JP2009091638A - 熱処理方法及び熱処理装置 - Google Patents

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崇 櫻井
Toshishiyun Kakehi
都志春 筧
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Abstract

【課題】熱処理後の被処理体の歪みを抑制する。
【解決手段】被処理体を熱処理する際の被処理体の昇温処理工程において、被処理体をオーステナイト変態の開始直前の第一の設定温度まで昇温する。その後、昇温した被処理体を第一の設定温度で所定の時間保持し、被処理体内の温度分布を均一にする。その後、第一の設定温度に保持された被処理体を、被処理体に溶質が固溶化する第二の設定温度まで昇温する。このように被処理体内の温度分布を第一の設定温度で均一にすることにより、被処理体にオーストナイト変態による不均一な収縮が生じず、かつ、熱応力による不均一な膨張が起きず、熱処理後の被処理体の歪みを抑制できる。
【選択図】図3

Description

本発明は、例えば鋼材等の被処理体を昇温処理して、炭素等の溶質を固溶化させる熱処理方法及び熱処理設備に関する。
従来、鋼材等の被処理体を熱処理する熱処理設備の一種として、連続ガス浸炭設備が知られている。かかる連続ガス浸炭設備には、例えば、昇温処理を行う昇温室(予熱室)、浸炭処理を行う浸炭室、降温処理を行う降温室(冷却室)、再加熱処理を行う再加熱室、焼入処理を行う焼入室等の処理室が、被処理体の搬送方向においてこの順に並べて設けられている。そして、被処理体がこの設備内を連続して搬送され、各処理室内で被処理体に所定の処理が施される(特許文献1)。
このような連続ガス浸炭設備では、昇温処理を行う際に発生する熱応力によって被処理体が不均一に膨張し、熱処理後の被処理体内に歪みが発生することがある。そこで特許文献1では、このような熱応力による歪みを防止するため、昇温室における被処理体の昇温処理の際の昇温カーブを制御すること、すなわち、被処理体の表面と内部の昇温速度が同じになるように制御することが提案されている。
特開平8−199331号公報
しかしながら、従来のように昇温カーブを制御しただけでは、被処理体の表面と内部の昇温速度を同じにできるが、被処理体の表面内の温度分布を均一に制御することができないことがあった。そうすると、オーステナイト変態の開始点がばらつくために、大きな変態応力が発生し被処理体が不均一に収縮し、その結果、熱処理後の被処理体内に歪みが発生することがあった。
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、熱処理後の被処理体の歪みを抑制することができる熱処理方法及び熱処理設備を提供することを目的とする。
前記の目的を達成するため、本発明は、被処理体を昇温処理して溶質を固溶化させる熱処理方法であって、被処理体をオーステナイト変態の開始直前の第一の設定温度まで昇温し、前記昇温した被処理体を前記第一の設定温度で所定の時間保持し、前記第一の設定温度に保持された被処理体を、被処理体に溶質が固溶化する第二の設定温度まで昇温することを特徴としている。
本発明によれば、被処理体をオーステナイト変態の開始直前の第一の設定温度まで昇温した後、被処理体を第一の設定温度で所定の時間保持しているので、被処理体のオーステナイト変態が開始する前に、被処理体内の温度を均一にすることができる。すなわち、被処理体の表面と内部の温度を均一にできるだけでなく、被処理体の表面内の温度も均一にすることができる。そうすると、その後、被処理体を第二の設定温度まで昇温する際に、オーステナイト変態が開始しても、その開始点が被処理体内で均一なので、被処理体がオーステナイト変態によって不均一に収縮することがない。また、このように被処理体内の温度を均一にしているので、熱応力によって被処理体が不均一に膨張することもない。したがって、被処理体を第二の設定温度まで昇温する際に、被処理体にオーステナイト変態による不均一な収縮が起きず、かつ、熱応力による不均一な膨張が起きないので、熱処理後の被処理体の歪みを抑制することができる。
別な観点による本発明においては、被処理体を昇温処理して溶質を固溶化させる熱処理設備であって、被処理体の昇温を行う昇温室と、前記昇温室内の被処理体の温度を調節する温度調節機構とを備え、前記温度調節機構は、前記昇温室内の被処理体の温度を、オーステナイト変態の開始直前の第一の設定温度と、被処理体に溶質が固溶化する第二の設定温度とに調節することが可能な構成であり、前記昇温室内の被処理体の温度は、前記第一の設定温度に昇温された後、当該第一の設定温度で所定の時間保持され、その後前記第二の設定温度まで昇温される構成としたことを特徴としている。
前記昇温室は、被処理体を前記第一の設定温度まで昇温させることができる第一の昇温ゾーンと、被処理体を前記第一の設定温度から前記第二の設定温度まで昇温させることができる第二の昇温ゾーンとを備えていてもよい。
前記第一の昇温ゾーンと前記第二の昇温ゾーンの間を開閉する開閉扉を備えていてもよい。
本発明によれば、オーステナイト変態による被処理体の不均一な収縮を抑制することができ、かつ、熱応力による被処理体の不均一な膨張が抑制できるので、熱処理後の被処理体の歪みを抑制することができる。
以下、本発明にかかる実施形態を、熱処理設備としての連続ガス浸炭設備1に基づいて、図面を参照しながら説明する。図1に示すように、連続ガス浸炭設備1は、鋼材品である被処理体2をX方向(略水平方向)に沿った搬送方向Dに搬送しながら被処理体2を高温の状態で処理する(昇温処理、浸炭処理、拡散処理、降温処理からなるガス浸炭を行う)熱処理炉3と、被処理体2の油冷(油焼入れ処理)を行う油冷部4と、連続ガス浸炭設備1の各部を制御する制御部5(制御コンピュータ)を備えている。
熱処理炉3の炉体10内には、複数の処理室として、被処理体2の昇温処理を行う昇温室11、浸炭処理及び拡散処理を行う浸炭室12(浸炭拡散室)、拡散処理後の降温処理を行う降温室13が、入口側から出口側に向かう搬送方向Dにおいてこの順に並べて設けられている。炉体10の入口側には、被処理体2を連続ガス浸炭設備1の外部から炉体10内(昇温室11)に搬入するための搬入口21、及び、搬入口21を開閉する搬入口扉22が設けられている。炉体10の出口側には、被処理体2を炉体10内(降温室13)から搬出して油冷部4(後述する油槽室102)に搬入するための搬入出口25、及び、搬入出口25を開閉する搬入出口扉26が設けられている。
炉体10の内部において、昇温室11と浸炭室12の間、浸炭室12と降温室13の間には、壁体31、32(仕切壁)がそれぞれ備えられている。すなわち、炉体10の内部は2つの壁体31、32によって3つの処理室に仕切られている。各壁体31、32には、被処理体2をX方向に通過させる通過口41、42がそれぞれ開口されている。各通過口41、42は、開閉扉51、52によってそれぞれ開閉される。すなわち、昇温室11と浸炭室12の間は開閉扉51によって開閉され、浸炭室12と降温室13の間は開閉扉52によって開閉されるようになっている。このような開閉扉51、52を設け、開閉扉51、52によって各処理室の雰囲気を仕切ることが可能な構成にすると、開閉扉51、52を設けない場合と比較して、各処理室の雰囲気制御を行い易くなる。
搬入出口25は、降温室13と油冷部4(後述する油槽室102)との間に設けられている。搬入出口扉26には、降温室13側と油冷部4側(後述する油槽室102)とを連通させる連通孔26aが設けられている。
因みに、本実施形態においては、昇温室11は1個の被処理体2を収納できる大きさに形成されている。浸炭室12は3個の被処理体2をX方向において一列に並べて収納できる大きさに形成されている。すなわち、搬送方向Dにおいて浸炭室12の上流側、浸炭室12の中央部、浸炭室12の下流側に、被処理体2をそれぞれ1つずつ配置できるように構成されている。降温室13は1個の被処理体2を収納できる大きさに形成されている。
また、熱処理炉3には、被処理体2を搬送する搬送機構としてのローラコンベア55、炉体10内の雰囲気を攪拌する攪拌機構56(ファン)、炉体10内の雰囲気を加熱するヒータ57(図2参照)が設けられている。ヒータ57には、例えばガスバーナが用いられ、このガスバーナは加熱温度によって出力(ガスの燃焼量)を変更することができる。
図1に示すように、ローラコンベア55は、複数のローラ55aを備えている。ローラ55aは、炉体10の下部においてX方向に並べて設けられており、各ローラ55aの上面に被処理体2を載せて搬送するように構成されている。攪拌機構56は、昇温室11、浸炭室12、降温室13の天井部にそれぞれ設けられている。
図2に示すように、ヒータ57は、昇温室11、浸炭室12、降温室13にそれぞれ設けられている。また、各ヒータ57(発熱体部分)は、炉体10の内側面(すなわち、ローラコンベア55による被処理体2の搬送経路の両側)に沿って、X方向において複数本並べて設けられている。さらに、各ヒータ57は、制御部5の制御命令にしたがって出力(発熱量)が調節されるように構成されている。また、各ヒータ57の出力、すなわち、昇温室11の温度、浸炭室12の温度、降温室13の温度は、それぞれ個別に調節できるようになっている。
さらに、図1に示すように、熱処理炉3には、炉体5内に各種ガスを供給するガス供給路として、例えば都市ガスなどの炭化水素系のガス(C)をエンリッチガスとして供給するエンリッチガス供給路71、変成ガスとしてのRXガス(例えばCO、CO、H、N等を含有するガス)を供給するRXガス供給路72、空気を供給する空気供給路73、窒素ガス(N)を供給する窒素ガス供給路74が接続されている。また、昇温室11には、炉体10内の排気を行うエキセス81(入口側排気機構)が設けられている。
エンリッチガス供給路71は、例えば浸炭室12、降温室13にエンリッチガスを供給するように配設されている。RXガス供給路72は、例えば昇温室11、浸炭室12、降温室13にRXガスを供給するように配設されている。空気供給路73は、例えば昇温室11、浸炭室12、降温室13に空気を供給するように配設されている。窒素ガス供給路74は、例えば昇温室11、浸炭室12、降温室13に窒素ガスを供給するように配設されている。
エキセス81は、例えば昇温室11の天井部に設けられており、昇温室11内のガスを連続ガス浸炭設備1の外部に排出するようになっている。なお、このエキセス81は、例えば昇温室11が外部の圧力に対して陰圧になった場合等には、昇温室11に対する外気(連続ガス浸炭設備1の外部の雰囲気)の取り入れを行う外気取り入れ路として機能することも可能である。エキセス81の開度、すなわち、昇温室11の排ガスの排気量又は外気の流入量は、調節可能にしてもよい。
油冷部4は、油冷部筐体101の内部に油槽室102が形成された構成になっており、油槽室102の下部には、オイル(冷却液)を貯留する油槽103が設けられている。また、油冷部4には、被処理体2を油槽室102内で搬送方向Dに搬送、及び、油槽103の上方と油槽103との間でZ方向に昇降移動させる搬送昇降機105(エレベータ)が設けられている。油冷部筐体101の出口側には、被処理体2を油槽室102から連続ガス浸炭設備1の外部に搬出させる油槽室搬出口111と、油槽室搬出口111を開閉する油槽室搬出口扉112が設けられている。
また、油冷部4には、前述したRXガス供給路72と、窒素ガス供給路74が接続されており、RXガス供給路72、窒素ガス供給路74からRXガス、窒素ガスがそれぞれ供給されるようになっている。
さらに、油冷部4には、油槽室102の排気を行う排気機構としてのエキセス120(出口側排気機構)が設けられている。エキセス120は、例えば油槽室102の天井部に設けられており、油槽室102内のガスを連続ガス浸炭設備1の外部に排出するようになっている。なお、このエキセス120は、例えば油槽室102が外部の圧力に対して陰圧になった場合等には、油槽室102に対する外気の取り入れを行う外気取り入れ路として機能することも可能である。エキセス120の開度、すなわち、油槽室102の排ガスの排気量又は外気の流入量は、調節可能にしてもよい。
上述した連続ガス浸炭設備1の各部の機能要素(例えば開閉扉51、52の移動機構、ローラコンベア55、ヒータ57等)は、制御部5の命令によって制御される。制御部5は、例えば汎用コンピュータ、シーケンサ等を備えており、所定の処理レシピにしたがって被処理体2を自動的に処理する制御を行うように構成されている。すなわち、制御部5の制御により、後に詳細に説明する昇温処理工程、浸炭処理工程、拡散処理工程、降温処理工程、油焼入処理工程からなる一連の熱処理工程(図3参照)、及び、昇温室11内の被処理体2の温度を第一の設定温度まで上昇させる第一の昇温工程、昇温室11内の被処理体2の温度を第一の設定温度に保持する保持工程、昇温室11内の被処理体2の温度を第一の設定温度から第二の設定温度まで昇温させる第二の昇温工程(図3参照)を実施できるようになっている。
さらに、本実施形態においては、昇温室11の雰囲気温度、浸炭室12の雰囲気温度、及び、降温室13の雰囲気温度を調節することで、昇温室11、浸炭室12、及び、降温室13内に収納されている各被処理体2の温度を調節する温度調節機構131が構成されている。温度調節機構131は、制御部5、昇温室11に備えられたヒータ57、浸炭室12に備えられたヒータ57、降温室13に備えられたヒータ57を有している(図2参照)。
温度調節機構131は、図3に示すように、例えば昇温室11の雰囲気温度を、2段階の所定の目標値、すなわち、被処理体2のオーステナイト変態の開始直前の第一の設定温度と、被処理体2に炭素等の溶質が固溶化する第二の設定温度とに調整することが可能である。すなわち、昇温室11の雰囲気温度を昇温させることで、昇温室11に収納されている被処理体2の温度を第一の設定温度と第二の設定温度に変化させることができる。第一の設定温度は、本実施の形態においては約700℃に設定されている。第二の設定温度は約930℃、すなわち後述する浸炭処理温度とほぼ同じ値に設定されている。なお、第一の設定温度は、例えば被処理体2が鉄系材料である場合、700℃〜800℃であればよい。また、この昇温室11における昇温プロセスは、被処理体2の温度測定結果(図示しない熱電対からの出力による温度測定結果)に基づいて時間設定をした昇温プロセスであってもよい。例えば被処理体2の実温に基づいて、被処理体2を第一の設定温度まで10分間昇温した後、第一の設定温度で5分間保持し、その後第二の設定温度まで30分間昇温するように制御する。
また、温度調節機構131は、図4に示すように、昇温室11の雰囲気温度を、第一の設定温度と第二の設定温度に、所定の周期で交互に昇降させるようになっている。より具体的には、昇温室11に被処理体2が搬入される際は、昇温室11の雰囲気温度を第一の設定温度に調節し、被処理体2の温度を第一の設定温度まで上昇させた後、第一の設定温度で所定の時間保持する。その後、昇温室11の雰囲気温度を第一の設定温度から第二の設定温度に調節し、被処理体2の温度を第二の設定温度に昇温させる。そして、次の被処理体2が搬入されると、昇温室11の雰囲気温度を第二の設定温度から第一の設定温度に調整し、搬入された被処理体2の温度を第一の温度まで上昇させるように設定されている。なお、被処理体2を第一の設定温度で保持する所定の時間は、被処理体2について、場所およびワーク内の温度ばらつきが均一になる時間で良く、被処理体2の材料の種別や大きさにもよるが、例えば2分〜30分が好ましく、さらに好ましくは5分〜20分程度である。前記保持時間により、ギア、クランクシャフト、ドライブシャフト、ボルト、ネジ、排気マニホールドなどの自動車部品の処理に対して十分に温度の均一性を得ることができる。
また、温度調節機構131は、図3に示すように、浸炭室12の雰囲気温度を、被処理体2の浸炭処理と拡散処理を行うことが可能な所定の目標値、すなわち、浸炭処理温度に調節することができる。そして、浸炭室12の雰囲気温度を調節することで、浸炭室12に収納されている被処理体2の温度を浸炭処理温度(例えば900℃〜960℃)にすることができる。浸炭処理温度は、本実施形態においては約930℃に設定されている。
さらに、温度調節機構131は、図3に示すように、降温室13の雰囲気温度を、被処理体2の降温処理を行うことが可能な所定の目標値、すなわち、降温処理温度に調節することができる。そして、降温室13の雰囲気温度を調節することで、降温室13に収納されている被処理体2の温度を降温処理温度にすることができる。降温処理温度は、本実施形態においては約850℃に設定されている。
次に、以上のように構成された連続ガス浸炭設備1を用いた被処理体2の熱処理方法について説明する。
先ず、被処理体2が搬入される前の連続ガス浸炭設備1においては、昇温室11、浸炭室12、降温室13、油槽室102内の雰囲気(雰囲気温度、圧力、組成等)が、制御部5の制御により、それぞれ所定の処理条件に調節される。例えば、昇温室11の温度は約700℃程度(第一の設定温度)、浸炭室12の温度は約930℃程度(浸炭処理温度)、降温室13の温度は約850℃程度(降温処理温度)に調節される。
昇温室11、浸炭室12、降温室13、油槽室102の雰囲気の調節は、制御部5の制御により、ヒータ57の出力(発熱量)、エンリッチガス供給路71によるエンリッチガスの供給流量、RXガス供給路72によるRXガスの供給流量、空気供給路73による空気の供給流量、窒素ガス供給路74による窒素ガスの供給流量、熱処理炉3のエキセス81による排気量、油冷部4のエキセス120による排気量等がそれぞれ調整されることにより行われる。具体的には、例えば昇温室11、浸炭室12、降温室13の雰囲気温度は、温度調節機構131の機能によって調節される。
また、熱処理炉3の搬入口21、通過口41、42、搬入出口25、油冷部4の油槽室搬出口111は、搬入口扉22、開閉扉51、52、搬入出口扉26、油槽室搬出口扉112によってそれぞれ閉じられている。このように昇温室11と浸炭室12の間に開閉扉51を備えることで、昇温室11と浸炭室12の間においてガスが過剰に移動することを抑制でき、昇温室11の雰囲気温度と浸炭室12の雰囲気温度を互いに異なる値に調節し易くなる。浸炭室12と降温室13の間に開閉扉52を備えることで、浸炭室12と降温室13の間においてガスが過剰に移動することを抑制でき、浸炭室12の雰囲気温度と降温室13の雰囲気温度を互いに異なる値に調節し易くなる。
なお、通過口41、42は、完全には密閉されておらず、例えば開閉扉51、52の上方等には、炉体5内のガスが通過可能な隙間が形成される。また、降温室13と油槽室102は、連通孔26aを通じて互いに連通している。したがって、浸炭室12や降温室13内のガスは、昇温室11、エキセス81を通じて外部に排気することができ、また、連通孔26a、油槽室102、エキセス120を通じて外部に排気することができる。このように適度に排気を行うことが可能な状態にしながら、各ガスを供給することで、昇温室11の処理雰囲気、浸炭室12の処理雰囲気、降温室13の処理雰囲気を、それぞれ適切に調節できる。
以上のように、連続ガス浸炭設備1内の雰囲気が所定の処理条件に調節された状態において、熱処理炉3の搬入口21が開かれ、被処理体2が搬入口21を通じて昇温室11に搬入され、搬入口21が閉じられる。
こうして被処理体2が熱処理炉3に搬入されると、先ず、昇温処理工程が開始される。すなわち、浸炭室12から開閉扉51によって遮断された状態の昇温室11において、ヒータ57の加熱によって被処理体2が昇温される。かかる昇温処理により、被処理体2の温度は、昇温室11に搬入される前の常温から、昇温室11の雰囲気温度、すなわち、約700℃(第一の設定温度)程度まで昇温される(図3参照)。
被処理体2が第一の設定温度まで昇温されると、ヒータ57により昇温室11の雰囲気温度が第一の設定温度で所定の時間、例えば10分間保持される。かかる保持工程中に、被処理体2内の温度は、第一の設定温度で均一にされる(図3参照)。すなわち、被処理体2の表面と内部の温度が第一の設定温度で均一にされるだけでなく、被処理体2の表面内の温度も第一の設定温度で均一にされる。
被処理体2内の温度が第一の設定温度で均一にされると、ヒータ57により昇温室11の雰囲気温度が約930℃(第二の設定温度)程度まで昇温される。かかる昇温処理により、被処理体2の温度は、第二の設定温度まで昇温される(図3参照)。
昇温室11内の被処理体2の昇温処理が終了すると、通過口41が開かれ、昇温処理が終了した被処理体2は、通過口41を通じて昇温室11から搬出され、浸炭室12に搬入される。被処理体2が浸炭室12に搬入されると、通過口41が閉じられ、昇温室11と浸炭室12が開閉扉51によって遮断された状態になる。そして、浸炭処理工程が開始される。すなわち、被処理体2が浸炭室12において浸炭処理される。
なお、被処理体2が昇温室11から浸炭室12に移動させられた後は、次の未処理の被処理体2を搬入口21から昇温室11に搬入し、続けて昇温処理することができる。すなわち、熱処理炉3では、複数の被処理体2を並行して連続的に処理することができる。
浸炭室12での浸炭処理工程と拡散処理工程においては、浸炭室12に搬入された被処理体2は、浸炭室12において周期的に移動させられながら浸炭処理及び拡散処理される。
浸炭室12内の被処理体2は、被処理体1つ分だけ、搬送方向Dに移動させられる。したがって、浸炭室12に被処理体2が搬入されてから単位所要時間が経過すると、先に搬入された被処理体2(浸炭室12の上流側に配置されていた被処理体2)は、搬送方向Dに被処理体1つ分だけ移動させられ、浸炭室12の中央部に配置される。そして、次の被処理体2(昇温処理が行われた被処理体2)を、昇温室11から浸炭室12に搬入し、先に浸炭室12に搬入されている被処理体2に対して並ぶ位置(浸炭室12上流側)に配置することができる。その後、さらに単位所要時間が経過すると、先に搬入された被処理体2(浸炭室12の中央部に配置されていた被処理体2)は、搬送方向Dに被処理体1つ分だけ移動させられ、浸炭室12の下流側に配置され、次に搬入された被処理体2(浸炭室12の上流側に配置されていた被処理体2)は、搬送方向Dに被処理体1つ分だけ移動させられ、浸炭室12の中央部に配置される。そして、その次の被処理体2(昇温処理が行われた被処理体2)を、昇温室11から浸炭室12に搬入し、先に浸炭室12に搬入されている被処理体2に対して並ぶ位置(浸炭室12の上流側)に配置することができる。こうして、2つ以上(3つ以下)の被処理体2を浸炭室12内に並べ、並行して浸炭処理と拡散処理を行うことができる。
なお、浸炭処理工程と拡散処理工程においては、浸炭室12の雰囲気温度は、ヒータ57により約930℃程度に保持される(図3参照)。そして、このような高温処理雰囲気により、浸炭を好適に進行させることができる。
浸炭室12内の被処理体2(浸炭室12の下流側に配置されている被処理体2)の浸炭処理と拡散処理が終了すると、通過口42が開かれ、浸炭処理と拡散処理が終了した被処理体2は、通過口42を通じて浸炭室12の下流側から搬出され、降温室13に搬入される。被処理体2が降温室13に搬入されると、通過口42が閉じられ、浸炭室12と降温室13が開閉扉52によって遮断された状態になる。そして、降温処理工程が開始される。すなわち、浸炭室12から開閉扉52によって遮断され、かつ、油槽室102から搬入出口扉26によって遮断された状態の降温室13において、被処理体2が降温処理される。
降温処理工程においては、降温室13の雰囲気温度は、約930℃から時間が経過するに従い次第に低減され、約850℃程度まで降温処理される。かかる降温処理により、被処理体2の温度は、約850℃まで降温される(図3参照)。
降温処理工程が終了すると、搬入出口25が開口され、油槽室102が降温室13に対して連通させられる。そして、降温処理された被処理体2が、搬入出口25を通じて降温室13から油槽室102に移動させられ、搬送昇降機105上に受け渡される。以上のようにして、熱処理炉3に搬入された被処理体2は、ローラコンベア55によって、昇温室11、浸炭室12、降温室13に順次搬送され、昇温室11における昇温処理、浸炭室12における浸炭処理、浸炭室12における拡散処理、降温室13における降温処理がこの順に施される。
被処理体2が降温室13から油槽室102に搬入されると、搬入出口扉26によって搬入出口25が閉じられ、油焼入処理工程が開始される。すなわち、被処理体2が油冷部4において油焼き入れされる。
油冷部4における油焼入処理工程においては、被処理体2は搬送昇降機105の作動によって下降させられ、油槽103に貯留されているオイルに浸漬させられ、油冷される。すなわち、降温室13において約850℃程度(オーステナイト化温度以上)の高温の状態で処理された被処理体2が、オイルによってオーステナイト化温度以下(例えば約130℃〜160℃程度)に冷却されることにより、被処理体2に焼入れが施される。
その後、搬送昇降機105の作動により、被処理体2が引き上げられ、油槽103から取り出される。そして、油槽室搬出口111が開口され、油槽室搬出口111を通じて油槽室102から搬出される。こうして、油焼入処理工程が終了し、連続ガス浸炭設備1における被処理体2に対する一連の熱処理が終了する。
以上の実施の形態によれば、昇温室11において、被処理体2をオーステナイト変態の開始直前の第一の設定温度まで昇温した後、被処理体を第一の設定温度で所定の時間保持しているので、被処理体2のオーステナイト変態が開始する前に、被処理体2内の温度を均一にすることができる。そうすると、その後被処理体2を第二の設定温度まで昇温する際に、オーステナイト変態が開始しても、その開始点が被処理体2内で均一なので、被処理体2がオーステナイト変態によって不均一に収縮することがない。また、このように被処理体2内の温度を均一にしているので、熱応力によって被処理体が不均一に膨張することもない。したがって、被処理体2を第二の設定温度まで昇温する際に、被処理体2にオーステナイト変態による不均一な収縮が起きず、かつ、熱応力による不均一な膨張が起きないので、熱処理後の被処理体2の歪みを抑制することができる。
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に相到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
例えば以上の実施形態では、昇温室11は1室であったが、図5に示すように、昇温室11を第一の昇温ゾーン140と第二の昇温ゾーン141に分けられていてもよい。昇温室11は、壁体142によって第一の昇温ゾーン140と第二の昇温ゾーン141に仕切られ、壁体142には、被処理体をX方向に通過させる通過口143が開口されている。通過口143は開閉扉144によって開閉され、各昇温ゾーン内の雰囲気を仕切ることが可能な構成になっている。また、第一の昇温ゾーン140と第二の昇温ゾーン141には、それぞれに攪拌機構56及びヒータ57が設けられている。かかる場合、第一の昇温ゾーン140では、被処理体2の第一の昇温処理工程と保持工程が行われ、第二の昇温ゾーン141では、被処理体2の第二の昇温処理工程が行われる。すなわち、第一の昇温ゾーン140の雰囲気温度は、約700℃(第一の設定温度)に維持され、第二の昇温ゾーン141の雰囲気温度は、約930℃(第二の設定温度)に維持されている。したがって、かかる場合でも、被処理体2を第二の設定温度まで昇温する際に、被処理体2にオーステナイト変態による不均一な収縮が起きず、かつ、熱応力による不均一な膨張が起きないので、熱処理後の被処理体2の歪みを抑制することができる。さらに、従来は熱応力による被処理体2の歪みを防止するために昇温カーブを制御する、すなわち被処理体2の昇温速度を遅くする必要があったが、本発明の上記熱処理によれば、発明者らが調べたところ、熱応力による歪みやオーステナイト変態による歪みが問題となることなく第一の設定温度までの昇温速度を大きくすることができ、保持時間を含めても昇温にかかる時間を大幅に短縮することができることが分かった。具体的には、被処理体2の材質や大きさにもよるが、従来の1.5〜2倍の昇温速度でも歪みの問題は起きず、時間的にも第二の設定温度までの昇温時間でみても従来と比べて15〜30%程度の短縮が可能となる大きな効果が得られた。
また、熱処理設備は被処理体2の連続浸炭処理を行う連続ガス浸炭設備であるとし、被処理体は鋼材であるとしたが、これらはかかるものに限定されず、本実施形態は、様々な熱処理を行う熱処理設備において適用できる。例えば、被処理体は鉄系合金以外の他の合金、金属材料からなるものであってもよい。
また、昇温室11に収容可能な被処理体2の個数、浸炭室12に収容可能な被処理体2の個数、降温室13に収容可能な被処理体2の個数も、以上の実施形態に示したものには限定されない。例えば昇温室11や降温室13に、2以上の被処理体2を並べて収容できる構成にしてもよい。浸炭室12には2以下あるいは4以上の被処理体2を収容するように構成してもよい。
温度調節機構131の構成も、以上の実施形態に示したものに限定されない。例えばヒータ57の種類は、以上の実施形態に示したものに限定されない。また、温度調節機構131は、昇温室11、浸炭室12、降温室13にそれぞれ設けられているヒータ57の発熱量を調節することで、昇温室11、浸炭室12、降温室13の雰囲気温度を調節する構成としたが、かかる構成には限定されず、例えば、昇温室11の雰囲気を冷却する冷却路、浸炭室12の雰囲気を冷却する冷却路、あるいは、降温室13の雰囲気を冷却する冷却路を備える構成にしてもよい。すなわち、冷却路を炉体10の壁部(昇温室11を構成する部分、浸炭室12を構成する部分、降温室13を構成する部分)にそれぞれ内蔵し、各冷却路に冷媒(冷却水)をそれぞれ通過させることで、昇温室11、浸炭室12、降温室13をそれぞれ個別に冷却できるようにしてもよい。例えば降温処理工程においては、降温室13を冷却させる冷却路における冷媒の流量を増加させることにより、降温室13の雰囲気温度を低下させるようにしてもよい。また、降温室13に対して、エンリッチガス、RXガス、空気又は窒素ガス等のガスを、常温(降温室13の雰囲気温度に対して低温)にしたまま吹き込むことにより、降温室13の雰囲気温度を低下させるような構成にしてもよい。
また、各処理室に対するガス供給路の配設の態様、各処理室に供給されるガスの種類等も、以上の実施形態には限定されない。例えば窒素ガスに代えて、他の不活性ガス、例えばアルゴンガス(Ar)等を含むガスを使用してもよい。
以下、被処理体に対する熱処理の昇温処理工程において、本発明の熱処理方法を用いて被処理体を昇温させた場合の熱処理後の被処理体の歪みについて、ヒータの出力を一定にして被処理体を昇温させた場合の熱処理後の被処理体の歪みと比較して説明する。
本実施例を行うに際し、熱処理を行う設備としては、先に図1に示した連続ガス浸炭設備1を用いた。被処理体2は直方体とし、図6(a)に示すように、被処理体2の各頂点に歪み測定用のワークを配置した。そして(A)〜(H)ワークのうち、最も歪みの大きい(E)ワーク(被処理体2の進行方向前面上部の頂点位置)の温度分布と熱処理後の歪みを計測した。温度分布は、図6(b)に示すように、進行方向に対して0度°、90°、180°、270°の4箇所に熱伝対を配置して測定した。
(1)浸炭処理温度まで被処理体2を連続して加熱する場合
昇温処理工程において、ヒータ57によって、被処理体2の(E)ワークの温度が930℃(浸炭処理温度)になるまで昇温させた。この昇温における(E)ワークの昇温速度は、平均で約15℃/分とした。この場合、昇温室11の雰囲気温度が780℃(オーステナイト変態温度)に達した際、(E)ワーク内の90°と270°の温度差が約20℃となり、温度分布が不均一になっていた。そして、熱処理後、(E)ワークに大きな歪みが発生した。
(2)本発明の熱処理方法の場合
昇温処理工程において、先ず、ヒータ57によって、被処理体2の(E)ワークの温度が700℃(第一の設定温度)になるまで昇温させた。第一の設定温度までの(E)ワークの昇温速度は、平均で約21℃/分とした。次に、ヒータ57によって、(E)ワーク内の温度が700℃で均一になるまで5分保持した。その後、ヒータ57によって、(E)ワークの温度が930℃(第二の設定温度)になるまで昇温させた。第一の設定温度から第二の設定温度までの(E)ワークの昇温速度は、平均で約15℃/分とした。この結果、(1)に示したヒータの出力を一定にした場合に比べて、熱処理後の(E)ワークの歪みは小さくなり、製品として許容範囲にすることができた。また、(1)の場合と比べて、被処理体2の(E)ワークの温度が930℃に達するまでの時間を約10%短縮することができた。
本発明は、例えば鋼材等の被処理体を昇温処理して、溶質を固溶化させる熱処理方法及び熱処理設備に有用である。
本実施形態にかかる連続ガス浸炭設備の概略縦断面図である。 本実施形態にかかる連続ガス浸炭設備の概略縦断面図である。 連続ガス浸炭設備において被処理体に対して行われる処理工程、被処理体の温度変化、被処理体を昇温するヒータの出力の関係を示すグラフである。 昇温室において被処理体に対して行われる処理工程と、昇温室の雰囲気温度の変化、昇温室の雰囲気を昇温するヒータの出力の関係を示すグラフである。 他の実施形態にかかる連続ガス浸炭設備の概略縦断面図である。 (a)は実施例における被処理体の斜視図であり、(b)は実施例における被処理体の歪み測定用ワークの平面図である。
符号の説明
1 連続ガス浸炭処理設備
2 被処理体
3 熱処理炉
5 制御部
11 昇温室
12 浸炭室
13 降温室
57 ヒータ
131 温度調節機構
140 第一の昇温ゾーン
141 第二の昇温ゾーン

Claims (4)

  1. 被処理体を昇温処理して溶質を固溶化させる熱処理方法であって、
    被処理体をオーステナイト変態の開始直前の第一の設定温度まで昇温し、
    前記昇温した被処理体を前記第一の設定温度で所定の時間保持し、
    前記第一の設定温度に保持された被処理体を、被処理体に溶質が固溶化する第二の設定温度まで昇温することを特徴とする、熱処理方法。
  2. 被処理体を昇温処理して溶質を固溶化させる熱処理設備であって、
    被処理体の昇温を行う昇温室と、
    前記昇温室内の被処理体の温度を調節する温度調節機構とを備え、
    前記温度調節機構は、前記昇温室内の被処理体の温度を、オーステナイト変態の開始直前の第一の設定温度と、被処理体に溶質が固溶化する第二の設定温度とに調節することが可能な構成であり、
    前記昇温室内の被処理体の温度は、前記第一の設定温度に昇温された後、当該第一の設定温度で所定の時間保持され、その後前記第二の設定温度まで昇温される構成としたことを特徴とする、熱処理設備。
  3. 前記昇温室は、被処理体を前記第一の設定温度まで昇温させることができる第一の昇温ゾーンと、被処理体を前記第一の設定温度から前記第二の設定温度まで昇温させることができる第二の昇温ゾーンとを備えることを特徴とする、請求項2に記載の熱処理設備。
  4. 前記第一の昇温ゾーンと前記第二の昇温ゾーンの間を開閉する開閉扉を備えることを特徴とする、請求項3に記載の熱処理設備。
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