JP2009120518A - 田七人参抽出物 - Google Patents

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Abstract

【課題】田七人参固有の成分を含有し、IL−1βの分泌阻害活性を有する分画抽出物を提供すること。
【解決手段】試料溶液として田七人参のメタノール抽出液、固定相としてシリカゲル、並びに展開溶媒として有機溶媒を用いる薄層クロマトグラフィーにおけるRf値がginsenoside Rg1以上である田七人参の分画を抽出する。
【選択図】図5

Description

本発明は、IL−1β分泌阻害活性を有する田七人参抽出物に関するものである。
近年、疾病の予防や改善において、疾病原因や症状に対して薬を処方する西洋医学ばかりでなく、身体の状態と疾病を考慮して薬を処方する東洋医学にも注目が集まっている。東洋医学では多くの生薬が用いられているが、なかでも、オタネニンジン(Panax ginseng C.A.Meyer:以下、人参と記載)は、伝統的中国医学の時代から、いわゆる生活習慣病と健康維持の秘薬的生薬とされ、抵抗力維持の目的から滋養強壮薬として汎用されてきた。
そして、この人参の成分、薬理作用を解明するために、現在に至るまで、数多くの薬理生理学的研究が行なわれている。(非特許文献1−5)そして、人参から多数のトリテルペンサポニン類が分離され、一括してginsenoside類(人参サポニン類:ginseng saponins)と命名されている。これらの大部分は4環系のダマラン系サポニン類であるが、diol型(ginsenoside Rb1、Rb2、Rc、Rdなど)とtriol型(ginsenoside Rf、Rg1など)に区別される。さらに、5環系のオレアナン系サポニン類(ginsenoside Ro)も含まれている。そして、ginsenoside類については、表1に示すような薬理作用の報告がある(非特許文献6)。
一方、人参に対比し、さらに強力な薬理効果が期待されるのが、田七人参(Panax notoginseng F.H.Chen)である。田七人参は、中国雲南省から広西省の限定された地域においてのみ産出される、ウコギ科の薬用植物である。これまでに、田七人参の薬理効果についても様々な研究がなされ、田七人参には、循環器系では抗血栓作用、強心作用、冠状動脈血流量増加作用、血管拡張作用、降圧作用、止血作用などが、肝臓では肝細胞保護作用、肝臓修復促進作用など、代謝系では血中脂質低下作用、血管内脂肪沈着抑制作用(動脈硬化防止作用)、血糖降下作用、タンパク合成促進作用など、その他にも抗酸化作用、抗炎症作用、鎮痛作用など、多彩な効果を示す可能性が期待されている(非特許文献7)。また、中国において、肝炎の治療薬として使用されている「片仔廣(へんしこう)」の主成分が田七人参であり、クロロホルム(CHCl3)誘発肝障害の動物モデルでも有効性が確認されている(非特許文献8)。
田七人参中の成分としてginsenoside類(人参サポニン類)、鉄分、カルシウム、各種アミノ酸、各種ケトン体などの存在が報告されているが(非特許文献9)、ginsenoside類の成分構成の詳細、および人参との比較検討は殆ど行なわれていない(非特許文献10、11)。
大塚,1982 人参を含む漢方 現代東洋医学 3:43-46 高木,1982 ニンジンの薬理作用 現代東洋医学 3:47-54 大浦・横澤,1982 薬用人参の生化学 現代東洋医学 3:55-61 柴田,1982 人参成分の化学 現代東洋医学 3:62-69 西本,1982 人参の品質 現代東洋医学 3:70-75 田中,1994 人参の成分 薬用人参‘95−臨床効果からモデル動物による検証まで− p22-44 共立出版 木島,1995 五臓六腑に田七人参 ハート出版 前田ほか,2002 田七ニンジンのCCl4実験的肝障害モデル及び肝再生モデルに及ぼす作用 和漢医薬学雑誌19 松田ほか,2002 三七ニンジン花部の新規サポニン成分 日本生薬学会第49回年会抄録集 p139 安藤ほか,1971 東洋薬物の化学的研究(第25報)薬用人参および関連生薬のサポニゲン、サポニンの比較 生薬学会誌 25:28-32 Lui and Staba,1998 The ginsenosides of various ginseng plants and selective products. J.Nat.Prod. 43:340-346
この出願は以上の事情に鑑みてなされたものであって、田七人参と人参の成分比較により見出された、田七人参固有の成分を含有し、IL−1βの分泌阻害活性を有する分画抽出物を提供することを課題としている。
この出願は、前記の課題を解決するものとして、第1には、田七人参の分画抽出物であって、試料溶液として田七人参のメタノール抽出液、固定相としてシリカゲル、並びに展開溶媒として有機溶媒を用いる薄層クロマトグラフィーにおけるRf値がginsenoside Rg1以上であることを特徴とする分画抽出物を提供する。
第2には、薄層クロマトグラフィーに用いる有機溶媒は、クロロホルム、メタノール、および水の混合液である前記分画抽出物を提供し、第3には、田七人参の分画抽出物は、田七人参メタノール抽出液のシリカゲルカラムクロマトグラフィーによって回収されたものであることを特徴とする前記分画抽出物を提供し、第4には、細胞に対するIL−1β分泌阻害活性を有する前記分画抽出物を提供する。
また、第5には、前記第1から4のいずれかの分画抽出物を有効成分として含有することを特徴とするIL−1β分泌阻害剤を提供する。
さらに、第6には、IL−1βの分泌よって引き起こされる疾患に対する治療薬であって、前記第1から4のいずれかの分画抽出物を有効成分として含有することを特徴とする疾患治療薬を提供する。
以上詳しく説明したとおり、この出願の発明によって、田七人参固有の成分を含有し、IL−1βの分泌阻害活性を有する分画抽出物が提供される。さらに、この発明によれば、IL−1βの分泌が関与する疾患に対する疾患治療薬の開発が可能となる。
本願発明は、前記のとおりの特徴を有するものであるが、以下に、発明を実施するための形態を説明する。
本発明の分画抽出物は、田七人参の分画抽出物であって、試料溶液として田七人参のメタノール抽出液、固定相としてシリカゲル、並びに展開溶媒として有機溶媒を用いる薄層クロマトグラフィー(TLC)におけるRf値がginsenoside Rg1以上の分画抽出物からなる。
本発明の分画抽出物を得る際に行なわれるTLCにおいては、固定相としてシリカゲルが好ましく用いられる。また、展開溶媒としては、有機溶媒を用いることが好ましく、クロロホルム、メタノール、水の混合液が好ましく例示される。
また、各成分のRf値の大小関係において、有機溶媒を用いた場合とその大小関係が変わらない溶媒であれば、本発明の分画抽出物を得るため行うTLCの展開溶媒として用いることができる。
ここで、「Rf値」とは、スポットの移動距離を溶媒の移動距離で割った値をいう。Rf値は溶離液組成、温度、担体、チャンバーの溶媒蒸気の飽和度、スポット量を管理すれば再現性があるため、本発明の分画抽出物を得るための指標にすることできる。
すなわち、本発明の分画抽出物は、TLCによって、田七人参固有の成分が、高Rf値領域に見出されたという知見に基づくものであり、「ginsenoside Rg1」は、田七人参および人参の双方に共通する成分で最もRf値が高いため、田七人参固有の成分を含有する本発明の分画抽出物を得るための指標として用いることができる。
そして、本発明の分画抽出物は、サイトカイン分泌阻害活性を有する。特に、IL−1βの分泌を有意に阻害することを特徴とする。
IL−1βは、サイトカインの一種であり、広範囲にわたって、多様な生物活性を示すことが知られている。例えば、発熱や急性期タンパク質の誘導など炎症反応の惹起、IL−2分泌促進とそれによるTリンパ球の活性化、G−CSF、G−CSF等造血因子の産生促進、Tリンパ球、Bリンパ球、NK細胞、繊維芽細胞、血管内皮細胞に対する細胞増殖促進等が知られている。
また、IL−1βの分泌が関与する疾患としては、骨粗鬆症、各種炎症性疾患、アルツハイマー病、ストレス負荷による疾患などが知られている。
したがって、本発明の分画抽出物は、例えば上記のようなIL−1βの分泌が関与する疾患に対する疾患治療薬として使用することができ、この分画抽出物と医療用組成物を組み合わせることもできる。
「医療用組成物」とは、通常の薬剤製造に用いられる各種の担体を意味する。担体は、対象疾患の種類や薬剤の投与形態に応じて広い範囲から適宜に選択することができるが、この発明の医療用組成物は、経口的にまたは注射により投与しうる単位服用形態にあることが望ましい。特に、注射による投与の場合には、局所注入、腹腔内投与、選択的静脈内注入、静脈注射、皮下注射、臓器灌流液注入等を採用することができる。
懸濁剤およびシロップ剤のような経口液体調製物は、水、シュークロース、ソルビトール、フラクトース等の糖類、ポリエチレングリコール等のグリコール類、ゴマ油、大豆油等の油類、アルキルパラヒドロキシベンゾエート等の防腐剤、ストロベリー・フレーバー、ペパーミント等のフレーバー類等を使用して製造することができる。
散剤、丸剤、カプセル剤および錠剤は、ラクトース、グルコース、シュークロース、マンニトール等の賦形剤、デンプン、アルギン酸ソーダ等の崩壊剤、マグネシウムステアレート、タルク等の滑沢剤、ポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルセルロース、ゼラチン等の結合剤、脂肪酸エステル等の表面活性剤、グリセリン等の可塑剤等を用いて製剤化することができる。
また、注射用の溶液は、塩溶液、グルコース溶液、または塩水とグルコース溶液の混合物、各種の緩衝液等からなる担体を用いて製剤化することができる。
以上のとおり、本発明の分画抽出物は、人参には認められない、IL−1βの分泌阻害効果を有するものであり、この効果は、田七人参特有の薬理効果を特徴付けるものである。
以下、実施例を示して、この出願の発明をさらに詳細かつ具体的に説明するが、この発明は以下の例に限定されるものではない。
1.実験方法
(1)実験材料
田七人参は中国雲南省で生産されたもので、和光化学(高崎市)から提供されたものである。人参の乾燥品は日本、中国、韓国で生産されたものの混合物で、ツムラ(東京)から提供されたものである。また、ginsenoside類の単体はExtrasynthese社(Genay, France)の製品を使用した。
(2)薄層クロマトグラフィー(TLC)
(2−1)試料液の調整
田七人参および乾燥人参の粉砕品それぞれを、ふるい(100メッシュ)にかけ、メッシュを通過したものを試料とした。
各試料2gを秤量して20mLのMeOHを加え、超音波抽出法(30分)によって抽出液を得た。同じ操作を3回繰り返し、得られた抽出液を常温(30℃以下)で減圧濃縮してMeOHを除去した。残留物に再度MeOHを加えて正確に10mLとして、試料溶液とした。
(2−2)TLCによる成分検出
シリカゲル薄層クロマトグラフィー(TLC Plates silica gel 60 F254: Merk-KGaA, Darmstadt, Deutschland)を用い、クロロホルム(CHCl3)、メタノール(MeOH)、水(H2O)の7:3:0.5混合液を展開溶媒として、展開距離15cmで試料検体を展開した。また、成分化合物を特定するため、ginsenoside Rb1、Rb2、Rb3、Rc、Rd、Re、Rf、Rg1、Rg2およびRoそれぞれの単体も同時に展開した。TLC上の成分検出は、噴霧試液に10%硫酸(H2SO4)を用い、噴霧後、105℃、5分間加熱によって行った。
(2−3)結果
図1は、田七人参MeOH抽出液と人参のMeOH抽出液および各種ginsenoside類を、TLC (Plate silica gel 60 F254)にて、CHCl3:MeOH:H2O=7:3:0.5混合液を展開溶媒に用い、展開距離15cmで展開したものである。
田七人参にはginsenoside Rb1、Rd、Re、Rg1およびRg2が確認された。一方、人参には、ginsenoside Rb1、Rb2、Rc、Re、Rf、Rg1およびRg2が確認された。
田七人参は人参と比較して、ginsenoside Rg1の含有量が著しく高く、また、ginsenoside Rg1ほどではないが、ginsenoside Rb1、Rd、ReおよびRg2も含有量の高いことが発色の程度から推定された。その他にも田七人参では、人参で検出されない特異的スポットが、Rf値0.38から0.6の範囲に7個認められた。
なお、人参ではginsenoside Rb3、RdおよびRoが検出されなかったが、これはTLCの検出感度が低いためで、後述するHPLCによってこれらの存在が確認された。
(3)高速液体クロマトグラフィー(HPLC)
(3−1)試料液の調整
TLC用試料と同様、田七人参および乾燥人参の粉砕品それぞれをふるい(100メッシュ)にかけ、メッシュを通過したものを試料とした。
各試料1gを秤量して10mLのMeOHを加え、30分間にわたって超音波抽出を行って抽出液を得た。得られた抽出液を常温(30℃以下)で減圧濃縮してMeOHを除去した後、再度MeOHを加えて正確に10mLに調整した。
MeOH抽出液の一部をとり、溶液中の微粒子を除去したものを、HPLC分析用の試料溶液とした。
(3−2)HPLCによる成分検出
HPLC(送液ポンプ;LC-10AD VP、光ダイオード検出器;SPD-M10A VP、解析ソフトウエアー;CLASS LC-10 Ver.1.61:島津、東京)の分析カラムはDevelosil C30(4.6mm i.d.×250mm:トーソー、東京)を用い、移動相は、A液として20mM/Lのリン酸(H3PO4)液、B液としてシアン化メタン(CH3CN)を用い、流量1mL/分、カラム温度40℃にて、勾配溶離法(stepwise gradient solution technique)により、最長保持時間60分として成分分析を実施した。測定波長は195nm(ginsenoside類の極大吸収波長)、およびそれよりやや高波長側の210nmの2つを選定した。
HPLCによる成分分析では、田七人参および人参の試料液それぞれ50μLを注入した。また、成分化合物を特定するため、ginsenoside Rb1、Rb2、Rb3、Rc、Rd、Re、Rf、Rg1、Rg2およびRoの単体それぞれについても測定した。
ginsenoside類の定量はUV吸光度法を適用し、195nmの測定波長(λ)の吸光度ピークの面積値で比較検討した。さらに、田七人参および人参中のginsenoside類以外の成分含有量の比較検討では、ベースラインのドリフトを考慮して、ginsenoside類の極大吸収波長(195nm付近)よりやや波長の長い210nmを選定した。
(3−3)結果
図2および表2は、田七人参と人参のMeOH抽出液、および各種ginsenoside類を、HPLCで検出・定量した結果である。
田七人参からはginsenoside Rb1、Rd、Re、Rg1およびRg2が検出された。一方、人参からはginsenoside Rb1、Rb2、Rb3、Rc、Rd、Re、Rf、Rg1、Rg2およびRoが検出された(図2)。田七人参のHPLCチャートでは、ginsenoide Rg1とReの含有量が多いため両者が分離せず、含有量の合計に相当する重複したピークが得られた。同様の重複はginsenoside Rb1とRg2との間にも生じた(表2)。
田七人参中のこれらの成分は、人参に較べて明らかに高含量であった。一方、人参で認められたオレアナン系のginsenoside Roは、田七人参では検出されなかった。
(4)成分の回収と確認
(4−1)
田七人参および人参のMeOH抽出液中の成分をTLC(展開溶媒;CHCl3/MeOH/H2O=7:3:0.5)で比較した際、双方に共通する成分でRf値が最も高い位置に観察されるginsensoide Rg1を指標に、それよりさらに高い成分と低い成分の分離・回収を、長さ19.5cmのシリカゲルクロマトグラフィーを用い、展開溶液としてCHCl3/MeOH/H2O系を適用した勾配溶離法にて行った。
田七人参のMeOH抽出液をシリカゲルクロマトグラフィーにて、濃度比を8:2:0.2(2,000mL)から始めて、15:5:0.7(2,000mL)、7:3:0.5(2,000mL)、6:4:1(1,000mL)と混合比率を段階的に変え、最後にMeOH(2,000mL)でクロマトカラムを洗浄して残存成分を溶出した。そして、ginsenoside Rg1よりRf値が高い画分(Fr.1〜Fr.4)と低い画分(Fr.5〜Fr.12)をそれぞれ合わせ、減圧下で蒸発乾固した。
さらに、シリカゲルクロマトグラフィーによる回収が確実に行われたことを確認するため、Fr.1〜Fr.12をTLC(展開溶媒:CHCl3/MeOH/H2O=7:3:0.5、展開距離15cm)にて展開し、田七人参のMeOH抽出液およびginsenoside RgのTLCと比較した。
(4−2)結果
<1>シリカゲルクロマトグラフィーの適用
シリカゲルクロマトグラフィーを適用した田七人参の成分分析の過程を図3に示した。
最初に、田七人参粉末(201.7g)を10倍量のMeOH(2,100mL)で加熱還流(2時間)して成分抽出を実施した。このMeOH抽出液を冷却後、濾過して抽出残渣を除き、減圧濃縮したところ、MeOH抽出物として43.85gが得られた。その一部(0.91g)をサンプリングし(以下、田七エキスAという)、残りの42.94gをCelite(50g)に吸着させて乾燥し、シリカゲルクロマトグラフィー(6i.d×19.5cm)に供した。
シリカゲルクロマトグラフィーにて得られたFr.1〜Fr.12の溶出画分をginsenoside Rg1を指標に、それよりRf値の高い(高脂溶性)成分を含む画分(Fr.1〜Fr.4)(以下、画分Cという)と低い(低脂溶性)成分を含む画分(Fr.5〜Fr.12)(以下、画分Bという)とに二分した。これら2分画を濃縮乾固したところ、画分Cから2.83g、画分Bから39.67gの乾固物が得られた。
<2>シリカゲルクロマトグラフィー分画のTLC
図4は、Fr.1〜Fr.12の各溶出液を蒸発乾固し、MeOHに溶解した試料、田七人参のMeOH抽出液、およびginsenoside Rg1の薄層クロマトグラムである。図1に示した田七人参および人参のMeOH抽出成分のクロマトグラムと対比するため、展開溶媒は同一組成の混合溶媒(CHCl3/MeOH/H2O=7:3:0.5)を用いた。
図5は、田七人参の溶出分画をginsenoside Rg1を指標として二分したもの(画分Bおよび画分C)を、田七エキスAと人参の50%EtOH抽出成分と比較検討したものである。
TLCの結果より、画分Bにはginsenoside Rg1より脂溶性の低い成分が、画分Cにはginsenoside Rg1より脂溶性の高い(水溶性の低い)成分がそれぞれ含有されていることが確認された。しかも、Fr.1〜Fr.12画分の各スポット(Rf値)は、田七ニンジンのMeOH抽出液中のそれらと良好に一致することも確認された。
これまでの成分分析に関する報告によれば、田七人参は人参よりdiol型ではginsenoside Rb1、triol型ではginsenoside Rg1の含有量が高いが、ginsenoside Rc、RfおよびRoを含まないという。この実験における結果は、従来の報告とほぼ一致していた(表3)。
特にHPLCを用いた高感度かつ詳細な成分分析により、田七人参は人参と比較して、ginsenoside Rb1、Rd、Re、Rg1およびRg2の含有量著しく高いことが判明した(表4)。
田七人参の効能範囲が、個体レベルでの広範な機能系、例えば、炎症・アレルギー、免疫、造血、神経疾患などに関与することから、細胞間の情報伝達物質であるサイトカインの生理学的変化に及ぼす影響を検討した。
1.実験方法
(1)実験材料
田七人参、人参、ginsenoside Rb1は、前記実施例1と同じものを使用した。そして、サイトカイン刺激物質としてphytohemagglitin(INF-α、IL-2およびIL-10の分泌刺激物質)、lipopolysaccaride(TNF-α、IL-1およびIL-6の分泌刺激物質)、およびconcanavallin A(IL-4およびIL-5の分泌刺激物質)はいずれも、RayBiotech, Inc (Norcross, GA, USA)の製品を使用した。
(2)実験試料
前記実施例1における、TLCにより、田七人参と人参の成分を検討したところ、Rf値の高い領域に田七人参に特異的な成分、Rf値の低い領域に田七人参と人参に共通した成分がそれぞれ認められたことから、田七エキスAおよび前記実施例1、(4)で得られた、画分C(Fr.1〜Fr.4)2.83g、画分B(Fr.5〜Fr.12)39.67gの3種を実験試料とした。
(3)炎症性サイトカイン分泌に及ぼす作用の検討
1)8種類の炎症性サイトカイン分泌に及ぼす田七エキスAの作用
表5は、末梢血単球(PBMC)細胞からの炎症性サイトカイン(INF-γ、TNF-α、IL-1β、IL-2、IL-4、IL-5、IL-6およびIL-10)の分泌刺激条件、およびそれらの測定法を示したものである。この条件下で、8種類の炎症性サイトカイン分泌に及ぼす田七エキスAの影響を検討した。
末梢血単球(PBMC)細胞に、田七エキスAとphytohemagglutinin(INF-α、IL-2およびIL-10の分泌刺激物質)、lipopolysaccharide(TNF-α、IL-1βおよびIL-6の分泌刺激物質)あるいはconcanavallin A (IL-4およびIL-5の分泌刺激物質)のいずれかを同時に適用した。すなわち、IFN-γ、TNF-α、IL-1βおよびIL-6については37℃で24時間、IL-2、IL-4、IL-5およびIL-10については37℃で48時間にわたり培養後、それぞれのサイトカイン分泌量をELISA immunoassay法(EIA法)にて測定した。ELISA キットおよびサイトカイン抗体はRayBio Inc (Norcross, GA, USA)から購入した。
各サイトカイン分泌刺激物質の単独適用による分泌量を100%とし、それに対する田七エキスA+刺激物質の併用適用による分泌減少の割合を阻害率とした。
2)IL-1β分泌に及ぼす田七エキスA、画分B、画分Cの阻害作用
IL-1β分泌に及ぼす田七エキスA(10、30および100μg/mL)、画分B(50、10および200μg/mL)および画分C(25、50、100および200μg/mL)の阻害効果を検討した。 PBMC細胞にlipopolysaccharideと各試料を同時適用し、37℃で24時間培養後、IL-1β分泌量をEIA法にて測定した。
さらに、IL-1β分泌に及ぼす分画Cの低用量(0.625、1.25、2.5、5および10μg/mL)の効果についても、同法で測定した。
3)データ分析
それぞれの試料について測定を3回実施した。50%分泌阻害濃度(IC50値)は、3回の測定値の平均に対してHill方程式を適用し、得られた阻害曲線の非線形回帰分析によって決定した。
2.結果
(1)炎症性サイトカイン分泌に及ぼす作用
1)8種類の炎症性サイトカイン分泌に及ぼす田七エキスAの作用
表6は、PBMC細胞からの炎症性サイトカイン分泌に及ぼす田七エキスAの効果を示したものである。
田七エキスA(100μg/mL)は、IL-1β分泌を88%、TNF-α分泌を51%、IL-4分泌を34%、INF-γ分泌を28%、IL-10分泌を27%、IL-6分泌を13%抑制した。一方、IL-2分泌には影響せず、IL-5分泌を48%促進した。
2)IL-1β分泌に及ぼす田七エキスA、分画B、Cの阻害活性
田七エキスAが強力なIL-1β分泌阻害活性を有することが判明したことから、IL-1β分泌に及ぼす田七エキスA、画分Bおよび画分Cの濃度−効果相関を検討した。その結果を表7に示した。
田七エキスAは、30μg/mLで17%、および100μg/mLで78%阻害した。画分Bは、200μg/mLの高濃度で20%阻害したのみで、IL-1β分泌阻害活性はきわめて低かった。一方、画分Cにおいては、25、50、100および200μg/mLの濃度で、それぞれ97、91、97および99%の阻害と、強力なIL-1β分泌阻害作用を示した。つまり、IL-1β分泌阻害の活性成分は画分Cに存在することが判明した。
3)画分CのIL-1β分泌阻害作用の濃度−効果相関
画分CのIL-1β分泌阻害活性が25μg/mLの濃度ですでに天井に達していることから、さらに低濃度範囲(0.65、1.25、2.5、5および10μg/mL)の濃度−効果相関を検討した。その結果を図6に示した。
分画Cは、選択した濃度範囲で濃度依存的なIL-1β分泌阻害活性を示し、50%阻害濃度(IC50)は2.86μg/mLであった。
田七人参および人参のMeOH抽出液と各種ginsenoside単体の薄層クロマトグラフィー(TLC)の結果を示す図である。 田七人参および人参のMeOH抽出液と、各種ginsenoside単体の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)の結果を示す図である。 田七人参成分の分画法を示すフローチャートである。 田七人参溶出成分(Fr.1〜Fr.12)の薄層クロマトグラムである。 田七エキスAと人参の50%エタノール抽出液、ginsenoside Rg1、画分Bおよび画分Cの薄層クロマトグラフィー(TLC)による相互比較を示す図である。 IL-1β分泌阻害率に対する画分(C)の用量効果曲線を示す図である。

Claims (6)

  1. 田七人参の分画抽出物であって、試料溶液として田七人参のメタノール抽出液、固定相としてシリカゲル、並びに展開溶媒として有機溶媒を用いる薄層クロマトグラフィーにおけるRf値がginsenoside Rg1以上であることを特徴とする分画抽出物。
  2. 薄層クロマトグラフィーに用いる有機溶媒は、クロロホルム、メタノール、および水の混合液である請求項1の分画抽出物。
  3. 田七人参の分画抽出物は、田七人参メタノール抽出液のシリカゲルカラムクロマトグラフィーによって回収されたものであることを特徴とする請求項1または2の分画抽出物。
  4. 細胞に対するIL−1β分泌阻害活性を有する請求項1から3のいずれかの分画抽出物。
  5. 請求項1から4のいずれかの分画抽出物を有効成分として含有することを特徴とするIL−1β分泌阻害剤。
  6. IL−1βの分泌よって引き起こされる疾患に対する治療薬であって、請求項1から4のいずれかの分画抽出物を有効成分として含有することを特徴とする疾患治療薬。
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