以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。本発明の一実施形態による燃料噴射弁の断面を図1に示す。
図1に示す燃料噴射弁10は、例えば、ディーゼルエンジン用コモンレール式燃料噴射装置に用いられるものである。燃料噴射弁10は、図示しないエンジンのエンジンヘッドに搭載され、高圧燃料を蓄積する図示しないコモンレールから供給される高圧燃料をエンジンの各気筒内に直接噴射するように構成されている。
燃料噴射弁10は、ノズル20、オリフィスプレート50、バルブボデー60、制御弁64、ロアボデー70、ピエゾアクチュエータ80、および駆動力伝達部81などから構成されている。燃料噴射弁10は、図中の下方からノズル20、オリフィスプレート50、バルブボデー60、およびロアボデー70の順で積層され、互いにリテーニングナット90により固定されている。
ノズル20は、ノズルボデー21、ニードル30、コイルスプリング40、およびシリンダ41などから構成されている。ノズルボデー21には、上端部から下端部近傍にかけてノズル孔22が形成されている。ノズルボデー21の上端部には、オリフィスプレート50を配置させることにより、ノズル孔22は閉ざされた空間となる。
ノズルボデー21の先端には、ノズル孔22とノズルボデー21の外壁とが貫通する噴孔23が複数個形成されている。ノズル孔22には、噴孔23の開口より上流側にニードル30が離着座する弁座部24が形成されている。ノズル孔22の側壁には、ニードル30を軸方向に摺動可能に指示するガイド部29が形成されている。ノズル孔22には、ニードル30、コイルスプリング40およびシリンダ41が収容されている。
ニードル30は、棒状に形成され、その先端には、弁座部24に離着座するシート部31が形成されている。シート部31の上側には、燃料の圧力を受けることによりニードル30を離座方向に付勢する受圧部32が形成されている。ニードル30のシート部31の反対側の端部には、シリンダ摺動部34が形成されている。シリンダ摺動部34は、ノズル孔22に収容される略円筒状に形成されたシリンダ41の内周壁に軸方向に摺動可能に支持される摺動部である。
受圧部32とシリンダ摺動部34との間には、ボデー摺動部35が形成されている。ボデー摺動部35は、ノズル孔22のガイド部29に軸方向に摺動可能に支持される摺動部である。ボデー摺動部35が形成される部位には、ノズル孔22の側壁との間に隙間を形成するため、切欠き部36が形成されている。切欠き部36が形成されているため、シリンダ摺動部34側からシート部31側へ燃料を流通させることができる。
シリンダ摺動部34とボデー摺動部35との間の外径は、両摺動部34、35の外径よりも小さくなっており、ボデー摺動部35の上部には段差部37が形成されている。この段差部37には、ニードル30を下方、つまりシート部31が弁座部24に着座する方向に付勢するコイルスプリング40の下端部を支持する支持リング42が設けられている。
コイルスプリング40は、支持リング42とシリンダ41との間に、ある程度軸方向に圧縮された状態で配置されている。これにより、シリンダ41はオリフィスプレート50の下端面に押し付けられる。
図1に示すように、ノズル孔22にコイルスプリング40、ニードル30、およびシリンダ41を収容することにより、ニードル30の周囲には、ノズル孔22の側壁、ニードル30、およびシリンダ41の外周壁にて囲まれる燃料溜り室43が形成される。
そして、ニードル30の上端部には、ニードル30のシリンダ摺動部34の上端部、シリンダ41の内周壁、およびオリフィスプレート50の下端面にて囲まれる圧力制御室44が形成される。
燃料溜り室43は、噴孔23から噴射される高圧燃料を蓄積する空間であり、噴孔23と連通している。この燃料溜り室43が請求項に記載の燃料通路に相当する。シート部31が弁座部24に着座すると、燃料溜り室43と噴孔23との連通が遮断され、噴孔23から燃料が噴射されない。シート部31が弁座部24から離座すると、燃料溜り室43と噴孔23とが連通し、噴孔23から燃料が噴射される。
圧力制御室44は、ニードル30の軸方向の移動を制御する高圧燃料を蓄積する空間である。圧力制御室44に燃料が供給されると、その燃料の燃料圧力はシリンダ摺動部34の上端部に作用し、ニードル30を着座方向に付勢する。
オリフィスプレート50は、略円盤状に形成され、ノズルボデー21とバルブボデー60との間に配置されている。オリフィスプレート50には、燃料供給通路51、第一連通路52、および第二連通路53が形成されている。
燃料供給通路51は、コモンレール内の高圧燃料を燃料溜り室43に供給する通路であり、一端が燃料溜り室43に開口している。第一連通路52は、燃料溜り室43と後述するバルブボデー60に形成される弁室62とを連通する通路である。オリフィスプレート50の下端面には、略円環状の溝が形成されており、その溝の底部に燃料供給通路51と第一連通路52とが開口している。第二連通路53は、圧力制御室44と弁室62とを連通する通路である。
バルブボデー60は、略円盤状に形成され、オリフィスプレート50とロアボデー70との間に配置されている。バルブボデー60には、燃料供給通路61、弁室62、および第三連通路63が形成されている。
燃料供給通路61は、オリフィスプレート50の燃料供給通路51と連通しており、燃料供給通路51を介して燃料溜り室43にコモンレール内の高圧燃料を供給する。弁室62は、制御弁64およびコイルスプリング67を収容する。弁室62には、第一、第二連通路52、53の一方の端部が開口している。第三連通路63は、一方の端部が弁室62の上端面に開口し、他方の端部がロアボデー70に形成されている収容孔71に開口している。
制御弁64は、第一、第二、第三連通路52、53、63の燃料の流れを制御する。制御弁64は、弁室62の上端面に着座する低圧側シート65、および弁室62の下端面(オリフィスプレート50の上端面)に着座する高圧側シート66を有する。コイルスプリング67は、制御弁64を常に弁室62の上端面側に付勢する。
低圧側シート65が弁室62の上端面に着座すると、第三連通路63が閉塞されるとともに第一連通路52が開放される。これにより、燃料溜り室43内の高圧燃料が第一連通路52および第二連通路を通って圧力制御室44に供給される。その結果、圧力制御室44内の燃料圧力は、燃料溜り室43内の燃料圧力とほぼ同じ圧力となる。
高圧側シート66が弁室62の下端面に着座すると、第一連通路52が閉塞されるとともに第三連通路63が開放される。これにより、圧力制御室44内の高圧燃料が第二連通路53を通って、一旦弁室62に流入する。その後、弁室62内の燃料は第三連通路63を通って低圧側である収容孔71に排出される。ここで、収容孔71は、ほぼ大気圧となっている燃料タンクと連通しているため、燃料溜り室43内の燃料圧力と比較すると圧力が低くなっている。このため、圧力制御室44内の燃料圧力が低下する。
ロアボデー70は、筒状に形成されており、内部に収容孔71、高圧通路72、および図示しない低圧通路が形成されている。
収容孔71は、ピエゾアクチュエータ80および駆動力伝達部81を収容する。収容孔71の下端部は、バルブボデー60の第三連通路63に連通している。収容孔71は、低圧通路とも連通している。低圧通路は、図示しない燃料タンクと燃料配管を通じて連通している。
ピエゾアクチュエータ80は、PZTなどの圧電セラミック層と電極層とを交互に積層したものであり、図示しない駆動回路にて充放電することにより、ピエゾアクチュエータ80は積層方向に伸縮する。
駆動力伝達部81は、ピエゾアクチュエータ80の下側に設けられ、ピエゾアクチュエータ80の変位を第三連通路63内に収容されるピン82を介して制御弁64に伝達する。
駆動回路によってピエゾアクチュエータ80が充電されると、ピエゾアクチュエータ80は伸長する。駆動力伝達部81は、ピエゾアクチュエータ80の伸長方向の変位を受け、その変位をピン82を介して制御弁64に伝達する。これにより、制御弁64は下方に移動する。その結果、低圧側シート65が弁室62の上端面から離座するとともに、高圧側シート66が弁室62の下端面に着座する。
駆動回路によってピエゾアクチュエータ80が放電されると、ピエゾアクチュエータ80に蓄積された電荷が放出され、ピエゾアクチュエータ80は収縮する。ピエゾアクチュエータ80が収縮すると、制御弁64およびピン82は、コイルスプリング67の付勢力により、上方に移動する。その結果、低圧側シート65が弁室62の上端面に着座するとともに、高圧側シート66が弁室62の下端面から離座する。
高圧通路72は、燃料溜り室43にコモンレールからの高圧燃料を供給する通路であり、一端がロアボデー70の上端部に開口し、他端がバルブボデー60の燃料供給通路61に連通している。ロアボデー70の上端部には、高圧通路72に高圧燃料を供給する燃料配管が接続される雄ネジ部73が形成されている。
次に、上述したように構成され燃料噴射弁10の作動を図1に基づいて説明する。ピエゾアクチュエータ80が放電され、内部に蓄積された電荷が放出されると、ピエゾアクチュエータ80は収縮し、制御弁64は第一連通路52を開放するとともに、第三連通路63を閉塞する。これにより、圧力制御室44には、燃料溜り室43に供給されている高圧燃料が第一連通路52および第二連通路53を通って流入する。
ところで、ニードル30には、圧力制御室44内の燃料圧力がニードル30の上端部に作用することにより発生する着座方向の力、コイルスプリング40の付勢力により発生する着座方向の力、および燃料溜り室43内の燃料圧力が受圧部32に作用することにより発生する離座方向の力が働いている。
圧力制御室44に燃料溜り室43内の高圧燃料が供給されている状態では、ニードル30に働く力の合力は、着座方向を向いている。このため、シート部31は、弁座部24に着座し、噴孔23から燃料は噴射されない。
ピエゾアクチュエータ80が充電されると、ピエゾアクチュエータ80は伸長する。これにより、制御弁64は第一連通路52を閉塞するとともに、第三連通路63を開放する。すると、圧力制御室44内の高圧燃料は、第二連通路53、弁室62を通って第三連通路63に流入する。そして、第三連通路63に流入された燃料は収容孔71を介して低圧側に排出される。これにより、圧力制御室44内の燃料圧力は低下する。
圧力制御室44内の燃料圧力が低下すると、ニードル30に働く力のうち、着座方向の力が弱まる。このため、ニードル30に働く力の合力は、離座方向を向く。その結果、シート部31は、弁座部24から離座し、噴孔23から燃料が噴射される。
次に、本実施形態の特徴部分を、図2、図3を用いて説明する。図2は、その特徴部分を拡大した断面を示している。図3は、ニードルが微小量リフトした状態を示している。
図2に示すように、ノズル孔22の先端側(図2の下側)に形成される弁座部24は、先端側に向かうほど内径が小さくなるような形状となっている。そして、弁座部24のさらに先端側には、袋状のサック部25が弁座部24に隣接して形成されている。
弁座部24の傾斜角度は、ニードル30の先端部に形成されているシート部31の傾斜角度αとほぼ同じ角度となっている。ここでいう、傾斜角度とは、ニードル30の中心軸に対する角度である。燃料噴射弁10が初期の状態のときは、弁座部24の傾斜角度は、シート部31の傾斜角度αよりも若干大きい。したがって、この状態のとき、弁座部24には、シート部31の受圧部32側の端部が着座する。
袋状に形成されているサック部25には、一方の端部がサック部25の内壁28に開口し、他方の端部がノズルボデー21の外壁に開口する噴孔23が複数個形成されている。噴孔23の径、および数は、噴射される噴射燃料の微粒化を促進し、かつ所定の噴射期間において所定の噴射量を確保できる程度とする。また、噴孔23の向きは、燃料噴射弁10を搭載するエンジンの仕様などによって適宜変更する。また、本実施形態では、サック部25は、図2に示すように入口部26の径D2が底部27の径D1よりも小さくなるように形成されている。また、入口部26の流路断面積は、噴孔23の総流路断面積S1よりも大きくなっている。これにより、入口部26にて燃料の流れを妨げることなく噴孔23に十分な燃料を供給することができる。
一方、ニードル30の先端は、上端部側から先端に向かって徐々に外径が小さくなるような円錐状に形成されている。この円錐状の部分には、上端部側から順に受圧部32、シート部31、および逃がし部33が互いに隣接して形成されている。各部31、32、33の傾斜角度は、それぞれ異なっており、受圧部32の傾斜角度γはシート部31の傾斜角度αよりも小さく、逃がし部33の傾斜角度βは、シート部31の傾斜角度αよりも大きい。
シート部31の先端側、つまりシート部31と弁座部24とが着座する位置よりも噴孔23側には、傾斜角度がシート部31の傾斜角度が大きい逃がし部33が形成されているため、サック部25へのニードル30の先端の侵入量を極力低減することができる。これによれば、ニードル30の加工誤差によるニードル30の先端とサック部25の底部27との衝突を回避すべく両者の間に所定の間隔を設けたとしても、燃料噴射弁10の全長の長大化を抑制することができる。
また、図2に示すように、逃がし部33のシート部31側の端部における径D3aは、サック部25の入口部26の径D2よりも大きいため、シート部31を弁座部24に着座させた状態では、この端部は入口部26よりも上側に配置される。
受圧部32は、常に燃料溜り室43内の供給される高圧燃料に曝されている。受圧部32に燃料圧力が作用すると、ニードル30には離座方向の力が働く。
図3は、微小リフト状態にあるときのニードル30の状態を示している。ニードル30が離座方向にリフトする機構については、図1にて説明したのでここではその説明は省略する。図3に示すように、微小リフト状態では、ニードル30とノズルボデー21との間には、シート部31と弁座部24とによって絞り流路38が形成される。
ここでいう微小リフトとは、シート部31が弁座部24から離座することにより形成される絞り流路38の流路断面積S2aが絞り流路38よりも燃料流れ方向の下流側に配置される噴孔23の総流路断面積S1よりも小さいときのリフト量をいう。この状態のとき、燃料溜り室43から噴孔23に向かって流れる燃料は、この絞り流路38にて絞られる。
本実施形態では、上述したようにサック部25の入口部26の径D2を底部27の径D1よりも小さい。そして、サック部25は弁座部24と隣接して形成されている。このため、破線で示すようにサック部25の入口部26の径をサック部25の底部27の径と同じまたはそれ以上としたものと比較すると、弁座部24のサック部25側の長さが長くなる。
このため、弁座部24と対向するシート部31の長さを中心軸に向かって延長させることが可能となる。シート部31の長さを延長すると、図3に示すようにシート部31と弁座部24とによって形成される絞り流路38の長さLが従来技術の燃料噴射弁に比べ長くなる。
絞り流路38の長さLが長くなると、燃料圧力を受ける受圧面積が増加する。これにより、ニードル30に働く離座方向の力が従来技術の燃料噴射弁に比べ大きくなる。その結果、少なくともニードル30の離座方向へのリフト速度が速くなり、この状態における噴射率を大きくすることができ、所定の噴射量を確保することができる。これにより、噴射燃料の微粒化を促進することができるとともに、噴射性能を向上することができる燃料噴射弁を提供できる。
また、本実施形態では、微小リフト時の噴射率を大きくすることができるため、噴射期間を短縮化することができる。このため、噴射期間の比較的短い高回転型のエンジンに搭載することができる。
また、本実施形態では、ニードル30には、シート部31の先端側に逃がし部33が形成されている。そして、この逃がし部33のシート部31側の端部の径D3aは、サック部25の入口部26の径D2よりも大きい。このため、ニードル30のリフト量と噴射量との関係をリニアにすることが可能となる。
このことについて、比較例と比較しながら説明する。まず、図4に示す比較例について説明する。ニードルに形成される逃がし部以外の構成については、本実施形態のものと同じとする。
図4に示すように、ニードル301の先端に形成される逃がし部331の径D3bは、入口部26の径D2よりも小さい。このため、図2に示す本実施形態とは異なり、逃がし部331のシート部31側の端部は、入口部26よりも下側に配置されることとなる。
図5は、ニードルのリフト量と噴射量の関係を示したグラフである。図5中、破線で示すものは、図4に示したニードル301をリフトさせたときのリフト量と噴射量との関係を示し、実線で示すものは、図2に示したニードル30をリフトさせたときのリフト量と噴射量との関係を示している。
比較例のニードル301を着座状態から離座方向へリフトさせると、逃がし部331の当該端部が入口部26を通過する際、急激に流路断面積S2bが広くなる。このため、図5中の破線で示すように、リフト途中で噴射量が急激に上昇してしまい、リフト量と噴射量との関係がリニアにならず、噴射の制御性が低下してしまう。
一方、本実施形態のように、逃がし部33のシート部31側の径D3aを入口部26の径D2よりも大きく形成し、逃がし部33の当該端部を入口部26よりも上側に設けることにより、流路断面積S2bの変化は、リフト量に対してリニアの関係とすることができる。このため、図5中の実線で示すように、リフト量と噴射量との関係をリニアにすることができ、噴射の制御性を向上させることができる。
10 燃料噴射弁、20 ノズル、21 ノズルボデー(弁ボデー)、22 ノズル孔、23 噴孔、24 弁座部、25 サック部、26 入口部、27 底部、28 内壁、30 ニードル(弁部材)、31 シート部、32 受圧部、33 逃がし部、38 絞り流路、40 コイルスプリング、41 シリンダ、43 燃料溜り室(燃料通路)、44 圧力制御室、50 オリフィスプレート、51 燃料供給通路、52 第一連通路、53 第二連通路、60 バルブボデー、61 燃料供給通路、62 弁室、63 第三連通路、64 制御弁、67 コイルスプリング、70 ロアボデー、71 収容孔、72 高圧通路、80 ピエゾアクチュエータ、81 駆動力伝達部、82 ピン、90 リテーニングナット