は、インバータIV1側での短絡処理の有無を示し、図11(c1)、図11(c2)は、インバータIV2側のゼロ電圧ベクトル期間を示し、図11(d1)、図11(d2)は、インバータIV2側での短絡処理の有無を示す。特に、図11(a1)、図11(b1)、図11(c1)、図11(d1)は、インバータIV1側とインバータIV2側とで、1回ずつ交互に短絡処理を行う場合を示している。また、図11(a2)、図11(b2)、図11(c2)、図11(d2)は、インバータIV1側とインバータIV2側とで、2回ずつ交互に短絡処理を行う場合を示している。
こうした処理によれば、インバータIV1とインバータIV2とのいずれか一方のスイッチング素子の温度が過度に高くなることを回避することができ、ひいては、これら全てのスイッチング素子の温度のばらつきを好適に抑制することができる。なお、インバータIV1側、インバータIV2側のいずれかで短絡処理を行う際には、これらを構成する全相で短絡処理を行ってもよいが、第1〜第4の実施形態に例示される手法により、いずれの相で短絡処理を行うかを決定してもよい。
以上説明した本実施形態によれば、先の第1の実施形態の効果に加えて、更に以下の効果が得られるようになる。
(7)短絡処理する直列接続体を、インバータIV1、IV2を構成する6つの直列接続体に分散させた。これにより、特定の直列接続体の温度が過度の上昇することを回避することができる。
(8)インバータIV1側及びインバータIV2側のいずれで短絡処理を行うかを周期的に変化させた。これにより、インバータIV1及びインバータIV2のいずれか一方の温度が過度の上昇することを回避することができ、ひいてはこれらインバータIV1、IV2のスイッチング素子の温度のばらつきを抑制することができる。
(9)インバータIV1、IV2の双方で電圧ベクトルがゼロ電圧ベクトルとなる期間において、短絡処理を行った。これにより、第1モータジェネレータ10a及び第2モータジェネレータ10bの双方に指令電圧を印加する処理を妨げることなく短絡処理を行うことができる。
(10)インバータIV1側とインバータIV2側とのそれぞれのキャリアを同一周期且つ互いに同期させた。これにより、これら双方のゼロ電圧ベクトル期間を同期させることができ、ひいては上記(9)の処理を適切に行うことができる。
(第6の実施形態)
以下、第6の実施形態について、先の第5の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
図12に、本実施形態にかかる短絡処理態様を示す。詳しくは、図12(a)に、第1モータジェネレータ10a側の指令電圧の推移を示し、図12(b)に、第2モータジェネレータ10b側の指令電圧の推移を示す。また、図12(c)〜図12(h)に、第2モータジェネレータ10bに電圧を印加するインバータIV2のスイッチング素子のオン・オフ状態の推移を示す。
図示されるように、本実施形態では、インバータIV1,IV2のそれぞれについて、キャリアの山に対応するゼロ電圧ベクトル期間において、短絡処理を行う。この場合、インバータIV1,IV2のうちの一方についてのキャリアの山に対応したゼロ電圧ベクトル期間において、他方についての電圧ベクトルがゼロ電圧ベクトルでない場合、他方の出力電圧が指令電圧とならなくなる。
こうした事態に対処すべく、本実施形態では、キャリアの谷に対応するゼロ電圧ベクトル期間において、上記短絡処理による電圧の不足分を補償する処理を行う。図12には、第1モータジェネレータ10a側で短絡処理を行う際に第2モータジェネレータ10b側の電圧ベクトルがゼロ電圧ベクトルでない例を示している。この場合、第2モータジェネレータ10b側のキャリアの谷に対応するゼロ電圧ベクトル期間において、PWM処理を変更し、ゼロ電圧ベクトルとする代わりに、上記短絡処理期間における電圧ベクトルとする。
なお、図12では、便宜上、第2モータジェネレータ10b側のキャリアの谷に対応するゼロ電圧ベクトル期間が上記短絡処理期間と一致するように記載しているが、実際には、これらが等しいとは限らない。この場合には、上記短絡処理期間の経過後には、PWM処理の要求する本来の電圧ベクトルであるゼロ電圧ベクトルに切り替えることが望ましい。ちなみに、一回のキャリアの谷に対応するゼロ電圧ベクトル期間において電圧の不足分を補償する処理を行うためには、短絡処理期間を、他方の電圧補償期間の最大期間であるゼロ電圧ベクトル期間以内に制限することが望ましい。
以上説明した本実施形態によれば、先の第5の実施形態の上記(7)の効果に加えて、更に以下の効果が得られるようになる。
(11)インバータIV1側とインバータIV2側とのうちの一方で短絡処理を行うに際し、他方についての電圧ベクトル期間がゼロ電圧ベクトル期間でない場合、短絡処理に起因する電圧の不足分を補償した。これにより、第1モータジェネレータ10a及び第2モータジェネレータ10bの双方に指令電圧を印加しつつも、短絡処理を行うことができる。
(第7の実施形態)
以下、第7の実施形態について、先の第5の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
図13に、本実施形態にかかる電力変換回路の構成を示す。なお、図13において、先の図10に示した部材と対応する部材については便宜上同一符号を付している。
図示されるように、本実施形態では、インピーダンスネットワークINとインバータIV1、IV2のそれぞれとの間の流出入電流I1、I2を検出する電流センサ50,52を備える。そして、これらに基づき、インバータIV1側で短絡処理を行うか、インバータIV2側で短絡処理を行うかを決定する。すなわち、図の左下側に示されるように、流出入電流I1の絶対値が電流I2の絶対値よりも小さいなら(ステップS90:YES)、インバータIV1側で短絡処理を行い(ステップS92)、そうでないなら(ステップS90:NO)、インバータIV2側で短絡処理を行う(ステップS94)。
なお、インバータIV1側、インバータIV2側のいずれかで短絡処理を行う際には、これらを構成する全相で短絡処理を行ってもよいが、第1〜第4の実施形態に例示される手法により、いずれの相で短絡処理を行うかを決定してもよい。
以上説明した本実施形態によれば、先の第5の実施形態の上記(7)の効果に加えて、更に以下の効果が得られるようになる。
(12)インピーダンスネットワークINとインバータIV1、IV2との間の流出入電流に基づき、インバータIV1側とインバータIV2側とのいずれで短絡処理を行うかを決定した。これにより、インバータIV1、IV2のいずれか一方を構成するスイッチング素子の温度が過度に上昇することを好適に回避することができる。
(第8の実施形態)
以下、第8の実施形態について、先の第5の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
図14に、本実施形態にかかるインバータIVの冷却装置を示す。図示されるように、本実施形態では、各インバータIV1、IV2のスイッチング素子Sup,Sun、Svp,Svn、Swp,Swnのそれぞれは、対応するダイオードDup,Dun,Dvp,Dvn,Dwp,Dwn及び感温ダイオードSDとともに、パワーカードPCにパッケージングされ、冷却装置に収容されている。そして、冷却装置内には、例えば冷却水等の冷却流体が流動し、これにより、パワーカードPCが冷却される。
ここで本実施形態では、感温ダイオードSDによって感知される温度に応じて短絡処理を行う。以下、これについて詳述する。
図15に、本実施形態にかかる短絡処理の手順を示す。この処理は、マイコン42によって、例えば所定周期で繰り返し実行される。
この一連の処理では、まずステップS100において、インバータIV1側の感温ダイオードSDによって感知されるスイッチング素子Sup,Sun、Svp,Svn、Swp,Swnの温度の平均値Tav1を算出する。続くステップS102においては、インバータIV2側の感温ダイオードSDによって感知されるスイッチング素子Sup,Sun、Svp,Svn、Swp,Swnの温度の平均値Tav2を算出する。続くステップS104では、平均値Tav1が平均値Tav2以下であるか否かを判断する。そして、平均値Tav2以下であると判断される場合、ステップS106において、インバータIV1側で短絡処理を行う。一方、ステップS104において平均値Tav2以下でないと判断される場合には、ステップS108において、インバータIV2側で短絡処理を行う。
なお、インバータIV1側、インバータIV2側のいずれかで短絡処理を行う際には、これらを構成する全相で短絡処理を行ってもよいが、第1〜第4の実施形態に例示される手法により、いずれの相で短絡処理を行うかを決定してもよい。
以上説明した本実施形態によれば、先の第5の実施形態の上記(7)の効果に加えて、更に以下の効果が得られるようになる。
(13)平均値Tav1,Tav2に基づきインバータIV1側及びインバータIV2側のいずれで短絡処理を行うかを可変設定した。これにより、特定のスイッチング素子の温度が過度に高くなることを好適に回避することができる。
(その他の実施形態)
なお、上記各実施形態は、以下のように変更して実施してもよい。
・上記第1の実施形態では、相電流Iu,Iv,Iwが最小となる相を、ゼロ電圧ベクトル期間において短絡処理したがこれに限らない。例えば、相電流Iu,Iv,Iwのうちの最小となるものと2番目に小さくなるものとの差が所定以下である場合、これら2相を、ゼロ電圧ベクトル期間において短絡処理してもよい。また例えば、相電流Iu,Iv,Iwの最大値と最小値との差が所定以下である場合、ゼロ電圧ベクトル期間において全相で短絡処理をしてもよい。
・インバータIV1側及びインバータIV2側のいずれで短絡処理を行うかを周期的に変化させる処理としては、先の第5の実施形態(図11)において例示したものに限らない。例えば、インバータIV1側及びインバータIV2側のそれぞれで3度ずつ短絡処理を行うようにしてもよい。
・上記第1の実施形態や上記第2の実施形態において例示した処理と、上記第3の実施形態で例示した処理とを組み合わせて用いてもよい。すなわち、スイッチング素子の温度と相関を有するパラメータとしての相電流やスイッチング素子を流れる電流は、スイッチング素子の温度をフィードフォワード制御するためのパラメータと考えられる一方、スイッチング素子の温度は、フィードバック制御のためのパラメータ(フィードバック制御量)と考えられる。このため、フィードフォワード制御による温度ばらつきが顕著となる場合には、フィードバック制御を一時的に取り入れることでフィードバック補正をかける処理を行うなら、特定のスイッチング素子の過度の温度上昇をより適切に抑制することができる。
・上記第5の実施形態においては、インバータIV1、IV2でPWM処理のキャリアを互いに同一周期であって且つ互いに同期させたがこれに限らない。例えば、一方のキャリアの周波数の整数倍を他方のキャリアとしてもよい。この場合、双方がゼロ電圧ベクトルとなる際に、いずれか一方のインバータIV1,IV2で短絡処理を行えばよい。
・上記第6の実施形態では、インバータIV1側とインバータIV2側とで1回ずつ交互に短絡処理を行ったがこれに限らない。例えば、インバータIV1側とインバータIV2側とで2回ずつ交互に短絡処理を行ってもよい。
・上記第8の実施形態では、インバータIV1のスイッチング素子Sup,Sun、Svp,Svn、Swp,Swnの温度の平均値とインバータIV2のスイッチング素子Sup,Sun、Svp,Svn、Swp,Swnの温度の平均値とに基づき、インバータIV1側及びインバータIV2側のいずれで短絡処理を行うかを決定したがこれに限らない。例えば、スイッチング素子Sup,Sunの温度のうちの高い方の値Tuと、スイッチング素子Svp,Svnの温度のうちの高い方の値Tvと、スイッチング素子Swp,Swnの温度のうちの高い方の値Twとのうちの最小となる値同士を比較し、低い方を有するインバータ側で短絡処理を行ってもよい。この場合、上記最小となるものと対応する相で短絡処理を行うことが特に有効である。
・インバータIV1側及びインバータIV2側のいずれか一方で短絡処理を行うものにも限らない。例えば、上記第5の実施形態のように双方のキャリアを同一周期且つ同期させる設定において、各インバータIV1,IV2のそれぞれについて、その相電流が最小となる相で短絡処理を行ってもよい。
・インバータIV1を構成するスイッチング素子の直列接続体とインバータIV2を構成するスイッチング素子の直列接続体とに、短絡処理を分散する手法としては、上記各実施形態やこれらの変形例で例示したものに限らない。例えば、インバータIV1、IV2の全ての直列接続体のうちのいずれで短絡処理を行うかを、先の第1〜4の実施形態に示した手法で可変設定してもよい。
・多相回転機の各相を流れる電流と相関を有する電流パラメータとしては、相電流や、スイッチング素子Sup,Sun、Svp,Svn、Swp,Swnを流れる電流に限らない。例えば、図16に示されるように、各アームを流れる電流であってもよい。図16では、下側アームにおいてU相及びV相に設けられたシャント抵抗Rの電圧降下量としてアーム電流を検出する手法を例示した。
・上記第7の実施形態では、インピーダンスネットワークINとインバータIV1との間の流出入電流I1と、インバータIV2との間の流出入電流IV2との大小関係に基づき、インバータIV1側とインバータIV2側とのいずれで短絡処理を行うかを決定したがこれに限らない。例えば、図17に示すように、インバータIV1の流出入電流とインバータIV2の流出入電流とに基づき、インバータIV1側とインバータIV2側とのいずれで短絡処理を行うかを決定してもよい。図17では、各インバータIV1,IV2のU相及びV相の相電流からW相の相電流を算出し、これら各相電流の最小値同士を比較することで、インバータIV1側とインバータIV2側とのいずれで短絡処理を行うかを決定する例を示している。すなわち、インバータIV1側の最小値の方が小さい場合には(ステップS110:YES)、インバータIV1側で短絡処理を行い(ステップS112)、そうでない場合には(ステップS110:NO)、インバータIV2側で短絡処理を行う(ステップS114)。
・図18に示すように、上記第5の実施形態のようにキャリアを同一周期且つ同期させる設定において、変調率が大きい方で短絡処理を行ってもよい。すなわち、こうした設定の場合、ゼロ電圧ベクトル期間は変調率が高い方が低い方に包含されることとなる。このため、変調率が高い方のゼロ電圧ベクトル期間において短絡処理を行うことで、変調率が低い方における電圧制御が妨げられることはない。なお、この際、いずれの相で短絡処理を行うかは、上記各実施形態に例示された手法等を用いることが望ましい。
更に、インバータIV1側とインバータIV2側とでキャリアが相違する場合であっても、変調率が大きい方で短絡処理を行うことにはメリットがある。これにより、変調率が低い側では上記第6の実施形態において例示した補償処理を行うこととなるが、変調率が低い方がゼロ電圧ベクトル期間が長くなるため、一回のゼロ電圧ベクトル期間で確実に補償処理を行うことができる。
・スイッチング素子Sup,Sun、Svp,Svn、Swp,Swnの温度情報としては、これら自身の温度を直接検出対象とする手段の検出値に限らない。例えば、図19に示すように、インバータIV1とインバータIV2とを独立の冷却装置にて冷却する構成において、それぞれの冷却流体の温度を感知する感温ダイオードSDの温度T1,T2を温度情報として用いてもよい。図19では、インバータIV1側の冷却流体の温度T1の方が低い場合には、インバータIV1側で短絡処理を行い、そうでない場合には、インバータIV2側で短絡処理を行う場合を示している。
・インピーダンスネットワークINとしては、上記実施形態で例示したものに限らない。例えば、「Z-Source Inverter for Fuel Cell Vehicles submitted to Oak Ridge National Laboratory Engineering Science and Technology Division Power Electrics Electric Machinery Research Center August 31 2005」のFig.3.4に記載されているように、先の図1に示したものにいくつかのダイオード及びコンデンサを追加接続した構成であってもよい。
・回転機に指令電圧を印加するための処理としては、指令電圧に基づきキャリアを変調するPWM処理に限らない。例えば、特開平10−4696号公報等に例示されているいわゆる空間ベクトル変調処理等であってもよい。
・回転機としては、3相回転機に限らない。例えば単相回転機であってもよい。この場合であっても、回転機をインピーダンスネットワークの高電位側に接続するスイッチング素子と低電位側に接続するスイッチング素子とをそれぞれ複数並列に備える電力変換回路にあっては、スイッチング素子の温度情報に応じて短絡処理を行う直列接続体を可変設定することは有効である。ちなみに、複数並列接続する構成は、単一のスイッチング素子の素子サイズを抑制しつつも、駆動可能電流を大きくするためにとられる構成である。
・ハイブリッド車としては、パラレルハイブリッド車やパラレル・シリーズハイブリッド車に限らない。例えば、シリーズハイブリッド車であってもよい。また、ハイブリッド車に限らず、例えば電気自動車の電力変換回路に本発明を適用してもよい。更に、電力変換回路としては、回転機が1個又は2個接続されるものに限らず、3個以上接続されるものであってもよい。また、給電手段としては、2次電池に限らず、例えば一次電池等であってもよい。
10,10a,10b…モータジェネレータ(回転機の一実施形態)、12…高圧バッテリ(給電手段の一実施形態)、IV,IV1,IV2…インバータ、IN…インピーダンスネットワーク、Sup,Sun,Svp,Svn,Swp,Swn…スイッチング素子。