JP2009095915A - 表面被覆切削工具 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットからなる工具基体の表面に、(a)下部層として、組成式:(Al1−α−βCrαMβ)Nγで表した場合、0.2≦α≦0.4、0.01≦β≦0.25、0.9≦γ≦1(Mは、Crを除く周期律表4a,5a,6a族の元素、Si、B、Yのうちから選ばれた1種又は2種以上の添加成分)を満足する均一組成のAlとCrのMの複合窒化物層、(b)上部層として、組成式:(Al1−α−βCrαMβ)Nδで表した場合、0.2≦α≦0.4、0.01≦β≦0.25、0.5≦δ<1を満足する平均組成を有し、かつ、上部層表面における窒素含有割合(ε値)が、0≦ε≦0.35を満足する組成傾斜型のAlとCrとMの複合窒化物層、を蒸着形成する。
【選択図】 なし
Description
組成式:(Al1−P−QCrPMQ)N(ここで、Mは、Crを除く周期律表4a,5a,6a族の元素、Si、B、Yのうちから選ばれた1種又は2種以上の添加成分であり、また、P、Qは原子比によるCr成分、M成分の含有割合を示す)
を満足するAlとCrとMの複合窒化物層(以下、これらを総称して、(Al,Cr,M)Nで示す)からなる硬質被覆層を物理蒸着してなる被覆工具が知られており、かつ前記被覆工具の硬質被覆層である(Al,Cr,M)N層が、構成成分であるAlによって高温硬さ、同Crによって高温強度、また、CrとAlの共存含有によって耐熱性が向上し、さらに、Crを除く周期律表4a,5a,6a族の元素、Si、B、Yのうちから選ばれた1種又は2種以上からなるM成分が、硬質被覆層の耐摩耗性、高温耐酸化性等の特性を向上させることから、これを各種の一般鋼や普通鋳鉄などの連続切削や断続切削加工に用いた場合にすぐれた切削性能を発揮することも知られている。
「 炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体の表面に、
(a)下部層として、2〜10μmの平均層厚を有し、その組成を、
組成式:(Al1−α−βCrαMβ)Nγ
で表した場合、原子比で、0.2≦α≦0.4、0.01≦β≦0.25、0.9≦γ≦1(ここで、Mは、Crを除く周期律表4a,5a,6a族の元素、Si、B、Yのうちから選ばれた1種又は2種以上の添加成分を示し、また、αはCrの含有割合、βはMの含有割合、γはNの含有割合をそれぞれ示す)を満足する均一組成のAlとCrのMの複合窒化物層、
(b)上部層として、0.3〜1μmの平均層厚を有し、その組成を、
組成式:(Al1−α−βCrαMβ)Nδ
で表した場合、原子比で、0.2≦α≦0.4、0.01≦β≦0.25、0.5≦δ<1(ここで、Mは、Crを除く周期律表4a,5a,6a族の元素、Si、B、Yのうちから選ばれた1種又は2種以上の添加成分を示し、また、αはCrの含有割合、βはMの含有割合、γはNの含有割合をそれぞれ示す)を満足する平均組成を有し、かつ、上部層における窒素含有割合が、下部層側から上部層表面に向かって減少する濃度分布構造を有し、しかも、上部層表面における窒素含有割合(ε値)が、0≦ε≦0.35を満足する組成傾斜型のAlとCrとMの複合窒化物層、
上記(a)、(b)で構成された硬質被覆層を蒸着形成してなる表面被覆切削工具。」
に特徴を有するものである。
下部層は、ほぼ均一組成のAlとCrとMの複合窒化物層((Al,Cr,M)N層)で構成されているが、その構成成分であるAl成分には硬質被覆層における高温硬さと耐熱性を向上させ、同Cr成分には高温強度を向上させ、CrとAlの共存含有によって高温耐酸化性を向上させる作用があり、また、M成分のうちの、Crを除く周期律表4a,5a,6a族の元素、Si、B、には硬質被覆層の耐摩耗性を向上させる作用があり、さらに、Yには硬質被覆層の高温耐酸化性を向上させる作用がある。ただ、AlとMとの合量に占めるCrの含有割合を示すα値(原子比)が、0.2未満であると、溶着性の高い被削材の高速切削加工において最小限必要とされる高温強度を確保することができないためチッピングを発生しやすくなり、一方、α値(原子比)が0.4を超えると、相対的なAl含有割合の減少により、高温硬さの低下、耐熱性の低下が生じ、偏摩耗の発生、熱塑性変形の発生等により耐摩耗性の向上が期待できなくなり、さらに、AlとCrとの合量に占めるM成分の含有割合を示すβ値(原子比)が0.01未満では、M成分を含有させたことによる耐摩耗性、高温耐酸化性等の特性向上が期待できず、一方、同β値が0.25を超えると、高温強度に低下傾向が現れるようになることから、α値を0.2〜0.4、β値を0.01〜0.25と定めた。
なお、β値は、M成分として含有される、Crを除く周期律表4a,5a,6a族の元素、Si、B、Yからなる各成分の含有割合の合計値である。
また、下部層における金属成分Al、Cr、Mの合計量を1とした場合、これら金属成分に対するN成分の含有割合(但し、原子比)を示すγ値が0.9≦γ≦1の範囲を外れると、溶着性の高い被削材の高速切削加工において必要とされる高温硬さと高温強度を保持することができなくなるため、N成分の含有割合(γ値)(但し、原子比)を0.9≦Y≦1と定めた。
さらに、下部層の平均層厚が2μm未満では、自身のもつすぐれた耐摩耗性を長期に亘って発揮するには不十分であり、一方その平均層厚が10μmを越えると、高速切削加工で切刃部にチッピングが発生し易くなることから、その平均層厚は2〜10μmと定めた。
上部層を構成する組成傾斜型のAlとCrとMの複合窒化物層((Al,Cr,M)N層)は、下部層側から上部層表面に向かってN含有割合が減少する濃度分布構造を有している。そのため、下部層近傍の上部層は、下部層の平均組成に近い組成を有し、下部層と上部層は組成的に連続性をもった層として形成されることから、上部層と下部層という2層構造から硬質被覆層が形成されていたとしても、層間の接合強度が高く、かつ、すぐれた高温硬さ、高温強度、耐熱性を備えた上部層が形成される。一方、上部層の表面側へ向かうにしたがって、(Al,Cr,M)N層中のN含有割合が減少するため、上部層の表面には、熱伝導性、熱放散性にすぐれしかも表面平滑性のすぐれた層が形成され、被削材との潤滑性が改善される。
上部層の平均組成について、AlとCrとMの合量に占めるCrの含有割合(α値)、Mの含有割合(β値)は、下部層の場合と同様な理由から、0.2≦α≦0.4、0.01≦β≦0.25と定めた。
また、上部層における金属成分Al、Cr、Mの合計量を1とした場合、これら金属成分に対するNの含有割合については、上部層全体として、所定の高温硬さ、高温強度、耐熱性を確保する必要があるという点から、平均組成としてのNの含有割合(δ値)は0.5≦δ<1と定めた。
しかし、上部層の表面における層中のN成分の含有割合(ε値)が0.35を超えると、上部層表面における熱伝導性、熱放散性、表面平滑性の向上効果が少なく、その結果、被削材との潤滑性、耐摩耗性が十分でなくなることから、上部層の表面におけるAl、Cr、Mの合計量を1とした場合、これら金属成分に対する上部層表面でのNの含有割合(ε値)を0〜0.35に定めた。なお、ここで、εの値が0(ゼロ)とは、上部層表面が、AlとCrとMの複合窒化物ではなく、AlとCrとMの合金で形成されていることに他ならないが、この発明では、上部層表面がAlとCrとMの複合窒化物であるばかりでなく、Al−Cr−M合金である場合をも含め、便宜上、AlとCrとMの複合窒化物層((Al,Cr,M)N層)と称することにする(上部層表面がAl−Cr−M合金である場合は、当然に、ε=0である)。
また、組成傾斜型の上部層の平均層厚が0.3μm未満であると、すぐれた熱伝導性・熱放散性という特性を十分発揮することができず、また、その平均層厚が1μmを超えると、被削材との間で溶着を生じやすくなることから、上部層の平均層厚は0.3〜1μmと定めた。
したがって、均一組成の(Al,Cr,M)N層からなる下部層と、組成傾斜型の(Al,Cr,M)N層からなる上部層とで形成された2層構造の硬質被覆層は、すぐれた高温硬さ、高温強度、耐熱性を備えるとともに、すぐれた熱伝導性、熱放散性、表面平滑性をも相兼ね備え、溶着性の高い被削材の高速切削加工においてすぐれた耐チッピング性と耐摩耗性を発揮する。
(b)まず、装置内を排気して0.1Pa以下の真空に保持しながら、ヒーターで装置内を500℃に加熱した後、前記回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体に−1000Vの直流バイアス電圧を印加し、かつ金属Tiからなるボンバード洗浄用カソード電極とアノード電極との間に100Aの電流を流してアーク放電を発生させ、もって工具基体表面をボンバード洗浄し、
(c)次に、装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入して4Paの反応雰囲気とすると共に、前記回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体に−100Vの直流バイアス電圧を印加し、かつ、上記Al−Cr−M合金からなるカソード電極(蒸発源)とアノード電極との間に120Aの電流を流してアーク放電を発生させ、前記工具基体の表面に、表3、表4に示される目標(均一)組成、目標平均層厚の(Al,Cr,M)N層を蒸着形成した後、
(d)前記Al−Cr−M合金からなるカソード電極(蒸発源)とアノード電極との間のアーク放電を継続させつつ、同時に、装置内雰囲気を窒素ガス雰囲気からアルゴンガス雰囲気へと徐々に切り替え、最終的には0.5Paの窒素−アルゴン混合ガス雰囲気中あるいはアルゴンガス雰囲気中で、上記カソード電極(蒸発源)とアノード電極との間に120Aの電流を流してアーク放電を発生させて、表3、表4に示される目標平均組成、目標表面N量、目標平均層厚の組成傾斜型(Al,Cr,M)N層を上部層として蒸着形成することにより、
本発明被覆工具としての本発明表面被覆スローアウエイチップ(以下、本発明被覆チップと云う)1〜16をそれぞれ製造した。
なお、実施例1〜3でいう「表面N量」とは、組成傾斜型(Al,Cr,M)N層からなる上部層の表面の組成を(Al1−α−βCrαMβ)Nεで表した場合のε値(但し、0≦ε≦0.35)をいう。
比較被覆工具としての比較表面被覆スローアウエイチップ(以下、比較被覆チップと云う)1〜16をそれぞれ製造した。
被削材:JIS・S55Cの丸棒、
切削速度: 350 m/min.、
切り込み: 1.2 mm、
送り: 0.25 mm/rev.、
切削時間: 10 分、
の条件(切削条件A)での炭素鋼の乾式高速連続切削加工試験(通常の切削速度は、200m/min.)、
被削材:JIS・SCM440の丸棒、
切削速度: 370 m/min.、
切り込み: 1.5 mm、
送り: 0.25 mm/rev.、
切削時間: 10 分、
の条件(切削条件B)での合金鋼の乾式高速連続切削加工試験(通常の切削速度は、250m/min.)、
被削材:JIS・SUS304の丸棒、
切削速度: 250 m/min.、
切り込み: 1.2 mm、
送り: 0.3 mm/rev.、
切削時間: 5 分、
の条件(切削条件C)でのステンレス鋼の乾式高速断続切削加工試験(通常の切削速度は、180m/min.)、
を行い、いずれの切削加工試験でも切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。この測定結果を表7に示した。
本発明被覆工具としての本発明表面被覆超硬製エンドミル(以下、本発明被覆エンドミルと云う)1〜8をそれぞれ製造した。
比較被覆工具としての比較表面被覆超硬製エンドミル(以下、比較被覆エンドミルと云う)1〜8をそれぞれ製造した。
本発明被覆エンドミル1〜3および比較被覆エンドミル1〜3については、
被削材−平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・S55Cの板材、
切削速度: 150 m/min.、
溝深さ(切り込み): 5 mm、
テーブル送り: 400 mm/分、
の条件での炭素鋼の乾式高速溝切削加工試験(通常の切削速度は、100m/min.)、
本発明被覆エンドミル4〜6および比較被覆エンドミル4〜6については、
被削材−平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・SCM440の板材、
切削速度: 180 m/min.、
溝深さ(切り込み): 8 mm、
テーブル送り: 450 mm/分、
の条件での合金鋼の乾式高速溝切削加工試験(通常の切削速度は、120m/min.)、
本発明被覆エンドミル7、8および比較被覆エンドミル7、8については、
被削材−平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・SUS304の板材、
切削速度: 160 m/min.、
溝深さ(切り込み): 16 mm、
テーブル送り: 350 mm/分、
の条件でのステンレス鋼の乾式高速溝切削加工試験(通常の切削速度は、100m/min.)、
をそれぞれ行い、いずれの高速溝切削加工試験でも切刃部の外周刃の逃げ面摩耗幅が使用寿命の目安とされる0.1mmに至るまでの切削溝長を測定した。この測定結果を表9、10にそれぞれ示した。
本発明被覆工具としての本発明表面被覆超硬製ドリル(以下、本発明被覆ドリルと云う)1〜8をそれぞれ製造した。
比較被覆工具としての比較表面被覆超硬製ドリル(以下、比較被覆ドリルと云う)1〜8をそれぞれ製造した。
被削材−平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・S55Cの板材、
切削速度: 140 m/min.、
送り: 0.20 mm/rev、
穴深さ: 8 mm、
の条件での炭素鋼の湿式高速穴あけ切削加工試験(通常の切削速度は、80m/min.)、
本発明被覆ドリル4〜6および比較被覆ドリル4〜6については、
被削材−平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・SCM440の板材、
切削速度: 150 m/min.、
送り: 0.25 mm/rev、
穴深さ: 15 mm、
の条件での合金鋼の湿式高速穴あけ切削加工試験(通常の切削速度は、80m/min.)、
本発明被覆ドリル7、8および比較被覆ドリル7、8については、
被削材−平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・SUS304の板材、
切削速度: 140 m/min.、
送り: 0.15 mm/rev、
穴深さ: 28 mm、
の条件でのステンレス鋼の湿式高速穴あけ切削加工試験(通常の切削速度は、80 m/min.)、
をそれぞれ行い、いずれの湿式高速穴あけ切削加工試験(水溶性切削油使用)でも先端切刃面の逃げ面摩耗幅が0.3mmに至るまでの穴あけ加工数を測定した。この測定結果を表11、12にそれぞれ示した。
Claims (1)
- 炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体の表面に、
(a)下部層として、2〜10μmの平均層厚を有し、その組成を、
組成式:(Al1−α−βCrαMβ)Nγ
で表した場合、原子比で、0.2≦α≦0.4、0.01≦β≦0.25、0.9≦γ≦1(ここで、Mは、Crを除く周期律表4a,5a,6a族の元素、Si、B、Yのうちから選ばれた1種又は2種以上の添加成分を示し、また、αはCrの含有割合、βはMの含有割合、γはNの含有割合をそれぞれ示す)を満足する均一組成のAlとCrのMの複合窒化物層、
(b)上部層として、0.3〜1μmの平均層厚を有し、その組成を、
組成式:(Al1−α−βCrαMβ)Nδ
で表した場合、原子比で、0.2≦α≦0.4、0.01≦β≦0.25、0.5≦δ<1(ここで、Mは、Crを除く周期律表4a,5a,6a族の元素、Si、B、Yのうちから選ばれた1種又は2種以上の添加成分を示し、また、αはCrの含有割合、βはMの含有割合、δはNの含有割合をそれぞれ示す)を満足する平均組成を有し、かつ、上部層における窒素含有割合が、下部層側から上部層表面に向かって減少する濃度分布構造を有し、しかも、上部層表面における窒素含有割合(ε値)が、0≦ε≦0.35を満足する組成傾斜型のAlとCrとMの複合窒化物層、
上記(a)、(b)で構成された硬質被覆層を蒸着形成してなる表面被覆切削工具。
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