PWM信号は、多相電動モータの各相において、鋸歯状や三角状の搬送波(鋸歯状信号、三角状信号)と目標電流値に応じたデューティ(Duty)設定値とを比較することにより生成される。すなわち、鋸歯状信号や三角状信号の値(PWMカウンタの値)がデューティ設定値以上か未満かによってPWM信号がハイレベルかローレベルかが決定される。
鋸歯状信号や三角状信号に基づいてPWM信号を生成し、多相電動機を駆動する多相電動機の制御装置において、所定時刻において電流検出器が電流値を測定しようとする場合、一つの相と他の相とのスイッチング時の時間間隔が非常に小さくなる場合がある。このとき、駆動回路の電界効果トランジスタのスイッチング時間、不感帯(デッドタイム)の存在、また電子処理回路の応答遅延のため電流が安定しないので、この期間中正確な電流測定ができなくなる。
例えば、電流検出器としてA/D変換器を使用する場合、A/D変換器の仕様により安定した信号が連続して少なくとも例えば2μsの間入力されなければ正確な電流値を検出することができない。入力信号が連続して2μsの間安定して入力されない場合には、A/D変換器は各相の正確な電流値が検出できない。
特許文献1記載の車両用操舵装置においては、モータ駆動回路とグランドとの間の電流経路上に、その電流経路を流れる電流値を検出するための単一の電流センサを設け、各相PWM信号を生成するための鋸波の位相をずらして、各相PWM信号のローレベルへの立ち下がりのタイミングをずらしている。これにより、V相PWM信号がローレベルに立ち下がってから所定時間が経過するまでの期間における電流センサの出力信号に基づいて、電動モータを流れるU相電流の値を得ている。また、W相PWM信号がローレベルに立ち下がってから所定時間が経過するまでの期間における電流センサの出力信号に基づいて、電動モータを流れるU相電流およびV相電流の合計電流値を得ている。
特許文献2記載の3相または多相インバータを制御する方法では、PWM期間内において、1つの位相のトランジスタのスイッチング時と、次の位相の対応するトランジスタのスイッチング時との間の時間間隔が所定のスレシホルド値よりも小さい場合、測定を禁止し、十分な持続期間の測定時間間隔を定義するPWM信号を発生し、線電流に対するスイッチングの影響の測定を可能とする。同じ従属期間の他のPWM信号の持続期間をある値だけ短縮し、これら他のPWM信号の短縮の和を求め、測定間隔を定義するPWM信号の増加分を補償している。
特許文献3記載の3相ブラシレスACモータのための駆動システムは、単一センサを用いて相のすべてにおいて電流の計測を可能にしながらパワー出力を向上させるために、トランジスタ切り替えパターンを最適化するように構成されている。これは、単一センサ法によって決定される最小状態時間要件を満たすために3つ以上の状態が要求される場合の電圧デマンドベクトルxを規定し、単一電流検知を依然として可能とさせながら、要求ベクトルxを生成する3つ以上の状態ベクトルを計算することによって実現されている。
特許文献4記載の出力信号における何らかのドリフトをモータ運動中に補償できるブラシレスモータを監視する方法においては、電流測定手段を使用してモータの各巻線へ流入または流出する電流を監視して電流を表示する出力信号を生成し、電流測定手段を通して流れる瞬時電流が実質的にゼロと知られる時に電流測定手段の出力を測定し、実測定出力信号値と理想出力信号値の間の何らかの差を補償する修正出力信号を生成している。
特許文献5においては、搬送波として三角状信号を使用しており、U相、V相、W相という用語の替わりに、h相、m相、l相という用語が使用されており、h相とm相との時間間隔がt1、m相とl相との時間間隔がt2で表されている。特許文献5のFIG.7に示されるように、時間間隔t1、t2がそれぞれしきい値(mw)より小さいとき、Case2の処理が行われる。時間間隔t1、t2のいずれかがしきい値(mw)より小さいとき、Case3またはCase4の処理が行われる。Case2の処理の場合(FIG.13参照)、Duty最大相が左側にシフトされ、Duty最小相が右側にシフトされる(FIG.12B参照)。Case3の処理の場合(FIG.15参照)でかつ一つの相のみのシフトでよいと判断したとき(ステップ148のN)、Duty最大相が左側にシフトされる(FIG.14B参照)。Case4の処理の場合(FIG.17参照)でかつ一つの相のみのシフトでよいと判断したとき(ステップ166のN)、Duty最小相が左側にシフトされる(FIG.16B参照)。
特許文献6記載の3相電圧型PWMインバータ装置は、電流検出回路がインバータ主回路のシャント抵抗を流れる直流母線電流を検出し、サンプルホールド回路が電流検出回路にて検出した電流値をサンプルホールドし、マイコンは、サンプルホールド回路のコンデンサにて保持された電流値を、PWMキャリア信号の山近傍又は谷近傍のタイミングで、スイッチング素子のスイッチングパターンによって決まる特定相の相電流として検出している。
特許文献7記載の電動機の制御装置は、電動機を駆動するインバータの直流電源からの電流を検出する際、この断続してパルス状に流れる電流に対して、各通流期間の中間時刻近傍での値をサンプリングし、該サンプル値に基づいて、電動機への印加電圧あるいは周波数を制御している。これにより、交流電動機の回転子位置,回転速度、ならびに電動機の相電流を直接検出する手段を持たない駆動装置において、高いキャリア周波数であっても高性能な可変速駆動を実現している。
特開2007−112416号公報
特開平10−155278号公報
特表2005−531270号公報
特開2001−95279号公報
米国特許第6735537号明細書
特開2005−269880号公報
特開2004−282969号公報
以下、本発明の実施形態につき、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る多相電動機の制御装置のブロック図である。本発明の実施形態に係る多相電動機7の制御装置1は次のような構成である。駆動手段6は、図2の回路図の説明で後述するように電源とグランドとの間に接続され、上アームスイッチング素子と下アームスイッチング素子の対からなり、多相電動機7を駆動する。電流検出手段8は、駆動手段6とグランドとの間に接続され、所定時刻で多相電動機7に流れる電流値を検出する。PWM信号生成手段2は、電流検出手段8で検出された電流値および所定の周波数を有する鋸歯状信号に基づいて、各相PWM信号を生成する。電流検出可否判定手段3は、PWM信号生成手段2で生成された各相PWM信号に基づいて、電流検出手段8で電流値を検出可能か不可か、すなわち、電流検出手段8で正確な電流値が検出できるだけのスイッチングの時間間隔があるか否かを判定する。スイッチング個数判定手段4は、電流検出可否判定手段3が電流検出不可と判定した場合に、3個の上アームスイッチング素子の内スイッチング素子がオンする個数が偶数であるか否かを判定する。位相移動手段5は、スイッチング個数判定手段4の判定結果に基づいて、PWM信号生成手段2が生成した所定相のPWM信号の位相を所定量だけ早めまたは遅らせ、駆動手段6に出力する。電流検出期間決定手段10は、位相移動手段5で決定された各相のPWM新号の立ち下がり時刻に基づいて、電流検出手段8による電流検出開始タイミング及び電流検出期間を決定する。各相電流算出手段9は、電流検出手段8で検出された電流値と、PWM信号生成手段2で生成されたPWM信号とに基づいて、直接検出することができない残りの相の電流値を算出する。
図2は、本発明の実施形態に係る多相電動機の制御装置1の回路図である。CPU22は、U相上段、V相上段及びW相上段の各PWM信号をデッドタイム生成ブロック23に出力する。デッドタイム生成ブロック23は、それらの信号を入力し、回路保護のため各相の上アームスイッチング素子と下アームスイッチング素子に対する信号が両方ONとならないように、両方の信号がOFFとなるわずかな時間間隔を設けて、U相上段、U相下段、V相上段、V相下段、W相上段及びW相下段の各PWM信号を生成してドライバーIC24に出力する。なお、デッドタイム生成ブロック23の機能をCPU22内のソフトウェアで構成するようにしてもよい。
ドライバーIC24は、それらの信号を入力し、FETブリッジ25を制御する。FETブリッジ25は、電源VRとグランドとの間に接続され、上アームスイッチング素子と下アームスイッチング素子3対から成る。上アームスイッチング素子と下アームスイッチング素子3対の中間部が3相電動機の各相に接続される。単一のシャント抵抗26は、FETブリッジ25とグランドとの間に接続されている。シャント抵抗26の両端の電圧は、オペアンプと抵抗等からなる電流検出回路27を介してCPU22のA/D変換ポートに入力される。
なお、本回路の基本機能は次の通りである。相電流検出周期は250μsec、検出方式は2相検出・1相推定方式、PWMモードは鋸波PWMである。
図2の構成において、CPU22は、図1における電流検出可否判定手段3、スイッチング個数判定手段4、位相移動手段5、各相電流算出手段9および電流検出期間決定手段10を構成し、CPU22およびデッドタイム生成ブロック23は、図1におけるPWM信号生成手段2を構成し、FETブリッジ25は、図1における駆動手段6を構成し、シャント抵抗26および電流検出回路27は、図1における電流検出手段8を構成する。また、図1の多相電動機7として、本実施形態では、3相電動機が用いられる。3相電動機は、例えば車両の電動パワーステアリング装置に用いられるブラシレスモータである。
図3は、本発明の実施形態に係る多相電動機の制御装置1のフローチャートである。最初に、PWM信号生成手段2がUVWの各相のPWM指令値を決定する(S1)。次に、詳細は後述するようにUVWの各相のデューティに基づきパターン判定を行う(S2)。次に、電流検出可否判定手段3による検出可否の場合分けを行う(S3〜S5)。まず、3相のうち2相が検出可能かどうかを判定する(S3)。2相が検出可能でなければ(S3でNo)、3相のうち1相が検出可能かどうかを判定する(S4)。そこでさらに1相が検出可能であれば(S4でYes)、スイッチング個数判定手段4が偶数ベクトルが検出可能かどうかを判定する(S5)。偶数ベクトルが検出不可能であれば(S5でNo)、奇数ベクトルが検出可能であることになる。偶数ベクトルと奇数ベクトルについては後述する。
次に位相移動手段5が、検出可否判定条件に基づき移動が必要な相と必要なシフト量を算出する。まず、2相が検出可能である場合には(S3でYes)、移動を必要とせずPWM各相の位相シフト量はゼロでよい(S6)。偶数ベクトルのみが検出可能である場合には(S5でYes)、デューティが最大である相の位相を遅らせることとなり、そのシフト量を計算する(S7)。奇数ベクトルのみが検出可能である場合には(S5でNo)、デューティが最小である相の位相を早めることとなり、そのシフト量を計算する(S8)。1相も検出不可能である場合には(S4でNo)、デューティが最大である相の位相と、デューティが最小である相の位相を両方シフトすることとなり、それぞれのシフト量を計算する(S9)。
次に、電流検出期間決定手段10は、位相移動手段5で決定された各相のPWM信号の立ち下がり時刻に基づいて、電流検出手段8による電流検出開始タイミングを決定する(S10)。電流検出開始タイミングについては後で詳述する。次に、位相移動手段5は計算されたシフト量だけ各相のPWM位相シフトを実施する(S11)。ただし、PWM位相シフト無しの場合(S6)には、位相シフト量はゼロである。次に、後述する2箇所の電流検出開始タイミングになったときに(S12でYes)、電流検出手段8がA/D変換を開始する(S13)。このA/D変換期間中は各相のスイッチングは発生せず、A/D変換に必要な時間が経過した時点で所定相のPWM信号が立ち下がる。このようにして電流検出手段8が2相の電流を検出した後、各相電流算出手段9はキルヒホッフの法則(3相電動機に流れ込む3電流の合計はゼロである。すなわち、U相電流:Iu、V相電流:Iv、W相電流:Iwとしたとき、Iu+Iv+Iw=0)に基づいて、検出していない残りの1相の電流値を算出する(S14)。
表1は、PWMパターン判定条件、検出可能ベクトル、検出電流及びA/D変換タイミングを示す表である。w_pwmU、w_pwmV、w_pwmWはそれぞれU相、V相、W相の指令値の位相幅(デューティ)を示している。3相の位相幅の大小関係により6パターンに分類される。例えば、w_pwmU≧w_pwmW≧w_pwmVの場合は表1のパターン3となる。各パターンにおいては、以下の4つの場合がある。すなわち、
(1)2相検出可能な場合
(2)奇数ベクトルのみ検出可能な場合
(3)偶数ベクトルのみ検出可能な場合
(4)2相とも検出不可能な場合
である。
例えばパターン3の場合で、奇数ベクトルを検出する場合は、3相のうちU相を検出する場合であり、検出可能ベクトルは(1,0,0)となる。このベクトルは、第1要素(1)で上アームスイッチング素子のうちU相がON、第2要素(0)でV相がOFF、第3要素(0)でW相がOFFの状態を表しており、3要素のうちON(1)であるスイッチング素子の個数が1個であるので奇数ベクトルである。その場合の検出可否判定条件は、電流値が安定する期間内にA/D変換を行うに必要な最小時間を50μsec周期の12%とした場合、(w_pwmU)−(w_pwmW)≧12%であり、検出可能タイミングとしては、U相上段OFFのタイミングを基準とする。すなわち、A/D変換に必要な時間を考慮して、U相上段OFFのタイミングからA/D変換に必要な時間だけ前のタイミングでA/D変換を開始すれば、A/D変換の終了時刻がU相上段OFFのタイミングと一致するので、それが電流値が安定する最適なタイミングになる。
また、偶数ベクトルを検出する場合は、−V相を検出する場合であり、検出可能ベクトルは(1,0,1)となる。このベクトルは、第1要素(1)で上アームスイッチング素子のうちU相がON、第2要素(0)でV相がOFF、第3要素(1)でW相がONの状態を表しており、3要素のうちON(1)であるスイッチング素子の個数が2個であるので偶数ベクトルである。その場合の検出可否判定条件は、(w_pwmW)−(w_pwmV)≧12%であり、検出可能タイミングとしては、W相上段OFFのタイミングを基準とする。すなわち、A/D変換に必要な時間を考慮して、デューティ中間相であるW相上段OFFのタイミングからA/D変換に必要な時間だけ前のタイミングでA/D変換を開始すれば、A/D変換の終了時刻がW相上段OFFのタイミングと一致するので、それが電流値が安定する最適なタイミングになる。他のパターンについても同様の考え方であるのでパターン3以外の説明を省略する。
A/D変換器による電流値の十分な検出時間(例えばMIN_DUTY=12%)が確保できず、電流値が安定しないために正確な電流値が検出できない場合、その制御周期(50μsec×5周期)の間、ドライバーICの各PWM入力信号について以下のように位相をシフトさせる。なお、2相検出可能な場合は、PWM位相シフトの必要はない。
表2は、偶数ベクトルのみ検出可能な場合を示す表である。偶数ベクトルのみ検出可能な場合は、2相とも電流値が安定する検出可能な時間を確保するため、表2のようにシフトを実施する。すなわち、Duty最大相についてのみ、MIN_DUTY(12%)−(最大相Duty%−中間相Duty%)のシフト量で右側(位相を遅らせる側)にシフトする。Duty中間相とDuty最小相についてはシフトは無しである。
表3は奇数ベクトルのみ検出可能な場合を示す表である。奇数ベクトルのみ検出可能な場合は、2相とも電流が安定する検出可能な時間を確保するため、表3のようにシフトを実施する。すなわち、Duty最小相についてのみ、MIN_DUTY(12%)−(中間相Duty%−最小相Duty%)のシフト量で左側(位相を早める側)にシフトする。Duty最大相とDuty中間相についてはシフトは無しである。
表4は2相とも検出不可能な場合を示す表である。2相とも検出不可能な場合は、2相とも電流値が安定する検出可能な時間を確保するため、表4のようにシフトを実施する。すなわち、Duty最大相について、MIN_DUTY(12%)−(最大相Duty%−中間相Duty%)のシフト量で右側(位相を遅らせる側)にシフトする。また、Duty最小相について、MIN_DUTY(12%)−(中間相Duty%−最小相Duty%)のシフト量で左側(位相を早める側)にシフトする。Duty中間相についてはシフトは無しである。
図4は、本発明の実施形態に係る多相電動機の制御装置の概要を示すタイミングチャートである。詳細は図5〜8で説明を行う。
制御周期は250μsecであり、その構成は50μsec周期の鋸歯状信号に基づいたPWM信号の5周期からなる。ここでは第2及び第3番目のPWM周期において電流値が検出可能なタイミングの時間を狙い、A/D変換を実施する。以下、第2番目のPWM期間を第1検出周期、第3番目のPWM期間を第2検出周期と表記する。この例では、第1検出周期では偶数ベクトル状態(1,1,0)で検出を実施し、第2検出周期では奇数ベクトル状態(1,0,0)で検出を実施しているが、どの周期でどちらの検出を行ってもよく、また、同一周期で両方の検出を行ってもよい。
この図では、3相のデューティが互いに接近しており、U相がデューティが最大で、V相が中間で、W相が最小となっている。W相の電流検出タイミング(AD変換タイミング)では、U相がハイ状態、V相がハイ状態、W相がロー状態を取り、スイッチング素子のベクトルは(1,1,0)である。すなわち、上アームスイッチング素子の内オンするスイッチング素子の個数が偶数である。この時、V相とW相のスイッチングの時間間隔がA/D変換するのに必要な十分な長さであれば、シフトせずともW相の電流値を検出することができるはずである。しかし、V相とW相との時間間隔が小さいと、W相の正確な電流値を検出することができない。
また、U相の電流検出タイミング(AD変換タイミング)では、U相がハイ状態、V相がロー状態、W相がロー状態を取り、スイッチング素子のベクトルは(1,0,0)である。すなわち、上アームスイッチング素子の内オンするスイッチング素子の個数が奇数である。この時、U相とV相のスイッチングの時間間隔がA/D変換するのに必要な十分な長さであれば、シフトせずともU相の電流値を検出することができるはずである。しかし、U相とV相との時間間隔が小さいと、U相の正確な電流値を検出することができない。
そこで、実線で示しているように、正確な電流値を検出するための位相差12%をそれぞれのタイミングで確保するため、Duty最大のU相について、MIN_DUTY(12%)−(最大相Duty%−中間相Duty%)のシフト量で右側にシフトしている(すなわち位相を遅らせている)。また、Duty最小のW相について、MIN_DUTY(12%)−(中間相Duty%−最小相Duty%)のシフト量で左側にシフトしている(すなわち位相を早めている)。Duty中間のV相についてはシフトはしていない。なお、5周期とも同様のシフト処理をしている。
A/D変換は、Duty最大相であるU相及び最小相であるW相の2相の電流が検出できる検出可能タイミングの最適な場所において実施する。すなわち、Duty最小であるW相の電流検出の場合は、第1検出周期中のW相PWM信号立下りの後、Duty中間であるV相PWM信号立下り直前のA/D変換に必要な期間が電流検出期間である(左側の網掛部分)。また、Duty最大であるU相の電流検出の場合は、第2検出周期中のV相PWM信号立下りの後、U相PWM信号立下り直前のA/D変換に必要な期間が電流検出期間である(右側の網掛部分)。
図5は、2相とも検出可能な場合のタイミングチャートである。第1検出周期(偶数ベクトル検出周期)において、V相(デューティ25%)とW相(50%)のスイッチングの時間間隔が十分大きい。このため、この時間間隔(このときのベクトルは(1,0,1))において正確な電流値を検出することができる。また、第2検出周期(奇数ベクトル検出周期)において、U相(75%)とW相(50%)とのスイッチングの時間間隔が大きい。このため、この時間間隔(このときのベクトルは(1,0,0))においても正確な電流値を検出することができる。したがって、シフトは実施する必要がない。なお、図中のシャント抵抗波形は、シャント抵抗26の両端の電圧波形を表している(以下同様)。
A/D変換は、Duty最大相であるU相及び最小相であるW相の2相の電流が検出できる検出可能タイミングの最適な場所において実施する。すなわち、Duty最小であるV相の電流検出の場合は、第1検出周期中のDuty中間であるW相PWM信号立下り直前のA/D変換に必要な期間に行う(左側の網掛部分)。また、Duty最大であるU相の電流検出の場合は、第2検出周期中のU相PWM信号立下り直前のA/D変換に必要な期間に行う(右側の網掛部分)。
図6(a)は、奇数ベクトルのみ検出可能な場合のタイミングチャートである。第1検出周期(偶数ベクトル検出周期)において、V相(デューティ39.6%)とW相(45.8%)のスイッチングの時間間隔が小さい。このため、この時間間隔においてV相の正確な電流値を検出することができない。一方、第2検出周期(奇数ベクトル検出周期)において、U相(64.6%)とW相(45.8%)のスイッチングの時間間隔が大きい。このため、この時間間隔においてはU相の正確な電流値を検出することができる。
すなわち第1検出周期(偶数ベクトル検出周期)において、偶数ベクトル、ここでは(1,0,1)の状態において、V相の正確な電流値を検出することができないため、図6(b)のように3相のうちデューティが最小であるV相のPWM信号を左側に(位相を早めるように)位相シフトする。これにより、V相とW相のスイッチング時間間隔が大きくなる。これにより、電流値が安定するのでV相の正確な電流値をA/D変換器で検出することができる。なお、第2検出周期(奇数ベクトル検出周期)において、V相の位相シフト後も、U相とW相のスイッチングの時間間隔が大きい。このため、この時間間隔においてもU相の正確な電流値を検出することができる。
A/D変換は、Duty最小であるV相の電流検出の場合は、第1検出周期中のV相PWM信号立下りの後、Duty中間であるW相PWM信号立下り直前のA/D変換に必要な期間に行う(左側の網掛部分)。また、Duty最大であるU相の電流検出の場合は、第2検出周期中のW相PWM信号立下りの後、U相PWM信号立下り直前のA/D変換に必要な期間に行う(右側の網掛部分)。
図7(a)は、偶数ベクトルのみ検出可能な場合のタイミングチャートである。第1検出周期(偶数ベクトル検出周期)において、V相(デューティ35.4%)とW相(54.2%)のスイッチングの時間間隔が大きい。このため、この時間間隔においてV相の正確な電流値を検出することができる。一方、第2検出周期(奇数ベクトル検出周期)において、U相(60.4%)とW相(54.2%)のスイッチングの時間間隔が小さい。このため、この時間間隔においてU相の正確な電流値を検出することができない。
すなわち奇数ベクトル、ここではベクトル(1,0,0)の状態において、U相の正確な電流値を検出することができないため、図7(b)のように3相のうちデューティが最大であるU相のPWM信号を右側に(位相を遅らせるように)位相シフトする。これにより、U相とW相のスイッチングの時間間隔が大きくなる。これにより、U相の正確な電流値を検出することができる。第1検出周期(偶数ベクトル検出周期)において、U相の位相シフト後も、V相とW相のスイッチングの時間間隔が大きい。このため、この時間間隔においてV相の正確な電流値を検出することができる。
A/D変換は、Duty最小であるV相の電流検出の場合は、第1検出周期中のV相PWM信号立下りの後、Duty中間であるW相PWM信号立下り直前のA/D変換に必要な期間に行う(左側の網掛部分)。また、Duty最大であるU相の電流検出の場合は、第2検出周期中のW相PWM信号立下りの後、U相PWM信号立下り直前のA/D変換に必要な期間に行う(右側の網掛部分)。
図8(a)は、2相検出不可能な場合のタイミングチャートである。第1検出周期(偶数ベクトル検出周期)において、V相(デューティ45%)とW相(50%)のスイッチングの時間間隔が小さい。このため、この時間間隔においてV相の正確な電流値を検出することができない。第2検出周期(奇数ベクトル検出周期)において、U相(55%)とW相(50%)のスイッチングの時間間隔も小さい。このため、この時間間隔においてもU相の正確な電流値を検出することができない。
すなわち図8(a)の第1検出周期(偶数ベクトル検出周期)において、偶数ベクトル、ここでは(1,0,1)の状態において、V相の正確な電流値を検出することができないため、図8(b)のようにデューティが最小であるV相のPWM信号を左側に(位相を早めるように)位相をシフトする。これにより、V相とW相のスイッチング時間間隔が大きくなる。さらに、図8(a)の第2検出周期(奇数ベクトル検出周期)において、奇数ベクトル、ここでは(1,0,0)の状態において、U相の正確な電流値を検出することができないため、図8(b)のようにデューティが最大であるU相のPWM信号を右側に(位相を遅らせるように)位相シフトする。これにより、U相とW相のスイッチング時間間隔が大きくなる。したがって最終的に、U相及びV相の正確な電流値を検出することができる。
A/D変換は、Duty最小であるV相の電流検出の場合は、第1検出周期中のV相PWM信号立下りの後、Duty中間であるW相PWM信号立下り直前のA/D変換に必要な期間に行う(左側の網掛部分)。また、Duty最大であるU相の電流検出の場合は、第2検出周期中のW相PWM信号立下りの後、U相PWM信号立下り直前のA/D変換に必要な期間に行う(右側の網掛部分)。
ここで、搬送波に関して三角状信号と鋸歯状信号との電流リップルに関する比較を行う。三角状信号は、鋸歯状信号と比べて電流リップルが少ないという利点がある。その理由は、次の通りである。力行(りきこう:各相のON/OFF状態に差があるとき)と回生(各相のON/OFF状態に差がないとき)から一周期のPWM信号が成り立っているが、力行では、電流が正の方向に変化する。回生では、電流が負の方向に変化する。これらの変化の傾きは、モータのコイルのインダクタンス及びモータのコイルの抵抗に基づく時定数によって決まっている。
力行から回生、または回生から力行の状態へ変化することで電流リップルが発生する。鋸歯状信号では、各相のPWM信号の立ち上がり時刻が同じである。例えば図9の鋸歯状信号での力行と回生の状態変化は、回生→力行→回生となっている。一方、三角状信号では、各相のPWM信号の立ち上がり時刻が異なる。図10の三角状信号での力行と回生の状態変化は、回生→力行→回生→力行→回生となっている。よって、三角状信号を使用している方が一周期の電流の変化回数が多いことがわかる。
このように三角状信号を使用した場合は、一周期の中で変化の回数が多い。よって、正/負への変化量が小さく、電流リップルが小さくなる。一方、鋸歯状信号を使用した場合は、一周期の中で変化の回数が少なく、正/負への変化量が大きい。すなわち、電流リップルが大きい。しかし、本発明のように1相又は2相に位相シフトを施すと鋸歯状信号を使用した場合であっても各相のPWM信号の立ち上がり時刻が異なる状況が多くなり、その結果電流リップルが小さくなるという利点がある。
図11は、鋸歯状信号を使用した場合の多相電動機の制御装置のタイミングチャートである。50μsecのキャリア周期において、U相PWM信号がデューティ55%、V相PWM信号がデューティ45%、W相PWM信号がデューティ50%の場合を示している。V相とW相間(このときのベクトルは(1,0,1))、W相とU相間(このときのベクトルは(1,0,0))の時間間隔が5%と短いため、その期間のシャント波形においてスイッチングノイズが収まらず、正確に電流値を検出するためのA/D変換時間がとれない。そこで、デューティが最大のU相を7%右側に、最小のV相を7%左側にシフトさせれば、検出に必要なDuty差(12%)を確保できる。
図12は、三角状信号を使用した場合の多相電動機の制御装置のタイミングチャートである。鋸歯状信号を使用した場合と同様に50μsecのキャリア周期において、U相PWM信号がデューティ55%、V相PWM信号がデューティ45%、W相PWM信号がデューティ50%の場合を示している。三角波を使用した場合、両側に位相差が生じるためV相とW相間(ベクトルは(1,0,1))、W相とU相間(ベクトルは(1,0,0))の時間間隔が2.5%と短い。したがって、デューティが最大のU相を9.5%右側に、最小のV相を9.5%左側にシフトさせなければ、検出に必要なDuty差(12%)を確保できない。なお、三角状信号の場合PWM信号が左右対称なので、同様にデューティが最大のU相を9.5%左側に、最小のV相を9.5%右側にシフトさせても検出に必要なDuty差(12%)が確保できる。しかし、鋸歯状信号の場合と比較してシフト量は9.5%−7%=2.5%だけ大きくなるので不利である。
このように、搬送波が鋸歯状信号の場合、三角状信号の場合と比較して、2相のスイッチング間の長さが2倍になる。よって、三角状信号の場合と比較して、PWM信号の位相シフトを実施せずとも、シャント抵抗両端の電圧波形が安定した状態でA/D変換を実施することができる3相PWM状態が多く存在することも利点である。
三角状信号を使用した場合においても、A/D変換は、Duty最大相であるU相及び最小相であるV相の2相の電流が検出できる検出可能タイミングの最適な場所において実施する。たとえば図12のように1周期中の後半でA/D変換を行う場合は、Duty最小であるV相の電流検出の場合は、第1検出周期中のDuty中間であるW相PWM信号立下り直前のA/D変換に必要な期間に行う(左側の網掛部分)。また、Duty最大であるU相の電流検出の場合は、第2検出周期中のU相PWM信号立下り直前のA/D変換に必要な期間に行う(右側の網掛部分)。なお、1周期中の前半でA/D変換を行う場合も、同様の手法で各相の位相シフトを実施し、A/D変換器で電流を検出することができるので説明を省略する。
本発明では、以上述べた以外にも種々の実施形態を採用することができる。例えば、上記実施形態では、上アームスイッチング素子と下アームスイッチング素子にFETを使用したが、例えばIGBT(絶縁ゲート型バイポーラモードトランジスタ)のような他のスイッチング素子を使用するようにしてもよい。さらに、電流検出手段は、実施形態に示した以外の構成を採用してもよく、電源とFETブリッジ間に設置してもよい。
また、上記実施形態では、多相電動機としてブラシレスモータを例に挙げたが、本発明は誘導電動機や同期電動機のような複数の相を有する電動機を制御するための制御装置全般に適用することができる。