JP2009136830A - H型メタロシリケート触媒の製造方法 - Google Patents

H型メタロシリケート触媒の製造方法 Download PDF

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雅希 岡田
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Abstract

【課題】 本発明は、H型結晶性メタロシリケート触媒の新規な性能改善の方法を提供することを目的とし、特に、グリセリンからのアクロレインの製造方法において優れた性能を示す結晶性メタロシリケート触媒を提供することを目的とする。
【解決手段】 H型結晶性メタロシリケート触媒の製造方法であって、H型結晶性メタロシリケートを酸性水溶液で処理した後に熱処理する工程を有し、該処理工程前後において結晶性メタロシリケートの組成の変化率が20%以下であり、かつ処理後のH型結晶性メタロシリケートの格子外へテロ原子の量が全へテロ原子の5モル%以下であることを特徴とするH型結晶性メタロシリケート含有触媒の製造方法。
【選択図】 なし

Description

本発明は、H型結晶性メタロシリケートを酸性水溶液で処理することを特徴とするH型結晶性メタロシリケート触媒の製造方法に関するものである。
H型結晶性メタロシリケートを酸成分と接触させて触媒性能を向上させる方法が知られている。例えば、ゼオライトをシュウ酸などのジカルボン酸と接触させる方法(特許文献1参照)や、1〜12の拘束指数を有する結晶性アルミノシリケートゼオライトを含んでなる分解触媒のブテン選択性を増やすために、水蒸気処理したゼオライトを酸性水溶液と接触させる方法(特許文献2参照)が挙げられる。これら開示されている技術は、結晶性メタロシリケート中の格子に組み込まれたヘテロ原子(以下、T原子と称することがある)であるAlを脱離させる、いわゆる脱アルミと称される方法であり、処理により結晶性メタロシリケート中のヘテロ原子であるAl量を減少させる方法である。
H型結晶性メタロシリケートを触媒として用いる反応の一つとして、グリセリンからの脱水反応によるアクロレインの製造が知られている。例えば、液相条件で、酸強度関数Hが+2以下の固体酸触媒としてMFI型ゼオライトであるHZSM−5を使用し、グリセリンを脱水してアクロレインを製造する方法(特許文献3参照)、気相条件でHが−10<H<−16の範囲にある固体酸触媒として、HZSM−5をエアロジルと混合して使用し、グリセリンを脱水してアクロレインを製造する方法(特許文献4参考)が開示されている。
気相条件にて、20質量%のベントナイトおよび80質量%のHZSM−5で構成される触媒を使用し、グリセリンを脱水してアクロレインを製造する方法が開示されている。この触媒を構成するHZSM−5には、H型と記述されているものの、NaOが0.55質量%含有していることが明記されている(非特許文献1参照)。
また、Si/Tが800以下で、バインダー量が15質量%以下の結晶性メタロシリケート用いるグリセリンの脱水反応によるアクロレインの製造方法(特許文献5参照)や、Si/Tが3000以下で、体積基準モード径が0.80μm以下の結晶性メタロシリケート成型体を用いるグリセリンの脱水反応によるアクロレインの製造方法(特許文献6参照)が開示されているが、Na等のカチオンをイオン交換により取り除き、H型結晶性メタロシリケートにすることが記載されているものの、得られたH型結晶性メタロシリケート触媒を更に処理することは記載されていない。
しかし、アクロレインの収率や生産性は、プロピレンの接触気相酸化によるアクロレインの製造方法に対して低く、更なる改善が望まれている。
また、得られたアクロレインは、アクリル酸や1,3−プロパンジオール、メチオニン等の各種アクロレイン誘導体の原料として用いられることが知られている。
特開平6−72707号公報 特表平11−510202号公報 特開平06−211724号公報 国際公開WO2006−087083号公報 特開2007−301505号公報 特開2007−301506号公報 Le H.Dao, Reaction of Model Compounds of Biomass−Pyrolysis Oils over ZSM−5 Zeolite Catalysts,American Chemical Society,1988,376,p.328−341
本発明は、上記事情に鑑み、H型結晶性メタロシリケート触媒の新規な性能改善の方法を提供することを目的とし、特に、グリセリンからのアクロレインの製造方法において優れた性能を示す結晶性メタロシリケート触媒を提供することを目的とする。
H型結晶性メタロシリケート(以下、H型と称することが有る)を得る方法として、Na型結晶性メタロシリケート(以下、Na型と称することが有る)をイオン交換によりH型にすることが知られている。例えば、Na型を硝酸アンモニウム水溶液に浸漬してNaカチオンとアンモニウムカチオンとのイオン交換を行い、得られたアンモニウム型結晶性メタロシリケート(以下、NH4型と称することが有る)を乾燥・焼成することで得られるが、イオン交換が不十分でNaが残存している場合には、Naの残存が確認できなくなるまで前記浸漬から焼成までの工程(以下、イオン交換工程と称することが有る)を複数回繰り返すことで得られる。
本発明者らは、グリセリンからのアクロレインの製造においてH型の一種であるH−ZSM5を触媒として用いる場合、前記イオン交換工程を繰り返すとアクロレインの収率が向上することを見出した。そこで、イオン交換工程ごとに触媒の分析を行ったところ、Naが残存していないにも関わらず前記イオン交換工程を繰り返すことでアクロレインの収率が向上していること、触媒中のSiおよびAlの含有量に変化が無いこと、更に脱Alが起きていないことを明らかにし、従来結晶性メタロシリケートの処理方法として知られている脱Alとは異なる現象であることによる触媒性能の向上を見出した。
さらに、Naが検出されないH型結晶性メタロシリケートであるH−ZSM5に酸性水溶液を含浸し、乾燥・焼成しただけでも同様の効果があることから、酸性水溶液にH型を接触させて熱処理することにより効果が得られることを見出し、本発明の完成に至った。
すなわち、前記課題を解決する手段として、下記方法を発明した。
(1)H型結晶性メタロシリケート触媒の製造方法であって、H型結晶性メタロシリケートを酸性水溶液で処理した後に熱処理する工程を有し、該処理工程前後において結晶性メタロシリケートの組成のケイ素原子に対する全ヘテロ原子のモル比の変化率が20%以下であり、かつ処理後のH型結晶性メタロシリケートの格子外へテロ原子の量が該触媒に含有される全へテロ原子の5モル%以下であることを特徴とするH型結晶性メタロシリケート含有触媒の製造方法。
(2)前記酸性水溶液が、硝酸、塩酸、硝酸アンモニウム、および塩化アンモニウムから選ばれる少なくとも1種を含有することを特徴とする(1)記載のH型結晶性メタロシリケート含有触媒の製造方法。
(3)前記H型結晶性メタロシリケートの格子に組み込まれたヘテロ原子がAl、B、Ti、Cu、In、Cr、Fe、Co、Ni、Zn、およびGaから選択された一種または二種以上であることを特徴とする(1)〜(2)記載のH型結晶性メタロシリケート含有触媒の製造方法。
(4)前記H型結晶性メタロシリケートにおいて、Siと格子に組み込まれたヘテロ原子のモル比が10<Si/ヘテロ原子<3000であることを特徴とする(1)〜(3)記載のH型結晶性メタロシリケート含有触媒の製造方法。
(5)前記H型結晶性メタロシリケートの結晶構造がMFIであることを特徴とする(1)〜(4)記載のH型結晶性メタロシリケート含有触媒の製造方法。
(6)前記H型結晶性メタロシリケートがH型バインダーレス結晶性メタロシリケートであることを特徴とする(1)〜(5)記載のH型結晶性メタロシリケート含有触媒の製造方法。
(7)(1)〜(6)記載の製造方法により得られたH型結晶性メタロシリケート含有触媒。
(8)(1)〜(6)記載の製造方法により得られたH型結晶性メタロシリケート触媒を用いたグリセリンの脱水反応によるアクロレインの製造方法。
本発明によれば、H型結晶性メタロシリケート触媒の性能改善が図れ、特に、グリセリンからのアクロレインの製造方法において優れた性能を示すH型結晶性メタロシリケート触媒が得られる。
本発明を実施形態に基づき以下に説明する。
本発明に用いられる結晶性メタロシリケートの合成方法としては、例えば、水熱合成法、ドライゲルコンバージョン法、固相結晶化法等の公知の合成方法が挙げられる。
例えばZSM−5の製法の一例を示すと、米国特許3702886号広報明細書記載の水熱合成法、特開2000−344515号広報明細書記載のドライゲルコンバージョン法、特開2001−058817号広報明細書記載の固相結晶化法などで合成されたZSM−5を例示することができる。
上記結晶性メタロシリケートにおいて、SiとT原子のモル比は10<Si/T<3000であることが好適であり、より好ましくは10<Si/T<1500、さらに好ましくは20<Si/T<500、最も好ましくは50<Si/T<200である。
上記結晶性メタロシリケートは、T原子がAl原子である結晶性アルミノシリケート(一般にゼオライトともいう)および結晶性アルミノシリケートのT原子としてAl原子の代わりに他の金属原子が結晶格子中に導入された化合物である。他の金属原子の具体例としては、B、Fe、Ga、P、Sc、Ti、V、Cr、Zn、Ge、As、Y、Zr、In、Sn、Sb、Laなどが挙げられ、これらは単独でも2種以上でもよい。触媒活性および触媒製造のし易さの点から、T原子がAl、B、In、Fe、Ga、Co、NiおよびZnから選択された結晶性メタロシリケートが好適であり、中でもT原子がAlである結晶性アルミノシリケートが特に好適である。
上記結晶性メタロシリケートの結晶構造としては、国際ゼオライト学会構造委員会が構造コードで分類している結晶構造のメタロシリケート、並びに、「ZEOLITES,Vol−12,No.5,1992」および「HANDBOOK OF MOLECULAR SIEVES,R.Szostak著,VAN NOST RAND REINHOLD 出版」等に記載された構造のメタロシリケートを挙げることができ、結晶構造が特に限定されるものではない。これらの中でもMFI、MEL、BEA、MWWのいずれかの結晶構造を有するものが、高収率でアクロレインを製造することができる点から好適であり、MFIの結晶構造を有する結晶性メタロシリケートが特に好適である。
上記結晶性メタロシリケートがイオン交換可能なNa等のアルカリ金属やMg等のアルカリ土類金属を含有している場合(以下、M型結晶性メタロシリケートと称することがある)には、分析機器により検出できない(実質的に含まれない)状態であるH型になるまでイオン交換しておくことが好ましいが、前記M型結晶性メタロシリケートの場合には、本発明の酸性水溶液による処理方法の一形態である浸漬法によりH型にしたうえで、更に処理を施すことでも同様の効果が得られる。
本発明のH型結晶性メタロシリケートを酸性水溶液で処理する方法とは、H型結晶性メタロシリケートを酸性水溶液に接触させた後、必要に応じて乾燥および/または焼成する工程をいい、2回以上繰り返してもよい。
酸性水溶液には、硝酸、塩酸、硝酸アンモニウムおよび塩化アンモニウムから選ばれる少なくとも1種の化合物を含有する。好ましくは、硝酸および/または硝酸アンモニウムである。
酸性水溶液に接触させる形態としては、酸性水溶液に処理するH型が接触すれば、流通式、回分式、半回分式、あるいは1回目は流通式で行い、2回目は回分式で行うなど、如何なる形態でも構わない。また、該酸性水溶液量とH型の吸水量がほぼ等量である含浸法、過剰液量である浸漬法などの形態が挙げられる。
処理温度は、酸性水溶液が液体である限りにおいて如何なる温度でも構わないが、温度が高すぎると水や酸成分の揮発が起こるため、通常、0℃〜100℃、好ましくは5℃から90℃、より好ましくは10℃〜80℃、更に好ましくは10℃〜50℃である。
酸性水溶液に含有させる硝酸、塩酸、硝酸アンモニウム、塩化アンモニウムの量は、特に制限されないが、通常、含有させる化合物のモル濃度の合計で、0.01〜10mol/L、好ましくは0.05〜5.0mol/L、より好ましくは0.1〜3.0mol/Lである。処理中に脱Alが起こること避けるために硝酸及び/または塩酸を用いる時には、2.5mol/L以下の濃度であることが好ましい。
酸性水溶液の量は特に制限されないが、処理するH型結晶性メタロシリケートの吸水量と同程度以上であるのが適切であり、通常吸水量に対して、0.90〜10000倍、好ましくは0.95〜1000倍、より好ましくは1.0〜100倍である。吸水量の0.9倍以下であっても処理回数を増やすことで同様の効果が得られるが、操作が煩雑になるため好ましくない。多すぎると、過剰分の酸性水溶液が無駄になり、また処理のための装置が大型になるなど、工業的な観点から好ましくない。
酸性水溶液は、前記の濃度および量を満足する限りにおいて、再使用することも出来、また不足分を追加して使用しても構わないが、前記のイオン交換工程に引き続き実施する場合には、酸性水溶液中にM型結晶性メタロシリケートから溶出したNa等のカチオンが蓄積してイオン交換が進行しなくなるので、H型になるまでは、適宜交換するのが好ましい。
酸性水溶液と接触させた結晶性メタロシリケートは、乾燥し、必要に応じて焼成することで触媒として用いることが出来る。特に、NH4イオンを含む酸性水溶液と接触させた場合には、NH4型結晶性メタロシリケートになっているので、焼成することが好ましい。
乾燥・焼成時に急激に温度を上昇させると、脱Alや触媒の破損が起こることがあり、また焼成温度が高すぎると結晶構造が破壊することがあるので、用いる結晶性メタロシリケートの種類および酸性水溶液の成分に応じて乾燥や焼成の温度、昇温速度、雰囲気等を適宜設定する必要がある。
本発明における酸性水溶液により処理する工程とは、上記のH型を酸性水溶液に接触させ少なくとも乾燥させるまでの工程をさし、複数回実施する場合には、各回の酸性水溶液の量や含有する成分の量や種類、乾燥温度や時間、焼成の有無などの各種異なる形態の組み合わせであってもよい。
前記酸性水溶液による処理によって得られた結晶性メタロシリケートは、処理前後のSi/ヘテロ原子比の差異が、処理前の該比を基準として20%以下である。また、処理後の格子外のヘテロ元素の量は全へテロ原子の5モル%以下である。
Si/ヘテロ原子比は、蛍光X線分析等の分析によりSi原子とヘテロ原子のモル比を算出することで、求めることが出来る。
また、格子外のヘテロ原子の量は、全へテロ原子に対する格子外のヘテロ原子のモル比で表される。例えば、ZSM−5型のアルミノシリケートの構造は、ケイ素原子またはアルミニウム原子を中心とし4個の酸素原子が頂点に配位して構成されたSiO4およびAlO4四面体が三次元的に結合している。このため、ゼオライト骨格に入るアルミニウム原子は全て四配位であり、一方、該骨格外のヘテロ原子であるアルミニウム原子は、通常、六配位となっていることがよく知られている。
これら二種類のアルミニウム原子は、例えばAl27MAS−NMR測定で簡便に、区別され定量できることが知られている。四配位アルミニウムに帰属する化学シフトが50〜70ppmの範囲に測定されるピークと、六配位アルミニウムに帰属する化学シフトが0〜10ppmの範囲に観測されるピークの面積を求め、両者の合計面積に対する六配位アルミニウムに帰属する面積の比により、本発明で得られた成型体中に含まれる格子外のアルミニウムの量を求めることが出来る。
本発明の触媒において、結晶性メタロシリケートの形態はいかなるものでもよく、粉体でも成型体でも構わない。成型体の形状は、例えば球状、柱状、リング状、または鞍状であるとよく、その大きさは直径相当で通常、0.1mm〜10mm程度であると良い。
グリセリンの脱水反応によるアクロレインの製造においては、用いられる原料グリセリンは、プロピレンやエチレン等を原料とした化学合成品でも、油脂の加水分解やエステル交換反応により生成したものでもかまわない。
前記反応に用いられるH型結晶性メタロシリケートとしては、バインダー成分が少ないものが好ましく、特に以下の製法により得られるバインダーレスゼオライトが好ましい。
本製造方法は、成形したシリカに所定の成分を担持させる担持工程、担持工程後のシリカを水蒸気と接触させてMFI構造のメタロシリケートを合成する結晶化工程、NH4型MFIメタロシリケートを製造するイオン交換工程、およびH型MFIメタロシリケートを製造する焼成工程からなる。この製造方法を、工程毎に以下に説明する。
(担持工程)
担持工程では、所定の成分を含有した水溶液(以下、「含浸液」)をシリカ成形体に含浸し、次に、シリカ成形体を乾燥し、メタロシリケート前駆体を製造する。
担持工程で使用するシリカ成形体は、特に限定されるものではない。市販されているシリカ成形体を使用しでも良い。また、成形体形状および大きさも特に限定されない。成形体の形状としては、球状、シリンダー型、リング型を例示できる。大きさは、通常、直径相当が0.5〜10mmである。
また、シリカ成形体の機械的強度は、特に限定されるものではないが、木屋式硬度計で測定した場合、9.8N以上(シリカ成形体10個の平均値)であると良く、9.8〜490Nであると好ましい。シリカ成形体の機械的強度は製造するグリセリン脱水用触媒の 機械的強度と相関があるので、高機械的強度のシリカ成形体を使用すれば、実用に耐えうる強度を備えるグリセリン脱水用触媒を製造することができる。
含浸液に含まれている所定成分は、ヘテロ原子成分、テトラアルキルアンモニウム成分、およびアルカリ金属成分のうち一種乃至三種である。含浸液における所定成分の含有量は、シリカ成形体に担持させる量に応じて適宜設定される。
含浸液にヘテロ原子成分を含ませる場合、Al、B、Ti、Cu、In、Cr、Fe、Co、Ni、Zn、およびGaから選択された一種または二種以上を有するヘテロ原子成分を含浸液に含ませると良い。例えば、ヘテロ原子がアルミニウムであるアルミノシリケートを製造する場合、アルミン酸塩、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、ハロゲン化アルミニウム、水酸化アルミニウム等のAl原子含有化合物がヘテロ原子成分として使用されると良く、アルミン酸ナトリウムを使用することが好ましい。また、B、Ti、Cu、In,Cr、Fe、Co、Ni、Zn、またはGaをヘテロ原子とするメタノシリケートを製造する場合、該当するヘテロ原子を含むホウ酸、塩化チタン、硝酸銅、硝酸インジウム、硝酸クロム、硝酸鉄、硝酸コバルト、硝酸ニッケル、硝酸亜鉛、または硝酸ガリウムをヘテロ原子成分として使用すると良い。
含浸液中のヘテロ原子成分の量は、製造目的物である結晶性メタロシリケートのSi/ヘテロ原子比に応じた量に設定する。
また、テトラアルキルアンモニウム成分を含浸液に含有させる場合には、例えば、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラ−n−プロピルアンモニウム、 テトライソプロピルアンモニウム、テトラ−n−ブチルアンモニウム、テトラ−n−ペンチルアンモニウム、トリエチルメチルアンモニウム、トリエチル−n−プロピルアンモニウム、トリ−n−プロピルメチルアンモニウム、トリ−n−ブチルメチルアンモニウム等のハロゲン化物または水酸化物が使用されていると良い。MFI構造のアルミノシリケートを効率よく合成するためには、アルキル基の炭素数が1〜5であるテトラアルキルアンモニウムを構成に有しているテトラアルキルアンモニウム化合物を使用することが好ましく、テトラ −n− プロピルアンモニウムを構成に有しているテトラアルキルアンモニウム化合物を使用することがより好ましく、テトラ−n−プロピルアンモニウムヒドロキシドを使用することが最適である。
そして、含浸液にアルカリ成分を含有させる場合には、リチウム、ナトリウム、カリウム等の水酸化物やハロゲン化物を含浸液に含ませると良い。なお、ナトリウム成分を含有させる場合、ヘテロ原子成分にもなるアルミン酸ナトリムを含有させることが好ましい。
含浸液をシリカ成形体に含浸させる場合、ヘテロ原子成分、テトラアルキルアンモニウム成分、およびアルカリ金属成分の全てをシリカ成形体に含浸担持させる。含浸液にヘテロ原子成分、テトラアルキルアンモニウム成分、およびアルカリ金属成分の全てが含まれていないとき、含浸操作を複数回に分けてヘテロ原子成分、テトラアルキルアンモニウム成分、およびアルカリ金属成分の全てをシリカ成形体に担持させても良い。このように複数回に分けてヘテロ原子成分等を担持させる場合、ヘテロ原子成分等の担持順序が製造する触媒に影響を与えることはない。
シリカ成形体に含浸させる含浸液の総量は、シリカ成形体が吸水できる量に応じた量であると良い。
含浸後のシリカ成形体の乾燥は、減圧および常圧で行われると良く、常圧の空気気流下で行われでも良い。シリカ成形体の乾燥では、次工程の結晶化工程における担持成分の溶出を抑制するため、シリカ成形体中の水含量が30質量%以下になるまで乾燥を行うと良く、0.1〜20質量%になるまで乾燥を行うことが好ましい。そして、このときの乾燥温度は、テトラアルキルアンモニウムの分解が少ない20〜120℃の範囲であると良く、好ましくは、50℃以上である。
シリカ成形体を乾燥することにより、担持工程の製造目的物であるメタロシリケート前駆体が得られる。メタロシリケート前駆体は、含浸液を含ませた後に乾燥したシリカ成形体であるので、ヘテロ原子成分、テトラアルキルアンモニウム成分、およびアルカリ金属成分が均一に担持されている。
乾燥したシリカ成形体にはヘテロ原子成分等が担持されており、これがメタロシリケート前駆体となる。この前駆体の組成は、下記式(i)で表される。
Si1ヘテロ原子xMy(SDA)z (i)
式(i)中、Mはアルカリ金属、SDAはテトラアルキルアンモニウム、xは0.00125以上(好ましくは0.00167〜0.1、より好ましくは0.0025〜0.1、更に好ましくは0.0033〜0.05)、yは0.0001〜1(好ましくは、0.0005〜0.5)、Zは0.001〜1(好ましくは、0.002〜1、更に好ましくは0.003〜0.8) である。ここで、アルカリ金属(M)の組成比率(y)が少なすぎると、シリカの加水分解が進行せず、結晶化工程における結晶性メタロシリケートへの転化が生じにくくなり、一方、アルカリ金属(M)の組成比率(y)が多すぎると、シリカの加水分解が進みすぎて、シリカ成形体が溶解してしまう。そのため、yの数値範囲は、上記の通りとなっている。また、テトラアルキルアンモニウム(SDA)の組成比率(z)が少なすぎると、結晶化工程で加水分解したシリカが結晶性メタロシリケートに構築されにくく、一方、テトラアルキルアンモニウム(SDA)の組成比率(z)が多すぎると、テトラアルキルアンモニウムが無駄になる上、含浸液が高粘度化して結晶性メタロシリケートに構築されにくくなることがある。そのため、Zの数値範囲は、上記の通りとなっている。
(結晶化工程)
結晶化工程は、メタロシリケート前駆体を飽和水蒸気と接触させることにより行われる。この結晶化工程では、前駆体細孔内における水蒸気の凝縮熱がシリカの加水分解を進行させ、SDAの周囲でアルミニウムを含んだシリカ結晶が構築され、メタロシリケート前駆体がMFIに転化する。本結晶化工程は、メタロシリケートの製造方法として一般的な水熱合成法と異なり、メタロシリケート前駆体を飽和水蒸気中に置く工程であるので、メタロシリケート前駆体の形状を保持し、かつ、Siやヘテロ原子がメタロシリケート前駆体から溶出することを抑制しつつMFI結晶構造のメタロシリケートを合成できる。
結晶化工程では、上記の通り、メタロシリケート前駆体に飽和水蒸気を接触させる。この接触手法としては、例えば、(a)メタロシリケート前駆体を耐圧容器の中空部に設置し、温度と容器の容積によって定まる飽和水蒸気量に相当する水を耐圧容器の下部に注入した後、封止した耐圧容器を恒温槽内で加熱する方法、(b)内容器と外容器で構成される二重容器を使用し、内容器内にメタロシリケート前駆体を設置し、外容器に水を入れ、二重容器を密閉した後に加熱してアルミノシリケート前駆体を水蒸気に接触させる方法、(c)メタロシリケート前駆体を飽和水蒸気中に連続的に送り込む移動床式方法、がある。
結晶化工程における温度は、メタロシリケート前駆体がMFIに転化する温度であれば特に限定されるものではないが、前駆体に担持されているテトラアルキルアンモニウムの分解が少なく、結晶化度の高いMFIを製造することができる80〜260℃であると良い。好ましい温度は、100〜230℃である。シリカ成形体を飽和水蒸気と接触させる時間は、結晶化度を十分に進行させるため、2時間以上であることが好ましい。時間の上限値は、MFI以外の結晶との混晶化を抑制するため、150時間以内であることが好ましい。
結晶化工程を経て得られるMFI構造のメタロシリケートは、上記の結晶化工程における温度および時間であれば、通常、結晶化度が85%以上の結晶性メタロシリケートとなり得る。また、上記結晶工程において、温度および時間を調整すれば、結晶化度が98%以上の結晶性メタロシリケートを製造することも可能である。ここで、飽和水蒸気との接
触時聞が長いほど結晶化度が高くなり、逆に短いほど結晶化度が低くなるので、結晶化度
の高低を調整することができる。従って、飽和水蒸気との接触時間を長時間とすることで、バインダーを実質的に有さない結晶化度が100%の結晶性メタロシリケートを製造できる。
(イオン交換工程)
イオン交換工程では、結晶化工程で合成したM型結晶性メタロシリケートの、Na等のアルカリ金属等のM原子をNH4とイオン交換して、NH4型結晶性メタロシリケートが製造される。このイオン交換は、NH4水溶液にM型結晶性メタロシリケートを浸漬させることにより行われる。
使用するNH4水溶液には、硝酸アンモニウム、塩化アンモニウム等のアンモニウム塩水溶液が使用される。水溶液中のNH4濃度が低濃度過ぎる場合、イオン交換時間が長くなり、高濃度のアンモニウム塩水溶液を使用した場合、イオン交換されないアンモニウム塩が無駄になる。そのため、この水溶液は、NH4が交換容量と当量〜100倍当量であって、アンモニウム塩濃度が0.01〜5.0mol/Lであると良い。好ましくはNH4が2倍当量〜30倍当量であって、アンモニウム塩濃度が0.05〜2.0mol/Lである。
イオン交換工程におけるアンモニウム塩水溶液の温度は、室温以上100℃未満であると良い。アンモニウム塩水溶液の温度が高温であるとイオン交換速度を速めることが可能であるが、100℃以上であると水の蒸発が早く、水の蒸発を抑制するための圧力容器が必要となって好ましくない。一方、アンモニウム水溶液の温度が低温であるとイオン交換速度が遅くなって好ましくない。
イオン交換工程における浸漬時間は、15分〜6時間、好ましくは30分から2時間である。この時間が短い場合、メタロシリケートにおけるM原子の交換が終結せず、時聞が長い場合、交換平衡のため一定以上にイオン交換を進めることができない。
アンモニウム塩水溶液にM型結晶性メタロシリケートを浸潰することにより、本イオン交換工程が行われるが、平衡によるイオン交換阻害を抑制しつつ結晶性メタロシリケートのM原子を効率良くNH4に交換するには、浸漬とアンモニウム塩水溶液の入れ換え又は交換を繰り返し行うことが好適である。
(焼成工程)
最終工程である焼成工程では、イオン交換工程で製造したNH4型結晶性メタロシリケートをH型結晶性メタロシリケートに変換する。この変換と共に、メタロシリケートにおける残存有機物が燃焼して消失する。
焼成工程は、空気気流下で行われると良い。焼成温度が低すぎると有機物およびNH4が残存する場合があり、焼成温度が高すぎるとメタロシリケート結晶が破壊されることがあるので、焼成温度は、350〜600℃であると良い。また、焼成時聞が短すぎると有機物およびNH4が残存する場合があり、焼成時聞が長すぎると結晶が破壊する場合があるので、焼成時間は、2〜10時間であると良い。
上記方法により製造されたH型結晶性メタロシリケートは、結晶化度が85%以上となる。また、上記方法により製造された触媒において、MFI結晶格子内のT原子およびMFI結晶格子外ヘテロ原子の全量に対するMFI結晶格子外ヘテロ原子の含量は、3質量%以下となる。
上記方法は、MFI構造のメタロシリケートを製造するためのものであるが、MFI以外の結晶性メタロシリケートを構成とする触媒を製造するためには、特開2001−180928号公報、特開2001−139324号公報、又は特開2001−114512号公報等に開示されている公知の方法を使用してH型結晶性メタロシリケートを製造すると良い。
次に、H型結晶性メタロシリケートを酸性水溶液で処理して得られた触媒を用いて、グリセリンの脱水反応によりアクロレインを製造する方法について、以下に説明する。
H型結晶性メタロシリケートを酸性水溶液で処理して得られた触媒を用いて、グリセリンの脱水反応によりアクロレインを製造するには、少なくともグリセリンを触媒と接触させれば良いが、反応原料中のグリセリン濃度を調整するためにグリセリン脱水反応に不活性な成分を含んでいても良い。不活性成分には、水や水蒸気、窒素ガス、空気を例示することができ、特に水または水蒸気を添加すると触媒の寿命やアクロレインの収率に対して有利な効果が見られ、好適である。
触媒と接触させる形態は、液体、気体を問わない。例えば、前記特許文献3記載のように、グリセリン水溶液を180℃以上の温度、加圧下で固体酸触媒と接触させる、あるいは250℃以上の温度でグリセリンを含むガスを固体酸触媒に接触させる方法などがある。
但し、アクロレインの生産性の観点から考えると、ガス状で接触させる気相脱水反応が好ましい。以下、気相脱水反応における反応条件について述べる。
反応原料ガス中のグリセリン分圧は、30kPa以下であると良く、好ましくは25kPa以下、より好ましくは20kPa以下、更に好ましくは15kPa以下である。
グリセリン分圧は低いほうが好ましいが、分圧を低くして、かつ、一定の生産性を確保するためには、(A)反応の全圧を下げる、(B)グリセリン以外の希釈成分を大量に同伴させる、等の方法が必要となる。工業的観点から鑑みると、(A)では気密性の高い減圧に耐えうる反応装置や大型の減圧装置が必要となり、(B)では生成したアクロレインの捕集や大量の希釈成分のコストおよび圧力損失の増大に伴う動力費の増加が問題となる。よって、工業上の観点から分圧の下限値は、0.01kPa以上が好ましく、0.1kPa以上がより好ましく、1kPa以上が更に好ましい。
グリセリンおよび希釈ガス全量を含めた反応器入口部における反応原料ガスの空間速度(以下、反応ガスGHSVと称することがある)は、通常、70〜30000hr−1であり、好ましくは70〜20000hr−1であり、より好ましくは100〜12000hr−1であり、更に好ましくは125〜12000hr−1である。
グリセリンの空間速度(GHSV)は、単位時間当り単位触媒当りの供給グリセリンの標準状態換算でのガス容積を指し、反応器入口におけるグリセリンを含むガスの総量を基準にした値ではない。例えば、触媒1Lに対してグリセリン含有量が90質量%のグリセリン組成物を1000g/hrの流量で供給した場合、1000g/hr×90質量%÷92.06g/mol(グリセリンの分子量)×22.4L/mol÷1L(触媒容積)≒219hr−1と算出される。
同一のグリセリン分圧であれば、GHSVが低いほうが触媒寿命は長くなるが、単位触媒量あたり単位時間あたりのアクロレインの生産性が低くなる。従って、触媒寿命と反応器の大きさ等を勘案して、より適切な反応条件を選択すればよいが、工業的観点から鑑みて、好ましいグリセリンのGHSVは70hr−1以上であり、より好ましくは100hr−1以上、更に好ましくは125hr−1以上である。
グリセリンのGHSVが高い場合には、反応器が小型化される反面、触媒の活性低下が早くなるため触媒再生が頻繁に実施する必要が生じるので、両者のバランスから経済性を考慮して適宜設定すればよいが、通常、2400hr−1以下であり、1200hr−1以下が好ましく、600hr−1以下がより好ましい。
希釈成分には、水蒸気や窒素ガス、空気を例示することができ、特に水蒸気を添加すると触媒の寿命やアクロレインの収率に対して有利な効果が見られ、好適である。また、グリセリンの気相脱水反応により得られたアクロレイン組成物から、アクロレインを溶剤等で吸収、あるいは凝縮させてアクロレインを取出した後の希釈成分の一部または全量をリサイクルすることも出来る。更に、得られたアクロレインを用いてアクロレインの誘導体、例えばアクリル酸を合成し、得られたアクロレイン誘導体を吸収あるいは凝縮により取出した後の希釈成分の一部または全量を脱水反応の希釈成分としてリサイクルしても構わない。
希釈成分として水蒸気を用いる場合、好ましい水蒸気の量は、反応原料ガス中のグリセリン分圧の5倍以下であり、より好ましくは4倍以下である。この範囲であると、水蒸気を追加したことによる前述のコストアップに対して見合うグリセリン分圧低下の効果が得られる。希釈ガスとしての水蒸気は、グリセリン水溶液を気化させてもよく、水蒸気として気化グリセリンと混合してもよい。
水蒸気以外の希釈成分として窒素などの非凝縮性で非酸化性ガスを用いる場合、グリセリン分圧が前記範囲内にあれば、その分圧は特に問わない。前記非凝縮性で非酸化性ガスの分圧は、通常はグリセリン分圧の100倍以下、好ましくは50倍以下、より好ましくは20倍以下、更に好ましくは10倍以下、より更に好ましくは5倍以下である。
脱水反応にて生成したアクロレインの捕集を行う場合や、アクロレインを含有する脱水反応生成ガスを、必要に応じてアクロレインよりも高沸点の成分である水等を一部または全て除去した後、引き続きアクリル酸等のアクロレイン誘導体の製造に用いる場合等、該アクロレイン捕集工程における捕集効率や、アクロレイン誘導体の製造条件に合わせて適宜調整すればよい。
酸素などの酸化性ガスが希釈成分に含まれる場合、触媒上への炭素質物質の蓄積が軽減され、また触媒の活性低下を抑制する効果が得られる事がある。但し、酸化性ガスの量が多すぎると、燃焼反応によりアクロレインの収率低下が見られるため、好ましくない。酸化性ガスとして酸素を用いた場合の好ましい範囲は、反応器入口における反応原料ガス中の酸素濃度で15%以下またはグリセリン分圧の3.5倍以下の酸素分圧のいずれかの低い値以下であると好ましい。
反応器入口における反応原料ガスの全圧力に特に制限は無い。圧力の下限値については、反応装置の耐圧製などの経済的観点と触媒性能とのバランスで適宜設定すればよく、通常、0.01kPa以上であればよく、より好ましくは0.1kPa以上であり、更に好ましくは1kPa以上である。圧力の上限は、反応器入口部における反応原料ガスが気体で存在しうる限りにおいて制限は無いが、通常、500kPa以下、より好ましくは300kPa以下、更に好ましくは200kPa以下である。
気相脱水反応温度は、250〜500℃が好ましく、より好ましくは、300〜450℃であり、更に好ましくは330〜440℃である。反応温度が低いと、グリセリンの転化率が低くなり実質的にアクロレインの生産量が低下するので好ましくない。また反応温度が高すぎると、アクロレインの収率が大幅に低下し、好ましくない。
本反応においては、活性の低下した触媒と酸素などの酸化性のガスを含む気体を、高温で接触させる事により再生することができる。接触させる形態は特に問わず、触媒を反応器から取出して行っても良いし、脱水反応と同じ反応器内で流通させるガスを切換えることで行っても構わない。脱水反応を固定床で行っている場合には、触媒の抜出し・再充填などの手間がかからない後者の方が簡便であり、推奨される。
再生で使用する酸化性ガスとして酸素を用いる場合は空気中の酸素を用いるのが安価であるが、窒素や二酸化炭素、水蒸気等の不活性ガスを同伴させても良い。特に、空気を接触させる事で急激な発熱が懸念される場合には、酸素濃度を調整するために不活性ガスを用いる事が推奨される。再生処理の前後において、系内に残存する余分な有機物や触媒充填時に混入した酸素などを除去する目的で、窒素等の不活性ガスでパージしても良い。
再生した触媒は、反応原料ガスと接触させる事で、再度アクロレイン合成用触媒として用いる事ができる。
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、以下ことわりのない場合、「%」は「質量%」を、「部」は「質量部」をそれぞれ示すものとする。
(H型結晶性メタロシリケートの製造例)
1.40gのNaOHと0.47gのNaAlO2(浅田化学工業株式会社製、純度86.8質量%)を蒸留水15.00gに順次溶解し、更に、10.15gの40質量%水酸化テトラ−n−プロヒルアンモニウム水溶液を蒸留水に添加した。そして、この溶液に蒸留水を加えて、全量が30mlの含浸液を調製した。
次に、シリカ成形体としてシリカビーズ(富士シリシア化学社製「キャリアクトQ−50」、10〜20メッシュ、平均細孔径50nm)を使用し、120℃で1日間乾燥した30gのシリカビーズを含浸液に1時間含浸させた。その後、含浸したシリカビーズを100℃の湯浴上に設置した蒸発皿上で乾燥させた後、更に80℃、窒素気流下で5時間乾燥して、結晶化に必要なNa、Al結晶化剤をシリカビーズに担持させ、結晶性メタノシリケート前駆体を得た。
担持工程で得た前駆体を容積100mlのテトラフルオロエチレン製のジャケット付坩堝の中空部に配置し、坩堝の底部に1.00gの蒸留水を入れ、この坩堝を180℃の電気炉に8時間静置した。
結晶化工程を経た固形物を、60℃の1mol/L硝酸アンモニウム水溶液300gに浸潰して1時間攪拌した後、上澄み液を廃棄した。このイオン交換の操作を2回繰り返した。その後、固形物を水洗した。
イオン交換後の固形物を、空気気流中において550℃で5時間焼成した。
焼成工程後、再度イオン交換を3回行い、更に焼成工程を行うことでSi/Al比が100mol/molのH型Al−MFI(T原子がAl)を得た。得られたH型Al−MFI中に含有するNa量は蛍光X線分析(XRF)にて測定した結果、Na2Oで0.003質量%以下であった。
得られたH型Al−MFIは、比較用の触媒Aであるとともに、触媒調製例の原料でもある。
(触媒調製実施例1)
ナス型フラスコにH型結晶性メタロシリケートの製造例で調製し得られた触媒Aを40.0g秤量し、均一に含浸するように十分に振蕩、混合しながら、0.18gのNH4Clを26.0gの蒸留水に溶解させて調製した酸性水溶液を加えて含浸させたのち、3時間放置してNH4Cl処理メタロシリケートを得た。
前記NH4Cl処理メタロシリケートを、90℃の湯浴上に設置した蒸発皿にいれて、かき混ぜながら乾燥させ、続いて焼成炉中、空気気流下、120℃で9時間更に乾燥し、最終的に550℃で5時間焼成することで、触媒NCl−1を調製した。
(触媒調製実施例2)
0.44gのNHClを26.0gの蒸留水に溶解させた酸性水溶液を用いた以外は、触媒調製実施例1と同様にして、触媒NCl−2を調製した。
(触媒調製実施例3)
0.66gのNHClを26.0gの蒸留水に溶解させた酸性水溶液を用いた以外は、触媒調製実施例1と同様にして、触媒NCl−3を調製した。
(触媒調製実施例4)
1.42gのNHClを26.0gの蒸留水に溶解させた酸性水溶液を用いた以外は、触媒調製実施例1と同様にして、触媒NCl−4を調製した。
(触媒調製実施例5)
6.48gの0.5MのHCl水溶液を19.6gの蒸留水に溶解させた酸性水溶液を用いた以外は、触媒調製実施例1と同様にして、触媒HCl−1を調製した。
(触媒調製実施例6)
16.1gの0.5MのHCl水溶液を10.1gの蒸留水に溶解させた酸性水溶液を用いた以外は、触媒調製実施例1と同様にして、触媒HCl−2を調製した。
(触媒調製実施例7)
24.3gの0.5MのHCl水溶液を2.1gの蒸留水に溶解させた酸性水溶液を用いた以外は、触媒調製実施例1と同様にして、触媒HCl−3を調製した。
(触媒調製実施例8)
5.0gの12MのHClを23.2gの蒸留水に溶解させた酸性水溶液を用いた以外は、触媒調製実施例1と同様にして、触媒HCl−4を調製した。
(触媒調製実施例9)
0.26gのNHNOを26.0gの蒸留水に溶解させた酸性水溶液を用いた以外は、触媒調製実施例1と同様にして、触媒NN−1を調製した。
(触媒調製実施例10)
0.66gのNHNOを26.0gの蒸留水に溶解させた酸性水溶液を用いた以外は、触媒調製実施例1と同様にして、触媒NN−2を調製した。
(触媒調製実施例11)
0.33gの13.5MのHNO3水溶液を25.8gの蒸留水に溶解させた酸性水溶液を用いた以外は、触媒調製実施例1と同様にして、触媒HN−1を調製した。
(触媒調製実施例12)
0.84gの13.5MのHNO3水溶液を25.7gの蒸留水に溶解させた酸性水溶液を用いた以外は、触媒調製実施例1と同様にして、触媒HN−2を調製した。
(触媒調製実施例13)
H型結晶性メタロシリケートの製造例で得られた触媒Aを、更にイオン交換を3回繰り返した後、固形物を水洗し、得られた固形物を、空気気流中において550℃で5時間焼成し、触媒A−2を調製した。
(触媒調製実施例14)
触媒調製例13で得られた触媒A−2を、更にイオン交換を3回繰り返した後、固形物を水洗し、得られた固形物を、空気気流中において550℃で5時間焼成し、触媒A−3を調製した。
(触媒調製例15)
H型結晶性メタロシリケートの製造例において、NaOHを1.40gから1.49gに、NaAlO2を0.47gから0.31gに変更した以外は、同様に行い、触媒Bを調製した。
(触媒調製例16)
H型結晶性メタロシリケートの製造例において、最初のイオン交換を1回だけ行った後、空気気流中において550℃で5時間焼成し、触媒A−4を調製した。
(アクロレイン製造例)
上記の触媒調製例にて製造した触媒を使用して、次の方法で示す常圧気相固定床流通反応形式により、グリセリンを脱水し、アクロレインを製造した。
触媒15mlをステンレス製反応管(内径10mm、長さ500mm)に充填し、この固定床反応器を360℃の塩浴に浸漬した。その後、反応器内に窒素を62ml/min.の流量で30分間流通させた後、80質量%グリセリン水溶液の気化ガスと窒素からなる反応ガス(反応ガス組成:グリセリン27mol%、水34mol%、窒素39mol%)を650hr−1の流量で流通させた。反応器内に反応ガスを流通させてから0.5〜1時間、2.5〜3時間の間で30分間における流出ガスをアセトニトリル中に冷却吸収して捕集した。
吸収した液の一部を採り、ガスクロマトグラフィ(GC)により、流出物の定性および定量分析を行った。GCによる定性分析の結果、グリセリン、アクロレインと共に1−ヒドロキシアセトンなどの副生成物が検出された。また、定量分析結果から、グリセリン転化率およびアクロレイン収率を算出した。
転化率は、(1−(捕集流出物中のグリセリンのモル数)/(30分間で反応器に流入させたグリセリンのモル数))×100、で算出される値である。また、アクロレインの収率は、((アクロレインのモル数)/(30分間に反応器に流入させたグリセリンのモル数))×100、で算出される値である。
反応結果を表1に示す。
Figure 2009136830
尚、転化率は全て100%であった。
処理によるSi/Al比の変化は、処理前である比較例1に対して、実施例1から14は、すべて20%の範囲内に収まっている。また、Si/Al比が同程度であり格子外Al量が異なる、実施例5と6、実施例7と8、実施例13と14、各々を比較しても、格子外Al量とアクロレインの収率との間に相関は見られない。
更に、Naを含有している触媒A−4(比較例3)と、イオン交換を追加することでNaが検出されなくなった触媒A(比較例1)とを比較しても、アクロレインの収率に差は見られない。
しかし、Naが検出されない触媒A、つまりH型結晶性メタロシリケートに対して、酸性水溶液による処理を行った触媒を用いた実施例1から14では、アクロレインの収率が向上しているのが確認された。
従って、本発明のH型結晶性メタロシリケートを酸性水溶液で処理した後に熱処理し、該処理工程前後において結晶性メタロシリケートの組成の変化率が20%以下であり、かつ処理後のH型結晶性メタロシリケートの格子外へテロ原子の量が5%以下であるH型結晶性メタロシリケート含有触媒は、高いアクロレイン収率を有することが分かる。

Claims (8)

  1. H型結晶性メタロシリケート触媒の製造方法であって、H型結晶性メタロシリケートを酸性水溶液で処理した後に熱処理する工程を有し、該処理工程前後において結晶性メタロシリケートの組成のケイ素原子に対する全ヘテロ原子のモル比の変化率が20%以下であり、かつ処理後のH型結晶性メタロシリケートの格子外へテロ原子の量が該触媒に含有される全へテロ原子の5モル%以下であることを特徴とするH型結晶性メタロシリケート含有触媒の製造方法。
  2. 前記酸性水溶液が、硝酸、塩酸、硝酸アンモニウム、および塩化アンモニウムから選ばれる少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項1記載のH型結晶性メタロシリケート含有触媒の製造方法。
  3. 前記H型結晶性メタロシリケートの格子に組み込まれたヘテロ原子がAl、B、Ti、Cu、In、Cr、Fe、Co、Ni、Zn、およびGaから選択された一種または二種以上であることを特徴とする請求項1〜2記載のH型結晶性メタロシリケート含有触媒の製造方法。
  4. 前記H型結晶性メタロシリケートにおいて、Siと格子に組み込まれたヘテロ原子のモル比が10<Si/ヘテロ原子<3000であることを特徴とする請求項1〜3記載のH型結晶性メタロシリケート含有触媒の製造方法。
  5. 前記H型結晶性メタロシリケートの結晶構造がMFIであることを特徴とする請求項1〜4記載のH型結晶性メタロシリケート含有触媒の製造方法。
  6. 前記H型結晶性メタロシリケートがH型バインダーレス結晶性メタロシリケートであることを特徴とする請求項1〜5記載のH型結晶性メタロシリケート含有触媒の製造方法。
  7. 請求項1〜6記載の製造方法により得られたH型結晶性メタロシリケート含有触媒。
  8. 請求項1〜6記載の製造方法により得られたH型結晶性メタロシリケート触媒を用いたグリセリンの脱水反応によるアクロレインの製造方法。
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